沖縄戦と琉球泡盛
燐光群
吉祥寺シアター(東京都)
2024/11/30 (土) ~ 2024/12/08 (日)上演中
予約受付中実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/12/02 (月) 14:00
座席1階
上野俊彦氏の著書「沖縄戦と琉球泡盛――百年古酒の誓い」をベースに組み立てられた戯曲。100年、200年と寝かせることもある古酒を守るには、平和でなければならない、というお話だ。鉄の暴風とも呼ばれた沖縄戦で、100年を超えて守り抜かれてきた古酒は破壊されてしまったからだ。
物語では、戦後焼け跡に残ったわずかなこうじ菌を元に泡盛を再建していくというエピソードも語られるほか、与那国島など沖縄の離島で泡盛を扱う男性の話など、前向きで希望が持てる話がつなぎ合わされている。戦争に「絶望」という文字が似合うとすれば、平和には「希望」がぴったりである。
燐光群のいつものスタイルが貫かれている舞台だ。タイトルにある「沖縄戦」というかつてのできごとよりも、自衛隊の南西展開、日米の軍事協力・一体化という近年の出来事やトレンドに真正面から意義や不安を申し立てるせりふが続く。少し手を広げすぎではないかというくらい、客席に対してのレクチャーが行われる。
冒頭から舞台にしつらえらている、3本の色違いの筒が何を意味するかが劇の後段で明かされる。それ以外にも、泡盛の造り方や、泡盛の元になる長粒米はすべて輸入で、どの酒蔵も分配を受けて同じものを使っているなどというトリビアもあっておもしろい。
長期間寝かせて味わうお酒がテーマなので、酒造りの土台として平和は欠かせないという劇の骨格は最初から明白であり、サプライズという楽しみはない。それも愚直な燐光群らしいと言えるのかもしれない。
絆されて
東京タンバリン
STスポット(神奈川県)
2024/11/29 (金) ~ 2024/12/03 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/30 (土) 14:00
2022年の再演だが、自分としては初めて拝見。「笑えるサスペンス」と銘打っているのだが、むしろリアリティーがありすぎて笑えなかった。テーマは中年男女の友人グループの複雑な人間関係と心模様。とても怖い物語だった。
30人くらいしか入らない、横浜駅近くの小劇場が会場だ。冒頭、結婚前と思われる男女のマンションの部屋に、友人の男と女がやってくる。来たばかりなのに「外に食べに行こうか」「早く行こうよ」とせかすように繰り返す2人。なぜ、2人がそういう行動を取ったかは、ラストシーンになると分かる。
部屋の奥には段ボールが積み上げてある。引っ越し前後だからそうなのだろうと思ったが、これが予想外の理由だった。
ちなみに、タイトルにある「絆」という文字は元々「ほだし」と読み、家畜をつなぎ留めておく綱という意味だそうだ。きずな、心と心の結びつきというとらえ方が一般的だが、家畜の綱なので束縛、呪縛という意味で使われていたそうだ。これを知っていると、物語の意図するところが見えてくる。
舞台は60分の長さでテキパキと進行する。東京タンバリンではかつて別の舞台で見たことがあるが、役者にダンスのような同じ動作をさせて舞台転換を図ったり、今作ではせりふの流れの中で登場人物が歌をうたっている間に転換をするとか、こんなところがとてもおもしろい。
また、2面の白い壁にはランダムと思われる数字のボードが貼ってあったのだが、これは舞台転換の際に役者が数字ボードを張り替えることでその場面の日付を表すという小道具だった。場面は日付的にジグザクに前後するので、このような表示が必要になったと思うのだが、それに加え、登場人物の一人が数学を教える教職についているという設定。数字がせりふ的にも小道具のように使われているのが秀逸なアイデアだ。たとえば「あなたは素数のような人だ、と言われた」などというせりふが多く登場する。数学が苦手な私にはとっさに意味がつかめないのだが、しかし何となく素数というイメージでその人の雰囲気が伝わってくる。
また、背景の白壁にせりふの英訳が映し出されるというのはおもしろかった。外国人が見ても分かる、という工夫なのか。それとも単なる舞台美術の一環なのか。
小劇場の中でも極めて小さい部類に入るスペースで、さまざまな工夫が凝らされた舞台が展開されていた。物語の展開も予想外の連続でとても秀逸なサスペンスであり、舞台美術もおおいに楽しめる。
雲のふち
ゴジゲン
駅前劇場(東京都)
2024/11/20 (水) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/27 (水) 14:00
座席1階
コメディ・ユニットとコリッチの紹介文にはあるが、今作「雲のふち」はコメディからはかなり距離を置いた、どこか哀愁漂う舞台だった。
下北沢・駅前劇場のスペースを三つに分けて客席を設け、中央には人工芝とベンチ。入口近くにはマンションの廊下とドアがしつらえてある。丁寧に作ってある舞台美術に好感が持てる。
この人工芝は実は、公園にあるフットサルコートで、舞台は愛娘のフットサルの試合を見つめる父親というところから始まる。説明はないが、どうやらシングルファーザーのようだ。仕事が忙しいながらも娘との時間を持とうと努力しているが、思春期の娘は父親がくっついてきて試合を見たりあれこれ世話を焼いたりするのがうざったいという感じだ。公園を訪れた男性二人が今し方見てきた映画の話をしているのだが、娘との会話の流れから、父親がなぜか強引に男性二人の話に割って入るという、やや無理筋の展開で進んでいく。
舞台を見終わって思うのは、この戯曲は何がテーマなんだろうという感情だ。父と娘、それとも映画や役者さんの話? それは見た人それぞれが受け止めればよいことなのだと思うが、自分には今ひとつ消化不良感が募った。見ていてストンと落ちるものがあると、ぐっと好感度が高まるのだが。
ただ、登場人物が繰り広げる会話劇がつまらないわけではない。話はそれなりにおもしろいし、笑える部分もある。ただ、物語が一直線でなく複合化しているいることもあって、分かりにくいと感じた人もいたと思う。
もう一つ、とてもかわいい女優さんなのだが、さすがに思春期の娘というにはどうなの、と思った。いえ、外見の話というよりは、しゃべり方や雰囲気がとても大人びていて、思春期の女の子には見えない、という意味だ。これもわかりにくさの一因であるかもしれない。
EVITA エビータ
桐朋学園芸術短期大学芸術科演劇専攻
桐朋学園芸術短期大学小劇場(東京都)
2024/11/22 (金) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/24 (日) 14:00
座席1階
うずめ劇場のペーター・ゲスナーなどが指導をしている演劇専攻の短大生らによる公演。今作はメメントCの嶽本あゆ美が上演台本や演出・指導を担当。学生演劇らしい荒っぽさはあったが、完成度は高い。ほぼ全編、楽曲によるストーリー展開で「躍動感」という言葉がぴったりの役者の動き、ダンスなどは見応えがあった。
妾の子として生まれたことで負い目を感じながら生きてきたエヴァは、ブエノスアイレスに出て女優となり、次々に愛人を替えてのし上がっていく。最後は大統領夫人になり、そのカリスマ性から国政に関与していく。
革命家のチェ・ゲバラを狂言回しに舞台は進行する。この役を務めた学生はもう少し声量があるとすっきりと聞けたのだが、悪くはない。歌唱力の凹凸があるのは学生演劇だから仕方がないが、合唱に関してはとてもきれいで、澄んだ旋律を響かせた。
また、時折打楽器などによる生演奏で舞台をリードしたのはすばらしかった。特に、ドラムスやベース、ピアニカなどで曲が披露されたのはよかったと思う。舞台美術は手作り感があふれていたが、パペットなども活用。衣装はなかなかのもので、特にウエディングドレスのエヴァが舞台上で次の衣装に変身していくのには少し驚いた。嶽本さんのアイデアなのだろうか。
短大であるためかもしれないが、女性の方が圧倒的に多い。そのため、軍人など男性役も比較的背の高い女性が演じていたが、よく鍛えられている。違和感はまったくなかった。特に、主役のエビータを演じた学生は見事だった。選ばれるべくしてこの座をつかんだに違いない。将来、ミュージカル女優として羽ばたいてくれたらすばらしいと思う。
時計屋のある町で
マグマ∞
浅草九劇(東京都)
2024/11/21 (木) ~ 2024/12/02 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/11/22 (金) 14:00
座席1階
このユニットの結成の経緯から、今作は時計屋の主人を演じる津嘉山正種へのあて書きかとも想像していた。しかし、この戯曲は商店街にある古い時計屋を舞台にした家族の群像劇だった。これが抜群の展開で、会場はすすり泣きの声があちこちに。客席のハートを見事につかんでいた。
津嘉山がこだわる昭和の時代。携帯電話もポケットベルもない。時計の世界でいくと、腕時計などにクオーツが席巻し始め、懐中時計や柱時計などが脇へ追いやられそうになっている状況だ。時計と言えば当時は形見の品で、両親などから譲り受けたものを大切に使っている人が多かった。この時計店は、そんな思い入れのこもった時計を修理する店なのだが、後を継がないで信金に勤めている息子が「こんな時代だからもう閉店した方がいい」と父親に進言し、冷戦状態になっている。
そんなところに「弟子入りしたい」と中年女性が訪れた。聞けば、戦地に出向いた祖父が身に着けていた懐中時計を何とか直したいとのことだった。この時計が銃弾から身を守る盾になったのだという。
浅草にある劇場らしく、登場人物はちゃきちゃきの江戸っ子という感じで親子(母と娘)の口げんかも激烈だ。戦中派の時計屋夫婦と、離婚して実家に出戻りの娘、長男夫婦と大学生の子という家族構成。時計屋の主人だけの物語でなく、個性豊かな登場人物それぞれに重要な役回りがあり、この戯曲の面白さを形作っている。
後段は予想外の展開で虚をつかれるのだが、そこが感涙を絞る遠因にもなっている。今作はホンを書いたふたくちつよしの勝利といったところか。平成生まれだと少し背景の情報収集が必要かもしれないが、若い世代が見ても面白いはずだ。昭和を生きてきた世代にはばっちりツボにはまった名作だと思う。
ガラクタ
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2021/11/19 (金) ~ 2021/11/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
2024年11月の再演、上野ストアハウスで。
見逃していたので再演はありがたい。原発の「ゴミ」、高線量の放射性廃棄物の地層処分がテーマ。文献調査に手を挙げた北海道の自治体を舞台に、原発マネーで賛成派と反対派に分かれて街が分断される様子を描いた。
NUMO(ニューモ)が実名で出てくるのがおもしろい。地震国の日本に地層処分の適地があるとは常識的に考えられないが、適地を日本地図に落として自治体の手上げを待つなどというやり方で核のゴミを処分するのを「将来世代への責任だ」と言い張るニューモの担当者のせりふが利いている。
スナックと料理店という、地元の人が集まる場所に勤める人たちを登場人物にしたのがとてもいい。日ごろは同じ地元住民として仲良くやっているのに、放射能は怖いかもしれないがとにかく賛成、こんなものを地元に作らせたら破滅だと考える反対派に分かれ、「反対派の店」「賛成派の店」に分かれてしまう。原発マネーの罪深さをうまく浮き彫りにしている。
期待通りの切れ味で、再演を観られてよかった。トラッシュのファンでない人も、日本の原子力政策のいいかげんさを分かりやすく知ることができる。ぜひ見てほしい。
コウセイネン
演劇集団円
吉祥寺シアター(東京都)
2024/11/14 (木) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/15 (金) 14:00
座席1階
小松台東の松本哲也は、「デンギョー」など心に刺さる会話劇で客席のハートをつかむ劇作家という印象だ。今回は演劇集団円とのコラボということでどのような作品となるのか。期待をして劇場に向かった。
主人公は、刑事事件を起こして仮釈放で出てきた男性。一見、事件とはほど遠いおとなしいそうな印象なのだが、酒を飲んだ上での出来事だったらしい。保護司に頼まれ、この男性を雇った電気工事会社の社長も最初はおっかなびっくりという感じもあったが、男性は真面目に働き、会社の仲間に溶け込もうとする。
だが、仮釈放という身の上に、周囲はどう接してよいのか悩む。職場の仲間で飲みに行ったスナックで、男性は酒に口を付けようとしない。ちょっとやんちゃふうの兄ちゃんはおもしろくないようで、ズケズケと男性の起こした事件の中身などに突っ込んでくる。顔見知りばかりの小さな町、という設定であることもあって、あまり触れられたくないことに突っ込まれる無遠慮さとか、反対に腫れ物に触るような周囲の接し方とか、男性には居心地がよくなさそうだ。
犯罪を起こした人に対して持つ怖いという感情とか、「ろくな奴じゃない」という決めつけとか。こうした空気がいわゆる更生の障害になっているのが日本社会だ。出所して社会に溶け込めず、孤立し、再び犯罪に手を染めてしまう人は少なくない。明らかに障害は社会の側にあると言える。
一方、この戯曲では、男性の起こした事件とは関係ないが、別の事件の被害者を登場させている。社会が「更生への障害」をまとっている半面で、事件の被害者も同じ社会の構成員として生きている。社会の側に問題があるという視点で見ていると、被害者がこの男性にぶつける言葉や感情をどう受け止めていいのか、戸惑ってしまう。こうした点をしっかり押さえてあるのはさすがだと思った。
会話劇としては「デンギョー」の方が切れ味があってよかった。先日、殺害されるという事件が起きて注目された、保護司の苦悩がもう少し語られてもよかったと思う。しかも舞台に登場する保護司は若い女性というレアな設定だ。そこまで求めるのは手を広げすぎだろうか。
でも、仮釈放や保護司という通常、演劇ではあまり取り上げられないテーマに真正面から取り組んだ意欲作であることには違いない。
朗読劇 「すっぴん 2024」
kimagure studio
すみだパークシアター倉(東京都)
2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/13 (水) 19:00
座席1階
和菓子職人が、餡をつつむ機械を開発する技術者に転身し、大変な仕事をサポートして職人芸を次世代につないでいこうと奮闘する物語。主人公の男性もそもそも職人肌で、そこに嫁いだ女性が苦労を重ねながらも懸命に支えていく。これを全編、電子ピアノの伴走で俳優たちが若干の演技を伴いながら朗読を続ける展開だ。
自分としてはストレートプレイの方が好みなので、この戯曲もそのように演じられたらよかったなあ、とは感じた。しかし、今作はピアノの伴奏、音楽がものすごくよかった。俳優たちが演じる役柄の気持ちに実にフィットし、違和感を全く感じなかった。それどころか、俳優の演技にやや不足しているような役柄の雰囲気をうまく埋め合わせ、さらに伸ばしていくような力を発揮していた。
俳優たちの朗読もよかった。マイクを前にした定位置での演技に限られているが、せりふにプラスして客席に伝えるイメージを最大限に出していたと思う。
物語は、主人公の情熱と、それを支える内助の功がテーマ。「あなたについていきます」というところが昭和が色濃く出ていた。客席には多くの若い人がいたが、どう受け止めただろうか。
また、和菓子というアイテムをもう少し具体的に出してもらったらさらにうまくイメージできた。朗読劇では限界なのだろうか。
人という、間
グッドディスタンス
OFF OFFシアター(東京都)
2024/11/07 (木) ~ 2024/11/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/08 (金) 15:00
座席1階
グッド・ディスタンスの会話劇は面白い。これまでの作品の多くは、舞台から明確に伝わるものがあり、切れ味もあった。今作は、ラブホテルの一室で繰り広げられる男性と義理の妹の会話。舞台設定の妙もあり、期待通りの面白い会話劇だったが、画竜点睛に欠いたところはある。
男性は5年前に妻を亡くし、義理の妹は暴力夫と離婚してシングルマザーとなった。生活に困窮し、病気がちの子どものため保育園に預けることが難しく、職業はデリヘル嬢。設定が面白いのだが、妻の葬儀以来5年ぶりに会いたいと男性が選んだ場所はラブホテル。つまり、義妹の客として再会したところから始まる。
最初はこの二人の関係が明かされないから、スケベな中年男性が女子高生の制服姿のデリヘル嬢のサービスを受けるのかな、と舞台に見入っているが、関係性が明らかになると「何でラブホで、しかもオプション料を払って制服姿なの」と面白さが倍増する。妻が亡くなっているとは言え、その妹にサービスを受けたいというのは完全な妄想の世界だな、と思うが、男性はいきなり上から目線で「こんな仕事は辞めなさい」とか「自分が養うから結婚しよう」とか説教を始める。完全にずれているのだが、そうしたところをはじめとして随所に、ねじれを利かせた面白さがあった。
「自分は義理の妹とはできない」なんて言っておきながらけっきょくしてしまうところが単なる中年のおじさんなのだが、なぜ、5年の歳月を超えて義妹に会いに来たのかが微妙な形で伝わってくるのがこの戯曲の最大の面白さだと思う。それだけに、最後の最後の場面は今ひとつもったいなかったな、というのが正直な感想だ。
しかし、グッド・ディスタンスの舞台には今のところ、はずれはない。普通ならあり得ない?というシチュエーションでの会話を味わえるのも、演劇ならでは。ちなみに、女子高生の制服を着こなしているこの俳優さんは誰?と思ってHPを見てみたら、何と元AKBの人だった。かわいいはずだよね。
幕末純情伝 〜黄金マイクの謎
9PROJECT
王子小劇場(東京都)
2024/11/06 (水) ~ 2024/11/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/06 (水) 19:00
舞台初日、王子小劇場は満員の熱気で、期間中の前売りチケットは売り切れ。前説では配信動画をご覧ください、との説明もあった。つかこうへいの舞台を演じ続け、今や人気劇団の9プロ。今作は「新撰組の沖田総司は女だった」というとっぴな設定で始まる舞台で、どんな人間模様が描かれるのかを楽しみに出かけた。
チラシによると、今はほとんど上演されない初演版「黄金マイクの謎」。そのキーワードは舞台で明かされるのだが、ちょっと拍子抜けという感じもしなくもない。
また、これは自分の受け止め方なのだが、この荒唐無稽な人間関係を進めていくのは沖田総司の刀である。バッサバッサと斬っていくが、斬られた人間が再び起き上がってせりふを吐いていくのには少し戸惑った。「あれ、この人、斬られたのでは」という感覚が沸き起こり、見ている中で整理が付かないからだ。
また、9プロの脚本・演出では客席を笑わせる、楽しませる仕掛けが満載なのだが、今作は少しお下劣なせりふも多く、ちょっと期待外れだった。
9プロの派手な舞台を楽しみに来ているファンにはどうでもいいことなのかもしれないが、沖田総司が女という設定に見合う新たな人間関係のねじれや深みを期待してきた私のようなファンには物足りなかった。今作では、坂本龍馬と沖田総司の間で交わされる心の波というか、感情の揺れ動きをもっと期待したい。
太鼓たたいて笛ふいて
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2024/11/01 (金) ~ 2024/11/30 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/11/06 (水) 13:00
座席1階
放浪記で知られる林芙美子の物語。放浪記では貧乏を売り物にしている、戦時中は軍部の手先となって文章を書いて国民をあおった、とさまざまな批判を浴びている彼女の苦悩や、戦後に彼女が取った行動などをうまくまとめた音楽劇(ミュージカルの要素が強い)。とてもおもしろかった。
こまつ座では何回も上演しているというが自分は初めて。林芙美子役の大竹しのぶ、売れっ子だった芙美子に「流行歌の歌詞を書いて」と登場する加賀四郎を演じた土屋佑壱が特にすばらしかった。二人の歌唱には引き込まれた。
演出もテンポがよく、笑いを誘うシーン(と言うより演出)が随所にあって、まじめな栗山さんとは思えない(失礼)軽快さ。その演出に、6人の出演者が実によく応えていると思う。15分の休憩を挟んで3時間あるが、長さを感じさせない切れ味だった。
戦時中のメディアは特高警察の目も光っていて、結局国民を戦争に駆り立てる記事を書き続けた。それはきちんと罪を背負い、反省し、2度とそのようなことがないように肝に銘じなければならない。林芙美子が後段で見せた反骨は、自分たちにそれを示している。
ユタと不思議な仲間たち
浅利演出事務所
自由劇場(東京都)
2024/10/31 (木) ~ 2024/11/16 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/01 (金) 13:30
座席1階
芥川賞作家三浦哲郎が子ども向けに書き下ろした作品。劇団四季や浅利演出事務所が再演を続けている。名曲「友だちはいいもんだ」は小学校の合唱曲にもなっている。
東京から青森に転校した勇太。地元の子に激しいいじめを受けるが、貧しさ故に子守りをしながら学校に通う小夜子と寅吉じいさんだけが勇太を励ます。勇太は寅吉が話をした5人の座敷わらしに会い、友だちになる。ひ弱なところを気に病んで内向きになっていた勇太が、座敷わらし5人との交流で少しずつ自信を付けていく。
全編南部弁で展開されるが、勇太の標準語が浮いてしまっているように聞こえるのが、よそ者扱いされ孤立する勇太を物語っていることで効果的だ。役者たちは浅利メソッドでゆっくりはっきりの発音。ダンスも含めた役者の動きは正確で切れもいい。
ただ、冒頭のいじめシーンは舞台上の演出とは言え激しい暴力で胸を痛めた。小さな子どもも見る舞台だから、少し考えた方がいいのではないか。
チケットはほぼ完売。固定ファンが多いのは分かっているのだが、カーテンコールが一区切り付いたところで一斉に立ち上がってのスタンディングオベーションはお約束なんだろうが、一般客にはやや違和感を感じた。
いびしない愛
(公財)可児市文化芸術振興財団
吉祥寺シアター(東京都)
2024/10/25 (金) ~ 2024/10/31 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/10/28 (月) 18:30
竹田モモコはしばらく前から注目していた劇作家だ。今作は、2020年の劇作家協会新人戯曲賞を受けた作品。しばらく前に彼女の演劇ユニットばぶれるりぐるの「川にはとうぜんはしがある」をやっていたが見逃してしまったので、期待は膨らむ。高知県出身の新進気鋭の劇作家の受賞作が東京で見られるなんてラッキーと思いながら吉祥寺に出かけた。
これまでの竹田の作品は、自らの出身地の方言幡多弁を駆使して構成したものが多い。「いびしない」とは汚いとか散らかっているとかいう意味だそうだが、その真意はネイティブの幡多人でないと分からないかもしれない。劇中で展開される方言も自分には分からないものがいくつかあった。しかし、劇団普通の茨城弁のように、方言を多用した舞台はどこか生活感があってホッとできると思う。今作も冒頭から結構手荒な場面があるのだが、大ごとにはならないぞという感触がどこかにあるような感じだった。
登場人物は、かつお節工場(ふし工場)の経営を引き継いだ二人姉妹の妹と、離婚して戻ってきた姉、従業員たちという少人数。姉妹の間の「愛」がいびしないかどうかはともかく、この姉妹の間にある微妙な葛藤を追いかけていくことで「いびしない」を感じていけるのだと思う。
今作は、多くの障害がある人たちを登場させている。まず、姉は左手が不自由。一緒に育ってきた妹は姉の障害をカバーするようなところがあるから、いわゆる「障害のきょうだい児」だった。従業員には知的障害と思われる男性がいるし、舞台が始まる前にふし工場の従業員のような出で立ちでお菓子を食べていた男女は手話通訳者だった。これらがごく普通に、自然に描かれているところに好感が持てた。
新人戯曲賞の最終審査を担当したマキノノゾミが自ら演出を切望したという舞台。工場事務所の扉の開け方などの演出が、会話劇にメリハリをつけて一気にラストまで行けるという感じだ。
紙ノ旗
劇団文化座
文化座アトリエ(東京都)
2024/10/19 (土) ~ 2024/10/26 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/10/23 (水) 14:00
座席1階
久しぶりのアトリエ公演。今作は地方議会で子育て中の若い女性議員が書いたブログの記事をめぐる議員たちの群像劇。結論から言うととても面白かった。国会にも通じる、地方議員たちのメンツのぶつかり合いなどが現実に近い形で描かれている。劇作家の内藤裕子が実によく取材し、練り上げた物語だ。
この女性議員は、子育て期間中に議会を欠席することを容易に認めようとしない保守系会派の長老議員たちを揶揄して「おっさん」と表記し、議員たちの怒りを買う。謝罪と記事の訂正をすれば矛を収めてやるという議員らに、女性議員は「訂正するつもりはない」と突っぱね、代表者会議は紛糾する。
古株の女性議員が上から目線で懐柔しようとするところなど、結構リアリティーがある。これは性別の問題ではなく、世代の問題だ。だから「子育てには代わりが利くが、議員の代わりはいない」という発言を受け入れられない。だが、世の中は既にその方向に流れている。昭和のオジサンたちが置いてけぼりになっているのが痛々しい。いつまでも自分たちの常識で物事を判断してはいけないのだ、つらいことではあるが。
ただ、この女性議員と仲の良いフリーライターが代表者会議を傍聴し、不規則発言をして退場させられるというエピソードは疑問だった。この記者は完全に女性と一体化していてメディアとしては一方的なスタンスだし、そもそもアジテーターのような振る舞いをするなんてあり得ない。同じように記者を登場させるにしても、もう少しスマートにオジサンたちを追い詰めるようなキャラクターにしてほしかった。
また、この女性記者もブログで挑発するような表現、つなり「オッサン」などと揶揄するのはどうなのか。もちろん、言論の自由があるから書くのは自由なのだが、言われた方が激怒して引かなくなるのは目に見えている。
とまあ、突っ込み所はあるのだが、地方議会の実態を舞台で知ってもらういい機会。こうしたテーマが舞台で上演されるのはあまりないし、エンタテイメントとしてもおもしろい。
ジャガーの眼
新宿梁山泊
赤坂サカス広場 特設紫テント(東京都)
2024/10/14 (月) ~ 2024/10/23 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/10/21 (月) 18:30
金守珍によると、赤坂でテント演劇をやるのはTBSの協力があったためという。最終シーンの借景はローマ字の赤坂に梁山泊の?Rの電飾で、花園神社の暗い空間とはまったく違う風景を目撃でき。
寺山修司のレクイエムとして唐十郎が書いたというこの戯曲を唐十郎追悼として新宿梁山泊がやるのは、歴史がつながっていると感じられてとてもいい。最初の数日は若手中心の構成、そしてその後に主要メンバーによる上演。ここでも、寺山や唐の系譜を引き継ごうという意気込みを感じた。
真っ赤なりんごがキーアイテムになっているなど、寺山のオマージュがそこかしこに。そうした小道具もさることながら、やはり楽しいのはメンバーたちの迫力ある演技だ。特に、大鶴義丹は背負うものが違うためか、とても鋭い切れ味。水島カンナも今回、重要な役回りをきっちり務め、歌唱もよかった。
でも、借景は花園神社に軍配かな。
ニッポン狂騒時代~令和JAPANはビックリギョーテン有頂天~
劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)
サンシャイン劇場(東京都)
2024/10/17 (木) ~ 2024/10/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/10/21 (月) 13:00
座席1階
スーパーエキセントリックシアターは45周年。カーテンコールのいつものトークで、三宅裕司は50周年まで頑張りたいと宣言した。小倉久寛も70歳だ。ぜひ、頑張ってほしい。
今作は、学生運動とロカビリーブームの時代にタイムスリップする物語。自分から見ると一つ上の世代の話だが、子ども心にもあの激しい安保闘争は記憶に残る出来事だった。客席は比較的高齢者が多かったのですっと理解は進んだと思うが、20代~Z世代などはちょっと感覚がつかみにくかっただろう。ヒロインの女の子は田舎から集団就職で出てくる設定で、そもそも集団就職というワードが分からない。仕方のないことだとは思うが。
今作も踊りあり歌唱ありのSETらしい舞台だったが、これまでより三宅と小倉の掛け合いが少ないような気がした。SETの若手に劇団を引き継いでいくための助走でもあり、70代のメーンの二人の負担を減らしているということでもあるだろう。心なしか、三宅のトークにも切れがないように感じたのは、自分の三宅へのノスタルジーであるかもしれない。
SETが50周年に向けてどんな舞台をつくっていくのか楽しみだ。応援を続けたい。
夢劇アンソロジー『イースト・すみだ・ストーリー6~校外学習とコラボレーション!~』
劇団扉座
すみだパークギャラリーささや(東京都)
2024/10/17 (木) ~ 2024/10/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/10/17 (木) 18:30
座席1階
扉座が50歳以上を対象に募っている「大人の演劇部」の公演。この前「ご長寿ねばねばランド」という演目を見てなかなかの出来だと思ったことを思い出した。今作はバス停を中心に置いたオムニバス。タイムスリップものや青春時代の回想のような、シニア俳優には演じやすいと思われる筋立てだった。
笑わせる部分もたくさんあって飽きさせないのは、扉座テイストだ。昭和時代の歌謡曲もたくさん使い、ノスタルジーあふれる作り。お客さんも同年代の人が多くそれなりに満足のいく出来栄えだったのではないか。ただ、この前の「ご長寿」に比べると学芸会っぽい感じがしたのは改善の余地ありか。
芭蕉通夜舟
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2024/10/14 (月) ~ 2024/10/26 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/10/17 (木) 14:00
座席1階
芭蕉役の内野聖陽が4人の若手俳優を黒子として演じる俳聖の一代記。パンフレットによると「自分は汗かきだから」とは言いつつ、この舞台のために坊主頭にしたことを述べている。テレビなどで引っ張りだこの俳優だが、こんな一人芝居もこなせるんだと新しい顔を見つけた感じがする。
12年ぶりの再演という。奥の細道の旅路が後段のメーンとなるが、俳句が和歌に比べて一段下に置かれていた当時の状況への怒りとか、俳句は天から降りてきたものをいただくという姿勢などは、芭蕉のことをちゃんと学んでいなかった自分には新鮮。内野は冒頭からユーモアを交え、自分がこの役を受けるに当たっての経緯から説明。時に単調になりがちな旅路の紹介を細かく場に分けてメリハリを付け、おやじギャグなどを散りばめた演出で客席を楽しませた。
ただ、あまりにもおやじギャグっぽい笑いが続き、高齢者はともかく年齢の若い観客にはどうだったか。とは言え、内野聖陽という俳優の魅力を再発見できるいい舞台だった。
ビッグ虚無
コンプソンズ
駅前劇場(東京都)
2024/10/16 (水) ~ 2024/10/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/10/16 (水) 19:00
座席1階
作・演出の金子鈴幸の壮大な妄想ワールドが炸裂する。ラストに近づくにつれ収集がつかないカオスとなり、これはどう幕を引くのかと思いながら舞台を凝視、その結末は。カオスが加速し、幕を無理矢理引いたような状態になった。それが画竜点睛を欠くという感じもした。
ハプニングバーを舞台とした設定が面白い。男3人で訪れ、自称「童貞キャラ」の男がそこにいた女性を口説く場面から始まる。やりたいという思いを見せ隠ししながら男が懸命におかしな言葉を速射砲のように浴びせる場面でまず笑わせる。その後は、時事ネタを絡ませながら爆笑を誘う場面が何度も訪れる。
2時間弱の舞台で思い切り笑いたいという人にはお勧めだ。超絶面白いギャグもいくつかある。そして、舞台は一直線にカオスに向かっていく。
よかったのは、女性俳優陣だ。特に、安川まりと星野花菜里は実直に体当たりの演技を見せてくれる。
若者たちに大人気の舞台。客席と一体になった盛り上がりを体験できる。
兄妹どんぶり
劇団道学先生
新宿シアタートップス(東京都)
2024/10/09 (水) ~ 2024/10/15 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/10/10 (木) 14:00
座席1階
登場人物それぞれがもれなく個性豊かで、一人ひとりに物語がある見事な群像劇。これが作者の中島淳彦の真骨頂なのだろう。そして、歌唱シーンが多いなかで、出演者たちのさすがと思わせる歌の切れ味。シンガーとして活躍する宏菜は文句なしだが、それ以外の出演者の歌唱もとてもよかった。さらに、面白さが途切れることのない演出。これも、青山勝の真骨頂なのでしょう。楽しみにして劇場に来た価値があった。とても満足!
舞台は美空ひばりが生きていた昭和の時代、東京の下町にある居酒屋。主人はレコード会社の金を使い込んでヒットメーカーの立場を棒に振った元プロデューサー(佐藤達)。趣味で始めたような店を、しっかり者の妻(かんのひとみ)が切り盛りしている。そこに、大阪から上京してきた演歌歌手志望の若い女性(宏菜)と義理の兄(佐藤銀平)が「働かせてほしい」と乱入してくる。その直後には女性の姉(山像かおり)もさらに乱入。話は序盤から大変な騒ぎとなる。
複数盛り込まれた、宏菜の演歌歌唱は見事だった。そして、今作が舞台初出演とは思えない落ち着いた演技は次につながりそうだ。そして今作では、かんのひとみが頼りないだんなをしかり飛ばしたり、泥酔したり、多彩な演技を見せてくれる。特に泥酔シーンは恐るべき色気が漂い、迫力があった。
昭和の人情豊かな戯曲は数あれど、中島淳彦ならではの味わいはやはり格別。自分にとって、終幕後に「もう一度見たい」と思わせる舞台は数少ない。今作はその一つとなりそうだ。