りいちろの観てきた!クチコミ一覧

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In The PLAYROOM

In The PLAYROOM

DART’S

ギャラリーLE DECO(東京都)

2009/12/01 (火) ~ 2009/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

圧倒的な面白さ
べたな言い方ですが
本当に面白かったです

巧みな導入部分に惹きこまれ
その空間に閉じ込められて・・・。

ほんと、もう、観る側をがっつりと凌駕する物語の展開に
我を忘れて見入ってしまいました。

ネタバレBOX

導入の部分がまず秀逸。

連作の推理小説の最新刊、
読みふける読者たちにメッセージがはさみこまれていて。
一度でも時間を忘れて物語を追ったことがあれば
その気持が本当によくわかる。
舞台の導入部にしなやかに間口が開かれて違和感がないのです。

集められた読者たち、
ゲームのルールが明らかになっていくときのわくわく感に始まって、
そのゲームと現実のリンクの緻密さ、
さらに物語が現実を食べ始めるような緊張感が
観る者をぐいぐいと釘づけにしていきます。
ベストセラーの推理小説という前提が鮮やかに具現化されて、
当日パンフの言葉に偽りなし、
気がつけば観客が「この、ストーリーから、逃げることは、許されない・・・」
状態になっている。

観客に配られた地図、緻密で流動的で有無を言わせない物語展開、
閉塞したその場所に凝縮される、街全体に広がった恐怖。
ルールは必ず守るという部分が底辺をかため
限られた外枠の時間と、移動の距離や所要時間のリアリティが
物語に捉われた観る側のグルーブ感を
したたかに膨らませていく。

しかも、それだけでも出色の展開なのに、
物語が現実を食べつくしても舞台は終わらないのです。
さらに突き抜けて、走る中で観客に生まれた物語の澱までも
見事に一掃してしまいます。
ほんと、最後まで妥協なく突っ張りぬいてくれる。
終わりの世界観がじわっと観る側を包み込んで・・・。

役者たちも本当によくて、個々のキャラクターが
強く深く観る側に伝わってきます。
それぞれの色が観客に体感的に見えることで
物語の展開から淀みが消えていく。
しかも、舞台にグルーブ感が醸しだされても、
いたずらに走らせることなく
その感覚を広げていく着実さがあって、
だから、観る側は最後まで物語に寄り添っていける。

観終わって、走り抜けたような感覚に満たされて。
極上の推理小説を一気に読み上げて、
すべてが腑に落ちたような満足感。
なかなかこんな舞台に巡り合えるものではありません。

ちょいと奇跡のような、極上のエンタティメントに巡り合った感じ。
がっつりと楽しませていただきました。






白神ももこ(演出・振付)× 毛利悠子(美術)× 宮内康乃(音楽)『春の祭典』

白神ももこ(演出・振付)× 毛利悠子(美術)× 宮内康乃(音楽)『春の祭典』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2014/11/12 (水) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

春の息吹
観る側のすべての感覚をそばだたせ、
春の息吹と廻り来たる命の普遍を描き出していました。

人、花、時、すべてが織り込まれた世界、
微かな気配から始まり、
やがて命が解き放たれ、
人々が集い、
そのなかにも無機質に流れるときがあって、
命の滅失があり、
さらに再生の気配が訪れる。

それらが、パフォーマーの身体や舞台美術、奏でる音、仕掛けられた音、装置の動きにいたるまで
作り手の編む様々な創意や表現とともに観る側を新しい春の訪れと過ぎ行く季節の感覚に誘ってくれる。

村芝居の桃太郎にしても、モノトーンのダンスにしても、
季節の情景として観る側に新たな印象を刻んでいきます。
舞台袖のスピーカーの音や花の動きにも
人が見るものを凌駕した季節のダイナミズムがあって。

そしていったん終わりを告げた春が、
その気配を再び醸す終わりにも強く心を捉われました、

劇場空間全体を使った見事な舞台だったと思います。

日本語を読む その4~ドラマ・リーディング形式による上演『夜の子供』

日本語を読む その4~ドラマ・リーディング形式による上演『夜の子供』

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2011/05/04 (水) ~ 2011/05/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

なんてくっきり
シンプルな内容の物語ではありませんでしたが
とてもくっきりと戯曲の世界が伝わってきました。

リーディングという手法と
演出家や役者がもつ力を
しっかりと感じることができました。

ネタバレBOX

1986年に書かれた戯曲だそうです。

演出家がアフタートークで触れていたように
とても豊かで美しいト書きがあって
その言葉たちが、観る側に舞台の世界を紡いでいきます。

始まった時には
そのト書きを読み上げるテンポが少しだけ早いように感じましたが
やがて、その速さがシーンをもたつきなく進めていく力になっていく。

ト書きにとどまらず
台詞たちも、遊び心にあふれてとても豊か。
戯曲が作られた当時に観客の主流だった年代の
子供のころの記憶を借景にしているので
記憶があいまいだったり
元ネタがわからないフレーズの借用なども
あったのですが
(若い世代には聞いたこともないフレーズかと・・・)
それでも、言葉の響きなどのおもしろさは
しっかりと伝わってきて・・・。

未来を今に据えて、現代を過去に置いて、
二つの時代を行きかう物語を
舞台の前方と後方に切り分ける。
音楽は時にセピアがかった高揚や慰安を観る側に注ぎ込み
照明は記憶と妄想の深度と実存を舞台に表していきます。

死んだ母親、
いなくなった父親、
生まれなかった子供たちと・・・。
時間を逆回しにするごとに
どこか甘さを持った、
でもビターで切ない記憶や嘘が解けていく。
繰り返されるやり直し。
時間の枠組みを踏み出した
お祭りのような夜の時間のクリアなイメージと
希望や想いのテイストが
語り綴られるシーンたちからしなやかに伝わってきて。

この作品、
リーディングという形式ではなく
ふつうの演劇として上演すれば
さぞや、観客の目を惹くものになったと思います。
ブリキの自発団の公演などは観ていないのですが、
もし、ト書きに込められたイメージがこの舞台に
リーディングということでなく具現化され、
それぞれのシーンを埋め尽くせば
世界は彩られ膨らみ、
観る側はきっと舞台上に浮かび上がる幻に
深く取り込まれていたと思う。

でも、その一方で、
こうして、
役者たちがリーディングという枠の中で
一行ごとの台詞を丁寧に積み上げて
作り上げた世界でなければ伝わってこないものも
まちがいなくある・・・。
ト書きやお芝居に付随するイメージが
言葉に閉じ込められ
役者たちの豊かな表現力を持った朗読によって
観る側に置かれると、
物語の構造がしっかり見えるというか
お芝居の表層的な広がりの部分に
目が眩むことがなく、
それゆえに研ぎ澄まされた質感を持った
キャラクターの想いが奥行きをもってしなやかに残るのです。

観る側が身をゆだねられる役者たちと
洗練を感じさせる演出によって
リーディングだからこそ持ち得る力や
成しうる表現があることを
改めて実感することがができました。
馬のリンゴ 【3月15、16日 アフタートーク決定】

馬のリンゴ 【3月15、16日 アフタートーク決定】

ワワフラミンゴ

神楽坂フラスコ(東京都)

2013/03/15 (金) ~ 2013/03/20 (水)公演終了

満足度★★★★★

一身上の都合で全てはわからないけれど・・・
冒頭の身体での表現にまず捉われ、
シーンごとのひとつの所作や言葉から
女性たちの、このメソッドだからこそ表現しうるであろう感覚が伝わってきて。

もし戯曲で読んだら、
きっと突飛に思える踏み出しも、
役者たちが組み上げる空間に置かれると、
単に言葉そのもののニュアンスを観る側に伝えるのではなく
そこに紐づいた感覚や想いを細微に組み上げて
観る側を淡く、強く、ぼんやりと、でもくっきりと
その時間に染め揺らす力があって。

幾色ものとても自然でつかみどころのない想いの肌触りに
深く浸されてしまいました。

ネタバレBOX

フラスコはウナギの寝床のようなスペースで
入口からの細長い空間の奥に一段高い畳敷きの場所があって。
入って右側が客席に、
左側にもベンチなどが並べられ舞台に供されて。

冒頭、畳の部分に一人の女性が現れます。
その身体で紡ぎ出される感覚に一気に取り込まれる
しなやかで、内にあってのびやかで、起伏があって、
繫がれて凛とし、解き放たれて快活で・・・。。
ダンスの精度に裏打ちされた所作や表情が醸す、
刹那ごとの瑞々しさとふくよかさに目を瞠る。
そのシークエンスは、
入口側に現われた二人の女性に引き継がれて。
想いと身体が縒り合されるよう。

そこからの展開というか、描かれていくものには
男性には直接にわかりえない感覚も多々あって。
でも、その感覚を抱える女性の想いが
舞台に置かれ、紡がれるものから
突然にすっと透けて垣間見える。
女性たちだけの内緒話を漏れ聞いてしまったような感じがあって、
でも、描かれているもののトリガーに気づき、
舞台に置かれ表されたものの寓意が解けると、
その躰と心がひとつの世界に交わって
織り上げられる様々なシーンの暗喩するものが、
きっと全てではないのだけれど、
むしろすべてでないがゆえに、
男性にもとてもナチュラルに伝わってくる。

ひと月の日々のなかに訪れるものや、満たすもの、
心に居続けるものや、鬱屈や、慰安や、逃避や、ピュアな欲望や、
どこか不安定であいまいな開放や希望までが
立ち上がり、突然歩みだし、さらに踏み出して。
表見上、不条理にすら思えるそれらの、
舫がふっと解けると、
女性が女性であることで抱くものの、
あるべくしてそこにある
男性すら受け取りうる
洗練されたあからさまさのようにも思えて。

吸血鬼撃退の道具にしても、場所にしても、
片方が連れ去られることにしても・・・。
隠れ、出ることにしても・・、
男性が持つ知識であってもすっとはまる。

その吸血鬼の噛み方や、寄り添い方、
さらには供される飲み物に対する感覚などは、
男性にとっては柔らかな驚きや、
気付きでもあったりして。
でも、それらが、生々しくならず、
しなやかに削ぎ研がれ、
透明感すらもって訪れてくるところに
作り手一流のウィットや、
表現の豊かな洗練を感じて。

ラフなようで、観客の咳ひとつで
場の空気がかわるような繊細さを持った舞台を、
強かに背負う役者たちの様々な筋力にも
舌を巻く。

終演時には、
一人の女性の内なる心と体の
緩やかな俯瞰と存在感がしなやかに残って。

正直なところ、
たとえば家賃と床下から取り出してくる封筒など
空気のテイストに惹かれつつ、
描かれているものが分からなかったりもしたのですが、
でも、たくさんのことを受け取りつつも
分からないことやぴんと来ない部分もある、
その在り様こそが、
男性に供されたこの表現たちの秀逸にも思えたことでした。
ドアを開ければいつも

ドアを開ければいつも

演劇ユニット「みそじん」

atelier.TORIYOU 東京都中央区築地3-7-2 2F tel:03-3541-6004(東京都)

2015/12/24 (木) ~ 2016/01/12 (火)公演終了

満足度★★★★★

それぞれの家族
シーズンごとに役者を変えながら年間を通してのロングラン公演。梅雨のころ、盛夏の頃に観て、今度は師走の公演。
戯曲も季節に合わせて絶妙にディテールを変えながら、なによりも役者の異なりが、その家族の色に変わっていくことが面白い。

同じフォーマットを供する戯曲に内包された企みが、役者達によって同じ筋立ての異なる豊かさに解かれていくことに強く惹きつけられました

ネタバレBOX

みるたびに四人姉妹のそれぞれの個性に加えて、登場しない父母の人物像までが導かれる戯曲のうまさに感歎。

それが、単に役者達それぞれの演技にとどまらず、それぞれの色の重なりのなかで、家族の肌触りとなり、翻ってその中にキャラクターそれぞれの個性を映えさせていく。

公演としては四季を一巡したそうで、この先どこまで続くのかはわからないけれど、長女、次女、三女、四女、役者ごとのそれぞれの描かれ方とその重なりの異なりを見続けることでの豊かさにも更に惹かれました。


東京裁判

東京裁判

パラドックス定数

pit北/区域(東京都)

2009/11/13 (金) ~ 2009/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

歴史を傍聴したような・・・
作品が実に緻密に編みあげられていて
台詞の一つずつに質量がしっかりと乗っていて。

よしんば傍聴席から見ていても
感情が舞台上の人物と同化するような
力を感じました。

ネタバレBOX

以前にこの劇場での座席の辛さを体験済なので、
楽をして傍聴席にて観劇。

冒頭からの空気の作り方に
観ている側にすら緊張感が伝染してくるような・・・。

裁判長が入廷してくるときの起立の姿勢や
弁論のタイミング。
主任弁護団の会話のみで進められるシーンの積み重ねが
実に効果的で
裁判長や検察側、さらには判事たちや、
被告たちの表情や気配の描写が
市ヶ谷の旧陸軍士官学校講堂の
その日、その時間の感触を今とするに十分な力をもって
観る側にしっかりと伝わってきます。
レシーバーから伝わってくる同時通訳を繰り返す声や、
舞台上の弁護人一人ずつの返答、
裁判の雰囲気が歴史の縛めを解かれた
リアルタイムな臨場感を持ってやってくるのです。

彼らの会話や弁論の中で、個々の弁護人たちの
個性や抱えているもの、さらには裁判に対する想いが
滲むように浮かび上がってきます。
史実を借景にした物語のダイナミックさと、
弁護人ひとりずつの繊細な想いの質感が重なるとき
舞台には高い密度が醸成されていきます。

重箱の比喩、
検察にニュルンベルグ裁判を持ち出させるための苦闘、
歴史の足跡としてすら刻まれていく
ひとつずつの言葉が持つ人間臭さ・・・。
それぞれに戦争での痛手を負いながら
一方で戦勝国の正義に噛み付くように
たとえば戦争は政治の一手段であって犯罪はないという理論を盾に
その戦争を導いた被告たちを弁護していく姿。

5人の弁護人の想いに心を震わせ、
目頭を熱くしながら
一方であたかも歴史のひとこまを目の当たりにしたような高揚に
身を任せておりました。

劇場を離れてからも、いろいろな思いが去来して・・・。
本当に見応えのある作品だったと思います。








『ROMEO & JULIET』

『ROMEO & JULIET』

東京デスロック

富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ(埼玉県)

2009/10/24 (土) ~ 2009/10/28 (水)公演終了

満足度★★★★★

IN&OUT
半日がかりでKorea VersionとJapan Versionを観ました。

Korea Versionは戯曲の世界にどんどんと取り込まれていく感じ、一方Japan Versionは戯曲の世界からの広がりを深く感じる作品でした。


ネタバレBOX

Koreaバージョンは、さまざまな手法が駆使されながら、戯曲の流れを押し広げるように物語が膨らんでいきます。

多田手法というか、舞台に人と人との関係性が生まれる冒頭から、観る側が物語の世界に包まれて。
表現の豊かさ、与えられたメソッドを武器に変えていく役者たちのパワーは、それなりに大きさのある空間をもはちきれんばかりに満たしていく。舞台後方に張られたスクリーンに映し出される文字や影が、さらに舞台を膨らませていきます。

役者たちの韓国語は当然に理解できず、頭のなかにある戯曲の流れと、スクリーンに映し出される日本語訳を頼りに物語を追っていくのですが、スクリーン上の訳の提示も単純なプロンプターからの情報というよりはひとつの表現になっていて、マンガにたとえると人物についた吹き出しというより、背景に描かれるさまざまな効果のような感じで観る側に入ってくる・・・。このことが、観る側を一層強く物語にのめりこませていきます。

それにつけても輪郭の太さに目を見張る舞台。一つずつのシーンがメソッドを武器に深く強く心を揺らしてくれる。ジュリエットの想いを女優達でガールストークのように編みあげていく部分のヴィヴィドさや、両家の争いのシーンの洗練。
初夜が開けた朝の二人の想いの質感や、ジュリエットの死を何倍にも重く背負うロミオの心情、さらには自ら死を選ぶジュリエットの愛に殉じる高揚・・・。良く知った物語でありながら、さらに一歩引き入れられて、自分が頭のなかに持っていたロミオとジュリエットの物語がとても陳腐なもののようにすら思えてきて。

観終わってしばらく舞台の世界から抜け出せませんでした。
終演時の2度のカーテンコールですら足りないような気がしたことでした。

Japan Versionは、まず、スクリーンに「Text」と表示されたとおりに、戯曲の紹介から始まります。ショーアップされた形でちょっとクロニクルっぽくスクリーンに戯曲の一部を提示して観客に読ませる・・・。
坪内逍遥訳の提示が効果的で、戯曲そのものが観客に表わすもの、台本に書かれた言葉が見る側に発するニュアンスや色が抽出され伝わってきます。ライティングや音楽から生まれるコンサートの直前のような高揚感がなにげにしたたかで。

次に「Human」と表示され、素のライトの下、役者が舞台上に並んで順番に自分の恋愛体験を語り始めます。すごくナチュラルな語り口で、虚実はよくわからないのですが、観る側が心をすっと開くような雰囲気が醸し出されて。そのトーンというか流れのままにでキュピレット家のジュリエットさんの話を・・・、聞いてしまう。戯曲のお仕着せを脱いで私服で楽屋口から出てきたような、素顔で等身大のジュリエットの心情に、笑いながらもなぜかうなずいてしまって・・・。

そして「Text&Human」、前の二つの要素が重なる中、作り手側の目隠しでの物語の模索が始まります。

何から目をふさいでいるのか・・・。周りというだけでなくかつてのロミオ&ジュリエットの作品のイメージまでリセットされるような印象。

舞台の上ので探りのなかで語られる台詞は、やがて見えない者どおしで絡まりあい膨らみ始める。そこから少しずつ動作が生まれ、スクリーンの文字が遊び、音がやってきて戯曲から溢れ出てくる感覚がどんどんと具象化されていく・・・・。

観る側からすると、戯曲が作り手たちの創意にふれて線描として次々に描かれていく感じ。そして、手で周囲を探り足で舞台のエッジを確かめながら、台詞を頼りに模索し徘徊する役者たちの姿に、作り手たちの創作の苦悩を感じて・・・。でも、芽生え、揺らぎながら膨らみ、舞台上に形となり、そこから舞台を超えて施設全体にまで広がる表現に、雛鳥が貪欲に餌を啄ばみ、羽根を広げ、やがて羽ばたき始めるような、ぞくっとするような創意の飛翔への過程を感じるのです。

ブリッジで語られる台詞に文字がクルっとひっくり返るようなシンプルな遊び心から現れる質量を持った何か。朝を告げるひばりの声はずるいと思いながらも個人的にツボで、こういうウィットが作り上げる舞台のニュアンスがどんどんと世界を豊かにいくようにも思えて。コインを危なっかしく投入して「毒薬」を手に入れる姿に薬入手の不思議なリアリティを感じたり・・・。カメラを使ったライブ感(館内の道程をしめすグラフィックもよい)や、スクリーンに映像として具現化される霊廟のシーンにも瞠目・・・。

そして、いったん目隠しを取った役者が、再び目隠しをつけて手探りを始める姿に、限りのない演劇の深淵を思ったことでした。

戯曲にひたすら惹きこまれていくKorea Version,戯曲から次々となにかが現れていくJapan Version。戯曲に対してのIn&Outを半日で体験したよう。観終わって、なにか抱えきれないほどに満腹なのですが、その感覚には演劇という筋がしっかりと通っているから、すっと心に吸い込まれていく感じがする。

そして、劇場を出るとき、満足感だけではなく両Version(特にJapan Version)のさらなる広がりの予感とそれを観たいと渇望する気持ちがやってきて・・・、自分の貪欲さに驚愕したことでした。
今日もいい天気

今日もいい天気

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2009/11/05 (木) ~ 2009/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

密度が高まるほどに和らぐ空気
エピソードの一つずつから感じられる
家族それぞれの視点。
物語の仕掛けにも気持ちよくやられて。

丁寧に描かれるが故の軽さと
淡々とした色に
ゆっくりと深く心を染められました。

ネタバレBOX

物語の筋立てがとてもしたたかだと思うのです。

ごく前半のシーンで、
まるで舞台装置を見せるように家族を紹介し
さらには、飼い猫のたまの姿を暗示。
そのスキームで物語を見せることで
日々の生活描写だけでは見えない家族の心情が
手に取るように観る側に伝わってきて。

少しずつ崩れるように残った男たちの心情が
お試し家政婦との会話の中からやわらかくあぶりだされてくる。
お試し家政婦というか、たまに残された時間がなくなり、
舞台の密度がじわりと高まっていくなかで、
かえって家族の過ごしてきた「いつも」の和らぎのようなものが
増してくる不思議・・・。
見よう見まねの碁のエピソードから伝わってくる
にゃんとも秀逸な視線の作り方に、
観る側の心がやさしく満たされて。

お坊さんを登場させてからの、
物語の膨らまし方なども本当にうまいと思う。

別れを悟った上でのわがままとその答え方から、
一緒に暮らしたものへの惜別の気持が、
きちんと描きこまれたが故の軽さで伝わってきて、
なにかが降りてくるような感じで、目頭が熱くなってしまいました。

カレーの匂いに、
ふっと夢から醒めたような
いつもの日曜日の夜がやってくる。
同じ色の時間のなかで
少しずつ変わっていくものへのいとしさや切なさが
深く伝わってきたことでした。
わが闇

わが闇

ナイロン100℃

本多劇場(東京都)

2007/12/08 (土) ~ 2007/12/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

極上の家族劇
終わってみれば3時間15分があっという間に過ぎていた感じ。
長いとはすこしも感じませんでした。

3人姉妹と書生、そしてそれを取り巻く人々の人間模様は見ごたえ十分。

視点の作り方が非常に巧みで、ステレオタイプではないけれど真理を包含している家族像が見事に浮かんでくる作品です。

必見!

花は流れて時は固まる(BATIK)

花は流れて時は固まる(BATIK)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2009/11/15 (日) ~ 2009/11/20 (金)公演終了

満足度★★★★★

圧倒的
ジェンダーによって共振するものが異なるのではと思いました。

でも、そうであっても、男性の私が観ても圧倒的な舞台。強く、時に放埓で、あるいは繊細で、しかも気が遠くなるほど深淵で。

3回ぐらいのカーテンコールでは、とても受け取ったものには及ばない気がしたことでした。

ネタバレBOX

きっと、女性だからこそ共振し理解できるものが含まれていると思うのです。もしかしたら、手に溢れるような花びらを抱える女性の感覚にくらべると、男性のコアに降りてくる感覚は、前方に張られた水の底に沈む花びらの重さくらいのインパクトなのかもしれません。

でも、そうであっても、舞台からやってくる物には大きく揺すぶられました。
女性が生まれ、育ち・・・。幼い日や思春期までのルーティンの具象にも思える回転から、やがて、自由奔放な動きに広がっていく姿。そして初めての水とのふれあい。

集められ水に投げ入れられる蒼い花びら状のものは、哀しみや痛みにも思えて。一方で脚に鈴をつけて踊り、水に入るその姿に、女性のときめきを思う。
泣きつづける子供をあやし疲れ、後方の空間が電飾に飾られるほどの享楽に身をおき、或いは再び花びらを水に流すほどに痛みを覚え・・・。生きる悦びと痛みをくりかえしていく姿のひとつずつが、洗練され、しかもあからさまなインパクトをもった刹那として観る側に伝わってきます。

ダンサーがシークエンスで表現する、鼓動を感じるようなひとときの力強さに心を奪われ、被り物によって具象化された世界のどこかシニカルな匂いに、表現の洒脱さを感じる。

その中で、水の底から鈴の鎖をひろい、首にかけて、青い花びらのない胸で
水の中でのダンスを踊りつづける女性の存在にも目を奪われました。女性の悦びや哀しみの時間をいくつもいくつも跨ぐマラソンのようなダンスに、女性の人生分の業ようなものを感じて・・・。

そしてダンスを止めた彼女の躯が、蒼い花びらの詰まった袋で打たれつづけるその響きにも息が詰まりました。

女性の生きる姿が示されて。でもそれだけでは終わらない・・・。
終盤の輪廻を思わせるような、数知れない女性のジェネレーションの俯瞰にも目を見張りました。
誕生し、生きて、旅立つ。その抱えきれない程の刹那の連続が、曼荼羅のように広がっていく感覚に、もう胸が苦しくなって。

終演のとき、
舞台上に具象化された時間の表現の深さと豊かさに凌駕されました。
ダンサーたちの時間を背負いきるパワーと表現の意志に頭が下がりました。
照明(スピンするダンサーが作るシルエットには目を奪われた)や舞台装置にも創意がいっぱい。

でも、これほど強く揺すぶられたにもかかわらず、この作品において、男はやはり観客の位置にいるのだと感じたり・・・。
神が創りし男と女のこと、そしてそれぞれがながめる水の感覚がきっと違うことなど、風に吹かれて歩く板橋駅までの道すがら、ずっと頭から離れませんでした。
花のゆりかご、星の雨

花のゆりかご、星の雨

時間堂

ギャラリーLE DECO(東京都)

2009/06/02 (火) ~ 2009/06/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

肌で感じるように伝わる物語
空気の硬さ、やわらかさ
心のかたくなさ、広がり、癒し

全てをべたに表すのではなく
大切なものを
水彩で繊細に描いていく感じ

空間に浸潤されるなかで
肌で感じるように物語がしっかりと伝わってきました。

ネタバレBOX

前半の骨董屋さんでの顛末、
役者達の演技からお店の雰囲気がヴィヴィドに浮かんできます。
仕草、視線、音、扇子の動き、それぞれがしっかりと観客を捉えていきます。

淡く確かな光景のなかで
役者達の想いや熱が
しなやかにくっきりと観客に伝わってくる。

しかも明確であることが余韻を殺さないのです。

たとえば古道具屋の手違いで他の人に渡ってしまった
ソムリエナイフが戻るのを待つミキと対応する店員との空気が
紅茶の香りのなかでゆっくりと変わっていくシーン。
バイト店員を演じた星野菜穂子の滑らかなテンションに
花合咲が演じるミキの心が少しずつほどけていくところがすごく良くて・・・。

そのトーンが菅野貴夫と雨森スウが演じる古道具屋夫婦の空気と違和感なくマージしていきます。するとひとくせありそうな近くのレストランのシェフを演じる鈴木浩司が馴染む居場所がそこに生まれて・・・。5人の役者達の色がぼけることなくその空間でひとつの色をかもし出すから、後半の幹の旅に導かれる成り行きにも不思議と無理がないのです。

ソムリエナイフの記憶。星野が演じるミキの祖母と雨森が演じる母親の確執。祖母が母親を思う心と母親がミキを守ろうとする気持ち、それぞれの想いがミキの視点を凌駕して生々しいほどに観客を包み込む。鈴木が演じる朴訥としたミキの父の想いも本当に秀逸。

さらに戦後混乱期の菅野演じるミキの祖父の祖母との再開へと物語が導びかれて。凛とプライドに心を隠す祖母の姿。そんな祖母への祖父のまっすぐな愛。ソムリエナイフに刻まれた兎の由来が語られて・・・。

まるで仕付けられるようにつながれた3つの時代、祖母ー母ー幹それぞれがもつ、どこか言葉足らずで片意地で、でも真摯に相手を思う気持ちのあたたかさが時代の重なりのなかで浮かんできます。

母と重なる「臭覚」の才能だけでなく、その生き様や想いにミキと祖母や母の血のつながりを醸し出すところ、旨いなと思う。

最後の歌の響きが、やわらかく心を揺らします。いくつもの旋律の美しい重なりに、満たされた不思議な気持ちが降りてきました。

この作品、WIPも見せていただいて、そのときから役者の方から伝わってくる思いには心惹かれていたのですが、本番では個々からやってくるものに浸潤されるだけではなく、全体が醸し出すふくらみのようなものに圧倒されました。前半の空気がWIPのときより細やかになっていて、その分後半にソムリエナイフがミキの心に満たしたものが、より豊かに伝わってきたようにも思えて・・・。

終演後、拍手をするとき、べたな言い方ですが、すごく優しい気持ちに満たされていました。

公演の終わりにもう一度観にいこうと思います。
すでに間違いなく魅力的な作品だけれど、さらなる色が感じられるような気がするのです。

ショート7

ショート7

DULL-COLORED POP

pit北/区域(東京都)

2009/04/29 (水) ~ 2009/05/06 (水)公演終了

満足度★★★★★

2日にA、3日にB
一つずつの作品の完成度が高く、両日とも時間を忘れて見入ってしまいました。


それっぽくやっているというような妥協をまったく感じない、個々の作品のクオリティに瞠目しました。

ネタバレBOX

見応えがあるというか、どの作品にもしっかり観客を取り込む力があって・・・。

「エリクシール・・・」のナンバーは単に役者の歌がうまいというレベルを超えて、キャラクターが物語を歌い上げる力にまで至っていたように思います。マジで良質なオフオフブロードウェイのミュージカルを見せていただいたような。

清水那保や堀越涼のひとり芝居もがっつりと堪能。

堀奈津美や佐々木なふみなどから醸し出される、女性の日常にも瞠目しました。

ほんと、作品にも役者にもはずれなし。

まさに粒がそろった短編集だった思います。







いつだっておかしいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校

いつだっておかしいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校

ロロ

新宿眼科画廊(東京都)

2009/07/18 (土) ~ 2009/07/22 (水)公演終了

満足度★★★★★

子供のしっぽと大人の萌芽
あちらこちらの評判をうかがって
楽前日に拝見。

物語の仕組みが見えるに従って
ぎゅうぎゅうの場内が気にならないほどに
惹きこまれました。

登場人物たちが見つめる現実や未来に潜む鋭角なエッジ、
でも切り落とされたものに子供のしっぽが残っているのが
すごくヴィヴィッド。




ネタバレBOX

ロロは前回の15MINUTES MADEで観て
既存の感性をすっとのりこえたところに
惹かれた劇団。

女の子が提示する
小芝居の不思議な理不尽さや
ギターを抱えた少年の歌が変わっていくあたりに
子供からしだい脱皮していく姿が
すごく瑞々しくつたわってきました。

大人になるといろいろと美化してしまうような記憶なのですが
そのヴェールをさらっとはぎとってくれるような力が
舞台からやってきて・・・。

風変りな転校生に見えるものが
次第に少年に共有されていく姿がすごくよいのです。
知らず知らずのうちに
変わっていく少年や
同級生たちの温度差になにかすごい実存感があって息をのむ。

クラスの内側と外側がライティングで
切り分けられているところも
物語の枠をしっかり作っていて物語をぎゅっと締めていたようにおもいます。
役者の切れもすごくよくて・・・。

しっかりと歌える役者のいる座組のメリットも十分に生かされていました。終幕ちかく、「卒業写真」とプチパンクな歌が重なりながら場内を満たしていくのが圧巻。ベタな盛り上がりではなく、そこに先生や生徒たち個々の姿が切り取られているところにこの劇団の力量を感じたことでした。

彼らの作り出すものをもっともっと見たくなりました。







『パ・ド・ドゥ』【ご来場ありがとうございました!】

『パ・ド・ドゥ』【ご来場ありがとうございました!】

七里ガ浜オールスターズ

王子小劇場(東京都)

2011/05/24 (火) ~ 2011/05/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

物語を知っていても
ずっと前に、観たことのある戯曲でしたが
そうであっても、しっかりと
物語に引き込まれてしまいました。

ネタバレBOX

入場すると
なにかだだっ広い感じの劇場に
接見室のセットがおかれていて
その左右に座席が並べられている・・・。
他の方も書かれていましたが
なにか席を選びにくい・・・

それでもほぼ満席となり客電が落ちて・・・。
金属の扉が開閉する音が闇に響いて・・・
再び明かりがついたときの
その場の雰囲気にまず驚かされる。

多忙を極める弁護士と何らかの罪を犯した女、
カラスを挟んだありきたりな会話。
紋切り型の会話からほどけていく雰囲気があって。
やがて刑事事件の被告と弁護士というの裏側にある
二人の関係が明らかにされていきます。

事件の真相への興味に
二人の距離感が織り込まれて
接見室の空気にどっぷりと浸される。

客席は接見室の窓と直角の位置にしつらえられているので
二人の表情のどちらも真正面からみることはできない。
でも、というか、だからこそ
観る側はどちらかの立場に偏ることなく
その場の空気で物語の進展を眺めることができるのです。

絶妙な緩急、事件は紐解かれるように見えながら、
一方で二人の結婚生活や今の思いと絡まりあっていきます。
真実にたどり着くことが
二人の過去の、そして今の想いを浮かび上がらせていく。

接見室ですから
二人とも座り芝居なのですが、
二人の役者とも座してキャラクターを演じている印象は
ほとんどなくて。

幸運にも二人の役者の全身が見切れることのない席を
選ぶことができたので、
二人が上半身だけでキャラクターを演じているのではないことが
しっかりとわかる。
弁護士の苛立ちは開いた足の動きから生まれて
その場の状況で全身に伝わっていくようにも見える。
女性もつま先からの表現があって
時に脚を椅子に絡ませて動かし
つま先を立て
あるいは靴の脱ぎ着で、
想いの座標や
感情のリラックスと緊張を表現していく。

態は仕切られた部屋に座しての会話劇なのですが、
気がつけば、
観る側はいつしか、その会話のやり取りよりも
二人の言葉や身体を含めた表現をひとつのものとして
冒頭に釣り上げられた好奇心の先、
そこに満ちる空気を追いかけているのです。

事実が解けきった終盤、
乖離していた二つのベクトルが一つに重なり合う感覚があって。
幾重にも重なり目隠しをし合っていた互いの想いの先の
真実が開ける

まあ、装置まで動かしたラストシーンは
もう少ししっかりと見せてもよい感じはありましたが
でも、それはそれで、
作り手の意図するであろうテイストをかもし出していて。

観終わったあと、
ちょっとのビターさと重さと、
それを凌駕する充足感がゆっくりとやってきました。

この戯曲、物語の顛末の記憶は、
過去の上演を見て十分に知っていたのですが、
そんなこと関係なく、しっかりと面白かったです。


TorinGi(トリンギ)「捨てる。」

TorinGi(トリンギ)「捨てる。」

feblaboプロデュース

エビス駅前バー(東京都)

2009/09/19 (土) ~ 2009/09/22 (火)公演終了

満足度★★★★★

幾重にも重なって
バーの雰囲気や
お酒の存在に
したたかに血縁の距離感を重ねて・・・・。

血のつながりが触媒のようになって
キャラクターが抱える思いが
幾重にもほどけていくのが圧巻。

またエピソードを包括する仕掛けのうまさにも
瞠目しました。

ネタバレBOX

こじゃれたバーを訪れた
3組の客の会話劇。

血縁をもった者通しの会話ということで
そこには他人とは異なった愛憎が含まれて・・・。

しかもバーという場所柄、
他の客もいて、でもお酒も入るということで
キャラクター達の想いが遠回りに滲みだし、
やがて常ならぬほどに溢れだすのが
すごくナチュラルに感じられるのです。

脚本がすごくよくて・・・。

からくり仕掛けのように
それぞれの想いが
さらに相手の想いを引き出しながら
積み重なっていきます。
時にはバーという場所が作る箍が
外れかけるほどに・・・。

でも、どれほど互いの思いが交錯しても
血が、何かをつなぎとめている。
捨てきれない、あるいは
切っても切りきれない糸の
質感の表現がほんとうにしなやかで・・・。

役者たちのお芝居にも
がっつりと観客を血縁感覚の内側に引きずり込む力があって。
一方で、冒頭から居つづけのバーテンや客が作りだす視線で
観客にも物語を俯瞰させるような視野を持たせた演出も
とても効果的でした。
彼らの存在には血縁の内側の視点では観客に見えないものを
すっと浮かび上がらせる力があって。
しかも彼らの存在があるから
舞台からやってくる想いの高まりが、
観客を凌駕してしまうのではなく、
バーの雰囲気に染められて
観客に入り込んでいくのです。
見る側にゆっくりとやってきてくれるからこそ
理解できる感覚がまちがいなくあって。

バーの雰囲気を断ち切ることなく
エピソードを重ねていくそのやり方も
実にしたたか・・・。

ちょいと事情があってジンジャエールをたしなみながらの観劇でしたが
心地よく、深く、ちょっとウェットな感覚でバーの雰囲気に浸りこんで、
たっぷりと物語を味わうことができました。

こういう作りこみの舞台、個人的には大好きです。







おはなし

おはなし

tamagoPLIN

小劇場B1(東京都)

2014/05/01 (木) ~ 2014/05/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

さりげなくとんでもなく高い表現のクオリティ
若手演出家協会の最終審査を観て、作り手の公演をぜひ見たいと思い足を運び、一つずつのシーンに満ちるもののクオリティの高さに驚く。

ジャンルを言い表せないような(ジャンル分けをすること自体あまり意味のないことかとも思うのですが)、これまでにあまり体験したことのない質感と様々な表現の切っ先を持った舞台でした。

秀でた表現がさりげなく惜しげもなく織りこまれていくので、一瞬たりとも舞台から目が離せず。

最後に姿を現した主人公の想いの肌触りにも心を捉われました。

ネタバレBOX

開演前は、舞台の中央に棺桶がおかれただけのシンプルな舞台。
そこが花いっぱいの世界へとひろがるなんて予想もしなかった。

その花たちの登場のシーンに目を瞠る。最初は家族でやっていた花札の記憶をちょっとオーバーにデフォルメしただけかと思いきや、一つずつの花が舞台にランダムに舞台に現れ、やがてそれらが静かに舞台を巡り、返事をし、お相撲の懸賞の如く名前を提示し、さまざまに開き自らを主張していくという舞台の広がり方にぐいっと惹き込まれる
ちょっと震えが来るくらい、広がりの勢いをもった圧倒的な表現だった。

そこから主人公と花たちのさまざまなベクトルでの関係性が生まれていきます。
役者たちが時に全体の中で献身的に、あるいは個人の力をふるって作り上げる、空間のメリハリにどんどん引き込まれる。
舞台全体のミザンスの作り方やフォーメーションの組み方、言葉遊びにも刹那の遊びにとどめず、つながりの意外性や物語のコアへとつながっていくような寓意がしたたかに込められていて。また伝言ゲームのような言葉の伝達なども、描かれるべきニュアンスを良く引き上手いなぁと思う。

主宰のダンスのしなやかさに目を奪われ、役者たちの歌唱力にも心惹かれ、そしてなにより、その世界が母の死を受容していく主人公の心風景として観る側に伝わってくることに感心。

衣装や役者たちのメークにも描かれるべきものをしっかりと表す力があり、棺桶の模様をちょっとしたプロジェクトマッピング的な手法で描くのも効果的。

初日ということもあってか、ラストシーンの前の集団での時間の作り方などには精度を作りこめなかった感はありましたが、よしんばそうであっても、全体を通してその表現のしなやかさと創意の踏み出しにずっと捉われっぱなし。
主人公が母親の葬儀であいさつする態での最後の台詞もしたたかだなぁと思う。舞台が紡いだ、主人公がその想いに至るまでの道程も心に残りつつ、一つずつの表現のクオリティからやってくる、作品の印象とは異なる、作り手がこれまでになかったエンジンで紡ぎ出す作品の質・量それぞれへのわくわく感が終演後も止まりませんでした。

リフラブレイン

リフラブレイン

MCR

駅前劇場(東京都)

2009/10/29 (木) ~ 2009/11/03 (火)公演終了

満足度★★★★★

沁み入るどうしようもなさの先
どこかチープな内輪もめ感に
人生の重みがすっと乗って。
笑って、外されて笑って、巡って突き抜けてさらにおかしくて。
その、一番奥にある正直な感覚に、
深く浸潤されて。

MCRの世界を堪能しました

ネタバレBOX

多分、物語のプロットだけを聞いたら
とても笑えるようなお話ではないのですが、
そこに、櫻井流の切り取り方や
人の表し方が重なると、
絶望感を蹴飛ばすような絶妙なおかしさがはぐくまれ
心をすっと浸潤するような軽さと深さが生まれる・・・。

ガンの告知の場面にしても、
両親のことにしても、
お姉さんの恋のことにしても、
1万円の巡り方にしても・・・・・。
厳然とした事実があって、どうしようもないようないき詰まりが生まれても、その先の時間が普通にやって来て、物事が糾える縄の如く進んでしまうことのおかしさ。その突き抜けた感じや、受け入れるしかないことへのペーソスがたまらなく良いのです。

痛みは包丁を振り回すほど深い痛みとしてそこにあって、でも、過ぎ去ってしまった時間や過ぎ去る時間の感覚がその色をしなやかに変えて。

キレよく突んでおいて
その突っ込みを打ち砕くようなぼけの説得力にやられたり、
しっかりと絞り取ったように見えたエピソードがさらに膨らんで
深く取り込まれたり。

借金取りの「実は良い人」ぶりや、終盤に現れる幼いころの姉のイメージから、物語の世界観がしっかりと固まって。うまいなぁと思う。

役者たちも、ゆとりを持って絶妙な間を作っていきます。客席対面の舞台もすごく良く機能していて、腰の入った役者どおしの絡み方をとても自然な感覚で味わうことができて・・・。

パンとミルクセーキが醸し出す、逃げられない・・・、逃げたくもない、その時間のいとおしさに目が潤んでしまいました。

力むことなく深く、さらに磨き上げられたMCRの世界にますます惹かれてしまいました。
生きてるものか【新作】

生きてるものか【新作】

五反田団

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2009/10/17 (土) ~ 2009/11/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

するっとせつない
日程の都合で
旧作を後回しにしてこちらを観たので、
旧作の予備知識はあったものの
最初ちょっとわかりにくかったのですが・・・・。
法則がわかってからは舞台にしっかりと入り込むことが
できました。

ネタバレBOX

時間の流れのルールというか
塊で少しだけ前に進んでまた戻るというリズムに
慣れてくると一気に面白くなりました。
逆引きの伏線からみえてくる物に
すっと視野が開けたような感じを何度も味わって・・・。

先に結果が置かれていることで
観る側には舞台の出来事が
時を待たずに響いてきます。
平家物語よろしく
冒頭に諸行無常の結末を叩きこまれているから
一つずつの出来事が
どこか滑稽で、でもべたべた感がなくすごく瑞々しく思えてくる。

想いの変化や、感情の流れ、
いろんな出来事への一喜一憂が、
すべて消えてしまうことを知らされているから、
舞台上に表わされる言葉や動作の一つずつに
べたな言い方だけれど、生の息吹が感じられるのです。

戻ってはシーンの時間だけ前に進み、
また時間が戻っていく。
スイッチバックのように細かく物語を戻していくそのやり方に
作・演出のしなやかな相違を感じて。

多分、旧作側を観てから新作を観る方が
より短い時間で新作側の時間の流れに入り込むことが
できたのでしょうけれど、
舞台の時間が進むのと反比例して
高まった不安感がだんだんに薄れていくことへのやりきれなさなどは
いきなり新作から見たことでより体験できたのではと思います。

戯曲のしたたかさに加えて、繋がりや感情を細かくつなぎながら時間を戻っていく役者たちのお芝居の緻密さにも瞠目したことでした。

ほんと、たっぷりとおもしろかったし、笑いに含まれる切なさが心を満たしていくような作品でありました。




『プルーフ/証明(Repirse)』

『プルーフ/証明(Repirse)』

DULL-COLORED POP

SPACE EDGE(東京都)

2009/12/12 (土) ~ 2009/12/12 (土)公演終了

満足度★★★★★

前回あれだけ揺さぶられたのに
さらに生々しく、強く伝わってくるものがあって、圧倒されました。

個々のキャラクターそれぞれの色が、皮膚からの感触として伝わってくる感じ。

まさに圧倒的。しかも前回の公演初日で観たよりもさらに圧倒的でした。

そして彼女はいなくなった

そして彼女はいなくなった

劇団競泳水着

サンモールスタジオ(東京都)

2010/02/11 (木) ~ 2010/02/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

結末にぞくっとくる
何を書いてもネタばれになる気がするのですが、
とにかく観る側をぐいぐい惹き込むような
上質なエンタティメント性を持ったお芝居。

時間を忘れてガッツリ楽しむことができました。
お勧めです。

ネタバレBOX

間違いなくサスペンスです。
それもぞくっとくる、上質な・・・。

観る側にとって物語の提示がフェアなのがすごくよい。
必要なことは全て語られるのです。
一度に見えない部分や傍系のエピソードなどもあるのですが、
それがあざとさにならない。
登場人物たちの行動や言動にも
理がしっかりとあって
きちんと観るものを納得させてくれる。

次第に迷宮にはいりこむような感覚にゆっくりと導かれ、
それがほどけていく
中盤以降のシーンの重ね方に息をのむ。
物語の設定や仕掛けに加えて
個々のシーンのはめ込み方や密度、
語り口・・・、
いくつもの洗練が重なって。
やがて真実にたどり着いたとき
観る側のもやもやがすきっと抜けて
極上の推理小説の最後のページを読み終わったような
達成感がやってくるのです。

終演後、余韻を楽しみながら物語を振り返るうちに
登場人物が丁寧に描きこまれていることや、
そこから醸し出される必然の秀逸さに気が付いて。
それらを支えた役者達の力にもぞくっとくる。

帰り道、結末がわかっても
もう一度観たくなるような感覚がやってきました。

まさに極上のエンタティメントだったと思います。

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