
天の秤
風雷紡
小劇場 楽園(東京都)
2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
家族を母体として劇団活動を続けている風雷紡。2007年の結成以降、津山事件、帝銀事件、あさま山荘事件などの昭和の事件をモチーフに作品作りを行ってきました。本作『天の秤』のモチーフとなっているのは、1970年3月31日に発生した日本赤軍による「よど号」ハイジャック事件。奇しくも私が観劇した千秋楽は事件が起きた当日でした。
妙な偶然の中で見る、「正義」とはなんたるかを問う物語。細かな取材や資料の参照にあたりながら、事件の真相と深層をともに描き出した作品でした。
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(あたらしい)ジュラシックパーク
南極
インディペンデントシアターOji(東京都)
2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
平均年齢26歳の南極ゴジラは、演劇をポップカルチャーに押し上げるべく旗揚げされた“ゆかいな劇団”。
『(あたらしい)ジュラシックパーク』は、CoRich舞台芸術まつり!2024春の最終選考対象作品であると同時に、注目の若手劇団が集う佐藤佐吉演劇祭2024参加作品でもあります。
物語の内容は、誰もが知るSF超大作を下敷きに”テクノロジーの暴走“を描くというもの。私が観劇した日の会場は超満席、客席に漂う前のめりなムードから団体に寄せられる期待が沸々と伝わってきました。その様子はこれまでの団体の在り方や創作に対する評価そのものでもあると思います。
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更地
ルサンチカ
戸山公園(東京都)
2024/03/22 (金) ~ 2024/03/25 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ルサンチカは河合朗さんが主宰し、演出する舞台芸術を制作するカンパニー。
劇団の主宰が作・演出をともに手掛けることが多い中で、「演出」に注力したアーティストによるカンパニーは貴重であると感じます。「過去」の戯曲を上演する形式とその広がりをテーマに据えるとともに、今、そこにいる観客、現代を生きる観客に向かって「過去の言葉を、戯曲をどう扱うか」を問うこと。そういった試みは、観客に新たな気づきをもたらすことにも、忘れてはならない何らかの風化を止めることにも繋がるのではないでしょうか。
私はルサンチカというカンパニーのその姿勢、演劇を通じて社会を見つめる眼差しの深さに強く感銘を受けています。また、CoRich舞台芸術まつり!2024春の一次選考通過の賞金をそのまま観客へと還元する取り組みも素晴らしく、一人の観客としてこの場を借りて感謝を申し上げたいと思います。
そんなルサンチカの新作は、1992年に太田省吾によって初演された『更地』の野外劇。本作を野外劇として上演した前例はあったのだろうか。そう考え、調べたところ特に見つからず、まず驚きました。野外で観ることで戯曲の言葉が広く羽ばたいていくようでもあり、同時に内に向かって濃く浸透していくようでもあり、その光景を非常に意義深く感じたからです。また、上演場所は戸山公園 陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡とあり、まさに文字通り「跡地」。「言葉」と「場」の関係にこだわった公演を体験し、会場選びから演出が始まっているということを改めて感じました。
上演に向けたステートメントにこんな言葉がありました。
【本作は、映画『ゴジラ』の中で、ゴジラが踏み荒らした東京の「更地」から着想を得たと言われています。震災やテロ、戦争など、いつか起こってしまうだろうと思ってはいるものの、それが今日だと誰も考えていないものが、現実には起こり続けています】
是非全文読んでいただきたいのですが、これら言葉を上演前に掲げることもまた社会運動の一つであると私は受け取りました。
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新ハムレット
早坂彩 トレモロ
THEATRE E9 KYOTO(京都府)
2024/03/15 (金) ~ 2024/03/18 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
音楽と身体を使って、翻訳劇を独自の技法で作り上げる作劇が特徴であった初期と、戯曲の本質に踏み込んだ緻密な演出スタイルにシフトした中期。そして、それらを経て、今その活動は第三期、「自由に、開いて、場作りを進めるトレモロに突入」と主宰の早坂彩さんは言います。その言葉通り、本作『新ハムレット』はSCOTサマー・シーズン2022と豊岡演劇祭2022で初演、豊岡での滞在制作と利賀山房と出石永楽館での上演を経て、東京と京都の二都市での再演へ。さまざまな場所で上演を重ねることによって、場作りはもちろん作品そのものを広く開いていく果敢な試みが感じられます。
原作は太宰治の『新ハムレット』。シェイクスピアの『ハムレット』を題材に取りつつも、太宰自身の新たな視座を含んだ戯曲風の小説です。
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波間
ブルーエゴナク
森下スタジオ(東京都)
2024/03/15 (金) ~ 2024/03/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
福岡県北九州市と京都府京都市の二都市を拠点に活動するブルーエゴナク。そんなブルーエゴナクにとって5年ぶりの東京公演となるのが、THEATRE E9 KYOTOのアソシエイトアーティストとして制作・初演された『波間』。再演はメンバーを一新し、東京で活動する俳優・スタッフ陣によって上演されました。
物語の舞台となるのは、「死ぬことを決意した青年」の夢の中。
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雨降りのヌエ
コトリ会議
扇町ミュージアムキューブ・CUBE05(大阪府)
2024/03/09 (土) ~ 2024/03/30 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2007年に結成し、現在は兵庫県を拠点に活動しながら兵庫・大阪・東京在住の6人が劇団員として参加するコトリ会議。そんなコトリ会議が「1ヶ月たっぷり公演」と銘打って、扇町ミュージアムキューブオープニングラインナップのラストを飾ったのが、本作『雨降りのヌエ』でした。
この企画の素晴らしい、いや、もはや凄まじいところは1ヶ月の上演期間のあいだ、劇場の開館時間である10時〜22時まで劇団員の誰かしらが在館していること。つまり、作品の上演はもちろん、「来たらなにかが無料で見られる生展示」など手を替え品を替え、小劇場団体が日々劇場を、企画を動かし続けるという前代未聞の公演なのです。このことは作家や俳優、スタッフなどの作り手はもちろん、観客にとっても多くの発見を与える試みであったと感じます。
「劇場とは観客にとってどういった場所なのか」という現状を観測し、「どういう場所になり得るのか」という可能性を模索すること。そんな前例なき追求があって初めて劇場に辿り着くことのできた観客も多くいたのではないかと思います。
その追求は公演の形式のみならず、創作や上演の方法にも表れていました。
本作は、1公演につき全5本中2本の短編演劇を上演。1本30分弱という上演時間のコンパクトさはさることながら、内容についてもどこからでも、何からでも気軽に観られるようにつくられています。演劇はしばしばその上演時間の長さやテーマの難解さ、チケットの高さなどから敬遠され、映画と比べられる際には「映画は演劇よりも自由に観られる」などと言われますが、本作はまさにその印象を果敢に裏切っていくような公演でした。
それでいて、1公演観たら、他の公演も観てみたくなる、気づけばコンプリートしていたなんて観客の声も少なくありませんし、私自身もまた同じような心持ちを覚えました。私が観劇したのは第夜話と第形話だったのですが、どちらも読み切りのオムニバス小説のような感触がありつつも同モチーフを別視点から切り取った連作的な魅力も感じました。
第夜話『縫いの鼎』、第空話『盗んだ星の声』、第形話『温温重』、第蓋話『糠漬けは、ええ』の4作の各短編は、全てのあらすじが「兄が亡くなったそうだ」から始まっている通り、「兄の死」がモチーフに。
死んだ兄は同一人物であり、4人の弟や妹をそれぞれの話の主人公に据えながら、四種四様の二人芝居形式の会話劇を展開していきます。第糸話だけが毛色がやや異なり、ストレンジシード静岡で上演したリモート作品の改訂版。この作品が入ることによって、他4作から伝わる物語としての「作風」とはまた別の、コトリ会議という劇団の取り組みを把握することができることも意義深いパッケージだと感じました。
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この世界は、だれのもの
ながめくらしつ
現代座会館(東京都)
2024/03/01 (金) ~ 2024/03/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ながめくらしつは、2008年にジャグラー・演出家の目黒陽介さんによって結成された現代サーカス集団。これまで、サーカステクニックを基底に、音楽家やダンサーなど多ジャンルのアーティストと接点を持ちながら、幅広い場で活動をしてきました。
そんなながめくらしつが久しぶりに新作として上演したのが本作、『この世界は、だれのもの』。
コロナ禍での公演形態や主催の独演などを経て、新たに取り組むアーティストとの協働。サーカスやダンス、音楽などジャンルを横断し、舞台芸術の魅力を訴えるような力強いパフォーマンスでした。
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エアスイミング
カリンカ
小劇場 楽園(東京都)
2024/02/28 (水) ~ 2024/03/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初の海外戯曲上演となったカリンカ第4回公演。
『エアスイミング』は「触法精神障害者」として不当に収監された女性二人の会話を、実話を基に描いたシャーロット・ジョーンズによるイギリス戯曲。戯曲に見出す現代との接続点、2人芝居というミニマルかつ壮大な心のたたかいを、物語の登場人物たちに流れる緊迫や狂気へと繋げ、二人きりの言葉と身体の力を以って独特の磁場を生み出していたように思います。
私は本作をいわば“忘れてはならない女性史の一部”である、と感じました。
しかしながら、その日本での上演、とりわけ小劇場で取り上げる団体は少ないように感じ、私自身にとっても本作が初めてのきっかけとなりました。海外戯曲の知識が乏しいこともあり、日本における上演の歴史や経緯について詳しくお伝えはできないのですが、「どうしてもっと上演されてこなかったんだろう?」と思うほど、現代において重要な戯曲であると感じました。
喫緊に向き合わねばならない女性を巡る諸問題と直結する本作を、小劇場のプロデュース公演として選択されたことは非常に有意義なことだと思います。戯曲のチョイス、CoRich舞台芸術まつり!2024春への応募文章、上演の全てが「今、この戯曲を自分たちで上演しなければ」という信念に基づき手を繋ぎ合っていて、同じく30代を生きる一人の女性として感銘を受けました。自身の現在地から見つめる世相、それに対する戸惑いと怒り。そして、覚悟。現代社会に生きる女性としてのシンパシーとエンパシーのいずれをも上演を以て応答する、果敢な挑戦心に満ちた作品でした。
応募文章には【多方面の方から「今後若い頃よりも役や現場が少なくなってくる」と言われる事が増えました。実際それは構造的な問題もあるし、さまざまな問題をはらんでいると思いますが、ひとつ30歳という節目において、俳優自身が自ら創作の場を作れるということを、今後もカリンカでの活動を通して、モデルケースとして提示していきたいです】という言葉がありましたが、まさに、30歳を迎えることによってかけられたネガティブな声を、演劇を以っておつりがくるまでに返上するような、これまでのキャリアや歩みが二人それぞれの唯一無二の厚みとなったお芝居であったと思います。俳優個人はもちろん、「カリンカ」というカンパニーが今後さらに発展していくための布石として、充分に力強い作品であったと感じます。
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アトラスの姫
ロマングラス
中板橋 新生館スタジオ(東京都)
2024/06/20 (木) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
とある国で一族のはみ出し者と噂されている絵描きのフデが国からとんでもない依頼を受ける。それは国の地図をつくること。フデと仲間たちは"三角の力"を寄せ合って、それを実現しようとするのだが...。
地図と噂を巡る物語の行方は?
稽古見学させてもらって「御伽話のようで、とても今だ」と思ったけど、全貌見届けて、ますますそう思った。
シスターフッド、家父長制、SNSを巡る匿名性、それを使っていとも簡単に噂を流したり、火をくべたり、犬笛が吹けるということ。全てが全て意図的に直接的に描かれたものではないにせよ、そう感じるに十分の現代との接着面があった。「物語」に実直に向き合い、その力を信じ抜いた作品でもあった。それでいて地図を作る時のように、演劇を、観客を鳥瞰する様演出、語る俳優と語られる観客の関係を用いて、誰しもが噂の発信と受信の当事者になりうることを伝えていくようでもあった。
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地の面
JACROW
新宿シアタートップス(東京都)
2024/06/14 (金) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
大企業が地面師グループに50億強騙し取られた実際の事件に着想を得た演劇。
こういう派手な事件を題材にする時は犯人、つまり詐欺師を主人公にそのトリックを持て囃しがちなのだけど、そうはせず被害を受けた会社に焦点を当て、さらにその被害の裏に存在し得る組織の権力構造や内部抗争を物語の核心に据えている点が興味深かった。
もうね、サラリーマン版アウトレイジじゃないですけど、私に言わせりゃ全員悪人ですよ。俳優さんらが達者だからいっそうにアウトレイジ(笑)。戦いはいつも男が始める、なんてよく言うけど、その始まりの始まりは椅子取りゲームなのだと思ったり。誰かよりも少しでもいい椅子に座りたい人々が権力勾配を狡猾に利用し、騙したり騙されたりして、つまり詐欺の裏にいくつもの詐欺がある。
登場人物は幹部クラスの男性のみでそこに女性がまるで出てこない、出てきても会話の「かみさんはさ〜」くらいなところがまためちゃくちゃ風刺がきいていて。
きっと組織でたんまり溜め込んだストレスを家庭でぶちまけても、"男同士の秘密"は決して打ち明けず、女性の人生にも関わる大事なことは何も知らせることなく過ごしてんだなーという感触も含めて、悪しき男社会をリアルに描いていると感じました。土地のことを「女」とか言っちゃうし。
でも、救いようのないところがよかった。
「これが男の生き様だぜ⭐︎」みたいな美化や心酔は全くなくて、愚者として貫かれている。
そこに作家のスタンスを見た気がしました。
それでも、私はやっぱりこうも思わずにはいられない。
あの中に一人でも女性がいたら、幹部の人選に女性が一人でも抜擢されていたら、あの詐欺はもしかしたら防げていたんじゃないか、と。
流石の俳優陣かっこいいなあ〜と思って見つめてた冒頭のダンスシーン、観終わる頃にはすっかりと印象が変わっていた。地位や名声に踊らされている人たち、その滑稽さ。そして、俳優の力。最初と最後も同じシーンなのに景色が反転する。地の正体を巡り、14人の男の"地の面"が暴かれるまで。サスペンフルな作劇の魅力もありました。
映画『走れない人の走り方』ではあんなに柔和な父だった谷仲恵輔さん、見る影なかった...(賞賛の意です!)

見上げたらメンチカツ
艶∞ポリス
食堂ミアゲテゴラン(東京都)
2024/05/17 (金) ~ 2024/05/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
さて、今日私はどこで演劇観たでしょう?
もうこの質問から始まる時は、だいたい艶∞ポリスでございます!
昨年から始まった艶∞ポリスのこの新シリーズ。演劇の敷居を下げ、もっと身近なものにするべく暮らしに紐づく様々な場所で新作の演劇を上演しています。
1回目『生意気なからあげ』は目黒川沿いのおしゃれなカフェで、前回の美容室で上演された『角刈りのカリスマ』は、初回のカフェ公演を観た美容室の方から繋がった企画でした。
そして第三回目となる今回はなんと"居酒屋"で観る演劇、『見上げたらメンチカツ』。
前回の美容室同様に学芸大学の街と文字通り杯を交わすような企画で超楽しかった!
演劇はまだまだ街や暮らしと手を繋げる。
劇中に「私はこの店じゃなくて業界全体のことを考えてるんです」みたいなセリフがあった。キャラや文脈から笑える一言としてしっかり機能しているそのセリフになんだか私はグッときてしまった。それはそのまま演劇の敷居を下げ、劇場となりうる場所を拡張していく劇作家・岸本さんの姿に重なった。
上演場所や上演時間(1h)などの趣からイベント的に見えるかもですが、毎回しっかり岸本鮎佳ワールド満載の劇世界が広がります。人々の悲哀と可笑しみがぱちぱち点滅する艶∞ポリス喜劇をベースに、実際にそこで働いている方を巻き込んだ物語はまさにその場で上演する"ならでは"な意義がある。
今回も実際にこの居酒屋で働いている方も出演されていて、理屈では太刀打ちできない、彼の日々や生業に裏打ちされた圧倒的な存在感と説得力にグッときました。異業種とのタッグと接続によって「営み」というものについて様々を想像させられるし、演劇を通じて唐揚げやメンチカツなど商品PRを成立させてるのも面白い!
岸本さんの仕掛けや試みからはいつも演劇が決してコアな世界で収まらない、という可能性を教わるような気持ちです。演劇が詳しい人だけのものじゃないということ、もっと手の届きやすい場所や価格でさりげなく街に存在したらいいのだということ。内々には収まらない、常に外に向かっていく演劇。それは外に持ち出す人がいなければ当然始まらない。私は岸本さんの試みに共鳴するいちライターであり、艶∞ポリスの新たな演劇を待望するいち生活者でもあると改めて痛感。
しっかりレモンサワーとメンチカツ、なんなら梅水晶と焼きそばも食べたくなった(し食べた)最高の協働演劇!ずっと追いかけたい!
演劇って気軽には誘いにくい節があるけれど、艶∞ポリスのこの企画なら演劇観たことあってもなくてもいい、家族や友人と楽しく観られる。可能性が詰まった名企画です。場所のひらかれ方、演劇を初めて観る人への工夫、体験としての演劇の追求。観客の方の反応を見ていても「満足度の高さ」がひしひしと伝わる観劇でした!

演劇作品集『ちがう形』
中野成樹+フランケンズ
新宿シアタートップス(東京都)
2024/05/22 (水) ~ 2024/05/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
当日券ダッシュで中野成樹+フランケンズ 『#ちがう形』のAプログラムのみ観劇(大池容子さん作『かがやく都市』と『EP2(犬の話)』(シェイクスピア『ハムレット』2幕より)。
始まる前からわくわくが立ち込める客席で図らずも20周年初日目撃の喜び。面白かったし、何よりかっこよかった〜!痺れました。「『ハムレット』を20年かけて上演する」という常軌を逸した果てなき企画もこの方々ならやってのけてしまいそうだし、何より、「全部観たい」と思わせてしまうところが魅力で、20年の賜物という感じもする。これからの20年も楽しみです。『かがやく都市』も面白かった。うさぎストライプの上演を風邪ひいて見逃してしまっていたこともあり、物語との邂逅にも胸熱く。キュートで可笑しく、それでいて登場人物たちの心情は味わい深く。煙の気配をそこまで強く感じなかったのは、もはやすでに煙の中にいたからなのかも、などと想像したり、まんまとふしぎな物語の術中にハマっていました。歌唱シーンのタイミングと選曲がまたよすぎて。もちろん帰り道速攻聴きましたよね...楽しかったし、かっこよかったです。
あと、これは声を大にして感謝をお伝えしたいのですが、上演ステートメントに「子ども向けではないけど入場OK」の旨が添えられていたこと、自分の様な子育て中の観客の存在が決して忘れられていないと思える一言で、救われる気持ちでした。映画と違って演劇は具体的な対象年齢の設定や記載はほとんどありません。未就学NGの記載やチケット種類(に未成年があるか)や作風、また最近はトリガーアラートなどから何となく子と観られるか否かを"察して"観に行くのですが、ナカフラさんの様にカンパニーサイドから内容や作風と入場是非が併せて明記されている公演はまだ少ないので、とてもうれしかったんです(私個人としてはこの文言で作者の創作意向を知ることができた事も有り難かった!)
子どもを対象にした演劇でなくても、子は大人の想像を越えた実感を得たりする。
それはあくまで経験則としてコラムなどにも書いているのですが、一方で「作り手は子ども向けとして作っていない」という情報も私はとても大事だと思っていて、そうした上で「入場はOK」ということがなんかもう言葉がうまく見つからないけど、とても嬉しかったんですよ。
"子を連れてくる親"としてだけでなく、"この作品を観たい一観客"として尊重されている気持ちになったというか。
「子どもを劇場に連れて行きたい」という気持ちの面だけでなく、時には連れて行かざるを得ない状況がある私のような人間にとっては色々悩ましいところがあるのですが、こういった新しい開き方をして下さっていること、本当に心強いです。「演劇や劇場にできたらこうあって欲しい」そう願っていることの一つが叶えられた公演でした。ゆえに満足度は抜群です!

裂け目BB’
ダダルズ
SCOOL(東京都)
2024/05/24 (金) ~ 2024/05/25 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
様々な演劇やパフォーマンスがあるけれど、頭というより脳を、心というより内臓を揺さぶられるこんな体験は ダダルズ 、大石恵美さんからしか受け取ったことがない。
言葉と身体を、意識と無意識を切り裂き、かき分けるその裂け目に理屈ではない"生"を見る。あんなにも溢れながらこんなにも「渇き」が訴えられるなんてどうしたことか。
初めて観た日もう絶対に見逃せないと誓ったし、同時に例えば上演前日に大石さんも私も風邪をひいて同じ医者にかかったとして、そこに明日必ず治る薬があるとして、でも一人にしか渡せないとしたら、迷わず大石さんに譲ってまたあのすごい沸騰と蒸発を、またあんな風に世界の裂け目から別の世界をこじあける様に見せつけてほしいと思ってしまう。確実に一人芝居の歴史変えている。もはや人間が一人で行うあらゆるパフォーマンスの中でも頭抜けた求心力ではないだろうか、と前も今回も思う。素晴らしかった。素晴らしすぎて、帰りの電車2駅間違えて降りた。
なんだろう。脳裏に刻まれるとか胸を打たれるじゃなく、本当、臓器への揺さぶりみたいな感覚なんだけど、言葉にした瞬間から足りなさ、乏しさにジタバタする。ここに書かれていることなんかよりずっとずっと以上のことなんだーうわああって気持ちになってしまう。一人の文筆家としてはいつか、ここで起きていること、大石さんが起こしていることの凄まじさをちゃんと言葉にできたら、と思うけれど、一人の人間としてはそれを拒絶するような気持ちもある。
だって、文字にするとやっぱり揮発してしまうんだ。あんなにドバドバと溢れているのに。嗚呼。
星5じゃ足りないくらいです。”観劇”というより、”目撃”をしてほしいパフォーマンスNo.1。言い切ります。

理想郷
小田尚稔の演劇
水性(東京都)
2024/05/23 (木) ~ 2024/05/29 (水)公演終了
実演鑑賞
いつか観たいと思っていた、小田尚稔の演劇。
私には昔から極度の不安やストレス、寂しさや心細さなどを感じた時に髪や爪をしきりにさわったり、お布団や布類で肩や足下まですっぽり隠さないと落ち着きを保てなくなる癖?があるのですが、観劇中にその状態になってしまい、自分でもとてもびっくりした。だけど、このざわざわやモヤモヤした感触にこそ、この演劇の核心(やそれと繋がるヒント)があるのかもしれないと思ったりしていて、いまもまだそのことを色々考えています。信頼を寄せる知人に感触を吐露しながら心の整理をつけさせてもらえたのも有り難かった。水性には2回目の来訪。図らずも通行人がキャストに、場合によってはドラマそのものを生む空間でとても好き。今回もっとも食らったのは、絶妙なタイミングで横切った二人の子どもかな。あと、美術のチョイス、使い方好きでした。
存分に戸惑った観劇ではあったんだけど、帰宅して改めてチラシを眺めつつ、シンパシーを感じることだけが演劇の豊かさではないことを痛感したり、(ネタバレBOXに続きます)

『ウィークエンド』
画餅
小劇場B1(東京都)
2024/05/21 (火) ~ 2024/05/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
画餅『ウィークエンド』開幕。初日観劇。
ここにきて画餅の様式美のようなものがさらなる高みへと極まっていくのを感じる初日でした。何を何にと言われたら即答は難しいのだけど様々の配分や配置が絶妙で、その様式美の中で今回もやはり存在感抜群の俳優陣が次々沸かしまくる全員山場の痛快さたるや!
今回も沢山笑いました。
作・演出を手掛けながらの出演って、俳優としてというよりも作家として存在の意味付けがされてしまうことが多いのですが、神谷さんにはとてもいい意味でそれをあまり感じない。
切り替えなのか、切り離しなのか、そのあたりはわからないのだけど、とてもフラットにいち俳優として存在されていて、同時にご自身の演者としての強みや魅力がしっかり活かされていて、ソロプロジェクトを全うする推進力と俳優を輝かせるプロデュース力を感じます。(私は神谷さんの悲哀の滲む困った顔が大好きなので、今回はその表情がたくさん見られて、俳優神谷圭介ファンとしても大満足だった!)
内容としては日常へのニッチな視点に加えて、社会に対する疑いというか推奨されている物事に潜むバグみたいなものを拾い上げてドライブさせるような印象もあって、これは3回公演まではない感触でとても興味深かった!インタビューでの神谷さんの言葉をかりるなら、それもまた"日常的な違和感"なのかもしれないと改めて。

アラビアンナイト
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2024/05/04 (土) ~ 2024/05/18 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
文学座アトリエにて上演された『アラビアンナイト』。5/4〜6まではファミリーver上演につき、未就学無料、桟敷席&家族割アリというGWにぴったりだったこの公演。私は地方出張につきファミリー公演の観劇はできなかったのですが、5歳の息子と稽古場見学をさせていただき、後に10歳の娘と通常ver.を観劇しました。
アラビアンナイトは、愛する妻の裏切りをきっかけに心を病み、「これからは一夜毎に花嫁と結婚をして、その日のうちに処刑する」という残虐な心を持ってしまった王様と、物語の名語り手である大臣の娘・シャハラザードが結婚し、千夜にものぼる物語で王の心を溶かしていくというお話。その主旋律をベースに、マトリョーシカのように物語の中にまた別の物語が入っているという構造で、劇中劇文学、劇中劇演劇の金字塔とも言える作品です。
上演時間は休憩込みで2時間45分と割と長尺なのですが、本編を通して「シャハラザードはどうなってしまうの?」という緊張感と「物語の続きは?」という好奇心がしっかりと手を繋ぎ合っていることで中弛みを全く感じませんでした。これはひとえに演出の工夫と俳優の技の賜物ではないでしょうか。また、1時間15分毎に休憩を入れるというバランスは大人子ども問わず、誰しもにとってベストなのではないか、と想像しました。
親子観劇って「子が楽しめるか否か」にかかっているんです。そして、それは、「そうでないと(子が気になって)大人も手放しで楽しめないから)という理由も正直あるんですよね。子だけが楽しくても、大人だけが楽しくてももどかしい。そういう不安で劇場を遠ざけている人にこそ、是非この『アラビアンナイト』に出会ってほしい!と思いました。子どもの心を奪う演出が細部にわたっていくつも仕掛けられているだけでなく、大人が思わずうっとりするような演劇の魔法にも同時にかけられていく。(例えば、白布一枚で海に浮かぶ船の上へ、伝説の大きな鳥の卵やその翼の下へ導かれていく……。)なんというか、五感の何も置き去りにされてないんです。五戸真理枝さんの繊細な視点と俳優さん達の心技体が込められた演出、本当に魔法だった。そして、それはきっと、私たち観客のイマジネーションとの共作でもありました。隣で子が絵に描いたように目を丸くするのを、そのままハッと驚きの息が漏れるのを見て、知らないだけで自分も同じような顔をしているのだと知るようでした。
残念なことに、稽古場見学の日は後に予定が控えていた都合で最後までは観られなかったんです。
当然息子はこう言います。帰り道にも眠る前にも「あのお話の続きは?」と。 まさに劇中で妹が、そして国王が、物語の名語り手のシャハラザードにあと一夜、もう一夜と千にも昇る命懸けの物語をねだった様に。
これほどまでに「物語の力」を示す作品はないと思う位、小さな頃から『アラビアンナイト』の幻想的でちょっぴり怖い世界が大好きでした。だけど、改めて気がついた。「物語の力」だけじゃない、「物語を信じる力」によって一夜は千夜になったのだと。そして、それは演劇の魔法を信じることにも繋がっている気がする。そんなことを感じる景色の数々でした。大所帯だけど物語の中で一人一人が忘れ得ぬ登場人物を生きているのも、誰しもが等しく聞き手でも語り手でもある様なセリフの扱い方も好きでした。
最後に10歳の娘とのやりとりをネタバレBOXに綴ります。

なかなか失われない30年
アガリスクエンターテイメント
新宿シアタートップス(東京都)
2024/04/27 (土) ~ 2024/05/06 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
快作に次ぐ快作を新たに発表し続けるアガリスクがまた、オールタイムベストに追加されるような新作を世に放った。2024年の世に放ったその物語は、私たちがここまでくるのに当然通らずにはいられない1994年と2004年と2014年という時が内包されていて、それはもういくつかの、一見失われたようで、その実”なかなか失われていない”時代たちを巡るタイムトリップそのものであった。
舞台は、新宿の街のとある劇場跡地の雑居ビル(下はケバブ屋さん)(と聞いて、小劇場好きはもうあそこだ!とピンとくるだろう)ある時代は劇場であった場所はまたある時代はデリヘルの待合所で、そして、またある時は…と10年毎に遡るこの30年、実に様々なことが起きた。山ほどある風刺すべきポイントを決して逃すことなく、しかし今回も劇団名に違わず、とんでもないエンタメ満ち満ちの作品だった。
アガリスクの演劇の凄いところは「エンタメ要素が散りばめられている」のではなく、冨坂さんと俳優さん達の技巧が「数々のエンタメな瞬間を生み出している」ところ。会話の度にエンタメが仕掛けられては生まれていくその様に毎回惚れ惚れしてしまう。ちょっとここは思い切って言い切ってしまうけれど演劇に縁のない人、または抵抗がある人も本作ばかりは楽しまずにはいられないと思う。両親にも姉妹にも地元の同級生にも観せたい演劇だった(つまりGWにぴったり?!)
それでいて、『かげきはたちのいるところ』、『SHINE SHOW!』、『令和5年の廃刀令』などの作品群がそうであるように社会ともしっかり手が繋がれているところや、その劇場あるいは街で上演される意味があるところが本当に見事だし、鮮やかなんです。客席の反応も含め大満足な紛うことなきオススメの一作!
人によってオススメしたい作品違うからあまり言った事ないけど、こればかりはオススメ作品って言葉がしっくりくる。でも何一つ媚びてないし、むしろ極められていて語り甲斐もある。
私の中の"アガリスク、新作の度に代表作更新説"がまた濃厚に!

泥人魚
劇団唐組
花園神社(東京都)
2024/05/05 (日) ~ 2024/06/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
出張で札幌滞在最終日の朝に訃報を聞いて、それは代表作『泥人魚』東京公演開幕日でもあった。
そして、翌日予定通りの日時に予定外の状況で紅テントに向かった。浴び、吸い込み、啜るような観劇だった。
上京してから産前産後を除いて唐組を観続けてきたけれど、その中でも忘れられない日になった。状況が状況だから特別にならざるをえない節もあるけれど、むしろ私は、私の胸は、いつも通りの圧倒が全うされていたことにたまらず溢れたのだった。うまく言えないのだけれど、こんなにも大きな喪失を抱え、漂わせながらもいつも通りの眩しく儚い紅、そこで圧倒が更新されていることに心が震えた。
無論前身の状況劇場にかすってもいないことはおろか唐十郎演出の唐組を一度しか観たことのない私である。「全盛期を知らないじゃないか」と言われればそれまでだけど、私にしてみたら観始めたその日からいつだって唐十郎は全盛期じゃないのだろうか、と思っていた。思ってきた。いや、思っている。 ぴたりと同じ時代に生きたわけでない、"全盛期を知らぬ世代"の私も、それでも誰がなんと言おうと、唐十郎の言葉に唐組の劇世界に魅了され続けた、され続けている、歴としたその一人です。
札幌で訃報を聞いた時は事実に輪郭がないままだったけれど、羽田からのバスが奇しくも新宿に、唐十郎なき新宿に着いた時ようやく実感がおそってきた。さみしい、とも、かなしい、ともまた違う、しかし確かな喪失感だった。花園に聳える紅に命の火をうつすように唐さんの肉体から魂が離れたように感じた。風になったようにも思うけれど、やはり水かもしれないとも思う。手を洗うとき、風呂に入るとき、汗、涙、雨、あらゆる水を経験しながら、唐さんの戯曲で出会った言葉の数々を反芻していた。いつも通り当然のように予約していたその日がまさか唐さんを偲ぶ観劇になるとは思いもしなかった。だけど、いつも通り呆気ないまでに素晴らしい役者たちが今日も今日とてドカドカと舞台の上を暴れ回っていた。大鶴美仁音さんの香り立つような儚さ、妖しさに惑わされながら、泥の波間の花園で人魚を見た。テントの紅から人が溢れ出していた。虚構が現実に明け渡され役者が去っても続く遺言の様でも産声の様でもある歌声。その余韻の中で嗚咽みたいな喝采はいつまでも鳴り止まなかった。奇しくも今までで最も"唐十郎"を近くに感じた瞬間だった。

『動く物』『旅の支度』
ウンゲツィーファ
PARA(東京都)
2024/04/18 (木) ~ 2024/04/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
「部屋の風景、外の天気、本棚の本の名前、隣の人の服と私の服が呼吸の波間で擦れて小さく音を立てたこと。全部を身体が覚えている。動く物/動物という言葉、意味、在り方の境界を突きつけられ、いのちを目の当たりにした。死生観が揺らぐ様な演劇体験だった。2024年4月、小さな部屋の中で鮮明に目撃したあの演劇が再び上演される。別の二人の俳優によって『動く物』が続いていくこと。あの時私を圧倒した二人の俳優が新たな『旅の支度』へと向かうこと。そのいずれにも演劇の可能性を、"ふたりぼっち"の可能性を予感している」
と上演に向けたコメントに寄せた通り、待望の観劇だった。
ウンゲツィーファとの出会い、『動く物』という演劇との出会いは間違いなく私の演劇観、ひいては死生観までを揺るがす出来事であり、演劇の新しい扉をはっきりと自覚しながら開けた瞬間でもあった。
その作品が再び観られるのだから、待望以外の何ものでもなかったのだが、今回はさらに新作『旅の支度』という二人芝居も同時上演という。そのキャストこそが2019年の『動く物』で私を魅了した黒澤多生&豊島晴香ペアだった。そして、『動く物』はこれもまた近年数々の作品で抜群の存在感を発揮している藤家矢麻刀、高澤聡美に引き継がれる。
キャスティングからカンパニーや作品の豊かな試みと拡がりを予感させる企画で、ある種の覚悟のようなものも抱きしめつつ観劇日を心待ちにしていた。
私が観劇したのは『動く物』→『旅の支度』の順で2作を通しで上演する千秋楽の公演。予定的にこの日しか見られないこともあったのだが、結果的に2作を地続きで観られたことで迫るものもあったように思う。その反面、いずれも決してライトではない、心に残すものが大きく、余韻を噛み締めるのにもそれなりの時間を要する大作であるので、2作とも初見の場合は日を分けて観た方が(身のためと言う意味で)よかっただろうな、とも感じた。そのくらい、ずっしりとした作品なのだ。
ウンゲツィーファの演劇のすごいところは、まさにそこでもあって、いずれも上演時間自体は1時間ちょっとで決して長くはない。会話も難解な言葉を用いないし、一見日常的な会話劇である。そのパッと見普遍的でさりげない時間の中で人の心が小さく泡立ち、擦れ合い、戸惑いを覚えるくらいの波になり、やがて予想もしないうねりを見せていく。人の感情の発端と経過に目を凝らし、耳をすまさなければ生まれようのない景色がそこには広がっているのだ。これは2作にともに共通して感じたことであり、前作『リビング・ダイニング・キッチン』でも感じたことだった。これこそが劇作家・本橋龍ならではの眼差しであり、本領であり、おいそれと真似の叶わぬ個性と技なのだと痛感する。
『動く物』は同棲をしているカップルと彼らに飼育されている1匹のペットを巡る物語…
※以下はネタバレになるので、ネタバレBOXへ

夜会行
動物自殺倶楽部
「劇」小劇場(東京都)
2024/04/24 (水) ~ 2024/04/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2日目のお昼公演を観劇。
4名のレズビアンの元に訪れた1人の恋人といくつもの提起。5名が過ごしたある夜の物語、そして、"ある夜"にも"レズビアン"にも決してとどまらない問題がガラス窓から街へと現実へとシームレスに続いていく。
ガラス窓の向こうには植物に囲まれた部屋の一室、うっとりと見惚れてしまうような美術に迎えられ、そのまま食い入るように5名をただただ見つめ続けた85分。コロナ禍が初演なだけあり、物語や演出の端々から時節を想起させられました。ガラス窓はそれもあっての(感染対策も加味した)演出だったのかなと受け取りつつも、物語やその心象風景においてもそれ以上の効果が発揮されていて、素晴らしかった。3年前にこんな凄まじい演劇(初演)を見逃していた自分つくづく信じられないと悔やみつつ、今回たしかに目撃したガラス越しのあの風景を、あの一夜を、その手ざわりを知らない自分にはもう戻れない。戻らない。途中、理由のわからないままの涙を二度流した。そこにはきっと大切なことが隠されているはずだから、時間をかけて紐解きたい。
静かに激しく流れる一夜を映すようでも照らすようでもある照明、怒りや焦燥、心の騒めきと伴走する音響。そして、饒舌な時も寡黙な時も、息づかいから瞬きまで、人間がそこに存在することによって生じる全て、感情の源流その在処を伝える様な5名の俳優の素晴らしさと、そのような細部こそが伝えるものの大きさととことん向き合った演出。全てが全てに隙間なく接続した圧巻の総合芸術でした。好きな俳優さんがたくさん増えました。