調子に乗れ!
オイスターズ
七ツ寺共同スタジオ(愛知県)
2018/11/15 (木) ~ 2018/11/19 (月)公演終了
満足度★★★★
いつもながらの超発想で展開する不条理空間に…いつもと一味違う演出要素が組み込まれて、様々な「調子に乗る」を味わうことができました。
アノ人たち気になってしょうがなかったし(謎)、そして藤島さんには何度も殺されました(笑)、むっちゃ怖いでホンマ。
DDDD -デス屋で働くデーモンなダーリン-
劇団アルデンテ
アトリエ・ゼロ(岐阜県)
2018/11/16 (金) ~ 2018/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★
青天の霹靂、突然 突き落とされた闇の中に輝いて見えたモノは…更に漆黒の闇だった。思い遣りのベールに包まれたエゴのぶつかり合いや…人の想いの飾らぬ本質が…対照的に舞台に踊り、剥き出しになっていく。そして一人… 異なる視点で事態を眺め暗躍するモノに…投影されている何者かを感じた時、何ともシニカルな気分になれた… 後味惹くねぇ。
私はつい心理面や人の闇を窺ってしまうけど、…カッコよくて、コミカルで、キモくて、エロい… 様々な楽しみもてんこ盛りの舞台。
「トリビュート」~4つの楽曲から着想する短篇集~
劇団太陽族
四天王寺スクエア(三重県)
2018/11/10 (土) ~ 2018/11/11 (日)公演終了
満足度★★★
思ったよりバラエティに富んだ味の短編集。ビートルズへの造詣が無くてもとっつきやすいコミカルなところから… 途中で大幅に舵を切る。特に最後は、世相を反映した…と簡単に一括りできない…暗喩の効いた発言もあって、解釈には深読みが必要そう。いずれも当時の世相や歌詞の意味も分かって観ることができれば、味わいももっと深いのだろうね。使われた曲の歌詞の和訳を検索して少し眺めただけでも、ちょっと感じるところがあった。
月見里教授と箱
劇団芝居屋かいとうらんま
御浪町ホール(岐阜県)
2018/11/09 (金) ~ 2018/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
本作品の中で飛び抜けて強い印象を残す…「教授の箱の中身」が現れるシーン。この芝居の全てが このシーンの為に用意されていたのだ…と思える鮮烈さでした。
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何度となく重ねられた教授の声でのモノローグが…実は夭折した妻の言葉であったという大どんでん返し。自ら「空っぽ」と称していた教授の中を埋め尽くしていたモノの正体… その深さと重さに…久し振りに比喩でなく落涙してしまいました。
老いた頭の中に…なお鮮烈に蘇るウェディングドレス…「2人の絆」と「2人を別つモノ」…という真逆のWミーニングとして利かされたリボン… そしてそれがラストシーンにまできっちり枝葉を伸ばす。ちょっと綺麗すぎだろ…とまで思ってしまうエンディングでした。
ちょっとこの流れだけ…やたら鮮烈過ぎて、他の要素とのバランスとしてどうなんだろう…って逆効果まで心配してしまう位でしたね。
「長く生きれば生きるほど…馬鹿になっていく」という冒頭のモノローグから、老いや痴呆を想像させる出だしだと感じていましたが、実は教授の知性の高さ故に、言うほど「老い」は伝わって来ていませんでした。だから、ちょっとギャップを感じていたのです。でも…これは誤読…というか妄想かもしれないけど、実は教授は… 妻との色々なことは「老い」で忘れてしまっていて、…でも無意識の判断や行動に根ざすものとして頭に残っていた状態だったのかな… それがあのシーンで蘇ったのかなと思っています。それだったら「老い」も腑に落ちて ギャップも埋まるのですが、さて(;^_^A
それにしても、「謎の人」と教授の会話は…コミカルに仕立てられているけれど、禅問答じみていて、とても深淵でした。導く立場であったはずの教授が…いつのまにか立場が逆転して、謎の人に導かれていく… 気付きを与えていく謎の人の振る舞いが…実に良く、「では… あなたの、たった一つの、箱でございます。」と言って大仰な礼をしてみせる姿にぞくぞくしました。
猿渡サイドの話も、教授の研究を窺わせたり、サスペンス物として面白かった。猿渡の狂った感じや教授の為人を現す「会話の妙」として序盤の牽引役。猿渡の箱の中身もなかなか興味深くて良かったのですが、如何せん妻の話がインパクト強すぎて、… それとバランスする程の演出上の強度が、猿渡側には足りない様に思えたのがちょっと惜しいところ。
篠崎と日向は… 教授の35年に渡る「余生」を意味あるモノと感じさせてくれる味付けとして、とても良かったです。…あと、日向がとても良い娘だったのと、全体として妻路線の話の方が強かったというのもあって、それとの結び付きとして、日向が… 教授に妻を思い起こさせる為人をしている…という重ね合わせがあっても良かったんじゃ…とかも妄想しますね。
ハンザキ
演劇組織KIMYO
名古屋市東文化小劇場(愛知県)
2018/11/01 (木) ~ 2018/11/04 (日)公演終了
満足度★★★★
派手な演出やダイナミックな舞台美術が目玉の劇団ですが… 今回もそこらに手抜かり無しですが、そこよりもむしろ目を惹いたのが妖怪の佇まいと動き。地味だけど繊細で飄々と事を成す。特に件(くだん)の身のこなしは秀逸。ここで秀でる事で他の派手さとのメリハリも効く。
そして主人公 山彦に向ける妖怪の眼差しの暖かさ、必死に最善の選択肢を探り…苦渋の見極めを計る山彦の成長、双方から溢れる想いが素敵でした。そして、終盤、信じるモノへの懐疑と戦う新平の姿が、黒歴史をモチーフとした本作において、欠かせないものに思えました。
カノジョまでの距離、そのあらゆる線分の長さ
Pinchi番地
ナビロフト(愛知県)
2018/11/03 (土) ~ 2018/11/04 (日)公演終了
満足度★★★★
設定の年代以上の懐かしさを感じさせる青春群像劇… それでもしっかり現代の社会形態にハマっていて、それゆえ返って人間の変わらぬ精神的営みも感じさせる。
ロードムービー仕立ての演劇…曰く「ロード演劇」も、…決して単純な流れではなく、2つの時間軸/旅を絡ませる趣向で飽きさせない。(私の気付きではないが、推カケ☆批評塾の語る会で、『過去と現在のパーティで、1人だけ人を入れ替えて時間の識別を容易にしたり、車の向きで時間軸を切り替えたりの工夫が、分かり易さに繋がっている。』との意見があって腑に落ちた。)
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そして遂に2つの時間軸が重なって、ちひろとまひろが同時に舞台に存在したシーンにもドキドキしました。
また、全般的に中堅役者陣の手慣れた演技が素晴らしい。
それでいて若手との噛み合わせも良く、まひろ役の森万尋さんはリアルの高校生だそうだが、とても活かされていたと感じる。すごく馴染んだ感じで人間関係や挙動がとてもリアルに伝わった。(もちろん、彼女自身の演技力の成果であることも疑いない。)
さてタイトルが暗示する様に…「人間を隔てるモノ・距離」が物語のモチーフになっている様で… 物理(地理)的、心理的、時間的、そして生死を分かつ境界までもが様々な"カノジョ"との間を隔てる。
恵太からのちひろへの距離がメインモチーフになっているが、群像劇仕立てのため、性別年齢に関わらず… 関係性を取り沙汰される多くの相手が、皆、タイトルで言う「カノジョ」であるように思えた。
一方、群像的な拡がりゆえに観る側の興味が発散したり、どうしても個々に深掘りする時間が足りなくて、…観る側がどう取っ掛かりを得られたかで印象はだいぶん違いそうだ。取り敢えず私は、各人が抱える様々な負い目の有り様なども合わせて、コミュニティにおける青春そのものを…ありのまま見せられた… そんな印象で受け取りました。
「距離」にフォーカスし、テキストの投影やイスの配置等でそれを可視化していく試みにはだいぶん興味を惹かれましたが、何となく「遠い」か「近い」かの二極しか伝わってこず、微妙な距離感としては、結局役者の演技に依存してみえたのがちょっと惜しいかな。
タイトルの雰囲気から、すごく理屈っぽいところも期待していたけど、基本的に感傷の世界がほとんどだったのは少し残念。冒頭で行われる「イス取り」的演出が印象的で、チラシ絵にも繋がりそうだったので、そういうのをもっと活かしてもらった方が好みだった。
最も印象に残っているシーンは、アイドルひなたんが、黄泉比良坂に現れた母と誤認して自分に抱きついてきた まひろを…見ず知らずの赤の他人であるにも関わらず… 抱きしめ返すところ。
なんたる抱擁力、そして自認する自らの使命に殉じる覚悟の大きさよ。
小ネタとして、りゅうのすけの駱駝演技、生けるカーナビ、口裂け女ばりの久美の追走シーンは気に入ったところですね。
そして最後に… 1つ設定に深淵さが感じられたのが… かよの盗癖。
本人曰く、周りに忘れられてしまったモノを救う行為…なのだが、…他の登場人物の人となりとはかなり異質で、だからこそソコに大きな意図があるのではないかと思う。実際、亡き夫に固執し続けた久美が…かよとの関わりの中で、故人との適切な距離感を見出したように見えた。ただし、かよ自身は何の自覚もできないままに、久美が勝手に気づき納得した展開が面白く…故に観客にもその行為の解釈は委ねられている感じ。ただ、久美は再び夫に手紙を届ける行動に踏み切る結末なので、私が感じたことは的外れだったかも。 ま、久美の行動が衝動的で一貫していない可能性もあるけどね。
ワンラブスーサイド
南山大学演劇部「HI-SECO」企画
南山大学名古屋キャンパスHB2教室(愛知県)
2018/11/03 (土) ~ 2018/11/04 (日)公演終了
満足度★★★★
今年も当たりを引いた学祭公演。振れ幅多様な短編群に、代替りしても楽しませてくれる予感が溢れました。
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「魅せられて」
舞台上に「飛び道具」しかいねぇ!… 奇人変人が飛び交いボケを放ち続ける大空中戦。それを1人で受け止めるツッコミ役ヒロインの頑張りも目立ちましたね。普通の会話劇とは異なるツッコミの呼吸への課題はあるものの、…何となく演劇にしては漫画的な新鮮味を感じました。背後に書き文字が見える(笑)
ハイテンポの展開に不条理劇の味わいもあって、掴みの演目としての役割を充分に果たしていましたね。
ただ、ひたすら斜め上を行き続けた展開ゆえ、…選択肢の少ない最終局面で…返ってオチが予想できちゃったのが少し惜しかったですね。最後に更に突き抜けた…ここぞという隠し玉が欲しかったところでした。"
「ハナのかぞく」
最後にじわっとタイトルが利いてくる… 老犬ハナの家族の物語。逆説で繋げるセンス。
ハナの視点で…少女シホの家族の中での様子が語られるが… 違和感を少しずつ散りばめて、壊れた家族の姿を浮き彫りにしていくプロセスがミステリーじみていて好みの展開。
関係悪化の両親、ハナの延命/安楽死判断の2つの話を… 漠然と別物として眺めていたら、不意にシホが放った「分からないと思った?」というセリフが…「ハナに対するもの」と「シホに対するもの」のWミーニングになって重なり合い、2つの話を繋ぎ合わせた。そこまで割とぬるめに眺めていた私の心にビビッと響いて、ドキリとしました。
そこから安易に夫婦が和解したりしないのにも重みがあって… 翌朝、母がなけなしの決意で掛けた「オハヨウ」という言葉に…父が一旦 目を伏せ… そこからゆっくり視線を上げ始めた刹那に…溶暗して終わる余韻がとても良かったです。
「パラダイス・ロスト」
衝撃的な価値観で展開する物語は極めて鮮烈。
未来に希望を見出せない…昨今の世相を如実に反映した主人公ケンジを…更に巨大な邪悪さをもって呑み込む「自殺ガールズ」の存在感は凄まじいの一語に尽きる。取り憑いた彼女達の可愛らしい外見から吐き出される悪口のギャップは、大きな落差をもって対象に毒を滲み渡らせる。生前から狂気に取り憑かれた3人の価値観…生の感覚を楽しむ為の遊戯… 死の一歩手前で生を謳歌する危険な遊びが…更に一歩を踏み出してしまうまでの流れは明らかにサイコホラーのそれ。
描かれはしなかったが…まだ遊びのつもりだったのに… アスカに漆黒の闇に引き摺り込まれたミキとサナの最期もちょっと見てみたかった…恐いもの見たさ。
いやぁ… それにしてもアスカの狂気は本当に鮮烈だった。
「私は世界中の誰よりも生きている…」
なんて痺れる辞世の呟き。
締め括りとしてはしごく真っ当な「生きていたい…」という結びが、作品として取り繕っていると思えてしまう程、ピークでの鮮烈さは素晴らしかったです。
そういや…いつの間にか主人公がケンジからアスカに切り替わってたなぁ。
まさしくアスカがケンジを喰っちゃってた感じだ。"
ワナビーエンド
ヌトミック
愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)
2018/11/02 (金) ~ 2018/11/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
芝居の実空間は何の変哲も無い場所の筈なのに、独特な言葉の刻みと身体表現が、繊細な駆け引きと不思議な精神世界の深みへといざなう。「音楽的な演劇」を標榜するもミュージカルとは全くの異質、ラップとも一線を画す。地点っぽさもあるが刻みと重ねが別物。
肉体のパフォーマンスも独特で、言葉以上にモノを言ってました。
言葉も音も動きも…体験して初めて伝わるタイプ。
「Q → P」(クーの不可逆反応にローは目覚める)
パッチワークス
人間座スタジオ(京都府)
2018/10/27 (土) ~ 2018/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★
遠く愛媛の劇団なのに何という御縁か、つい1ヶ月前…まつもと演劇祭で『「X(キー)」代入解なき代替可分者の対話』という…何とも噛み応えのある…生々しい想いと不安と感情が降り注ぐのを拝見しています。
そしてまたもや数学物理化学の匂いがするタイトルですが、はっきり別モノなので当然別の作品かと思いきや、…いや確かに別の作品なのですが、どうも同じ軸線上にある思考の元での作品でした。
ある「劇中劇」の創作過程、社会に対するモヤモヤ、伝わらぬ想い、伝えられぬ拙さ、溢れる憤り… 本作品でも「同じパーツ」を使いながらも… アプローチを変え、過程に丁寧さが増したことで、見えてくるモノが変わっていた感触がありました。
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「X…」では劇中劇の主宰の苦悩ばかりが伝わってくる印象で、座組内で物議を醸した「主宰の客演陣への対応」は、劇団員から主宰への強烈なダメ出しを介して間接的に表されていました。その強烈さは、それはそれでインパクトの強いものでしたが、「Re:Q→P」では一転、主宰と客演陣のコミュニケーションは舞台でダイレクトに表されるように変わる。そして、それにより主宰の「暗部」が伝わってくる様になった。
マイノリティと多様性を語るための作品制作の中で、「現代社会の危うさ」を窺わせる映像が…数多く出てきます。それは当初はアンチテーゼとして目に映り、何度となく語られる「演劇は社会を写す鏡」という言葉は、その社会を写し取って、演者に…観客に思考を促すモノとして体現される… …ハズだった。
しかし、その想いを強く曝け出すうちに、…その主宰自身が…その「現代社会の危うさ」の一部であることが露見していく。現代社会の危機を示していた筈のニュース映像は… 自分の姿勢が…歪みが巻き起こすリスクを予感させるモノに変容していく。自分が…自分の最も「望まぬモノ」になっていく恐怖。
想像力がないことが問題ではなく… 誰しもが避け得ぬ「自分の想像力が及ばぬ対象」への対処の在り方が問題なのだと感じさせた。
「X~」では、そこまで思いが及ばなかった。それ故に同じテーマを何度もスクラップ&ビルドすることの面白さを感じた。
ちょっとしたアプローチの違いで伝わってくることが変わるのを如実に体験しました。
アフタートークでは「認知の歪み」で他人の思考を勝手に変容させてしまうこと(相手の言葉を… 相手が意図していない受け取り方をすること)への懼れが語られたが、基本的に観客に対して一方通行になってしまう「演劇(本番)」において、観る側の立場でも避け得ぬことだ。そこが面白味の一つではあるのだが、やはり自戒として「多くの解釈があり得ること」は心に刻んでおきたいなと思った。
なお「舞踏」は、相変わらず主宰の如実な心理を暗喩する存在として効果的で、しかも、この劇場の独特な構造を最大活用して2階に舞踏家を配したことで、私の席からはちょうど主宰の斜め上に舞踏の身体表現が存在することとなって、何とも絶妙な視野になった。
園楽
カヨコの大発明
in→dependent theatre 1st(大阪府)
2018/10/26 (金) ~ 2018/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★
意外に深く深層心理に落ち込んでいくメンタル芝居に見えた。思考にゴボゴボと溺れていく表現が何とも巧い… それでも息を吐くようにツッコミが出るのにもニンマリ。ネタも歌もダンスも演技も大いに楽しんだけど…もうちょっとこの先の闇も観たかった感じがありますね。
第17回AAF戯曲賞受賞記念公演『シティⅢ』
愛知県芸術劇場
愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)
2018/10/26 (金) ~ 2018/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★
大抵ここの戯曲賞作品は生半可な解釈力では歯が立たない上に、今回の演出 捩子ぴじんさんはダンスの振付家!
各々が既成概念を遥かに飛び越えた…「言葉」とその間の「演出表現」の「攻防」が凄まじくて、2作品同時に観た様なボリュームにヘトヘトになりました。
何てったって、素読み30分が110分になるシロモノ。今回もプレトーク、アフタートークが咀嚼の助けになりました。作家と演出家が積極的に言葉を交わしてくれて良かった。
演出構成と人の運用もさることながら、音響もズッシリくる感じが… 人が感じられる全てのモノで襲いかかられた感じでした。
トライアングル・バンケット
アトミック☆グース
千種文化小劇場(愛知県)
2018/10/19 (金) ~ 2018/10/21 (日)公演終了
満足度★★★★
構成的にはオイラーズサプライズを継承した感じ… 勿論、面白い方向で。登場人物たちの隠れた思惑が複数折り重なり、事態が混迷を極める感じはドタバタものとして大いに笑った。サンサンハウスの懐刀・大谷のトラブルシュートの強引さはややに鼻についたものの、それを超えた花嫁の暴走での締め括りは爽快でした。
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ネタバレBOX
【続き】
さて、その絡み合う思惑… オイラーズサプライズの仕掛けの多層多重さに比べると、さすがにおとなしいかな … と、観た"当初"は思ってた。しかし…実は…20"執念"公演としての…劇団としての思惑… 心憎い大仕掛けがあったわけです。
観ていた時、一部にうっすら浮かんだ既視感。私は「披露宴のサプライズ」と「タイムスリップ/タイムマシン」のネタにしか気づかなかったですが、…実は過去15作品と登場人物や事件等が何かしら絡められていた模様で、アトミック☆グースのコアなファンであるほど、心くすぐられる楽しみがあった筈。(私は、タイムマシーンレポート以降しか観ていませんが、それでも楽しかった。)
また、アトミック☆グースの作品は元々全て同じ街で起こっている… 一部は同じ人物が出ているコンセプトだとは、今回のアフタートークで初めて知りましたが、長年続けてきた作品コンセプトが、今ここに結実した感じですね、お見事。
今回のエピソードで好きなとこは、國府の二股疑惑に絡む一連のドタバタかな。
そうそう… 北條の変顔写真疑惑は、まさしく大上さんの現実アテ書きに思えたので、過去作どころか客演にも何か現実と紐づける仕掛けが全てにあるのかも。
楓さんの「普通の役」を見れる稀な機会という意味でも今回は欠かせない公演だったな。なんせ彼女のイメージはデリポで定着してるから(笑)
まさかウェディングドレス姿まで観れるとはね。カーテンコール、そのまま出て欲しかった。
あと、久し振りに田口さんの芝居をたっぷり観れて良かった。実は演劇組織KIMYOでは一番好きな役者なのです。
あおきりみかんの山口眞梨さんも客演連荘で、まさかの着ぐるみ役!
そんな意味でも、今回の客演陣は美味しかったなぁ。
「轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は」
空宙空地
ナビロフト(愛知県)
2018/10/19 (金) ~ 2018/10/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
かなりしっかり骨子は保ったままの再演だったので、根本のところの感想は2016年当時と変わっていない。
2016年の私の観劇ベスト2でもあるし、名古屋市民芸術祭2016・特別賞受賞という客観的な評価も得た作品だから、その根幹のところを改めて生で観るだけでも価値は高いのですが… それに留まらない満足感。再演の価値というか、良い作品を改めてブラッシュアップすること、別キャストで表現してみることの素晴らしさを改めて感じた。
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ネタバレBOX
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INDEPENDENT 3rd season selectionにおいて「如水」と「シロとクロ」でしのぎを削ったライバル…というよりは同志と言うべきヨネマリさんをW主演の相方として呼び込んだ結果として、母娘の重ね合わせがキーの本作ならではの劇的な相乗効果をもたらした。
やっぱ、キレが半端ない。
タケジュンさんの身体能力も驚きの効果をみせて、早送り的な本作独特の流れに、オーバーアクションやパントマイム感は相性が良かった。
そして、本作の二面性の片一方の空気を担う…黄金のパートペアの相方を新たに務めた藤井さんのト○グ捌きは堪えられんな。
俳優が変わって良くなったと言いたいのではなくて、作品を磨き上げるにあたって、新しい俳優の個性を効果的に使った演出だったな…と思うのです。
もちろん、残す良さもあるしな。山形さんの某役は まぎれもなく本作の巨大な楽しみであり続けました。(Wミーニング?)
脚本面でのブラッシュアップは、辛い展開の中での「関戸さんらしい優しい眼差し」が…更に手を拡げてくれたところがポイントかな。最後のアレで父ちゃん救われたな~って思う。ほんま良かったよ。
そして、本作の代名詞と言っても良い…あの研ぎ澄まされた舞台美術運用。棚瀬さんがパネル芝居と称した…「轟音裏面」とも言うべきオペレーション。結構、演出面でも初演とは違う運用がされている工夫もあって(観た後に初演DVDを見返して気付いた)… その緩みの無さに感心した。初演はまだまだ詰める余地が残ってたんだね…と実感しましたよ。
脚本と演出と演技の練度を上げる…磨いて磨いて…つるっつるになるまで磨いたエッセンス中のエッセンス。このねちっこさは、作品にも投影されている気がして… 何度も何度も同じ言葉が呪文のように流れていき、それを図らずも体現してしまう人間のみっともなさの中に、人生の…ささやかだけど掛け替えのない大切なモノを見つけて慈しむ眼差しを向ける… 空宙空地の真骨頂ですよ。
白雪姫 ▼愛知公演▼
体現帝国
七ツ寺共同スタジオ(愛知県)
2018/10/05 (金) ~ 2018/10/06 (土)公演終了
満足度★★★★★
圧倒されまくりの70分。肉体をモチーフに光と影で操るコラボレーション。
枠が予兆していた様に、随所に絵画的センスが光り、カメラのフレーミングを彷彿させるフラッシュライトの操作が抜群に格好良い。様々なコントラストを感じさせる演出にも目を奪われっぱなし。
絵面のみならず、話のモチーフも人の闇に触れる感じで、グリム童話が活かされている。まさしくダークメルヘン。影とは、己とは、搾取とは、自分を活かすこととは… なんともシニカルな視線を現代にも投影してる。
凱旋の昇太郎さん、凄みと道化が融合してて良かったよ〜。
ドミノノノノノノノハラノ
オレンヂスタ
千種文化小劇場(愛知県)
2018/10/06 (土) ~ 2018/10/08 (月)公演終了
満足度★★★★★
まさしく人海戦術でしか成し得ない自然の猛威の表現… 重力に抗うダイナミックさが伝える心理表現、アンサンブルによる凝った演出の数々で…それでこそ伝わる様々なモノがとっても新鮮でした。
おそらくは異界と言っても良いほどに… 様変わりしたであろう 名古屋の風景が、ありありと眼前に見えてくるの不思議。
勿論、小学生たちを中心に周りの大人たちと繰り広げられるドラマや人の振る舞いにも見ものが多くて、大集団座組ならではの醍醐味をたっぷり味わいました。子供組も大人組も人ならぬモノ組もとても素敵。
サマータイムマシン・ワンスモア
ヨーロッパ企画
ウインクあいち(愛知県産業労働センター)(愛知県)
2018/10/04 (木) ~ 2018/10/04 (木)公演終了
満足度★★★★
うっひょ〜、何たるドライブ感。皆が事情を知っているところから始まるから、助走不要、常に全力疾走の展開。時空を駆け巡り…交差する…皆の思惑とタイムトラベルの嵐。些細なものから深い想いまで、行為の全てが繋がる大連鎖活劇でした。
7人の部長
信州大学劇団山脈
池上邸蔵(長野県)
2018/09/29 (土) ~ 2018/09/30 (日)公演終了
満足度★★★
狭い空間に入り乱れるドタバタ、全般として小気味よいテンポで可笑しみの深いやりとりを楽しませてくれました。
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ネタバレBOX
【続き】
高校演劇の名作として名高いらしいのだが、実は高校生が演るのを観たことなくて(笑)、名古屋でも大学生キャストで観た。…そして、戯曲に潜んでいるテーマ…というか、風刺?として… およそ予算折衝とは言い難い"体たらく"をコミカルに描きながら、その状況が「真に意味すること」を最後にシニカルに明かす展開が印象的… 何となく、まるで冷や水を浴びせかける様なオチだ。
その印象は前に観た時と変わらず切ない。そして… 無力感の中に、ちょっと…ほんのちょっとだけ一歩を踏み出した後味を残してくれる。
さて、では 山脈(松本)と くじら座なごや(名古屋)と差を挙げるとすると… 生徒会長の印象の違いが一番かな。
名古屋での会長は男性でした。
何となく頼りなげな印象もあって、最後のオチに繋がる憂鬱さが潜んでいたのが後からじわっと分かる感じ。
松本での会長は女性でした。
この役者には快活さと力強さが感じられて、キャラクターとしてはより魅力的でした。業務上は礼節を保つのに身内(文芸部部長)に対する扱いの荒さ(ノートで裏拳パンチ!)とか、活き活きしてた。
…そこが返って…オチに対してはギャップになってしまう気もするが、…カラ元気だったって受け取れば良いのかな。あるいは本来は強烈な個性のある子でも…受け入れざるを得ない現実の厳しさ…と感じ取るべきか。
同じ戯曲から生み出される表現は様々ですねぇ。
君ができないことはほかの誰にもできない
演劇工作室キルト
上土劇場(旧ピカデリーホール)(長野県)
2018/09/29 (土) ~ 2018/09/30 (日)公演終了
満足度★★★
何やら他の団体とはちょっと異質な…メンバーの混在感と手作り感が漂っていたのですが、どうも地元の演劇教室が母体らしく…なるほどな、と思う。
幅広い年齢層の役者陣…という小劇場演劇ではなかなか得られない特色を持ちながらも、なぜか登場人物の設定年齢がみんな高校生という矛盾に面白味あり(笑)
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ネタバレBOX
【続き】
冒頭のお茶会の謎めいた雰囲気や、SNS四天王のぶっとび感、VRの活用を逆手にとった滑稽味溢れる描写とか、そこかしこのアイディアはとても面白かった。本来は、能力ごとの個人別指導とかは教育の一種の理想なんだけど、傍から見せられるとなんとも笑える絵面だった。
キャラクターも中々にイロモノ的な面白さがあって、特にペッパー君は激推しの面白さでしたが、…いっぺん笑ってもらったら使い捨て…ではなく、終始出番があるばかりか、キーパーソンにもなっていく使い方をしているのには感心しました。
ここからちょっとビックリな巨大大道具に繋げていく発想も面白かったです。アレはかなり意表を突かれましたよ(^。^)
あの日から、明日へ「イーハトーヴの雪」「前夜」
Gin’s Bar+アクターズ仙台
上土劇場(旧ピカデリーホール)(長野県)
2018/09/29 (土) ~ 2018/09/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
短編2作「イーハトーヴの雪」「前夜」による構成。
ただ、それのみならず…幕前、幕間に演奏されるオカリナが、ホールの音響効果も相俟って大変叙情的に響く… まさしくホール内に響き渡り、2作を1つに結び付けた。以下、作品毎の感想をネタバレBOXへ
ネタバレBOX
「イーハトーヴの雪」
本作を観るのは大阪、名古屋に続き3度目。
津波に呑まれた妹の亡骸を探して遺体安置所を廻る男が、この日も…結局、妹ではなかった亡骸に語り掛ける。
内容を知っていてなお…切実に…ひそやかに沁み入ってくる空気。音と光と…そして線香の香りからも浸透してくる切なさ。亡骸に対して男が掛ける言葉も、同じ土地で苦難を共にした者への礼節と慈愛に満ちて、方言故か…より人懐っこく響く。
なんでなんだろう…ほぼ全編にわたって非常に落ち着いた、穏やかなテンションだからかな。…既に涙は枯れ切って感覚も麻痺している… それでも…いや、それ故に…心の中に留まった大事な想いが伝わってくる感じ。彼にとって、この行為はしっかり根付いた生活の一部であり、亡骸に振る舞うお裾分けから…何となく生命の力強さを感じることもできる。
…その穏やかなペースの中で、たった一度だけ大きく響かせた「景色そのものの喪失」に対する言葉が… 眼前に広がる空虚の響きを再現していて、穏やかさの裏にある激情を…一瞬だけ垣間見せました。
そして、忘れないための努力… 背景は異なれど共感あり。
「前夜」
結婚前夜と思しき男女。しかし何故か女性は相手を兄と呼び…微妙な関係性を窺わせる。幸せが控えているのに…和やかな会話を交わしているのに…漂う微かな緊張感とミステリー感に惹き込まれる。 そして、徐々にその背景が明かされていく。…物語には…二重の仕掛けも隠されていて…終盤の「数」の不一致による予兆から徐々に膨らむ盛り上がりがとても利いていました。明かされた事実は… とても切ないけど、2人はそれを呑み込んで、そこからまた一歩を踏み出す。じんわり心地良く涙できる後味でした。
今日も、バスが来ない!
劇団 蒼天の猫標識
上土ふれあいホール(長野県)
2018/09/29 (土) ~ 2018/09/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
「バスが来ない」「バスは来ない」に続く…再演に非ず…リメイクというべきブラッシュアップ。結構、後味も変わった。
夢を叶えるため東京行のバスを待ち続ける少女・ひじき。バス亭にたむろする…夢追いの先輩たち(海藻女子)。そして意味ありげにバス亭に座する謎の男。
楽しく夢を語り続ける先にあるものは… 果たしてバスは来るのか…そもそもバスとは何なのか。短編アレンジとなり、長編での味でもあった不穏さとミステリー感を思い切って削ぎ落した代わりに…核心に よりストレートにリーチ。
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ネタバレBOX
【続き】
今回は「本当の夢を取り戻す人」のみにフォーカスされたけど、実は前作には「夢を諦める人(周りに流された人)」がW主人公的に存在していて、そこら辺への慈愛に満ちた描き方が味わいにもなっていたのです… いや、前作でのインパクトはむしろそちらの方にあった。
しかし、今回は前者に絞り、展開を1本に集約することで、初めての土地でも観客への訴求力が増していたと思う。
それを後押しする意味で、エンタロウ(前作のアカシア ポジション)も より存在感を増した。
終始その場に存在し、興味なさげに振る舞いながら、ポツリポツリと投げかける言葉が、ことごとく複線であり、核心にそっと触れては消えていく。
終盤では、蒼天作品には珍しいテンションの高いセリフ(「あなたのことですよ!」… から、「そんなところは無い!」のくだり)がとても印象的でした。観察者の筈だったのに… つい踏み込んでしまった気持ちの変化に、彼がこれまで観察者として積み重ねてきた無念の想いがうっすら見えました。
それ自体が…自称「夢を追う人」達への揶揄にも思える。
あと、前作との印象の違いで言うと、海藻女子たちの志望ジャンルが分散することで、オタトークが薄まって内容が一般化されたな。なんせ前作は主人公以外もみんな声優志望だったので、会話の濃さが半端なかった。その濃さと…海藻女子たちののめり込む感覚が、異様な世界をカモフラージュする味だし、楽しみでもあったのだが、同じクラスタでない人には… 濃すぎだったのかもしれない。それゆえの方針転換なのだろうか。
ひじきのバイト先のメンバーが伝聞ではなく…実際に出てきたのも、夢を追うことへの外圧を生々しく感じさせてくれて良かった。
彼らのとんでもなく違和感を放つ衣装は、逆を言えば、一般の人たち…あるいは夢を諦めて現実に呑まれた人たちにとっての…「夢を追い続ける人」に感じる異質を示すものでもあったと思う。
思えば…「バス停」が無くなってしまった世界…というのも、夢を追えなくなってしまった社会を暗喩しているのだろうねぇ。
演出面で最も目を…耳を惹くのは、東京生活を礼賛する「SNSでの投稿やリアクション」が多重的に膨張していくシーン。(座組での通称は「東京賛歌」だそうな。)
前作からあったシーンなのだが、無機質で感情を込めないセリフに… 照明による多色多重のキャストの影、…シーン終盤から輪唱の様に付加される声が折り重なって、重層的に夢追い人を呑み込んでいく空虚感が強まった。
この感覚の強度は座った場所によってだいぶん違った様で、2度目に最前列桟敷で観た時は、上から降ってきて包み込んでくる音響効果が…もうホント凄くて、なんか吸い込まれていきそうだった。
いばさんの作風が変わりつつある今、過去作での謎めく感じに、今の「身近な心情の彫り込み」が加わる…過渡期ならではの作品でした。
新キャストも美味しすぎ。蒼天は推しの巣窟なのに、客演まで悉く推しばっかりで、ホント夢の国!