
ムーミン谷の夏まつり
日生劇場
日生劇場(東京都)
2024/08/03 (土) ~ 2024/08/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
全てちっちゃな動物は尻尾にリボンを着けなくちゃ!
そうリボンをね、尻尾にさ!
スナフキンの吹くこのハーモニカの歌の詩だけで感性がずば抜けていることがよく分かる。原作者トーベ・ヤンソンのこのセンス。
子供の頃、アニメ(多分1972年版)に夢中だった訳だが、原作も少し読んだ記憶がある。アニメと全然違っていて驚いた。何か妙に深層心理に引っ掛かってくる世界。日本だと『冒険コロボックル』や『ゲゲゲの鬼太郎』になるのか。幼年期の虚構世界の記憶は永らく人間に影響力を持つのだろう。
原作は『ムーミン谷の夏まつり』。火山が噴火して大洪水が起こり、ムーミン谷は水没してしまう。一家と仲間達はムーミン屋敷が水没する前に流れて来た化け物屋敷に移り住む。
人形劇団ひとみ座、出遣いにて上演。人形美術は勿論小川ちひろさん、看板女優の松本美里さんはちびのミイ役。
ムーミン人形を持っている子供達が多くて嬉しい気分。上演後の客席へのサーヴィスは皆大喜び。

らんぼうものめ
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2024/07/20 (土) ~ 2024/07/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
一度だけモーニング娘。を観に行った事があり、それが2015年12月の日本武道館、絶対的エース鞘師里保卒業ツアーだった。それ以来となる鞘師里保さん。やはり人気は健在で、客席は鞘師ファン達の歓談会。何回観に来たとかの会話に流石の集客力を感じた。女性ファンの心をガッチリ掴んでいるのが強い。
タイトルから昔観た『あの子と遊んじゃいけません』みたいな感じを想像していたら全く違った。
異形の者達が神として登場する。
モコモコした埃取りのモップみたいな色取り取りの奴等が天井から吊り下げられた顔のある太陽を捕まえる。その手足を引き千切ってバラバラにするオープニング。神様達と神様の神として君臨する江川(近藤隼氏)。
野菜の神様、大月(秋元龍太朗氏)は食べると何でも望んだものを産み落とせる野菜を持っている。無数に生えた大根をぶら下げた姿は宇宙怪獣バイラスやイカデビルを彷彿とさせる。
虫の神様、守屋(中山求一郎氏)はネットでの目撃談で広まったシシノケを思わせる姿。多足類のように地を這う。
守屋が分身として産み落とした要(かなめ)〈高田静流さん〉はノミやミジンコ、サナギマン、『ベルセルク』の幼魔(異形の胎児)のイメージでカッコイイ。
主人公、8歳の鞘師里保さんは癇癪を起こして地団駄を踏むムーヴがまさに生粋のダンサー。
お母さん、掃除機を掛ける安藤聖さんは可愛らしい。
お父さん、金子岳憲氏はコピーとして異界に呼び出される。その姿が泥で捏ねくり回したレザーフェイスで今作のMVP。一番良かった。
神社の木材が重量感のある軽量のバルサ材を使用しており、いろんな場面に活躍。
逃げ出してバラバラにされた太陽の神の身代わりとしてさらわれてしまったお母さん。主人公はお母さんを救い出す為、太陽の神のパーツを集める旅に出ることに。

日曜日のクジラ
ももちの世界
雑遊(東京都)
2024/07/25 (木) ~ 2024/07/30 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
シルエットを使って影絵調に演出するプロローグが雰囲気を出す。激しい雨が打ち付ける中、ハンドルを握って車を走らせる。ある男がこの町にある目的をもって向かっている。その男が誰なのか、目的が何なのかが作品の主題となる。
物語が綴られる場所は映画のポスターやらフィギュアやらが賑やかに飾ってある地方のモーテルのラウンジ。『サイコ』や『猿の惑星』なのは何かの伏線だろうか?
三井田明日香さんはチンピラ役のステレオタイプを元気よく演じた。
二瓶正也似の内田健介氏の出演を知らず、いきなりの大物役者の登場にびっくりした。
鈴木美緒さん、谷川清夏(きよか)さんも雰囲気がある。
喜田裕也氏は高畑裕太の不穏な雰囲気を感じさせた。
青海(あおみ)衣央里さんから見えるこの世界は一体どんなものなのだろうか?
ずっと波の音、雨の音。

ラフヘスト~残されたもの
ミュージカル『ミュージカル~残されたもの』製作委員会
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2024/07/18 (木) ~ 2024/07/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
人は去っても芸術は残る
Les gens partent mais l’art reste
日本の植民地時代に生まれた韓国の中原中也的な詩人、イ・サン。韓国語で「異常」とも「理想」とも音読み出来る為、このペンネームにしたらしい。1934年、彼が韓国の新聞に連載した『烏瞰図』は難解でシュールレアリスム的で抗議が殺到し打ち切りとなった。ただ横光利一や安部公房っぽく暗号めいていて強烈な印象が残る。ピョン・トンリムと4ヶ月だけの結婚生活。東京に一人旅立ったイ・サンは7ヶ月後、1937年肺結核で逝去、享年26歳。
数年前観た、彼を主人公にした韓国ミュージカル『SMOKE』で興味を持った。韓国人は詩への評価が高く、日本でいう文学の位置を占めているそうだ。当時気になって『空と風と星の詩人~尹東柱(ユン・ドンジュ)の生涯~』までチェックした。
2004年2月29日、キム・ヒャンアン(ソニンさん)88歳は生涯を終えようとしている。手帳をめくって自分の人生を思い返す。
二十歳の時(1936年)、詩人イ・サン(相葉裕樹氏)と楽浪(らくろう)パーラーで出逢ったピョン・トンリム(山口乃々華さん)。防風林を歩きながら詩について語り合う毎日。理解されない天才詩人を励ます。
「凡人の言う事なんか相手にしないで」
まるで三点リーダーのような気持ち。
「一緒に死んでくれませんか」
2つの時系列が交差する物語の面白さ。イ・サンとピョン・トンリムは戦前から順行。キム・ファンギとキム・ヒャンアンは現代から逆行。戦前と戦後、この2組のカップルが重なる時間軸。ソニンさんは最高。理想的ミュージカル女優。
生演奏のピアノ(落合崇史氏)とヴァイオリン(廣田碧さんと森麻祐子さん)も素晴らしい。
貴方の感嘆符を信じて!

『口車ダブルス』
劇団フルタ丸
小劇場B1(東京都)
2024/07/10 (水) ~ 2024/07/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
劇団俳小の『ゴールデン・エイジ』が急遽公演中止。折角なのでこちらに伺った。
脚本が抜群。頭一つ図抜けている。一人ひとりの人間の魅力を余す所なく書き連ねている。ちょっと単調な展開もあったが、「悪そうな奴とは大体契約」の笑いで帳消し。
二つの可動式の高座、二つの釈台、各々に張り扇(おうぎ)と扇子。釈台に叩き付ける張り扇がリズムとなり客席を煽る。シーンによって演者が二人一組で高座を色々な角度に移動していき、その都度舞台デザインのフォルムが変わる。
二人の講談師(真帆さんと篠原友紀さん)が語り始めるのは生命保険会社「第三生命」の人間模様。突如、外部から営業部長として送り込まれた二人。徹底してデータと数字で理詰めの管理をする真帆さん。一見ド素人ながら人の好さでフォローする篠原友紀さん。二人は部長でありつつ、講談の中で様々な役に化けていく。
成績No.1で叩き上げの大勝かおりさんは自分が部長に選ばれなかったことに少々不満顔。
にしやま由きひろ氏は多趣味で、変わった石を拾う楽しみを覚えた。
優秀なキザ野郎、松尾英太郎氏の決め台詞「夢を見てしまえよ!」は最高。
幼稚舎からの慶應ボーイのキタラタカシ氏は刺激に飢えている。
色恋営業で契約を取りまくる神咲妃奈(ひな)さん。
新卒の涼田麗乃さんの教育係に大野朱美さんが命じられる。大野朱美さんは落語家を目指していた時期があり、今でもそれを引きずっている。
セールスマンの営業心理学テクニックが炸裂する。
ラポール(信頼関係)形成、ミラーリング(相手に合わせる)、ペーシング(自身を調節する)、などなど。
神咲妃奈さんは板野友美のアヒル口に多部未華子の目力みたいな美人。こういう女に男はことごとく騙される。それはDNAに刻印された本能で、そう創った造物主が悪い。ホストに騙されて立ちん坊をしている女達も同様。自分の意思を超えたところで惹き付けられてしまうのだからお手上げだ。
大勝かおりさんはナンノっぽい。
にしやま由きひろ氏は渡辺いっけい似。
作・演出を兼ねるフルタジュン氏はタカアンドトシのタカとFUJIWARAの原西を足したような味。
あやめ十八番を観ている時の感覚に近い。
講談師の篠原友紀さんが他の人の熱演を真剣に見ていて、うんうん頷いたり笑いを必死にこらえたりする様がこの劇団の強みだろう。嘘偽りなく演者が本当に面白いと思って演っている。理想的空間。才能が溢れ返っている。

流れんな
iaku
ザ・スズナリ(東京都)
2024/07/11 (木) ~ 2024/07/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ここ最近ずっと陰陰滅滅たる日々で、天野天街氏も逝去とは···。ここらで流れを変えようと横山拓也氏の公演に足を運んでみたところ···。
舞台は全篇広島弁、小さな漁港にある定食屋。お品書きを見ていると滅茶苦茶安い。架空の帆立に似た貝、ガッピギ料理のメニューが並べられていて何を注文するか計算しながら観ていた。この値段なら一通り頼んでみたい。
プロローグ、中一の娘がトイレで鼾をかく母親に声をかけている。何度呼んでも母親は目覚めない。醜い鼾をフゴーフゴー鳴らすだけ。まだ赤ん坊の妹が泣き出した。何度も繰り返し見てきたそんな遠い記憶の光景。
父と共に定食屋を切り盛りしてきた異儀田夏葉さんももう40目前。未婚のまま、ここまで来てしまった。貝毒(人体に中毒症状を起こす毒素を蓄積した貝)の発生で採貝業は出荷停止中。幼馴染みの漁師・今村裕次郎氏は彼女の面倒を見るのは自分しかいないと思っている。町の経済を支えるのは水産加工業の大手企業。役場と連携して町興しの為、特産品のガッピギを使った料理のメニューを集めている近藤フク氏。異儀田夏葉さんの、町を出た妹(宮地綾さん)が婚約者(松尾敢太郎氏)と共に顔を見せる。それは隠し続けてきた全ての本音が白日の下に曝される日だった。
異儀田夏葉さんが痩せたのか女の色香を漂わせて美しい。一人の女の抱えた半生の傷がまるで晒し者にされるように痛み出す。
是非観に行って頂きたい。

神話、夜の果ての
serial number(風琴工房改め)
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2024/07/05 (金) ~ 2024/07/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開演前、舞台上空のピンスポットライトが球状歯車のように幾何学的に回転している。ピカッと一点だけを照らすリズムが催眠効果を生む。
とある兇悪な事件を犯した被疑者(坂本慶介氏)が拘置所に鑑定留置されている。国選弁護人(田中亨氏)は心神喪失の為、責任能力なしのラインで弁護しようと面会を希望する。担当している精神科医(廣川三憲氏)はそれに難色を示す。被疑者はずっと夢の中を彷徨っていた。
僕は三日に一度、母を殺す。
僕は三日に一度、母を犯す。
僕は三日に一度、母から産み落とされる。
10歳の時、母親に連れられて遠い田舎の山奥にある教団施設まで延々と歩いたあの日の記憶。
オウム真理教や統一教会、カルト教団の絡んだ様々な事件を連想させる。村上龍が一気に書き殴ったような筆遣い。流れる旋律は『コインロッカー・ベイビーズ』っぽい。
紅一点、川島鈴遥(りりか)さんはベッキー的明るさと壇蜜系の憂いのある整った顔立ちで場を彩る。

逃奔政走
フジテレビジョン
三越劇場(東京都)
2024/07/05 (金) ~ 2024/07/16 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鈴木保奈美さんは綺麗だな。遠くからでも立ち姿が神々しい。こういう作品に向いていると思う。
NPO団体代表からニュースのコメンテーターに、人気を見込まれ県知事選に担ぎ上げられた鈴木保奈美さん。教育無償化、待機児童問題早期解消、介護離職ゼロを掲げ、しがらみのないクリーンな政治を標榜。見事当選。
2期目の選挙を来年に控え、出馬予定の県議会議員・寺西拓人氏が執拗に知事の公費私物化疑惑を追求する。のらりくらりと躱す鈴木保奈美さんだったが実はそれには言うに言われぬ理由があった。
副知事の相島一之氏が手堅い。名助演。
県議会を束ねる顔役、闘魂マフラーの佐藤B作氏は流石。
寺西拓人氏のキザでナルシシスティックなポーズは会場大受け、一番の笑いを取った。ウーマンラッシュアワーの村本大輔っぽい。
娘の婚約者で検事の斉藤コータ氏もいいキャラ。
是非観に行って頂きたい。

【延期公演開催】エアスイミング
演劇企画イロトリドリノハナ
小劇場B1(東京都)
2024/07/04 (木) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
いろいろと手を加えてサーヴィスしている。戯曲の判り辛い点にメスを入れて。森下知香さんの幼い笑みなんかにゾクッときた。背景の壁に埋め込まれたBOXが色とりどりに光ってそこからアイテムが現れるアイディアは面白い。現実の二人と虚構化した二人を背景含め世界丸ごと変えた方が良かったかも。ただのカツラの遣り取りになってしまった。

デカローグ7~10
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2024/06/22 (土) ~ 2024/07/15 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
E ⑩⑨ 演出:小川絵梨子
⑩「ある希望に関する物語」
⑧に出て来た切手コレクターの男が亡くなっている。彼の子供である兄(石母田史朗氏)とパンク・バンド(?)のヴォーカルをやっている弟(竪山隼太氏)が遺品を整理する。
弟は何故かGuns N' Rosesの1991年発売『Use Your Illusion』Tシャツ。歌の内容はデス・メタルっぽい。彼の音楽性に疑問符。
父親のコレクションの価値など全く判らなかったが、実は国内有数のマニアで世界的にも知られた存在。とんでもない莫大な資産であることを知って二人の目の色が変わる。
MVPはドーベルマンのセシルちゃん(湘南動物プロダクション)。可愛い。動物と子供を出しておけば皆優しい気持ちになれる。
凄くポップな話で観客受けが良い作品。
⑨「ある孤独に関する物語」
性的不能の為、性行為はもう一生出来ないと診断された外科医(伊達暁氏)。それを妻(万里紗さん)に告げると「離婚はしない。SEXなしでも夫婦として暮らしていきましょう。」との温かい言葉。だがその裏で若い大学生(宮崎秋人〈しゅうと〉氏)と不倫を重ねていることを外科医は知ってしまう。
伊達暁氏天性の喜劇調の明るさ。堺正章や柴田恭平に通ずるこのキャラがコメディーリリーフとして機能し、陰陰滅滅たる物語を軽やかに奏でてくれる。自転車のシーンが爽快。
心臓の手術を受ける声楽家志望の少女(笠井日向さん)のエピソードが印象的。
面白かった。
是非観に行って頂きたい。

ANGERSWING
劇団Q+
駅前劇場(東京都)
2024/07/03 (水) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
WINGチーム
オープニングは柳本璃音さんが袖に立ち、ギター片手に一曲。家族の紹介から入る。幕に映像を投影して映画+演劇の趣き。その幕が開くと広がるのは本気の舞台美術。アメリカかイギリスか、外国の屋敷の居間と庭が眼前に見事に広がる。
屋敷の主人が亡くなった。家を出たアレルギー過敏症の長男(中西良介氏)は会社を経営していて忙しい。実家に暮らす長女(はらみかさん)は出版会社に勤めている。家を出た次男(林新太氏)は船乗りになって遠くへ。連絡を絶っている末っ子の次女(柳本璃音さん)は高校を中退してシンガー・ソングライターとして奮闘中。知らせを受けた家族が久し振りに集う。そこに数十年振りに姿を現したのは家族を捨てて家を出た大女優の母親(佐乃美千子さん)だった。
大女優役の佐乃美千子さんが美しい。岸恵子と阿川佐和子を足したような美人。この役は井上薫さんにもやってみて貰いたい。世間知らずの常識のない女を装いながら、実は誰にも言えない苦しみを抱えてきた。
そして葬儀屋の今井勝法氏。作品を喰ってしまう強さ。『ヨコハマ・ヤタロウ』シリーズで圧倒的な主演振りを見せつけた化物。コメディーリリーフじゃ勿体無い。こっちのストーリーもSWINGさせるべき。
くしゃみばかりの中西良介氏の奥さんに佳乃香澄さん。おっとりとした天然。
はらみかさんの旦那に布施勇弥氏。堺雅人っぽい。
林新太氏の恋人に北澤小夜子さん。ネイティヴ・アメリカン衣装。
亡くなった主人役の益田恭平氏は星野源っぽい。
物語のキーとなる森本遼氏は朝倉海っぽい。
オーディションで選んだだけあって、配役が見事。女優陣に華がある。演出家は役者一人ひとりのキャラを見事に引き出している。
タイトルの意味は『怒りの揺れ』、もしくは『怒りの翼』。母親に黙って棄てられた怨みと価値観の違いからどうしても判り合えない兄妹の怒りと苛立ち。
是非観に行って頂きたい。

デカローグ7~10
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2024/06/22 (土) ~ 2024/07/15 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
D ⑦⑧ 演出:上村聡史
⑦「ある告白に関する物語」
夜中にうなされている小さな娘(三井絢月ちゃん)。それを見ながら何もしてやれずまごまごする姉(吉田美月喜さん)。やって来た母親(津田真澄さん)が娘を抱きしめて、姉を叱り付ける。「ほら、あんたは何も出来ないんだから!」娘に「また狼の夢を見たのね。ほら狼なんていやしないのよ。」とあやす。
その後、姉はふと母親に訊く。「何で狼だと思ったの?」母親は何も答えない。
数日後、姉は妹を連れ去ってしまう。
娘役の三井絢月(あづき)ちゃん7歳がMVP。一流。彼女一人の誕生で関係者全員の人生が良くも悪くも振り回されていく。本人は我関せず真っ直ぐな瞳でこの世界を見つめ続ける。純粋なものこそがこの世界の中心であるべき、という思想。
⑧「ある過去に関する物語」
倫理学の大学教授(高田聖子さん)、彼女の全著作を英訳しているアメリカの大学教員(岡本玲さん)が来訪。彼女の授業を聴講することに。一人の学生が②のエピソードを提議する。不倫で妊娠した妻、闘病中の夫が死ぬのなら産むし、快癒するのなら堕ろすと。医師は生まれてくる子供の生命こそ大切だと考えて「夫は死ぬ」と嘘をつく。大学教授がこの話に対して「子供の生命こそが一番に優先されるべきだ。」と講評したことで、岡本玲さんに火が点く。手を挙げて彼女が語り出した課題は、1943年ナチス占領下のポーランド、6歳のユダヤ人少女のエピソードだった。
オープニングがカッコイイ。壁越しに罪を刻印された男の影。
岡本玲さんとは判らなかった。ちょっと配役的に若すぎる気も。
MVPは高田聖子さんだろう。何かリアリティーがある。良くも悪くも人間は生活し続けなくてはならない。頭の中で生きている訳ではない。何を考えていようと動物として生き続けなければならない。思想を抱えた動物のリアリティー。
素晴らしい作品だと思う。キェシロフスキ抜きで立派に成立する舞台だった。
是非観に行って頂きたい。

生活と革命 vol.2
マチルダアパルトマン
イズモギャラリー(東京都)
2024/06/26 (水) ~ 2024/07/03 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
何かぼんやりとしてしまう。毎日の生活を繰り返すだけの日々に底知れぬ不安と無力感、そして虚しさ。暗い穴をじっと覗き込んでいるようだ。
小久音さんはコリー・フェルドマン系の顔。

地の面
JACROW
新宿シアタートップス(東京都)
2024/06/14 (金) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
誰もケチをつけられない位に面白い。悔しい程の傑作。
2017年6月に起きた『積水ハウス地面師詐欺事件』を舞台化。55億5900万円を騙し取り、史上最大の地面師事件と呼ばれたもの。その後10人逮捕、主犯格は懲役11年の判決。
タランティーノ&ロバート・ロドリゲス作品っぽいスタイリッシュなノリ。井上ひさしの『日本人のへそ』オマージュ的なギャグもあり、作家も劇団も絶好調。実話故にか余りにも面白い脚本。マーティン・スコセッシ風味で映画化して欲しい。日本で作ると伊丹十三系か高田宏治脚本の東映系になりそうだが。
9人の俳優陣が軽快なステップを踏んでノリノリにツイストを踊る。「自信を持て!自信がないと踊れないぞ!」椅子取りゲームのようなオープニング。
主人公・小平伸一郎氏の鳥好きの設定がまた効いている。『君たちはどう生きるか』の青サギオマージュ。山崎の25年物とか台詞の発想、展開が巧妙。犯人グループは登場させず、いる体で応対するのみ。積水ハウスの人間関係に狙い定めた焦点がズバリ当たった。要点を絞ったタイトな脚本と踊り明かす余白のある演出。実録モノの御手本とはこういう作品のことだ。悩める脚本家監督連中は教えを請いに今作を詣でるべき。好き放題やってやがる。それでいてこのクオリティー。
役者は全員本物。後に伝説になるのではないか?
ゴルフシミュレーターに夢中な会長役・佃典彦氏は宝田明っぽい軽妙なソロ・ダンサー。
取締役入りを狙う星野卓誠(たかのぶ)氏は中村勘九郎、東野幸治系の顔立ち。
MVPは社長役の谷仲(やなか)恵輔氏。前作の中曽根康弘役のインパクトが強過ぎるが、萩原流行風味の怪演。ノリノリのステップに四股を踏む。あとは運さえあればメチャクチャ売れること請け合いの実力。
テーマは『組織と自分』。結局、肝心なのは自分は何を大事に思って生きていくのか?ということ。中島みゆきも歌っている。「お前が消えて喜ぶ者にお前のオールを任せるな!」
裏切られたと泣きべそかく前に気付け。裏切られても許せる人間にしか付いて行くな。ただそれだけの話だ。
本物を観たければ見逃すな。

野がも
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2024/06/07 (金) ~ 2024/06/21 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ヘンリック・イプセン、19世紀ノルウェーの劇作家。「近代演劇の父」と呼ばれたのはモラルや道徳的予定調和(所謂ビルドゥングスロマン〈教養物語〉)を無視し、現実に即したリアルな作劇を呈示したから。作家の意図が論議される作品の走り。何となく知っているような気がしていたが、多分初めて観た。
俳優座は2月の『スターリン』がつまらなくて足が遠のいていた。(自分の理解力にも問題があったようなので違う形でもう一度観てみたい気はするが)。
演出も俳優も最高の水準。
地元の名士、財を築いた実業家ホーコン・ヴェルレ(加藤佳男氏)の屋敷での晩餐会。小さな写真館を営むヤルマール・エクダル(斉藤淳氏)は一人場違いな場に招待されている。山の工場から16年振りに町に帰って来た息子グレーゲルス・ヴェルレ(志村史人氏)が友人として招待したのだ。グレーゲルスはヤルマールからいろいろと近況を聞いていく内にある疑念が生まれる。父は妊娠させた使用人ギーナ(清水直子さん)をヤルマールに押し付けたのではないか?更にヤルマールの父、エクダル元中尉(塩山誠司氏)はかつてヴェルレの事業の共同経営者だったが、国有林伐採の罪を一人被らされて投獄、出所後は酒浸りの廃人となってしまった。理想家グレーゲルスは唾棄すべき父に訣別を告げ、屋敷を出て行く。彼が向かう先はヤルマールの家。嘘と欺瞞に満ちた暮らしに正義の光を照らし、真実の生へと人々を導いてゆく事こそが己に課せられた使命だと信じていた。
凄くよく出来た喜劇。
劇団エース格の斉藤淳(あつし)氏は今作では若々しくオリラジ中田に見えた。終盤頬張るサンドウィッチがやたら美味そう。
加藤佳男氏は政界の大物風味。突っ立ってるだけで金が取れる。児玉誉士夫なんか演って貰いたい。
釜木美緒さんは29歳!マジで子役だと思っていた。
こんな古典を易々とこなす老舗プロ劇団の強み。古今東西、世界中のどんな戯曲でも美味しく調理してやんよ。
流石に面白かった。

水彩画
劇団普通
すみだパークギャラリーささや(東京都)
2024/06/17 (月) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
茨城のオシャレなカフェ。用松亮氏と坂倉なつこさんの老夫婦、隣でその娘の安川まりさんと浅井浩介氏の夫婦がコーヒーを飲んでいる。
用松亮氏の会社時代の同僚、定年退職仲間のハナワ氏の油絵展覧会を見に行った帰り。
外にはオープンテラスが見え、店内の鉢には蓮とメダカのビオトープが置かれている。
もう一つのテーブルには結婚前の同棲中のカップル、伊島空(くう)氏と青柳美希さん。高校時代からの親友のカズ君が就職先の教師を辞めて黙って東京に出て行ってしまった。今では杉並区でNPO法人関係の仕事をしているそうだ。カズ君から来たメールの中にこの店のことがあり、コストコ帰りに寄ってみることにした。
浅井浩介氏は若い頃の前田吟っぽい。
伊島空氏は若い頃の原田大二郎っぽい。
高度に練り込まれたコメディ。聞く気もないのに流れてくる他人の会話、それがぼんやりと耳に入るカフェにいる。集まった観客は未知なるジャンルに興奮しているようだ。
『ドキュメンタル』のような空気感。笑ってはいけない状況で延々と繰り広げられる日常会話。カズ君の話をまた蒸し返すカップル。いやカズ君、そもそも俺知らねえから。もうその話はいいよ。
個人的にもの凄く憂鬱な出来事があったのだが今作の雰囲気がいい気分転換になった。
是非観に行って頂きたい。

純文学のススメ
シニア演劇ネットワーク
劇場MOMO(東京都)
2024/06/12 (水) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
B
太宰治の『黄金風景』が大好きで、朗読劇ではなく上演するとのことで観に行った。だがちょっとこの作品を軽んじているようなブリッジ的扱い。いや『黄金風景』こそが太宰治文学の入口、全く小説なんか読まない層に扉を開く作品。もっと大事に扱って練り込めばいろんな可能性を刺激した筈。
基本は台本片手の朗読劇。バリアフリー字幕として台本がバックに全部投影される仕様。何人かのキャラだけが何も持たずに演じていた。特質すべきは選曲。クラシックの名曲が挿入されるのだが、驚く程センスが良い。大衆的でありつつ的を得ている。かなり詳しい人がやったのではないか。
①芥川龍之介『少年』1924年
関東大震災後の復興中の東京、満員バスに揺られる男、堀川保吉(やすきち)。所謂「保吉もの」と呼ばれる芥川龍之介の自叙伝的色合いの濃い私小説シリーズの一篇。
クリスマスの日、フランス人の宣教師(高田幸子さん)と少女(石田さよこさん)のあどけない遣り取りをバスで見た主人公(栗山寿恵子さん)。銀座のカフェ(現在のバー)で二十年以上前の子供時代(tommyさん)の追想に耽る。六篇のオムニバス。
女中のつうや(石田さよこさん)から受けた教訓。
風呂を出る父親(柴田恵子さん)の後ろ姿から感じた死のイメージ。
初めて見た海の色。
幻灯機に映し出されたヴェネチアの街並、窓から顔を出した少女の幻影。
両国の「本所回向院」での戦争ごっこ。「やあい、“お母さん”って泣いてやがる!」
大森海岸で初めて見た海の色が代赭色(たいしゃいろ)=やや明るい茶色=煉瓦のような色。
②太宰治『黄金風景』1939年
太宰治(深沢誠氏)が幼少期(秋津今日子さん)に女中のお慶(柴田恵子さん)を虐めていた回想。落ちぶれて窮迫した今、彼女達一家が訪ねて来るのだが。
③太宰治『貨幣』1946年
百円紙幣(片岡つぼみさん)が戦前戦中幾多の人々の財布を行き来し流転した回顧録を自叙伝風に綴る。傲慢な陸軍大尉(深沢誠氏)の相手をする身を持ち崩した酌婦(栗山寿恵子さん)のエピソードがメイン。酌婦は乳飲み子を育てている。この世にほとほとうんざりしていた百円紙幣が幸福を実感する夜明け。

火の方舟
名取事務所
小劇場B1(東京都)
2024/06/14 (金) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
また凄え作品、ぶち込みやがったな。
舞台美術はまるで廃墟。被災地のような不穏な雰囲気。狙いは『イノセント・ピープル』と同じものを想起させる。散乱した家財道具と普通の生活空間が共存して見えるバランス。
物語は2011年3月10日、東京都目黒区柿の木坂にある原子力委員会関連財団の理事長(山口眞司氏)の家。元大学教授で経済産業省にも顔が効くこの世界の大立物だ。長崎で胎内被爆者として生を受けた。
その妻(山本郁子さん)は広島で被爆した大学教授の娘。山口氏は入婿としてこの家に入った。
広島で新聞記者をやっている娘(大谷優衣さん)が東京に取材がてら久し振りに顔を見せている。
娘は家族と何十年も音信不通だった叔父(田代隆秀氏)に偶然沖縄で会ったことを知らせる。彼はその地で反骨のジャーナリストとして評価を受けていた。
翌日に何が起こるのかは日本人なら誰でも知っている。テーマは『原子力』。被爆者として生まれた男が何故原子力推進の旗手となったのか?世界で唯一原爆による被害を受けた日本が、何故こんなにも原発大国となったのか?
大谷優衣さんをルックスから勝手に元アイドルだと思い、かなりの長台詞をよくモノにしたなと感心していた。普通に演劇集団円所属の女優だった。
田代隆秀氏はもろそっち方面の活動家。討論慣れしていて話のキャパがデカい。
山本郁子さんは後半、シェイクスピア劇のようにガラリと変貌して女になる。鳥肌が立つ。
MVPは無論、山口眞司氏。終盤の独白は妖気が漂い戦慄が走る。黒澤明なら『生きものの記録』とか『悪い奴ほどよく眠る』の三船敏郎。全ての積み重ねはこの為に用意されていたものだった。
観る人によって賛否両論だと思う。自分は断然支持。ああすればこうすればは多々あるが、ラディカルで良い。バランス感覚を持って平均的に支持される作品なんかどうでもいい。選挙運動じゃないんだから。一部に熱狂的に受けてあとは黙殺でいいよ。その代わりその一部をガチガチに滅多刺しにしてくれ。今作はそんな作品だった。

青い!大劇場結婚式(小劇場 楽園)
藤原たまえプロデュース
小劇場 楽園(東京都)
2024/06/06 (木) ~ 2024/06/16 (日)公演終了

青い!大劇場結婚式(「劇」小劇場)
藤原たまえプロデュース
「劇」小劇場(東京都)
2024/06/06 (木) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
何となく凄くハイテンションだがつまらない大騒ぎを予想していたらかなり面白かった。
「劇」小劇場で結婚式を行う熟年カップル。理由はそこが二人の出会いの場だったからだ。しかもその模様を生配信するという。自分でも小劇団を主催している新婦(高乃麗〈うらら〉さん)はブライダル会社の演出に駄目出しをし、いろんな突飛な思い付きを入れていく。現場責任者(ジョニー高山氏)とプランナー(阿達由香さん)は引きつった苦笑いで対応。控室として用意されたのは道を挟んだ向かいの地下にある小劇場「楽園」。土建屋社長の新郎(橋倉靖彦氏)がなかなかやって来ないことに腹を立てた新婦は「楽園」へと呼びに行く。次々にありとあらゆるトラブルが降り掛かる地獄の現場、果たして何とか結婚式を遂行することが出来るのか?
面白いのは新郎新婦のキャラ。見事に配役に成功している。高乃麗さんの迸るエネルギーが作品のエンジン。
橋倉靖彦氏の佇まいと口下手で朴訥なキャラもいい。
東京AZARASHI団以来の観劇となる阿達由香さん。流石に腕は衰えていない。こういう喜劇には欠かせない知的な笑いのキャラクター。
沖縄出身の双子ダンサー、JURI&JUNAさんも好演。
伝説の興行師、ウィリアム・キャッスルを思い起こすギミック興行。ウィリアム・キャッスルは下らないB級ホラー映画にギミックを施して観客を呼び込んだ映画プロデューサー。「ショック死保険」、クライマックスでワイヤーに吊られ映画館を飛び回る骸骨の模型、魔法のコインを配る、幾つかの座席に電流を流す、恐怖で退場すれば返金するが臆病者コーナーで晒される、幽霊が見えるセロファン眼鏡、悪役の最期を観客投票で決める、危険の為映画館に看護婦が待機・・・などなど。まさに見世物小屋の呼び込み口上。観に行ってガッカリするのだがそれもまた良いものだ。
今回はキャスト15名に観客19人のほぼ互角の戦いだった。
是非観に行って頂きたい。