
誰かひとり/回復する人間
conSept
ザ・ポケット(東京都)
2026/03/05 (木) ~ 2026/03/29 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2026/03/22 (日) 12:30
座席1階
それぞれ1時間程度の舞台で、10分程度の休憩を挟んで上演される。
「誰かひとり」は2人の青年を巡って展開する。母とおぼしき女性2人と父と見られる男性2人が絡んでいくが、これらの人たちと青年は言葉を交わさずまじわることがない。客席がそれぞれ受け止める心の動きがこの舞台の妙味だと思うが、会話劇大好きの自分にはとても合わない。俳優の胸の内を読んで心象を楽しめる人ならよいのだが。
もう一つ、「回復する人間」はタイトルに反して、けがからの回復を拒むような女性の物語。同じ会話がループのように繰り返されていくが、ループを重ねて主人公の心が少しずつ動いていく。別役実の不条理劇のような印象もある。
日曜日の午後、大きな劇場ではないが空席が目立ったのが気になった。リピーターチケットを売っていたので、特定の人には深く刺さるものがあるのだと思うが、自分には受け止めきれなかった。

野々村良枝の失踪
タテヨコ企画
シアター風姿花伝(東京都)
2026/03/18 (水) ~ 2026/03/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/03/19 (木) 14:00
座席1階
タテヨコ企画はずっと前から見たいと思っていた劇団だった。やっとその機会が訪れた。結論から言うと、期待通りに面白かった。いや、期待以上に面白かった。今作は認知症の女性を取り巻く家族の群像劇。よく練られている戯曲である。
野々村良枝という70代の女性がお気に入りのリュックサックを持って黙って家を出ていってしまった。彼女はアルツハイマー型認知症。ケアマネジャーの女性を夫の愛人と思い込んで攻撃したり、トイレの失敗を重ねるようになったが、ニートの50代長男らと何とか暮らしていた。長男については今風の「8050問題」であり、良枝のことより仕事もせずパチンコの日々を送るこの息子の方が心配である。
良枝を介護しているのは、二男の妻だ。良枝には3人の子がいたが、長女は一人娘を実家に置いて仕事で海外へ行ってしまって戻ってこない。このように野々村家にはさまざまな困りごとがあるのだが、それらが少しずつ明らかにされていく。なぜ、実の子どもたちでなく「次男の嫁」が主たる介護者なのかも劇中で明かされるが、この人間関係も面白い。
良枝だけでなく、家族一人ひとりの物語がつづられる群像劇。いつの間にかバラバラになってしまった家族の肖像が描かれていく。うまいと思ったのは、狂言回しにケアマネの女性などを配置しているところだ。劇中、ケアマネが認知症の人の思いなどについて語る場面があるが、このあたり、よく取材されていると思った。ただ、多くの利用者を抱えるケアマネが、ここまで一つの家族に深くかかわるケースは現実にはめったにないと思われるが。
冒頭に登場するのは3人の子が小さかった頃の家族旅行だが、いい年をしたおじさん、おばさんがだだっ子を演じるさまには少し、驚かされた。笑うべき場面もあったのだが、客席の多くは引いてしまっていた(笑)
しかしこのシーンが実は、後段で重要なことを示唆していたという答え合わせがなされる。そこまで来て、冒頭のドタバタ親子劇の意味を客席は知ることになるわけで、まあ、年齢・風貌が子どもとかけ離れているという違和感はこの際、不問に付してもよいのだろう。
タテヨコ企画がこのような家族劇を得意としているかどうかは分からないが、今作は、次も見たいと思わせるに十分な出来栄えだった。認知症だけでなく多くの社会的な課題をうまく盛り込んでいる秀作だ。見ないと損するかも。

国語事件殺人辞典
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/03/07 (土) ~ 2026/03/29 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/03/14 (土) 13:00
座席1階
井上ひさしの作品だがこまつ座では初上演という珍しい舞台。言葉が持つ力、歴史とともに移り変わる現実、日本人によって日本語が変えられていく現実など、作家ならではでの視点は新鮮だ。国語学者が相棒と旅をするといういかにも演劇的な展開でこれらを提示していく作品は新鮮で、面白い。
特筆すべきは演出だ。蜷川幸雄に鍛え上げられてきた演出家・大河内直子を起用したのはすばらしい決断だった。普段のこまつ座とは全くテイストが異なる、客席と一体化して躍動するような楽しい舞台に仕上がっている。特に、舞台転換が素晴らしい。駅前食堂、大衆劇場、駅、喫茶店などさまざまな場面がでてくるが、観客の気持ちを止めることなく早変わりのように転換する。とてもテンポがよく、客席は国語学者と一緒になって旅を楽しむことができる。
もう一つは配役だ。国語学者役を務めた筧利夫を始め、大半がこまつ座初出演なのだ。役者の起用は誰が行ったのかは定かではないが、それぞれの役回りがとてもぴったり合っていて、よくこれだけの多彩な顔触れを集めたなと感心する。筧利夫と相棒役の諏訪珠理のセリフはマシンガントークのようだ。歌唱も出てくるのだが、さすが筧利夫の歌はうまい。感心してしまう。

海の凹凸
serial number(風琴工房改め)
ザ・スズナリ(東京都)
2026/02/27 (金) ~ 2026/03/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/03/08 (日) 14:00
座席1階
俳優座に書き下ろした劇作の自劇団による再演。この作品自体は初めて見るが、水俣を扱っていても患者からは一線を画して大学の教員らによる講座運営が舞台の中心になっている。
丁寧な取材で定評のある詩森ろばらしい、細部にまでこだわった会話劇が展開する。水俣病が歴史の中に押しやられ風化していく中で、水俣を研究し、その事実を伝えていくことがいかに困難になりつつあるかを痛感させられる。冒頭、日本は公害が起きにくい地勢にありながらなぜ公害が繰り返されたのかと問いかけられるが、その答えは劇中で明確に提示される。
個人的に少し物足りなかったのは、その講座がどんなふうに行われたのか具体的な場面がなかったこと。患者の声がストレートに聞かれなかったことも欲求不満のタネだった。しかし、逆に言えばそれらに手を広げなかったことで、物語がシャープになってわかりやすかったと言えるだろうか。
竹下景子の存在感はさすがだった。道学先生のかんのひとみが教育者の役で登場したのは興味深い。役者としての幅の広さを感じてとてもよかった。

シン犯人
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2026/02/25 (水) ~ 2026/03/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/02/28 (土) 19:00
座席1階
Pカンパニーの秀作が揃う「罪と罰シリーズ」。今作は「ふざけた社会派」で知られるチャリTの楢原拓を招いた。パンフレットによると、楢原に「すごくふざけたのとちょっとふざけたのとどちらがいいか」と問われたPカンパニー代表の林次樹は「ちょっとの方」と答えたとか。これがどっこい!本格的なキレキレの社会派劇だった。チャリTテイストとは若干離れているとは思ったが、こんな舞台を見たかった。社会派好きにはいつもに増して、見ないと損すると叫びたい。
和歌山毒カレー事件にヒントを得た物語。町内会の運動会に準備された大福を食べた子どもを含む2人が死亡した事件で、前日に仕込みをしていた主婦が大福に除草剤を混入させたとして逮捕、起訴される。犯行の経緯、動機などすべて警察が描いたストーリーが裁判でも認められて死刑判決がくだる。容疑者の主婦は脅迫まがいの取り調べにもめげずに捜査段階から裁判でも否認を貫いていたのに。
舞台では、冤罪がどのように作られるのか、取り調べの過酷さ、再審請求のハードルの高さなどが正確に分かりやすく描かれる。特に、確定判決を覆すような事態が起き、その際に警察が取り調べの録音録画を操るなど、実際に起きているかもしれない場面に客席は戦慄する。
最近、死刑判決後の再審開始が決まった日野町事件では、「警察官の暴行や脅迫で自白した疑いがある」として裁判所が自白の信用性を否定している。舞台はこの事件をほうふつとさせる展開で、きわめてタイムリーだ。
また、秀逸だったのはラストシーンだ。舞台から投げかけられた結末は、客席の一人ひとりに考察を迫っている。
休憩を挟んで2時間半の力作だがまったく疲れを感じない。食い入るように舞台を見つめた。見事な作品だった。

HOPE
劇団銅鑼
銅鑼アトリエ(東京都)
2026/02/25 (水) ~ 2026/03/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/02/28 (土) 14:00
座席1階
電子書籍が普及した今では、少し伝わり方が違ったかもしれない。だが、客席を埋めた多くの中高年にはすとんと落ちるお話。時空と場所を超えた三つの場所を描きながら、戦争の惨禍から命を懸けて書物を守るという物語だ。銅鑼らしい、伝えたいことがはっきりしている舞台だ。
東京・多摩地区の古い蔵を内見に来た母親と中学生の息子。この蔵は、戦争中に都心の日比谷図書館から何万冊という本を避難させた場所だった。
時空を超えるという舞台表現は難しい。演出の力を借りるところが大きいとは思うが、今作はよくある普通の描き方だった。特に、アトリエ公演のような限られた舞台装置では限界があるが、少し物足りなかった感じもする。
今作の主役を務めたのは近年に入団した新人俳優。だが、中学生という設定にはやや難があったか。今作にはもう一人、初舞台という新人女性俳優も。こちらは役柄をしっかり演じきっていて、将来有望な若手のお披露目舞台なのかな、という雰囲気も。先輩団員たちがしっかりサポートし、新人を育てようという熱意があふれていた。
戦争のさなかに「命を守るのか、書物を守るのか」とも思う。命を懸けて書物を運んで避難させるという「価値」はデジタル社会ではきっと、様変わりするのだろう。

脚光を浴びない女
グッバイハローproduce
サンモールスタジオ(東京都)
2026/02/17 (火) ~ 2026/02/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/02/21 (土) 18:00
座席1階
中島淳彦の脚本、青山勝の演出。中島作品を手掛ける道学先生の舞台には外れがほとんどない。その道学先生のワークショップに出た井場景子が企画プロデュースして、再演した今作。全編見どころ満載の痛快作だ。あと一日しかないが、これはもう見るしかない。お勧めだ。
舞台は取り壊しの噂が流れる4階建の市営団地。工場近くに立地し、かつては団地族として賑わったであろうが、エレベーターなしの築50年。ここに住む主婦たちが今作の中心メンバーだ。
中島作品の特徴だが、登場人物それぞれに味のある物語がある群像劇。そのエピソード一つ一つに大笑いしたり、涙ぐんだりできる。主人公の主婦は一年前に故郷の九州の父親を見送ったが、葬式の時に母親に握らされた5万円で、なぜかエレキギターをAmazonで買う。これが全ての起点となり、歌あり踊りありの舞台に彩られていく。
全員女性の役者たちも見事だった。桟敷童子のもりちえが出るのも見にいく動機だったが、やはり今作は主役の中村まゆみが秀逸だった。ラストはもう、感動で身体が震える。
見ないと損するぞ。

SERI~ひとつのいのち2026
conSept
あうるすぽっと(東京都)
2026/02/19 (木) ~ 2026/03/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/02/21 (土) 12:30
座席1階
原作者の倉本美香さんの実話をミュージカル化。目と鼻がない状態、さらに知的障害や心疾患などがある重複障害の娘の母として書いたものを、障害を持つ娘がどう感じ、何を思い、何を見ているのかという視点を音楽や歌唱、舞台表現で客席に伝えようとした力作だ。
主人公「千璃(せり)」の母は国際的な仕事のキャリアを積んでニューヨークで暮らす。その夫は小さいながらも法律事務所に勤め、はた目からはエリートカップルである。物語は千璃の誕生からスタートするが、妊娠中の検査結果を伝えなかったことや、配慮のない言葉を投げつけた主治医に対する不信などが語られていく。重篤な重複障害児を育てる重荷、葛藤などをめぐり、夫婦の間に吹き出すすきま風など、なかなか説明が難しい事柄をミュージカルという仕掛けをうまく機能させて物語をつないでいる。
千璃を演じた山口乃々華はダンス&ボーカルグループの一員としての実力を遺憾なく発揮。話すことがうまくできない千璃の胸の内を全身で伝えようとしている。出演者全体の歌唱、動きもとてもシャープでよかった。多様性が語られる世の中にあっても、傍観的な立ち位置が少数者を苦しめているという本質もよく伝わってきた。
実話なので仕方がないのかもしれないが、米国の医療や裁判という題材なので、本当にこんなことが行われているのかという思いも感じた。

演劇企画イロトリドリノハナvol.6 Airswimming エアスイミング 2026
演劇企画イロトリドリノハナ
シアター風姿花伝(東京都)
2026/02/05 (木) ~ 2026/02/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2026/02/08 (日) 12:00
前回2024年夏のこの作品上演とは、かなり雰囲気が違うような気がする。千秋楽のこの日、雪の中を劇場へ行き、team海を鑑賞した。
舞台は1920年代から1970年代にかけてのイギリスの精神病院。過度に男性的なふるまいをしたとして「触法的精神異常」を理由に収監されたドーラのもとに、不義の子を出産した「罪」を問われたペルセポネーが収容されてくるところから始まる。二人が意思疎通できる時間は風呂と階段の掃除をする1時間だけ。いつ終わるとも知れない収監による絶望と孤独。性格や考え方などが全く違う二人だが、支え合うようにして年を重ねていく。
自分を何とか保たせようとするためだろうか、二人が行うさまざまな行動の中で、タイトルにあるエアスイミングは特徴的だ。監獄と同様な日も差さない狭い空間に閉じ込められている二人が、想像の世界の海で自由に泳ぎ回る。前回の演出もそうだったのかは記憶のかなたなのだが、パステルカラーの照明の効果で夢のような空間が現出される。今作では、光と影、照明の多彩な色を駆使した演出が非常に印象に残った。
ドーラを演じたましろうみが素晴らしい。2時間を超える上演時間を2人だけで引っ張っていく非常に厳しい環境で、ドーラが夢想する軍隊でのふるまいなど難しい役柄を演じきった。セリフをかむ場面が複数あって惜しかったが、特にドーラの存在感が際立っていた。お見事と言いたい。
この台本はある意味、「イロドリノハナ」らしさが全開で客席に迫ってくる作品なのだろう。基本的に明るいトーンで進む舞台だが、究極の人権侵害の世界でたくましく生き抜いた二人の女性の潔さが、客席を悲しみと悔しさで包み込むようだった。

宝島
Project Nyx
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2026/02/06 (金) ~ 2026/02/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/02/07 (土) 14:00
座席1階
寺山修司のトリビュート演劇。ニクス主宰の水島カンナが寺山役などで登場する。寺山の映像をふんだんに使い、随所に寺山の短歌を配してそのメッセージを伝えている。2014年の前回舞台から大きくリニューアルし、まったく新しい「大人が楽しめるメルヘン」に仕上がっている。
船乗りになりたいと思いながらもなかなか外に出る勇気を持てないでいた少年が、周囲のユニークな大人たちの助けで宝島を探して冒険に出る。演劇集団円が子どもシアターとして取り上げた舞台を水島が見て、ニクスの美女劇に仕上げて上演。今作はこれをさらにブラッシュアップして、(強制的)観客参加型でおおいに楽しめる。
メルヘンではあるが、なんといっても見どころはニクスの真髄であるアングラ的な歌と踊り。あちこちにおやっと感じる魅力的な仕掛けがなされているのは、演出の金守珍の鋭いところだ。また、二クスの舞台を音楽から彩る「黒色すみれ」の歌と演奏は今回も素晴らしい。コスチュームも舞台での動きも登場人物たちと同列に扱われていて、まさにこの二人がいなかったら舞台は成立しないと言ってよい。
二クスのニューヨーク遠征「青ひげ公の城」で活躍した伊藤さやかが、インターミッションの物販宣伝からポストトークの司会まで、舞台にとどまらない大活躍。流れるような英語を織り交ぜて客席を引っ張った。客席が参加する仕掛けは詳しくはここでは書かないが、子どもから大人まで絶対に楽しめること請け合いだ。
ポストトークで明かされた、二クスの今後の海外進出の構想。ロンドン、そしてパリ・アビニョン。特にアビニョンは世界的演劇祭が行われる場所で、ここで日本の女性劇団による日本独特のアングラ劇が行われるというのは画期的。ニューヨークでの成功をステップにして、アングラ劇が世界に羽ばたいていくと思うとワクワクする。

「わたしの町」
TRASHMASTERS
新宿シアタートップス(東京都)
2026/01/29 (木) ~ 2026/02/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2026/02/01 (日) 14:00
座席1階
トラッシュが今回取り上げたのテーマは、過疎の町の再生。とりたてて特徴がなく、若者が流出するばかりの人口減少の町に、どう若者たちを定着させるのか。また、町外からの移住者をどう呼び込むのか。新しいテーマではないが、世代を超えた登場人物たちの群像劇を柱に据えることで、3時間近くの長編であることを忘れるくらいの見事な仕上がりとなっている。
北海道の海辺の街。産業は漁業、農業、林業という一次産業で、どれも後継者不足で若者は出ていくばかり。地元高校の閉校が持ち上がり、子どもたちを巻き込んだまちづくりに向けて、大人たちの試行錯誤が始まる。
実際に取材を重ねたとあって、登場人物の設定やエピソードはリアリティにあふれている。前半は教育現場が舞台。地元の子向けの農業などの体験ツアーが大失敗に終わったり、新しい取り組みを忌避する教育幹部の場面など、いかにもと思わせる。「若者が出ていくのは学校教育でなく社会のせいだ」と叫ぶ先生に、いつもの大人的思考を見せつけられる。
舞台の特徴は、休憩を挟んで時の流れをくっきりとさせたこと。前編で町おこしに参加した子どもたちが大人になり、町の将来をデザインしていく。苦労してまいたタネが少しずつ花開いていく。
後ろ向きになりがちなテーマだが、物語は常に前向きだ。これはけして過疎地だけの話ではない。人口減少社会の日本各地に対する、大いなるエールだ。見終わって勇気が湧いてくる、とてもいい仕上がりだった。

西のメリーゴーランド
万能グローブ ガラパゴスダイナモス
駅前劇場(東京都)
2025/12/25 (木) ~ 2025/12/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/28 (日) 13:00
座席1階
今年最後の演劇鑑賞は、東京公演千秋楽の今作。福岡が拠点というガラパゴスダイナモスを見るのはもちろん初めてだったが、今年見た何十本の舞台で、間違いなくベスト5に入る出色の出来だった。見ないと損するぞとお勧めしたいのだが、不覚にも今日が千秋楽だった。
開演前の舞台を見ると、ふすまの形が不自然でなんだろうと思う。これが実は物語の重要なアイテムだった。祖父が亡くなって喪服姿で居間のテーブルにいる、母と娘とおぼしき女性。通夜か葬式前の会話が交わされ、その中で亡くなった祖父の友達だった魚屋のじいさんが届けた刺身を家族らが食べたことが明かされる。ここから、物語は思いもかけない方向へと回転する。
現世と来世。魂と肉体。来世で何かに生まれ変わるというなかでのシチュエーションコメディで、爆笑ポイントが散りばめられている。だが、この舞台は単なる爆笑ドタバタ喜劇ではない。家族の複雑なヒストリーを織り込んだ人間物語であり、家族の素敵さが伝わるヒューマンストーリーなのだ。
見事だったのは、物語の進行で散りばめられた多彩なプロットであり、プロットの回収の仕方だ。客席が想像もつかない展開、スピーディーで軽やかな進行。これは見事としか言葉が思いつかない台本であり、演出だ。演劇だからこそできる素晴らしい100分の体験だった。
終幕後、ほとんどの人が立ち上がらす感想を書いていた。こんな光景を初めて見た。また、シモキタで観たい! 次作に心から期待してます。

養生
ゆうめい
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2025/12/19 (金) ~ 2025/12/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/27 (土) 18:00
座席1階
巨大な脚立、床と背景にある多量の養生テープ。客席への入場は養生テープの舞台裏をぐるりと回って入る。舞台の体感は既にここから始まっている。
デパートやショッピングモールのショーケースなどに見られる大きな展示、作品撤去などのアルバイトは美大生が駆り出されるという。それはとんでもないブラック職場だそうで、舞台はそのバイトの状況から始まる。クリスマス展示が一夜にして正月仕様になるように、作業は時間との勝負だ。こんな職場環境で、主人公の2人はバイトから社員になり、家族を持つなど人生の歩みを進める。物語は、ままならない人生軸が折れたり、曲がったり。生き物のように動く巨大脚立が大いなるメタファーとなって客席に迫ってくる。
登場する役者は3人だけ。脚立と養生テープ、マネキンだけのシンプルな舞台だが迫力がある。暗闇のなかで大小の光をうまく操る演出の効果は大きいが、役者の力もなかなかだ。クライマックスの歌唱には本当に引き込まれる。心の叫びをそのままメロディに被せたシーンは出色だ。
KAATの大きなスペースで、壮大さもまとっている。ある種の不条理の世界感を味わえる。主人公に自分を重ねて身を震わせてしまう。そんな演劇体験を演出する「脚立ワーク」には注目だ。

泣き虫なまいき石川啄木
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2025/12/05 (金) ~ 2025/12/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/21 (日) 13:00
座席1階
何年かぶりの再演で、初めてこの作品を拝見した。タイトルにあるような石川啄木に焦点を絞った戯曲ではなく、その家族や友人の群像劇。「一握の砂」など庶民の生活や心を描いた歌人の人生に関わった人たちの人間物語だ。
あくまで啄木の物語だから周囲の人たちは脇役ということになるが、どの役者も素晴らしい存在感である。なかでもこまつ座にたびたび出る山西惇は出色の出来。啄木の父で、酒に溺れ赤貧の家族の貴重な着物まで質入れしてしまう禅宗の坊主という役どころだが、とんでもない男なのになぜか憎めないキャラクターを演じ切っている。
ほぼ全員が二役で、その味わいもいい。物語に大きな起伏があるわけでなく、舞台はほぼ一貫して啄木一家が暮らした東京の下宿で展開されるが、休憩を挟んで3時間飽きることはない。脚本に力がみなぎっているだけでなく、役者たちの力の結集が大きい。こまつ座の舞台のなかでも、とてもいい座組だったと思う。再度のカーテンコール、スタンディングオベーションはむべなるかな、だ。
ただ、舞台転換の暗転が少し長いのが難点。少し間延びする時間があったのは惜しまれる。

舞台「1995117546」
シーエイティプロデュース
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2025/12/18 (木) ~ 2025/12/27 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/12/20 (土) 13:00
座席1階
タイトルは、30年前の阪神大震災の発生日・時刻だ。この名の通り、舞台は作・演出のウォーリー木下の体験を創造性の高い舞台作品として昇華させるという試みになっている。あの地震を目撃した日本国民なら、友人・知人の体験談やあるいは本人・家族の被災体験などでそれぞれの物語が強烈に胸に息づいているはずだ。本作はこうした個人的な体験を映し出すかのような異例の取り組みともいえる。
開演前の舞台は、いかにも震災直後のがれきの山という舞台美術になっている。ここで、震災に直面した人たちの複数の物語が進行する。特に、字幕などの映像表現も交えた演出はとてもビジュアル的で分かりやすい。特に、地震前後の時間経緯、あるいは震災の何年か前の人間関係などとても立体的に表現されているのが新鮮な感じがする。
あの時、倒壊した建物の下敷きになり、時間経緯で助からなかった人たちは多い。そうした立場に置かれた人や、通りがかった人たちの行動など、当時を少しながらも知る身としては「そんな人間物語もあっただろうな」と容易に想像できる。架空の物語なのだがリアリティーを持って迫ってくるのはきっと、演出の妙もあるだろうが、6000人余の犠牲者が出た大震災に影響を受けた命一つ一つに注がれた作家の視線があるからだと思う。
強烈な光を用いた発災時の表現には若干の違和感があるが(地震はまだ暗い時刻に起きたというイメージがあるので)、それは受け取り方の問題かも。それよりも締めくくりに使われた言葉が心に残る。客席は30年前の震災を知らないか、覚えていない世代も多くいて、そういう人たちが阪神大震災をどのように受け継いだのか、とても興味深い。

Downstate
稲葉賀恵 一川華 ポウジュ
駅前劇場(東京都)
2025/12/11 (木) ~ 2025/12/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/14 (日) 18:30
座席1階
性犯罪者が共同生活を送る米国のグループホームが舞台。ブルース・ノリスの作品、日本初演という。
性犯罪に厳しい印象がある国。犯罪の代償として人権がかなり制限された暮らしのようにみえる。そこで車椅子生活を送る老人を、子ども時代に被害をを受けた男が妻とともに訪ねてくるところから始まる。
休憩を挟んで3時間の長尺だ。一幕はあっさり終わってしまう感じだが、圧巻は二幕の後半。十分に反省し申し訳なかったという姿勢で応対し続けていた老人だが、男が認めるよう迫ったある事柄に対しては抵抗する。
これは復讐劇なのだろうか、それとも。法廷で事実関係は裁かれているはずだが、被害者にはけして消えないトラウマがやけどのように残っている。それは加害者が負うべき責任なのだろうが、描かれている物語を見ると単純には考えられない。
罪を憎んで人を憎まずという。だが、それが空虚に響くという得難い体験を、この舞台は用意してくれた。秀作だ。

請願
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2025/12/03 (水) ~ 2025/12/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/12/14 (日) 14:00
座席1階
笑いが絶えないカトケンではなく、約2時間の間、長年連れ添った老夫婦の人生、時間、空間などを濃密な2人芝居で楽しめる。見事な舞台だった。
基本的に音楽も効果音もない。舞台に響くのは加藤健一の増子倭文江の2人の会話だけだ。緊張感が漂うが、強烈なものでない。それは、場面設定がいつもの日常に置かれているからだ。物語の起伏は会話の中で起きる。
物語の鍵を握る人物は他にもいるが、舞台には登場しない。客席はその人間関係を想像しながら舞台を見入る。その想像をスムーズにさせる加藤と増子のしっとりとした空気感はさすがである。
加藤は英国陸軍No.2まで出世した退役軍人。その妻である増子が、核兵器先制使用に反対の請願に署名をする。夫は新聞でその記事を見て激怒するが、妻の名を記事に認めて仰天する。物語はそこから始まるが、主な流れは夫婦のプライベートな出来事が中心だ。
起伏は大きくないのがいつものカトケンと違うのだが、今回は2人のベテラン俳優の円熟の演技に浸かりたい。舞台を終えて、さすがだなというため息が出てしまった。
途中休憩があったのはきっと役者2人の負担緩和のためだろうが、できれば通しで堪能したかった。

きみがすきな日と
ゴジゲン
ザ・スズナリ(東京都)
2025/11/26 (水) ~ 2025/12/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/12/06 (土) 19:00
座席1階
ショッピングモールに侵食されかかっている商店街の年に一度の夏祭り。そこで、若手の商店主らが集まって人形劇の練習をしている。今回が最後かもしれないという状況で、出演メンバーの中で問題が発生する。
登場人物の言葉、思い、さらに心の中の言葉のやりとりというか。そんな会話劇は面白くもあり、感覚で受け止めるしかないという感じもする。言いたくても言えないこと、言ってはいけないと思うが言わなければならないこと。90分の舞台では、人形による会話も含めて頭の中をくるくる回転するような感覚だった。
笑いを取ろうとする部分もあるが、舞台上の言葉たちに複雑な思いが込められた空気が漂い続け、素直に笑えない感じ。そういったところがポイントなのかも。ストレートに言いたいのに口にすると全然雰囲気が変わってしまう。まともに受け止めていくと、結構疲れてしまうかも。
ゴジゲンの舞台は初めて見た。今回が20回公演という。どんな舞台を作ってきたのか、知りたくなってきた。

交差点のプテラノドン
演劇集団 Ring-Bong
座・高円寺1(東京都)
2025/12/03 (水) ~ 2025/12/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/12/06 (土) 13:00
座席1階
子育てやシングルマザーなどの社会的テーマを取り上げてきた山谷典子の新作。今回は産婦人科医院の家族を舞台にして、特別養子縁組などについて語られる。
実の親子関係を切って、赤ちゃんを迎え入れた父母と法的に親子関係となる特別養子縁組。子を産み育てることの負担、授かった命の重さ、不妊治療を繰り返しても妊娠できない苦悩など、多くのテーマが交錯する。産婦人科を運営し特別養子縁組にも積極的に取り組んでいた院長である父親が急死したところから舞台は始まるが、その3人の子のうち2人までが医者で一人は産婦人科の勤務医という設定。しかし、親子の医療に対する考え方は実は大きく異なっている。ここに、家族の個人的な事件が絡んでくる。そのほかの登場人物も含めて複数の物語が進行するのだが、演出の藤井ごうがうまく舞台を操ってみせている。
約2時間の舞台で、少し間延びした空間があるのが気になった。本筋とはまったく関係ないエピソードがあるのは悪くないが、自分にとっては少し肩透かしな感じがした。だが、特別養子縁組という難しいテーマに真正面から切り込んでいった劇作はとてもよかった。

一九一四大非常
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2025/11/25 (火) ~ 2025/12/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/11/30 (日) 13:00
座席1階
壮絶、苛烈な演劇だ。桟敷童子による九州の炭鉱を舞台にした傑作は多いが、その迫力や鬼気迫る俳優陣の演技、そして苦しさをまとった人間関係など、たぶん最高傑作と言えるのではないか。
「非常」というのは炭鉱事故のことで、大非常だから大事故という意味。舞台は福岡県方城町の方城炭鉱。運営会社の三菱炭鉱が発表した死者数は667人だが、当時炭鉱労働者は鉱山周辺にある多数の派遣企業から出されたり、身元がはっきりしない人たちも多く集まっていて、犠牲者数は1000人を超えるともされる。会社側が閉山を恐れて発表した死者数を絞ったと舞台では描かれている。多くの遺体は今も地下に埋もれたまま。冒頭、骨をはむという情景が描かれるのは、死者の尊厳や存在への強烈なレクイエムとして象徴的なシーンだ。
顔も腕も足も石炭で真っ黒に汚れている。役者たちの姿は、冒頭からかなりの迫力がある。多くの人間ドラマが約2時間の舞台に詰め込まれているが、やはり出色はもりちえ演じる坑内奥深くから脱出できたたった一人の女性炭鉱労働者だ。桟敷童子の看板である彼女の存在はゆるぎないものがあるが、今作ではその重み強烈に発揮されている。
桟敷童子の看板である舞台美術は今回、派手さはないもののお約束の出来栄えだ。特徴的な演出が各所に見られ、感動する。
この演目は見ないと損する。価値ある一作だ。