ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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掃除機

掃除機

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2023/03/04 (土) ~ 2023/03/22 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第十二回東京国際映画祭、『ツイン・フォールズ・アイダホ』を観に行ったつもりが間違えて、レトロスペクティヴ:ロベール・ブレッソン『ラルジャン』の上映館に入ってしまった。時間通りに来た筈がもう始まっているし、渋々途中から観劇。シャム双生児と娼婦の愉快なラブストーリーを観に来た筈が、スクリーンに映し出されるのはトルストイ原作のひたすら陰鬱な物語、最後は一家皆殺し。「どうもおかしいな」とずっと思っていたがまさかの“シネマトグラフ”。
このように本来観る筈のないものとの偶然の邂逅は人生には得てしてあるもの。その化学反応を期待して場違いなチケットを敢えて購入することも。
チェルフィッチュなんて全く知らないが、何か人の話を聞くと糞つまらない批評家向けのイメージ。全く期待しないで観た。

開幕は掃除機の自己紹介から始まる。これは筒井康隆の『虚航船団』だろうし、それに影響を受けた糸井重里の『家族解散』だろう。(無機物の述懐的なものが当時流行った)。栗原類氏が痩せて顔色が悪いのが気になった。

村上春樹のプロットを村上龍が書き下ろし、イ・チャンドンが映画化したような作品。(村上春樹の『納屋を焼く』を『バーニング 劇場版』として映画化したものにテイストが似ている)。途中、環(たまき)ROY氏が客席に向かって語り出す内容がもろ村上龍。『コインロッカー・ベイビーズ』や『愛と幻想のファシズム』、『コックサッカーブルース』、『エクスタシー』、散々読んだ。環ROY氏はライセンス藤原と中邑真輔を足したような感じ。

舞台はスケボーパークのように左右が湾曲している。上手が父親役モロ師岡氏の部屋で壁にテレビが着いていて、下手の娘役家納ジュンコさんの部屋は壁に布団が敷かれてある。寝る時は真横になるので大変だ。
モロ師岡氏は話し始めると意識が三つに分裂する。同じ格好の俵木藤汰氏と猪股俊明氏が登場し同時に同じ台詞を喋らせることでそれを表現。

開幕から居眠り率が高く、こんな舞台を観に来る熱心なファンでさえ次々と意識を失っていく。

引きこもりの家納ジュンコさんが二階でドンドン音を出して喚き散らす。それを下で聴いた環ROY氏が「彼女、ミュージシャンですか?内容が魂の叫びっぼい」と真顔で訊く。閉ざされた家にやって来た闖入者が全てを破壊していくようでそうでもない感じ。

家納ジュンコさんの物語に絞った方がよかった。

ネタバレBOX

つまらなくはないのだが、面白くもない。

Amazonの倉庫を四日で辞めた環ROY氏。「初日からここは糞だなと何となく気付いてて。で、何で気付いてたのに二三日やっていたのかと。そもそも言うとやる前から糞だってことに薄々気付いてたんじゃなかったのかと。じゃあ気付いていながら何でそこで働こうとしたのかと。」
突き詰めると、世界が糞なのに人生が糞なのに何故俺は生き続けているのか?という問い掛け。糞であることを知っていながら、目を逸らして誤魔化してまで生きる価値はあるのか?
糞のような世界を器用にすり抜けて気楽に楽しく生き延びるにはコツがいる。如何に自分の機嫌を取るか、如何に自分を騙して誘導するか。
「どうでもいいじゃないか そんな事はどうでも
 どうでもいいじゃないか そんな事はどうでも」
 ヒロトとマーシーはがなっていた。

カート・コベインの自殺に対し、Oasisは『Live Forever』と歌う。

多分俺は飛びたいだけ
生きていたい、死にたくはない
息をしたいだけかも知れない
信じていないだけかも

多分お前は俺と同じ
俺達は奴等に見えないものが見える
俺達は永遠に生き続けるんだ

ずっと生きてやる
ずっと生きてやる
永遠に生きてやる
オペラ『森は生きている』オーケストラ版〈神奈川公演〉

オペラ『森は生きている』オーケストラ版〈神奈川公演〉

オペラシアターこんにゃく座

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2023/03/18 (土) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕50分休憩15分第二幕65分。
ずっと気になっていたこんにゃく座、到頭観れた。
終わってから気付いたのが出演者が12人のみということ。全員何役も兼ねていた。
むすめと十二月(じゅうにつき)の精の場面で、何故精が11人しか出ないのかずっと不思議に思っていたが、そりゃ無理だ。
林光氏の作曲した曲の完成度。詞も理解し易く聞き取り易い。

客演の佐山陽規(はるき)氏は12月役と博士役という物語の要所を担う。高田恵篤氏かと思っていた。
1月役の佐藤敏之氏の声は太くて通る。
4月役の泉篤史氏は若さと清廉さがある。
ヒロインであるむすめ役の鈴木裕加(ひろか)さんは天地真理っぽい。
ヒールである女王役の熊谷みさとさんは三雲孝江っぽい。

年に一度、大晦日の夜に全ての月の精が森に勢揃いして新年を祝うお祭りを行なう。同じ日、その国の我儘な女王が御布令を出す。春の4月に咲くマツユキ草を持って来た者に金貨を取らせると。強欲な継母と姉は吹雪に荒れる森の奥へと、むすめに探しに行かせる。

手塚治虫っぽい世界観。
子供達が最後まで楽しく観ているのが凄い。
マツユキソウ(待雪草)=スノードロップ。

ネタバレBOX

第一幕は説明ばかりで退屈な印象。第二幕からぐっと面白くなる。第二幕から始めてもいいぐらい。
送りの夏

送りの夏

東京演劇アンサンブル

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/21 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

永野愛理(えり)さんのファンならば今作は必見。気の強そうなバンギャのイメージがあったが、今回は12歳の小学生役。ほぼすっぴんで少女の目に映し出された奇妙な人間世界を切り取ってみせる。家から遠く離れた海沿いの田舎町、失踪した母親を追ったひと夏の冒険譚。この人の独特な声が耳に残る。アニメの声優なんか向いてるのでは。途中浴衣のシーンがあるのだが、驚く程鮮やかな色彩。

お父さん役の和田響き氏は岸博幸っぽい。
やたらインパクトを残す医師役は公家義徳(こうけよしのり)氏。坂本龍一と細野晴臣を足したような印象。
悪ガキ中学生役の雨宮大夢(あめみやひろむ)氏はかなり痩せて美形になっていた。

死者への執着を心ゆくまで過ごす人々。そこに正解はない。他人が口を出すことでもない。あるのは優しさと悲しさ。

SHERBETS『サリー』
悲しみはきっと優しさと同じ成分なんだね
思い出はきっと悲しみと同じ成分なんだな

ガレッジセールのゴリが監督した映画、『洗骨』を思い出した。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

物凄い傑作になる筈が妙な停滞が凄く勿体無い。死者との別れを受け入れるまでのモラトリアム(猶予期間)。何処か田舎の海辺の町にある『若草荘』は死者をマネキンになぞらえて人々が暮らす心理療法の施設。死者との関係に踏ん切りがつくまでマネキンを擬人化して生活は続く。

マネキンをもっと工夫しても良かった気もするが、そこは難しいところ。『人でなしの恋』のようにすると、人形愛が描かれてしまう。気持ちが仮託出来れば何でもいいのだろう。

少女が見る夢が秀逸。父母が人形(死体)となって車椅子に座っている。何度必死に呼び掛けても反応を示さない。“死”というものの不条理を実感する名シーン。

物語は亡くした子供のマネキン人形を車椅子に乗せて買い物に出る夫婦のエピソードが核。その気持ち悪さに町の中学生達が悪戯をする。坂を転げ落ち放り出され傷付く人形。本当の我が子がそうなったかのように絶叫し慟哭する夫婦。少女はその苦しみと悲しみを受け止めて許せない。中学生の一人を捕まえて夫婦に謝罪させる。人形を可愛がる気味の悪い連中ではなく、痛みと悲しみと優しさという同じ心を持った人だと理解する中学生。他人の痛みが自分の痛みになる過程。

ここでもう一つ踏み込んで貰いたかった。絶対に誰にも心を開かない老人のようなキャラクターを出して、最後まで理解出来ない。その無常感への無力さこそが人の世の手触りだと少女は感じ取る、ような。
少女仮面

少女仮面

糸あやつり人形「一糸座」

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/21 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

メリー・ホプキンの「悲しき天使」。
荒野を彷徨う亡霊の乞食、彼等が乞うのは“肉体”だった。
永遠の宝塚スター、春日野八千代の経営する喫茶店『肉体』をヅカガールに憧れる少女・緑丘貝と老婆は訪ねる。そこは防空壕を改造した地下の城。

店にはボーイ主任の丸山厚人(あつんど)氏と奴隷のような二人のボーイ。
腹話術師役、中川晴樹氏と腹話術人形役、夕沈(ゆうちん)さんの絡みが最高。中川晴樹氏は“クレイジー・モンキー”葛西純みたいで印象的。
水飲み男役、田村泰二郎(たいじろう)氏74歳!由利徹や小松政夫みたい。昭和のコメディアンの持つ静かな狂気。
甘粕大尉役、大久保鷹氏79歳!格好良いな。ちなみに皆大好きな甘粕正彦は54歳で自害している。

ネタバレBOX

『少女仮面』の舞台を観るのは三度目だが、やはり面白いとは思わなかった。いつの日かメチャクチャ嵌まる日が来るのかも知れない。ストーンズもツェッペリンも何かの拍子にぐっと来たもの。赤坂レッドシアターの座席は横幅が狭過ぎる。ギュウギュウ詰め。
人形がもう少し大きい方が良かった。糸あやつり人形でこれを演る意味が余り見えない。人間には不可能な表現を期待。唐十郎の戯曲は一字一句弄ってはならないそう。
天野天街氏は時空間のねじれにこだわりを見せる。狂ったようなリピート・ギャグ。事前撮影した映像の被せは説得力を持つ。ウェイターが何度もコーヒーを客にぶち撒けるのだが、中身はただの水。その辺のこだわりはないようだ。
ALIEN MIRROR BALLISM

ALIEN MIRROR BALLISM

岩渕貞太 身体地図

吉祥寺シアター(東京都)

2023/03/16 (木) ~ 2023/03/18 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

WBCの準々決勝で日本中が熱狂する中、コンテンポラリー・ダンスの聖地(?)、吉祥寺シアターもチケット完売で盛り上がっていた。

額田大志(ぬかたまさし)氏が下手で電子ドラムを使ってビートを構築。上手の渡健人氏はドラムでリズムを刻む。
そこに登場する5人のダンサー、その舞踏がメロディーを奏でる。タイムマシンで20年後の日本に行くと『モーニング娘。'43』をやっていて、「今こんなふうになってんだ」と衝撃を受けるようなLIVE。

CHICAGOの名曲「Street Player」を思わせるAOR。YMOから
小室哲哉、ジョルジオ・モロダーの『メトロポリス』のように、うねるビートが心地良い。クライマックスでは渡健人氏が下手にやって来て二人並んでドラムを叩く。PiLの傑作アルバム『フラワーズ・オブ・ロマンス』のマーティン・アトキンスを彷彿とさせるビートの地響き。

入手杏奈さん、若々しい新人だと思ったらガチガチのベテランだった。手脚がやたら長く目立つ。
北川結(ゆう)さんのベロ出しダンスは『寄生獣』っぽい。ベロに引っ張られているように踊る。
涌田悠(はるか)さんはインド舞踊風味。
中村理(まさし)氏はジャニーズのミュージカルを思わせる華のある動き。『忍者武芸帖 百地三太夫』での真田広之のジャズダンスを想起。
辻田暁さんが胡坐をかき、アフリカ部族のシャーマンのように唸り始めると、降霊した動物霊が皆に取り憑いていく。

いよいよ主催の岩渕貞太氏の登場。イケメンの土方巽のような雰囲気。覗く上半身はまるでヨガの行者、片岡鶴太郎的。
「こんばんは、こんばんは」と挨拶をすると今作についての解説を始める。
「内臓と心は直結している」
「(舞踏の)輪郭は描かなくてもそもそも備わっているもので、体内のアメーバを外部へ向けて不定形に放出していくこと」
ベロを垂らして踊り出す。

日本の祭礼の踊りを感じさせる群舞。日本の祭礼は神を祀る表現として“笑い”を多用する。自虐的なものなのか日本独特の感性。日本最古の踊り子、天鈿女命(あめのうずめのみこと)が八百万の神々と共に笑ひゑらぐ姿。天の岩戸の前で胸をはだけ陰部を露出、シャーマニズムとトランス、笑いと狂気。神の心を楽しませ和らげるものとして始まった神楽、神遊び。そんな原初的衝動についてまで考えが広がる。

レプリカ

レプリカ

ハツビロコウ

シアター711(東京都)

2023/03/14 (火) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主演の松田佳央理さんがやたら美人。丸川珠代の横山めぐみ風味。開演前から舞台上では豪雨と稲光、轟く雷鳴。毛布を被って恐れ慄く姿は中世の修道僧。独特な指の握り方。不安を掻き立てる。

嵐の中、突然の停電、けたたましく鳴る電話のベル。何かに怯えている人々。人里離れた田舎の山奥の家、十年前から因縁のあるストーカーの影がちらつく。娘を守る父親の必死の戦い。

父親の松本光生氏は竹原慎二っぽい。
医師の井手麻渡(あさと)氏は長井秀和的。
沖縄から出て来た新垣(あらかき)亘平氏は石井智宏のようなふてぶてしさ。
酪農家でアダルトグッズ屋も兼業している高田賢一氏、パロディTシャツに悠然たる髭を貯えた巨漢。ジョン・テンタを思わせる。
画家の田辺日太氏は小松政夫の味わい。

ウイスキー、煙草、砂糖の入れすぎたコーヒー、ナイフ、ラジカセ、カセットテープ、精巧なレプリカ人形。

誰もが肚の底で松田佳央理さんの美しい肉体を我が物とせんと静かに欲望をたぎらせているようだ。
『10 クローバーフィールド・レーン』みたいな雰囲気。アメリカのサイコ・スリラーを思わせる。誰の言うことを信じ誰の言うことを信じてはいけないのか。誰が誰を騙し誰が誰に騙されているのか。
張り詰めた狂気、二転三転する緊迫の舞台。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

今作の初演が2000年だがそれにしてもカセットテープというのは古い。もっと前の時代設定なのかも知れない。

クライマックス、新垣亘平氏が新聞記事の縮刷コピーを部屋中にばら撒く。それが本当に大量で充分な効果を上げている。誰が本当に狂っているのか?それとも誰もが狂っていたのか?

ラストが余り好きじゃない。それまでのヘラヘラしながらもふてぶてしいキャラクターに似合わない行動。やることがしょぼい。
Dramatic Jam 5

Dramatic Jam 5

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/03/10 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

感想は何もない。

俳優座スタジオで『対話』を観劇した時のようなピリピリした緊張感が張り詰める客席。(ベクトルは逆だが)。

やっぱ今井未定さんが欲しいところ。
寺園七海さんの人をムカつかせる表情が好き。
いつか「正論ティー!」でどっと客席が沸く日までこのギャグを続けて欲しい。

ジョン万次郎の夢

ジョン万次郎の夢

劇団四季

自由劇場(東京都)

2023/03/11 (土) ~ 2023/04/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「ジョン万次郎」といえば居酒屋チェーンだが、もう全部潰れているらしい。江戸時代に難破してアメリカ漁船に救助され向こうで英語を学んで帰ってきた人、位の知識しかなかった。去年の夏観た『人間になりたがった猫』がイマイチだった為、四季のファミリー向けには警戒していたが今作はよく出来ている。楽曲も悪くない。美術も衣装も見事。

冒頭、当時のアメリカの新聞記者の女性二人と江戸の瓦版の女性二人が地図を前に解説してくれる。大森美優似の土居來未(くるみ)さんと秋元才加の目力を持つ東沙綾さんが気になった。
大荒れの海、嵐に遭遇した漁船が大波の中を右往左往。ド迫力のポリエステルサテン生地(?)をうねらせた大海原。投影された雨、アナログの力を思い知る。人力に勝るものなし。

バカリズムっぽくもある島村幸大(ゆきひろ)氏演ずる14歳の万次郎。アメリカの捕鯨船に救助される。ホイットフィールド船長(北澤裕輔氏)に見込まれ、養子のような形でアメリカへ。こんな優しい良い人がいつの時代も世界に確かに存在していることの不思議。万次郎は11年後に到頭帰国。薩摩藩主、島津斉彬(なりあきら)の夢、開国して日本を近代国家に生まれ変わらせることを聞く。島津斉彬役も北澤裕輔氏。

侍が突然美声で歌い出す違和感が悪くない。今こそ『鴛鴦歌合戦』をミュージカル舞台化したら受けるのでは。

ネタバレBOX

ジョン万次郎を日本の閉鎖された封建社会から民主主義の新時代へと扉を開いた人物の一人と描く。まあこれしかないのだろう。何か違和感が半端ないが。
第二幕のラストの展開が無理筋。咸臨丸の日本人と米国人水夫の争いを命を懸けて収める。そここそホイットフィールド船長の教えが欲しいところ。「明治維新、万歳」の話に戸惑う気持ちも。
デラシネ

デラシネ

鵺的(ぬえてき)

新宿シアタートップス(東京都)

2023/03/06 (月) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

いや、参った。高木登氏の才能にひれ伏す。これを否定するのは嘘になる。メチャクチャ好きな話。
2012年指原莉乃主演の『ミューズの鏡』という深夜ドラマがあった。福田雄一作品で『ガラスの仮面』を大映ドラマ調に展開。ツッコミのない笑い(ツッコミは視聴者各個人の裁量)。このスタンスが受けて福田雄一は成り上がっていく。竹熊健太郎✕相原コージの『サルまん』信者の自分としてはこの手の作品には弱い。今作は美内すずえや梶原一騎の大真面目にイカれているスポ根漫画風味。(『男の条件』なんかも機会があれば読んで貰いたい)。脚本家養成ギブスなんか着けてもよかった。海原雄山のようにがなり立てる佐瀬弘幸氏が痛快。これだけ怒声を上げる舞台もないだろう。弟子が全員若い女というところも素晴らしい。

才能を認められ大御所脚本家(佐瀬弘幸氏)の内弟子に抜擢された木下愛華(まなか)さん、声が魅力的。屋敷に住み込みとなる。憧れの先輩、とみやまあゆみさんに挨拶。このクールな眼鏡の天才脚本家(師匠のゴースト)は無機質な抑揚のないボカロのような話し方。とにかくキャラが立っている。アニメだったら同人誌が放っておかないだろう。松井玲奈みたいでカッコイイ。
才能もないくせに脚本家の愛人になって成り上がった高橋恭子さん。この人も魅力に溢れている。おっとりした上品な雰囲気。
才能はないが毒舌でゴシップ好きな小崎愛美理(えみり)さん。
マネージャー役の田中千佳子さん、ドラマのプロデューサー役の川田希さん、時々丸い内窓から顔を覗かせる奥さん役は米内山陽子さん。(本物の脚本家、『インディヴィジュアル・ライセンス』が素晴らしかった)。
時折、客席に語りかけもする娘役は未浜杏梨さん。コスプレ三昧。
亡くなった天才脚本家役は中村貴子さん。
ドラマのトップ女優役は堤千穂さん。

女性の描き方、筆運びにセンス有り。キャラ一人一人が立っている。ちゃんと内面があり、自分なりの哲学で生きている。

ある企みをもった木下愛華さんが奇妙な屋敷に潜入する様子は『青ひげ公の城』。一体そこで彼女は何を体験するのか?

とみやまあゆみさんが最高!

ネタバレBOX

百花亜希さんのnote、『注文の多い百花店』の「祈りとメッセージ」が原案だと勝手に自分は思っている。皆知っていたけれど「そんなものだ」とどこかで肯定していたこと。大きな騒ぎになるまで(自分の身に危険が及ぶまで)知らんぷり。そしてその異常な世界の日々を完全に憎むことも出来ない。
脱会した宗教団体への複雑な思いにも似た。

『男の条件』とはスポ根版『まんが道』。漫画家になる為の修行として空き地で紙芝居をやって子供達の反応を掴む主人公達。ヤクザにさらわれ監禁され、「(引きこもりの)弟がそれを見て何の反応も示さなければ腕を斬り落とす!」と日本刀を突き付けられる。ずっとそんな調子。

堤千穂さんがちょっとミスキャストな感じ。演技は文句無いのだが、ワンクッション入れる為ならばもっと違う感じの人が演じるキャラのような気がする。

ラスト辺りがいろんな方面の観客に気を遣ってる感じでだらだらしてしまう。延々説明が続く感じが好きではない。(性格的にちゃんとしたい人なのだろう)。追い詰められ全てを失った佐瀬弘幸氏が逆に悪魔的な魅力に溢れ生き生きとしていく。三國連太郎、緒形拳の系譜。木下愛華さんの書いたシナリオの中だった的な仕掛けは良かった。
筒井康隆の『邪眼鳥』を舞台化して欲しい。
ひとり語り芝居『土神ときつね』他

ひとり語り芝居『土神ときつね』他

お茶祭り企画

あさくさ劇亭(東京都)

2023/03/10 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一部は詩の朗読と宮沢賢治マニア、川島むーさんによる講演。本多千紘さんがピアノと効果音を担当。

①冬と銀河ステーション
②岩手軽便鉄道の一月
③シグナルとシグナレス
④青森挽歌

第二部はひとり語り芝居。
⑤土神ときつね

宮沢賢治に興味がある人は観に行って損はない。会場のあさくさ劇亭も以前より気になっていたが味がある。幕間で換気の為、扉を開け放つと、そこは路地で犬の散歩の人達が往来。

②の樹々が凍ってキラキラと反射して光っている様子を「鏡を吊し」と表現。美しい。
③は信号機の恋物語。何でも擬人化してしまう。
④は死んだトシを捜して列車に飛び乗り、何処までも彷徨う宮沢賢治の魂。

まだまだ面白い宮沢賢治の世界。入場料も安いので是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

宮沢賢治とゴッホとサン=テグジュペリを死後の世界を宇宙に見立てた者として語る。ゴッホの『星月夜(糸杉と村)』をそう解釈すると確かに面白い。

④を聴いていて、宮沢賢治の文章は観念的でどうも絵が浮かび辛い。音楽や視覚効果が入るとしっくりくる。

⑤は宮沢賢治らしいジブリ調の仏教説話を想像していたが、嫉妬に我を忘れた醜男の話。気が滅入った。
蜘蛛巣城

蜘蛛巣城

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2023/02/25 (土) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

黒澤と『マクベス』を全く知らない方が楽しめるのかもしれない。一体何を観せられているのか途中不安になった。『マクベス』の翻案ものの最高傑作とされる黒澤明の『蜘蛛巣城』。それを下敷きにこんな作品を作る人間の業。「蜘蛛手の森」の妖婆の笑う声が聴こえるようだ。

衝撃を受けたのは開幕から幕間ごとに流される曲。お経を英語でがなっているようにも聴こえたフスグトゥン(Khusugtun)の『Tes Gol』他。モンゴルの伝統音楽グループのニューウェーヴ。和洋折衷なおどろおどろしさ。この曲を選んだ人が今作のMVP。
美術のセンスも良い。蜘蛛の巣の張られた背景を仕切る幕。

主演の早乙女太一氏は声が通るので台詞が聞き易い。マクベスにしてはカッコ良すぎるが。弟の早乙女友貴(ゆうき)氏の方がこういう汚れた役は似合いそう。

「蜘蛛手の森」の妖婆役は銀粉蝶(ぎんぷんちょう)さん。上品で声が朗々としている。

黒澤明は『マクベス』を「自分の身の丈以上の地位を求めた故の悲劇」と語っていた。
ちなみに黒澤明のシェイクスピア翻案ものは三作ある。『マクベス』は『蜘蛛巣城』、『リア王』は『乱』、そして実は『ハムレット』は『悪い奴ほどよく眠る』だったりする。(外国人からの指摘)。日本人よりも外国人の方が気付き易い。

ネタバレBOX

蜘蛛手の森が歩き出すシーンとラストの鷲津武時の矢ぶすまをどう表現するのかが注目ポイント、どちらもなかった。

城主が妻を所望する描写や主人公の行動を正当化する要素を挿む必要はなかった。あくまでも主人公の心の出来事であるべき。逆に何の文句もない素晴らしい君主に描いた方がテーマがハッキリする。

倉科カナさんはミスキャストだろう。山田五十鈴の役だぞ。
ここまで弄るならマクベスと夫人が隣国に生き延びるラストでも良かった。(どうでもいい)。

収録日だったのだが、城主が主人公の武勲を称え「北の館」の主に任命する場面、「北の館」を「一の館」と言い間違えてしまうハプニングがあった。

『マクベス』の恐怖の本質は“罪悪感”だと思う。欲望に負けて主君を殺め、親友にまで手を掛ける。全て望みが叶った筈が“罪悪感”の後ろ暗さで不安で不安で堪らない。その不安と恐怖を掻き消す為に誰も彼もを殺していく。一体、自分が欲しかったものは何だったのか?妖婆の高笑いが聴こえてくる。精神の安寧、心の平穏こそが一番人間に必要なものだったのだ。
マギーの博物館

マギーの博物館

劇団俳小

サンモールスタジオ(東京都)

2023/03/03 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開幕から滅茶苦茶面白い。
1947年カナダの東海岸、ケープ・ブレトン島にある炭鉱町グレース・ベイ。スコットランド移民のアイデンティティはケルト語。バグパイプで奏でる曲はスコットランド民謡。『テルーの唄』に似たメロディーがメイン、元々谷山浩子がケルト音楽をイメージして作ったのであろう。

「洟ッ垂れ」と呼ばれ、誰にも相手にされないチビのマギー(小池のぞみさん)が今日も独りダイナーで時間を潰している。そこに現れたのは戦争帰りの大男ニール(加賀谷崇文氏)、デカい荷物を抱えて。「この席いいかい。」と相席になり、ポテトとティーを奢ってくれる。警戒するマギーの前でニールはバグパイプを取り出して組み立てると、大音量で吹き鳴らす。店主に怒鳴られ叩き出されるニール。

こんな出会いから物語は転がり出す。『俺たちに明日はない』のオープニング、歌の歌詞のような出だしが心地良い。

マギーの暮らす狭い掘っ立て小屋では、塵肺で寝たきりの口のきけない祖父(大久保たかひろ氏)、ビンゴだけが楽しみの母(荒井晃恵さん)、独り一家を支えて炭鉱で働く弟(大川原直太氏)が。弟は労働組合の力で炭鉱夫の待遇改善を目指している。マギーに惚れたニールは毎日通ってバグパイプを吹き鳴らす。

ロバート秋山風味の布袋寅泰、加賀谷崇文氏がカッコイイ。一本気で無頼、プライドが高く強い信念を持っている。
小池のぞみさんの揺れる女心、亡き兄への今も変わらぬ畏敬の念。
大川原直太氏は潮健児や高並功の若い頃を思わせるアクの強さ。
大久保たかひろ氏はいいキャラ設定、ガンガン木片を叩いて人を呼ぶ。
荒井晃恵さんが床を雑巾で拭く様子が印象に残る。

貧しい惨めな暮らしの中で人々の考えは揺れ動く。
一番の名シーンは湾に死にかけた鯨が打ち上げられる。酔っ払った住民共はおどけてふざけ合い小便をかけ痛めつけて遊ぶ。それにキレた弟は独り止めに入ろうとする。弟を宥めるニール。「あいつら何人いると思ってるんだ?それにたかが鯨じゃないか。」弟は怒鳴り返す。「それを言うならば俺はたかが炭鉱夫だ!何とか生き延びる為に必死になっている奴を助けることに理由なんかいるものか!」それを聞いたニールもはっとなり、二人で多勢に殴りかかっていく。

何も持たない弱者達が手を伸ばすべきものは過去の栄光か?闘争の果ての未来か?

ネタバレBOX

年齢設定が見た目で判り辛い。なんか配役に無理がある。
ニールには軍で稼いだ金があり海辺に家を建てるのだが、それまでの無一文の生活の理由が分からない。
中盤から話が停滞してプロレタリア文学みたいになっていく。掘っ立て小屋のセットのままではどうしても物語がうねらない。登場人物も少なすぎる。重要な絵で見せるべきシーンをト書きで済ませてしまっている。弟の恋人はいるだろう。

クライマックスに大規模な賃上げストライキを弟が組織して闘うのだが、ナレーションのみ。
どうもこの話の見せ方を間違えている。あくまでもマギーが主人公で彼女のラストの発狂まで繋がる心の揺れにフォーカスしていかないと。
愛する夫や弟、祖父の遺体を解体してホルマリン漬けにしてまでこの世に残したいと思った狂気。虫けらのように踏み潰された彼等の存在をいつまでも博物館に飾ってあげたいとの願い。それが伝わらない。
なるべく派手な服を着る

なるべく派手な服を着る

MONO

吉祥寺シアター(東京都)

2023/03/03 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『おそ松くん』の亜種みたいな喜劇。増築を繰り返したせいで迷路のように入り組んだ家。茶の間の押し入れの隠し通路を通らないと台所にまで辿り着けない。父が危篤で六人兄弟が久方振りに揃う。長男だけが書道家の父の跡を継いで実家暮らし。
上の四兄弟は四つ子、五男は存在感がなく誰も思い出さない。六男は養子で四人の兄にとっては可愛くて仕方ないマスコット的存在。
次男の内縁の妻、四男の内縁の妻、五男の彼女も連れて来られる。

奇妙な味わいの作風、謎ルールに縛られた家。全員妙にキャラが立っている。早逝した母親への愛慕。
家族が他人になっていく瞬間、他人が家族になっていく瞬間、言語化出来ない人と人との感覚。空間と時間の共有、優しさの共有。手触りで相手の存在を確かめ合い心を許し合う。階段の隅で誰にも気付かれずずっとそこに居た、ラストの五男の涙が美しい。
キーワードは「おひおひ」「オロロンロン」。

ネタバレBOX

長男の奥村泰彦氏はジャンポケ太田っぽい。過去に強盗殺人事件の容疑者として誤認逮捕されたことを引きずっている。
次男の水沼健氏はトランプの新しいゲームを次々と開発するが難解で不条理なルールが不評。長男になることに憧れている。
その内縁の妻、石丸奈菜美さんは西山喜久恵っぽい。二面性が強く、男性がいない席では山賊みたいな振る舞い。兄弟の亡き母にどこかしら似ているらしい。
三男の金替康博氏は著名なカメラマン。モロ師岡っぽい。
四男の土田英生(ひでお)氏は体格がよく妻を何かと怒鳴り散らす。学校に行ってなかった為、ものを知らない。作・演出も兼ねている。
四男の内縁の妻、高橋明日香さんはドMで罵倒され叱られることで自分の中の不安感をかき消している。SKE48の荒井優希と森下愛子を足したような美人。
五男の尾方宣久氏はやたら派手な服装で木下ほうかっぽい。誰の記憶にも残らず、誰もが存在をすぐに忘れ去ってしまう。六男が可愛がられているのを見て、養子に憧れている。
五男の連れて来た彼女は立川(たつかわ)茜さん。清潔感のある美人。四男のカメラマンの写真集をコンプリートする程のファン。
六男の渡辺啓太氏は大柄な体格だが未だに子供扱い。兄ちゃん達に任せておけば大丈夫と絶大な信頼を寄せている。

各キャラ設定が細かく描き込まれている為、至る所で「てんどん」(リピート・ギャグ)が繰り返される。五男を無視、六男に夢中、妻を叱り付ける四男、台所に辿り着けない女性陣、次男の妻の豹変。

死の床にあった父親が六男だけではなく、全員養子だったことを明かす。五男だけ母親とケーキ屋の爺さんの子供。全く血の繋がっていない子供達を本当の子供として育ててきた父親の凄さ。母親は男にだらしない性分だったらしい。それを知って家族というものの括りが壊れてしまい、何となく皆他人行儀になっていく。変わらないのは五男の寂しさだけ。

帰りの電車で荻窪駅周辺がカオス。右翼の街宣車が大音量で中核派の杉並区議会議員・洞口朋子のデモ行進を邪魔しに襲来。警官隊が集結で厳戒態勢。一瞬、洞口依子かと思って驚いた。
ザ・フラジャイル ライト/レフト

ザ・フラジャイル ライト/レフト

miuna

スタジオ空洞(東京都)

2023/02/28 (火) ~ 2023/03/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

〈ライト〉
The Fragile とは「壊れやすい」という意味。
人口15万の羆川市、市議会議員選挙に立候補させられた山森信太郎氏。市政を牛耳る竹田グループの娘と結婚した為、駆り出された。事務所では渡辺実希さんが選挙運動を仕切る。竹田グループの会長の孫娘、中野亜美さんは名目だけの後援会長。
公選はがきの二千枚の宛名書きをボランティアで知人にお願い。 やって来たのはヤンキー崩れの杏奈さんとインド人の青柳糸さん。ヘビメタバンドのボーカル菊川耕太郎氏と彼女で街宣右翼(似非右翼)団体の構成員・福井夏さん。

とにかく役者が豪華。キャスティングだけで勝ったようなもの。誰もがこの場を喰ってやる、のギラギラした演技合戦。

山森信太郎氏は目が永田裕志に似ていて好感。
中野亜美さんは凄まじいキャラ作りで唸らせる。
渡辺実希さんの使い勝手の良さ。
杏奈さんは深夜のドンキのジャージの姉ちゃん。妙にエロい。
青柳糸さんは美人のトンパチ・インド人。
菊川耕太郎氏は市原隼人の喋りっぷり。
やはりMVPは福井夏さんだろう。
この人は役者馬鹿なので要求が高い程、燃えるタイプ。

面白かった。

ネタバレBOX

始まり方と終わり方が斬新。渡辺実希さんの口頭での説明。このやり方は他団体も導入してもいいのでは。

右翼ギャグは面白いのだが、もっと攻めても良かった。ちょっと福井夏さんのキャラ設定が矛盾している。ビジネス右翼で通すか、ガチの愛国者か決めるべき。
一番気になったのがヘビメタのイメージ。これだったらパンクで良かったのでは。どんなヘビメタバンドをイメージしているのか?
カミサマの恋

カミサマの恋

ことのはbox

萬劇場(東京都)

2023/03/01 (水) ~ 2023/03/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

〈Team 箱〉
素晴らしいシナリオ。 2011年に畑澤聖悟氏が劇団民藝の奈良岡朋子さんの為に書き下ろした作品。青森県津軽地方の民間信仰「カミサマ」(「ゴミソ」)とは、神霊を体に憑依させ託宣を授ける霊感を持った巫者(ふしゃ)のこと。神託を受ける『神降し』と死者の魂を呼ぶ『仏降し』がある。

主演の「カミサマ」役、長崎りえさんが素晴らしい。乙羽信子を思わせる上品でリアルな存在感、目が離せない。本当にこんな人がいるならば一度会ってみたいと思わせる。
その若き内弟子役の石森咲妃さんは眞子さまを思わせる柔和な表情と柳原可奈子のようなチャーミングなコミカルさ。細かい動きの一つ一つが創意工夫に満ちている。お茶を入れる仕草にも注目。
「一心、一心、一心!」
神様に拝む口上も耳に残る。

「カミサマ」に相談に来るのは地元の馴染みの御近所さん。嫁姑問題、孫の縁談、作物の収穫時期・・・。
どうも街角の手相占いのようなカウンセリング。一応、神様に聞いてみます的な段取りはあれど、良かれと思われるアドバイスにとどまる。けれども相手によっては「お前は何も悪くない!」と慰めてくれる。天からのその言葉の嬉しいことよ。誰にも理解して貰えなかった悔しさを、全てを見通す存在がじっと見ていてくれて全身で抱き留めてくれる。

姑(田中結さん)と嫁(蒼井染さん)の確執がリアル。各人の世代や職業によって「カミサマ」に対する態度が異なる点が面白い。

中右遥日さんのファッションが70年代の為、その時代の設定なのか?とも思っていたがレトロファッションでオシャレなだけだった。霊能力番組の人捜しコーナーで観て、はるばる東京から訪ねてくる人妻役。

崎山新大氏や篠田美沙子さん、堺谷展之氏などお馴染みのメンバーが現れると何か嬉しい。

物語は身を持ち崩して家を去って行った息子(加藤大騎氏)が、数十年振りにぶらりと帰宅するところから動き出す。

設定の妙と着眼点が流石。
幾重にも重ねられた複雑な人の心を絶妙に表現。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

弟子の東京での後ろ暗い過去(多分風俗)など設定が秀逸。

所々、津軽弁が聞き取れず、意味をハッキリと受け止められない場面もあった。仕方がないこととはいえ勿体無い。

死んだ者への愛着に取り憑かれた者達。早逝した愛する夫(婚約者)、散々酷い目に遭わせた妻、死産で産まれた赤子。魂は再びこの世に生まれ変わるという輪廻転生を精神的支柱として生きていこうとする。赤子を養子として育て、見知らぬ男女が架空の記憶を共有して共に暮らす。それはファンタジーだが、そもそも宗教とはそういうものではなかったか。「正しい」ものではなく、「そう考えると楽になる」もの。

今作を映画化するならば都会から来て、この霊媒師を胡散臭く見ているキャラを主人公に置きたい。「こんな田舎芝居に皆騙されやがって。」的な視点から、徐々に「あれ、これ本当なのかな?」と戸惑っていく。そして最終的に「これが嘘だろうと本当だろうと構わない、この人達(受け手も含めて)は素晴らしい。」と思わせたい。

死んだ夫(婚約者)が降りてきて息子の口を借り「カミサマ」に語り掛けるラスト。死者の魂との交流はあくまでもグレーゾーンに留めておくべきであろう。息子が「物心つく前からずっと聴かされて来たんだぜ。全部頭に入っているよ。」と言ってから(二度目)、太鼓を叩いて神様に拝み始める。そこは取り様によっては「母さんのやっていることは全て判っているんだ。」とも聴こえる。
その息子の気持ちに涙したようにも見えるダブルミーニングなラストを作者は構想したのでは。(オカルトに振り切らない為に)。

過去公演での雲間犬彦氏の2012年8月のクチコミが自分の抱いた感想とほぼ同じだったことに驚いた。
ペリクリーズ

ペリクリーズ

演劇集団円

シアターX(東京都)

2023/03/01 (水) ~ 2023/03/08 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『ペリクリーズ』はシェイクスピア晩年の作風、「ロマンス劇」と分類されている作品。登場人物が荒唐無稽に織り成す長大な時間を掛けて紡がれる大団円はホメーロスやギリシア三大悲劇詩人の作風を彷彿。とにかく話が壮大。一体何の話なのかさっぱり分からないがメチャクチャに面白い。シェイクスピア✕シアターΧ(カイ)✕演劇集団円(えん)✕中屋敷法仁(柿喰う客)=才能の大爆発。

14世紀のイングランドの詩人、ジョン・ガワー(藤田宗久〈そうきゅう〉氏)が横の通路から現れて古の物語を語り出す。藤本義一みたいな雰囲気。自らを灰から甦った存在だと称す。
舞台上に立つのは後ろ向きの死人達。何百年何千年も昔に死んでいった死者達がガワーに呼び出され静かに動き出す。全員うっすらと死人メイク。時には人形のように踊り、時には長机や椅子を手に大海原を駆ける帆船を集団マイム。

舞台は紀元前の東地中海、ツロ(現レバノンのスール)の王(領主)ペリクリーズは大国アンティオケ(≒アンティオキア〈現トルコ〉)の王女に求婚。結婚の条件として王女からの謎掛けを解かなければならない。「私が得た男は、父で息子で夫である。そして私は母で娘で妻である。さて如何にしてこの六人が二人であり得るのか?」
王と王女の近親相姦の関係に気付いてしまったペリクリーズはゾッとして逃げ出す。送られる殺し屋(片手だけ赤い手袋)。祖国が戦争に巻き込まれることを恐れたペリクリーズは忠臣ヘリケイナスに政治を託し船に乗って身をくらます。

王女役の大橋繭子さんが魅惑的、やたら踊る。この不思議な物語の開幕に相応しいヴァンプ(妖婦)。

主演のペリクリーズ役石原由宇氏が魅力的。全身汗だくでぜえぜえはあはあ必死に舞台の海を泳ぎ続ける。運命の不条理の嵐、またしても海に残酷に投げ出され息絶え絶えになりながらも何とかギリギリ生き延びる。生きてさえあれば話は続く。何度も波に飲まれ頭がおかしくなろうとも。

面白い舞台に飢えていたら足を運ぶべき演目。

ネタバレBOX

第二幕からが失速してしまうのは、いつものシェイクスピアのパターン。もう少しマリーナのキャラとエピソードに工夫が必要か。ペリクリーズのキャラが立ち過ぎている。
妻サイサ(新上貴美さん)、娘マリーナ(古賀ありささん)。
勢い余って机の上で正座したまま落下してしまった古賀ありささんには肝を冷やした。(『魔女の宅急便』みたいな衣装)。

タルソ(現トルコのタルスス)に立ち寄ったペリクリーズは飢饉で瀕死の民に食糧を施し感謝される。だが航海の途中大嵐に遭遇、難破してペンタポリス(現リビア)に独り漂着。宮廷の槍試合に参加すると見事優勝、王女サイサと結ばれる。身重の妻と祖国ツロに凱旋の船旅でまたもや襲い掛かる大嵐。嵐の中、サイサは出産するも命を落とし、泣く泣く棺を海に葬ることに。棺にありったけの宝石と手紙を入れるペリクリーズ。タルソの領主に妃の忘れ形見となった娘マリーナを託すことに。

〈第二幕〉14年後、美しい娘に育ったマリーナは領主夫人の嫉みから殺し屋に襲われる。偶然そこに現れた海賊共にさらわれ、ミティリーニ(現ギリシャのレスボス島)の売春宿に売り飛ばされる。やっと娘を引き取りにタルソに戻ったペリクリーズは娘の死を告げられ精神が崩壊してしまう。売春宿で純潔を守り通すマリーナは聡明なる知性と人を感服させる気品によって、民衆の指導者へと崇められていく。
偶然ミティリーニに立ち寄ったペリクリーズを乗せた船。生ける屍と化したペリクリーズを癒やす為に聖女マリーナが呼ばれ歌を歌う。(これが名曲)。彼女が死んだ筈の娘であることに気が付いたペリクリーズは歓喜。更に女神ダイアナ(ディアナ)の御告げでエペソス(現トルコのエフェソス)に向かう。そこには水葬された棺の中で仮死状態であった妻サイサが、手厚い看護によって息を吹き返し、漂着した地の神殿で巫女となっていた。
ペリクリーズ、サイサ、マリーナの家族の奇跡の再会。
『運命の女神、あれだけ痛い目に遭わせながら、最後に立ち直る望みを残しておいてくれたのか・・・』

語り手の物語を聴いている観衆、といった額縁が見事に効いている。面白かった。
聖なる炎

聖なる炎

俳優座劇場

俳優座劇場(東京都)

2023/02/26 (日) ~ 2023/03/04 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

大井川皐月さんの舞台を観るのは多分7作目。男勝りの強気キャラが多かったが、今回は美貌のヒロイン、ステラ役。まさにこういうのが観たかった。まだ幾通りにも方法論はあるであろうこのキャラ。この役は月船さららさんなんかにも演って貰いたい。新婚一年後に旦那が墜落事故に遭ってしまった新妻、ドラマの要。
事故で下半身不随になった屋敷の長男、モーリス役は三浦春馬っぽい田中孝宗氏。寝たきりだが明るい好青年。
主治医のハーヴェスター医師役は加藤義宗さん、コミカルで吉村崇っぽい。
住み込みの看護婦、ウェイランド役はあんどうさくらさん。凄く独特な存在感を発し続けている。
モーリスの母で屋敷の主、タブレット夫人役は小野洋子さん、岡田茉莉子のような気品。
一家がインドに赴任中、現地で検察官に就いていたリコンダ少佐役は吉見一豊氏。加藤武演ずる等々力警部を思わせるムードメイカー。タブレット夫人との古く長い付き合いを感じさせる。
モーリスの弟、コリン役鹿野宗健氏はハンサムでスマートな中西学。グアテマラでコーヒー農場を経営。

アガサ・クリスティのミス・マープルものっぽいミステリー。サマセット・モームの1928年に発表された古典なので、実に解り易く面白い。人間の表面と内面の乖離。明るい笑顔に包まれた屋敷、裏に回れば誰もが嘘をつき、疑心暗鬼を抱え、自分を卑下し絶望する。誰もが誰かをじっと疑っているような人間ドラマ。凄く上品な空間が心地良い。
是非観て頂きたい。

ネタバレBOX

第一幕のMVPはあんどうさくらさん。荒井晃恵さんにも似た存在感。長男の心不全による急死の真相が、彼女の烈火の如き怒りで正体を露わにしていく展開。

第二幕は小野洋子さんの滔々たる語りが全てを持って行く。

殆ど登場しないメイドのアリス役増田あかねさんが何か関係してくるな、と睨んだが何もなかった。

音楽の入れ方や選曲がダサい。(この伝統的な方法論に意味があるのかも知れないが)。

今朝長男が亡くなっている状況にも関わらず、妻は義弟との不貞で妊娠をカミングアウト、弟は一緒にグアテマラに行こう、看護婦は彼をプラトニックに愛していた、母親は全部知っていました・・・、もう少し彼の死を悼んでくれ。何か喜劇っぽくもあるシチュエーション。オチで「実は死んでいませんでした」とモーリスが出て来るのではないかとさえ危ぶんだ。

タイトルの『聖なる炎』の意味は性欲のことではないか。肉欲は醜くプラトニックな精神的な愛こそ崇高とされているが、それに異を唱えたのでは。同性愛者だったサマセット・モームにとって、1895年に投獄されたオスカー・ワイルド事件の衝撃は大きかった。英国の性犯罪法では1967年まで同性愛は犯罪行為。モームは英国を離れ世界各国を旅する生活にうつる。1965年に亡くなったモームは極めて慎重に同性愛者であることを隠し続けた。
タブレット夫人の独白はモームの本音だったのでは。決して世間的には許されない同性愛、けれど自分にはどうしようもない熱情。例え間違っているとされても、確実に自分の胸に灯っている炎。
コウセイ

コウセイ

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/02/23 (木) ~ 2023/02/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

昭和24年(1949年)2月、岡山県で発覚した『岡田更生館事件』を舞台化。この事件の面白さは江戸川乱歩的で何故当時映画化されなかったのか不思議。これをやるだけでも興味が湧くが、更に将棋界のスーパースター・升田幸三を絡めるアイディアに痺れた。複雑だが逆に解り易い構成、パッパッパッパッと次々にシーンが展開する演出は唸らせる。松本清張のサスペンスっぽい戦後まもなくのおどろおどろしさ。

独りヒールとして立ちはだかる野崎保氏がMVP。“城西の虎”添野義二や三島由紀夫を思わせる武道家顔。「こんな奴がいる施設に収容されたら地獄だろうな」とつくづく思わせてくれる。
更生館からの決死の脱走に成功した宇田川佳寿記氏はチャンス大城を思わせる愛嬌。やたらご飯への強い執着、「食べます!」が笑わせる。
井保三兎氏演ずる人間愛に溢れた将棋指しはいつもながら優しい。「こんなふうに生きていけたなら」と誰もが胸の何処かで憧れる。
奥さん役の江崎香澄さんのあったかさ、生活感のリアリティー。
隣家の娘役の鈴木彩愛さんの可愛らしさ。
能勢綺梨花さんはエロエロ、観客はメロメロ。
地元の老婆役や仲間を売って自分だけ助かろうと考える密告者役など物語の要を担う松沢英明氏は裏MVP 。声色一つで観客をゾッとさせてみせた。

実話の虚構化の方法論としてずば抜けている。そして夜に浮かぶのは余りにも美しい月。どの時代であろうと人は皆輝く月の美しさに心を奪われる。自分がどんな境遇になろうと変わらぬ月の美しさ。月の光に照らされていつも何処か遠くの誰かを想うのか。

ネタバレBOX

実際に脱走した北川冬一郎は施設と岡山県の支配下の公的機関はグルだと睨んで、徒歩で毎日新聞大阪本社まで逃げる。「国も警察も信用出来ない、せめてマスコミはこの真実を世間に報道してくれ。」と。毎日新聞の記者、大森実と小西健吉は証拠を得る為、潜入取材に踏み切る。
結果、事件は国会で審議されるまでの話題に。更生館は廃止、館長は投獄。

クライマックスの辺りから、何かスッキリしない展開が続く。更生館の裏にGHQがいるような陰謀論。この辺はモヤモヤするだけ。作り手側の混乱。後日談の書籍の発売中止も判り辛い。

升田幸三と隣家の息子のエピソード。敗けた将棋に膝を付く息子に「お前は実は勝っていた。気付いてさえいれば」と升田は告げる。息子はその詳細を尋ねるが升田は教えない。「戦争から無事に帰って来るまでに答を見付けろ」と。
召集された戦地で息子はその答を到頭見付ける。『2三と』。

『コウセイ』に隠されたダブルミーニング。『更生』と『恒星』なのか?ただ月は恒星(太陽)ではなく、衛星。いろいろと考えたがしっくり来ない。升田幸三は月にこだわった印象。まさしく『月下の棋士』。

※当日パンフに書かれていたのは多分Colaboの件。(仁藤夢乃さんは仁藤萌乃さん〈元AKB48〉の姉である)。

『好晴』、『厚情』?
とんとマル

とんとマル

東京AZARASHI団

サンモールスタジオ(東京都)

2023/02/21 (火) ~ 2023/02/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2年振りの新作。待った甲斐は充分あった。今作は古参にも新規にもお勧め。サービス全開、豪華な女優陣。作演出の穴吹一朗氏も相変わらずの好き放題、腕は落ちていない。聖地サンモールスタジオにはこんな喜劇こそよく似合う。プロレスの聖地・後楽園ホールにて相も変わらず鶴田軍対超世代軍の6人タッグ(鶴田田上渕対三沢川田小橋)に熱狂していた頃のような気分。

全国チェーンを展開している大型スーパー『ミカズ』。この町のフランチャイズ店のオーナー兼初代店長は既に故人。現在の二代目店長はその娘と結婚した迫田(さこた)圭司氏。妻を亡くしJKの娘(空みれいさん)と二人暮らし。副店長には初代の息子であり、義理の兄となる渡辺シヴヲ氏。パートの魚建氏、本部職員のスーパーバイザー・北原芽依さん、万引きで捕まった穴吹一朗氏。

おっさん四人とべっぴん二人の人情喜劇。かなり面白いし、人間ドラマとして観ても深く沁みる。
空みれいさんがメチャクチャアイドル顔で、よくこんな娘をブッキングできたなと感心。スターダストプロモーションの現役か元だろうと推測。(寺沢美玲としてモデルで活躍していたらしい)。若い頃の遠野なぎこみたいな目力。多分どこからも引っ張りだこになるだろう。
北原芽依さんもビビアン・スーと飯島直子を足したような美人。
こんな綺麗所に囲まれても、演ることといえばおっさんの加齢臭まみれ全開ギャグ!!魚建氏は流石に見事。
凄く楽しい気分で帰れるので是非足を運んで頂きたい。
渡辺シヴヲ氏の画集も販売中。

ネタバレBOX

ベタな笑いを並べつつ、かなりシリアスなドラマも描かれる。迫田圭司氏と空みれいさんの父娘の確執。迫田氏は義理の兄で部下でもある渡辺シヴヲ氏に裏切られ、本音をぶち撒けられる。「お前は相手の気持ちを聞かないで勝手に決め付ける。人の気持ちを理解出来ないまま、自己本位で何でも判断してきた。」
ショックを受ける迫田氏。合格した大学に行かずに漫才師になると言い出した娘は「お父さんは私の気持ちを分かっていない。何も私の話を聞いてくれないのに、勝手に分かっているように決めつける!」
これは物凄く深い話。自分が相手の為に思い遣ってしたことが、向こうには全く見当違いで不快に受け止められることは多々ある話。迫田氏の自分なりに正しく生きてきた自信の基盤が足元から崩れ落ちる衝撃。相手の話に耳を傾けるしかない。自分の判断を絶対だと妄信しないこと。

オチは大金持ちの権力者の孫が金で全てを解決するような『こち亀』エンド。それすらも清々しく感じた。

魚建氏の芸名はクリストファー・ウォーケンから来たと読んだ記憶があるが、定かじゃない。
さらば箱舟

さらば箱舟

オーストラ・マコンドー

吉祥寺シアター(東京都)

2023/02/18 (土) ~ 2023/02/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1967年にコロンビアのガブリエル・ガルシア=マルケスが発表した小説、『百年の孤独』。世界的ベストセラーとなり、ノーベル文学賞を受賞。
それを寺山修司が翻案し、1981年に舞台化したものが『さらば箱舟』。
それを更に1982年に映画化したものの、原作権問題で揉めて公開出来ず。寺山修司の死後、1984年に公開されている。
今作はタイトルこそ同じだが、ほぼ全く別の新作だろう。

ちなみに黒木本店のプレミアム焼酎『百年の孤独』は、文学好きの四代目がガルシア=マルケスに電話で直談判して許可を得たと云う。

上手サイドに生演奏の川崎テツシ氏。その後ろに黒子のプロデューサー(?)が台本片手に座っており、彼の背中に触れることでBGMのオン・オフを指示。MIDIキーボードとギターでアンビエント・ミュージックを奏で続ける。

衣裳(西本朋子さん)が近未来風、『アルファヴィル』みたい。何かアマヤドリっぽい意識高い系の演劇。

主演の小林風花さんは低いトーンでモノローグのような抑揚のない台詞を呟く。『青の6号』というOVAアニメのキャラっぽい。
座長役の坂本真氏が若き日の宮崎駿っぽい。
関西弁のめがねさんが随分ベテランの貫禄だったが、23歳の若手だったことに驚いた。
下手な手品を披露する三坂知絵子さん、旦那は新海誠!

劇団のメタフィクションな部分も織り込みつつ、タブーとされた恋愛関係についてもじっと考察するような物語。
この系の演劇が大嫌いな自分にとって、逆に色々と考える時間になった。

ネタバレBOX

認知症になった父は全く意味の解らない言語で喋るようになった。言語学者である主人公は、何とかその意味を解き明かそうとする。父は死に、この言語は創作したものではなく、かつて存在したが失われた言語なのではないかと考える。幾つかの解読した言葉。「自分はお前の父ではない。本当の父母は別にいる。」
仕事を依頼されオーストラと云う滅びた街に向かう主人公。街は海に沈んで全てが消え去っていた。そこで会った男女のいざないで、時間を遡行して過去のオーストラに辿り着く。
旅芸人の一座がオーディションをやっていて、そこに潜り込む主人公。自分を産む前の母親に出会う。すでに妊娠している母、父親は果たして誰なのか?

いとこ同士(近親)で結婚すると呪われて奇形児が産まれる為、禁忌とされている地域。愛し合った二人は故郷を捨てて自ら新しい街を築く。だがその末裔もいとこ同士で愛し合ってしまう、永久に巡る因果。

オシャレな衣装、オシャレな台詞、オシャレな空間。観客はカフェ巡りのように、オシャレなムードを味わう。誰もコーヒーに口をつけようとはしない。そこが凄く演劇の核となる部分。

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