雲間犬彦の観たい!クチコミ一覧

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花咲くチェリー

花咲くチェリー

文学座

ももちパレス(福岡県)

2012/09/11 (火) ~ 2012/09/17 (月)公演終了

期待度♪♪♪

渡辺徹の復帰作となるか
 主演の渡辺徹の急病により、果たして福岡公演が行われるのかどうか、心配になって、福岡市民劇場の事務局に問い合せてみた。
 キャスト変更などの、文学座からの正式なコメントはまだないということである。ただ、市民劇場としては、「文学座と『花咲くチェリー』という作品を応援したい」という主旨なので、現在のところ、公演中止や、他の劇団公演との差し替えなどは考えていないという返答であった。もちろん、渡辺徹の回復を願うのが第一であるが、正式発表はなくとも、文学座のホームページの地方公演の欄を見ると、渡辺徹の名前は既にビリングのトップから外れている。けれども出演する予定ではあるようだ。たとえ主役ではなくても、元気な姿を舞台上で拝見したいと思う。

 原作のロバート・ボルトは、日本では、戯曲家というよりは、映画のシナリオライターとしての方が有名だろう。『ドクトル・ジバゴ』『アラビアのロレンス』『ライアンの娘』など、名だたる名作の脚本を手がけている。『花咲くチェリー』はボルトの劇作家としてのほぼデビュー作で、しかも出世作となった。
 不況で会社をクビになった主人公が、家族に真実を告げられず、仕事もないのに、毎日出かけるフリをする、というのはいささか平凡な筋立てだが、初演でチェリーを演じたのが、『女相続人』の名優、ラルフ・リチャードソン。本邦では長らく北村和夫の当り役で、もちろんどちらも未見なのだが、“ただのサラリーマンの悲喜劇ではない”ことは、この重厚なキャスティングからも伝わってくる。アーサー・ミラー『セールスマンの死』とも比較対照される、アメリカ現代戯曲の代表作の一つなのだ。
 できうることなら、現在の文学座の最高の俳優たちによって鑑賞したい。

骨唄

骨唄

トム・プロジェクト

ももちパレス(福岡県)

2012/06/22 (金) ~ 2012/06/22 (金)公演終了

期待度♪♪♪

骨唄は観客の耳にも聞こえてくるか
 土俗的なもの、因習とかしきたりとか因縁とか、現代もなお“過去が生き続けている”地方は決して少なくはない。それら過去と現在との摩擦を描くのは、映画よりも演劇の方が向いているのではないかと思っている。
 映画の場合、カメラで捉えられた映像は、極めて客観的であるために、その土地の習俗や祭りなどを、ともすれば“滑稽なもの”としてさらけ出してしまう。舞台なら、どんな珍妙な風習であっても、観客はそれをそこにあるものとして見立ててくれる。初演、再演は未見だが、観客の賞賛の声が高かったのは、舞台で表現された「過去」に、尋常ならざる生々しさが伴っていたからではなかろうか。
 高橋長英は、昨年の宮本亜門演出『金閣寺』では、出番が少ない中、夢想家の父親と実直な僧侶という正反対の役を、抑制の利いた演技で見事に演じ分けていた。富樫真は映画『恋の罪』での狂気の大学教授役(東電OL殺人事件の被害者がモデル)が忘れられない。もっともそのイカレっぷりが失笑を買うほどだからだが。濃い二人の間に挟まれる新妻聖子はいささか可哀想な気もするが、もしも「負けていなければ」、これはなかなかの見物になりそうだ。
 もっとも、予告編を観ると、九州を舞台にしているはずなのに(作者の東憲司も福岡出身)、方言がデタラメなのにはちょっと不安も感じてはいるのだが。『トンマッコルへようこそ』の時の東氏の演出は、正攻法で淀みのないものだったので、今回も水準以下ってことはないと思うのだが。

ミッション

ミッション

イキウメ

西鉄ホール(福岡県)

2012/06/09 (土) ~ 2012/06/10 (日)公演終了

期待度♪♪♪

鬼が出るか蛇が出るか
 昨年、『奇ッ怪 其の弐』と『太陽』で読売演劇大賞を受賞した前川知大の、待望の新作。
 演劇では表現することがなかなか困難なSFに果敢に挑戦し、しかも成功を収めてきた前川氏であるから、また斬新なSFを期待したいところである。しかし、氏のブログを読む限りでは、今回の作品、これまでとはかなり毛色の変わった作品になりそうだ。
 今回の舞台製作に当たって、前川氏は劇作のみに専念し、演出は小川絵梨子氏に任せることにしている。昨・演出を兼ねる劇作家が少なくないのは、他人の演出法を信頼していないからだったりするのだが、その点、前川氏は自分の作品をいかようにでも料理して下さい、という姿勢のようだ。
 もう一つ、『MISSION』は「ワーク・イン・プログレス」の手法で制作されている。簡単に言えば、最初から決定稿となる台本はなく、イキウメの劇作家も俳優も文芸部も角突き合わせてエチュードやディスカッションを繰り返し、さらには途中経過をギャラリーに公開して意見を仰ぎ、よってたかって芝居を作っちまおうという、いささか乱暴な制作方法である。
 ブログを読むと、一応の大筋はできたようで、「家族と叔父さんの物語」になるような気配だ。けれども情報制限しているからだろう、あとの中身はサッパリ分からない。
 この制作手法が、果たして吉と出るか凶と出るか、それを確かめに観に行くつもりだ。

八(エイト)JAPANTOUR2012

八(エイト)JAPANTOUR2012

冨士山アネット

イムズホール(福岡県)

2012/06/01 (金) ~ 2012/06/01 (金)公演終了

期待度♪♪

富士の向こうに広がる景色は
 昨年、枝光で公演されたという、本作の「試演」は未見。
 地元俳優を使って、というのは、劇団にとっては本公演のための叩き台になるんだろうが、観客にとっては単に下手な芝居を見せられるだけである。それで私はパスしたのだが、実際に『○○eight』を観たって人の話をまるで聞かない。CoRichにも感想が上がってない。福岡演劇大好きなフリークさんたちは去年の夏は何してたのかな。
 ということなので、私には試演と本公演を観比べて何かを述べることはできないが、実質的に今回が、冨士山アネットの福岡御目見得公演と考えてよいだろう。これまで、福岡には馴染みの深い劇団を外して、あえて演フェスの大トリにお初の劇団を持ってきたのは、単に劇団のスケジュールの問題なのだろうか、それとも事務局に何かの「意図」があったのだろうか。
 ダンスは素人眼にも巧拙がはっきり見える、誤魔化しが利かない芸である。観れば、彼らが“どういうところから出てきたのか”“何を志向しているのか”も一発で分かる。それが遙か彼方の地平を目指すものであってほしいと切に願いたい。

SWAN 上映会 at イムズホール

SWAN 上映会 at イムズホール

冨士山アネット

イムズホール(福岡県)

2012/04/16 (月) ~ 2012/04/16 (月)公演終了

期待度♪♪

フェスティバル前哨戦
 冨士山アネットと長谷川寧については詳しくは知らない。
 事前に情報を仕入れずに観劇することが多いので、そうなると馴染みのない劇団や演出家については、「観たい!」しか書くことがなくて、そんなん口コミにも何にもならないのである。
 で、今回は少し長谷川寧について、少しだけ調べてみたのだが、結構、関係した作品で、観ていた舞台や映画があった。NODA MAPの舞台にも立っているのである。私が記憶に留め損なってただけだな。一般的に馴染みがありそうなのは映画『モテキ』でフジファブリックの振り付けを担当したってところか。
 ダンス・パフォーマンスに注目してよさそうな劇団であることは承知したので、『白鳥の湖』をどんな形で再構築してくれるのか、白鳥と黒鳥の相克の物語の基本線は崩さないとしても、もちろんバレエでやるわけではあるまい。そこに期待しよう。
 こういう劇団にこそ、耳寄りな情報が欲しいんだけどね。地元劇団へのお追従はもういいよ。

ゴーゴリ病棟

ゴーゴリ病棟

柿喰う客

ぽんプラザホール(福岡県)

2012/05/25 (金) ~ 2012/05/27 (日)公演終了

期待度♪♪

これが最後か
 昨年まで行われていた創作コンペティション「一つの戯曲からの創作をとおして語ろう!」は、企画者の意図はどうだか知らないが、一観客としてはフェスティバルの目玉企画だと思っていた。
 「お祭り」ならば、ただ公演をずらっとやるだけではなく、何か観客も巻き込んだイベントが欲しいところである(北九州演劇フェスティバルは逆にイベントばかりで公演が殆どなくなっちゃったが)。その点で、やはり観客参加型の創作コンペは魅力的であったのだ。
 何のアナウンスも無しに今回は「中止」になってしまっているが、これが「廃止」なのかどうか知らない。中止の理由も分からないが、あえて「憶測」するなら、全国から応募と謳いながら、実際には応募総数が極端に少なかったのではないか。昨年だって、予定では「3劇団競演」のはずが、フタを開けてみれば「一定基準に達した劇団がなかった」という理由で、2劇団に減らされていたのだ。
 福岡は演劇を公演する場として、やっぱり魅力がないのかなあ、優勝劇団への助成金とか報奨金とかケチってるんじゃないのかなあ、とか、「憶測」はどんどん広がっていくのだが、現実に企画がポシャッている現在、文句を言うだけ詮ないことである。

 最後の上演劇団が、「柿喰う客」という先鋭的な実力は劇団であったことは幸いである。もっともまた地元からキャストを募る(しかも練習がたった7日)というから、グダグダなものになりはしないかという懸念はものすごくあるのだが。福岡の役者でそんな短期間で使えるようになるのって、1割もいねえぞ。

ダンス・アジア in Fukuoka

ダンス・アジア in Fukuoka

NPO法人コデックス (Co.D.Ex.)

大博多ホール(福岡県)

2012/05/18 (金) ~ 2012/05/19 (土)公演終了

期待度♪♪♪

虚のダンス、実のダンス
 日韓共同の、と冠詞が付くと、どうしても文化や歴史や差別の壁を越えてってのがテーマになりがちで、いくら演劇が時代性と不可分だと言っても、肩肘張った押しつけがましい芝居ばかりを見せられ続けたら、正直な話、もういいよって気にさせられてしまうのである。
 そういうものが全くない日韓ドラマ、国境を越えたラブロマンスとか、そんなのも嘘くさいのだが、だからと言って観る映画、演劇が全て「『パッチギ!』モドキ」であっても、困るのである。差別を二項対立の単純な認識で描けば、かえって反発を抱く人間が現れるのも、致し方のない反作用なのだ。

 その点、ダンスの競演なら大丈夫だろう。両国とも何となく「アジア」を意識してはいるようだが、それならば日韓だけに視点を置くのではなく、アジア全体に眼を向けてほしい。アジアの多種多様な文化は、もっと感情豊かな世界を内包しているはずだから。
 “AMBIGUOUS”とは「曖昧な」という意味だが、惹句を読む限りでは、これも「虚実皮膜」をテーマにしているようである。嘘から出た真の世界を楽しもう。それぞれ40分という短さもいい。

暴れん坊 銀河鉄道の夜~前張り2012~

暴れん坊 銀河鉄道の夜~前張り2012~

劇団鹿殺し

西鉄ホール(福岡県)

2012/05/12 (土) ~ 2012/05/13 (日)公演終了

期待度♪♪♪♪

ご存知銀河鉄道の夜捕物帳 ~襖の下張り
 世の中には、タイトルだけで「勝っている」芝居というものがあるが、劇団鹿殺しのこれなどはその部類に入る。だって、『銀河鉄道の夜』に「暴れん坊」が付いてるんだよ? しかもキャストがみんな裸で、「前張り」(←意味が分かんない純真無垢な女の子は、隣のえっちなお兄さんに聞いてみよう)なんだよ? ジョバンニがカンパネルラに「ぼくたち、いつまでも一緒だね」なんて裸同士で会話してご覧なさいな。世の中の腐女子がどれだけ卒倒するものやら。この二人の配役に関しては、ぜひ劇団中でも1、2を争うイケメンを選抜してほしい。
 仮に役者があまりイケてなくても、実際の舞台が相当くだらなかったとしても、それはたいした問題ではない。
 と言うより、観る前から観客は下らないことは覚悟の上だ。これは下らないものが大好きな人間が、下らないものが大好きな人間に送る、徹頭徹尾下らない芝居なのだ。多分、きっと。
 でも、もしもくだらなくなくて、アートだったりA級だったりしたら、逆に看板に偽りありだよね(苦笑)。

ブランカ・リ「エレクトロキフ」

ブランカ・リ「エレクトロキフ」

九州日仏学館

JR九州ホール(福岡県)

2012/05/09 (水) ~ 2012/05/09 (水)公演終了

期待度♪♪♪♪♪

世界レベルのダンスが福岡のみの公演!
 福岡演劇フェスティバルが、九州日仏学館と提携して、フランスのダンス・カンパニーを招聘したのは、今回が初めてではない。ご記憶の方もいらっしゃるだろうが、昨年、パル・フレナック・カンパニーがやはり福フェスに参加する予定だった。それが東日本大震災の影響で中止になってしまったのは、残念ではあるが、あの震災直後の情報が錯綜している状況では(今でもだが)、仏蘭西側の懸念も致し方なかったと思う。
 だから、今年、ブランカ・リ・カンパニーが来福を決意して頂けたことは、望外の喜びなのである。一度見捨てられた国から来てくれるのだから、正直、レディー・ガガの来日よりも嬉しいぞ(笑)。
 パリ近郊発祥のまだ新しい「エレクトロダンス」とはどんなものなのか、今回が初見だから何の情報もないが、優れたダンスは、言葉の壁を越えて、解説などなくとも楽しめるものである。特に今回は「ユーモア」がキーワードだ。きっと「偏見」の壁をも越えて、世界レベルのダンスを楽しめるに違いない。
 CoRichの情報って、他県には伝わりにくいから、せっかくの「日本唯一の公演」が一部だけの口コミで終わってしまうのは惜しい。フェスティバル関係の公演は、トップページから特設ページにリンクできるようにするとか、工夫ができないものかねえ。

かたりたがりのみせたがり

かたりたがりのみせたがり

Love FM

西鉄ホール(福岡県)

2012/04/13 (金) ~ 2012/04/14 (土)公演終了

期待度♪♪♪♪

みせたがるからみたがる
 チラシのどこかに「18歳未満入場お断り」と書いていないかどうか、眼を皿のようにして見てみたが、何にもない。いいのかなあ、うっかり間違って来ちゃういたいけなお子様がいたら大変なんだが。
 「活弁天国」シリーズは、例年、「成人の日」に行われていたのだけれども、今年は発情期のネコがなーなーウルサイ春四月。人間にも発情期をってコンセプトかな。要するに巷のエロ画像やら自作の気の抜けたエロ映画を解説付きで笑っちゃおうというのが「山田広野の活弁天国」シリーズ。リリー・フランキーさんもオススメだ。
 基本的に「脱力系」なので、間違っても「活弁」というタイトルから、大昔のサイレント映画やアカデミー賞の『アーティスト』なんてのを期待してはなりません。フツーの演劇、気取ったアートに飽き足らなくなった人が金をドブに捨てる道楽のつもりで観に行くものです。B級魂、ここにあり。

 赤ペン先生も行きたかったけど、こちらはスケジュールが別の公演と重なった。誰かこういうバカイベントが好きな人が見に行って、感想を書いてくれないものかなあ。演劇を観に行くのがステイタスだと勘違いしてる人には全く無縁な企画だけれども。

現在地

現在地

チェルフィッチュ

イムズホール(福岡県)

2012/05/06 (日) ~ 2012/05/07 (月)公演終了

期待度♪♪♪♪♪

SFみたいな。
 「SFみたいな。」
 この気負いの無さを、果たして言葉通りに受け取っていいものやら、なにしろフツーの演劇を期待して、その期待通りの舞台を見せてくれた試しがないのが岡田利規という劇作家である。
 現代口語演劇を更に一歩押し進めた、しかし決して「静かではない波」をその間断ない言語に内包させている岡田利規には、まさしく「劇作家」という呼称が相応しい。岡田利規が劇作家だなんて、当たり前のことじゃないか、と言われそうだが、現代、この言葉が似合わない演劇人も決して少なくはない。
 岡田利規のオリジナリティは、頭でっかちなだけの劇作家モドキには及びも付かない、まさしくこのセカイの深層を見透す冷徹な知性によって支えられている。岡田利規の知性そのものが「SFみたいな」ものなのだ。

 『三月の5日間』を初めて観た時の衝撃は忘れられない。
 俳優たちは歪つな姿勢で歪つに立っており、歪つな一人語りを続けているが、それは決して過剰でもなく貧弱でもなく、人間のナチュラルさを言葉と体が体現していた。
 「物語」はあるようでない。しかし面白い。設定と背景だけで演劇は構築されうるもので、作・演出の岡田利規は、従来の演劇が拘り続けていた「ドラマツルギー」の効用を信じていないようにも見えた。
 演劇人に対して「演劇とは何か」と問い掛けるくらい、愚問はないが、問い掛けなくとも、岡田利規は「岡田利規の演劇とは何か」を提示し続けている。そしてその世界は、後続の劇作家たちの安易な追従を許さない。『フリータイム』『ゾウガメのソニックライフ』と、岡田利規は進化し続けているからである。
 『現在地』は間違いなく、今回の福岡演劇フェスティバルの目玉作品の一つだ。

わたしたちの町

わたしたちの町

市川森一記念 長崎座

西鉄ホール(福岡県)

2012/05/06 (日) ~ 2012/05/06 (日)公演終了

期待度

期待する以前に
 タイトルは従来のものと違っているが、これはソーントン・ワイルダーの『わが町』と同じものだ。しかし、既に翻訳のある作品をわざわざ翻訳し直して上演するという点に興味がある。もしかしたら全編「長崎弁」の『わが町』が観られるかも知れない。

 福岡演劇フェスティバルのラインナップが出揃い、各公演のチラシも完成、ホームページにも詳細情報が……と言いたいところだが、なぜかこの長崎座だけが未だにチラシも作らず、ホームページの更新もしていない。おかげで、福フェスの本チラシが完成するまで、チケットの発売日や料金すら分からなかった。
 で、ようやく分かった発売日が……4月5日(木)って、あと5日しかないじゃん!? いったい宣伝する気があるのか、それとも劇団にお金がなくてチラシも作れないのか、いやそれじゃあHPまで更新されてない理由が説明できないし……全く、これじゃあやる気がある様子がうかがえないのだ。
 期待していいものなのかなあ。

THE BEE Japanese Version

THE BEE Japanese Version

NODA・MAP

J:COM北九州芸術劇場 中劇場(福岡県)

2012/06/07 (木) ~ 2012/06/10 (日)公演終了

期待度♪♪♪♪

チケット毟りあい
 「夢の遊眠社」時代に野田秀樹に入れ込んだ人々は、NODA MAPになってからの「実験作」には必ずしも満足していなかったのではなかろうか。どの作品も、キャストこそ豪華になってはいても、どこかしら「上滑り」している印象があったからである。
 しかし、この『THE BEE』は、初演時、辛口の批評家からも頗る評判がよかった。筒井康隆のブラックな原作『毟りあい』が、野田秀樹の狂気と毒と、相性がよかったためかもしれない。
 本来なら、今回のキャスト変更(秋山菜津子→宮沢りえ、浅野和之→池田成志)によって何がどう進化したのかを、比較して観てみたいところだが、残念ながら、初演版は東京で観る予定にしていたものを、チケット完売で涙を飲んだ。今回のバージョンを一つの決定版として鑑賞するしかない。
 今回もチケットは既に完売目前だそうだ。行こうかどうしようかお迷いの方は、早急にご決断を。

売春捜査官

売春捜査官

劇団上町クローズライン

西鉄ホール(福岡県)

2012/05/04 (金) ~ 2012/05/04 (金)公演終了

期待度♪♪♪

つかこうへいは更に進化するか
 旗揚げから6年という若い劇団「上町クローズライン」。
 今回が初見になるが、これまでの活動記録を見ると、オリジナル以外は全てつかこうへい作品を上演している。しかも『二等兵物語~怪盗ムーン~』『熱海殺人事件~モンテカルロイリュージョン』と、かなり癖のある作品を選択している。もっとはっきり言えば、在日コリアンやゲイなどのマイノリティ問題を思い切り前面に出してきた作品ばかりを、つまり、つかファンですら好き嫌いが極端に分かれる作品をあえて(としか思えない)選んでいるのだ。もちろん、今回の『売春捜査官』も同様である。
 その意図が奈辺にあるか、それは実際に舞台を観てみなければ分からない。気になるのは、本来、タイトルに付いていた『熱海殺人事件』が外されて、サブタイトルがメインになっていることだ。これもまた「あえて」であるなら、そこにきっと何かの意味があるのだろう。私の拙い読解力でそれが見抜けるかどうか、いささか心配ではあるが、この劇団のヴィヴィッドなチャレンジ精神が明確にうかがえることは、一観客としては非常に嬉しい。
 キャナルでの『NEXT』との見比べも楽しみだ。

No Enemy, No Life?

No Enemy, No Life?

village80%

西鉄ホール(福岡県)

2012/04/29 (日) ~ 2012/04/29 (日)公演終了

期待度♪♪

坑の中の村八分
 今年の福岡演劇フェスティバルで、地元福岡の劇団の中で、唯一ラインナップされたのがvilage80%。実は最多出場劇団でもある。
 その劇団としての特徴を、乱暴は承知の上で一言で言うなら、「演劇に何が出来るのかを常に問い掛け続けている劇団」と言えるだろう。その姿勢を持つ劇団自体が福岡では非常に数少ないし、たいていの劇団が、叩頭し追従する客に満悦して増長している中にあって、見え透いたお世辞に簡単に“乗せられない”姿勢が見受けられのも好感を抱かせるところである。
 ただここ数年の近作には、表現の手法として、既成作家たちの模倣から一歩も先に出ていない恨みが強く感じられる。villageの演出家全員が低迷中、といった印象である。
 だから「期待値」ということで言えば、私の中ではとても三つ星は与えられないのだが、今回の舞台は、既に数ヶ月前に「ひた演劇祭」で上演されたもののいきなりの再演である。少しは“こなれている”かどうか。作品紹介の文章の中に、キーワードとして何度も「世界の敵」が繰り返されるのは、どうも「あの作品」に似ているような気がして、これも不安の理由の一つになっているのだった。

32年生の8時間目

32年生の8時間目

空晴

大博多ホール(福岡県)

2012/04/20 (金) ~ 2012/04/21 (土)公演終了

期待度♪♪♪

空は晴れるか風吹くか
 劇団「空晴(からっぱれ)」、福岡での公演は三回目だそうだが、前2回は未見。前回は楠見薫さんがゲストだったので関心はあったが、日程が合わずに見損ねた。
 劇団自体の事前情報としては、大阪の劇団ではあるが、東京などの劇団とも交流しつつ、ほぼ毎回、客演を募って舞台を作っているらしい、ということくらいしか知らない。今回は同じ関西の南河内万歳一座の俳優が二人、ゲストで出演するようだ。こちらはもう北九州では常連、かなりSF志向の強い悲喜劇を得意としている。
 従って、今回の公演について、観劇の頼りになるのは「あらすじ」くらいのものである。ところがこれが、チラシにも劇団ホームページにも載っていない。かろうじてamcfの特設ページにストーリーが掲載されていたので、ようやく変わり映えがしないと思っていた日常に、奇妙かつホラーな出来事が連発する様子を泣き笑いで描く不条理人情喜劇(そんなジャンルがあるってわけじゃないが)なのだろうか、という予測は付けられたが(だから間違っているかもしれない)、ちょっと地方公演を打つにしては、宣伝が足りないと思うのである。
 小劇場系の役者さんたちの知名度は一般人には決して高くはないので、やはり「題材」で勝負してほしいと思うのである。

あゆみ TOUR

あゆみ TOUR

ままごと

イムズホール(福岡県)

2012/04/19 (木) ~ 2012/04/20 (金)公演終了

期待度♪♪♪♪♪

『あゆみ』の更なる一歩を信じて
 人によっては、岸田戯曲賞を受賞した『わが星』よりも、この『あゆみ』を評価する声も少なくない。それまでの柴幸男の作品を全て習作と斬って捨てることには異論もあろうが、「柴幸男ここにあり」を世間一般に認知させるに至ったきっかけが、この『あゆみ』であったということなのだろう。
 私の柴幸男体験も『わが星』が最初で、『あゆみ』は戯曲も未読なのだが、再演を繰り返している作品であることは情報として知っていたので、観劇できる機会が訪れることを信じて待っていた。個人の日常と世界を二重写しにしていく柴幸男お得意の手法は、『あゆみ』から始まったものだということである。しかし、『わが星』『テトラポット』を経て後の『あゆみ』は、恐らくは更なる進化を遂げて新たな変貌を見せてくれることであろう。戯曲を読むのはそれから後にしたいと思っている。

走れメロス

走れメロス

福岡市文化芸術振興財団

パピオビールーム・大練習室(福岡県)

2012/03/22 (木) ~ 2012/03/27 (火)公演終了

期待度

メロスは最後にまっぱになるのか
 ちょっとした義理があって観劇することになった(と言っても、制作者に知り合いはいません)。
 正直なことを言えば(正直なことしか言えないが)、「福岡オリジナルの舞台芸術環境・人材の育成」が目的で、なぜ原作が太宰治なのか、脚本が宮崎・こふく劇場の永山智行なのか、そこから既によく分からない。
 『走れメロス』は太宰作品の中では最も人口に膾炙した小説ではあるが、太宰が日銭を稼ぐために、シラーの詩に取材してちゃちゃっと書いた手抜き作である。太宰の個性が最も発揮されたと言ってよいブラックユーモアの傑作『お伽草紙』を脚色したあとに、永山が、太宰らしさの全くない『メロス』に挑戦するという意味がどうにも掴めないのだ。
 言ってみれば、その「謎」の意味を知りたいがために観に行くようなもので、期待値は低い。でも期待が薄い分、プラス方向に裏切られたいなあと思ってはいるのである。そうでなきゃ、いくら義理があったって、観に行ったりするものではないのである。映画『奇巌城の冒険』なみのアレンジ(と言うかほぼ別物)にしてしまうくらいの度胸があれば面白いのだが。
 でも本当にどうして今さら太宰なんだろうね。言っちゃなんだが、岸田國士やら宮澤賢治やら太宰やらがやたら舞台化されているのは、単に著作権が切れていて、何をどう脚色しようがどこからも文句が出ないからなんじゃないかという気がしてくるのである。それならいっそ、地元作家で夢野久作とか火野葦平とか著作権切れてるから舞台化したらどうかと思うんだがやらんのかなあ(久作はやってるとこあるけど)。
 「子どもからおとなまでが楽しめる舞台芸術」というのも、得てして「子供騙し」になりがちだが、そこに何か「演劇としての戦略」はあるのだろうか。

熱海殺人事件 NEXT

熱海殺人事件 NEXT

RUP

キャナルシティ劇場(福岡県)

2012/04/18 (水) ~ 2012/04/18 (水)公演終了

期待度♪♪♪♪

つかこうへい ONLY LIVE TWICE
 つかこうへいの代表作である『熱海殺人事件』が、再演されるたびに(時にはその公演期間中もずっと)改作され、新しいバージョンとなって上演されてきたことは周知の事実。自作のリメイクを常に繰り返し、まさしく「演劇は一期一会」であることを実作で証明してきた感がある。
 つか氏の死によって、つか氏自身による新バージョンの誕生は望めなくなった。しかし『熱海殺人事件』は決して死んではいない。昨年「つかこうへい復活祭」と銘打って、東京・紀伊国屋ホールで上演された「NEXT」。タイトルは「続編」だが、「原点に帰る」意味で、オリジナルバージョンの『熱海殺人事件』を、毎年キャストを変えつつ、上演していくと言う。それが今年は福岡にも御目見得、初演に引き続き木村伝兵衛部長刑事を演じるのは、福岡出身の山崎銀之丞、大山金太郎を演じる新キャストは、これも福岡出身の中村蒼だ。今回は、ちょっとした『熱海殺人事件』福岡バージョンである。
 偶然にも、福岡演劇フェスティバル『売春捜査官』と合わせて、この春は二つのつか芝居が競作されることになった。つかこうへいは死んでいない。そう信じる人たちの情熱が舞台を支えてくれるだろう。期待大である。

桂春蝶 独演会 2012

桂春蝶 独演会 2012

シアターネットプロジェクト

エルガーラホール 大ホール(福岡県)

2012/04/28 (土) ~ 2012/04/28 (土)公演終了

期待度♪♪

三代目にはそっと出し
 春蝶、の名前を聞くと、どうしても先代の二代目春蝶を思い出してしまう。『霊感ヤマカン第六感』などのクイズ形式のバラエティ番組にも出演していて、落語家というよりもタレントとしての印象の方が強かった。
 亡くなった時はまだ50代。あのころは昔ながらの無軌道な落語家も少なくなくて、酒や煙草で癌になったり肝臓をやられたりで、若死にする落語家も随分いたような気がする。
 正直、父親の死をきっかけに、落語家を目指したスロースターターな息子に、三代目の名跡を継がせるのは早かったんじゃないかという気もする。そんなにたくさん、この人の落語を聞いたわけではないが、上手か下手かと判断する以前に、“聞き流されてしまう個性の無さ”を感じるのだ。ただ、私が聞いたことがあるのは、この人が二つ目だった頃、春菜と言っていた頃だ。
 それからもう数年が経っている。男子三日会わざれば、の諺もある。関心の一番は「先代の息子さんがどれくらい成長したのかな」ではあるが、ほぼ新作落語しかやらないというのは、それはそれで一つの見識である。何らかの進歩というか、「変化」が見られるなら、それを生のこの目で確認しておきたいと思っている。

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