金閣炎上 公演情報 劇団青年座「金閣炎上」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2023/05/16 (火) 14:00

    座席1階

    青年座と縁の深い水上勉の作品だ。初演は41年前といい、なぜ今この作品を再演したかに思いをはせる。「金ぴか」をこの世から消し去ろうとした鹿苑寺の小僧。幾重にも横たわる世の中の差別構造は終戦直後から今も変わっていない。自分は今回の舞台から、水上が描こうとしたこの変えがたき世の中の暗闇を感じさせられた。

    若狭湾に面する寒村の末寺に生まれた息子は重い吃音があった。父は結核患者。貧乏な寺の息子が生き残っていくためには、立派な寺の僧侶になるほかはないと両親は金閣寺に弟子入りさせるが、そこでも吃音に対する差別があり、貧困に対する差別があり、寺の住職をトップとするヒエラルヒーが厳然と横たわっていた。出世するにはトップである住職に気に入られるしかない。清貧を尊ぶ宗派なのに、寺は金ぴかで観光地としての拝観料で潤っている。
    住職は金の亡者というわけでなく、小僧に人の道を説く宗教人であった。とはいえ、やはり僧侶の末端に過ぎない小僧にとっては支配者なのである。母の願いはこの歴史ある寺で栄達を果たすことだが、小僧にとってはこうした差別構造の頂点に立とうということ自体が唾棄すべき人生であった。そしてついに、彼は金ぴかの城を灰じんと帰すことを決意する。
    決行の直前、彼は京都の茶屋で女郎を買う。やはり寒村出身である彼女と寝ることもなく、「近いうちに自分が新聞に載るから」と犯行をほのめかす。ここにも抜け出しがたい差別の構造がある。
    小僧は金閣寺を燃やした後、山中で大量の薬をのんで刃物で自殺を図るが、追っ手に捉えられる。事件を報じる新聞は「狂人の仕業」と書いた。彼は精神的に追い詰められていたかもしれないが、狂人がやったことと簡単に片付けてしまったことが、結局複雑な差別構造をそのまま後世に残していく道筋となったのではないか。
    小僧は父から受け継いだ肺病が悪化し、「狂人」のまま命を落とす。今、自分たちが安くない拝観料を払って足利義満の金満趣味を見学する。青空に映える金閣は美しい。そして、紅蓮の炎に包まれた金閣が砂上の楼閣だということをこの舞台は教えてくれる。


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    2023/05/16 20:56

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