笑うゼットン −風雲再起− 公演情報 トツゲキ倶楽部「笑うゼットン −風雲再起−」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    骨太な社会問題を扱いながら、観せ方は劇的な笑いで包んだ秀作。終演後、前田綾香さんによれば、6年ぶりの再演であるが内容的にはほとんど変えていないと言う。内容に鑑みると何と先見性があり鋭い指摘をしているのかと感心させられる。硬質(濃縮)な中身を柔軟(抱腹)な表皮で包んだ銘菓のような絶品の味わい。そう言えば、劇中にも食事に纏わる話がしばしば出てくるが、それが女子会の話題として楽しく盛り上がる。そして同時に伝えたいテーマを比喩しているような…。
    (上演時間1時間50分)

    ネタバレBOX

    チラシにはキタとミナミに分断された国とあるが、どう考えても北朝鮮・韓国の国境(軍事)境界線にある板門店、その近郊にあるプレスセンターといった架空の場所が舞台。もちろんフィクションだ。セットはクランク型の仕切り、上手・下手側にテーブルと数個の椅子(箱馬)が置かれているだけのシンプルなもの。プレスセンターには、朝売・読日・毎朝・東西・帝都の各新聞記者やフリーランスが詰めている。ここにいる新聞記者はそれぞれの事情を抱えて、この地へ飛ばされたようだが、例えば官房長官に食いさがって質問をした女性記者クーちゃん(前田綾香サン)などは、実在の記者を思わせる。このような皮肉が随所に観られる骨太喜劇。

    プレスセンターでは、キタの国に拉致された姉妹の安否確認、または拉致被害者に係る記事掲載を依頼するシーンから始まる。一発の銃声、または核搭載したロケット発射の真偽とスクープの取扱いに右往左往する記者たち。そこに、われわれが生きている”現代”とメディアの”正体”に疑問と警鐘を鳴らす。さらに憲法21条や96条を絡め表現の自由や改憲の問題を織り込み、今の日本のきな臭い状況を垣間見せる。また内閣情報調査室(諜報活動)も登場させ、国家権力と日本社会が抱える同調圧力など盛りだくさんの問題を詰め込んでいる。ちなみに憲法9条は改憲され”防衛軍”になっているようだ。

    Z-TONはウルトラマンシリーズの宇宙怪獣のことで、このTV番組を見なかったことで小学生時代に苛めにあったというトラウマを抱えた記者・イカリ。ZトンのZはアルファベットにおける最後の英字、ンは五十音順の最後の文字という、どちらも どん詰まりを表す。何となく今の日本の閉塞感や危機感を暗喩しているようだ。そして苛めに対しても、大したキッカケや根拠もなしに行う、雰囲気に流されてしまうという日本人気質を皮肉る。ミナミの国のパクさん(現地コーディネーター)の冷笑というか嘲笑気味の台詞に日本人の気質の一面を見せる。

    プレスセンターでのスクープ記事の取り扱いが国家的視点、いわば飛ぶ鳥の俯瞰した描きであるとすれば、苛めや流される気質は個人的視点、虫が地を這いずる近視眼の描き。この両観点を実に上手く織り交ぜ、しかも演劇的に面白く観せる巧みさ。例えば女子会イメージのグルメ談笑、タカノ(田中ひとみサン)のダジャレとそれに伴った隙間風の音響など。

    最後に、新聞のトップ記事(多数に読まれる)か小さい枠記事(少数または読まれない)か、さらにキタの核の保有の有無をプレスセンターの総意で決定(少数意見の切捨て)、そして訪問者の新聞を読まない発言(まさしく流される-傍観者)は民主主義の根幹を指摘。all-or-nothingのような描きが一転して、食事では好みの違いを認め笑い飛ばす、その対照的な描きが印象的だ。トツゲキ倶楽部の「独特な人間模様のおかしさをエンタメ化する」が見事に結実していた。
    次回公演を楽しみにしております。

    0

    2019/11/15 00:17

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大