この世界は、だれのもの 公演情報 ながめくらしつ「この世界は、だれのもの」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ながめくらしつは、2008年にジャグラー・演出家の目黒陽介さんによって結成された現代サーカス集団。これまで、サーカステクニックを基底に、音楽家やダンサーなど多ジャンルのアーティストと接点を持ちながら、幅広い場で活動をしてきました。
    そんなながめくらしつが久しぶりに新作として上演したのが本作、『この世界は、だれのもの』。
    コロナ禍での公演形態や主催の独演などを経て、新たに取り組むアーティストとの協働。サーカスやダンス、音楽などジャンルを横断し、舞台芸術の魅力を訴えるような力強いパフォーマンスでした。
    (以下ネタバレBOXへ)

    ネタバレBOX

    出演者は、目黒陽介さん、安岡あこさん、目黒宏次郎さん、入手杏奈さんの4名で、名前を挙げた順の2名1組の男女によるパフォーマンスが順次展開されていきます。身体を密着させては突き放す、恋の駆け引きのようにも愛憎の応酬のようにも見えるパフォーマンス、机とボールを用いたゲームがやがてバトルに展開していくようなパフォーマンス、体に複数のリングを絡ませて行うパフォーマンスなど、さまざまなダンスとジャグリングの融合が見られました。
    身体の先端から末端までを駆使するダンスの本領や、誰も真似することのできないサーカスにおける超人技など、アーティストの圧倒的技量をも感じることもできました。
    本作のもう一つの大きな特徴として挙げられるのが圧巻の音楽です。現代音楽家として活動するイーガルさんによるピアノ生演奏は、舞台上のアーティストの身体の流れやうねりに文字通り伴走するような力強さがあり、空間全体を縁取るようでも、音を介してダンサーやジャグラーの身体を導くようでもあり、とても興味深かったです。
    全体のムードとしては決して暗いわけではないのですが、ドラスティックな不協和音を奏でているような趣がありました。怒涛の音楽に包まれながら、4名の俳優が自身の身体やその個性や技量を使い果たすようにパフォーマンスを成し遂げていく様、そして、それらが交わり、重なることで、ペアだからこそできる表現の魅力や可能性を示していたことも素晴らしかったです。

    その一方で、どうしても2人1組のパフォーマンスを交互に見る趣が強く、全体を通してショーケース感が否めなかったのが残念な点でした。4人が1組となったパフォーマンスも最後にあったはあったのですが、個人的には、せっかくこんなにも魅力溢れる4名のダンサーとジャグラーが集っているのだから、全員が一つの作品の出演者として存在しているシーンや、それぞれの強みが一つ二つと融合していく様子をもっと見たかった、という心残りがありました。人が他者と関わり、重なり、交わることで物事やその景色は大きく変わること。そういったコミュニケーションがもたらす変化については、ペアのパフォーマンスによってしっかりと描かれていたと感じました。『この世界は、だれのもの』という言葉の惹きつける力が大きかったこともあり、他者が複数存在する「世界」というものへの接続を期待してしまったのかもしれません。

    しかしながら、言葉を発さず、表情さえもほとんど変えずして、一人ひとりが濃密かつ情感豊かなパフォーマンスに仕上げている点、その表現力の高さはやはり抜群に素晴らしく、5名のアーティストには改めて大きな拍手をお送りしたいと思います。
    「他者への関心」というテーマをそれぞれが身体に落とし込み、さらに、舞台上で生まれる新たな反応を信じる姿勢で臨まれたのであろう、純度の高いパフォーマンスでした。
    異ジャンルを横断しながら「今」に向かって放たれる、ながめくらしつならではの創作・表現活動。そのパフォーマンスのさらなる飛躍を今後も楽しみにしています。

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    2024/06/25 16:15

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