KAEの観てきた!クチコミ一覧

61-80件 / 855件中
消失

消失

ナイロン100℃

本多劇場(東京都)

2015/12/05 (土) ~ 2015/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

やはり破格の劇団だ!!!
噂には聞いていた、「消失」、高浜原発再稼働が色濃くなった日に、ようやく観ました。

今年の数々の政府与党の暴挙に、新聞のコラムで、異を唱えていたケラさん。

いろいろな思いから、11年ぶりの再演に踏み切られたのでしょう。

あまりにも、示唆的で、何度か落涙しそうになりました。

後ろの席の女性が、閉幕後、ずっと号泣していて、連れの男性が困惑していましたが、私には、彼女の気持ちが推量できました。きっと、心に深く突き刺さったのでしょう。

久しぶりに観たナイロンの役者さん達は、皆さん、役者としての貫禄がついて、やはりこの劇団は不動だと、感嘆してしまいました。

相変わらず、外のセットの使い方も、絶妙。

イブの日だと言うのに、客席は、補助席まで、満席でした。

同じような、舞台設定だけれど、「ひょうたん島」とはえらい違い。

ネタバレBOX

大倉さん、いつから、こんなに悲哀に満ちた男を好演される役者さんになられたのかと、まずビックリ。

哀愁と愛嬌を併せ持ったみのすけさん。三宅さんは、朝ドラでお忙しいだろうに、よくぞ、こんなハードな舞台を熟せるものだと、ただただ脱帽。

松永さんと、犬山さんは、女性の魅力の多面性を遺憾なく発揮。

八嶋さんも、劇団員と同じ空気を出して、違和感なし。

テロや、戦争、愚かな国策による、事実上の棄民政策…。それらが、ケラさん独自の手法で、おもしろおかしく、デフォルメされて描かれるのに、どれも、現実性を帯びてドキッとすることだらけです。

アトムが死んだ息子の身代わりとして誕生した頃は絵空事だった、ロボットの子供も、今の世の中では、既に具現化され始めてているし…。

ケラさんの手法に馴染んで来たせいか、ストーリー展開は、早い段階で予想がつきましたが、それでも、随所で、衝撃的な感想を持ちました。

夫を見棄てた当事者であるジャックに、頭を下げて、謝られたネハムキンが、「謝られたら許すしかないか」とため息まじりに呟くのは、過去を反省せずに、棄民政策に突き進む、現政府へのケラさんの皮肉めいた問題提議に聞こえました。

天皇陛下も、この芝居を観たら、号泣されるかもしれません。
漂流劇 ひょっこりひょうたん島

漂流劇 ひょっこりひょうたん島

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2015/12/15 (火) ~ 2015/12/28 (月)公演終了

満足度

串田演出は、性に合わないみたい
人形劇を夢中になって観ていた世代で、井上さんも出ると言うので、期待していました。

でも、どうも、肩透かし。

私は、串田さんのシュールな演出は、不向きな人間のようです。

意味不明だし、脈絡のない進行に、何度も、白河夜船になりました。

ただ、博士役の山下リオさんは、新鮮な良い味を出していたし、井上さんが登場すると、やはり舞台が映えるのは事実。

NHKのEテレの幼児番組風だったり、ベケットの芝居のようだったり、ちぐはぐな場面の連続に、首をかしげてばかりでした。

シュールでもいいのですが、もう少し、流れを形にしてほしかった気がします。

ネタバレBOX

白石さんのドンガバチョが、串田さんと、失われた東京の焼け跡?で、再会する場面だけは、ちょっと、興味を引かれました。セットも、工夫を凝らされ、串田版の、「ゴドーを待ちながら」でも、観るような気分でした。

最後に、お馴染の主題歌を皆で歌うので、会場は懐かしさで、何だか半分誤魔化された気分でした。ずっと、寝ていた、隣席のおばさまが、そこだけ急に唱和していたのに、受けました。あれがなければ、もっと、皆さん、しょんぼりして帰路についたような気がします。
招かれざる客

招かれざる客

劇団青年座

青年座劇場(東京都)

2015/12/17 (木) ~ 2015/12/23 (水)公演終了

満足度★★★

招かれざる会場係
タイトルに掛けて、ふざけてみましたが、実は相当へこんでいます。

青年座は、創立から、亡父も応援していた老舗劇団で、この劇団の役者力と、舞台スタッフ力には、いつも感服するのですが、どこでも、負の要因はあるものなのか、会場スタッフが、その劇団力に、水を差す場合が、多々散見されて残念でなりません。

今日は、3点、その負の要因がありました。

誰も、自由席は、席番号がないところだと教えてくれないので、しばらく知らずに、指定席に友人と座っていました。その後、来る客がほとんど指定席の方ばかりで、不安になり、会場係りの男性に質問したところ、「自由席は、席番のないところです」の返答。でも、どこを見渡しても、席番のある椅子ばかり。
「どこが自由席ですか?」と聞くと、「今、ご案内しますから」としばらく待たされた後、反対側の係員に、「そっちに二人座れますか?」と聞いて下さり、反対側に移動したら、また何人も自由席の方が、前にいらしたので、自力で、後方の自由席に行こうとしたら、「順番にご案内しますから、待って下さい」と叱られてしまいました。(笑い)

反対側の女性係員の方が、気を利かせて、我々の席を確保してくださっていたらしく、無事、二人並んで座れましたが、危うく、離れ離れになるところでした。

入口の係りの方が、一言、「自由席は、席番のない所」と教えてくれていれば、そして、自由席が、あんなにテンデンバラバラな配置でなければ、もっと観やすい席に座れた筈でした。そして、悪いことは重なるもので、やっと座った自由席の、すぐ近くに、座った会場係りの男性が、芝居が始まって程なく、安眠されて、その寝息で、津嘉山さんの声がよく聞こえない席になりました。(笑い)

それと、もう一つ。開幕前から、役者が板付きでいるせいか、携帯などの注意事項がないままに、芝居が始まったために、何度も携帯が鳴っていました。

そんなこんなで、芝居の感想の方は、ネタバレに書きます。

とにかく、この劇団、会場スタッフ力の向上が急務です。せっかく、素晴らしい演劇を発信できる劇団が、これでは、水の泡で、役者さんもお気の毒でなりません。

ネタバレBOX

この芝居は、昔、シドニー・ポワチェの映画で観た気がします。

黒人と白人の差別が今よりずっと酷かった時代の、一組のカップルと、その両親の葛藤の物語でした。

主演の津嘉山さんが、台本と演出もされて、よくまとまった劇に仕上がっていましたが、やや場転が多すぎるきらいは感じました。

ただ、回り舞台の転換は鮮やかで、舞台スタッフの技術は大したものだと感心はしたのですが。

一部の役者さんに、セリフのとちりなどがあり、やや残念な点はありましたが、両親役や、神父役などの、熟練役者さんの好演で、深く考えさせられる名作になっていたと思います。

最後は、映画とは異なり、ハッピーエンドではなく、津嘉山さんの提示された問題定義として、最近のニュース音声が流れ、差別や偏見が、今でも、世界の悲劇の根源であることを思い知らされ、感慨深い思いになりました。
悲しみを聴く石

悲しみを聴く石

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2015/12/11 (金) ~ 2015/12/21 (月)公演終了

満足度★★★★

「カラーパープル」に似た衝撃
ほぼ那須さんの一人芝居、独壇場的な芝居でした。

昔から、かなり拝見している女優さんですが、今回改めて、凄い女優力だなと感服しました。

寝たきりの夫を、中田さんが演じていると知っているので、ラストの予想は、だいたいつくのですが、それでも、一定の衝撃はありました。

計り知れない宗教観の主人公とはいえ、テーマが、男女の愛なので、その点では、普遍的に、理解できる部分は多々あるので、退屈せず、集中して観られる舞台でした。

那須さんと上村さんの、作品選びの目の確かさに、感心すると同時に、次回作がまた楽しみになりました。

アフタートークのゲストの小川さんの声が小さく、話されている内容があまり聞き取れなかったのだけは、ちょっと残念でした。

ネタバレBOX

悲しみを聴く石の謂れが那須さんの台詞で語られるまでは、ずっと舞台には、しゃ幕が掛かっていて観客は、隙間からその小部屋を覗き見ているような感覚でした。

ほぼ那須さんの一人舞台さながらで、寝たきりの夫に、結婚からこれまでの経緯や秘事を告白するイスラムの女の悲劇が、まるで、紙芝居でも観るように、順次、観客の脳裏に、伝達投影されて、胸に応えます。

レイプされないように、部屋に入ってきた少年兵に、咄嗟に、自分は娼婦だと嘘をつく妻は、二度目に彼が、自分を買いにやって来ると、まるで解放されたかのように、彼との性のやり取りを享受します。大奥で、年若い将軍を指南する女性を想起して、国や宗教が違っても、女は万国共通の性があるように感じました。

女性の人権などない地域で、夫にも、常に暴力的に支配されていたにもかかわらず、寝たきりで意識のない夫を見ていると、情が移り、また、もしかして、夫が蘇生したら、人間が変わっているかもなどと、あり得ない想像をする姿にも、万国共通の女の悲しさがにじみ出ていて、切なくなりました。

昔、アフリカの女性の悲劇をテーマにした「カラーパープル」を読んだ時と同様の衝撃がありました。

自分は、女がずいぶん強くなった時代の日本に生まれて、幸せだなとつくづく思ってしまいました。
ビーイング・アライブ

ビーイング・アライブ

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2015/12/11 (金) ~ 2015/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★

久しぶりの観劇、ムーブメントに進化を感じた
再演モノが続いたりして、久々のワンツーワークスでした。

何度も、観ている、古城さんの常套手段なのに、また油断して、しばらく勘違いしました。このあたりの、プロの脚本家の手腕は、お見事です。

始まる前は、急過ぎて、めまいがしそうな八百屋舞台も、進行につれて見慣れました。

欠陥マンションにも、老いの独り暮らしにも、同じように慣れて行くのかもしれません。

ニール・サイモン風だったり、星新一風だったりの、シチュエーションを使って、見事に、古城風アレンジの、今の日本の現状を色濃く投射した、名戯曲の構成に、呻りました。

お決まりのムーブメントも、内容に即した、シュールな動作の演出が、従来の、先にムーブメントありきのマンネリを打破していて、感心しました。

役者さん達、皆さんお上手だし、もう少し、一般に知られてほしい劇団だと、強く思います。

ネタバレBOX

最初、会話のない中年夫婦かと思って、観ていました。

何度も、この劇団の、同一セットで、多数の場所を設定する技法は、熟知していたのに、またもや、途中まで、騙されました。(笑い)

チラシから想像したストーリーとは違って、かなり、現実社会を反映した、リアルな内容の芝居でした。シュールに見えそうな設定もあるのだけれど、多くがリアルなせいで、どれも、現実的に見えてしまいます。

だから、お互い、伴侶に先立たれ、子供達にも、距離を置かれている、中高年男女の悲哀が、胸に応えます。

上下の階に住む男女が、男が開けた床の穴を通して、だんだんと、心の交流を深めて行き、ニールサイモンの芝居だったら、いづれこの男女は、再婚するか、セカンドパートナーにでもなって、ハッピーエンドになるのでしょうが、古城脚本では、そうはなりません。

今の日本の、暗部をうまく、料理して、こういう芝居に昇華させられる名脚本家の手腕に、恐れ入りました。

ただ、ひとつ、それはないよと思ったのは、かれんが母親に送る宅配便の中身。最初は、独り暮らしの母親に、カップ麺を送り、後半で、母の気持ちを慮って、雑多なプレゼントに変わるという趣向は、やや狙った脚本に思えてしまいます。まさか、嫌がらせでもない限り、娘は、母親にカップ麺なんて送りませんよ。レトルト饂飩だったらあり得るけれど。また、息子が、父親になら、納得もできますが…。
その点に関しては、やはり作者は男性だから、女心がわからないのかなと、ちょっと思ってしまいます。

文乃が、昔の写真をみつけて、思い出に耽るシーンで、友人二人には、若い原田さんと森山さんを当てたのも、お見事!これで、文乃が、昔の友達と今は疎遠になっている淋しさが伝わり、ジンとしてしまいました。

最後は、文乃は、意を決して、マンションを立ち退き、氷室だけが、残されて、老いて行きますが、息子にそっくりに成長した孫が、出張ついでに様子を見に来るラストには、ホロッとさせられました。

登場人物誰もが、真に悪意の人がいず、誰も、できる範囲で、家族思いだったのには、救われました。

私の周囲には、何人も、家族崩壊した知人がいますので、そういう部分が、古城流寓話たる所以かもしれません。
お召し列車

お召し列車

燐光群

座・高円寺1(東京都)

2015/11/27 (金) ~ 2015/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★

演劇としての味付けが進化
燐光群観劇は、久しぶりでした。

社会派、坂手さんの、洪水のような情報伝達舞台に、ちょっと辟易した時期があったもので…。

でも、今回は、テーマにも興味があり、渡辺さんの舞台も、拝見したくて、急遽、昨日チケットを予約して、行きました。

相変わらず、坂手さんの知識を、てんこ盛りにした台詞が語られる芝居ではありましたが、以前と違って、演劇としての娯楽要素も兼ね備えた、構成の妙に感心しました。

ご主人が亡くなられた当初の舞台では、お疲れが見えて、心配していた渡辺さんも、昔ながらの、ベテラン演技の真骨頂を見せて下さり、安心しました。

ただ、皇室への皮肉な台詞に、承服し兼ねる部分もあり、個人的には、その部分が減点要素になりました。

途中、舞台運びが、中だるみしたのも、やや残念な部分です。

ネタバレBOX

ハンセン病については、最初に認識したのは、「砂の器」でした。

その後、子供の通う学校の近くに、全生園があったことから、患者さんが作った作物などをご馳走になる機会があり、知らなかった差別の実態を、講演会などで伺って、胸を痛めていました。

でも、胎児の標本とか、「お召列車」の隠語のことなどは、この芝居で初めて知った知識でした。

今の政府の数々の所業や、日本の歴史の闇をうまく織り交ぜて、江戸時代の戯作者のような視点で、社会問題を、演劇として、昇華させて坂手さんの手腕に感服しました。

あの、幻のエンブレムも、小道具として使用されていて、これも坂手さん流の皮肉かなと、思いました。

アンドロイド添乗員が秀逸。

「俺たちは、既に、ロスタイムを生きている」という台詞には、共感すると共に、戦慄が走ります。

今、政府の肝いりで、福島に建設されている、寄宿制の学校は、この芝居に出て来る、新良田教室と、同じ意味合いにはならないのでしょうか?

安保法案の陰に隠れて知らない間の決まってしまった癌に関する機密保護法なども、ハンセン病の患者さんと、同じ苦汁を、被災者の人達に与えるのではないかと、心配になります。

皇室批判には、ちょっと納得できない部分もありましたが、坂手さんには、今後も、何も知らない国民に、少しでも、問題提起になるような芝居を書き続けて頂きたいと、強く思っています。
十二月大歌舞伎

十二月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2015/12/02 (水) ~ 2015/12/26 (土)公演終了

満足度★★★★

中車父子と二人のお三輪に目を細める
久しぶりの「妹背山」の通し上演で、同行の友人の、「七之助と玉三郎が観たい」のリクエストにも適うことから、夜の部を観劇しました。

改築後の3階席は、以前以上に、窮屈な席で、観劇環境の劣悪さには閉口しましたが、二人のお三輪を同時に観られたことと、初女形の中車さんの健闘ぶりと、團子君の飛躍を目にできたことは幸せでした。

やはり、舞台に、玉三郎さんが登場すると、空気が一変します。
彼が、苦心惨憺、愛情深く、後進を育てる努力をしてくださっていることに、58年の歌舞伎ファンとして、敬意を表します。

ネタバレBOX

元々が、世話物要素が一切ない「妹背山」なので、あまり、内容的に面白さは少ないのですが、それでも、七之助と玉三郎が、それぞれ、演じるお三輪に、焼きもち娘の可愛らしさが表出され、時々笑いも起こる、和やかな客席風景が成り立っていました。

前にも同じ役を演じた松緑に破格の進歩を感じました。

松也は、容貌には問題ないのですが、もう少し、立ち方に、歌舞伎役者としての、居ずまいを身につけてほしいものだと感じます。

玉三郎さんに、やりなさいと任命されて、覚悟を持って取り組んだという、中車の、豆腐買おむらは、大健闘していました。
あれだけ、映像のお仕事で忙しいのに、いつ稽古されたのかと驚くほど、歌舞伎の所作をどんどん自分のものにされていて、やはり、血脈のなせる業かと感心しました。

息子さんの團子君も、歌舞伎の子役が演じる中では、かなり重要な役どころを、愛嬌たっぷりにそつなく演じて、お見事でした。

中車さん父子が、歌舞伎界に投じた一石の重みが、効力を発揮し始めていることを実感し、古くからの歌舞伎ファンとして、嬉しくなりました。
ミュージカル『アラジン』

ミュージカル『アラジン』

劇団四季

電通四季劇場[海](東京都)

2015/05/24 (日) ~ 2023/01/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

最高キャスト観劇に感涙
この日を待っていました。

昔、「ライオンキング」のヤングシンバで、度胆を抜かれた名子役の海宝さんが成長されて、また四季の舞台で、アラジンを演じて下さるなんて、あの時誰が想像したでしょう!

海宝さんがアラジンをやる、たぶん、参加は、11月以降という情報を耳にした日から、一か八かで、この日のチケットを購入し、神に願って、出会えることを待ち望んでいました。

そうしたら、何と何と、海宝アラジン、瀧山ジーニー、岡本ジャスミンという、奇跡のような組み合わせのキャストで観られて、至福の観劇タイムとなりました。

見目麗しく、華がある主役コンビで、この作品を観られたことは奇跡のようです。この組み合わせを目に焼き付けたいので、今後は、観ないことに決めました。(笑い)

ネタバレBOX

海宝さん、とても、遅れて参加したとは思えない、完璧なアラジンでした。

ジャスミンの岡本さんも、美しいし、キュートだし、申し分なし。

昔、海宝君の「ライオンキング」を一緒に観た息子と二人で、終始感激しまくりました。

ジーニーのパフォーマンスの素晴らしさ、アラジンの友人トリオの歌とダンス、本当に、随所に、楽しいミュージカルに必須なシーン満載で、大人から子供まで、誰もが心から楽しめる、素敵な名作だと、改めて、ディズニーミュージカルの神髄を観た気がしました。

できるだけ長く、海宝さんのアラジンが続くことを期待しています。
魔法の絨毯のシーン、心底うっとりしました。
PHANTOM〜THE UNTOLD STORY

PHANTOM〜THE UNTOLD STORY

Studio Life(スタジオライフ)

シアターサンモール(東京都)

2015/11/11 (水) ~ 2015/12/07 (月)公演終了

満足度★★★★★

山本エリック進化
初演の山本さんのエリックを観ていましたが、今回の進化には驚かされました。
Auberチームのチケットを買った筈なのに、違うエリックかと疑う程、完全に山本芳樹色を消していました。

以前のキャストとは違った、関戸マドレーヌ、奥田ジャベール、笠原ジョバンニ…、皆さん、各自の色を出して健闘されていて、この劇団の役者力の進化も同時に感じました。

エリックの母、マドレーヌの心情の変化に、いつも泣かされます。

「オペラ座の怪人」ファンの皆様に、是非ご覧頂きたい名作だと思っています。

ネタバレBOX

山本さんの手先の動きの美しさ、背中での演技の奥深さに感動しました。

映像と、舞台が、しっくりとして、舞台芸術ならではの美しさも堪能できます。

スタジオライフの役者さん、アンサンブルに至るまで、演技力にかなり磨きが掛かっていました。

一緒に行った友人が、すっかり魅了されて、パート2のHチームの予約をして帰りました。

長く、この劇団の財産の一つにして頂きたい演目です。
ミュージカル『アラジン』

ミュージカル『アラジン』

劇団四季

電通四季劇場[海](東京都)

2015/05/24 (日) ~ 2023/01/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

楽しめました
例の母音発声法が大の苦手なので、四季は敬遠することが多いのですが、ディズニーミュージカルは、四季でなければ観られないので、半年前にチケットを買って、今日を首を長くして待ちました。

お目当てのアラジンではありませんでしたが、勝地君似の童顔のアラジンには好感が持てました。

ジーニーは、たぶん、評判の良い瀧山さんで、ブロードウエイに比べて、スリムで、筋骨逞しいジーニーでしたが、観客を舞台世界に誘うエンターテイナーとしての手腕に優れ、ダンスも切れがあって、ワクワクしました。

心配していた母音発声も、気になるのは、ジャスミン役の三井さんだけでしたので、生理的に許容範囲でした。

ディズニーミュージカルの中でも、構成的に大変優れているし、これはどんなに四季が苦手な方にも、おススメしたい舞台です。

お目当ての海宝アラジンに出会えるまで、何度か観に行きたいと思っています。

ネタバレBOX

最初の市場のシーンの、流れるような展開には、心が躍りました。

アラジンとジャスミンが、魔法の絨毯に乗って、星空を飛ぶシーンは、夢見心地になります。

できたら、もっと美しく愛らしいジャスミンで観たいけれど、この劇団で上演する限り、容姿はあまり期待しても、無理かなと諦めています。

トニー賞のパフォーマンスで、ジーニーのダンスシーンを観て、これは絶対生で観たいと切望していました。夢が叶って、嬉しく思います。

アラジンの友達トリオの、演技もダンスも愉快で、久しぶりに、四季ミュージカルで、ワクワクさせて頂きました。

心なしか、浅利さんがいなくなって、俳優さん達が生き生きと演じてるように思えたけれど、気のせい?
からゆきさん

からゆきさん

劇団青年座

紀伊國屋ホール(東京都)

2015/11/14 (土) ~ 2015/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

さすが青年座、芝居の要素を満たした力作
期待以上の作品で、申し分なし。
こんな素晴らしい演目があったのなら、息子の卒業公演、「マニラ瑞穂記」ではなく、こちらにしてほしかったと、個人的に恨みがましく思いました。(笑い)

息子の同期生の安藤瞳さんの、貫禄に、感嘆!
養成所時代から、既に、女優としての才気に溢れていましたが、数々の舞台経験で、先輩達と互角に渡り合っていて、嬉しくなりました。

いつの世も、国は、平気で、国民を利用し、使い捨てにする。

題名から、単なる史実劇の趣きかと、思いきや、そういう、国に棄てられる民という側面と、女と男の関係性も、見事に描いた二重構造の、芝居としての要素が全て詰まったよくできた演目でした。

演出と、演技力には、何も文句はないし、またしても、この劇団の底力を思い知りました。
乃木将軍と、東郷大将を、あえて、新人に演じされたのも、作者の意図を的確に捉えた演出として、実にお見事でした。

ただ、アカネのメイクは、やや現代的過ぎる気はして、その部分が唯一残念に思いました。

好きな役者さん揃い踏みで、誘った友人が、益々、青年座に心酔して帰って行きました。

ネタバレBOX

「マニラ瑞穂記」や、「サンダカン八番娼館」など、この時代の、娼館を舞台にした演目は何度か観ましたが、これほど、良くできた芝居を観るのは初めてでした。

テーマに、普遍性があって、全く古さを感じないのです。

たくさんの登場人物を、それぞれ、性格もエピソードも、丁寧に描いた原作。そして、その描き方が的確な演出。人物に命を吹き込み、自分の言葉として、台詞を言える、名優たち。

観劇中、ずっと、この劇団の、胸のすくような実力に、感動しまくってしまいました。

そして、それと同時に、この作品の奥に流れる、日本人のバイタリティと、不幸を笑い飛ばす根気と、気質の美しさにも、感動を頂きました。

どんな時代になろうとも、日本人は、この類稀な、根気と、人の良さを武器にして、独自性を発揮して、生き抜いて行かなきゃと思わされる作品でした。

椿さんの、新派の舞台を観るような、艶っぽさと、悲哀の表現力には、同性の私でも、クラクラ。網島さんの、男の本性の体現っぷり。田上さんの可憐さ。石母田さんの、男の色気…。とにかく、全ての役者さんが、魅力全開で、こんなに粒ぞろいの劇団は、他にないと思います。

これからも、益々、青年座の芝居が楽しみになる、名舞台でした。
おせん

おせん

サスペンデッズ

シアター711(東京都)

2015/10/30 (金) ~ 2015/11/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

意表をつく構成の妙
時代劇かとばかり思いましたが、さにあらず。

隠れたテーマがほの見えた気がします。

大学時代、西鶴研究の第一人者のゼミでしたので、「樽屋おせん」は既読でした。
詳細は覚えていないけれど、「好色5人女」中、一番気の毒に感じた覚えがあります。

サスペンデッズの3人の役者さんで、どういう風に演じるのか興味がありましたが、そう来ましたか!

時代劇に見えて、しっかり現代劇ではという印象ですが、とにかく、3人の演者としての進化も観られ、とてもエキサイテイングな舞台運びに、ワクワクしました。

今後も、益々、この劇団、見逃せないなという思いがしました。

ネタバレBOX

この劇団には珍しく、開演前に、キャストの3人が、会場で、席の案内や飴を配っていました。お客さんとも、普通に、世間話などもしています。

それが、幕が開いた瞬間、舞台に移動して、登場人物になりきります。

その切り替えがお見事。

どうやら、この三人は、人間ではなく、人形でした。

人形遣いに繰られて演じる人形ですが、おせん役の人形が、稽古を抜け出し、逃走してしまって、残された、男の人形3体は、思案にあぐねているところ。とりあえず、3体だけで、稽古を続けようということに決まり、一人が、何役も兼ねて、「樽屋おせん」の芝居が進行して行きます。

こういう、趣向のせいで、佐藤さんがおせんを演じることに何の違和感もないのです。どなたのアイデアかはわかりませんが、この趣向はお見事でした。

いつもは、人形遣いの意のままに、役作りなどもいい加減に演じていた3体が、稽古を進める内に、役の想いが伝播して、だんだんに、演じることへの自主性が芽生えます。

もしかすると、これは、この劇団の、演劇論の提示なのではないかと感じました。

サスペンデッズの描いたおせんは、歌祭文のおせんでも、西鶴のおせんでも、青菓のおせんでもなく、現代のいおせんとしての決断をします。

不義を悔やんで、自害するのではなく、男に振り回される人生はまっぴらだと、今の場所から逃走するのです。

実に斬新極まりない、サスペンデッズおせんでした。

早替りの3人の役者さんの熱演が、とても心地よく、こうして、心底演劇を愛してやまない方々の舞台は、私にとっては、何よりの清涼剤となりました。 

佐野さんの瞬時の二役には、大笑い。ちゃんと、それでも、役になりきっていて、感嘆ものでした。ただ、欲を言えば、早替えの衣装の襟が、ドウランで、真っ白になっていたのは、少し興ざめではありました。

この作品、歌舞伎で、中村屋兄弟と獅童さんで演じても、面白いかもしれません。
ミュージカル『スコット&ゼルダ』

ミュージカル『スコット&ゼルダ』

ホリプロ

天王洲 銀河劇場(東京都)

2015/10/17 (土) ~ 2015/11/01 (日)公演終了

満足度★★★★

才能ある男に惚れた女の弱みが哀切
フィッツジェラルドの本は読んだ記憶がなく、ロバートレッドフォードの「華麗なるギャッツビー」しか、観たことのない人間なので、ウエンツさんのスコットが適任かどうかは、判断できないのですが、何となく、ゼルダ役の濱田さんとの釣り合いが取れないような印象を受けました。

むしろ、中河内さんの方が、適任だったような気さえします。

でも、ウエンツさんの歌声は胸に沁みました。

コメディの方が向いていそうなウエンツさんですが、これからの舞台俳優としての成長に期待感を持たせる作品ではありました。

濱田さんのゼルダは、本当に愛おしくなる可愛さに満ちていました。

この作品の作家役の山西さんの存在感も、この作品に深みを増す要素になっていました。

中河内さんを中心としたアンサンブルのダンスが、美しく、ゼルダの思い出話の陰影をうまく表出する効果絶大でした。

才能ある男に惹かれて、自分を見失って行く、女の悲劇が哀切極まりなく、風前の灯のような美しさに、涙する観劇でした。

ネタバレBOX

ゼルダが入院中の精神病院が、彼女のスコットとの思い出話の度に、一瞬にして、幻想的な昔のシーンに切り替わる、舞台マジックが巧みでした。

さすが、鈴木裕美さんの演出力!

ウエンツさんのスコットは、もしかしたら、案外実像に近いのかもしれません。

でも、「華麗なるギャッツビー」のイメージがあるので、井上さんとか城田さんの方が、相応しかったような気もします。
台詞や歌はいいのに、立居振舞やダンスが、濱田さんには、引けを取ってしまうのが、観ていて、お気の毒な気さえしました。

夫に、知らない内に日記を盗用されてしまうゼルダの困惑には、私も、身につまされる思いがありました。
一部に異常な才能がある男は、とかく、他の面では、成長不良な性格をたくさん有していて、そういう男に惚れた女は、自分の存在を消して生きなければならないハンデを負いがちです。

ゼルダを監禁しながら、「華麗なるギャッツビー」を執筆したというスコット。精神を病んで初めて、自分の小説を書けるようになったゼルダの悲哀。彼女が、精神病院の火事で命を落とした事実は、知らなかっただけに、衝撃でした。
でも、どこかで、彼女は、偉大な小説家の妻としての人生を享受していたのかもしれません。

「パッション」と言い、男と女の仲は、複雑怪奇なものだと、思い知らされた気がしました。
ミュージカル『パッション』

ミュージカル『パッション』

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2015/10/16 (金) ~ 2015/11/08 (日)公演終了

満足度★★★

ちょっと難解だけど、レベル高し
ソンドハイムのミュージカルは、元々万人受けするタイプではありませんが、この作品は、特に、玄人受けする演目かもしれないと思いました。

井上さんの演技には、「アンナカレーニナ」を彷彿とさせるものがありました。

和音さんの背中の美しさと、シルビアさんの怪演並の名演ぶりにドキドキすること多々あり。

演技と歌唱力の確かなキャスト揃いで、舞台のクオリティは高いのですが、好みは分かれる演目だと思うし、明るいミュージカル好きな方には、奨めにくい作品かもしれません。 

両者にお気の毒な気がしたのは、後方席で車椅子で観劇されていた障害者の方と、一般客の方々。

難解な恋愛哲学のような作品で、ソンドハイムの、人物の心情を音符に還元したような、不協和音的なメロディの度に、障害者の方々の不安を煽るのか、静かな劇場に、度々、雄叫びが響く結果となり、作品に見合わない空気が生まれてしまったのは残念でした。

心から、ハッピーになれるような、スイングできるようなミュージカル作品なら、両者が楽しめたのでしょうに…。

ネタバレBOX

冒頭、いきなり、濃密なベットシーンから始まるので、ドキドキものでした。

後方席で構えていた双眼鏡を慌てて下ろすほどでした。(笑い)

和音さんの背中の美しさにはクラクラしました。

シルビアさんのフォスカが、まさにストーカーのようで、観ていてかなり怖いです。

でも、夫と子供がありながら、都合の良い時にだけ、自分との情事を欲する美しいクララへの欲情ろり、病弱にも関わらず、身を呈して付き纏う、フォスカの濃い愛情にやがて、靡いて行くジョルジュの心情は、やはり、女の私には、ちょっと共感し辛い部分がありました。

出演者の力演を堪能したい方にはおススメですが、あまり、演劇に精通していない観客には、少し、苦痛かもしれないステージでした。
東京裁判

東京裁判

パラドックス定数

俳優座劇場(東京都)

2015/10/22 (木) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

改めて感じるパラドックスの力
再再演の舞台を観て以来の、観劇でした。

いつもの、狭い空間での上演が、緊迫感を作り出していたので、俳優座劇場での上演は成功するだろうかと、心配しながらの観劇でした。

開幕前には、左右に、常時置かれている木材などが立てかけられていて、やはり、この作品には相応しくない劇場空間ではと危惧しました。

ところが、始まってみると、嫌がオウにも、中央の5人に、気持ちが集中して、知らない間に、その木材などは、目に入らなくなりました。

野木さんの、筆力、構成力、演出力と、5人の役者さんの力量で、東京裁判の弁護団しか、視界に入らなくなるなんて、これぞ、パラドックスの力技だと、感嘆するばかりでした。

ネタバレBOX

以前観た時より、整理されていた印象を受けました。

5人の、出自や体験が、それぞれ、露呈するシーンが、かなりカットされていたと思います。

それによって、芝居の論点がずれず、ただ裁判の弁護手法に重きが置かれる舞台進行になって、観る側にも、思考停止にならない配慮があったと思いました。

以前観た時よりも、終戦時の知識が増えたせいか、話に出る人物の経歴や人となりなども、わかって観ているので、5人の日本弁護団の心情に寄り添って、舞台を見守ることができました。

何度拝見しても、凄い!と敬服してしまう、演劇作品です。

ただ、一つ残念だったのは、私の位置からは、背中しか見えない水越役の植村さんの台詞が、囁く時では、ほとんど聞き取れなかったこと。
彼の演技は、大好きなので、より、残念に感じました。
ダブリンの鐘つきカビ人間

ダブリンの鐘つきカビ人間

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2015/10/03 (土) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★★

後藤さんの凄さを痛感して、嬉しくなる
以前、中越さんがおさえを演じた舞台を観ているので、彼女以上のおさえは観られないだろうと、観劇を躊躇したものの、吉野さんの演技を観たさに、行きました。

CDに参加して頂いた頃は、まだ駆け出しの俳優さんでしたが、ここまで、存在感ある、中堅役者さんに成長されて、感無量でした。

篠井さんとのコンビネーションも抜群!

真奈美役も、以前の土屋さんの舞台向きでない発声法には、辟易した思い出があるので、今回の千弘さんのしっかりとした演技には、ほっとさせられました。

こういう作品に、村井さんや、篠井さんのような、重鎮がご出演になるのも嬉しいし、お二人が、真摯に役に向き合って演じられている姿にも、好感が持てました。

存在感の薄い役者さんと、ベテランの役者さんのアンバランスは、やや気になりましたが、全体的には、大変、楽しい舞台になっていました。

小西さんの、コメディ役者の資質にも、驚きます。

でも、一番、驚いたのは、あの、諸悪の根源政治家を、揶揄する台詞があったことでしょうか。後藤さんのような演劇人が、あちこちで、こういう台詞を書いて下さったら、対岸の火事と思っている、たくさんの日本人を啓発することに繋がるのではと期待してしまいます。

時々、役者として、登場する、後藤さんのラフな佇まいには、本当に、心が癒されて、感謝します。

ネタバレBOX

マギーさん扮する、ハンバーガーショップの店員に、篠井さん扮する、シスターが、マッチを所望するやり取りが、とにかく愉快でなりませんでした。

前回の公演と違って、個性派の役者さんが少なくなった分、舞台の弾け方は、やや中途半端でしたが、村井さん、篠井さん、マギーさん、吉野さん、小西さんの好演で、ところどころ、魅せる舞台になっていたのが、救いです。

童話仕立てでいながら、いろいろ考えさせるところのある作品で、シェークスピアの「真夏の夜の夢」にも、共通するような深みのある作品。今後も、いろいろなキャストで、上演し続けてほしいなと思っています。
マンザナ、わが町

マンザナ、わが町

こまつ座

紀伊國屋ホール(東京都)

2015/10/03 (土) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

意義深い上演、鵜山演出最高!
恥ずかしながら、井上戯曲に、こんな名作があったことを今まで知らずにいました。

内容も知らずに、キャストの組み合わせの妙に惹かれて、チケットを買いましたが、これは、見逃さずに済んで、大正解でした。

日系人も、強制収容所に軟禁されていたことを、どれぐらいの日本人に周知されているでしょうか?

このどうしようもない、政権政治の時代だからこそ、こういう舞台を観て、考えることが必要だと、改めて、舞台芸術の凄さを体感できる作品でした。

出自の異なる、5人の女優さんの競演が、鵜山演出で、光を放ち、日本人全員に観てほしい、珠玉の舞台になっていました。

やはり、井上戯曲は、鵜山演出だと、素晴らしい!!懐かしい童謡も、胸に沁みました。

いつまでも、日本人であることを誇れる国であってほしいと、切望させられる舞台作品でした。

ネタバレBOX

5人の女優さんの配役がドンぴしゃり!!

土居さんの、高潔なジャーナリスト振り、熊谷さんの元気に満ち溢れた浪曲師、笹本さんの、お茶目で、真面目なシンガー、吉沢さんの、美しく、気高い、お嬢様育ちの女優、そして、奇術師と自称する謎の女性、伊勢さん。それぞれが、持ち味を生かした演技をされて、その競演を見守るだけでも、ワクワクしました。鵜山さんの演出でなければ、きっと、こうはならなかったでしょう。
改めて、鵜山さんの演出力に、脱帽しました。

土居さんは、高潔で、純粋な女性ジャーナリストを好演されていましたが、日頃、長台詞の舞台に慣れていないせいか、時々、台詞を咬むことがあったのは、唯一残念でした。

5人のやりとりが、コメディ仕立てで、和やかに進行しつつも、語られる内容はシビアです。

土居さん演じる、ソフィア岡崎の、ルーズベルトへの嘆願書の文面には、固唾を呑んで聞き入ってしまいました。
特に、ルーズベルトに対して「、あなたは、ヒトラーと双子です」というところ。
私も、ある人物に向けて、「あなたも、ヒトラーと、ルーズベルトと、三つ子です」と断罪したい思いに駆られました。

どこの世界の為政者も、所詮相似型人種なのかしら。

この物語の中では、日本人を監視研究するために、仲間の振りをして、4人の日系人に近づいた、伊勢さん扮する、中国系アメリカ人の女性が、一緒に暮らして、一つの芝居を作り上げていく過程で、彼女達の、人間性に感化されて、ソフィア岡崎が、政治犯専門の厳しい収容所送りになるところを、3人と協力して、阻止するという、夢物語のような結末でした。

井上さんの、戯曲は、こうして、シビアな現実や歴史を、笑いに塗しながら、少しの夢や理想を付け足して、独自の、素晴らしい演劇に作り上げてしまう技術が、本当に素晴らしい!と、改めて感じました。

これからも、その井上戯曲の志を、表出できる、鵜山さんの演出で、ずっと、上演して頂きたいと、強く願います。

ワンピース

ワンピース

松竹

新橋演舞場(東京都)

2015/10/07 (水) ~ 2015/11/25 (水)公演終了

満足度★★★★★

あっぱれ!猿之助企画力
いやあ、驚きました。

隠れワンピースファンとしては内心心配していたのです。

でも、「ど根性ガエル」の実写版の上を行く、成功作に仕上がっていました。

やっぱり、スーパー歌舞伎の熟練横内脚本は、手慣れて、ツボを心得ているし、猿之助ルフィは、如何にも、歌舞伎調なれど、演出家、企画者としての彼の技量は尋常ではありません。

福士さんのエースが素敵過ぎて、卒倒しそうになりました。

隼人さんも、カッコよくて、さすが梨園の貴公子だと、更なる成長が楽しみでなりません。

スーパー歌舞伎二度目の浅野さんも、愉快でした。

「白浪五人男」風な演出や、歌舞伎ならではの手法を使った、ルフィの芸当。
かつて観たことのないど派手な宙乗り…。

全てが、歌舞伎を知りつくした猿之助の手腕によって、あの人気アニメをすっかり、歌舞伎バージョンに変身させてしまったのですから、恐れ入り屋の鬼子母神です。

老若男女、日本人も、外国人も、「ワンピース」知らない人も、とにかく全ての演劇ファンに体感して頂きたい、素晴らしいエンタメステージでした。

できることなら、後5回くらい、観たいです。

ただ一つの注文は、新感線のような、キャスト表が載った当パンがあればいいのにと思いました。歌舞伎役者と、「ワンピース」と、両方に精通している観客は、僅かでしょうから、誰が何を演じているかが、パンフを買わない人には、ほとんどわからないでしょうから。

ネタバレBOX

新猿之助初のスーパー歌舞伎は、やや思いだけが先行して、歌舞伎には精通していない前川さんや、蔵之介さんを起用したことで、ちょっと失敗感がありましたが、今回は、横内さんが脚本に復帰して、やはり、舞台構成が、手慣れていて、安心感がありました。

ワンピースの仲間達は、最初と最後に登場するだけで、その面々が、別の役で大活躍する筋立ても洒落ています。

花道の真上を宙乗りするのは何度も観ましたが、一階席真上を斜めに上って行くなんて、初めての体感。その上、宙乗りしながら、猿之助ルフィー、歌うは、踊るは!
会場中、お祭り騒ぎで、楽しいの何の。

演出も、歌舞伎と、アニメのコラボの配分が抜群で、ルフィーの能力を、CGに頼るばかりでなく、昔ながらの、歌舞伎の技法で、表現する工夫も、実に楽しく、結実していました。

白ひげの右近さんの風格、巳之助さんのスクワードの悲哀、浅野さんの義太夫口調の台詞やダンスの痛快さ、ため息が出るほどの福士エースの、舞台役者としての華、猿之助の遊び心のある早替り…。全てが、素敵で、小洒落て、気が利いていて、枚挙にいとまがないほどです。

二つの大きなセリをカテコの後、全員の出演者が、一気に降りて行く姿も、壮観でした。

全ての歌舞伎役者さんが、この凄いエンタメ作品に、無理なく同化されて、誰もが、観る者を魅了していて、感嘆の極みでした。

是非たくさんの方に認知して頂きたいので、映像化も切望します。

そして、これからも、「ワンピース」のシリーズ化を希望します。

今度は、隼人サンジの活躍ぶりとか、観たいですし。
この素晴らしき世界

この素晴らしき世界

ペテカン

あうるすぽっと(東京都)

2015/10/07 (水) ~ 2015/10/12 (月)公演終了

満足度★★★★★

やはりぺテカンは好き!
、やや作為的に過ぎる箇所は、何度か散見されたものの、基本的には、いつものぺテカンらしい、笑って泣けるハートフルコメディで、終始、心の和む観劇ができて、感謝しています。

この劇団の良いところは、真の嫌なタイプの人間が一人も登場しないところ。

そして、どんなに、有名な客演役者を呼んでも、役の上で、特別扱いをしないところ。

だから、舞台上で、描かれる世界に、真実味が増すのだと思います。

今回も、ややこしいけれど、基本的には、それぞれ、家族思いの3人兄弟を軸に、素敵な家族劇が構築されていて、嬉しくなりました。

いつまでも、続いてほしい劇団の一つです。

ネタバレBOX

披露宴の客である、阿蘇ゆきと、式場の係員の早乙女恵のキャラクター設定に、やや作為的な作り込み過ぎを感じなくもありませんでしたが、今回も、脚本演出の本田さんの温かい人間性が投影された、素敵な家族劇に、好感が持てました。

客演の、田中さんと、柳家喬太郎さんの役柄が、的確な配置で、ぺテカンの役者さん達の中で、悪目立ちしないのも、大変嬉しい、周到な作劇術だと、感服します。他の小劇場の作者には、是非見習ってほしいと思いました。

披露宴で、倒れる母親の姿を出さず、そこにいる演出にしたのも、秀逸でした。新婦とその兄二人の両親は、3人の記憶の中でしか登場しないので、若い父母として、舞台に登場するのみで、ぺテカンのベテラン、大治さんと、KAKUTAの桑原さんが演じました。このお二人の佇まいがとにかく、素敵でした。この二人の秀逸な夫婦像が、脳裏に構築されるので、披露宴でのドタバタ劇に真実味が増したと思います。

新郎の劇団メンバーを演じる、動物電気の小林さんと、帯金さんの、弾けた演技も愉快でした。特に、最後の余興のメーキャップが、ベリグッド!

こういう楽しい遊びに満ち満ちているので、この劇団のファンは、辞められないなと、改めて思いました。

最後の、全員での、演奏は、本当に感激しました。芝居のシチュエーション上も、最高の見せ場になっていて、この劇団の底力を感じました。

いつもながら、斎田さんの演技力にも、うっとりしっぱなしでした。

どうか、いつまでも、このメンバー揃って、劇団を続けて行って頂きたいと切望しています。
CHESS THE MUSICAL

CHESS THE MUSICAL

梅田芸術劇場

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2015/09/27 (日) ~ 2015/10/12 (月)公演終了

満足度★★

コンサートで事足りる感
以前、2度、コンサートで観ていたので、本編上演を楽しみにしていましたが、結果から言えば、せっかくの名曲がありながら、ストーリー展開が冗長で、これは、むしろコンサートの方が、充実感があるなと感じました。

訳詞も、メロディに乗っていないので、特に多人数で、別の歌詞を歌うと、歌詞の内容を聞き取るのは至難の業でした。

アメリカとソ連の、二人のチェスプレーヤーの対戦が、開幕してから、何十分しても始まらないのには、さすがに閉口してしまいました。

枝葉末節を削ぎ落とした、コンサートバージョンでの上演の方が、この作品には、見合っているような気がします。

ネタバレBOX

コンサートでは、かなり始まりからすぐに、二人のチェス対戦のシーンになり、そこから一気にストーリーが加速したように記憶していますが、今回の上演では、一向に二人の対戦が始まらず、演劇作品として、稚拙な部分をかなり感じてしまいました。

冷戦時代の、国家の威信を掛けて、それぞれの国の思惑に翻弄される二人のチェスプレーヤーが、ハンガリー動乱で、やはり、悲惨な過去を経験しているフローレンスを巡っても、恋の駆け引きをして、チェスと、恋との二重の、葛藤が描かれてしかるべきなのに、どうも、人間描写が表層的で、3人の心の葛藤が上滑りした印象でした。

アメリカのプレイヤーの恋人だったフローレンスが、何故、対戦相手である、ソ連のァナトリーに惹かれたのかも、唐突な展開過ぎて、今一つ感情移入できませんでしたし、何故、彼女が、彼に傾斜したのかも、理解できない部分がありました。

せっかく、「アンセム」を始め、佳曲が揃っているのだし、歌唱力のあるキャスト揃いなのですから、この作品は、コンサート形式で、上演した方が、成功するように思います。

このページのQRコードです。

拡大