かずの観てきた!クチコミ一覧

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底ん処をよろしく

底ん処をよろしく

東京ストーリーテラー

シアターKASSAI(東京都)

2024/04/17 (水) ~ 2024/04/23 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/04/20 (土) 11:00

座席1階

大衆食堂を舞台とした人情劇。予想外の展開もあり、「語り部」らしく作り手の思いがよく伝わってくる秀品だ。

終戦直後の混乱期に先代が始めためし屋。工場開設など戦後の発展と共に繁盛した駅前店だったが、二代目に代わった今は工場も閉鎖され急行も止まらなくなって客数は減り、今や常連で何とかもっているという状態だ。
主人公は店を切り盛りする二代目とその娘だが、常連客一人ひとりに物語がある。最初に登場するのは常連客の板金工で、キャバクラの娘に一目ぼれするところから店は騒がしくなっていく。
常連客同士の関係など、人間模様がクロスオーバーして面白い。ラストは予想外の展開となるが、店が繁盛したあとに、店を支えてきた常連客はどうなってしまうのかという思いは残った。「底ん処」の続編があってもいいかもしれない。
食堂で出される食事は本物で、毎回作るのだとか。こんなところに舞台への思い入れを感じる。

この舞台は再演で、東京ストーリーテラーのファンのハートをつかんでいる。ダブルキャストで演じられるが、土曜のマチネとソワレは両方とも満席という。カーテンコールの拍手は力強く、客席の満足度を物語っていた。

ネタバレBOX

物語の一本の筋は最初に登場するキャバクラ娘だが、実はバツイチで息子がいて、その息子を離婚した金持ちの良家の夫側に取られている、という設定。彼女は結婚前はやんちゃをしていて、そうした家柄の違いから「料理もまともにできないの」などと姑にいびられて追い出されたという。こうした苦難の過去を、惚れた板金工が優しく受け止めて恋仲になるが、最後に良家の夫が登場し「君がいないとダメなんだ」と来た。ここで、キャバクラ娘は「今更そんなことを言うなんて。もう、私は戻れない」と言うかと思ったら、あっさり元のさやに戻って板金工を振ってしまう。
自分的には、それはないだろう、と少しがっかり。純情な板金工が哀れで、彼にこそ幸せになってほしい。
La Mère 母

La Mère 母

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/04/05 (金) ~ 2024/04/29 (月)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/04/12 (金) 14:00

座席1階

心の内外、つまり妄想と現実がクロスオーバーするような筋立て、演出で、舞台から目が離せない迫力ある作品だったが、なにせ後味が悪い。どよーんという重苦しい空気が劇場を包む。それだけ作品にインパクトがあるということだろうが。

父、息子、そして母という家族三部作の一つ。フロリアン・ゼレールの作品で、世界中で上演され映画化もされているという。今回の「母」のテーマはエンプティ・ネスト(空の巣)症候群。家庭の主婦として子どもたちを育て上げ、そればかりに力を注いだ果てに、子どもたちが巣立っていったときの空虚感に心が折れる。仕事ばかりで妻を省みず、さらに浮気までという夫の行状が追い打ちを掛ける。舞台は冒頭から、ほとんど正気ではない妻の状況が展開される。
最初からこのような追い詰められた状態なのだから、これがエスカレートしていけば破局は明白だ。仕事に浮気で忙しいが、そうはいっても妻に視線を少しは向けようとする夫が哀れにも思える。息子を溺愛し、息子の彼女にまで悪態をつく妻は醜悪だ。ラストシーンもさることながら、こうした場面場面にもはや、ため息をつくしかない。だが、そんな筋書きでも目が離せないのは、息をもつかせぬ緊迫感がずっと舞台に張り詰めたままだからだ。
そうした舞台を実現した若村麻由美の演技に拍手を送りたい。最初から最後まで彼女の独壇場である。お見事の一言に尽きる。

テーマはエンプティ・ネストだが、そこに至るまでに既に家庭には修復不能な大きなひびが入っている。息子は自立したいと考えていたようだが、母の溺愛にからめ捕られてしまって身動きが取れない。一直線に破局に向かう前に、何らかの救いの手はさしのべられなかったのか。やはり、後味が悪い。 

東京の恋

東京の恋

劇団道学先生

新宿シアタートップス(東京都)

2024/04/09 (火) ~ 2024/04/15 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/04/11 (木) 14:00

座席1階

100年前、50年前、そして今の東京を舞台にした3本立て。1作目が岸田国士、2作目が別役実という演劇の教科書に出てくる劇作家による原作で、3作目が深井邦彦によるオリジナル。3作目が一番、道学先生らしい舞台で、この一作だけでも十分に見る価値がある。あえて言えば、3作目をもっと作り込んで上演してくれたらいいのに、と思った。

3作目は、亡き妻への忘れ得ぬ思いを描いた作品だが、これがなかなか面白い。妻が亡くなった後父と娘の二人暮らしだったが、いよいよ娘が結婚する。家を出て行くことになり、冷蔵庫から娘が「これ、捨てていい?」と持ってきたタッパーには、妻が生前に作った肉じゃがが入っている。妻が死んでから6年。ずっと捨てられずにいた。なぜなら、食べてしまうと、もう同じものをつくってくれる人がいないから、ということだった。
これだけでも、ちょっとパラノイアかなと思うようなエピソードだが、本作のメーンテーマとなる物語はもっとすごい。ちょっとたそがれ気味で生気がない感じの初老の父を、青山勝がうまく演じている。
自分的にはもう一つの注目が、娘役を桟敷童子の大手忍がやっているところ。いつも、桟敷童子での迫力ある舞台を見ているせいか、今回の物語での役割には少し物足りない感じもした。だが、人間の理解できない行動の裏に隠されている心の動きを描き出している今回の物語は、やっぱり観てよかったと思う。
おまけ、ではないけれど、2作目の別役作品は、かんのひとみのさすがの演技が見られる。お見合いをテーマにした別役の不条理劇を初めて見たが、やっぱりくせになる面白さだ。

夢の泪

夢の泪

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2024/04/06 (土) ~ 2024/04/29 (月)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/04/11 (木) 14:00

座席1階

テーマは先の戦争の戦犯を裁いた東京裁判。国際連盟を脱退した時の外相松岡洋右の弁護団に参加している夫婦が主人公だ。ミュージカル仕立ての二幕もの。

物語の本筋とは関係ないが、ヤミ米を取り締まる日本の経済警察が乗客のリュックに小刀を突き立て、コメが流れ出たら検挙という取り締まりでリュックの中に入れて背負っていた赤ちゃんを刺し殺してしまったのに、「恨むならヤミ米を買っている奴を恨め」と捨てぜりふを残して立ち去った、という小話がとても印象に残った。戦後の混乱期ということもあるが、警察の上から目線、庶民いじめ、責任逃れの「おいこら警察」は今も変わっていない。声高に反戦を唱える部分はこの戯曲にないが、こうした小話一つに井上ひさしの思いが込められていると思う。

あまり仲が良くない弁護士夫婦だが、「この裁判は、どうしてこの国が進路を誤ったのかを記録する大切な裁判」と力説する妻に引っ張られる形で弁護団に加わっていた。だが、松岡洋右の結核が悪化して、弁護団の補佐役は解散の憂き目に。この弁護士事務所を中心に新橋でのヤクザの抗争など多彩なエピソードが盛り込まれる。

桟敷童子の板垣桃子がこまつ座に初参加。桟敷童子のイメージとはまったく違った感じなので、見慣れているファンとしては若干の違和感があった。彼女の良さが生かされていないというのは言いすぎか。半面、夫婦の娘役を務めた瀬戸さおりはせりふも明瞭で歌唱力も高く、とてもいいと思った。主役のラサール石井はさすがの老練さだが、ちょっと疲れている印象も。相方の秋山菜津子は切れもよく、ラサール石井を飲み込んでしまったようだ。

個人的趣味では、ミュージカル仕立てとするより純粋なストレートプレイで見たかった気がする。

花に嵐

花に嵐

東京タンバリン

東京国立博物館九条館(東京都)

2024/04/04 (木) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/04/04 (木) 13:00

座席1階

東京タンバリンがかつてより行っている、和をモチーフとした舞台「わのわ」。今回は講談とのコラボだが、演劇と講談は実は相性が非常によいことが分かる。観劇後はそのまま座って、出演した俳優さんたちがおいしい抹茶と香川県坂出市の「名物かまど」の和菓子を振る舞ってくれる。このような演劇体験は初めてだ。

「わのわ」を見るのは自分は初めて。今回は東京国立博物館の敷地内にある茶室を舞台にして上演された。茶室だから畳敷きで、床の間の絵画も何やら由緒ありそうなものだ(ひょっとして文化財?)。窓から見る桜は満開。いす席と座布団の席を一列ずつ、舞台を挟んで両側に配置し、かたわらには茶の湯を沸かす茶釜が湯気を立てていた。始まる前からこれまでの小劇場観劇とは違ったムードが漂う。
講談を見たことのないお客さんのために、皮切りは講談師の一龍斎貞寿による、易しい解説からスタート。目尻の下がった笑顔がとてもチャーミングな貞寿だが、いざ講釈台を張扇でパパンとたたくと座がキュッと引き締まる。実は今回、舞台の導入部や舞台転換で貞寿がパパンとたたき、舞台の背景を講談調でしゃべるのだ。お客さんはこの軽快な話術に引き込まれ、舞台をしっかり理解することができる。実にいいコラボレーションだ。
物語は由緒ある日本料理店。茶道のたしなみのある主人公の女性は、同窓生の日本料理店社長に請われて従業員に茶道を教えに招かれる。ところが行ってみると、生徒である従業員は一人も来ない。この社長は女性関係が派手で、奥さんが不義を疑い、意地悪をしていたとみられるのだ。
茶室が舞台だから、茶道を教えるというシチュエーションにはぴったり。だが、おもしろいのはやはり、東京タンバリンが得意とする日常的な人間関係が織りなす会話劇だ。驚いたことに畳の上で和服の女性が取っ組み合いのけんかをするシーンも登場する。

俳優は全員が和服。茶室が舞台なのでこれがすごく美しく映る。何の小道具もいらない。お客さんは「日本料理店にある茶室」との設定に違和感なく溶け込んでいく。
講談とのコラボも奏功し、貴重な演劇体験を味わうことができる。もちろん、物語自体も面白い。終演後にお抹茶をいただいたから言うのではないが、見ないと損するかも。

ネタバレBOX

最終盤、「次回作に続く」とにおわせるようなせりふも出た。この物語の続きがあるのかも。
漸近線、重なれ

漸近線、重なれ

EPOCH MAN〈エポックマン〉

新宿シアタートップス(東京都)

2024/04/01 (月) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/04/02 (火) 14:00

座席1階

前作「我ら宇宙の塵」が非常に面白く、小沢道成という才能を知る。今作は古くからの友人というか、知り合いである俳優の一色洋平との2人芝居。劇場に入ると客席をかなり前まで伸ばした先にある舞台はあちこちに窓がついた斜めの板。結論から言うと、この斜めの板をうまく使うなど秀逸な舞台美術が客席を魅了する。

タイトルの漸近線とは、限りなく近づいていくがけして交わることはない2本の線を指す。最初に一番手前の窓を開けて登場する一色が、新たにこのアパートに入居するところから始まる。あちこちの窓は、他の入居者たちだ。ただ、漸近線のもう片方は入居者ではなく、遠く離れた故郷から出てきた一色の高校時代の友人である。2人の関係だけでなく、漸近線は故郷と都会などというけして交わらない関係をうまく描き出している。
後段で出てくる音楽シーンがすばらしい。詳しくはかけないが、一色の歌声や楽器演奏に客席は引きつけられていく。選ばれた言葉を紡いでいくモノローグや会話は、この舞台の核心だ。大きな悲劇が語られるわけではないのに、客席のあちこちですすり泣きが漏れた。

小劇場ならではの迫力も十分だ。この舞台は面白い。見ないと損するかも。

須く(すべからく)、一歩進む

須く(すべからく)、一歩進む

LiveUpCapsules

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/03/31 (日) 13:00

座席1階

まだビタミンが発見されていなかった明治初期、当時海軍で大流行していた脚気(かっけ)予防に力を尽くした軍医高木兼寛の物語。

ウイルスを発見したと称するエビデンスを示し、脚気が伝染病であるという陸軍軍医と対立。軍艦の長期航路を利用した疫学的調査で、麦飯を食べている軍艦の乗組員に脚気が激減したという事実で対抗した。「日本疫学の父」とも呼ばれる業績で、舞台でもメーンの出来事として取り上げられている。
ドイツ医学に染まって固執する陸軍と、割と自由な雰囲気で患者に向き合う医療を進める海軍。両者の対立は太平洋戦争の終結の時まで深刻な多大な犠牲を生むことになるのだが、その萌芽ともいうべき医学的な対立だ。森林太郎(森鷗外)がごりごりのドイツ医学信奉者として描かれているのは面白かった。
この舞台では終盤に、取り上げたエピソードが現代にも生きる教訓であると説いてる。それもそうだとは言えるが、結局は陸海の軍人さんのメンツばかりを重んじる情けない対立だ。その対立の犠牲になって死ななくてもいい人を多数、死なせてしまったのである。もっとも、戦術の誤りとか政治的な欠陥とか、日本を戦争に導いた軍部・政治のお偉方の方こそ多大な犠牲者を生んだ元凶なのだが。

客席を二つに割って中央に舞台をつくり、役者が回転して歩くことで舞台転換などを表現するという秀逸なアイデアの演出。舞台が冗漫になるのを防ぎ、テンポよく引き締めている。ただ、比較的大きな劇場なので、役者のせりふが聞き取りづらい場面が多々あった。小劇場ならこういうことはないのかもしれないが、惜しいと思う。
横須賀海軍カレーは有名だが、高木兼寛が紹介したというエピソードも出てくる。いろんなことを教えてくれる舞台である。

行ったり来たり

行ったり来たり

東京演劇アンサンブル

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/03/29 (金) 14:00

座席1階

二つの国の間を流れる川に橋が架かっている。この国境の橋が舞台だ。国籍とは何か、外国籍の人を排除する入管行政とは。日本でも社会問題になっていることを考えることができるミュージカル仕立ての演劇だ。

左岸の国で育った男性が経営するドラッグストアが破綻し、生活保護を受ける身となった。しかし、彼の国籍は右岸の国だったことが判明し、右岸の国へ退去命令が出る。橋を渡って右岸の国の入管で、以前に行われた法改正で申請のなかった外国滞在者の国籍は抹消されたということで、追い返される。橋の上を行ったり来たりする男性。だが、橋にやってくる両国の市民とのかかわりが、彼の人生を変えていく。

原作はドイツ語圏で活躍した劇作家ホルヴァート。川を挟んで国が接する欧州ならではの作品だが、日本とて「対岸の火事」ではない。外国がルーツの人なくしては日本社会は動かないのが現実なのに、少し問題があればすぐ入管という「監獄」に収容し、国外に追放する。技能実習制度をリニューアルしたものの、基本的には日本に従順でない外国人は追い返す姿勢は変わっていない。外国人というだけで人権が制限されるような国に誰が仕事に来たいと思うだろうか。そういう現実を、この舞台では考えることができる。

行ったり来たりしながら人生が変わっていくという物語は、とても発想がユニークだ。音楽劇としたところも成功している。

シングルファザーになりまして。

シングルファザーになりまして。

演劇集団 Ring-Bong

座・高円寺1(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/03/28 (木) 14:00

座席1階

60歳の人気飲食店経営者が20歳以上も年が離れた女性と結婚。しかし、女性は生後3ヵ月の女の子と離婚届を残して蒸発してしまった。と、コリッチの宣伝文にも書いてあるようなシチュエーションで高齢シングルファザーは誕生する。だが、面白いのはここからだ。夜遅くまで働くパパやママの強い味方となっている夜間開業保育所の保育士、パパやママたちの人間関係やその人生を織り込んだ舞台に目が離せなくなる。

劇作家の山谷典子も子育て中ということで、リアリティーの高い舞台だ。しかし、そのリアリティーは綿密な取材に裏付けられている。夜間開業保育所(これは相当クオリティーの高い保育所なのだが)や、どんな人たちが子どもを預けているのかなど、きっちりネタを仕込んできたようだ。以前見たヤングケアラーの舞台よりも面白さはアップしていると思う。
シングルファザーを60代の昭和おじさんに設定したところが成功している。男は仕事にまい進し、配偶者の女性に育児を丸投げという昭和テイストは、離婚を突きつけた妻や周囲の女性たちに見事に打ち砕かれる。ただ、このおじさんの別の娘、既に中年の域に達しているのだが、この娘はおむつ替えや授乳などをお父さんにたたき込みながらも、「やはり小さいうちは母親が尽きっきりで育てるのが子どものため」という昭和の子育てに味方してくれる。この点もバランスが取れていていい。
クオリティーが高いと書いたのは、この保育所があくまで子どもを預けるパパママに寄り添い、その人生の一部を「業務外」のところまで踏み込んで支えるなど献身的なところだからだ。夜間保育所は子どもに晩ご飯を食べさせるが、お風呂まで入れてくれるなんて、当たり前ではない。
世の中変わってきたとはいえ、まだまだ子育てが女性に偏重となっている現状や、子どもが生まれてキャリアを断念する女性の姿も登場する。また、法改正で可能になろうとしている共同親権にも触れられている。
果たして、この60歳パパと娘の運命やいかに。あとは劇場で。間違いなく面白いので、お見逃しなく。

ただ、舞台転換にはもう一工夫ほしい。緊迫した場面が少し途切れるようなところがあった。

繭の家

繭の家

タテヨコ企画

シアター風姿花伝(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/03/27 (水) 19:00

座席1階

以前から見たかった劇団。しかも今回、ひきこもり支援がテーマということで期待して劇場に向かった。主人公は、ひきこもり支援の事業所の女性支援員と、市役所生活福祉課の入庁直後の新人女性だ。
モデルとなった事件がある程度、想像できる。エリート中央官僚の父とその威圧的態度に従うしかない母と3人暮らしのひきこもり中年男性。父親が無理やり息子を入所させたのは、もう忘れられているかもしれないが、戸塚ヨットスクールがモデルだ。
もう一つは、世の中のあちこちにある8050問題でごみ屋敷になってしまった高齢の母親と中年の娘。近所からの苦情で、2人の女性が訪問をする。

ごみ屋敷に入っていく状況などはリアルで、よく取材されていると思う。新人の市役所職員が「すぐに働けるようになりますよ」と安易に声かけして事業所のベテラン支援員にしかられるところなどは、かなり「あるある」だ。市役所の担当課のことなかれも、しっかり描かれていてうなづける。

実際の支援の現場はこの舞台よりも苛烈で、数回の訪問で解決するものではないと思う。でも、そうだからこそ、舞台のラストシーンは明るくてよかった。

マクベスの妻と呼ばれた女

マクベスの妻と呼ばれた女

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

青年劇場スタジオ結(YUI) (東京都)

2024/03/19 (火) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/03/21 (木) 14:00

座席1階

マクベス夫人とその取り巻きの女性と、そこにお仕えする女中たちの物語。タイトルにある「マクベスの妻と呼ばれた」はつまり、名前があるにもかかわらずその個性を自ら打ち消し、妻としての務めを果たして生きるということを表している。舞台では、女中たちが「そうではないだろう。あなたの人生を生きて」と敢然と挑戦していく。

原作は篠原久美子、演出は文学座の五戸真理枝。そして舞台に登場するのは女性ばかり。ジェンダー平等が叫ばれる現代とは社会の意識がまったく異なるが、まだまだジェンダー平等とはほど遠い現代社会への鋭い告発とも言える作品だ。
女中たちは非常に個性豊かなメンバー。子どもを産めないと蔑まれたり、男性優位、男性が支配する世の中で子どものころから辛酸をなめてきた。自分らしく生きたいという思いがほとばしるように輝く演技はすばらしかった。
もう一つ、女中たちがいろいろ画策した理由に、「いくさを止めたい」という狙いがある。戦乱が当たり前だった時代だが、何とかして戦争が起きないように政治に裏から関与していくという筋立てを前面に出したのは、青年劇場らしい舞台だ。
女性たちの演技ははつらつとしていて見事だった。発語も明瞭で、分かりやすい。高齢者が多い客席にはとても優しい舞台だったと思う。

オセロの横顔

オセロの横顔

Pカンパニー

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/03/13 (水) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/03/17 (日) 14:00

座席1階

白黒を法的に決定する裁判の物語。白黒というところをオセロに例え、白と黒がいとも簡単にひっくり返ったり、白と黒の間は非常に薄っぺらであるという現実を描いた。非常に練り込んだストーリーで、客席を飽きさせない展開だった。

新人の若い女性弁護士が女性被告人の弁護を担当することになった。女性は刃物で勤務先の社長の腹部を切り付けたとして傷害罪に問われている。接見を重ねるうちに、「正社員に取り上げるから」と酒席に臨んだ女性が泥酔させられ、乱暴されたという隠れた事実を知る。さらに、事件のあった時、社長が背後から「君のことばかり考えていた」と迫ってきて、包丁を使って調理をしていた女性がそれを振りほどこうとして振り向きざまに切りつけてしまったということも分かる。
女性は刑事弁護のベテランと言われていた事務所の男性所長に協力を依頼するが、所長は乗り気でない。所長はある事件をきっかけに刑事弁護から離れていたのだ。

テーマはえん罪だ。起訴されれば99%は有罪という日本の司法だが、供述に頼った捜査や、被告人に有利な証拠は出さないという検察のあり方が問題とされている。この舞台でも同様なことがエピソードとして登場する。所長はかつて、連続殺人事件の弁護で無罪を勝ち取るなど輝かしい実績があるのだが、黒が白になり、また黒になるという展開にほんろうされてきたことも分かってきて、こうした展開にも客席はのめり込んでいく。
Pカンパニーの罪と罰シリーズ(今作は11作目)は、非常に練度の高い物語を劇作家たちが編みだしているからいつも劇場に行きたくなる。今作は依頼を受けた山谷典子が裁判取材など下準備を重ねて書いたという。語弊があるかもしれないが、彼女が近年書いている家族の物語より、個人的には今回のような法廷劇の方がいいと思った。

だから欲を言えば、もっと法廷の場面が出てくるとよかった。女性弁護士と所長の弁護士の葛藤を中心に描かれているので仕方がないのかもしれないが。また、傍聴マニアという存在を登場させてうまく刑事裁判の「あるある」を小出しにしていたのはとてもよかった。

ネタバレBOX

終幕後、女性被疑者が有罪となって終わるという結末に「期待が外れた」と話しているおじさんがいた。確かにいろんな意見は出てくるだろうが、終幕直後にこうした会話が交わされてお客が劇場を後にするというのは、面白い舞台であったという証拠である。
『人形の家』激論版/疾走版

『人形の家』激論版/疾走版

アマヤドリ

シアター風姿花伝(東京都)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/03/15 (金) 14:00

イプセンの「人形の家」を2通りの解釈で現代風に上演するという企画。自分が見たのは「疾走版」で、異色の舞台を楽しませてもらった。

異色というのはまず、場面(登場人物のせりふ)のリピートがダイナミックな舞台の動きと共に展開されることだ。何回も同じ対話が繰り返されるから、理解が進むという効果がある。男の俳優が話すせりふを女の俳優と入れ替えて話す場面もあり、発想は極めてユニークだ。また、切れのいいダンスが展開され、舞台を引き締めている。男性4人、女性6人の構成だが、主人公の女性ノーラのせりふも入れ替わり、違う女優がしゃべったりする。人形の家をモチーフに、大胆な発想を取り入れた創作劇という趣だ。

ノーラは亭主と3人の子を置いて家を出ようとする。亭主は愛がなくなったなどと言うノーラを懸命に引き留めようとするが、「私はあなたを解放するし、私も解放する」と去って行こうとする。これは、男性社会で家事や育児に閉じ込められてきた女性の異議申し立てなのだが、原作が書かれた当時とは大きく社会が異なっている現代ではまた、別の見方ができる。さまざまな見方があると思うが、それは客席の一人ひとりの受け止めにもよるだろう。そういう展開になるところがこの舞台のおもしろさでもある。

ビートルズの「オブラディ・オブラダ」に乗ったダンスが展開されたのには少し、度肝を抜かれた。なぜ、この曲が選ばれたのかはとても興味深い。演出の広田淳一に聞いてみたいところだ。

ご長寿ねばねばランド

ご長寿ねばねばランド

劇団扉座

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/02/29 (木) ~ 2024/03/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/03/02 (土) 18:00

座席1階

劇団扉座がプロデュースしているシニア劇団、初の本格公演。かつて本家の扉座が初演した演目を、元演劇初心者も含むメンバーが取り組んだ。A,B両チームのうち、自分はAチームを拝見した。

結論から言うと、相当なレベルに達していると思われる。創設から5年、精進を重ねてきた成果が花開いている。ちょっと緩いところはないとは言わないが、せりふに詰まったと思われる場面はそれほどなく、ましてやせりふが飛んだというところもなさそうだ。それぞれ、ある程度の分量のせりふをしっかり身に着けていて、前口上で登壇した4人が語る「覚えては忘れ、忘れては覚える」という毎日だったのだと思う。

舞台はとある南のリゾートアイランド。若者が出て行ってしまい、残された高齢者が奮闘して「ねばホテル」を運営している。ホテルのオーナーは109歳、その妻84歳。客室係やシェフ、ホテルに宿泊するお客など全員が80代以上というものすごい設定だ。もちろん、実際に演じるキャストはもっと若いから見た目は若々しく、特に飛び入りで島の美人コンテストに出る女優さんは真っ赤なワンピースをまとって客席の度肝を抜いた。自分としては、パーティーに出席した時の和服がとても似合っていたと思う。
中身はお客とホテル従業員、地元の「青年団(全員80代)」が繰り広げるドタバタ劇。尿漏れに悩む元プレーボーイ風の男性、毎回注文を間違えるウエイトレスなど、高齢社会の小ネタが満載だ。しかし、高齢であっても夢を追いかけ、恋をして、前向きに生きるというこの舞台のテーマははっきりしている。だから、ドタバタ劇でもとてもさわやかだ。

上演時間は2時間ちょっとだが、何と途中に10分間の休憩がある。これはもちろんキャストたちの体力回復策であろう。劇団民芸などでは長尺の舞台をぶっとおしで頑張る名物女優さんがいるが、「働き方改革」の時代なのだから、お客さんのためでなくキャストのために休憩を挟むのはこれからはありなのかもしれないと思った。

花と龍

花と龍

劇団文化座

俳優座劇場(東京都)

2024/02/23 (金) ~ 2024/03/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/03/01 (金) 14:00

文化座の創設者佐佐木隆と親交があったという作家火野葦平の作品。文化座がこの舞台を受け継いでいくのは自然な流れであろう。火野と同郷という東憲司が脚本を担当した。

筑豊炭田の石炭を船に積み込む沖仕「ごんぞう」たちの物語。「青春の門」など名作の舞台になった筑豊は荒くれ者の街というイメージだが、ごんぞうたちを仕切るのは「組」の組織。やくざ者の組もあり、「飲む・打つ・買う」にけんかという気質が全面的に描かれている。ごんぞうには女性も。戦争で配偶者を失った女性も生活のために厳しい肉体労働をしていたとこの舞台で初めて知った。
任俠の舞台のような感じかと思ったが、主人公は「けんかは絶対にしない」という一風変わったヒーローだ。その誠実さと人望で、ごんぞうの世界でのし上がっていく。この男を今や文化座の柱となっている藤原章寛が演じた。
中国大陸に出て一旗揚げるという野望があるが、「気が優しくて力持ち」的なヒーロー。ヒーローにしてはちょっと物足りないところが、藤原には少し合っていないような感じもした。その妻を演じた大山美咲は小柄だがどっしり構えていて、とてもよかった。けんかも強く、男の急所を握りつぶして撃退するという場面には笑いも起きた。
起伏はあるものの物語は淡々と進んでいく。荒々しさとは一線を画している感じで、食い足らなさを感じたのは自分だけだろうか。彫り師の美女とのロマンスっぽいところも出てくるが、何せ主人公がストイックなものだから、スリルに欠けると言っては言いすぎか。大きな起伏がない分、休憩を挟んでの3時間はとても長く感じた。

1階部分と2階部分を場面場面でうまく使い分けて進める演出はよかった。また、役者たちがはける階下のスペースにマリンバ(多分)などを含めた打楽器奏者を入れ、音楽や効果音をメリハリよく重ねていたのもいい。毎回書いているが、組の親分役を演じた佐々木愛の高らかな笑いや歯切れのいいせりふには、本当に驚かされる。

「5seconds」「Nf3Nf6」

「5seconds」「Nf3Nf6」

ウォーキング・スタッフ

シアター711(東京都)

2024/02/24 (土) ~ 2024/02/29 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/29 (木) 19:00

座席1階

日航機の逆噴射墜落事件をテーマにした短編。片桐機長と刑事弁護をする若い女性弁護士による2人芝居で、弁護士が裁判に備えて機長から聞き取りを行う場面を中心に構成されている。

パラドックス定数らしいテーマだ。機長は精神鑑定などのため警察病院の分院に入院させられているが、まずは機長にはめられた手錠を弁護士が人権侵害だと怒る場面から始まる。だが、機長はそんなことに関心はない。日航が超一流企業であること、自分はそこで機長を務めて世界を飛び回ってきたことなどをとうとうと語る。話はかみ合わないが、自分は選ばれた存在であるという強烈な自尊心があふれる。だから、心神耗弱で減刑を狙う弁護士に食ってかかる。「私は機長であり、乗客や乗組員の安全に全責任を持っている」。一方で、着陸寸前に逆噴射レバーを引いたことを堂々と認める。結果の重大性を感じている様子はなく、むしろ自分の操縦を副操縦士がじゃまをしたという自身のプライドばかりを強調する。

統合失調症によるものなのかどうかは、この芝居だけでは分からない。だが、野木萌葱が描こうとしたのは機長の深層心理だろう。どこまで深く迫れるかどうかがカギとなるが、見終わった時に思ったのは、機長が持つ独特の自尊心ワールドだった、という結論である。
エンタテイメントとしてはとてもおもしろい。だが、野木さんならどう描くのか、という事前の期待が大きすぎて今ひとつ肩透かし感もある。
ディレクターズチョイスの2本立てであり、もう1本を見ないと、と思うのだが残念なことに今日が千秋楽だ。もう一本にもおそらく、過度の期待を持って劇場に足を運んだであろう。見られなくてとても残念だ。

スプーンフェイス・スタインバーグ

スプーンフェイス・スタインバーグ

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2024/02/16 (金) ~ 2024/03/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/02/28 (水) 13:30

座席1階

自閉症スペクトラムで、がんに罹患した少女による独白ふうの物語。時には冷静に、時には情感たっぷりに自分を見つめ、両親や主治医、お手伝いさんなどとの人間関係を語っていく。安藤玉恵と片桐はいりのダブルキャストによる一人芝居。俳優としての実力や存在感が問われる厳しい舞台だと思うが、自分が見た安藤玉恵バージョンは見事のひと言だった(おそらく片桐はいりは安藤玉恵とは全く違う雰囲気でスプーンフェイスを演じたであろう)

舞台と地続きになっている客席前方のスペースにも、いくつものクッションいすを配置。冒頭や舞台の途中でも安藤が客席の中に入ってきたり、お客の顔を見つめながらしゃべるなど、役者と客席の距離が極めて近い構成。客席に語りかける一人芝居の効果を遺憾なく発揮した。
演出もよかった。高い天井から下がる薄いカーテンを効果的に使い、時には映写幕として、時には少女がジャンプしてつかもうとする場面を演出したり。ビデオカメラを使った自撮りでの独白とか、単調になりがちな一人芝居の舞台に常に変化を付け続けた。

物語は、丸い顔だということで「スプーンフェイス」という名前がついた少女の誕生の語りからスタートする。知的障害に自閉症という自分のことを語るのだが、そのトークは明るいというわけではないが悲観的でも暗くもない。少女が自分の置かれた状況を前向きに、ありのままにとらえているのがとても好感が持てる。
主治医の家族のエピソードも胸を打つ。障害児を持つ母親の苦悩を客観的な視点で語る場面は客席をくぎ付けにした。ストーリーテラーとしての実力のたまものだと思う。

このような客席と一体化したような一人舞台をこなせる俳優はそれほど多くはないだろう。一見の価値があると言っていい。

猛獣のくちづけ

猛獣のくちづけ

くちびるの会

OFF OFFシアター(東京都)

2024/02/22 (木) ~ 2024/02/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/02/27 (火) 14:00

座席1階

自分の周囲の人がワニになってしまう。どうしたら、ワニにならずにすむか。あるいはワニになった人を人間に戻せるのか。単純な肉体労働に就く派遣労働者たちの微妙な人間関係をベースに、人間として生きるということはどんなことなのかを客席に問う。今日は千秋楽。俳優たちの熱演が最高潮に盛り上がる場面を目撃する。文句なしに面白い舞台だ。

2018年に仙台でのフェスティバルで上演した短編をベースに作り直したという。
面白いのは、登場人物たちの人間関係。宅急便を安アパートにいつも配達してくれる女性に「世間話をする友だちになってほしい」と叫ぶほど、日々の人間関係が薄い主人公。ペヤングのソース焼きそばを本当に食べながらの演技は、とてもリアルだ。単純労働の作業や舞台転換をビールケースの移動、積み上げを通して描いていくのは演出の勝利と行っていい。
演出といえば、OFF-OFFシアターの上手にある柱をうまく利用して回転ドアのように登場人物の出入りさせているのは特筆すべき工夫。また、渡良瀬川に充満していくワニたちのうごめきを音響と照明で見せたのもおもしろかった。
何よりも、「ワニになる」という不条理を目の前にした人間関係の変化が秀逸だ。ワニになってしまった上司に「もう上司じゃないんで」とため口をきいたり、ワニになるのは寂しい人間だといううわさを信じて「友だちになって」と同僚に頼み込んだり。その同僚の対応も変化に富んでいて、あきることはない。ワニになりたくないのは当たり前のことだと思っていたら、実際にワニになった同僚が「これ、楽なんだなあ」とまったりする場面も。そうしたことから、人間として生きるということは人間関係の構築が大変で面倒だという示唆が浮かび上がるが、実はそれこそが人間として生きる意味なのではないかと思わせたり。100分のシュールな舞台はメリハリが利いていて、あっという間に過ぎてしまう。

余談だが、タイトルにある「くちづけ」はこの物語のキーワードだが、実際に役者の口から発せられた言葉はキスでなく「接吻」だったのには笑ってしまった。

開演前に作・演出の山本タカが激しい音や光が出るシーンに注意を促すため実際にやってみるという前説がいい。大音響や激しい光の点滅はいきなり出てきてびくっとさせられることが多いが、この人は客席に優しい配慮ができる人だ。また、来場者にもれなくその日限りの珈琲チケットが配られた。シモキタで舞台を振り返るいい機会になったと思われる。

ぼっちりばぁの世界

ぼっちりばぁの世界

劇団青年座

ザ・ポケット(東京都)

2024/02/15 (木) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/22 (木) 14:00

座席1階

「ぼっちりばぁ」とは高知県土佐清水市の方言・幡多弁で「ちょうどいい」という意味だそうだ。劇作を担当した竹田モモコは大阪の演劇ユニット「ばぶれるりぐる」を主宰していてるが、旗揚げの理由は幡多弁を使った芝居を打つためという。こまばアゴラであったこのユニットの「川にはとうぜんはしがある」を見たかったのだが見逃した。注目していた劇作家が青年座によって見られたのはとても幸運だった。

夫婦で経営しているさびれたキャンプ場が、近隣の浜辺が夕日がきれいということで注目され、東京のアウトドアの会社がアドバイザーを送り込んできた。リニューアルオープンに向け、地元の人たちを「教育」しようとするのだが、昔ながらのやり方を変えられず、アドバイザーたちは悪戦苦闘する。テンポのいい会話劇が繰り広げられる。
中でも注目されるのは、アルバイトの女性。彼女はフロントでお客を受け付ける役なのだが、お客が来ても電話が鳴っても何もしゃべらない。なぜそうなのかは劇が進むと明らかにされるが、この女性を取り巻く騒動もおもしろい。エピソードの面白さや物語の構成などは、IAKUの横山氏をほうふつとさせる出来栄えだ。
演じる俳優たちはベテランの尾身美詞ほか安定した演技。特に、アルバイト役の角田萌果は取っ組み合いの場面もある中で体当たりの演技。「空気を読む」ことが苦手な発達障害と思われるコミュニケーションの悩みなどもうまく表現していた。

ただ、初めて聞く「幡多弁」は難しい。耳で聞くだけだと意味がくみ取れない場面もしばしば。劇団「普通」が茨城弁の舞台をやり続けているが、方言で構成する舞台の難しさを感じる。

ふしぎな木の実の料理法~こそあどの森の物語~

ふしぎな木の実の料理法~こそあどの森の物語~

劇団銅鑼

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2024/02/21 (水) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/21 (水) 19:00

座席1階

岡田淳氏による有名な絵本「ふしぎな木の実の料理法」を舞台化した。コロナ禍で延期になり、今回が再挑戦の舞台だ。

子どもから大人まで楽しめる工夫が随所に。シンプルな演出だが、薄いカーテンヴェールをうまく使って降雪など季節を表現したり、積み木のような台を自在に動かして森の住人たちの家をデザインするなど舞台転換もスムーズだ。そして何よりも、俳優たちのせりふが明瞭かつ発声が大きくゆっくりで、とても聞きやすい。バリアフリー演劇を目指す銅鑼らしい舞台と言えよう。今日も医療的ケアが必要だと思われる客が車いすで舞台を見ていた。23,24両日は舞台手話通訳もつくという。

絵本が専門の知人によると、原作にほぼ忠実で、絵本の世界観が再現されていたという。きっと、絵本を読んだことがある人もない人も、共通の視野を持って鑑賞後に話ができるだろう。「原作と雰囲気が違う」などとして、原作を知る人とそうでない人の話がかみ合わないということはよくある。銅鑼らしい丁寧な作りがそうした齟齬を排除していると思われる。

もう一つ、この舞台の特長は俳優の性別を超えた配役がなされているという点だ。そうした配役を担う俳優は与えられた役を自分のものとしてしっかりこなしていて、まったく違和感を感じさせない。鍛えられた舞台だな、という印象だ。

物語は、南の島から送られてきた不思議な木の実をどう調理するか、ひきこもりがちだった主人公が森の住人たちを訪ねていくうちに、明るさを取り戻していく。お互いを大切に思う気持ちが人を変えていくというストーリーは、本当にホッとする。

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