ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

1701-1720件 / 3201件中
カルデラ

カルデラ

GENZAi.

キッド・アイラック・アート・ホール(東京都)

2015/12/03 (木) ~ 2015/12/06 (日)公演終了

満足度★★★

水仙
 初見のユニットだが、今作はCamusの「異邦人」を下敷きにした作品だ。

ネタバレBOX

周知の如く、カミユは、アルジェリア育ちである。所謂pied noirという訳だ。だからフランスに戻った時は、移民に近い感覚だっただろう。その辺りのことが“太陽のせい”という表現に繋がってゆくと自分は考えるが、今作のコンセプトはそういう生々しさからは遠い所で作られているように感じた。
 現在、難民問題は世界を揺るがすことが明らかになるほど大きな問題の一つなのに、其の因って来る所を問うていないように思われる。
 ラップ風のシーンもあったのだが、本当に”演劇の再考と再興”を考えるなら、自分たちでこういうムーブメントを発明するくらいでないと殆ど意味がない。
the Code

the Code

FUTURE EMOTION

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2015/12/03 (木) ~ 2015/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

おもりょい!
 タイトルからすっかり暗号物と思っていたのだが、やられた。

ネタバレBOX


 本筋は量子コンピューター開発である。量子コンピューターの噂くらい聞いたことがあるかもしれないが、自分も門外漢なのでさっぱり分からないか、と覚悟していた。だが、多少科学的なセンスがある人なら、科白の中に説明が入っているので、それを聞けば本質は直ぐ掴める。実に面白い。知的緊張とハッカーとの対決や、部内にスパイの居る可能性、内調が実は何を何故狙っているのかという科学研究者としての倫理と名誉や金、社会的地位との天秤問題など、実際に最先端技術分野では必ず起きてくる問題が配置され、良く調べ、考えられたシナリオにセンスの良い展開の演出、役者の演技も適度な愛嬌や適確な役作りでキャラが立っている。コンピュータお宅、太田役の野田 孝之輔、チームリーダー白井役の瀧澤 知恵の演技が気に入った。
やさしい森の雨

やさしい森の雨

立体再生ロロネッツ

参宮橋TRANCE MISSION(東京都)

2015/12/02 (水) ~ 2015/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★

身につまされる
 昭和30年代の話として敢えて時代状況を綯い交ぜて語られる今作。ODAが出てくるし、賄賂の話が出てくるしで、他人事ではない。自分もODAの一員として実際に西アフリカに赴任していた経験があるからだ。自分の赴任していたアフリカでも、今作の舞台となるアジアでも賄賂に関しては多くの国で現特権階級による要求がある。(追記後送)

愛すべき馬鹿者たち

愛すべき馬鹿者たち

劇団龍門

明石スタジオ(東京都)

2015/12/03 (木) ~ 2015/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★

犬死?
 夕陽の見える小高い場所で沈みゆく陽を、空の変化を見つめる老女。そこへそろそろ引退しようかと考えている企業経営者の息子。

ネタバレBOX

母は、息子の生誕について重大な話を始める。その内容が今作の主眼である。
戦争とは何か? 生きるとはどういうことか? 命とは、個人とは、自由とは、その上で人として生きるとはどのようなことか? 大義の為に死ぬことは果たして正しいか? 等々の問題が提起されるのだが。
 舞台は空襲の場面に変わり、少女が、亡くなった母親から赤子を託される。亡くなった母親の遺体を弔ってやりたいと願う少女と特攻隊の若者らは、業火舞う空襲被弾の阿鼻叫喚の中で出会い、兵士たちはショックで茫然自失の少女を救い、彼女の願いも叶える。この縁がきっかっけとなって、少女と特攻隊の因縁ができた。
 従って今作は、総て昭和20年硫黄島に東側から迫る米軍艦隊に一矢報いる為にあたら若い命が飛び立つ直前、神風攻撃隊の特攻兵5名の、特攻前数日の模様を中心に、その特攻兵の一人に、ほのかな意を寄せた少女との純愛と、戦争を生き延び今は大家としてアパートを経営するかつての少女とその「息子」、アパートに暮らす70年後の日本のフリーターや同棲相手、セクハラを訴えて首になった元丸の内OL等々が、特攻兵の一人と交わした少女の彼らの意を劇にして上演するという約束の為、大空襲以来の惨状を劇化して描いて見せるという構成に繋がっている。当然、社長の出生の秘密も明かされる。
 部下を負けると分かっている戦いで死地へ赴かせる大尉の苦悩、特攻隊員自身の人間としての迷いなどを描いている点がグー。惜しむらくは、裕仁の戦争責任を問う姿勢が見られない点である。そのような視点があれば、更に深い科白となって作品が立ち現れたであろう。
わがまま、こどく、かいにん、

わがまま、こどく、かいにん、

the pillow talk

王子小劇場(東京都)

2015/12/01 (火) ~ 2015/12/02 (水)公演終了

満足度★★★★

誰が対話を奪ったのか?
 全編ディスコミュニケーションのオンパレードである。

ネタバレBOX

無料タウン誌の編集部でインターンをやっている男と彼の出身校を舞台に描かれた現代日本のディアスポラ同士の交わすコミュニケーションの不可能性を描いている点で注目を惹く。この植民地に暮らす若者達の、夢など見ようにも見ることの叶わぬ状況を描く。このことによって、大人たちに反抗するという姿勢を表しているように思う。
 実際、現在この国で起こっていること、これまでに起こってきたことを色眼鏡を掛けずに見れば惨憺たるものである。その証拠に安倍の如きキ印が、この国を後戻りできない奈落に引きずり込んでゆく状況に対し誰も効果的な手を打つことができないではないか! サラリーマンと呼ばれる者の大多数が社畜と化して、結果的に体制を補完し地獄への道へのレールを敷いている。経団連の2014年度の政治献金は大幅に伸びて、その殆どが自民党向けである。政治屋と財界が結びつき、それを官僚があの手この手でフォローし、司法も最高裁に至ってはアメリカの完全な犬。検察も同罪である。そればかりではない。マスメディアの殆どが、これら為政者の歓心をかう為に媚び諂い、民衆に伝えるべきことを伝えないのみならず敢えてミスリードしているとしか思えないような「報道」に終始している。更に金融界も官僚と結託して国民にツケを回すだけでは飽き足らず、暴力団と組んで甘い汁を吸っている。政治屋・官僚と言えば嘘吐きという認識が通り相場だ。事実を知らないから国民の判断もかなり狂わされている。結果、権力者の用いる飴と鞭の罠に人々は嵌り易い。こんなことしか生まれてからこのかた見てこなかった若者が絶望という名の無気力に陥るのは必然と言わねばなるまい。これも皆、我ら大人の所為であるから我ら大人の責任は極めて大きい。然しながら、手間暇が掛かる演劇という表現方法を用いて若者がこのような作品を発表するということには、一抹の希望があると筆者は考える。何故なら、このように情けない状況を敢えて描いて見せることで彼らがやっているのは、抗議だからである。100回戦って100回負けても更に戦い続けるのであれば、最終的に負けた訳ではないからである。
ヒーローがいなくなったこの街で

ヒーローがいなくなったこの街で

劇団サラリーマンチュウニ

上野ストアハウス(東京都)

2015/12/03 (木) ~ 2015/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

当然 深読みもできる
 社畜と自ら卑下してみせる自己批評精神や劇団員の8割が本物のサラリーマンという劇団らしく、人間関係の適確な把握と距離の取り方が実に巧みだ。考えてみればサラリーマンの仕事とは、仕事の出来不出来よりは、人間関係の調整だろう。日々、実地の社会でそれを磨いていることが、扱う作品が喜劇であるということと見事にマッチして良い方向へ回転してゆく。何故なら喜劇に関わる者に必要な第一の条件とは、自分を茶化すことのできる能力だからである。忙しい中キチンと練習をして滑舌も良い。時間の無い分集中して練習しているのだろう。各々の場の相互関連も内容に応じて軽重をつけ、自然な流れを作り出している。擽りもふんだんに鏤められているし、実際には、深刻な問題も重くなり過ぎない程度に、反対の立場からのクロスカウンターが入る。その結果、家庭内や社会と個々人の関わりも、個々人の個性的主張もバランス良く仕上がっている。と同時に今作が全体として訴えかけるものも、明確に骨太に提示されている所が凄い。初日が終わったばかりなのでネタバレは控えるがお勧めの舞台である。

アイドル×芸人学園

アイドル×芸人学園

ハイスクールふじ舞台

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2015/11/27 (金) ~ 2015/11/29 (日)公演終了

満足度★★★

全体としては星3つ ストロベビーのみ4つ
 秋葉系アイドルが存在するという事や、秋葉系アイドルが存在するならその支持者であるファンも存在するハズなので、そういう人々が実際はどのようであるのか? についての好奇心とべしゃり系の芸人も出演するというから、その芸のレベルを観たいとこれまた好奇心から拝見。
 

ネタバレBOX

 結論から述べると、日本も世界も雪崩を打って大崩壊を起こしつつある状況を全く顧慮することなく、祭りに入ってゆける大勢のいい年をした人々を観る破目になって、正直、自分には理解不可能な脳天気と判断せざるを得なかった。無論、彼らの内実を理解できないということであり、態々、彼らの動態やメンタリティーを追って内実を明らかにするほどの興味も覚えなかった、ということでもある。(自分の観察力の無さからそう思うのかも知れないが)何れにせよ、第三次世界大戦や日本が巻き込まれる戦争が始まり、とんでもない被害を受けて初めて、自分達は被害者だと一番大きな声を出す類の人々のように思える。
 アイドル達はそれなりに可愛らしく歌と踊りと誰にでもできるパフォーマンスを披露したが、秋葉系と差異化して言えるとは到底思えなかった。司会も一般的なレベルで上手いとは言えるものの、一般にアイドルと言われる存在は、ジャリで大人が一から十まで面倒を見、お膳立てをして、それに乗っかっている存在というイメージが強いというか、そのような神話をファンに信じ込ませることが、関わる大人の仕事だと思うのだが、秋葉系を期待していた自分には、売り込み方が弱いように思われた。
 もっとも面白いと感じたのは、“ストロベビー”という名のべしゃりの芸人ペアである。間の取り方や、切れのあるアドリブに笑った。


【入場無料・カンパ制】アトリエ公演「桜歌」「RS」「忘却者来訪」

【入場無料・カンパ制】アトリエ公演「桜歌」「RS」「忘却者来訪」

ラビット番長

演劇制作体V-NETアトリエ「柴崎道場」(東京都)

2015/11/28 (土) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

桜花を拝見
“桜花”というタイトルは好きではない。国家エゴを我ら主権者に向けて発動する為に強制する装置として機能し続けて来たと考えられるからである。否、これは不正確だろう。国家エゴを装って、この「国」を支配する腐りきった為政者共が、我ら主権者の権力を奪い、命を奪う為にこそ用いられてきたコンセプトだからである。無論、桜に罪のあろうハズは無く、悪いのは総て人民を裏切り、自らの権益または権益保護の為に、メディア、金融界、官僚、政治屋、司法などを牛耳り、暴力団と結託し、政商とよろしくやってきた下司野郎とその親族・眷属などの閨閥である。
 実際、この“桜花”は回天と並ぶ特攻兵器の名称でもある。(ネタバレの追記2015.12.4:02:08)

ネタバレBOX

どんな兵器であったかといえば、機首部分に大型の徹甲爆弾を搭載し母機から発射された後は、搭乗員の誘導で敵艦に体当たり攻撃を仕掛ける文字通りの特攻兵器である。実戦投入は1945年、構造は単純そのもの。機首の大型爆弾、後部にロケットエンジン。小さな翼と操縦席を付けただけの文字通りの自爆兵器であった。作家は当然、このことも知ってこのタイトルを“さくらばな”と読ませている、Wミーニングである。同時に今作はフィクションであるから海軍の特攻基地、鹿屋を飛び立った900機以上のゼロ戦も綯い交ぜにしている。話の内容からは、ゼロ戦乗りであるが、この程度のことは、観客として当然気付くべきである。まあ、知らなくても充分心を打つ内容ではあるが。思い至ればより深く、今作の意味する所も響いてくるであろう。 
 自分は従妹が何人も第二次世界大戦で亡くなっていて、特攻で亡くなった従妹も何人か居る。大学の文科に通っていて徴兵された従妹は親族が認めないにも関わらず、靖国に “英霊”として祭られている。分祀はできないと宮司は言い張るのだが、無論、嘘である。実際、皇族だけは分祀されているのだ。裕仁が、神ではなく人間だと己を認定した後でさえずっとこうである。これはもう立派に憲法違反であろう。
 だが、今作の作家、井保氏の優しさは、無論、この悪辣で厚顔無恥な記号を、人間的で優しさや苦悩に満ちたドラマに仕立て上げている。芝居のセオリーとして板上に、余分な物は一切置かない・出さないは基本だが、その基本をきっちり守って本作が書かれたのは15年前である。実際、小道具の雑誌(この雑誌の表紙が観客に良く見えるように役者が演じているのだが、これで舞台は鹿児島だとはっきり分かる)に至る迄、無駄な物・科白は出てこない。総てが大団円へ収束する中で必然的に集約されてゆく。
 芝居を余り観ない方には、タイムトリップが仕掛けられる2場は、ちょっと奇異に感じる向きもあるかもしれないが、ヒロイン、岡田の心象風景とでも考えて頂ければよかろう。何れにせよ、岡田は思い出の場所を訪れることで過去と向き合うことになる。岡田から彼らの姿は見えないが、現れたのは3人の若者、鹿児島の海軍飛行兵即ち特攻兵(既に鹿児島だと分かっているし、敬礼の仕方で海軍であることは明白であるから特攻基地は鹿屋だと推測できる)最後の外出だ。天候が良ければこの休日後に特攻する。大島の母が酒を送って来てくれた。父が復員したら飲ませてやろうと配給の酒を貯めておいたのであった。父は亡くなり持っている必要が無くなったので、息子と友人の為に、貴重な酒を供出してくれたのだった。遠慮しつつも、今生の別れの盃を3人は回すが、帝大出身の大島は、この戦争に対して懐疑的である。そもそも、自国の若く優秀な兵士を、殆ど成功しない体当たり攻撃に送り込むこと自体、劣勢なのだと至極全うなことを言う。これに対して同期の南は、拳を振り上げて食ってかかる。既に国を守る為死して英霊となった人々に失礼だと言うのである。だが、大島は一旦、出撃していた。彼は戦果報告の為、仲間6機のうち1機も敵艦に体当たりすることなく撃ち落された現場を見た。そしてこう報告した。「6機全機、敵艦に体当たりしました。甚大な被害を与えたと思われます」と。無論、本当のことなど言えない。命を捨てての体当たりに何の意味も見いだせないことほど辛いことはないからだ。大島が生きて戻って来た訳も、彼が死を恐れたからではなかった。戦果の報告を命じられたのだ。それがどれほど辛いことであったか。一緒に死のうと誓い合った戦友を見捨てて帰投しなければならなかったのだ。その辛さの中から、自ら考察することのできる彼は本心として、自分が生きて帰ったのは、亡くなった戦友の念を後世に伝える為であったと考えるに至った。彼が批判したのは、国家を危殆に瀕せしめた為政者共の悪辣・無能・無思慮・無分別と無反省に対してなのであって決して失うべきでない命をシャブ漬けにされてまで捨てた有為の若者に対してではなかった。そうこうするうち、矢張りこの場所の好きな中尉、金子がふらりと立ち現れた。彼はサイダーを飲んでいたのだが、無礼講で話をしようということになった。
 中尉の言葉を字義通りに受け取る長沢は馴れ馴れしい口調で話しかけたりするが、中尉は、気にしない。然し、他の2人の表情は矢張り硬い。ここでも、大島は極めて本質的な質問をする。中尉は、一緒に死のう、と言っていた部下だけを死なせ生き残ったという噂があるが、これが真か偽かについての質問であった。答えは、実際、そういうことがあった。然し、中尉も命令故に死ねなかったのである。劣勢の中、飛行兵を訓練する教官が足りなくなっていた。中尉はその為、死出の旅立ちを許されなかった。妻があり、子供が3人居たことも酌量された。彼は、妻に相談をした。妻は子供3人を道連れに崖から身を投げた。夫の任務を邪魔立てしない為である。中尉は、妻子の死を上部に伝え、死出の旅に皆と同道することになった。殆ど下戸の中尉が、この話をした時には皆と一緒に酒を酌み交わす。中尉は、皆と一緒に飛ぶことを約し、妻子の写真を桜の木の根元に埋めて、一足先に引き上げる。
 長沢が店に上がったにも関わらず筆おろしをしなかったことを散々鹹かった同期の桜だったが、訳を訊けば相手の娘は19歳。妹と同い年だと聞いて黙り込んでしまった。而も、最も長沢を茶化していた南も実は寝ていて童貞のまま飛び立つのだった。その後、南は村に巡回に来た演劇団のメンバーが足りず臨時に芝居に出た女に恋をしたことを告げる。最後に会えるチャンスに彼らは、桜の木の下で会うことを約束していた。彼女は、旅芸人の一座に加わることとなり、旅に出てしまった為に約束を果たすことができなかった。彼女も南を心の底から慕い待っていたのだ。彼女が結婚しなかった理由はこのことだと思われる。何れにせよ、南は総てを桜に託して後世に伝えようとしていた。仲間二人も同様である。この意が届いたか南と、今は有名な女優となった岡田は、件の桜の木の切り株で邂逅する。二人が長い時を隔てて手を握り合い意を伝えたこの瞬間切り株は、桜の古木となって甦り、花びらを散らせる。この時の南は、死の間際の言葉として彼が誰を呼んだかもハッキリ再現するのだが、無論、天皇陛下万歳などではない。岡田の名を呼んだのである。実際、戦争体験をした人々の話を直に聞くと、皆、母や恋人、大切な家族の名を呼んで亡くなっている。
 ラスト、死んで何になって帰るかという話になった時、三人は鶯になって戻ることに一決する。平安時代以降、花と言えば桜ということになった。然し、それ以前、花と言えば春を告げる鶯に縁のある梅と決まっていた。ここで強調されているのは春である。深読みをすれば、葉隠を曲解して“武士道は死ぬことなりと見つけたり”だけを喧伝し、散り際の美しさなどと陳腐極まりないフレーズを繰り返す想像力の欠如したリビングデッドに対するやんわりした揶揄と取るのが正しいのかも知れない。

お召し列車

お召し列車

燐光群

座・高円寺1(東京都)

2015/11/27 (金) ~ 2015/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

必見、花五つ星
 “お召し列車”と聞けば、誰しも思い浮かべるのが天皇・皇后・皇太后の為に特別に運行される臨時ダイヤだ。並行して他の列車が走ってはならないとか、行き違う列車は速度を25Km以下にしなければならないなどの規則がある、例の列車である。まあ、こんな細かいことまでは知らなくても、何となく特別で内部に立派な装飾が施された特別の列車というイメージを持つ人が多いだろう。
 だが、今作の“お召し列車”はハンセン病(長く使われてきた別名、癩病)患者を国立療養所に集める為に運行した臨時列車の隠語として用いられていたという事実に基づいている。(追記2015.12..2 01:47)

ネタバレBOX

 大日本帝国が戦争一色に染め上げられてゆく国家総動員体制の中で癩に対する差別は、ますます激しくなっていった。そのさまは、癩を発症したとなれば、家族からも絶縁され、患者を知るものは生涯口を噤み、発症者は療養所に隔離された後は居なかったものとされるほどであった。男女ともに強制的に断種手術が施されたことや、亡くなった場合は解剖に付されることが、施設入所時に確約させられた。その為、妊娠している女性が亡くなった場合、その胎児も解剖に付されたのである。
 ところで物語は、この痛ましい差別を受けた人々と第二回東京オリンピック向け“おもてなし企画会議”の企画コンペモニター達のコンペの模様とが入れ子細工になって展開する。代理店は二社。一社は昔ながらのロイヤルトレインを復活させるという案。もう一社は“和(なごみ)”の愛称を持ちJR東日本の会員制クラブである「大人の休日倶楽部」などで運行しているE655系ハイグレード車両(5~6両編成)を走らせる案。更に第三の案として昭和30年代にハンセン病患者に開校された唯一の高校教育の場、新良田教室に入学する為、新入生が乗せられた「お召し列車」を再現した車両案。世界記憶遺産候補として競合二社の車両の中間に連結されているのだが、これを売りにしようというのである。因みに物語は常時、この車両で展開する。
 By the way,1941年アメリカで発見されたプロミンによって癩は治る病となった。にも拘わらず敵国アメリカからプロミンが輸入されるはずもなく効果の無い薬ばかりを注射され続けた患者たちは、病そのものの齎す苦しみのみならず、徹底的な排除と差別によって痛めつけられていた。そのような状態に一抹の光が見えたのは1955(昭和30)年、岡山県の長島に開かれた新良田教室という高校教育の場(公立高校の分校)であった。普通科4年制で全国唯一のハンセン病患者向け公立高校教育であった。今作に登場するのは、この高校の卒業生や関係者だが、内容は観て頂くとして、今回は、女優の究極の形を観たように思うので、そのことについて。
 その人は居た。板の上に存在していた。そのさまは、観客の想像力を映し出す写し鏡のようであった。過不足なく存在していた。
 この女優さんが渡辺 美佐子さんである。客演だ。無論、劇団員は客演を立てるのが、通常のセオリーだろう。今回もこのセオリーに従って、鴨川 てんしさん、中山 マリさん、猪熊 恒和さんら劇団のベテランが素晴らしい脇を演じている。
田中さんの青空

田中さんの青空

劇団CANプロ

銀座みゆき館劇場(東京都)

2015/11/27 (金) ~ 2015/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

プロの舞台
 オムニバス風に始まった今作、各挿話の関連が定かでないのは無論、作品の要請する必然である。良い舞台なので、もう少しじっくり考えて追記する。

燦の夜を征け

燦の夜を征け

劇譚*華羽織

東京アポロシアター(東京都)

2015/11/26 (木) ~ 2015/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★

ポテンシャルに期待して
ポテンシャルに期待して、星一つプラス。

ネタバレBOX

 新宿歌舞伎町が特定危険地域に指定された。チャイニーズマフィアと契約した、官僚、城山は、こうして人々の出入りを管理すると共に姫をターゲットとして行動を起こす。姫は現在ヤサグレて売りを生業としているが、この姫が城山のターゲットであり、彼女のみ傷つけてはならないが、彼女を守ろうとする者が現れた場合は殺してもいい、ということになっていた。
 現実の話をすれば、台湾14Kは既に日本のやくざと協調してシノギを分配していたが、新たに歌舞伎町を狙った上海系、福建省系チャイニーマフィアはそうではなかった。しょっぱな、日本のヤクザがチャイニーズマフィアに殺されたことを覚えている向きもあろう。当時歌舞伎町にある中華料理店には、青龍刀は愚か幾多の銃、マシンガン迄隠されていたという。無論、中国黒社会は、日本のヤクザと違って掟は絶対である。逆らえば、命はないのが常識だ。それだけに結束は固い。日本のヤクザは、とても敵わぬと直ぐ脅かされれば金を出して生き延びた。この時、地上げ以降の住専処理などで、我々の税金を散々食い散らしたヤクザは、チャイニーズマフィアに巻き上げられていたのか知れぬ。だとすれば、自衛隊を使ってヤクザ狩りを徹底的にやるべきだろう。その上で住専関連の罪人である官僚、金融関係者、政治屋、ゼネコン幹部、関係知事等を逮捕し、司法・検察は上層部が先に挙げた糞共とつるんでいるから、地裁の公平な裁判官に結審させるべく努力したい。
 何れにせよ、やや稚拙な表現とはいえ、官僚共の腐りきった根性やヒネ媚びねじ曲がった腸を明文化し、対するに歌舞伎町ホスト、キャバ嬢、オカマ、ぼったくりスナック店長等々が、人情の籠った、深く温かい科白を命賭けで発する点が良い。シナリオライターは他人の痛みが分かる人なのであろう。まだまだ知識は足りないし、若い、稚拙な部分はあるが、なに、そんなものは勉強すれば得ることができる。肝心なことは、戦く心や真っ直ぐもの・ことを射抜く目を忘れぬこと。その為に徹底的に率直であり続け、謙虚であること。以上のことができたなら、その上で世界を秤にかけてやることだ。この先は無論あるが、取り敢えずの講義は此処まで。
 あ、それから、立ち入り禁止テープには日本語、ハングル、英語三種類の言語表示があったのだけれど作品にハングルを使う人々は、明示的には出てきていない。舞台美術に関わっての表現が作品(シナリオ含む)に生かされないと演劇表現としては弱いよ。
Bookmaker

Bookmaker

木村がプロデュース

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2015/11/27 (金) ~ 2015/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★

Bookmarker
とは、賭け率を提示して客の投票を募り、結果により配当を分配するタイプの賭け屋ということだ。日本では、官僚や政治屋、政商やごろつきが利権を独占する為、違法行為とされるが、これも民度の低さを表しているに過ぎない。

ネタバレBOX


 何はともあれ、森下 雄吾という賭け屋の話である。雄吾は現在、店長。だが、余りに外連味の強い賭けはしたがらない。とはいえ、ブックメーカーの賭けの対象を広げ、此処まで業務拡大できたのも彼の力あってこそだ。命を救ってやったこともあり、ボスは、上がりの6割を上納させているが、雄吾は納得している。とはいえ、このところ業績が伸びていないことでは、ボスも色々文句をつけてくる。そんな折、ボスの紹介した新顧客の中に弁護士が居た。而も彼は、雄吾の中学時代の同級生で映画研究会の仲間でもあり気の合った湊 健であった。弁護士ならしこたま持っているだろうと考えたのだが、弱者の弁護ばかりしてきた健に余裕はなく而も妻は苦労知らずのお嬢様育ちであったから、子供たちを私学に入れたいと公然と要求していた。妻子の望みに応える為に健は、ブックメーカーの仲間になりたい、と言い出す。勉強はできたが、堅物の健には向かないと判断した雄吾だったが蓄えがあると聞くとブックメーカー資格の一つと認定、雇い入れることにした。法律には詳しいから何かと役には立つ。然し、健には決定的なことが欠けていた。健康である。彼が緊急で病院へ送られた時、直腸、結腸の癌は既に酷い状態で余命は3か月と医者に宣告されたのである。健は妻にはこのことを告げていなかった。お嬢様育ちの妻には耐えられないと考えていたからである。それでも何とか自分の亡き後、妻子が苦労したり、行く末を案ずることなく学業を続けられるだけの金は残してやりたいというのが健の望みであった。雄吾は力になってやろうと決意する。デカの潜入捜査も行われている中、ボスの内偵も暗躍し、雄吾の身も安全とばかりは言い切れない。そんな中、健は自らの余命を賭けの対象とすることを提起してきた。苦渋の決断を呑み、ブックマーカーとして雄吾はオッズをつけた。ほどなくして健は亡くなったが、取り分はかなりあった。恐らくは、それに店・土地を処分した額を上乗せして、葬儀の席へ小切手を届けたのだったが、汚れた金とみた妻、湊 宏香は、受け取りを拒否する。ニュースが流れる。雄吾が逮捕されたと告げるニュースだ。
 まあ、湊夫妻がホントに愛し合っていれば、もう少し裸の付き合いができたのではないかとの思いはあるし、自分がシナリオを書くなら、賭けの対象に健と雄吾のサシでのロシアンルーレットを賭けの対象として加えるが。日本人の通常の感覚では其処までドライなシナリオを書くまい、とは思う。
玉川上水心中

玉川上水心中

めがね堂

RAFT(東京都)

2015/11/25 (水) ~ 2015/11/29 (日)公演終了

満足度★★★

作品としては踏み込みが欲しい
 太宰 治は6月19日の誕生日(遺体発見日・桜桃忌)直前、1948年6月13日(38歳)に山崎 富栄と玉川上水で心中した。

ネタバレBOX

太宰ファンならずとも文学好きなら誰でも知っている事実である。が、最後の数日の二人の行動には、謎が多いことも事実だ。前年には、「斜陽」が大ヒットして斜陽族という流行語迄生まれ太宰の名は一躍有名になっていた。その後も多くの執筆依頼が殺到し、創作にも熱が籠っていた。1948年5月10日には、「人間失格」も脱稿している。然し一方で、結核の進行もあったであろうことは考えられる。また文壇の寵児ともてはやされても、稿料は飲んでしまうし、多額の税に悩まされたことも事実ではあろう。
 今作は、こういった背景を前提に当時太宰が入り浸っていた小料理屋、千草の女将、太宰の一番弟子を自認していた田中 英光、小説「グットバイ」の担当編集者、妻、刑事やタクシー運転手の証言と太宰、富栄のフラッシュバックシーンや霊の現前で構成されたゴシップ事件史のような作りになっている。
 その点、脚本家はもう少し練ってほしい所だ。何をって、何故太宰は何度も心中事件を引き起こしたのか? についてである。別の言い方をすれば、何故、太宰は無頼派だったのか? と問うても良い。その根底にあったであろう彼のコンプレックス(複合意識)を想像力によって埋めて欲しかった。何故なら、実際に死に至ったこの心中事件には、不明な点が多いのだから、その点を脚本家の想像力によって埋める自由はあるハズだからである。この創作がうまく嵌れば今作は遥かに良い作品になったであろう。
TRUTH

TRUTH

劇団@ホーム

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2015/11/21 (土) ~ 2015/11/22 (日)公演終了

満足度★★★

テーマの掘り下げがイマイチ
 慶應4年と明治元年が重なるので、ちょっと注意が必要だ。というのも明治になっても薩長を中心とした新政府勢力と幕府の決着はついていなかった点は、受験を離れてしまうとうっかり見過ごしかねないからである。
 戊辰戦争の緒戦・鳥羽伏見の戦いは1868年1月27日~30日(慶応4年1月3日~6日・旧暦)、既に幕府は前年大政奉還を済ませていたが、未だ幕府に付こうとする勢力も多く、雌雄が決したとは言えなかった。
物語は、鳥羽伏見の戦いの様子・帰趨を報告する為に、大阪から上田藩の江戸藩邸に戻ってきた弦次郎と仲間五人の藩士ら六人衆と、彼らが当てにしている藩の上司、山岡。彼らが剣を磨いた道場師範の池波兄妹、弦次郎と相愛で池波の従妹、初音らを中心として展開する。(追記後送)

あたしのあしたの向こう側

あたしのあしたの向こう側

トツゲキ倶楽部

d-倉庫(東京都)

2015/11/18 (水) ~ 2015/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

構成の良さ
 前説がしゃべり終わって板に着くと開演というちょっと変わった始まり方だが、ここで彼は徐に眼鏡を掛けるとパラレルワールドについての解説記事を読みだす。このコンセプトが分かっていないと話が見えないからである。

ネタバレBOX


 さて、こうして始まった舞台には大して恰好良くもないのに矢鱈にモテル男が登場して驚かされるのだが、この男の前に現れる女は、主人公の女が、人生の途上で迷ったりした時に現れたパラレルワールドに存在する彼女自身なので、この男が格別モテていた訳ではなかったが、運命的な出会いではある。
 実は、こんな混乱が生じた原因は、次元管理をしているセクションのミスによるものだった。偶々、オリジナルの女1以外の8人が、この時空に同時に存在してしまった訳である。興味深いのは、パラレルワールドの性質である時空の歪みを利用して、現在の我々の政治的選択の結果をも挿話に織り込んでいる点だ。これが本質を突いていて観客に自分の選択の意味する所を考えさせるいい契機になっている。無論、この挿話が演じられる前には、恋、仕事、将来の選択など、日常誰もが悩む選択の契機が語られており、その中でさりげなく挿入されているので、このエピソードがショッキングな内容であるにも関わらず決して突出した印象を与えない。更に近い将来間違いなく我らを襲うであろうこの事態の深刻さを踏まえた上でハッピーエンドで終わらせている点、行方不明の彼が、戻ってくれた可能性を示唆した点も評価したい。何故なら、戦争のトラウマを抱えた人々が、我らの傍らにも暮らしているのが我らの現在だからである。

トロル

トロル

点滅 舞踏

ザムザ阿佐谷(東京都)

2015/11/21 (土) ~ 2015/11/22 (日)公演終了

満足度★★★★

照明や音響とのコラボの良さも光る
 北欧民譚に登場するトロルには小さな妖精から巨人に至る迄、様々な種が存在するようだが、今作では妖精サイズのトロルがイマージュの原型を為している。

ネタバレBOX


 構成は、「花のトロル」「谷の景色」「名もなき小さな者」「歪み」「自我」「冬将軍」「春に咲く」の7パートに分かたれている。照明や音響とのコラボが見事で夢幻の世界へ誘ってくれる。
 別にこれらのタイトル通りに感じなくても無論よかろう。また、トロルが何体出てくるのかとか、一体の♂のトロルの遷移が多く描かれているととってもよかろう。無論、他の部分は他の部分で解釈したらよい。そもそも、そのような解釈を拒む側面だって舞踏にはあるだろう。自分は様々な身体による記号表現やイマージュと戯れさせて貰った。
Only Lonely Rose

Only Lonely Rose

My little Shine

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2015/11/18 (水) ~ 2015/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★

作家は、もっと今を生きている自分に引き寄せて
作家がよほど好きなのだろう。今作のタイトル=Le petit princeの薔薇である。

ネタバレBOX

大人になると皆子供だったことを忘れてしまう話も出てくるから、象を呑んだ蟒蛇の展開図と帽子だと言われた絵を背景のどこかに入れるくらいの悪戯心もあって良いかも知れない。話の内容がちょっと重いか? 
とはいえLe petit princeの最も大切な価値観、“肝心なことは目には見えない”と教えた狐の言葉と、王子と薔薇の逸話に纏わる大切なものとは何かについての思索が、今作に通底して流れている主題だ。惜しむらくは、Le petit princeの呪縛が余りに強いということだろうか。寧ろ、現代の状況に重きを置いて描き、主人公が文学少女だった訳だから、通底部分を匂わす程度に描いた方が、含みが出、現在を生きている作家、作品の意味も増すのではあるまいか?
家族カタログ

家族カタログ

B.LET’S

小劇場 楽園(東京都)

2015/11/19 (木) ~ 2015/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★

公開ゲネを拝見
 男と女の恋愛感情の引きずり方を中心に、フレーバーとしてチェーホフの「三人姉妹」を振り掛けた作品。

ネタバレBOX

 然し、今作で描かれた姉妹は、明日もしっかり生きてゆけそうな点でチェーホフ作品と異なる。
 次女と11年間付き合い、末の妹の彼だった男に彼女を奪われた男は、現在は末の妹と仲良くしている。が、ことある毎に姉を慕い夢想にふけっている。一方、末の妹は、次女に自らの彼氏を奪われた為、総てを失ったと感じて家を出ていたのだ。中心は、この2人の角遂である。長女は子供の頃から恋多き女で男そのものを手玉に取るのが楽しいようだ。何れにせよ、別れたら女は基本的に忘れる。男は引きずる。女が忘れない場合は、男そのもののことではなくて一時、その男に夢中になっていた自分の生きた意味についてだろう。そういう意味で面白い作品であった。
バグダッドの兵士たち

バグダッドの兵士たち

ピープルシアター

シアターX(東京都)

2015/11/18 (水) ~ 2015/11/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

役者の身体能力・鍛錬に注目
 初演は5年前であった。あの時よりずっと真に迫ってくるのは、日本の右傾化・軍事化が着々と進み、直ぐにでも日本人がここで描かれているような体験をしなければならないということに現実感が伴うからだろう。
 宙空に設えられたヒジャブをつけたイスラム女性の後ろ姿のようなオブジェや、上手・下手などに矢張りヒジャブを纏った黒衣の女性が立つのも、殺人者そのものである米兵を追い詰める民衆の影の圧迫感を表して効果的である。また、役者たちの身体鍛錬の見事さも素晴らしい。彼らのプロ意識に敬意を表する。また本日19日マチネ公演後と明日ソワレ公演後には来日している原作者のマガノーイのアフタートークがある。これもお勧め。(追記2015.11.20:02:43)

ネタバレBOX

 ここで描かれている米国人は、兵士であるが、イラク戦争時、最悪の行動をとっていたのは、無論、傭兵である。彼らは人を殺すのが楽しみと考えているとしか思えない。女性をレイプし、人々を拷問に掛けて楽しんだ挙句惨殺していた。代表的なのは、ブラックウォーターの傭兵たちである。無論、傭兵の方が悪いことを平気でするのには、訳がある。国軍の兵士は、ジュネーブ条約などで禁じられている行為を為した場合、戦争犯罪を犯したとして軍法会議にかけられ処罰される。だが、私兵である傭兵にはこの懸念がない。今作で一般市民を殺した兵士達が処分を気にしているのはこの為である。単に、人間として悩んでいるだけではないのだ。
そもそも、人間として悩むくらいなら、兵士になるかならないかのレベルでもっと深刻な悩みを抱えているだろう。そんなことも想像できない知的レベルにアメリカの大衆が置かれていることの意味する所を考えていないのは、当しく現在の日本の大衆と変わらない。そして、この程度の頭脳では、たかが貧乏程度で、己の魂を売ることに大きな抵抗はないのだ。考える人間なら、貧乏を恥じることはない。恥ずべきは魂の弛緩であるという程度のことには気付く。この程度のことを自分の頭で考え実践することもできない連中は所詮、人間らしい生き方など望むべくもないのは当然のことだろう。
根本的な問題として、アメリカ人の誰がISの行為を責められるか? 今作でもたくさんイラク人を蔑視した言い方が出てくるが、バカを言っちゃいけない。そもそも大量破壊兵器が無いことを証明せよなどという難癖をつけ、何の罪もないイラクに殴り込みを掛け、残虐極まる攻撃を仕掛けたのは米英である。彼らは新たな武器の宣伝に、古い武器の刷新に、イラクの良質で豊富な石油の収奪に、また軍需産業の儲けと回転に、更には自分達で破壊しておいて建設を請け負うというマッチポンプ収奪迄してきた。イラクの国宝の多くがアメリカに盗まれたのは周知の事実である。にも関わらず、国籍がアメリカだというだけで、彼らはイラク人より偉い、或いは命が重いと考えているらしい。愚か者である。
どういうアイロニーか。今作では、おまけに医者になりたいと言う者が人殺しを生業としているのだ。精神的に穢れていることにも気付いていないかのようではないか? 少なくとも遠い木霊のようにしか彼らの魂には響いていないのだ。そして、心は正常を装っている。何と悍ましい欺瞞であることか! おまけにそれを軍に来なければまともな人生が歩めないせいにしているのだ。よその国に出掛けて行って頼まれもしない人殺しをし、あまつさえそれを正当化する為手前のスケベ根性を丸出しにしていやがる。下司野郎! それがアメリカ人の姿だろう。少なくとも一方的にやられる側からはそのように見られて当然である。
ISが、各地で騒動を引き起こしている。しつこいようだが、そもそもISのような組織ができてしまった主たる原因がアメリカ・英国が中心になって起こしたこのイラク戦争であった。はっきり言って英米はイラクにいちゃもんをつけ、無辜の民を虐殺、レイプ、拷問に掛け恥辱を与え大地を穢した。バクダッドのような人口密集地で大量のDU弾を用い地球の年齢ほどの半減期を持つ放射性核種で汚染した。
無論この汚染に関して国連も英米も知らんぷりを決め込んでいるが、これは明らかな人道に対する罪、戦争犯罪として賠償させるべきである。仮に彼らの主張するように原因がDUの放射線ではないにせよ、重金属毒性の可能性も含めて国際的な第三者委員会による検証が必要である。そして客観的判断で英米のDU使用に非人道性があったと認められた場合、彼らは、国家が破綻しても払いきれぬだけの借財を背負うべきである。当然のことだ。 
殊に副大統領であったチェイニーの悪、ブラックウォーターの創設者、エリック・プリンスらの戦争犯罪は国際的に指弾されるべきである。ブッシュにも無論罪はあるが、彼の最大の罪は愚かであったこと。愚かであり続けていることである。丁度、パシリ安倍のように。
今回の観たいで自分は原作者が殆ど原作を書くためのデータをインターネットで集めた、と書いたが、彼は全部をインターネットで集めたと言っていた。こちらが自分が聞いた正確な話である。観たいでは少し遠慮して書いたのだ。だが、恐らくネットで集めた情報は、一般的米兵の言質に近かったのだろうと再演を拝見して思う。露骨な表現がたくさん出ていることからも、在日米兵から得るデータ・印象からも、非公式な場所でホントに語られていることに近いだろうと思うのである。その生の感覚を吉原さんの見事な翻訳は、日本で暮らす我々にも届けてくれている。この自然な日本語にトランスレイトされた翻訳の、本質の正確な捉え方がなければ、今作は、ここまでキチンと我ら観客に届くことは無かったであろう。
ツキノニジ

ツキノニジ

夜光堂

シアター1010稽古場1(ミニシアター)(東京都)

2015/11/14 (土) ~ 2015/11/15 (日)公演終了

満足度★★★★

ファンタジーらしいファンタジー
 夜の明けない街に生まれたレイとアカは、母たちの語った話“大きな蛇が星を呑み込んでいるので、蛇を退治すればまた星が戻ってくる”という話を信じて、蛇の住む場所を求め退治する旅に出た。

ネタバレBOX

 レイはスキルと言われる能力を持っているが、彼の能力とは水の生成及び調整である。スキルを持つ者は必ずサポートをしてくれる守護獣がついているが、レイの守護獣は、柴犬。名をレウと言う。彼らは旅の途上で新たな仲間ハナを見つけ道連れとするが彼女もスキル保持者で能力は時間操作である。因みに守護獣は猿のパル。
 巡り巡って終わりの街に辿り着いた彼らは、情報を得る為に情報屋に接触、有力な情報と資金を得ることになった。資金を出したのはこの街の旧家。街外れにある遺跡に興味を示している息子が出掛けたまま帰らないというので探索・救出の依頼が為された訳だ。何だ簡単と引き受けたが、今まで依頼された者達は悉く失敗していた。が、取り敢えず3人と依頼をしてきたリンという名のおつきの者も一緒だ。因みに御曹司の名はビャク。
然し、1回目は、小さな蛇がうじゃうじゃ現れて目的を果たせず戻ることになった。一旦、街に戻った彼らがしたことは、もう一人のスキル保持者、ムクを仲間に引き入れることだった。彼は雷を操る術を持ち、守護獣は鼠のウルである。ムクの能力で大量の蛇を片付けた一行は、ビャク救出に成功。一旦街に戻って最後の場所に居る者についての協議を開始。それが巨大な白蛇の形をした神であることを結論づけた。小さな蛇たちは、この神を守っていたという訳だ。これらの結論はビャクの家に伝わる古資料とアカの推理から導かれた。
 ところで、レイと共に最初からのメンバーであるアカにはスキルが無いとされているが、その代わりに彼女の持つ能力は、優秀な頭脳という訳だ。
 さて、ビャクの家に伝わる資料に基づいて神と戦う部隊が編制され、そこに記された手順に従って神をおびき出し戦うことになった一行だったが、アカにもスキルがあった。それも複製というスキルであり、彼女は、これまで何度も別の島宇宙で同じ体験をしていた。その度にスキル保持者からスキルをコピーしていたので、そのスキルの数がどれだけあるのかさえ、彼女以外には分からない。而も彼女は贄であり、ここで死なねばならぬ運命であった。レイはどうしても彼女を、失いたくない。然し運命は変えられない。事態は、運命の予告通り進展するが、ラストシーンでは死んだハズのアカが立ち上がって幕。
 無論、神が倒されたのはたくさんある島宇宙の中の一つの話ということであろう。

このページのQRコードです。

拡大