
演劇企画イロトリドリノハナvol.6 Airswimming エアスイミング 2026
演劇企画イロトリドリノハナ
シアター風姿花伝(東京都)
2026/02/05 (木) ~ 2026/02/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/02/08 (日) 12:00
前回2024年夏のこの作品上演とは、かなり雰囲気が違うような気がする。千秋楽のこの日、雪の中を劇場へ行き、team海を鑑賞した。
舞台は1920年代から1970年代にかけてのイギリスの精神病院。過度に男性的なふるまいをしたとして「触法的精神異常」を理由に収監されたドーラのもとに、不義の子を出産した「罪」を問われたペルセポネーが収容されてくるところから始まる。二人が意思疎通できる時間は風呂と階段の掃除をする1時間だけ。いつ終わるとも知れない収監による絶望と孤独。性格や考え方などが全く違う二人だが、支え合うようにして年を重ねていく。
自分を何とか保たせようとするためだろうか、二人が行うさまざまな行動の中で、タイトルにあるエアスイミングは特徴的だ。監獄と同様な日も差さない狭い空間に閉じ込められている二人が、想像の世界の海で自由に泳ぎ回る。前回の演出もそうだったのかは記憶のかなたなのだが、パステルカラーの照明の効果で夢のような空間が現出される。今作では、光と影、照明の多彩な色を駆使した演出が非常に印象に残った。
ドーラを演じたましろうみが素晴らしい。2時間を超える上演時間を2人だけで引っ張っていく非常に厳しい環境で、ドーラが夢想する軍隊でのふるまいなど難しい役柄を演じきった。セリフをかむ場面が複数あって惜しかったが、特にドーラの存在感が際立っていた。お見事と言いたい。
この台本はある意味、「イロドリノハナ」らしさが全開で客席に迫ってくる作品なのだろう。基本的に明るいトーンで進む舞台だが、究極の人権侵害の世界でたくましく生き抜いた二人の女性の潔さが、客席を悲しみと悔しさで包み込むようだった。

宝島
Project Nyx
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2026/02/06 (金) ~ 2026/02/15 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/02/07 (土) 14:00
座席1階
寺山修司のトリビュート演劇。ニクス主宰の水島カンナが寺山役などで登場する。寺山の映像をふんだんに使い、随所に寺山の短歌を配してそのメッセージを伝えている。2014年の前回舞台から大きくリニューアルし、まったく新しい「大人が楽しめるメルヘン」に仕上がっている。
船乗りになりたいと思いながらもなかなか外に出る勇気を持てないでいた少年が、周囲のユニークな大人たちの助けで宝島を探して冒険に出る。演劇集団円が子どもシアターとして取り上げた舞台を水島が見て、ニクスの美女劇に仕上げて上演。今作はこれをさらにブラッシュアップして、(強制的)観客参加型でおおいに楽しめる。
メルヘンではあるが、なんといっても見どころはニクスの真髄であるアングラ的な歌と踊り。あちこちにおやっと感じる魅力的な仕掛けがなされているのは、演出の金守珍の鋭いところだ。また、二クスの舞台を音楽から彩る「黒色すみれ」の歌と演奏は今回も素晴らしい。コスチュームも舞台での動きも登場人物たちと同列に扱われていて、まさにこの二人がいなかったら舞台は成立しないと言ってよい。
二クスのニューヨーク遠征「青ひげ公の城」で活躍した伊藤さやかが、インターミッションの物販宣伝からポストトークの司会まで、舞台にとどまらない大活躍。流れるような英語を織り交ぜて客席を引っ張った。客席が参加する仕掛けは詳しくはここでは書かないが、子どもから大人まで絶対に楽しめること請け合いだ。
ポストトークで明かされた、二クスの今後の海外進出の構想。ロンドン、そしてパリ・アビニョン。特にアビニョンは世界的演劇祭が行われる場所で、ここで日本の女性劇団による日本独特のアングラ劇が行われるというのは画期的。ニューヨークでの成功をステップにして、アングラ劇が世界に羽ばたいていくと思うとワクワクする。

「わたしの町」
TRASHMASTERS
新宿シアタートップス(東京都)
2026/01/29 (木) ~ 2026/02/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/02/01 (日) 14:00
座席1階
トラッシュが今回取り上げたのテーマは、過疎の町の再生。とりたてて特徴がなく、若者が流出するばかりの人口減少の町に、どう若者たちを定着させるのか。また、町外からの移住者をどう呼び込むのか。新しいテーマではないが、世代を超えた登場人物たちの群像劇を柱に据えることで、3時間近くの長編であることを忘れるくらいの見事な仕上がりとなっている。
北海道の海辺の街。産業は漁業、農業、林業という一次産業で、どれも後継者不足で若者は出ていくばかり。地元高校の閉校が持ち上がり、子どもたちを巻き込んだまちづくりに向けて、大人たちの試行錯誤が始まる。
実際に取材を重ねたとあって、登場人物の設定やエピソードはリアリティにあふれている。前半は教育現場が舞台。地元の子向けの農業などの体験ツアーが大失敗に終わったり、新しい取り組みを忌避する教育幹部の場面など、いかにもと思わせる。「若者が出ていくのは学校教育でなく社会のせいだ」と叫ぶ先生に、いつもの大人的思考を見せつけられる。
舞台の特徴は、休憩を挟んで時の流れをくっきりとさせたこと。前編で町おこしに参加した子どもたちが大人になり、町の将来をデザインしていく。苦労してまいたタネが少しずつ花開いていく。
後ろ向きになりがちなテーマだが、物語は常に前向きだ。これはけして過疎地だけの話ではない。人口減少社会の日本各地に対する、大いなるエールだ。見終わって勇気が湧いてくる、とてもいい仕上がりだった。

西のメリーゴーランド
万能グローブ ガラパゴスダイナモス
駅前劇場(東京都)
2025/12/25 (木) ~ 2025/12/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/28 (日) 13:00
座席1階
今年最後の演劇鑑賞は、東京公演千秋楽の今作。福岡が拠点というガラパゴスダイナモスを見るのはもちろん初めてだったが、今年見た何十本の舞台で、間違いなくベスト5に入る出色の出来だった。見ないと損するぞとお勧めしたいのだが、不覚にも今日が千秋楽だった。
開演前の舞台を見ると、ふすまの形が不自然でなんだろうと思う。これが実は物語の重要なアイテムだった。祖父が亡くなって喪服姿で居間のテーブルにいる、母と娘とおぼしき女性。通夜か葬式前の会話が交わされ、その中で亡くなった祖父の友達だった魚屋のじいさんが届けた刺身を家族らが食べたことが明かされる。ここから、物語は思いもかけない方向へと回転する。
現世と来世。魂と肉体。来世で何かに生まれ変わるというなかでのシチュエーションコメディで、爆笑ポイントが散りばめられている。だが、この舞台は単なる爆笑ドタバタ喜劇ではない。家族の複雑なヒストリーを織り込んだ人間物語であり、家族の素敵さが伝わるヒューマンストーリーなのだ。
見事だったのは、物語の進行で散りばめられた多彩なプロットであり、プロットの回収の仕方だ。客席が想像もつかない展開、スピーディーで軽やかな進行。これは見事としか言葉が思いつかない台本であり、演出だ。演劇だからこそできる素晴らしい100分の体験だった。
終幕後、ほとんどの人が立ち上がらす感想を書いていた。こんな光景を初めて見た。また、シモキタで観たい! 次作に心から期待してます。

養生
ゆうめい
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2025/12/19 (金) ~ 2025/12/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/27 (土) 18:00
座席1階
巨大な脚立、床と背景にある多量の養生テープ。客席への入場は養生テープの舞台裏をぐるりと回って入る。舞台の体感は既にここから始まっている。
デパートやショッピングモールのショーケースなどに見られる大きな展示、作品撤去などのアルバイトは美大生が駆り出されるという。それはとんでもないブラック職場だそうで、舞台はそのバイトの状況から始まる。クリスマス展示が一夜にして正月仕様になるように、作業は時間との勝負だ。こんな職場環境で、主人公の2人はバイトから社員になり、家族を持つなど人生の歩みを進める。物語は、ままならない人生軸が折れたり、曲がったり。生き物のように動く巨大脚立が大いなるメタファーとなって客席に迫ってくる。
登場する役者は3人だけ。脚立と養生テープ、マネキンだけのシンプルな舞台だが迫力がある。暗闇のなかで大小の光をうまく操る演出の効果は大きいが、役者の力もなかなかだ。クライマックスの歌唱には本当に引き込まれる。心の叫びをそのままメロディに被せたシーンは出色だ。
KAATの大きなスペースで、壮大さもまとっている。ある種の不条理の世界感を味わえる。主人公に自分を重ねて身を震わせてしまう。そんな演劇体験を演出する「脚立ワーク」には注目だ。

泣き虫なまいき石川啄木
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2025/12/05 (金) ~ 2025/12/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/21 (日) 13:00
座席1階
何年かぶりの再演で、初めてこの作品を拝見した。タイトルにあるような石川啄木に焦点を絞った戯曲ではなく、その家族や友人の群像劇。「一握の砂」など庶民の生活や心を描いた歌人の人生に関わった人たちの人間物語だ。
あくまで啄木の物語だから周囲の人たちは脇役ということになるが、どの役者も素晴らしい存在感である。なかでもこまつ座にたびたび出る山西惇は出色の出来。啄木の父で、酒に溺れ赤貧の家族の貴重な着物まで質入れしてしまう禅宗の坊主という役どころだが、とんでもない男なのになぜか憎めないキャラクターを演じ切っている。
ほぼ全員が二役で、その味わいもいい。物語に大きな起伏があるわけでなく、舞台はほぼ一貫して啄木一家が暮らした東京の下宿で展開されるが、休憩を挟んで3時間飽きることはない。脚本に力がみなぎっているだけでなく、役者たちの力の結集が大きい。こまつ座の舞台のなかでも、とてもいい座組だったと思う。再度のカーテンコール、スタンディングオベーションはむべなるかな、だ。
ただ、舞台転換の暗転が少し長いのが難点。少し間延びする時間があったのは惜しまれる。

舞台「1995117546」
シーエイティプロデュース
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2025/12/18 (木) ~ 2025/12/27 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/12/20 (土) 13:00
座席1階
タイトルは、30年前の阪神大震災の発生日・時刻だ。この名の通り、舞台は作・演出のウォーリー木下の体験を創造性の高い舞台作品として昇華させるという試みになっている。あの地震を目撃した日本国民なら、友人・知人の体験談やあるいは本人・家族の被災体験などでそれぞれの物語が強烈に胸に息づいているはずだ。本作はこうした個人的な体験を映し出すかのような異例の取り組みともいえる。
開演前の舞台は、いかにも震災直後のがれきの山という舞台美術になっている。ここで、震災に直面した人たちの複数の物語が進行する。特に、字幕などの映像表現も交えた演出はとてもビジュアル的で分かりやすい。特に、地震前後の時間経緯、あるいは震災の何年か前の人間関係などとても立体的に表現されているのが新鮮な感じがする。
あの時、倒壊した建物の下敷きになり、時間経緯で助からなかった人たちは多い。そうした立場に置かれた人や、通りがかった人たちの行動など、当時を少しながらも知る身としては「そんな人間物語もあっただろうな」と容易に想像できる。架空の物語なのだがリアリティーを持って迫ってくるのはきっと、演出の妙もあるだろうが、6000人余の犠牲者が出た大震災に影響を受けた命一つ一つに注がれた作家の視線があるからだと思う。
強烈な光を用いた発災時の表現には若干の違和感があるが(地震はまだ暗い時刻に起きたというイメージがあるので)、それは受け取り方の問題かも。それよりも締めくくりに使われた言葉が心に残る。客席は30年前の震災を知らないか、覚えていない世代も多くいて、そういう人たちが阪神大震災をどのように受け継いだのか、とても興味深い。

Downstate
稲葉賀恵 一川華 ポウジュ
駅前劇場(東京都)
2025/12/11 (木) ~ 2025/12/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/14 (日) 18:30
座席1階
性犯罪者が共同生活を送る米国のグループホームが舞台。ブルース・ノリスの作品、日本初演という。
性犯罪に厳しい印象がある国。犯罪の代償として人権がかなり制限された暮らしのようにみえる。そこで車椅子生活を送る老人を、子ども時代に被害をを受けた男が妻とともに訪ねてくるところから始まる。
休憩を挟んで3時間の長尺だ。一幕はあっさり終わってしまう感じだが、圧巻は二幕の後半。十分に反省し申し訳なかったという姿勢で応対し続けていた老人だが、男が認めるよう迫ったある事柄に対しては抵抗する。
これは復讐劇なのだろうか、それとも。法廷で事実関係は裁かれているはずだが、被害者にはけして消えないトラウマがやけどのように残っている。それは加害者が負うべき責任なのだろうが、描かれている物語を見ると単純には考えられない。
罪を憎んで人を憎まずという。だが、それが空虚に響くという得難い体験を、この舞台は用意してくれた。秀作だ。

請願
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2025/12/03 (水) ~ 2025/12/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/12/14 (日) 14:00
座席1階
笑いが絶えないカトケンではなく、約2時間の間、長年連れ添った老夫婦の人生、時間、空間などを濃密な2人芝居で楽しめる。見事な舞台だった。
基本的に音楽も効果音もない。舞台に響くのは加藤健一の増子倭文江の2人の会話だけだ。緊張感が漂うが、強烈なものでない。それは、場面設定がいつもの日常に置かれているからだ。物語の起伏は会話の中で起きる。
物語の鍵を握る人物は他にもいるが、舞台には登場しない。客席はその人間関係を想像しながら舞台を見入る。その想像をスムーズにさせる加藤と増子のしっとりとした空気感はさすがである。
加藤は英国陸軍No.2まで出世した退役軍人。その妻である増子が、核兵器先制使用に反対の請願に署名をする。夫は新聞でその記事を見て激怒するが、妻の名を記事に認めて仰天する。物語はそこから始まるが、主な流れは夫婦のプライベートな出来事が中心だ。
起伏は大きくないのがいつものカトケンと違うのだが、今回は2人のベテラン俳優の円熟の演技に浸かりたい。舞台を終えて、さすがだなというため息が出てしまった。
途中休憩があったのはきっと役者2人の負担緩和のためだろうが、できれば通しで堪能したかった。

きみがすきな日と
ゴジゲン
ザ・スズナリ(東京都)
2025/11/26 (水) ~ 2025/12/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/12/06 (土) 19:00
座席1階
ショッピングモールに侵食されかかっている商店街の年に一度の夏祭り。そこで、若手の商店主らが集まって人形劇の練習をしている。今回が最後かもしれないという状況で、出演メンバーの中で問題が発生する。
登場人物の言葉、思い、さらに心の中の言葉のやりとりというか。そんな会話劇は面白くもあり、感覚で受け止めるしかないという感じもする。言いたくても言えないこと、言ってはいけないと思うが言わなければならないこと。90分の舞台では、人形による会話も含めて頭の中をくるくる回転するような感覚だった。
笑いを取ろうとする部分もあるが、舞台上の言葉たちに複雑な思いが込められた空気が漂い続け、素直に笑えない感じ。そういったところがポイントなのかも。ストレートに言いたいのに口にすると全然雰囲気が変わってしまう。まともに受け止めていくと、結構疲れてしまうかも。
ゴジゲンの舞台は初めて見た。今回が20回公演という。どんな舞台を作ってきたのか、知りたくなってきた。

交差点のプテラノドン
演劇集団 Ring-Bong
座・高円寺1(東京都)
2025/12/03 (水) ~ 2025/12/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/12/06 (土) 13:00
座席1階
子育てやシングルマザーなどの社会的テーマを取り上げてきた山谷典子の新作。今回は産婦人科医院の家族を舞台にして、特別養子縁組などについて語られる。
実の親子関係を切って、赤ちゃんを迎え入れた父母と法的に親子関係となる特別養子縁組。子を産み育てることの負担、授かった命の重さ、不妊治療を繰り返しても妊娠できない苦悩など、多くのテーマが交錯する。産婦人科を運営し特別養子縁組にも積極的に取り組んでいた院長である父親が急死したところから舞台は始まるが、その3人の子のうち2人までが医者で一人は産婦人科の勤務医という設定。しかし、親子の医療に対する考え方は実は大きく異なっている。ここに、家族の個人的な事件が絡んでくる。そのほかの登場人物も含めて複数の物語が進行するのだが、演出の藤井ごうがうまく舞台を操ってみせている。
約2時間の舞台で、少し間延びした空間があるのが気になった。本筋とはまったく関係ないエピソードがあるのは悪くないが、自分にとっては少し肩透かしな感じがした。だが、特別養子縁組という難しいテーマに真正面から切り込んでいった劇作はとてもよかった。

一九一四大非常
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2025/11/25 (火) ~ 2025/12/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/11/30 (日) 13:00
座席1階
壮絶、苛烈な演劇だ。桟敷童子による九州の炭鉱を舞台にした傑作は多いが、その迫力や鬼気迫る俳優陣の演技、そして苦しさをまとった人間関係など、たぶん最高傑作と言えるのではないか。
「非常」というのは炭鉱事故のことで、大非常だから大事故という意味。舞台は福岡県方城町の方城炭鉱。運営会社の三菱炭鉱が発表した死者数は667人だが、当時炭鉱労働者は鉱山周辺にある多数の派遣企業から出されたり、身元がはっきりしない人たちも多く集まっていて、犠牲者数は1000人を超えるともされる。会社側が閉山を恐れて発表した死者数を絞ったと舞台では描かれている。多くの遺体は今も地下に埋もれたまま。冒頭、骨をはむという情景が描かれるのは、死者の尊厳や存在への強烈なレクイエムとして象徴的なシーンだ。
顔も腕も足も石炭で真っ黒に汚れている。役者たちの姿は、冒頭からかなりの迫力がある。多くの人間ドラマが約2時間の舞台に詰め込まれているが、やはり出色はもりちえ演じる坑内奥深くから脱出できたたった一人の女性炭鉱労働者だ。桟敷童子の看板である彼女の存在はゆるぎないものがあるが、今作ではその重み強烈に発揮されている。
桟敷童子の看板である舞台美術は今回、派手さはないもののお約束の出来栄えだ。特徴的な演出が各所に見られ、感動する。
この演目は見ないと損する。価値ある一作だ。

THIS HOUSE
JACROW
新宿シアタートップス(東京都)
2025/11/19 (水) ~ 2025/11/25 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/11/24 (月) 14:00
座席1階
政治をテーマにした劇では最早、右に出る者はないと思われるJACROW。今回、主宰の中村ノブアキが挑戦したのは初の翻訳劇で、座員がジェームズ・グレアムの作品を翻訳した。休憩を挟んで3時間を超える大作だが、JACROWお馴染みの俳優たちによる迫力ある熱演に時間を感じさせない。
舞台は労働党政権の英国議会。ビッグベンの大時計を模した舞台美術が効果的だ。2大政党が多数を得られないハング・パーラメント(宙吊り議会)で、与党の法案を通すための多数派工作など議会の舞台裏を描いている。
田中角栄のシリーズでも政争劇をリアルに展開したこの劇団の得意技。同じ多数派工作でも、英国議会の歴史と伝統を織り交ぜた慣習が示され、とても勉強になった。2大政党が病欠など欠員数を「ユージュアル・チャネル」と呼ばれる場で調整するなど、なるほど伝統の英国議会はこうなのかと何回も感嘆した。議場を閉鎖して中にいる議員だけで採決するのは日本も同じだが、興味のない法案採決には出てこない議員がいるからあの手この手で引っ張ってくるというのは面白かった。数の論理で政治が動くさまをリアルに体験できる。
2大政党の議員だけでもかなりの数に上り、シアタートップスの最前列を俳優の待機場所にしているが、これが客席との一体感を生む迫力を醸し出している。2大政党両党の院内幹事室の舞台転換も、照明が当たらない方の俳優をストップモーションにしてすばやく切り替えるなど、なかなか切れのいい演出だ。
一つだけ物足りなかったのは、数多く出てくる対決法案の具体的中身だ。日本人向けの舞台だから法案の名前だけでなく、もう少し背景を説明してもよかったのではないか。例えば社会保障法案にしても、労働党政権が出した法案がどんなものだったのか、保守党はどこがまずいとして反対したのか、単なる政争劇でなく当時の英国の社会情勢を理解できる助けになったと思うのだが。少しの説明でよいので加えてほしかった。
鉄の女・サッチャー政権前夜の内閣不信任案可決までを追った舞台だが、納得感が得られるのはラストシーンの字幕だ。演出家の意図を十分に感じ、同意することができる。次回作にも大いに期待!

『人の香り』『他人』
Pカンパニー
西池袋・スタジオP(東京都)
2025/11/20 (木) ~ 2025/11/26 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/11/02 (日) 19:00
座席1階
Pカンパニーに初登場という気鋭の劇作家、竹田モモコの「他人」を見た。結論から言うと、非常に面白い。特にラスト10分間の展開は見逃せない。現実と理想のはざまで揺れる登場人物たちが現実に絶望を決めた矢先の展開だ。
役者は全員が女性だ。演出もシンプルで分かりやすい。とあるマンションのリビングに最初に登場するのは、この部屋に住む若い女性。ルームメイトの女性が入院したと聞きつけて、彼女の故郷から母親がやってくる。もちろん、他意はなく娘の着替えなどを病院に持っていくのが目的だが「病院周辺のホテルが満室で、この部屋が病院に近いからここにいる間は止めてほしい」と母親は言う。その申し出に狼狽したのは部屋の主。ルームメイトとの本当の関係は実は、秘密だったからだ。
竹田モモコのうまいところは、突然の闖入者に最終的な物語を動かす力を与えたところだ。この母親は娘の都会での生活をチェックしようという意図など何もない。だが、そのストレートな「いい人」が一番最も近い親族でありながら「他人」のようなクールさをもって、二人の同居人の生活に影響を与える。こんな人間関係を構想した竹田のアイデアは、とても演劇的で素晴らしいと思う。iakuの横山拓也の書く群像劇をほうふつとさせるような展開だった。約1時間半というコンパクトにまとめた切れ味の良い舞台だ。
Pカンパニーの自主公演企画と銘打っている。Pカンパニーの「罪と罰」シリーズもすごいのだが、竹田モモコを呼んできて行った演劇的冒険は、見事に成功している。今シリーズのもう一作は、やはり力のある石原燃が書いている。これも楽しみである。

高知パルプ生コン事件
燐光群
「劇」小劇場(東京都)
2025/10/31 (金) ~ 2025/11/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/11/08 (土) 14:00
座席1階
高知市のパルプ工場が引き起こした、廃液による深刻な環境汚染をテーマにした意欲作。タイムリープという演劇しかできない仕掛けを使って、PFASなど現代の汚染問題と共通する視点をわかりやすく提示したのはよかった。
燐光群の舞台らしく、坂手洋二の丁寧な取材ぶりが物語を支えている。勉強不足でこの高知パルプ生コン事件は知らなかったが、罪になることを認めながら、周辺住民への損害を最小限にする計画を立てて実力行使に出たという事実を知った。警備が緩かった当時の時代背景もあるだろうが、このような人たちがいたことを学べたのはよかった。
さらに、事件後の経緯や裁判の行方などもきちんと追ったのはいいと思う。ただ、そのために2時間半という長尺になったということもあるが。燐光群にはありがちだが、もっとシャープな作りにしてくれると客席には優しい演劇となるだろう。
この舞台が示したように、利益追求の企業と行政が住民の生活を破壊する構図は今も同じだ。企業活動は経済的には重要だが、地球を破壊する権利はなく、何より人間や自然の持続可能性を阻害しては元も子もない。このような視点を軽視する米政権とそれに追随する我が国への強烈な意義もうしたてになっている。タイムリーな舞台だった。

ヴェニスの商人CS
サンライズプロモーション東京
光が丘IMAホール(東京都)
2025/11/01 (土) ~ 2025/11/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/11/02 (日) 13:00
座席1階
演出家松崎史也が「普段着でシェイクスピア」をコンセプトに、シェイクスピア作品を脚色・演出して上演してきたシリーズ。今回は「ヴェニスの商人」で、話の骨格やセリフ回しを生かしつつ、あくまで現代日本で上演する作品として世に出したという。「悲劇と喜劇は裏表」ということで、S(シリアス)とC(コメディ)の二つのバージョンで上演。コメディーバージョンを拝見した。
とっつきにくいといわれることもあるシェイクスピアを、楽しく、分かりやすく仕上げている。テンポのいい演出で飽きさせない。こういうタッチなら、会場を埋めた若い女性たちも「別の作品も見てみようかな」という動機づけにつながるかもしれない。
自分が見たのはコメディータッチのバージョンで、随所に笑いを取ってくる場面がある。有名な金、銀、鉛の箱から正しいものを選べば結婚してあげるという場面はなかなかうまいな、と思った。シリアスバージョンはこのあたり、どんな展開だったのだろうか。シャイロックががめついユダヤ人商人として悪役なのだが、この点はかなりストレートに表現されていると思った。
光が丘のショッピングモールに、こんな大きな劇場があるとは恥ずかしながら知らなかった。客席は若い女性を中心にほぼ満席。シェイクスピアでこれだけの人を集めるのはすごいな、と変なところで感動してしまった。

地球クライシスSOS
劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)
サンシャイン劇場(東京都)
2025/10/23 (木) ~ 2025/11/03 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/11/01 (土) 17:00
座席1階
スーパーエキセントリックシアターの本公演だが、今回は劇団員だけで恒例のゲスト出演はなし。もうすぐ結成50年とのことで、劇団員若手作家が三宅裕司や小倉久寛ら「高齢者」団員をリスペクトして書いた本という。
三宅と小倉が元気な限りは続くSETだとは思うが、この劇団もこの2人がいなくなった後の将来を考える時期にきている。SETのテイストをうまく受け継いでいけるかがカギで、今回はその試金石と言えるのかもしれない。
物語は、中山間地の過疎の農村の住民たちを、宇宙人との交渉役に選んだという筋立て。三宅は宇宙人対策というとんでもない事態に右往左往する政府の官房長官役。小倉は、生き物と対話できるという特技を持って無農薬野菜を作る農家のおじさん役だ。今回も時の政府(高市政権)や政治家たちを茶化す場面があるなど、時事問題に即したお笑いがあってよかった。ギャグの切れ味が今一つだと感じていたら、「爆笑を取るな」という謎の指示があったとか。本当だろうか、思い切り笑わせてくれたらよかったのに。
タイトルに「ロウジンジャーズ」とあるのは、現代日本の世代間対立を皮肉っているようであり、劇団内のヒエラルヒーが笑いのネタになったのかも。SETのような激しい歌アリ踊りアリの舞台は、高齢者にはきついと思うが俳優には定年はない。殺陣のシーンなどは思わず応援してしまう。
今回、逆の切れがいつもより鈍いと書いたが、お約束のカーテンコールでのトークも千秋楽近しでは少しネタ切れ? 満点ではないけれど、十分に楽しめた。

蛍の光、窓のイージス
劇団文化座
あうるすぽっと(東京都)
2025/10/17 (金) ~ 2025/10/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/10/19 (日) 14:00
座席1階
さすがに現役高校教師の劇作家畑澤聖悟の台本。リアリティーは抜群で、しかも出身地秋田県が物語の舞台。北朝鮮のミサイルを打ち落とすためだとして2017年、政府が秋田と山口に陸上発射の迎撃ミサイルイージス・アショアの配備を発表した。「学びやから見える美しい海岸線の景観や思い出を台無しにしないで」と女子高生が盛り込んだ卒業式の答辞をめぐる物語。生徒と教師による、職員室を舞台にした群像劇だ。
きっかけは、文化座創設者の佐佐木隆の娘、佐々木愛が差し出した一冊の本だったという。秋田の地元紙・秋田魁新報が菊池寛賞を取るほどの渾身の取材記録で、文化座が畑澤に書下ろしを依頼していた時に提案した。「国防のために政府が決めたこと」という意見も含め、地元の人たちがどんな思いでイージス計画を見つめていたか、卒業式当日午前の動きに凝縮している。
文化座は畑澤の「親の顔を見たい」も上演していて、畑澤への期待度は大きい。文化座ファンも含めた期待に、畑澤は多くの社会的課題を盛り込んで説得力のある戯曲に仕上げた。さまざまな理屈付けによる大人の論理で生徒に迫る場面や、教師が自分の意見を述べてその論理から生徒を守ろうとする場面など、教育現場が抱える問題や現状もストレートに伝わってくる。
そもそも迎撃ミサイルなど百発百中ではない。打ち漏らしもあるから、迎撃のための基地が標的になって破壊される危険性も大きい。また、北朝鮮が太平洋を越えてアメリカを狙ったとして、そのミサイルを打ち落とした日本は当然、戦争に加担したとして報復の対象になるだろう。基地は市街地にある。攻撃されれば多くの人が死ぬ可能性があり、こんな計画を打ち出したということは、国は有事に国民を守らないという証明である。そんな大惨事につながる可能性のある武器に何千億とつぎ込み、アメリカの言い値で購入した政府への皮肉もしっかり盛り込まれていた。
そうした「モノ言う演劇」でありながら、教師と生徒による青春ものとしても楽しめる。多くの生徒が高校卒業後に故郷を離れてしまう中で、地元の大人たちはどう生きていくべきなのかも問いかけている。
ちょい役ではあるものの重要な役柄で、今回も高齢の佐々木愛が舞台に上がっている。「ゴッドマザー」と呼ばれる役だが、現実も文化座のゴッドマザーであるようだ。終演後のアフタートークで、演出の西川信廣が舞台裏を明かしていた。彼も言うように、文化座らしい芝居をどう若い役者たちに受け継いでいくか。この作品を各地の学校で公演してほしい。文句なしでお勧めの舞台だ。

ポニーテールの功罪
劇団銅鑼
銅鑼アトリエ(東京都)
2025/10/17 (金) ~ 2025/10/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/10/18 (土) 18:00
座席1階
絵本を原作として、劇作家山谷典子が脚本を仕上げた。子どもに関する社会問題をテーマとした作品には定評のある山谷によって書かれた物語は、前向きな気持ちで劇場を後にすることができるという劇団銅鑼のテイストで実にコンパクトに、テンポよく仕上がっている。
舞台は西日本のとある高校。進路や人生に悩む3人の女子高生が中心だが、テーマに関する重要人物として駄菓子屋のおっちゃんが登場する。原作にもあるように、おっちゃんは身体は女性だが男性として生きるトランスジェンダー。このおっちゃんが、かつて経験した自らの苦しい思いを背に3人に向き合う。今でこそLGBTQは知られるようになってきたが、登場人物の親たちは恐らく昭和育ち。劇中でも「女の子は短大に行って郵便局に就職し、結婚して暮らすのが最大の幸せ」と言い放つ父親の姿がある。心と体の性が一致しない子どもたちにとっては、まだまだ生きづらい世の中である。今作はこうした現状や思いをストレートに、しかも明るく描いている。
劇団銅鑼の若手俳優がはつらつとしていて楽しい。冒頭とエンディングのダンスは、明らかに同世代の客層を意識したつくりだ。あとで聞けば、これから全国の中学や高校での上演を計画しているという。その熱意を買いたい。
また、山谷の発案というが、冒頭にスクリーンの作品上映前に見られる「映画泥棒」のパクリであるコントが前振りとして出てくる。携帯電話の電源を落として、といういつもの注意喚起なのだが、これがものすごい秀作だ。特に高齢者に多いが、携帯電話の電源を切らずに鞄に入れておき、惨事を引き起こすケースはいくども体験した。劇団側は通常、開演前にアナウンスや役者たちによるアピールとして注意喚起をしているが、効果は限定的。このパクリコントは、なかなかインパクトがある。
タイトルのポニーテールは一つのキーワードだけに表題に据えたのは理解できるが、「功罪」はその通りだとしてもやや硬い。また、東京の劇団だからだろうか、関西弁の切れが今一つだった。だが、秀作と言える前振りコントを加味して☆5つ。

ハハキのアミュレット
(公財)可児市文化芸術振興財団
吉祥寺シアター(東京都)
2025/10/09 (木) ~ 2025/10/15 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/09/07 (日) 14:00
座席1階
横山人情劇の本道を行く作品。笑いあり、少しの涙あり。ほっとした気持ちで劇場を後にすることができるすてきな舞台だ。
ハハキとは箒のことで、舞台は棕櫚(シュロ)の皮の繊維を原料にして作っている老舗。人口減少で活気がなくなりつつある街で、伝統工芸と言ってもよい独特な技法でつくられた箒だが、電気掃除機が当たり前の世の中でなかなか売れない。そこで伝統技能を生かした箒のミニチュアを、神社に祈祷に訪れた人にプレゼントすることなどで町おこしを図る。
主人公は箒製造の女主人だが、跡継ぎを期待されていた兄が東京に出ていったため仕方なく継いだという事情がある。しかも、夫は香港に住んでいて別居生活。長年の箒づくりで重い腱鞘炎を患っているところに、都会から弟子入り希望の有能な若い女性が入社した。物語は、女主人の家族や神社の神主など、地元の人たちの人間関係が交錯しながら展開していく。
過疎化、町おこし、伝統工芸。ちりばめられたキーワードで舞台は社会性の帯びているが、本筋は横山お得意の群像劇。舞台を関西に設定してあり、スムーズな関西弁が舞台に味わいを添えている。
主演の南果歩の奮闘に拍手を送りたい。兄役の平田満は、その勢いに押されたかのように少し影が薄い印象を受けた。サプライズはなく無難にまとまっているところに物足りなさを感じた人もいるかもしれないが、安心して楽しめるというメリットは捨てがたい。各地で地方公演あり。一見の価値ある舞台だ。