タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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海のない島

海のない島

劇団B♭

テアトルBONBON(東京都)

2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

約30年ぶりの再演、しかし その内容はどんなに時を経ても色褪せることはないだろう。現代と昭和20年を往還し、改めて戦争の悲惨さと平和の有難さを訴えた公演。その観せ方はコミカルとシリアスが混じり、飽きずに考えさせるといった印象だ。時に 舞台となった沖縄戦、その地元踊りと地唄を披露し観せ聞かせ楽しませる。

何度も繰り返される「青く青く静かに光る海を見ながら」、その台詞こそがタイトル「海のない島」と対になっているよう。物語は、或る1日のTVのニュース番組から始まる。いつの間にか時間と場所を飛び越え 戦時中の徳之島へ、登場するのは ひめゆり学徒隊と特攻隊員、その悲しいまでの話が紡がれていく。公演は、物語の中だけではなく、この思いを忘れることなく 我々観客が語り継ぐことを訴えている。
(上演時間1時間55分 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術…後景は黒平板に黒角材を打付け、上手 下手は夫々階段状にし花飾りを置く。
舞台技術…現代は穏やかな波の音、優しいピアノの音色。一方 戦時中は機銃・爆撃音、照明は赤く染まり緊迫感を出す。

物語は、TV報道番組で最近 鏡の盗難事件が連続して発生している といったニュースを伝えているところから始まる。その特集取材のため徳之島へ。現代は不可解な事件を追い、終戦間際は ひめゆり学徒隊の少女達、特攻隊の青年達の記憶をよみがえらせる というように時代を交差して描く。砲撃から逃げ惑い、特攻出撃までの緊張感、50年間同じ悪夢を繰り返しみる苦悩。海上は敵艦で埋め尽くされ真っ黒、そのため きれいな海が見えない。

少女達の思い…鏡を粉々に砕き、その欠片がキラキラと光り海を照らし出す。悪夢を終わらせ新たな未来(希望)ある夢をみたい。それが繰り返しの台詞「青く青く・・」である。青年達の思い…特攻出撃した際 上空から投げた花、それが根付きお花畑になり脈々と咲(生)き続ける。そのためには手入れし大事に育てなければ。その思いを受け継いだのが、今回取材を受けた老女 徳田さち。

現代のTV関係者 筑紫炭鉱や滝川・クリス・テル子、そして徳田さちのコミカルな描き、一方 戦時中の少女・青年達のシリアスといった描きで 敢えて観せるために硬軟使い分けているようだ。だから過去の少女・青年役は現在のTV局のAD等の一人二役を演じるが、コミカルさは観せない。現代の奇妙な事件と沖縄戦を抒情的に結び付ける。
死んだことは、ひめゆり学徒隊・特攻隊という言葉で知られているが、彼女 彼らが生まれ生きていたことは忘れられている。「言葉」だけの美辞麗句に対する痛烈な<思い>が綴られているようだ。
次回公演も楽しみにしております。
広い世界のほとりに

広い世界のほとりに

劇団昴

あうるすぽっと(東京都)

2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ローレンス・オリヴィエ賞ベスト・ニュー・プレイ賞受賞作。
或る事故をきっかけに家族の結びつきを失った三世代家族の再生物語、そんな謳い文句である。物語は、日常のありふれた光景や会話を描き紡いでいるだけだが、次々と情景や状況が変わる。登場人物は、舞台上の違う場所(部屋)や時間をあっさり乗り越え 心地良く展開していく。公演の面白いところは、会話がちぐはぐで一貫性があるのか、場面を繋ぐ構成も断続的で統一性があるのか。その不完全とも思えるところが、物語の崩れかかった関係に重なるようだ。

物語は、2004年の晩秋もしくは初冬から翌年の初夏迄の約9か月間か。英国マンチェスター郊外のストックポードで暮らすホームズ家の三世代。夫々の夫婦の関係や子供との関わりを断片的に描き、場所は違えど同じ時を過ごしていることを語っている。物語は休憩をはさみ前半と後半、その空白の時間(休憩)に或る事故が起き、数か月間の時が経っているよう。休憩の前後で状況が変化、端的には衣裳に表れている。

日常の生活…ストックポートに行ったことはないが、多くの場面に酒とスポーツ(サッカー?)が登場する。それを会話の潤滑材として 世代間の意識や行動の違いを描く。例えば祖父母の場合、祖母が外出する際 祖父が俺の飯はどうするんだ。外出などするなと怒り出す。父母の場合は、当然のように母も働きに出ている。その息子たちは…その考え方や行動が冒頭のシーン。それにしても汚い言葉が所々に発せられて…。
(上演時間2時間50分 途中休憩10分)

ネタバレBOX

舞台美術が、この三世代家族を象徴するかのような作りに思える。正面に薄汚れた壁、上手は木製扉、下手は硝子扉。側面に窓ガラスとカーテン、ベットやキッチン、丸テーブルやいくつかの椅子が置かれている。古びて薄汚れた、そして今にも崩れ落ちそうな天井…まさに半壊状態。
舞台技術は、舞台上の照明(スポットライト)を登場人物の動きに合わせ移動。舞台上の各所は夫々が違った場所(空間)であり、それを簡単に乗り越え展開していく。また白銀色または暖色によって現実を、薄紫紺は幻想を そんな情況の違いの演出が印象的だ。

登場人物は、家の修理工ピーターとその妻アリス には2人の息子がいる。兄はアレックス18歳、弟はクリストファー15歳。アレックスに恋人サラができ、彼女を見たクリストファーの胸がざわめきだした。ピーターの父チャーリーはいつも酒を飲んでいて、その妻エレンは生活を変えたいと思っている。そんな家族の暮らしに隙間風が…。冒頭 アレックスとサラが彼の家へ行き 両親に会う。そして一晩泊まるまでの落ち着かない様子を描く。その数日後2人はロンドンへ長期旅をする。祖父母・両親の世代では考えられないような行動をするが…後々事情があって戻ってくる。

休憩、後半は 舞台に大きな脚立を持ち込み、ピーターがスーザンの家の天井を修繕しているところから始まる。前半の厚着や上着を羽織る姿から、今 ピータとスーザンは半袖の薄着、そこに時の経過が表れている。そして話の流れでピータが息子クリストファーが事故死したことを始めて喋る。この休憩中に描かれない重要な出来事をサラッと挿入する。しかしクリストファーの死は、それまで隠れていた家族の不平不満を表面化させる契機になっているはず。たぶん事故死後は狂乱状態、そこを敢えて描かず ある程度落ち着いた時から描き出しているためインパクトが弱い。事故死という やり場のない悲しみと怒り、その過程を通して それまで鬱積してきた思い、家族のぎこちない関係が鮮明浮き上がるのでは…。

アレックスとサラのSEX、エレンとアリスの初めての経験(処女)、エレンは夫チャーリー以外の男性と経験を、更にチャリーやアリスは夫々 浮気寸前 といった台詞(告白)が並ぶ。しかし肉感的なイメージはなく、どちらかと言えばサラッとした印象、まさに乾ききった関係のよう。が、一度は離婚を考えたピーターとアリスだが、息子を失った悲しみを分かち合うことが出来、絶望から再生への光が…。その件が性急で残念。
次回公演を楽しみにしております。
嗤う伊右衛門 2024

嗤う伊右衛門 2024

Mido Labo

サンモールスタジオ(東京都)

2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。これぞ舞台は総合芸術と思わせる秀作。
「京極ワールドを一冊読み切った達成感」…この謳い文句に誇張はなく、十分に堪能させてもらった。
本「嗤う伊右衛門」は再演ということだが、自分は未見。京極夏彦の小説も未読であるが、その世界観がしっかり伝わる。いや小説という自分の想像によって世界を膨らませることと違い、舞台は視覚聴覚など直接的に感じる。その意味で狭いといった印象を持っていたが、登場する人物1人ひとりを深堀し、語り部をもって物語を紡ぐ。そこには頁と頁、行間を読むといった小説の味わいとは別の面白さがあった。語り部は1人ではなく、1冊の台本を手にした者が話を前に…。このように人物と物語が併走していく感覚が好い。

小説の登場人物は、役者の体を通して立ち上がる。勿論 役者の体現がそうさせるのだが、たぶん小説とは違って生身の人間=役者の感情が直接訴えてくる迫力に圧倒される。繊細かと思えば荒々しく大胆に、しかも所作に様式美まで感じてしまう。
この役者陣の熱演を支えているのが、舞台技術ー照明・音響音楽であることは間違いない。単に技術的な効果だけではなく、情景や心情といった内外に秘める機微のようなものが演出される。見事の一言。
(上演時間 前半1時間35分 後半1時間10分 途中休憩10分 計2時間55分)10.5追記

ネタバレBOX

舞台美術は、段差を設えその前に畳一畳。下手に めくり。物語の情景・状況に応じて畳の向きが横・縦・斜めに置き換わる。物語は 小説の目録通りに展開するようだ。目録は めくりに書かれ、演者が捲る。例えば「木匠の伊右衛門」「小股潜りの又市」等と書かれており、舞台では その人物を中心とした場面が描かれる。その人物の背景なり性格等が掘り下げられ、次々に登場する人物との関りが鮮明になる。

「東海道四谷怪談」は、概ね 塩冶四谷左門の娘・お岩(おいわ)とお袖(おそで)の姉妹を巡る怪談劇で、お岩は夫・民谷伊右衛門(たみやいえもん)の極悪非道な行いによって非業な死を遂げ、幽霊となって恨みを晴らそうと。一方「嗤う伊右衛門」は、気性が男勝りで凛とした お岩を敬い愛していたと。また 伊右衛門は生真面目、律儀といった性格のようで 梗概は似ているが、まったく逆の心情が描かれている。そこに京極ワールドの純愛が切なく悲しく紡がれる。

冒頭、伊右衛門が蚊帳の中で、その場所から外は暈けて見える。勿論 外からも内は暈けた人影しか見えないだろう、そんな旨の台詞から始まる。蚊帳を捲ると闇が入ってくる怖さ、そこに人との関わりが透けて見える。人の外見は鮮明なのに、内心は計り知れない。胸襟を開いて 懐に入れることの怖さ。物語の人々は上辺だけの言葉を信じ、騙され窮地に陥る。それでも信じ合うことの尊さ、そこに顔の美醜など関係ないと。

舞台技術が見事。照明は全体的に昏く ピンライトで人物を浮き上がらせる。それは心情であり情況である。また青白い目つぶし閃光で雷、また葉影のような落ち着きなど多彩。音響は雷鳴やドロッとしたという 語りに合わせた効果音など、目に見えない情況が迫る。また和装が映え、その端正な立ち居振る舞いが美しい。
次回公演も楽しみにしております。
『chill』

『chill』

劇団鮫軟骨

参宮橋TRANCE MISSION(東京都)

2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「僕は普通じゃない」…サラリーマンになった僕は、人間関係に苦しめられたが 今はその人間関係に助けられている。登場するのは皆 善人ばかり、それでも誤解や思い違いによって ぎくしゃくする人間関係の難しさを温かく見守ったヒューマンドラマ。また人の思いや考え方は複雑、一方向だけではなく 表裏(双方)を描く。変哲のない日常風景はリアルではあるが、舞台としては何か物足りない。惜しい。確かに笑いや泣きといった場面は描かれており それを紡いでいる。しかし それは表層的に並んで描かれている といった印象を受けた。

ラストは、主人公 杉本応助の妹 が兄に「運を使い果たしたね」といった件で何となく想像が…。公演は、何事も努力、やれば出来る といった根性論的なサラリーマン人生を少し見直すといった観点で描いている。何も道は一つだけではない、ただ自分に合った選択肢を見つけられるか否か。物語では良き伴侶と仕事を見つけて心豊かに そんな成長譚でもある。いろんな意味でちょっと疲れている人にはお勧め。
(上演時間2時間20分 休憩なし) 【B】 

ネタバレBOX

舞台美術は 中央に四角いボード、その左右は角材で囲った 木枠の出捌口、客席側にも同じ出捌口、要は四隅が出捌口になっている。天井には角材や裸電球が吊るされている。物語の展開(民宿)によって中央床にテーブルを設えその周りに板席を作る。板(床)は、チラシと同じような絵柄。客席は三方囲み。上演前にボード奥の螺旋階段をスーツ姿の男女が整然と降りてくる。

物語は、応助の弱く ぎこちない独白から始まる。社会人になってから対人関係に悩み、人混みは勿論 知らない人と話すだけでパニック障害を起こす。始めのうちに彼の性格などを説明する。或る日 東京への出張を命ぜられるが街中で気分が悪くなる。その時助けてくれた きよ と結婚し、地方で民宿を開業する。その名は「民宿 助きよ」? そこに来る宿泊客や地元の人々との交流を通して、人との関わりを克服していくような。

日常を淡々と描いているが、それまで鼻持ちならない奴、差別的な考えを持った者として描いていた人を別(その者)の観点で描き出す。例えば会社の同期が宿泊に来て、社内で苛めていたことを謝罪する。また視覚障碍の女性を伴ったカップルの結婚を反対する 理解のない姉など。しかし何故そのような態度をとっていたのか、それまでに伏線なしで突然理由を明かす。物語の展開は好かったが、紡ぐエピソードのようなものが深堀出来ていない感じだ。上演時間との関係もあることから、描くエピソードとその内容にメリハリが欲しい。

卑小なことだが、いくつか気になる点が…。まず 視覚障碍者が勝手を知らない民宿の中で白杖を使わず歩くのか、次に冬にも関わらず薄着でハーフパンツ姿に違和感がある。周りは冬着なのに、何人かは夏着というアンバランス。いくつかの場面で衣裳替えしているので、対応可能だと思うが…。
次回公演も楽しみにしております。
ピンポンパン!

ピンポンパン!

トツゲキ倶楽部

「劇」小劇場(東京都)

2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
確かに会話は「ピンポンパン」だ。少しネタバレするが、舞台は或る女子高の卓球部OG会、そこで繰り広げられる会話は、漂流するようで どこに辿り着くのか分からない。しかしどうしても聞きたいコト、でも その話題に触れることは躊躇してしまう。その小骨が喉に刺さったような もどかしさを実に上手く表現している。これによって興味を惹かせる巧さ、感心する。

卓球に例えた会話は 緩急をつけ、相手を翻弄する心理戦のようであるが、試合とは違って思い遣る言葉が並ぶ。独白や会話を通して少しずつコトの真相に…。そこまでの過程をトツゲキ俱楽部らしい展開で紡ぐ。そして登場しない人物の真の優しさを知る。さらに部活動にありがちな行動、それを時代間隔による意識や態様の違いに落とし込む。たかが卓球、されど部活動…その小さいと思われる世界が大きく感じられる好公演。
(上演時間1時間40分 休憩なし) 

ネタバレBOX

女子高卓球部の部室が舞台…客席数を減らして舞台面を広げ、中央に卓球台 その周りに折りたたみ椅子を置く。冒頭、久し振りに会う体育会系(卓球部)の先輩後輩という上下関係の規律に時代間隔を現す。今はコーチといえど パワハラ・セクハラ等で厳しく糾弾される時代になりつつある。

物語は、17年振りにインターハイ出場を決めた後輩、その支援のために集まったOGたち。<女子高><17年振り>という設定が妙。これによって話の芯(コトの真相)が見える様で見えない、その もどかしさこそ チラシにある「会話はピンポンだ!」に繋がる。集まったのは3期生から23期生までのOGと元コーチと現コーチ、しかし在学当時の直接の先輩後輩はいない。つまり3(学)年以上の間隔、この設定も絶妙である。

17年前、元コーチが他校の男子生徒を殴り、インターハイ出場を辞退した事件があった。その時に何があったのか知りたくて うずうずしている。何故 暴行したのか その理由は…。気まずくなる、それを承知の上で当時のメンバーが出席しているのが肝。女子高・17年という歳月・その当時と同じ年齢の(活躍)選手がインターハイへ、そして今回OG会を開く。全てがリンクしてくる展開が見事。

元コーチは登場しないが、当時の部員達には信頼されていた という人柄が分かるエピソードが優しく温かい。卓球台をはさんでの軽妙・辛辣・濃密といった色々な会話が交わされる。ただ、事の真相を知っている人物がOG(12期)におり、全て彼女に負わせ過ぎた気もする。できれば、その役割を始めと終わりに登場する教頭に負わせてもよかったような。
次回公演も楽しみにしております。
第38回公演『バロウ~迷宮鉄道編~』

第38回公演『バロウ~迷宮鉄道編~』

激団リジョロ

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/09/27 (金) ~ 2024/09/30 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

創団25周年記念公演、面白い。
観劇した日は、上演中の写真撮影OK。

迷宮の世界観といった内容…それが幻想・妄想はたまた悪夢なのか、理屈や細部に拘って観ると混乱しかねない。説明には、悪夢を見るために眠り続ける姉、細胞に潜む悪夢と不条理犯罪を研究する学者、謎の連続放火事件、そして時を遡って17世紀の島原の乱へ、情景と状況が次々と変転し同じ場所(空間)に止まらない。

混沌とした迷宮物語、それは坑道・軌道によって昏い穴倉へ誘われるような感覚だ。勿論 舞台美術はタイトル「バロウ:BURROW=穴・隠れ家)を表すような怪しさ、登場人物も奇異な出で立ちで外見的にも観(魅)せる。照明や音楽・音響といった技術は効果的で、物語の雰囲気を見事に漂わせていた。 観応え十分。
(上演時間2時間20分 休憩なし) 追記予定

Letter2024

Letter2024

FREE(S)

ウッディシアター中目黒(東京都)

2024/09/25 (水) ~ 2024/10/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

Letter2023も観劇しているが、劇場(渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール)や演出が違うと 同じ脚本でも違ってみえ 印象も異なる。勿論、Letterの意味するところを伝え続けることは大切。同時に舞台としての面白さを味わわせてくれる、そんな意味ある公演だ。

物語は、現代と太平洋戦争時(1945年8月)を往還し、<命とは> を戦時中と現在の若者の考え方や意識を比較しながら紡いでいく。命は自分のものであり、大切な人を守るためのものでもある。今から当時を客観的に見れば、戦争(特に特攻)など馬鹿げたことに思える。しかし、後の時代から正論ぶったことは 言えても、当時の意識はその時にしか解らない。それを どのように描き現代に繋げるかが肝。特攻を美化してはならないが、風化させてもならない。

特攻前夜、隊員と大切な人との別れの場面(手紙の朗読)は、心魂が揺さぶられる。現実は<おかしい>が、それをまともに言えない、その思想教育が怖い。
(上演時間2時間 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、段差を設え中央に平台。上手下手に箱馬が置かれている。上演前は平台の上に被せモノがある。舞台全体は大きなスペースを確保し、アクション等をダイナミックに観(魅)せる。場面によっては 居間に卓袱台等、時に戦闘機の操縦席を設置する。
照明は、平時と戦闘場面で色彩を変え 、平穏(暖色)と緊迫(朱色=血、白銀=閃光)を表す。音響・音楽は戦闘における機銃音が緊迫感を生む。ラストのテーマ曲「大切な君へ」が余韻を残す。

物語は地域の祭りの夜、明日は結婚式というカップルの他愛ない会話から始まる。その夜、夫になる青年が凶刃に倒れ、2024年から1945年8月にタイムスリップする。そして1945年から2024年へ届いた一通の手紙、そこには ある人に宛てた切ない恋心が書かれていた。 現代から太平洋戦争終戦間近にタイムスリップした青年の戸惑い、その時代を懸命に生きようとした同年代の特攻隊員の姿を描いた群像劇。

国(大切な人)のため 夫々が思う心情を丁寧に紡ぐ。例えば 特攻隊員や予備員たちは、妻や許嫁への情愛を語り、ハーフの特攻隊員は社会から差別され蔑まれながらも、日本国民として 妹を愛おしく思う気持など。タイムスリップしてきた青年は、当初奇異に思われていたが、段々と特攻隊員たちと打ち解け 友情を育んでいく。
特攻を志願した隊員が覚悟を決める場面は、表面上は家族や恋人、仲間を心配させまいと平静を装ったり、冗談を言って場を和ませている。しかし、心中は不安や恐怖がつきまとっていたと思う。一番人間らしい感情であり、それをどのように表現し伝えるかが難しい。それでも隊員たちの心の内(声)をもう少し掬い上げても好かった。

ラスト、結局 青年は特攻隊員たちを助けることが出来ない、それどころか自分も戦闘機に同乗し敵艦に突っ込む。それがおじいちゃんになる人を救う方法でもあると。タイムスリップした当初、特攻隊員に向かって 命を粗末にするなと言っていたことと矛盾。また 脱走を図り殺された隊員から、信念は曲げるなと激励されていたにも関わらず変節してしまう。現代にも通じる同調圧力のような抗いきれない描き方であるが、やはり特攻という行為には納得も共感も出来ない。

卑小なことだが、戦時下における衣裳にしては、華やかな色彩の着物や派手なもんぺ姿に違和感を覚えた。
次回公演も楽しみにしております。
リング・アウト

リング・アウト

A.R.P

小劇場B1(東京都)

2024/09/25 (水) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
物語は、人の心情を繊細 かつ大胆に描き、笑い 泣き 笑いと観ている人の感情を揺さぶり続け 飽きさせない。男がアクシデントで失神し、目覚めると何と20年前の景色が広がっていた。そこで何を見聞きし、伝えたかったのか。客席は、爆笑したかと思えば啜り泣きがあちらこちらで聞こえる。

「A.R.Pがお届けする異次元タイムパラドックスの新世界!」という謳い文句、その面白い発想に感心する。単なるタイムパラドックスものなら、他公演でも観ているが、本作では 更に異次元という捻りを加え興味を惹く。巧いのは大胆な描き方、場面の繋がりを描くのではなく、語りで場面間の橋渡しをする。それによって アップテンポだが丁寧な紡ぎになっている。
(上演時間1時間40分 休憩なし) 

ネタバレBOX

素舞台、周りはARPの英文字が並んだキープアウトのようなイエローテープで囲まれている。場面に応じてホワイトボード等が搬入される。また客席の一部を特別リングサイドに見立てている。

物語は、主人公 鮫島が2024年9月23日から2004年9月23日へ異次元タイムパラドックスして起こるドタバタ。そして20年前に落雷で亡くなった妻と不思議な邂逅をする。生前に伝えたかった事、第1に 色々ゴメン、第2に 娘を産んでくれてありがとう、そして一緒(結婚)になってくれてありがとう。本当なら 生きているうちに言いたかったがことが素直に言えた。この件が物語の見せ場<肝>であろう。
プロレス団体WPWの看板レスラーの鮫島は、男手ひとつで娘を育ててきた。その娘が鮫島の後輩レスラーと結婚しようとしている。勿論 父 鮫島には内緒である。どのタイミングで彼を紹介しようか、その画策が面白可笑しく描かれている。

亡き妻の20回忌法要、そして所属団体の経営危機、色々なことが重なり、そのドサクサに彼を紹介しようと…。しかし或るハプニングで鮫島は失神し意識は20年前に飛んでしまう。そして何故か妻の意識が自分の体に入り込む。同じ頃、WPW創立20周年で一大イベント(10月6日)を催そうと、しかも 倒産寸前でもある。単にタイムスリップしただけではなく、体と意識が入れ替わるという異次元ハプニング。心療内科でも対処出来ず、超次元研究所なる研究施設まで出てくる。色々な場面が次から次に現れるが、それを語り部によって簡潔に説明し場面を繋いでいく。そのため話と話の繋に混乱は生じない。

娘は彼氏を紹介して結婚出来るのか、鮫島の体と心は元通りになるのか、無事にイベント試合が出来るのか、WPW団体は存続できるのか等、関心と興味を惹く出来事をちりばめる。それを面白可笑しく、そして涙を誘う観せ方で紡いでいく。一部の客席を 劇中観戦用の座席に見立て、対戦相手をそこへ投げ飛ばす豪快さ。まさに色んな意味を込めてリングアウトを使用した公演。
次回公演も楽しみにしております。
白魔来るーハクマキタルー

白魔来るーハクマキタルー

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2024/09/26 (木) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。と言っても流血・暴力シーンなど、トリガーアラートには留意が必要。
当日パンフでは、100年ほど前にあった実話「三毛別羆(さんけべつひぐま)事件」を題材にしている とある。日本最大の獣害事件として有名らしいが、自分は知らなかった(Web上に情報有り)。さて、ラビット番長の公演と言えば、介護・将棋・野球の三本柱(ハートフル)という印象が強いが、本作のようなノワール系で緊張を強いる話も面白い。

公演はテーマ性、観せる演出、語り部による客観的な紡ぎ、その相互の緊密な繋がり連携によって迫力ある物語に仕上がっている。勿論 キャスト陣の迫真の演技が物語を支えている。初演(2015年、その時が事件から100年目)も観ており 概要は覚えていたが、改めて再演を観て 考えさせられることの多さに気づく。
池袋演劇祭参加作品。
(上演時間1時間45分 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、「く」字を下向きにしたような変形半円、後景は鬱蒼たる樹木の中といった不気味な雰囲気を漂わせる。障子の開閉で情景・状況の変化を表す。

物語は現代と過去、と言っても ほとんどが事件に関する描きである。若者が道に迷い一軒のあばら家で暖をとっているところから話は始まる。この家の主(老人=語り部)は、冬だけこの家に滞在しているという。その理由を語り出し、場転換すると そこは北海道開拓当時へ…。開拓した土地は自分のものになる、そんな甘言に夢見て北海道へ移住した貞夫一家(貧民)。村長を始め村人たちは親切に迎え入れ、馬まで与えてくれた。

北海道の冬、それも僻地では極寒。白魔来るは、雪が降る日に起こる災いのこと。その災いとは巨大な羆の襲来、村人たちは為す術もなく家族を食い殺される。これは開拓民の視点で、羆にしてみれば先に生息していたのは獣のほう。開拓すればするほど羆の餌場は荒らされ、生存の危機といった見方が出来る。
物語が面白いのは、視点の転換によって見え方・考え方が異なる、その柔軟な発想。勿論 直截的には環境問題といったことを思うが、究極的には人と獣の生存をかけた戦い。

また語り部の老人、実は羆に殺された女の胎内にいた赤ん坊で、奇跡的に助かった。多くの村人が犠牲になり、貞夫は自分たちが入植したために惨劇が起きたと嘆く。生まれながらにして望まれぬ、いや忌み嫌われる存在、それが父 貞夫の「この子を殺してくれ!」という慟哭。一方、羆退治のために伝説のマタギ 平吉を招請した。その風貌は、日本人とは思えないもの。ロシア人とアイヌ人の混血、彼もまた蔑まれ虐められていた。この差別意識が物語の背景に暗い影を落とす。

チラシには「惨劇」「鳴り響く悲鳴」といった言葉が並ぶが、首が落ち、血が飛び散り障子を赤く染める、腸が引き裂かれる等のシーン。また照明は全体的に昏く、音響は上演前から風が唸り、おどろおどろしい音が鳴り響く。場転換時の三味線を弾く音、太鼓を叩く音が緊張・緊迫感を煽る。テーマの明確さ、恐ろしい場面演出、時代の背景や状況を語ることによって、現代との橋渡しをする。トリガーアラートが乗り越えられるならば、ぜひ劇場で恐怖を!
次回公演も楽しみにしております。
いつかのもの語り。

いつかのもの語り。

BB stage

萬劇場(東京都)

2024/09/26 (木) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

説明にある「こんにちは、僕はしがない図書館の管理人さ」、その僕に導かれた世界をファンタジー風に描いた物語。舞台美術はその世界の雰囲気を漂わせ、照明や音楽は効果的に物語を支えている。
ラスト、或る人物が登場することで、さらにファンタジーなのか リアルかといった想像が膨らむといった巧さ。構成は凝り過ぎかと思ったが、登場人物の夫々の心情を分かり易く観せるための工夫のよう。

物語は主人公を始め、悩み苦しんでいる人々の現在を見つめ、過去を顧み、そして未来を拓く、そんな滋味溢れる内容だ。物語としては面白い。ただ図書館という言葉から、静かに時が流れると思うのだが、編集者のキャラを濃く(騒がしく)し、敢えてデフォルメしたような人物造形は、抒情的な雰囲気にあわない。コメディリリーフといった存在でもないようだ。出来れば、もう少し落ち着いたキャラのほうが、全編を貫く雰囲気に合致する と思う。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は中央に両開きドア、左右に本棚が並ぶ。上手の一部が階段になっており その上り下りによって躍動感が生まれる。上演前から3人の人物が読書をしており、後々 物語に絡んでくる。舞台と客席の間に白い紙が…それが浮遊感を表す。物語の紡ぎと浮遊感ある雰囲気がファンタジーといった印象を与える。

高校の同級生から書く才能があると言われ、発表した小説(処女作)が話題になり 一躍人気作家になる。編集者から次回作を促され、執筆した2作目は酷評され自信を失う。また高校の友人が自殺し、書くことが怖くなった主人公の心の彷徨であり咆哮でもある。目に見えない心の叫び、それを上演前に読書していた3人の物語(オムニバス風)に重ねる。書けなくなった幻の小説家、その書き手を探すファンによって解き明かされる謎(小説家の心情も含め)、それが物語の肝。小説家は男手ひとつで育てられる。第1:小説家は母の思い出がない。第2:心臓病の娘の母親、第3:(母)親に捨てられ、見ず知らずの爺に育てられた娘、この薄幸とも思える人物達が健気に、そして必死に生きようとしている。その小話を交錯するように紡ぎ、独特の世界観を描き出す。いずれも過去に向き合い、情愛の繋がりの大切さを説く。

主人公に書くように勧めた女子高生が自殺する。それが彼の処女作が評価された後だけに嫉妬したのか、という読み筋になる。しかし劇中ではその理由を否定しており、彼にもっと書かせるといった励ましの行動だったような。この場面の解釈が難しく、モヤモヤとする。しかしラスト、自殺したはずの女子高生と図書館の管理人が登場する。亡くなった魂が現世を見守る、もしくは 物語全体が劇中劇であり、亡くなった女子高生が書いた小説といった捉え方も出来る。その意味でファンタジーかリアルなのかといった想像が膨らむ。

舞台技術…音響・音楽は、図書館の入退室時に響くドア開閉の重厚な音、温かく優しい音色の音楽など効果的。照明は黄昏をイメージの落ち着き、白銀照明による淋しさが印象的だ。物語をしっかり支えた舞台美術と技術、それに好感をもった。
次回公演も楽しみにしております。
別役実・原作 「カンガルー」を経て

別役実・原作 「カンガルー」を経て

有機事務所 / 劇団有機座

阿佐ヶ谷アートスペース・プロット(東京都)

2024/09/20 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

不条理劇とは…始めと終わりにその説明のようなものがあり、例えば 現実における「大東亜戦争」「学生運動」、TV番組の「ゲバゲバ90分」「8時だョ!全員集合」という言葉を並べる。その行為そのものは虚しいものであり、TVに至っては娯楽番組を示しているようだ。

公演は 初演当時の台本で上演とあるが、当初を知らないため その違いは分からない。しかし描かれている内容は、まさしく不条理劇ー別役の世界ーだ。
(2時間25分 休憩なし 転換後 演奏会約30分) 

ネタバレBOX

舞台美術は、外国航路の波止場。天井には万国旗、上手に直方体(ベンチや棺桶イメージ)、下手に外灯、救命浮輪や係留杭が見える。何となく人生航路の無常が…。
先に記してしまうが、劇中 生演奏は場面の繋や状況変化の表現に効果的だった。その音楽(4曲、作詞は全て別役 実)は壮大・雄大で大らかなもの、癒しのような優しいもの。中には宗教音楽かと錯覚するものもあり、選曲と演奏は好かった。

物語は、外国へ行きたい夫婦や男が現れ、船員らしき男に乗船券は偽物と言われ 戸惑っている間に船は出航してしまう。折角、船内食堂へ入るためのネクタイやハンカチを持ち、心構えである勇気を持ったのに。船員が後から来た男に向かって「お前はカンガルーだ」、だから乗船させられない。そして場面が次々と変わり、娼婦とその彼氏、偽乗船券を売りつけたヤクザなど脈略があるのかないのか。劇作テクニックによる異化効果で、設定や視点の変化を見せる。男は、或るキッカケから人間社会の波に飲み込まれ、対人や運命に翻弄されていく孤独と、己の死に向き合い続ける。最後(期)は、男と娼婦が平穏に暮らしている中、突然の不幸が襲い、男は殺されてしまう。外国への見果てぬ夢が葬式のシーンへ。

男は外国、特にインドへ行きたかった。劇中、夫婦や男は行きたい国を言い、それを万国旗や英字新聞、そこに文化(異国)の違いを重ねているようだ。また哺乳類という点ではカンガルーと人間は同類、しかし その諸々の世界は違う。二足歩行で人は手で発明や発見をし、カンガルーはと言えば…。
別役作品は、分かり難くても いつの間にか引き込まれてしまう、そんな魅力がある。しかし本作は流れが何となく ぎこちなく(銃声音など)、没入出来ず もどかしかった。

この戯曲は1967年作。その当時 外国へ行くことは 現在に比べもっと大変、それだけ未知であり夢、冒険的な思いも強かったであろう。しかし今やワールドワイド、インターネットを介すれば瞬時に世界と繋がる。一方、特殊性・独自性は時代や状況の中に埋没し自己を見失いがち。そんな世の中でも生き続けなければならない。たとえ〈不条理〉であっても、そんなことを改めて考えさせる公演だ。
次回公演も楽しみにしております。
リベルテ Vol.28

リベルテ Vol.28

END es PRODUCE

本所松坂亭(東京都)

2024/09/20 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。長蛇の列、満席どころか増席するほどの人気。
コアなファンに支えられたイベント的要素を含む即興劇。出演者と観客が一体となって作り上げる、熱量ある公演。
心が痛み乾いた時、この公演を観ることによって癒され潤うかも、そんな明るく楽しい内容だ。リベルテ(フランス語で自由)の名の通り、出演者一人一人の「自由」な発想で思いもよらないストーリーを紡いでいく。そこにコンセプト「魅せる即興劇」の真骨頂をみる。

イベントの内容は、説明やチラシに記載されている。2チームに分かれ、オープニングゲームの後にEND es PRODUCEの定番即興劇、ペーパーズの開始。チームごとに公式Xで募集したタイトルが書かれた紙を引き、その設定に応じた芝居を制限時間内に行う。その際、観客から集めた<言葉>を台詞として使用する。大筋の話は創作出来るかも知れないが、そこに観客が書いた言葉を入れても辻褄が合わない。ほとんどが そうなのだが、たまに合う言葉(台詞)が入ることもあり、おぉーと唸らされる。その未知が機知になる面白さ。劇作に、毎回 想定できない要素が入るから、同じ公演内容だが すこしずつ異なる味わいがある と思う。そこに病み付き=コアなファンが出来るのでは。

なお、劇場の構造上の問題であろうが、空調 温度差が前列と後列とではずいぶん違う。それは主宰の遠藤巧磨さんも 客席内を歩いて体感していたこと。ちなみに、体感温度が高い後列の観客(自分も含め)に向かって「扇風機があるよ、でも使えないけどね」といった即興ならぬ 早い切り返し(遣り取り)が実に温かい(⇐こちらは歓迎)。
(上演時間 概ね2時間だが、上演回によって変動) 

ラバーマスク・ラバーハート

ラバーマスク・ラバーハート

劇団東京座

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2024/09/20 (金) ~ 2024/09/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。
隠微・淫靡な雰囲気の中で紡いだ愛欲劇。豪華な邸宅、その外見の瀟洒さとは打って変わって、住む人の爛れた関係、抑えられない欲望が どす黒く渦巻く。登場人物は6人、そこに親密ならぬ歪で<濃蜜>な関係を作り 人間の欲望を浮き彫りにしていく。

時代は 明治から大正への過渡期、日清・日露戦争を背景とし、卑しい職業(石炭掘りは軽蔑の対象)と言われていた炭鉱で成り上がった男の家の話。劇団東京座が「時代の様相」と「家」を独自の観点で描いたオリジナル作品・第三弾。物語は、彼が年若い妾を後妻として迎えようとするが、彼の息子たちが夫々の思いを抱くことで、人間模様が大きく動き出す。この公演の見どころは、俳優陣が夫々の性格や立場をしっかり表し、抒情的な台詞を交え濃密な会話を紡いでいくところ。女優陣の和装とその所作が美しく、男優陣(洋装)の動・静ある激情に想いが滲む。

前作「人形の家」も豪華な作り込みであったが、本作も<九州の平民から石炭で成り上がった実業家>ということで、その豪邸が舞台となっている。名は伊藤正久、実はこの人物のモデルと思われる人(伊藤伝右衛門)の豪邸を見学したことがある。そして物語とは違うが、この人物の後妻も或る事件を…。自分の中ではフィクションとノンフィクションが入り交じり、興味深く観た。
池袋演劇祭参加作品。
(上演時間1時間15分) 

ネタバレBOX

舞台美術は豪華な調度品、それによって成り上がり実業家の邸宅を出現させている。段差を設え上段の正面は襖、上手に和箪笥、下手に衣桁やベット。下段に丸テーブルと椅子、そして窓があり庭が見える。窓の傍の壁に絵画、そして蓄音機が置かれている。登場人物は6人で、それぞれ思惑を秘めている。

物語は、邸宅の主人 正久が年若い妾 可奈子を後妻に迎えることによって起こる、屋敷内騒動。正久には2人の息子がおり、兄の慎二は甥であったが養子として迎えられた。弟 金次は、女中 ふゆ との間に生まれた子である。そして近々 慎二は帝大入学のため屋敷を出、さらに爵家の娘 比佐子と結婚する。皆、表面上は何食わぬ顔をして穏やかな暮らしをしているが、内心は嫉妬と欲望といった どす黒い感情が渦巻いている。

慎二は、可奈子が街頭でひもじい思いしているのが可哀そうと思い屋敷に連れてきた。2人は23歳同い年。いつしか慎二は可奈子を好きになり、また養父と結婚することで財産が といった心配をする。金次は、伊藤家の跡目は実子である自分が と虎視眈々と機会を窺っている。まだ17歳という思春期、兄の婚約者である比佐子に惹かれる。愛欲が縦横無尽に絡まり、その爛れた関係が淫靡な雰囲気を漂わす。一見 平静を装っている ふゆは、可奈子が自分と関係した正久の妻となり女主人になる口惜しさ耐えがたさが滲む。

正月明け、正久・金次・比佐子がカルタで遊んでいる。その時、帝国劇場で観劇した話から、この豪邸での暮らしは まさに人生(劇場)を演じているようだ。その虚構性=虚飾・虚栄に彩られた外見の奥に潜む<企て>を揶揄するような台詞が印象的だ。
ラストは唐突といった感が否めない。先のカルタのシーンで、純情無垢のような比佐子が ふゆ に可奈子と慎二の逢瀬しているところ、そして金次には何事かの依頼を耳元で…。場転換し銃声2発その意味するところ、そして可奈子が妊娠していることが判明する。その子の父親は…といった謎含みで終わる。
次回公演も楽しみにしております。
九州戦風カミカゼバイト

九州戦風カミカゼバイト

劇団ジグザグバイト

インディペンデントシアターOji(東京都)

2024/09/20 (金) ~ 2024/09/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初日観劇。九州を中心に活動している劇団のため未見であったが、面白い。
この公演の見どころは、大きく2つではなかろうか。第1に物語性、第2に観(魅)せるための工夫、その両輪をフル回転させて舞台に集中させる。上演時間2時間近くだが、アッという間のような気がする。観れば その魅力は一目瞭然だが、少しネタバレ…アクション・ダンス・歌、そして和装・洋装に原住民の出で立ちなど、ビジュアル的にも楽しめる。勿論、戦隊モノであるから変身という定番シーンもある。

物語の内容は、説明やチラシに詳しく書かれており、概ねその通りの展開である。しかし そのテーマは奥深く、しかも現代的で興味深い。表層的には、神と人間(戦隊)の戦い、それを勧善懲悪的に描いているようだが、そこには夫々の思いがある。
少し残念なのは、次回公演(物語の続き)のためか もしくは観客の想像を膨らませたかったのか、台詞をそのまま受け止めれば上演時間の関係なのか、いずれにしてもラストシーンが物足りない。
(上演時間1時間55分 休憩なし)【カミVer】 

ネタバレBOX

舞台美術は ほぼ素舞台。奥に段差を設え、上手下手に衝立があるのみ。大きなスペースはアクションシーンをダイナミックに観(魅)せるため。衣裳もそうだが、武器(得物)は、剣・大斧・槍・銃 等いろいろで、その使い方も器用に熟す。また被り物、仮面、ぬいぐるみ等、魅せる遊び心も楽しい。

物語は、今の全県が統一され全九州なる組織が誕生して喜ぶシーンから始まる。平成の市町村合併の推進を思わせる出だしで、合理化・効率化という美名の下でサービスの低下。さらに地元ならではという意識(例えば特産・名産等)=地元愛(ジモトール)が弱くなる。古代より時は流れても地続き、地元愛がなくなり 封印力が無くなった時、災い=マガツが復活する。

マガツに対するのが、九州戦風カミカゼバイト。TVで見かける戦隊ものと同じく5人(レッド・ブルー・グリーン・イエロー・ピンク)、その変身シーンも自然体だ。勿論各人の年齢・性別・職業など そのバックボーンはさまざま。マガツへ挑む意識、能力を持つ戦隊といっても 生身の人間、不安や恐怖といった感情を織り込む。演技では、この心と体(アクション)の両輪がしっかり描かれ観応え十分。

台詞の端々に環境問題が触れられる(例えば「有明湾埋め立て」という言葉から「諫早湾干拓事業」等)。勿論 環境や経済といった諸々の問題が横たわり一律ではない。公演では、森林の伐採などもあろうが、その結果 自然災害(土砂崩れなど)を食い止められない。ここに戦隊の一員 グリーン(=木を大切に育成)の存在を絡めるなど、多くの思いを込めている。環境や地元愛(ブランド化)、最近のニュースでは東京の神宮外苑の再開発/樹木保全、長崎県 新上五島町の「五島うどん課」の新設予定などを連想させ、公演の着眼点・発想の豊かさに感心する。
次回公演も楽しみにしております。
カンキの歌

カンキの歌

演劇企画アクタージュ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2024/09/19 (木) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

池袋演劇祭参加作品、典型的なスラップスティックコメディ。
物語は、或るタワーマンションの隣接ビルの半地下で合唱練習をしているところから始まる。タイトル「カンキの歌」の通り、上演前からベートーヴェン交響曲第9番<合唱>第四楽章の音楽が流れ、高揚感を煽るが…。
分かり難いのは、時間の流れと色々な問題を詰め込んで、核となるテーマが暈けたこと。

説明にある親戚知己の合唱は、次第に強烈なテンションで不協和音を響かせ とあるが、そこに潜む問題の数々を怒涛のように収拾していく。なぜ、どうして という謎、取っ散らかったような話を最後にまとめて解決する展開が、少し強引に思える。
(上演時間2時間 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術…全体的にカラフルで 床は市松模様。中央奥は白い壁 棚に本が並んでいるが、その奥には別部屋がある。上手は階段、その傍にソファ。下手はカウンターと腰高スツール、観葉鉢。上演前から女子高生が談笑している。他の住人たちが来るが、そのたびに落ち着かない。既に、この段階で物語は始まっている。

冒頭 合唱練習は、音程が揃わないため 指揮者が「1時間休憩する」と。この台詞が重しに感じられた。物語はこの1時間の中で紡がれたものか(1時間の出来事を2時間かけて上演か)、日を跨いだ数日間のものか 判然としない。後々解ってくるが、テーマは親子愛や会社・地域の人間関係の機微を描いたもの。しかし関係あるのか否か、色々な出来事を詰め込みすぎて その回収が強引のように思えた。

女子高生の1人が、母親の過干渉が煩わしくて3カ月間家出をした。それを探偵を雇って探す。同時にタワーマンションに住んでいる人々、実は同じ会社の上司部下もしくは先輩後輩の関係だったりして、その妻も含めて付き合い方が難しい。タワーマンションの(上)階数が優劣を表す。ちなみに最上階は社長夫妻(登場するのは夫人だけ)が住んでいる。更に住人男性が女子高生を付け回す(ストーカー行為⇒誤解)、不倫を匂わす、毒殺(フェイク)騒動など、何となくの関係性を持たせているが…。理屈で観ては面白くないが、小話が散らばり、肝心のテーマらしきものが暈けた。

母親のどんな過干渉が我慢できずに家出したのか。母親が探偵を雇ってまで という心情は描かれているが、一方 娘の思いが伝わらない。同時に他の女子高生の過去エピソードが描かれている。その意味で、親と子(女子高生達)の情愛をもっと掘り下げて、劇的な歓喜の歌声を聞かせて欲しかった。
次回公演も楽しみにしております。
かげきなデイリープレイス

かげきなデイリープレイス

演劇集団イヌッコロ

ザ・ポケット(東京都)

2024/09/18 (水) ~ 2024/09/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ヤクザが演劇をする、その過程で起きる勘違い、誤魔化し、すれ違いなどを面白可笑しく描いたシチュエーションコメディでありスラップスティックコメディ。
設定は違うが、何となく実践記録を基にした「野球部員 演劇の舞台に立つ」という映画、舞台化もされているを連想した。訳あって 嫌々ながら始めた演劇、しかし成し遂げようとする過程で生まれた感情、仲間意識が…そんな成長譚でもある。

なぜヤクザが演劇をするのか、その突拍子もない理由は任侠の世界らしい。勿論、自分たちがヤクザということを知られてならないのは、他のキャストやスタッフが怖がること、興行に悪影響 というか出来ない。それでも裏稼業の人間ということを隠し、いろんな噓をつき通す。公演の日程・場所は決まっており、もはや逃げられない状況に追い込まれ…。

舞台は犬山町にある犬山集会所の一室。演目は「くれないの お雪」(?)、その主役を演じる<ゆうな>という女優の存在が肝。場面によって爆笑・失笑・苦笑など、笑わせ方が違う。そこに演劇集団イヌッコロの観客への溢れるサービス精神を感じる。それだけに活動休止は残念だ。
(上演時間1時間35分 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、奥の壁に犬山集会所まつり(10月5日)のポスターや絵画が飾られ、置台には電話。上手は出入口、下手に黒板。中央の大部分はスペース(素舞台)。

ヤクザが演劇をする、実は親分の行きつけの飲み屋(スナック)で贔屓にしている女 ゆうなを主演にした舞台興行をする。そのため若頭 安藤(佐野瑞樹サン)が選んだのが稲葉と氏家。まったくのド素人、イヤイヤ舞台稽古を始めるが…。そして何故か若輩の原も加わるが、演劇だとは知らない。そこで殺し屋修行(にしては緩慢な動き)と嘘をつくが、さらに本当の役者や集会所の管理人も巻き込んでの大騒ぎ。

始め、台詞覚えの場面では棒読みで、感情も入らず 動きもぎこちない。そして いつの間にかミュージカル仕立ての演劇になり、ハードルがどんどん上がり 歌やダンスも覚えることに。演出家 真田が ゆうなに好意を抱き、個人的に食事等に誘う。ミュージカル振付担当の甘利が、この世界はそんなものと自嘲する。しかし段々と演技らしくなり、という成長を見せる。そして舞台という虚構とは別に、本物の殺し屋が潜み親分を狙って というドタバタが重なる。

コメディとしての面白可笑しさ、それを観(魅)せる歌・ダンス・アクション、更に掃除道具を楽器にしたパフォーマンスなど、全てを舞台上に乗せて楽しませる。勿論、始めの未熟さ、稽古の大切さ、舞台の面白さといった段階がしっかり描かれた成長譚。それは1人ひとりの成長であり、仲間を思いやるといった繋がり、まさに演劇公演のバックヤードを思わせる。
次回公演も楽しみにしております(活動再開を願っております)。
『ミネムラさん』

『ミネムラさん』

劇壇ガルバ

新宿シアタートップス(東京都)

2024/09/13 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

3人の劇作家の物語を1人の演出家(西本由香)がまとめ、<ミネムラさん>という1人の女性を紡ぐ。当日パンフ(記載順)によれば、3人の作品は「フメイの家」(作・細川洋平)、「世界一周サークル・ゲーム」(作・笠木泉)、「ねむい」(作・山崎元晴)で、時間軸を10年間隔か もしくは交錯させるという技巧的な構成だ。この公演自体が実験的なもので、その面白さは観客の感性に委ねられている。

作者が違うから劇風も異なるはずだが、そこは上手く調整し統一感は保たれている。と言ってもオムニバスのような紡ぎ方で、時間軸を違えることによって違和感を抱かせない。1人の女性の多面性、それを自らの状況・環境の変化で観せる と同時に、他の者(第三者)の目を通して描き出す。その人間観察を少しコミカルに表現し、内省とか客観的という難い面を和らげている。

少しネタバレするが、舞台美術が秀逸だ。有効ボードを上手く使い<家屋>もしくは<家庭>といった居場所を現す。そのボードには木目があり温もりを感じさせる。勿論 場面に応じた音響・音楽は、不穏や優しさを表現するといった効果的な役割を果たす。全体的に不思議・空想的な感覚の話だが、なぜか観入ってしまう魅力がある。
(上演時間1時間50分 休憩なし) 

ネタバレBOX

有効ボードを可動できるよう 幾つかに切り分けており、そのパーツの組み合わせの違い 変化によって、色々な情景・状況を作り出す。先にも記したが木目がきれい、しかも自分の席からは<龍の頭>のようにも見えた。後ろは暗幕で囲っており、パーツの組み合わせによって窓を作り、照明を当てると不思議な世界が…。それと幾つかの箱馬が置かれている。

物語は、警察に探し物(者)の捜索を依頼し、家の中を動き回る警察官と浮浪者?探しているのは手紙なのか、その差出人本人なのか といったチグハグな会話から始まる。受取人ヤマザキは差出人の名前を思い出せない。「ミ、ミネ・・」と記憶がボケるようで、早くも不条理の様相が見える。場転換しミネムラさんの家。ここにヤスコという女性を住まわせ、彼女が就職できるまで面倒を見ている。ここにはミネムラさんという”普通”の女性が描かれている。尤も”普通”とは を追求しだすと難しい。更に場転換し、結婚し赤ん坊もいるミネムラさん。年の離れた夫の連れ子だ。実は妹が同居しており、精神を病んでいるような。しかし 本当に病んでいるのは 妹なのかミネムラさんなのか、混乱・錯乱そして狂気な世界。

ミネムラさん(心)の旅は、現実なのか空想の中か、その混沌とした不思議世界が公演の魅力。この人は こういう人と特定/断定出来ない。その人には色々な面があり、その多面性によって捉えどころ(人物像)が違う。勿論 他者(相手)との付き合い方や深度によって印象は異なる。もっと言えば自分が知らない自分(第四の窓)的な感じも受ける。

一般的なストレートプレイ公演とは趣が異なり、場面の繋がりが唐突というか歪に感じられるが、そもそも3人の作家の作品を1つにして描いている。その発想にどれだけ順応できるか、見巧者向けとは言わないが 手強い公演ではある。
次回公演も楽しみにしております。
シャイシャイマンションシャンソンショー

シャイシャイマンションシャンソンショー

劇団美辞女

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2024/09/12 (木) ~ 2024/09/16 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

楽しませるを前面に出した公演。マンションの老朽化、居住者の高齢化、子供の減少など、どこかで見聞きしたような状況が観て取れるが、公演は あくまで前向きだ。その演出として、明るく元気な様子をダンスや歌(シャンソン)で観せ聴かせる。

物語は1999年と現在(2024年)を往還し、その時代の特徴を表し 入居者同士の交流、そして地域との関りが大切だと伝えているよう。
ただ、卑小だが気になることが…。
(上演時間20時間 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は段差を設え、上段中央にエレベータードア、左右は壁だが 色は青・赤と補色にし印象的に見せる。上手に窓、下手に高層ビルの張りぼてと椅子2つ。シンプルな作りだが、ダンス・歌を披露するためには ある程度広いスペースが必要。

先に気になることを記す。舞台となるのは日向が丘に建つアパルトマン、そして劇中(当日パンフの用語解説にも記載あり)で「中江戸線」や「なんとか不動産(ホールディングス)」と言っていたが、説明にも そして台詞でも その場所は「東京のはずれの『練馬区』で『埼玉県』との境」と具体的な地名をいう。勿論 笑いネタのシャレで蔑みでないことは分かる。場内も一部の(失)笑だけ。練馬区は豊島区の隣接区、池袋演劇祭は「より多くの人たちに演劇にふれてもらう場」を標榜している地域密着型のイベントだ。物語では、なんとしても地域の祭にシャンソンで参加するのと同じようなもの。そこで多くを暈した地名・鉄道名にしているにも関わらず、敢えて区名や県名を実名で喋らなくても…堅すぎるかな。全部架空でも良かったんじゃないか。

公演の魅力は、ダンスとシャンソン その観せ聴かせ楽しませること。そこには1999年の若く華やかであった頃を懐かしむ、郷愁のような感じもする。しかし2024年の現在も決して落ち込まず、明るく前向きに描く。劇団美辞女(みじめ)が贈る劣化した街であり女を示唆しているが、時を経ても人との関係がうまく築けるか否か。このマンションの管理組合メンバーの活動は、煩わしく苦労も多いが 人間関係は良好のよう。そこに現実とはかけ離れた舞台ならではの面白さがある。

もう一つは、入居者の個性豊かな言動と行動を描き、そこに夢と希望を語らせる。そしてこのマンションに掛かる なんとか不動産(社員)の街づくりへの熱い思い、その内外の人々の喜びと悲しみが伝わる。その意味では遣り甲斐と成長譚を描いた公演とも言える。
次回公演も楽しみにしております。
仮面夫婦の鑑

仮面夫婦の鑑

高円寺K'sスタジオ本館

高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)

2024/09/07 (土) ~ 2024/09/16 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、しかも無料公演。
脚本は 横山拓也(iaku)で、夫婦の心情に切り込んだ珠玉作。劇中の台詞「外見が内面を成長させる」、初めて聞く言葉だと思う 新鮮だった。これが名言なのか迷言なのか、少なくとも物語は迷走していく。様々な価値観が交差する、緩く滑稽な夫婦劇。

物語(説明で)は、夫の長期出張中に無断で美容整形手術(二重)を施した妻。それに腹を立てた夫が自分の顔を「中の下」に整形した。その結果、会社に行けなくなり失職してしまう。顔を変えた夫婦の「見た目」を巡る議論。その かみ合わない会話は、現在の夫婦の有り様を見るようだ。この2人の演技が物語を支え、可笑しみと滋味をしっかり味合わせてくれる。
(上演時間50分) 

ネタバレBOX

舞台美術は、あまり広くない空間に2人が住んでいる家(リビングルーム)をしっかり作り込んでいる。中央にソファ、上手に置台、下手に丸テーブルと椅子。上手と下手に出捌口があり一方に簾状のカーテンが掛かっている。

夫婦というか男女の性差や立場、事情の異なる人間の苦悩や葛藤を、関西弁のテンポと笑いを交え軽快に展開していく。論理的で鋭い観察眼、そして思いもつかない豊かな発想で描く。妻は、容姿に少なからずコンプレックスを持っており引っ込み思案だった。そこで美容整形を行い自分の外見を変えた。それは内面的な満足になり、気持も前向きになれた。一方 夫は何の相談もなく美容整形をしたことに腹を立て、自分も整形をした。その結果 会社に行きに難くなり 失職し家でぶらぶらしている。

妻は 絵画モデルも引き受け、喫茶店に飾られている絵を見て夫は驚いた。なんとヌード、妻は しらばっくれたが身体的な特徴を指摘され開き直った。夫は妻のヌードを衆人に観られたくない、逆に妻は積極的な性格になれたと。2人の意識の違いと同時に、夫は妻は自分だけのモノ、といった所有物的な思いが垣間見えてくる。確かに夫の思いも理解でき、その善し悪しに決着が付けられない。人間や題材を多面的に捉え、登場人物の感情を普遍性をもって立ち上げる巧さ、そこに人間の本質が滲みでる。

日は流れ、妻が妊娠し新たな命を宿す。「外見より内面が大事」と言われるが、それは建前で 本音は外見も内面も両方大事。夫婦の諍いは堂々巡りを繰り返し決着は付かない。しかし子は鎹とはよくいったもので、まだ生まれてもいないのに諍い事はうやむやになり夫婦円満。何処にでも在りそうな日常の揉め事を面白可笑しく紡ぎ、観ている人の感情を擽る。
次回公演も楽しみにしております。
だいたいみんな躍ってる2024

だいたいみんな躍ってる2024

ユトサトリ。

小劇場 楽園(東京都)

2024/09/11 (水) ~ 2024/09/16 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い お薦め。
初めて観た団体だが、これからは注目しておきたい。女優6人によるバトル会話 といった様相の物語。会話が漂流するようで どこに落ち着くのか…言わなくてもいいこと、逆に言わなきゃいけないことを面白可笑しく描く。その光景は実にリアルで、思わず頷いてしまう。

物語は、先輩(or上司)の結婚式で披露する余興の練習をしている女性社員3人。しかし些細なことから諍いになり、余興の練習は中断。そこへ上司(チームリーダー)や会社の顧問税理士が絡み、問題が四方八方に広がり収拾がつかなくなる。壁に時計が掛けてあり、午後7時過ぎ、そして何とか収拾したのが午後8時40分頃。実は上演時間1時間40分、会社の一室/業後の時間という限られた場所と時間で紡いだ会話というか快(適)話。

楽園という狭い空間での大声、怒鳴り声はどうか と思ったが、あの状況になればリアルな光景なのか。それにしても<芸事の道>であそこまで真剣になれるものか。自分には想像もつかないが、突拍子のないコトが次々現れ 暴露する。そして次はどんなコトが という興味を惹く巧さ。
(上演時間1時間45分 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、可動できるテーブルと椅子、場内入口の対角奥に横長ソファとハンガー、そして置台。上演前は床に青いビニール紐。場面転換に応じてテーブルや椅子を動かし状況の変化を現す。スペースを空け、余興のダンスシーンを挿入するなど会話だけではなく躍動感も観(魅)せる。

物語は、3人で先輩 藤井ゆかり(石澤希代子サン)の結婚式での余興の練習をしている場面から始まる。3人は相原ほたる(大原富如サン)、川野樹里(佐藤美輝サン)、小浜佳(和愛サン)で、相原・川野は入社5年目、小浜は3か月、にも関わらず率先して練習をしているのは新人だ。時期は12月であろうか、相原が電話で恋人とクリスマスに会う約束のことで揉めている。ハンガーにはコート。冒頭で時期と場所、そして状況をすぐ解らせる その掴みが上手い。

また人物造形が巧みで、相原は恋人との約束の件から真面目で融通が利かない、川野は結婚する相手とは体の相性が大切だと、相手を変え同棲を繰り返す。小浜は何とか穏便に進めたい事なかれのよう。物語は、川野が口を滑らせ相原の恋人のことを話してしまい…。練習をする しないで口論しているところに、帰ったはずの上司 朝霞澄子(宮﨑優里サン)と顧問税理士 北園(菊地奈緒サン)が戻ってくる。

会話が漂流しだすと状況が次々に変わり、新事実が明かされる。実は、相原は藤井の結婚に反対。藤井の相手が相原の元カレ、未練があるのかと匂わせれば違う。そして同性愛(レズビアン)のような雰囲気だが、実は2人の共通の趣味 生き甲斐の<華道>のことが理由。結婚相手も華道を嗜むが流派が違う。その流派=主義を変える(転向する)ことは納得できないと。劇中、実際 相原が花を生け置台に飾る。騒がしい中、朝霞は早く帰りたいが、その理由を誤魔化していた。実は離婚したと言わざるを得ない状況へ。

全体的にコミカルな様相で展開していくが、何処にでもありそうな身近な話題を面白可笑しく膨らませる。物事のバランスは黄金比、しかし華道におけるバランスは白銀比が重要。相原が生けた花に藤井が鋏を入れて整える。真面目で杓子定規な仕事振りから入社当時、営業先と揉めた。それを助けてくれたのが藤井の機転とアドバイス。冒頭のクリスマスの約束に係る電話の場面がしっかり生きてくるラストシーンだ。
次回公演も楽しみにしております。

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