亜門版『太平洋序曲』 公演情報 KAAT神奈川芸術劇場「亜門版『太平洋序曲』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    驚くべき進化を遂げた再演舞台
    50年以上、演劇を観て来ましたが、大方の場合、初演以上の再演舞台ってあまり出会ったことがないのです。

    でも、この舞台は、違いました。衝撃的な程、練り上げられ、進化した再演舞台で、何度も、歓喜して胸熱くなる思いがしました。

    まず、何と言っても、今回の舞台は、キャスティングが絶妙!
    実は、かなり懸念していた八嶋さんが、物凄く好演されていました。

    ナレーターの桂米團治さんも、口跡は良いし、滑舌も良いし、歌もそれなりに歌えて、見目麗しく、申し分ない水先案内振りでした。

    ベテランや、若手の実力派ミュージカル俳優が揃って、初演とは比べようもない程、クオリテイアップ。

    また、舞台運びも、一段と亜門流になって、作劇意図がより鮮明になったようです。

    これは、本当に、遠い横浜まで、足を運んだ甲斐がありました。

    「ベガーズ・オペラ」の初演で見初めた原田優一さんが、大舞台をたくさん経験されて、素敵な素敵な実力派ミュージカルスターに成長されていて、これが一番嬉しかったかも。(美形お小姓も、木に登る少年も、水兵も、皆それぞれ、役が光輝き素敵でした。)

    今や、演劇を愛する数少ないプロの劇評家のお一人だと、私が感じる扇田さんが、花道の役者さんの出を嬉しげに見つめる目を見て、こちらまで、頬が緩みました。

    ソンドハイムの楽曲は、いつも、心の内を表すかのような不協和音で、心をざわつかせ、観客でさえも、疲れる部分もあるのですが、でも、見えない巨大な存在が、ジワジワと忍び寄ってくるような緊迫感がうまく表現された脚本であり、楽曲であることをいつも痛感します。
    そのことをきちんと心得た亜門さんの演出が、この芝居を見事に、舞台上に昇華させていて、小気味良い思いがしました。

    ネタバレBOX

    初演時より、ずっと、描きたいものが明確になった舞台構成でした。

    八嶋さんと山本さんの参加が、舞台に、笑いの要素も加えて、以前は、やや単調に感じたり、冗長に感じた部分に、メリハリをつけ、終始、適度の緊張感の中で、舞台に意識が釘づけにされました。

    戸井さん、畠中さんのお二人の、静かな和楽器演奏による歌のハーモニーの美しいこと!
    出番は少ないながら、きっちり印象づける麻乃さんの存在感。

    昔昔から注目していたアンサンブルの役者さん達も、それぞれ、手堅い演技で、卒がなく、これだけの適材適所の配役をした亜門さんの才気にも改めて目を見張りました。原田さん、岡田さん、石井さんの若手3人による水兵の歌う歌は、唯一、この作品の中で、美しいメロディの楽曲で、心地良い歌声を堪能しました。

    2幕の冒頭の、外国司令官達の入国シーンは、初演より、エンタメ性が勝れ、この場面が終った時の観客の素直な反応が、まるで、制作者サイドの人間のように、私にも嬉しく感じられました。

    殺陣のシーンで、畠中さんにお気の毒なアクシデントがありましたが、それも、役者としての好判断が幸いし、より、畠中さんの株を上げたようにも思います。

    最後の場面では、今の状況下の日本までが焙り出され、9・11や3・11以後の、私達の有り方も含めて考えさせられる結末となりました。
    最後の八嶋さんと麻乃さんの登場、それに被る桂さんの台詞に、急に、感情がこみ上げて、嗚咽しそうになる自分がいました。

    余談ですが、今から30年程前、私が唯一賞と名の付くものを頂いた時、私の拙作シナリオをリーディングして下さった田山さんが、素敵なベテラン役者さんになられていて、感慨無量でした。

    この舞台なら、もう一度、トニー賞にノミネートされ、今度こそ、賞を取れるのではないかと、心底思いました。

    亜門さん、再トライして下さらないかしら?

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    2011/07/02 00:04

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