実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/03/29 (水) 14:00
座席1階
初日の舞台を拝見。
いろいろなことを考えさせられる、見事な作品だった。この戯曲を選んだ段階で、半分成功していたのではないか。もちろん、残りの半分は加藤健一ら3人の登場俳優が思う存分その力を発揮したことだろう。
加藤忍は今回はいつもにまして、情感がこもった演技だった。過去の栄光が大きすぎて次のステップに踏み出せない老映画作家の背中をそっと押す優しさ、包容力が演技から十分に伝わってきた。主役の加藤健一をしのぐ出来栄えだったと思う。
もう一人、若手で勢いのある新人作家を演じた竹下景子の息子・関口アナンもよかった。ちょっと雑なところもあったが、まさに勢いだけで突っ走る若者をうまく演じた。世代交代というか、時代の波に乗る感じをとても長い手足を存分に使って全身で表現していた。
冒頭から少し驚かされる。天井の梁からぶら下がったロープで老作家が首をつろうとしているのだ。そこにたまたま若手作家が「部屋を間違えた」と入ってくるのだが、この若手作家がプロデュース会社と作品を世に出す契約を取っていることを知った老作家は、作品のクレジットから撮影監督まで自分はすべて黒子でいいので自作を使うようにこの若者を説得する。
斜陽と日出る勢い。そんな対比だけでなく、引き際の難しさや、いい作品と世の中に受ける作品が異なるという、映画演劇の芸術性と大衆性のせめぎ合いみたいなところも存分に演じられる。
今回は爆笑場面はないのだが、カーテンコールの時に起きる拍手はいつもより力強かった。