
焼肉ドラゴン
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2016/03/07 (月) ~ 2016/03/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
見逃すと、損するぞ!
開幕前にも幕間にも、客席を楽しませる演出がある。そこで「以前にこれを見たことがある人」との問いに、驚くほど多くの人が手を挙げた。こんなに熱烈に支持されている舞台だということを、見終わって痛いほど思い知らされる。また明日も見たい、と心の底から感じる舞台はそう滅多にあるものではない。
歴史の流れに翻弄される在日韓国人家族たちを真正面から本音ベースで描いている。笑いもあるし、見ていて楽しく、元気が出る舞台だ。だが、本当に心を揺さぶる理由は、名もなき人たちが懸命に生きようとする姿を描き切っていることだ。在日の人たちの行き場のない怒りとか、さまざまな要素があるが、本当に泣けるのは、自分と等身大の人間として見ることができるからだろう。
鄭義信の三部作の一つだ。残り2作も、断然見たくなる。

サロメ
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2016/03/06 (日) ~ 2016/03/15 (火)公演終了
満足度★★★★
目が離せなかった
囚われの身である聖職者を好きになり、言いよったものの袖にされた王女。「踊りを見せてくれたら好きなものをあげる」と義理の父に言われたので、その男の生首を要求する。義父は困惑するが結局は認め、王女は最後、生首にキスをする。こんな物語だけに当初は上演できなかったというのもわかる気がする。
しかし、かの有名な踊りの場面など、一幕ものの舞台から目が離せない。王女の心や周囲の人たちの恐怖を掻き立てるような不協和音交じりのオーケストラ。シュトラウスの見事な腕前だ。
中央に古井戸を配した演出も効果的だ。

池袋モンパルナス
劇団銅鑼
俳優座劇場(東京都)
2016/03/02 (水) ~ 2016/03/06 (日)公演終了
満足度★★★★
今だからこそ見たい
「描きたいものが描けない」。その叫びがどこまで客席に伝わるかがこの舞台の鍵だろう。戦時色が濃くなり、従軍画家の話や、兵隊を暗いタッチで描くものは駄目だとかのエピソードは出てくる。若き芸術家たちの苦悩も描かれてはいるものの、何だが意外にそのあたりがさらっとしているところが気になった。池袋モンパルナスが芸術家たちで活気にあふれていた時代ともっと対比させて、次々に届く赤紙で芸術家たちが絵筆を銃剣に持ち替えていく、そうした時代の苦悩をもう少し強烈に出してあると、もっと胸に響く舞台になったと思う。
とは言え、今の時代に見るべき戯曲である。1997年に初演された台本が20年近くを経て今、上演されるのはとても意義深い。「描きたいものを描きたいんだ」とお国言葉で叫ぶ若者たちの姿は、とても印象的だった。
キキ役の土井真波、紅一点の画家役の向暁子。この二人の演技はとてもよかった。楽曲で声がかすれる場面があったのは、連日の舞台の疲れなのだろうか。千秋楽まで頑張ってほしい。

Be My Baby いとしのベイビー
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2016/03/03 (木) ~ 2016/03/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
何とも幸せなコメディ
カトケン事務所のコメディの選び方は秀逸だ。クレイジーフォーユーなどで知られる米国の脚本家ケン・ラドウィッグの名作。カトケン事務所は初演時と同じメンバーで再演した。
翻訳がいいのか、鵜山仁の演出がイキなのか、あちこちでしっかり笑いが起きる。幸せ感で泣けるラストシーンなど、役者たちがきっちり仕事をしていて、翻訳劇にありがちなぎこちなさがない。
加藤健一の長男と高畑淳子の長女が若い夫婦役。カトケン事務所の加藤忍も、今回も面白い。

リビング
O-Parts
赤坂RED/THEATER(東京都)
2016/03/02 (水) ~ 2016/03/07 (月)公演終了
満足度★★
宝塚出身女優のドタバタコメディ
作・演出の荻田浩一は宝塚出身。だが、歌や踊りがメーンではなく、宝塚出身の女優がドタバタを繰り広げるという舞台だ。
アクションが得意な栗山航が、引きこもりという意外な役でうだうだの主役を務める。コメディと銘打ってはいるが、爆笑が続くわけではない。役者たちに入れ込んで見られる人でないと、残念な結果になるかもしれない。

『夜、さよなら』『夜が明けないまま、朝』『Kと真夜中のほとりで』
マームとジプシー
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)
2016/02/18 (木) ~ 2016/02/28 (日)公演終了
満足度★★★★
再構築の妙
藤田貴大が少し前、寺山修司の「書を捨てよ町へ出よう」を演出したとき、この作品のパーツも含めさまざまな断片を用意し、それをつなぎ合わせるスタイルで新たな戯曲を演出した。寺山の言葉をなぞるように、藤田は「演劇の実験」として「いろいろ試す姿勢を引き継いでいる」と言った。
今回は「夜」「不在」をベースに三つの戯曲をつなぐだけでなく、おそらく個々の断片を再構築してつくりあげていったのだろう。繰り返されるせりふ、機敏でシャープな俳優たちの動き、そしてそれらの塊としてのリフレイン。劇場の奥行き、スポットや蛍光灯などの照明、スクリーンに映し出す映像。これらも断片として効果的に縫われていく。名作「cocoon」で見せたあの舞台芸術の原点は、ここにあるのではないかと想像する。
俳優に個性が見えない、という批判も出るかもしれないが、藤田はおそらく、舞台上で俳優が個性を発揮するのではなく、均質でかつ機敏で正確な動きを要求している。それは俳優も再構築されるパーツだと言えるのかもしれないが、かといって無機質な冷たい舞台ではない。
透明感のある、みずみずしい空気感がいい。客席の想像力を刺激し、さまざまな物語の続きを客に想像させる。

思い出を売る男
浅利演出事務所
自由劇場(東京都)
2016/02/24 (水) ~ 2016/02/28 (日)公演終了
満足度★★★★
夢が行き交う街角
加藤道夫作ということで、見たかった演目。先の大戦で前線に出て、生きるか死ぬかという思いをした人だから書ける物語だと思った。
戦争で荒れ果て、それでも人びとが行き交う街角。生き延びた人の思いがゆらゆらさまよっている感じだ。すれ違う人の大半がスマホを見ている今から考えると、人びとの心が濃密に行き交っている感覚だ。その街角に、音楽とともに思い出を売っているという男がいる。影絵をうまく使った思い出の数々がとても美しい。
終戦から6年で書かれたという。加藤道夫は米軍兵士の故郷の恋人の思い出も盛り込んでいる。そこには敵も味方もない。ただ思い出だけがある。心に触れる短編だった。

スーベニア 騒音の歌姫
「スーベニア」公演実行委員会
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2016/02/19 (金) ~ 2016/03/06 (日)公演終了
満足度★★★
盛り上げた脇役たち
70代三田佳子の主演舞台。強烈な音痴なのだが誰よりも歌を、音楽を愛した女性の実話。最後はカーネギーホールでリサイタルをするに至るのだが、音を外して歌い続ける主演女優・三田佳子の力量に惜しみない拍手。しかも、70代でこのパワーである。
この舞台を支えた脇役たちにも注目だ。マネジャー役の京本大我、ピアニスト役の劇団鹿殺し・オレノグラフィティ。特にこの二人はよかった。
舞台は素晴らしいが、「騒音」に引いてしまう人も多いかもしれない。

オーファンズ
ワタナベエンターテインメント
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2016/02/10 (水) ~ 2016/02/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
見事な舞台だった
ライル・ケスラーの名作である。あとは舞台の三人が宮田慶子さん演出でどう、これをこなしていくか。
結論から言うと、想像以上に見事な舞台だった。特に、柳下大さんが非常によかったのではないか。パンフレットによると、この演目は、彼が宮田さんを口説いて実現させたという。その意気込みがびんびん伝わってきた。彼はもう、単なるイケメン俳優だけではない。一皮むけたのではないだろうか。
ハロルド役の高橋和也さんはさすがの貫禄だ。見ている方が引き込まれる演技を展開している。もう一人、病弱の弟役平埜生成さんも、しっかり存在感を示していた。柳下の豪快さに負けることなく、一歩一歩自立へと歩んでいく姿を見事に表現していた。
若い二人をして、これだけ完成度の高い舞台に仕上げた、宮田さんの腕前もお見事でした。

猥り現(みだりうつつ)
TRASHMASTERS
赤坂RED/THEATER(東京都)
2016/02/18 (木) ~ 2016/02/28 (日)公演終了
満足度★★★★
今回も冴える中津留ワールド
商店街にあるパキスタン料理店を舞台に強烈な会話劇が進行する。ムスリム、同性愛、貧困。さまざまな個人の事情が交錯し、議論が展開される。荒唐無稽かもしれないが、それぞれの話には説得力がある。
こうした展開で、社会派劇の中津留ワールドが遺憾なく発揮されている。納得できる議論もあるし、「それはちょっと」と引いてしまう場面もある。
きっとこの戯曲でも、語る言葉を探し続けているのだろう。武力で一刀両断する現実が世界各地で絶えない中で、登場人物たちの言葉が宙を舞い、見るものにさまざまな思いを引き出してくる。
会話劇なのでやむを得ないかもしれないが、ムスリムになった女性弁護士のエキセントリックな会話は、もっと抑えた方が。

屋上のペーパームーン
オフィスコットーネ
ザ・スズナリ(東京都)
2016/02/10 (水) ~ 2016/02/17 (水)公演終了
満足度★★★
笑えるが、何だがなあ。
そういえば、そんな事件もあったっけ。偽の夜間金庫を作って金を奪おうとした事件。かなりの人がだまされて現金袋を投入したというから、犯罪史上注目すべき事件だった。しかも、犯人は捕まってないし。
この戯曲は、その犯人グループの後日談として創作されている。現金奪取に失敗したグループたちの、何だがしまらない反省会のようにもみえる。コテコテの関西弁の会話はおもしろくて笑えるが、何だがなぁ〜という締めくくりである。わたし的には、冒頭が一番おもしろかった。

奴婢訓
演劇実験室◎万有引力
座・高円寺1(東京都)
2016/02/05 (金) ~ 2016/02/14 (日)公演終了
満足度★★★★
寺山の時代を想像した
主人のいない館で狂宴を繰り広げる召使いたち。寺山修司は「天井桟敷」でこんな感じの舞台を作り上げたのか、当時を見ていない私には想像するしかないが、その想像力を大いに刺激する見事な舞台だった。
これは、役者たちの個人の力が試されるパフォーマンスでもある。座高円寺で舞台を広くとり(すなわち、きっと客席数を削っている)、その大きな空間を思う存分使うとともに、客席の空間も活用。さらに、人間の造形美とも評することができる動き、そして、ろうそくの明滅を効果的に活用した演出。
寺山の演出もそうであったのだろうか。万有引力は寺山劇を忠実に受け継いでいるというから、この戯曲は一見の価値がある。座高円寺は結構広い。これを例えば下北沢の小劇場でやったらどうなるのか。帰り際にそんなことも想像してしまった。

光の国から僕らのために―金城哲夫伝―
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2016/02/10 (水) ~ 2016/02/21 (日)公演終了
満足度★★★★
沖縄を考える舞台
ウルトラマンが登場する1990年代は既に戦争もなく、人類は国を超えて宇宙からの外敵である怪獣に対処している。沖縄県出身で、先の戦争では沖縄戦の鉄の暴風を生き延びた、ウルトラマンの生みの親、金城哲夫。彼がウルトラマンで描いた世界は、ある意味で人類の理想郷。もちろん、沖縄に米軍基地などない世の中だ。
この戯曲の中で、「我々はまだ、ウルトラマンを超えるヒーローを生み出していない」という作家たちの言葉が出てくる。その言葉の意味の通りなのだが、今も広大な米軍基地が存在し、さらに辺野古には新基地が作られようとしているそんな沖縄の今を思わせるせりふでもある。
光の国から僕らのために、来たぞ我らのウルトラマン。今の世の中にウルトラマンがきてくれたら、と願わざるを得ない、そんな思いで劇場を後にする。

屋根
富良野GROUP
新国立劇場 中劇場(東京都)
2016/02/05 (金) ~ 2016/02/07 (日)公演終了
満足度★★★★
流されて、見る夢
ラストシーンは何だか泣けてきた。朴訥で、一歩一歩踏みしめて生きるような最後の場面に、希望が透けて見える。
生まれ落ちて、家族で助け合って生活し、老いていく。世の中に流されるようにして生きるしかない私たち。その流れに抗するすべもなく、受け入れて生きていく。自分の生きる分だけ稼ぎ、家族と共にいるという、本当にささやかな幸せを願っている。
猟師の言葉が印象的だ。
自分は獲物を殺すが、自分が食べるためだ。戦争は人を殺すが、お前は人を食べるのか。
電気が通り、家財道具が増え、便利になっていく。舞台はそれを真正面から否定はしないが、「身の程」を考えさせる。国土を拡大する、電気を使うために原発を作る。いつの間にか「身の程」はどんどん大きくなっていく。
老夫婦が、縄をなう。材料は子どもたちが「いらない」として捨てた服だ。「この縄を見ると、写真のアルバムのようにその時のことを思い出す」とおばあちゃんは言うのだ。
大量の物品に囲まれるアンチテーゼとして、断捨離などという。
この舞台では、そのいずれも、「身の程」とは違うのではないかとそっと伝えているようだ。
今日が東京公演最終日。カーテンコールで拍手が鳴り止まない中、倉本聰さんが姿を見せた。見てよかった、と思える舞台だった。

同じ夢
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2016/02/05 (金) ~ 2016/02/21 (日)公演終了
満足度★★★
交わらない6本の線
一見、不思議な関係性を持った6人の登場人物。精肉店の店主とその娘、中年の店員。要介護状態にある先代店主(姿は見せない)を介護しに来るヘルパー。飲み仲間である近所の文房具店主。そして、10年前に交通事故で精肉店の店主の妻を死なせてしまった加害者の男性。
物語はこの6人が出入りする精肉店の居間・ダイニングキッチンで進行する。6人はそれぞれいろいろな背景を抱えているが、その背景が交わりそうですれ違っていく。結局、答えは出ない。私たちの日常生活のさまざまな問題や人間関係に、そう簡単に(舞台が行われている2時間という短時間では、特に)答えは出ないのだから、それでいいのかもしれない。
昨年、「オレアナ」で異彩を放った田中哲司に期待して見に行った。今回はどこにでもいそうな普通のおじさんを、しかし、ちょっと異色とも言える雰囲気を出しながら演じて見せたのはまあ、よかった。それよりも、私生活でも仕事の上でも人には言いづらい日常を抱えるヘルパーを演じた麻生久美子が、出色の出来だったと思う。

青春の門〜放浪篇〜
虚構の劇団
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2016/02/03 (水) ~ 2016/02/17 (水)公演終了
満足度★★★★★
世代を超えた微妙な空気
まず最初に思ったのは、この小説はとても演劇的な作品だったと再発見させられたこと。スペース雑遊のような濃密な小空間で上演するのにふさわしい熱量を持った小説だということだった。
原作は昭和30年代の若者たちの群像劇。これを今の若者たちが演じるわけだ。舞台からは当時の若者たちの熱さはガンガンと伝わってくるのだが、何だか微妙な空気感も流れている。何だろう、これは、とずっと思っていた。
帰りの電車でパンフレットに書かれている役者たちの感想を読んだ。この作品(台本)を読んだときの印象が書かれている。おそらくみんな20代の俳優たち。
「何か小難しいことで悩み、議論し合っているのが最初の印象」(三上陽永)
「正直、初めて読んだときは、全然理解できませんでした」(森田ひかり)
「最初はとても難しい本だと思いました。専門用語が出てきたり、時代も古いし」(池之上真菜)
「どうしてここに出てくる人たちはこんなにコロコロと変化し、面倒くさいんだろうと、共感を持てませんでした」(佐川健之輔)
それで分かったぞ。この微妙な空気感。青春の門を演じるとは、そういうことなのだ。この作品の空気感にどっぷり浸かれる世代はもう、今や高齢者である。高齢者には演じられないから、若い世代が引き継ぐわけだが、何とその難しいことか。空気感を受け継ぐというのは至難の業なんだね。
だが、舞台は素直に面白いと思った。この微妙な空気感のずれも楽しめた。濃密空間の小劇場マジックかもしれないが、とても満足できた。
今度は筑豊編から続けてやってほしい。是非とも要望します。

三人でシェイクスピア
劇団鳥獣戯画
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2016/02/02 (火) ~ 2016/02/03 (水)公演終了
満足度★★★
シェークスピア祭り
これは、シェークスピア・ライブ・エンターテイメント・ショー。劇団鳥獣戯画の石丸有里子さんによる舞台後の説明では、空いている小劇場を断続的に押さえてこの演目の公演を続けている、とか。チラシにも「跳び跳びロングラン14年目!」とある。
私の興味は、シェークスピア37戯曲をたった3人でどうやって全部上演するのか、というところにあった。実は、そういう切り口で会場に出向くと「何だこれ」、ということになるので、この際、頭を真っ白にして最初から笑いに行くぞ、と会場に行った方がいい。なにせこの舞台は、全編ギャグのてんこ盛りなのだから。
私が帰り際、石丸さんに「もっと上演時間を長くしてもいいから37戯曲をばっちり取り扱ったらどうでしょう」と言うと、「それはちょっとつまらないかもしれませんよ」と彼女は言った。なるほど、自分で言ってみて、確かに彼女の言うとおりかな、とも思った。
でもやっぱり、しっかり取り上げたのがロミオとジュリエットとハムレットだけではちょっと寂しい。劇団鳥獣戯画がやれば、おもいっきり笑えるシェークスピア戯曲はほかにもまだ、ありますから。せっかくのロングランなので、まだ、別の戯曲を取り上げて笑わせるライブ・エンタテイメントを期待したい。

プリズンホテル 夏
砂岡事務所
シアター代官山(東京都)
2016/01/21 (木) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★
ヤクザなのに家庭的な雰囲気
浅田次郎原作の舞台化。場面転換も素早く、分かりやすい物語の展開だ。ヤクザの親分が経営し、従業員もお客もその筋の皆さまばかり、という話なのだが、なぜか家族的な雰囲気が流れる。任侠の人たちは強い絆で結ばれているのだから、あまり驚くべきことではないのかもしれないが。
プロデュースは砂岡事務所で、劇団ひまわりの子役たちも出ている。客席には応援の家族か友人たちだろうか。発表会というか、そんな雰囲気も漂った舞台だった。

俺の酒が呑めない
劇団青年座
青年座劇場(東京都)
2016/01/22 (金) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
青年座劇場が酒蔵に
いつもの青年座劇場が、酒蔵に変身している。しかも、そこはかとなく日本酒の香りも漂っていて。客席に向かう通路には木桶や、出荷先の張り出し物など何と芸が細かいこと。
もちろん、舞台にも酔った。福島・会津の造り酒屋を舞台にした家族と仲間の物語。酒蔵の現状や、風評被害で苦しんだ場面も盛り込まれていて、とても丁寧で共感できる脚本だった。作家の古川貴義氏は故郷の言葉会津弁でこれを書き上げて見せた。それを青年座の若手からベテランまでがきれいに演じて見せた。
造り酒屋と言えば杉玉だが、舞台暗転で天井付近の杉玉にスポットが当たる演出がなかなかしゃれている。入り口でこの舞台のモデルになった造り酒屋のお酒の即売会も。そりゃ売れるって、この舞台を見た後なら(笑)

プロキュストの寝台
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2016/01/27 (水) ~ 2016/02/01 (月)公演終了
満足度★★★★
盗賊は今も、死んではいない
劇作家の嶽本あゆ美は、彼女の名作「太平洋食堂」の取材中からこの物語が生まれた、と言っている。ギリシャの伝説を日本の幕末の村に舞台設定し、そのメッセージを今に伝えた秀作だ。
彼女は「プロキュストは誰でしょう」と問い掛ける。それは時の政府であり、自らの隣人であるかもしれない。電車で隣り合わせた人が、プロキュストだったりする現代社会だ。そこまで空想が及ぶような舞台を演じた、Pカンパニーの力演もすばらしかった。子役の熱演も光った。
一幕ものであるが、この長い物語を一つの舞台の上に象徴的と言ってもよい寝台、まあ、単なる台なのであるけど、これを中央に配置した演出もとても印象的だった。劇作家の思いを、演出が心の底から理解し、演者が強烈なメッセージとして発信する。この流れが本当にうまくでている舞台だった。