ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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叫べ!生きる、黒い肌で

叫べ!生きる、黒い肌で

アブラクサス

サンモールスタジオ(東京都)

2019/05/09 (木) ~ 2019/05/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

 必見! 華5つ☆(若干追記2019.5.12)

ネタバレBOX

 オープニング早々、ビリーがシバーナにリクエストしたのは、「ストレンジフルーツ」ビリー・ホリデイの歌った有名な曲である。この異様なタイトルだけで感受性の鋭い人は震撼せざるを得ない程凄まじい内容の歌であるが、これだけ劇作家としても才能のあるアサノさんが、大変長い時間を掛け、練った戯曲だけあってその構成の見事さについても特筆に値する。今回もアサノさんは作劇・演出・女優として八面六臂の活躍だが中心になる歌手役にプロの声楽家をキャスティングしている判断も正しい。
 クラシック畑で育ったシバーナはこの曲を知らなかったので「サマータイム」を歌うのだが、胸に染み入るような歌唱は、演じたSetsukoさんが曲の魂を正確な英語発音で表現して見事である。
 一見して分かる通り、今作はアメリカの黒人差別が一応撤廃されるまでの20世紀中盤から後半への過渡期を描いた作品であるが、多くの日本人には差別の意味する所が分かっていないようである。差別の最も顕著な特徴は、差別する側にとって、被差別者の痛みが理解出来ていないということを理解し得ていないということにある。今作でも、リンチにあった黒人を笑物にしている白人の話が出てくるが、これと全く同じ本質を持つ差別がイスラエルのシオニストによって元々パレスチナであった場所で、日々パレスチナ人に対して行われている。
 物語は白人と黒人のハーフとして生まれたサラが育ったフランスからNYへ来、「母」シバーナの話したがらない過去の来歴を訪ね歩く所から始まるのだが、それには、母の親友、ビルとの関わりから始めねばならない。母は教会のシスターの娘として生まれ、カーネギーホールでピアノリサイタルを開くことを夢見るバッハファンのうら若き娘であったが、その天才的な才能にも拘わらず、クラシックの世界からはハジキ出されてしまった。失意の末彼女は場末のバーでジャズピアノ等を弾き始める。この店で出会ったのが、後に親友になるビリーであった。
日露演劇交流『幸せはだれのもの』

日露演劇交流『幸せはだれのもの』

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2019/05/08 (水) ~ 2019/05/09 (木)公演終了

満足度★★★★★

 ロシアの学制は、11年制が主流であった。日本流に言えば小・中・高が総ていっしょくたでその後大学入学となるという形である。

ネタバレBOX

まあ、10年生から大学に入る人もいるし、現在主流になった10年生迄やった後、大学は行かないが11年生になって更に少し勉強をする人も居る。また大学もかつては5年で終了が一般的であったが、現在はヨーロッパの流れに合わせる形で4年終了の大学が増えている。ブルデンキント中等教育学校は私立の学校だから、授業料は親が払う。全寮制で学生は男女共学である。日本の学制で言えば、中高一貫校に近いか。演劇部の練習日は、クリスマス前の特訓期を除いて週1回、4時間程が当てられている。創立以来20年になるが、プロの役者になった演劇部出身者は3名。無論、なりたがった生徒の数はもっと多いのだが、指導教諭達が止めておいた方が良い、と生徒の両親を含めて説得していることも大きかろう。表現の厳しさや運不運という要素を含めて、生計を立てることが難しい世界であることを良く知る指導者達の親心であろう。
 今日が本番だったのだが、参加した若い演劇部員の中には何人か既に卒業したが、演劇部で演劇活動を続ける先輩数名やプロになったが今回今作に出てくれた先輩女優も1名居た。総じて宇宙という茫漠たる生存条件の中で擬人化された不幸というキャラが狂言回しとなって因果律を奏で、登場人物各々が宇宙の塵を切り出して、或る人間を造形するという作業をしていて実にヴィヴィッドで柔らかい感性とそれらに裏打ちされた役作りをしている点が、各々のキャラクターの存在感に繋がっていた。また、例えば王の金庫番がその被り物・キッパによってユダヤ人と知れるような演出上の配慮も為されている。(ロシア人の通訳に伺ったら、金庫番の話すロシア語はユダヤ訛りなのだそうだ。シオニズムを推し進めた中心人物の殆どがロシア出身のユダヤ人であり、「屋根の上のバイオリン弾き」がロシアでのポグロムを描いた映画であることを見ても、ドストエフスキーが度々ポグロムの悲惨に言及していることを見ても、マルシャークが今作に金庫番としてユダヤ人を登場させていることは興味深い。当然、パレスチナでジャボチンスキーを更に右傾化した思想が、パレスチナ人に対するジェノサイドを恒常的に行っていることに対しても思いが及ぶ。)
 一方、ロシアの民族衣装を纏った民族的な踊りが、ロシアの有名な曲と共に披露されたりする中で、ロシア人気質というのが、あれだけ寒い国だからなのか、思いがけなく明るいという発見もあった。また、茫漠たる宇宙に対し因果律というテーゼを立てることによって人間的尺度を作りだし、宇宙を人間的に解釈しようとする発想は日本人の発想にも近いように思われ親近感を持ったのも事実である。但し、多くの日本人の場合には、この哲理を己を発現させる行為として主体的に担うことはすまいが。
 
日露演劇交流『幸せはだれのもの』

日露演劇交流『幸せはだれのもの』

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2019/05/08 (水) ~ 2019/05/09 (木)公演終了

満足度★★★★★

 ロシアからやってきた高校生が演ずる、マルシャーク原作の「幸せはだれにくる」の本公演を明日に控えた8日、ロシアの子供向け短編映画(アニメーション)3本の上演を含めたプレイベント。「幸せはだれにくる」の部分的上演と解説、スタスラフスキーのメソッドをベースにした普段の訓練法の解説やその成果を拝見した。流石に内面から滲み、溢れる柔らかな感性を感じる表現力のポテンシャルの高さ、各々の個性の伸びやかでしなやかな表現レベルに感心させられた。9日19時が本番、期待できる。

釜茹でGO!!!!!タイムマシンは古銭式

釜茹でGO!!!!!タイムマシンは古銭式

劇団 枕返し

オメガ東京(東京都)

2019/05/03 (金) ~ 2019/05/05 (日)公演終了

満足度★★★

 “釜茹で”と言えば石川 五右衛門の名は直ぐ上がるほど、茹でられた時の彼の態度の豪傑ぶりは人口に膾炙しているが、(華3つ☆)

ネタバレBOX

今作は、この民間伝承という文化的土壌に村山知義の時代小説を山本薩夫が1962年に映画化、続編「続忍びの者」(1963年映画化)と共に評判を取った作品をベースにしているように見受けられた。
 小説、映画に関して興味のある方は、ネットで検索すれば、関連情報は直ぐ手に入ろう。無論、今回の劇化に当たって先に挙げた作品群がベースになってはいるものの、今作を一言で言うならコンセプトは、タイムトラベラーやタイムリーパーとでもなりそうなSFでもある。自分は小説の方は読んでおらず、映画を見たに過ぎないが映画で描かれていたのは、信長暗殺に関わる伊賀の忍者集団の上忍による下忍の支配構図と信長による伊賀襲撃へ至る顛末、本能寺での信長の死と光秀の決断に関わった伊賀忍者、伊賀集団がそのように走る原因を作った間諜としての半蔵の役割と、表には一切現れないが影で糸をひきこの結果を算段した政治屋・家康、伊賀が滅ぼされての後、雑賀衆に加わった五右衛門らに対する秀吉の攻撃と家康配下の服部半蔵の画策などを描くことによって、忍者集団の支配・被支配の構図(主として三太夫の政治)、情報操作の手管と政治(主として半蔵を駒に家康の手練手管)、為政者と配下の者達各々の争い方の差とその結果齎される政治的死や命その物、死に至る過程の残虐性の階層的差異等々を通して描かれる社会的・人間的不公正に対する疑義。また上忍である三太夫は、その術の源を歴史的にも役行者の修験道に負っているにも拘わらず、今作では陰陽道となっていることなどで陰陽道の日本に於ける二筋の流れのうち、安倍晴明に代表される天文道を安倍家に、賀茂家に暦道を継承させた事実を、現代に通じる占い一般に転化した上で笑いと歴史の分水嶺に於ける決定的失敗を齎せた判断ミスの典型例としてアイロニカルに描いている。
 但し、作家が未だ若く、哲学的なレベルで自由を追及した経験も、また己の実存を通して自由と深刻な対峙を経験したことが無いことも明らかなので脚本の全体が未だ浅いこと、政治の本質たる人心確保とその最も普遍的・効果的な要素としての情報操作(真偽の曖昧化、事実を覆い隠す為のフェイクニュースの捏造拡散・またそのタイミングと拡散対象、その方法手段)に対する掘り下げの未熟は、目指す方向が脚本に言語化されているものの、その各々の要素にその普遍性が何故それほど人間にとって大切なのか、大切な価値であるが故に歴史の表舞台から消されて来たのか、真に大切なもの・ことが、受益者からどのような誹り、反発、妨害、迫害を受けるのか等々の事象を通して、そのこと・ものを示す単語ではなく、その単語を見聞きする者の内側から滲み出させるような脚本が書けるよう、今後独自の勉強で克服して欲しいものの、取り敢えず、目指した方向性については評価したい。演技に関しては、主役を演じた結川 香さんが中々頑張っていた他、三太夫及び五右衛門を女優が演じた点も面白く拝見した。
夢の契

夢の契

HitoYasuMi

OFF OFFシアター(東京都)

2019/05/02 (木) ~ 2019/05/07 (火)公演終了

満足度★★★★

 好みは別れそうだが、大人の味。(華4つ☆)

ネタバレBOX

 女優を目指して10年、中年を迎えた3人の女が目指したことは、培った人生経験とそれぞれの得意分野を活かし最も効率よく演技で稼ぐ方法であった。カモは、当然男である。存在で勝負する女性という性と、常に新たな狩場を求めて彷徨うことを宿命づけられた男という性に於けるカルマの在り様を、女性目線から描くとかくも恐ろしい話になるのか!? というかなり輻輳しアイロニカルな作品。用いられている楽曲が讃美歌の「グローリア」であることは意味深でもアイロニカルでもあるし、ザピーナツの数々のヒット曲が、グロテスクで不気味な内容に効果音として用いられるとこんなに怖い曲と感じられるのか!? とビックリさせられたり、最も有名な祈祷文である“主の祈り”をベースに自分達の悪を正当化するアクの強さを見せつけるなど見所満載である。独特のテイストを持った脚本にマッチした演出と個性的な演技をしてくれる役者陣の演技、キャスティングも良い。
生ビールミュージカル

生ビールミュージカル

宇宙論☆講座

スタジオ空洞(東京都)

2019/05/01 (水) ~ 2019/05/05 (日)公演終了

満足度★★★★

 一見ハチャメチャと映りそうだが、相当方法的である。(少し追記5.5)

ネタバレBOX

中盤までに出される様々なテーゼについての答えが総て「だってミュージカルだから」という解答に集約されてゆくのは、無論、終盤との対比を前提として構成されていると考えられる訳だし、随所に散らされた含蓄のある科白や極めて深い洞察に満ちた科白等からも作家の表現する者としてのポテンシャルの高さは想像できる。
 板上に用意された舞台道具は殆どが段ボール箱だが、我々の生活の中で用いられるこの素材の雑多な有用性や、追い詰められた人々の用いるセーフティーネット用品としての在り様が観客の頭にも直ぐ浮かぶだろう。それは単に用途の多様性からも来る雑多な感じや地味な色調ばかりではなく、所謂段ボールハウスのイメージをも、想起させる。
この事実こそ今公演をバッカスの香に浸し、溶かし込みつつ、人生の苦味という大人のテーゼへと見事に抽出してくる装置なのだ。科白はチョメチョメ部分も出てくるが、XXこ、とXXぽという単語が科白として吐かれる時、破裂音の“ポ”がマイクに与える音響効果と“こ”が与える音響効果の差についての論議が行われていたり、“大人になると生SE○して子供作るんだけど、心が繋がらないから大人は嗤うんだ”というような深く苦い洞察が光る。また25歳で亡くなった愛娘・たま子の死に臨んで母は言う。「どうせ、家を出て行ってしまうのだし、一緒に居られる時間なんてそんなに長い訳でも無いのだから、亡くなったからって大して気にすることじゃない」と。だが、同時に彼女はこうも漏らすのだ。「あたしがお婆ちゃんになる頃、この子はおばさんになっている。そんなおばさんになった娘と一緒に、伊勢丹へ行ったり、温泉に出掛けたい」と。即ち最初の科白は反語で、強がっていなければ砕けてしまいそうな母の、精一杯の強がりが言わせた言葉であり、子を失うという辛さが、母の時間を止めてしまうほど強い悲しみであることを示しているのは、誰の目にも明らかであろう。
 これら総ての要素が、バッカスの香りに溶け、表現の本質上最も大切な自由を絶対的価値として追及するアナーキーな視座を観客一体の中で上演作品の構造に取り込んでいる演劇形態そのものの、実験性と面白さも評価したい。
天狗ON THE RADIO

天狗ON THE RADIO

ものづくり計画

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2019/05/02 (木) ~ 2019/05/06 (月)公演終了

満足度★★★★★

 兎に角、脚本が良い。演出、演技、舞台美術、使われる曲と物語のマッチングも素晴らしい。(華5つ☆)

ネタバレBOX


 舞台は地方FM局収録スタジオ。下手に金魚鉢のブース。上面硝子張りの衝立を挟んだ上手側がスタッフルーム。衝立奥にはドアがあり、金魚鉢と繋がっている。無論、on airのシグナルの設置されている。明転前の暁闇では、見切れが起こるかと心配したが、衝立上面が硝子で透けて見えるので観劇には一切問題無かった。
 物語は、過疎化などが災いして四半世紀続いてきた地元FM局が閉局を迎える直前を描く。平成で終了との決定をディレクターの強い意から令和の連休明け迄延ばし、一旦閉局はするものの、必ずや再起するとの決意を胸に、リストラや番組編成の変更・縮小、人気パーソナリティー登用などで延命を図ってきた局経営も最早限界とはいえ、次への一手を打つことで散り際の一花咲かせたい。そんなスタッフの意が、閉局に臨んで尚奮闘へと駆り立てる。伝説のパーソナリティーとして一世を風靡したミスター、東京で自分の番組を持つこの地出身の花形キャスター・ナギサの出演、現在最も人気のあるパーソナリティー・ベンジャミンとの新旧対決公開生放送等々、困難だが様々な企画を盛り込み計画はスタートするが、無論、世の中そうそう上手く行くハズが無い。スタッフらの意とは裏腹に計画が頓挫しそうな状況が目白押しである。
 而も内部事情としては、最も大きなスポンサー・賀間の意向を無視することが出来ないのは当然のこととして町内政治(町長一家は現在汚職疑惑・息子の小学生カツアゲ疑惑に絡む)VS町会議員や新進キャスターの町長選狙いの思惑、目玉の一つ、新興宗教教祖と化したミスターの扱い、ナギサの時間調整の難しさ、スポンサーCMに対する妨害等問題は山ほど出てくるばかりでなく、現在最も人気のあるベンジャミンは顔出しNG。公開リハでは聴取者から仮面を取れの大合唱。
 然し、これら総ての困難を救ったのは、かつてこの地で起こった大災害で局が果たした大きな役割と人々の心を支えた放送内容の歴史であった。リスナーから未来への手紙を託され、託した人の要望した時期に開封して読み上げる企画によってかつての記憶と現在とが生々しく接続される。その白眉は、災害時、両親を失くした10歳の少女、ナギサの両親からの手紙であった。親子3人でFM局の放送に出ることができたことの喜び、リクエストされた局が終わることになった時開封して読まれることを願ったことの意味と感慨等が綴られた内容は、胸を掻き毟るほどに痛切である。
 自分は、阪神淡路大震災の時、海外で暮らしていたのだが、仲の良かったドイツ人の友人から、生まれ故郷の神戸が大変なことになっているとの報せを受け、通じるハズの無い国際電話を掛けまくったことを思い出しながら拝見していた。
 By the way,唯一気になったのが、on airのランプが終止点きっぱなしだったこと。
 
演劇♡顧問

演劇♡顧問

神保町花月

神保町花月(東京都)

2019/04/26 (金) ~ 2019/05/06 (月)公演終了

満足度★★★★★

 全国高等学校演劇大会東京地区予選各賞受賞も決まった後の評議員を交えた慰労会会場は、行きつけの飲み屋が舞台だ。
 どうして行きつけになったのか? 他店に出禁を食いまくっていたからである。

ネタバレBOX

というのは、メンバーは個性派揃い、侃々諤々の議論は空を切り、風に舞って他の客たちに迷惑を掛けまくってきたのである。基本的に参加者は高校教師と演劇大会評議員という立場だから世間から見ればオカタイヒト達であり、何かと見識だの常識だのと人目が煩い。だが、コンペである以上、受賞校ともなれば、顧問としても鼻が高いし評価も上がる。何よりなんだかんだ言っても皆演劇好きである。その為、主張にも身が入り過ぎて大声で自己主張し合うということにもなる。結果の出禁であるから、ある意味勲章ですらあるのかもしれない。何はともあれ、芸人と役者のコラボというのが面白い。芸達者が多く間の取り方が上手い役者が多いので笑わせてくれるし、本来の役者と芸人の役作りの微妙な差や、吉本でメジャーを目指す芸人と小劇場演劇の役者達のプロ意識の差が現れている点も面白く拝見した。ちょっと誤解を招きそうなのでもう少し詳しく書いておくと、作品で描かれているコンペは、同時に演技している役者・芸人の役作りの差と方法論の差、TVという媒体を意識した役作りとメジャー志向よりも寧ろ演劇というジャンルの魅力に取り憑かれて役者をやり続けている小劇場演劇の役者陣との目指す方向の差のようなものが出ているように思ったのである。
 どんな表現にも共通していることではあるのだが、表現する当事者達の意識に“観衆に使い捨てされる”という切迫感がどれほどキリキリと突き刺さっているかという点では、今作のように類似・異種の表現者が同じ舞台で同一作品に参加しているという形は実に刺激的であった。
物語りに描かれる才能評価に対する妬み、嫉みや、発表作品が高校生演ずる演劇として相応しいか否かという世間や「良識」との関係、作品と実生活との関係と作品化することの極めて内的・微妙な位置関係、かつてと今の彼我の差の中で遷移してゆく1行の意味「お前、馬鹿だな」は最後に最高の褒め言葉であると同時に共感の最たるものとなっている点も良い。
ランチタイムセミナー

ランチタイムセミナー

劇団ジャブジャブサーキット

ザ・スズナリ(東京都)

2019/04/27 (土) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

 逆ストックホルム症候群。華5つ☆

ネタバレBOX

 サブタイトルにもあるように1997年丁度地球儀では日本のほぼ反対側にある南米・ペルーで起きた事件であり、当時のペルー大統領は日系のフジモリ氏であった。日系人が大統領になったということで、政府、マスコミこぞって大騒ぎをしていた。公邸を占拠したゲリラたちと人質となった人々との間にストックホルム症候群が出るのではないかとの情報が、週刊誌などでは騒がれていたように思う。自分自身はこの事件から余り時を隔てずに西アフリカのギニア・ビサウに入っていたし、丁度リアルタイムでは、知り合いが週刊誌の記事を書く為に現地入りをするというので色々アプローチしている話は聞いていた。だが、1次情報を現地で仕入れるまで事実を言うことができないことは、無論である。そして、自分が11月末にギニア・ビサウに入りプロジェクト具体化の為に奔走し、資材調達の準備や発注、地元アフリカの業者との折衝などを済ませた後、所長と共に発注資材の検査の為にヨーロッパ諸国に出張中の4,5月にギニア・ビサウ軍によるクーデタが起き、外務省が危険度5を出したので出張中の我々は現地に戻れなくなってしまった。無論、現地に残っていた日本人スタッフや現地企業トップなどとは使える通信手段を総て用いて連絡を取り合ってはいたが、予断を許さない状況であることは百も承知である。一方、日本本社や、関係商社に問い合わせても有効情報は得られない。それどころか、本社は、日本と同じ感覚で不可能なミッションを要求するのみであった。日本大使館は話の外、というのも日本大使館から我々に情報提供を依頼してくる有様であったから。1次情報は錯綜しているし、現地業者も難民化していたりするので連絡が途絶えがちであった。首都の一等地に偉そうに最も大きな大使館を建て親分風を吹かしていたアメリカ大使館員は、砲弾か何かが着弾したら、真先に逃げ出した。そりゃそうだろ、大した地下資源が在る訳でも無ければ即手足として利用できる有用な存在が居るのか、それが本当に分からないという情況下、金儲けに繋がる事象にしか興味の無いアメリカがリスクを負う訳は無いからである。
 閑話休題。今作の執筆に使われた資料は、共同通信社が出した「ペルー日本大使公邸人質事件」だが、特殊部隊が突入した際、関連書類等は消失したとも隠されたとも言われ、謎の部分が多い為、事実は判然としない。然し乍ら、全員が虐殺されたゲリラの相当部分が、貧しい家計を助ける為に2週間雇われるというアルバイト感覚でリクルートされた若者達であり、中には若い女性も混じっていたのは事実。一応、銃器の扱い方などは学んだものの、プロというには余りに幼い者達が多かったこともあり、今作で描かれているようなゲリラVS人質というよりずっと人間的なコミュニケーションが成り立っていた模様である。それだけにフジモリの判断は余りにあざとく無慈悲であると感じられた。中南米の歴史を繙くまでもなく、1492年にコロンブスが西インド諸島に到達して以来、スペイン・ポルトガルによる植民支配、加えて現地人が免疫を持たない病と植民者サイドの被植民者酷使による死亡によって現地人が激減するとアフリカからの奴隷を入植させプランテーションでこき使った歴史に、英・仏・蘭等の海賊行為やスペイン・ポルトガルへの攻撃などと並行した約300年の植民地時代の中で、スペイン系(副王・スペイン王に任命されたスペイン貴族、オイドール・スペイン国王任命議員、クリオージョ・現地生まれのスペイン人。当初、政治的権力無し)と現地人との混血であるメスティソ、アフリカ系逃亡奴隷シマロン(海賊の手助けなどもした)、白人と黒人の混血であるムラートなど混血が進んでいることに加え、混血している者同士の子孫もいる訳だから、人種混交の実態は極めて複雑であり、支配層と被支配層の差別・被差別も錯綜している。とはいえ社会を構成する要素として人種が大きくものをいう実態を知っておくことは極めて重要だから以下そのアウトラインを雑駁であるが記しておく。最上位には、白人・その下位に初期スペイン統治下ではクラカ(先コロンブス時代の首長)下っては、メスティソ、更に下にムラートや現地先住民というのが極めて大ざっぱなイメージだろう。当然のこと乍ら、貧富の極端な差もこのヒエラルキーに準じて存在し、貧乏人が這い上がることは殆ど不可能である。今作でも出てくる日本のカップラーメンを食べた現地ゲリラが「こんなにおいしいものを食べたことが無い」という科白や、2週間経てば故郷に帰ることが出来ると考えてお土産にカップラーメンでバッグを一杯にしていた話などは心底胸を撃つ。こんなに素朴で、貧しさ故にゲリラ化した貧民を虫けらのように全員虐殺した権力者というのは、その無慈悲が何処から出てくる何を根拠にしたものなのか? この判断を下した人間は怪物ではないのか? と問いたくなる作品であった。
ニュータウンの影

ニュータウンの影

俺は見た

サンモールスタジオ(東京都)

2019/04/23 (火) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★★

 第四回目の公演ということなのだが、何と四年ぶりの舞台だという。で間に何をやっていたのか? というと映画に挑戦していたそうである。それもあってか本日は終演後に映画監督の柳町 光男さんとファッション写真家の藤田 一浩さんのアフタートークがあった。映画の方にも目途がついたということのようだが、年1本ペースで今後は舞台でも活躍してくれるとのこと。期待したい。(追記後送)

ネタバレBOX

 面白いのが、TVの音以外に効果音を殆ど使っていない点か。
バラ色の人生

バラ色の人生

TEAM 6g

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/04/24 (水) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

 これだけ書ける作家なのに、序盤でのチャラケは却って興を削ぐ。ざっと公演案内を見た所では作・演に名前が入って居ないので分からないが、演出が異なる人物なら、このチャラケにはダメ出しを出した方が良くはないだろうか? 公演中故、ネタバレ詳細は後送

ネタバレBOX

 歌は無論、エディット・ピアフの有名な歌でそこからタイトルを採ったのかと思いきや、それだけでは無いらしい。オードリー・ヘップバーンの出演作に「麗しのサブリナ」という作品があって、その映画のBGMにこの曲が使われていたのだ。映画自体、名画として名高い作品だからご覧になった方も多かろう。
 物語は特別養子縁組(1988年施行)に尽力した医師と協力者、当事者らの事情と背景を、この法の制定前に遡って辿って見せる。通常の養子縁組と特別養子縁組で最も大きな差は、産みの親の情報が戸籍上に記されないことである。つまり養父母の実子と貰われた子は戸籍上差が無い。従って仮に実の親をその子供が探したいと願っても役所を通して辿る術は予め閉ざされていると言っても過言ではない。その不可能を超えて実母探しに奔走するのが今作の主筋。
静かにとけた桃色【ご来場ありがとうございました!】

静かにとけた桃色【ご来場ありがとうございました!】

劇団えのぐ

ひつじ座(東京都)

2019/04/24 (水) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★★

 えのぐには脚本家が2人居るので今回は各々が1作ずつ、2作品の上演だ。(追記後送)

ネタバレBOX

劇団えのぐ平成最後の公演と銘打ってもいる。どちらも話が展開するのは、喫茶店である。まあ、レイアウトが若干変わったりはするが、小振りのテーブルと椅子の移動位なので苦にはならない。物語の展開にも自然な流れが出きて設定は上々だ。出捌けは下手奥と上手奥の2カ所、下手の方は床まで黒布が垂れ目隠しにもなっているが、上手は暖簾が下がっているのみ。開けたドアのノブの上辺りにメニュが見える。下手出捌けの客席側にはカウンター。ハイチェアが2脚置かれているのだが、腰掛け部分の飾りや、座る部分は皮を縦横に編んだ中々お洒落なもの。従業員のエプロン、カウンタークロスなどは総てピンクだが、カウンタークロスのピンクには、小さな文様が入っていて色調も微妙に異なる。更にマスターの穿いているGパンの腰回り、後ろポケットなどにはカラフルなパッチワークがあって劇団名を暗示している。
 第1話は解離性人格障害或いは依存性パーソナリティー障害との合併という風に捉えられている女の子の恋を描いた作品だが、パーソナリティー障害については実存する本人以外に4つのパーソナリティーを持ち内1つが強力に自己主張を始めているという設定だ。実際にこのような事例があるか否か自分の調べた範囲内では明らかにできなかった。何れにせよ若い女性の場合には境界性パーソナリティー障害などが発生するケースもあるというから、周囲の人間はかなり真剣に取り組まなければ如何ともし難いのは事実であろうし、病を患っている女性自身が相当苦しい思いをしているにも拘わらず理解されにくいということで更に迷路に踏み迷うことも多かろう。今作ではハッピーエンドにしているが、苦しんでいる女の子の在り様を考えさせる所が味噌。
TesLa【テスラ】

TesLa【テスラ】

株式会社ROUTE13

魔法ダイニングバー OSMAND(東京都)

2019/04/21 (日) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

 Magura&Shingoと名乗る2人のマジッシャンによるマジックパフォーマンス。発明家のテスラを讃えて開催された。

ネタバレBOX

演目は以下の通りだ。
1. Prologue of「Tesla」
2. 脳は正確に「音」を認識しているか?
3. 「時間・空間」と「記憶」
4. 人間の思考は「Link」するか?
5. 「3」に拘ったTesla
6. 「タングラム」による幾何学テスト
7. 「塗り絵」を使った直観力テスト
8. Route13的「フィラデルフィア実験」
マジッシャン2人が交互に出演、各々のマジックパフォーマンスを披露してゆくのが基本的なスタイルだが、2人共演のシーンもままある。マジッシャンとしての腕は大したもので、恰も観客の中に彼らの仲間が予め入り込んでグルになって観客を手玉にとったり、集団催眠を掛けているのではないか? と思わせる程の出来である。
一つだけ例示しておくと、よくある、トランプカードの中から、観客の勝手に選んだカードを元のトランプカードの山に戻し、選ばれたカードが何であったかを当てる程度のことから始めて、関わりの深い人間関係のあるカップル(恋人、夫婦、親子、兄弟など)に協力して貰って、矢張り好きなカードを抜いて貰い、各々のカードを他の観客にも確認して貰った上でそれぞれにサインして貰ってからカードの山に戻す。2人の関わりが親密であるかどうかを確かめる為にサイン済みのカードを戻して貰った後、枠のついた硝子板の前でカードの山を放り上げると硝子に2~3枚のカードが張り付いたように残った。マジシャンが枠に触れ余分なカードが落ちると、マークと数字を書いた側が、観客に示されるのだが、これは選ばれた1枚でありサインも入っていた。ところでもう1枚は? と内心考えている観客にマジシャンが告げる。実はカードは張り付いていたのではなく2重になったガラスの間に閉じ込められていたこと。で、もう1枚は硝子を180度回転させた裏側にあることを告げながら硝子を回転させると、無論こちらのカードにも別のサインが入っている。更に2枚であったハズのカードは合体して1枚になっていた。
雨のパ! ーー踊る子猫と幽恋

雨のパ! ーー踊る子猫と幽恋

尾鳥ひあり

北千住BUoY(東京都)

2019/04/20 (土) ~ 2019/04/22 (月)公演終了

満足度★★★

 微妙なタイトルそのままの作品。中有の話が通底和音のように響いているから、幽けき存在である幽霊の話も出てくれば、幽けさそのものを具象化する為に凄まじくスモークが焚かれる。(自分が見に行った21日ソワレの開演2時間頬前から、ハイロという名の映像集団の作った作品の上演と作家トークがあり、こちらも非常に面白かった。ハイロに関しては華4つ☆。但し、5作品上演されたもののうち自分が間に合ったのは最後の1本の最終部分1~2分だけであったが、その後のトークが実に面白かった)

ネタバレBOX

中有とは四有の一つであり、死有から生有までの間を言う仏教用語だ。と言われても一般の人には理解できまいから説明しておくと、所謂四十九日のことで、死んでから次に天性する迄7日毎に審判を受け最終的に転生先が決まり生まれ変わるまでの期間を言う。仏教哲学では、無論深い思索と壮大なイマジネーション、零を射程に入れた鋭い考察などまで論じなければならないのは当然のことだが、今作の射程は、もっと感覚的である。だから、例えば自由でありたい、例えばエキセントリックであっても自分の欲求を満たしたい、といったような、かなり生な欲望も切り取られて埋め込まれており、それが作家のイマージュの連関によって緩やかに編まれ、揺蕩う。その場所はとある村に設定されているが、どうやら何らかの境界はあるらしく、その境界を超えてしまった者は、矢張りその責めを負わねばならぬようである。
 演劇の通常の約束事とはかなり異なる表現様式と発想で創られた作品で、これからどうなるか分からないが、その点が未知数で面白いと言えるかも知れない。
ミラクル祭’19(ミラフェス’19)

ミラクル祭’19(ミラフェス’19)

新宿シアター・ミラクル

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2019/04/20 (土) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

Aを拝見(ネタバレにはちょっと気を遣う作品なのでホントのネタバレは後送)

ネタバレBOX


「ペルソナ・サークル」たすいち
私立探偵と言えば、殺人事件。それも密室。さてあなたはこの謎をどう解く? これはもう、推理小説の十八番、定石、定番、鉄壁、常識、マンネリである。
 で、今作では、ホームズに倣って探偵には助手が付き、山を分け入った里へとやってきた。無論依頼があったからである。彼らが漸く到着したその日、村の名家で婚礼があった。だが、しきたりと異なることが起きた場合には、不吉なことが起こると老婆が言う。
「海月は溶けて泡になる」feblabo
 登場人物は、男2人、女1人で、女と男のうちの1人は恋人、1人は弟で、弟は彼氏とギリシャ的恋愛関係に陥る刹那だ。
注意書きの多い料理店

注意書きの多い料理店

TOMOIKEプロデュース

ブディストホール(東京都)

2019/04/17 (水) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★

 脚本構成に問題アリ。

ネタバレBOX

 脚本の組み立て、メインプロットとサブの組み合わせ方、作家が一番訴えたいことが、ネット社会の弊害なのか、それとも無視され続ける人間存在の抱える闇なのかがハッキリしない。そして相互の脈絡がキチンと宿命や因果と言われるほど強く関連付けられていない為、結末迄観客はドラマツルギーがキチンと成立しない凡庸な時間を強要される。作・演は同一人物で前説に出て来たが、ドラマをもう少し勉強し直した方が良かろう。構成力が特に弱い。
気持ちいい穴の話

気持ちいい穴の話

劇団きらら

王子小劇場(東京都)

2019/04/19 (金) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

 タイトルがキャッチーではないか!? 世の中は上から見たって決して分かるものではない。そんなことはちっと気の利く大人なら誰しもが骨身に沁みて知っていることなのだが、日本の「エリート」と言われる手合いには、こんな当たり前が理解できないミムメモが多くて困る。今作には苦労人しか出てこない。多くはアウトサイダーかスレスレである。(追記後送華5つ☆)

さようなら

さようなら

オパンポン創造社

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2019/04/18 (木) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

 淡路島にある小さな町工場を舞台に巻き起こる,変わり映えのしない日常脱出を求める若者たちと工場社長、スナックのママを巻き込んだ極めて個性の強い、大阪らしいキャラが目一杯詰まった東京便。初日配信!! ,

ネタバレBOX



 舞台美術は極めてシンプル。奥に平台を置いて横一杯に広がる踊り場とし、その中央に壱段設けて階段としている。その手前下手には、背凭れを後ろにした椅子2脚、上手には奥に3脚、少し離れた手前に真ん中を抜いて2脚の椅子が置かれている。無論、これらは、適宜配置変えされ得る。だが、他に用いられる家具は無い。小道具を用いて微妙な心理描写などを表現するシーンもあって、中々芸が細かいことに感心、全体的にスピーディーに展開するが、余りスピーディーになり過ぎてスベルのを懸念して間の取り方に工夫を見せるなど演出もしっかりしており、役者陣の芸質の高さと真摯に役作りに励んでいることが良く分かる好演、熱演だ。
基本的にこのレイアウトは、役者の力勝負。キャラ設定は如何にも大阪らしい強烈なキャラばかりであるから各演者の振幅の幅も強度もスピードも並ではない。だからこれだけでは、芝居自体の強度のせいで芝居が瓦解しかねないのだが、そのテンションの高さを引き絞るような、海に囲まれた淡路の大地の閉塞感そのものを表現する柴田役の科白と物語のメインストリームの流れが対峙拮抗して光を発している。舞台挨拶時の役者陣の様子は、デリケートでありつつ、根の真面目そうな同時に爆発力を秘めた頗る好ましいものであったが、中で柴田役を演じた役者さんの自由で広がりを持つ印象が、今作で扇の要となって総ての役者さんのキャラをその見事なキャスティングと共に活かしている印象を受けた。
YESTERDAY ONCE MORE

YESTERDAY ONCE MORE

劇団アルファー

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2019/04/11 (木) ~ 2019/04/15 (月)公演終了

満足度★★★★

 ロートルに一応焦点を当てたタイムスリップ物というコンセプトだとみた。華4つ☆

ネタバレBOX

今作の脚本レベルで興味深い点は、タイムスリップ物の多くが、タイムパラドクス解決にエネルギーの殆ど総てを費やしてしまい、その先のコンセプトを考えていないのに対し、集合の範囲を一段上げ、パラレルワールドを措定することで難なくより広い広がりの中にラストを解放し得た点にある。この開放により、∞連鎖が可能になる訳だ。
 では、通常のタイムパラドクスをどのように矛盾なく処理したかについてだが、記憶違いとか、倫理とか、或いは歴史を書き換えることへの恐怖といったとても自然で説得力と実績のある理由によって、タイムスリップしたら誰もが自然な感情として望むハズの歴史改変が結果的に頓挫してゆく。この処理が上手いのだ。下手を打てば、とんでもなくレベルの低い3文芝居に堕してしまうノスタルジーを表現しながら、実に巧みにこの罠を脱している所に今作の優れた表現力を見ることができる。その意味で、脚本のみならず、演出、演技を評価したい。自分が特に気に入ったキャラは、居酒屋で働くサコちゃん、オヤジのげんさんのギター演奏(店のオーナーとしてのキャラ設定とはそぐわない素晴らしい感性を感じさせる演奏に、この役者さんの技量をみた)他、タイムスリップした山ちゃん役に味を見た。総じて役者陣の演技も好感の持てるものだった。タイムスリップした新ちゃんは無論のこと、老いて車椅子の津田を演じた役者さんの演技も気に入ったし大女優になった高橋を演じた女優さんの演技も気に入った。ロック歌手を演じたジョーもなにやらそれらしい。唯、超一流にはなれなかったというキャラではある。こんな生意気なことを言えるのは、ハッピーエンド等のメンバーとライブの合間に飲んでいたことがあるからではある。
チョコレートケイキ

チョコレートケイキ

春匠

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2019/04/12 (金) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

 物凄く表現することに圧を掛け、凝縮した舞台。関わっている方々の地力が凄い。但し観ている側もずっと緊張しっぱなしだぞ! その意味でこれくらいの尺が丁度良い。

ネタバレBOX

 舞台は可也暗めのオープニングで、奥も手前もハッキリ見えない程だ。人の腰ほどの高さ迄奥は嵩上げされているようだ。停電という設定も考えられはする。つまりラスト部分の伏線だ。ところで、嵩上げされた奥中央には監獄があり、拘禁衣を着せられた囚人は、更に念入りに口に管を咥えさせられた状態のまま口周りをテーピングされているのは、自殺防止という設定だろう。この有様だけで凶悪犯であること、囚人に観察できる身体的ダメージをなるべく与えず而も法的手順を遵守しているという法執行側のアリバイ創りと一応はその公式発表に逆らわない「リアリティー」の描き方が見える。
手前下手側壁は、更に下手へ延びる踊り場になっており、正面壁の下手コーナー前には、囚人監視用のモニターが載った机と監視者の座る椅子、ちょっと離れた中程に会議用テーブル程のテーブルが設えられ看守らの用いる囚人監視ノート、事務帳等がテーブル奥にキチンと整理されている他、椅子が人数分ある。このテーブルの更に上手の正面壁には看守の帽子が掛けられるようにフックが4つ付いており、その更に上手に留置場へ続く踊り場への階段がある。出捌けは上手袖及び、板客席側の下手。場転で留置場が取り去られると間仕切りになっていた部分が絞首台下部に変じ、最深部の絞首台へ上がる階段へ続く階段も設置される。舞台美術の大枠はこんな感じだ。
 ところで、科白は殆ど無い。僅かにラストで(恐らく数百字程度がある程度明瞭に)語られる他は、ひそひそ声で若干囁かれるだけなので殆どの客には聞こえない。その分、通常の科白劇より遥かに難易度が高い舞台である。実際、上演時間一杯に緊張感を持続し得た各俳優の演技力、想像力と表現力の高さは褒めても褒め過ぎということにはなるまい。ユニークな作りという点でも、役者陣の力量という点でも、また演出の素晴らしさでも高い評価が与えられるべき作品である。ただ、作り方が知的である分、没入は出来なかった。知的な遊びは存分にできるが。一例を挙げておくと、先読みを極力させぬ作りになっているということだ。基本的にまあまあ、深読みできる観客が現在を過不足なく追えるということになろうか。全体として、これだけ濃密な舞台を作り上げた作家、演出家、役者、照明や音響スタッフ、何れの力も並大抵ではない。

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