かずの観てきた!クチコミ一覧

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ぬるま湯のあとさき(12/26.27の公演中止)

ぬるま湯のあとさき(12/26.27の公演中止)

ツケヤキバ

OFF OFFシアター(東京都)

2022/12/21 (水) ~ 2022/12/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/12/22 (木) 14:00

下北沢で「UCHIAGE」という演劇人が集まる店をやっている俳優関口敦史が主宰するユニットの旗揚げ公演。演劇好き、アラフォー、そして人生これでいいのかと考える瞬間を持っている人。いずれもこの舞台、見るべし。刺さるところがたくさんあって、苦しい? いや、爽快な1時間半の舞台を楽しめる。

男性4人が同居しているという設定。部屋の飾り付けはクリスマスで、ちょうど今にぴったり。だが、楽しいクリスマスパーティーは始まらない。冒頭からグサグサ刺さる鋭い会話劇が展開する。
40歳だが母親に仕送りをねだりながら俳優を続ける男、36歳だが俳優をやめてこの部屋を出て行こうと考えている男。仕事は失敗ばかりで年下の上司に大目玉を食らっているやや年上の男。離婚した妻が再婚すると聞いて泥酔して帰ってきた男。登場するのはアラフォーのおじさん4人だけだ。この4人がなぜ同居しているかというのは不明だが、あまり気にしなくてもよいのだろう。
マイルドな会話にとげがある。身もふたもない展開となっていくが、なぜか開き直ったような明るさも。クリスマスに彼女と見る舞台じゃないかもしれないが、やっぱりなぜかすっきりした気分で劇場をあとにできる。見た後はやっぱり、UCHIAGE? 愛すべき下北沢の演劇人の、舞台の続きが酒場にあるかもしれない。
 

老いた蛙は海を目指す

老いた蛙は海を目指す

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/12/15 (木) ~ 2022/12/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/21 (水) 14:00

座席1階

毎回舞台美術が楽しみな桟敷童子は今回、客席中段まで白い菊花が咲き乱れていた。生と死が隣り合わせにある貧民窟が舞台で、菊の花にどんな意味があるかは劇中で明かされる。さらに、今回のラストシーンも圧巻であった。舞台美術もさることながら、板垣桃子の鬼気迫る演技に目はくぎ付けとなる。ゴーリキーのどん底がこのようなアレンジとなるなんて。秀作と言わざるを得ない。

青山勝が桟敷童子に出るのを初めて見た。このような豪快な演技をする人なんだと感じ入った。「道学先生」でのイメージとはやはり、少し違っていると思う。自分には新鮮な発見だった。このほか藤吉久美子の妖艶な存在など客演ばかりが注目、というわけではない。桟敷童子のメンバーも相乗効果というのだろうか、藤吉久美子の妹役を演じた増田薫、人生訓とも言えるような謎めいた名言を吐く老婆役の鈴木めぐみ、青山が親方を演じる乞食会社「残飯屋」のメンバーで存在感を発揮したもりちえなど、いつもにまして迫力が違う。こうした役者たちの熱量を感じに行くだけでも、劇場に足を運ぶ価値はある。

貧乏な人が貧乏な人を搾取する、生きていくだけで精一杯で自分のことしか考えられない。舞台は特高警察が思想取締りを強化していた昭和の初めごろだろうが、こんな世相は過去の話ではない。物語に現代を示唆する部分はないが、気が付いたら「どん底」という時代はもう、たくさんである。また、炭坑労働は桟敷童子では定番と言われるほどよく出てくるが、今回も悲劇の引き金を引いたアイテムとして語られる。

約2時間、舞台転換も敏しょうで、息つく暇もなくラストシーンになだれ込んでいく。今回も見逃すと後悔するぞという舞台をつくってくれた。桟敷童子ファンにはすばらしいクリスマスプレゼントだ。

凪の果て

凪の果て

動物自殺倶楽部

雑遊(東京都)

2022/12/14 (水) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

鑑賞日2022/12/14 (水) 19:00

座席1階

幕切れがあまりにも突然で、明るくなった客席は何が起きた分からず拍手も起きなかった。いろいろとっちらかしておいていきなり終わりで、それはないだろう、という感じ。

始まりから不協和音を中心とする効果音、ちょっとおそろしげな照明が続く。
要するに、離婚をしたい夫と別れたくない妻にそれぞれ弁護士がついて、協議に向かう過程で話し合いをする劇。夫は妻の攻撃的な姿勢に萎縮し、職場の派遣の女性と恋に落ちた。不貞ということで離婚の原因が自分にあるとは分かっているが、妻とは別れたいと切望している。妻は夫の態度が許せず、別れたくない理由は夫を苦しめたいがため。お互いに身勝手極まりない離婚協議が展開するが、双方の弁護士も実は相当なタマだ。突っ込みところ満載の会話劇が進んでいく。(沈黙も多いので会話劇とはいえないかも)
百歩譲ってまあそれはよいとして、物語はさらに複雑度を増して「さあ、どう結ぶんだ!」という段階になって、冒頭にも書いたような幕切れ。女性の生き方についてのせりふなども後段に出てくるが、いったい作者は何を言いたかったのだろう。

それにしても、これから何が起きる、というところでいきなり幕を切ってしまうのは客席の欲求不満が募る。これが作品の表現の仕方と言われたら仕方がないが、何のために1時間半の時間を劇場で過ごしたのかと自分は感じた。それはないでしょう、と劇場を後にした。

最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-

最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-

劇団扉座

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/12/13 (火) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/14 (水) 14:00

座席1階

エノケン全盛期の作品を数多く書いた作家、菊谷栄の物語。最後の伝令とは、中国戦線に赴くために青森に集結した旧陸軍部隊に東京から赴いた菊谷に、劇団員からのメッセージを伝えに走った青森出身の女優のこと。劇中では彼女がなぜ菊谷のいる東京の劇団に入ったかの経緯も明かされ、戦時下の暗い時代に夢と希望を追った女性の人間像も描かれる。

浅草の庶民の娯楽、喜劇や華やかなレビュー。舞台では冒頭から、楽しい歌と踊りが展開する。しかし、エノケンの全幅の信頼を受けていた菊谷は、召集令状を受けて黙って青森へと姿を消す。伝令に走ったのは、青森出身の女優だ。なにせ会話は強烈な青森弁だから、何を言っているかはあまり分からない。それでもこの役を演じた北村由海は、体当たりの演技で劇団員からのメッセージを伝えていくところがとても印象的だ。

舞台の真骨頂は、菊谷がどんな思いで伍長として青森の若者たちを束ね、戦地に赴いたかというところだ。出撃前夜の宴席を通して、その無念さと、吹っ切ってきたはずの吹っ切れない気持ちが痛いほど伝わってくる。劇団員たちの思いは、菊谷を無傷のまま戦地から故国に返してほしいという点に尽きる。それを受けて、菊谷の部下の若い兵隊たちは「100%完全に敵をたたきのめし、伍長殿をお返しします」と叫ぶ。だが、菊谷の独白では、自分たちがたたきのめす敵軍の兵士たちにも恋人や家族があり、やはり無傷のまま帰ってきてほしいとの一点を願っているだろうという趣旨のせりふがある。どちらかが倒れるまで戦うのが戦争だ。戦時下では劇場の扉は開かないと、強烈なメッセージが客席に届く。

そうしたせりふなどに胸を打たれ、鮮やかなダンスに目を奪われ、一時代を築いた浅草の舞台芸術が描かれる。ラストシーンに近いあたりで登場する見送りの場面がとてもいい。涙あり、笑いありで、客席の大きな拍手はいつまでも絶えなかった。扉座渾身の力作だと思う。

KARASAWAGI-2022

KARASAWAGI-2022

山の羊舍

小劇場 楽園(東京都)

2022/12/09 (金) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/09 (金) 14:00

座席1階

シェイクスピアがこのように今風によみがえるとは驚きだ。登場人物がスマホを手に検索したり、写真を見せ合う。不貞の「証拠」は、原作のように込み入った演技をしてふしだらであるといううわさを立てるのではなく、ベッドインの写真を画像で流す(もちろん、これは画像合成であったというオチだが)。そのほかにも動画を小道具に使い、下北沢の「楽園」という客席数わずかな小劇場で上演するためかぎゅっと圧縮して1幕もの2時間にまとめ上げるところなど、斬新だった。

圧縮したと言っても、原作のせりふはしっかりと生かされている。速射砲のように会話をぶつけ合う出演者たちの練度も高かった。イケメン・美女の配役は見事だと思う。ビアトリスを演じた演劇集団円の大橋繭子、ヒアローを演じた兒林美沙紀はどきっとするほどきれいだった。

とにかくシェイクスピアをこのように楽しませてくれる舞台はそうないだろう。わずか 三日間の上演。見逃すと損した気分になるかも。

ネタバレBOX

ちょっと詰め込みすぎの客席には少し不満。コロナ禍ということも少しは考えないと。
いかけしごむ トイレはこちら 2本立て

いかけしごむ トイレはこちら 2本立て

Pカンパニー

西池袋・スタジオP(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/12/08 (木) 19:00

久しぶりに別役さんの不条理劇を見た。しかも二本立て。別役さんしかないと思われる、電柱に裸電球、そのわきにベンチというセット。見る前から期待が高まった。

1本目、「トイレはこちら」は電柱の脇に踏み台、天井から首くくりの縄。一見して自殺をめぐるお話かと思いきや、この首くくりの縄よりもベンチが効果的に使われる。主人公は最初に登場する自殺志望の女性でなく、後から来た「商売」をする男性だった。
この男性に、女性は積極的に声をかけていくのだが、実は次第に男性が不条理な会話の主導権を握っていく。首くくりの縄が実際に首にかかることはない。この男性の商売をめぐり、何とも言えない不条理劇が進んでいく。
もう一本のいかけしごむは、とんでもない発明品をめぐる不条理会話だ。やはりベンチが効果的に使われ、なぜか1本目と違ってベンチには「座らないでください」の張り紙が。同様に女性と男性の不条理会話が続くのだが、ここでも無口そうだった男性が、会話の主導権を握っていくのがおもしろい。

別役作品は一度見たらやめられない麻薬のような快感がある。楽しい夜だった。

夏の盛りの蝉のように

夏の盛りの蝉のように

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/12/08 (木) 14:00

座席1階

浮世絵の葛飾北斎、弟子の蹄斎北馬、武士であり絵師でもあった渡辺崋山、歌川国芳、北斎の娘で画才を発揮したおえいの群像劇。カトケン事務所には少し珍しい演目だと思う。3時間近くに及ぶが、長さを感じさせないのは、役者たちの個性的な演技のたまものだと思う。

今回、北斎役の加藤健一は余り目立たない。そのほかのメンバーが結構強烈だからだ。とくにおえいを演じた加藤忍、華山を演じた加藤健一の息子の加藤義宗はよかった。おえいは子どものころからの場面を演じるので大変だったと思うが、余り違和感を感じさせない演出だった。美人画のモデル役を演じた日和佐美香も、際立つ美しさを全身で表現した。
演出といえば、北斎の部屋だけを舞台とした構成はシンプルだがこれも違和感がない。引っ越し魔だったという北斎だが、荷車を引いて引っ越す場面から開幕し、その後何度も引っ越しシーンを重ねることにより、時と場所の流れを感じることができた。

ラストシーンが出色だ。ここでは明かさないが、群像劇の締めくくりとしては分かりやすく印象深い台本となっている。今回はいつもの爆笑シーンはほとんどないのだが、せりふの妙で笑わせるし、加藤健一事務所らしい仕上がりだと思う。

君に贈るゲーム

君に贈るゲーム

ラッパ屋

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/12/04 (日) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/07 (水) 14:00

座席1階

「人生いろいろ」という歌謡曲を思い出してしまった。さまざまな人生を想像しながら自分の来し方も考えたりする。劇場を出てこんなことを思い巡らせながら帰途に就く、とてもおもしろい舞台だった。ラッパ屋鈴木聡の面目躍如という感じだ。

自分はボードゲームといえば任天堂の人生ゲームしか知らないが、今作の舞台は世界中のさまざまなボードゲームが楽しめるカフェ。やっぱり常連さんがいて、しがない中間管理職という風情のおじさんがフラリと立ち寄るところから始まる。コロナ対策のマスク着用ということもあり、顔見知りではあるが素顔は知らず。お互いをニックネームで呼び合うが、同好の士ということだけあり親密な仲間だ。
そこで会長と呼ばれていた人が体調を崩したのかこなくなっていたが、ある日突然、秘書を名乗る人が来て会長の頼みを聞いてくれという。会長は何社も会社を率いているお金持ちで、静養中の海辺の別荘にボードゲームカフェの仲間に来てもらい、一晩で孫に与える人生を考えるボードゲームを作ってほしいというのが頼みだった。
そこで冒頭の「人生いろいろ」になるわけだが、先人も書いているとおり、この仲間たちはさまざまな経歴というか、多彩な人生を送っていて、ゲームにはそうした人生のエッセンスを盛り込んでほしいのだという。さて、どんなゲームになるのか。
ゲームの企画を構想するというクリエイティブな作業を一晩でやれというのも大変だが、仲間たちはスパイスの利いた会話を交わしながら、練り上げていく。この会話劇が秀逸だ。まさに、自分が経験できなかった人生を少しずつ追体験できるような構成で、それこそ客席の一人ひとりに妄想のタネを振りまいていく。

一時間半と長くないのもすてきだ。新劇系の劇団に多いが、15分の休憩を挟んで3時間半とか、いくら名作でも客席を引きつけるには限界がある。劇団の皆さんにはこんな点を考慮してほしい。

クリスマス・キャロル

クリスマス・キャロル

劇団昴

座・高円寺1(東京都)

2022/12/01 (木) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/12/03 (土) 14:00

座席1階

英国の作家チャールズ・ディケンズの名作で、あちこちで上演されている。「この世に生きる価値のない人などいない。それは、人は誰でも、誰かの重荷を軽くしてあげることができるからだ」という名言を残したと言われる。この作品は、頑固で偏屈で金にあざとい老人スクルージが聖霊の導きで変わっていくという物語で、この格言を地で行く舞台だ。

12月の上演にぴったりの演目。客席も親子連れがいたりして、少し華やいだ雰囲気。クリスマスソングが何度も歌われ、客席を引っ張っていく。
この意地悪で強欲なスクルージおじさんのような人は今でもいるだろう。そんな人の性格を果たして変えることができるのだろうか。現実社会ではなかなか難しいかもしれない。「聖霊の力じゃないと無理かなあ」と舞台を見ながら思ったりする。
しかし、このような性格は生まれ持ってきたわけじゃない。そうなる人生の経緯があるわけで、そのあたりも舞台で描かれる。ディケンズが言うように、その重荷を軽くできる人が近くにいたなら、と思う。スクルージは墓石に自らの名前が刻まれたのを見て震えあがるが、一歩間違えば強欲老人のままで生涯を終えてしまうぎりぎりのところで救われる。救うのはキリスト教的世界観だが、宗教と離れた世界でも「重荷を軽く」できる周囲の人が一人でもいたなら。劇団昴には、「重荷を軽くする人」を主人公にした現代版クリスマス・キャロルの物語を舞台でやってほしい。

ほどける双子

ほどける双子

クレネリ ZERO FACTORY

梅ヶ丘BOX(東京都)

2022/12/02 (金) ~ 2022/12/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/12/02 (金) 18:00

座席1階

大岩真理の劇作は、グッドディスタンスの「月に座る」がとてもよかったことで今回も期待して劇場へ。本多真弓の一人芝居。劇作の面白さと本多真弓の指先まで震える絶妙な芝居に魅了された。

赤ちゃんをベビーシッターに託して夫婦がオペラに出掛けるという設定で物語はスタート。最初はドレスアップして出掛ける妻を演じるため、ここが軸になって展開するかと思いきや、本多の芝居はベビーシッターに移り、そして…。
「女性に生まれたからには切り離せない事柄が、書いた当時の自分にまとわり付いていて、いろいろな断片と絡まり」と大岩は書いている。舞台を見ると、その意味が分かるような気がする。いろいろな断片を生々しい混沌として、それを本多が次々に演じていく。その断片が客席に突き刺さって怖いような気持ちになる。
1時間の短編だが、十分に堪能できる。繰り返すがこれは劇作の面白さだけでなく、本多の演技にも負うところが大きい。本当に指まで震えているのを目撃した。梅ケ丘BOXという小劇場の空間が震えたと思う。

残念だったのは、この劇場ゆえの外部の音だ。ちょうど交差点の近くにあり、バイクや車の音が劇中の音に混じる。まったく関係のない音なら気にする必要もないが、劇作の要素としての音だと思っていると外の騒音だったりして。やはり、下北沢の小劇場で上演すべきではなかったか。

アベベのベ 2

アベベのベ 2

劇団チャリT企画

駅前劇場(東京都)

2022/11/30 (水) ~ 2022/12/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/12/02 (金) 15:00

久しぶりにチャリTを見た。前作のアベベのベを見ておけばよかったと後悔した理由は二つある。今回のチラシにある「風刺か?冒瀆か?」に釣られてしまったこと。つまり、前作の方が強烈ではなかったか、という後悔。もう一つはやはり、安倍元首相が存命中に見ておくべきだったという後悔である。

チャリTの強烈な風刺力を知っていたために過剰な期待をしたのかもしれない。亡くなってしまった人を風刺するのはやはり、難題なのかもしれない。結論から言うと、冒瀆ではありません。風刺でないかというとそこまでではないが、かなり穏当な作品という感想だ。
舞台は安倍元総理が夕刻、演説をする予定地近くのコンビニ。埼玉県の大宮というところがおもしろい。都合が悪いと簡単にシフトを抜ける学生バイトに「店長候補」は頭にきている。この人、大学時代にコンビニでバイトをして卒業後に就職をするもやめてしまい、またコンビニに戻ってきた。と言っても正社員ではなく、バイトなのだ。こんな設定が安倍政権も引き続き踏襲した新自由主義的な施策の落とし子だと言えなくもない。
奈良の銃撃事件、宗教2世の話など、今風の時事ネタも入ってはいる。しかし、安倍政権に向かって「こんな世の中に誰がした」と異議申し立てをするような場面は、店長候補にため口をきく男性バイトと店長候補の迫力満点のけんかの場面くらいだ。この男性バイト君が叫びまくるせりふが、ああ、そうだそうだと共感できるところだろうか。

勝手に期待して申し訳ないのだが、「風刺か?冒瀆か?」はちょっと誇大広告。でも、コンビニバックヤードの群像劇としては秀逸だ。冒頭で出てくる廃棄弁当の山は、さもありなんという感じでおもしろい。コンビニ同士の競争もリアリティ満点だ。やっぱりチャリTはおもしろい。

The VOICE

The VOICE

ブス会*

遊空間がざびぃ(東京都)

2022/11/24 (木) ~ 2022/11/30 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/11/29 (火) 14:00

座席1階

これまでのブス会作品とはがらっと趣が違う、ドキュメンタリータッチでつづられる杉並区民の声。タイトルの通り、これは「声」が主役であり、登場する俳優たちはいろんな役柄を切り替えながら縦横無尽に声を発していく。

ユニークなのは、ペヤンヌが開幕時に舞台に登場し、この演劇を作ろうとした動機や経緯を訥々と語り始める。しばらくは、これが舞台の前口上だと思ってしまう。実は、ペヤンヌも俳優の一人として舞台に立っているのだ。その後、彼女は終幕まで客席の最前列で体操座りをしてじっと演劇を見つめている。劇作・演出の人に本番中も演技を凝視されるなんて、俳優たちはやりにくいだろうなと思ったのは自分だけか(笑)

ペヤンヌは先の杉並区長選挙で当選した女性区長を勝手連的に応援し、ユーチューブで選挙活動などを映像化している。しかし、今回の舞台は区政に批判的な声だけでなく広く取材したであろうさまざまな生の声を盛り込んでいる。区政や国政に何の関心もなかった女性が、デモに参加したり「自分の1票で区政を変えなければ」と発言するようになっていくところなどは、さながら民主主義の教室のようだ。

東京都の都市計画道路は何十年も塩漬けになっていたものが突然動きだすということが普通にある。予定地にかかっているところに住んでいる人には寝耳に水だ。都市計画道路の計画は公表されてはいるが、そんなものは誰も見ていないからだ。
しかし、行政は「以前からあった計画を実行するだけです」と上から目線で強行しにかかる。知らなかったのは都民が不勉強なせいだといわんばかりの態度である。劇中でも出てくるが、住民説明会のお知らせでさえ、例えばチラシを全戸配布するなど徹底的に告知などしない。あらかた、区報とかに掲載して「お知らせしました」と言っているのだろう。舞台ではこうした行政の傲慢な態度に痛烈な批判が向けられる。

都市計画道路は確かに必要な交通網整備とは言える。大量の車が行き交う東京の交通は、道路整備による制御が不可欠。これは街づくりの基本中の基本なのだが、戦後、東京で都市計画決定された道路は予算不足を口実に計画のまま放置されてきた。例えば都心環状線で、環七などはようやく環状になったのだが、環三などは今も途切れ途切れの状態が続く。計画予定地には住宅やマンションなどが建ち並び、とても「立ち退いてください」というような状態ではない。道路整備予算がないからと言ってこうした道路計画を長年放置し続けた東京都政なのだから、今更道路を通すからと言われても住民からは「ハァ?」ということになる。

ペヤンヌはこうして突如自分の上に降り掛かった行政の理不尽さを、「声」を主役とすることで舞台に昇華させた。1時間余りの舞台だが、納得できる出来栄えだと言える。

守銭奴 ザ・マネー・クレイジー

守銭奴 ザ・マネー・クレイジー

東京芸術祭

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2022/11/23 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/11/25 (金) 14:00

座席1階

佐々木蔵之介の怪演ばかりが前面に出た印象だ。モリエールの戯曲をルーマニアの演出家プルカレーテ氏が「圧倒的演劇的魅力」で舞台化したとのうたい文句だ。確かに、舞台美術はちょっと一風変わったステージだった。しかし、物語としては今ひとつだった。

とにかくカネに汚いというか、がめついお屋敷の主が主人公。娘の結婚もカネ絡みで強要するちょっと考えられないおやじだ。プルカレーテ氏はパンフレットで「そういう彼を哀れむべきなのか」と投げかけているが、やはり少し現実離れしている物語は自分にはなかなか響かなかった。これはプレカレーテ氏の責任ではないのだが。まあ、400年も前に作られた古典なのだから、文句を言っても仕方がない。
だが、結局、守銭奴は守銭奴のままだというのは、やっぱり響かない。物語を追うというよりは、佐々木蔵之介が仙人おやじのようなメークと出で立ちで舞台を縦横無尽に動き回るところがやはり、最大の見どころだ。演出家の注文に、日本を代表する俳優がきっちり応えたということだろう。

キョウカイセン

キョウカイセン

JACROW

駅前劇場(東京都)

2022/11/17 (木) ~ 2022/11/23 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/11/21 (月) 14:00

いつものJACROWと少し雰囲気が違って、今回は臓器移植がモチーフになっている。だが、結論から言うと、登場人物たちによる群像劇に近い。生と死の境目をテーマにした一晩のドラマである。

舞台は病院の待合室。ゲリラ豪雨が続く中、救急搬送された男女二人のそれぞれの家族が登場している。男性の方は妻、姉夫妻と妹。女性の方は夫とその弟。意識不明が続く中で、男性は脳死状態に、女性は自発呼吸が復活する。
脳死状態に陥り、医師は臓器提供を持ちかけた。何とか生きていてと願う家族に臓器提供の話は唐突であり、衝撃的だ。当然、当惑の極みに陥るが、女性の方の家族、すなわちその夫が「研修で教えたもらったことです」と断り、脳死とは何か、植物状態とはどう違うのか、意識が戻ることはあるのかなどについて冷静に語る。
ここまで見ると、脳死という診断を受け入れるかどうかというドラマかと思う。ところが、そういう私の見立てをよい意味で裏切った。登場人物それぞれに脳死をどう受け入れるかなどについての物語があり、それが次々と明かされていく。
増水した川に転落した二人が、片方が脳死で片方が植物状態とはドラマチックな仕掛けだが、やはりなぜ、まったく関係のないと思われるこの二人が同じ場所で川に転落して救助されたのか、二人の関係は何なのかというところに興味が移っていく。ただ、臓器提供を持ちかけられた家族の葛藤は舞台の最後まで続く。それはやはり、劇作家が描きたかったであろう点だと考えられる。最後までこの点を貫いた脚本は、JACROWらしいと言ってよい。

俳優たちはオーディションで選んだといい、いつもの顔ぶれとは違う。それが新鮮でもある。家族の物語であるが、その家族は仕事に追われ会話を失い、肝心なことを伝えていない。こうした警鐘ともとれる作品だ。

おもしろかった!

吾輩は漱石である

吾輩は漱石である

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2022/11/12 (土) ~ 2022/11/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/11/15 (火) 13:00

座席1階

夏目漱石の著名作を一通り読んでいる教養がないと少し厳しいかもしれない。自分も全部は読んでいない(教養がない)ので、この戯曲の面白さを半分も味わえなかった(と思う)

先人たちの劇評も厳しいが、確かに胸にストンと落ちるような物語ではない。伊豆の修善寺で吐血して意識不明となり、その間に見た白昼夢という形で漱石の著名作の断片を織り込んで、「育英館開化中学」の職員室を舞台に物語が展開していく。
夏目漱石役に劇団四季出身の鈴木壮麻を配したのだから、もっとその声を聞かせてほしかった。何せ冒頭のシーンから漱石は床に伏せっており、せりふがない。第二幕で元気になってからもほとんどせりふがなく、とてももったいない感じがした。一方、漱石の妻や校長約の賀来千香子は着物姿もりりしく、きっちり配役をこなしていた。

井上作品なのに、こまつ座初演とは少し驚いた。これまで上演してこなかったのはなぜなんだろうか。

ことばにない【京都公演中止】

ことばにない【京都公演中止】

ムニ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/11/03 (木) ~ 2022/11/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/11/12 (土) 11:00

座席1階

午前11時開演で、2回の休憩を挟み劇場を出たのは午後3時半。4時間を超える長さで客席も役者もお昼ご飯は抜き! でもその長さを感じさせない、充実した内容だった。このチャレンジングな設定は成功を収めたといってよい。

まず、舞台転換にリズムがあって観客を飽きさせない。次の場面に出てくる役者を、まだその前の場面が続いているなかで照明を落としたスペースに登場させて転換とともにスイッチ。演技を終えた役者はしばらくその場にいて、タイミングよく舞台から出る。カフェ、ソファがあるリビング、事務所、乗用車の中など小道具もうまく使ってまったく違和感を感じさせないスピーディーな舞台進行だ。
舞台の床、そして奥の壁に向かってのデザインが斬新だった。物語の中身や舞台設定とは直接関係ない、デザインとしての装飾。あまり見たことのない舞台美術の一環だ。これを指揮したスタッフには敬意を表したい。すてきなデザインでした。

そして物語。演劇部の顧問をしていた女性教師が書き溜めた戯曲の束を遺して死亡し、その葬式の挨拶からスタートする。演劇部には仲のいい4人の女の子がいて、物語はこの4人を中心に進んでいくが、その一人に亡くなった女性の息子が母の遺品の戯曲を送り付け、その内容が本人がレズビアンであることをカミングアウトする内容だったことで、話が動く。4人は演劇の市民ワークショップに参加するなど卒業後も何らかの形で演劇にかかわっているが、果たしてこの戯曲を上演すべきかどうか-。
面白かったのは、市民参加の演劇ワークショップが実際に舞台上で行われたことだ。役者さん志望の若者ならなじみのあるものかもしれないが、そうでなければ「こんなことをするのか」と新鮮に映る。また、女の子4人の微妙な関係、会話もうまく表現されていた。この4時間という長編での膨大なせりふは大変だったと思われるが、役者たちはしっかりこなしていた。よく鍛えられている印象だ。

驚くべきことに、これは「前半」なのだという。また、来年に同じくらいの上演時間で後編が演じられるとのことだ。実際、終幕では明らかに「後編へ続く」という形で展開した。
客席のいすには柔らかなクッションがあり、長時間の鑑賞に配慮されている。2回の10分間の休憩ではトイレに行列ができるが、アゴラ劇場のトイレは男女同数の個室トイレがあって、ジェンダーフリーを感じた。客席数も絞ってある。劇団の心意気だろう。劇場を出たら早くも夕刻だったが、価値ある4時間だった。

ラビットホール

ラビットホール

劇団昴

Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)

2022/10/28 (金) ~ 2022/11/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/11/09 (水) 14:00

座席1階

「ラビットホールに落ちる」という英語表現は「別世界に行く」「本筋から外れる」「抜け出せない道にはまる」という意味なのだそうだ。この戯曲を見て、タイトルの意味を知る。

劇団昴はこの小劇場でこれまで、チャレンジングな舞台を設計している。今回の舞台は半円形で、客席もそれを囲むような形に並べられた。舞台と客席は2メートルほどと近く、舞台の片側にダイニングテーブル、もう片側にソファという形にして食事をしながら、あるいはリビングルームでくつろぎながらのシーンをうまく展開した。
4歳の息子を交通事故で亡くした夫婦。妻は息子のおもちゃや服などを捨て続け、夫は時折、息子の写ったビデオを見るなど思い出に浸ろうとしている。だが、どうみても心の傷は妻の方が深い。同じような体験をした自助グループから妻は抜けてしまい、自由奔放に生きる妹が妊娠したことなどに攻撃的になるなど、心の揺れを制御することができない。夫はそんな妻に前を向かせようと「子どもをつくろうか」と向けてみたりするが、妻の態度は変わらず、夫婦の亀裂は広がっていく。まさに、ラビットホールに落ち込んでいくのだ。
もう一つ、劇中にパラレルワールドについて語られる場面が出てくる。ラビットホールは息子がいる世界といない世界を結ぶトンネルでもあった。
客席の心を揺さぶる物語が展開していくのだが、こう言っては何だが結末が今ひとつぐっとくるものがなかった。映画とは少し違う物語展開のようだが、このあたりはどうなんだろうか。

妻を演じたあんどうさくらが見事だった。愛する息子を失った母親としての激しい感情の起伏、抑えられない激情。見ている方が恐ろしく感じるような、まさに「感情」に支配された演技を見せてくれた。

イヌの仇討

イヌの仇討

こまつ座

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/11/03 (木) ~ 2022/11/12 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/11/08 (火) 18:30

座席1階

赤穂浪士の討ち入りを、討たれる吉良上野介側から描く、井上ひさしの名作。桟敷童子の劇作家東憲司の演出が光った。休憩を挟んで2時間半だが、目を離すいとまもなく終幕までなだれ込んだ。吉良役の大谷亮介らの熱演にも導かれた。

赤穂浪士は大石内蔵助も含め、声や物音だけで登場しない。吉良らが側近と隠れた炭焼き小屋を舞台に物語は展開する。
「吉良のひどいいじめと言うべき仕打ちが発端となって江戸城内で吉良を切りつけるという刃傷沙汰を起こし、その責任を取って浅野内匠頭が切腹を命じられた。一方の吉良側には何のおとがめもなく、赤穂浪士がその仇討ちとして吉良を討ち取った」
 この一般的に描かれる物語を吉良の視点で見つめ返していく。とても新鮮な展開だ。
タイトルにもなっているお犬様が結構、いいところでほえたりかみついたり、主役のような動きをするのがおもしろい。綱吉が出した生類憐みの令で庶民が翻弄されたという背景をうまく引っ張ってきている。これぞ井上ひさしの戯曲のおもしろいところか。

桟敷童子で主役級を務める大手忍が女中役で登場するが、彼女のよく通る高い声が今回の舞台でもとても印象的。脇役がそれぞれきっちり仕事をして舞台を盛り上げている。

一見の価値がある「忠臣蔵」である。


藤原さんのドライブ

藤原さんのドライブ

燐光群

座・高円寺1(東京都)

2022/11/04 (金) ~ 2022/11/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/11/08 (火) 14:00

おもしろかった。よく練り上げられた脚本を、燐光群のいつものメンバーたちがきっちりと仕事をしたという印象だ。

ハンセン病の患者が「隔離」として送り込まれた架空の島が舞台。ここに、おそらく現代の新型コロナウイルスと思われる無症状感染者も送り込まれたというところから物語は始まる。通称を選んでもよい、と言われて戸惑う男。それは取りも直さず、本名で生きることは厳しい差別に直面するというハンセン病患者の歴史を反映している。
タイトルにドライブというだけあって、藤原さんが運転する車は日本全国あちこちを飛び回る。しかしそれは楽しい旅行というわけでなく、運転が上手な藤原さんの生きるすべといった感じなのだ。
劇中では、さまざまな差別の実態が語られる。今作ではハンセン病の差別問題だけでなく、今まさに起きている戦争や北朝鮮などのミサイル発射に伴う場面もさりげなく盛り込まれていて、新型コロナに加えて過去と現在を結ぶ架け橋になっている。
ハンセン病については国家もようやく謝罪したが、根強い差別は今も形を変えて生き続けており、それはハンセン病だけに限らない。舞台はこうした現実を鋭くついている。

百日紅、午後四時

百日紅、午後四時

(公財)可児市文化芸術振興財団

吉祥寺シアター(東京都)

2022/10/20 (木) ~ 2022/10/27 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/10/27 (木) 14:00

座席1階

見ていてホッとできるホームコメディ。だが、そのさわやかさの中に物足りなさがあるのはなぜだろう。それは、少しばかりお行儀がよすぎるという物語だからだと思う。

同じ家族物を描いた舞台で、最近見たのは劇団道学先生、中島淳彦作品だ。次々と家族内の問題が明らかになり、さらに母親の家を売ってそのお金を分け合って、などという皮算用が出てくるのもよく似ていた。中島作品はよく言えばインパクトが強く、悪く言えば少々お行儀が悪いエピソードが主流だ。ラッパ屋鈴木聡のホンは、舞台を流れる空気が落ち着いているし、「これは大ごとにはなりそうにない」という安心感みたいなものが流れている。それが、私にとっての物足りない理由だと思った。

とはいえ、そのお行儀の良さを、市毛良枝がエレガントに演じたのには目を見張った。エレガントでありながら付け入るスキのない磨かれた演技とでも言おうか。他の俳優さんの中で抜きんでていた。

舞台は東京郊外の一軒家という設定で、庭の百日紅が美しい夏だ。四人兄弟の長女役が市毛。彼女は事故で夫を亡くしているが、亡くなった場所が若い女性に人気のある裏原宿で、彼女の家に突然若い女の子が「お父さまにはお世話になりました。お線香を上げさせてください」と飛び込んでくるところから波乱が始まる。
確かに不倫をうかがわせる設定だが、主人公の市毛の落ち着いた態度や若い女性役(文学座の平体まひろ)の過剰なまでの泣きっぷりから、これは男と女の関係ではないな、と何となくだが感じてしまう。これが強く不貞を匂わせる空気だったら、まだ舞台に緊張感が走ったのかもしれない。そういうところが物足りなかったのかなとは思う。
でも、それは市毛のエレガントなたたずまいと裏表だから、飲み込んでいかねばならないのかもしれない。

あと、舞台上のせりふで「人生100年時代だから、60歳からは第二の人生」と出てくるが、同年代の自分としては人生100年時代だから60を超えて何かをしましょうと勧められるような空気には抵抗感がある。そもそも健康寿命は男女とも70代前半に過ぎないのだから、66歳の主人公が自分の人生を午後4時に例えるのもちょっと現実感を欠く。「豊かな人生、100年時代」なんてそもそも幻想だと思っている観客には、この物語は響かない。ちょっと厳しいけどあえて星三つ。

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