燈籠 公演情報 perky pat presents「燈籠」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2020/11/29 (日)

    実に味わい甲斐のある芝居をされていました。TLでは不幸が似合いすぎると評判でしたが(笑)、そこからの反動たる凛とした空気、狂ったかと見紛う主張の強さ…そしてそれらが…さき子が受け続けた抑鬱や理不尽ゆえと窺わせてくれる深みが… ある種の社会風刺まで感じさせてくれて、何重にも美味しい芝居でした。


    続きはネタバレBOX

    ネタバレBOX

    愛する人のことを思っての万引きで捕まって、恐怖のあまり… 堰を切って流れ出した自己弁護… いや… 自分を捕まえるべきではないと…まるで教え諭す様な「謎の上から目線の自己正当化」は、気が違ったとばかりの見苦しい諸行に一見みえますが… そう一笑したり非難して済ませられない奥行きが潜んでいる。

    万引きの告白に入る前までの彼女の語りの表現… その表情が実に彼女の愛らしさを表わしていて…くるくる変わる表情や仕草が…多大な現実感を添えて静かに舞台上を踊る。これを観ているとね、彼女の行為を…単に狂人のそれと斬って捨てられない。本作において…さき子に無意識に寄り添わせる素敵なナビゲーターになっていました。

    父母を含めて…ずっと謂れのない差別と理不尽に虐げられ…誰も救いの手を差し伸べてくれることなく…慎ましく生きてきて… たった一度 自分が起こした理不尽だけは周りが許してくれず… 社会全体から好奇の目に晒される憂き目に会う地獄絵図。一度 非を認めればどこまで罪を問われるか分からない恐怖を募らせた「今度で何回めだね?」という決め付け…後日、想い人たる水野が「さき子さんは学問が足りない」と一見正論で突き放すのも、今で言う自己責任論のそれに映り、それ以前に厳然と立ちはだかる「その身が置かれた貧しさと差別と不遇」という… 覆し難い環境を慮ることのできない甘さを感じさせた。
    「水野さんが、もともと、お金持の育ちだったことを忘れていました。」は、実に辛辣な人物評でしたね。百年の恋も冷めるというヤツ。

    そして最後の電球交換のくだり中での家族の明るさが、この家族の憐れさをいや増す。たかが電球1個で著しく輝きを増す世界の…元の暗さのいかばかりか。その一方で… 貧しさの中で生きる力強さを… 合わせて感じることができてグッとくる。なんだか観ている方の想いも色々と揺さぶられる落差と緩急でしたね。

    勿論、原作だけ読むと… 彼女の言説をそのまま信じることの危うさを感じる不整合や疑惑も浮かぶのだが、そういうのが綯い交ぜになっている作品構成もミステリアスで良いですな。

    さて、今回もう一つ特筆すべきは… 原作を包み込む様な独特の脚色… いや、構成と言うべきかな。

    原作「燈籠」の…さき子のモノローグをただ演じるのでなく、その傍らで この物語を読んでいると思しき女医の存在がとても謎めく。藤島さんがこの2人を交互に演じる1人2役の建て付け。

    彼女の振る舞いも…ただ読んでいるのでなく、頁を行きつ戻りつし、ポストイットなんかを貼ったりもして、さながら さき子の心理を検分するかの様でもありますが、その彼女の数少ない言葉が、観客に対して物語を客観視させ… 反芻を促してくれるのが物語の深みを増して、とても良い按排です。

    その役目さえ果たせば、彼女が一体何者なのかはどうでも良いのかもしれない。

    ただ、性分として色々想像してしまうのですが… 最初に思い付くのは、さき子の証言を検分する精神科医の佇まいですが… 敢えて時代考証を覆す様な小道具を使って、燈籠世界との一体化を阻もうとしている気もする。

    最終的に自分として一番腑に落ちるのは、稽古を前に戯曲を読み込む俳優の姿です。さき子の心理の奥に辿り着こうと思索に耽るその姿は… 実際の女優の姿そのものを写し取ったにも思えました。

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    2021/01/05 23:42

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