アラビアンナイト 公演情報 文学座「アラビアンナイト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    文学座アトリエにて上演された『アラビアンナイト』。5/4〜6まではファミリーver上演につき、未就学無料、桟敷席&家族割アリというGWにぴったりだったこの公演。私は地方出張につきファミリー公演の観劇はできなかったのですが、5歳の息子と稽古場見学をさせていただき、後に10歳の娘と通常ver.を観劇しました。

    アラビアンナイトは、愛する妻の裏切りをきっかけに心を病み、「これからは一夜毎に花嫁と結婚をして、その日のうちに処刑する」という残虐な心を持ってしまった王様と、物語の名語り手である大臣の娘・シャハラザードが結婚し、千夜にものぼる物語で王の心を溶かしていくというお話。その主旋律をベースに、マトリョーシカのように物語の中にまた別の物語が入っているという構造で、劇中劇文学、劇中劇演劇の金字塔とも言える作品です。

    上演時間は休憩込みで2時間45分と割と長尺なのですが、本編を通して「シャハラザードはどうなってしまうの?」という緊張感と「物語の続きは?」という好奇心がしっかりと手を繋ぎ合っていることで中弛みを全く感じませんでした。これはひとえに演出の工夫と俳優の技の賜物ではないでしょうか。また、1時間15分毎に休憩を入れるというバランスは大人子ども問わず、誰しもにとってベストなのではないか、と想像しました。

    親子観劇って「子が楽しめるか否か」にかかっているんです。そして、それは、「そうでないと(子が気になって)大人も手放しで楽しめないから)という理由も正直あるんですよね。子だけが楽しくても、大人だけが楽しくてももどかしい。そういう不安で劇場を遠ざけている人にこそ、是非この『アラビアンナイト』に出会ってほしい!と思いました。子どもの心を奪う演出が細部にわたっていくつも仕掛けられているだけでなく、大人が思わずうっとりするような演劇の魔法にも同時にかけられていく。(例えば、白布一枚で海に浮かぶ船の上へ、伝説の大きな鳥の卵やその翼の下へ導かれていく……。)なんというか、五感の何も置き去りにされてないんです。五戸真理枝さんの繊細な視点と俳優さん達の心技体が込められた演出、本当に魔法だった。そして、それはきっと、私たち観客のイマジネーションとの共作でもありました。隣で子が絵に描いたように目を丸くするのを、そのままハッと驚きの息が漏れるのを見て、知らないだけで自分も同じような顔をしているのだと知るようでした。

    残念なことに、稽古場見学の日は後に予定が控えていた都合で最後までは観られなかったんです。
    当然息子はこう言います。帰り道にも眠る前にも「あのお話の続きは?」と。 まさに劇中で妹が、そして国王が、物語の名語り手のシャハラザードにあと一夜、もう一夜と千にも昇る命懸けの物語をねだった様に。

    これほどまでに「物語の力」を示す作品はないと思う位、小さな頃から『アラビアンナイト』の幻想的でちょっぴり怖い世界が大好きでした。だけど、改めて気がついた。「物語の力」だけじゃない、「物語を信じる力」によって一夜は千夜になったのだと。そして、それは演劇の魔法を信じることにも繋がっている気がする。そんなことを感じる景色の数々でした。大所帯だけど物語の中で一人一人が忘れ得ぬ登場人物を生きているのも、誰しもが等しく聞き手でも語り手でもある様なセリフの扱い方も好きでした。
    最後に10歳の娘とのやりとりをネタバレBOXに綴ります。

    ネタバレBOX

    色々と分別のつき始めた5年生の娘との観劇では、幼い頃とはまた違った、娘個人の考えに触れることができるようになりました。この日も信濃町駅まで歩いて帰っている帰路で「王様の罪」について色々と話をしました。
    私が「シャハラザードは勇敢で美しい心の持ち主で、それによって王が自分の罪深さに気づいたことはよかったけど、死んでしまった女の子達のことを思うと、王が、彼女や彼女の家族達が永遠に失ってしまった”愛する家族と幸せに暮らす未来”を描けることが苦しい。ママは王様の心の再生を手放しで祝福できない部分もあったんだよね」というようなことを話したら、娘が「罪を犯した人がその罪をまるで無かったことにして幸せになるのはよくないけれど、自分が悪いとわかったのなら、そこからほんとうの苦しみがつづくはず。間違いや罪を犯した人が一生幸せに暮らしてはいけない、一生不幸なままでいなきゃいけないというのは怖い、なにか違う気もする。しあわせなほど苦しみはおそってくる」みたいなことを言っていて、私は我が子ながら「お見それしました!」という気持ちになるなども(笑)。そうなんですよね。こういう時間が観劇の、物語の余韻の中の最も豊かな瞬間なんですよね。翌朝、最後まで観られなかった息子が口をとがらせながら「アラビアンナイト、最後まで見てずるい」と言って、その後「ぼくだって全部覚えてるもん。でもはなすのは夜だからね」と言っていました。いつだって線引きをするのは親の方で子はいつも軽々とそれらを飛び越えていく。子どものことを決してナメてはいない演劇と出会うと、そういうことをつくづく思いさせられます。
    「子どもより大人の方が物事をわかっているなんてことは決してない」
    そんな教訓を改めて握りしめるような観劇でもありました。

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    2024/05/20 15:13

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