ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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現代韓国演劇上演「四番目の人」

現代韓国演劇上演「四番目の人」

名取事務所

「劇」小劇場(東京都)

2026/06/19 (金) ~ 2026/06/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

天井から地上1.2m程の高さにLEDバーライトを吊るして部屋の輪郭を縁取る美術。要所要所で青く点灯。

失感情症の女子高生、赤松怜音(れお)さんが黒沢清映画キャラの雰囲気。ロボットが人間の心に興味を持ち自分もそれを感じてみたくて追求するような話。自分の心、自我、意志、魂、アイデンティティ···。自分自身が突き動かされるような衝動に憧れる。何度も何度も鬼頭典子さんに聞く話は良心の疼きについて。その正体は何なのか?

パク・ヨンミの1990年のデビュー・アルバ厶に収録された代表曲『私は寂しさ あなたは懐かしさ』。この曲を鬼頭典子さんが昔好きだったと思い出す。
「私は寂しさ、私は流離う雲。
 私は果てしない海を漂う舟。」

ネタバレBOX

ある殺人事件で容疑者となった西山聖了(きよあき)氏。彼は自閉スペクトラム症(ASD)で強く自己主張が出来ない為、担当検事(石井英明氏)によって虚偽の自白を強要され服役。後に本当の犯人を名乗る女(鬼頭典子さん)が検事のもとに自首しに来る。検事は既に裁判の終わった案件に関わりたくなかった為、黙殺した。鬼頭典子さんは良心の呵責からか検事に手紙を送り続け、検察庁の前で独り抗議活動を行なう。検事の娘(赤松怜音〈れお〉さん)は失感情症で自分の感情を認識出来ない。周囲からは無表情でじっと人を観察している気味の悪い人間に思われる。何を考えているのか分からない薄気味悪い奴と。彼女は父のもとにずっと送られて来る鬼頭典子さんの手紙を読み、出所している西山聖了氏と会わせようとする。

脚本が詰め込み過ぎでリアリティがない。演出もちぐはぐ。役者陣の熱演だけが伝わった。勿体無い。韓国の司法制度ってこうなのか?検事が弁護士に指示して自分の娘を守る?拘置所は検事の思うがまま?警察は機能してないのか?

自分の犯した罪で罰せられる無実の西山聖了氏。鬼頭典子さんは殺した奴に対しては当然の報いだと思いつつ、苦しむ彼を見棄てる自分が許せなかった。この世界は正しくあるべきだ。だが司法に携わる人間にそんな感覚はない。「真実」や「正義」なんかにそもそも興味などない。現実はもっと歪んでいる。大きなシステムの中、自分に与えられた仕事をこなすだけ。そこに「文学」はない。

作品内に流れる青い哀しみが84歳ポール・マッカートニーの新曲、『Days We Left Behind』を何となく思わせた。青い青い何処までも青い無力感。

Paul McCartney 『Days We Left Behind』

苦しみを抱えることになる奴もいる
でももっと先へ進もうとした奴もいた

何一つ同じままじゃいられない
泣く必要なんかない
何一つ取り戻せない
僕等が置いてきた日々

(中略)

何一つ同じままじゃいられない
泣く必要なんかない
そして誰のせいでもない
僕等が置いてきた日々

あの日々は置いてきたままに

※赤松怜音(れお)さんの指がごつい。体育会系。

※FUCK OFF!死ね!
ファーム・ホール

ファーム・ホール

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2026/06/15 (月) ~ 2026/06/30 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

昔、某映画監督がどんなシチュエーションであっても重要なのは登場するキャラクターの色気なんだと語っていた。色気を頼りに観客の意識は作品内をあちらこちら浮游する。それは性愛とかの意味ではなく、人を惹き付け興味を持たせる感覚のこと。汚らしい土木作業員の日常風景でもちょっとした工夫を入れることで色気は出る。殺し屋の残忍な殺し合いすら色気の有る無しで作品のイメージはガラリと変わる。色気のある関係性。

俳優座のレヴェルは群を抜いている。東映実録ヤクザ映画全盛期を思わす聳え立つ俳優山脈。その中でも選りすぐりの6人が色気たっぷりの演技合戦。俳優座スタジオで前売6800円は高いなと思ったが納得させられた。

1938年、オットー・ハーンの発見した核分裂反応。当時、ドイツの科学レヴェルは世界一だった。かつてアインシュタインの助手であった物理学者レオ・シラードはユダヤ系の為、1933年にナチスドイツから亡命。1939年、核分裂が連続的に起こる核連鎖反応の存在に気付き恐怖する。これを利用した爆弾を作ったら世界を征服出来る。アインシュタインを通じてフランクリン・ルーズベルト大統領に手紙を送る。(アインシュタイン=シラードの手紙)。一刻も早くドイツより先に原子爆弾を開発しなければならぬと。
結局の所、アメリカの天才、J・ロバート・オッペンハイマーが原爆を完成させる訳だが、連合国はドイツも完成させていると睨んでいた。天才ヴェルナー・ハイゼンベルクが完成出来ない訳がないと。23歳で博士号、「行列力学」「不確定性原理」を提唱し31歳で量子力学の創始者としてノーベル賞を受賞。彼がドイツの原爆開発の陣頭指揮を取っていたのだ。

1945年5月7日、ドイツが無条件降伏。
1945年5月1日から6月30日に渡りドイツのノーベル賞級物理学者10人の身柄が拘束される。(=オペレーション・イプシロン)。彼等は1945年7月3日から1946年1月3日までイギリスのゴッドマンチェスターにある田舎の屋敷、ファーム・フォールに抑留される。屋敷中に盗聴器が仕掛けられており、彼等の生活の中の自然な会話から原爆開発の実情を探ろうとした。(今作では6人になっている)。

ウディ・アレン、ジム・ジャームッシュ、アキ・カウリスマキ系のコメディ。淡々と観客を突き離した距離感から笑わせていく。何となく一人ひとりのキャラや人間関係が見えてくると特に何もしていなくてもその場を面白く味わえるように。ツッコミを入れずぼんやりと観客を空間に放置させる感覚はジム・ジャームッシュっぽいか。

メチャクチャ面白い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

マックス・フォン・ラウエ(加藤佳男氏)
1912年X線の回折現象を発見し、X線の正体が波長の短い電磁波であることを明らかにした。1914年ノーベル物理学賞。(そもそも原子核物理学はX線の発見から始まったもの)。国家社会主義(ナチズム)に反対しナチスに睨まれた。

オットー・ハーン(河内浩氏)
1938年核分裂反応を発見し、1944年にノーベル化学賞。その時、莫大な熱エネルギーが生まれることが判り、原子爆弾の構想が誕生した。核分裂可能な元素はウラン、プルトニウム、トリウム。反ナチスの立場だったが、長年の共同研究者であり亡命したユダヤ人女性物理学者リーゼ・マイトナーの功績を横取りしたことで非難を受ける。

ヴェルナー・ハイゼンベルク(志村史人氏)
1925年、彼の行列力学によって誕生した量子力学。不確定性原理=存在と運動は同時に観測出来ない。ミクロの世界では粒子の位置や運動量は決まっておらず、観測された時点で初めて決まるという法則の発見。アインシュタインは「神はサイコロを振らない」と確率論的な解釈を否定、確固たる物理法則がある筈だと主張した。
※ハイゼンベルクの「コペンハーゲン解釈」は1920年代に提唱された確率論。観測するまで結果は存在しない。ヒュー・エヴェレットの「多世界解釈」は1957年に提唱された。全ての結果が並行宇宙に分岐して存在し、我々の世界の観測結果はその一つに過ぎないという壮大な話。

カール・フリードリッヒ・フォン・ヴァイツゼッカー(八柳豪氏)
名家であるヴァイツゼッカー一族の出、外交官の息子。弟は戦後、西ドイツの大統領となる。ハイゼンベルクの同僚であり彼を崇拝する親友。

エーリッヒ・バッゲ(野々山貴之氏)
ハイゼンベルクの教え子だがナチ党員。労働者階級出身の負い目。

クルト・ディープナー(斉藤淳氏)
ナチス・ドイツの原爆開発チーム、「ウラン・クラブ」を率いた陸軍兵器局主任のナチ党員。

ある意味、主人公の嫌われ者ディープナー。彼への皆の対応が前半のドラマ。
退屈しのぎに発注した壊れたピアノの修繕。加藤佳男氏と河内浩氏の見せ場。高畑勲っぽい。
野々山貴之氏のキャラ設定に味がある。アイディア勝利。

俳優座スタジオの床が盆となって時計回りに回転する演出。多分今回その機能を初めて知った。まさか動くとは思わなかったので相当の異化効果。現実感がぐにゃりと歪む。
※丁度この前、『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』を観ていたらクライマックスで席がドンと激しく揺れた。凄い演出だなと思ったら普通に地震だった。
歩きはじめる時

歩きはじめる時

チームクレセント

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2026/06/18 (木) ~ 2026/06/22 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

熊本から集団就職で京都にやって来た主人公。昼間は京都第二赤十字病院で看護学生として働き、夜は定時制の同志社高校で学んだ。一年経ち1963年(昭和38年)、胃潰瘍治療の為入院してきた男性との出逢いが人生を変えることに。男性はろう者だった。

ステージ上部に投映され続けるオープン字幕。ろう者と聴者、全てに公平に情報が行き渡るように。

MiCHiさん。今作の一つの大きな冒険である「手話の化身」役。ろう者俳優でダンサー。殆ど出突っ張り。手話に宿る精霊として存在を受け取った。弱い者達が彼女の力を必要とする時、彼女は力を貸す。聴者には何の必要も意味もない存在だった筈が実はそんなことはなかった。他人の心と寄り添える手段そのものを彼女は象徴する。他人の心に触れるということは自分の心に触れることでもあるという真理を。

昨年観た『わたしのこえがきこえますか』が本当に傑作で未だに衝撃を憶えている。来年6月、座・高円寺1にて再演予定なので絶対に観て欲しい。(作品の濃密な空間設計に対して会場が大き過ぎる気もするが)。

ネタバレBOX

主人公は新里乃愛(しんざとのあ)さん。『わたしのこえがきこえますか』でも同じく清原役を演じた。京都第二赤十字病院の看護学生・中島千代美さんがモデル。

近藤辰哉氏。京都府立ろう学校教員・西田一(はじめ)氏がモデル。中途失聴者(後天的に聴力を失った者)の役を見事にこなす。飄々とした表情がKANっぽい。1歳頃に聴覚障がいが判明したそうだがとてもそうとは信じられない程喋れる。(パンフでは中途難聴者となっているが?)。イントネーションが外国人っぽいなと思う所は少々あったが驚いた。ダンサーでもある。

佐田明氏。日本の手話通訳者の先駆けとされる伊東雋祐(しゅんすけ)氏がモデル。成瀬正孝っぽい渋さ。チャップリンのマイムの再現シーンには驚いた。

光永勇輝氏。京都府立身体障害者福祉センター指導員・向野嘉一氏がモデル。イケメンの劇団ひとりみたいなカッコ良さ。目がキラキラしていて役者として華がある。大成して欲しい。今回、初めて手話を学んだ!?信じられない。

春田ゆりさん。『わたしのこえがきこえますか』〈Bチーム〉では主人公一家の隣人だった筈。味がある。子供の頃に受けた空襲が原体験。重要なキャラ。

宮川知久氏。『わたしのこえがきこえますか』〈Bチーム〉のお父さん役。今回はヒールとして作品の手綱を見事に締める。リアリティある現実の痛みを観客に伝える重要性を担う。金の取れるいい役者だ。

小野花音さん。もう少し見たかった。ろう者俳優。重要なテーマを詰め込んだ役。
  
1963年(昭和38)年9月、京都市手話学習会「みみずく」誕生の物語は大いなる運動の始まりを告げる時代のプレリュードでもある。
聴者である教師が生徒の手話を禁止し口話教育を強制する授業(読唇=口の形を読み取る)に生徒達は長年不満を募らせていた。1965年(昭和40年)11月18日、京都府立ろう学校高等部の生徒全員が重要な学校行事であった写生会をボイコット。1966年(昭和41年)3月3日、京都府ろうあ協会と京都府立ろう学校同窓会の連名で声明を発表。『ろう教育の民主化をすすめるために―「ろうあ者の差別」を中心として』=ろう者の人権宣言「3・3声明」と呼ばれる。これを切っ掛けにこの閉塞した世界は大きく変わり、この年は後に「ろうあ運動元年」と称された。

※今作は正直、期待した程ではなかった。一つは演出面の力不足。脚本の再現に努めるだけで終わってしまった。もっと良い脚本の伝え方を模索工夫すべき。脚本が食材なら演出は調理。脚本の紹介だけに終始した感じ。ドラマとして平坦過ぎる。小野花音さん演じる元生徒の話が重要なパーツになる筈なのだが。新里乃愛さんが閉ざされた世界を開く鍵を手話によって手に入れる感覚の共有が必須。そうでないとラストに繋がらない。脚本も作家の壮大な構想の冒頭部分なのだろうが、ここで観客を掴まないことには次に繋がらない。出し惜しみせずに勝負すべき。
片山美穂さんが出ないのも残念。

中盤、春田ゆりさんが「看護婦はそんな生半可な気持ちで務まる仕事ではない!」と叱責。新里乃愛さんは母親の病気が水俣病であることを明かし、「生半可な気持ちではない」と答える。ここからグッと物語に気持ちが込められた。登場人物が善人ばかりなのも弱い。水俣病の母親なんか声だけでも欲しかった。
長生炭鉱――生きたかった

長生炭鉱――生きたかった

温泉ドラゴン

座・高円寺1(東京都)

2026/06/05 (金) ~ 2026/06/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2回目。
筑波竜一氏のドスの効いた声に千葉ちゃんを感じた。
五十嵐明氏の台詞回しにも『仁義なき戦い』の絶妙な口上、千葉ちゃんや三上真一郎とかのカッコ良さを。

韓国側を何役も兼ねるソ・ドンガプ氏。極真会館の第一回全日本空手道選手権大会で優勝した山崎照朝氏に似ている。彼は『あしたのジョー』の力石徹のモデルとなった天才空手家で東スポの記者でもあった。

ネタバレBOX

今作に一番よく似た感触の作品は去年やったドキュメンタリー映画『よみがえる声』。公開当時90歳、現在91歳の朴壽南(パク・スナム)さんと娘の朴麻衣(パク・マイ)さんの共同監督名義。パク・スナムさんが1985年から撮り続けた50時間に及ぶ16ミリフィルムでのインタビュー、作品化出来ないまま経年劣化でデータ消失の危機。クラウドファンディングにより10時間分デジタル化に成功。映画としてまとめた。

パク・スナムさんは現在も視力を失いながら全国の映画館に出向きトークイベントを敢行している。(何も知らず観に行ったら目の前でイベントが始まって慄いた)。

14歳で朝鮮半島から強制連行され、長崎の軍艦島の海底炭鉱で地獄を見た徐正雨氏(ソ・ジョンウ)氏。重労働、劣悪な食事、私刑。何人もの朝鮮人がその日々に耐え切れず海に身を投げた。その後、三菱重工業長崎造船所に強制動員され被爆。2001年に亡くなる。フィルムには彼が軍艦島の岸壁に立ち、死んでいった同胞達に花を手向けるシーンが記録されている。そして朝鮮半島の方に跪き「オモニ(お母さん)!」と泣きながら絶叫。亡くなった父の在りし日の姿、公開されなかったフィルムを今になって観賞する息子。泣いている。父親の自分の前では見せなかった姿。「あったことをなかったことにはできない」。この言葉こそが全て。

1976年、山口武信氏の論文「炭鉱における非常/昭和17年長生炭鉱災害に関するノート」の発表からこの事件は世間に知られることとなる。元高校教諭の山口武信氏は個人的に長年独りで調査を続けていた。彼が何故そこまでこの事件に拘ったのかが重要な点。そこを一つの主軸にすべきだった。足りないのはその部分、彼の原動力。(今作では5歳の時、海上のピーヤから噴出する水柱を見た原体験が語られる。それが事実か虚構かは不明)。彼の独りぼっちの行脚が暗闇に押し潰された連中の魂を解放していく。これこそ人間の歴史だろう。(彼のような人間が少なからず世界にはいる。理不尽に惨めに圧し殺された無名の連中の魂はいつかきっと救われる)。

最年少のヤンへ(ユ・シヒョン氏)の語る記憶。朝鮮で鯨を捕らえ解体する仕事を家族でしていた。動けず苦しむ鯨はポロポロと泪を零す。そんなもの見なければよかった。見なければよかった。今の自分はあの時の鯨のよう。誰も救けてはくれない。ただ身動き取れず泣いている。

ドンリム(イ・ジョンウォン氏)が日本人達の胸倉を掴み怒声を上げる。(この演出は前回なかったような)。
死を受け入れられた者と受け入れられなかった者。とっくの昔に死んでいる現実に取り残される二人。

2025年8月25日26日の潜水調査によって二柱の遺骨を発見、回収。それで二人が見付かるラストに。

※筑波竜一氏がちょこちょこ台詞をトチってたような。

※ヘッドバンギングみたいに頭をずっと貧乏ゆすりしている客がいて心配になった。
ジン・ゲーム

ジン・ゲーム

加藤健一事務所

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2026/06/11 (木) ~ 2026/06/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

アメリカにある老人ホームのウッドデッキ。毎週設けられた面会日、室内からは沢山の笑い声や再会を懐かしむ声、教会から慰問に来たコーラス隊の歌が流れてくる。孤独な老人、ウェラー(加藤健一氏)には全く関係のない話。独りで本を読んでいる。そこに入居二週間目のフォンシア(竹下景子さん)が現れる。どうもこの雰囲気に馴染めないようだ。早速、ウェラーはトランプに誘う。やるのは勿論「ジン・ゲーム(=ジン・ラミー)」だ。

アイリーン・キャラの「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」のインストが効果的に使われる。「エーデルワイス」やら、のどかな楽曲の選曲が見事。シルエットで描かれる室内の楽しそうな遣り取り。孤独な老人二人がトランプに逃避する姿をくっきりと浮き立たせる演出。

加藤健一氏は感情が抑え切れずカッとなって暴言を吐くジジイで観客を爆笑させる。竹下景子さんは敬虔なクリスチャンでおしとやかな老婦人だったのが段々苛立って嫌味や汚い言葉を吐き捨てる。トランプの勝ち負けで人間の幾重にもまとった気品や社会性がかなぐり捨てられていく痛快さ。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

第二幕では客席後方から歩いて来る竹下景子さんの演出も。老人二人がトランプするだけという縛りが面白い。最後にそんな夢中にゲームしたのなんていつだったろう?

※クライマックスの遣り取りの辺りで加藤健一氏の台詞が飛んだような感じがしたが···。妙な空間があった。
レディエント・バーミン Radiant Vermin

レディエント・バーミン Radiant Vermin

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2026/06/08 (月) ~ 2026/07/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「AHー!LOVE BEAT!YEAH!」
自分で自分の首を両手で絞める決めポーズ。

U2 の「Vertigo」が格好良く流れ、作品のノリは『ナチュラル・ボーン・キラーズ』や『ハウス・ジャック・ビルト』を彷彿とさせる。(どちらも連続殺人鬼の主人公を痛快に描いた作品。『NBK』はタランティーノの脚本をオリバー・ストーンが台無しにしてしまった失敗作だが)。悪意に満ち溢れた作風はもろラース・フォン・トリアー流。好きな人にはたまらない。ニヤニヤする。

20代後半の夫婦、オリー(井之脇海氏)とジル(清原果耶さん)。生活は苦しくボロい賃貸での暮らし、しかもジルは妊娠中。そんな時に舞い込む一通の手紙。政府の推進する国家プロジェクトに選出され、無償で一軒の家を差し上げますと。詐欺か悪戯か何が目的か?ジルが封筒の連絡先に電話を掛けると間違いないと言われ、やって来る担当者のミス・ディー(池津祥子さん)。悩みつつも契約し、現地に向かう。そこは荒廃したスラム、浮浪者の溜まり場の地区。広いが老朽化した屋敷、周囲は空き家だらけ。電気も通っていない、お湯も出ない屋敷を自分達の力で改修せねば。ぐったりしながら二階の寝室で寝ると、階下からの物音で起こされる。浮浪者が盗みに侵入して来やがった!

清原果耶さんは2020年、『宇宙でいちばんあかるい屋根』を観に行った位の接点。いざ目の前で見ると圧倒的美人。鼻が高く山本恵里伽アナウンサーっぽいか。笑顔が満島ひかりに似てる気がした。美人過ぎて役柄が限定される懸念。

井之脇海氏も魅力的。アスリート並みの運動量。親近感を湧かせるキャラ。

何と言っても池津祥子さんが凄腕。『黒イせぇるすまん』風味。この世界を力尽くで納得させ成立させる。

とにかく客を弄る。通路後方から現れ客一人ひとりに語り掛ける。客席の間にまで入る。とにかく観客を巻き込む。これはオハナシではなく貴方の選択すべき現実です。さあどちらを選びますか?お考え下さい。

終演後、客席後方で演出の白井晃氏、手応えがあったのだろう、してやったりの満面の笑み。コンプライアンスに蹂躙されたこの世界に中指を突き立てる。嘘ばかりの世の中で本当のことを叫んでやる!
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

浮浪者ケイのエピソード、池津祥子さんの二役。後になって気付いた程、全く違って見えた。

今作、嫌いな人は大嫌いだと思う。非常に危ういネタ。クライマックス、息子ベンジャミン一歳のバースデイを祝って催す盛大なガーデンパーティー。招待した四軒の隣人家族達との遣り取りを清原果耶さん、井之脇海氏二人で精密に再現。狂ったようなアップテンポで躁状態の狂乱を語り尽くす。
「AHー!LOVE BEAT!YEAH!」
自分で自分の首を両手で絞める決めポーズ。
何度も何度も繰り返される遣り取りに段々観客はラリってく。ビデオドラッグにヤラれてく感覚。メチャクチャな荒波に呑まれては流され吹っ飛んでは沈み飛ばされた意識は途切れ途切れてブラックアウト、ふと気付けば何がなにやら朦朧と。

タイトルの意味は『光輝く社会の汚物』。優生思想への諧謔風味。物語のその先はホロコーストへ突き進むと予感させる。ふと阪本順治の『鉄拳』なんか思い出した。

日本なら闇バイトの見知らぬ老人を襲う強盗殺人事件に一番ニュアンスが近いだろう。幸せになる為に要らない連中を始末するだけ。浮浪者、障害者、老人、外国人労働者、イスラム教徒、左翼活動家···。汚く醜く迷惑で弱い連中を掃除してやることはきっと良いことなんだろう。綺麗でカッコイイ連中しかいないイカした世の中にしよう。それこそが理想の社会。トランプやネタニヤフ、プーチンに習近平、みんな理想の社会を目指して殺戮している。
「AHー!LOVE BEAT!YEAH!」
自分で自分の首を両手で絞める決めポーズ。

人間を止めるものは痛みと恐怖と不安だけ。それを感じられないと何処までも行ってしまう。そして今、一体ここは何処なんだ?

BLANKEY JET CITY 「悪いひとたち」

荒んだ心を持ったHoney ヨーロッパ調の家具をねだる
SEXに明け暮れて麻薬もやりたい放題
ツケが回ってくるぜ でもやめられる訳なんてないさ
そんなに長生きなんかしたくないんだってさ
それを聞いたインタビュアーが「カッコイイ!」って言いやがった

※この『それを聞いたインタビュアーが「カッコイイ!」って言いやがった』って歌詞に当時グラングランやられた。
長生炭鉱――生きたかった

長生炭鉱――生きたかった

温泉ドラゴン

座・高円寺1(東京都)

2026/06/05 (金) ~ 2026/06/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

温泉ドラゴンに清水直子さんの参戦!そりゃ観たい。
1942年2月3日、山口県宇部市の瀬戸内海に面した海底炭鉱・長生(ちょうせい)炭鉱で天盤が崩落し坑内にいた183名は溺死。内、朝鮮人が136名。炭鉱会社は救助活動を一切行なわず、すぐに抗口(こうぐち)をコンクリートや木材で塞ぎ情報統制を敷く。事故は隠蔽され、遺族への補償もなかった。海上に突き出た2本のピーヤ(排気・排水筒の役割を担うコンクリート柱)だけが今も残る。

事故直後の炭鉱内に閉じ込められた8人。
現場監督の佐藤(筑波竜一氏)は元学校の教師。木刀を片手に炭鉱夫を統制する。
電気技師の工藤(五十嵐明氏)。
南方戦線で地獄を見てきた戦場帰りの山本(内田健介氏)。
新入りの小林(京極洋太氏)。少し働いてすぐ辞めるつもりだった。

右脚が不自由なジョンチョル(パク・ホンスン氏)は拉致のような形で無理矢理日本に強制連行されて来た。非常に反抗的。
ビョンド(キム・ジェウン氏)は盗まれることを恐れて5年間働いた伝票(通帳)を肌身離さず身に付けている。
ドンリム(イ・ジョンウォン氏)は留学生として日本の大学で勉学していた為、日本語が堪能。両親の死によって生活の為に働かざるを得なくなった。
ヤンへ(ユ・シヒョン氏)は16歳、子供と大人の違いが分からない。

もう一つの物語は「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の活動模様。清水直子さんといわいのふ健氏がそれを語る。ソ・ドンガプ氏演ずる韓国人側の遺族の存在がリアリティを生む。この話は政治的なものではなく、もっと人間と家族の話だということを。手向けた一本の花。

吊橋のような美術が上下に動くことで二つの時代の変化を表現。
日本語と韓国語の字幕がステージ左上に投映される。工夫されていてほぼ遮られることもなく読めた。何処の席でも読めると思う。どう足掻いても死ぬしかない現実の中で8人は何を思う?個人的MVPは内田健介氏。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

1991年に結成された市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が行なった2025年8月の潜水調査で初めて遺骨が回収された。井上洋子共同代表が清水直子さんのモデルだろう。初代代表の山口武信氏はいわいのふ健氏演ずるカメ先生。水中探検家・伊左治佳孝氏もいわいのふ健氏が演ずる。
国が協力的でない為、市民から寄付を募り自分達で坑口の掘り起こし工事、潜水しての遺骨収集を敢行。

ラストの潜水シーン、吊橋や椅子が上空に昇っていく。深く深く深く何処までも深く。80年以上掛かったが救けに来たぞ。

韓国語の「シーバル」=「FUCK」=「糞が!」。
どっか行け!クソたいぎい我が人生

どっか行け!クソたいぎい我が人生

ぱぷりか

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初演より20分長くなっている。何処を延ばしたのか?

中国地方の方言、たいぎい=面倒臭え、だりい。
共依存=関係依存症。互いを必要とするが故、自分を犠牲にしてでも相手に尽くす行為がどんどんエスカレートしていき最終的に破滅を生むことが多い。

暗い。この暗さこそが今劇団の魅力。舞台は広島。渡辺真起子さん演じる主人公は精肉店で働く49歳。DVを受けて離婚し、娘を女手一つで育てて来た。娘、仲美海さんは大学三年生、21歳。アクセサリー店でバイトしている。近くに住む弟夫婦は松下太亮(たいすけ)氏44歳、岡本唯さん32歳。渡辺真起子さんはスピリチュアルに傾倒しており、常に手元に水を置き、除霊にファブリーズ、パワーストーンの数珠、タロット占い、TVの星座占い···、と運気ばかり気にしている。更にスピリチュアル・セミナーにまた通おうとも。別れた夫が娘を奪いに来る妄想に取り憑かれ、ハサミ、包丁、スタンガンを家のいろんな場所に隠している。

渡辺真起子さんは浅茅陽子っぽいが時々表情が美空ひばりに見える。
仲美海さんは熱心なファンが付くタイプ。丁寧な心理描写。
普通は母の過干渉に苦しむ娘の物語にするが、病んだ母を中心に据えるのが興味深い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

すぐ近所で殺人事件が起こり、犯人の女は幼馴染。女の弟と一緒に通学していた松下太亮氏も気分が沈む。ある晩、精肉店でバイトしている大学四年生22歳の松尾潤氏を家に連れて来る。松尾潤氏はカメラマンを目指して上京し、叔父のアシスタントになる予定。仲美海さんは「羨ましいな」と感じる。

仲美海さん「(私のこと)好きなの?」
松尾潤氏「いや、全然。」
この場面が好きだった。

話はイマイチ面白くない。登場人物が足りない気がする。

愛は支配、愛は隷属。もっと気楽な自由な距離感で互いを尊重し合えたらいいのにね。相手がいないと存在出来ない自我は不完全で弱い。そんなに苦しいのなら愛なんていらない。

SHERBETS 「愛はいらない」

愛はいらない 湿度だけで 俺はいいよ Fuck me, Lady
愛はいらない 湿度だけで 俺はいいよ Fuck me, Lady
お久文七恋元結

お久文七恋元結

劇団前進座

サンシャイン劇場(東京都)

2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

一両を現在の5万円と考えると、五十両は250万円。こんな額をぽんと見知らぬ男に渡す奴は何者か?

2017年、山田洋次監督が監修・脚本で前進座に参加した『裏長屋騒動記』。2021年、『一万石の恋/裏長屋騒動記 愛の仮名手本篇』。そして今回、三度目のタッグ結成。前進座95周年、山田洋次監督94歳!凄えな。昨年の新作映画『TOKYOタクシー』も良い出来だった。『裏長屋騒動記』が驚く程面白かった為、メチャクチャ期待。

『文七元結(ぶんしち・もっとい)』とは明治時代の落語家・三遊亭圓朝(えんちょう)の創作落語。第一幕はそれをやり、第二幕は山田洋次オリジナルとなる。

江戸時代、年の暮れ、日本橋横山町の鼈甲問屋「近江屋」。主人の卯兵衛(藤川矢之輔氏)、番頭の善六(曽我廼家寛太郎氏)、手代の文七(早瀬栄之丞氏)、女中のお清(松宮美菜さん)。文七を買っている主人は売掛金の集金を任せることに。五十両という大金を受け取りに行く大役。

本所達磨横町の貧乏長屋に暮らす左官の長兵衛(柳生啓介氏)、女房のお兼(河原崎國太郎氏)、娘のお久(ひさ)〈横山由依さん〉。長兵衛は腕の良い職人だが博打にのめり込み年を越す金もない。17歳のお久は吉原の「佐野槌(さのづち)」に自ら向かい身売りして金を工面しようと考える。

貧乏長屋の家主・吾助(嵐芳三郎氏)、長屋女房お茂(江林智施さん)、長屋女房お熊(松川悠子さん)。

屋台の二八蕎麦屋(松涛〈まつなみ〉喜八郎氏)、その客(嵐市太郎氏)。

薬種問屋(どいや)の「美濃屋」女主人お福(山崎辰三郎氏)、その息子孝之介(松永瑤氏)。(松永瑤氏は早瀬栄之丞氏にどんとぶつかる通行人役も兼ねる)。

元結(もっとい=もとゆい)とは髷の根元を縛る紙製の細紐。桜井文七が飯田藩(長野県)から持ち込んだ商品の評判がよく、「文七元結」として広まった。

曾我廼家(そがのや)寛太郎氏の人気振り。松竹新喜劇で活躍するこの人の口上が舞台の基調となる。松宮美菜さんが可愛かった。
MVPはやっぱり柳生啓介氏。山田洋次節。
誰一人悪党のいない優しい世界、弱い者達は弱い者達と助け合った。誰かの優しさに生かされている。人の憂いを知った者だけが優しくなれる。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

第二幕からの話が弱い。勘違いから二人の恋路に暗雲が立ち籠めてもよかった。
かなり腕のある役者が揃う中、横山由依さんが一人浮いた存在に。実はこれも演出の狙いなのかも知れない。
舞台美術が工夫を凝らした省エネで見事。
山田洋次監督の人を見る目線が落語家のよう。一度自分で演じてみてその人なりの論理を一人ひとり立て納得してから組み立てているのだろう。
THE GAME OF POLYAMORY LIFE

THE GAME OF POLYAMORY LIFE

趣向

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

〈Aチーム〉

広い一軒家の透視図のセットを二面4列の客席で挟む形。舞台美術の松岡泉さんは見事にこの奇妙な世界を開放的空間として成立させた。

高校美術教師のエンジェル(豊田エリーさん)はムーン(加藤啓氏)、タイガー(上田遥さん)と同棲している。3人共それぞれ愛し合っているトライアッド(パートナーシップ)。大学時代の友達でずっとエンジェルに恋しているアリス(前原麻希さん)にはそれが理解出来ない。到頭、家に乗り込む。同じくInstagramで彼女達のことを知ったガンダム(笹川幹太氏)はムーンに取材を申し入れる。

ポリアモリー(複数愛)なんて初めて知った。関係する全員の合意のもと、複数のパートナーと恋愛関係を築くライフスタイル。よっぽどルックスが良いか、金が無いと成立しない気もするが。しかも今作の登場人物は全性愛者(パンセクシュアル)も兼ねている。男も女もない渾沌。一昔前なら柴門ふみに漫画を描かせて月9でドラマ化もあったネタ。

豊田エリーさんはた組で沢山観てきたが、今作が一番魅力的。この妖精のような圧倒的ルックスがないとなかなか成立し辛い設定だと思う。(旦那が柳楽優弥氏だとさっき知った)。こんな綺麗な人だったらこんなことも有り得るのかもと思わせる。

上田遥さんの独特な声は誰かに似ている。芹那かな?
加藤啓氏はやたら感動屋なので人間的には胡散臭い。
前原麻希さんはヒールの女子プロレスラーみたいな威圧感。
笹川幹太氏は細かい仕草が巧い。存在にリアリティーがあった。

多分、作家は人が人を自然に愛することを肯定したかった。そこに嘘がなければ何も間違ったことではない。純粋に幸せに向かって生きていくことを許容し合える共同体。自分が心からそう思えればそう生きられる筈だと。

Bチームだと豊田エリーさんと笹川幹太氏以外のキャラが男女入れ替わる仕様。どう見えるのかちょっと気になる。

ネタバレBOX

驚く程、客が入っていないことに不安を感じた。意識高い系の糞つまらない作品を危惧していたらシンプルでストレートな人間讃歌。『かぐや姫の物語』を匂わせもするファンタジー。これは討論を削ってミュージカルにすべき題材だと思う。理屈立てて言語化されると一々ムカつくが、歌と踊りで「本能なんだから仕方ない」とやられると納得せざるを得ない。

嫉妬がなくなるということは相手にあんまり興味がなくなること。ラストの「(豊田エリーさんに)好きな人ができました」「おめでとう!」のくだりも独占欲を超越した理想の関係性というより普通の友人関係に見える。独占欲のない愛、しかも無関心ではない···!?。

昔、「恋愛=友情+性欲」だと考えた。性欲だけだと人間の関係性としては一面的に終わる。友情だけだともう一歩奥に踏み込めない。今作の登場人物も「性行為」がなければ仲の良い共同体だと観客は普通に受け止められたと思う。やたらキスをして肉欲を表現しているが仲の良い友人関係では駄目なのか?性的快楽の共有がなければ物足りないのか?セックスのない共同体ならヤマギシ会とか新興宗教的な共同生活を思い浮かべるが。

一度、普通のルックスのもっと年代が上の役者で今作を上演して貰いたい。果たして観客にはどう映るのか?
春

劇団普通

cafe MURIWUI(東京都)

2026/06/03 (水) ~ 2026/06/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

岸田戯曲賞ノミネートで一度観てみようと思った人が殺到したのか?プラチナチケットのような争奪戦。追加公演も即完、当日券狙いで早くから並ぶ人々。ギッチギチに増席したこの狭い空間の3人を凝視。ブレイク前のバンドみたいな熱気。撮影カメラも入っていた為、第2次UWFのような緊張感に漲り客席は静まり返っている。まるで『ドキュメンタル』のような笑ってはいけない空間でいつものように幕が開く。窓の外ではルーフバルコニーの上部に張られたシェードセイルがバタバタとはためいている。

耳が遠いのか何度も聞き直す用松亮氏。
「ナニ?」「ナニ?」
何度も会話が空回りし、その説明にまた「ナニ?」「ナニ?」。
その雰囲気にたまらなくなった観客が吹き出し、アットホームな空間に。
今作を簡単に説明するならば
「な〜んだはこっちだよ。」
俺達は一体何を観せられているのか?

ネタバレBOX

多分、『風景』以来の登場となる岡部ひろき氏が延々と携帯で喋っている。どうやら相手は母親のようだ。何度も電話を終わらせようとするも向こうが終わらせてはくれない。安川まりさんが登場するもなかなか話が終わらない為、手持ち無沙汰。岡部氏は「次は母さんから掛けてくれ」と頼む。母親は「そう私をいじめて···。」と被害妄想気味。
やっと電話が終わり、安川まりさんは彼の姉だと判る。岡部ひろき氏は夜勤もある交代制勤務の為、休みが不定期。たまたま今週の休みは土曜日の今日。土日休みの安川まりさんは食料品の買い出しを手伝って貰おうと思う。父である用松亮氏が登場し、ここは実家だと設定が判明。3人の目線は何となく居間のTVに。

中盤に母親が介護施設に居ることが判る。介護施設にいつも自分の意見ばかり押し通す母親と同じ歳の人がいるそうだ。面会に来た子供達の土産に腹を立て怒鳴って追い返し、今ではもう誰も来なくなった。

結構、今回は用松亮氏、安川まりさんが笑いをこらえるように見える場面があって新鮮で良かった。
岡部ひろき氏の「飛び上がる程、驚いた訳じゃない。」という台詞にハマったのか、用松亮氏がかなり笑いをこらえていた。客席も貰い笑い。

石黒麻衣さんの創作世界の人物も徐々に老いていく。到頭、母親が介護施設。父親の焦燥。姉弟の不安。
庭の花梨(かりん)の木になった実で毎年作る花梨酒、母親がいないと思ったように実が付かない。
「な〜んだはこっちでしょうよ。」
亀と潜水艦

亀と潜水艦

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2026/05/22 (金) ~ 2026/06/04 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2回目。
朝からどしゃ降りの暴風雨、ビッチョビチョでうんざりの一日。錦糸町駅から徒歩十五分のすみだパークシアター倉に詰め掛ける観客達。出迎える劇団員達。

藤吉久美子さんは助演女優賞。周りの役者を際立たせる腕が凄い。舞台全体を見れる俯瞰的な目を持つようだ。
斉藤とも子さんも重要な役。配役に哲学を感じる。

振り続ける雨、ドブに現れる小さな亀、一筋の光。
素晴らしい作品。

ネタバレBOX

わざと話の展開をミスリードさせるような仕掛けが多い。亀に潜水艦に台風。こう来るなと思わせて来ない所にニヤリとさせる。

「人間まんまのうちに人の役に立ちてえ!」
劇中、鈴木めぐみさんが何度も叫ぶ。五体満足の内に、老いぼれて身体が駄目になる前に。何かしらまだ出来ることがあるんじゃないか?自分でもやれることがまだあるのでは?何かを為したい。人間である以上、人の役に立ちたい。だがその気持ちは空回り。なんにも出来ない。

大手忍さんの父親は満州鉄道の鉄道員。娘にずっと言い聞かせてきた。
「人に迷惑をかけないこと」
「おとなしくすること」
「口答えせんこと」
そしてソ連兵に凌辱を受け妊娠してしまった娘に
「もう幸せになろうとは思わないこと」を。
博多港に引揚船が着いたその日、娘の身を恥じて心中を図る。娘は逃げ、死に切れぬ父親だけが病院に搬送された。(劇中では仔細は明らかにされない)。妊娠8ヶ月だった大手忍さんは二日市保養所に収容され、麻酔なしで堕胎。胎児は泣き声を聴かせないよう、胎内で殺された。そんな地獄の経験の連続で精神的におかしくなってしまう。萬年荘にやって来た彼女を板垣桃子さんが地獄から白い光のある方角へ導き歩ませる話。パーマを掛けて資生堂の口紅を塗るラストの絵が浮かぶ。

最近は大手忍さんが歌手のように思えてきて、今回彼女は一体どんな歌を歌うのか?みたいな気分になっている。
アカデミック・チェインソウズ

アカデミック・チェインソウズ

MCR

ザ・スズナリ(東京都)

2026/05/27 (水) ~ 2026/06/02 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

選曲にセンスある。開演前SEなんか良かった。レッチリの次の曲が凄く気になった。

全員、ほぼ実名が役名。メタ的な構造を狙っているのか。

美人の璃音(りのん)さん、表情がアニメチックな梶川七海さん、キツイ若月海里(みさと)さんは海岸ではしゃいでいる。

陰キャの市島琳香さんはスクールカースト一軍に入りたがる唯一の友人・桑田佳澄さんに忠告をする。そこに居合わせる体育教師の日栄洋祐氏。

いつも破天荒な有馬ゆかさんを支える親友二人、米田ひかりさんと荒波タテオ氏。彼女の悪戯に巻き込まれる教師の加賀美秀明氏。

教師の澤唯氏から修学旅行実行委員に選ばれた田中優笑(ゆみ)さん169cm。彼女はイマジナリーフレンドであるおがわじゅんや氏と櫻井智也氏に不満をぶちまける。そこに通り掛かるみしゃむーそさん。

教師の堀靖明氏はパパ活の疑いがある井澤佳奈さんを呼び出す。彼女の親友の川久保三子さんが抗議に乗り込む。やたら落ち着き貫禄のある上田房子さん、伊達香苗さんを従えて。

女子校である私立みつばち坂まつぼっくり高校の修学旅行先は南洋!ホエールウォッチング・ツアーも楽しめる!
船長は北島広貴氏。

堀靖明氏はインパルスの堤下敦っぽい。もうお笑い芸人としか見えない程のツッコミ力。
梶川七海さんは表情が『らき☆すた』っぽい。(観たことないが)。
桑田佳澄さんにメチャクチャ見覚えがあるのに作品が思い出せない。ガチ小学生のルックスで29歳、有吉弘行のように芯を食った毒舌。MVP。

ネタバレBOX

ラストはRadiohead の「Creep」で決める。美しく天使のような“君”にまるで信仰のように夢中になっている自分。“君”は綺麗な世界で真っ白な羽根のように舞っている。でもそれを見つめている自分は出来損ないで醜い。自分の存在が“君”の世界を汚してしまう。

だけど俺はキモい。頭も変。
一体ここで何をしているんだろうな?
ここにいるべきじゃないのに。

波打ち際で踊る少女達の躍動的なダンス。それを遠くから眺める市島琳香さんと田中優笑さんの表情。これは彼女達の物語だったんだと判明する。そこにはみんながいるが自分だけがいない。

押井守に『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』という1984年の映画がある。ずっと「学園祭の前日」が果てしなく続く世界に閉じ込められた面々。実は「ずっとこのままでいたい」と願う少女の夢の中だった。日本のモラトリアム文化の一つの象徴。今作に影響を受け、社会学者・宮台真司が『終わりなき日常を生きろ』を執筆した。

劇団活動こそが永遠の「学園祭の前日」なのか。
光る

光る

玉田企画

シアタートラム(東京都)

2026/05/22 (金) ~ 2026/05/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ステージ上に半球状の穴が空いていて、その上に巨大な石の輪が吊るされている。『未知との遭遇』を思わせる暗示的なセット。キリスト教プロテスタント系カルトで歴史上何度か起こったムーヴメントに「空中携挙」(rapture)がある。滅亡の日に選ばれた人間だけが天から引き上げられるとの信仰。

祷(いのり)キララさんの父親はカートのレーシングチームを運営していた。彼女が13歳の時、スピリチュアルに嵌まった母親(能島瑞穂さん)と離婚。その後、父親は亡くなり祷キララさんがチームを継いでいる。今は26歳、中学の時の担任(浦井のりひろ氏)と交際している。チームには古屋隆太氏、浦井のりひろ氏、三村和敬氏。チームの持っているサーキットでレースの開催が決まり、実況アナウンサーとして初挑戦する浅野千鶴さんが挨拶に来る。だがレースの開催日が例年行われる慰霊祭と重なる為、住民からクレームが来ていた。運営会社の広報担当の井上向日葵さんはレースと慰霊祭を合同に行なうとの決定を伝える。戸惑い抗議をするメンバー。

この近辺で突然地面が陥没し大きな穴が空く事件が頻発。穴の夢を見た人間が気になって現地に行くとその通りに穴がある事例が続いた。これは何かの啓示なのか?同様に夢を見た浦井のりひろ氏が現地に赴くとそこには穴が。居合わせた能島瑞穂さんとの再会。13年前の教え子の母親だがその頃に離婚している。今の能島瑞穂さんはネットの預言系インフルエンサー、これについて全てを知っているようだ。

知らない役者ばっかりと思ったが浅野千鶴さんはコンプソンズの『ビッグ虚無』のヒロイン。祷キララさんはiakuの『モモンバのくくり罠』のヒロイン。井上向日葵さんはpapercraftの『世界が朝を知ろうとも』で観ていた。玉田真也氏が意外、イメージと違った。

能島瑞穂さんはヤバイ。豊田真由子っぽいキチガイ・オーラ。この人が主人公だろう。
浦井のりひろ氏も凄腕。イキウメみたいなキャラ。軽部真一とか鴻上尚史とか立川がじら的雰囲気。三村和敬氏に毎回、「お前は誰だ?」と聞くネタが最高のキチガイっぷり。
古屋隆太氏は売れてそう。高橋ジョージっぽい。
三村和敬氏はお笑い芸人にいそう。
祷キララさんは冨永愛っぽい。
浅野千鶴さんは声が可愛い。
井上向日葵さんは小学生の声。AIを疑われると動揺する。

ネタバレBOX

自分的には笑いが決まらない。笑いと黒沢清&イキウメ系ミステリアスがどちらも中途半端。いやこれメチャクチャ笑わせてくれよ。その後でゾッとさせてくれ。どっちつかずの批評家任せの立ち位置は余り好きじゃない。

ただ能島瑞穂さんVS井上向日葵さんはスピン・オフ希望。能島瑞穂さんを宗祖に大本教のような壮大な話を語って欲しい。ファクトかフェイクかではなく、もっと根源的な話を。(正しいか正しくないかではなく、全く別の回路で人間は生きている。同じような陰謀論が何度も繰り返されるのはそれが人間の本質に関わっているからだろう)。浦井のりひろ氏のキャラなど文学的で面白いだけに、もっと踏み込んで欲しい。井上向日葵さんは人造人間だとして、人工知能は最終的に何を望むのか突き詰めて欲しい。鉱物の本能は静かに佇むことだから人工知能コンピューターは最終戦争を望むという筒井康隆の初期短編があった。
東京物語(横浜公演)

東京物語(横浜公演)

チームラヴ・ガン

WAKABACHO WHARF 若葉町ウォーフ(神奈川県)

2026/05/29 (金) ~ 2026/05/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

暑い。若葉町ウォーフ、初めて来たがシネマ・ジャック&ベティの斜め前!元祖十八番もすぐそこ。良い立地だ。川沿いのちょんの間もなくなっちゃって黄金町も様変わり。

憲俊(けんしゅん)氏はちょっと真田広之っぽくてカッコイイ。八代将弥氏はかなり基礎のしっかりした俳優であることを感じさせた。

箱馬と平台を組み合わせたベッドが二つ。刑務所で同部屋のブレーキ(憲俊)とオリーブ(八代将弥氏)。ブレーキは左翼活動家でテロリスト。オリーブはオカマなのだが何の罪を犯したのかは不明。演出の佃典彦氏が刑務官として後方に座っている。寝付けないブレーキの為に毎晩オリーブはいろんな名作映画のストーリーを語り聞かせてあげている。今晩は『東京物語』だ。かなり丁寧にシーンごと事細かに語る。「節子原」という呼び方も良い。『東京物語』の劇空間を全身で撫で回して溶け込み、その中で泳ぐように語る。また『東京物語』観たくなった。
ブレーキは話を遮り、脱獄の決行を告げる。オリーブの母親は病気で長くない。ブレーキは組織に合流してやらなければならないことがある。

『蜘蛛女のキス』に着想を得たオマージュ作品なのだろう。映画の日本公開は1986年、今作は1987年初演。『蜘蛛女のキス』はゲイの囚人が刑務所長のスパイとなり、政治犯の囚人から組織の情報を聞き出す話。好きな映画の話を語ることが互いの心を通わす重要なファクターとなる。

八代将弥氏の語る『東京物語』が観客の心に投映される。人が好きな映画を熱心に語る姿は美しい。

ネタバレBOX

アフタートークが寺十吾氏。これがメチャクチャ面白かった。佃典彦氏が演出の方法について質問する。寺十吾氏は「脚本を読みながら作者が作品の中に隠した秘密をずっと探る」と答える。それは分析であり考察。作家が文字にしたものに惑わされるな。書いたものよりも書かなかったものにこそ意味があることが多い。それを自分なりに突き止め形にする。勘違いであることも多いが、自分なりの答を出さないと作品にはならない。映画を観ながら頭の中でもう一本の映画を創作するような作業。推理小説を読み解くような感覚。相当高度な知能戦で演出は成り立っているんだな。面白い作品はその制作過程すらも面白い。

大物関係者も観に来ていた。(少し居眠りしていたが)。
帰還不能点

帰還不能点

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2026/05/28 (木) ~ 2026/05/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2021年2月の初演、2022年8月の再演に続き、観るのは3回目。再演時、浅井伸治氏に代わり吉良孝一役を務めていた伊藤白馬氏(=旧芸名・照井健仁氏)が今回、村上誠基氏に代わり木藤芳男役をやる。登場しない山崎進次郎の声は近藤フク氏が担当していたが、今回は村上誠基氏に。

MVPは黒沢あすかさんだろう。話を知った上で観ているので、進行と共にふと変わる彼女の表情が今作の骨子となる。にこやかに店を切り盛りしつつ、不意に見せる素の顔。一般庶民の知らない所で国は戦争のシミュレーションをしていた。結果は必敗、どう足掻いても勝ち目はない。だが戦争に突き進んだ。国民には「日本は神の国である。歴史上、一度たりとも負けたことはない。現人神である天皇陛下の統治する神国日本は必ず勝つ」と鼓舞。その全てが嘘だった。国に騙されて散々な目に遭い、焼け野原に呆然と立ち尽くす亡霊のような国民達。負けるって分かっていたのか?こうなるって知っていたのか?

この劇団を観たことがない人に一作勧めるならば、やはり今作となるだろう。脚本が面白い。戦後に戦前日本政府の馬鹿馬鹿しさを酒席であげつらう設定も巧い。故人を偲ぶ会というシチュエーションにも何重にも意味が掛かっている。“最後の”再演と謳っているのが残念。今こそ日本人はこの作品を観るべき。必見。

ネタバレBOX

粟野史浩氏が去年かなり痩せていたが身体が戻ってきたようで安心。シーザー武志、大友康平、小沢仁志を足したような凄味。

東谷(あずまや)英人氏は細かったイメージだがガッシリしてきて、より役がハマる。

今里真氏が本当に重要な役どころなのがよく判った。

「みんなを救えないことが貴女一人を救わない理由にはならない!」
山崎進次郎役を誰が演ずるのが適役なのか考えていた。筑波竜一氏かなあ。ちょっと格好良すぎるが。焼け跡のキリストとして後半生を自身の内面との戦いに捧げた男。自分には出来たのにやらなかったことが許せなかった。これからは出来ることは全て為すと腹を括って命を削る日々。人間の力は有限、出逢える人の数も限られる。そこでやれることをやる。それはただの自己満足でしかないのかも知れない。大局的には何の意味もないのかも。それでも構わない。それが死んでいった者に対する自分なりの贖罪だ。
彼を愛した黒沢あすかさんの行き場のない想いが涙となって零れる。本当の夫婦として心を通わせたかった。彼に何もしてあげられない自分。
母

劇団文化座

あうるすぽっと(東京都)

2026/05/19 (火) ~ 2026/05/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2023年5月、チケットを持っていたがコロナで中止に。ようやく観れた。佐々木愛さん82歳、最後の主演作との謳い文句。想像以上に素晴らしい作品。佐々木愛さんは凄いな。ひれ伏す。日本人の心の奥にある温かくて優しくて全てを受け止め許してくれるお母さん像の体現。こんな母親が家にいてくれたら子供は真っ直ぐ正しく優しく胸一杯に育つ筈。小林多喜二というちょっと変人めいた作家の人物像が少し掴めた。

小林多喜二は藤原章寛氏、佐々木蔵之介や坂本昌行系。カッコイイ。
その弟役の小佐井修平氏は本当に十代に見えた。
小林多喜二が生涯を懸けて救おうとした田口タキ(今作ではタミ)役高橋未央さん。卑屈な彼女の小林家との関わり合い方が大きな主題となる。同じ貧しくも心豊かに暮らす小林家に私みたいな無学な者は不釣り合いだと自身を責めて逃げてしまう。彼女と佐々木愛さん演ずる母セキとの遣り取りが今作の要。

「カタツムリが背延びをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。」
小林多喜二の代表作、『蟹工船』とは日本の縮図。どうにか皆の力を合わせて劣悪な環境を変えていかなければならない。その方法論を大衆に説かなければならない。

今作は井上ひさしの『組曲虐殺』とセットで観ると尚良いと思う。10月に風姿花伝で劇団しゃれこうべが演るので要チェック。

これで最後とは言わず、佐々木愛さん主演でまだまだ作って欲しい。勿論観に行く。太宰治の『津軽』なんかどうだろう。声も動作も一流のプロフェッショナル。

ネタバレBOX

「ほれっ! 多喜二! もう一度立って見せねか! みんなのために、もう一度立って見せねか!」
この有名な台詞を静かに抑えて呟くように言うリアリティー。観客を泣かせる為ならもっと感情的に狂乱する選択もあるだろう。それを自分に言い聞かせるようにしっかりと呟く。流石。

キリスト教の思想を現実の社会に投影する手段としての共産主義。全ての人間が平等な社会の実現。現実の共産主義ではなく、人々の心の中で理想に燃えていた共産主義は美しい。

もう駄目だと追い詰められた時、最後に思い返すのは遠く懐かしき貴女の記憶。あそこに戻ればやり直せる。あそこに帰ればもう一度自分自身を取り戻せる。誰の心にもあるそんな原風景。
亀と潜水艦

亀と潜水艦

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2026/05/22 (金) ~ 2026/06/04 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

アレッサンドロ・マルチェッロの「オーボエと弦楽合奏のための協奏曲ニ短調」をヨハン・セバスティアン・バッハが鍵盤楽器用に編曲した「協奏曲BWV974の第2楽章アダージョ」。この物悲しく美しい旋律が主題として奏でられる。満洲の首都である新京の映画館のロビーで流されていたという。新京で呉服屋を営み財を成した板垣桃子さん。同じく新京にいた大手忍さん。このアンニュイで悲しい旋律から色々と失った時間を思い出す。玩具のトイピアノでそれを弾くもりちえさん。

天才女優・大手忍さんと劇団の屋台骨の板垣桃子さんが地獄から歩み出す人間の物語を奏でる。何度も何度も何度も何度も同じ話を繰り返す。地獄から遠く遠くの白い光に向かって手を伸ばす。

人間のまんまでいる内に出来ることをやらなければ。
凄く良い作品。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

今作は短編小説であろう。満洲や朝鮮からの引揚げ時にソ連兵に凌辱された日本人女性達。戦後、博多港は一年半で約139万人の引揚げ者を受け入れた。中には強姦されて妊娠した女性も多数いた。故郷に帰るに帰れない彼女達を救う為に非合法の堕胎手術を麻酔無しで行なう二日市保養所の開設。500人近くの手術を行なったという。

その地獄からの帰還者、精神を病んだ大手忍さんが引揚者の一時的収容施設「萬年荘」にやって来る。そこに暮らす目を病んだ老婆、板垣桃子さんは満洲から引揚げて来たものの到着した博多湾に娘が身を投げてしまう。強姦されて身重の自分に世を儚んだのだ。板垣桃子さんは大手忍さんを失った自分の娘に重ね、救おうと努力する。

※照明の拘りは特筆モノ。
第三の証言

第三の証言

劇団青年座

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2026/05/21 (木) ~ 2026/05/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

灰色に塗り潰された壁。赤錆びた鉄骨が頭上を斜めに貫いている。JCRのP箱とビールケースをグレーに塗り潰した物が並んでいる。それを椅子代わりに。途中、その上にベニヤ板を渡してテーブル代わりにも。
『コラボレーターズ』のようなサイレント喜劇演出やフラッシュモブがブリッジに流れる。同じ演出家かと思ったら違ってた。西田茉莉さんの無表情ダンスや岡本大樹氏のリズミカルなマイムが印象に残る。『スリラー』のような漫画的な恐怖表現。マクシム・ゴーリキーの『どん底』っぽい場面や不条理系のディストピア工場の描写。

主人公・石塚雄大(ゆうた)氏はせいやっぽい。

社長・工場長的役割の横堀悦夫氏は石橋蓮司っぽいと思っていたが今作では緒形拳似。
その妻、ひがし由貴さんは精神を病んでいる。鼻が高い。

伊東潤氏は塚田僚一っぽい。
彼との結婚を控えた佐原良砂(つかさ)さん。

戦争で松田周氏は大事なものを作らない人生観を身に付ける。西野亮廣っぽかった。
彼を密かに想う尾島春香さんは小保方晴子寄せ。

会社の不正を告発して辞めていった豊田茂氏は大鶴義丹、なべおさみ系だが今作では朝倉未来似。

屈折した母親・万善香織さんは鼻に特徴。
手拍子が鳴ると勝手に踊り出してしまう知的障害者の娘・西田茉莉(まつり)さんは今後要注目の存在かも。

刑事の加門良氏の貫禄。
電報配達夫と刑事の岡本大樹氏はコンテンポラリー・ダンスのようなマイムが鮮やか。

ビスケット工場に入社したばかりの石塚雄大氏。知的障害者の西田茉莉さんと首吊ごっこをしている。西田茉莉さんは何を聞かれても「ハァイ」と元気よく答えてくれる。石塚雄大氏は工場のあちこちに鼠の死骸を発見。ビスケットの原料である粉を食べた様子。これは毒物じゃないのか?工場の人達に伝えて回るが誰も相手にしてくれない。到頭、警察に通報する。

謎のビスケット工場。本当の社長は電報で指示を出すのみで誰なのかも分からない。横堀悦夫氏は指示通りに動くのみ。高額な給与で従業員は疑問を飲み込み口には出さない。

俺達は一体、本当は何をやっているのか?

ネタバレBOX

再演を繰り返す内に改稿を重ね、パンフを読むとどうやら1958年の王子製紙争議をモデルにしたらしい。ストライキを起こした組合に対して会社側が主導して第二組合を結成させた事件。二つの労組の内ゲバで分裂、弱体化。全ては会社側の思うがままに。
もう一つのモデルは1952年のビルマ(現ミャンマー)からの輸入米の三分の一がカビに汚染され変色していた事件=黄変米騒動。毒性のあるカビた米を配給する政府に対し、激しい抗議活動が起きた。

時代はずれるが自分は水俣病とチッソの話のようにも思えた。不正を告発して無職になった豊田茂氏は会社に戻して欲しくて惨めに何度も頭を下げるが相手にされず野垂れ死ぬ。正義の為に動いた石塚雄大氏はそれが何の意味もなかったことを知り絶望して首を吊る。ぶらんぶらん揺れるロープが壁に当たる音で規則的に踊り出す西田茉莉さんで幕。

万善香織さんの歪んだ人生観。知的障害者の娘が白い目で見られれば見られる程、自分達の存在を実感出来るという倒錯。今作は皆、倒錯している。

青年座と自分は相性が悪い。5本観ているが、満足したのは『ズベズダー荒野より宙へ‐』だけ。いろいろ詰め込んでいるがいつもスッキリ決まらない。観せ方が下手。最大公約数を狙えば味は薄まる。皆に60点の作品なんか記憶に残らない。ある連中にだけ120点のガチガチの作品を望む。

全てが上の計算通りだったという『マトリックス リローデッド』感は面白かった。

死よりも尚美しいもの、それは死んだ後に存在する完全なる自由。自由を指し示す為にイエス・キリストは在ったのだ。それを知った人間は全ての価値観から自由になれる。
チョークで描く夢

チョークで描く夢

トム・プロジェクト

シアターX(東京都)

2026/05/20 (水) ~ 2026/05/26 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

専務 星野卓誠氏→宮原奨伍氏
弟が障害者 岡野優介氏→星野卓誠氏
障害者に偏見 昭和の荻野貴継氏→中嶋ベン氏
発達障害気味 川﨑初夏さん→滝沢花野さん
障害者 小向なるさん→美利さん
棚の並びに拘る障害者 令和の荻野貴継氏→荻野貴継氏

ネタバレBOX

非常に残念な作品。二幕2時間40分の傑作を2時間5分一幕モノにしただけではない。11人のキャストを6人に削ったことが作品の密度に如実に関係している。このスカスカの空間で逆にTRASHMASTERSの武器が理解出来た。無理を承知の徹底したリアリティー、その空間を作ること。演劇なんて見立てで出来ている仮想空間、観客の想像力で補完して観るもの。そこを逆に狂ったリアリティーの書き込みでバグらせる演出。嘘話についのめり込ませる詐術。嘘をつくのに異常なエネルギーをつぎ込んでいる。今作は全てが軽い。

第二部の話を無理矢理付け加えた滝沢花野さんのキャラがこれでは可哀想。初演第一部ラスト、川﨑初夏さんの声を上げて泣くシーンにどれだけ意味があったことか。客はこんなエピソードの羅列で泣いている訳ではない。宮原奨伍氏の人生観がグラリと変わる瞬間に興奮したいのだ。中嶋ベン氏は和田勉+カンニング竹山風味。いろんな要素を押し付け過ぎて御都合主義の嘘臭いキャラになってしまった。そうじゃないよ。化学式で人は泣けないよ。

美利さんの「あい」で客はどっと沸く。愚鈍で間抜けな出来損ないが振り絞る人間性に客は泣く。でもこれそんな話じゃないだろう。学ぶ姿勢。真剣に生きている奴から真剣に学ぶ姿勢の話。優生劣等の価値観ではないものを提示した会社の話。幸せになりたいと真剣に願う連中と共に幸せになる話。

専務の人間観が一変したエピソードをもっと丁寧に。
観客も自分の価値観が揺らぐ瞬間を求めている。

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