
生活と革命 vol.2
マチルダアパルトマン
イズモギャラリー(東京都)
2024/06/26 (水) ~ 2024/07/03 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
何かぼんやりとしてしまう。毎日の生活を繰り返すだけの日々に底知れぬ不安と無力感、そして虚しさ。暗い穴をじっと覗き込んでいるようだ。
小久音さんはコリー・フェルドマン系の顔。

地の面
JACROW
新宿シアタートップス(東京都)
2024/06/14 (金) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
誰もケチをつけられない位に面白い。悔しい程の傑作。
2017年6月に起きた『積水ハウス地面師詐欺事件』を舞台化。55億5900万円を騙し取り、史上最大の地面師事件と呼ばれたもの。その後10人逮捕、主犯格は懲役11年の判決。
タランティーノ&ロバート・ロドリゲス作品っぽいスタイリッシュなノリ。井上ひさしの『日本人のへそ』オマージュ的なギャグもあり、作家も劇団も絶好調。実話故にか余りにも面白い脚本。マーティン・スコセッシ風味で映画化して欲しい。日本で作ると伊丹十三系か高田宏治脚本の東映系になりそうだが。
9人の俳優陣が軽快なステップを踏んでノリノリにツイストを踊る。「自信を持て!自信がないと踊れないぞ!」椅子取りゲームのようなオープニング。
主人公・小平伸一郎氏の鳥好きの設定がまた効いている。『君たちはどう生きるか』の青サギオマージュ。山崎の25年物とか台詞の発想、展開が巧妙。犯人グループは登場させず、いる体で応対するのみ。積水ハウスの人間関係に狙い定めた焦点がズバリ当たった。要点を絞ったタイトな脚本と踊り明かす余白のある演出。実録モノの御手本とはこういう作品のことだ。悩める脚本家監督連中は教えを請いに今作を詣でるべき。好き放題やってやがる。それでいてこのクオリティー。
役者は全員本物。後に伝説になるのではないか?
ゴルフシミュレーターに夢中な会長役・佃典彦氏は宝田明っぽい軽妙なソロ・ダンサー。
取締役入りを狙う星野卓誠(たかのぶ)氏は中村勘九郎、東野幸治系の顔立ち。
MVPは社長役の谷仲(やなか)恵輔氏。前作の中曽根康弘役のインパクトが強過ぎるが、萩原流行風味の怪演。ノリノリのステップに四股を踏む。あとは運さえあればメチャクチャ売れること請け合いの実力。
テーマは『組織と自分』。結局、肝心なのは自分は何を大事に思って生きていくのか?ということ。中島みゆきも歌っている。「お前が消えて喜ぶ者にお前のオールを任せるな!」
裏切られたと泣きべそかく前に気付け。裏切られても許せる人間にしか付いて行くな。ただそれだけの話だ。
本物を観たければ見逃すな。

野がも
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2024/06/07 (金) ~ 2024/06/21 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ヘンリック・イプセン、19世紀ノルウェーの劇作家。「近代演劇の父」と呼ばれたのはモラルや道徳的予定調和(所謂ビルドゥングスロマン〈教養物語〉)を無視し、現実に即したリアルな作劇を呈示したから。作家の意図が論議される作品の走り。何となく知っているような気がしていたが、多分初めて観た。
俳優座は2月の『スターリン』がつまらなくて足が遠のいていた。(自分の理解力にも問題があったようなので違う形でもう一度観てみたい気はするが)。
演出も俳優も最高の水準。
地元の名士、財を築いた実業家ホーコン・ヴェルレ(加藤佳男氏)の屋敷での晩餐会。小さな写真館を営むヤルマール・エクダル(斉藤淳氏)は一人場違いな場に招待されている。山の工場から16年振りに町に帰って来た息子グレーゲルス・ヴェルレ(志村史人氏)が友人として招待したのだ。グレーゲルスはヤルマールからいろいろと近況を聞いていく内にある疑念が生まれる。父は妊娠させた使用人ギーナ(清水直子さん)をヤルマールに押し付けたのではないか?更にヤルマールの父、エクダル元中尉(塩山誠司氏)はかつてヴェルレの事業の共同経営者だったが、国有林伐採の罪を一人被らされて投獄、出所後は酒浸りの廃人となってしまった。理想家グレーゲルスは唾棄すべき父に訣別を告げ、屋敷を出て行く。彼が向かう先はヤルマールの家。嘘と欺瞞に満ちた暮らしに正義の光を照らし、真実の生へと人々を導いてゆく事こそが己に課せられた使命だと信じていた。
凄くよく出来た喜劇。
劇団エース格の斉藤淳(あつし)氏は今作では若々しくオリラジ中田に見えた。終盤頬張るサンドウィッチがやたら美味そう。
加藤佳男氏は政界の大物風味。突っ立ってるだけで金が取れる。児玉誉士夫なんか演って貰いたい。
釜木美緒さんは29歳!マジで子役だと思っていた。
こんな古典を易々とこなす老舗プロ劇団の強み。古今東西、世界中のどんな戯曲でも美味しく調理してやんよ。
流石に面白かった。

水彩画
劇団普通
すみだパークギャラリーささや(東京都)
2024/06/17 (月) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
茨城のオシャレなカフェ。用松亮氏と坂倉なつこさんの老夫婦、隣でその娘の安川まりさんと浅井浩介氏の夫婦がコーヒーを飲んでいる。
用松亮氏の会社時代の同僚、定年退職仲間のハナワ氏の油絵展覧会を見に行った帰り。
外にはオープンテラスが見え、店内の鉢には蓮とメダカのビオトープが置かれている。
もう一つのテーブルには結婚前の同棲中のカップル、伊島空(くう)氏と青柳美希さん。高校時代からの親友のカズ君が就職先の教師を辞めて黙って東京に出て行ってしまった。今では杉並区でNPO法人関係の仕事をしているそうだ。カズ君から来たメールの中にこの店のことがあり、コストコ帰りに寄ってみることにした。
浅井浩介氏は若い頃の前田吟っぽい。
伊島空氏は若い頃の原田大二郎っぽい。
高度に練り込まれたコメディ。聞く気もないのに流れてくる他人の会話、それがぼんやりと耳に入るカフェにいる。集まった観客は未知なるジャンルに興奮しているようだ。
『ドキュメンタル』のような空気感。笑ってはいけない状況で延々と繰り広げられる日常会話。カズ君の話をまた蒸し返すカップル。いやカズ君、そもそも俺知らねえから。もうその話はいいよ。
個人的にもの凄く憂鬱な出来事があったのだが今作の雰囲気がいい気分転換になった。
是非観に行って頂きたい。

純文学のススメ
シニア演劇ネットワーク
劇場MOMO(東京都)
2024/06/12 (水) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
B
太宰治の『黄金風景』が大好きで、朗読劇ではなく上演するとのことで観に行った。だがちょっとこの作品を軽んじているようなブリッジ的扱い。いや『黄金風景』こそが太宰治文学の入口、全く小説なんか読まない層に扉を開く作品。もっと大事に扱って練り込めばいろんな可能性を刺激した筈。
基本は台本片手の朗読劇。バリアフリー字幕として台本がバックに全部投影される仕様。何人かのキャラだけが何も持たずに演じていた。特質すべきは選曲。クラシックの名曲が挿入されるのだが、驚く程センスが良い。大衆的でありつつ的を得ている。かなり詳しい人がやったのではないか。
①芥川龍之介『少年』1924年
関東大震災後の復興中の東京、満員バスに揺られる男、堀川保吉(やすきち)。所謂「保吉もの」と呼ばれる芥川龍之介の自叙伝的色合いの濃い私小説シリーズの一篇。
クリスマスの日、フランス人の宣教師(高田幸子さん)と少女(石田さよこさん)のあどけない遣り取りをバスで見た主人公(栗山寿恵子さん)。銀座のカフェ(現在のバー)で二十年以上前の子供時代(tommyさん)の追想に耽る。六篇のオムニバス。
女中のつうや(石田さよこさん)から受けた教訓。
風呂を出る父親(柴田恵子さん)の後ろ姿から感じた死のイメージ。
初めて見た海の色。
幻灯機に映し出されたヴェネチアの街並、窓から顔を出した少女の幻影。
両国の「本所回向院」での戦争ごっこ。「やあい、“お母さん”って泣いてやがる!」
大森海岸で初めて見た海の色が代赭色(たいしゃいろ)=やや明るい茶色=煉瓦のような色。
②太宰治『黄金風景』1939年
太宰治(深沢誠氏)が幼少期(秋津今日子さん)に女中のお慶(柴田恵子さん)を虐めていた回想。落ちぶれて窮迫した今、彼女達一家が訪ねて来るのだが。
③太宰治『貨幣』1946年
百円紙幣(片岡つぼみさん)が戦前戦中幾多の人々の財布を行き来し流転した回顧録を自叙伝風に綴る。傲慢な陸軍大尉(深沢誠氏)の相手をする身を持ち崩した酌婦(栗山寿恵子さん)のエピソードがメイン。酌婦は乳飲み子を育てている。この世にほとほとうんざりしていた百円紙幣が幸福を実感する夜明け。

火の方舟
名取事務所
小劇場B1(東京都)
2024/06/14 (金) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
また凄え作品、ぶち込みやがったな。
舞台美術はまるで廃墟。被災地のような不穏な雰囲気。狙いは『イノセント・ピープル』と同じものを想起させる。散乱した家財道具と普通の生活空間が共存して見えるバランス。
物語は2011年3月10日、東京都目黒区柿の木坂にある原子力委員会関連財団の理事長(山口眞司氏)の家。元大学教授で経済産業省にも顔が効くこの世界の大立物だ。長崎で胎内被爆者として生を受けた。
その妻(山本郁子さん)は広島で被爆した大学教授の娘。山口氏は入婿としてこの家に入った。
広島で新聞記者をやっている娘(大谷優衣さん)が東京に取材がてら久し振りに顔を見せている。
娘は家族と何十年も音信不通だった叔父(田代隆秀氏)に偶然沖縄で会ったことを知らせる。彼はその地で反骨のジャーナリストとして評価を受けていた。
翌日に何が起こるのかは日本人なら誰でも知っている。テーマは『原子力』。被爆者として生まれた男が何故原子力推進の旗手となったのか?世界で唯一原爆による被害を受けた日本が、何故こんなにも原発大国となったのか?
大谷優衣さんをルックスから勝手に元アイドルだと思い、かなりの長台詞をよくモノにしたなと感心していた。普通に演劇集団円所属の女優だった。
田代隆秀氏はもろそっち方面の活動家。討論慣れしていて話のキャパがデカい。
山本郁子さんは後半、シェイクスピア劇のようにガラリと変貌して女になる。鳥肌が立つ。
MVPは無論、山口眞司氏。終盤の独白は妖気が漂い戦慄が走る。黒澤明なら『生きものの記録』とか『悪い奴ほどよく眠る』の三船敏郎。全ての積み重ねはこの為に用意されていたものだった。
観る人によって賛否両論だと思う。自分は断然支持。ああすればこうすればは多々あるが、ラディカルで良い。バランス感覚を持って平均的に支持される作品なんかどうでもいい。選挙運動じゃないんだから。一部に熱狂的に受けてあとは黙殺でいいよ。その代わりその一部をガチガチに滅多刺しにしてくれ。今作はそんな作品だった。

青い!大劇場結婚式(小劇場 楽園)
藤原たまえプロデュース
小劇場 楽園(東京都)
2024/06/06 (木) ~ 2024/06/16 (日)公演終了

青い!大劇場結婚式(「劇」小劇場)
藤原たまえプロデュース
「劇」小劇場(東京都)
2024/06/06 (木) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
何となく凄くハイテンションだがつまらない大騒ぎを予想していたらかなり面白かった。
「劇」小劇場で結婚式を行う熟年カップル。理由はそこが二人の出会いの場だったからだ。しかもその模様を生配信するという。自分でも小劇団を主催している新婦(高乃麗〈うらら〉さん)はブライダル会社の演出に駄目出しをし、いろんな突飛な思い付きを入れていく。現場責任者(ジョニー高山氏)とプランナー(阿達由香さん)は引きつった苦笑いで対応。控室として用意されたのは道を挟んだ向かいの地下にある小劇場「楽園」。土建屋社長の新郎(橋倉靖彦氏)がなかなかやって来ないことに腹を立てた新婦は「楽園」へと呼びに行く。次々にありとあらゆるトラブルが降り掛かる地獄の現場、果たして何とか結婚式を遂行することが出来るのか?
面白いのは新郎新婦のキャラ。見事に配役に成功している。高乃麗さんの迸るエネルギーが作品のエンジン。
橋倉靖彦氏の佇まいと口下手で朴訥なキャラもいい。
東京AZARASHI団以来の観劇となる阿達由香さん。流石に腕は衰えていない。こういう喜劇には欠かせない知的な笑いのキャラクター。
沖縄出身の双子ダンサー、JURI&JUNAさんも好演。
伝説の興行師、ウィリアム・キャッスルを思い起こすギミック興行。ウィリアム・キャッスルは下らないB級ホラー映画にギミックを施して観客を呼び込んだ映画プロデューサー。「ショック死保険」、クライマックスでワイヤーに吊られ映画館を飛び回る骸骨の模型、魔法のコインを配る、幾つかの座席に電流を流す、恐怖で退場すれば返金するが臆病者コーナーで晒される、幽霊が見えるセロファン眼鏡、悪役の最期を観客投票で決める、危険の為映画館に看護婦が待機・・・などなど。まさに見世物小屋の呼び込み口上。観に行ってガッカリするのだがそれもまた良いものだ。
今回はキャスト15名に観客19人のほぼ互角の戦いだった。
是非観に行って頂きたい。

白き山
劇団チョコレートケーキ
駅前劇場(東京都)
2024/06/06 (木) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「あかあかと一本の道とほりたり たまきはる我が命なりけり」
アララギ派(正岡子規の信奉者)の師である伊藤佐千夫が脳溢血で早逝。「師匠の照らした遠く続くこの一本道を魂の極わるまで歩き続けなくてはならない。」との覚悟の歌。
正岡子規の掲げた写実(写生)主義とは、絵画の方法論と同じく現実をありのままに写すこと。
更に斎藤茂吉はそれを深め、『実相観入』という造語を生み出した。自然と自分とを同一化し、対象に観察者である自己の存在をぶつけて生命そのものを写すこと。
1945年9月、敗戦してまだ一ヶ月、混乱の世相。郷里の山形県金瓶(かなかめ)村で妹の嫁ぎ先の離れに疎開していた斎藤茂吉(緒方晋氏)、63歳。精神科医で歌人。戦時中に「戦争詠み(時局詠)」と呼ばれる戦意高揚の短歌を詠んだことで、敗戦後「戦犯歌人」と罵られることに。近所の農婦(柿丸美智恵さん)が賄い婦として食事の世話をしてくれている。様子を見に東京から立ち寄った次男(西尾友樹氏)は手紙で兄である長男(浅井伸治氏)と斎藤茂吉の弟子である山口茂吉(岡本篤氏)を呼び寄せることに。
MVPは柿丸美智恵さん。実質、彼女が主人公なんだろう。凄腕。
西尾友樹氏は非常にコミカルな役を怪演。異常にどったんばったん地面に転がり、全身を使って笑いを取る。肘上に痣が見えた。かなり身体を酷使した役作り。煙草やマッチが散らばり、土塊が散乱。
緒方晋氏は大御所役者の風格。体調不良で降板した村井國夫氏の代役なのだがそれを全く感じさせない。彼以外考えられない。
戦後の松竹映画の雰囲気。淡々とした描写を重ねて内面を風景で補完させる。
観れるのであれば必ず観ておくべき作品。
是非観に行って頂きたい。

砂漠の動物園
演劇実験室◎万有引力
ザ・スズナリ(東京都)
2024/06/07 (金) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
わたしはあらんとしてあるもので、あるとはすべてであり、わたしはあらんとしてあるもの。
『シュヴァルの理想宮』と呼ばれる建造物がある。1879年、43歳のフランスの郵便配達夫ジョゼフ・フェルディナン・シュヴァルが奇妙な形をした石に蹴躓く。その形に魅了された彼は家に持ち帰り、その日から石の収集を始める。集めた石を庭先に積み上げ、33年掛けて理想の宮殿を独りで完成させた。周囲からキチガイ扱いされながらもその見事な城塞は、彼の死後1969年、フランスの歴史的建造物に指定され今ではれっきとした観光名所。彼の人生は映画化もされた。
1985年初演、何度もフォルムを変えながら流転し続け今回で9度目に。テーマは『距離』。シュヴァルが石を積み上げ始めた時に思い描いたものとの距離。それは掛かる時間か、物理的な作業としての労働量か、それに費やす己の忍耐力か。そしてそれを創り出したいと思った精神世界の欲望との距離。どうして創りたいのか?他のものじゃ駄目なのか?本当に創りたいものはこれなのか?
全ての実現は願うことから始まる。その願いと自分の立っている場所との距離。目に見えないそれを伝える装置としての演劇。皆ランドセルを背負っている。
舞台前には砂漠に見立てた砂場。ある一家の父親が行方知れず。代役業のヤドカリ・𫝆村博氏が父親役を契約。母親は森ようこさん、息子は髙橋優太氏。失踪した郵便配達夫(違ったかも知れない)・螺旋は髙田恵篤氏。カタツムリは小林桂太氏。
「一人は不在(不明)で一人は他人」
『シュヴァルの理想宮』を絶賛したアンドレ・ブルトンの自伝小説『ナジャ』。ナジャことレオーナ・デルクール役は山田桜子さん。ロシア語で「希望」の意味を持つナジェージダ 、その言葉を縮めてナジャ。
ラモーンズの『Pinhead』に似たリフの曲が流れて興奮した。
森ようこさんは流石。こういう女優を育てていかないと劇団は続いていかない。
日本のPUNK ROCK史を語る上でアングラ演劇の系譜は欠かせない。小林桂太氏の小柄な肉体美は遠藤ミチロウを彷彿とさせる。スターリンは寺山修司だったんだな。逆に「万有引力」にスターリンを感じた。
前売りで全席完売、グッズ売り場に長蛇の列。
わたしはあらんとしてあるもので、あるとはすべてであり、わたしはあらんとしてあるもの。

短編作品集『3℃の飯より君が好き』
劇団印象-indian elephant-
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2024/06/05 (水) ~ 2024/06/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
演出・一宮周平【Bチーム】
①『メイクアップ!』
役者の首から小さなパペットの身体をぶら下げる人形劇スタイル。このセンスは悪くない。配役の狙いが良い。横室彩紀(あき)さんは流石。
②『3℃の飯より君が好き』
10ヶ月ほど前に妻(尾崎京香さん)が作ったトマトカレー。冷凍保存しておいたそれを解凍して食べようとする夫(花戸祐介氏)。「何で取っておくのか?何故その時すぐに食べないのか?」と考える妻。“今”を冷凍保存しておきたい人間の心理。全ての“今”はあやふやな感情の風の中に舞っている。確かなものを残したがる気持ち。その時、妻の子宮は凍る。
『海月になりたい』という歌が凄く良い。雪の降り出した海辺の町で、どうしようもなく壊れかけた二人が“今”を手に入れるラスト。

短編作品集『3℃の飯より君が好き』
劇団印象-indian elephant-
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2024/06/05 (水) ~ 2024/06/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
演出・鈴木アツト【Aチーム】
①『メイクアップ!』
児童青少年演劇の企画の為に作られた30分のリーディングもの。
中3の少女二人と少年一人の青春模様。化粧は男尊社会への隷従だとガチガチのフェミニストの村田詩織さん。長い付き合いで親友の佐藤美輝さんは演劇部でヒロインを勝ち取り、メイクしたくて堪らない。その『オセロー』主演の河野賢治氏はより作品のテーマを深める為、あることを決めた。
②『3℃の飯より君が好き』
新婚夫婦。仕事から帰って来た滝沢花野さん、これから夜勤の交通警備に向かう向井康起氏。滝沢さんの腹が突然膨れて中に氷の塊が入っているようだ。

阿呆ノ記
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2024/06/04 (火) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
九州の山奥にある阿呆村。そこでは捨て子や孤児、罪人の遺児等を古来より寺で養う風習があった。そして自然災害や疫病、飢饉・干ばつでの祈祷、建造物建立の安全の祈願の折りに阿呆丸と呼ばれたその子供達を各地に連れて行く。人柱や生贄、人身御供として天に捧げた。明治になって刑法が整備され、この風習は禁止される。解放された阿呆丸達は死に場所を探して山奥を彷徨っているという。この設定だけで凄まじく面白い。
昭和12年、日中戦争の激化から軍国主義に滑り落ちていく時代。村人は鉄道工事に駆り出され、山は切り崩されていく。代々猟師の一族である、音無美紀子さん、その息子である鉄砲衆頭・三村晃弘氏、孫である加村啓(ひろ)氏の物語。子を産んですぐ亡くなった妻を今も愛し続けている三村氏。そんな息子の嫁として隣村から大手忍さんを貰ってくる音無さん。勝手なことをされて怒る三村氏だったが・・・。
MVPは女頭目・音無美紀子さん。文句なしの素晴らしい存在感。
ヒロインの大手忍さんも魅力的、永遠の少女性。もう少しガタイがガッチリしていた方が作品的には合ったかも知れないが。
もう一人の主人公、加村啓氏も印象的。劇団Q+の『マミーブルー』も覚えてる。寺山修司系の森田剛っぼい感じ。アングラ・イケメン。
神社のおみくじのように赤い紐が無数に木々に縛り付けられている舞台美術。
ドイツのモーゼル(マウザー)銃、Gew(ゲヴェーア)98のフォルムが作品の文鎮と構える。
桟敷童子フォークロアのアーキタイプを見せつけるかのような作品世界。常連客はいろんな既視感にとらわれる筈。
好きか嫌いかと聞かれたら、大好き。
是非観に行って頂きたい。

デンギョー!
小松台東
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2024/05/31 (金) ~ 2024/06/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
死ぬ程面白い。大傑作だと思う。
セットは庭劇団ペニノの『笑顔の砦』っぽいリアルな作り込み。舞台美術と照明は天才の仕業だ。詰所の窓とアルミサッシの引戸が開かれる度、ふと見える外の光景。まさしく現実世界に続いていく手触り。TRASHMASTERSっぽい人物の偏執的な描き込み。どうしようもなく沈鬱な現実を提示するのかと身構えるが、展開されるのは高度な喜劇。何重にも捻り過ぎて最早哲学的ですらある笑い。平山秀幸監督の『笑う蛙』を観た時のような全く先が読めない不思議な感覚。これ一体どう落とすのか?と思ったら成程!
宮崎県にある宮崎電業。社長が病気で倒れ、社長代理の森が舵を取る。現場を知らない素人の仕切りに電工(電気工事士)達はそっぽを向き、叩き上げの電工から執行部入りした営業部長(瓜生和成氏)は間に挟まれる。更に執行役員として尾方宣久氏が突然の入社。現場主任の五十嵐明氏や松本哲也氏は不信感を募らせる。
太腿のtattooを見せ付ける事務員の平田舞さんはあーりんを思わせるふてぶてしさで貫禄。
しずちゃんとの結婚で注目を集めた佐藤達(とおる)氏は下請け業者を流石の怪演。
いぶし銀の五十嵐明氏は目付きの変化だけで唸らせる。
軽度の知的障害者であろう吉田電話氏も大ハッスル。
電材屋の依田啓嗣(たかし)氏はヴィジュアル系。
MVPは天才・瓜生和成氏。もうこの人にはかなわない。時折ドクター中松にも見える自然な抜けっぷり。凄い技術。時代が時代なら実録ヤクザ映画で引っ張りだこだったろう。
この高度な笑いのテクニック。混ぜ方が巧妙。時折、吹き出すのをこらえる役者達。シリアスな話の中に必ず毒物を混ぜてくる。
こういう作品を観れる幸運。才能が溶岩のように溢れ出している。
是非観に行って頂きたい。

ケエツブロウよ-伊藤野枝ただいま帰省中
劇団青年座
紀伊國屋ホール(東京都)
2024/05/24 (金) ~ 2024/06/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
青年団だと思っていたら、青年座だった。(那須凜さんが青年団だと勘違い)。
カイツブリ(=小型の水鳥)のことを、博多の今宿辺りの訛りではケエツブロウと呼んだ。
主演の伊藤野枝役、那須凜さんがノリノリ。第一幕はいつもの顔芸デフォルメ連発で沸かせる。鬘が右にズレているように見えたが、それがデフォらしい。第二幕だとガラッと変わって美人女優の趣き。きっちり演じ分けて見せた。
大杉栄役は松川真也氏。EXILEのMATSUとか石原夜叉坊系の色気のあるワイルド、女にもてないと大杉栄じゃない。
MVPは作品の軸的に主人公である叔父役の横堀悦夫氏。佐藤慶っぽい魅力たっぷり、この人の視座こそが作品を貫かないと物語にならない。
祖母役の土屋美穂子さんも素晴らしい。役者陣は文句なしの力量。遊び人の父役の綱島郷太郎氏は本田博太郎系で和んだ場を作る。
甘粕事件で28歳で惨殺された伊藤野枝、郷里の博多に帰省する12年間をスケッチ。
劇中、娘の魔子がやたら美しいと称賛されるので調べたら、確かに橋本環奈っぽい美人だった。
最前列に全盲の方が座られてバリアフリー日本語音声ガイドを聴きながら鑑賞。どんなふうに感じれるものなのか?

デカローグ5・6
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2024/05/18 (土) ~ 2024/06/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
C ⑤ 演出:小川絵梨子
『ある殺人に関する物語』
これは『殺人に関する短いフィルム』のタイトルで長尺に再編集されて映画としても公開された。『デカローグ』の中で一番評価の高いエピソード。
孤独な青年(福崎那由他氏)が強盗殺人事件を犯す。被害者となったのは偶然居合わせたカフェで見かけたタクシー運転手(寺十吾氏)。更に死刑制度廃止を訴える、理想に燃える新米弁護士(渋谷謙人氏)も偶然そのカフェに居合わせた。
凄い好きな作品。やはり寺十吾氏が出ているとただのお芝居では済まさないな。性格のひん曲がった嫌なタクシー運転手、でもそこに息をして地に立って暮らしている。女学生を冷やかし、野良犬をからかい、客を嘲笑い、でもたまに子供達に歩行者優先で道を譲ってあげる。「たまには良いこともしとかないと、だろ」。今平の『復讐するは我にあり』なんだよな。生きて在る者をそのままありのままに。肯定も否定もなく、ただそこにあったままを。だからこの嘘話(虚構)が突き刺さる。
C ⑥ 演出:上村聡史
『ある愛に関する物語』
これも同じく『愛に関する短いフィルム』のタイトルで長尺に再編集されて映画として公開。ラストを変えていて好みは分かれる。
郵便局で働く孤独な青年(田中亨氏)は女流画家(仙名彩世さん)のストーカー。アパートの中を望遠鏡で覗き、無言電話を掛け、郵便物を盗む。到頭、それがばれる時が来るのだが。
発達障害っぽくもある田中亨氏がまた好演。
仙名彩世さんは小林麻美風で雰囲気がある。
田中亨氏はシリアに行った友人の家に居候しているのだが、友人の母である名越志保さんが重要な役どころ。
観るのならばこの2作がお薦めだろう。
寺十吾氏、内田健介氏なんか脇を固めているだけで豪華。
是非観に行って頂きたい。

団地ング・ヒーロー
コケズンバ
サンモールスタジオ(東京都)
2024/05/21 (火) ~ 2024/05/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」、略して「コケズンバ」。「東京AZARASHI団」内のおっさん4人組ユニット的な立ち位置で旗揚げ初日。脚本・演出の穴吹一朗氏、声優としても活躍中の魚建氏、怪異物蒐集家でもある渡辺シヴヲ氏、この中じゃ若手の迫田圭司氏。
これが前説の穴吹一朗氏の謝罪から幕を開ける。理由はぼかしたが渡辺シヴヲ氏が今日は出演出来ず、急遽代役として飯島タク氏が演ることに。前日要請を受けた飯島タク氏はスマホで台本をチラ見しながらこの修羅場を力技でこなす。小泉純一郎だったなら「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!おめでとう!」と言うところ。役者それぞれ複雑な心境だったろうが、公演は素晴らしいものになった。
MVPは横山胡桃さん。今井未定さんっぽくもあり、今作の重要な役どころ。北原芽依さんとの互いに涙の修羅場シーンは必見。
北原芽依さんはヴィジュアル・クイーンの風格。大塚寧々を彷彿とさせる透明感と坂道にいそうな華。複雑な内面の辛い役を見事に演じ切った。
勿論、空みれいさんも素晴らしかった。
主演の魚建氏はそこにいるだけで味がある。服を着替えるだけのシーンで間が持つ力。
『オールド・ボーイ』の骨格に『アンブレイカブル』のスパイス。
変身出来なくなったスーパー・ヒーロー、「スーパー・グレート・フラッシュ」(魚建氏)は60を過ぎ、団地の管理人をしている。その団地に引っ越して来た女(横山胡桃さん)には果たさねばならぬ目的があった。
テイストはおっさん喜劇なのだが、シリアス・パートがかなり深い。クライマックスの女優3人の遣り取りは客席を唸らせる。
是非観に行って頂きたい。

親の顔が見たい
diamond-Z
日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)
2024/05/16 (木) ~ 2024/05/18 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
由緒ある私立のカトリック系女子中学校。まあ中高大一貫校なのだろう。早朝、中2の女子生徒が教室で首を吊っている。見つけた担任女教師(黒田玲子さん)が蘇生措置を行なうが間に合わず。彼女宛の遺書が遺されており、中には虐めの告発があった。5人の名前。
放課後、5人の保護者が学校に呼び出される。この事件をどう処理するものか、教師と保護者の緊急会議。
想像通りの気の滅入る話。梶原一騎ならば『人間の性、その実、悪なり!』と断じたであろう。何の救いもない。ただ虐められて惨めに自殺した娘が一人いただけのよくある話。ただ、そこに追いやった者の一人が自分の子供だった。
長崎りえさんと宮下正伸氏のヒール合戦なんか見どころあった。理論武装した屑みたいな言論。
広い会場にした為、客席はガラガラに見える。勿体無い。良い戯曲なので時間あれば一度は観るべき。

『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』
青年団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2024/05/08 (水) ~ 2024/05/15 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『阿房列車』
1991年初演、『思い出せない夢のいくつか』(1994年初演)と同じ会話があったがこっちが先だった。オチのない話を皆で回す『すべらなくもない話』。何か落語っぽいよね。主演の中藤奨(なかとうしょう)氏の喋り方が太田光みたいで、笑いのない漫談を聴いている感じ。掛けっ放しの深夜ラジオを何となく聴いているような。
奥さん役のたむらみずほさんが流石だった。会話の何気ない一言に急に大声を上げてブチ切れるツッコミが客席を沸かす。
何気なく席についた田崎小春さんは話好きの夫婦に延々と捕まってしまう災難。

『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』
青年団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2024/05/08 (水) ~ 2024/05/15 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『思い出せない夢のいくつか』
どさ回りの落ち目の歌手(兵藤公美さん)が列車に乗っての地方巡業。かつては一斉を風靡したこともあり、それに憧れた歌手志望の少女が今は付き人(南風盛〈はえもり〉もえさん)に。長い付き合いの裏も表も知るベテラン・マネージャー(大竹直〈ただし〉氏)。
兵藤公美さんは室井滋っぽい。会話の雰囲気が小林幸子を思わせる。結婚離婚のエピソードは大原麗子を連想。カンパニーデラシネラ、『気配』で主人公の奥さん役だった。
舞台美術が凄い出来。撒かれた白と灰色の砂利、敷かれた線路、昭和初期の木製の客車。車輪に見立てたバーベルが前後に転がっている。星座早見盤を取り出す南風盛もえさん。三人は蜜柑や林檎を食べながら窓の外の星を探す。煙草を吸いに行ったりジュースを買いに行ったり。