I元の観てきた!クチコミ一覧

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劇の劇

劇の劇

壱劇屋

ナンジャーレ(愛知県)

2020/01/18 (土) ~ 2020/01/19 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/01/18 (土)

うん、さすが大熊さんが率いるパフォーマンスは見事。流れてきた写真からの期待を裏切らない。動きには三人三様の感じもありましたが、今まで演技だと癒し感のある表情を見せてくれていた高安さんがキレっキレの動きを見せてくれたのが印象的でした。

そしてお話がまた 白昼夢感漂う趣きで…笑いあり 不条理感あり… パフォーマンスを見にきた心構えの隙をついて面白味が沢山あった、ラッキー。

人ノ形

人ノ形

オレンヂスタ、演劇ユニットnoyR

穂の国とよはし芸術劇場 創造活動室A(愛知県)

2020/12/26 (土) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/12/27 (日)

オレンヂスタ 『光の園』は上演中止になってしまいましたが、noyR『アイデアル』がとても面白かったのでかなり満足。

夫の母の死後、若き夫婦の元に吹いた一陣の風。夫のカミングアウトはセクシャリティに留まらず、彼に纏わりつき…摺り込まれ… 歪められた価値観を露わにしていく。しかし…拒絶された妻もまた"普通"じゃなかった。描かれる人ノ形、愛ノ形、数多の理想。

戯曲自体かなり面白いが、演出としてコンテンポラリーダンスも交えて描写される出来事は… 抽象と具象が入り混じった感覚を与え… 言葉以上に演技で訴え掛ける情報も多くて、想像が膨らむのが素晴らしい。

「東の海の彼方」

「東の海の彼方」

コンブリ団 with 三毛猫倶楽部

G/Pit(愛知県)

2020/12/18 (金) ~ 2020/12/20 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/12/19 (土)

何かしらの激甚災害の跡(?)… 行政は機能しなくなり、富裕層は海外へ移住… 中間層はサイトと呼ばれる組織が管理するシェルターへ… 更にそこからあぶれた者が寂れた市中を彷徨っている… そんな感じの近未来が舞台らしい。

放射能汚染?といった趣きだが仔細は語られず…そこには意味は無いのだろう。謎が明かされていくことが面白みになるミステリーとは趣きが異なる。

非常事態にあって…何もかもが「しょうがない」と… 差別と非寛容が肯定されて…切り捨てられていく人達がいる悲しき世界が…ただそこにある。

悲しいかな確実に… この現代日本の延長線上に在ると思わせる空気に… もの凄いリアリティとシニカルな視点がありました。

一方で、冒頭から幾度も語られる伝承(?)には… 原始的な宗教感… というか死生観?があって、近未来の現実感に不似合いな印象もありました。残された人たちにとっては…もはやそういうところにしか 縋る寄る辺がない… ということなのだろうか。

全体としては すっぱりカタのつく物語構造ではなく… 登場人物のモヤモヤが吐き出されて、不透明なしがらみと決別して前に進んでいく趣きで終わった印象。

観る者によく分からない何かを背負わせる後味もあって、感想も歯切れが悪くなっちゃう。ただ…それこそが人生だって気もするね。

『グッド・バイ』

『グッド・バイ』

愛知県芸術劇場

愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)

2020/12/18 (金) ~ 2020/12/19 (土)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/12/19 (土)

痺れるほど格好良い空間でした。その場に居てこそ伝わる雰囲気、個々に濃密な視野を更に見廻して味わえる贅沢な視界。

バーカウンターに居並ぶ役者達は如何にも太宰ワールドを象徴する人々の佇まい。古風な出立ちなのに… 照明効果も相まって都会的でもある。発せられる言葉は巧みに切り刻まれて…所謂 地点語の態を成して音楽的な拡がりをみせる。断片的な筈のそれらは…何故だか次第に纏まって何らかの概念的なモノを伝えてくる感触がある。それら演劇的なモノを… 作品を通底する空間現代の音楽が後押しし… まるで麻薬の様に脳内に浸透してくる。

本作は太宰治 未完の遺作「グッド・バイ」をタイトルに冠してはいるが、実際には氏の50作近い作品から言葉を切り出して構成したコラージュ作品。太宰治作品というよりも…太宰治その人を表現した趣きが強いですね。複数の作品から太宰治を描くという点では、一種のモンタージュ技法なのかも。

結果として物語を追っていくような楽しみ方にはならず、ひたすら感覚的に「太宰治を浴びてる」様な時間を過ごしました。頭をからっぽにして… 視覚を… 聴覚を刺激され続けているだけでも満足感あったなぁ。

太宰治フリークなら、更にもっと濃い楽しみ方ができたのだろなぁ… とは思います。

Gulliver-不安の島-

Gulliver-不安の島-

体現帝国

名古屋市内某所(愛知県)

2020/12/07 (月) ~ 2020/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★

6つの川を渡り、その度に何かを失って…残るのは名前のみになった不安の徒 Gulliver… いや、ガRiverなんじゃねぇか(笑)… っていう妙な言葉遊びの風味もあるコミカルでシニカルでアグレッシブな… 曰く 野外移動式摩訶不思議演劇アドベンチャー。

世の不安を題材に… 時に「不思議の国のアリス」にみたいな不条理空間に幾度も突き落とされましたが…不安に対する評はむしろ真っ当な分析の様に思えて…本来のガリヴァー旅行記の原点が元々「風刺」であることを踏まえれば、これも現代日本を見立てた風刺/翻案なんじゃないかと夢想もする。

ネタバレBOXに続く

ネタバレBOX

なお… 「ガリバー」と「不安」で検索すると…
『不安と闘うすべての人に安心な移動を。』
…って、中古車販売のガリバーのCMが出てくるの笑う。なんも関係ないと思うけど。

ちなみに… 私の本公演での「不安」の最大のピークは… 割と初っ端に目隠しして拉致られた時… その場限りのネタと誤解して「手荷物」を置いてきてしまい… どんどんムカデ行列(?)が作られて…『ヤバい… これ移動するぞ… 荷物どうしよ:(;゙゚'ω゚'): 』ってなった時です(;^_^A

#割と真剣に焦った

それ以降、どんどん進む観客巻き込み型展開は…非常にワクワクするもので… 役者が形作る異形で… 時に禍々しい雰囲気の数々は… まさしくライブ体験あっての不安と喜びの時間でした。楽しかったなぁ。

会場の各所のモニュメントを活用した… 様々な「画作り」もなかなかに粋で美しく… ちょっと懐かしさもある。間近で見れて良かったぁ。

好きなキャラは「不安姉妹」…とても毒々しくてヤバかった。客弄りは「不安分離抽出実験」が好き。アドリブだろうけど、実験した女性の… たぶんカップルの相方に『アンタのことちっとも信じてなかったよ』って捨て台詞が気が利いてた笑。名前忘れたけど、外骨格マシーンもイカしてる。欲しい(笑)
彼女は海を見ている

彼女は海を見ている

名城大学劇団「獅子」

G/Pit(愛知県)

2020/12/11 (金) ~ 2020/12/13 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/12/13 (日)

ウミガメの赤ちゃんではなく…その前の動けぬ「卵」を擬人化して主役に据える切り口は斬新。その卵が殻を破るまでの…コミカルでアグレッシブで… そしてリアルな苦悩を擦り込んだ… 社会に踏み出す卒業生らしさ溢れる物語でした。

ネタバレBOX

会場の仕立てから既にメルヘンチック。観客は入場から何の生き物かを割り当てられ、上下に別れて動線を作る… 入場から抜群の雰囲気づくり。…素敵な海の青さ…絵本に見立てた真っ白な舞台美術…拡がる砂浜…シンプルさと大胆さを兼ね備えた画作りでした。

パロディっぽい仕掛け…たまごクラブ軍事教練や、観客と共に楽しむアドリブ満載の趣向もバラエティ番組を見ているよう。コロナ禍の鬱憤を晴らすよう色々詰め込んで楽しかったね。そして本作の核となる… 卵の"シィ"と"ロク"の掛け合いも冒頭からハイテンポでナイスバディ(相棒)感を発揮してました。
パーゴラの碑の下で

パーゴラの碑の下で

劇団ラッキーキャッツ

みんなの森ぎふメディアコスモス みんなのホール(岐阜県)

2020/12/12 (土) ~ 2020/12/13 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/12/13 (日)

ネタバレBOXに書きました。

ネタバレBOX

樹木葬が売りの霊園に降り掛かる「ホームレスの巣になっている」という風評被害。周りが騒然となる中、心当たりに戸惑いをみせる新入りのスタッフ。思い起こす…前職のコロナ禍で受けた心の傷。じわりと拡がる自責の念。

…安易に上っ面の社会正義を振りかざす展開にはならないシビアさには現実味がありました。実際、ホームレスに近寄って欲しくないと思う気持ちはそう簡単に否定できるものではありません。奇しくも同じ日に…そういう人達に街で遭遇して、綺麗ごとでは済まない…心の内にある感情を実感しました。

序盤の「ハクセキレイの距離の取り方」という切り口に新鮮さを感じ、そこに新たな共存の在り方を探る流れを予感しましたが… 然に非ずでした(;^_^A

厳しいなと感じたのは… 好意的に対処できる人すらも否応なく「溝」に阻まれる社会の構図。その溝を作るのが余計なお世話の「第三者」という…そんな分断社会を促す構図がやるせない。皆が的を探している… という台詞が刺さります。

ラスト…「碑」を象った照明に神々しさを感じる一方で… 己が精神の安寧の為に「葬ってしまった」様にも映る。そんな真逆のイメージが共存する皮肉な画作りに、問題が抱える根深さを感じたりもしました。
アンドロイド演劇 『さようなら』 &平田オリザと石黒浩の対談

アンドロイド演劇 『さようなら』 &平田オリザと石黒浩の対談

公益財団法人豊田市文化振興財団

豊田市民文化会館(愛知県)

2020/12/06 (日) ~ 2020/12/06 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/12/06 (日)

死期が迫る女と… 彼女に詩を贈るのが使命のアンドロイド。その最後の仕事とその果ての最期。

アンドロイドはかなりリアルな仕草を見せてくれるが… やはり口調には若干の異質さは見え隠れするなぁ等と思っていたら、主人の問いに逡巡する"間"に…絶妙に人間そのものに感じて唸った。

ネタバレBOX

アフタートークで伺ったら、やはりがむしゃらに“人間らしく“を狙うのではなく、そういう落差を敢えて作って演出されるのだとか。そういう意味ではすっかり手玉に取られました笑。裏話的な…背後でのオペや俳優側の技量の話も伺えたのは興味深かったです。なお、出演のアンドロイドは10年モノで、最新のはもっとガチにリアルだとか。ただ、それを舞台に持ち込むには機材がでかくなり過ぎるとかで… 何か柴田昌弘のフェザータッチ・オペレーションを思い出しました。
投げられやすい石

投げられやすい石

ハイバイ

三重県文化会館(三重県)

2020/12/05 (土) ~ 2020/12/06 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/12/05 (土)

ネタバレBOXに書きました。

ネタバレBOX

失踪して2年が過ぎ… 盟友・山田と元カノ・美紀の元に再び姿を現した天才肌の異色アーティスト佐藤。しかし彼の姿は変わり果て… 密かに死期が迫っていた…という展開。

前半、コンビニ店員による… 差別的で理不尽な暴力に晒される佐藤の姿に…最初はそういう意味の「投げられやすい石」なのかと思いきや然に非ず。もっと生々しいアーティストの「末路」が赤裸々に描かれる…その道を歩んだことを自己満足として消化することすら叶わず…一切の救いを与えてくれない壮絶な地獄絵図。アーティストにとってはホラーに等しいかもしれない。

序盤からの気まずい空気の中… 繋がりを手繰り寄せる様に気ごちないコミュニケーションを続ける3人の振る舞いは、実にリアルな挙動不審さで… 一歩また一歩と…「生」と「関係」の終わりに近づいていく緊迫感が絶えずありました。

そんな中で… もはや浮浪者同然の佐藤の心の内に窺える全盛の頃と変わらずに潜む強烈な「アーティストのエゴ」みたいものが非常に印象的でした。山田に喰って掛かる… 「独創なくして人に非ず」みたいな態度は… 理解はすれども、非才の身には些か不快なぐらいなのだが、もはや彼には…そこにしか縋る寄る辺がない…と思えば腑に落ちなくもない。ましてや最後のカラオケ…「喝采」での締め括りに至っては… その調べや漂う悲哀の美しさとは対照的に… その歌詞の意味を踏まえれば、さながら佐藤をその場で「亡き者」する引導の如くでもあり、極めてシニカルで残酷な表現に思えた。

パンフに拠れば… 本作は岩井秀人氏がまだ売れる前それでも自信だけは無闇にあって、日々怒りを募らせていた時代の作品とのことで、「才能」という得体の知れないモノの危うさに溺れそうになりながら… それでもこういう作品を描けるのは凄まじい。我が身の切り売りは作家の常とは言え…その恐怖を突き詰めるマゾヒズムの極致にも思えました。

ここまでの死線はそうそう無いにせよ… 才能と心中する末路を描く地獄の様なこの作品は… 特に実際に作り手の立場の人達には… 良い意味でも悪い意味でもザクザク心に刺さってくるだろうな。様々な諦めを積み重ねて人生を過ごす… すっかり枯れてしまった身としては、そんな姿も眩しく映る。
燈籠

燈籠

perky pat presents

円頓寺Les Piliers(レピリエ)(愛知県)

2020/11/29 (日) ~ 2020/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/29 (日)

実に味わい甲斐のある芝居をされていました。TLでは不幸が似合いすぎると評判でしたが(笑)、そこからの反動たる凛とした空気、狂ったかと見紛う主張の強さ…そしてそれらが…さき子が受け続けた抑鬱や理不尽ゆえと窺わせてくれる深みが… ある種の社会風刺まで感じさせてくれて、何重にも美味しい芝居でした。


続きはネタバレBOX

ネタバレBOX

愛する人のことを思っての万引きで捕まって、恐怖のあまり… 堰を切って流れ出した自己弁護… いや… 自分を捕まえるべきではないと…まるで教え諭す様な「謎の上から目線の自己正当化」は、気が違ったとばかりの見苦しい諸行に一見みえますが… そう一笑したり非難して済ませられない奥行きが潜んでいる。

万引きの告白に入る前までの彼女の語りの表現… その表情が実に彼女の愛らしさを表わしていて…くるくる変わる表情や仕草が…多大な現実感を添えて静かに舞台上を踊る。これを観ているとね、彼女の行為を…単に狂人のそれと斬って捨てられない。本作において…さき子に無意識に寄り添わせる素敵なナビゲーターになっていました。

父母を含めて…ずっと謂れのない差別と理不尽に虐げられ…誰も救いの手を差し伸べてくれることなく…慎ましく生きてきて… たった一度 自分が起こした理不尽だけは周りが許してくれず… 社会全体から好奇の目に晒される憂き目に会う地獄絵図。一度 非を認めればどこまで罪を問われるか分からない恐怖を募らせた「今度で何回めだね?」という決め付け…後日、想い人たる水野が「さき子さんは学問が足りない」と一見正論で突き放すのも、今で言う自己責任論のそれに映り、それ以前に厳然と立ちはだかる「その身が置かれた貧しさと差別と不遇」という… 覆し難い環境を慮ることのできない甘さを感じさせた。
「水野さんが、もともと、お金持の育ちだったことを忘れていました。」は、実に辛辣な人物評でしたね。百年の恋も冷めるというヤツ。

そして最後の電球交換のくだり中での家族の明るさが、この家族の憐れさをいや増す。たかが電球1個で著しく輝きを増す世界の…元の暗さのいかばかりか。その一方で… 貧しさの中で生きる力強さを… 合わせて感じることができてグッとくる。なんだか観ている方の想いも色々と揺さぶられる落差と緩急でしたね。

勿論、原作だけ読むと… 彼女の言説をそのまま信じることの危うさを感じる不整合や疑惑も浮かぶのだが、そういうのが綯い交ぜになっている作品構成もミステリアスで良いですな。

さて、今回もう一つ特筆すべきは… 原作を包み込む様な独特の脚色… いや、構成と言うべきかな。

原作「燈籠」の…さき子のモノローグをただ演じるのでなく、その傍らで この物語を読んでいると思しき女医の存在がとても謎めく。藤島さんがこの2人を交互に演じる1人2役の建て付け。

彼女の振る舞いも…ただ読んでいるのでなく、頁を行きつ戻りつし、ポストイットなんかを貼ったりもして、さながら さき子の心理を検分するかの様でもありますが、その彼女の数少ない言葉が、観客に対して物語を客観視させ… 反芻を促してくれるのが物語の深みを増して、とても良い按排です。

その役目さえ果たせば、彼女が一体何者なのかはどうでも良いのかもしれない。

ただ、性分として色々想像してしまうのですが… 最初に思い付くのは、さき子の証言を検分する精神科医の佇まいですが… 敢えて時代考証を覆す様な小道具を使って、燈籠世界との一体化を阻もうとしている気もする。

最終的に自分として一番腑に落ちるのは、稽古を前に戯曲を読み込む俳優の姿です。さき子の心理の奥に辿り着こうと思索に耽るその姿は… 実際の女優の姿そのものを写し取ったにも思えました。

散乱マリン

散乱マリン

下鴨車窓

三重県文化会館(三重県)

2020/11/28 (土) ~ 2020/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/28 (土)

見事に寓意に溢れる… 現代の寓話というべき舞台でした。

詳細はネタバレBOXに書きました。

ネタバレBOX

野原に積まれた解体自転車の山…それを挟んで対峙する2つの集団があった。その山は… 片方にとっては 盗まれた祖母の形見の自転車であり… もう片方にとっては 廃棄物からの再生/創造を期すアート作品だった。

互いに譲れない思い入れを賭けて争う双方が…互いに人語を解しない動物… 曰く「カラス」と「野犬」だと認識している(比喩でなく!)… という独特でファンタジー味のある設定が、逆に… 見事に現実の「二項対立社会」を表現しているように思う。

SNSで裾野を拡げて可視化された現実社会の対立は… 確かに呆れるほどに「対話」足りえず… まさしく互いの言葉を理解しようとする気は… いや聞く気すら一切なく… 相手をやり込めることしか頭にない。現実は… この舞台が具現化した世界そのままに思えました。

そして… それだけなら 皮肉に留まるのだが… 後半に出てくる「狩人」が… また実に恐ろしい。まさしく「対立」を煽り…利益を得ている者が… この社会に実在することを思わせる。武器を与え… 自分が責任を負わない様に巧みに心理誘導し、争わせては戦場に倒れ伏す屍肉を攫っていく。何とも ぞっとする光景でした。見事に寓意に溢れる… 現代の寓話というべき舞台でした。
『via Ethiopia』

『via Ethiopia』

演り人知らズ

AHAアトリエ・ギャラリー(愛知県)

2020/11/24 (火) ~ 2020/11/28 (土)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/11/27 (金)

再演続くレパートリー…キャストを変えながら かれこれ4回目を観る。甘酸っぱさと苦味…理想像と生々しさ…そして薄っすら背景に浮かぶきな臭さ。多くのレイヤーを携え…作品に臨むちょっとさた目線の違いで映る像は大きく変わる。今回のキャスティング、ばっちりハマってますよ。繰り返しが多い演目だから、役者の振る舞いの味わいもいや増す。

「その鱗 夜にこぼれて」

「その鱗 夜にこぼれて」

空宙空地

千種文化小劇場(愛知県)

2020/11/26 (木) ~ 2020/11/27 (金)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/27 (金)

再演で大胆に変えてきた… 伝えたいことはそのままに、初演で大きなイメージを担った部分をバッサリ切り落とし、代わりにフォーカスした部分はより丁寧に… 別視点も新たに炙り出す。並行世界感も醸す新しい “その鱗" 爆誕!!

INDEPENDENT:20

INDEPENDENT:20

INDEPENDENT

一心寺シアター倶楽(大阪府)

2020/11/19 (木) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/23 (月)

コロナ禍の中、今年もなんとか観に来れて、出来もとても良質で本当に良かった… 幸せ。最後に来年実施の4SS(4th Season Selection)の告知もありましたが、私は観始めが3SSだったから、ちょうど1Season廻ったなと感慨深かったです。

とりあえずオーソドックス系では「くいくがりのなみだ」の作りがピカイチに好み…心理弄ばれたわ〜 さすが関戸さんのホン。

一方、全く想定外から攻めてきた「このカラダ」「七転罵倒」のインパクトが凄い… 特に前者は筆舌に尽くし難い異次元のモノだ。

「Lisa」はエンタメをギュウギュウに詰め込んで鳩川さんの演技が心地よかったなぁ。

「YAKISOBA」はまさしく「今」に刺さる芝居として今回挑んでくれて良かったなぁ… ただ上手客に超厳しい笑。

「02:解なし」は反則やん笑、失業夫婦の一体感の見事さに対するご祝儀なのでしょうか?、客にとっては楽しけりゃ良いんですけど、あるいは次シーズンに向けての運営の布石なんでしょうか?… な〜んて。

#456789の舞台

#456789の舞台

とよた演劇祭

豊田市民文化会館(愛知県)

2020/11/21 (土) ~ 2020/11/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/21 (土)

人類がその個性として 1677万種のコードで識別される "色" を生まれ持ち… 色相における反対色を持つ者同士は… 触れ合うだけで物理的な危険が及んでしまう分断社会。

星新一を彷彿とさせる… 日常にSFを滑り込ませた様な設定にまず引き込まれる。そして、それに対する人と社会の在り様が…しっかりと「現実」を暗喩し…シニカルな風味になっていることもまた然り。上質なショートショートの佇まいでした。

親から子へと繋がっていく物語構成も… 人の想いと時の流れの重奏な響きを作り出していて、メッセージに深みを添えていましたね。

色というモチーフを反映した… シンプルだけど印象的な衣装に… それを味付けする様々な効果。映像を照明の様に投影し… 光・水・波紋といったイメージで彩る演出も眺めていて心地よかった。

そして本作の象徴とも言える「赤い海に青い夕陽」の絵画… それそのものは舞台上には現れませんが、その絵画を前にして驚きに包まれるソラとアサヒ… その2人の少女のえも言われぬ表情は… 本当に見事にその感動を表していて素敵でした…とても好きなシーン。

彼女たちが眺めているその絵画の素晴らしさを… 見事にその表情に写し取っていて、観る者にそのまま伝えてくれていた感じでした。

バイバイリバティ・レチタティーヴォ

バイバイリバティ・レチタティーヴォ

今日もミルクがこぼれそう

愛知県一宮市愛知真和学園 大成中学・高等学校 体育館(愛知県)

2020/11/21 (土) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/11/21 (土)

とあるボーリング場で巻き起こる… 狂想曲が如き波乱に次ぐ波乱… いやVR波乱?(笑)

あたかも芝居に飢えた演劇人どものエチュード主導権争い勃発な感じでもあり… まさか…この剛腕力技な展開を2時間続けようとは(笑)、そしてそれで飽きさせなかったのも 凄いよ。様々なパロディを眺める感触も楽しく… そこから不意に突き落としてくる終盤の落差が見応えありました。

弄られ王いばさんの活躍と須原女史の華麗な元ヤン振りは必見。加川さんの憑依的演技も美味しい。

けむりのゆううつ

けむりのゆううつ

劇団芝居屋かいとうらんま

御浪町ホール(岐阜県)

2020/11/20 (金) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/20 (金)

想い人達の“逢いたい想い“が… “逢えない社会事情“に翻弄される悲恋の名作「八百屋お七」を… コロナ禍での想いも込めて大胆アレンジ。禍難の愛のみならず… 周囲が作り出す「身勝手な真実」にも比重を置き、社会風刺としても刺さる。

ネタバレBOXに続く

ネタバレBOX

獄中に在ると思しきお七が語る回想では… 何故か3色(人)のお七が入り乱れて演じられる。それは三面六臂の阿修羅観音にも喩えられ、無垢・迷い・悟り と意味付けられた。その切り替えは… 最初はお七の心情の変化を表すものと思って観ていたが、次第に趣きは変わり…彼女らは あたかも「並行世界」に生きるが如き多様な結末を迎える。

黄色いお七は…無垢なる想いを拗らせて 逢瀬を叶えんと募った妄想の果てに火を放つ。

青いお七は…自分で決断する事…自立を望み、自らの過ちを正さんと一命に代えて半鐘を鳴らす。

赤いお七は… 自暴自棄の果てに、取り巻く社会もろともに破滅の道を望んで その身すら業火に焼く。

この有り様は、実際の「八百屋お七」の作品としての変遷も彷彿とさせます。

放火/火刑の記録しかない史実に…噂話に伝わる悲恋が上乗せされた井原西鶴の小説が「八百屋お七」作品の起源だが、人気に後押しされて色んなジャンルに伝搬し、その都度 創意に溢れた脚色を纏っていく。浄瑠璃や歌舞伎などの舞台作品に至っては、死罪の理由は放火ですらない。

その多様性に対して…本作では1つに絞ることなく… 各々のケースにしっかりと寄り添って真実味溢れる芝居を演じた。その上で更に…その装飾された真実により… 自らの「想い」が歪められることに憂う お七の姿を描き出した。

真実を問われるお七は… 逆に真実の意義を幾度となく問い返す。人は結局 自分に都合の良いことを信じるだけだ… そう社会の有り様を揶揄し、その結果として3人のお七の結末を突きつけた。それはスキャンダルを消費する民衆に対する皮肉なのかと最初は思ったのですが… なんと彼女はそれも否定する。
「事実」は好きに弄べばよい… ただ…ただ「想い」だけは捻じ曲げないで欲しい… そんな願いが伝わってきた。

そして遂に3色のお七もろともに… 想いを叶えた多幸感溢れる最後の表情はまさしく「ハッピーエンド」のそれでした。
怪談さながらの趣きもあった流れからは… 真逆の着地。「八百屋お七」にそんな後味を感じたのは初めてのことでした。

想い人達にはどんな時にも… 幸せを感じていて欲しい… そんな願いの伝わる… かいとうらんま流の「八百屋お七」でしたね。
OKiNaのキ

OKiNaのキ

双身機関

道徳ハウス(愛知県)

2020/11/14 (土) ~ 2020/11/15 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/11/14 (土)

このコロナ禍にあって、日本の伝統文化に強い影響を受ける双身機関が疫病封じの流れを汲んで、まさしく神事そのものの想いと風合いをもって本公演のカタチとしたのは自然の流れだったのかもしれませんね。塗香(ズコウ)や神水… 灯明に見立てた線香花火など雰囲気たっぷりで儀式の中に観客を取り込んでくれて、祈りの一部に加えてくださった。今尚…私のメモ帳からはお香の香りが立っています。

ヒトガタに想いをのせて故人を悼み、災いをイキガミの怒りと捉えて鎮め、祓う…しかしその責を徒に課すでなく、共に祈る形になってゆくのが印象的。何となく現代の価値観を汲んだアレンジなのかな…とも想像しましたが、浅学ゆえ真偽のほどは分かりません(;^_^A

舞台上の演者(?)達だけでなく、スピーカー越しに聞こえてくる声も印象的でしたが、どうもリモート出演だったようです。

声だけでなく、楽器音や… 何とも言い難い効果音(?)… キーキーと擦れる様な… 必ずしも心地良くはない音まで含まれており、伝統文化の奥深さを窺わせてくれました。

『朽ちた蔓延る』

『朽ちた蔓延る』

愛知県芸術劇場

愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)

2020/11/07 (土) ~ 2020/11/09 (月)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/11/08 (日)

とある遺跡… 「墓宮殿」という場を遡っていく時の流れ… 現代の観光客から…宮殿の盛衰を経て… それを築いた王その人に纏わる出来事まで、様々な身分/立場の人々が時間を入り乱れつつ、9つの独白を奏でる。

観る立場からすれば、それはあたかも「遺跡」という場に漂う多様な「残留思念」を眺めるが如きで、とめどなく流れる怒濤のテキストに呑み込まれ、更には多様な趣向と演出に目を奪われるうちに… 何が何だか分からないまま終演を迎えたと言うのが率直なところ。

観劇したというよりは… 何かを体験したという感触で、まさしく自分も遺跡を訪れた観光客の一人であったのだろう。

事前に半分までしか戯曲を読んでおらず、しっかり読んだところは その場でちゃんと印象が頭に刻まれているのだか、そうでないところは… 観劇後に戯曲を改めて読んでも 舞台イメージとしっかり繋がらない体たらくで、フワッとした観後感になったのは悔やまれる。

モノローグ単発での面白味はそれぞれにある… 歴史学者の妻は印象的。
ただ それらを繋ぎ合わせて通底する何かを掴み取るには咀嚼に時間が要る。アーカイブ配信で改めて挑む必要がある感じ。でもこの歯ごたえがAAF戯曲賞公演の常やな。

かもめ

かもめ

第七劇場

三重県文化会館(三重県)

2020/10/30 (金) ~ 2020/11/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/01 (日)

原作の後日談的な時系列の中、フラッシュバック的に「かもめ」のシーンが差し挟まれる構成。自らの夢の挫折と… コーチャスの自殺への自責の念で心を病み、精神病棟に隔離された独自設定の「ニーナ」を核に展開する。潤色/翻案というよりスピンオフ的な切り口で原作の中にある「弱き者への眼差し」に絞って再構成された様にも感じました。いや… のみならず、この中には… シチュエーションに合わせてか、作中10分程がチェーホフの他作「六号室」等のテキストの引用だそうで、チェーホフのこの思想のエッセンスになっている…と言えるのかもしれません。

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ネタバレBOX

最も印象深い存在は「心を病んだ人」… ニーナと共に入院している患者達です。

彼女達は次第に… あたかもコロスとしてその場に在る様になり、最初は如何にも心を病んでいる挙動不審な振る舞いから始まって、次第に… まるでニーナに纏わりつく亡霊の如く虚ろに言葉を発し… 舞台を彷徨う。

それは… ある時は世間を写し出す鏡となり、そしてある時はそれに抗する苦悩の人となる。並んで壁に向かって語るシーンでは、彼女達を苛む世間に対して… まさしく耐え忍んでいる姿に見えました。究極は…舞台上を走り回るニーナの姿で、さながら悪夢に追い回されるが如き… 戦慄が走ります。何でだか… ドールン医師から奪ったカバンをまるで赤子の様にあやす ある患者の姿が目に焼き付いています。しかし、公開されている2012年金沢公演の映像を観てもそんな印象は湧かないので、ちょっとした演技ひとつで、与える印象は様変わりするのでしょう。

そもそも、この芝居自体…パッチワーク的な構成であることも相まって、文脈自体はすぐに呑み込めない難しさを秘めており、コロス達の生み出す雰囲気に呑み込まれる見方になることが多そうな気がしています。それ故に…観る者の経験と置かれている環境次第で、作品から脳内に想起されるイメージと圧力は相当に違いそう。

次第に話が「自殺志願者の心理と生き方」にフォーカスされた印象を受ける流れの中、夢を追うことなく… 生活を確保できる進路の中から生業を選び、どんなに辛くても未だ死にたいとまで思ったことがない私は、まだ一枚オブラートに包んだ状態で作品を味わっているな… という自覚があります。

一方で、だからこそ観るべき芝居であったかもしれません。若者の死因のトップが「自殺」である日本で、生まれるべくして生まれた舞台とも言えそう。

そんな辛さが前面に立つ芝居なのに、終盤に降り続ける「雪」が…光も相まって極めて象徴的… 私の観劇史上でも屈指の美しさと言える光景でした。

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