
くちづけ
タクフェス
サンシャイン劇場(東京都)
2025/11/28 (金) ~ 2025/12/07 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★
冒頭、ワイドショーでのニュース映像が流れる。宮根誠司氏がキャスター。漫画家、愛情いっぽんさんの娘が遺体で発見。警察は自殺と事故の両面で捜査中。
埼玉県本庄市、開業医の浜谷健司氏は自腹で知的障害者自立支援の為のグループホーム「ひまわり荘」を運営している。妻の鈴木紗理奈さん、娘の宮城弥生さんは家族ぐるみで協力。世話人(家政婦)として働く小川菜摘さん。新たに住み込みのボランティアとして金田明夫氏がやって来る。障害のある娘のマコ=石田亜佑美さんを連れて。金田明夫氏は30年前、愛情いっぽんという名で売れっ子漫画家。ヒット作「長万部くん」は未だに根強い人気。「ひまわり荘」で暮らすうーやん=宅間孝行氏、下川恭平氏、久井正樹氏、町田萌香さん(軽度の知的障害がある181cmの長身モデル。今作はオーディションに訪れた彼女との出会いに運命を感じ、役を新たに作ったそうだ)。
うーやんと人見知りだったマコは次第に妙に打ち解けて仲良くなる。いつしか結婚の約束まで。
うーやん役の宅間孝行氏はつぶやきシローとチョコプラ松尾を足したみたい。「〜なんですか?」が口癖。
うーやんの妹、智ちゃんは加藤里保菜さん。可愛い。
金田明夫氏は原口あきまさとヨネスケを足したような感じ。
石田亜佑美さんは元モー娘。。
ギャルの神月(こうづき)柚莉愛さんは憎まれ役を一手に担う大変な役回り。
タウン誌の編集者は松本幸大氏。
優しい警察官は上田堪大(かんだい)氏。見せ場あり。
映画化もされた宅間孝行氏の代表作。金田明夫氏&宅間孝行氏オリジナル・キャストでやるのは今回が最後とのこと。
是非観に行って頂きたい。

あたらしいエクスプロージョン
CoRich舞台芸術!プロデュース
新宿シアタートップス(東京都)
2025/11/28 (金) ~ 2025/12/02 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
久我美子の『また逢う日まで』ネタだと何故か勝手に思っていた。(実際には日本初のキスシーン映画は『はたちの青春』だそうだ)。
舞台上はドレッシングルーム。幾つもある可動式クローゼットには沢山の服が掛けられている。役者がやって来てそれぞれメイクや着替えを始める。金子侑加さんは噛んでいたガムを捨て口紅を塗る。浜崎香帆さんがルームウェア風ミニスカートを履こうとして客席に目を遣り、舞台前の白い幕を閉めてスタート。演出家得意の見立てが炸裂するステージ。全てが見立て、物はない。舌をコッコッと皆が鳴らす。それがいつしか雨音となる。
生演奏の島田大翼(だいすけ)氏は凄腕。CDかと思った歌声が生だった。
浜崎香帆さんは元女子プロレスラーの愛川ゆず季っぽい。
撮れない映画を気持ちだけでも撮ろうとする話。撮ることが決して叶わないことは解っているのにその行けるギリギリにまで近付きたい、みたいな。叶わぬ夢が叶わないことを知っていて尚夢見る人間の性。無理を承知で夢想する。その気持ちに意味が生まれる。人間はその物でなく、それを欲しがる人々の感情に突き動かされる生き物。

カタブイ、2025
名取事務所
紀伊國屋ホール(東京都)
2025/11/28 (金) ~ 2025/12/07 (日)上演中
予約受付中実演鑑賞
満足度★★★★
素晴らしい傑作。現在の沖縄を舞台にどんなドラマが展開できるのか予想もつかなかったが納得の脚本。三上智恵監督のドキュメンタリー映画『戦雲(いくさふむ)』にも通じる内容。
升毅(ますたけし)氏がシリーズを通じる主人公、杉浦孝史75歳を演じる。大学時代の恋人、石嶺恵75歳は佐藤直子さん。娘の石嶺智子は古謝(こじゃ)渚さん。孫の石嶺葵は宮城はるのさん。その恋人の陸上自衛隊員、中村悠太に山下瑛司氏。彼の母親、中村敏江に馬渡亜樹さん。町の名士(?)、池原実に当銘由亮(とうめよしあき)氏。
自衛隊員と反基地運動の活動家との邂逅。
『戦雲』でも自衛官と県民との対話がある。県民の根強い不信感に自衛官は答える。「軍が県民を守らなかった前の戦争の過ちを教訓として我々は県民の為に行動します!」
馬渡亜樹さんは体育会系女子。動きや受け答えがハッキリしている。
古謝渚さんと宮城はるのさんは何となく顔立ちが似ていて母娘にふさわしい。
古謝渚さんはどことなく鈴木紗理奈みたいにくっきりした顔立ち。
宮城はるのさんはある種の天才だろう。全く演技を感じさせず自然に素の感覚を出せる。ちょっと松田聖子っぽくも見えた。
三線(さんしん)による演奏と琉球舞踊の優雅さ。「ヒヤミカチ節」が始まると、カチャーシー(祝宴の最後に皆で手を振り上げて自由に踊ること)が外にまで出て延々と続く。『焼肉ドラゴン』を彷彿とさせる名シーン。「ヒヤ ヒヤ ヒヤヒヤヒヤ ヒヤミカチウキリ」(「えい」と言って奮い立とう)。ヒヤ=えいやっ!
ジーマミー(落花生)豆腐=芋餅に近い。
オスプレイが頭上を通る轟音が凄まじい。これが日常か。
戦後の人々の再生に歌と踊りがどれだけ力になったことか。ただの現実逃避だけではない。人の心の再生に力を貸す。
こうなるとカタブイ全3作一挙上演なんかを期待する。
是非観に行って頂きたい。

彼方の島たちの話
ヌトミック
シアタートラム(東京都)
2025/11/22 (土) ~ 2025/11/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『ガラスの動物園』が衝撃的だったのでヌトミックにも興味を持った。観ていてNOKKOみたいに派手に踊る女優(原田つむぎさん)がローラだったことに気付いて驚く。東野良平氏の登場で盛り上がったが作品をぶち壊すまでにはいかず。凄く伝え辛い感覚をいろんな方法を模索して無理矢理表現しようとした作品。自問自答しながら途中で打ち消したり話をやめたり、ギターを爪弾いたりディストーション・ノイズを起こしたりやめたり、親子の関係性を謝ったりやめたり、忘れていたことを思い出したりやっぱり否定したり。Public Image Ltdの「Fodderstompf」を聴いた時の感覚。

フルモデルチェンジ
劇団フルタ丸
STスポット(神奈川県)
2025/11/28 (金) ~ 2025/11/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
客入れSE、N'夙川BOYS「プラネットマジック 」がBARBEE BOYSみたいで良かった。中山うりカヴァーの「月の爆撃機」も。
政府の関与する自己変革プログラム、治験モニターとして3人が参加。十日間、マンションのような施設に閉じ込められて暮らす。演者各々キャスター付きの演台と張扇のような物を持つ。一日一つのお題が出され、それぞれ音読し考える。各人、他の二人の観察日記を付けなくてはいけない。
篠原友紀さんは学校の教師、いつも他人と自分を比べて回る。
山田伊久磨氏はTVのプロデューサー、バラエティ担当。自己啓発本マニア。パエリア好き。
真帆さんは「絶対に変わらなくては」と強い決意。流されやすい弱い性格を変えなくては。
後ろに英語字幕がずっと流れる。
精神的な話の為、流れるのはアンビエントな曲。これに弱い人は居眠りしそうな雰囲気。自己啓発系の面白さは自分の価値観を変えられるんじゃないか?との期待。世界や人の見え方が変われば面白い。
真帆さんの表情がBARBEE BOYSの杏子っぽい感じがして好感。

一九一四大非常
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2025/11/25 (火) ~ 2025/12/07 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★
流れるのはベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章。どうしようもない宿命のレールの上、粛々とそれを受け入れるしかない人間の群れ。もう変えようのない過去の人々。今それを振り返っている自分も先の世界から見れば同じ存在。逃れようのないレールの上をただ黙々と歩んでいく恐怖。どんどんどろろ、どんどろろ。
1950年代に中東やアフリカで巨大油田が発見、石油の低価格での提供が可能となり、1962年に日本でも石炭から石油へとエネルギー政策が転換。(第三次エネルギー革命)。「黒いダイヤモンド」と称された石炭の時代は終焉。用が失くなれば邪魔なゴミ。それが時代の宿命。
福岡県田川郡にある三菱方城炭鉱は三菱鉱業の主力鉱として栄えた。昇降機で地下270mまで縦坑を降り、そこから横に延びた坑道を掘り進めていく。270mは50階建て高層ビルの高さ。その深さの地底に推定1249人が働いていたと言われる。1914年(大正3年)12月15日午前9時40分、方城大非常(三菱方城炭坑ガス大爆発)。抗内用のトーマス式安全灯に気密不充分の物があり、侵入した石炭粉が引火したものとされる。生存者は僅か18名。
炭鉱夫は身体中を黒く汚す為、何役も兼ねる人は脚にあらかじめ汚してあるシアータイツを着用。顔を汚したり洗ったり大変な現場だ。
小学校の教師役板垣桃子さん。梁瀬農園の娘!チャーミングな眼鏡にのんのような髪型、学校の人気者の可愛らしい先生。
余所者の稲葉能敬氏と妊婦の長嶺安奈さん夫婦。
長嶺さんの妹の大手忍さんと許婚の藤澤壮嗣氏。
瀬戸純哉氏ともりちえさん(実際の夫婦!)は籍は入れていない。二人共腕が立つ。
柴田林太郎氏と川原洋子さん夫婦と姪の井上莉沙さん。
鈴木めぐみさんも流石。夏蜜柑を掻き集める。
炭鉱会社の救助隊中野英樹氏は佐藤允とRINGSの成瀬昌由を足したような苦味。三人の息子が炭鉱に降りている山本あさみさん。半狂乱の母親を収める為、「自分が必ず息子さん達を救出します。」と約束してしまう。気持ちには気持ちで応えるしかない。一酸化炭素の充満する地獄に夏蜜柑の皮を咥えて降りて行く。最早理屈じゃ何も出来ない。神頼みだ。
MVPは中野英樹氏、山本あさみさん、もりちえさん。無論、集団芸術として皆で成立させているのは承知。
中野英樹氏の抱え込んだ無数の痛みと山本あさみさんの無理を承知の足掻き、骨噛み、もりちえさんのいぶし銀の生きる術。
この劇団は皆にどうにか観て貰いたいが、表現しようとするものが文学の地平の為、人によっては消化し辛いだろう。熊井啓映画の貫禄。伝えようと試むものがデカ過ぎる。今こんな劇団があってこんな役者達がこんなことを訴え続けている事実。これは黒澤映画と同じできちんと評価し後世に残さないといけない。こんなもん再現不可能。今、観るしかない。後の世にこんな劇団があったなんて聞かされてもしょうがない。
「ご安全に。」

新版 小栗判官・照手姫
横浜ボートシアター
座・高円寺1(東京都)
2025/11/26 (水) ~ 2025/11/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
客層は分からないがガッチリ詰め掛けていた。当日パンフに英訳も付いていたので外人も多いのかも知れない。伝統芸能を観る感覚なのか?前回観た『犬』の時と全く別の劇団のようだ。個人的に『小栗判官』の物語に妙に惹かれるものがあるので決定版的なものを観たかった。室町時代に成立した『説経節 小栗判官』は1423年に亡くなった小栗満重がモデルとされている。文字の読めない大衆に対し「唱導」は音韻抑揚や節を用いて比喩や因縁話を物語に込め仏教の教理を大衆に説いたもの。更にささらや三味線を伴奏に「説経節」として文芸化された。今作は説経『をぐり』をほぼ原文そのままに使っている。社会の底辺の者達に仏教を説いた人間の声。それを聴いていた幾千幾万もの魂。何百年も語り継がれる声。癩病患者が熊野本宮湯の峰にて再生を果たす物語。この説経節が世間に流布して大勢の癩病患者が奇跡を求めて湯の峰温泉を詣でた。1931年(昭和6年)に癩予防法が施行され強制的に隔離されるまで、湯の峰温泉には癩病患者が利用出来る入浴施設があり、癩病患者専用の宿屋もあった。
「えーいーさーらーえーいー」
仮面劇で皆舞台に立つ時は基本、仮面を付ける。仮面も口が出るもの、鼻と口が出るもの、完全に隠れたものと3種類。インドネシアの仮面舞踊劇ワヤン・トペンを思わせる。見たこともない楽器が上手下手に並び、出番のない役者陣は演奏に回る。スティールパン、ハンドパン、シンギングボウル、複数のボウルが重なっているような奴とかとんでもない種類。赤ん坊の泣き声はあかご笛。マニアには堪らない世界。
作曲と小栗役の松本利洋氏、ちょっと三上博史っぽい。ありとあらゆる楽器を奏でる。
ヒロイン照手、柿澤あゆみさん。ドラムもバンバン叩く。スタイルが良い。
桐山日登美さんの姥の仮面とコミカルな動きは客席から笑いが起きた。姥はバリ面(伝統面)だった。
かわらじゅん氏の甲高い声が効果的。
人食い馬の鬼鹿毛(おにかげ)。
「一引き引いたは、千僧供養、二引き引いたは、万僧供養」。
客席通路を縦横無尽に歩く。劇場に風穴を開け、時空を超えて魂を迎え交流す。あの時のあの時代のあの連中と心が通じ合うその刹那。
次回も観に行く。

新宿八犬伝 第一巻 ー犬の誕生ー
流山児★事務所
Space早稲田(東京都)
2025/11/21 (金) ~ 2025/11/25 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2回目。
騒!乱!情!痴!遊!戯!性!愛!
平井和正(『幻魔大戦』や『アダルト・ウルフガイ』)の原作を唐十郎が戯曲化し、更に石川賢がメチャクチャにコミカライズしたような作品、しかも未完。(雑誌は廃刊)。
リーディングであることを足枷のようにしてみせた演出。台詞を覚えていても敢えてリーディングであることに拘らないといけない。逆説的。
去年の冬の新宿を襲った大火、風俗嬢が何人も犠牲に遭った。傴僂のV・銀太氏がピンサロ嬢(真田雪さん)とプレイ前、たぬき蕎麦の出前を取る。突然化物に変身し(犬の口吻を付けて)子宮を噛み千切る。死体は窓から下界へと落ちてゆく。
山丸莉菜さんは失踪した獣医の旦那の捜索を探偵フィリップ・マーロウ(上田和弘氏)に依頼。事務所には秘書のシャロン(荒木理恵さん)。警部(木下藤次郎氏)は連続子宮切り裂き男を追っている。上田和弘氏は内藤大助似。
ホスト軍団(兼焼肉屋経営)・バイキングと手コキ風俗嬢・深海魚の軍団がいつものように喧嘩。横断幕のようなカンペを皆で向かい合って読みながら怒鳴り合う。ホストの親玉は男装の麗人・皇帝ルドルフ(伊藤弘子さん)。テーマ曲は『風と共に去りぬ』、イメージはレット・バトラー。風俗嬢の親玉はモモコ姫(神原弘之氏)、アンドロジナス(両性具有)。
ヒロイン山丸莉菜さんが適役。失踪した夫を捜す、左目に眼帯をした若奥様、これだけでほぼ満足。劇中歌も良い。グラスに入ったバーボンの中で赤犬が何かを探し続けて彷徨っている。自分の尻尾をその何かと間違えてくるくるくるくる回り続ける。遠吠え。
雲子役橘杏奈さんが体調不良で降板、代役は演出の小林七緒さん。前回観た橘杏奈さんはド迫力だった。
珍子役向後絵梨香さんはホスト共の話を枝毛のチェックでガン無視。
安子役高信(たかのぶ)すみれさんは妙にエロい。
ヴァギ菜役山川美優さんは星井七瀬とだぶる。
レバ刺し役里美和彦氏は色気がある。
ユッケ役本間隆斗氏は万有引力に似合いそう。
ビビンバ役の達(徳永達哉)氏はユライア・フェイバーみたい。
クッパ(山下直哉氏)とヴァギ菜(山川美優さん)は『ロミオとジュリエット』のよう。
キリシマ役V・銀太氏は存在が映画的。
伊藤弘子さんと神原弘之氏が登場すると常連客がどっと沸いた。
面白いんだか面白くないんだかさっぱり判らないが観に行って良かった。山丸莉菜さんの復帰により、流山児★事務所の八犬士は出揃った。誰も顧みない場末の小劇場から世界を変革する狼煙が上がる。

真夜中に挽歌
Y.T.connection
上野ストアハウス(東京都)
2025/11/20 (木) ~ 2025/11/24 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
文学座から『太陽にほえろ!』の主人公に抜擢されてブレイクした若き松田優作。多忙な裏で同期を集めて劇団F企画を作演出で主宰。劇団解散後も、3本の舞台を個人プロデュース。朴李蘭名義だった為知る人ぞ知る話。文学座付属演劇研究所12期生の同期であった野瀬哲男氏とは一生を通じて付き合う兄弟のような関係。1978年11月初演の今作は唯一脚本が残っているものだそうだ。当時主演、とおる役を務めた野瀬哲男氏が演出に回る。
松田美由紀さんのビデオメッセージからスタート。松田優作の唯一無二の魅力はエネルギーだと話す。彼よりも演技が巧い人、ルックスが良い人は幾らでもいるが、彼のようなエネルギー、人に何かを伝えようとするエネルギーが溢れているような人はいないと。自分が松田優作に夢中になったのもそれかも知れない。作品以上のものを提供しようとする有り余るエネルギー。勝新もそうだけれど100で充分の作品に無理矢理1億ぶっ込もうとする。その溢れ返った余剰なエネルギーに心酔するのかも。
冒頭、松田優作っぽい男(上西雄大氏)が無言でステージから客席へと通り過ぎる。
青森から上京して一ヶ月、自動車整備工場で働く青年
とおる(船津祐太氏)。殺風景な倉庫を改装して暮らしている。鎮座したピカピカのバイク。何処からか船の運航する音が聴こえる。やって来た関東狂走連合京浜支部リーダーのジョージ(徳田皓己〈こうき〉氏)とその情婦ハクラン(世森響〈よもりひびき〉さん)。ディスコで知り合った都会に憧れる田舎もんを食い物にしようと企んでいる。ダセえ世間知らずの素朴な田舎もん、東北訛りの腰抜けに現実分からせてやる。
ジョージ186cm、とおる182cm、モデルの世森響さんと、手脚が長いスタイリッシュなダンスが映える。必殺シリーズを現代に置き換え漫画化した「ブラック・エンジェルズ」みたいなルックス。
映画を判ってる人間の作る舞台。しょぼい嘘がない。安っぽい誤魔化しがない。
場内に流れる松田優作の歌がかなり良かった。これは一度ちゃんと聴いた方がいいかも。
船津祐太氏は魅力的な役者。
是非観に行って頂きたい。

「増える部屋」神奈川公演
Quno(旧:projecttiyo)
STスポット(神奈川県)
2025/11/20 (木) ~ 2025/11/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開演前は客席に強いライトが当てられていて舞台がよく見えない。始まると色とりどりのシーツや布が天井から何枚も垂れ下がっている。どうやらこれが沢山の部屋を表現しているようだ。レイヤー(階層)が奥行きとして積み重なっていることをカーテンで表現。雑然と枕やらクッションやらタオルやら洋服やらがそこらここらに散らばっている。時折、突然シーツに投影される「うたビデオ」。ウクタ(北みれいさん)が自撮りしたその時々の気持ちを切り取ったもの。ウクタの瞬間のその気持ちが脈絡なく呟かれる。
西奥瑠菜さんと薮田凜氏の二人芝居。北みれいさん演じるウクタが自分の住んでいるシェアハウスに二人を呼ぶ。三人は大学時代の友人。
西奥瑠菜さんはイベントコーディネーターだが自分の言葉や思いがどうも上手く伝えられず企画はなかなか通らない。
薮田凜氏はコンサル会社勤務でタワマンを買うのが夢。会社の不正の証拠である書類の処分を頼まれて何処かに隠さないといけない。今日が28歳の誕生日。
ウクタの頼みはどっかに行っちゃったシベリアンハスキーの縫いぐるみを見つけて欲しい。増設されていった奇妙な作りの家の為、迷宮のようになっていて何処が何処だか分からない。二人はここが本当にウクタの部屋なのかも分からず住民に確認しようと辺りをうろつく。部屋なのか廊下なのか仕切りも曖昧なラビリンス。いつのまにか誰かの部屋にいて謝罪し、いつのまにか誰もいない部屋で取り残されている。
いろんな人間に出会うのだが互いによく分からないまんま。西奥瑠菜さんと薮田凜氏がひたすら別人役をやり続ける。変装もせずにそのまんま。それが不自然じゃないのが面白い。
妙な面白さ。感触の世界。二人が魅力的。
是非観に行って頂きたい。

THIS HOUSE
JACROW
新宿シアタートップス(東京都)
2025/11/19 (水) ~ 2025/11/25 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
T.REXの「Get It On」の合唱からスタート。
Get it on, bang a gong, get it on
ヤろうぜ、ゴングを鳴らせ、ヤろうぜ。
よっぽどグラム・ロックが好きなんだな、と思っていたがデヴィッド・ボウイの「Rock ‘n’ Roll Suicide」も「Five Years」も戯曲の指定だそうだ。
1974年2月イギリス総選挙にて労働党が政権を握る。全635議席(過半数318議席)中、労働党301議席、保守党297議席、その他36議席。法案を通すには常に少数政党の協力を仰がねばならないギリギリの事態。院内幹事=執行部はあの手この手で政権の維持を図る。
谷仲恵輔氏から幹事長の後継者に指名された熊野善啓氏は労働党政権を維持する為に試行錯誤し苦しみ抜く。自分の器に余りある仕事、だが泣き言を言っても誰も助けてはくれない。次から次へと造反、スキャンダル、病気···、トラブルの雨あられ。
保守党(俗称・トーリー党)、党のカラーは青。中流階級出身が多数。
佐藤貴也氏、今里真氏、小平伸一郎氏。
労働党、党のカラーは赤。労働者階級、労働組合出身が大多数。
谷仲恵輔氏、狩野和馬氏、熊野善啓氏、芦原健介氏、福田真夕さん。
ユージュアル・チャネル(Usual channels)=「通常の経路」と隠語で呼ばれる非公式の取り引き。与党と野党の院内幹事が議会前にするオフレコの打ち合わせ。これがあることで最低限の信頼関係が得られた。
ペアリング(Pairing)=重要な採決に参加出来ない議員がいた場合、ユージュアル・チャネルで互いの欠員数を揃えるように調整する非公式の取り引き。
奇矯な発言と突飛な行動で世間を混乱させる三原一太氏。山里亮太や鈴木もぐらっぽいか。
病身を押し老体に鞭打ち、党に身を捧げる大竹周作氏は大泉滉や本田博太郎っぽい。
どこの国でもやってることは一緒。所詮人間。
是非観に行って頂きたい。

狩場の悲劇
ニ兎社
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2025/11/07 (金) ~ 2025/11/19 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「妻は夫に殺された。妻を殺したのは夫。」
オウムが呪文のように繰り返す。
1884年、24歳のアントン・チェーホフが書いた唯一の長編推理小説。当時はモスクワ大学医学部を卒業し医師になる頃。戯曲で成功するのは1889年。
1880年のある夜、モスクワの新聞社に不意の来客、居眠りをしていた編集長(亀田佳明氏)は驚く。元予審判事(検察官と裁判官の一部を兼ねるような職業)セリョージャ(溝端淳平氏)は三ヶ月前に渡した自作の小説の採否を聞きに来たと。編集長はそんな事忘れていたしそもそも読んでさえいなかった。原稿を返そうとする編集長にセリョージャは今ここで冒頭部分だけでも読んでくれと迫る。自分の経験をもとに実際にあった事件を題材にした稀に見る物語なのだと熱弁。無理矢理原稿を読み上げ始めてしまう。
田舎の予審判事、セリョージャのもとに伯爵(玉置玲央氏)からの使い(ホリユウキ氏)が。伯爵とは昔からの悪友であったがここ二年間、彼がこの地を離れていた為セリョージャは静かな生活を満喫していた。また伯爵の屋敷に行けば酒池肉林、欲望に任せた暴力的な快楽に溺れ込んでしまう。理性で必死に抵抗するも気が付けば屋敷の中。沈鬱な顔をした有能な執事ウルベーニン(佐藤誓氏)、長年屋敷に仕える伯爵の元乳母(水野あやさん)、伯爵の傍に立つ見知らぬ謎のポーランド人、プシェホーツキー(加治将樹氏)。森の小さな家屋には精神を病んだ森番(石井愃一氏)が暮らす。その娘、赤いワンピースを着た19歳の美しいオーレニカ〈=オリガ〉(原田樹里〈きり〉さん)。「私の好きな五月初めの雷雨!」雷についての不思議な歌を歌っている。母が雷に打たれて亡くなったが落雷死は天国に行けるそうだ。自分もいつか雷に打たれて死にたい。誰をも夢中にさせる森の妖精オーレニカとの出逢いが全ての物語の発端。
セリョージャが原稿を読み始めると舞台上でそのままの芝居が始まってしまう。慌てる編集長。ツッコミを入れながらもセリョージャの小説の世界に立ち会う。
溝端淳平氏と亀田佳明氏コンビは『エロイカより愛を込めて』の伯爵とジェイムズ君の遣り取りみたい。このノリとボケとツッコミが作品を愛すべきものにしている。
玉置玲央氏は使い勝手が良い。どう役柄を振っても成立させてくれる。
原田樹里さんは格闘家のRENAに似てる。
加治将樹氏は見事なキャラ作り。
溝端淳平氏は沢田研二全盛期の色香。これは客を呼べるわ。非の打ち所がなかった。これぞスター。男の自分が観ても夢中になる程なのでその筋の女性には堪らんだろう。溝端氏の歌唱力を知らないが沢田研二役でミュージカルを演るべき。日本の耽美派芸能の歴史を世界に!
是非観に行って頂きたい。

寺山修司生誕90年記念・第2弾レミングー四畳半の天文学ー
演劇実験室◎万有引力
ザ・スズナリ(東京都)
2025/11/14 (金) ~ 2025/11/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
レミングとは北極圏ツンドラに生息するタビネズミ。レミング現象(死の行進)とは個体数が増え過ぎたレミングが本能的に集団で海や川に飛び込んで自殺する種の個体数調整行為のこと。1958年、ディズニー制作のドキュメンタリー映画『白い荒野』で世界的に広まった。だがこれは映画としての面白さを狙ったヤラセであり、実際にはそんな事実はないそうだ···。
今作は寺山修司の最後の演出作品であり天井棧敷の最終作品。「都市とはそこに住む人々の内面を外在化したものである」。この何重もの壁によって他者と隔絶を図る都市は人間の選別と拒絶の象徴。他者を拒絶しないと手に入らない安心。
現実世界の空間は壁によって隔てられているが、壁を無くしてみたところで人間一人ひとりの自意識が壁となって他者を遮る。そこまでして壁を作り守ってきた自身の内面とは実は空っぽ、無であった。人間は無に固執して自我を保つ。実はその執着こそが人間の形そのもの。個人的妄想を守り安心を得る為に必要な壁。
髙橋優太氏、中華屋コック見習いのワン(王)。
小林桂太氏、中華屋コック見習いのツー(通)。二人はアパートに同居している。
髙田恵篤氏、ワンが床下に隠して住まわせている母親。この時代、要らなくなった高齢者は回収業者に引き取られる。見つかって処分されることを恐れて匿っている。サザエさんカット(=モガヘアー)を頭の上にタワシ3個乗せることで再現。キャラが麿赤兒氏そのもの。(2015年のPARCO制作版ではまさに麿赤兒氏が演じていた)。
ある日、突然部屋の壁が無くなりアパートは筒抜けに。パニックになる二人。
隣室に住むのは望遠鏡を持った𫝆村博氏と顔の右半分に大きな赤い痣がある山田桜子さんの兄妹。だが壁が無くなった事には気付かない。(興味を示さない)。山田桜子さんは金星人と交信していると信じている。眠る彼女を夜な夜な性的に悪戯する兄。
いなくなったアパートの住人、出口氏のエピソードが語られていく。
沢山の妄想が世界を侵食していく。誰の話も自分に都合のいい嘘ばかり。無論、俺の話もそうさ。
セーラー服姿の前田倫さんが大きな本を片手にうろついている。口ずさむ歌が綺麗。
「世界の涯てまで連れてって - Come down Moses」(モーゼよ山から降りて来い)
Come down Moses ろくでなし
Come down Moses ろくでなし
take me to the end
to the end of the word
take me to the end
to the end of the word

くまむく~閻魔悪餓鬼温泉騒動記~
カムカムミニキーナ
座・高円寺1(東京都)
2025/11/13 (木) ~ 2025/11/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
和歌山県の熊野温泉。湯治で長期逗留の松村武氏、吉幾三みたい。
まだ赤ん坊だった頃、猟師の母親(長谷部洋子さん)が目を離している隙に熊に襲われる。泣き出す赤ん坊の声に熊は殺すことをやめた。すかさずその熊を撃ち殺す母親。それからずっと松村武氏は自分を殺さず生かしてくれた熊の恩に報いたかった。ある日、青年オグリ(夕輝壽太〈じゅった〉氏)を見かけ、彼こそがあの時の熊だと確信する。魂の転生。誰も信じてはくれないだろうが間違いない。そして彼の口ずさむ唄はあの日の母の子守唄。彼を守ることに生涯を捧げようと決める。
熊のヴィジュアルが劇団鹿殺しっぽい。手にぽっくりを付ける。
温泉宿の若女将、北久保実佑さんは松井玲奈っぽい。娘の桜木雅さん。東京から来ている客、女優の藤田記子さん、付き人の小宮夏奈子さん。
客席三面、延びた通路が四角を囲むステージ。低くなった四角部分が温泉になったりする。

再生ミセスフィクションズ3
Mrs.fictions
武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)
2025/11/13 (木) ~ 2025/11/17 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
劇団の掲げる「人と人とは出会わなくてはならない」とは強烈な理念。
開場するとステージ上に岡野康弘氏が立っている。右腕は毛皮と巨大な蟹の鋏、長い尻尾が生えている。ゲルショッカーによって生み出された合成怪人か?宮内洋と永野をフュージョンしたような男。撮影可(動画不可)。
①『私があなたを好きなのは、生きてることが理由じゃないし』
初演「15 Minutes Made Anniversary」2017年8月
主人公、川鍋知記氏は冒頭既に死んでいる。臨終に居合わせた恋人の熊野ふみさん、母親の久保瑠衣香さん、父親の長井健一氏(秋元康似)の物語。
②『Yankee Go Home(ヤンキー母星に帰る)』
初演「15 Minutes Made Volume8」2010年4月
ヤンキー中学生、風邪を引いている井澤佳奈さんの家が溜まり場。ヒロシエリさんのヤンキー・キャラには感心した。使えない後輩、みしゃむーそさん。皆に崇拝されているヒカル(亀田梨紗さん)は人間じゃない。紅夜叉っぽい。
③『ミセスフィクションズの祭りの準備』
初演「15 Minutes Made Volume12」2015年7月
急遽代役となった大宮二郎氏と片腹年彦氏による『男たちの挽歌』。自分達が駄目じゃないことを証明してやるよ。
④『ミセスフィクションズのメリークリスマス(仮)』
初演「15みうっちMade」2012年12月
ミセスフィクションズのブルジョワ階級三人組、主宰の今村圭佑氏、俳優の岡野康弘氏、作演出の生駒英徳氏(現在は脱退)による労働者階級への幸せのお裾分け。
⑤『ハネムーン(仮)』
2007年未発表
作演出家の岡野康弘氏が客席に頭を下げる。この舞台は上演出来なくなりました。
5篇の短編集。
何だかこの作家、中嶋康太氏のやろうとしている感覚が伝わった。一つの曲を演奏している。だから長篇が余り好きじゃないんだろう。シチュエーションと登場人物の心象風景がリズム。役者はそれぞれの楽器。遣り取りや展開はメロディーとコード進行。台詞が歌詞で伝えたい内容は『また会えたらいいね』。②の作品内の台詞だと「また会えるといいね」。
是非観に行って頂きたい。

トミイのスカートからミシンがとびだした話
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2025/11/11 (火) ~ 2025/11/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
娼婦の流転記と云えば『にっぽん昆虫記』のような作品を想像するが今作はもっと明るく元気。岡本喜八の初期作みたいにカラッとしている。娼婦じゃなくストリッパーだが、作品の雰囲気は『カルメン故郷に帰る』か。井上ひさしの『日本人のへそ』も想起。戦後、パンパンから足を洗った女性から見える世界。
戦後の混乱期、パンパン(売春婦)で貯めた金で当時高級品だったミシンを購入、足を洗って田舎に帰る富子、通称トミイ(大田真喜乃さん)。パンパン仲間と元締めのヤクザの下っ端、流しのギターや顔馴染の刑事なんかが送別会。股ぐらでせっせと稼いだ金がミシンに化けたのだ。男の一人がからかう。「まるで『トミイのスカートからミシンがとびだした話』だな。」
空襲で両親を失ったトミイと弟(森唯人氏)、妹(田村良葉〈かずは〉さん)は提灯屋の伯父(和田壮礼〈たけのり〉氏)、伯母(向井里穂子さん)の家に世話になっていた。東京で成功して地元で洋裁店を開くトミイを皆が歓迎する。新聞記者が取材に来る。敗戦から落ち込んだままの日本を希望の明るい灯りで照らしたい。女一人で成功したニュースが皆を勇気づけるかも知れない。断るトミイだったが無理矢理記事にされてしまう。
東京でパンパンをやって金を稼いだことが写真付きで週刊誌に載る。陰口嫌がらせ落書き誹謗中傷、真面目な弟はグレ出し妹は精神を病む。伯父はトミイを性的な目で見始め、夜這いを繰り返す。この辺り『どですかでん』っぽい。地元の悪ガキの一人、中島一茶氏はカズレーザー系。
地元に居られなくなったトミイは職を転々とする。衛生博覧会で踊る。優しかったパンパン仲間の律子姉(辻坂優宇さん)の言葉を思い出す。「何処にも居られなくなったらいつでもここに戻っておいでよ。」
大田真喜乃さんは面白い女優。物語が進めば進む程魅力的に。サバサバしたトミイのキャラが立ってくる。信仰もしていないのに教会に通って祈る。『罪と罰』のソーニャなんだろうな。細かいことはどうでもいい。大事なことだけ間違えなければ。
現代ならAV女優が引退して帰郷したらSNSで情報を拡散されるような話。堅気の仕事に就こうとしてもずっとネットストーカーに付きまとわれ身元をバラされてしまう。それでも何とか幸せに向かって生きていこうと思う。真っ直ぐな前向きな心だけが自分の武器だ。
THE STAR CLUB 「THE WORLD IS YOURS」
苦境に瀕した時 頼りは悪運だけ
後戻りは不可能 覚悟してやったぜ 信じる事さ
是非観に行って頂きたい。

『はりこみ』
殿様ランチ
駅前劇場(東京都)
2025/11/12 (水) ~ 2025/11/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
強盗殺人容疑の主犯が逃亡中。立ち寄りそうな場所ということで元交際相手(今泉舞さん)のマンションの向かいの空き室を借りて刑事達が張り込む。服部ひろとし氏、こくぼつよし氏、相樂孝仁(さがらこうじん)氏。女性の行動を監視する為、彼女の足繁く通うフィットネス・スポーツジムに潜入する刑事(大井川皐月さん)。ジムのオーナーでトレーナーでもある小笠原佳秀氏は女性会員の憧れの的。彼に夢中のはてなさんは半分ストーカー。更なる新人刑事の応援も入り混沌とする現場。
応援に入る斉藤麻衣子さんは正義感が異常に強い女刑事。父親も刑事だったが殉職。独特なファッションセンス。
発達障害の松田龍平みたいな原住達斗氏は父親が大物のキャリア組。
彼の指導を任された園田裕樹氏の困惑。
小笠原佳秀氏は武田修宏っぽい。
警察病院のカウンセリング・アドバイザー、篠原彩さん。この人が裏のMVP。ソフトな受け答えがプロ。
鶴町憲氏はロバート秋山のようなキャラで『絶対に笑ってはいけない』シリーズを彷彿とさせる。
張り込みを続けるマンションの部屋のセットがよく出来ている。前の住人が出て行ってまだハウスクリーニングも済んでいない。跡がある壁紙や妙な生活感。
テンポの良い笑いで会場が沸く。板垣雄亮氏独特のセンス。人物の内面の掘り下げに興味があるのだろう。着眼点がオリジナル。
是非観に行って頂きたい。

陽炎座
花組芝居
博品館劇場(東京都)
2025/11/11 (火) ~ 2025/11/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「あやめ十八番」を観ていると「花組芝居」を観なきゃいけない気になる。一度は観ておこう、でも歌舞伎か···、難しそうだな。
人通りのない静まり返った町の寂し気な横丁、何やら聴こえて来る鳴り物の音。何かやっているみたいだな。その音に誘われた一人の男、里神楽の狂言方(作家)である小林大介氏。同じく背広を着込んだ紳士・丸川敬之氏と着物姿の美しい女(ひと)、品子(永澤洋氏)。こんな所に芝居小屋?義太夫、長唄、囃子が揃い、狐(桂憲一氏)、狸(黒澤風太氏)、猫(髙橋凜氏)が踊る。「迷子の迷子の迷子やあい」。探している迷子の名前を聞くと「迷子の迷子のお稲(いな)さんやあい」。享年19の亡くなった娘らしい。その名に覚えがある小林大介氏、そして品子。死んだ娘をどうやって見つけるというのか?帰りたがる丸川敬之氏、筋の先を知りたがる品子。
鈴木清順の『陽炎座』しか知らなかったが、元はこんな話だったとは。非常に面白い芝居。芸に色気がある。次回作も観たい。
是非観に行って頂きたい。

さらば黄昏
阿佐ヶ谷スパイダース
小劇場 楽園(東京都)
2025/11/08 (土) ~ 2025/11/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈Ver.B〉
人口500人程の小さな町、踊田(おどりだ)。駐在所に暮らす定年間近の警察官、中村まこと氏。新たに赴任して来た若手、大久保祥太郎氏。町役場の長塚圭史氏。
背景は水墨画のような山の稜線が壁やブラインドに跨って描かれているもの。
MVPは志甫(しほ)まゆ子さん。オープニングから強烈。どんどん話に熱がこもり、いつしか「楽園」の観客にまで話し掛け同意を求める。圧倒的話術で観客は虜に。
そして中村まこと氏と村岡希美さんのワードがなかなか出て来ない掛け合いトーク。アドリヴのように見えるがきっちり脚本なのだろう。もう芸だな。
観客の想像力を刺激する構成。阪本順治の『トカレフ』みたい。
是非観に行って頂きたい。

存在証明
劇団俳優座
シアタートラム(東京都)
2025/11/08 (土) ~ 2025/11/15 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ミステリー好きなら堪らない傑作。海外戯曲だと思っていたが長田育恵さんのオリジナルとは!眞鍋卓嗣氏の演出も冴え渡る。(場面転換のタイミングが決まる)。そして杉山至氏の舞台美術がMVP。背景は直方体で組まれた無機質な壁面。これが収納家具のように引き出されると、忽ち別のセットに早替り。いろんな美術が様々な場所に仕込まれている。トランスフォーマーのような見事さ。黒板にチョークで数式を書き付ける音が響き渡る。
素数について前知識があった方が楽しめる。今作に入りにくい人はそこで躓いていると思う。素数とは自然に存在する数字。その他の数字は素数の合成数である。例えば2、3、5、7は素数であるが4、6、8、9は合成数。4(2×2)、6(2×3)、8(2×2×2)、9(3×3)。素数とはそれ自体で独立しているオリジナルな存在。ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンが1859年に立てた仮説「リーマン予想」。素数の出現に規則性があることを予想した。(166年前の仮説が未だに解明されず、証明できた者には100万ドルの賞金が付けられている。更に現在、素数の分布は量子力学における量子カオスのランダムな数値と類似していることが判明。この解明は物理学にまで波及することに)。
主人公は保(たもつ)亜美さん。1977年、精神病院で働く炊事婦。院長(河内浩氏)と理事長(安藤みどりさん)に呼び出され、ある患者(椎名慧都さん)から話を聴き出すことを頼まれる。彼女が選ばれた理由は、父親が高名な数学者ジョン・エデンサー・リトルウッドだった為。
1911年、ケンブリッジ大学のフェロー(研究員)である数学者、ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ(志村史人氏)。人付き合いが悪く頑迷偏屈な男。ある夜、真逆のクリケット選手でもあるスポーツ万能で快活なフェロー、ジョン・エデンサー・リトルウッド(野々山貴之氏)と出会う。クリケットの熱狂的ファンであったハーディはリトルウッドに興味を持つ。二人は共通の課題である「リーマン予想」について夜通し語り合う。この二人だったら世紀の難問も解ける気がした。
二つの年代が同時進行する面白さ。素数の謎を解き明かし、この世界の摂理を我が物とせよ。
雰囲気はショーン・コネリー主演の『薔薇の名前』なんかを思い出した。『イミテーション・ゲーム』というベネディクト・カンバーバッチがアラン・チューリングを演じた作品も思い返していたら、ズバリ、アラン・チューリングも登場する。
志村史人氏は姜尚中(カン・サンジュン)っぽくカッコイイ。 インテリの色気。
野々山貴之氏は市川猿之助っぽい。
こういうのが観たかった!観ているだけで頭が良くなるような錯覚。数学で世界を宇宙の真理を解き明かし、人間の知性の辿り着ける最果てまで行こう。
是非観に行って頂きたい。