フィクション 公演情報 JACROW「フィクション」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    初日観劇。
    2023年の日本。東京2020オリンピック・パラリンピックの賑わいから3年が経ち、経済は失速し閉塞感に覆われた状況を3組の家族の観点を通して描いた物語。構成はオムニバスのように観えるが、底流にあるのはオリンピックという祭に躍った国家・社会的な疲弊感と、家族という個々人の生活を通じて描かれる空虚な思いが重層的に立ち上がってくる力作。
    (上演時間2時間)2019.12.5追記

    ネタバレBOX

    舞台セットは、下手側奥へ変形した空間を作り、最奥は石壁で行き止まり、その前に切出し石が積まれている。また舞台斜め奥に向かって等間隔に焼け柱が立っている。全体的に衰退感が漂う。セットは経済状況の行き詰まり、人心の空しさを表しているようだ。その意味でセットは作り込まず、隙間という空間が物語の概観を示す。

    3組の家族(親子、兄弟姉妹、夫婦という関係)は東京・蒲田、北海道・札幌、千葉県・木更津といった場所、仕事も職人、料理人、コンビニと区々である。場所や職種に関わりなく、日本全体の状況を示す。経営事情が逼迫すると弱き者へシワ寄せが…まず外国人労働者、悪評者などが解雇対象にあがる。この公演はオリンピック後の日本経済の衰退を身近な庶民を通じて描いているところが秀逸。実生活を通じて痛感する、その痛みが切実に伝わるからである。もちろん大局的観点から描くこともできるが、その場合はこのオムニバス構成には馴染まない(分断した大局観になるため)。

    当日パンフに記載された脚本・演出の中村ノブアキ氏のご挨拶には、「取材を元に構成した3話オムニバス形式のノンフィクション」とある。3編には「続ける」「越える」「認める」という副題があり、何となくそういうことなのかと認識できる。3編は独立し、入れ子のように上演されるが、最後には緩く繋がってくる。バラバラのように描くが、どこかで繋がっているのは個々人の生活は誰かとの関係で成り立っている。もっと言えば人(家族)は1人で生きている訳ではない。

    さて、「認める」(木更津が舞台)編では2023年から観た2019年の台風19号を連想した。暴風雨による事故のためコンビニ店社長の父と妻が亡くなる、その回想シーンのようでもある。オリンピック後の閉塞と併せて、どうしょうもない苛立ちと空しさを感じる。鳥の俯瞰した目の描きよりも地を這いずり回る虫の目から描いた力強さ。その時代は今より更に不寛容になっているかもしれないが、3編に共通して子供を登場させることで微かな希望が…。妻が自分以外の男と関係し妊娠した、再婚相手の娘が先妻にだんだん似てきた、不良だった男の子を身ごもり、とそれぞれ事情は異なるが産み、育てる決心をしている。そこに”経済”といった不測に対する人の寛容で...実に観応えがある公演であった。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2019/12/05 01:06

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