実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/05/24 (水) 14:00
座席1階
Side Aの「桜川家の四兄弟」を拝見。結論から言うと、とてもいい作品だった。脚本もいいし、なにせ四兄弟の演技が秀逸だ。間違いなく、泣ける。
東北の地方都市に住む母親が死んだ。母親には四人の息子がいた。膵臓がんで、事実上手遅れの状態だったようだ。四人の息子の実家には桜の木があった。母はこの木を残してと話していたらしいが、木が根を張って家の水回りに影響していることもあり、四十九日法要に集まった四兄弟の意見は割れる。さらに、この家を買いたいという業者がいて、実家を売るのはどうかという話まで持ち上がる。
長男は浦和で塾を経営、次男は東京近郊で高校教師、三男は福島市で居酒屋の店長、四男は実家に住み作曲家志望だが若干ひきこもり気味。四人も兄弟がいれば、たいがいはもめるだろう。桜の木を切るのかどうか、さらに家を売却するかどうか。舞台はそんな激論が交わされるところからスタートする。
しかし、物語が進行するにつれ、桜の木も実家の売却の話もかすんでいく。母は膨大なメモを残していた。そのメモに書かれた暗号のような文字と数字。この謎解きが進んでいくと涙腺が決壊する。
故郷が地方にあり、息子や娘が東京や近郊に住んでいる人は多いから、客席にはすぐにこの四兄弟の思いを自分のものとして受け止めていく空気が醸成される。そして、知的な労働についている上の二人に対して、三男は居酒屋、四男は未来が定まらない状態というある意味での「格差」がとてもリアリティーを持つ。学校の仕事のため母親の臨終に間に合わなかった次男を三男が激しく責める場面があるが、それは「居酒屋」の仕事にコンプレックスを持つ三男の意趣返しでもあるし、次男も仕事を言い訳にして臨終に来なかった負い目を表している。次男はそんな負の感情が破裂させ、母親の遺言である桜の木や実家を守るために婚約者の意向も無視して実家に戻って住むと強引に主張してしまう。このように四人の兄弟のそれぞれの成育歴や、現在の状況が絡み合って、いかにもそうだなというリアリティーが増していく。
母親は四人を育てるに当たり公平を旨としたというが、実際にはそうも言ってはいられないのが現実だ。仮に二人兄弟でもそうだと思う。自分の経験でもそうだが、母親はそれぞれの息子にしか言わないことがある。息子たちはお互いにその会話に込められた母親の思いを知ることはない。舞台の展開はこうした人間関係や母親の思いを丁寧に描いていく。結果、母親の隠された思いに客席は涙するのだ。
脚本も見事だが、冒頭にも書いたように四人の俳優は出色の演技を見せる。兄弟たちは、本気で泣いているのだ。小劇場の舞台だから余計に、あふれる感情がダイレクトに直撃する。泣かずにはいられない秀作のエネルギーを味わう価値は大きい。見ないと損するかも。
作曲家志望の四男が住み、居酒屋の店長をしている三男が福島市から車で1時間の距離を