ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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Flowering Cherry

Flowering Cherry

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2026/04/15 (水) ~ 2026/04/23 (木)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

金を払うに値する高レヴェルの芝居空間。古典的名作とされるだけの強さがある。台詞の遣り取りで語られる一つ一つのエピソードが目に浮かぶ。

『アラビアのロレンス』、『ドクトル・ジバゴ』、『ミッション』等の映画で世界的な名声を得た脚本家ロバート・ボルト。彼の出世作となった舞台『花咲くチェリー』は1957年11月20日初演。日本では1965年、文学座で初演。北村和夫が400回主演してライフワークとさえ呼ばれた。(最後となった2004年の地人会公演では主演北村和夫、奥さんベル役に八千草薫さん!)

1957年の初春、ロンドン郊外に住む一家の物語。旅行保険のセールスマンから管理職に出世したジム・チェリー(加藤健一氏)にはずっと夢があった。いつか故郷のサマセット(イギリス南西部地方)に戻り、リンゴ園を経営すること。生家がそれを生業にし、満ち足りていた黄金時代の記憶。
妻のイゾベル=ベル(山本郁子さん)、20歳で結婚して25年夫に尽くしてきた。
徴兵の近いT・S・エリオットを愛読する生意気な19歳の息子、トム=トーマス(澁谷凜音〈りん〉氏)。
デザインのセンスで特待生候補の女子高生、ジュディ(小田あかりさん)。

ジュディの憧れで、卒業したら一緒に部屋を借りて住む約束をしている学校のスター、キャロル(菊地歩さん)。
ジムの同僚で気の優しい友人、ギルバート・グラース(林次樹氏)。
突然の来訪者、デイヴィッド・ボウマン(浅井伸治氏)。

浅井伸治氏は内田健介氏を思わせるノリで笑いをかっさらう。
澁谷凜音氏はメンタリストのDaiGoっぽい。
山本郁子さんは森光子の面影を。
加藤健一氏は舘ひろしと三船敏郎を足したような苦み走った魅力。

シードル(リンゴ酒)と言うよりもスクランピーの入ったミニ樽が家に鎮座している。(スクランピーとはイギリス南西部地方で飲まれるリンゴ酢に似た味の強烈なシードル)。これをガブガブ飲む姿が実にいい。

黒澤映画を観ているような面白さ。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

メチャクチャ好きなエピソードがジムの少年時代のリンゴ園での思い出。洞穴のような真っ暗な小屋に住む怪力無双の大男、デシー・ビショップ(?)。馬を肩に担いで歩き、太い火掻き棒を腕の力でねじまげて輪っかにしてしまう化物。荒くれ者ばかりの農夫の中で一際飛び抜けた英雄。こんな汗と力だけの神話のような世界でそんな男達になることに憧れたガキの頃の自分。

ベルがジムの夢を叶えてやろうと後押しする。この人は自分の夢を我慢して生きてきたから駄目になったのであって、本当にやりたいことをやらせてやれば望んでいた幸福に辿り着ける。その為に全てを捨ててもいいと思う。だが現実のジムは夢が実現することに怯えて逃げ惑う。ベルはその姿に心底落胆する。自分はこの男の何を信じて愛してきたのか?そもそもそこには何もなかった。山本郁子さんの名演。

アフタートークでの加藤健一氏の見解として、花は咲くが実がならないという意味でタイトルを『The Flowering Cherry』=『桜』としたのだろうと。英国では実を食べるものをcherry、観賞用のものをJapanese cherry、flowering cherry、Japanese flowering cherryと呼んでいるそうだ。
役者生活56年目の加藤健一氏にとって今作の役作りが今までで一番難しかったと語る。主人公ジム・チェリーは結果的に嘘ばかり口にしてしまう男なのだが、それが意識的なものなのか無意識的なものなのかの判別が難しいと。ただ夢想、逃避として夢を語っているだけなのか、どこかに本気の思いが込められているのか。台詞の一つ一つを吟味したと。
役者の役作りの深さに感心した。プロファイリングのような徹底的な考察と肉付け。役作りにのめり込む俳優はまるで哲学者だ。

黒澤明に『生きものの記録』という作品がある。『七人の侍』で天下を取った黒澤明がその翌年に撮った作品。大不評で興行的にも失敗した。核爆弾、核実験、放射能汚染···、次々に報じられるニュースに下町の工場経営者の三船敏郎は恐怖する。全財産を処分し家族でブラジルに移住して逃げようと独断で決める。冗談じゃないと家族は皆大反対、財産分与の話に。三船は無理矢理にでも従わせようと自分の工場に放火、焼け野原に。財産なんか無くなれば諦めて皆付いてくると思い、良かれとやったことだった。だが家族以外の工場の従業員達の生活はどうなるんだ?と責められる。ハッとその過ちに気付いて三船は平謝り。お前等家族さえ助かればいいのか?と詰められる。土下座して土下座して土下座して···、三船は気が狂う。

今作のラストにそんなものを感じた。
粛々と運針

粛々と運針

iaku

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2026/04/09 (木) ~ 2026/04/19 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★

幾何学的なデザイン。ステージと客席はシームレス。大きな円形の輪っかが天井から吊り下げられている。バックには左右から登る階段と中央の谷間、その上に白く長いシーツが被さってM字を描いている。開演すると円形の輪っかが斜めに降りて来る。階段を登って鄭󠄀梨花(チョン・リファ)さんと林英世さんが左右に腰を下ろし、白い布を手に取り縫い物を始める。チクタクチクタクと。運針=並縫い。輪っかの下りた中央がステージ。その外では椅子に座って出番まで待っている役者達。

中山義紘(よしひろ)氏と佐々木ヤス子さん夫婦の物語。オカマを掘られて首にコルセットを着けている中山義紘氏。夢だった一軒家を建てローン返済の為にもバリバリ働く佐々木ヤス子さんは課長代理38歳。家の周囲で子猫の声がする。猫を見付けたい。中山義紘氏は小動物が苦手で見付けた所でどうするの?と口論になる。変な空気。佐々木ヤス子さんはある相談をする。

花戸祐介氏、鈴鹿通儀氏兄弟の実家。家を出て結婚もしている弟と40過ぎても高校出てずっとコンビニのバイトを続けているだけの兄。母親が膵臓癌で入院、手術が必要。本人は尊厳死を望むと言う。それに肯定的な弟と絶対に許せない兄の口論。

三組の会話が並行して語られる。
佐々木ヤス子さんは38歳設定にしては若すぎる。井上貴子と福田麻貴をフュージョンさせたような感じ。凄く魅力的な女優。
中山義紘氏は村野武範の若い頃みたい。

テーマは「生と死と自分と他人」。ずっと自分のことも含め考え続けてしまうような舞台。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

運針の手を止め、林英世さんが鄭󠄀梨花さんに話すのは実家の川沿いに立つ桜並木の思い出。春に満開の桜が咲き誇り桃色の花びらが風に舞って飛ぶ様。川に降り落ちる花びらを筏に乗り法被を着た職員が笊で掬う風物詩。今では桜の樹は全て切り倒され川にはフェンス。当時の面影の欠片もない。個人的にはこのエピソードが一番好き。

花戸祐介氏が母親に孫の顔を見せてあげたいからと弟に子作りを求める。その論理に無理があってイマイチのれない。(作品展開上の都合みたいで)。

佐々木ヤス子さんの抗弁が光る。世間的に「正しい」とされていることは果たして「正しい」のか?観客が求めるのは所謂「正しさ」のハッピーエンド。それで安心する。だがそれは思考放棄した所謂「正しさ」、現実とは繋がらない。嘘じゃなく本当が欲しいんだ。

生きている人間の世界外にいる存在がチクタクと時間を縫って進めていく。どんな答が出ようが出まいが時間だけは過ぎていく。100%の正解なんて何処にも見付からないまま、小さな選択を繰り返して生きていく。それが正しかったのか間違っていたのかさえもう誰にも解らない。

まだ産まれてもいない鄭󠄀梨花さんの存在が微笑ましい。
母の人生、ガブリと食らう

母の人生、ガブリと食らう

劇団道学先生

吉祥寺シアター(東京都)

2026/04/04 (土) ~ 2026/04/13 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

これは傑作。今年観た中でも抜群。観ていて嬉しくなってニヤニヤしてくる。深井邦彦氏の追求する世界と道学先生の積み上げてきた歴史が融合して新たな地平を見せるビッグバン。『水星とレトログラード』を思わせるシーンもあり、ニヤつく。

きっちり笑いを取りに来る青山勝氏。
藤崎卓也氏のキャラの強さ、無双だな。卑怯。
ただ声がデカいというだけの川合耀祐(ようすけ)氏も素晴らしい。ここはキツイ役どころ。
福田ユミさんはある意味主人公。
松永玲子さんは昨年12月中旬に下駄骨折。そのまま『焼肉ドラゴン』凱旋公演をこなし、入院、手術。今作が復帰公演。松葉杖をネタにする。
かんのひとみさんはいつもながら最高。
最強の布陣で臨んだ戦。

一人暮らしの78歳の老婆がアパートの浴槽で死んでいた。背中を向けて浮いていた。
その娘である長女59歳独身=かんのひとみさん。次女54歳=松永玲子さん、シンママ。三女46歳=福田ユミさん、晩婚。43年前に家を出て行ったっきりの母親。直葬を執り行い遺骨を受け取る。母の暮らした電球が切れたままの暗い部屋でかんのひとみさんはふと思う。ここに住もうと。

今回、観とかないと後悔する。演劇曼荼羅は組み上がった。ここ数年の作品群は今作に結実する。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

松永玲子さんの19歳の娘、川口桜さんの強いキャラ。アパートの隣人・鎌宮彩羽さんといい、化物女優陣に囲まれたプレッシャーは相当なものだろう。後に人生の誇れるステージとなる。

大家夫婦、石川佳那枝さんと中臺(なかだい)広樹氏、かなりの長身。
パチンコ屋の店員、鵜飼拓斗氏29歳のキャラ。
佐藤達(とおる)氏のリアルなDVっぷりにしずちゃんが心配になった。

クライマックスの感動話で宮地大介氏がまとめ上げるところを松永玲子さんが冷淡に振り払う深井邦彦節。感動や感謝は条件反射的なお約束スイッチじゃないんだ、個人個人の人生の積み重ねが培う個々のもの。予定調和の感動ごっこを求めてはいない。もっとそれぞれの日々の生活と通底しているものを。

かんのひとみさんのメラメラ燃える業火。

※部屋の天井に付いた切れた電球をじっと見つめてかんのひとみさんは思う。母には手の届かないこの電球を替えて貰う人もいなかったんだろうな。それが孤独。どこまでも独り。自分で出来ないことは諦めるしかない。自分達を捨てて去って行った母。その孤独ならば共有出来ると思った。孤独は深く暗い井戸の底を恐る恐る覗き見る行為。その向こうに何かがいる。
「万有引力とはひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う」
自分の存在と向き合う為に人は生きている。

「人間は皆、自分のことが一番大事。でも自分以上に大事に思えてしまえる錯覚こそが家族。家族には醒めた心ではなれない。熱情に浮かされた狂気がないと。」的なことを松永玲子さんが熱弁。

案外死んだ人もその辺にいるのかも知れないと思うラスト。もしその辺にいるのならばまた楽しくやろうぜ。
マンマ・ミーア!

マンマ・ミーア!

劇団四季

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2026/04/05 (日) ~ 2026/08/06 (木)上演中

実演鑑賞

満足度★★★

ギリシャ、エーゲ海に浮かぶ小さな島、カロカイリ島。(映画のロケ地となったスコペロス島がモデルらしい)。ドナ・シェリダンはホテル 「Villa Donna」のオーナー、女手一つで娘ソフィを育て上げた。20歳になったソフィは恋人スカイと結婚を決意。ドナは複雑な想い。学生時代、友人のロージーとターニャと「ドナ&ザ・ダイナモス」というバンドを組んでいた程、陽気でエネルギッシュ、パワフルな女。

主人公ソフィ・シェリダンは三平果歩さん。アニメ声優っぽい声。ノリノリダンス。
母親ドナ・シェリダンは江畑晶慧(まさえ)さん。まさかの韓国人、巧い。岡元あつこや渡辺えりのエネルギー。彼女が歌い出すとたちまち世界は持ってかれる。
リッチな友達、ターニャは恒川愛さん。長身173cmの美脚。小林幸子やカルーセル麻紀の面白さ。やたらコミカル。
バーテン、ペッパーは菊池俊氏。ブレイクダンスが強烈。

「マネー、マネー、マネー」がABBAだったとは。
「マンマ・ミーア」、「ダンシング・クイーン」は流石。「スーパー・トゥルーパー」も良い。「ギミー!ギミー!ギミー!」も盛り上がる。この曲のブリッジは凄い。

カーテンコールでミニペンライトの使用がOK。殆どの人が持参している程、大人気。1個1000円でマイクの形。一人で10個以上振っている人も。

ネタバレBOX

第一幕はぼんやり観てた。
第二幕からが面白い。三平果歩さんの「アンダー・アタック」の日本語訳も良い。「ワン・オブ・アス」から江畑晶慧さんのリサイタルのような怒涛のショーが始まる。田中彰孝氏との「SOS」が名曲。鈴木涼太氏との「Our Last Summer」。

ジュークボックス・ミュージカルは何かカラオケ大会みたい。歌の入る必然性がないような。劇団四季独自の棒読みのような丁寧な台詞回しが時々入る。
話は余り面白くない。誰が父親でもDNA鑑定して判明したところで今更何とも思わない。ソフィが結婚式をやめて世界中を旅する展開もよく分からない。だが全員無理矢理ハッピーエンドなのでまあ、いいか···、みたいな。

アメリカ人建築家・サム・カーマイケル(田中彰孝氏)、ドナと別れ婚約者のもとに帰るが結婚を破棄してドナのもとに戻る。だがビルとドナが付き合っていることを知り、諦めて帰る。
オーストラリア人冒険作家・ビル・オースティン(脇坂真人氏)、叔母が遺産をドナに相続させる。
イギリス人銀行家・ハリー・ブライト(鈴木涼太氏)、同性愛者だが唯一ドナにだけ恋をした。
ポルノ

ポルノ

ゴーチ・ブラザーズ

本多劇場(東京都)

2026/04/02 (木) ~ 2026/04/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

坂のやたら多い坂上町、町会議員選挙に立候補した国旗耕二(玉置玲央氏)。弱者の為の政治を掲げ、老人や障害者の為の町作りを訴える。全ての坂をエスカレーターにするだの健常者に過度な負担を押し付ける歪んだ公約の数々。その異常さを感じ取った町民は離れて行き、焦る日々。家に閉じ籠もりっきりの妻の美和子(前田敦子さん)はそんなことより子供が欲しくて堪らない。ある日、国旗耕二はより弱者に寄り添う候補者になる為、一つのアイディアを思い付く。

着ぐるみショーで坂上町を盛り上げようとする地元の劇団(?)「坂上町ファンタスティックス」。
エース格の鳥越裕貴氏。
着ぐるみだけでなく、いろんなオーディションを受けて自分の可能性を試そうとしている藤谷理子さん。
鳥越裕貴氏の大ファンの小野寺ずるさん。

玉置玲央氏はカメレオン俳優。前観た時と同じ人間とは思えない。その尻尾を掴ませない。かなりの所まで成り上がるだろう。
前田敦子さんは161cmのスラッとしたスタイルの良さが際立つ。こういうキャラはお似合い。『町田くんの世界』のヤンキー女とか脇を固めるスパイスとして使うと魅力的。漬物石だとコミカルすぎてもっと視覚的に痛い小道具が良かった。
鳥越裕貴氏は風間俊介みたいに見えた。
藤谷理子さんはどの作品観ても最高。
小野寺ずるさんはシム・ウンギョンっぽい。
岩本晟夢(せいむ)氏は大窪人衛っぽく見えた。
うぇるとん東氏はタカアンドトシのタカ寄せ。胸板が厚くてガタイが良い。

ネタバレBOX

全く脚本が好きじゃない。『まぼろしの市街戦』だとか全員キチガイネタはよくある話。その上での面白さなのだが自分とは笑いのセンスが全く合わない。こりゃ失敗した、と思って観てた。が、後半の藤谷理子さんが素晴らしい。(前半もちょこちょこ気になっていた)。この良さは一体何なんだろう?何でこんなに良いと思うのか?よく分からないが何か彼女観れただけでも行って良かったな、と思えた。
うぇるとん東氏演ずる着ぐるみの精。藤谷理子さんが辞めてから倉庫でずっと放って置かれたまま。脚を折った彼女が治ればまた中に入って貰えるかなと願う。突然、彼女の介助の存在として現実世界に実体化する。また元気になった彼女に生を吹き込んで貰いたい。甲斐甲斐しく世話を焼く妙な純情。ちょっと売れてる芸能人気分に酔っている藤谷理子さんとのズレが面白い。「何でそんなに弱いのよ!」など細かい設定がいい。

ポスターの絵が真鍋博や柳原良平の書く小説の表紙っぽいと思っていたが横尾忠則かも知れない。

江戸川乱歩の『孤島の鬼』は奇形として生まれ差別に苦しんできた男が、息子を外科医にし、さらって来た子供達を無理矢理奇形に手術していく話。ゆくゆくは奇形人間の王国を作ろうとしていた。
そのぐらいイカれてないとこっちは興奮しなくなっている。
クラバート

クラバート

デフ・パペットシアター・ひとみ

シアター・アルファ東京(東京都)

2026/03/27 (金) ~ 2026/03/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

本間智恵美さんの回。

シアター・アルファ東京、2階の受付がメチャクチャ綺麗、美容院かと思った。

開演前、やなせけいこさんが出て来て素体人形の顔を探す。鶴田理紗さん、榎本トオル氏と出て来る。手話を使いながら会話。見付けたお面のような顔を被せるとクラバートと少女になる。
ろう者の榎本トオル氏は何故か腕立て伏せを始める。オーディションで選ばれたろう者の本間智恵美さんは初人形劇、骨伝導イヤホン?を着けていた。そして鈴木文(あや)さん。
5人中、ろう者2人、聴者3人。
基本サイレントで台詞なし、どうしても必要な時は紙に書いた文字が出て来る。面白いのはずっと鈴の音が鳴っていること。やなせけいこさんが構成した音が散りばめられている。下手にフライパンが幾つも下げられメトロノームが3個。上手には台所用品の数々。全て効果音の為の仕掛け。ズボンにぶら下げた鍵束のカチャカチャ音。ずっといろんな鈴の音がチリンチリン鳴り続ける不思議なサイレント。眠気を誘われて寝ている人も居た。夢の中の光景。

門付けや物乞いをしながら旅をして暮らす少年クラバート。彼が辿り着いたのは人里離れた水車小屋。片目の眼帯をした親方、職人頭の赤顔トンダ、赤髪のユーロー、弱い者いじめばかりするリュシュコー。小麦を水車の力で挽いて小麦粉を作る仕事。何も出来ないクラバートはリュシュコーにいじめられるがトンダが不思議な術で手助けしてくれる。親方は魔法典を読んで皆に少しずつ黒魔術を教える。トンダが魔法を使って親方の目を盗み、クラバートと町に出る。女の子との出逢い。優しかったトンダはある日変死体で発見された。クラバートは復讐を誓う。ユーローがクラバートに親方の魔法に対抗する訓練をしてくれる。

パペットを抱いて動かす出遣い。
クラバートは鈴木文(あや)さん。
恐怖の親方は榎本トオル氏。手を伸ばす術を複数の人で再現。
ユーローは本間智恵美さん。

野山を放浪するクラバートをありとあらゆるアイディアで表現。手動で回転する平台をぐるぐる回して活用。黒いゴミ袋で作ったカラス。ワンタッチ傘に帽子を掛け、カラスが飛ぶシーンを再現。
魔法陣としての光る円をフレキシブルLEDフィラメントで製作。

完全に無音で弁士を付けても面白いと思う。

ネタバレBOX

「お前の恋人を探しあてろ」が冒頭に登場。失敗して全て御破算。

『クラバート』は一番好きな話なのでやると知ると気になる。元々、『大どろぼうホッツェンプロッツ』シリーズが大好きで同じ作家の今作を子供の頃、手に取った。『千と千尋の神隠し』を観た時もラストのオマージュに驚いた。

親方がイルコーを倒す話とデカ帽の話を混ぜている?急に挿入されるので意味が受け取り辛い。スクリーンにビデオ映像を投影して魔術合戦。

全く話を知らない人にも伝わったのか?
ガウディ×ガウディ

ガウディ×ガウディ

アニマ出版/テレビ朝日/E Xエンタテインメント/サンライズプロモーション

EX THEATER ROPPONGI(東京都)

2026/03/14 (土) ~ 2026/03/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。

ガウディ(沢田研二氏)とロレンソ(串田和美氏)の友情のテーマ曲が良い。公園のベンチ。

どういう訳か馬が合う
会えない時も会える日も
二人はいつでも友達さ

ガウディのパトロンのグエル伯爵とライバルのムンタネーは有馬自由氏が一人二役。
サン・ホセ信心会の創立者、ブカベーリャ(すわ親治氏)。
トーラス神父と姪のロサを内田紳一郎氏。

ペピータ(中村中さん)のテーマ。

幼馴染は「あんたはずるい」
好かれ上手の恋愛上手

第二幕は歪ませた松江潤氏のギター・ソロが唸りを上げる。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ペピータに失恋。ペピータがガウディの姪のロサについて「親族に知的障害者がいる人だと遺伝が怖い」と話しているのを聞いてしまう。姪を見ているのが辛くなって遠くの寄宿舎に預けた。何度も抜け出して家に帰ろうとした姪は街の男達の玩具にされる。酒を飲まされ犯された。アルコール依存症となって放校処分に。全部自分のせいだとガウディは悩み苦しむ。

復縁を求めてきたペピータとの無言の別れのシーンが美しい。公園のベンチ。この世で最も恋した女、もう二度と人を恋しく想うことなんてない。姪の人生をメチャクチャにした自分に君を愛する資格はない。サヨナラだ。

父親の口癖「与えられた試練と戦うのだ。それが天命だ。」
全ては神が人に思い知らせる為の出来事。
自分の愚かさ無力さ全てを受け入れろ。
「祈るのだ。神がお決め下さる。」
「全ては自然=神が書いた偉大な書物を学ぶことから生まれる。世の中に新しい創造などはない。あるのはただ発見だけだ。」

神が天命を告げる。自分の無力さをとことんまで思い知らされた。俺がやろうとしたことは全て筋が通っていない。全てが間違っていた。教会で神に祈る。自分を棄て、他力にすがる。本当に何もない無力な自分であることを認める。そこから神=自然の法則を素直に受け入れられる自分がいる。自分はこの自然の法則の中で限られた生を過ごす。天から与えられたものを天に返そう。あとは神の御心のままに。

サグラダ・ファミリア(聖家族教会)は石の聖書、石のオルゴール。それは人を幸せにするものでなくてはならない。天空の引力によって木々や草花は空へ空へと伸びていく。それがこの世界だ。

1894年の春、42歳のガウディは断食に入る。神に自分を委ねる決心。

1926年6月7日、午後6時5分、転倒したガウディは路面電車に跳ねられ三日後に逝去。

ラストの歌が良い。

それでも何度···、私は何度···、

破壊するものと創るものがこの世のバランスを司る。
「諸君、明日はもっと良いものを作ろう。」
【東京】下剋上宣言

【東京】下剋上宣言

ILL TOKAI UNDERGROUND

雑遊(東京都)

2026/03/25 (水) ~ 2026/03/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白かった。一歩間違えると糞つまらない観念論争になりがちなのだが巧く切り抜けた。松本人志がAmazonプライムでやっていた『ドキュメンタル』に雰囲気は近い。「笑ってはいけないシリーズ」の対決版で笑った奴が退場して行くルール。最後まで残った奴が優勝。絶対に笑ってはいけない緊張感の中、ぼそっと笑えるナニカを提示していける奴が勝つ。笑いとは何か?を追求していくような作品。今作は演劇とは何か?芝居とは何か?虚構とは何か?逆に“本当”とは何か?を役者達が探り合っていく。

前説に立つ八代将弥氏、特殊漫画家・根本敬に似ている。こじらせ左翼系の神経質で付き合い辛いオーラむんむん。ピースサインで照明に合図を送りスタート。

元山未奈美さんの制作キャラ。
シライケイタ氏のけん玉。
山﨑薫さんの明治座。
果たして、下剋上は成るのか?
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

若手演出家コンクール2023にて最優秀賞に選ばれた八代将弥氏。審査員だったシライケイタ氏はその新しく独創的なスタイルに興奮し「一緒にやろうよ」と声を掛けた。名古屋で活動する元山未奈美さんを客演に迎え上京、東京のシライケイタ氏と山﨑薫さんと稽古場にて挨拶。今作の作劇法は独特でシナリオもプロットも用意されていない。素の会話からエチュード(即興芝居)に入り、それを何度も繰り返していく制作過程そのものをドキュメンタリーとして作品にすると言う。果たしてそれ面白いのか?誰もが不安に思う。ドキュメンタリーを撮りながら、そのラッシュをその都度皆で確認し、どうしたらもっと魅力的な作品になれたのかを議論し合う感じ。更にそれを撮っている。

壁を両手で叩くサインで「一度、止めます。」演技と本音とネタと役柄がシームレスに絡み合う。
「という役柄を演じているというテイでお願いします。」
そう言われるとせざるを得ない役者のサガ。
じゃあドキュメンタリーじゃないじゃん。
照明の明暗が演出を兼ねている。

面白いのはハプニングだと思わせた箇所が全部演技として組み込まれていたことが再現によって判明する。口紅のキャップを落とした山﨑薫さん、コーラの蓋を落とした元山未奈美さん。

再現と反復、それが演劇。そこを逃れようと足掻く者達は再現できないもの、反復できないものを求めた。計算できないナマの反応にリアルさを。

今作は凄く面白かったが、手の内が明かされた次の作品でも観客に面白いと思わせられるか?が気になる。より過激にしていく方法論だとすぐに飽きられ消費され行き詰まる。劇団普通の遣り口が正着のような気もする。

※ここから余談。
この系の作品だと『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE 2 サイキック・ラブ 』が一つの到達点だと思っている。自分で自分を演じながら作品として求められ望む場所へとリアルタイムで進んで行く映画。

寺山修司は『田園に死す』で自分の少年時代を映画化する。途中で作品はその映画を上映している試写会の現場と変わり、寺山修司は「こんなもの、全部嘘だ」と吐き捨てて出て行く。入れ子構造で虚構を破壊していく形。

1987年の原一男の出世作、『ゆきゆきて、神軍』。戦時中、ニューギニアで地獄を見た奥崎謙三は戦後、陸海軍の最高指揮官であった昭和天皇にパチンコ玉を発射するなど過激な活動を繰り返す。そのドキュメンタリー映画は奥崎謙三を煽り、当時の上官を追い詰めていく。上官の家に拳銃を持って押し掛けた奥崎謙三が息子を撃って逮捕されて終幕。キネ旬2位。ドキュメンタリーと言いつつ、被写体を煽る行為について議論された。
懲役十二年満期で出所した奥崎謙三77歳。1998年、彼を主人公に狂ったドキュメンタリー映画『神様の愛い奴』が製作される。府中刑務所出所を現地で再現する際に『死亡遊戯』の黄色いトラックスーツを着せるなど悪趣味全開。奥崎謙三を反天皇制の英雄にしようとする左翼の思惑を目茶苦茶にぶち壊した。「絶対に観ない方がいい」と人に念押ししたが必ずそいつは観るというジンクスあり。一生トラウマ・クラスの傑作。

相原コージの『一齣漫画宣言』が小学館文庫になった際、解説が庵野秀明だった。「今日のオナニーはしなくてよかったな」という作品に「表現者としてそれは絶対に言ってはならない!」と激しく警告していた。そののち、相原コージは鬱病になる。

『地獄の黙示録』の製作過程のドキュメンタリー映画、『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』。全然本編よりも面白い。これをより楽しむ為に『地獄の黙示録』を観ておく逆転現象が起きている。
伽羅先代萩

伽羅先代萩

江戸糸あやつり人形 結城座

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2026/03/25 (水) ~ 2026/03/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

仙台藩三代藩主の伊達綱宗は遊郭で放蕩三昧。(相手は吉原三浦屋の高尾太夫の噂)。1660年7月、家臣と親族大名の連名での陳情で幕府が動き、21歳で強制隠居させられた。四代藩主になったのは2歳の伊達綱村。その後、実権を握った大叔父の伊達宗勝の専横が問題になり、伊達宗重が幕府に上訴。幕府審問の控え室で伊達宗勝派の原田宗輔が訴えた伊達宗重を斬り殺す刃傷沙汰に。原田宗輔もその場で斬り殺された。この騒動の責任を取らされて伊達宗勝の一関藩は改易に。

今作はこの「伊達騒動」を鎌倉時代の奥州藤原氏一族に置き換えている。作者は松四貫、高橋武兵衛、吉田角丸。
伊達綱宗が吉原に通う際、伽羅(きゃら)の下駄を履いたという。最高級の香木である伽羅を銘木と読み、舞台である仙台藩を掛けたタイトル。逆に歌舞伎から由来し、マメ科の黄色い花にセンダイハギと名付けられた。

ネタバレBOX

義太夫・竹本越孝(こしこう)さん。
三味線・鶴澤津賀花(つがはな)さん。

①花水橋(はなみずばし)
福田善之が新たに書き下ろしたヴァージョン。屋台の二八蕎麦屋に来たベロンベロンに酔っ払った仲間〈ちゅうげん〉(三代目両川船遊氏)と蕎麦屋の親父(十三代目結城孫三郎氏)の遣り取り。
遊郭から駕籠で帰って来た足利頼兼を逆臣・仁木(にっき)弾正の配下である黒沢官蔵(小貫泰明氏)とその手下達が鎌倉・花水橋で襲う。オリジナルではお抱えの力士・絹川谷蔵が駆けつけて蹴散らすのだが、今作ではとある剣士・松が枝節之助(三代目両川船遊氏)が人形真っ二つに暴れ回る。
殺陣の時、人形の脚が180度開脚してしまうのが難点。不格好。

②竹の間

③御殿=飯焚き(ままたき)+政岡忠義
乳人(めのと=乳母)である政岡(三代目両川船遊氏)。「頼朝公からの見舞いの菓子」を逆臣方の栄御前(結城育子さん)が鶴喜代君(大島千波さん)に食べさせようとする。どうにも困った政岡であったが突然飛び込んで来た息子の千松(安藤光さん)が貪りついて平らげる。毒に悶え苦しむ千松を仁木弾正の妹、八汐(十三代目結城孫三郎氏)が懐剣で突いて絶命させる。毒殺の証拠を消す為だった。それを見ても顔色一つ変えない政岡。皆が帰った後、もがき苦しんで泣き叫ぶ。「でかしゃった!」そこに八汐が襲い掛かる。政岡は返り討ちにする。
心情を切々と訴える女方の見せ場=クドキ=口説き。
忠臣方の沖ノ井(湯本アキさん)。

④床下
床下で警護の為、宿直(とのい)していた荒獅子男之助(三代目両川船遊氏)が現れた異形の大鼠(小貫泰明氏)の首根っこを踏み付ける。隙を突いて逃げる大鼠、小柄を投げると額に当たり姿をくらます。その正体、額から血が流れていることに気付いた長袴の仁木弾正(十三代目結城孫三郎氏)はニヤリとして花道をゆっくりと去って行く。
小姓千弥(湯本アキさん)。

⑤対決

⑥刃傷

一時間の作品が終わるとトーク・ショー。演劇評論家・葛西聖司氏が淀川長治みたいで好感が持てる。圧倒的な知識量、目線の一つ一つが勉強になる。
三代目両川船遊氏は今年83歳、死の話ばかりする訳だ。
明治時代、9代目孫三郎がそれまでの人形遣い師が高い足場から操作することをやめ、出遣いで台詞も喋るように変えた。
十三代目結城孫三郎氏は逆に一度、伝統である足場での人形遣いを経験したいと述べる。
ビッグ・フェラー

ビッグ・フェラー

劇団俳小

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2026/03/22 (日) ~ 2026/03/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

戯曲がカッコイイ。スタイリッシュで最初から最後まで出来上がっている。104席しかないBOX in BOXで今作をやってのけるのは素晴らしい。

ブラディ・サンデー=血の日曜日事件=1972年1月30日、北アイルランドのロンドンデリーにてデモ行進中の非武装市民をイギリス軍が銃撃。27名中、14名死亡、13名負傷。この事件は世界に衝撃を与え、テロ組織IRA(Irish Republican Army=アイルランド共和軍)への支持が広がった。

1972年3月17日、St. Patrick's Day、ニューヨークの超高級アイリッシュ・レストランにてブラディ・サンデーの追悼集会。IRAのNY支部のボスであるデイヴィッド・コステロ(いわいのふ健氏)がスピーチで支援を募っている。スタンダップコメディのように軽妙なトークはどっかんどっかん笑いを取る。拍手喝采、会場は沸きに沸く。高額な小切手が次々に切られ、金の雨が降る。

fellow=仲間。GoodFellasはマフィアの隠語で組織の仲間のこと。今作のTHE BIG FELLAHはアイルランドのスラングで大物の意味。

次の舞台は若き消防士マイケル・ドイル(遊佐明史〈あきふみ〉氏)のアパート。刑務所を脱獄し偽造パスポートでアメリカに入国したルエリ・オドリスコル(大川原直太氏)はプエルトリコ人のカレルマ(小池のぞみさん)をナンパして連れ込んでいた。やって来たコステロはマイケルの覚悟を確認する。「(IRAに入るということは)ゲーテの『ファウスト』の逆だぞ。悪魔に魂を売って手に入るものは一生涯続く苦しみだけだ。」「それでもいい」とマイケルは答える。そしてマイケルのアパートはIRAメンバーの潜伏先、アジトの一つとなる。

ニューヨーク市警の警官トム・ビリー・コイルは手塚耕一氏。藤波辰爾と小林邦昭のハイブリッドのように見えた。
エリザベス・ライアンは荒井晃恵さん。エロエロ。
フランク・マカードルは宮崎佑介氏。荒谷望誉のようだがドスの効いた表情は三沢光晴のよう。怪演。
小池のぞみさんはますます綺麗に。
遊佐明史氏はジャルジャル後藤みたい。癖がなくポピュラリティがあるのが武器。
MVPはいわいのふ健氏だろう。凄まじい。
大川原直太氏も負けていない。劇団の切り込み隊長。

ルエリ・オドリスコルのモデルはジョー・ドハーティ。1990年、メトロポリタン矯正センター近くの街角に彼にちなんだ名前が名付けられたそうだ。

映画を観ているみたいに面白い。
マーティン・スコセッシ節でジョニー・デップの『フェイク』とか好きな奴には堪らないだろう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

予算を好き放題使わせて、寺十吾氏なんかが演出したらどんな作品になるのだろう?

贖宥状(しょくゆうじょう)=免罪符とは買えば現世の罪が軽くなるという御札。1517年、ドイツにてローマ教皇レオ10世が教会の収入の為に販売したことを大学教授マルティン・ルターが大批判。破門され追放を宣告されるも新約聖書のドイツ語訳聖書を完成させ活版印刷機で大量生産。聖職者でなくても民衆が聖書を直接読んで考えることができるようにした。当時で10万部以上の大ベストセラーに。カトリック教会の権威主義に抗議(プロテスト)する者としてプロテスタントを名乗った。従うのは教会ではなく聖書(神の言葉)のみ。=宗教改革。

元々アイルランドはカトリック教徒が多数を占める国。1801年プロテスタントの国であるイギリス(イングランド)に併合され、カトリック教徒は迫害された。独立戦争の末、1922年1月16日に独立を果たすも、北アイルランドはイギリスのままとされた。IRA(Irish Republican Army=アイルランド共和軍)は北アイルランドを奪還し全アイルランドを統一することを目標に掲げたテロ組織。SEX PISTOLSの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」の歌詞でその名を知った。
現在、アイリッシュ・アメリカン(アイルランド系移民の一族)は3600万人で全米の総人口の12%。 政財界に力を持ち、IRAを支援する者も多かった。

聖パトリック=聖パトリキウスは5世紀にアイルランドにキリスト教を広めた聖人。彼の命日の3月17日はSt. Patrick's Day(セント・パトリックス・デー)と呼ばれる祝日でアイルランド人にとって最大のお祭りの日となっている。

1981年、IRAのメンバーであったボビー・サンズは北アイルランドの刑務所でハンガー・ストライキを始める。66日間のハンガー・ストライキを貫徹して27歳で死亡。9名のメンバーがそれに続いた。世界的に注目を集め、IRAへの志願者が殺到。

リビアの元首であったカダフィ大佐は長年IRAに資金提供と武器供与を行っていた。植民地主義、帝国主義だとしてアメリカ、イギリスを敵視し続けた。

1987年11月8日、北アイルランドのエニスキレン爆破事件。戦没者追悼記念式典の行われる広場にIRAが時限爆弾を仕掛けた無差別テロ。非番の警官1名と一般市民11名が殺戮され、IRAへの反発が強まった。

1998年4月10日、イギリスとアイルランドの間で和平合意=ベルファスト合意。国民投票によりアイルランドは北アイルランド6県の領有権主張を放棄した。

1998年8月15日、北アイルランドのオマーのショッピング街で起きた自動車爆弾テロ。29人が死亡、約220人が負傷。ベルファスト合意を認めない分派であるリアルIRAが実行。この事件で決定的に大衆の心は離れた。

ウィリアム・バトラー・イェイツの詩、『湖の小島イニスフリー』をコステロが引用する。
「心が穏やかになる時、平和はゆっくりと滴り落ちてくるものだから」

ラスト、911にラジオから流れるJohnny Thunders & The Heartbreakersの「Chinese Rocks」っぽい曲がカッコイイ。Black 47じゃない。

※エリザベス(荒井晃恵さん)とマイケル(遊佐明史氏)が肉体関係を結び恋愛感情が生まれる。何度もキスを交わす。しかし「組織の命令」として、コステロ(いわいのふ健氏)とトム(手塚耕一氏)は「メキシコ行き」=粛清しようとする。悲痛に叫び、助けを呼ぶエリザベス。何度も助けようとするマイケル。けれど助けられない。

フランク(宮崎佑介氏)が密告者の洗い出しにやって来る。マイケル(遊佐明文氏)をボコボコにし、ルエリ(大川原直太氏)はバスルームのドア越しに電動ドリルで肩を抉られる。駆け付けたコステロ(いわいのふ健氏)は拳銃で脅しながら、マッカランの18年ものを勧める。フランクはアルコール依存症を克服し完全に酒をやめた身なので絶対に飲もうとしない。それを飲ませていく心理的拷問。名シーン。

1993年2月26日、ニューヨークの世界貿易センタービルをイスラム過激派テロ組織アルカイダが爆破して倒壊させようとした。タワーの強度が想定以上で地下駐車場の爆破だけで終わった。それでも死者6人、負傷者1042人。湾岸戦争においてアメリカ率いる多国籍軍がメッカのあるサウジアラビアに駐留したことがイスラム原理主義者にとって許せることではなかった。
フランク(遊佐明史氏)は「奴等の目的が分からない」と繰り返す。それに対し、コステロ(いわいのふ健氏)は「全ての宗教の信者が目的とするところは神の裁きによる罰を人間に受けさせることだ」と答える。彼の裏切りの告白は罪の報いとして罰を受ける為だったと分かる。
藤田嗣治〜白い暗闇〜

藤田嗣治〜白い暗闇〜

劇団印象-indian elephant-

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2026/03/19 (木) ~ 2026/03/24 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

藤田嗣治(つぐはる)は名前しか知らなかった。藤田進のイメージからTHE日本男児みたいな勝手な先入観。実はおかっぱ頭にロイド眼鏡にちょび髭。ジョニ男にイッセー尾形を彷彿とさせる。赤塚不二夫のイヤミのモデルはトニー谷らしいが「おフランス帰り」の台詞は藤田嗣治のイメージもあるのかも知れない。いとうせいこうの髪型もここから来ているのかも。石橋徹郎氏大熱演。ちなみに現在公開中のアニメ映画『パリに咲くエトワール』の主人公・継田フジコのモデルにもなっている。1913年(大正2年)、学業が振るわず官費での留学の道が閉ざされた藤田嗣治は陸軍軍医の父親にお金を出して貰い渡仏。巨大な額縁のセットがカッコイイ。

ネタバレBOX

第2場、1914年9月、娼婦ナタリア(後東ようこさん)の部屋。かなりの美脚。ここの会話の間から妙な空気になる。わざと狙ってやっているのか?この辺から居眠りする人が目に付いた。ナタリアはポーランド移民の設定。絵のモデルから恋人に。

第3場、1914年12月、藤田嗣治の弟分的な画家だと言う村中青次(斉藤悠氏)の登場。

第5場、1920年5月、結婚してアメリカに行くことを告げに来たナタリア、赤ん坊を連れて。汗もで泣く赤ん坊にベビーパウダーのシッカロールを塗るナタリア。それを凝視した藤田嗣治はおもむろにキャンバスに塗ってみる。墨汁の線が崩れない。到頭見付けた!探し続けていた画材を!

第6場、1929年8月、村中青次は藤田嗣治の名を騙り、モデル志望の中国人娘ユーリャン(笹野美由紀さん)を抱いていた。ココリコ田中直樹っぽい。

第一幕は演出がちぐはぐで違和感。劇場の大きさを気にし過ぎたのか空回りしている。どうもずれているような。ホンと噛み合っていない。こまつ座をやりたいんだろうなと思った。栗山民也や鵜山仁に演出を頼んだらどんな作品になっただろうか?

第二幕からは安心して観られたがラストら辺がグチャグチャで台無しに。

南米旅行でお金を使い果たした藤田嗣治は日本に帰国。
第7場、1938年7月佐乃美千子さん演ずる奥さんの登場から作品にリズム感が生まれる。朝日新聞社の男、二條正士氏が戦争画の制作を依頼しに来る。安定した日常と人間関係を観客に共有させてから一気に崩すのが作劇の基本。

木山廉彬(ゆきあき)氏の演じた文筆家見習い多門土郎は写真家・土門拳がモデルだろう。1941年、31歳の土門拳を気に入った藤田嗣治は誰にも見せなかったアトリエでの制作風景ですら撮らせた。1949年、日本を去るまで二人の交流は続いた。

自分的には作家の駄目なところの詰め合わせのような作品に見えた。自分の体調のせいなのかも知れないのでもう一回観たいとも思う。何でだろう?ラストの方は嫌いな展開のオンパレード。役者の熱演は魅力的なだけに辛い。巨大な額縁が前方に倒れていくのが見せ場。後東ようこさん演ずる人形を持った戦火の少女も伝わり辛い。良心の呵責なのだろうが。

村中青次の正体が『ビューティフル・マインド』的存在(自分の妄想が作り出したイマジナリーフレンド)だったことが発覚するがそれも効果的ではない。もっと自分の美学に反する軽蔑すべき存在として描き込むべき。それが自分自身そのものだったことを知ることこそが衝撃。

この作品の駄目な部分は「戦争=悪」とハナから決め付けているところ。戦争に協力したんだから「悪」だと。もっと大きな価値観で俯瞰的に見るべき。藤田嗣治は「画家は本来、自由愛好家であり、自分は国民的義務を果たしたに過ぎない」と戦争画批判に反論した。実は彼の戦争画を見ると歴史的な大事件に遭遇した画家の興奮と高揚が伝わってくる。そんな場面で絵筆を託された選ばれし者の震え。芸術家として表現者として最高の場面。神から絵筆を手渡された者の震え出すような栄誉。そこに善悪の入る余地はない。

戦争は一つの外交手段でもある。日清日露で領土を手に入れた日本はわざと揉め事起こして弱い国から領土を分捕ろうと企んだ。ヤクザの遣り口。調子に乗って意気がって好き放題やっていたら世界中から袋叩きに遭う。そこで目が覚めた。二度とこんなみっともないことをやる国にしてはいけないと。謙虚でおとなしい国へと。だが周りからは舐められる。中国は散々挑発してくる。イライライライラ、鬱憤は募る。筋のある戦争なら出来る所を見せてやりたくなる。一番のプライドだった経済も中国に追い抜かれた。アメリカ頼みの弱い国。もしアメリカが見捨てたら?
ガウディ×ガウディ

ガウディ×ガウディ

アニマ出版/テレビ朝日/E Xエンタテインメント/サンライズプロモーション

EX THEATER ROPPONGI(東京都)

2026/03/14 (土) ~ 2026/03/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

沢田研二77歳!この人の唯一無二の武器はこの歌声。こんな音色は他の誰にも奏でられない。客入れSEでストーンズのLIVEがかかっていたがミック・ジャガーもそう。圧倒的な声のオリジナリティー。
2006年から始まった脚本・演出マキノノゾミとの名タッグ=音楽劇。2017年、音楽劇ラストと銘打った『音楽劇 大悪名~The Badboys Last Stand!~』も観に行った。それからも何度かLIVEに行った。一曲歌い終わるごとに「ありがと〜!サンキュー!ありがと〜ね〜!」が口癖。ゴジも志村けんも亡くなったが沢田研二と山田洋次はますます元気。まだまだ光輝き、日本中を照らし出さねば。休憩時間にはリピーターチケットを買い求める往年のジュリー・ファンの行列。複数回観ない人の方が少ないような熱気。沢田研二恐るべし!『バック・トゥ・ザ・フューチャー』✕『クリスマス・キャロル』風味。


1878年4月、建築士の資格を取得したアントニ・ガウディ25歳(渡辺大知氏)。親友である鋳物職人(後に彫刻家も)のロレンソ・マタマラ(野田晋市氏)に喜びの報告。お祝いに一杯飲ろうぜ。無神論者の合理主義者、自分の才能だけが武器だ。自身の力で未来を切り拓くのさ。

1924年秋、ライフワークとなった大聖堂サグラダ・ファミリアの建設に掛かりっ切りのアントニ・ガウディ72歳(沢田研二氏)。同居して暮らす親友ロレンソ・マタマラ(串田和美氏)が脳腫瘍で視力を失い余命僅かであることを知る。同居を解消し自分はサグラダ・ファミリアの作業小屋兼アトリエで寝泊まりすることを決める。無二の親友との今生の別れ。また生まれ変わっても一緒に仕事をしようとの約束。必ずサグラダ・ファミリアが完成した姿を見に来ような。人生に悔いはないと語るロレンソ、悔いだらけだと自嘲するガウディ。

生涯で一度も家庭を持つことのなかったガウディ。敬虔なカトリック教徒。毎日仕事終わりにサン・フェリペ・ネリ教会へ夕方のミサに通うのが日課。でもその日だけは何か違った。町の様子が何か変だ。そしてばったり出逢ったのは1880年、27歳の自分。まさか45年前にタイムスリップしたのか?これを千載一遇のチャンスと捉えたガウディは若き自分に正しい人生を送る為の指南を始める。後悔することなきように。

神をも恐れぬ不敵な天才青年ガウディが神に跪く敬虔な信徒となった謎。沢田研二氏が渡辺大知氏にどうにか伝えようとしたこの世の真理とは?

ムーンライダーズ白井良明氏率いる豪華バンドの生演奏。串田和美氏に捧げる親友への詩が名曲。忌野清志郎っぽい情感と余韻。泣ける名シーン。ここだけで観に行く価値はある。

野田晋市氏はいつも通り最高だった。いろんなテーマはあるけれど一番胸に来るのは友情。ガウディは幼少時から重度のリウマチ(自己免疫疾患)に悩まされ、激痛でベッドに横になることも出来なくなる。ロレンソ・マタマラの誂えた特製のベッド。緩やかな曲線がガウディの腰の痛みを守るように支えてくれる。その曲線こそが人が人を支える証。誰もが誰かを支えている。

写真のような絵画のような美しいプロジェクションマッピング。立体の構造物に効果的に投影。(人物にライトを当てることで被るのを避けているのか?)

沢田研二氏が階段を昇り降りしなくて良いようにちゃんと計算ずくの演出。志村けんのようなマイムギャグ多発。眉唾に帽子で乾杯!WOW!良いLIVEだった。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

Viva Cataluña=Visca Catalunya。

ガウディの唯一の恋、ペピータ・モレウ。演ずるは中村中さん。複雑な意味を重ねて歌う。

渡辺大知氏はNOAHのKENTAみたい。時々、佐藤銀平っぽくも。

昔、東京ドームでローリング・ストーンズの「Angie」を聴いていてふっと沢田研二を連想した。彼がやりたかった世界とどこか通じた気がした。

二人の心に愛はなく、コートの中には金もない
これで満たされてるなんてとても言えないだろう?
でもアンジー、アンジー
俺達、努力しなかったなんて決して言えないだろう?
コーカサスの白墨の輪

コーカサスの白墨の輪

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2026/03/12 (木) ~ 2026/03/30 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ブレードランナー』と『ターミネーター』のせいでそれっぽい安い日本映画が量産された80、90年代。Vシネマみたいなスカスカの世界観、ファッション・パンクみたいな雰囲気を味わう為だけのイメクラ。今観ると懐かしささえ覚える世界観。
今作は人類が滅んだ地球でアンドロイド達が紛争を続けている。一路真輝さんが古代の人間の演劇を余興として演ることを提案。流石の一路真輝さんの風格。時折、渡辺美里っぽい歌声。

太守=領主のゲオルギ(辰巳智秋氏)はさる国の傲慢な独裁者。その夫人(saraさん)は贅沢好きで高慢な嫌な女。臣下のカズベク(西尾友樹氏)が裏切りクーデターを起こす。ゲオルギが処刑された混乱の中、夫人は他所の国に亡命。洋服を持って行くことに夢中で培養器に入った受精卵の息子ミヘルを忘れて置き去りに。ゲオルギの腹心だった大公(武谷公雄氏)も命を狙われ野に下る。料理女のグルーシェ(木下晴香さん)もアンドロイドの侍女(加藤梨里香さん)達と逃げようとするがミヘルを置いて行けずに一人抱きかかえる。(登山用リュック位の大きさ)。

木下晴香さんは大塚寧々と上戸彩を足したような魅力。鼻歌を歌いながら培養器に手編みの帽子を被せる名シーン。
加藤梨里香さんもやたら気になった。
下手で生バンド、Bassの木村朋徳氏がノリノリのグルーヴうねるうねる。Guitar大舘哲太氏、Drums小牧佳那さん。

グルーシェには徴兵され戦争に行った婚約者シモン(平間壮一氏)がいる。彼が帰って来るまで兄夫婦の暮らす遠い北の山の農場に住まわせて貰おうと歩き出す。(※シモン役は平間壮一氏が体調不良の為、現在は大久保祥太郎氏が代役)。
内戦で何処もかしこも混乱状態。クーデター派の重騎兵達は逃がした太守夫人、息子、大公の行方を追う。若きグルーシェは女手一つでミヘルを守って逃げおおすことが出来るのか?

西尾友樹氏と森尾舞さんが何役も兼ね、歌ったり踊ったりするのが新鮮。ちゃんと見せ場を用意してくれている。

ネタバレBOX

ちなみに通貨の単位はピアストル。
通路を多用した演出。
眞島秀和氏は観客を盛り上げようと大ハッスル。ユースケ・サンタマリアみたいなキャラ。酔っ払いアズダクはトリックスター、論理が破綻しているのだが民衆の心を惹き付けていくイカれた英雄。そこが難しい。一歩間違えるとただの人気取り。妙な一貫した美学がないと観客は心を託せない。

小劇場的に皆一人何役もやるのだがそれも何か逆効果。コントみたいで重要な役がハッキリしない。ギャグばかりなのも話にのめり込めない理由。全てが適当。

ラストの合唱の歌が印象的。
「愛が戦争を止めると言うなら
 愛に戦争をさせないでくれ」
国や家族を大事に想う気持ちを転化して戦争をさせないでくれ。良い言葉。

この演出家と自分の相性は悪いと思う。この物語の何が面白いのかを見誤っている。培養器に入った受精卵のままじゃ母の愛は表現出来ない。(グルーシェの歌った鼻歌を覚えていて卵が口ずさむのかとも思ったが)。伝わらない異化効果に何の意味があるのか?培養器をロープで引っ張り合っても何とも思わない。こんな描き方ではミヘルがどっちの子供になろうが観客はどうでもよくなる。感情移入の取っ掛かりがない。まだ飼っていた犬か猫かの取り合いにした方がマシな話。無理矢理エピローグの語りでまとめたがこの劇をわざわざアンドロイド達が演る意味が見えない。徹底して争いの行く末、戦争の虚しさを表現しないと。こんな事を繰り返していたらどんな知性なんかにも意味はない、アウフヘーベン(どちらの意見も否定しつつ共通の上の次元に高めていく)の方法は必ず見付かる筈だと。

今回期待外れだった人は東京演劇アンサンブルが去年演った『白い輪、あるいは祈り』を観て貰いたい。脚本・演出は鄭義信氏。来年再演するそうなので。
鹿鳴館異聞

鹿鳴館異聞

名取事務所

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2026/03/11 (水) ~ 2026/03/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

明治22年(1889年)2月10日、築地外国人居留地にある一軒の屋敷。広瀬常34歳(松本紀保〈きお〉さん)と看護婦の千代(平体まひろさん)がひっそりと暮らす。突如夜更けに来訪した男は森有礼(ありのり)41歳(千賀功嗣氏)。初代文部大臣であり、日本の近代教育制度の礎を築いた男。開国したばかりの日本を欧米諸国から対等に認められる近代国家へと早急に導く為、世界基準の教育と啓蒙を推進した。明日は念願の大日本帝国憲法発布式典の日。日本が国際的に信頼のおける法律で整備された立憲国家であることを対外的に宣言する必要があった。彼の唯一の懸念は離婚した妻、広瀬常のこと。

初演は1990年、木山事務所が俳優座劇場にて公演。
(手の会→木山事務所→Pカンパニーの系譜だそうだ)。

森有礼が帰り、次に押し掛けるように無理矢理訪ねて来るのは広瀬常の旧知の男爵夫妻(藤田一真氏と西山聖了〈きよあき〉氏)。その二人の様子をどうも不審に思う千代。彼等は何を企んでいるのか?降り続く雨は次第に雪へと変わる。

平体まひろさんが綺麗。壇ふみさんに似てるのか。上品な戦後日本女優の風格。
西山聖了氏は芸達者。いろんな武器を隠し持っている。

作家は山田風太郎のファンでは?『ラスプーチンが来た』を読んでいた時の興奮を思い出した。自分も山田風太郎の大ファンの一人だが今作にとって肝心要の『エドの舞踏会』を多分読んでいない。読んでいればもっと楽しめた筈、残念。

いや面白い脚本だ。『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』なんて映画を思い出す。アナ・デ・アルマスが演ったキャラに平体まひろさんが被る。

ネタバレBOX

西山聖了氏の正体は伊勢谷友介みたいな美形の女形、沢村源之助(四代目澤村源之助)だった。目茶苦茶魅力的ないなせな口上、今作の面白さの核になる。正体を見破られた彼が逆に見破るのは千代の正体。江戸で評判を呼んだ手妻遣の一座に一人の娘がいた。

※三代目澤村田之助、脱疽で右脚を膝下まで切断するが義足にて舞台に立つ。だが脱疽は悪化し、左脚、右の手首、左手の小指以外の指全部を切断。義足を着けてから5年で引退。四代目澤村源之助は彼の当たり役を演じることが多かった。

手妻遣=手を稲妻のように使う奇術師。手品だけでなく催眠術に近い芸当も見せた。今作では赤ん坊の泣き声やら藤田一真氏の手元が突然発火するなど超能力者のような腕前。この演出はまだ更なる仕掛けが作品に隠されていると観客を興奮させた。

森有礼と常の離婚は世間の歓心を買った。外人と不倫し産まれた娘が青い瞳だった為、離縁されたとまことしやかな噂。それを裏付けるように娘の安はすぐ里子に出され、翌年森有礼は岩倉具視の娘と再婚した。広瀬常のその後は不明で未だに謎。夏目漱石の『三四郎』でも触れられている。

鷲巣照織氏は最後の最後に登場、驚いた。

山田風太郎は巨大な巻紙のような年表を作成し、同時代に誰が何をしていたのかを書き込んだ。思わぬ人間が同じ時代を過ごしたことを知ると何とか二人を出会わせられないか検討した。それによるあっと驚くアイディアが作品内に散りばめられている。

※今作では誰も彼もが嘘をついている。森有礼は英国で精神を病んだ常が女の子を出産した妄想に取り憑かれているだけだと言う。実際に常は言動がころころと変わり信頼の置ける語り手ではない。大事そうに抱いているのは赤ん坊のお人形。だが実際は英国の俳優と情事があり、妊娠した時、子供の容姿に怯えた。日本に帰る船の上で心を許した千代に誰にも頼めないお願いをする。産まれた赤子の目が青かったら首を絞めて始末して欲しいと。だが千代は殺さなかった。築地の屋敷で二人で育てた。ある時、森有礼が娘を引き取りに来て勝手に里子に出した。森有礼の死んだ今、もう彼女の行方は掴めない。
揺れる

揺れる

東京演劇アンサンブル

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2026/03/10 (火) ~ 2026/03/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開場時からベッドの上で死んだように眠る雨宮大夢氏。だが実は全く眠れないようだ。背面に投影される時事ニュース。世界中で終末へのカウントダウンが始まっている。会場案内の彦坂紗里奈さんがステージ奥でプロンプター?

BJCの『冬のセーター』のような世界。

モデルガンを握り締めて···僕は自分の頭を撃った···
そのままベッドに倒れこみ、死んだ振りをして遊んだ···
今年の冬はとても寒くて長いから
お婆さんが編んでくれたセーターを着なくちゃ
今年の冬はとても寒くて長いから
お婆さんが編んでくれたセーターを着なくちゃ

A、B、Cのパートが同時進行で語られる。

A 兵士(雨宮大夢氏)に息子を銃で撃ち殺された母親(原口久美子さん)が彼のもとにやって来る。手を差し出して握る。戸惑う兵士。踊る。彼の心を開こうとしているようだ。

B 「アルロの端の男」。
18世紀の詩人、ウィリアム・ブレイクは幻視を体験し預言的神話(過去から未来までのこの世界の物語)を記した。アルロとは冥界のような場所らしい。巨人ユリズンは理性の象徴だが今作では資本主義を極限まで追求させる扇動者、欲望の果てを目指している。その弟とされる巨人、「見捨てられた男」は反対側の端で金属として固まって動かない。
洪美玉さん、浅井純彦氏、奈須弘子さん、永濱渉氏が語り部。
(※『四人のゾア』では「最後の審判」を起こしたロス〈想像力の象徴〉はユリズンを解体。ユリズンは自らの過ちを認め人間の支配を諦める)。

C ベルリンの人々。バルコニーから外を眺めている。
「母の子供たち」とされているが、殺された子供が彼等の中の誰かでも同じことなのだろう。無作為に選んだ一人。
篠原祐哉氏、戸澤萌生さん、篠澤寿樹氏、山角愼之介氏、永野愛理さん、福井奏美さん、細谷巧氏、菊地柾宏氏、竹内茉由架さん。
「アルロの端の男」の笑い声が天空から轟音として鳴り響いている。何の音だか解らないが人々は皆怯えている。インターネットが普及したベルリンではもう誰も外に出ようとはしない。世界中を身近にした筈のSNSが逆にリアルを遠ざけていく。全てはスマホの画面の中の並列された情報に過ぎない。
(※パンフを読むと作家がこの戯曲を書くきっかけになったのは2015年、シリアやアフガニスタンからドイツに難民が押し寄せてくる。自分の家の前にも沢山の異文化異教徒異国の若者が立っている現実。移民問題が根っこにある)。

ネタバレBOX

どうにか轟音を止めようとメラーさんという一人のおばさんが通りに出て行く。沢山のケーブルを抱えたメラーさんは路上でばたりと倒れる。(インターネットのシステムを破壊しようとしたのか?)。それから随分と時間が経つが誰も助けようとはしない。もう死んだのだろうか?嫌な臭い。それを猫達が齧る。到頭戸澤萌生さんが外に出てそこまで行き、死体を回収する。
「アルロの端の男」はその行為に激怒して街に地震が起きる。更に軍隊を繰り出して殺戮が始まる。(ここで人々を肌の色が違い言語が通じない者達として分けた方が理解し易い。互いが互いを不信と不安とに焦燥)。
殺されたのはバッハマンさんの息子。耳が聴こえなかった。兵士の制止が判らなかった。兵士に近付き過ぎた。銃声。母親は兵士に近付いて行く。この世界を殺さない為に。
目を覚ました「見捨てられた男」は「アルロの端の男」を抱きしめキスをする。もう二人は何でこんなに揉めてしまっていたのか訳が分からない。俺達あんなに仲良かったじゃないか。

ずっとVR(仮想現実)空間でゲームに興じる男、篠原祐哉氏。現実逃避の象徴のように見えるが実は彼こそがゲーム感覚で世界を救えるのかも知れない。世界なんてクリアするべきゲームにしか過ぎない。何てことはない、やっちまえ。

やりたいことは解るが如何せんこれだけでは観てる方はつまらない。戦争や憎悪の連鎖を止めるにはファンタジーの力しかなかったのだろう。『ナウシカ』のような神話の力。だがその一番重要な点をおざなりにしている。息子を殺された母親が殺した兵士を許し和解し共に生きてゆこうと思う心情。そこがポエムでは観客はのれない。どうしても許さなくてはいけなかった。憎んで復讐を望む「連鎖」ではこの世界の構造を打ち壊せなかった。この世界の構造を変えたい。そうでなくては人間の歴史は同じ事の繰り返しのまま。母親の見据えるヴィジョンを観客に訴え、眼前に見せないと意味がない。

敵対する者を憎悪するのではなく許そう、共に生きようと願う寓話。息子を殺された母親が殺した兵士を許す話ではなく、例えば性被害にあった女性が加害者を許す話だったらどうだろうか?被害者が「私は貴方を許容します」と手を差し延べる。罪の意識に苛まれていた加害者はほっとするだろうがそれは果たして正しい選択なのか?罪を罰することこそが人間世界の安心を生むのでは?歪んだ世の中を是正する信じるに足るルールが厳然とあること。罰せられない罪こそ行き場を失くして更なる苦の連鎖を生じる。憎悪ではなく共に生きることの表現は難しい。人を厳しく罰することも形を変えた一つの愛だ。表面上の形、目に見えるものだけに惑わされて根源をおざなりにしている。許すという行為はそんな単純なものではないからこそ世界はここまでこじれている。「はい、今日までの恨みは全部なかったことにして明日から皆仲良く手を取り合って生きていきましょう。」ふざけんな!と皆怒り狂うだろう。

尾崎豊 『自由への扉』

裏切られても信じることから
奪われても与えることから
寂しくても分け合うことから
悲しくても微笑むことから
君なしじゃ僕のままでいられやしない
誰もが皆自由に生きてゆくことを許し合えればいいのさ

※全く今作とは関係ないが。
リベラル(自由主義的)=日本では左翼の意味。何故、高市早苗率いる自民党が圧倒的支持を集め、リベラル陣営がそっぽを向かれたのか?
ハッキリ言って、リベラル陣営のオウンゴール。自殺点で自滅しただけ。散々綺麗事だらけのうんざりな言動に付き合わされ、日々の生活、現実は悪くなるばかり。紙の上で生きている訳じゃないんだ。こんな連中にはもう関わっちゃいられないと大衆に心底思わせた。こいつらだったら高市早苗の方がまだマシだと。高市自民が素晴らしいのではなく、揚げ足取りの野党根性、口先だけで何もないヴィジョンに呆れ果てただけ。何もアイディアも実行力もない癖に選挙にだけは勝ちたがる商売野党。アメリカではこんな連中よりもトランプの方がマシだとなった。日本もそうなっていく。無能なリベラルが国を滅ぼしている。お前等が戦争への道に大衆を導いていることに気付け。高市自民の批判ではなく、もっと圧倒的な価値観を提示しろ。選挙の勝ち負けではなくもっと普遍的な。
国語事件殺人辞典

国語事件殺人辞典

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2026/03/07 (土) ~ 2026/03/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

イッセー尾形のような男がとんでもない長台詞をずっと捲し立てている。誰だこれは?と思ったら筧利夫氏。そうとは到底思えない。初日だけに危なっかしい所もあったが演劇機械のような台詞量。圧倒された。
「お逃げよ言葉、言葉よお逃げ」
「おいでよ言葉、言葉よおいで」
通路で歌う美声が朗々と。

相棒の諏訪珠理氏も熱演。役者殺しみたいな難易度の高い台詞が散りばめられた台本。観ているだけでヒヤヒヤする。これはキツイ舞台だ。

1982年、小沢昭一氏が自分一人の劇団『しゃぼん玉座』を旗揚げ。その為に書き下ろした作品。思う所があったのか井上ひさしはその翌年にこまつ座を旗揚げする。

理想の国語辞典を作る為、市井の国語学者(筧利夫氏)は37年掛けて6万語の言葉のカードを作成。家を売り、彼を信奉する元編集者(諏訪珠理氏)と辞典を完成させる旅に出る。だがゆく先々で日本語についての様々な意見に論破される。果たして理想の辞典は完成するのか?

青山達三氏80歳!は今作の心臓部の一つ。凄腕。
佐藤正宏氏も軽妙で沸かせた。リズム感。
イケメン池岡亮介氏は松本穂香に似ている。
加藤忍さんの簡易日本語も恐ろしい。
清水緑さんは下着姿のサーヴィスも有りエロエロ。歌声はたかみなっぽいかな。
旅一座の座長役は飯田邦博氏だったか?

通路をぐるぐるサーヴィス満点。凄腕役者大合戦。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

筧利夫氏の言語不当配列症、喋る文章の前後の配置がおかしくなる。
諏訪珠理氏のベンケイ病、句読点がメチャメチャな位置に置かれてしまい、文章が妙に間延びする。
加藤忍さんの簡易日本語、外人の話す無理矢理な日本語のような言葉だが明確なルールがある。
佐藤正宏氏の電文症、会話が電報を打つ時の伝え方になってしまう。
これを全部覚えてやり続ける役者陣の狂気。

後半、作品の重要なテーマとなる「言葉の質屋」が登場。10万円と引き換えに「いいえ」を預かり、言えなくしていく。「いいえ」が言えなくなった社会は支配層の思うがまま。皆、言葉を腹に押し込め何も文句を言えないまま従わされていく。「嫌なことは嫌だ」と言える日本でなくてはいけない。それはどんな日本語でだって構わない。自分の本音を伝えられる言葉でありさえすれば。

自分的にはちょっと長過ぎた。間延びした感じ。もっとテンポ良く痛快に突っ走る話では。
ペドロ・パラモ

ペドロ・パラモ

人形劇団ひとみ座

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2026/03/04 (水) ~ 2026/03/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1955年、メキシコのフアン・ルルフォが書いた『ペドロ・パラモ』はマジックリアリズム(魔術的リアリズム)の元祖的作品の一つ。60年代、世界的にラテンアメリカ文学ブームを起こしたガブリエル・ガルシア=マルケスは1961年にこの本と出会い人生が変わったと言う。感触としてはアレハンドロ・ホドロフスキーの『エル・トポ』やアンドレイ・タルコフスキーの『ノスタルジア』の感覚。ジム・ジャームッシュの『デッドマン』とか ロビン・ハーディの『ウィッカーマン』も思い出す。円環構造の中を生者と死者とが彷徨い続ける。母の遺言で滅びた町に父に会いに来た主人公。父はもう死んでいた。町の住人から父の話を聞く。少しずつ謎が明らかにされていくようで主人公は更に霧の奥深くささめきの中に迷い込んでいく。好きな人には堪らない作風。

頭部と上衣だけの人形。それを背後から操る人形遣い達はスター・ウォーズのジャワ族のような出で立ちで忌まわしい。人形美術を担当した浦部裕光氏がMVP。味のある一人ひとりの顔の造形の文学性は物語を奥深く精緻な物とし、のめり込んで観るに値する。あらかじめ録音された声に合わせて人形を動かすスタイル。客席通路を歩く時は実際に喋っているように聴こえた。

母親のドロレスが死んだ。遺言を受けて、息子のフアン・プレシアドは会ったこともない父親ペドロ・パラモの住むコマラの街へと旅に出る。途中、ロバ追いのアブンディオと行き合う。アブンディオはペドロ・パラモはもう死んでいること、自分も彼の息子であることを告げる。コマラはゴースト・タウンと化していた。娼婦宿の酒場で母親の親友だったエドゥビヘスに会う。エドゥビヘスはドロレスから息子が来ることを知らされたと言う。フアン・プレシアドは母が既に死んでいることを告げると「ああ、だから声が掠れてたんだ」と返す。

『ゴッドファーザー PART II』を思わせる構成で現在と過去とが同時進行していく。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の隠し味も。

ペドロ・パラモの父親、ルーカス・パラモが知人の結婚式に立ち会った折に巻き込まれて殺される。後を継いだペドロ・パラモは父の手下だったフルゴルから家の置かれた状況を聞く。借金まみれでどうしようもない。まず一番借金の額が多いメディア・ルナ地方の大地主プレシアード家の主となったドロレスと結婚して借金をチャラにしようと企む。そして次々に債権者を罠に嵌めて消していく。

かなり面白い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

スサナとの凧揚げのシーンが印象的。

惜しむらくは音楽が違う。メヒコの大地の匂いのする民族音楽を奏でないと。マリアッチ等を巧く挿入して欲しかった。ニーノ・ロータやエンニオ・モリコーネ調の感傷的な伝統音楽も欲しい。解説役である喋る石のピエドラのラップも分かるんだが。何故かいとうせいこう氏が声を入れている。

もっと凄い作品になる可能性を秘めている。更にヴァージョン・アップして再演すべき。もっともっと深い所にまで辿り着ける。原作を超えないと。
海の凹凸

海の凹凸

serial number(風琴工房改め)

ザ・スズナリ(東京都)

2026/02/27 (金) ~ 2026/03/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初演の俳優座で岩崎加根子さんが演った石牟礼(いしむれ)道子さんをモデルにした役を竹下景子さんが演ずる。竹下景子さん72歳、未だ変わらぬアイドルのような輝きと可愛らしさは観客を唖然とさせる。1969年に出版された石牟礼道子の『苦海浄土―わが水俣病』はそれに触れた者達の人生を大幅に変えたルポルタージュ小説。大企業の垂れ流す公害と地域住民の受けた生涯に渡る地獄を宗教的叙情詩にまで高めた文学。

杉木隆幸氏が演じた役のモデルは宇井純氏。東京大学都市工学科衛生工学コース助手の宇井純氏は公開自主講座「公害原論」を1970年より開講。実名で水俣病を告発した為に出世の道は閉ざされ、万年助手のまま冷遇された。(1986年、沖縄大学法経学部教授に招聘されるまで21年間)。
川田希さんが演じた役のモデルは加藤タケ子さん。元ほっとはうす施設長、現「きぼう・未来・水俣」代表理事。

1984年、横浜で市民学習会を開催している川田希さんはドキュメンタリー映画『水俣』(土本典昭監督)のフィルムを無償で貸してくれるという印刷所を訪れる。そこでは東大助手の杉木隆幸氏が一般市民を相手に公害をテーマにした公開自主講座を開いていた。場所を提供し印刷所に寝泊まりまでしてそれを支援する西原誠吾氏。丁度、『苦海浄土』の著者である作家(竹下景子さん)が上京するとの事でそれに参加してみる川田希さん。講座に集う者達の情熱と公害を必要悪と黙諾する日本社会の欺瞞を知り、のめり込んでいく。

かんのひとみさんは膝上ミニスカートのいつもと違うキャラクター。
西原誠吾氏の奥さん役の荻野友里さんが綺麗だった。もう少し物語に組み込んでも良かったと思う。

遅発性水俣病という、ある程度歳を取ってから発症する人々が多数いる。それを水俣病とは認可しない行政との闘争。自分は関係ないと思って生きてきた人間がある日突然発症し当事者になる絶望。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

初演で一番衝撃を受けたシーンは安元栄司(志村史人氏)の夢に石邑美奈子(岩崎加根子さん)が立ち、告げる台詞。「仇をいつまで憎んでみても自分の苦しみが癒える訳ではない。こんな苦しみを抱え続けるのはもう嫌だから赦そうと決め、手を離したら心が軽く楽になった。他人の苦しみは何処までいっても他人のもの、自分のものにはならない。他人の苦しみや他人の歓びではなく、自分自身の歓びを。生きることはそれ自体が歓びであれ。」今回も強烈。(今回演じたのは西原誠吾氏と竹下景子さん)。

自分的には初演の方が良かったような。今回はテーマが限定されてしまい中盤が退屈。市民運動組織の内部崩壊のようで描かれる世界が小さい。何故、水俣病運動に触れると人々の人生は変わるのか?そこが一番興味深い点。重要なのは石牟礼道子の綴る神話の語り部のようなこの世界への幻視。人間と世界とが対峙する全ての問題と答が水俣にこそあるのではないかと錯覚させる程、強烈。苦しみだけではなくその先にあるものすら感じさせる。
「あねさん、魚は天のくれらすもんでござす。天のくれらすもんを、ただで、わが要ると思うしことって、その日を暮らす。これより上の栄華のどこにゆけばあろうかい」

作家の興味は個々の生き甲斐に向いているのかも知れない。作品の重要な問い掛けに「何故チッソは有機水銀を垂れ流すことで住民が水俣病になることを知りながら排出し続けたのか?」「宇井純氏の研究は社会的に有意義で価値があると皆が知りながら大学内で冷遇され続けたのか?」というものがある。それが人間の本性か?それが人間の世界の当然の仕組みなのか?人間というものの見たくない正体。「大義親を滅す」の正体。何処まで行っても他人は他人でしかない。自分と他人の間に掛ける橋。もっと高レヴェルの人間観、人生観。死を超えたその先。
土曜日の過ごしかた

土曜日の過ごしかた

ニットキャップシアター

座・高円寺1(東京都)

2026/02/27 (金) ~ 2026/03/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

4年前に観た『チェーホフも鳥の名前』が鮮烈でそれからずっと観たかった劇団。その後、こまばアゴラ劇場で演った『カレーと村民』は予定が合わず観れなかった。やっと東京に来てくれて嬉しい。

脚本の「ごまのはえ」氏。味のある特高刑事役でもある。この役を自分に振るか、やるな。

松竹撮影所の売れない大部屋俳優、斎藤雷太郎が発行した週刊新聞型ミニコミ『土曜日』。昭和11年(1936年)から12年(1937年)まで京都の喫茶店や書店に置かれ最大発行部数は7〜8千部。映画や時事ネタ、政治や海外ニュースに読者投稿を知的欲求の強い連中に向けて挑発的に投げ掛けた。その自由な気風が目を付けられ関係者の殆どが特高に検挙されて1年4ヶ月で廃刊。

喫茶デイジーで千田訓子(せんだとしこ)さんがコーヒーを淹れている。当時の器具を使っているのか手間が掛かり美味しそう。旦那が社会主義運動で検挙され死亡、旦那の妹(仲谷萌さん)と自分の妹(山﨑茉由さん)と店を続けている。山谷一也氏が久方振りの来客。東京からやって来た門脇俊輔氏は置いてあった『土曜日』に興味を惹かれ発行人の斎藤雷太郎(西村貴治氏)に会いたがる。ソ連のコミンテルンの呼び掛けから反ファシズム運動「人民戦線」が日本の地下でも活動していた。仲谷萌さんは死んだ兄の組織から仲間を匿って欲しいと頼まれる。

門脇俊輔氏の役は谷口善太郎がモデルか?

牧歌的な『土曜日』の編集会議。どんどん人気が上がり検挙されない程度の体制批判を織り込む。だが時局はそんな冗談すら許さない恐怖と暴力で人を支配する流れに。

山谷一也氏は大平サブローっぽい。

役者が皆個性的。妙な面白さがある。今の時局に訴えるべきことを込めて。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

静かに淡々と進むので居眠りは多かった。何気ない日常に忍び寄るファシズムを描きたかったのだろう。

喫茶デイジーのセットは時局と共に後ろから押されて両側が閉じていき最後には身動きが取れない程のスペースに。千田訓子さんは恐れおののく。

特高に捕まりずっと無視される拷問を受ける門脇俊輔氏。いつまで経っても取調べが始まらない。耐えかねて取調べをお願いする。刑事の要求するまま作文を書く。とにかく早く終わらせてここを出ないことには。特高刑事の山谷一也氏、ごまのはえ氏、小野毅氏の醸し出す雰囲気がいい。小説調のモノローグで淡々と綴られる日々がより個人の無力さを際立たせる。

賀茂川と高野川の合流地点にある三角州は「糺河原(ただすがわら)」と呼ばれる府民の憩いのスポット。(「出町の三角州」「鴨川の三角州」を経て現在は「鴨川デルタ」と呼ばれている)。執行猶予でやっと拘置所から解放された門脇俊輔氏、斎藤雷太郎(西村貴治氏)、電車でそこをぼんやりと眺める山﨑茉由さん。
体制に思考なく迎合して加担する町の連中に吐き捨てる。「俺はこいつらが嫌いだ。」

血が輪郭に滲んだ白いお面で大衆を表現。誰も彼もが顔を失くし記号化する。両手にもお面を持つ血塗られた白いお面の群衆。そこをぐるぐる走り出す。ぐるぐるぐるぐるただ憑かれたように駆ける。グラウンドを周回する生徒のようにぐるぐるぐるぐる。

今作を観ていて自分が当時の日本に覚える嫌悪感の理由を再確認する。自分よりも劣った連中に従わねばならぬ屈辱感。こんな頭の悪い連中の言いなりにならねばならないのか。知性も思慮も持たない単細胞生物に好きなように蹂躙される惨めさ。せめてもう少し知能があってくれ。人間であってくれ。嘘を付いて騙し続けないと一つになれない国なんてそもそもが間違っている。

『はだしのゲン』の作者・中沢啓治の読売新聞への投書。
「これから先、だれかが戦争や原爆を肯定するようなことを言っても、絶対に信じるな」。
大地の子

大地の子

明治座

明治座(東京都)

2026/02/26 (木) ~ 2026/03/17 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕70分休憩30分第二幕第三幕105分。

現代の『山椒大夫』。全てのエピソードは作家・山崎豊子が取材で得た事実を繋ぎ合わせたものだけに重厚。「小日本鬼子(シャオリーベングイズ)」=鬼畜日本の子と苛められ罵倒され理不尽な目に遭いそれでも尚且つ前だけを見て生き続ける男の姿。

ステージ奥の中二階に回想シーン等が映る。静止した影絵のように始まり映像を投影しているのかと思うがふと動き出しリアルタイムで役者達が演じていることが判る。ざらついた幕を通してセピアなイメージが効果的。
配役にかなり演劇通の人が関わっているのだろう。一人ひとり出演するだけの理由があり、必ず観劇後も記憶に残っている。この大作でこれをやるのは凄腕。(天野はなさんの代役で山﨑薫さんをキャスティングするのもよく判る)。

時系列がかなりバラバラなので主人公・陸一心(ルー・イーシン)を演じる井上芳雄氏の各時代の演じ分けが大変。鬼気迫った役者馬鹿の情熱、ギラついた目付きは尾崎豊のよう。男泣き。70年代の役者の匂い立つ魅力がある。往年の映画ファンなら大好きになるだろう。凄い人気で1列目から双眼鏡で井上芳雄氏の表情を凝視する熱心なファンの姿も。

育ての父、陸徳志(ルー・トウチ)役は山西惇氏。ただただ泣かせる。この物語の心を司る。
育ての母、王淑琴(ワン・シューチン)役は増子倭文江さん。流石。
従姉妹にあたる陸秀蘭(ルー・シウラン)役は山﨑薫さん。
日本の父、松本耕次役益岡徹氏も巧み。
みやなおこさん!
内蒙古の労働改造所で羊飼いをしている黄書海(ホワン・シュウハイ)役浅野雅博氏のエピソードも秀逸。
『金鶏 二番花』主演の丸川敬之氏!
『焼肉ドラゴン』の櫻井章喜氏!
ヒロインとなる江月梅(チアン・ユエメイ)役は有森成美みたいだなと思ったら上白石萌歌さん。アイドルみたいなキラキラしたオーラ。

それでも何と言ってももう一人の主人公である張玉花(ツァン・ユウホワ)役奈緒さんがMVP。いつの間にこんな本物の女優に化けたのか。人間のカルマを見据えたとんでもない女優になりそうな予感。素晴らしかった。
(勿論養母役山下裕子〈ひろこ〉さん、旦那役木津誠之氏の名助演も特筆もの)。

いろいろと細かな不満点はあるがとにかく配役が効いている。一場毎に必ず人の心を打つ見せ場を作りガッチリ演技を堪能させる。小林正樹の『人間の條件』を一気見している気分。ガチのスタンディング・オベーションになった。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

都合により第二幕第三幕が繋がっている。幕が下りてすぐに上がり第三幕へ。脚本家としては休憩も当て込んで書いただろうに残念。

山崎豊子原作は実は読んだことがなく多分ドラマ、映画も観ていない。名前だけで何となく知った気になっていた。今回何処まで原作通りなのか解らないが相当人間の嫌な部分を掘り起こす作家なのだろう。脚本のマキノノゾミ氏が描きたい部分は奈緒さんが担った。言葉を持たない者達の経験した記憶は誰にも掬い上げられることもなく無言で海の底に沈澱していくのみ。何億年何十億年誰にも顧みられず沈黙のまま。作家の仕事とは彼等の声なき声を世界に伝えることだと山崎豊子は訴える。

井上芳雄氏は生みの親に日本に帰れと諭されるも自分は謂わば『大地の子』なのだと宣言する。経験してきた一日一日その全てが自分自身を形作ったのだと。
結語に現在の日中関係を重ね合わせ、「『大地の子』は今、何処にいるのだろうか?」と決める。日中の現実に痛烈な言葉。どんな時代にも優しく正しく公平であろうとする者は日本にも中国にもいる。

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