実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/04/13 (木) 13:00
座席1階
2006年初演のこの演目は米ピュリツァー賞を取った名作。私は昨年10月に劇団昴が上演した舞台にとても魅せられた。昴は小劇場、今回はパルコ劇場という全くタイプの異なる劇場で「ラビット・ホール」を堪能できるとは思わなかった。この幸運に、まずは感謝。
ニューヨーク近郊の一戸建てに住むベッカとハウイーは、数カ月前に交通事故で4歳の一人息子をなくす。ベッカはまるで息子の死を認めたくないかのように、子どもを失った人たちによるピアサポートの会への出席を拒否し、残されたおもちゃや絵本を処分しようとする。一方、夫のハウイーは息子の死を受け入れてピアセラピーに参加し、前に進もうとする。息子の姿が残るビデオを見たり、子ども部屋をそのままにしておいて、その死を惜しんでいる。そんなある日、道路に飛び出した息子を死なせた車を運転していた少年からの手紙が届く。こんな筋書きで物語は始まる。
劇場の大きさが違うのだから当たり前だが、ベッカとハウイーの自宅の居間、キッチンなどの舞台設定は大きく異なっている。劇団昴の舞台は客席をくの字型に折ってキッチンと居間を続けるような舞台装置だったが、パルコ劇場ではその大きな空間を利用して中央にカーブした階段をしつらえ、子ども部屋は二階に、キッチンと居間はゆったりと上手・下手に配置してあった。どちらがいいとは言えないが、ベッカが息子の残した衣類を売るためにきれいに畳んだり、おもちゃを片付けたたりという冒頭のシーンが目の前で激しく繰り広げられる迫力は小劇場の勝利かもしれない。
そしてあんどうさくらのベッカと宮澤エマのベッカ。これはある意味好対照だった。あんどうさくらは激しい気性を前面に押し出した迫力がすごかったが、宮沢エマは最初はクールで、妹のイジーの妊娠話にも驚きこそあれきっちり受け止める感じの演技。このあたりも、どちらがよいかは好みの問題かもしれない。
勝負はベッカの胸の内がどこまでストレートに客席に響くか、だ。息子の死を受け止めきれずに夫と激しく対立するベッカだが、そういう場面ではやはりあんどうさくらの方が一枚上手か。宮沢エマは舞台初主演とは思えないほど、洗練されたせりふの流れや演技で客席の目をくぎ付けにするが、ほとばしる感情表現はあまりない(抑えるような演出だったのかもしれない)
広い舞台空間をゆったりと使った演出は、それはそれで心地よいのだが、役者が空間を持て余すように左右に移動するのはラビット・ホールのような感情の揺れが大きい本だと効果が薄れると思う。ぎゅっと凝縮された小さな空間で激しく火花が散る会話もこの台本の魅力だと思うので、自分的には昴のラビットホールの方が心に染みた。
宮沢エマ、成河、土井ケイト、シルビア・グラブという豪華メンバーの座組みは魅力だった。米国などにルーツを持つ役者たちの独自の空気感が出ると、もっとリアリティーが増したのではないか。