Wee~アリス達のちっちゃな奇跡~
CHANK.
ワンズスタジオ(東京都)
2011/03/11 (金) ~ 2011/03/13 (日)公演終了
満足度★★★★
これなら、子供連れでも安心して見せられる
長男に勧められ、急遽観に行きました。
昨年来、コリッチでいろいろ社会勉強させて頂き、信頼できる口コミは家族発に限ると体感しましたので、期待して観劇しました。
本当に、心がほっこりする素敵なステージでした。
構成にも工夫と知恵が感じられ、厭きずに、展開を注視することができます。
オリジナルミュージカルですが、なかなか佳曲もあり、何より、狭い劇場の使い方が上手でした。
小道具にも、お金を掛けない手作り感に好感が持てます。
ちょっと哲学的だけれど、子供が観ても難しくないし、どこやらの歴史あるオリジナルミュージカル劇団や、老舗の劇団のファミリー向けミュージカルより、ずっと伝えたいことが明確で、おざなり感がなく、笑顔で楽しむことができました。
ただ残念なのは、ベテランアニメ声優のゲスト出演の女優さん。
他の若いメンバーの全力投球の雰囲気と違和感があり、彼女が登場すると、世間によくある子供騙し芝居のマヤカシ臭を若干感じてしまいました。
若いメンバーだけでやった方がずっと爽やかだった気がしなくもありません。
ネタバレBOX
「不思議の国のアリス」がベースになっているけれど、各国の女性が登場し、作者の博識ぶりが、嫌味でなく、作品にアクセントを加えて、大人でも、子供でも、出典や歴史を知る人も知らない人も、それどれのスタンスで、楽しめる、技巧に富んだ作劇でした。
先日観た「トップガールズ」のファミリー向けテイストと言った感じの結構レベルの高い芝居構成で、全体を通して、気がきいていました。
小劇場で、安心して子供を連れて行ける舞台にはなかなかお目に掛かれませんが、これなら、安心して家族で観劇できそうでした。
震災で、中止になった公演の再演とのこと。もっと、練って、長く、全国で上演して頂きたくなる作品でした。
ゲゲゲのげ ~逢魔が時に揺れるブランコ~
オフィス3〇〇
座・高円寺1(東京都)
2011/08/01 (月) ~ 2011/08/23 (火)公演終了
満足度★★★★
改めて、えりさんの凄さを思う
レストランで、たまたま、この舞台の構想を熱く語るえりさんの想いを座り聞きして以来、観劇の日を心待ちしていました。
えりさんは、確か私と同い年。この作品は、27歳の時に書かれたそうで…。
いやあ、御見逸れしました。
私は、22歳で、放送作家新人賞の佳作を頂きましたが、その後、ラジオの仕事をし、27歳の頃には、普通の主婦で、子育て真っ最中でしたので、当時、同い年のこんな才気ある劇作家が世に出ていたことを知らずにいました。
もし、その時、書き続けていても、こんな凄い作品を物すことはできませんでした。
30年近い時を経ても、全く古さを感じない素晴らしいクオリティある作品でした。
松村武さん、以前からいい役者さんだと感じていましたが、今回益々好きな役者さんになりました。
茶飲め小僧役の女優さん、素晴らしい!と感じ、後で、お名前を確認してビックリ!家族とご縁が深い女優さんでした。加藤亜依さん、凄い存在感でした。
そうそう、加藤さんは、学生時代に、えりさんの目に留ったのだそうで…。
こういう、珠玉をみつける目も、えりさんは凄い才能があるのだと痛感しました。
中川君の歌唱は、やはりいつ聞いても魔法ですね。
ネタバレBOX
昔、流行った感じの手法の芝居でした。
でも、全く古さは感じません。昨日、50代のえりさんが書いたと聞いても、納得してしまいそう。そういう、確かなクオリティのある作品でした。
ただ、残念なのは、小学生達が集団で、ワイワイ騒ぐと、台詞も歌詞もはっきりと聞き取れなくなる点。1年もワークショップを繰り返したそうなので、もう少し、この部分を鮮明に観客に届ける工夫をして頂きたく感じました。
広岡さんが、八面六臂の大活躍で、大変そうでしたが、役を替わる所が、手際がよくないような演出をあえてしていて、そこが、ご愛嬌でした。愉快で、楽しかった!特に、えりさんと母が二人になっての顛末が刺激的!
鬼太郎の中川さんは、下駄での殺陣や、タップ、目玉親爺との腹話術的な声の変化等、歌はもちろん、全てにおいて、見せる芝居が卓越していました。
初演では、この役、誰がされたんでしょう?
今、観ると、中川君以外考えられないはまり様でした。
他には、若松さん、吉田さん、奥山さんの若手3人と、安定の村松さん、馬渕さんに目を引かれましたが、とにかく、茶飲め小僧の加藤さんは、才能満載の張り切り振りが、こちらまでエキサイトする高揚感を与えて下さって、今後のご活躍が益々楽しみになりました。
ストーリー自体の繋がりは今ひとつハッキリとはしないものの、誰かを失う喪失感は、痛いほど、胸に響く素敵な舞台でした。
いつもは好きになれない劇場ですが、舞台の設置が、客席を、いつになく、観やすくしていて、ありがたく感じました。
トロンプ・ルイユ
パラドックス定数
劇場HOPE(東京都)
2011/08/09 (火) ~ 2011/08/14 (日)公演終了
満足度★★★
パラドックスファンとしては、やや物足りない
今までは、いつも手に汗握る感じで、舞台に集中させられ、心が予断を許さない状況に追い込まれるパラドックス定数の舞台ですが、今回は、大変緩やかな時の流れで、音楽も心地良く、まさかの睡魔に襲われることしばし。
舞台構成は鮮やかでしたが、やや単調で、いつもの緊迫感がなく、これが、パラドックス初見なら、星5だったと思うのですが、私の個人的な、この劇団への期待度からすると、星は3ぐらいの感覚でした。
役者さんでは、植村さんが圧倒的に素晴らしく、彼には何度も感情を揺さぶらせて頂きました。井内さんも、いつもながらの安定の名演。
でも、他の役者さんは、いつもの、冷徹非情な名演がまだ目に焼きついてしまっているせいか、どうも、今回のような、人情、馬情の豊かな役柄は、任に合わないような印象を受けました。
小野さんは、なかなかチャーミングでしたけれど…。
ネタバレBOX
一言で言えば、情緒的に過ぎる印象を受けました。野木さんにしては、台詞に語らせ過ぎている感じがします。
人物が自分で語ってしまうと、観客は、人物の思いに想像を巡らす余地がなくなります。そうすると、舞台上の進行に興味が削がれてしまうと思うのです。
パラドックスの真骨頂の緊迫感が希薄なのも残念でした。ストーリー展開も、台詞も、構成も、最初から最後まで、一定のリズムで進み、波長が一定で、退屈になる部分が多すぎました。
その中で、植村さん演じる厩務員には、登場の瞬間から、心が奪われました。彼のこの役の映画が観たいと瞬時に思う程に…。
皆さんが、馬や、人間に瞬時に入れ替わり、その手際の良さは見事ではありますが、先日観た、サスペンデッズの「g」の牛と比較すると、馬としてなり切れていない役者さんが数人いらしたと思います。
いつも冷徹な感じの役がお上手な生津さん、加藤さん、西原さんは、どうしても、その手の役の印象が脳裏に焼き付いているせいか、人情や馬の情愛を感じさせて頂けず、そのせいもあって、今ひとつ、この舞台に感情移入することが困難になりました。
でも、皆さん実力のある男優さんばかりで、基本的に、まだパラドックス定数は、今後も楽しみな劇団であることには変わりありません。
個人的好みとしては、ドキュメンタリータッチのいつもの作風の方が、この劇団向きだと思いますが…。
皆さんの、競馬実況は、プロのアナウンサー並で、大変聞いていて爽快でした。
パール食堂のマリア
青☆組
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2011/07/29 (金) ~ 2011/08/07 (日)公演終了
満足度★★★
やや期待ハズレとマンネリ感
青☆組さん、観劇3回目。
これまでは、狭い劇場で、同好の観客層に囲まれて、一人異質な観客として、緊張感で観ていたせいか、張り詰めた空気の中で、舞台に否応なく同化せざるを得ない環境があったのですが、三鷹の広い劇場では、そういった束縛感もなかったせいか、やや緊張に欠ける観劇時間となりました。
だから、マンネリ感を感じたのは、きっと、個人的な私独自の理由によるのかもしれません。
でも、どうも、今回の舞台、制作サイドにも、悪い意味での慣れを感じてしまいました。
同じ役者さんが、いつも、似たようなキャラクターを演じるという点でも、ストーリーに作品の独自性を感じない点でも、一部の役者さんに、役になりきる気構えが足りなさそうに見えるのも、私には、全てパンチ不足に感じられました。
大西さん、木下さん、荒井さん、櫻井さんは、自然に役を生きていらして、素敵でした。
ネタバレBOX
またもや、猫と、ミカン。
最近、遭遇することが多く、個人的にちょっと食傷気味で、またか!と心が萎えました。
でも、大西さん演じる猫には哀愁があり、独白の場面は、詩的で、照明の程好さと相俟って、魅入ってしまいました。
松田が、史子と結婚できない理由を語るシーン、生理的に不快でした。
たぶん、これは、青年団の常套手段の観客騙しの手法で、作者が描きたかったストーリーではないように感じられたもので…。(これは、私にとっての観劇アレルゲンなので、被害妄想的過剰反応かもしれませんが)
この作品、今回のキャストではなく、もっと実績のある役者さんで上演することがあれば、もう一度観てみてもいいかなと思っています。
【全ステージ無事終了!ご来場ありがとうございました】みきかせプロジェクトvol.3 「流星群アイスクリン」
みきかせworks
ワーサルシアター(東京都)
2011/08/03 (水) ~ 2011/08/07 (日)公演終了
満足度★★★★★
みきかせ観点では、あずきに軍配?
蜂寅さんファンで、今日はあずき組観劇。
初見の味わい堂々と共に、みきかせならではの工夫が生きた、観ても面白い作品でした。
個人的好みで言えば、こちらの組み合わせの方が、企画意図をうまく体現していたように感じました。
ネタバレBOX
蜂寅の作品は、私が過去に何度も様々な形で観劇している「シラノ」がモチーフになっていると聞き、たぶん、評価が厳しくなるような予測をしつつ拝見しました。
ところがどっこい、これが、なかなか、構成的にも、見せ方的にも、満足の行く出来栄えでした。
原作に色濃く出て来る戦争の背景をばっさりなくして、恋心にのみ焦点を定めたのが、ストーリーを散漫にするのを防ぎました。
その代わりに、永代橋の事故に設定を変えたアイデアがなかなかでした。
猫が「鶴の恩返し」よろしく、志乃の援護射撃をするあたり、昔観た、野田さん演出の「十二夜」を思い出したりもしました。あの時の本田美奈子さんの猫があまりにも愛らしかったので、まだら役の山口さんにも、より猫の愛らしさを表現して頂けたら、尚良かったように思いました。
普段から、あまり大道具やセットを使わない劇団なので、台本を持っていても、本公演と錯覚するほど、舞台に集中して、観てしまいました。
役者さんの何人かが、声を張りすぎて、台詞がややうるさく聞こえた点は残念に思いました。
最後をハッピーエンドにしたのも、好感触の一因だったかなと思います。
味わい堂々は、初見劇団でしたが、最初の登場から、興味を引かれ、大変見せ方がうまい団体だなと感じました。
リズム感のある台詞に、韻を踏むような工夫も凝らされ、岸野さんの脚本、演出の才を感じました。
3人の女優さんも、色が違い、それぞれ、個性的な魅力に溢れ、また本公演も拝見したいなと思いました。
特に、最後の方の、君と元カノの台詞のハモリ部分が秀逸!こういうセンス、大好きです。
ボクも愛嬌があって良かったのですが、時々、台詞を噛みそうになってハラハラさせられたのが惜しい!
4団体中、見せて聞かせて、魅せた筆頭は、味わい堂々かな?
ラムネに比べて、時間の長さを感じさせない面白さに溢れていたと思います。
g
サスペンデッズ
ザ・スズナリ(東京都)
2011/08/04 (木) ~ 2011/08/07 (日)公演終了
満足度★★★★
思い当たることが多すぎて…
大好きなサスペンデッズですが、今回は、周囲や世間で、あまりにも、思い当たることが多過ぎて、終始心がざわついて、落ち着いて楽しめない部分もありました。
でも、拝見する度、ここの役者さんの力量がレベルアップ著しく、そのことにまず感嘆します。
中でも、佐野さんの表現力の豊かさには、感動しました。
紅一点の田口さんの功績大の力作です。
それにしても、当パンの早船さんのご挨拶文には驚愕しました。そこに書かれていたのは、まさに、私が書いたかと錯覚ししそうに成る程、最近の私の思いと全く同じことが書かれていましたから。早船さんが、私と同じ境地にいらっしゃることを知れて、何だか少し、気持ちが救われました。
ネタバレBOX
我が家の周囲では、こういう胡散臭い集会が日常茶飯事ですし、知人や親族も、種々の役柄で、登場人物そっくりの人間を目にしているので、全く他人事には思えませんでした。
伊藤さん演じる橘の台詞の「美容師」を「役者」や「演劇人」に置き換えたら、似たような境遇の方は、このサイトにも少なからず出入りしていらっしゃるように思います。伊藤さんがビラを配っている姿表情に、知り合いの役者さんのバイト風景を想像してしまい、戦慄が走りました。
これは、早船さんの内部告発モノかしらと思ったりもしました。
詐欺商法とわかっていながら、その人間に惹かれて行き、「これ以上、悪事に手を染めない様に」と、監視目的を口実にして、恋愛感情を加速させる女心を、田口さんが丁寧に演じられて、つい感情移入して観ていました。
私の親友にも、こういう世間的に非常識な男に恋心を抱く女性が多々いるもので…。
以前も、鶏役を好演された佐野さんは、今度は、奴隷的執事ロボットと、牛を見事に体現!この類稀な表現力には、ただもう感服しました。
アイドルオタクの気弱な男性役の尾浜さん、三役早替わりで、それぞれの役を飄々と演じ分けた佐藤さん、以前より、独り身の男の悲壮感の表現が卓越した感のある白州さん、いつもながら、ちょっと危険な男の雰囲気が素晴らしい伊藤さんと、ここの劇団に出演する役者さんの表現力は、ピカイチです。
早船さんの戯曲には、相変わらず、人間の本質がうまく描かれて、全ての人間が、生き生きとそこに存在させられていますが、それに命を吹き込める役者さんが揃っていて、大変恵まれた劇団だなあと感じ入りました。
冒頭の皆さんの牛の演技も秀逸!!
2011年の現在からずいぶん時が経過した後の日本が舞台でしたが、今現在、事故の影響が拡大進行中なだけに、あまり、2011年の具体的な表現や台詞は避けた方が、作品としては、好結果になったように感じました。
(震災のことや、AKBの話題等は、具体的な表現をすることで、コント的な印象を与えてしまうように感じました。)
美容師として、店を持ちたいと夢を持ちながら、システムに呑み込まれ、悪事の副業で、上を目指す橘の本末転倒さを観て、自らの生き様を反省するような人間は、たぶん希少価値になっている現状なのでしょうが、作者の早船さんは、この作品で、どういう声を発したかったのだろうと、大変興味が募りました。
それにしても、人間以上に人情を持ち、諦観の内に、絶命する、主人に従順なまでのツジの健気さに涙を禁じ得ませんでした。
観た後に、気持ちがスッキリというわけには行かない芝居ですが、自然と笑いどころも多く、是非、多くの方にご覧頂きたい、実力が詰まった作品として自信を持っておススメできます。
【全ステージ無事終了!ご来場ありがとうございました】みきかせプロジェクトvol.3 「流星群アイスクリン」
みきかせworks
ワーサルシアター(東京都)
2011/08/03 (水) ~ 2011/08/07 (日)公演終了
満足度★★★★
ラムネには、組み合わせの妙があった
チャリT企画と、8割世界という、劇団組み合わせに興味があって、楽しみにしていたのですが、むしろ、作品の組み合わせに妙がありました。
楢原さんと、鈴木雄太さん、お二人とも、切り口が上手!
楢原さんは、現実社会の状況の切り取り方に、雄太さんは、2時間以上のオリジナル上演作を、短めにする上での切り取り方に、それぞれ、才気を感じました。
役者さんでは、チャリTは、熊野さんの存在感と、口跡の良さがダントツ光り、8割では、小林さんの得難い魅力が光っていました。8割では、紅二点の大土さんと廣島さんもとても魅力的でした。
作品の並べ方がこの順番で良かったように思います。
アフタートークは、わざわざ残ったお客さんに意味のある内容をもう少し、吟味して進行して頂けたらと思いました。
あずきを観た後の追記として、たぶん、ラムネの両主宰は、元々リーディング形態の上演が、あまり乗り気ではなかったのでは?と感じました。
普段から、お二人が、リーディングの楽しさを体感されていたら、もっと、魅せるみきかせが可能だったのかも…。
ネタバレBOX
チャリTの作品は、もう少し、変化球なのかと思っていましたが、実に真っ直ぐな直球作で、意外でした。
震災前日から、昨日までの、チャリT周辺と日本の状況が、ほぼ実話そのままに語られます。
たくさんの事実や台詞の中で、楢原さんがチョイスして文字に起こした台詞を、役者さんが淡々と語る進行で、まさに、【事実は小説より奇なり】のわが国の現状が、リアルに胸に迫ります。この現状説明の台詞の選抜が、卓越していたと感じました。
8割作品は、以前、剛鉄村松のオリジナル上演を観ているので、まず、あれを良くも手際よくまとめたものだと、雄太さんのカットの才に感じ入りました。
決して、初見でもわかり辛くなくて、これは驚きました。
むしろ、余計な部分がカットされて、テーマが明確になっていたようにさえ思えました。
オリジナルのべス村松さんに比較してしまうと、やや一芯さんのミササギに情感不足を感じてしまう部分はありましたが、皆さん、台詞も明瞭で、素敵な作品世界を見せて下さったと思います。
厳格な役は初めて拝見した鈴木啓司さん、何年か前より格段に素敵な女優さん振りを見せて下さった大土さん、ベテランファミレス店員振りが板についた廣島さんの頼り甲斐ある女性振り、人の良い田中役を好演された飛山さん…と総じて、8割の役者さんは、人材が揃っていて、楽しめました。
中でも、改めて、いい味の役者さんだなあと、その得難い魅力が炸裂していた小林さんに感服しました。
吉岡さんが、オリジナルと同じ配役だったのも、嬉しく感じました。
衣装が揃っていたこと、擬音を各人の声で表現した点等、見せ方にセンスがありました。
現実をそのまま切り取って見せたチャリT,空想世界の御伽噺のような8割作品。一見全く異質な作品のようですが、でも、この2作は、共に、危機的状況の中で、人間は、微力ながらも、ない知恵を絞り、過酷な現状と折り合いをつけながら、精一杯、自分の今できることをコツコツとやって行くしかないのだと、そして、その中でささやかな幸せをみつけて行くしかないという、根底には、同じテーマが流れているように思えました。
三銃士
東宝
帝国劇場(東京都)
2011/07/17 (日) ~ 2011/08/26 (金)公演終了
満足度★★★★
縦横無尽に活躍する井上ダルタニャン
もうこれは、井上芳雄さんなくしては、ありえない舞台作品でした。
歌に演技に、ここ数年の数々の舞台経験で、更に磨きが掛かり、おまけに、殺陣も素晴らしく、まさに向かうところ敵なしのダルタニャン振り。
ご本人も自信に満ちて生き生きと演じているので、その楽しさが、客席にまで伝播するような舞台で、清々しさを感じました。
橋本アトスも、三銃士一スポットライトを浴びる役で、ファン冥利に尽きました。
瀬奈ミレディ、和音コンスタンス、共に、適役で、舞台全体も、宝塚風味で、なかなか躍動的な舞台進行でした。
ただ、どうしても、長い物語なので、ダイジェスト「三銃士」感が否めないのと、楽曲に印象的な佳曲が一つもなかった点が、残念ではありました。
今まで、取り立てて井上ファンでなかった方も、この舞台をご覧になれば、一躍ファンになるのではと感じる程、井上ダルタニャンはひたすら魅力を放っていました。
ネタバレBOX
「三銃士」は、子供の頃、本を読破できず挫折したまま、大人になり、最近、三谷さんの人形劇で、初めて、面白さに気づいた俄かファンで、原作を読んでいないため、確かなことは言えませんが、ミレディのかつての恋人が人物が替わっていたり、アラミスとボルトスの話は割愛されていたり、コンスタンスが独身だったりと、三谷人形劇とはずいぶん、ストーリーが変わっていました。
ストーリーの大半は、坂元さん演じる役者の解説付きの仮面芝居で紹介され、ダイジェスト場面だけが、本役キャストによって、演じられる趣向で、長い話を要領よくまとめたとは思いますが、人形劇では、一番演じ甲斐がある役に見えたロシュフォールの存在感が霞んでしまったのは残念でした。
宝塚の銀橋のような舞台の使い方は、ファンサービスとして、成功していたと思います。
特に、アトスの独唱、コンスタンスとダルタニャンのデュエット、ロシュフォールとダルタニャンの決闘シーンなどは、宝塚バージョンも観たくなるような、洒落た舞台演出でした。
井上さんと和音さんの声がピッタリ合って、もっと名曲だったらとないものねだりをしたくなる気分でした。
吉野さんと井上さんの決闘も目に鮮やかで美しい!!
もう三十路の筈の井上さん、とてもそんな風には思えず、見事に、ダルタニャン少年になりきっていました。
一方、山口さんは、何があっても、常に山口祐一郎その人で、これはこれで、面白く拝見致しました。
山口リシュリューが、新感線張りにマイク片手に絶叫して歌うシーンは、ある意味お宝場面かもしれません。(でも、山口さんファンには、不評かもしれませんが…)
ほぼ理想的で魅力的キャスティングだっただけに、無理は承知で、この作品、もう少し、役に肉付けをして、一部二部構成にしての再演希望を出したくなりました。
リタルダンド
キューブ
PARCO劇場(東京都)
2011/07/15 (金) ~ 2011/07/31 (日)公演終了
満足度★★★
役者陣は皆さん好演
先日の三谷さんの作品同様、これも、役者さんに功労がある舞台でした。
私は、母のお腹にいる頃から、演劇界の大人達に囲まれて育った一人っ子のせいか、どうも、子供の頃から、お涙頂戴物が嫌いで、どこか芝居も斜めに観る癖がありました。
たぶん、そういう、可愛げのない自分の性格故と思うのですが、この作品、最初から、泣かせよう泣かせようとする意図が随所に見えて、やや鼻白む脚本、演出ではありました。
最初の内、しばらくはストレートプレー調で進行していたのが、いきなり、突拍子もない、歌が始まった時には、幾らミュージカル好きな私でも、さすがに、気持ちが引いてしまいました。
でも、役者さんの力量と、コツを熟知した脚本、演出の技に乗り、知らず知らずに、舞台に同化する気持ちが芽生えたのも確かなところ。
ただ、どうしても、ストーリー展開に、ご都合主義を感じてしまいました。
余談ですが、主人公の吉田さんの名演に、先日亡くなった、中村とうようさんを想起してしまいました。
あーいう気骨ある批評精神のある、その道の通が、どこの世界からも姿を消されてしまって、実に無念でなりません。
ネタバレBOX
アルツハイマーや痴呆で苦しむ家庭が、幸いごく身近にいないため、この主人公の男性の病気の進行具合が、リアルなのか、虚構的なのかの判断はできかねるのですが、疑問に思ったのは、家族や知人が、主人公の男性の書いたメモを、しょっちゅう出入りしている部屋なのにも関わらず、あの幕切れの時点まで、誰も目を通していなかったのかと、とても不自然に感じました。
こういう細部に、脚本の真実味が感じられず、虚構色が色濃く出てしまうのです。
たとえば、妻の兄は、自分の母親が、やはり重度の痴呆で、入院中で、そちらに行ったきりになる状態が普通なのに、何度も、妹の婚家先にやって来ます。編集部の面々も、原稿の締め切りに悩殺されるような忙しさの筈なのに、主人公の症状がかなり進行しても、相変わらず、この部屋に昼間から足しげく通います。一番驚いたのは、母の葬儀の日に、兄が「やっぱり妹と別れてくれ!」と懇願に来る場面。普段は、自分のこともわからない母を見るのが辛さに、病院から足が遠のくのを納得できたとしても、幾らなんでも遺骨になった母を置き去りにして、深夜にそんなことを言いに来る人間がいるでしょうか?
あまりにも、できすぎた話で、まるで、夢物語のようでした。
ただ、ひっくり返りそうに違和感を感じた歌は1曲目だけで、2幕の皆さんの歌は染み入るように心にふわっと浸透し、なかなか素敵な舞台になっていました。
初舞台から、その伸びしろに注目した松下さんまで、とにかく、役者さんが、皆さん、とても好演されて、その点では、後味の良い観劇となりました。
滝沢家の内乱
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2011/07/13 (水) ~ 2011/07/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
珠玉の二人芝居の誕生に歓喜しました
ワタクシ、不勉強で、この作品の作家である吉永仁郎さんを存じ上げませんでしたが、どうやら、評伝モノを得意とされている方のようですね。
で、いつものように、加藤さんは、また実にたくさんの戯曲の中から、この傑作戯曲を掘り出していらしたようです。
ワタクシの半世紀以上の観劇経験では、二人芝居には意外とハズレがないのですが、この作品、その数々の名二人芝居にも引けを取らない、名作中の名作芝居でした。
さすが、加藤さん、目利きがスゴイ!!
W加藤さんと、声だけでご出演の、風間さん、高畑さんの名演技のハーモニーが素晴らしく、これは、全国津々浦々の真の演劇愛好家の皆様には、是非とも、ご観劇頂きたい佳作舞台でした。
ネタバレBOX
脚本、構成、演出、演者、舞台美術、音楽、照明、観客の資質…、どれを取っても、非の打ち所のない芝居、久しぶりに、心酔して観劇致しました。
滝沢馬琴の書斎と、それに続く調剤部屋だけの舞台セット。この2部屋のみで、芝居が進行するかと思いきや、一番素敵なシーンは、屋根の上の馬琴と嫁の語らい場面でした。
昔、「時間ですよ」のドラマで、最後に屋根の上の物干し台で、ハートウオーミングな場面が展開され、そのシーンの登場をワクワクして待ち構えた記憶がありますが、これに匹敵するくらい、とても魅力的な場面でした。
姿を見せない、馬琴の息子役の風間さんと、妻役の高畑さんの台詞は、もちろん、事前に録音されたものと頭では理解していても、まるで、奥にいるような二人の存在感!
声のみの出演のこのお二人の名演に援護射撃されて、W加藤さんも、生き生きと表の演技が光ります。
嫁に来たばかりの20歳そこそこの頃から、36歳までのお路の女の成長を、見事に演じ切った忍さんと、武家の誇りを捨てきれないまま、家族のために、読み本作家として大成したものの、結局は、妻や息子を不幸にして、夫亡き後の若い嫁までも、自分の犠牲にしたと、逡巡する馬琴の苦悩を笑いに包みつつ、自然体で、演じられた健一さん。
本当に、このお二人の加藤さんあっての素晴らしい二人芝居で、全編微笑ましく、最後は、涙腺も緩み、こんな素敵な劇作をされる作家を知らずにいた自分の無知を恥じ入りました。
息子の唯一の友人であった、渡辺崋山が、投獄されたことを知って以降の、この芝居の展開が、また素晴らしく、特に、2幕のこの芝居の素晴らしさは、私の稚拙な表現力ではお伝えすることが叶いません。
是非にも、演劇を愛する方には、見逃して頂きたくないと、再度声を大にして叫びたい心境です。
ビクター・ビクトリア
ビクター・ビクトリア製作委員会
ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)
2011/07/16 (土) ~ 2011/07/24 (日)公演終了
満足度★★★★
他愛ないけれど、好きなミュージカル
CDの選曲中に、私はこのミュージカルと出会いました。
ジュリー・アンドリュースの復帰作は、歓喜して観た覚えがあります。
高嶺ふぶきさんの舞台も、良かったけれど、キャスト的には、今回の方が勝れた人材が揃いました。(もちろん、トディは、岡さんの日です)
ただ、ノーマ役の彩吹さんは、演技には難はないのですが、宝塚男役だったせいか、この役に必須の色気が皆無で、完全にミスキャストだと感じました。
葛山さんは、ミュージカル俳優としても、メキメキ腕を上げられ、この方の演じるヒギンズ教授を観てみたくなりました。
岡さんのトディも、愛嬌があって、作り過ぎない役作りに好感が持てました。
キングのボディガード役の俳優さんが、とても好演されていました。
やはり、マンシー二のバラードはいいなあと再認識。「陰をまとって」は何回聴いても心に沁みます。
浜畑さんの演出は、スピーディさには欠けますが、その分、人物描写が丁寧で、この作品の良さを引き出していたように感じました。
ネタバレBOX
謝さんの演出舞台に比べて、レビューシーンに見どころが少なかったのはちょっと残念でした。
でも、トディとウ゛ィクトリアの友情関係は、上手に描かれ、気持ちがほっこりしました。
キングのソロ「ジレンマ」は、葛山さんが演技を軸に丁寧に歌われ、心情が伝わる素敵な歌唱でした。で、ヒギンズ教授を観たくなりました。
3年に一度ぐらい、観たくなるミュージカル作品だと思います。
ベッジ・パードン
シス・カンパニー
世田谷パブリックシアター(東京都)
2011/06/06 (月) ~ 2011/07/31 (日)公演終了
満足度★★★
役者力に依存し過ぎ感あり
今日ふと思いました。
三谷さんて、世間で言われてる程、劇作力あるだろうか?と。
今まで、ずいぶん、三谷作品を拝見し、もちろん、それなりにやかなり、面白かったとは感じているのですが、それは、役者さんの功績(と言う点では、三谷さんの演出力も含むけれど)によるところが大だと思えて来たのです。
今回の作品は、特に、この傾向が顕著で、萬斎さんの夏目も、深津さんの家政婦も、任に合って良かったし、大泉さんの軽妙洒脱な演技と、何と言っても、この人が演じていなければ、相当、レベルダウンだったに違いない、浅野さんの八面六臂の活躍があったればこそで、この役者陣が、もしも無名で実力もない人だったと仮定して想像すると、脚本自体は相当手直しが必要な作品に感じられました。
浅野さんが、何役も演じられる芝居は他でもたくさん拝見しましたが、そういう芝居の浅野さんと比較すると、今回の演じわけに、そこまでの秀逸さを感じないのは、浅野さんのせいではなく、作者の各役の描き方が浅薄だからではと思うのです。
もっと、深みと構成力を身につけて、三谷さんには、更に大きな劇作家になって頂きたいとファン故に感じた次第です。
ネタバレBOX
最近の三谷芝居で思うのは、人物紹介に時間を取られすぎ、中身の味がどんどん希薄になっているということ。名役者さんが揃って、それなりに面白く観られますが、たとえば、食器や店の装飾や店員の応対がどんなに素敵でも、肝心な食事がそれ程の味でもなかったら、そのレストランに満足感は得られないのと似て、肝心の脚本がどんどん大味になっている感が拭えません。
台詞の中に何重にも意味を持たせて、説明台詞でなしに、観客に登場人物への共感を生むのが得意な劇作を拝見して、舞台の醍醐味を感じる性質なので、どうも三谷さんの書く台詞はストレート過ぎて、深みを感じないことが多いのです。
今回の作品も、確かに、最後の二人の台詞と演技には泣かされましたし、大泉さんや浅野さんの演技には、笑わせて頂きました。
でも、それで、いいのか?と思うのです。
ご自分の作品の特集上演までされるほど、有名人気作家なのですから、実力もそれに比例して、腕を上げて頂きたいなと、演劇ファンとしては、心底期待したいと思います。私の印象では、「オケピ!」初演が、最高峰だったと感じます。
あの手紙を隠した一件は、実際の世界でも、芝居の中の設定としても、どうにも説得力に欠けるエピソードで、かなり落胆ものでした。
「マイ・フェア・レディ」のヒギンズとイライザに見立てて、主役二人の人物設定をするところまではグッド・アイデアだとしても、何も、BGMを「マイ・フェア~」のオープニング曲にまでする必要があるでしょうか?逆に、センスを疑いたくなりました。これでは、作品の質が下がるように思うのですが…。
夏目の同居人が、彼に嫉妬するきっかけとなる、三谷さん考案の台詞までは良かったのに、それだけで、彼をあーいう行動に走らせるのでは、あまりにも短絡的なストーリー設定です。
浅野さんが演じる何役かにも、幾人か必然性が感じられない人物がいました。あれでは、浅野さんの役者表現の技に依存しているただの見世物芝居になってしまいます。
三谷さんには、名脚本家の名折れにならないような、名作を物して頂きたいと、三谷ファンの一人として、切望致します。
浅野さんの役では、最後に登場するジャックが一番好みでした。
夏目氏には、「猫である」じゃなく、「犬である」を書いて頂きたかったなと、個人的に思ってしまうくらい、短い登場ではあっても、インパクトのある、素敵な役でした。
おどくみ
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2011/06/27 (月) ~ 2011/07/18 (月)公演終了
満足度★★★★★
普通の家庭のリアリティが見事!
青木さんの作品は、非日常的なストーリーより、こういうごく日常のありふれた家族劇の方が秀逸だなと感じます。
登場人物全員に、その人間の日常が見え、これは、KAKUTAの桑原さんにも感じる、劇作の才が顕著です。
昭和から、平成に移る前後数年の日本の普通の家族劇。
先日の震災で、津波によって海に誘われて逝った友人のお嬢さんの旅立ちの会に参列した後の観劇でしたので、余計、この時代は、皆、結構能天気に、皆希望に溢れていたなあと、今のこの国の対比としての切なさが胸に込み上げて来ました。
役者さんも全員好演!
特に、昔我が家の常連ゲストのお一人だった、樋田慶子さんが、全く以前と変わりなく、ご健在ぶりを発揮されていて、個人的にとても嬉しい観劇となりました。
高橋恵子さんは、同世代として、観る度、歓喜したくなる素敵な演技で、何度心で、喝采を叫んだか…。
子役から素敵な役者さんだった浅利さん、とっても親近感を感じる娘役の黒川さん、戦中モノも観てみたくなる下村さんの丁寧な演技、ゴジゲンで拝見する東迎さんは、ベテラン勢の中でも、動ぜず、自分の演技を貫き、感心、谷川さんは、風采の上がらなさを絶妙表現、人の良い皇室オタクおばさんの根岸さん、「六羽のカモメ」の頃から、脇役として得難い好演をされる小野さん…
まあ、よくぞここまで、ジャストフィットのキャスト選別がなされたかと、感動すら覚えました。
ネタバレBOX
高橋さん扮する一家の大黒柱である主婦の言動は、一々同感することばかりで、歌舞伎の大向こう並みに、掛け声を掛けたくなりました。
青木さんの脚本の好きなところは、全く演劇的でないと言うか、デフォルメされた状況設定や、わざとらしい台詞がない点です。
たとえ喧嘩しても、家族が、相手を思いやって言わずに呑みこむ台詞までが、役の内心から聞こえて来る秀逸さには、いつも舌を巻きます。
そうして、つい、言ってはいけない言葉を口をついて発してしまった後の小野さん扮する夫の態度も、実にリアルなある家庭の断片描写になっていて、大仰な台詞や過剰な演出がない分、それほどの大事件が描かれているわけでもないこの芝居が、あれほどの拍手で終演の役者さんを賞賛する結果に結びつくのだと感じました。
近頃流行の似非演劇とは比べようもない、充実感得られる観劇体験に、関係者の皆様に感謝したいと思います。
お隣の巨体男性が、斜めになってその上大きな双眼鏡を両手で抱え、私の視界を遮りさえしなければ、更に充足感で満たされたのにと、それだけが無念でなりません。
TRAIN-TRAIN
LEMON LIVE
駅前劇場(東京都)
2011/07/16 (土) ~ 2011/07/27 (水)公演終了
満足度★★
期待が大きすぎたみたいです
山本芳樹さん目当てなら、むしろ、ガールズ・バージョンにすべきだったようです。
各分野でご活躍の男優さんが勢揃いしているので、楽しみに伺いましたが、何だか全てが中途半端な印象。
確実に感じるのは、どうやら決定的な稽古不足ですね。
皆さん、お忙しいから仕方ないかもしれませんが、特に、かなり有名な主役級の男優さんが、演技がガタガタで、他の役者さんのペースも狂わせました。
忘年会の余興なら、それなりに楽しい出し物ですが、一応期待して、時間とチケット代を費やした身にしては、かなり残念な出来栄えと映りました。
でも、ご贔屓の山本さんだけは、いつもながらの熱演で、ブレがなく、自分の選別眼の確かさがちょっと嬉しくなりました。
無料や500円でご覧になれる観客にはお勧めできますが、この金額を自腹で出す方には、是非にとおススメは出来かねるレベルの舞台でした。
ただ、一言フォローさせて頂くと、誰が観ても不快には思わない、安心して楽しめる内容なのは、心底ありがたく思いました。
これ、最近の小劇場では、かなり貴重です。
ネタバレBOX
最後の小粋なオチに繋がる大事なシーンで、グダグダになる役者さんがいて、何度もその場面をやり直したのが、さすがにご愛嬌の度を越えていたのが、何とも残念!!
山本ファンとしては、女性バージョンを選ぶべきだったようです。
女性バージョンの山本さんはてっきり女性役かと勘違いしました。
男性バージョンの山本さんは、どちらかと言えば、端役で、重要な役は、女性バージョンの方だったのですね。(泣く)
浅野さんと植本さんの兄弟の登場は、最初は面白かったのに、どんどんトーンダウンして、やや期待はずれ。
みのすけさんは、どんな役でも、卒なくこなされる俳優さんで、安心して観ていられました。
テレビでしか拝見したことのない遊井さんは、何役もの役を懸命に演じていて、好感が持てましたが、もう少し舞台経験を積まれた後に、再度拝見したい女優さんでした。
この芝居、もっと稽古を積んだら、より面白く、粋な小品にはなりそうな予感がします。
亜門版『太平洋序曲』
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2011/06/17 (金) ~ 2011/07/03 (日)公演終了
満足度★★★★★
驚くべき進化を遂げた再演舞台
50年以上、演劇を観て来ましたが、大方の場合、初演以上の再演舞台ってあまり出会ったことがないのです。
でも、この舞台は、違いました。衝撃的な程、練り上げられ、進化した再演舞台で、何度も、歓喜して胸熱くなる思いがしました。
まず、何と言っても、今回の舞台は、キャスティングが絶妙!
実は、かなり懸念していた八嶋さんが、物凄く好演されていました。
ナレーターの桂米團治さんも、口跡は良いし、滑舌も良いし、歌もそれなりに歌えて、見目麗しく、申し分ない水先案内振りでした。
ベテランや、若手の実力派ミュージカル俳優が揃って、初演とは比べようもない程、クオリテイアップ。
また、舞台運びも、一段と亜門流になって、作劇意図がより鮮明になったようです。
これは、本当に、遠い横浜まで、足を運んだ甲斐がありました。
「ベガーズ・オペラ」の初演で見初めた原田優一さんが、大舞台をたくさん経験されて、素敵な素敵な実力派ミュージカルスターに成長されていて、これが一番嬉しかったかも。(美形お小姓も、木に登る少年も、水兵も、皆それぞれ、役が光輝き素敵でした。)
今や、演劇を愛する数少ないプロの劇評家のお一人だと、私が感じる扇田さんが、花道の役者さんの出を嬉しげに見つめる目を見て、こちらまで、頬が緩みました。
ソンドハイムの楽曲は、いつも、心の内を表すかのような不協和音で、心をざわつかせ、観客でさえも、疲れる部分もあるのですが、でも、見えない巨大な存在が、ジワジワと忍び寄ってくるような緊迫感がうまく表現された脚本であり、楽曲であることをいつも痛感します。
そのことをきちんと心得た亜門さんの演出が、この芝居を見事に、舞台上に昇華させていて、小気味良い思いがしました。
ネタバレBOX
初演時より、ずっと、描きたいものが明確になった舞台構成でした。
八嶋さんと山本さんの参加が、舞台に、笑いの要素も加えて、以前は、やや単調に感じたり、冗長に感じた部分に、メリハリをつけ、終始、適度の緊張感の中で、舞台に意識が釘づけにされました。
戸井さん、畠中さんのお二人の、静かな和楽器演奏による歌のハーモニーの美しいこと!
出番は少ないながら、きっちり印象づける麻乃さんの存在感。
昔昔から注目していたアンサンブルの役者さん達も、それぞれ、手堅い演技で、卒がなく、これだけの適材適所の配役をした亜門さんの才気にも改めて目を見張りました。原田さん、岡田さん、石井さんの若手3人による水兵の歌う歌は、唯一、この作品の中で、美しいメロディの楽曲で、心地良い歌声を堪能しました。
2幕の冒頭の、外国司令官達の入国シーンは、初演より、エンタメ性が勝れ、この場面が終った時の観客の素直な反応が、まるで、制作者サイドの人間のように、私にも嬉しく感じられました。
殺陣のシーンで、畠中さんにお気の毒なアクシデントがありましたが、それも、役者としての好判断が幸いし、より、畠中さんの株を上げたようにも思います。
最後の場面では、今の状況下の日本までが焙り出され、9・11や3・11以後の、私達の有り方も含めて考えさせられる結末となりました。
最後の八嶋さんと麻乃さんの登場、それに被る桂さんの台詞に、急に、感情がこみ上げて、嗚咽しそうになる自分がいました。
余談ですが、今から30年程前、私が唯一賞と名の付くものを頂いた時、私の拙作シナリオをリーディングして下さった田山さんが、素敵なベテラン役者さんになられていて、感慨無量でした。
この舞台なら、もう一度、トニー賞にノミネートされ、今度こそ、賞を取れるのではないかと、心底思いました。
亜門さん、再トライして下さらないかしら?
コクーン歌舞伎第十二弾 盟三五大切
松竹/Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2011/06/06 (月) ~ 2011/06/27 (月)公演終了
満足度★★★
やや喜劇寄りの三五大切
この演目も、大好きな作品の一つで、私は、晩年の辰之助の鬼気迫る殺しの場の凄みある演技が未だに目に焼きついて離れません。
南北という作家は、こういう悲劇を、途中に緩和するように、喜劇を挟むことによって、より、壮絶な殺しの場や主人公の苦渋を焙り出す劇作が得意なのですが、このコクーン版では、やや喜劇が表に出すぎました。
チェロの演奏BGMが、歌舞伎の様式美に水を差し、ところどころ、役者の演技を殺してしまったのが非常に残念。
2時間サスペンスじゃないんだから、やはり、歌舞伎には、こういう音楽効果は不向きだと感じました。
ただ、歌舞伎の公演時とは大きく異なるラストの見せ方は、秀逸。
コクーン歌舞伎は、こういう部分で、斬新さを出してほしいと思いました。
笹野さんの台詞で、原発や放射能ネタで、笑いを取る部分は、どうしても、心情的に反発を覚えました。
江戸の時代から、歌舞伎に時事ネタを織り込むのは、遊びとして、大衆に喜ばれていたことですが、やはり、話題にしてはいけない問題もあると思うのです。
最後に、勘三郎さんのお姿が見られて、感無量でした。
それにしても、コクーンというのは、よっぽど、私には、鬼門の劇場なのか、またしても、私の席に荷物が置かれていて、20番からの4列連番の観客に、21番からの席と勘違いされた挙句、私は、彼女達が全員揃い、各自、自席を確認するまで、他人の席を占拠してる気が変なおばさん扱いを受け、事実が判明後も謝罪もされず、笑い飛ばされ、観劇前から大変不快でなりませんでした。これが、開演後に入ったなら、まあt先日の二の舞で、表に出されて待機させられるところでしたから、この間よりはまだましかもしれませんが…。
でも、案の定、このおばさん達も、終始、和やかに私語されていました。
昔のように、観客は、その芝居を観たくて来た人という、当たり前の概念はもはや過去の遺産なのかと、悲しくなります。
ネタバレBOX
ついこの間生まれたばかりのような気がしていた国生さんが、もう八右衛門役をなさる年齢になられたとは、感慨深く思いました。
もちろん、まだ芸は荒いけれど、でも、この年齢で、主人を思う気持ちを懸命に演じられて、胸を打たれました。
勘太郎さんは、益々、芸も、見た目もお父上そっくりで、何を演じても、その真摯さに感銘を受けますが、勘太郎さんは、むしろ、源五兵衛で観てみたいと思わせられました。
菊之助さんは、一昨年の三五郎も良かったけれど、小万の内面まで、鮮やかに映し出し、女形として、大変成長されたなあと感嘆しました。
10代の頃は、裾捌きが勢いが良くて、とても女らしさを感じないところがありましたが、近来稀に見る、素晴らしい小万さんでした。
橋之助さんは、姿形は申し分ないのですが、あの心を振り絞るような「鬼じゃ」の台詞に、まだ哀愁が足りない気がしました。
また、これは演出の問題ですが、五人切の場は、三五郎と小万がすぐにあっさりと逃げるので、もう少し、この場は、原作通り、狂気の源五兵衛の殺人場面を見せる方が、悲劇性が強まるように感じました。
どうも、串田さんの演出は、笑わせる方に重きが置かれ、人物の内面描写が希薄になったように思います。
何か、せっかくの名作が、台無しと言うか、まるで、ラスベガスで、有名ミュージカルのダイジェスト版を観ると、こんな感じかな?という雰囲気。
この名作は、やはり、正当な歌舞伎の舞台で、もう一度、ご覧頂きたいなと、初見の方にお願いしたく思います。
「五大力」の入れ墨が、「三五大切」に変化する件、若い観客に理解できるかと、やや不安が募りました。
あの意味がわからないと、この芝居の哀切さは、きっと半分になってしまうから…。
それと、これは、原作戯曲を確認できないので、不確かですが、最後に、三五郎が、死ぬ間際に、「小万、小万…」と叫ぶのですが、小万というのは、お座敷に出る時の源治名で、三五郎にとっては、妻の名はお六なので、小万と叫ぶのは不自然ではないかなと感じました。
NOISES OFF/ノイゼス オフ【俳優の怪我により25日夜、26日の公演中止】
シーエイティプロデュース
あうるすぽっと(東京都)
2011/06/09 (木) ~ 2011/06/26 (日)公演終了
満足度★★★★
キャスト、スタッフはあっぱれこの上ないのですが
まず、驚くのが、千葉さんの演出力!
いつも、演出しつつ、出演もされるのに、力配分をどう工夫されているのかと、感嘆するばかりです。
役者さんも、渾身の演技で、どなたも非の打ち所がありません。
ただ、脚本には、少し注文があります。
せっかく面白いのに、ややくどすぎるきらいがあって、後半の面白みが半減しました。
シチューション・コメディというのは、脚本の匙加減が難しいのだなと痛感しました。
でも、これは、コメデイをやっている役者さんには是非ご覧頂きたい舞台ではあります。
臨席の、入野さんファンのアニメ好き少女が、「芝居って、すごーい!!面白いんですねえ!」と歓喜の声を上げていました。入野さん以外のキャストは誰も知らなかったらしいけれど、「舞台って、皆こんなに巧い人ばかりなの?」と、相当カルチャーショックを受けていた様子。
こういうきっかけで、舞台演劇ファンが増えるのは嬉しいですね。
どこかの組織に加入している、無料や、500円で芝居がご覧になれる皆様、この芝居なら、500円は高くないですよ。
ネタバレBOX
1幕は、あるシチュエーション・コメデイ公演の最終通し稽古、2幕は、その本番公演の中盤の日の舞台裏、3幕目は、この公演の千秋楽の本番。
と、観客は、同じコメデイを、前、後ろ、また前(これは、いろいろの理由で、かなり運びが破綻します)と、3回観ることになります。
最初の通し稽古と、次の舞台裏の騒動は、大変面白く拝見したのですが、3幕目が、ややしつこく、かなり、ストーリー運びも強引となり、高揚した気持ちが冷めて行くのを感じました。
せっかく、センスいいなと好感を抱いたCMを繰り返し見せられてゲンナリする気分に似ていました。
2幕の進行が大変面白く、ハイセンスなので、余計、この3幕が蛇足のように感じられ、もったいなく思いました。
もっとこの脚本が、ブラッシュ・アップされたら、史上稀に見るような痛快コメデイにもなりそうですが…。
それにしても、役者さん達の演技力には、ただただ敬服しました。
段取りをわざと間違える芝居を巧みにできるなんて、皆さんに、名優賞を差し上げたいくらいです。
大好きな山口馬木也さん、以前、NLTのコメディで、腕を磨かれただけあって、素晴らしいコメデイ役者ぶりでした。
芝居の必然性を気にして、大事なシーンで「待った」を掛けるディテールに拘る若い役者役のソンハさんも、素晴らしい!
何があっても、動じないキュートな女優役の月船さん、ベテランの余裕の、藤木さん、佐藤さん、千葉さん、演出家と役者に翻弄されててんてこ舞いにスタッフ、入野さんと小林さん。全員の役者さんがこんなに良いお仕事ぶりの舞台も本当に久しぶりな気がします。
六月大歌舞伎
松竹
新橋演舞場(東京都)
2011/06/02 (木) ~ 2011/06/26 (日)公演終了
満足度★★★
夜の部は、かなり残念な出来映え
歌舞伎を見始めて半世紀以上経つので、同じ演目を何度も違う演じ手で観ているわけで、どうしても、先人や、名役者の場合と比較してしまう自分がいます。
歌舞伎公演は、同じ時に、世話物、時代物、狂言、舞踊等、ありとあらゆる種類の演目の、これまた全く異質な役を演じなければならないのですから、同じ役者さんでも、その公演の役で、向き不向きや、任に合う合わないの差が出るのは致し方ないことだと思いますが、今月の公演は、昼の部も含め、そういったことを顕著に感じた舞台でした。
それにしても、自宅の茶の間での懇親会さながらにずっと私語を取り交わしてるおばさん達、「必殺仕置き人」のように、睡眠薬入りの吹き矢で、眠らせて、黙らせたくなりました。
後ろの席の外人の同時通訳は、まだ外国語だから、ましだったのですが…。
ネタバレBOX
「吹雪峠」…吹雪の中、足元も覚束無く、フラフラしながらの出が、孝太郎さんお見事な演技。孝太郎さんの愛欲に生きるおえん、おえんに翻弄され、兄貴分を裏切る助蔵の愛之助のコンビは、共に手堅く演じていて、秀逸。ですが、最後に登場する、染五郎の直吉の演技に工夫がなく、女房と弟分に裏切られた渡世人の悲哀が感じられず、私は、そんなことありえないけど、誰か無名役者が大抜擢でもされての初舞台かと目を疑いました。
昔、また旅物の島田正吾さんの名演や、孝夫さんの渡世人の立ち姿の美しさ等、あまりにも、名役者の舞台が目に焼きついているので、もうベテランの域にある染五郎さんのこの出来には驚きを禁じえませんでした。
昼の頼家はあんなに良かったのに…。
「夏祭浪花鑑」…これも、両手に余る程の団七九郎兵衛を観ています。吉右衛門さんは、昔はそうではなかったと思うのですが、最近、どうも、段取り芝居になってしまっているようで気になります。一場、二場は良かったのですが、大詰めの殺しの場面の演技が、気持ちがなおざりにされた演技に感じて残念でした。久しぶりに演じられる義平次役者さんだっただけに、これは大変惜しいと思いました。釣船三婦の歌六さんが圧倒的な存在感で、舞台を引き締めました。仁左衛門さんの一寸徳兵衛は、登場するだけで舞台が華やぎ、嬉しくなります。
「かさね」…こちらの染五郎さんはとてもいいです。彼の踊りは、所作が大雑把なので、美しく踊るタイプの舞踊より、こういう芝居舞踊の方が向いていると思います。むしろ、かつて観た与右衛門では、孝夫さんの次に好きかも。
時蔵さんのかさねは、台詞や所作は巧いのですが、柄が、こういう儚げなタイプの女性役には不向きなので、損をされているなと感じます。
でも、いつもは眠くなる「かさね」、今日は、じっくり堪能させて頂けました。
幕間に、舞台上で、俳優協会の表彰式があり、芝かんさんが、賞の授与をされていたのですが、ご高齢なんだなと痛感し、大変心配になりました。
父の友人の鈴木治彦さんは、相変わらずお元気そうで、安心しましたが…。
奇跡の男
PU-PU-JUICE
ザ・ポケット(東京都)
2011/06/09 (木) ~ 2011/06/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
私ではありませんが
信頼できる家族が、昨日観て、大変面白かったと言っているので、代筆します。
久しぶりに、舞台を観て興奮したそうです。
どちらかと言えば、舞台より映画派の家族ですが、この作品を観て、いつも私が舞台を観た後、興奮する気持ちが理解できたと言っていました。
できれば、私にも見せたいと言うのですが、時間がなく、観劇できそうにないため、家族に代わって、おススメだけしておきたいと思います。
風を結んで
東宝
シアタークリエ(東京都)
2011/06/04 (土) ~ 2011/06/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
名トリオが清々しい!
私が、TSファンになったのは、「砂の戦士」以降ですから、この作品が、何度も上演されていたことは知らず、今回が初見でした。
まあ、知っていても、食指が動かないキャストだったのかもしれませんが…。
今回観ることにしたのは、何と言っても、中川君の歌に禁断症状が出ていたからで、正直、他の部分にはあまり期待していませんでした。
ここ数年のTSにはがっかりする場合が多かったし…。
ところが、これ、すごく良かった!!
もちろん、ストーリーだけを追えば、甘い部分はたくさんあります。
でも、中川・藤岡・小西の主演トリオが、歌も演技も過不足なく、取り合わせが絶妙で、観ている内に、どんどん観客としてのアドレナリンが放出されて来るのが実感できるのです。
中川君の歌声には、魔法があり、「モーツアルト!」でも「SHIROH」でも、その声が客席に届いた時のえも言われぬ快感は、たぶん他のミュージカル役者さんではなかなか得られない感覚でした。
その彼の4年ぶりのミュージカルは、更なる役者としての進化により、益々魅惑的になっていました。
そして、驚いたのが、藤原さんのコメデイセンスの良さ。彼に、こういう役がこれ程はまるとは、想像していなかったので、新鮮な観客としての喜びを感じました。今回、藤原さんが演じた役は以前、畠中さんが演じられたようで、これは、その舞台も見逃したことが悔やまれました。
他の役者さんも、それぞれ、敵役で、とても良く、カンパニーの統一感が素晴らしく思えました。
菊地美香さん、照井さん、俵さん、加藤さん、小原さん、皆さん、素敵でした。
山崎さんの捨吉は、歌に不安があるのは確かなれど、何とも言い難い不思議な魅力を感じる歌唱で、その語り口と共に、懐かしいつか芝居時代を思い出しました。
この役が、山崎さんであったお陰で、この芝居に、陰影が生まれ、素敵なコントラストができました。
カーテンコールは、心からの温かい拍手に包まれ、久しぶりに、単純に、舞台に酔うことのできた観劇時間となりました。