
壊れたガラス
阿佐ヶ谷 Picasso
阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)
2016/01/27 (水) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
この濃密な舞台空間
アーサー・ミラーのこの戯曲を、濃密な舞台空間に詰め込む。役者たちは演劇集団円などからの実力派だから、客席はその世界に釘付けになる。
戦前のあの時代、ユダヤ人であることが夫婦を縛り付けていたと読めるが、実はもっと違う見えない縄がたくさんあったのではないか。狂気が一瞬にして切れるラストシーンを見ると、その一瞬にいろんな縄が心の中に浮かび上がってきた。

値千金のキャバレー
ホチキス
座・高円寺1(東京都)
2016/01/23 (土) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
参加できるライブエンタテインメント
初めて見る人にとっては、想像をはるかに超えるライブエンタテインメントだ。衝撃のラストは観客参加型。体験の価値は、あります。オーバーな言い方だけど、ひょっとしたら、演劇の固定観念を破壊してくれるかも。
歌と踊り、涙と笑いというフレーズは、よくある宣伝文句だろう。座高円寺が出したこの舞台宣伝にもあったと思うが、私はこの舞台の真髄は意外性、驚きだと思う。驚きを先に開陳するわけにはいかないから仕方ないのかもしれないが、これに気づくまでは少し眠い。だが、一旦走り出したら止まらない。
最初から、いや、途中からも今ひとつ乗り損ねてちょっと損したというか、早く真髄に気付かなくてごめんなさい。

魔笛
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2016/01/24 (日) ~ 2016/01/30 (土)公演終了
満足度★★★★
見どころ満載のオペラ
モーツァルトの最後のオペラという。とても演劇的な舞台だから、視覚を楽しませる工夫が満載だ。新国立劇場の舞台装置だからできる仕掛けも多い。空中を降りてくるゴンドラなどは、テーマパークのようだ。
オーケストラは演出に合わせて少し控え目のようだ。だが、超低音のバスと超高音ソプラノの競演には感動する。

城塞
劇団俳優座
シアタートラム(東京都)
2016/01/06 (水) ~ 2016/01/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
この衝撃はすごい
安部公房は初演のパンフレットで「これは喜劇なんです」と書いたという。確かに、見終わってから思い起こすメタファーとしてはそう感じられるところもある。だが、これは父と息子の強烈な舞台だ。時間を止めてしまった父を破壊することで、息子も自らを破壊してしまった。戦争で財を成した家族にとっては、まだ戦争は終わっていないのだ。
特に後半の演出、そして登場する5人の俳優が見事にその仕事をやってのけた。最後の暗転で、座席に釘付けになるような衝撃はすごい。舞台芸術ならではの体験だ。

JAM TOWN
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2016/01/13 (水) ~ 2016/01/30 (土)公演終了
満足度★★★
見どころはダンス
ストリートダンスのYOSHIEの振り付けだけあって、見どころはやっぱりダンス。物語の展開はともかく、音楽も切れがよくライブ感覚が満載だ。演出はそのコンセプトにマッチしていてなかなかの出来。横浜という雰囲気が強調され過ぎかとも思うが、テイストは好きです。

王女メディア
幹の会+リリック
東京グローブ座(東京都)
2016/01/09 (土) ~ 2016/01/16 (土)公演終了
満足度★★★★
魂を揺さぶる平幹二朗
一世一代の再演である。平幹二朗の鬼気迫る舞台に客席は静まりかえった。80歳を超えて、この迫力。
演出は、昨年亡くなった高瀬久男さんがタッチしている。
シンプルだが、妥協策を許さない厳しさがある。9人の男性俳優がぶつかり合う。そういう視点で見ると、二人の息子を人形にしたのは効果的だと思う。
やはり、平幹二朗に始まり平幹二朗に終わる舞台。一世一代に立ち会えて幸せだ。

街と飛行船
劇団昴
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2016/01/09 (土) ~ 2016/01/13 (水)公演終了
満足度★★★★
現代を映し出す不条理劇
仮装家族とか、レンタル家族とか。今ではそれほど珍しくないお話が、既に別役作品で1970年代に世の中に提示されていた。その先見性に驚くと共に、この作品を鵜山仁演出で、シュールな舞台に仕上げたところは大いに見る価値がある。
劇団昴の生きのいい役者たちが、街の住人たちを演じている。創立メンバーである北村総一朗が高齢の市長役で登場する。小室等作曲で劇の語りとしての音楽が効果的だ。
仮想の街に月のように浮かぶ飛行船が何を表しているのか、というのが観劇後の酒のつまみになるだろう。見る人が十人十色で語ることができるのは、やっぱり別役作品なんである。

花より男子 The Musical
東宝・キューブ・ネルケプランニング
シアタークリエ(東京都)
2016/01/05 (火) ~ 2016/01/24 (日)公演終了
楽しめます
原作が好きな人はもちろん、あまり知らない人も楽しめます。会話劇の得意な青木豪さんのなせるわざかな。
でも、一部の人の歌唱に若干の不安も。尻上がりに調子が上がることに期待!

東京裁判 pit北/区域閉館公演
パラドックス定数
pit北/区域(東京都)
2015/12/22 (火) ~ 2015/12/31 (木)公演終了
満足度★★★★★
見事な裁判劇
青年座の「外交官」を見てから、野木萌葱さんのファンになった。この「東京裁判」は絶対に見たいと思っていた。なんと年末押し迫ってまでやっている。しかも、パラドックス定数が劇団化したときに「東京裁判」を上演したその、東京・王子の小劇場で。その小劇場は年内で閉館という。これはもう、絶対に行くしかない。
会場は若い観客で超満員だった。ものすごい熱気の中繰り広げられた会話劇は、A級戦犯たちを弁護する5人の男たち。右上の裁判官に向かい、正面の検察官に向かい、男たちは奮闘する。戦勝国の論理で裁かれる敗戦国の政治指導者たち。私は個人的には、国家を破滅に導いた指導者たちはそれ相応の責任を取るべきだと思っているが、この弁護の男たちは、それぞれ個人的に様々な物語を抱えていて、それが、この裁判劇を奥深いものにした。
この脚本は見事だ。それを演じきった5人の俳優にも拍手を送りたい。

ガーデン~空の海、風の国~
オフィス3〇〇
ザ・スズナリ(東京都)
2015/12/16 (水) ~ 2015/12/29 (火)公演終了
満足度★★★★
命をつなぐ水を、庭にまく
渡辺えりが約20年の時を超えて再演。中嶋朋子を迎えての舞台は、小劇場に力強く、不思議でしかも妙に現実感あふれる世界観を描いてみせた。
庭にまかれる水が、原始からの命をつないでいく。演出家としての渡辺えりが思いを込めたのは、小さなころから苦労のし通しだった実のお母さんへの物語という。各所で小さな笑いを取りながら、不思議な感覚のまま進んでいくのは、女性という生き物の人生を微妙な変化をつけて描いているからだろう。
渡辺えりと中嶋朋子の早変わりがすごい。この実力派女優の力演を間近で見られる。それだけでも見る価値があるが、初演時とは比べものにならないほど不安定さを増した今だからこそ、体全体で受け止めたい世界観だ。

<不思議の国のアリス>の帽子屋さんのお茶の会
演劇集団円
シアターX(東京都)
2015/12/19 (土) ~ 2015/12/27 (日)公演終了
満足度★★★★
不条理を優しく包むファンタジー
不条理劇の別役実作品。別役フェスティバルでは、以前に俳協が上演したものを見たが、冬休みの子ども向けにアレンジしてあって毒味を優しく包み込むような出来映えだ。ドタバタのギャグを織り込み、子ども客の笑いを引き出して、とても明るい舞台だ。
といっても、単なるコメディ仕立てではなく、やっぱり別役作品。辛口の部分もたっぷり。子どもにもちゃんと、世の中、そう簡単でないよと語りかけている。

熱海殺人事件
ホリプロ
紀伊國屋ホール(東京都)
2015/12/08 (火) ~ 2015/12/26 (土)公演終了
満足度★★★★
今しか見られない再演
つかこうへいの名作を、つかとともに演じてきた風間杜夫と平田満。そして、つかの愛娘というメンバーで見られる機会は今後また、巡ってくるのか。そう思うと、今しか見られない再演と言えるのかもしれない。
つか作品独自のスピード感が、何だか心地よい。愛原実花も本当によく、食らいついていた。演出のいのうえひでのりは、この作品に特別な思い入れがあるという。昭和テイストを絶妙にアレンジしているのも、思いの強いの表れだと思う。

口笛は誰でも吹ける(Anyone Can Whistle)
タチ・ワールド
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2015/12/17 (木) ~ 2015/12/23 (水)公演終了
満足度★★★
失敗作とは思えない
あのソンドハイムの作品なのに、ブロードウェイではあっという間に打ち切りになったという。それゆえ、ほとんど上演されなかったというミュージカルを見る機会に恵まれた。
派手さはなく、多少理屈っぽい感じもあるが、駄作とは思えない。「世の中全部狂っているが、確かなものはある」というくだりも、共感できる。
演じた俳優たちも、なかなかの実力派だ。エコー劇場はそれほど大きな舞台ではないが、演出もシンプル。ただ、長尺のセリフに聞き取りにくいところがあって、舞台から視線が外れることも。

実験浄瑠璃劇『毛皮のマリー』
花組芝居
あうるすぽっと(東京都)
2015/12/16 (水) ~ 2015/12/23 (水)公演終了
満足度★★★
実験は成功か
寺山修司は演劇実験室を名乗ったが、花組芝居は実験浄瑠璃劇で寺山の毛皮のマリーをやってみせた。アングラ劇の決定版みたいなこの戯曲を、「あうるすぽっと」という大きな劇場で、しかもゆったりとしたいすで見ているのは、何だか時代を飛び越えたというか、ちょっとした違和感というかタイムスリップ感も覚えた。
寺山生誕80年の締めくくりだ。寺山の母親に対する複雑な感情を裏返しにして乗せたような、そんな気もする「毛皮のマリー」。先入観なしに見ると、ちょっとこれはと思う人もいるかもしれない。花組芝居がわりとそのあたりをはっきり打ち出しているので、強烈な寺山テイストを求めていった人は満足度が高いのではないだろうか。
私は梅組を見た。「役者は役に化ける」というせりふが出てきたが、まさにそのような舞台だったと思う。客席から合いの手も入ったりして、盛り上がっていました。

わからなければモモエさんに聞け
劇団青い鳥
小劇場B1(東京都)
2015/12/15 (火) ~ 2015/12/20 (日)公演終了
満足度★★★★
年を重ねる息遣いを味わう
何カ月に一度、お母さんとデパートへ行き、食堂でいつもと同じ大好きなオムライスを食べる。こんな子どもの頃の思い出を持つ世代のハートを直撃する。
エレベーターガールも、特別な人だった。白い手袋、抑えているが透き通った声。夫が単身赴任中、息子たちが既に巣立った女性が、エレベーターガールの募集広告に惹かれる気持ちは、同じ世代なら男でも分かる。
年を重ね、記憶を刻むというラストシーンに
胸を打たれる。客席から手拍子が起きるリズムのいい舞台も魅力。寒いギャグやオーバーアクションはご愛嬌かな。

消失
ナイロン100℃
本多劇場(東京都)
2015/12/05 (土) ~ 2015/12/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
示唆に富む、ケラ流の笑い
同一キャストでの11年ぶりの再演。なぜ今、この演目をケラさんがやるのか。示唆に富む舞台となった。
出演者の年齢設定も年相応に上げてある。40過ぎでの結婚話も何だか、リアリティがあって笑える。戦争が終わった直後という場面も古さを感じない。初演時よりも、現実感があるのが怖い。
大倉孝二、犬山イヌコらのナイロンの役者たちも、何だか迫力があるのは現実感を台本から感じているからではないのか。客演だがナイロンのメンバーみたいな八嶋智人の立ち回りも息がぴったり。
もう、これは「近未来」の話ではない。この舞台からはいろんな怖さが提示される。ケラ流の笑いに流されながら、悪夢を見てみるのも
「消失」の楽しみ方だと思う。

くるみ割り人形
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2015/12/19 (土) ~ 2015/12/27 (日)公演終了
満足度★★★★
何回見ても飽きない魅力
やはりこの季節は、この演目だ。入り口前にはお店も並び、Xマスムードいっぱい。
ステージは主役級が勢ぞろいだ。安定感が違うし、この舞台を大切にしている意気込みも伝わってくる。最初と最後に、高層ビルと雑踏が演出され、携帯で夜景を撮る人を入れるなど現実感を強調。クララの夢物語の発着地なのだが、それだけに間に挟んだ夢物語が浮き上がるという形だ。

漂流劇 ひょっこりひょうたん島
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2015/12/15 (火) ~ 2015/12/28 (月)公演終了
満足度★★★★
お約束の曲も、流れます
円形にせり出し、回転する舞台でオムニバスのように繰り広げたというのが、まずは成功の秘訣だったのでは。かつて、テレビで見ていた人も、この番組を見ていなかった人も、とても楽しく、笑える舞台だ。
テレビ放送されたのが前回の東京五輪のころ。カラーテレビもあまり普及していないころだが、NHKが折に触れて再放送していたから、何となく登場人物も分かる人が多いのかもしれない。でも、トラヒゲやドン・ガバチョは人形劇のイメージと重なるようで、重ならない。そこがまた、串田演出の妙なのだろう。
楽曲は全く新しいものだが、やはり、最後にお約束の曲は聴くことができる。宇野誠一郎、そして井上ひさしへのトリビュート舞台でもある。

レミング―世界の涯まで連れてって―
パルコ・プロデュース
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2015/12/06 (日) ~ 2015/12/20 (日)公演終了
満足度★★★★
寺山と松本のアンサンブル
言葉の錬金術師・寺山修司を、言葉を解体して変拍子のリズムで刻む維新派・松本雄吉がどう料理するのか。以前のパルコでの舞台を見ていない私は、とてもわくわくして東京芸術劇場へ出かけた。
率直な感想は、この二人はとても相性がいいのではないか、ということだ。寺山が書いた戯曲に、松本のリズムが妙に調和するのだ。この独特の大空間を作り上げた松本という人物はとてもすごいと思うのだが、何よりもこの演出家に応えて見せた演者たちに拍手を送りたい。
パンフレットに霧矢大夢がこう書いている。
これはきっと「正解のない」作品。やる側も見る側も、寺山修司さんの言葉と松本雄吉さんの感性に振り回され、操られながら迷宮に迷い込んでいく。そんな、翻弄されることを楽しめばいいのかな、と。
まさに至言だ。寺山劇だけでは体験できない、松本劇だけでも体験できない空間に身をおぼれさせるのが一番。2015年の暮れ。池袋には今、ここでしか体験できない異空間が出現している。

舞台『夜想曲集』
ホリプロ
天王洲 銀河劇場(東京都)
2015/05/11 (月) ~ 2015/05/24 (日)公演終了
満足度★★★★
東出くんの意外な素顔
カズオ・イシグロ氏の5編からなる短編集から「老歌手」「夜想曲」「チェリスト」の3編を選んで一つの物語にした。舞台初出演という東出昌大が悩める音楽家として舞台で見せる姿は、テレビドラマでは見られない新たな発見になった。
シックな、とても美しい舞台だ。安田成美や、近藤芳正という俳優たちがなせる技なのかもしれない。大人の雰囲気で進む落ち着いた流れも魅力的だ。