PASSION ∞ヘレンケラー「光の中へ」∞ 公演情報 アブラクサス 「PASSION ∞ヘレンケラー「光の中へ」∞」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    真実の持つ重み
     構成の良いシナリオ、事実をベースに真実を表現した演出、役者陣の頑張り、何れもバランスよく物語を本質をキチンと観客席に伝える秀作。

    ネタバレBOX


     前半部を主にアンの教師としての資質の高さとその証明に費やしたとすれば、後半部では、アンの献身的な努力と超人的な粘り強さが、花開かせたヘレンの活動を中心に据え、寄る年波に徐々に弱っていくアンに対し偉大な個人として成長したヘレンを見せると同時に彼女の転換点となった幽体離脱体験を挟んで自然な物語展開にしている。と同時にヘレンの周りで常に彼女の将来を案じていた総ての人が望んだ寄る年波のアンのミッションを受け継ぐ理想的伴走者、ポリーとの出会いと経緯が、南部黒人集会での演説や反戦運動で講演の機会を失い出版機会も奪われ困窮する生活の中に描かれる。同時に、編集者、ピーターが、実は黒人の血を継いでいながら、肌の色が白人と変わらなかった為、白人として生きる為に自らを社会主義者と偽り、ヘレンの反差別主義を邪魔立てするようなデータをメディアに流し、彼の勤める出版社以外では彼女の本を出せないよう画策していた張本人であったという衝撃的事実が明るみに出る。この事実は衝撃的である。何故ならこの複合意識は現在のアメリカでも解決されていないからである。一例を上げておけば、数々の大ヒットを飛ばし大スターであったマイケル・ジャクソンが執拗に整形手術を繰り返したことと同根の問題だからだと指摘しておく。
    ヘレン・ケラーとその名教師アン・サリバン、後にヘレンを支えることになったポリー・トンプソン。そしてヘレンの本を初めて出した編集者、ピーター・フェイガンらの人間関係を中心に当時のアメリカの世相、障害を持つ者に対する差別とその背景にあったWASPへの過剰な誇り及びWASPの建国事実に対する誤認識などをヘレンの両親との関係を通して描き出した秀作。聾唖者としてのヘレンに文字を教えるのに、指文字を用いたアンの卓抜な手法とその真摯な取り組みの背景には彼女自身の凄惨な体験があったという事実は、アンの想像力にヘレンの蒙っている現実の不自由、苛立たしさを推量させる契機があったということだろう。こういった想像力は、例えば公共施設にスロープを設ける、バスや電車の乗降口と電車のホーム、或いは地面との高低差、距離などをなるべく小さくする、駅にエレベーター・エスカレーターを設置するなど弱者への慮りが、ずっと蔑にされてきた日本でも、障碍者の権利獲得へのムーブメントやそれを支えた心優しい左派の想像力があったことと無縁ではない。またヘレンの将来を心配した父、アーサーがヘレンをボードビルショー(寄席)に出演させて自立を計ろうとしたこととも無縁ではない。(差別を肯定し見世物として人間性を否定することが、障碍者の生き残る唯一の方法だと考える悪しきリアリズム。この考え方には人間の尊厳の問題が無視されている。今作中ポリーを加えた3人がボードビルショーに出演して生活費を稼ぐが、彼女たちは人間の尊厳を守る為のパースペクティブを持ってそうしたのであり、アーサーのように差別を是認していた訳であいことは明らかである。)この辺りの事情は、映画、エレファントマンのモデルになったジョゼフ・エリックが長年見世物小屋を盥回しにされていた事実と合わせて考えてみる必要があろう。現代にも続く障碍者への差別を更に軽減し続ける為にも、健常者が用いるべき最大の知恵が他者の傷みに関わる想像力であることは今も変わらない。そしてこのような想像力を得る為に必要なことは、徹底的にバイアスを排し、事実を見る目を養い、事実を通してみた結果を合理的に検証して応用する力が最低限必要だという認識である。即ち優しさを実現するリアリストの目も必要だということだ。例えば福島第一原発人災後、多くの子供が鼻血を出した事実を否定するようなアホな言説に対してキチンと正しい情報を評価し擁護する態度が個々人になければならないのは当然のことなのだ。間違った情報を意図的に垂れ流す国際原子力マフィアに立ち向かわねばヒトの将来のみならず、全地球上の生命が壊滅的打撃を蒙るのは必定。心して掛かるべきなのである。このような応用こそ、この3人の偉大な女性たちが現代に生きる我らに託したものの内実であろう。

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    2016/07/15 11:41

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  • ハンダラさま

    丁寧な感想をありがとうございます。
    今回の伝えた事をすごくわかりやすく感想に書いて頂けていて嬉しいです。
    ありがとうございました‼︎
    心より感謝を込めて

    2016/07/21 21:49

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