タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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一滴のしずく

一滴のしずく

アンティークス

「劇」小劇場(東京都)

2019/12/11 (水) ~ 2019/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★

タイトル「一滴のしずく」には続き文がある。それこそが公演の底流にある生きることの素晴らしさ、人間讃歌を思わせる含蓄ある言葉。
少しネタバレするが、物語は民宿 田村の家族やそこに集う人々の坦々とした日常、時として大きな出来事が起きたりするが、それらも含め人生の営みを優しく見つめたヒューマンドラマ。台詞等から海や樹海が近くにあり、にもかかわらず山奥といった静寂も感じられる。そんな環境にある癒しの民宿に自分も行ってみたくなる。
ちなみに劇中に流れる音楽、そして実際 役者が奏でるのは、有名なクラッシックのピアノ曲。その構成(長調)を物語の構成(展開)として擬えているようで、実に繊細な作品に仕上げている。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台セットは民宿内...柱で3分割に区切り上手側奥に障子の引違い戸、真ん中がメインになる民宿の集い空間のような場所、下手側は玄関に通じるスペース。上手側スペースや柱の上に枯れ葉。木の温もりは人の心を豊かに育むような温かさに通じる、まさにこの公演のイメージ通りの造作である。物語は2つの家族を描き分けるため、柱の日めくりカレンダーか柱時計の違いで表現する。後日追記
終わらない世界

終わらない世界

ジェットラグ

博品館劇場(東京都)

2019/12/11 (水) ~ 2019/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

初日観劇。
タイトル「終わらない世界」は継続または再出発を思わせるようであり、この公演で描かれる 或る女優の栄光と挫折、そして復活・再生を思わせる。演劇に携わる人々の情熱がしっかり伝わる群像劇。
物語の展開は分かり易い工夫、説明にもある小惑星の衝突を回避した人類は救われた...が、地球滅亡の日に人々は何を思い、どう行動するか。その究極の選択を演劇と関連付け、最後まで飽きさせることなく、というか実に心地良く観(魅)せる秀作。
(上演時間2時間)後日追記

ネタバレBOX

劇中劇仕立てで、固定の舞台セットと劇中劇の場面転換という演出の中で小道具等の出し入れをする。公演は、劇中劇の展開という設定であるから暗転が少なく、集中力が逸らせられないのが好い。以降追記
汚れた世界

汚れた世界

無頼組合

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2019/12/06 (金) ~ 2019/12/09 (月)公演終了

満足度★★★★

 時代がフィクションに追いついたどころか、追い越して嫌な世の中になっている。そんな現代性を秘めた公演、といっても本公演は7年前(東日本大震災時)の再演である。7年経って平穏どころかますます混迷した世の中になってきた。そうした「世の中」を「汚れた世界」として揶揄している。いや事実は小説(芝居)より奇なり、現実に起こっている事の方が遥かに酷いかもしれない。
 物語の描き方は映画のシーンを擬ったりし、さながらアクション&ロードムービーといった展開である。全体的にはポリティカル・ドキュメンタリー的な作りで、表現としては在り来たりだが、現代社会の悪政を曝し世の中に警笛を鳴らすような公演...観応えがあった。
(上演時間2時間5分)後日追記

13人の怒れるオカマ

13人の怒れるオカマ

喜劇団R・プロジェクト

遊空間がざびぃ(東京都)

2019/12/05 (木) ~ 2019/12/08 (日)公演終了

満足度★★

「十二人の怒れる男」とは全く関係ない、とは前説での口上。終演後のアンケートに多く記載されているらしく、自分も関連を持たせた公演かと期待したが…。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

ほぼ素舞台、あるのは上手側にベンチがあり、倉橋勝氏が顔を隠すようにして座っているだけ。残りの12人がオカマとしての自己主張をしているだけ?物語としての展開があったのか疑問である。散らばり過ぎて回収が出来ていないといったところ。何となく分かったのはオカマが愛しているのは「中森明菜」と「美輪明宏」、何故この2人を敬っているのか(中森明菜は女心の表現、美輪明宏は長年の女装したご意見番だから)?

我さきに歌いたがる…オカマの世界なのか分からないが、そこに観(魅)せる工夫も感じられなく 稚拙・おふざけといった印象である。全編 中森明菜の歌であるが声量との関わりでオカマの方が歌い易いためか?
終演後、役者に向かって「面白かった」と声を掛けている観客もいたが、自分にはその面白さが、もっと言えば何を描き何を観てほしかったのか解らなく残念。
カケチガイ

カケチガイ

Offbeat Studio

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2019/12/04 (水) ~ 2019/12/08 (日)公演終了

満足度★★★★

1部上場企業の社長と取引先の平社員が、ある劇的な奇跡で人格が入れ替わり、観える世界観が一変し自らの人生の軌跡を振り返り思う悲喜交々。自分だけの人生が他人に俯瞰されるといった奇知を面白可笑しく描く。
立場や貧富といった違いは明らかだが、2人の男の悩みというか悲哀が共通しているような…。出来ればそこに工夫があれば、なお良かった。
(上演時間1時間45分)2019.12.5追記

ネタバレBOX

舞台セットは四角・三角の昔ながらの色彩ある積み木を歪に組み合わせたような造作。客席は三方にあり、それぞれの角度から観たら違った印象になるのだろうか。立場・貧富差のある男2人の家庭を対極に配置し、真ん中に公園・広場といった憩いの場所を演出する。この場所こそ、それぞれの夫婦の在り方の確認や悩みを吐露する重要な位置を占める。

2組の夫婦には子供がいない。正確には平社員には女の子が生まれたが、何らかの事情で亡くなり、それ以降、妻の喪失感を心埋めできない自分の不甲斐なさ。子は鎹(かすがい)というが、どちらの夫婦にも共通した悩みを負わせたことで物語に広がりがなくなったのが残念。単純交換的な入れ替わりではなく、出来ればどちらかの夫婦に子供がおり、子供がいる生活は煩わしく大変だが楽しいこと。居ないことの気楽であるが味気無いといった異なった環境下における家族(妻や子供)との関わりを描くことで、更に深みある人間(自分)観察ができたと思う。居ることが当たり前といった気軽さ、それを失った時に初めて思い知らされる悲しみ、他人の人生を拝借したが故に気づく本音の人生譚。

シチュエーションは小説や映画でもあり珍しくないが、身近で観る役者の演技...男2人の人格入れ違いによる傲慢、気弱といった豹変する演技が面白い。それぞれが歩んできた人生、その視点が変わることによって生活スタイルはもちろん、考え方や行動にも違いが表れる。経済的な違いはあっても子供の存在は共通した苦悩として描かれる。それぞれの妻の懊悩はそこに尽きるようだ。だから人形を我が子に見立てた奇行、海外旅行へ逃避するような行動の説明に繋がる。男2人の人格交換に止まらず妻との関わりや更にはスナック愛人の妊娠によって新たな人生が…その展開が妙あるものへ。

先に記した舞台美術は既存の形の観方を少し変え、物語における視点の転換を連想させ、積み木のようにいつ崩れ壊れるといった不安定さは夫婦・家族関係をイメージさせる。一見奇抜と思える舞台美術も観る位置(客席)への興味づけ、同時に物語の概観を暗示するようで実に巧みな造作である。また背景に流れるポップな音楽が軽妙で実に心地良い。
次回公演を楽しみにしております。
尻を見てしまう

尻を見てしまう

ジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン

上野ストアハウス(東京都)

2019/12/04 (水) ~ 2019/12/10 (火)公演終了

満足度★★★★★

3話オムニバス...小劇にして衝撃的な笑劇。公演はこんなつまらないダジャレではなく、どの作品も観客の気を逸らさず楽しませてくれる、その一言に尽きる。まずタイトルが「尻を見てしまう」「背徳令嬢肉奴隷」と過(刺)激的、そして「テオリ」、このタイトルだけがイメージ出来なかったが、観劇してなるほどと納得。表層的には疲れた神経を休めるにはうって付けの娯楽劇である。同時に、その底流には少しの不安・迷いと微かな希望が観えてくる、そんな人の機微に触れる珠玉作。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台セットは、それぞれの物語を形作る最小限の小道具。その理由は、オムニバスの話と話しの間の暗転(時間)によって観客の集中力を失わないよう短時間で行う配慮。

第1話「尻を見てしまう」
第2話「背徳令嬢肉奴隷」
第3話「テオリ」
物語はオムニバスで小説で言えば短編小説にあたる。短い話の中に込められた思いを過不足なく描く力量が必要。前作が連作とすれば、今回はそれぞれに関連性は見い出し難く、作品ごとの面白さが凝縮されている。
フィクション

フィクション

JACROW

駅前劇場(東京都)

2019/12/04 (水) ~ 2019/12/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

初日観劇。
2023年の日本。東京2020オリンピック・パラリンピックの賑わいから3年が経ち、経済は失速し閉塞感に覆われた状況を3組の家族の観点を通して描いた物語。構成はオムニバスのように観えるが、底流にあるのはオリンピックという祭に躍った国家・社会的な疲弊感と、家族という個々人の生活を通じて描かれる空虚な思いが重層的に立ち上がってくる力作。
(上演時間2時間)2019.12.5追記

ネタバレBOX

舞台セットは、下手側奥へ変形した空間を作り、最奥は石壁で行き止まり、その前に切出し石が積まれている。また舞台斜め奥に向かって等間隔に焼け柱が立っている。全体的に衰退感が漂う。セットは経済状況の行き詰まり、人心の空しさを表しているようだ。その意味でセットは作り込まず、隙間という空間が物語の概観を示す。

3組の家族(親子、兄弟姉妹、夫婦という関係)は東京・蒲田、北海道・札幌、千葉県・木更津といった場所、仕事も職人、料理人、コンビニと区々である。場所や職種に関わりなく、日本全体の状況を示す。経営事情が逼迫すると弱き者へシワ寄せが…まず外国人労働者、悪評者などが解雇対象にあがる。この公演はオリンピック後の日本経済の衰退を身近な庶民を通じて描いているところが秀逸。実生活を通じて痛感する、その痛みが切実に伝わるからである。もちろん大局的観点から描くこともできるが、その場合はこのオムニバス構成には馴染まない(分断した大局観になるため)。

当日パンフに記載された脚本・演出の中村ノブアキ氏のご挨拶には、「取材を元に構成した3話オムニバス形式のノンフィクション」とある。3編には「続ける」「越える」「認める」という副題があり、何となくそういうことなのかと認識できる。3編は独立し、入れ子のように上演されるが、最後には緩く繋がってくる。バラバラのように描くが、どこかで繋がっているのは個々人の生活は誰かとの関係で成り立っている。もっと言えば人(家族)は1人で生きている訳ではない。

さて、「認める」(木更津が舞台)編では2023年から観た2019年の台風19号を連想した。暴風雨による事故のためコンビニ店社長の父と妻が亡くなる、その回想シーンのようでもある。オリンピック後の閉塞と併せて、どうしょうもない苛立ちと空しさを感じる。鳥の俯瞰した目の描きよりも地を這いずり回る虫の目から描いた力強さ。その時代は今より更に不寛容になっているかもしれないが、3編に共通して子供を登場させることで微かな希望が…。妻が自分以外の男と関係し妊娠した、再婚相手の娘が先妻にだんだん似てきた、不良だった男の子を身ごもり、とそれぞれ事情は異なるが産み、育てる決心をしている。そこに”経済”といった不測に対する人の寛容で...実に観応えがある公演であった。
次回公演を楽しみにしております。
Dear...私様

Dear...私様

グワィニャオン

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2019/11/27 (水) ~ 2019/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

千穐楽観劇。
人の死は、その人の記憶が無くなった時に本当の意味での”死”である と聞いたことがある。そして、何故かこの公演は”デゾンデートル”という言葉を思い出す。
物語は、昭和という時代背景、東京都八王子市という都心とは少し違う街、そこで暮らす1人の男の記憶というか心の彷徨、そして邂逅劇といったもの。
再々演ということだが、初演は観逃したが再演は観ることができた。その再演で「グリーンフェスタ2014 BIGTREETHEATER賞」を受賞しており、まさに劇団の代表作である。改めて40回記念公演として観たが、昭和(設定)から令和へと時代は変わったが、良い作品は時代を超えてもやはり素晴らしい。公演スケジュールを見ると、全公演回とも完売で、自分が観た千穐楽は増席するほどの盛況ぶりだ。
そんな素晴らしい公演であるが、1つ気になったことが…。
(上演時間2時間5分)後日追記

ネタバレBOX

主人公 並木秀生(少年・青年・中年期を3人の役者で演じ分け)の実両親は、彼を残して自殺した。その原因は借金苦のようであるが、その取り立てを行っていたのが育ての親ではなかったんだろうな、という疑問である。実親の死と元ヤクザの育ての親との間に因果関係があると物語の根幹に関わるような気がするため。終演後、主宰で脚本・演出、そして伸郎おじさん役で出演した西村太佑氏と話をした時、聞こうかと思ったが躊躇してしまった。たぶん、そんなことはないという否定の言葉が返ってきただろう。物語の背景は昭和50年代、その頃は暴利のサラ金(闇金融)による被害が多発し、借金取立てには暴力団関係者が多くいたと聞く。昭和53(1978)年に全国サラ金問題対策協議会が発足するなど大きな社会問題になっていた。因みに舞台セットに電柱があり、そこに庶民金融 山上商事の看板を貼り付けるなど細かいところまで観せる。
FOOLS PARADISE~愚者の楽園

FOOLS PARADISE~愚者の楽園

舞台芸術創造機関SAI

江古田兎亭&アトリエⅢプレイズ(東京都)

2019/11/22 (金) ~ 2019/12/02 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

久しぶりに観るアングラ劇系、この劇団の紹介には「演劇の娯楽性と実験性の共存を追求」とあり、まさしく謳い文句通りの面白さと志向性が感じられた。まず舞台セットはダンボールの柱を始め新聞紙が天井や壁面を覆い、それらが散らばったゴミ屋敷のイメージであり、概観は妖しげであり退廃的な雰囲気を漂わす。物語は次々に変容し、そして破壊し再生するような変幻自在といった展開である。その壊して創るといった流れが実験性とも思える。公演は、狭い空間に役者の独特な演技スタイル、紙粉舞うような環境下、そこに舞台・客席といった明確な境界があるような無いような曖昧さ。もしかしたら接触するかもという、妙な緊張感や迫力を感じられるところが好みだ。演者9名、観客8名、超至近距離による濃密な公演、十分堪能した。
なお、この公演の独特な世界観は万人向けかどうかは…。
(上演時間1時間30分)2019.12.3追記

ネタバレBOX

少し気になったのが、舞台における砂被り席。舞台は地下入口から左右に分かれ、右にメイン舞台、左が役者の出入口と細長い空間の真ん中に花道(通常家屋の廊下幅程度)のような通路があり、そこを使用し演技が行われる。客席はその花道両側(客席が3~4人づつの相向かい)にパイプ椅子、身を乗り出そうものなら役者と接触し演技を邪魔することになる。先の砂被り席はメイン舞台の真横で、一番 物(新聞紙やダンボール箱など)が飛んできそう。刺激を求めるならお勧めだが、花道での演技、特に役者出入口近くでの演技は見切れになるような気もした。それでも砂被り席にも座ってみたかった。
もう一つ気になったのが、映像シーン。物語の中でヤクザ廃組の「先代ボスの使いクモ」として大島朋恵サンが映像出演するが、その画質が粗いこと、細長い舞台(花道)であることからプロジェクターの映写角度というか映写範囲に役者が被り観難い所があったのが残念。一方、社会というか世間との繋がりとしてラジオ番組が流れるが、こもだまりサン/有栖川姫子サン/の音声出演は明確に聞こえる。ここに映像・音声の舞台技術の扱い方の丁寧さ違いが出てしまったのが勿体ない。

物語は変容するが、それほど複雑ではない。工事現場で働くミダレはアルバイトをしながら役者を目指している。彼にはスグハという同棲相手がおり、彼女もまた声優を目指している。ある日、ナギという関東暴力団・廃組組長の娘からミダレは組長代理を演じてほしいと依頼されるが…。ナギから「廃組のボスは暗殺された」と聞かされ、いつしか組長暗殺を巡る陰謀と、日常生活とが交錯する中でミダレとスグハ2人が描いた夢のカタチが歪んでいく。現実と非現実・虚構の世界がサスペンス風に描かれ視感するといった感覚である。
『微かなひかりに満ちている』

『微かなひかりに満ちている』

Antikame?

劇場MOMO(東京都)

2019/11/28 (木) ~ 2019/12/02 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

モノローグからダイアローグへ、その演劇技法を変化させることによって心の内面を見つめる自分、更に他者との関わりの中で生まれる感情を静謐かつ繊細に描いた物語。冒頭は朗読劇かと思われるような横並びの登場であったが、舞台上にある箱馬6個を回ったり、腰掛けたり、その上に立ち上ったりして状況表現を行う。静謐と記したが、役者の台詞が聞き取れる程度に音響(例えば騒音、共鳴などの効果音)を入れることによって、何となく社会と繋がっていることを連想させる。
公演は、動きが少なく役者の独白や対話と言った台詞中心の芝居であり、その言葉は心象的な感情表現であるため理解が追い付かない。その意味で、語弊があるかもしれないが観客の鑑賞眼を試されているような…。人それぞれの感性は異なり、紡がれた物語(演劇技法も含め)をどのように受け止めるかは観客次第。そんなチャレンジングな公演は観る、そして聞き応えがあった。
(上演時間2時間) 

美代松物語

美代松物語

劇団芝居屋

ザ・ポケット(東京都)

2019/11/27 (水) ~ 2019/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

日本のどこかにありそうな原風景を背景に、これまたどこにでも居そうな人々の暮らしを描いた秀作。原風景は停滞・衰退といった地方都市、いわゆるシャッター商店街を連想させ、どこにでも居そうな人々は、突拍子もないキャラクラーの持ち主も現れず、自分の身近にいる人々が舞台に居る。説明では北国だが、劇中の台詞から北海道の海辺の街といったところ。冬場の北国、寒風吹く様子の音響効果、身震いする役者の演技が本当に厳冬季を思わせる。物語は以前に上演された「料亭老松物語」と連携しているが、今作はタイトルにある小料理屋「美代松」での見せ場が多い。冬場、閉塞といった澱んだ雰囲気を漂わせているが、そんな中にあって「ロミオとジュリエット」を思わせるような恋愛沙汰を取り入れ、微笑ましく和ませる。
脚本の力強さ、音響・照明といった舞台技術の巧みさ、そして役者の確かな演技力、その全てが調和した見事な公演。上演時間2時間を超えるが最後まで集中できる観応え十分な作品である。まさしく劇団芝居屋の真骨頂、「覗かれる人生劇」を楽しむことができた。
(上演時間2時間10分)2019.11.30追記

ネタバレBOX

冒頭、料亭老松の座敷での日本舞踊によって観(魅)せる掴み。
舞台セット老松の女将部屋、小料理屋・美代松、街路といった場面が手際よく転換していく。それは瞬時に情景を観せることによって観客を物語の中に誘う。もともと役者の演技力も確かな上に、作り込んだ情景を観せることで気を逸らせない。

物語は料亭老松の女将と以前この料亭の板前で女将の許婚だった男、それがある事情で破談になる。それ以来疎遠な関係になるが、それぞれの娘と息子が恋仲になる。これだけ観れば北海道版「ロミオとジュリエット」といったイメージだが、これに料亭の経営(高利貸しが絡んだ経営危機)や地域活性化といった庶民の暮らしが描き出される。まさしく芝居屋のスローガンそのもの。

全体を通して分かり易く、現実にもありそうな物語。それに現在の地方都市が抱える地域事情を絡め、しかも人情と義侠ある人々で豊かに紡ぐ。その現実を丁寧に描く公演は観応えがあった。
次回公演も楽しみにしております。
ピラミッドのつくりかた

ピラミッドのつくりかた

雀組ホエールズ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2019/11/27 (水) ~ 2019/12/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

表現し難い「芸術論」、その観念的、抽象的に語られることについて、いくつかの観点からアプローチして形象化して面白く観せる、笑劇にして衝撃的な公演。テーマ「芸術論」に真っ向から取り組み、説明し難いことを物語の中に落とし込み、話の展開の中で観客の心に問いかける。公演として主張しつつ、一方 人にとって捉え方の違う”論”、それをエジプト・ピラミッドという悠久の歴史と壮大な建造物を媒介として描く。その時間的・空間的な自由度と伝統・格式と言った不自由度を縦横無尽に切り取り、”芸術”とは何かを解き明かそうと…。
脚本の骨太さ、最後まで緊張と弛緩を繰り返す巧みな演出、その相乗が見事に功を奏した秀作。
(上演時間1時間50分)後日追記

酔いどれシューベルト

酔いどれシューベルト

劇団東京イボンヌ

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2019/11/27 (水) ~ 2019/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★

偉大なる音楽家、シューベルトの苦悩と栄光に隠された秘密を、彼の夭逝と作曲数の多さに着目した東京イボンヌの代表作。この演目は何度か再演しているが、本公演は完全リニューアル版という。彼の音楽に捧げている人生を苦悩と焦燥に駆られた姿を通してリアルな芸術家像として描いているが、その苦悩の過程を身近に観ている恋人からすれば、音楽など諦めて地道な仕事をしてほしいと願って...。そこに音楽に魅せられた栄光と悲哀を観ることが出来る。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

上手側はバーのテーブルと樽椅子、下手側にカウンターを作り物語の展開を促す場所としての役割を担う。舞台全体は焦げた平板を組み合わせたような壁・床で、その色彩は落ち着いた雰囲気を出している。そして、場面によって印象付を強調するため正面上方から照明を諧調させるなど巧い。

梗概...シューベルトは恋人との結婚を望んでいるが、なかなか世に認められる曲が作れない。そんな悶々、苛立ちの中にある。一方、恋人は家族(父の医療費、妹達の生活費)のために心ならずも金持ちバロンへ嫁ぐことを決心する。シューベルトの落胆と恨み、そんな時、酒場に悪魔が現れ、美しい曲をプレゼントする代わりにシューベルトの寿命(1カ月)を縮めるという。悪魔の誘いに乗り、多くの名曲を残したが...。寿命があと1カ月になった時、恋人の真心を知り、また自分自身による作曲でないことへの絶望が切ない。
バロンの呟きは「金持ちになる秘訣は、悪魔に魂を売ることだ」というもの。世に認められる曲のために、1曲につき寿命1カ月を悪魔にさし出す、という契約が成り立つ経緯である。

さて、もともと悪魔などは存在せず、自分の心に巣くうもの。恋人はシューベルトのため神に祈っていたが、その行為こそ神との対話であるという。神も悪魔も自分の心の中。今まで作曲したものは全て自分の力であり、まさに命を削った結晶である。荒み焦り余裕のない心の隙に入り込んだ己自身の弱き邪悪な心との葛藤という姿が浮き彫りになる。
今までに観た「酔いどれシューベルト」は規模こそ違うが楽団を従え、生演奏を聴かせて”音楽という世界観”を舞台全体で感じることができた。この公演ではストレートプレイにリニューアルしたことで、よりシューベルトの人間性と時代背景に焦点を絞っているが、彼の音楽家としての観る・聴かせるという両方の魅力は伝えきれない。

この劇場規模では難しいが、やはり”音楽の世界観”が存分に味わえる演劇技術、特に音響には”聴かせる”という魅力が演出できればと思っている。ラストに流れる「アヴェマリア」は物語の底流にある人間讃歌、その心象付けといった効果をもたらしており、このようなシューベルトの歌曲も劇中歌に挿入するような工夫がほしいところ。
次回公演を楽しみにしております。
栗原課長の秘密基地

栗原課長の秘密基地

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2019/11/20 (水) ~ 2019/11/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

物語の梗概は、ビジネス情報誌の編集長から児童文学部門に左遷された栗原課長の初仕事は、伝統ある「きつつき賞」の授賞式。受賞者、審査員が揃って15分で終わる予定の式だったが次から次へと…説明に記載されている。表層的にはコメディタッチに描きながら、その底流にある人の悲喜交々とも言うべき人生模様が浮き彫りになる秀作。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

舞台は陵文館主催の平成14年 第18回きつつき児童文学大賞授賞式会場。正面に横長テーブルと椅子、上手側にパイプ椅子3脚、下手側にも横長テーブルと椅子が配置され、壁には時計が掛けられている。自分が観た回は13時45分を示し、終わったのが15時45分で上演時間2時間を表す。15分の授賞式が2時間に及ぶことになった展開を面白可笑しく順々に展開するため、観客にとっては分かり易い。同時に授賞に係る様々な不条理が描かれることによって栄誉(ここでは児童文学賞)の選考とそれに関わる人々の悲喜交々がしっかり描かれる。特に”児童文学”と"大賞”という設定が上手い。単に”文学賞”、”新人賞”であれば、清濁併せ吞む大人の世界も、児童文学ともなれば 純真な子供への読み聞かせとなり下手な小細工は通じない。また新人賞では書き直した作品に対して課長が下す「該当なし」判断が難しくなる。

タイトルにある栗原課長は、ビジネス情報誌の敏腕編集長だったようだが、不倫相手からセクハラの噂を流され左遷という経緯。出版業界の厳しい経営環境下を背景に児童文学部門はこの賞の存在(権威)に負っている。その授賞を巡って二転三転し漂流した揚げ句の結末は、課長の会社での立場を危うくするだけでなくリストラという人生そのものが破綻するかもしれない。このセクハラに関しては事実ではないことを受賞者・受賞作品の疑惑になぞらえながら展開して行く。脚本の力と演出の工夫、この絶妙なバランスが本公演の魅力だと思う。

出版社は利益を上げること、読まれる児童文学書を発刊するという二面を持つ。社で働く編集者と選考委員、受賞者、さらには読者代表者といった立場の異なる人々の正論、思惑や裏工作が実に面白く描かれている。その人物設定の上手さ、課長を始め児童文学部署の隆盛、選考委員としての名誉と報酬、推理小説家志望で何年も落選し続ける男、そして児童文学が本当に好きな大賞受賞者、AV女優で佳作入選者、そして賞に恵まれなかった児童文学小説家などがその立場や本音を激白していく。そこには児童文学の心が置き去りにされ大人の事情が優先する矛盾や皮肉。その人物の座る位置や、受賞席における弱腰、一転して下手側の控え席での本音・暴露発言といった違いで「忖度」的な態度が垣間見える滑稽さ。

さて、上手壁に掲げられている平成14(2002)年は、電子書籍配信が始まっていたり、ハリー・ポッター賢者の石ほかシリーズも始まった。公演の中でも人気シリーズにあやかった児童文学作品が現れないかと言った台詞があった。世相を反映させた観せ方も上手く、「平成14年」部分は貼り紙のようで、もしかしたら違う日・時間帯(ソワレ、マチネ)では別の年代が...。
最後に、秘密基地は子供の頃の遊び場であり思い出の場所。同時に逃げ場であったかもしれない。しかし公演では、心に残っていた児童書を通して生きる”勇気”を得た場所にもしている。自分にとっては、実に心地良い結末だった。
次回公演を楽しみにしております。
シェアハウスカムカム

シェアハウスカムカム

劇団娯楽天国

ザ・ポケット(東京都)

2019/11/20 (水) ~ 2019/11/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

名前も顔も一致しなかった住人達が打ち解けた頃、立ち退き騒ぎが起こり何とか阻止したいと立ち上がったが…。笑劇にして衝撃的な面白さは観応え十分だ。
(上演時間2時間20分)

ネタバレBOX

カフェ ラッキーカムカムという看板が上手側に掲げられ、往時の雰囲気を残すカウンター。正面に和室(障子)、このハウスの出入口、下手側に1室、トイレ、下手客席寄りにソファー、楕円テーブル。2階への彎曲階段があり、途中で別れ幾つかの部屋がある。随分と凝った、そして丁寧に作り上げたセットである。このシェアハウスの住人たちはお互いの顔もよく知らず、ましてや素性など知る由もない。しかしこのレトロなシェアハウスには、存亡の危機が迫っていた。

全体的な雰囲気は昭和時代を感じさせる。まず劇中流れる曲が「リンゴの唄」「上を向いて歩こう」等、そして住人達の騒ぎようがバブル全盛期のようで、ディスコ風の派手な衣装、また戦時中の空襲と連動させた穴掘りシーン、これらの背景が舞台セットのレトロ感と相まってそう思わせる。何より立ち退きの理由がバブル期の地上げのような損得 勘定ならぬ感情が蠢くところ。

コメディタッチとしては、色々な笑いネタ、例えば外見だけで言えばガングロ女(随分前に流行ったメイク)、他人に成りすまして住みだした男の誤解による非合法植物栽培のドタバタ等が騒々しく描かれる。物語の魅力は個性豊かな住人達の1人ひとりのバックグラウンド(酒乱で暴力を振う夫から逃れる、不法滞在ベトナム人など)を丁寧に説明し、騒がしさの中に哀愁を漂わせる人間描写。そして”家”は、住む場所としての在りようから”思い出”という何物にも代えがたい存在であることを強調する。そこに今を生きる住人達と過去からの思い出を共にしてきた老人の心が通じ合い、さらに行くところがないという共通の問題-立ち退きに抵抗する滑稽な、そして切実なる姿として描き出す。

先に記した老人-このハウスの大家の叔父にあたる人物が夜な夜な床下に穴を掘る。実はこのハウスは男の育った家であり、家族との思い出の場所でもある。その住人達とハウスを取り壊すことに抵抗するが…。穴を掘る理由は戦時中のトラウマ。防空壕として家族を守ると同じ感覚で、ハウスに住んでいる人々をミサイルの脅威から守るという使命感のようなもの。何となく現代のきな臭い状況が垣間見えてくる。この件は、笑いの対極のような泣ける感動シーンである。この笑い泣きのバランスが絶妙で感情を上手く揺さぶる。
次回公演も楽しみにしております。
スリル14/スリル7

スリル14/スリル7

ショーGEKI

ワーサルシアター(東京都)

2019/11/19 (火) ~ 2019/11/24 (日)公演終了

満足度★★★

妄想して自縄自縛したような姿が滑稽な公演。物語は「『この物語はジャスト90分で終わる。』...リアルタイムサスペンスコメディ!」という謳い文句であるから、途中で何回か時間経過に関するシーンがあるが、ラストまで大事が起きないと分かっているからドキドキハラハラという緊張感が持てなかったのが残念。
(上演時間1時間30分)【スリル14】

ネタバレBOX

前説から上演時間90分を強調。英会話教室の教師(中国籍)に呼び出された男女14人の生徒が密室(14階)で繰り広げるドタバタコメディ。その観せ方の印象は、”レッツ・笑・タイム!”といったところ。セットは舞台中央に時計、そこから線が延びて上部に水槽に入った液体が…。その外観から爆発物を連想して右往左往し出す。現在10時30分、そして12時の所に何やら印が付いている。

観客という第三者的立場で観たらリアリティはない。しかし演劇的な理屈を並べても味気ない。むしろ心理的に密室に閉じ込められた男女の会話、その暴露もしくは独白を通じてその人の精神状態や人間性の面白さに着目。誰もが自分は特別な存在、認められたいという自己承認の願望がある。自己主張は生きていく上では必要で、自分を知ってもらうことや人付き合いにも必要だ。しかし自分を前面に出し過ぎると鬱陶しがられる。自分の都合しか考えず、相手の領域に無神経に入っていく。そんな14人のあらわな人間性、同時に爆弾かもしれないという不安・恐怖を背景に、自己アピールや他者詮索をしながら笑劇的に展開する。そのうち、特に女性(50歳代含め全員独身)は、この部屋の主(英語教師)から親しげに声を掛けられた、または食事に誘われた、そして...その自慢や羨望、嫉妬という感情があらわになり口撃し合う悲喜劇。

爆弾の不安を取り除くために赤または青の動線を切断する、その選択と決断するまでを、この部屋にいる人々の面白言動と行動で笑わせ観せる。しかし、爆弾という緊張ネタは90分間は何ら影響しないと事前に分かっているから、スリルというタイトルにそぐわない。例えば11時や11時30分という時間経過時も舞台上(当事者)は緊張したシーンを観せるが、観客としては同化できない。何となく観客が置いてきぼりになったような気分である。出来れば、必然的に集められたはずの個性的な人々の妄想(諜報活動、秘密保持のための集団暗殺?)を面白可笑しくするためには、時限的条件を明かさないほうが…そんなあり得ない特別な夜を描いてほしかった。
次回公演を楽しみにしております。
負けてたまるか!

負けてたまるか!

アイビス山村組

中目黒キンケロ・シアター(東京都)

2019/11/15 (金) ~ 2019/11/17 (日)公演終了

満足度★★★★

街の便利屋を舞台に青春期の苦い思い出、老年期の不安な思いを描いた2本立て公演を観ているようだ。消せない「過去」と描けない「未来」...その傷ついた心を奮い立たせるヒューマンドラマは熱い。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

舞台はある街にある便利屋「かけつけ隊」。引っ切り無しにかかってくる依頼の電話は、高齢者の話し相手からペットの散歩など日常の様々なこと。セットはその便利屋の事務所兼住宅といったところ。上手側に和室、中央奥に窓、手前の客席側に応接セット、下手側に事務を行う横長テーブルや電話がある。

物語は、色々なエピソードを盛り込み、伝えたいテーマが暈けて弱くなったように思え少し残念。42年前の高校時代の同級生を探してほしいという依頼。高校は奈良県にあるというが、お金になれば遠くても、ましてや探偵業でもないが引き受ける。そこには高齢(便利屋は62歳の女社長・姉妹、弟で経営)になっても逞しく強かに生きていく姿が描かれる。物語の底流には、どんな時にも「負けてたまるか!」という熱き生命力を訴えた話が本筋。
それと身寄りのない高齢者ゆえに住む家がなく、ネットカフェを転々とする初老女性の哀切に纏わる話が脇筋かと。これらの話に笑いネタとして地下アイドルや便利屋の女社長の夫の浮気、放蕩といったゴタゴタを挿む。これらが効果的に繋がらないため、それぞれの話が面白いにも関わらず平面的な印象になったのが勿体ない。

奈良県・信貴高校23回生の5人が便利屋で会うことが出来た。目的は、その中の1人の女性が高校卒業間際に亡くなった旧友を偲ぶため。同時に亡くなった原因が犯罪性のものか事故死なのか確かめるため。死はその思い出さえも無くなった時が本当の意味での”死”かもしれない。彼女以外は、当人はもちろんその家族も地元に居づらくなり転居したが、それが更に怪しまれる結果になった。少し短絡的と思われるが、映画や芝居で観かける天変地異的な不思議な出来事で真実を知ることが出来るが…。

大衆喜劇といった展開の中に、還暦を迎える頃迄気に掛かっていたことを確かめる、そこに人生に悔いを残したくないという思いが滲み出る。また年老いての根無し草の悲哀、同時に便利屋の世話人情を描くことで明日も元気に生きようという活力が観えてくる。そんな心温まる公演であった。役者は総じて年配者が多く、その意味でまだ演じられる、そんな”負けてたまるか!”といった気概が感じられる。そして公演は誰が観ても分かり易く楽しめる内容で、そこには”観てほしい!”という自負を思わせる。
次回公演も楽しみにしております。
8人の女たち

8人の女たち

T-PROJECT

あうるすぽっと(東京都)

2019/11/13 (水) ~ 2019/11/17 (日)公演終了

満足度★★★★

ミステリー部分は、女性推理小説作家アガサ・クリスティの戯曲「ねずみとり」 (The Mousetrap) を、女性心理面は「黒い十人の女」(市川崑監督)を連想した。女8人によるサドマゾ的な心理サスペンスが緊張と微笑をもって描かれる。もちろん描き方はミステリーであるから観客も一緒になって謎解きをするワクワクドキドキ感が楽しめる。
(上演時間2時間20分 途中休憩15分)

ネタバレBOX

セットは富豪屋敷のリビングルーム。上手側が玄関に通じる通路、腰高の洋箪笥とその上に固定電話、中央は奥に暖炉、客席寄りは応接セット、下手側に2階へ上がる階段と中2階に主人の部屋。外にはガラス越しに枯れ木が観える。クリスマスの飾り付けと合わせて冬時期を表し、後々の大雪による遮断・孤立状況へ追い込みの伏線が窺える。そして富の豊かさに反比例するかのように心の貧しさが浮き上がる暴露劇であり告白劇。

事件が起きたのは、この屋敷の長女シュゾンが留学先(イギリス)から帰宅する日の早朝。クリスマスを過ごそうと集まった家族や使用人、そして後から勝手にやってきた主の妹が加わった8人の女。閉ざされた状況、外部からの侵入は難しく考えられないことから、この中の誰かが犯人である。お互いに疑心暗鬼に探り合う心理サスペンス。ミステリーとしては、シュゾンが一足早く帰宅し主である父親に相談事を済ませ、5㎞離れた駅に戻り、再び列車に乗り出迎えた母親と会う。カトリーヌ(16歳)が一晩中盗み聞きをする間、誰にも目撃されないなど不自然な説明もあるが…。

犯人から見た女7人は、この家の主人を苦しめる、そぅ辛い七味唐辛子のような存在らしい。恨み、辛み、妬み、嫉み、嫌み、やっかみ、ひがみ、という嫌悪と欲望が渦巻く醜悪さに我慢がならない。この心理状況を1人ひとりの女の秘密、行動や行為に負わせ、その総体が犯行に及んだという動機付け。ちなみに主は登場しないが、女たちの言動から人物像が浮き上がる。当初は優しく誠実な紳士像であるが、裏では事業は逼迫し、それでも女を囲い淫蕩に耽る。犯人はそれも承知しているようであるから、男を独占したい願望があるのだろうか。犯人は、女性達の仕打ちに疲れた主の心の隙に付け込んで...。

物語も然ることながら、8人の女優の演技が素晴らしい。それぞれの立場のキャラクターを立ち上げ、口撃の攻守を変えながらテンポ良く展開して行く。妻の毅然とした態度、長女のお嬢さん風な振る舞い、次女の元気溌剌な行動、実母の抜け目ない狡猾さ、実妹の茶目っ気、年長の使用人の鷹揚と動揺、若い使用人の我儘と不遜、そして主の妹のミステリアスさ、など一筋縄ではいかぬ女性像が垣間見える。人間の強欲について薬味を随所に効かせ、ミステリー仕立てにすることで観客の集中力を逸らせない巧みな作品である。
次回公演も楽しみにしております。
抗菌バスターZ エピソード0.4

抗菌バスターZ エピソード0.4

ACファクトリー

シアターサンモール(東京都)

2019/11/13 (水) ~ 2019/11/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

表層的な観せ方は、映画「ミクロの決死圏」を連想させるが、もう少し重層的とも思える。体内の器官機能におけるリアリティよりも演劇としての面白さ、エンターテイメント性を優先させた公演。当日パンフに、この「抗菌バスターZ」は14年前に初演しており、この間に何度も再演を試みたが実現できなかったとある。その意気込みが感じられる好演だと思う。
(上演時間2時間20分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

1963年、フクシマ製薬のフクシマ博士はミクロサイズになって患者の体内に入り病原菌と戦い治療する方法を発明し、2019年の現在 新たに時間移動を併用した治療法を開発した。その博士が病(心筋梗塞)で倒れたため、原因究明と新治療法の有効確認を目的に、抗菌バスターZがフクシマ博士の体内に入って過去に遡り...というサイエンスコメディ。ちなみに過去に遡行できるのは、56年前に体内に入った抗菌バスターズZメンバーのDNAを継いでいる者に限られる。

セットは胃体部を中心に胃底部 前庭部という胃の上部・下部を思わせる階段状の暗色マットが積まれている。体内変化によって何か所かのマットを動かすことで動きが単調にならない工夫をする。物語の魅力は、現在の抗菌バスターズZが56年前にタイムスリップすることで、フクシマ博士の体内で自分の母親や祖母と邂逅し、時代感覚や先時代の情報漏れなどの笑い。この時代間隔あるメンバーが「善玉」と「悪玉」(医学的に言う意味とは違う)とに分かれて戦うアクションシーン。もちろんメイクや衣装でそれらしく外見で観(魅)せる楽しさ。

物語は更に後の時代、2075年から(偽)息子が遡行してくる。その目的は、フクシマ博士は研究成果を自社独占にせず、広く他の製薬会社に開放しており医薬業界に混乱を招いているため、フクシマ博士の命を...。新種の菌「悪玉」と抗菌バスターズZ「善玉」の戦いが勧善懲悪的に描かれる。そこには何となく医薬品の特許絡みを思わせるような展開。そして映画「赤ひげ」ならぬ赤チン男から、貧しく病む者とそこで懸命に治療する医者のイメージが重なってくる(独占せず病に苦しむ人のため)。それらを含め、何度も繰り返される"化学"と"医学"の融合、その知見の広さが このSF作品の創作力だろう。

アクション、娯楽性(ダンスシーン)や空中で演技をするエアリアル・アクトのビジュアル感覚、さらに時間警察による時間の速度違反などの異次元ならではの創作等 観客を楽しませ飽きさせない工夫を凝らす。そこに、この公演の魅力と意気込みが感じられる。
次回公演を楽しみにしております。
笑うゼットン −風雲再起−

笑うゼットン −風雲再起−

トツゲキ倶楽部

「劇」小劇場(東京都)

2019/11/13 (水) ~ 2019/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

骨太な社会問題を扱いながら、観せ方は劇的な笑いで包んだ秀作。終演後、前田綾香さんによれば、6年ぶりの再演であるが内容的にはほとんど変えていないと言う。内容に鑑みると何と先見性があり鋭い指摘をしているのかと感心させられる。硬質(濃縮)な中身を柔軟(抱腹)な表皮で包んだ銘菓のような絶品の味わい。そう言えば、劇中にも食事に纏わる話がしばしば出てくるが、それが女子会の話題として楽しく盛り上がる。そして同時に伝えたいテーマを比喩しているような…。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

チラシにはキタとミナミに分断された国とあるが、どう考えても北朝鮮・韓国の国境(軍事)境界線にある板門店、その近郊にあるプレスセンターといった架空の場所が舞台。もちろんフィクションだ。セットはクランク型の仕切り、上手・下手側にテーブルと数個の椅子(箱馬)が置かれているだけのシンプルなもの。プレスセンターには、朝売・読日・毎朝・東西・帝都の各新聞記者やフリーランスが詰めている。ここにいる新聞記者はそれぞれの事情を抱えて、この地へ飛ばされたようだが、例えば官房長官に食いさがって質問をした女性記者クーちゃん(前田綾香サン)などは、実在の記者を思わせる。このような皮肉が随所に観られる骨太喜劇。

プレスセンターでは、キタの国に拉致された姉妹の安否確認、または拉致被害者に係る記事掲載を依頼するシーンから始まる。一発の銃声、または核搭載したロケット発射の真偽とスクープの取扱いに右往左往する記者たち。そこに、われわれが生きている”現代”とメディアの”正体”に疑問と警鐘を鳴らす。さらに憲法21条や96条を絡め表現の自由や改憲の問題を織り込み、今の日本のきな臭い状況を垣間見せる。また内閣情報調査室(諜報活動)も登場させ、国家権力と日本社会が抱える同調圧力など盛りだくさんの問題を詰め込んでいる。ちなみに憲法9条は改憲され”防衛軍”になっているようだ。

Z-TONはウルトラマンシリーズの宇宙怪獣のことで、このTV番組を見なかったことで小学生時代に苛めにあったというトラウマを抱えた記者・イカリ。ZトンのZはアルファベットにおける最後の英字、ンは五十音順の最後の文字という、どちらも どん詰まりを表す。何となく今の日本の閉塞感や危機感を暗喩しているようだ。そして苛めに対しても、大したキッカケや根拠もなしに行う、雰囲気に流されてしまうという日本人気質を皮肉る。ミナミの国のパクさん(現地コーディネーター)の冷笑というか嘲笑気味の台詞に日本人の気質の一面を見せる。

プレスセンターでのスクープ記事の取り扱いが国家的視点、いわば飛ぶ鳥の俯瞰した描きであるとすれば、苛めや流される気質は個人的視点、虫が地を這いずる近視眼の描き。この両観点を実に上手く織り交ぜ、しかも演劇的に面白く観せる巧みさ。例えば女子会イメージのグルメ談笑、タカノ(田中ひとみサン)のダジャレとそれに伴った隙間風の音響など。

最後に、新聞のトップ記事(多数に読まれる)か小さい枠記事(少数または読まれない)か、さらにキタの核の保有の有無をプレスセンターの総意で決定(少数意見の切捨て)、そして訪問者の新聞を読まない発言(まさしく流される-傍観者)は民主主義の根幹を指摘。all-or-nothingのような描きが一転して、食事では好みの違いを認め笑い飛ばす、その対照的な描きが印象的だ。トツゲキ倶楽部の「独特な人間模様のおかしさをエンタメ化する」が見事に結実していた。
次回公演を楽しみにしております。

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