
長生炭鉱――生きたかった
温泉ドラゴン
座・高円寺1(東京都)
2026/06/05 (金) ~ 2026/06/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/06/11 (木) 14:00
座席1階
先人の皆さんの評判がよく、急遽チケットを取り高円寺へ。その期待が大き過ぎたか。予想を超える展開はなく、まあまあかな、という印象だ。
期待を寄せたポイントは他にもある。温泉ドラゴンの舞台であること。日韓共作であり、日韓の俳優たちが母国語を使って演じたこと。これは長生炭鉱を知れば知るほど重要なことだと考えたからだ。
長生炭鉱を扱った演劇は、新宿梁山泊の舞台を既に拝見した。これはこれで梁山泊らしい舞台でよかったのだが、今作はやや、テイストが共通している感じもした。劇団としての特徴を出しきれていない感じもした。
長生炭鉱の犠牲者の遺骨探索は、台湾人ダイバーの事故を機に中断している。事実を舞台の物語と同一視してはいけないかもしれないが、舞台として中途になってしまった空気を感じた。
今作は梁山泊よりも犠牲者の人間物語を深掘りしていてひきつけられた。いずれにしても、日本政府は遺骨収集を先頭になって進めなければ、長生炭鉱の戦後は終わらない。今回の2作品が政府の及び腰を変えるきっかけになってほしい。

闇の中に
Pカンパニー
吉祥寺シアター(東京都)
2026/06/03 (水) ~ 2026/06/08 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/06/07 (日) 13:00
座席1階
Pカンパニーの「罪と罰シリーズ」の中でも、これは恐らく最も難しい題材だ。舞台化に挑戦したこと自体にまず、敬意を表したい。心神喪失もしくは心神耗弱などで不起訴、あるいは無罪となった容疑者・被告人は、20年ほど前にできた「医療観察法」で司法の判断を経て入院・通院で専門的な治療を受ける。ほとんど知られていない実態に切り込んだこと自体が価値あることだが、今作はこれについて犯罪被害者の視点からも描くというさらに難しい挑戦を試みている。
演劇集団円の劇作家内藤裕子を起用し、詳細な取材を重ねて練り上げられた物語だ。物語の中心となる医療観察法病棟(対象者が入院治療を受ける)でどのような治療がどのくらいの期間行われているか、知っている人はほとんどいないだろう。綿密な取材の結果だろうが、その一端が演劇という形で明らかにされた価値は大きい。自分も不勉強ながら、その実態をこの舞台で学ばせてもらった。
さらに、不起訴・無罪となった容疑者・被告人がどこにいて何をしているのか、個人情報を盾にして被害者側も容易に知ることができない現実も描かれる。ただ、近年は被害者に、不十分であるがある程度の情報は伝えられることになっている。加害者・被害者の人権という観点だけでなく、さまざまな感情が真正面からぶつかり合う事柄なのだが、当初に比べれば被害者側の思いが汲み取られるような方向にいっている。舞台ではラストシーンにかけてその点についても触れられていた。
盛りだくさんの内容で仕方ないのかもしれないが、この殺人事件がどのようにしてなぜ起こったのかというところに全く触れられていないのは、欲求不満が残った。被害者や被疑者の人生を考える手掛かりになる部分なのに、ここまでばっさり切り捨てた台本には疑問が残った。また、事件発生時には記者たちが被害者や被疑者の家族に取材に押しかけ、いわゆるメディアスクラムになるような場面が描かれているが、これはかなりステレオタイプなのではないか。記者たちのセリフを聞いていたが、このような発言をする記者は、そもそも事件記者失格なのである。(かつてこのような取材をする記者が目立ったのは事実だとしても)
舞台をよく理解するためには、医療観察法について少しネット検索してから劇場に向かうのがお勧めだ。客席の側も、覚悟を決めて舞台に臨むという姿勢が必要な演劇だと思う。

Sの顚末
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/06/03 (水) ~ 2026/06/08 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/06/06 (土) 14:00
座席1階
かつて注目をしてきたタカハ劇団の高羽彩の作品と聞いて、見なければと思った。彼女の劇作は時代の要素を絶妙に扱っているのが特徴だ。これまでの青年劇場とのテイストとは違うと思うが、これは劇団の思い切った挑戦でもあったのだろう。結論から言うと、大成功だったのではないか。
平塚雷鳥の青鞜が舞台で、伊藤野枝なども重要な役として登場するが、若い女性同士の心中事件に心を揺さぶられた一人の女学生・エスを舞台回しを兼ねた主役の一人として語らせたところに特徴がある。青鞜は日本で初めての女性運動として語られるが、ここに性的少数者の視点を組み込むという斬新な発想だ。演劇でしかできない表現で、時空を超えてこの人たちの思いを実感できる。
演出もよかった。照明の使い方なども効果的だ。高羽の面目躍如といったところだ。
高羽らしい豊かな物語に圧倒される。青年劇場はこのところ、古川健や瀬戸山美咲、中津留章仁など小劇場を引っ張る劇作家たちと次々にタッグを組んでいる。若いお客さんの呼び込みだけではない。時代に合わせて老舗劇団が脱皮を図ろうとしている強い意志を感じる。

亀と潜水艦
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2026/05/22 (金) ~ 2026/06/04 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/05/31 (日) 13:00
座席1階
今回の桟敷童子は、いつもに比べると質素な舞台美術だった。それだけに目を奪われたのは、役者たちの躍動ぶりだ。今作では、老婆役を演じた鈴木めぐみ、板垣桃子、藤吉久美子(客演)の演技がすさまじい迫力だった。
桟敷童子の舞台は、九州を舞台にした重たいテーマが多い。今作は終戦直後の1946年、博多港に中国大陸から引き揚げてきた人たちと受け入れ先の人たちの物語。命からがら逃げてきた女たちの中には、レイプした外国人の子を宿した人が多かった。祖国を目の前にして引揚船から身を投げた人も少なくない。外国人との混血児と母親に対する祖国の人たちの差別的感情・視線から守ろうと、秘密裏に不法である堕胎手術が行われた。現地の「二日市保養所」跡地には石碑があり、400~500人もの胎児がそこに眠っているのだという。
戦死しなくても、生きて帰ってきても辛酸をなめつくした大量の引き揚げ者たち。上陸した直後の一時的な投宿場所が今作の舞台だ。そこには片腕を失うなどした男性ら登場するが、主役は女性たちだ。なかでも「二日市保養所」から来て、ショックのあまり精神的に不安定になった若い女性を演じた大手忍の演技はすばらしかった。この女優さんは桟敷童子や外部出演でもメンタルに深く傷を負った女性を見事に演じている。この物語でこの役を演じるのは「この人しかいない」という評価は揺るぎないだろう。
「亀と潜水艦」というタイトルは、ストレートにこの舞台を表しているわけではない。もっと他に考えられる言葉があったかもしれないが、物語があまりにも壮絶なだけに、舞台を見終えるとタイトルに何だか少しホッとするような印象も受けた。また、悲劇的な結びになっていないのが、何より本当によかった。

愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸
劇団扉座
座・高円寺1(東京都)
2026/05/20 (水) ~ 2026/05/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/05/30 (土) 13:00
座席1階
さまざまなプロットを最後に至るまでに回収できる、ユニークな作品だ。「裸の王様」「ドン・キホーテ」をベースにした物語で、現実と妄想の世界が溶けだして混ざってくる不思議な感覚を味わえる。
タイトルが象徴的だが、これもプロットの一つ。「愚者には見えない」というところが明かされるのだが、果たして本当にそうだろうかとも思う。ある意味「愚者だけが見ることができる」とも言えるのだと思うからだ。
5月中旬からの公演期間で、役者たちは3チームに分かれて舞台を支えた。自分が見たのはAチーム。主役の王様は、扉座主宰の劇作家横内謙介と高校の同窓生である岡森諦だった。2時間、ほぼ出ずっぱりの中で、年齢を感じさせない熱演でよかった。3チームでは、俳優が別の役をそれぞれのチームで演じており、扉座の俳優たちの高い力量を示していると思う。歌唱や踊りもたっぷりあって、熱量のこもった舞台である。
裸の王様とかドン・キホーテということで、現実とは別世界のような印象を持って劇場に入ったのだが、これが結構な現実味を帯びて表現されている物語に仕上がっていてさすがだと感じた。「校内暴力」が出てくるところには、劇作家が生きた青春時代を感じさせる。客席には若い人たちも多く、ひょっとしたら「校内暴力」と言われてもピンとこない人もいたのではないか。

花よりタンゴ
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/05/12 (火) ~ 2026/05/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/05/23 (土) 18:00
座席1階
度重なるカーテンコールが客席の満足度を示していた。見終わってみると、なぜこの舞台が20年越しの再演なのかが不思議なくらい。何度も上演されてしかるべき演目だと痛感した。
だが、今作の成功は座組の素晴らしさによるものだ。長女役の朝海ひかるの実力はこれまでこまつ座に何度も出た舞台から証明済みだが、こまつ座初出演の大原櫻子と南沢奈央の絶妙な演技の力を見抜いての抜擢は、見事というほかはない。
特に、大原はよかった。美しくて可憐な、力強い歌唱は感動的。南沢の情感あふれる振る舞いは、客席の感涙を絞った。高橋克実は「きらめく星座」にも出ていて、終戦前後、昭和の空気感を舞台に満たす重要な役割を遺憾なく発揮した。
舞台は終戦直後の昭和22年。全てを奪われ平民として懸命に生きる元華族4姉妹の物語。生活のためのダンスホールをどう守るかと奮闘する姿が描かれる。サイドストーリーとしての、郵便配達員とタバコ売りのおばちゃんの人間模様も最高だ。最高たらしめたのは、名優枝元萌あってのことなのだが。
ダンスホールなので歌や踊りが満載なのが、ラストがやりきれない結末だとしても、あくまで底ぬけの明るさで満たした要因だ。戦争が終わり、明日への希望が開けようとしている当時の空気を味わうことができる源になっている。
昭和庶民伝三部作でも知られる井上ひさしの真骨頂を楽しむことができる、いい作品だ。再演を繰り返して当然という名作だと思う。

ブン/ダン
劇団チャリT企画
新宿シアタートップス(東京都)
2026/05/20 (水) ~ 2026/05/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/05/23 (土) 14:00
座席1階
タイトルを見て、早割を予約した。想像していたのは、アメリカ社会の分断や、アメリカにべったりの総理を抱える日本の分断社会の物語だったが、分断は分断でも、少し趣が違った。先人が書いている通り、「ふざけた社会派」を自認するチャリT企画にしてはふざけたところはなく、ストレートな社会派劇である。
舞台はあるシェアハウスで、リビングルームの掲示板に、本作のチラシにもなっているデザインが描かれている。物語のカギを握るこのイラストは当初は謎に包まれているが、その上に張られたチラシのポスター「戦争反対」も絡んで、何をデザインしたのかが明らかにされていく。
シェアハウスは、ノンポリで人のよさそうなおじさんによって運営されている。掃除のおばさんもいるが、彼らが高校生くらいであった時に起きた、政治的な課題をめぐる行政による教育への介入のエピソードも語られる。住人たちは全員が若者で、この世代間の意識の「分断」もあるのだと、劇場を出た後に気づいた。
AIによる武器が出てきたり、近未来の世の中の様子が描かれているが、世界の兵器産業の隆盛やアメリカが介入したことによる中東情勢の悪化にどっぷり浸っていると、あまり違和感を感じない。つまり、これは現在進行形の物語なのだ。今、起こりえる物語を楢原は描こうとしているのだと分かる。
チャリTの舞台が連発する社会を皮肉った笑いを期待しているとやや肩透かしかもしれないが、今作はストレートに客席にメッセージが投げかけられる。本来は触れられるべきでない人の内心が侵される恐怖が、雄弁に描かれている。

沈黙の海、骨は語る
新宿梁山泊
新宿 花園神社境内 特設紫テント(東京都)
2026/05/08 (金) ~ 2026/05/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/05/09 (土) 13:00
座席1階
今回花園神社のテントで3日間だけ上演される今作は、秋に長生炭鉱の現地・山口県宇部市や東京と大阪で上演する予定のパイロット版という。本を書いたのはパギやんこと趙博、劇中の楽曲も手掛けた。演出が梁山泊の金守珍だ。
冒頭、白装束チョゴリの女性が鎮魂の舞を披露する。登場する3人の俳優は事故で海に消えた「骨」という設定。海底の炭鉱で石炭を得るという危険な現場で、水没事故により多くの朝鮮人鉱夫を含む200人近くが犠牲になった。
その史実は戦後、ずっと埋もれたままだった。地元の市民有志が朝鮮と日本の遺族による慰霊祭を毎年開催し、近年になって潜水調査で少ないながらも遺骨を回収。一連の遺骨収集は有志の手で行われ、国など行政はそっぽをむいたまま。遺骨のDNA鑑定すら後ろ向きだ。潜水調査が注目されて長生炭鉱に光が当たる。これを演劇にするなら新宿梁山泊しかないと思っていたが、やはり、金守珍はやってくれた。
パイロット版なので、完成度が高いとは言えないかもしれないが、ギターや打楽器などパギやんの素朴な演奏には心が動く。90分の上演時間で物語はシンプル。秋の公演では海に消えた日韓の人たちの人間模様や、なぜ日本政府は歴史の記憶に非協力的なのかも描き出してほしい。それらに期待してあえて★は4つとした。

黒いチューリップ
新宿梁山泊
新宿 花園神社境内 特設紫テント(東京都)
2026/04/25 (土) ~ 2026/05/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/04/25 (土) 19:00
座席1階
唐十郎と蜷川幸雄。1983年に初演された伝説の舞台が新宿・花園神社のテント舞台で蘇った。この二人のアングラ劇を次世代にと語る新宿梁山泊の金守珍が「今、やるんだ」と作り上げた舞台には、まさに次世代と言える世代と初演を見たであろう高齢者が混じって食い入るように見つめていた。
主役のケイコは初演時は李礼仙、今作は水島カンナだ。自分は、晩年の李礼仙しか見たことはないが、水島カンナとはまったく雰囲気の違う俳優だから、今作はきっと初演とはかなり趣きが違うのだろう。しかし、金守珍はおそらく、唐十郎と蜷川幸雄のトリビュートを強く意識して作り上げたと思われる。いつもの新宿梁山泊の舞台とは流れる空気が違っていた。
今作は舞台美術がとても良い。一幕と二幕の間には10分の休憩があるが、この短時間でのセットの転換には度肝を抜かれる。テント演劇お約束の終幕の演出だが、今作はかなりさわやかなイメージ。主役の水島カンナがお姫様のようだった。
昭和のパチンコ屋を復活させた舞台に、当時の記憶が蘇った。釘師、ゴト屋…。現代のパチンコ店では見られない、怪しさと猥雑さが溢れる風景も唐作品と共に次世代につないでほしい。
アングラ文化の継承を前面に出した今作。その成果はどうだったかとても興味がある。

Flowering Cherry
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2026/04/15 (水) ~ 2026/04/23 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/04/18 (土) 14:00
座席1階
悲しい物語ではあるが、劇場を出て風が心なしか清涼さを感じるという気持ちになった。この座組の力ゆえだろう。
多くの翻訳劇を扱うカトケン事務所だが、今回は1950年代のイギリス演劇。パンフレットで翻訳の小田島恒志が書いているように、現実から目を背けるジレンマが描かれているのがポイント。誰にも、どの家族にもあるこのような胸の内を、家族の群像劇として浮き彫りにしている。客席は自分を照らして心あたりを見つけ、舞台にのめり込んでいく。
もちろん、主役の加藤健一の演技が力強いエンジンとなって舞台を引っ張っているのだが、今作は脇役たちがとてもいい味を出している。Pカンパニーの林次樹、文学座の山本郁子、劇団チョコレートケーキの浅井伸治など、役柄をきっちり果たすだけでなく、場面の空気を担う絶妙な仕事をしている。この座組を構成したのは加藤健一なのだろうが、カトケン事務所らしい作品を仕上げるために選ばれた配役だと思う。
本当の気持ちを言葉に出して言わなければ、本当のことは伝わらない。70年も前の戯曲は人生のヒントを今に伝えている。若い世代の観客がいつもより多かったのは、とてもよかったと感じた。

粛々と運針
iaku
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2026/04/09 (木) ~ 2026/04/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/04/12 (日) 13:00
座席1階
宿ったかもしれない命、消えていくことを決断した命。2つの家族の物語が融合していく見事な会話劇だった。極めて緻密に練られたと思われる脚本、そして構成。8年前の初演というこの舞台は、いまも輝いている。
3度目の上演で、台本をチェックして練り直し、これまでとは趣きの違う演出がなされたという。自分は今回が初見だが、生と死をクロスさせる2人の女性を階段で上がる高い位置に置き、時計の針を進める踊り場とした舞台装置は見事だった。
物語は母親が命に関わる病で入院した二人の息子、子どもは作らないという前提で家を新築した夫婦の会話が交互になされる形で進行する。その中で、それぞれが置かれた立場、胸の中にしまい込んでいた思いが少しずつ明らかにされる。同時進行だから、物語の進行のスピード、セリフの分量などをかなり綿密に考えて組み立てたことが伝わってくる。
横山劇の特徴である、世相をうまく捉えた群像劇が今作では映えた。親密な間柄であっても、血を分けた兄弟でも、実際に言葉に出さないと相手には通じないし、思いを受け取ることはできない。それは言葉をまだ持たない生まれようとする命にも、これまで懸命に生きてきた命にとっても同じである。リアリティが涙を誘う、秀作と言ってよい。
これが当代人気劇作家の原点かな、とも思った。三鷹まで遠征しても絶対に損はない。

The Closet Revue
EPOCH MAN〈エポックマン〉
ザ・スズナリ(東京都)
2026/04/04 (土) ~ 2026/05/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/04/05 (日) 19:00
座席1階
独創的な舞台を提示し続けてきた小沢道成の新作は、LGBTQがテーマ。さまざまな色彩の衣装が吊るされたクローゼットのような円形舞台で、カミングアウトを巡って幻想的な風景が力強いモノローグを散りばめて展開する。
カミングアウトがキーワードなのだが、重要なのはカミングアウトそのものよりもその先にある人生、生き方だ。当たり前のことだが、性的嗜好だけがその人を規定するわけではない。その人の思い、考え方、言いたいこと。とある人間を形作るものは多彩であるからだ。主人公はクローゼットの中で、そうした根源的な姿に脱皮していく。
哲学的とも言える舞台だが、分かりにくい展開ではない。音響、色彩、ダンスがうまく舞台を彩っている。この作品をより深く理解したいなら、それも含め小沢の舞台作りの脳内をのぞき見たいという人には、詳細な制作日記が載っているパンフレットの購入をぜひお勧めしたい。
今日は初日。若い世代に圧倒的に支持されていることがよく分かった。スズナリでのロングランだが、渋谷などの大きな劇場でもよかったように思う。

母の人生、ガブリと食らう
劇団道学先生
吉祥寺シアター(東京都)
2026/04/04 (土) ~ 2026/04/13 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/04/04 (土) 15:00
座席1階
初日の吉祥寺シアターは満席だった。深井邦彦の新作で、道学先生として比較的広いこの劇場は初めてだったという。いつもの道学先生とは舞台から受ける印象は少し違って新鮮だが、この劇団らしい人間ドラマはたっぷり楽しめる。
風呂場で孤独死した母親の葬儀に、3人姉妹が奔走する場面から始まる。物語は母と3人の関わりを紐解く形で展開し、さらに3人それぞれの家族とともにあるドラマが織りなしていく。そのどれもが印象づけられ、客席を楽しませる。
歌あり踊りありドタバタあり。道学先生のテイストを保ちながら、今回の特徴は、天井の高さ吉祥寺シアターを生かした演出だ。回転舞台をうまく使った舞台転換がとてもうまくいっていると思う。
何が良かったかと言われれば、長女役を演じたかんのひとみのさすがの演技。この人なくしては道学先生は成立しない。出て行った母の代わりに家族を支え、還暦を迎える長女の胸の内を鮮やかに演じている。
平日はまだ、チケットが取れるようだ。吉祥寺まで行って損することはない。

片鼻
プレオム劇
ザ・スズナリ(東京都)
2026/03/25 (水) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/03/29 (日) 14:00
座席1階
中島淳彦作品にハズレなしという私の勝手な法則は今回も維持された。演出は嶽本あゆ美。少し異色の顔触れだ。とても上質な舞台に仕上がっている。
主人公の女性は2年前に母親を亡くし、母が営んでいたタバコ屋の家をそのまま相続した。タバコ屋自体は閉じていて、近所の同級生女性も含め波風立たない普通の生活を送っている。この同級生と結婚紹介所の集まりに参加したところから物語が回転していく。
中島作品は軽重併せ持った絶妙な会話劇が魅力。今回もクスッと笑えるシーンが盛りだくさん。さらに、主人公を取り囲むメンバーそれぞれの人間ドラマが同時に進行するのも楽しい。今作も中島作品の楽しみが詰まっていて、お得感がある。
プレオムは基本的に女性だけの舞台だが、今作も世界観が広い。将棋とか釣りとか、男性が好むようなアイテムが登場し、女性がそれにのめり込んでいく場面が舞台を豊かにしている。
決してハッピーエンドではないが、なんとなくさわやかな空気をまとって劇場を出ることができる。本日は千穐楽。桜が満開となった好天だったがシモキタに来てよかった。

誰かひとり/回復する人間
conSept
ザ・ポケット(東京都)
2026/03/05 (木) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2026/03/22 (日) 12:30
座席1階
それぞれ1時間程度の舞台で、10分程度の休憩を挟んで上演される。
「誰かひとり」は2人の青年を巡って展開する。母とおぼしき女性2人と父と見られる男性2人が絡んでいくが、これらの人たちと青年は言葉を交わさずまじわることがない。客席がそれぞれ受け止める心の動きがこの舞台の妙味だと思うが、会話劇大好きの自分にはとても合わない。俳優の胸の内を読んで心象を楽しめる人ならよいのだが。
もう一つ、「回復する人間」はタイトルに反して、けがからの回復を拒むような女性の物語。同じ会話がループのように繰り返されていくが、ループを重ねて主人公の心が少しずつ動いていく。別役実の不条理劇のような印象もある。
日曜日の午後、大きな劇場ではないが空席が目立ったのが気になった。リピーターチケットを売っていたので、特定の人には深く刺さるものがあるのだと思うが、自分には受け止めきれなかった。

野々村良枝の失踪
タテヨコ企画
シアター風姿花伝(東京都)
2026/03/18 (水) ~ 2026/03/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/03/19 (木) 14:00
座席1階
タテヨコ企画はずっと前から見たいと思っていた劇団だった。やっとその機会が訪れた。結論から言うと、期待通りに面白かった。いや、期待以上に面白かった。今作は認知症の女性を取り巻く家族の群像劇。よく練られている戯曲である。
野々村良枝という70代の女性がお気に入りのリュックサックを持って黙って家を出ていってしまった。彼女はアルツハイマー型認知症。ケアマネジャーの女性を夫の愛人と思い込んで攻撃したり、トイレの失敗を重ねるようになったが、ニートの50代長男らと何とか暮らしていた。長男については今風の「8050問題」であり、良枝のことより仕事もせずパチンコの日々を送るこの息子の方が心配である。
良枝を介護しているのは、二男の妻だ。良枝には3人の子がいたが、長女は一人娘を実家に置いて仕事で海外へ行ってしまって戻ってこない。このように野々村家にはさまざまな困りごとがあるのだが、それらが少しずつ明らかにされていく。なぜ、実の子どもたちでなく「次男の嫁」が主たる介護者なのかも劇中で明かされるが、この人間関係も面白い。
良枝だけでなく、家族一人ひとりの物語がつづられる群像劇。いつの間にかバラバラになってしまった家族の肖像が描かれていく。うまいと思ったのは、狂言回しにケアマネの女性などを配置しているところだ。劇中、ケアマネが認知症の人の思いなどについて語る場面があるが、このあたり、よく取材されていると思った。ただ、多くの利用者を抱えるケアマネが、ここまで一つの家族に深くかかわるケースは現実にはめったにないと思われるが。
冒頭に登場するのは3人の子が小さかった頃の家族旅行だが、いい年をしたおじさん、おばさんがだだっ子を演じるさまには少し、驚かされた。笑うべき場面もあったのだが、客席の多くは引いてしまっていた(笑)
しかしこのシーンが実は、後段で重要なことを示唆していたという答え合わせがなされる。そこまで来て、冒頭のドタバタ親子劇の意味を客席は知ることになるわけで、まあ、年齢・風貌が子どもとかけ離れているという違和感はこの際、不問に付してもよいのだろう。
タテヨコ企画がこのような家族劇を得意としているかどうかは分からないが、今作は、次も見たいと思わせるに十分な出来栄えだった。認知症だけでなく多くの社会的な課題をうまく盛り込んでいる秀作だ。見ないと損するかも。

国語事件殺人辞典
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/03/07 (土) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/03/14 (土) 13:00
座席1階
井上ひさしの作品だがこまつ座では初上演という珍しい舞台。言葉が持つ力、歴史とともに移り変わる現実、日本人によって日本語が変えられていく現実など、作家ならではでの視点は新鮮だ。国語学者が相棒と旅をするといういかにも演劇的な展開でこれらを提示していく作品は新鮮で、面白い。
特筆すべきは演出だ。蜷川幸雄に鍛え上げられてきた演出家・大河内直子を起用したのはすばらしい決断だった。普段のこまつ座とは全くテイストが異なる、客席と一体化して躍動するような楽しい舞台に仕上がっている。特に、舞台転換が素晴らしい。駅前食堂、大衆劇場、駅、喫茶店などさまざまな場面がでてくるが、観客の気持ちを止めることなく早変わりのように転換する。とてもテンポがよく、客席は国語学者と一緒になって旅を楽しむことができる。
もう一つは配役だ。国語学者役を務めた筧利夫を始め、大半がこまつ座初出演なのだ。役者の起用は誰が行ったのかは定かではないが、それぞれの役回りがとてもぴったり合っていて、よくこれだけの多彩な顔触れを集めたなと感心する。筧利夫と相棒役の諏訪珠理のセリフはマシンガントークのようだ。歌唱も出てくるのだが、さすが筧利夫の歌はうまい。感心してしまう。

海の凹凸
serial number(風琴工房改め)
ザ・スズナリ(東京都)
2026/02/27 (金) ~ 2026/03/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/03/08 (日) 14:00
座席1階
俳優座に書き下ろした劇作の自劇団による再演。この作品自体は初めて見るが、水俣を扱っていても患者からは一線を画して大学の教員らによる講座運営が舞台の中心になっている。
丁寧な取材で定評のある詩森ろばらしい、細部にまでこだわった会話劇が展開する。水俣病が歴史の中に押しやられ風化していく中で、水俣を研究し、その事実を伝えていくことがいかに困難になりつつあるかを痛感させられる。冒頭、日本は公害が起きにくい地勢にありながらなぜ公害が繰り返されたのかと問いかけられるが、その答えは劇中で明確に提示される。
個人的に少し物足りなかったのは、その講座がどんなふうに行われたのか具体的な場面がなかったこと。患者の声がストレートに聞かれなかったことも欲求不満のタネだった。しかし、逆に言えばそれらに手を広げなかったことで、物語がシャープになってわかりやすかったと言えるだろうか。
竹下景子の存在感はさすがだった。道学先生のかんのひとみが教育者の役で登場したのは興味深い。役者としての幅の広さを感じてとてもよかった。

シン犯人
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2026/02/25 (水) ~ 2026/03/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/02/28 (土) 19:00
座席1階
Pカンパニーの秀作が揃う「罪と罰シリーズ」。今作は「ふざけた社会派」で知られるチャリTの楢原拓を招いた。パンフレットによると、楢原に「すごくふざけたのとちょっとふざけたのとどちらがいいか」と問われたPカンパニー代表の林次樹は「ちょっとの方」と答えたとか。これがどっこい!本格的なキレキレの社会派劇だった。チャリTテイストとは若干離れているとは思ったが、こんな舞台を見たかった。社会派好きにはいつもに増して、見ないと損すると叫びたい。
和歌山毒カレー事件にヒントを得た物語。町内会の運動会に準備された大福を食べた子どもを含む2人が死亡した事件で、前日に仕込みをしていた主婦が大福に除草剤を混入させたとして逮捕、起訴される。犯行の経緯、動機などすべて警察が描いたストーリーが裁判でも認められて死刑判決がくだる。容疑者の主婦は脅迫まがいの取り調べにもめげずに捜査段階から裁判でも否認を貫いていたのに。
舞台では、冤罪がどのように作られるのか、取り調べの過酷さ、再審請求のハードルの高さなどが正確に分かりやすく描かれる。特に、確定判決を覆すような事態が起き、その際に警察が取り調べの録音録画を操るなど、実際に起きているかもしれない場面に客席は戦慄する。
最近、死刑判決後の再審開始が決まった日野町事件では、「警察官の暴行や脅迫で自白した疑いがある」として裁判所が自白の信用性を否定している。舞台はこの事件をほうふつとさせる展開で、きわめてタイムリーだ。
また、秀逸だったのはラストシーンだ。舞台から投げかけられた結末は、客席の一人ひとりに考察を迫っている。
休憩を挟んで2時間半の力作だがまったく疲れを感じない。食い入るように舞台を見つめた。見事な作品だった。

HOPE
劇団銅鑼
銅鑼アトリエ(東京都)
2026/02/25 (水) ~ 2026/03/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/02/28 (土) 14:00
座席1階
電子書籍が普及した今では、少し伝わり方が違ったかもしれない。だが、客席を埋めた多くの中高年にはすとんと落ちるお話。時空と場所を超えた三つの場所を描きながら、戦争の惨禍から命を懸けて書物を守るという物語だ。銅鑼らしい、伝えたいことがはっきりしている舞台だ。
東京・多摩地区の古い蔵を内見に来た母親と中学生の息子。この蔵は、戦争中に都心の日比谷図書館から何万冊という本を避難させた場所だった。
時空を超えるという舞台表現は難しい。演出の力を借りるところが大きいとは思うが、今作はよくある普通の描き方だった。特に、アトリエ公演のような限られた舞台装置では限界があるが、少し物足りなかった感じもする。
今作の主役を務めたのは近年に入団した新人俳優。だが、中学生という設定にはやや難があったか。今作にはもう一人、初舞台という新人女性俳優も。こちらは役柄をしっかり演じきっていて、将来有望な若手のお披露目舞台なのかな、という雰囲気も。先輩団員たちがしっかりサポートし、新人を育てようという熱意があふれていた。
戦争のさなかに「命を守るのか、書物を守るのか」とも思う。命を懸けて書物を運んで避難させるという「価値」はデジタル社会ではきっと、様変わりするのだろう。