#10の観てきた!クチコミ一覧

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英雄魂

英雄魂

MousePiece-ree

TORII HALL(大阪府)

2010/03/19 (金) ~ 2010/03/22 (月)公演終了

無題
 私と同世代のおじさん三人による漫才のようなコント芝居。しょーもないトークとベタなネタが続く、チープな雰囲気でそれなりに楽しめるものでした‥‥ が、ラストは驚くべきどんでん返しが待っていた。あれは小劇場でなければ不可能なエンディングだと思う。

THE SCOOL OF THE RINGS

THE SCOOL OF THE RINGS

笑の内閣

ART COMPLEX 1928(京都府)

2010/03/12 (金) ~ 2010/03/14 (日)公演終了

無題
 10回目で5周年という今回は、「全道大会進出を目指す北海道の高校演劇部。部長が突然プロレス芝居をしようと言い出し、たまたま団体をクビになったばかりの人気レスラーの指導を受け、大会に挑む」‥‥という内容。

 なかば強引にプロレス芝居に繋げていくわけですが、プロレス芝居の劇中劇でまたプロレス芝居をやっているので、入り乱れて大変なことになっています。でも意外と破綻していませんでした。

 本物のプロレスを生で見たことはないのでリアリティは分かりません。ただ、こう言うとプロレスファンには怒られるかもしれませんが、元々プロレスというのはスポーツとショーの混合みたいな側面もあるので、芝居との親和性は高いのだと思われます。例えば「テニスの王子様」も舞台化されていますが、本当に舞台上でテニスをするのは無理でしょう。

 チラシ等を読むと劇中のプロレスが本格的であることのアピールが多いのですが、観ていて思ったのは逆に、演劇部分が稚拙で学芸会的だということです。しかし、ひょっとするとこれは意図的だったのかもしれません。演劇部分があまり本格的すぎると、プロレス部分が嘘くさくなってしまうと考えられるからです。演劇部分が学芸会的だからこそ、プロレス部分が本格的に見える。そこまで計算しているとしたら、たいしたものです。‥‥計算じゃない可能性も高いですが。

 演劇としてもプロレスとしても明らかにイロモノなので、正直それほど期待はしていませんでしたが、劇場から出てきた自分は多分、ものすごい満面の笑みだったと思います。完全に、してやられました。

八月、鳩は還るか

八月、鳩は還るか

烏丸ストロークロック

アトリエ劇研(京都府)

2010/03/05 (金) ~ 2010/03/14 (日)公演終了

無題
 烏丸ストロークロックが5年かけて描いた「漂泊の家」シリーズ総集編。残念ながら私が観るのはこれが初めてですが、これまでの作品も織り込まれた形で構成されているため、単独で観劇しても問題はないとのことでした。

 語られる内容は悲惨というか切ないというか、そして何か不気味さを伴うエピソードの集成で、泣くべきか笑うべきか考え込むべきか難しいものです。口に入れたモノが食物なのか薬なのか毒なのかわからないまま噛み砕いているような気分になりました。

 ほどよく緩急のある展開は飽きることがなく、途中休憩を挟んで2時間半余りという長い上演時間にも関わらず、終わった時は「もう終わり?」と感じました。ただこれは、幕切れが唐突な印象だったことも原因でしょう。あのラストシーンはどう解釈すればいいのか、まだちょっと飲み込めていません。

 前作も観てみたかった。観なかったことが悔やまれます。

ピースピットVOL.11「MOTHER」

ピースピットVOL.11「MOTHER」

ピースピット

浄土宗應典院 本堂(大阪府)

2010/03/03 (水) ~ 2010/03/07 (日)公演終了

無題
 タイトルにあるように「母」をテーマとした内容ですが、実際は母になるまで(つまり妊娠期間から出産するまで)の話です。チラシにもウェブにも内容紹介が見当たらないので細かいことは書きませんが、ちょっと天然な主人公の“イマジナリーワールド(空想世界)”が話の大半を占めています。

 空想世界と言っても現実と完全に切り離されているわけではなく、むしろ過去と現在が同居する主人公の内面世界という様子です。キーワードは「子が将来何になるかは未知のことに属する」。

 なんというか、笑ったり泣いたりで顔の筋肉が忙しい観劇でした。脚本と演出の末満氏は男性なのによくこんなテーマで書けるものだと感心します。まあ、刑事でなくても刑事ドラマは書けるんだから同じことかも知れませんが、本物の刑事が刑事ドラマで感動したという話はあまり聞きません。本作ではたくさんの女性が泣き笑いしてました。

 ピースピットの作品は今回を含め舞台を2回とDVDを1回観ただけですが、どれも切ない愛に溢れている印象を受けました。次回作が楽しみです。

家、世の果ての・・・・・・

家、世の果ての・・・・・・

極東退屈道場

AI・HALL(兵庫県)

2010/02/26 (金) ~ 2010/02/28 (日)公演終了

無題
 伏線とも不条理とも思える、何か幻影のような空気の中で重層的に展開するため、ほぼ最後まで夢見心地の観劇となった。集中力が途切れそうになる(というか途切れた)ことが何度かあったが、奇妙に心地よい観後感が得られた。

 後でチラシをよく読んだら、初演は30年も前とのこと。これは意外だった。演出によってそうしたのかもしれないが、観ている時はそんな古さは全く感じることがなく、新作だとばかり思っていたのだ。

 ここで描かれている消費社会とか物質文明というのは、多分この30年でますます強化されたのだと思う。ある意味、そこで提起された問題はもはや問題と感じられなくなる程度に根を張ってしまったのではなかろうか。だからこそ私はそこで安心してウトウトできたのだ。

 作者が聞いたら嘆くだろうか。すでに他界されたとのこと、残念です。

赤い薬

赤い薬

MONO

HEP HALL(大阪府)

2010/02/19 (金) ~ 2010/02/28 (日)公演終了

無題
それぞれ身寄りもなく、生活費にも事欠くありさまの情けない男たちが、高額報酬目当てで薬の実験台になるため、山奥の施設で共同生活している。しかし今回の薬はなにかおかしい。このままでは自分たちはどうなってしまうのか……?

 現実にそういう施設があるのかどうか知りませんが(多分ない)、シリアスにしようと思えばできる危ない設定で上質なコメディになっていました。単にゲラゲラ笑わせるだけでなく少々の涙も含ませるところがMONO の得意なスタイルでしょう。

 今回も、登場人物達の背景は笑えない要素がたくさんありました。けれどそんなものを吹き飛ばす勢いで笑いに変えてしまっているところが頼もしい。上っ面じゃないコメディです。

 医者役を演じた金替さんの演技がまた素晴らしい。あれを観ただけでも価値があったと思います。

真田風雲録

真田風雲録

兵庫県立ピッコロ劇団

兵庫県立芸術文化センター 中ホール(兵庫県)

2010/02/16 (火) ~ 2010/02/21 (日)公演終了

無題
 初演は1962年の作品。あらすじは上記の通りですが、学生運動や東西冷戦など当時の世相を反映した表現になっています。この点を知らずに観劇したので「なんだか活動家みたいな言い回しだなあ」と思っていて、後から解説を読んで納得しました。

 私が観に行く劇場としては最大級の会場で、さすがに巨大な舞台装置を使った演出は迫力がありました。大きい場所では大きいなりの手法があるのですね。出演者の数は40名以上と多いものの、主要登場人物はわかりやすく、素直に楽しむことができました。

スーパースター

スーパースター

劇団鹿殺し

AI・HALL(兵庫県)

2010/02/04 (木) ~ 2010/02/07 (日)公演終了

マンネリ感?
 劇団鹿殺しの10周年記念公演第一弾。私がこの劇団の公演を観るのは「僕を愛ちて。」「ベルゼブブ兄弟」に次いで3回目。

 結論から言うと前2回に比べてインパクトは薄かった。期待が強すぎたのかもしれない。もちろん、ほとんどの他劇団に比べたらパワフルさは極めて高い。相変わらずの “アツさ”だ。舞台装置もすごかった。三階建てのアパートに見立てたセットを使った演出は客席を圧倒していた。

 ただ、描かれているテーマは兄弟と家族の確執みたいなもので、前に観た二作品と非常によく似ている。それがこの劇団あるいは作家の得意分野なのかもしれないが、私の中ではマンネリ感が生まれはじめているのだ。たまたま私が観た作品がそうだっただけかもしれないが、この劇団のパワーが発揮できるテーマは決して限定されるものではないはずなので、もっと違った手法も観てみたい。

10人写楽

10人写楽

劇創ト社deネクタルグン

浄土宗應典院 本堂(大阪府)

2010/01/29 (金) ~ 2010/01/31 (日)公演終了

初心者にも勧められる小劇場演劇
 上手に造り込まれた戯曲と、動きの良い役者陣、適度なアドリブ。小劇場の芝居として実に正統派な演出で、観劇経験の少ない人にも安心して勧められる良作でした。

 舞台装置がシンプルなのに、江戸時代の場面の衣装が豪華なおかげか、貧相な感じはまったくありません。10人という役数は実際は江戸時代と現代があるので20人ですが、覚えきれなくならない適度な数で観やすかったと思います。

 ただ、江戸時代と現代で物語に何か繋がりがあるのかと思って観ていましたが、そういうわけではなかったのが少し残念でした。ラストはちょっとだけ繋がる感じもしますが‥‥。

熊

ルドルフ

アトリエ劇研(京都府)

2010/01/22 (金) ~ 2010/01/25 (月)公演終了

演出の力
 夫を戦争で亡くしてただ嘆くばかりの日々を暮らす未亡人の元へ、夫の同僚だったという男が尋ねてくる。彼は夫に貸した金を返してほしい、明日までに銀行へ利子を払わなくてはならないと言う。しかし未亡人は、今は手元に金がないから明後日まで待てと応える。承知できない男はそのまま居座ろうとするが‥‥。

 約40分の短編で、基本的に喜劇だ。ルドルフは普通の舞台セットで最初から割と喜劇的な雰囲気を出す演出だったのに対し、このしたやみは極めてシンプルだが何か象徴的な舞台セットで、演出も喜劇的要素は控え目だった。

 どちらが優れているか決めるようなものではないので両方それなりの楽しみ方が出来たが、何より演出次第で同じ戯曲がこれほど違うものになることを見せつけられたのが心地よかった。同様な試みは昨年2月にも「人は死んだら木になるの」でも実施されて、その時もこのしたやみは参加している。今後もこういうスタイルの上演は観てみたい。

ハラダマークⅡ

ハラダマークⅡ

ザ・パンタロンズ

OVAL THEATER & GALLERY (旧・ロクソドンタブラック)(大阪府)

2010/01/13 (水) ~ 2010/01/17 (日)公演終了

若手劇団の頑張りと空回りと
 出演者がAチームとBチームに別れて、10人中6人がダブルキャストという公演。どういう経緯でこうなったのかは分かりませんが、私はAチームを観劇しました。

 チラシにかなり細かく粗筋が書かれていましたがあまりよく見ていなかったので事前情報なしで観劇しましたが、特に問題はありませんでした。かなり忠実な粗筋なので内容には触れないが、なんとなく映画「トータル・リコール」を思いだす設定です。舞台での回想シーンなどはややこしくなりがちですが、そこそこ上手に作られていました。

 全体になんとなく若手劇団特有の未熟さと空回り具体が感じられました。盛り込みたいものが多いのはわかりますが、もっと洗練されると良いのではないかと思います。

 ただ、公演全体をお祭りのようなイベントに仕立て上げる努力と成果には感心しました。舞台は単に観賞するだけの作品ではなく、公演全体を含めた“ハレの場”なのですね。

 残念ながら客演でしたが、店長役の人が抜きん出て面白かったです。役柄もあるんでしょうが、風体がぴったり。

急襲キルフィールド

急襲キルフィールド

芝居流通センターデス電所

ABCホール (大阪府)

2010/01/08 (金) ~ 2010/01/10 (日)公演終了

俗悪の痛快さ
 温泉街を舞台に、商売と恋愛と犯罪が入り交じったドロドロの話。登場人物がみんな自分のことしか考えてない身勝手な人格でありつつ、堂々と欲望を追求してはばからない。タブーも何もありゃしない痛快さはデス電所の作品として正統でしょう。

 その独特の世界は嫌いではないのだけど、感情移入できる「まともな人間」が出てくる方がむしろ狂気が引き立つのではないだろうか。あまり行き過ぎるとただ滑稽なだけの描写になりかねない。

ネタバレBOX

 ただ、ラストの殺戮は途中でだんだん飽きてきました。現実には、何発も撃たれた後に戦い続けるなんてできるもんじゃない。あれではまるでゾンビだ。いやゾンビなのか?実はそういう設定だったとしても不思議はない気がする。実際どうなのかはわからないが。
廃校/366.0(メガトン・ロマンチッカー公演は中止)

廃校/366.0(メガトン・ロマンチッカー公演は中止)

メガトン・ロマンチッカー × NEVER LOSE

千種文化小劇場(愛知県)

2007/03/09 (金) ~ 2007/03/14 (水)公演終了

集大成か、実験か。
 2劇団の合同公演だが、それぞれの作品は独立しているため一方だけ観劇しても問題はない。とは言え、せっかくひとつのテーマを軸に構成しているのだから、両作品を合わせた全体像として感想を書くことにする。

 役者の演技や演出効果については、さすがに安定感のあるレベル。何気なく配置されているように見えた椅子すべてにピンスポットが当たった場面(前日譚)や、CDラジカセから流れている音が次第にボリュームアップしてシームレスに音響に繋がるところ(後日譚)は、さりげなく高度な計算と技術を感じた。

 だが、演劇としてはかなり実験的なものだ。物語の中心には廃校式典での殺人事件が置かれているが、事件そのものは描かれない。こういう構成の場合、前日譚で事件の原因が伏線として描かれ、後日譚では真相が解明されるといった形になるのが普通だろう。しかしこの公演ではどちらもほとんどない。

 パンフレットには事件を伝える新聞記事が載っており、そこにある被害者や犯人の名前と物語の登場人物名を照らし合わせれば、どの人物がどのような形で事件に関わったかは把握できる。だが、それが作品を鑑賞し理解する上でどの程度の意味を持つかというと、ほとんど意味はなかったと思う。

 例えば後日譚に幽霊として登場する女性は事件の被害者だが、彼女がいかにして死んだかは作品の中でさほど意味を与えられていない。後日譚の中心は、妹を失った兄とその友人達の弔意と告別であり、事件の真相などには興味がないしむしろ触れたくもない心情こそが描かれている。

 まだ事件が起きていない前日譚において、その傾向はますます顕著だ。1年後に殺される子供や犯人となる男はセリフの中でのみ登場する。解釈によっては事件に繋がる伏線はもちろん含んでいるのだが、前日譚そのものは別の事件が中心であって、殺人事件の原因が明示されることはない。

 つまり、前日譚と後日譚は互いに独立した作品であるだけでなく、全体の中心となっている殺人事件からさえも独立している。事件はそれぞれの物語の背景として抜き難い存在ではあるけれど、それはあくまでも背景であり、決して366日離れた時点から事件を描いているわけではなかったのだ。

 だから、事件に繋がる多くの背景事情が見え隠れするものの、最後まではっきりと表に出てくることはない。それが企画の狙いだとするなら、それは成功していただろう。ただ、そういう作品であるという心の準備ができていない観客には、多少のストレスや欲求不満が残ってしまう。

 現実は常に不完全であり、完成された起承転結が存在することを演劇の嘘臭さと捉えるなら、それを排除するのもまた面白い試みと言えるのかもしれない。けれど現実に生きている私たちは、現実のコピーを求めて劇場に足を運ぶわけではない。だから私はこの公演をあくまでも実験的なものとして受け止めたいと思う。

おやすみ、おじさん

おやすみ、おじさん

劇団桃唄309

ザ・ポケット(東京都)

2006/09/06 (水) ~ 2006/09/10 (日)公演終了

ほどよいファンタジー
 山奥ではなく東京の下町を舞台にした妖怪とまじない師の物語。東京という街は日本で一番先進的な都市であるがゆえに、こういった超常現象を絡めるのも絵になる。極端なところでは『帝都大戦』などが有名だろう。元々はミスマッチを狙ったのかもしれないが、むしろファンタジー色がほどよく中和されている。

 「ISIS(自立不能舞台装置システム)」と名付けられた“俳優が支えていないと倒れてしまう舞台装置”は、不安定だからこその躍動感があって好印象だった。おじさんを演じた坂本和彦の風貌はとても役に合っていたが、対立するまじない師を演じたバビィはもうちょっと冷たい雰囲気があると良かったように思う。

猿の惑星は地球

猿の惑星は地球

クロムモリブデン

ザ・ポケット(東京都)

2006/09/12 (火) ~ 2006/09/17 (日)公演終了

オチは無理矢理っぽい
 進化して不老不死を得たSARUは護身のための刀を振り回し、驚異であるNINGENはナイフを持っている未来社会。死ぬ方法を書いた本が森の中にあると聞いた一人のSARUが、それを探す旅にでる。

 あいかわらずあらすじを書くことに意味がないクロムモリブデンの芝居。今回は全席指定のためやや後ろの席になってしまったせいか、以前に比べて舞台から圧倒されるような印象は受けられなかった。セットや音響の派手さも前回より控えめだったような気がしたが、距離のせいかもしれない。

 もともとストーリーはあまり意味を持たない作風なのでどんな展開でも問題ないのだが、今回のラストは無理矢理オチをつけた感じがしていただけない。その場面の演出自体は悪くなかったので、やや残念だった。

むかしここは沼だった。しろく

むかしここは沼だった。しろく

劇団八時半

ウイングフィールド(大阪府)

2007/02/16 (金) ~ 2007/02/25 (日)公演終了

救いがないのに救われるような
 劇団八時半の舞台は三度目の観劇になる。これまでに観た「私の音符は武装している」「完璧な冬の日」と同様、高学歴な人々を描いている。今回は化石発掘現場でひたすら採掘を続ける、私設研究所メンバーの話だ。

 人里離れた山奥に隔離されたような現場で毎日毎日単調な作業を繰り返すメンバー。色々な問題が発生するなかで、だんだん精神的にもおかしくなってくる。普通の人がそうじゃなかったり、普通だった人がそうじゃなくなったり、ジワリジワリと事態が進行していく描写が実に秀逸。

 人格と状況と事態が絶妙なハーモニーを奏でるような作品。何も救いはないけれど、救いがなくても救われるような、妙な安堵が感じられた。

「僕を愛ちて。」

「僕を愛ちて。」

劇団鹿殺し

神戸アートビレッジセンター(兵庫県)

2007/02/16 (金) ~ 2007/02/18 (日)公演終了

わけわかんないけど痛快
 鶴が名物の田舎町。その沼で母を亡くした兄弟の、兄は小屋を建てて暮らしている。そこに謎の女性が現れて共同生活を始める。弟はバンドを組んでメジャーを目指す。父は家にいる。

 東京で観劇していた頃から名前は聞いていたが観る機会がなかった「劇団鹿殺し」。関西から東京に進出して、路上ライブを繰り広げているパワフルな集団との噂だった。今回、大阪公演をも見逃したけれど神戸まで足を伸ばしてやっと観劇することができた。

 チラシの裏には劇団☆新感線の古田新太と劇団太陽族の岩崎正裕の紹介文が書かれている。古田は「元気があってよろしい」、岩崎は「鹿殺しの演劇は強い」との文言をタイトルに掲げてこの劇団のパワフルさを伝えている。

 実際に観劇してみて、そのエネルギーを実感できた。確かに元気があって強い。破天荒でワクワクさせられる、頭では理解できないけれど心と体が揺さぶられる、そんな舞台だ。ある意味、KAVCのような大きな劇場で観たのは残念に感じられる。もっと身動きできないほど狭い芝居小屋で観たかった。

 路上パフォーマンスで鍛えてきた集団でありながら、舞台装置もかなりしっかりした物ができていた。美術的な面だけでなく構造的な堅牢さと安定感が優れており、スタッフは地味に優秀だと思われる。

 わけわかんないけど痛快。また観たいと思える一品だった。

月と牛の耳

月と牛の耳

いるかHotel

ピッコロシアター 中ホール(兵庫県)

2007/01/06 (土) ~ 2007/01/08 (月)公演終了

その時、人はどのようにもがくのか
 ある病院にて。1年に1度、入院している父親を訪ねて子供たちが集まる。空手の師範だった父に結婚相手を紹介する長女と、その婚約者だという男。彼は恋人の父に勝負を挑むが、いとも簡単に圧倒されてしまう。

 四人の兄弟姉妹に囲まれて幸せそうな父親だが、その病気の正体が明らかになるにつれて子供たちの辛い思いがクローズアップされる。

 ネタバレになるので病気の正体を書くことは控えるが、家族の絆とは何かを問い掛ける作品。‥‥という紹介はありがちすぎると思うが、そういう作品だ。

 子供たちは皆、父親を慕い、父親の気持ちを守ろうと思っている。しかしそこには矛盾や葛藤が避けられず、もうすぐ破綻するであろう予感を直視せざるを得ない。そんな状況で、人はどんな風にもがくのかが丁寧に描かれていた。

 あのような病気が実在するのかどうか知らないが、もしあるのならやはりあの子供たちのように応じるしかないのではなかろうか。それ以外に、彼を傷つけない方法が見つからないからだ。エンディングはやや無理矢理ウェルメイドな終幕に持ち込んだような気がする。

 ワンシチュエーションのためか舞台装置の安定化が高く、控えめだが的確な照明と音響もきっちり仕事をこなしていた印象。役者は特に目立つ人はいないものの、役柄をしっかり演じきれていたということだろう。

マイ・フェイバリット・バ――――――ジン

マイ・フェイバリット・バ――――――ジン

メガトン・ロマンチッカー

千種文化小劇場(愛知県)

2006/11/09 (木) ~ 2006/11/12 (日)公演終了

ワクワクさせられるブルーな芝居
 リーディング公演や少年ライブラリィなどの企画公演は都合がつかずに観劇できなかったメガチカですが、久しぶりの本公演でちょうどスケジュールが合いました。

 観終わってまず思ったのは、この劇団とこの作家の持ち味が存分に発揮された作品だったということ。ものすごくメガチカらしい舞台であり、ものすごく刈馬カオスらしい脚本で、ワクワクさせられるブルーな芝居だ。

 身体障害者専用デリバリーヘルスの事務所として借りたマンションの一室を舞台とするワンシチュエーションドラマで、風俗店ではあるがその場に客が来るわけではない。それでもR-15指定が妥当な程度にきわどい台詞が飛び交い、露骨にセックスが語られる。

 とはいえ舞台で女優が脱ぐわけでもなく、痴話喧嘩さえ真水のようにサラサラな雰囲気で展開する。身障者用のデリヘルは実在するそうだし、劇中で語られる若者の集団レイプ事件なども似たような実例が記憶に浮かぶ。様々な形でそれらに関わる人々の苦悩や割り切りもリアルな印象を受ける。

 しかしこの作品は決して社会派ドラマとか問題提起とかではなく、若者たちの姿を素直に描いた青春群像劇なのだと思う。全体を通じて主張したいメッセージのようなものは感じられず、善人も悪人もいない、ただそれぞれの人物がそれぞれの想いをぶつけたり溜め込んだり怒鳴ったり逃げたりしている様子を淡々と俯瞰している。

 物語としての起承転結すらも曖昧で、存在意義のわからない台詞や演出も多い。だがそういった要素もまた、落ち着かない若者の情動を語っているように思えるのだ。メガチカの舞台はいつも絵になる構図が多く、今回もそうだった。視覚的には決して崩れないスタイルを維持しながら、構成として何かを崩そうとしたのではなかろうか。

 なんか難しい言葉を並べてしまったが、要するに観て良かったと思うのです。

歪みたがる隊列

歪みたがる隊列

劇団ジャブジャブサーキット

精華小劇場(大阪府)

2006/11/02 (木) ~ 2006/11/05 (日)公演終了

劇的でなく、されどドラマチックに
 乖離性同一性障害、いわゆる多重人格障害をテーマにした作品。この劇団は過去に摂食障害を扱った「しずかなごはん」も上演している。岐阜の劇団なので名古屋でもしばしば観劇したが、今回は大阪に来ていたので観劇することができた。

 こういう作品にありがちな演出を極力避けたとパンフレットで作者が説明しているのだが、その一環として一人の役者が多彩な人格を演じる「役者冥利に尽きる」表現も除外し、それぞれの人格を担当する複数の役者が一人の主人公を演じる構成をとっている。この点についてはあらかじめパンフレットのキャスト欄を見て理解しておかないと戸惑うかもしれないが、読んでいなくてもすぐ気付くだろう。

 とはいえ演劇が演劇である限り「劇的な」演出を完全に捨てるわけにもいかず、それなりにドラマチックな物語になっている。あまりドラマチックになりすぎれば興味本位な印象を受けるが、問題を真剣に受け止め啓発するような姿勢で作れば説教じみて詰まらなくなる。このあたりのバランスが作者の力量にかかるわけだが、本作はさすが実力派だと思わせる内容だった。

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