うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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タバコの害について/たばこのがいについて

タバコの害について/たばこのがいについて

劇団夢現舎

新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)

2018/04/20 (金) ~ 2018/04/24 (火)公演終了

満足度★★★★

会場ではアントン・パヴロヴィッチ・チェーホフの名にちなんで「行灯パブろびっち」を開店。
受付でドリンクを注文し、小さなおつまみと共に頂きながら開演を待つ。
休憩をはさんで30分のオリジナル作品と60分の「タバコの害について」の二本立て構成。
“キャリアウーマンの妻と生活力のない偏食男”の攻防が始まる。

ネタバレBOX

2016年の公演ではチェーホフの人物像を楽しく見せてくれた後、本編となった。
今回はまず夫妻の日頃のやり取りが再現される。
客席近くに舟形の白い物体、「パブろびっち」の行灯がいくつか吊るされている。

好き嫌いの多いチェーホフと、健康のために野菜を摂らせようとする妻の闘い。
人参・ブロッコリー・ピーマン・ゴボウ、それにキノコが大嫌いなチェーホフに
妻は毎日それらの入ったメニューを出し続ける。
そして次第に若かりし頃のチェーホフと現在の情けない有様を比較して嘆く。
白いバスタブで飼っているピラニアの野生を、夫はとうに喪っている。
そして学校を経営するやり手の妻に命じられて“社会に有益な講演”をすることになった彼は
「タバコの害について」と題して語り始めるのだが・・・。

30年間の結婚生活を嘆く“結婚ぶっちゃけ話”に終始する講演、
これに説得力を持たせる前半の“夫婦の日常”という構成が面白い。
悪妻VS大作家、に見えるが、30年も一緒にいて7人の娘がいるという現実に
“それなりに幸せな男のぼやき”ともとれる。

久しぶりに観る益田さんは以前よりさらに緩急自在、
この誇張された初老の男の嘆きを余裕をもって演じているように見える。
金にならない作品を書き続けていられるのはこの妻のおかげ、
野菜を食べなさいと口うるさい妻の言い分ももっともなことで、
子どもの喧嘩みたいな夫婦のやり取りも愛情の裏返しと見ることが出来る。

講演会場に怖ろし気な妻の人形を持ち込んだのには笑った。
逃げ出したいんです、何もかも放り出して逃げ出したいんです・・・というのは
夫に限らず、妻も密かに夢見る普遍的な野生の夢ということか。

妻役の三輪さん、ろびっち店主の高橋さん、何だかとても洗練された印象。
久しぶりの夢現舎はおもてなしも行き届いていて、
この世界観はやっぱり特別な劇団だ。

R老人の終末の御予定

R老人の終末の御予定

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターKASSAI(東京都)

2018/04/18 (水) ~ 2018/04/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

人間が滅びた後、ロボットは人間に限りなく近づいていくのか。
“ロボットのアダムとイブ”となったカップルのいきさつが秀逸。
それにしても被り物もここまで来れば怖いものなし。
私が好きなのはブレーカーです。

ネタバレBOX

冒頭から同じ衣装の老人二人が登場。
死期が近い天才科学者辰郎(加藤慎吾)と、彼が作ったロボットメカ辰郎(NPO法人)である。
残される妻八重子(小岩崎小恵)を思ってのことだった。
そしてメカ辰郎は、順調にその役目を果たして行く。

辰郎と八重子の時代からおよそ千年後、地球はロボットと家電の世界になっている。
ヨドバシファミリーのエレキギター・グレコ(野口オリジナル)と
ビックファミリーのポット・ハミー(平山空)は、
まさにロミオとジュリエットのような恋人同士だが、両家の争いはついに全面戦争に突入。
二人の恋の逃避行のさなか、グレコは古いチップを見つけ装着してみる。
それは千年前、最初のロボットを創った人間の記憶が読み込まれたチップだった。
両家の戦争は、そしてグレコは傷ついたハミーを救うことが出来るのか…。

相変わらずバカバカしい被り物軍団が、キラリと光る真実をついている素晴らしさ。
それにしても良く出来た衣装(?)だなあ、ポットとか洗濯機とかダイソンとか。
衣装が大きく特殊なので、誰も落とした小物を屈んで拾うことができず、
とうとう「えーい!」と足で袖へ蹴り込んでしまうのは、演出かなのかアクシデントなのか(笑)

当日パンフで配役を見ないと誰が演じているのかわからないほど顔を塗っているが
エレキのグレコ役・野口オリジナルさんが、いつもの華奢なイメージを覆す骨太な存在感。
声も力強く新たな一面を見せつけて強烈な印象を残す。

相変わらず達者な老けぶりを見せるNPO法人さん、
楽しんで演じている余裕が伝わって来る高橋ゆきさん、
共に安定感があり、安心して観ていられる。

荒唐無稽な設定と見た目の可笑しさの中に鋭く問いかけて来るのは
「ロボットの進化とは、限りなく人間に近づくことなのか?」という疑問だ。
限りなく人間に近づくことは共存を困難にすることを意味し、
その結果人間はロボットに滅ぼされてしまったのだ。

ロボットは互いを攻撃しないという設定を超えて、
メカ辰郎は古くなって故障した妻、ロボット八重子の電源を引き抜く。
そして新婚旅行で行った熱海の海岸で、自らの電源をも引き抜いて息絶える。
安楽死や自殺という本来設定に無い行為に及んだ時点で、
ロボットは限りなく人間に近づき、もはやロボットではなくなっている。
こういう場面では横尾下下さんの何気ない台詞が、実に深い意味を持つ。
ロボットにも死後の世界があり、夫婦は又会える、と告げる場面がいい。
最古のロボットリオ(加藤慎吾)の孤独な最期も忘れられない。

吹原幸太さんは、いくつもの層を掘り当てながら観る楽しみを与えてくれる。
それはそのまま作者の洞察の深さと、鋭い観察眼を表している。
ホント、人は見かけによらないなあといつも拍手しながら思う。
吹原さん、ありがとう。
青春超特急

青春超特急

20歳の国

サンモールスタジオ(東京都)

2018/04/19 (木) ~ 2018/04/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

以前、国王の竜史さんが客演した他劇団の舞台を観て、とても興味を惹かれた。
無駄のない台詞と構成の上手さ、そして熱量の凄さに圧倒された。
“青春を懐かしんで”演じているのではない。
“青春真っ只中感”満載で、全員が突っ走っている。
オバサンはその超特急に同乗し、ラスト、フラカンの「深夜高速」で号泣したのだった。

ネタバレBOX

スチールの机と椅子が並ぶさっぱりした舞台。
オブジェのように椅子が積み重ねられた一角がゲートのようになっている。
この机と椅子を巧みに移動し、重ねることで場面が変わる。

卒業式当日、3年間の思い出をたどる超特急に乗って時間を遡る構成。
文化祭や部活、恋、進路などに燃えつつ揺れるいくつかのカップル、
青春ど真ん中を行く彼らの姿が大人目線でなく、臨場感たっぷりに描かれる。

斉藤マッチュさんの“登場しただけでキャラが見える”たたずまいが素晴らしい。
他の劇団で何度も観ていたが、身体能力の高さを発揮するダンスや
ハスに構えていながら、いい子ぶらずに母親思いをちらりと見せるのもいい。
ラスト、千里(山脇唯)との電話のやりとりに温かさと清潔感があって大好きなシーン。

鉄男(岡野康弘)のキャラが秀逸。
鉄道をただの乗り物として眺めていた物静かな彼が
「人がいて初めて鉄道は生きる、と気づいたんだ」と語るところ。
恋やたばこ、ゲーセンやカラオケには縁の薄い彼が
ひとりで哲学して、孤独のうちに成長していく様に感動を覚える。
こんな全力疾走もあるのだと気づかされる。
発車を告げる駅員のアナウンスとのギャップも素晴らしい。

野球部の丸山(古木将也)の最後の語り、泣かせるなあ。
こんな風に一生懸命になる高校生がどれほどいるかわからないが
なんて純粋な気持ちなんだろうと思う。

説明的台詞無しに豊かなキャラを立ち上げる竜史さんのセンスが光る。
この青臭さ、要領の悪さ、全てが愛おしく輝いている。
20歳の国に行かなければ絶対観ることのできない景色を観た思いがする。
フラカンの「深夜高速」をありがとう!
もうそれだけで泣けてもうた。


僕をみつけて/生きている

僕をみつけて/生きている

かわいいコンビニ店員 飯田さん

OFF OFFシアター(東京都)

2018/04/04 (水) ~ 2018/04/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

「僕を見つけて/生きている」のうち「生きている」を観る。
2つ目の「進軍、ブラック社畜兵」が圧巻の面白さ。
怒涛の台詞とスピーディーな展開が素晴らしい。
“ドナドナ状態”にあるひとの哀しみと開き直りが三様に描かれる作品集。

ネタバレBOX

「俺とお前の生きる道」
妻に内緒で会社を辞めた夫とそれを知ってキレる妻の会話。
不利な立場の夫が結果的に妻を味方につける辺り、“持って行き方”が上手い。
それをビミョーで繊細な間で魅せる。
冒頭もう少しテンポを上げたら、もっと早くから引き込まれたかもしれない。
短編は早い段階でストーリーが見えた方が面白い。

「進軍、ブラック社畜兵」
ブラック企業の営業マン2人が、過酷なノルマや労働条件の下でもがく姿を描く。
対照的なホワイト企業のエリート社員も、実は組織の陰湿なやり方に取り込まれている。
支配する者とされる者、立場の強い者と弱い者、様々な力関係が浮かび上がる構造が秀逸。
弱い者同士、一度は団結して「辞めてやる!」と決意するも、
結局脱落も許されない運命が皮肉でもあり、哀しく愛おしい。
熱い台詞の応酬と、リアルな営業マンぶりが素晴らしい。
辻響平さん、熱いっすね!

「Gの家」
愛する飼い主から捨てられたペットたちの棲む家。
飼い主たちの経済状況や価値観に翻弄されるペットたちの心情が
細やかに描かれていて切ないし、何といっても彼らがキュートなのだ。
片桐はづきさんのぷっくりしたシルエットが最高に可愛い。
被り物の楽しさ満載。

かわいいコンビニ店員飯田さんってどんなネーミングだと不思議だったが、
当日パンフを見て素朴な優しい気持ちを大切にしているんだなあ、と思った。
それは作品にも反映されているような気がする。
ブラック社畜の土橋さんの潔癖なところや、Gのピュアなところ、
人の弱さを肯定し、受け容れながら前へ進むところ。
人生はドナドナだけど、明日の朝は顔を上げて歩こう、という気持ちにさせてくれる。







『椿姫』『分身』

『椿姫』『分身』

カンパニーデラシネラ

世田谷パブリックシアター(東京都)

2018/03/16 (金) ~ 2018/03/21 (水)公演終了

満足度★★★★

「椿姫」
流れるように舞台を滑る椅子とテーブル、それを自在に操る役者たちの動きに目を瞠った。
感情を細やかに伝える身体表現はとても素晴らしく、時折挟まれる台詞も効果的。
その反面あらすじを知らないとストーリーを追うことは難しいと感じた。
どちらを主にするか、ということなのだろう。

ネタバレBOX

客入れの時からタンゴの音楽が流れ、ドラマチックな舞台を予想させる。
中央に椅子が置いてあるのがほんのり判る程度の暗い舞台。

冒頭、なめらかに椅子を滑らせて、男女の駆け引きを見せるダンスが秀逸。
不安定でしたたかで、でも拒絶し切れない心情が鮮やかに揺れて
一気に椿姫の世界に惹き込まれる。

オペラの「椿姫」のあらすじは知っていたが、それでもオークションの場面などは
あまりよくわからなかった。
知っていればより楽しく深く観ることが出来るだろうけれど
安易な解りやすさは敢えて削り、濃い感情だけを抽出して見せたような感じ。
この潔いバランスが新鮮だった。
このBARを教会だと思ってる(千秋楽満員御礼、終幕しました!ご感想お待ちしております)

このBARを教会だと思ってる(千秋楽満員御礼、終幕しました!ご感想お待ちしております)

MU

駅前劇場(東京都)

2018/02/21 (水) ~ 2018/02/26 (月)公演終了

満足度★★★★

4つの章から成る長編、とのことだがまさに長編。
サイコロを四方八方から見るように、ひとつの事象を多面的に見る視点が効いている。
一人ひとり深堀りすれば、登場人物の誰もがスピンオフの主役になりそう。
ガールズバーの面々がきゃあきゃあする、よくある場面でもシラケないのは
キャラの濃さに台詞がちゃんとついて行くから。
その意味で隙の無い配役が素晴らしい。
何でも屋の西川康太郎さん、いいやつだな、惚れてまうがな!


ネタバレBOX

舞台中央、横に長いカウンター、下手にはソファとテーブル
正面奥には本棚が壁状に置かれ、店の中と外を隔てている。
さっぱりしたモノクロの舞台。

第1章 
浮気を疑って身辺調査を依頼する一方で、派手な結婚式を挙げたいから金を貸してほしい、
と姉に頼み込む妹。
不安を払しょくしようと無理矢理理想の結婚式をしたがる心理が上手い。
姉(古市みみ)の男前なキャラが魅力的。
「無敵だよ」の一言が秀逸。これ大ウケだった。

第2章
帰宅拒否男4人組の、バーのアイドルみかちゃんをめぐる攻防。
現実逃避と癒しへの渇望、特別扱いしてほしいという甘え満載の男たちが滑稽。

第3章
さざなみの上にあるガールズバーの面々がやって来て
カウンターでそれぞれの悩みを打ち明ける。
みんな厳しい現実を背負って、ガールズバーで働いている。
そして店での「現実じゃない方」が楽しくなってきた、と語り合う。
彼女たちのリアルと、対極にある嬌声、そのどちらもが彼女たちの人生だ。
決して饒舌ではないのに、一人ひとりの人生が立ち上がってくるのは
無駄の無い台詞と役者陣の力量。
とてもいいシーンだった。

第4章
思いがけない展開で、さざなみとガールズバーの接点が明らかになる。
MUらしいエンディングは、もやもやする反面考えさせる。

しかし「何でも屋」の男、いいキャラだ。
彼の方がよほど人を救う気がする。
「明るい謙虚さ」を持った男が好きなので大変楽しかった。
西川康太郎さん、他の舞台も観たいと思った。

BARと教会はやはり似ているね。
どちらも秘密を話して楽になりたい人間が集まってくるところ。
他人の秘密を聴いて短いコメントをするしかない人間が待っているところ。
そして、何も変わらないけれどちょっと一休みするところ。




【東京公演】三の糸

【東京公演】三の糸

ゴツプロ!

本多劇場(東京都)

2018/01/10 (水) ~ 2018/01/14 (日)公演終了

満足度★★★★

最初のコメディタッチはイマイチすんなり入ってこなかったが
その後怒涛の展開で一気に惹き込む力はさすが。
連綿と受け継がれる芸道の厳しさと、翻弄される個人の葛藤が描かれる。
後半の浜谷さん、塚原さんのキャラの切り替えが鮮やかで目を見張った。

ネタバレBOX

舞台中央に1本の古木が天井までそびえている。
山深いこの場所は、津軽三味線の万沢流初代が幼くして捨てられていた場所。
二人の兄弟は盗みをして生きていたが、三味線と出会って新しい道を歩み始めた。
以来、家元を継いだ者はみな、この場所へ報告に来る習わしとなっている。
だが今の七代目だけは、ずいぶんと遅れて今日ようやくここへやって来たのだった。
やがて奇妙な男たちが現れる・・・。

言わばコメディとシリアスを合わせ持つ骨太ファンタジーと言えようか。
若干冒頭のコメディ部分が長く感じられるのは、人間関係が見えていないせいか。
やがて七代目との関係が明らかになり、それぞれの家元継承事情が語られると
物語は一気に緊張感を増して面白くなる。

それにしても後半、塚原大助さんのキャラの切り替えの見事さ。
また浜谷康幸さんの驚愕の事実を受け止める台詞の切なさ。
こういう人がいるからゴツプロ!はただの“男劇団”ではないのだ。

ラストの三味線は大変な努力の跡がうかがえる素晴らしい演奏だったが
やはりここはプロの小山会にも「三の糸」の音色を響かせて欲しかった気がする。
流派と家元の重みを印象付けるためにも。

ハイサイせば

ハイサイせば

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/01/06 (土) ~ 2018/01/08 (月)公演終了

満足度★★★★★

青森県出身の友人ともう一度観劇。
社会性とエンターテイメントを、当然の如く常に両立させ、
演劇の力をいつも再認識させてくれる。

ネタバレBOX

この日はアフタートークもあったので、この企画の“そもそも話”が聞けた。
沖縄の当山氏が、2015年に小劇場の運営を学ぶため
全国を視察して回った中に「渡辺源四郎商店」も含まれていた。
その際「いつか一緒に」という話をしたことが実現したのだという。
沖縄の歴史という、まずゆるぎない事実ありきからスタートする制作、
なべげんの「伝えたいことは演劇を通して伝える」姿勢は
制約であると同時に使命感でもあるのではないか。

生き生きとした闊達さ、哀愁を帯びたトーンなど
ネイティブの方言でしか表現できない世界が見事に合体した作品だった。
ハイサイせば

ハイサイせば

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/01/06 (土) ~ 2018/01/08 (月)公演終了

満足度★★★★★

現実の重みと軽妙な笑い、その絶妙なバランスが素晴らしい。
沖縄と青森という、接点が薄いと思われがちな2つの地域を
卓越した発想力と若干の力技で見事につないで魅せる。
まさに今、現代にもう一度起ころうとしていることを見る思いがした。

ネタバレBOX

舞台中央、横長に置かれたテーブルとその前に4脚の椅子は
全て白い布で覆われ、上から紐のようなものでぐるぐる縛られている。

ここは海軍省内部、理由も告げられないまま連れて来られた4人、
青森出身の2人と沖縄出身の2人は、敵に傍受されないよう
方言による電話通信に協力するよう命令される。
が、その目的にはある秘密が隠されていた…。

津軽弁と琉球語という強烈な個性を持つ言語の“わからなさ”がとにかくおかしい。
特に今回は琉球語の解らなさ加減が突出しており、津軽弁が聞き取りやすかったほど。
だがその琉球語の解らなさのおかげで、人々は何と理不尽な扱いを受けたことか。
“わけのわからない言葉を使う、スパイのような怪しいやつ”というレッテルを貼られ、
軍隊でも他は県ごとに配属されたのに、沖縄だけはバラバラに配属されたという。
沖縄は今も昔も屈辱的な、不当な扱いを強いられている。

三上晴佳さんの、沖縄の人とことばに対して敬意を払う態度が素晴らしい。
わからなさの先にある、ことばとしての力に尊敬の念を抱いていることが伝わって来る。
「田舎者めが」「ごく潰しか」という海軍少佐のつぶやきは、
そのまま政府の姿勢を表している。

同時多発でまくしたてられる二つの言語の解らなさに笑っているうち
それを冷やかに上から見ている“政府のやり方”に気付く。
このコントラストが鮮やかで素晴らしい。

私は畑澤氏の“教育者としての視点”が好きだ。
「何にも知らずにぼーっとしている日本人」に、常に何かを突き付けてくる。
まず知ることが全ての始まりであることを思い出させてくれる。
「方言札」をはじめ、今回も初めて知ることが多かった。
「遠くで起こることを身近に」というメッセージを発信する
渡辺源四郎商店の活動をこれからも追いかけたい。





室温 ~夜の音楽~

室温 ~夜の音楽~

天幕旅団

【閉館】SPACE 梟門(東京都)

2017/12/12 (火) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/12/14 (木) 15:00

素晴らしく良く出来た戯曲、これを選び演出した渡辺さんのセンス、激情ほとばしる台詞を誰一人噛まない役者陣、と久しぶりに観ていて熱くなった。奇妙なオープニング、「たま」のシュールな乾いた歌詞が異様な世界に誘う。渡辺実希さんの罵倒するシーン、圧巻の迫力!

ネタバレBOX

舞台中央に大きなダイニングテーブル、部屋の隅には猫足の電話台に黒電話。
古い洋館に住む心霊研究家の海老沢(凪沢渋次)と娘のキオリ(渡辺実希)。
だがキオリの双子の姉妹サオリの命日の日、この家には何人もの来客があった。
毎日のように入り浸る警官(佐々木豊)、
気分が悪いから休ませてくれと上がり込んだ図々しいタクシー運転手(竹田航)、
熱心な海老沢のファンだという女性(もなみのりこ)、
そしてサオリを死に追いやった4人の少年のうちのひとり間宮(渡辺望)が
10年の刑を終えて出所し、海老沢家を訪れる…。

実はこれら登場人物は皆、誰かを殺した、あるいは殺そうとしている。
前半の滑らかでない人間関係の原因は、後半一気に明らかにされ、
驚愕の事実が明かされる。
誰かを殺したいと思う理由はそれぞれだが、“憎悪”という点で一致している。
憎悪の理由が明かされるプロセスがスリリングでたまらない。
これは人間を犯罪へと突き動かす最も強い原動力である“憎悪”のたぎる芝居である。
たぎる芝居だから皆よく吠えるのだが、吠え方がまた良かった。
切羽詰まった、あるいは追いつめられた、あるいは他の手段を思いつかないほどの
“憎悪”を懐に持つ登場人物たちの陰影が素晴らしい。

渡辺実希さん、ここ何作かで暗い感情をむき出しにする役に磨きがかかった感じ。
最初に間宮を罵倒するシーンは圧巻の迫力。
佐々木豊さん、笑いを誘う前半のコミカルなイメージと、
後半一転して狂気を爆発させるシーンとのギャップが素晴らしい。
渡辺望さん、元不良少年だが、ピュアな部分も持ち合わせている間宮を演じた。
犯人にもかかわらず思わず好感を抱いてしまうのは、
犯罪者でありながら一番普通の感覚の持ち主に見えることのほかに、
渡辺さんの素の品の良さも理由のひとつだろうか。
抽象的な犯行理由が、あとから説得力を持ってじわりとにじみ出して来る。
加藤晃子さん、以前ほどの少年っぽさはないが、浮遊する不思議な存在感がある。

もなみのりこさん、偽名を使って海老沢に近づく女の表裏が上手い。
竹田航さん、観ている方がイラつくほどのうざいキャラ。
ハイテンションで隙なく演じていて巧み。

ケラさんは、こんなダークな本も書くんですね。
軽い笑いを入れながらずどんと落とされた感じでとても見応えがあった。
天幕旅団の底力を見た思いがする。


高速を降りて、国道を2キロ走った、モミの木に囲まれたカフェレストラン

高速を降りて、国道を2キロ走った、モミの木に囲まれたカフェレストラン

初級教室

OFF OFFシアター(東京都)

2017/11/29 (水) ~ 2017/12/03 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/12/03 (日) 17:00

それを奇跡と信じるか、偶然の重なりと受け取るかによって、真実の色合いは変わる。
役者さんは隙なく熱演、悪人も出てこない、美しいエピソード、
だがちょっと物足りなさを感じるのは、人々を取り巻く現実的な背景が見えづらいせいか?

ネタバレBOX

高速道路が出来たため、経営難に陥っている森の中のカフェレストラン。
オーナー夫妻から店を任されている青年信之助(石井俊史)と、
オーナーの親戚で、知的障害を持つ聖美(川口果恋)が日々切り盛りしている。

オーナー夫妻には、交通事故で2人の子どもを死なせたという苦しい過去がある。
実は聖美は親戚ではなく、オーナーが森の中に座っていた少女を連れ帰って来たのだった。
あまりにも死んだ娘にそっくりだったから。
そしてもう1人、オーナーが見出した若手バンドのメンバーのひとりも、
死んだ息子にそっくりだった…。

森とレストランの一帯を買い取って再開発しようとする堀田(奥村渉)の
真意がつかみづらかったのが残念。
オーナーの一族と昔選挙で争ったことがあるらしいが
どんな思いでここへ戻って来たのかがあっさりしすぎて伝わってこない。

聖美が本当に奇跡を起こすなら、オーナーの病気が治るはずだが
そこは単なるファンタジーではない作品らしく、一方的なハッピーエンドに終わっていない。
人生はハッピーもアンハッピーも同じくらいあるのだというバランスが良かった。








アラタ~ALATA~

アラタ~ALATA~

スタジオアルタ

オルタナティブシアター(東京都)

2017/07/07 (金) ~ 2017/12/23 (土)公演終了

満足度★★★

新しい劇場のワクワク感もあって気分よく開演を待った。
パントマイムと各国語による注意事項が写しだされる前説など、
外国人客を意識しているらしい。
ノンバーバルということで、チャンバラとダンスに期待していたが
期待にたがわぬ迫力ある殺陣とキレのあるダンスが素晴らしかった。

ネタバレBOX

ただセットの無い舞台で、映像によって場面を示すのはよいとしても、
途中アニメのような巨人が映し出されて人間を踏みつけようと向かってくるシーンには
ちょっと興ざめ。
身体能力のあるパフォーマーのダンスがどれも似たパターンになるのも残念。
殺陣とダンスでメッセージを伝えるには限界があると感じざるを得ない。
早乙女さんは声も良いし、主役からアンサンブルまで
身体的にも鍛えられた役者さんが出ているのに
台詞がひと声ふた声というのが物足りなく感じられる。
もう少し効果的に台詞を入れたり、ダンスのバリエーションをつけたりしたら
演劇ファンもつくだろうと思った。
Green Peace -グリーンピース-

Green Peace -グリーンピース-

劇団マリーシア兄弟

Geki地下Liberty(東京都)

2017/11/24 (金) ~ 2017/11/26 (日)公演終了

満足度★★★★

今回笑いの割合は高めだが、何気に“めっちゃ深い事”を言うのがマリーシア流。
コンビニの休憩室を舞台に繰り広げられる夢と挫折とFA宣言(!)
グリーンピースの名前の由来が、絆を感じさせて心温まる。
全体の構成と、ミドリのキャラがとても良い。
お笑いの脚本が良く出来ていてびっくりした。

ネタバレBOX

倉庫を改造したコンビニの休憩室に、廃棄になる弁当をもらいに従業員がやって来る。
お笑いコンビのミドリ(大浦力)とカズヤ(森優太)、
ミュージシャンを目指してバンドを組んでいるヒロ(狩野健太郎)とシゲオ(紀平悠樹)。
その中でカズヤは、お笑いを辞めたいとミドリに言い出せずに悩んでいた。
役者志望のミドリをお笑いに誘ったのはカズヤだったのに・・・。

冒頭、ネタ合わせをするコンビの漫才で始まるのがとても良い。
リアルを追及すると時として緩くなりがちなオープニングが、最初からぐっと集中させる。
いつもながらキャラのバランスが面白い。
ねずみ講まがいの商売を「マルチビジネス」と言い張って勧誘する“空気読まない”シゲオ。
あまりミュージシャンらしくないが、意外とまっとうな意見を持つヒロ。
夢を追うには自信がなく、辞めたいと言い出せずに今日まで来た気弱なカズヤ。
そして突然コンビ解散を突き付けられても淡々と受け容れようとするミドリ。

キモは相方の選択を応援しようとするミドリの心情と、その背景にある過去だが、
次第に明らかになるその事情がしんみりさせて説得力がある。
冒頭のネタをラストでもう一度繰り返す構成が成功している。
最初に軽い笑いで観たシーンを、全く違った思い入れで観ることになる。

ラスト二度目のネタ披露で、観客がカズヤと一緒に泣きたくなるには、
どこかでひとつ、ドラマチックな展開が必要かなと思う。
例えばカギを握るミドリのエピソードを、友だちの口から言わせるのではなく
どれかをミドリ本人から効果的に語らせる、直接カズヤに伝える、
淡々と、少ない台詞で父親への思いを語ったら、切なさは倍増する気がする。

真面目な部分で少し台詞を絞ると、エピソードも心情も印象が強く残ると思う。
校長先生のお話にはそれが上手く凝縮されていて効果的だ。
ミドリの達観したようなキャラがとても魅力的なので、
素の部分と、芸人としてのテンションの高さのギャップがもっと出せれば
二度目のネタ披露は切なくて観ている方も泣きたくなるだろう。
二人の最後の舞台、まさに“始まりと終わりと卒業”がそこにあるから。

グランパと赤い塔

グランパと赤い塔

青☆組

吉祥寺シアター(東京都)

2017/11/18 (土) ~ 2017/11/27 (月)公演終了

満足度★★★★

昭和がこんなにも懐かしく感じられるのはなぜだろう。
ただの“あの頃はよかった”的なノスタルジーではない。
“ものづくり”の精神や、他者を敬う気持ちなど、
現代の日本人が忘れてしまった価値観が息づいているからに他ならない。
吉田小夏さんは“今となっては古風な価値観”を登場人物に体現させるのが抜群に上手い。
たぶん人の「品性」というものをとても大切にされているからだと思う。


ネタバレBOX

昭和44年7月、これから取り壊されようとしている古い家に家族が集まって来る。
中学生のともえ(今泉舞)はグランパからもらった望遠鏡をのぞいて懐かしむ。
その様子を今は亡きグランパ、祖母、鼓太爺が見守っている。
想いは東京タワーがまだ建設中だったころ、昭和33年へとさかのぼっていく…。

戦前から続く工業所を営む一家を舞台にした群像劇。
女中・和子役の大西玲子さんが、出入りする大勢の人々をまとめるような
どっしりとした安定感で素晴らしい。
主に良く仕え日々を切り盛りする女中に相応しいたたずまいが作品全体の要のよう。

理想に燃えて戦後復興を支える事業に取り組む夫を、妻として支える
祖母役の福寿奈央さんがまた凛として実に良いキャラ。
出来過ぎでなく、酒が入ると“失くしたものの話をしたがる”一面も持ち
立体的な人物造形が魅力的。
妻も夫もそれぞれの立場から若い人達を指導し、育てる気風が感じられ
そういう自覚があの頃の日本を創っていたのだと感じさせる。

戦地から戻った息子とその妻のぎくしゃくした関係や
新人女中と技術者の恋なども、復興一色の社会とはいえ
戦争の傷跡が色濃く残っていた時代の影の部分を感じさせる。

小瀧万梨子さんの艶やかさがひときわ鮮やかで、強烈な印象を残す。
派手な服装とは裏腹に、従軍看護婦として満州へ行った経験があり、
男女問わずひとの心をほどくような包容力を持つ女。
タンゴを踊るところがとても素敵だった。

若干「星の結び目」を思い起こさせる既視感があったかな。
冒頭でボロ泣きしたあの作品が強烈だったのでつい比較してしまった。

今の時代、あんな風に互いを高め合いながら働く人々がどれほどいるだろうか。
人も社会も、多くを持たないけれどちゃんと誰かが見ていてくれていた時代。
東京タワーは、その象徴として屹立している。










墓掘り人と無駄骨

墓掘り人と無駄骨

MCR

ザ・スズナリ(東京都)

2017/11/08 (水) ~ 2017/11/13 (月)公演終了

満足度★★★★

初日の硬さが若干あるものの、飛び道具の劇的効果もあって大変楽しい。
設定はざっくりしているが、実はなかなか緻密な構造で、このバランスが好き。
恋ってつまりはこういうものなんだなと思わせるピュアなところが泣かせる.

ネタバレBOX

良くない輩がたむろする町の一角。
殺し屋やホームレス(本井博之)、裏社会を相手にする医者(澤唯)が根城にしている。
彼氏に振られた女佐藤(佐藤有里子)と殺し屋の川島(川島潤哉)は運命的な出会いをする。
そして佐藤は川島に、元カレ殺しを依頼する。
一方5年前に何者かに両親を殺された靖明(堀靖明)は
友人の志賀(志賀聖子)から怪しい霊媒師(伊達香苗)を紹介される。
靖明の両親を死に追いやったのは誰なのか?
霊媒師は少しずつ真相に近づいて行く…。

二つの時空が交互に語られる構成が上手い。
何といっても伊達香苗さんの迫力ボディがにっかつロマンポルノのよう!
(にっかつ観たことないけど、めっちゃ誉めてるつもり)
中盤からはそのアンニュイな台詞と手の動きがぴったり合って
終盤の滑り台に至ってはもはや演技を超えた表現と言って良いほど素晴らしい。

殺し屋を演じる川島さんのフツーな感じが効果的で、
“フツーでない職業が日常になっている男”が浮き彫りになる。
3人分の新しい戸籍を渡して「目玉頂戴ね」とほほ笑むちっちゃいボス(後藤飛鳥)と、
淡々とそれに応える殺し屋のやり取りがそれぞれプロっぽくてよかった。
殺し屋が“痛みを感じない体質”という不幸な設定が、ここではほっとさせる。
闇医者の澤が平凡なOL佐藤と裏社会の間でバランスの良いキャラを発揮。
澤さんの口跡の良さと常識的な発言でリアルな存在感を見せる。

櫻井さんの作品としては珍しく希望の光が差し込むラストだが
そのための代償があまりに大きいところが、やはりこの作者らしい。

記憶をたどる旅のプロセスで、靖明と志賀の恋もまた
両親同様不器用ながら、発展していく兆しを見せたところが初々しくてよかった。
つまり“痛みを感じない男の痛みを伴う純愛ストーリー”なんだな。
改めて川島さん、堀さん、澤さんと櫻井作品との相性の良さを感じた。


ハイツブリが飛ぶのを

ハイツブリが飛ぶのを

iaku

こまばアゴラ劇場(東京都)

2017/10/19 (木) ~ 2017/10/24 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/10/20 (金)

本当は何が起こったのか、謎めいた冒頭のシーンが印象的で、
ミステリアスな展開に最後まで引っ張られる。
この緊張感と、とぼけたやり取りのギャップが可笑しい。
若者の天然傍若無人ぶりに飄々と対する関西弁のお人よしぶり。
衝撃のラストまで、演じる役者さんの巧さが光る。

ネタバレBOX

激しい嵐の夜、稲妻に浮かび上がるのはスコップを片手に仁王立ちの女性…。
「火サス」の犯罪シーンのような幕開けにちょっと驚く。
そこへ登場した男に、彼女は「アキラ!」と呼びかける。
元々この避難所には9人が暮らしていたが、火山の噴火により8人が死んでしまい、
生き残った彼女は8人を埋葬、一人で外出していて難を逃れた夫の帰りを待っている。
「アキラ」と呼ばれた男は、実は夫ではなく、ここに住んでいた妹を探しに来たのだった。
記憶を失くして夫の顔も忘れてしまった女は、彼を「アキラ」だと思い込んでいる。
似顔絵を描きながら避難所を渡り歩く「夜風っす」と名乗る男、
出先で噴火に遭い、妻も死んだと思い込んで一か月後に帰宅した、女の夫も加わって
4人の奇妙な共同生活が始まる…。

明るく笑いながらためらいなく人の心に踏み込む“夜風っす”(佐藤和駿)が
結果的に“偽アキラ”や“本物アキラ”の心情を掻き出して語らせる、
というスタイルが面白く成功している。
オバサンとしては“夜風っす”のキャラはどうも心情的に疲れるけれど、それは
演じる佐藤さんが“イマドキの若者が自然にやらかしてる”感じを上手く出しているから。

夫と思い込まれた男(緒方晋)が、追いつめられて不安定な女を
突き放すこともできず寄り添うところがとても良かった。
柔らかな関西弁で、“夜風っす”に反発しながらも、彼の質問には率直に応えていく。
その素直さが彼の誠実な行動の根幹にある。

本物のアキラ(平林之英)はイマイチ気が弱くて
妻の生死を確かめる勇気もなく、1か月も経ってから避難所に戻って来るような男だ。
かつて同じ避難所にいた別の女性(それが偽アキラの妹)と不倫したという
負い目もあってますます妻との距離をコントロールできない。
その気弱さから“偽アキラ”を強く追い出すこともできず、
そもそも妻に思い出してもらえないという存在感の薄さが露呈する。
夫の情けなくやるせない思いが台詞の行間に滲んでいた。

8人を埋葬するという壮絶な体験から記憶の一部が欠落したように見える女
キナツを演じた阪本麻紀さん、どこか“心ここにあらず”な浮遊感が良い。
本当に「埋葬した」だけなのか、何かあったんじゃないか、と思わせるものがあって
謎に奥行きを持たせる。

不自然なほどの白髪や、噴火前から避難所で暮らしていた、という設定に
この国の不安な未来が透けて見える。
それにしてもこの二人、これからどうなるのだろう。



囚人

囚人

Oi-SCALE

駅前劇場(東京都)

2017/09/27 (水) ~ 2017/10/02 (月)公演終了

満足度★★★★

フライヤーの“何かが起こる前の”緊張感溢れるビジュアルからして
もうすでに不穏なムードが漂っている。
あっと驚くラストの展開と、そもそもの設定に完全にやられた感じ。
期待通りのセンスの良い映像と、思いがけなくアナログな演出が同居する
林灰二ワールド。
村田充さんが圧倒的な存在感で魅せる。こういう芝居をする人だったのか。

ネタバレBOX

舞台には3枚の白い幕が吊るされ、中央の1枚は半円を描いている。
この半円がくるりと回転すると場面転換と出ハケがなされる仕組み。
複数のエピソードの登場人物の名前が、その幕に映し出されたりする。

舞台はとある病院の花壇がある中庭。
一日の大半をここで過ごす男、太郎(村田充)。
毎日太郎を見舞う友人、ハルキ(林灰二)。
そして太郎に“どのくらい死が近づいているか教えて欲しい”と訪れる人々。
本当は知りたくない“自分の寿命”を聞きにくる人々の、葛藤や家族関係が描かれる。

いわゆる人知を超えた能力を持つ男を取り巻く“死のエピソード”が綴られるのだが
途中、作・演出の林灰二さん自身の、素の語りが入るのがユニークな演出だ。
林さんの父親の「鳥を捕獲して鳴き声を競わせる趣味」のことを話したり
「僕は神様だから」役者に台詞を言わせ、自由に設定を考える…と語る。
そして「これも全部台詞です」と言って観客を混乱させる。

この「神」は最後に、驚愕の設定を明らかにして物語を終える。
林さんらしい、何気ない電話の会話で。
実年齢から想定する観客の思い込みを軽々と超え、
物語を最初から語り直すほどの力技で真実を提示する。

主演の村田充さんが“死の匂いを嗅ぎ取る男”を淡々と演じて圧倒的な存在感を見せる。
この長身長髪の謎めいた男を、徹底的してミステリアスにスタイリッシュに描くと思いきや
素の作者が「僕は何でもできるんですよ」なんて言った後で、驚きの事実を告げるものだから
観客は改めてこの芝居を冒頭から反芻する、「そうだったのか」と。
そして村田充という人の“年齢不詳”な演技を再評価する。

がん患者の男を演じた伊藤慶徳さん、その弟で聾唖の少年役の中尾至雄さんの
エピソード、ハラハラするような空気が生まれて強い印象を残した。

「自分の匂いに気が付かない?」と太郎に語りかけるハルキ、
何があっても決して狼狽しないハルキは、やはり「神」なのだろう。
相変わらず「神」は雄弁で、お見通しで、自由奔放であった。
疾走

疾走

aibook

駅前劇場(東京都)

2017/08/23 (水) ~ 2017/08/29 (火)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/08/28 (月)

キャラにドンピシャの役者陣が素晴らしい。
松本紀保さんのたおやかさが際立って美しい。
危うい人々から目が離せない1時間50分、
それだけにラスト不思議な爽快感が残る。

ネタバレBOX

浅いプールのような演技スペースを挟んで対面式の客席。
奥は地方都市のスナックの店内、反対側は福祉施設の屋上だ。
この二つの場所を行き来しながら物語は進んでいく。

スナックのママ可奈子(松本紀保)は、客のひとり柏木(瓜生和成)と不倫関係にある。
義父の介護施設で働く柏木は、どうやら贈賄に関る仕事をさせられている様子で
スタッフたちも不審な告発メールや噂に翻弄されている。
スタッフの中には“戸籍が無い”と噂される浅尾(塩野谷正幸)もいて
父親が疾走したという過去を持つ可奈子をそれとなく見守るようなそぶり。
そしてある日、ついに柏木は追いつめられて…。

理不尽な組織に都合よく使われ、犠牲になる人はいつの時代にもいるものだ。
冒頭から、そんな恐れを抱いて柏木を見つめる人々の苛立ちが爆発する。
妹はそもそも婿入りした兄が歯がゆくて心配で、ついつっかかってしまう。
はらはらしながら見守る可奈子、「大丈夫」を繰り返す柏木はまるで大丈夫に見えない。

失踪した可奈子の父と、“戸籍が無い”と噂される浅尾、
そして今まさに組織から都合よく使い捨てにされそうな柏木。
この3人が重なって過去・現在・未来、同じ悲劇の繰り返しが透けて見える。

この作品の力強いところは
人生は「疾走」、「疾走」するのは「生きるため」、死ぬくらいなら「失踪」しろ!
というメッセージだ。
やられっぱなしでたまるか、という窮鼠猫噛みの一撃が清々しい。
可奈子の、柏木の妹に対する叫びが象徴するように、
“さんざん見て見ぬ振りをしてきた人々”に、逃げた人間を責める資格などあるか、
という倫理が大きな説得力を持つ。

不器用な人々が吹き寄せられるように集まって来る店のママを演じた
松本紀保さんがたおやかで素晴らしい。
声にも仕草にも品がありすぎるが、水商売のしたたかさを持ち合わせるキャラが良い。

責任感と罪悪感にまみれた柏木を演じた瓜生和成さん、
冒頭から彼の重い疲労感が伝わる佇まいが秀逸で、「大丈夫」のリフレインが虚しく響く。

謎の多い浅尾役の塩野谷正幸さん、柏木に「まだ間に合う」と詰め寄るところに
説得力があり、それがまた彼の謎の過去を思わせて上手い。

「木枯し紋次郎」のテーマ曲が非常に効果的。
無頼で孤独な紋次郎の、だがその人生は絶望的ではない。
“捨てながらも生きている”感じが登場人物すべてに重なって沁みる。

人生は「疾走」、「疾走」するのは「生きるため」、死ぬくらいなら「失踪」しろ!
その強烈な開き直りが人を救う。
そこには、自殺などには無い、絶対的な希望があって観る者も救われる気がする。





「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」

「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」

椿組

花園神社(東京都)

2017/07/12 (水) ~ 2017/07/23 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/07/21 (金)

夏になるとやっぱり夜の野外劇が恋しくなる。
芝居本来のおおらかな力強さと、客席に向かってくる直球ストレートな表現。
夏の野外劇には骨太な人間臭さが似合う。
2017年の花園神社には、権力に翻弄され打ちのめされながらも
再び立ち上がる人間の素朴なたくましさが舞台いっぱいに繰り広げられた。

ネタバレBOX

昔山奥に俗世間から隔離されたような隠里があった。
人々は「外の世界には鬼がいる」という先祖代々のことばを信じ、ひっそりと暮らしている。
ところが掟を破って外の世界を覗いた若者が制裁を受けて逃げ出したのをきっかけに
それを追って出た数人が外の世界の情報をもたらし、
さらには世間知らずの彼らを利用しようと商人たちも乗り込んできて、
里の日常は一変する…。

信じて来た価値観が根底から崩れる不安、それでも新しい世界を知りたいという欲望、
人間の心が千々に乱れる様が描かれて生々しい。
里で制裁を受けて逃亡したが、町で広い社会を知り、
再び里に乗り込んで自分の欲望を満たそうとする若者が良い。
演じる濱仲太さんが、善良そうな顔つきから次第に悪徳商人のそれに変わるあたり、
大変リアルで迫力があった。
終盤、かつて里で受けた傷を晒しながら激白する場面の説得力が素晴らしかった。
この芝居で一番人間くさいキャラだった。

また旅回り一座の白塗りの女形を演じた谷山知宏さんが強烈な印象を残した。
この人が登場すると場をさらってしまうほど客席が湧いた。
これもまた実に魅力的なキャラだった。

土の上の芝居、屋台崩し、役者によるビールの売り声、階段まで客席になる満員御礼…。
洗練とはまた違った方向性を追求して30年になるという花園神社の夏を満喫した。



おんわたし

おんわたし

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2017/07/12 (水) ~ 2017/07/16 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/07/13 (木) 14:00

沖縄の小さな島の郵便局を舞台に、ここに住む人、出ていく人、訪れる人の
秘めた心情と温かな交差が描かれる。
波の音と風が心地よい郵便局のセットが素晴らしい。
首振りの扇風機がカーテンを揺らし、出演者の髪を揺らし、客席に島の風を吹き込む。
解りやすい登場人物のキャラが次第に陰影を帯びていくエピソードが秀逸。
この展開、この受容の精神は、やはり「おんわたし」の精神が根付く沖縄ならではだろう。
観客に委ねる部分が心地よくもあるが、同時に物足りなさも感じるのは要求し過ぎか…。

ネタバレBOX

会場に入ると風が吹いている。
上手には、郵便局おなじみお取り寄せ名産品の見本、テーブルと椅子、
入り口の外には石垣と赤い花が見えて南国らしさが漂う。
下手は一段高い畳敷きの事務スペースで、奥は郵便局長の居住スペースになっている。
局長は今、浜で拾ったコーラの瓶に入っていた10年前の手紙に返事を書くことに夢中。
近所の人々が集まってアイスコーヒーを飲んだりするのんびりしたこの郵便局に
ある日東京からひとりの青年が保護司に連れられて来る。
誰にも笑顔を見せないこの青年は一体…。

郵便局に集まって来る人々のキャラが楽しい。
バイトながらしっかり郵便局を切り盛りするおきゃん(早川紗代)、
「嫁が欲しい」畑をやってる41歳の吾郎(保倉大朔)、
民宿経営者の庄吉(牧野達哉)など、皆個性豊かで温かい。
青年(榎本悟)の素性を知った後の、周囲の態度の変化にもそれぞれのキャラが反映される。

局長が返事を書いたボトルメッセージの少女に代わって島を訪れたのは、
その母親(秋葉舞滝子)だった。
子育ての失敗から娘を喪ったことを10年間悔やみ続ける母親と、
片や10年間、罪を償って外へ出た青年が「おんわたし」の島で出会うというエピソードが
主軸でありそれが大変良かったと思う。
共に苦しい10年を過ごした2人が、初めて心を通わせる相手として相応しい。
“恩を受けたらその人ではなく、隣の人に返す”という島の優しいルールが生きる。

青年の“家族でいられなくなるほどの”罪が何だったのか具体的には示されないが
それは観る人の想像で良いと思う。
でもあのあと彼がどう変化したのかを知りたい気がした。
私の観方が浅いせいかもしれないが、保護司の徹底的な庇護のもとにあった青年が
そこから一歩踏み出せたのか、意識の変化にとどまったのか、それが観たかった。

「おんわたし」を目に見えるかたちで、というのは作者の意図に反するのかもしれない。
でも“見て安心したい”と思ったのだ。
演じる榎本悟さんの硬い表情や緊張した動きには“制限された人生”が色濃く出ていた。
本当の更生は、そこから一歩踏み出して初めてスタートするのだと思う。
彼の自我と更生の第一歩を目で見て安心したいというのは私の身勝手かもしれないが
それは“苦し気な更生への道”を演じる榎本さんがとても良かったからに他ならない。

最初はただの”合コン好き”だった吾郎が次第に魅力的に見えてくる。
演じる保倉さんの他の芝居を観たいと思った。
座組みの良さが感じられる作品だった。







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