ナマリの銅像 公演情報 劇団身体ゲンゴロウ「ナマリの銅像」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2022/03/12 (土) 18:00

     江戸時代において、新代官による圧制が強まる島原で、一気の噂が流れ出し、口先達者だが意気地なしの臆病者のパチンコ屋でアルバイトをする益田が、いつの間にやら天草四郎として一揆軍のリーダーに祀り上げられ、破滅していく様を、天草四郎の銅像を彫る彫刻家の通称ナマリや益田の幼馴染のタツを通して物語は展開されていく。
     江戸時代を舞台にしながら、パチンコ屋が平然と、さも当然のように、さり気なくあったり、軍艦マーチが聞こえたり、最終的に島原城に籠城した筈が、実は巨大な空母であったりと、江戸時代の島原の乱と第二次世界大戦を彷彿とさせるシーンが交錯していっていて、明らかに江戸時代にパチンコ屋など無い筈だが、それらがその時代にあることが何ら不思議ではなく感じられてきてしまう俳優たちの熱演と、脚本の妙な説得力に説き伏せられ、気付くと、私自身劇世界に魅入られ、没入していた。
     口先達者だが意気地なしで臆病者のパチ屋でアルバイトをしていた益田が、ある落ちぶれた士族にそそのかされ、口達者なのが功を奏し、圧制強まる島原で、一揆軍のリーダーにいつの間にやらなり、天草四郎となっていくさまをみて、あぁ、戦争とは言葉の力やカリスマ性、一人の人物を過剰に狂信的なまでに信じることで、みんなの期待や希望を失うわけにはいかないと、心のなかではこのまま勝てないかもしれない戦をいつまで続けても意味があるのだろうか、仲間をも疑いの目で見る疑心暗鬼に陥り、不安と恐怖に打ちひしがれ、孤独に引き裂かれながら、引くに引けなくなり、より長期の戦争に発展していてしまう、戦争が独裁者を生み出し、戦争が普通の人々を狂気へと駆り立ててゆく過程を今回の劇に垣間見えて、戦慄し、改めて戦争のヤバさを痛感した。この作品の益田は、口達者だが臆病者で意気地なしの少年だが、そのしがない少年がかつての恩人でもあるパチンコ屋の店長を幼馴染のタツに殺させ、天草四郎となり、祀り上げられ、一揆軍のリーダーになっていく過程は、今まさにウクライナ侵攻を実施中のロシアのプーチン大統領にも当てはまりますし、かつて日本が第二次世界大戦に本格突入していくに当たっての天皇の異様な祀り上げられ方、ヒトラーの支持のされ方に共通するものがあると思い至り、震撼させられた。また、彫刻家のナマリに対して、権威ある人物がこれからは平和な時代だから、天草四郎の銅像やそれに殉教した人物の銅像なんか取り壊せという指令を出して、皆が右に習え的にその意見を迎合するというシーンも、何か不穏な空気感を漂わせていて、今の日本の社会にも通底する感覚を覚え、深く考えさせられ、最後には感動して、思わず涙が出た。
     演出効果や材木や木団だけを使った質素だが剛直な舞台、客席に緊張を強いながら、迫真の身体から溢れ出る狂気や不安や孤独に猜疑心などを肉体を持って最大限に出し切った俳優たちも含め、最高に素晴らしい劇だった。

    0

    2022/03/13 00:14

    2

    0

このページのQRコードです。

拡大