鯉之滝登の観てきた!クチコミ一覧

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一枚のハガキ

一枚のハガキ

劇団昴

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2022/03/16 (水) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/03/19 (土) 19:00

 第二次世界大戦末期、松山啓太ら百名の中年兵士が招集され、兵士たちは上官のくじ引きで赴任先が決まる。その結果、行先がフィリピンと知った森川定造は生きて帰れないと悟り、妻にハガキを読んだことを伝えてほしいと一枚のハガキを戦友啓太に託す。過酷な戦況の中なんとか生き残った六人のなかに啓太はいて、やっとのおもいで故郷に帰ってみると、叔父から、お前はもう戦死したと思ったお前の妻は、親父とお前の妻ができていて、今はお前の妻はキャバレーで働いていると聞いて、逆上した啓太は、妻がいるキャバレーを訪ねるが、やがて意気消沈し、何もかも嫌になり、自身もなくし、叔父のところにしばらくの間居候しているが、心機一転、急に思いつきでブラジルに移住すると言い出すまでの流れやスピード感、啓太の感情の起伏や心の迷い、焦り、不安や恐怖、ショックからなかなか立ち直れない人間像などを丁寧に掘り下げ、深堀しながら時に感情的に、時に人間の弱さを見せつつ、啓太という人間をとことんまで突き詰めて、中西陽介という俳優が演じ切っていて演技派としての素質を垣間見せてくれて、とても良かった。ただし、もちろんこれは、脚色にも問題があるかもしれないが、休憩挟んだあとの劇の後半での中西陽介演じる啓太が戦争で夫を失くし、その後、小さな畑を守るためその弟と結婚するが、その弟も戦争で失くし、心臓発作で森川家の父は死に、その後を追うように森川家の母は自殺し、とうとう身寄りがなく一人になってしまった服部幸子演じる森川友子のところを訪ね、そこで友子の夫から託された伝言を言う場面までは良かったが、そこで身の上話をする場面や友子の連続して起こった悲劇、今は亡き、戦争で死んだ友子の夫の話、お互いの苦労話などを語る場面において、全然その悲惨さや、やるせなさ、悔やんでも悔やみきれないことなどが、あまりに森川友子(森川友子を演じる服部幸子に関しては、悲劇が折り重なっても強く生きようとする芯の強い女性をあまりに意識しすぎてから、劇の最初の方から基本的に感情の揺れ動きが分かりにくく、淡々とした口調で喋るきらいがある)と松山啓太を演じる俳優が割と、時々感情的な高ぶりを見せながら、基本的には淡々とした口調で、食事をしたり、水を飲んだりしながら戦争の悲惨さについて語るので、はっきり言って全然緊迫した空気が作れていないし、お互いに戦争を経験していろいろ思うところもあるはずなのに、言葉に詰まったりといったところがなく、流れるようにそれを演じる俳優が喋っていっているのには、リアリティに欠けるし、そんなことで戦争の悲惨さなんて伝わるはずがないと感じた。
 あと、泉谷吉五郎を演じる宮島岳史と松山啓太を演じる中西陽介の格闘シーンが、そんなにふざけた劇でもないのに、ドタバタコメディ風にやり合うのもどうかと思った。それに、泉谷吉五郎という人物は戦中は鬼畜米英お国のために、天皇陛下バンザイとかいって率先して街を仕切っていたのに、戦後は民主主義だとか言って完全に転向する浅はかだけども憎めないコミカルな人物として描かれるが、転向するにあたっては、戦争中と戦後では価値観に大きく隔たりがあるはずで、その本人の内心での焦りや葛藤など複雑な心情があるはずなのにも関わらず、泉谷を単なる道化キャラにしか見えなくさせているのには、脚色にも問題があるだろうし、泉谷吉五郎を演じる宮島岳史のこの人物に対するアプローチの仕方にも問題があると感じた。

森川勇吉と森川チヨを演じた俳優は、はっきり言って演技が棒だったが、森川チヨを演じる林佳代子の自殺前のやや鬼気迫る演技は良かった。

 劇全体としてまず、兵士たちの上官が訓練の場では厳しいが、そうでない通常時は、途端に優しくなって酒を振る舞ったり、歌を歌うようせがんだりする、根は陽気で人の良い人物として描かれるが、それは絶対に違うと感じた。そもそも第二次世界大戦中における日本軍の上官というのは仲間のことを思いやったりする気さくな人間である可能性はほぼゼロだったと推測する。だからといって上官が怒鳴り散らし、蹴飛ばすだけが能のステレオタイプが横行していたかというと、それも違うと思うが、実際には上官というものは、中央から派遣されてくるわけで、そうするとその現地軍の事情など知る由もないので威圧的で、自分のほうが優秀だと考えている人の率が高いので、自然と態度がでかくなり、自分の気分次第で部下に言いがかりをつけたり、仲間同士で拷問させたりといった、非人間的で、計算高い人物だったのではないかと思われる。そういう意味で、今回の軍の上官の描きかたは相当に生ぬるく、見れたものではなかった。
 また、夫である森川定造がフィリピンに行く途中の戦艦が攻撃されて死んだというが、その辺りの描きかたが曖昧で良くないと感じた。写真や映像を多用するのは良いが、それも原爆やフィリピンでの戦闘、B-29戦闘機による東京大空襲などを上から俯瞰して撮っているものが多く、市街地に原爆が落ちた瞬間を蟻の目線で細かく見ていったりしないので、これをもし戦争を確実に経験した世代が見たら、どう思うんだろうと考えると、中途半端な映像を見せるのはどうかと思う。
 劇の構成として、途中度中、戦中と戦後を同時進行的に見せていくやり方は、非常に良かった。
そして、劇の最後の方で、松山啓太が未亡人友子と仲良くなり、一枚のハガキと啓太が森川定造の伝言や定造との思い出がきっかけで互いに愛し、そしてこれからずっと2人で一から畑を耕し、生きられる限り行き続けよう、それが今まで、戦死した夫や夫の弟のため、亡くなったお父さんやお母さんのためにではない。死者は生き返らないんだから、せめて僕らが生きることが大事なことなんだ。戦争が2度と起こらない為にも、生きてゆくことこそが何よりも大事で、希望を持って歩んでいくことが大事なんだというようなことを言うが、そもそも戦友で森川定造のことを誰よりも知っているということ、そしてハガキを持っていたことがきっかけで恋仲に急接近し、発展するというのはいくらなんでも荒療治だし、無理がありすぎ、最後にこの劇の一番伝えたいことを啓太にあまりにもど直球に熱く語らせて終わるというのは、いくらなんでもこじつけ感があからさますぎて酷かった。

 劇の中で出てくる広島県有田神楽の演舞シーンと、フィナーレで賑やかな祭り囃子を出し、締めるやり方は上手いし、臨場感も、迫力もあって感動した。ただし、劇よりも神楽や囃子のほうが際立ってしまったのは、非常に残念だ。

 第二次世界大戦によってもたらされる惨劇やその後を描いた作品の筈だが、天皇の戦争責任や一般市民のお互いがお互いを監視しあう窮屈な関係、情報統制がなされ、不安を煽られ、他人を疑う険悪で生きづらく、軍隊の横暴、物資の不足等々制限が掛かり、毎日ビクつき、それでいて表にはそれを出さない重苦しい空気感が全然作品から滲み出てきていなかった。

リムーバリスト―引っ越し屋―

リムーバリスト―引っ越し屋―

劇団俳小

萬劇場(東京都)

2022/03/12 (土) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

鑑賞日2022/03/17 (木) 18:35

 『リムーバリスト 引っ越し屋』という劇のタイトルと、あらすじから、もちろん、DVやパワハラ、セクハラなどを扱っていることは知ってはいたが、それらの社会的な問題を扱いつつも、主人公が個性的だったり、アクが強かったりする登場人物のペースや勘違いに巻き込まれていくシチュエーションコメディかと思って観に行ったら、良い意味で私の予想を裏切ってくれて、実際は、笑いなんて一切ないどころか、不条理でバイオレンスなスピード感がありつつ、重厚なサスペンスで息もつかせぬほどに切迫して、観ている側の観客をその世界の渦の中に巻き込ませ、没入させていく新たな体験に、私がまるで起き上がれないぐらいの強烈なカウンターパンチを受けた時のように全身にとてつもない衝撃が走り、眼の前で起こっていることに戦慄し、終わってもしばらくは呆然としていて、今日に至るまでそのショックは、観た直後ほどではないが、持続しており、何かとてつもないものを観たという感じがしている。
 現代にまで続くパワハラやセクハラ、DVの問題、格差や貧富、権力の側にいる人間の、それを利用しての横暴の限りを尽くすことの問題を実際よりも相当誇張して表現してはいたが、DV夫による言葉や暴力によって妻を威圧し、怖がらせるリアルさや、いざ妻が自分のところを離れていきそうになるときの不安や惨めさ、巡査の上司であるダン·シモンズ巡査部長は警察という公の立場を利用してのセクハラ、DV夫が自分や訴えてきた女性の姉や女性に歯向かおうとしたことや、罵詈雑言を浴びせてきたのを、実際よりも大いに拡大解釈してこじつけ、殴る蹴るの暴行を加え続けたり、今までおとなしかったネヴィル·ロス巡査がDV夫の挑発にブチ切れ、(これは観客には観せないが)猛烈に殴る蹴る音が聞こえ続け、それが終わったと思ったら、暫くしてネヴィル·ロス巡査が顔にも手にもやけにリアルに見える血を滴らせて出てきて、オロオロして、狂気と正気の間を彷徨っている場面、最後の方で意識が朦朧として、アザや、顔面が血だらけになり、眼球がやや浮き出て、顎が外れている感じで、全身の感覚がないように見えるDV夫が、若干動き喋ったのを見て、束の間巡査部長と巡査は安心するが、数分話した後、DV夫が今度こそ息絶えたのを観て、ロス巡査はやけくそになって狂気に陥り、自分だけでなく巡査部長も巻き込もうとし、巡査部長は共犯者になりたくない保身から、何とか責任逃れをしようとし、最終的に殴り合いになり、最後に巡査部長がケリをつけるため拳銃を抜き巡査に狙いを定め、ゆっくりと引き金をひいてゆくところで暗転という、なんとも救いようがない話の上に、人間のエゴや醜い部分などが洗いざらい眼の前に暴き出され、まるで本気で殴り合い、相手を蹴飛ばしているように観ている側に感じさせるほど、白熱し、緊迫して、とてつもない臨場感と、役者が本気で言い合ったりするかのようなリアルさに満ちていて、まるでその中にいるかのように錯覚させられ、引き込まれた。

 この劇を観て、パワハラやセクハラ、DVの問題、格差社会や貧富の問題、権力の側の横暴さの問題など未だに完全には解決されていない問題について、改めて深く考えさせられ、失くしていかなければいけないと感じた。ただし、まずは私達一人ひとりがそういう問題について考えていくところからスタートしていくのではないかと思った。

EZO

EZO

きのこの木

CAFE ENZO(埼玉県)

2022/03/14 (月) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/03/17 (木) 14:00

 『CAFE ENZO』を舞台に、個性的な女性3人が謎のアーティスト『EZO』の話を中心に、取り留めもなく、時々お互いの認識のズレによる笑いや勘違いや思い込み、視点のズレによる笑いなどもありつつ、話が展開していき、劇の終盤で観客にだけCAFEの店員自身が実はという展開になっていて、その種明かしまでの持って行き方が非常に見事で、観ていて飽きないと感じた。
 
 また、演劇の会場がCAFEの2階と、今まで観てきた劇の中でも、客席との距離が非常に近く、さらに飲食しながら観れるということで、劇世界に入りやすい上に、気軽に肩の力を抜いて観ることができたこの体験は、なかなか経験することが出来ない上、私にとって非常に新鮮だった。

 ただ、強いて言うなら、4人の役者のうち、2人の役者が表情やリアクションに乏しいので、そこをもっと掘り下げてくれるとありがたいのと、観る側がマスクするのは良いとして、演じる役者の方は演じる際に、マスクを完全に外してやったほうが絶対に良いと思った。実生活の延長線上ではなく、演劇は嘘をさも本当のように見せるのが仕事の筈ですし、そういう信念を持ってやらないと、絶対にいけないと思います。

サヨナフーピストル連続射殺魔ノリオの青春

サヨナフーピストル連続射殺魔ノリオの青春

オフィスコットーネ

シアター711(東京都)

2022/03/11 (金) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/03/11 (金) 19:00

 始まってすぐ、主人公の永山則夫の東北にある実家の家に、面識のないはずの、ある招待状が送られてきたことが共通していて、何か勘違いしている4人の男性とのやり取りになるので、これはてっきり不条理劇かと思いきや、劇の途中からだんだんと分かってくるのだが、実はこの4人の男性、主人公の永山が射殺して殺された人物たちで、毎年事件当日になると、永山の前に現れ続ける、永山の後悔や自責の念との葛藤、不安や怖れから生み出した幻影だということが分かってくるという、劇のどんでん返しに目を見張る思いがした。
 そのかつて射殺した4人の幻たちとの対話を通じて事件を起こすに至る経緯や動機などが語られていき、少年から青年時代の永山則夫がいかに網走で生まれたことで、戸籍差別を受け、職場でも東北弁の訛りがないことで、先輩から目を付けられといったように苦労の連続であったというようなことから、もし、私自身が永山則夫の立場だったらどうしていただろうと思うと、居たたまれなくなった。このような事件は他人事ではなく、誰にでも似たような状況は起こりえるのではないかと考えると、深く考えさせられてしまった。
 しかも、4人の男性を射殺したあと、大一審は逮捕から10年に渡り1979年7月に死刑判決が言い渡されるが、弁護団が控訴したことで1981年8月に一旦は死刑判決は破棄され、無期懲役判決となったが、その後1982年に小説を書いて文学賞を受賞したりもするが、しかし安心するのも束の間で、1987年3月に再び死刑判決となり、本人が上告するも、棄却され、1990年5月に死刑が確定、1997年8月1日に東京拘置所で死刑が執行されるという、その間、永山則夫は、喜んだり、希望に燃えたり、ほっとしたり、不安になったり、後悔したり、自責の念に駆られたり、といったように運命にイタズラに翻弄されていく一人の無力な人間として描かれていて、共感する部分も多くあった。
確かに4人殺すのは良くないというのは分かるものの、そうは言っても、30年弱も牢屋に入れておいて、勉学の機会まで与えておいて、でもやはり最終的に死刑という在り方自体に疑問を禁じ得ないし、日本の死刑制度の必要性に疑問が残った。

また、劇のあとに姉の回というのがあって、それでは、永山則夫の長女にフォーカスが当てられた一人芝居だったが、彼氏らしき検事志望の学生に勉強を教えてもらっているところから始まるが、最後には、長女セツは、その学生にとって遊び程度の関係としか思われていないことを知り、発狂して狂うまでが丹念に描かれ、長女役の俳優が、健気で明るく元気でしっかりしていて、純情なところから、終盤で狂気に取り憑かれていくまでをしっかりと表情豊かに、声にも波長をつけ、肉体も駆使しながら、身体全体を使って表現していて、何か迫ってくるものがあり、思わず魅入ってしまった。

ナマリの銅像

ナマリの銅像

劇団身体ゲンゴロウ

ひつじ座(東京都)

2022/03/09 (水) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/03/12 (土) 18:00

 江戸時代において、新代官による圧制が強まる島原で、一気の噂が流れ出し、口先達者だが意気地なしの臆病者のパチンコ屋でアルバイトをする益田が、いつの間にやら天草四郎として一揆軍のリーダーに祀り上げられ、破滅していく様を、天草四郎の銅像を彫る彫刻家の通称ナマリや益田の幼馴染のタツを通して物語は展開されていく。
 江戸時代を舞台にしながら、パチンコ屋が平然と、さも当然のように、さり気なくあったり、軍艦マーチが聞こえたり、最終的に島原城に籠城した筈が、実は巨大な空母であったりと、江戸時代の島原の乱と第二次世界大戦を彷彿とさせるシーンが交錯していっていて、明らかに江戸時代にパチンコ屋など無い筈だが、それらがその時代にあることが何ら不思議ではなく感じられてきてしまう俳優たちの熱演と、脚本の妙な説得力に説き伏せられ、気付くと、私自身劇世界に魅入られ、没入していた。
 口先達者だが意気地なしで臆病者のパチ屋でアルバイトをしていた益田が、ある落ちぶれた士族にそそのかされ、口達者なのが功を奏し、圧制強まる島原で、一揆軍のリーダーにいつの間にやらなり、天草四郎となっていくさまをみて、あぁ、戦争とは言葉の力やカリスマ性、一人の人物を過剰に狂信的なまでに信じることで、みんなの期待や希望を失うわけにはいかないと、心のなかではこのまま勝てないかもしれない戦をいつまで続けても意味があるのだろうか、仲間をも疑いの目で見る疑心暗鬼に陥り、不安と恐怖に打ちひしがれ、孤独に引き裂かれながら、引くに引けなくなり、より長期の戦争に発展していてしまう、戦争が独裁者を生み出し、戦争が普通の人々を狂気へと駆り立ててゆく過程を今回の劇に垣間見えて、戦慄し、改めて戦争のヤバさを痛感した。この作品の益田は、口達者だが臆病者で意気地なしの少年だが、そのしがない少年がかつての恩人でもあるパチンコ屋の店長を幼馴染のタツに殺させ、天草四郎となり、祀り上げられ、一揆軍のリーダーになっていく過程は、今まさにウクライナ侵攻を実施中のロシアのプーチン大統領にも当てはまりますし、かつて日本が第二次世界大戦に本格突入していくに当たっての天皇の異様な祀り上げられ方、ヒトラーの支持のされ方に共通するものがあると思い至り、震撼させられた。また、彫刻家のナマリに対して、権威ある人物がこれからは平和な時代だから、天草四郎の銅像やそれに殉教した人物の銅像なんか取り壊せという指令を出して、皆が右に習え的にその意見を迎合するというシーンも、何か不穏な空気感を漂わせていて、今の日本の社会にも通底する感覚を覚え、深く考えさせられ、最後には感動して、思わず涙が出た。
 演出効果や材木や木団だけを使った質素だが剛直な舞台、客席に緊張を強いながら、迫真の身体から溢れ出る狂気や不安や孤独に猜疑心などを肉体を持って最大限に出し切った俳優たちも含め、最高に素晴らしい劇だった。

おとし屋 -SEDUCTRESSES- EPISODE2

おとし屋 -SEDUCTRESSES- EPISODE2

SMASH ENTERTAINMENT

上野ストアハウス(東京都)

2022/03/04 (金) ~ 2022/03/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/03/05 (土) 19:00

 劇の始まりが、秋葉原のアイドルカフェのアイドルライブのシーンから始まり、その後OL二人の他愛もない会話や、ヤケになって新宿?のショッピングビルで買いまくって手荷物が多い女性と、それを怜悧に眺め、冷たく突き放す友達らしき女性との会話、グルメレポーターをしている姉と、最近看護師を始めた世間知らずで、人を疑うことを知らない無邪気でマイペースな妹との会話など、他愛もない日常のシーンを最初の方で続けざまに、それでいて丁寧に細かく描いていて、その後の実はそれまでのたわいもなく見えたシーンが、おとし屋に所属する女性たちの普段の姿だと言うことが明らかにされる展開が、お見事だと感じた。
 あと、落とすターゲットの篠山ファンド社長を演じる俳優が、いかにも裏がある感じの雰囲気と偽物感のある怪しい雰囲気を漂わしていて適役だと感じた。ただし、俳優だけじゃなく、これは脚本にも問題があるのかも知れないが、表の顔よりも裏の顔の雰囲気が目立ちすぎて、人当たりが良い好青年な感じが全然出ていないのには強く不満が残った。
 敵役が裏表がある設定の割には、部下との信頼関係がかなり危ういところを強調しすぎ、女垂らしであることもあまりにも分かりやすく描いている上に、おとし屋のメンバーの葛藤も多少は描かれるが、全体としてはおとし屋の側を完全に正しい絶対正義として描き、篠山ファンド社長の側を典型的な女の大敵として描く脚本の単純さが目立ち、キャラクター個人としては魅力あるキャラもいるものの、脚本全体としては、単純明快過ぎて、これでいいのかという相当な不満が残った。学生演劇ではあるまいし、もっと深みのある脚本にしなくては駄目だと思うし、脚本が駄目ならば役者と演出家で脚本の欠点の部分を補強しないと駄目だろうと思う。また、役者も全員ではないが、主役と主役級の役者3、4人が台詞を何度も噛んだり、噛むレベルどころか、台詞を忘れて思い出すために何分か無駄な時間が過ぎていったり、ある役者などは台詞が思い出せない空白の時間を埋めるために急遽アドリブを入れて誤魔化そうとしたが、そのアドリブが上手いどころか、取ってつけたようで、あまりに下手なアドリブ過ぎて、場が持たなかったりといったことが何回となくあり、それでも、それが新人の役者だったらまだしも、20代後半〜30代ぐらいの男性や女性だったりするものだから、余計に見れたものではなかった。
 最後のマツケンサンバの曲に合わせて盛り上がり、役者は歌って踊り狂い、観客は手拍子をして上野ストアハウスという小さな会場が一体となり、熱気が溢れたのは良かったと思う。色々、改善点は上げれば切がないが。

The leg line

The leg line

仮想定規

中野スタジオあくとれ(東京都)

2022/02/10 (木) ~ 2022/02/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/02/11 (金) 19:00

 劇場の楽屋が舞台で、歌のショーを演るために開演前の劇場の楽屋に、ベテランシャンソン歌手のサラさん、劇場支配人、女性アイドルのマネージャーなどが入ってきて、さらに、存在感が薄くて挙動不審な中年女性、外から雷雨がものすごくて、劇場の楽屋に避難させてもらうことになるUbereatsの態度がでかく、図々しくて、社会をなめている感じで、自信過剰な青年、方言の訛り具合がひどすぎる劇場の制作の梅田さん、雨のなか倒れているところを助けられて、劇場の楽屋に居る国籍不明で、あだ名が腹ペコ、変に達観し過ぎていて、見た目は怪しい和尚と、個性豊かなキャラクターが出揃うドタバタスピード喜劇で、先が読めない破天荒で、トラブルや偶然が相次ぐが、それを登場人物たちの機転やユーモア、出たとこ勝負で解決していくノリに圧倒され、殆ど劇の間じゅう可笑しくて笑いっぱなしだった。

 特に、シャンソン歌手のサラさんと女性アイドルマネージャーの男性とのあけすけ過ぎる嫌味合戦や、どんなことが起こっても動じずにスマホをいじり続けるUber eatsの青年、いきなり停電になった時の登場人物たちが必要以上に右往左往することによる笑い、和尚の達観し過ぎていることによるズレの笑い、東北弁の訛りがひどすぎる劇場制作の梅田さんのもはや何言ってるか分かりづらく、会話にならない笑いなどが、ツボにはまって、何もかも忘れて、徹底的に笑えて、飽きることなく面白かった。また、役者によるアドリブや、Uber eatsの青年役の役者が客を引きつけて巻き込む話術とラップ、歌もダンスも卒なくこなしていて、多彩な才能を感じた。シャンソン歌手のサラさん役の役者は、シャンソンを歌う場面で、雰囲気を醸し出していて、歌い方も本当のシャンソン歌手な感じが出ていて良かった。劇場支配人役の役者は、一人で歌うシーンで声もよく通り、非常に上手く、思わず聴き入ってしまった。

 劇場がまるで生きてるかのように描かれ、劇場の奈落に人格を与えられていて、そういう幻想怪奇な要素と、ドタバタ喜劇なところが上手くミックスされ、活かされていて、非常に面白くて、退屈することがなく、演じる役者も演出も戯曲も全てがお互いに相乗効果を出していると感じ、全体的に優れており、観客が一人でもいるならば舞台に立たなければならない、劇場は身分を問わず、役職を問わず、どんな立場の人であっても、ここ(劇場)では、役職や社会的地位を忘れ、みんな平等でいることができるというようなことを役者が言い、その劇場の理念を何気なく聞いて、深く感動した。

チェーホフも鳥の名前

チェーホフも鳥の名前

ニットキャップシアター

座・高円寺1(東京都)

2022/01/26 (水) ~ 2022/01/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/01/29 (土) 18:00

 全体を通して、そして、明治時代にサハリン島/樺太に刑務所長とポチョムキンの娘ナターシャの結婚披露宴に招待されてやってきたチェーホフ、大正時代に塩川家にやってくる宮沢賢治など、小さな誇るべき事柄も加わりつつ、昭和初期から第二次世界大戦に日本が突入していく過程、そして戦後から昭和の後期までを、一つの家族とそれに関わる人たち、そこから派生した家族や子孫を中心に、サハリン島/樺太におけるロシアと日本の交流や歴史を描いていて面白く、且つ、最後には感動していた。
 日本とロシアのサハリン島/樺太における交流や、サハリン島/樺太の明治以降の全体的な歴史の流れはしっかりと描けていたし、時々スライドも使うことで、リアル味を補強もしていた。また、戦争の悲惨さも描ききっていて、共感や悲痛を感じれた。
 登場人物が異常なほど多いのは良かったが、それを何人かの俳優で何役も演じていて、何人かの俳優を除いて、ほとんどの俳優が何役やってもおんなじような縁起をして見えたので、それはどうかと思う。確かにこの劇は、サハリン島/樺太における、ロシア人と日本人との交流や歴史を伝えることがメインなのはわかる。しかし、登場人物一人ひとりの印象が薄い完全なドキュメンタリー劇なら、何も劇じゃなくても、映画やドキュメンタリーTVドラマ、または、新聞の特集記事や、雑誌の記事、もしくはノンフィクション本にでもすればよいのであって、劇という表現媒体にこだわる必要はないんじゃないかと思った。劇として面白くするためには、魅力的な登場人物や個性的な登場人物が今回の劇では少なかったので、そこらへんを演る役者も含めてもっと深く検討すべきだと思う。
 途中度中、コミカルな笑いや、ドタバタな笑いがあって、時々緊張を解きほぐせて良かった。

中二階のある家 ある画家の話

中二階のある家 ある画家の話

三輪舎

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2022/01/28 (金) ~ 2022/01/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/01/30 (日) 17:00

 『中二階のある家 ある画家の話』という劇を観ましたが、時代遅れの閉鎖的な所在が定かでないコミューン(村)があり、村全体が家族であるという信念のもとにその村で生まれた子供は血の繋がらない男女のもとに割り振られ、成人した男女は、村から決められた人と結婚し、これは5年おきに更新されるシステムとなっている村のある一家族に焦点が当てられた、なんとも不条理なことがまかり通っている世界が舞台の劇にに圧倒された。
 実の息子と娘、実の母と父でない兄妹と、その両親が登場人物で、一見喧嘩やイザコザもなく、トラブルもなく、怒られることもない幸せな家族だが、義理の兄がこの村の外に行っていて、何年かぶりに家に帰ってみて、その家族間における幸福性の違和感やこの村の理想的な平和で豊かで楽しそうな雰囲気に対する違和感を覚え、義理の妹を説得して、この村を家を出ていこうとする。しかし、義理の妹は外の世界に対して憧れはあるが、この村やこの家の現状に不満はないし、出ていく正当な理由がないと、義理の兄の説得を突っぱねる。それに、それはお前の考えをただ妹に押し付けているだけじゃないのかという父の台詞や、過去の苦い現実から逃れて、自己意思でこの村にやってきた1世で、この村は平和で、争いや喧騒がなく、治安もよく、犯罪もないこの村を理想的だと思い住んでいる母などから、価値観の違いがあることからむやみに人に自分の正義感を押し付けてしまうことが良くないことであること、だからといってみんな騙されているんだ、偽りの平和を維持するために知らず知らずのうちに無気力にされ、反発する意思やおかしいと思うこと、意見することがくだらなく思え、何も考えずに日々の生活が楽しければ良い、自分たちが脅かされなければ良いという事なかれ主義で、生ぬるく、生きてる実感も沸かず、娯楽もなければ、刺激もないそんな生活で、果たしてそれが本当に幸福かと問い続け迫る兄の考えも正しく、心揺さぶられ、ときに緊迫し、ときに笑い、今のはっきりとした形象はないが、流行に流され、あまり深く考えず、社会がどう変わろうと自分たちが幸せであれば良いという管理されていても気付かない現代の人々とこの架空の場所を舞台にした劇とあまりにも似通った共通点をいくつも見つけることができ、震撼し、深く考えさせられた。
 ただ、劇のラストは、少し不満に感じた。主人公の兄が、義理の妹を刺殺し、その血を吸いながら、片手で自分の首筋を掻っ切って息絶えるとか同じ悲劇的な展開でも、もっと、これは演劇なのであるから、劇的なラストになっていて欲しかった。

ガラテアの審判

ガラテアの審判

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2022/01/20 (木) ~ 2022/01/26 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/01/22 (土) 19:00

 私が今回観劇した『ガラテアの審判』という作品は、裁判劇だが、ロボットにも人権があり、アンドロイドと人間が共存する近未来を舞台に、ココノエアンナ(7)を殺害した容疑で、隣家の家庭用アンドロイド俗称ジャックを拘束し、それを裁く裁判が繰り広げられる内容となっております、アンドロイドを人間が裁くという発想自体が新鮮で面白かった。

 劇に出てくる登場人物も、経験は浅いが正義感に燃える若手の女性検事、日和見主義で事なかれで無責任な女性判事、うだつの上がらないが実は確こたる信念と情熱に燃える国選弁護人、証人として立つロボットメーカーの責任者は、ロボットのこととなると、我が子をみるようにしっかり面倒を見て、愛情を注ぐ、変わっている人など、一癖も二癖もある登場人物たちとそれを演じる役者がクロスして見え、役者の迫真の肉体全身を使い、5感全体を張り巡らせた演技と登場人物双方に魅力を感じました。

 途中に分かってくる若手女性検事の主張がそれらしいことを言ってはいるが、実はほとんど偽善的な味方に過ぎなかったことをうだつが上がらないように見えた国選弁護人に完破されたり、容疑者のアンドロイドが実は犯行に及ぶ前まで、持ち主による虐待疑惑が持ち上がったり、法廷中に発砲事件が起き、アンドロイドは中身だけになったりと、予想外の出来事や偶然、意外な事実などが連続して起こり、途中多少の証人台に立つ人のキャラなどによって笑いを引き起こしたりしつつ、全体的には、緊張に次ぐ緊張を強いられ、この裁判の結果はどうなるんだろうと、息を呑み、手に汗握りながら、作品世界にのめり込んだ。

マンホールのUFOにのって

マンホールのUFOにのって

マチルダアパルトマン

OFF OFFシアター(東京都)

2021/12/22 (水) ~ 2021/12/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2021/12/25 (土) 14:00

 タイトルからして興味をそそられる作品だったが、マンホールからタイムワープ出来たり、人間の言葉を理解し、人間の言葉を喋ることができる野良猫がいたり、行きつけの喫茶店の主人が実は宇宙人だったり、月日がだいぶ立ったあとのはるかちゃんが、かつての恋人への思いを断ち切ることができない寂しさを埋めるものとして、恋人の瘡蓋と猿を組み合わせて喫茶店の主人に作らせた生き物をペットのように連れ歩いていたりと、そういう不可思議で奇想天外なことが何気ない日常の延長線上に描かれているのが、ギャップがあって不条理で笑えて、面白かった。

眠れぬ姫は夢を見る

眠れぬ姫は夢を見る

サヨナラワーク

劇場HOPE(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/12/25 (土) 19:00

 自分を変えようと女性アイドルグループに入り、その中のとある女性に恋愛感情を抱くが、ある時急に暴行事件の被害者になり、そのアイドルグループも解散する。そして、暴行事件の被害者で主人公の女性は病院のベットにおり、ある時から暴行事件受けたショックと自信喪失、現実逃避感情から自分をTVで見たアナウンサーだと思い込み、かつての女性アイドルグループのメンバーに自分が受けた暴行事件に至る経緯について話を聴き、最終的には暴行事件のショックを乗り越え、かつてのメンバーたちと舞台に立つまでが描かれた、タイトルからは想像もつかないショッキングで社会派な内容の劇に、驚き深く考えさせられた。
 
 ショッキングで社会派な劇なのに、主人公の女性の現実逃避や寂しさの空想から生まれた男の子の友達を作り出し、劇中にかなり重要な役として出てきたりと、不可思議な要素が、日常の延長線上に何気なく展開される話の持っていきかたが、ギャップがあって面白かった。

 暴行を受けて、その前には憧れ恋してもいた自分が所属するアイドルグループの女性には、ある言動から気持ち悪がられ、それら両方のショックから心身共に傷付き、なかなか立ち上がれない。更に、自分は女子アナウンサーだと思いこむようにまでなるが、何とか最終的には壮絶なショックから立ち直るまでを不思議な要素も混ぜつつ、コメディ要素も入りつつだったので、深刻になり過ぎず、時に緊張しつつも肩の力を入れ過ぎず、バランス良く楽しめた。また、すぐに立ち直れなくても良い。人は、孤独に耐えられなくなって、目標を見失って、自分を見失って、自分の殻に閉じこもって、ある時何もすることが出来なくなるときだってある。それでも良い。どんなに時間がかかったとしても、気持ちの整理がついて、本当に落ち着いたら殻を抜け出そう。完全に元のようには戻れないかもしれない。そうだとしても、少しずつでも、一歩一歩踏み出してゆく勇気を持とうというメッセージに心打たれ、いきなりショックから立ち直れと言っていないことにリアリティーを感じ、共感した。

 主人公のキャラも相当アクが強かったが、他のアイドルグループのキャラも、それぞれが個性的で、役者のオーバーリアクションがキャラと程よくリンクしていて印象に残った。特に、主人公が想像で作り出した人物の狂言回し的であり、時に的確なアドバイスをしてくれたり、慰めてくれたりするキャラがユニークで記憶に残った。

 プロジェクターをいくつか置かれた白い箱などに投影して、劇の世界観とマッチしていて、劇に没入しやすかった。

夏への扉 2021

夏への扉 2021

enji

現代座会館(東京都)

2021/12/10 (金) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/12/10 (金) 18:30

 過去に囚われて、なかなか現実を見つめようとせず、付き合っている男性ともやや溝が出来ている、親から継いだ喫茶店経営者の女性が、お香を売る怪しげな中年会社員からお香をつい買ってしまい、その匂いを嗅ぐと眠って、1960年代の同じ喫茶店で気が付き、そこに出入りする個性的な人たちとの交流、自分がかつて大好きだったおじさんの若い頃との交流などを通して、少しずつ打ち解け、最終的には自分の亡くなってしまった家族やおじさんとの記憶は、時々思い出そうとすると蘇ってくるものだから、現実には会えないとしても悲嘆にくれて、現実から目を背けなくても良いんだと悟り、現実に戻っていくまでの主人公の心の揺れ動きや、小さな成長を丁寧に描いていて、最後は自然と感動してしまっていた。
 
 お香で主人公の女性が眠って過去に行くという、今まで誰もあんまり考えていそうでなかったタイムスリップのきっかけが、奇想天外で面白かった。

 一人ひとりの人物が非常に個性的で、魅力的で感情移入できた。また、人物とそれを演じる役者が重なって見えて、演技があまりにもさり気なく、自然な雰囲気で、それでいて誇張すべきところは誇張していて、そこらへんのバランスが不自然に見えず、感心してしまった。

 現実から香りを通して意識が過去に行った主人公の女性が、1960年代の喫茶店で出会う人たちとのカルチャーギャップにおける笑い、若い頃のおじさんや若い頃のお父さんなどの誤魔化し合戦によるあけすけで無理くりな言い訳による笑い、主人公の女性が、若い頃のおじさんや両親などに対する勘違い笑いなど、多岐に渡るコメディ要素がそこかしこに散りばめられており、退屈せず、大いに笑って、肩の力を抜いて楽しめた。

 喫茶店のセットに4つの扉があり、物語と大きく関わり、1960年代喫茶店になった時に、4つの扉から入れ代わり立ち代わり登場人物がせわしなく出たり入ったりするのに使う、その使い方が見ていて飽きなかった。

隠密お麟に出来ぬ事なし。

隠密お麟に出来ぬ事なし。

OG-3works

シアターKASSAI(東京都)

2021/12/09 (木) ~ 2021/12/13 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2021/12/13 (月) 12:00

 笑える要素や、恋愛要素、ミステリー要素に、割と本格的な殺陣あり、感動あり、アドリブもふんだんに交わされ、さらに絶妙なタイミングで効果音や音楽が使われていて、1つの作品に対して詰め込めるだけいろんな要素を詰め込んだ、痛快エンターテイメント時代劇で、大いに楽しめた。
 
 パロディ笑いに、厳格に見える商人の父親のギャップ笑い、小吉とその奥さんお貞とのドタバタコメディな笑い、市太郎とお佳しと小吉による話があまり噛み合わないまま進む掛け合いによる笑い、さらに、麒一郎こと中性的ななかなかの美男に見えるボーイッシュな隠密の女性で、正義感が強く、実直で、何事も卒なく、着実にこなす、エリートタイプだが、部下の隠密お麟の特別な香を使った幻術の効き目の強さによって見せた普段見せない姿など、面白い場面が目白押しで、大いに爆笑し、それによってストレス解消にも繋がったので二重の意味で良かった。また、キャラクターがすごい立っていて、キャラと演じている俳優とのシンクロ度合いがあまりにも自然で、演技というよりも、身からでた感じの迫真の演技に、いつのまにか心奪われていた。

 不法に駿府の町で南蛮渡来の賭場キャジノの実の経営者を巡って、千太郎であるとも、その親父であるとも言われ、嫌疑によって勘定奉行にしょっ引かれるが、実は、本当の黒幕は最も意外な人物でと、犯人探しが、謎が謎を呼ぶという感じで、次はどう物語が展開するのだろうという、時に胸踊らせ、時に緊迫しながら、観ている私自身も犯人が誰なのかを推理したりしながら、劇世界にのめり込んだ。

 中性的な美男だが、ボーイッシュな女性が、時々発するさり気ないが格好良い台詞が印象的だった。

AI懲戒師・クシナダ

AI懲戒師・クシナダ

株式会社CREST

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2021/12/01 (水) ~ 2021/12/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/12/04 (土) 19:00

 笑いあり、ラブ???要素も多少あり、シリアスあり、殺陣あり、感動ありのSFクライムサスペンスで、息もつかせぬ展開で、先が読めず、ドキドキハラハラし、思わず食い入るように見てしまうほど、劇世界にのめり込み、気がつくと、感動していた。

 物語のそれぞれのキャラクターが個性的で印象に残りやすく、特に主人公の天才ハッカーの女の子櫛名田サホと物語の中心人物たちはアクが強く、それらを演じている俳優たちの迫真の演技と相まって、魅了された。

 また、主人公の女の子櫛名田サホの過去が劇中で段々と明かされてゆく展開、サホが自身の過去に向き合うこと、ICMAになることで大好きなAIを駆逐する側になることを思い悩み葛藤し、自問自答し、自分と向き合い、途中諦めそうにもなるが、挫けず、前へ進もうとする非常に泥臭い人間らしさにグッときて、共感し、感情移入した。そして、サホの過去とペンダントの秘密の関係性や、事件の黒幕とサホの意外な関係性、テロ事件に直接関係していた凶悪暴走AIなど、複数の話が複雑に絡み合い、サホの仲間をも巻き込み、物語は謎が謎を呼ぶ複雑で緊迫していて、サホの出自さえもわかってくる壮大なSFクライムサスペンスで、手に汗握る展開に、どんでん返しの連続に振り回され、その事件やその真犯人、街の仕組み自体の伏線の回収の周到さのあまりの鮮やかさに目を見張った。

わが町 高円寺 子ども食堂

わが町 高円寺 子ども食堂

演劇なかま高円寺

座・高円寺2(東京都)

2021/11/20 (土) ~ 2021/11/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/11/20 (土) 19:05

 高円寺の町を昔から最近に至るまでをずっと冷静に第三者の目線で見つめる巨木の精を中心に話が進み、そこに高円寺の住民たちが幾人か登場し、最終的に子ども食堂が高円寺の町にできて今に至るまでを、一人ひとりにスポットを当てつつ、全体の歴史の流れもすんなりと伝わってきてわかりやすかった。
 一人親家庭の大変さや、その子どもの孤独、離婚問題、一般家庭における親と子どもとの感覚のズレ、世代間の違いなどを丁寧に、それでいてさり気なく描いていて、そういった社会問題について、改めて真剣に考えさせられた。
 また、料理人だった男がかつて少女に出会ったときに、少女を助けてやれなかったことがきっかけで料理人を辞めているが、その少女が親になり、家が貧困なこともあり、その娘が居場所がなく、孤独に耐えて、イジメに耐えていることを知り、子ども食堂を始めるにあたっての料理人を申し出るに至るまでの物語が印象的で、感動した。

シャンデリヤvol.2

シャンデリヤvol.2

U-33project

高田馬場ラビネスト(東京都)

2021/10/20 (水) ~ 2021/10/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2021/10/23 (土) 18:00

 『シャンデリヤvol.2』という短編集の劇を観ました。
 最初オフィスでの、女性上司と、あからさまにお互い、何かと仕事を奪い合おうとしている2人の女性社員が出てくるドタバタコメディな話から始まる。
 後に分かってくることなのだが、椅子や衝立をしきりに2人の女性社員が動かしているのは、舞台転換をしていて、その作業自体をドタバタコメディな芝居にすることで、芝居と芝居のツナギを退屈にせず、観客を一旦現実に引き戻させずにする効果になっていることに、途中の演者の台詞によって気付かされ、無名な劇団がこんな高度なことをさり気なくやってのけている事を知って、感心してしまった。
 また、女性上司から仕事をもらうために2人の女性社員がそれぞれしゃしゃり出て、あけすけにお互いをライバル視して、しかし、それでいて、時々協力し合うドタバタコメディで、大いに笑えた。
 
 コンビニが舞台の短編では、どっかズレていて、距離感もなく話しかけ、人の話をあんまり聞いていない男性店員と、ツンと澄まして隙がなさそうで、常識人っぽい女性店員との言葉のキャッチボールが全然成立していないやり取りが個人的にかなり受けた。
 また、コンビニの男性店員を演じる俳優が、隣の女性店員に一方的に思いを寄せていて、アパートのシーンにおいて、女性店員のいる隣の部屋から壁に耳をそばだてて盗聴したり、女性店員がいない間で、たまたま入り口のドアが空いていたときに、勝手に入って、女性店員が所持しているものの匂いを嗅いだり、小型デジカメで写真を撮ったり、部屋を撮ったりといった異常行動を、その肉体全身と、目つき、声色を使って、ストーカー行為のそこ知れない気持ち悪さと、おぞましさを体現していて、存在感があった。
 しかし、女性店員がガラス製の灰皿で彼氏の後頭部を何度も何度も叩きつつ、叫び続けて、殺すシーンにおいて、それを演じる女優が、眼が血走り、静かだけれども相当以上で狂気に満ちたサイコパスな雰囲気を肉体から漂わせていて、真に迫っている感じが出ております、思わず見ているこちらも緊張し、脂汗が流れた。
 
 最後の劇では、殺人事件の話と、実際にその劇の稽古や本番、機材トラブル、脚本家が劇本番の最後の方になって降りるなどの劇団の現実問題とがシンクロしていく劇的展開、シリアスなようでいて、張り詰めたシーンでいきなり笑える内容になったりとコンセプトとしては、とても面白かった。
 ただ、クライマックスシーンにおいて、せっかく今まで観客を物語世界に引き込んでいたのに、収集のつかない、相当無理な素人芝居レベルか、それ以下の終わり方には心底落胆したが、そこさえ何とかすればより良くなると感じた。


「PUZZLE~HUGALIVE2021~」「天穹の雫」

「PUZZLE~HUGALIVE2021~」「天穹の雫」

ハグハグ共和国

萬劇場(東京都)

2021/10/07 (木) ~ 2021/10/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/10/10 (日) 13:00

 『破片』という劇を観た。その劇では、かつて虐待を受けていて、現在は学校の先生をしている女性、虐待を受けている子どもたちや、かつて受けていて心の傷が癒えきっていない大人たちなどに向けて、無償で食事を提供しながら、気軽に相談に乗る、虐待被害者を支援しているオバサン、現在虐待を受けており、今日自殺しようと決意している女子学生と、何とか自殺は思い留まるようにさせたい友達、かつて虐待被害者で、現在は弁護士をしている女性などが中心人物として出てくる。
 虐待をテーマにしているが、それぞれの立場や価値観などによって、一方的な善悪論や単なる主観論に留まらず、多角的な視点で虐待問題を扱っていて、所謂新劇みたいに説教臭かったり、観客を教化することが露骨に表れていたりと言った感じがなく、劇を見終わった後に、社会問題としてだけではなく、もっと身近な問題として虐待の加害者、被害者、について深く考えてしまった。

カムカムバイバイ

カムカムバイバイ

U-33project

アトリエファンファーレ東池袋(東京都)

2021/09/08 (水) ~ 2021/09/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/10 (金) 18:00

 僕は『カムカムバイバイ』という劇を観ました。
 群像劇で、社会派劇であり、不条理劇であり、少しサイコ·ホラーであり、劇を見終わる頃には、見につまされるような、他人事には思えないような気持ちにさせる作品である。
 女性の上司に付き合ったことで、キャバクラの女の子入れあげた挙げ句、ストーカー行為に走る男性会社員、少し謎めいたところがあり、キャバクラ通いのかなり強引で、何かにハマると、それを人にも強引に押し付ける女性上司、それまではおバカで天真爛漫で、常に明るく元気だったが、女性上司にキレイになる香水を強引に勧められてからは、それがないと段々正常な状態でいられなくなっていくキャバクラ嬢、詐欺師で捕まった男は牢屋内で不思議で変わった女に救われ、それ以来その女性を探しつつ、透明人間のように殆どの人間の視覚から消える術を得て、逃げ続ける。また、それまで警戒心がなかったが、ある事がきっかけで警戒心を持つようになり、そして時を近くして自分が人から構ってもらいたい、優しくされたいんだと気付く女子アナウンサー、子どもっぽくて人を疑わず、いつかお金持ちになりたくて、そのためにはどういうことをすれば良いのだろうと悩んでいる女子アナウンサーと同居している女性、そして全てを見守っているが、物語の最後の方でとうとう感情が爆発してしまう、何とも人間的な神様など、相当個性的な人たちが出てきて、噛み合ってるようで噛み合ってないような会話が面白く、さり気なく繰り広げられる会話のなかにも、ユーモア、ブラックユーモア、皮肉が込められており、大いに笑えた。
 キレイになりたい、人に構ってほしい、優しくされたい、お金持ちになりたいと素朴な願いから壮大な願い、欲望などを持つ人たちが、騙され、騙し、失敗し、挫けそうになっても何とか立ち直り、前に向かって進もうとする。しかし、物語の終わりのほうでみんなの願いを今まで一心に聞いてくれていた神様が爆発して、ハッキリとものを申す。
 そうすると、今まで神様を頼り、お互いの幸せを称え合っていたのが崩れ去り、信頼、信じ合う心、自分よりも他人の幸福を祈っていたなんて真っ赤な嘘で、お互いを激しく罵り合い、人を疑い、SNSにはあることないこと書かれ、一気に拡散されるといった現代の噂に当たるSNSの負の部分も暴きだされ、人間の醜い部分があぶり出され、本性丸出しの、しかも神さえ救えない、そのどうしようもない終わり方に、他人事とは思えなく、自分にもそういう嫌な部分が多少なりともあるんじゃないかと思うと、背筋が凍りつき、嫌な余韻が尾を引いた。
 あと、話は少し変わるが、この劇で、TVディレクターの役をやっていた俳優が、『お疲れちゃ〜ん』『もしもし〜○○ちゃぁ〜ん、今日この後予定ある〜』みたいな感じの、いわゆるTVディレクターの一般的なイメージを、さり気なく、でも相当誇張して表現していて、役者が演じてるというより、目の前にTVディレクターがいるという感じで、役と演者の区別がつかないくらい肉体から自然発生的に演じられていて、すごかった。出てきてちょっと喋っただけで、相当笑えた。

Who’s it? 〜ニューヨークの日本人〜

Who’s it? 〜ニューヨークの日本人〜

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2021/08/05 (木) ~ 2021/08/10 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2021/08/08 (日) 14:05

 febLaboプロデュース「Who's it?~ニューヨークの日本人〜」を観ました。天真爛漫で、相当ハイな日系人女性、テンションが異様に高く、人の話を聞かないニューヨークのアパートの管理人の女性、売れない画家の男性、小さなギャラリーを営む信用ならない男性、ダンサーの女性、そして、アパートの一室に何時間前からいるのか見当がつかない、銃を手にして座っている日本語しか話せないヤクザの男など、一癖もふた癖もある登場人物たちが、それぞれ存在感を発揮していて面白かった。
 そして、役者と劇の登場人物たちが絶妙にマッチしており、且つ、役者の熱演ぶり、さり気ない所作から全身を使ってリアクションをしたりしていて、観ていて気持ちが良かった。
 ヤクザが銃を持っていて、英語禁止で、スマホは机の上に置かなければいけない危機的状況なのに、最初のうちはヤクザにビビっているが、途中から、思い出話や何で自分がニューヨークで暮らしているのかという理由を話し出したり、日本人がアメリカにおいて、差別される話、そして、ヤクザが金品目的や命を取る目的ではないことが途中からわかってきたり、アパートの住人の男性の一人が、大麻を大量に所持しております、それを元手に新たな事業を展開してカリフォルニアに移ろうと考えていたことが物語中盤でわかったりと、先の展開が読めず、それぞれの思惑が絡まり、勘違いや空回りによる笑いがあり、見る者を飽きさせず、先が読めないものだから、次はどうドラマが展開していくんだろうとドキドキハラハラしながら観ていて、次第に気持ち的に目の前で起こっていることが演劇なのか、現実なのか、その境界が曖昧になるくらい劇世界に引き込まれた。

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