Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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ドライビング ミス デイジー

ドライビング ミス デイジー

ホリプロ

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/06/22 (土) ~ 2019/07/15 (月)公演終了

満足度★★★★★

熟練の老名優によるしみじみと人生を感じさせる舞台。映画の名前を知っていたが、元は舞台とは知らなかった。85歳の草笛光子さんの凜とした上流老婦人のたたずまいが魅力的で、彼女が舞台に出ただけで見とれてしまう。最後の97歳の老け込み方にも生への執念というか、ただならぬ迫力があった。

市村さんの朴訥な黒人運転手役もはまっていた。シンプルな戯曲が余計なものをそぎ落としているので、名優の醸し出す雰囲気を楽しむ舞台。場面転換が大変多いのが意外だったが、それも回り舞台でスピーディーに処理していた。演出もよかった。

渡りきらぬ橋

渡りきらぬ橋

温泉ドラゴン

座・高円寺1(東京都)

2019/06/21 (金) ~ 2019/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★

面白かった。小劇場で女性役をみな男が演じると聞いて、どうなるかと思っていたが、思いの外はまっていた。笑いとシリアスのメリハリの付け方が絶妙で、飽きずに見られた。出てくる男は浮気者ばかりで、女はさみしさをまぎらわす(あるいは男を見返すように)文筆や雑誌作りに打ち込んでいく。男女の関係が明らかに非対称な話で、男としては見ていて尻がムズムズした。

長谷川時雨夫婦、生田俊月夫婦、岡田八千代夫婦、それぞれの冷えた仲でもくすぶる愛、という関係がよく演じられていた。ただ互いに「理解」しあった仲なので、大きな修羅場はない。そこが物足りないといえば物足りない。男のわがままをそんなに簡単に許していいのかと。ぎゃふんといわせてくれた方がすっきりするんだけど。

「女と男が対等になった社会では、私たちもこんなに傷つくことはないのでしょうか」というセリフがある。もちろん、現代もまだ「対等」ではない。「対等」になる日など来るのだろうか? もしきたとして、それで男女のもつれがなくなるかと言えば、違うだろう。「対等」になるとしたら、男ばかりでなく、女も浮気するようになって、それで男も傷つくようになる。それで対等になるという構図しか思いつかない。今でも外で働く女性、共働きだとそういうことはかなりある。男も傷つけば、女の傷はいえるのだろうか。とてもそうだとは思えない。

ピロートーキングブルース

ピロートーキングブルース

FUKAIPRODUCE羽衣

本多劇場(東京都)

2019/06/20 (木) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★

木下歌舞伎の「摂州合邦辻」に感動したので、糸井さんのホーム公演を見てみました。3から4組の男女の寝物語は、正直あまりピンとこなかった。でもすが、歌と踊りが良かった。「摂州合邦辻」と似た動きと曲想もあって、「ああ、コレコレ」という感じで楽しめました。

東京喜劇 翔べないスペースマンと危険なシナリオ~ギャグマゲドンmission~

東京喜劇 翔べないスペースマンと危険なシナリオ~ギャグマゲドンmission~

熱海五郎一座

新橋演舞場(東京都)

2019/05/31 (金) ~ 2019/06/26 (水)公演終了

満足度★★★★★

非常によくねられた脚本とコンビネーションで、大いに笑わせてもらいました。歌と踊り、ゲームまで織り込んで、大サービス。大変よくできた喜劇ショーで、来年もまた観たい。

【八田元夫を読む】 『まだ今日のほうが!』

【八田元夫を読む】 『まだ今日のほうが!』

劇団東演

東演パラータ(東京都)

2019/06/15 (土) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★

めったに見られない戯曲。リーディングということで、台本を持ちながらであったが、きちんと芝居をしていた。
戦前の党の地下活動を支える「ハウスキーパー」だった若い娘が中心。彼女が、かつて党活動で一緒に暮らした男と再会して、どう決着をつけるかがカギ。昔の男が、結局何の信念もない、かつてものにした女、金でも恵まれたことに今も未練をもっているだけという話をどうみるかで、作品評価は分かれるだろう。「戦前の党のみにくい内幕を描いた」か「破廉恥な男の哀れを描いた」ととるか。

ネタバレBOX

最後に、たまたま軍に目をつけられた医者である父親が憲兵に連行される。そこで一応、党と善意を圧しつぶした、より大きな力を見せてはいる。
アミとナミ

アミとナミ

劇団桃唄309

座・高円寺1(東京都)

2019/06/12 (水) ~ 2019/06/16 (日)公演終了

満足度★★

老いたハンセン病元患者が青年に「木はゆっくりとしゃべる」と言う。そこが良かった。全体は焦点のはっきりしない、ふわっとした話で、期待したほどではなかった。

帰りに前作の「風が吹いた、帰ろう」の台本を買って読んだが、この方が、ハンセン病と現代の青年を巧みに、かつのっぴきならない形で結んでいて、よかった。
今回は前回のような正面からの描き方ではなく、ハンセン病と日常を結びつける形を模索しているが、まだまとまっていないままの、道半ばという感じであった。

キネマと恋人

キネマと恋人

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2019/06/08 (土) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★

才人ケラのセンスと、結集した映像、振り付け、音楽、美術のスタッフと、俳優のアンサンブルが見事に結晶した名舞台。単に演劇という枠をはみ出して、総合芸術というべきもの。歌劇を改革して、楽劇をつくったワーグナーを思い浮かべた。ウディ・アレンの映画を下敷きに、大きくはみ出さず、オリジナルで達成したのでない点で、1点減点した

ゴドーを待ちながら

ゴドーを待ちながら

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2019/06/12 (水) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★

コミカルで騒々しい舞台。ただ古い作品なので現代の客の前ではギャグが滑ってしまう。二幕目では楽屋ネタのアドリブが増えて、笑いも増えた。
この二人、何かを待っているというが、何も待ってなどいないのではないか。ただ暇つぶしをしているだけ。「人生は死ぬまでの暇つぶし」という言葉があるが、それを舞台にしたところが、ベケットの歴史的功績ではないか。

それまでの演劇は起承転結の、なんらかの筋を持っていた。フランス古典劇の三一致の法則はもち論、事件が起きて死や大団円に終わるシェイクスピア劇にしろ、最初に誰かが到着し、最後に出発するチェーホフ劇にしろ。ベケットは何も起きない劇を創始した。
人生はすべからく、今日も明日も、10年後も20年後も、基本は何も変わらない繰り返しに過ぎないと。人間の行いはその平板な時間を埋めることで、無為の不安と恐怖を覆い隠しているのだと。それがベケットの示した人生の真実ではなかったか。

その点で、「ゴドーさんは今日は来ません」という伝言を持ってくる少年は不要とも言える。しかし、これは未来とか、希望と呼ばれるものをの可視化するための仕掛けなのだろう。二人は暇つぶしに疲れて自殺というアイデアとも戯れるが、少年の伝言で、それもやめる。(勿論、首吊り用のロープが切れて、自殺もできない、馬鹿馬鹿しいという形になっていて、単純に少年の登場で自殺をやめるのではないが、そこには表面的な展開以上の意味がある)希望は虚妄かもしれないが、それがあるから人間はまた明日も生きていけるのだと。

アベルとカインの名で「全人類を代表している」というセリフがある。一人では何もできないが、二人いれば、関係が生まれ(多くは上下関係。主人のポゾーと奴隷のラッキーが示している。ウラとエスの二人も、ウラ上位は歴然としている)、暇つぶしができ、全人類に匹敵できるという暗喩である。

「ゴドー」は名前だけは有名で、梗概を聞けばそれでわかった気になる芝居である。最近、河合祥一郎の翻訳で戯曲も読んだ。それでも、つまらない芝居と思ったのが正直なところだった。今回、初めて舞台を見たが、事前には思いもしないほど、刺激を受けた。舞台を見ている時より、終わった後の心の中の波紋が長く続く舞台だった。

2.8次元

2.8次元

ラッパ屋

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/06/09 (日) ~ 2019/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

売れない新劇劇団がアニメ原作の「ミュージカル」に挑む物語。おすすめです。ピアノ、歌がうまくて、笑えて泣ける。演劇論にもなっていて、大衆演劇を道具たてにした井上ひさしに似ているところもある。1時間50分。

過激にして愛嬌あり 宮武外骨伝

過激にして愛嬌あり 宮武外骨伝

オフィスワンダーランド・(一社)演劇集団ワンダーランド

座・高円寺1(東京都)

2019/06/05 (水) ~ 2019/06/09 (日)公演終了

満足度★★★

現代の若者、気概を失ったかのようなマスコミ関係者に、宮武外骨の存在を知らしめようと工夫を凝らした舞台である。まずエピローグで、宮武外骨は明治の気骨のジャーナリストだった、という話を講談師の語り手で紹介する。本題に入ると、一転、舞台は現代のエログロ・ニュースサイトの編集部。思いがけなく政治家の汚職のネタを握ったが、それを発表すると政権やスポンサーから会社を潰される、と逡巡する編集長。そこに、外骨がタイムスリップ(!)で現れ、そんなことで恐れるな、俺の生涯を見ろ、と一代記を演じる。編集部には政治家の意を呈したヤクザが脅迫にあらわれるが、外骨は、彼らにも自分の話を聞かせるる。その結末は?

外骨は「迫害は勝利なり」と何度も発禁・投獄・罰金などの言論統制・弾圧をうけても、決してへこたれなかった。とくに刑務所の中で雑誌を作って売り出そうとしたのは、「退屈な毎日を少しでも面白く使用」という茶目っ気混じりのバイタリティーからだというのが面白かった。

刑務所の話は20代前半だから、恐れを知らない青年だったのだろう。ただ、「滑稽新聞」を廃刊したのは42歳で、今から見ると、早すぎる引退。さすがの外骨も頑張りすぎて、不惑でモチベーションが下がったのだろうか。「太く短く」生きるは明治の青春だが、現代は「太く長く」が求められる時代。そこが難しい。

お節介なナレーターあり、下ネタ連発のギャグ満載、ふざけたキャラクターが次々と、お行儀の悪い舞台である。しかし、それを通して語られる、「(ジャーナリストの)我々は絶望してはいけない。我々の絶望は、国民全体の悲劇だ」という訴えに、身を引き締めるものがあった。

オレステイア

オレステイア

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2019/06/06 (木) ~ 2019/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★

元は3部作のギリシア悲劇を、現代英国の若手激作家がひとつにまとめた。重厚にして深淵で見応え充分。俳優の演技・存在感を堪能できる舞台だった。平知盛のせりふ「見るべきほどのことは見つ」という気分になった。そういえば、古典の現代化、武将をめぐる生死のドラマなど、「子午線の祀り」と共通点がある。

ビューティフルワールド

ビューティフルワールド

モダンスイマーズ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/06/07 (金) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

妻が胸に秘めていた夫への恨みつらみ、夫の孤独、娘の秘密…平穏そうに見えた家族の地中のマグマが、引きこもりの甥を居候させることから噴き出してくる。家業のカフェの店員たちの個性的な存在感も含めて、素晴らしい舞台だった。

後半、娘のひみつが明らかになるところは、互いの本音がぶつかり合う修羅場なのに、そこが客席の爆笑に次ぐ爆笑をまきおこす。井上ひさしの「日野浦姫物語」の悲惨で爆笑のクライマックスを思い出した。俳優はもちろん、作・演出の蓬莱竜太の底知れない力に脱帽である。

北齋漫畫

北齋漫畫

東京グローブ座

東京グローブ座(東京都)

2019/06/09 (日) ~ 2019/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★

ご存知、画狂葛飾北斎の若き日から90歳の死までを描く評伝劇。華のある芸達者たちがそろって、安心して見られる芝居だった。北斎の代表作がプロジェクション・マッピングで舞台に大きく映し出され、目でも楽しめた。音楽もモダンで和風な曲が、場面場面を盛り上げた。

二匹のタコが海女と乳繰る絵を、昔の恋人によく似た若い女性(=佐藤江梨子)のモデルで描こうと、狂気に近い世界に入っていく場面が最大の見せ場。一番北斎の、常識も生活も顧みずに。自分の絵にのめり込んでいく生き方を示していた。ただ関ジャ二♾の横山ではまだ迫力不足。初演は北斎を緒形拳が演じたそうだが、緒形拳で見てみたかった。

北斎を献身的に支え続け、自身も才能ある画家だった娘のお栄(応為)=堺小春、生活破滅型の北斎とは対照的な、堅実で生真面目な馬琴(=木村了)の二人がよかった。こうした周囲の人々に支えられて、北斎の仕事があったことがわかる。しかし、矢代静一は最後、北斎を捕まえきれずに終わったのではないか。それだけ、北斎が謎の多い大きくて奥深い存在だということだが。

上演時間は前半80分、休憩20分、後半70分の計2時間50分。しかし長くは感じない。特に前半はテンポが良く、あっという間の80分だった。休憩を挟んで、年月が大きく飛んで、後半は89歳の北斎と同じく老人の馬琴。老け顔や白内障を表現した特殊メイクが見事だった。

らぶゆ

らぶゆ

KAKUTA

本多劇場(東京都)

2019/06/02 (日) ~ 2019/06/09 (日)公演終了

満足度★★★

刑務所で一緒だった4人が、出所して、ひょんなことから田舎の一軒家で共同生活を始める。元ヤクの売人、泥棒、離婚して娘とやってきた詐欺師など、それぞれが軽くはない過去を背負っている。優しくも保身的な村の住人との交流の中、思いがけない波風が次々起きる…
作・演出の上、出演もする桑原裕子の「フィリピン花嫁」の怪演が圧巻。大いに笑わせられた。松金よね子の真面目なユーモアもいい。中村中のことは知らずに見て、普通の女優がトランスジェンダー役をやっているのだと思った。彼女もジェンダーの狭間の存在を好演していた。

ネタバレBOX

見てきた友人は口々に「よかった!」というので、私の見方が悪いのかもしれないが、いくつか物足りないところが残った。なんといっても4人の元受刑者それぞれの事情を描くので、ひとりひとりの掘り下げが不足したと思う。

それぞれは重いドラマなのだが、大きな衝突によるピークはない。そういうヤマとしては、東日本大震災のなかでの、みのすけが松金よね子に自分の過去を告白する場面が一番だろう。それでも、その場は言いっぱなしで終わって、最後はなぜか仲直り気味で幕になる。この舞台が好評なのは、観客が想像力で、舞台で描かれている以上の人物の内面のドラマ、葛藤を味わうからなのだろう。そういう作り方もあるのはわかるので、これは好みの問題でもある。

そのほかにも「5人の元受刑者」と書いている人もいるように、実は刑務所仲間は5人。しかし共同生活はひとり来ないので4人。この回想シーンでしか現れない一番若いコッペ(置田浩紳)はどうなったのか。それが放置されているのも気になった。
もっと言えば、刑務所にいたことを隠したい人間が、ムショ仲間と一緒に暮らすというのは根本的矛盾。その飛躍がなぜ起きたのかも私にはすんなりこなかった。大きな不幸を背負った人間が、ユートピアを目指すというお話なので、あまり杓子定規に考えるべきではないのだろう。
化粧二題

化粧二題

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/06/03 (月) ~ 2019/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

19年前の初演以来の観劇。内野聖陽の男座長が素晴らしかった。声色、間合い、ユーモア、動き。裸一貫から座長になった誇りと意地、母に捨てられた悲しみと思慕の、相反する思いを見事に表現していた。

女座長の有森也実は線が細い印象だったが、別れた我が子への思いがこみ上げるところはさすがで。、引き込まれた。

ジャガーの眼

ジャガーの眼

劇団唐組

花園神社(東京都)

2019/05/04 (土) ~ 2019/06/09 (日)公演終了

満足度★★★

唐十郎作品を見るのは4作目だが、今回は今ひとつであった。「吸血姫」など話がもっとぶっ飛んでいたし、濃いキャラが次々出ていた。しかし今回は全部伏線を回収してみると、理屈っぽかった。扉を担いだ探偵たちなどその他大勢で、面白い人物が少なかった。その人物もぶっ飛び度が足りないので、唐にしては小粒で大人しい印象だった。
臓器移植がネタだったが、芥川受賞作「佐川君への手紙」は人肉食がテーマだった。そういう他人の肉体の一部を我が物にするという行為に、唐十郎はフェティシズム的な関心をもっていたのだろうか?

レ・ミゼラブル

レ・ミゼラブル

東宝

帝国劇場(東京都)

2019/04/15 (月) ~ 2019/05/28 (火)公演終了

満足度★★★★★

文句なしに良かった。最後、コゼットを幸せにして、満足して天に召されていくジャン・バルジャン(福井晶一)の姿に一番感動した。一方、ベジャール(川口竜也)が自殺するのはなぜかは、やはり難しいと思った。ただ、単に川に飛び込むのではなく、舞台奥に吸い込まれていくように消える演出は予想外で、印象的だった。

二宮愛、唯月ふうか、小南満佑子、そのほかいちいち名を上げないが、メインキャストの皆さんは、本当にみんな良かった。それぞれに一人で歌う場面があるので、歌が良くないとそこの場面が台無しになる。しかし、皆そんなことはなくてその実力に素直に感心した。

この作品、オペラのように、全てのセリフにメロディがついていて、レチタティーヴォになっている。見るまで知らなかったが、それも良かったと思う。それだけキャストの歌唱力が舞台を左右するわけだが、素晴らしいキャスト陣であった。

恐るべき子供たち

恐るべき子供たち

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2019/05/18 (土) ~ 2019/06/02 (日)公演終了

満足度★★★

愛玩する弟を奪われないために、相思相愛の仲を裂くわがままな姉。南沢奈央がその一番怖い、嘘をつく場面を、純粋さゆえに犯す過ちとして、まっすぐに演じていて、引き込まれた。弟と姉の関係は近親相姦だったのかいなか。どちらとも取れる演出をしていたと思うが、いかに。

弟に最初に怪我を負わせ、また最後は毒を送ってきて、最後の悲劇の原因を作る美少年がいる。影のような存在で、出番は少ないのだが、実はメフィストフェレスのようにこの悲劇を司っているように感じた。そういう外部の力がこの姉妹のドラマをじつは動かしているという点は、コクトーの作劇術としてどうだろう。あまり問題にする人はいないのだろうか。

蝶々夫人

蝶々夫人

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2019/06/01 (土) ~ 2019/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★

蝶々夫人は一昨年も見たから2度目。ほかにMETのライブビューイングも見たことがあるし、あれも良かった。そうした蓄積もあって、今回はいままでになく余裕を持ってみることができた。音楽とドラマの緊密な結びつき、切ない場面、コミカルな場面、重厚な場面など変化に富んだ構成、メロディーを大事にする親しみやすい音楽、こうした多面的な聴きどころを堪能することができた。

蝶々さんが最後は自害する、その理由はどこにあるのか。自らの名誉を守る自立した女性なのか、愛を盲信した一種の狂気と絶望なのか、子供のために身を引く自己犠牲なのか。様々に解釈できるところが、何度も上演されるこの作品の魅力なのだと思った。

シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!

シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2019/05/27 (月) ~ 2019/07/16 (火)公演終了

満足度★★

チェーホフのシベリア旅行を、6頭の馬たちが、代わる代わるに作家の残した手紙や紀行文を読み上げて、再現していく。その間、馬たちは、広い演技空間をずっと走る真似をしている。普通の戯曲、演劇とは全く違う。はじめは新鮮だったが、1時間20分を飽きずに見ることはできなかった。ただ、チェーホフのサハリン旅行の、行けども行けども同じ景色が続く、単調で、不快で、疲労困憊した気持ちに少し近づくことができた。

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