エアスイミング 公演情報 カリンカ「エアスイミング」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    初の海外戯曲上演となったカリンカ第4回公演。
    『エアスイミング』は「触法精神障害者」として不当に収監された女性二人の会話を、実話を基に描いたシャーロット・ジョーンズによるイギリス戯曲。戯曲に見出す現代との接続点、2人芝居というミニマルかつ壮大な心のたたかいを、物語の登場人物たちに流れる緊迫や狂気へと繋げ、二人きりの言葉と身体の力を以って独特の磁場を生み出していたように思います。

    私は本作をいわば“忘れてはならない女性史の一部”である、と感じました。
    しかしながら、その日本での上演、とりわけ小劇場で取り上げる団体は少ないように感じ、私自身にとっても本作が初めてのきっかけとなりました。海外戯曲の知識が乏しいこともあり、日本における上演の歴史や経緯について詳しくお伝えはできないのですが、「どうしてもっと上演されてこなかったんだろう?」と思うほど、現代において重要な戯曲であると感じました。

    喫緊に向き合わねばならない女性を巡る諸問題と直結する本作を、小劇場のプロデュース公演として選択されたことは非常に有意義なことだと思います。戯曲のチョイス、CoRich舞台芸術まつり!2024春への応募文章、上演の全てが「今、この戯曲を自分たちで上演しなければ」という信念に基づき手を繋ぎ合っていて、同じく30代を生きる一人の女性として感銘を受けました。自身の現在地から見つめる世相、それに対する戸惑いと怒り。そして、覚悟。現代社会に生きる女性としてのシンパシーとエンパシーのいずれをも上演を以て応答する、果敢な挑戦心に満ちた作品でした。

    応募文章には【多方面の方から「今後若い頃よりも役や現場が少なくなってくる」と言われる事が増えました。実際それは構造的な問題もあるし、さまざまな問題をはらんでいると思いますが、ひとつ30歳という節目において、俳優自身が自ら創作の場を作れるということを、今後もカリンカでの活動を通して、モデルケースとして提示していきたいです】という言葉がありましたが、まさに、30歳を迎えることによってかけられたネガティブな声を、演劇を以っておつりがくるまでに返上するような、これまでのキャリアや歩みが二人それぞれの唯一無二の厚みとなったお芝居であったと思います。俳優個人はもちろん、「カリンカ」というカンパニーが今後さらに発展していくための布石として、充分に力強い作品であったと感じます。
    (以下ネタバレBOXへ)

    ネタバレBOX

    堀越涼さんによる舞台空間の使い方や演出も洗練されていて、とりわけカーテンを使用した演出ではその透け感が現実と虚構のあわいを表しているようでもありました。色のない透明の椅子や真っ白なワンピース、水槽の中の魚も登場人物たちの心象風景のように感じ、効果的に昨日していたように思います。

    バスルームの掃除の時だけ、拘束を解かれて言葉を交わせる二人。互いと交わす会話を支えにそこで生き続けた果てしなさが、俳優が2時間その役を全うする果てしなさと重なって、彼女たちもまた芝居をするように、いや、することで、あのバスルームで生き抜いてきたのだ、と思わされました。劇場を後にして、眩しいお昼の光に目を細めながら、心の底からこの外の光を、世界をその目で見ることを渇望した彼女たちに見せたかったと痛感しました。
    収容された年やその後の時間の流れを知らせる役割をも持つキーパーソンであるドリス・デイ。その代表曲『ケ・セラ・セラ』が聞こえ始めた時のショッキングさは忘れられません。「なるようになる」という歌に包まれながら「決してなるようにはならなかった、なれなかった女性たち」がそこにはいて、セリフと歌詞と風景が淡い光の中で錯綜していく。唯一の救いは、水槽の中にいたのが本物の魚であったことでした。あの舞台上に周囲の視線や状況をいとわず、ただただ生き、泳ぎ続ける生命があったこと。彼女たちが夢にも見た自分たちの姿がそこにはあったのだと思います。

    【2024年7月11日に「CoRich舞台芸術まつり!2024春」グランプリ発表ページより以下を転載しました】

    最後に、本作はCoRich舞台芸術まつり!2024春の最終選考対象作品であり、審査員の一人であった私が本審査において出演者のお二人を演技賞に推薦したことをここにも記しておきたいと思います。詳細は審査ページに掲載されていますが、「精神の崩壊」という難解な心理的局面をそれぞれの身体性を以て貫いた橘花梨さんと小口ふみかさんに心より激励を申し上げます。

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    2024/06/25 16:12

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