ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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ヘカベ/ドゥロイケティス

ヘカベ/ドゥロイケティス

お布団

アトリエ春風舎(東京都)

2026/02/12 (木) ~ 2026/02/15 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★

ステージには小さい箱馬が4個ずつ4列並べられている。炎のように光が揺らめくキャンドル型LEDライトがその中に入っている。奥に定型の箱馬が椅子として6脚並び、背景に白い幕が掛かっている。下手に置かれた2脚の箱馬、様々な用途に使用。

まず中野志保実さんが現れ観客に説明を始める。劇の始まる前に既に死んでいる少年ポリュドロスの亡霊として。

十年続いたトロイア戦争にて到頭ギリシア連合軍がトロイアを討ち破る。トロイア人の男はほぼ全員惨殺され、女だけが奴隷として連れて行かれる。老いた王妃ヘカベ(新田佑梨さん)、侍女のムネーサ(永瀬安美さん)。娘の王女ポリュクセネは想像を絶する性暴力を受け正気を失ったまま。
ギリシア連合軍司令官のアガメムノン(宇都有里紗さん)、参謀オデュッセウス(大関愛さん)、伝令タルテュビオス(中野志保実さん)。
海が荒れて航海がままならず、途中の小国トラキアに停泊させて貰うことに。トラキア王はポリュメストル(渚まな美さん)。実はヘカベはこの国に王子ポリュドロスを金塊と共に預けていた。戦争で全ての子供達は殺され残る希望は彼だけに。

何の情報も入れずに観たので随分とイメージが違った。ルックスの良い若い女性ばかりの劇団?服装もカジュアルで等身大。頭でっかちの観念系ではなく普通に面白い。

大関愛さんは「国境なき朗読者たち」の『朗読劇  The Message from Gaza ガザ 希望のメッセージ』で観た。
宇都有里紗さんは連合赤軍にいそうな雰囲気。眼鏡を掛けるとハンジっぽくもある。
中野志保実さんは妙に不穏な雰囲気。
渚まな美さんはちょっと松本典子っぽい。
新田佑梨さんはイントネーションに独特のものがあり、顔立ちからハーフ?とも思った。
永瀬安美さんは品の良い美人でやたら気になった。
これは大塚英志の『「彼女たち」の連合赤軍』を演るべき面子だろう。

一昨年、清流劇場の『へカベ、海を渡る』を観て、こんな暗い話に何故人は惹かれるのか?と思った。今作のアプローチは現在進行系の戦争と通じるように作られている。やはりガザ地区の嘆きにリンクする人が多いだろう。遠い昔の伝説ではなく、今現在起きている事実。そしてそれをよく知る自分達は無力でほぼ何も出来ない。ただ呆然と立ち尽くすのみ。その怖ろしさ。今作を眺める観客と全く同じ。ただ黙ってソレを眺めている。怯えながら。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

「ドゥロイケティス」とはギリシャ語の「奴隷」と「家」を組み合わせた言葉らしい。奴隷の家?

一番の見所は悲鳴の合唱。オデュッセウスが生み出した禁忌の化け物にポリュクセネは凌辱される。その最中、不意に宇都有里紗さんが奇声を上げる。獣のような悲痛な唸り声に何人もが声を重ね奏でるのは地獄のメロディ。気付くといつしか誰もが悲鳴を上げていた。世界中の誰も彼もが。何だこの声は?一体誰の声なんだ?ああ、これは。これは俺の声だ。俺が叫ぶ声だ。『もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。』

オデュッセウスのキャラクターが練られている。戦争中捕らえられ処刑されるところを泣き叫びながら惨めに命乞いをする。憐れに思ったヘカベが処刑を止め逃がしてやる。その恩は感じつつ現実には何も出来ないオデュッセウス。兵士の不満を治める為だけに、ただの宗教儀礼と知っていながらポリュクセネを生贄に捧げる。全てが計算尽く、下の者を統率する為の方便、最早それにがんじがらめ、自由意志なんて何処にもない。統治する為の最適解に血塗られていく。

禁忌の化け物には核兵器や生物兵器などのタブーを重ねた。
社会の柱

社会の柱

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2026/02/10 (火) ~ 2026/02/15 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★

ノルウェーの小さな港町。町の名士である造船業の実業家カルステン・ベルニック(﨑山新大氏)。妻のベッティー(向井里穂子さん)、13歳の息子オーラフ(千田碧さん)。彼は進んでいた鉄道敷設計画を去年中止させたのだが実は密かに自分達で別の鉄道計画を進めている。
15年前、町に旅芸人の一座がやって来た。座長の女房は美しい花形女優。ベッティーの弟であるヨーハン(中島一茶氏)と不倫関係になり、怒った座長は妻と娘を置いて去って行った。更にヨーハンはカルステン・ベルニックの母親の金庫から大金を盗み一人でアメリカに逃げ出した。その後を追って父親違いの姉であるローナ(辻坂優宇さん)もアメリカへ。静かな田舎町を揺るがす大スキャンダル。残された座長の女房は一年後病死。カルステン・ベルニックは娘のディーナ(野仲咲智花さん)を引き取り屋敷で育てた。
そして突如、ローナとヨーハンが15年振りにこの町に帰って来る。彼等の企みは一体何なのか?

「うううひゃあああああ」と常に怯え悲鳴を上げ続ける菊川斗希氏がMVP。ベッティーの従兄弟ヒルマール役。
主人公カルステン・ベルニック役、﨑山新大(しんた)氏はちょっと綾部祐二っぽい。
もう一人の主人公である不意の来訪者ローナ役は辻坂優宇さん。
修道士のような度を越した倫理観を強要する教師レールルン役は井神崚太氏。谷原章介っぽい。
ヒロイン的役回りディーナ役は野仲咲智花さん。適役。

こんな機会でもないとイプセンなんか観ないので面白かった。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

領事というのは外国で自国民を保護する役職。ノルウェーで領事ということはデンマーク人なのか?何かそこら辺が不明。

第一幕は登場人物の説明なのだが人名が多過ぎてさっぱり判らない。居眠り客は多かった。段々何の話なのか大枠が見えて来て第二幕は面白く観れた。批判の多いらしい力ずくのハッピーエンド、これ喜劇じゃないのか?全体的にもう喜劇として組み立てればどっと受けると思う。修理を完了していない沈む船に裏切ろうとする義弟を乗せ事故死を狙う。だが彼はその船には乗らず最愛の息子が乗り込んでしまった。もうおしまいだ、全てを失ったと観念する主人公。これが俺の犯してきた罪の報いだ。だが良心の呵責に耐えかねた工場長が船の出航をすんでのところで中止。誰も死なず最悪の悲劇は免れる。主人公はこれを神の与えたラスト・チャンスと捉え群衆に全てを打ち明け懺悔する。皆がそれを温かく迎える。「真実と自由の精神こそが社会の柱なのです。」

修理していない船を無理矢理出航させようとする主人公に観客はドン引いた。
少年少女

少年少女

あわぷれ

新宿眼科画廊(東京都)

2026/02/06 (金) ~ 2026/02/10 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

深井邦彦氏は何か業界内人気が高い感じ。次から次からオファーが来て次から次からそれに応える。全ての作品に通ずる人間観、人生観は同じだ。ずっと同じ方向性の歌を歌っている。引きこもりの自殺志願者が生きていくにはどうしたらいいのか?死のうと決めた奴に届く言葉はあるのか?それは作家の自分自身への言葉なんだろう。赤の他人へのエールなんかどうとでも作れる。生成AIでも適当に与太れるだろう。だが自分自身に届く言葉はそんな安いもんじゃない。一体、どうすれば自分は生き直す気になれるのか?それともやっぱりなれないのか?

「あわぷれ=our pray(私達の祈り)」とは深井邦彦氏と演出助手の朝倉エリさんの二人ユニット。役者が絡まないのは珍しい。よっぽど二人でしか見れない光景があるのだろう。(今作は2017年にHIGHcolorsで上演した作品の一部を切り取ったものなのだろうか?)

磯部莉菜子さんは上品なイメージの役が多い気がしたが、ぽこぽこクラブの『あいつをクビにするか』ではサイコ女だった。
八頭司悠友(やとうじゆうすけ)氏の使い勝手の良さ。『反応工程』から『モモンバのくくり罠』から『少年Bが住む家』から記憶に残る存在。内面を外面に投影する技術が優れているんだろうな。

ネタバレBOX

いつもの奴はラムネ菓子なのかな。一番重要なアクションはビンタ。ガチビンタ2発で客席も慄く。自殺しようとする女と張り合う宅配便の男。不幸自慢でマウントを取り合う。男の話はガチ話なのか?それとも策略なのか?「タイプです。飲みに行きませんか?」と執拗に迫る男の恐怖。『ターミネーター3』の名台詞、「怒りは絶望に勝る」を思い出す。何故、この見ず知らずの女の自殺を止めようと思ったのか?何も出来なかった惨めな自分をそこに見たのか?それは誰にも分からない。

客席は業界人で溢れ返った。有名女優がそこらここら。一体、作家は何処へ向かうことになるのか?

The ピーズ 『残念賞』

ひねもす、馬鹿の相手
死んだ方がマシだって
やっぱそう来ると思った
そのうちでいいじゃねえか

カビの生えた頭
花咲くまで引きずって
眺めてれば生きれんだ
割と誰も咲いてんだ
人造人間の​憂鬱

人造人間の​憂鬱

糸あやつり人形「一糸座」

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2026/02/06 (金) ~ 2026/02/10 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

今作のベースとなった『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』は19世紀英国のメアリー・シェリーが二十歳の時に書いた処女作。

主演女優、一体誰か?と思えば大鶴美仁音さん。正統派アングラ。情念が濃い。那須凛さんっぽくもある。
藤吉久美子さんは松本明子の顔芸やPERSONZのJILLを思わせるド派手メイク。やるなあ。
原田大二郎氏は先月、横浜シネマリンで『橋のない川』を観たばっかりなので感慨深い。

桟敷童子から出向の稲葉能敬氏、鈴木めぐみさん、三村晃弘氏はまさかの人形遣い。恐ろしい演出家だ。

前説で登場するのが見世物団の三人。傴僂の火吹き男イゴール(土屋渚紗さん)、チューバッカみたいな毛むくじゃらの玉乗り男グリズリーハンス(眞野トウヨウ氏)、尻尾の生えた奇形少年ネリ(成田路実さん)。

開幕すると平安時代の僧・西行法師が1150年位に造った人造人間が三体現れる。(江戸伝内氏、結城民子さん、結城一糸氏)。ベムベラベロみたい。西行は死体の人骨を集め「反魂の術」で人を作ったが思ったようにいかず捨ててしまったそうだ。憂鬱を抱えたまま、この憂鬱をどうにかすべく噂に聞いた遠く西洋の人造人間のもとに赴く三体。

179☓年、スコットランドのオークニー諸島にある小屋。ヴィクター・フランケンシュタイン(原田大二郎氏)は自らが造り出した人造人間(大鶴美仁音さん)と決裂する。創造主を裏切った人造人間を許しておけない。フランケンシュタインは自らの手で抹殺することを誓いその後を追う。その同行を申し入れる日本から来た三体の人造人間。

大鶴美仁音さん演じる人造人間は髪を頭皮に沿って細かく三つ編みに編み込んでいくコーンロウ、顔はフェイスペイントで黒く汚れている。山に潜むが罠に掛かり麻酔銃を撃たれ捕らえられる。

捕らえた見世物団のウォルシュ団長(結城一糸氏)は人造人間を興行の目玉とする。残虐な団長の妻、アンナ(藤吉久美子さん)。世話をする優しい少年、ブリアン(結城まりなさん)。空気女オルガ(塩川京子さん)にイゴール、グリズリーハンス、ネリ。ブリアンは人造人間に「トモダチ」という名前を付けてあげる。ひと時の安らぎ。どんどんペイントが剝げていき人の顔に近付く。

ブリアンの語る昔何処かで聞いた話。北の果ての果てに理想の村があってそこに暮らす人々は皆心優しい。どんな人間でも受け入れてくれる。そこに行けば醜く歪んだ心が溶け出して皆誰もが優しくなれる。美しい歌が歌えるようになる。人間としての生を存分に謳歌出来る。

人造人間の醜さは原作に「黄色い皮膚は、その下にある筋肉や動脈の動きをほとんど隠すことはなく」と書かれており、『進撃の巨人』の超大型巨人のような人体模型的グロテスクらしい。見るなり恐怖するようなおぞましさ。彼の不幸は姿形が醜いことが全て。誰からも受け入れられない。誰からも好かれない。理由なく嫌悪され迫害を受ける。それによって人を憎む。そしてこんな自分を造っておいて放り出したフランケンシュタインへの恨み。
「何故造った?」
美しく可愛らしく造っていれば子犬や子猫のように愛されたのか?

人間は皆、何かに操られているような不安。自分の意思はまるで誰かの決定に従うだけのような。それが魂なのか?魂が動物を支配して自由に動かしているのか?操られている動物は不安で堪らない。俺は誰なのか?俺は俺の意思では生きられない。それを俺と言えるのか?糸あやつり人形の憂鬱。

ネタバレBOX

ウォルシュ団長は人造人間が蛇を引き千切り生き血を吸う演し物で玩具の蛇を使っていたことに激怒。見せしめとしてオルガ、イゴール、グリズリーハンス、ネリの四肢を切断して芋虫のようにする。イゴールは最後の力を振り絞り人造人間の垂らした脂汗を使って火を吐き、見世物団のテントを焼く。混乱の中、逃げ出す人造人間とブリアン。目指すは北の果ての果てだ。一年かけて盲目のラセー夫人(結城民子さん)の館に辿り着く二人。シューベルトの「野ばら」を蓄音機で聴いている夫人。美しい赤い野ばらを少年は折る。野ばらは抵抗して棘で刺す。折られた野ばらとその痛み。

一番のシーンは超巨大なオリジナル人造人間の登場。これはカッコイイ。余りの大きさにどよめく。大鶴美仁音さんの正体は彼のつがいとしてフランケンシュタインが造ったが破棄した女性だった。

見世物団を逃げ出してからが余り好きじゃない。ラストに至る主人公の見付けた目的(戦場で人を殺しまくる)も腑に落ちない。西行に造られた人造人間達も結局何がしたかったのか?何か後半はのれないまま。何かが足りない。

もしかしたら神もフランケンシュタインと同じく人間をつくってしまったことに動揺しているのかも知れない。全く思ったようにいかない。こんな筈じゃなかった。造物主に恨みを持たれても困る。そこまでの責任は負えない。そもそもつくらなければ良かったのか?
『100歳の少年と12通の手紙』『ベイビーティース』

『100歳の少年と12通の手紙』『ベイビーティース』

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2026/02/06 (金) ~ 2026/02/15 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★

『100歳の少年と12通の手紙』

白血病で入院中の10歳の少年(田村理子さん)。骨髄移植手術をするも生着不全にて打つ手がなくなる。医師(深堀啓太朗氏)は両親(八柳豪氏&荒木真有美さん)を呼び余命宣告。ショックを受けた両親は少年に会うことなく帰宅。それを隠れて盗み聞いていた少年はそんな両親の態度に深く傷付く。本音を隠し取り繕った笑顔で空虚な綺麗事ばかり並べる嘘つきの大人達にはもううんざり。唯一ボランティアで小児病棟に来ている飾らないローズさん(山本順子さん)だけが信じられた。

ローズさん役山本順子さんが最高。彼女の突飛な発想とアイディアで少年の世界の受け止め方が変わる。MVP。
主演の田村理子さんは抗がん剤の副作用で脱毛している設定。眉を剃り、髪はニット帽で隠す。高橋由美子みたいに目が大きく、くりくりしているのでそんな姿も愛らしい。
少年の恋するペギー・ブルー役は安藤春菜さん。ちょっと大島優子っぽい。

元はフランスの小説で翌年一人芝居として上演。更に作家自身が監督として映画化。日本で二人朗読劇として上演されたこともあるが今回は複数の人物が登場する舞台としての演出。少年のベッドとしてキャスター付きテーブルをあちらこちらに移動させて大活躍。三方向の客席にシーンを楽しんで貰わないといけない。可動式のドア枠もいろんな場所で様々なドアになる。

死を前にした何も信じられない少年に果たしてローズさんはどうやって人生を満喫させるのか?
想像以上に面白い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ローズさんは自称元女子プロレスラーで世界チャンピオン。世界中を旅し数々の難敵を下してきた。そのエピソードが面白い。三つ子のヴェネチアン・マスクマンとの対決では八柳豪氏、荒木真有美さん、深堀啓太朗氏が扮した。

残りの12日間を一日10年と換算して120年。10歳の少年は人生の全てを味わい尽くす。そして神様への手紙。一日一つだけのお願い。
The Weir~堰~

The Weir~堰~

劇壇ガルバ

ザ・スズナリ(東京都)

2026/02/05 (木) ~ 2026/02/15 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

敬愛する『父と暮せば』の黄金コンビ・山崎一氏&伊勢佳世さんの再結集。観ざるを得ない。
作品自体は5年前に劇団昴で観た。ギネスビールが飲みたくなってイライラするような良い作品だった。簡単に言うとアイルランドの田舎町のパブで顔馴染の常連客が新参者の移住者に町の逸話を披露する。その新参者は美人の女性の一人暮らし、一人を除いて独身のおっさん共は色めき立って妙に舞い上がる。パイントとは日本で言う中ジョッキのことで約568ml。中生=生中みたいに使っているのだろう。

町にまつわる不思議話の流れから実際に体験した怪談話の披露みたいになっていく。話術が巧みな役者を揃えている。

バーテンの田中穂先氏は天野はなさんによく似てる。
いじられキャラの上村聡氏はロッチ中岡っぽい感じでムードを和らげる。
山崎一氏&伊勢佳世さんはもう別枠として、麻生太郎風味の高橋慶彦みたいな長谷川朝晴氏がMVP。文句なしに巧い。話術は麻生太郎節、全てが自然で計算ずく。絶妙。

伊勢佳世さんは英国人の血が入っているような美しさ。表情が日本人っぽくない。
伊勢佳世さんと山崎一氏の遣り取りは些細な表情の変化も見逃せない。
このコンビならどんな作品でも観たい。上質な演劇を浴びる光栄を観客は享受。風の音の微妙な変化、話の流れにリンクした繊細な照明。いつしか話に聴き入っている観客。まるでこの空間、この空気に演出をつけているようだ。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

堰(せき)とは水位を制御する為の構造物。河川の水をせき止めて水量水位を調節する。人間の感情や意識無意識が液体ならば、その氾濫や洪水を防ぐ為に酒がある。酒を飲んでどうにかやり過ごす。どうにもならないことをどうにかやり過ごす。時にはわざと堰を切って貯め込んだ汚水を濁流として放出した方がいい時もある。それにも酒は役立つ。

山崎一氏が心の痛みを吐き出す。自分を苦しめているものは他でもない自分自身だということを。
ダブリンはアイルランドの首都で日本で言えば東京。田舎の若い連中は皆都会に出たがる。そうして出て行った彼女とそこにどうしても馴染めなかった自分。遠距離での恋愛。段々と彼女からの手紙が鬱陶しくなる。何故ここに俺を残してお前は戻らない?手紙に返事を出さなくなった。シカトを決め込んだ。それでもずっと送ってくれた手紙。「結婚します」の報告が一行。

The ピーズ 『映画(ゴム焼き)』

長くないよ すぐ終わる 長いようですぐだな
許された もう許された 忘れっちまえば許された
半端な夢の変な音
苦しめばいいさ 独りっきりでずっと
引きずって くるまって 夢を見るさ
「わたしの町」

「わたしの町」

TRASHMASTERS

新宿シアタートップス(東京都)

2026/01/29 (木) ~ 2026/02/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

北海道南東部に位置する十勝郡の町、浦幌町。農業林業漁業酪農業に栄え食料自給率の高さで「日本の食料基地」と呼ばれる地域の一つ。炭鉱で隆盛を誇り最盛期1万人を超えた人口も閉山後4400人余りに減少、学校は次々と閉校。2007年、最後に残った高校の閉校危機に地域住民が立ち上がる。
※今作では鞍園(くらその)町とされている。

地元民の憩いの場、『蕎麦・炉端焼「よし乃」』に皆が集まる。女将は石井麗子さん。
地元出身で郷土愛の塊、小学校教頭の千賀功嗣(いさし)氏。
野菜作り農家の中嶋ベン氏。
小学校教師の森川由樹さん。
他所から移住して来た漁師でネット通販等を開拓して成功を収めている星野卓誠(たかのぶ)氏。
地元民は星野卓誠氏をいけ好かない奴だと避ける人も多い。

昨年、星野卓誠氏は漁で遭難して死を覚悟。その時、地元の何隻もの漁船が救助にあたり九死に一生を得る。自分とは縁もゆかりも無い人達も駆け付けてくれた。この町に恩返しをしたいと強く決意。このまま町が滅んでいくのを黙って見過ごせない。彼の熱意が森川由樹さんを動かし、古い考え方に凝り固まり旧態依然を美徳とした千賀功嗣氏に刃を向ける。

ある意味、主人公の森川由樹さんが吠える。この町が滅んでいくのは何故ですか?ここを離れて都会に出た方が良いと思わせたのは誰ですか?この町の大人達でしょう。学校の教師達でしょう。この町が滅びるのはこの町の指し示す方向性が間違っていたからです。その現実を見ずに絵空事ばかり与太っていても何にもならない。子供達がここに住んでいきたいと思う町にしなくてはいけない。子供達自身にどんな町にしたいか考えて貰うんです。

果たして過疎った町に打つ手はあるのか?
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

石井麗子さんの飲み屋は行ってみたい。

中嶋ベン氏は樋浦勉っぽく裏表のない剝き出しの人間性が魅力的。すぐ何にでも賛同してしまう素直な男。

第二幕は幼馴染高校生の三角関係、恋愛ドラマのような展開に会場が沸く。休憩挟んで全く別の作品になるTRASHMASTERSの十八番。一体俺達は何を観せられているのか?

藤堂海さんは2010年の『アストライアの天秤 ~砕動風鬼~』を観ていることもあり、毎回気になる。

長谷川景氏のエピソードも興味深い。

モテモテ田島亮氏はこの若手誰だっけ?とずっと考えていてやっと最後に気が付いた。高校生役がハマる38歳!白石紗也さん、中村莉久さん、成程の配役。

橘麦さんはラストの台詞が決まる。「この町には物語が埋まっている。皆自分にどんな物語が始まるのかドキドキワクワクしている。」
中嶋ベン氏は「だって楽しいじゃない。そっちの方が。」と笑う。

第二幕も森川由樹さんの千賀功嗣氏への啖呵が炸裂。古い因習に囚われこれまでの村社会の価値観に縛られたままの古い世代。それで行き詰まったからこそ変えていく時代になったのだ。この世界は既得権益者に支配され続ける永遠の闇ではない。人々の意識は時代と共に変わる。幾らでも筋の通った合理的な世界に正すことが出来る。光が差す、未来にはもっと。

BLANKEY JET CITY 『PUNKY BAD HIP』

古い世代の奴等は金で何でも買い漁った
だけど俺達は自然の掟の中で生きるケダモノの世代さ
「ハッハ!」(中村達也の笑い声)
ある夜をめぐって

ある夜をめぐって

パンケーキの会

駅前劇場(東京都)

2026/01/29 (木) ~ 2026/02/04 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『壊れたガラス』

この演出家は要チェックだと思う。名取事務所の作品が好きな人は観ておくべき。配役がズバリで役者全員魅力的、照明への過剰な拘り、効果音の入れ方も繊細。チェロ奏者の中田鉄平氏が生演奏。ある台詞を切っ掛けに演奏が始まったり、作品と生々しく連動し空間を濃密に染め上げる。

1994年初演、アーサー・ミラー78歳、晩年の代表作とされている。

水晶の夜=クリスタル・ナハト。あぶらだこの「クリスタル・ナハト」を思い出す人も多いのでは。家族がドイツから追放され難民キャンプ生活となった17歳のポーランド系ユダヤ人青年がパリのドイツ大使館員を射殺。これをいい機会とヨーゼフ・ゲッベルスはユダヤ人社会への実力行使をナチ党員に扇動。1938年11月9日、10日にナチスの統治するドイツ、オーストリア、チェコスロバキアでユダヤ人に対する大規模な集団暴力行為が発生。267のシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)が破壊され、ユダヤ人の経営する7500軒の商店のショーウィンドウが叩き壊された。割れたガラスが国中の道路を埋め尽くし、月に照らされて煌めく。

1938年11月、ニューヨークのブルックリン、裕福なユダヤ系アメリカ人夫妻。息子は米国陸軍士官学校に入学していてここにはいない。
新聞にドイツのユダヤ人弾圧の記事。薄着のユダヤ人の老人達が歯ブラシで道路を磨かされている。這いつくばって。それを囲み嘲笑する群衆は厚手の外套をまとっている。彼等の罵声が確かに聴こえた。佐乃美千子さんは突然下半身が麻痺してしまう。原因不明の車椅子生活。夫の井上裕朗(ひろお)氏は医師の大原研二氏に紹介されて診察を受けさせる。医師の妻であり、秘書の岡本易代さんがお喋りで笑い上戸、爆発的に場を盛り上げる。医師は肉体的には何処にも異常が見当たらなかったと伝え心因的なものではないかと推測する。心当たりはないか?

井上裕朗氏は住宅ローンブローカー会社のNo.2にまで上り詰めている。WASP(英国系白人上流階級)の仲間入りをユダヤ人である自分が果たした自負。息子もウエストポイントの唯一のユダヤ人だと誇る。だが本当はユダヤ人であることが嫌で自分自身のことも嫌っていて鏡も見ない。自己否定と繰り返す劣等感の補償行為。

井上裕朗氏は後期氷室京介や梶原善、板尾創路を思わせる。とにかく熱演。会話の畳み掛けるスピード感。声がまた良い。妻を愛し崇拝し、それと同時に自分への当てつけで歩けない振りをしてるんじゃないかと疑う。妻の佐乃美千子さんは適役。その妹、豊田可奈子さんもしっくり来た。医師の大原研二氏も巧い。人間性が透けて見える。その妻の岡本易代さんも凄腕。柳原可奈子の爆発力。登場するだけで場の空気が盛り上がる。会長、ひのあらた氏も文句なし。宝田明みたいにダンディ。

ネタバレBOX

精神分析学の創始者、フロイトはヒステリー(解離性障害)の原因を抑圧された性欲だと分析した。今作の医師もそう予想して夫婦の性生活について尋ねる。井上裕朗氏は週2,3回と答えるが妻の妹の豊田可奈子さんはそれを否定する。直接、妻の佐乃美千子さんに訊くと出産して以来20年性交渉がないことを告白する。当時心配になった佐乃さんは自分の父親に相談してしまう。そのことを第三者に知られた井上氏は深く傷付く。

実は性的不能の原因は妻への過度の崇拝であると井上氏は告げる。出産を終えた後、妻の横で眠るとまるで胎児になったような心地良さを感じたと。妻が性的対象ではなくなってしまったのだろう。

惜しむらくはラスト前が混乱してしまっている。公演中に何度も戯曲を改訂し、芸術監督の頼みで1シーン追加したそうだ。それが医師と主人公の対話シーンらしい。「人間は誰しもが迫害されている。ヒトラーですらユダヤ人に迫害されている。」自身の加害性に目を向け相手を許すこと。そして自分をユダヤ人であることを許せるように。
この辺の遣り取りが哲学的で作品と巧く噛み合っていない気がする。

ブルーハーツ 「チェインギャング」
世界が歪んでいるのは僕の仕業かも知れない

自分もこの世界の加害者であることの自覚。じゃあどうすりゃいい?

※両面客席なので対面の観客が見えてしまう。居眠り客はやたら多かった。暖房のせいか?

※アーサー・ミラーはマリリン・モンローと撮影現場で出会い不倫、妻と別れ結婚。だがそれも長く続かず写真家インゲ・モラスと不倫し彼女と一緒になった。彼女との二人目の子供、ダニエルはダウン症で生後一週間で施設に送られた。妻は育てようとしたが拒絶する。アーサー・ミラーはこのことを生涯隠し通そうとして死後マスコミに叩かれた。今作の夫に崇拝される美しい妻にはマリリン・モンローの姿がだぶる。

※ステーキでビンタ。
ある夜をめぐって

ある夜をめぐって

パンケーキの会

駅前劇場(東京都)

2026/01/29 (木) ~ 2026/02/04 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『エーリヒ・ケストナー~消された名前~』

秀逸な脚本。劇団印象の「国家権力に翻弄される芸術家」シリーズは本当に出来が良い。子供の頃は抵抗することこそが美徳だと単純に信じ込んだが、それもどうも違うらしいと判ってきた。美しく死んでも仕方ない。この世界は生者のものだ。生き続けることだけが意味のある抵抗。

ロッテ役櫻井成美さんの体調不良による降板の為、二本同時公演のもう一作、『壊れたガラス』に出演する豊田可奈子さんが急遽代役に。本番まで十日もない中、これを引き受ける強さ。純真な中学生時代から演じるルイーゼロッテ・エンデルレ。豊田さんは『ミセスフィクションズのメリークリスマス(仮)』のブルジョワ女優だった!

太ったタイヤ屋ヴェルナー・ブーレ役、ちょびつき雨宮氏は芦澤竜誠っぽい。もっと派手に太っていた方がキャラに合ったろう。妙に勘が良いと思ったら本物の芸人だった。ムードメーカー。

俳優ハンス・オットー役、林大樹氏は原嘉孝っぽい。長身で骨張りドイツ人っぽくも見える。佐藤弘樹氏にも似てる。

パンの売り子、エーバーハルト・シュミットは森山能(のりと)氏。名シーンがある。

美人ダンサー、レニ・リーフェンシュタールは佐乃美千子さん。

主人公の児童文学作家エーリヒ・ケストナーは渡邊りょう氏。どんな役を振ってもきっちり期待に応えてみせる安心感。ケストナーは『飛ぶ教室』を子供の頃に読んだ記憶があるが全く覚えていない。『動物会議』はこまつ座の『どうぶつ会議』として観た。

MVPは挿絵画家のヴァルター・トリアー役、大窪晶氏。もの凄い雰囲気。亡くなるまでケストナーの全ての作品の表紙と挿絵を任されたユダヤ人。文鎮のように作品の要所を締める。

ナチスの興亡と共に同時代の者達の運命も濁流に飲まれた木の葉のように浮き沈み。全てが終わった後でなら幾らでもしたり顔で宣うことは出来よう。だが溺れまいと必死に流されている最中、何が出来たか?

ネタバレBOX

大窪晶氏は幕間の語り部、狂言回しでもある。観客に向かってこの物語の時間の流れを説明してくれる。

①1923年12月 ライプツィヒ
ケストナーと学友との久し振りの飲み会。中学生のロッテはケストナーと知り合いたくて乗り込んで来る。隣の劇場の舞台で踊っていたダンサー、レニの登場。

②1929年12月 ベルリン
児童文学『エーミールと探偵たち』がベストセラーになり、一躍時の人となったケストナー。ユダヤ人の経営する向かいのパン屋のガラスが割られ、犯人のシュミットをヴェルナーが捕まえて連れて来る。シュミットは理由を「汚いやり方で儲けているユダヤ人のパン屋だからだ。」と言う。そこに居合わせたトリアーは瓶を渡し「私もユダヤ人だ。私に投げてみろ。」と迫る。目をつぶって投げようとするもどうしても投げれない。「君が石を投げれるのは目をつぶって相手の顔が見えてないからなんだ。」ボロボロ泣くシュミット。相手のことをきちんと見ないで傷つける行為の愚かさ。名シーン。

③1933年11月13日 ベルリン
ナチスが政権を執り、ユダヤ人への迫害は強まる。トリアーはドイツを去り亡命する決断。ケストナーの児童向けでない小説は焚書される。『飛ぶ教室』の出版。

④1938年12月 ベルリン
「水晶の夜」が起こる。

⑤1941年12月 ベルリン
執筆禁止令を出され経済的に困窮したケストナーをロッテが支える。『ほら男爵の冒険』のシナリオを受けるか断るかの場面。自分と作品との関係性はそんなたやすいものではないのだと渡邊りょう氏は涙を零す。自分の意思でどうにかなるものではないのだと。それを受けて佐乃美千子さんもボロボロ泣く。芸術家にとって自分よりも大切なものが作品である。自分は作品に仕えている下僕に過ぎないのだ。名シーン。

⑥1945年5月4日 オーストリア・マイヤーホーフェン
ドイツの敗戦が知らされ、逃げて来た芸術家達の歓喜。

佐乃美千子さん演じるドイツの女性映画監督、レニ・リーフェンシュタールがもう一人の主人公。1936年ベルリンオリンピック記録映画『オリンピア』の監督。圧倒的な美意識への拘り、美しさを崇めひたすらに追求する視点は誰もが評価せざるを得ない才能。戦後、美しくナチスを表現し鼓舞した戦争責任を生涯追求されて回る。だがそれは敗戦国に付き物の話。勝った戦争を鼓舞した者が糾弾される話なんか聞かない。

劇団印象の初演ではレニ役が今泉舞さん!これも観たかった。

ナチス、戦時中の日本、原爆をテーマにすると定型文のように作品が限定される。逆にどうしてそこまでユダヤ人が憎まれたのかを描く作品なんかが観たくなる。
ピグマリオン

ピグマリオン

avex live creative

東京建物 Brillia HALL(東京都)

2026/01/20 (火) ~ 2026/02/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

沢尻エリカさんは『パッチギ!』を当時観て鮮烈な印象。その後スーパースターになっていくが作品は観ていない。久し振りに観たのは『人間失格 太宰治と3人の女たち』、何か作品に恵まれないなと思った。で今回初めて舞台で観たのだがメチャクチャ魅力的。こりゃ人気出るわ。ネームバリューだけでなく役者としての力がある。才能のある作家と出会えたら何処までも行きそうな爆発力を秘めている。今後も気にしていようと思った。

特筆すべきはセット転換のスピード感。天井からするすると降りて来て左右からすっと現れ舞台セットが組み上がる。このテンポが小気味いい。

ネタバレBOX

会話の内容がかったるく感じる場面もあり、歌を入れてミュージカルにした『マイ・フェア・レディ』は賢い。

六角精児氏は古田新太みたいに見えた。
小島聖さんだとは気が付かなかった。

社会主義者である作者のバーナード・ショー、階級社会なんて見てくれや話し方、服装に価値を求めるだけの中身のない空虚な世界だとの皮肉。貧民街の無学な花売り娘をちょっと躾けてやっただけで貴族共は涎を垂らして有難がる。だが当のイライザは全く幸せではない。自分の存在がただの玩具であることに我慢がならなくなる。音声学者のヒギンズ教授は自分が創ってやった作品なんだから、永遠に感謝して俺を崇めよとのたまう。
「花を売っていた頃より落ちぶれたわ。あの頃は自分自身は売らなかった。LADY(淑女)になったら女には結婚することしか出来ないの?」
「本当の意味でLADY(淑女)と花売り娘の違いは、どう振る舞うかではなく、どう扱われるかにあるのです。」
人が人に対する態度を改めた時、世界は本当の意味で変わる。本質的に人間は皆平等だ。人に敬意持て。

ヘンリック・イプセンの『人形の家』はラスト、主人公である妻のノラが夫と子供を捨てて家を出て行く。夫が自分に向けてきた愛情とは人形を可愛がるようなものでしかなかったことに気付き、家父長制、男性社会の支配から自立した個になる為。今作もその流れだろう。

ピグマリオン=創造主の意味。
かがやく都市

かがやく都市

うさぎストライプ

アトリエ春風舎(東京都)

2026/01/24 (土) ~ 2026/01/31 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

好きな作品。音楽を担当した小林顕作氏がMVP。オリジナルの劇中曲はどれも既成曲を選んだような良曲揃い。金澤昭氏が奏でるギターをバックに夜空の広場の落書きを描き続ける小瀧万梨子さんが名シーン。やたら味のある絵。

筋肉少女帯に『おまけの一日』という曲があって、若くして死んだ少年を憐れに思った神様が「おまけの一日」をプレゼントする。

おまけの一日、さりとてするべき事もなく、
何となく日は暮れて、その夕陽を見ながら少年は
「ああ、僕の一生こそおまけのようなものだったなあ」と思いました。

小瀧万梨子さんはスカーフを真知子巻きにしてサングラスにコートのパリジェンヌ・ファッション。よく似合っていた。

清水緑さんがかなり痩せて更に綺麗になっていた。次はこまつ座だ。

ネタバレBOX

いつからか宇宙人が地球に来ていた。終末の近い地球で人間を選別してさらう。あと猫も好きだからさらう。いつしか空がとんでもない色になっている。小惑星が衝突して地球の生物は絶滅するらしい。それを何となく知っている人もいる。知ったところでどうする訳でもない。ただ時々ふと奇妙な色の空を見上げている。
15年前、高校の同級生だった高橋義和氏と亀山浩史氏。実際に宇宙人の亀山氏はその奇妙な行動から「宇宙人」と呼ばれてた。高橋氏は担任の教師(小瀧万梨子さん)のことが好きだったが、産休の為、クラスを離れることに。激昂した亀山氏は彼女の旦那を探し出してボコボコにする。純粋に高橋氏の為だった。
現在、殆ど人がいなくなった街。高橋義和氏は高校で非常勤講師として都市計画の講義をしている。その授業を取っているのは清水緑さんと一学年上の菊池佳南さん二人だけ。菊池さんは亀山浩史氏の妹で宇宙人だった。菊池さんは高橋氏に好意を伝えるが教師と生徒という立場もあり嬉しく思うものの高橋氏はかわす。
街の何もない広場はかつて高橋氏が設計した物で清水緑さんはその佇まいを気に入っている。そこでベンチに座りアンケートを取っている小瀧万梨子さん。旦那と飼い猫がここで宇宙人にさらわれたらしい。その行方を捜し続けている。H・G・ウェルズの『宇宙戦争』で宇宙人のことを研究しながら。
学校を辞めた高橋義和氏は15年振りに亀山浩史氏の住む工場に会いに行く。そんな再会にも「レベルE」を読み続け、人生ゲームを持って来る亀山氏の風変わりな態度に高橋氏は笑う。「お前、何も変わってないな。宇宙人のまんまだ。」
小瀧万梨子さんは一日24時間稼働し煙を吐き続ける工場が怪しいと睨む。宇宙人の基地では?そこに住んでいる菊池佳南さんは小瀧さんと清水さんを招待する。
宇宙人はさらった人間を人生ゲームの駒にしているらしい。本当なのか冗談なのか。亀山浩史氏は妹に友達が一人も出来ないことを気にしている。最後の一日だというのに。

この作家は劇団普通の石黒麻衣さんと奏でている曲の音色が近い気がする。死を前にした安らぎ、何だか全てに優しくなれる気持ちと澄んだ悲しみ。きっと死んでいった者達はこんな想いに溢れるんだろうな。全てが終わらないとこの境地には辿り着けないのか。レイ・ブラッドベリの終末モノの感覚。早朝の冷えて透き通った誰もいない冬の公園と白い息。石黒麻衣さんの世界はまだ来ぬ未来への不安と焦燥が高じて、逆に破滅を待ち望んでいる気すら感じさせる。北野武『ソナチネ』の名台詞、「あんまり死ぬの怖がるとな、死にたくなっちゃうんだよ」。

BUCK-TICK 「die」

僕は両手を広げ 全てを許したいと願えば
君は空から降り立つ
真実なんてものは 僕の中には何もなかった
生きる意味さえ知らない 何にも
土砂降りの太陽

土砂降りの太陽

24/7lavo

RAFT(東京都)

2026/01/23 (金) ~ 2026/01/26 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

何となく『蟹工船』みたいな話なんだろうと思っていたら全然違った。TRASHMASTERS系の社会派。よく工夫されている脚本だと思う。

岡山県と広島県の県境にある山を貫く山岳トンネルを掘る掘削工事。県議員の悲願の事業であり、その息子(平井泰成氏)が若いながら現場監督に抜擢された。周囲から親の七光りだと陰口を叩かれながらも必死に職務遂行に専心する。口が悪く粗暴なベテランの金成均(きん・せいきん)氏。残土を運び出すダンプのドライバー、今井未定さん。体調不良で離脱した火薬責任者の代わりを務める風見玄氏。ゼネコンから出向して現場管理に来ている佐神寿歩(ひさほ)さん。若い作業員、秋山拓海氏は食い終わった弁当の割り箸を折る奴。

今井未定さんがほぼスッピンでデコトラのドライバー。非常に魅力的な女性でこういう現場にいたらメチャクチャ可愛がられるタイプ。

平井泰成氏のイラッとしてキレる寸前の演技が流石。

「猫、見ました?」
タイトルの意味が判明する時から話は盛り上がる。

ネタバレBOX

金成均氏はリアル。どの現場にも必ずいる奴。ただちょっと脚本のキャラ設定がぶれている気がした。断固工事遂行派か安全優先派か決めるべき。

どうやら天然のウラン鉱床が工事現場付近にあるようだ。粉塵を吸った作業員は腎臓に障害をもたらす。湧水に高放射能汚染があり猫は内部被曝したのかも知れない。体内に取り込まれた放射性物質は体外に排出されるまで放射線を出し続ける。放射線はDNAを損傷し遺伝子・染色体異常を引き起こす。

妊娠していてこの地で暮らすことになる佐神寿歩さんと残土集積地に実家がある秋山拓海氏の話になる。自分に直接関係しなければどうでもいい課題、所詮は他人事。だがもろ自分に直撃する場合、一体どうすりゃいい?

作家が誰の側にも立たないので両論併記のみになってしまう。いろいろな意見、考えがあるが現実に選べる選択肢は限られる。その中で生活していくしかないんだと。正論だが作品の余韻としては弱い。間違っていてもいいから作家の生の声が欲しい。
さらば曽古野遊園地

さらば曽古野遊園地

アガリスクエンターテイメント

すみだパークシアター倉(東京都)

2026/01/22 (木) ~ 2026/01/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

老舗繊維メーカーが何故か運営する地方の遊園地・曽古野遊園地。ワンマン社長・佐藤B作氏(映像出演)の肝煎りと熱意だけで続く赤字部門。反社長派の専務・中田顕史郎氏は社長を引きずり下ろす第一段階として遊園地を不祥事で潰す計画を立てる。腹心の古谷蓮氏にその密命を与え園長として送り込む。とにかく問題起こして閉園に追い込めばいいんだろ、とメチャクチャな運営判断を重ねる古谷氏。それが何故か裏目裏目となり···。

全5話なのだが第2話が面白い。これは必見。客席もドッカンドッカン沸いた。

シチュエーションと各キャラ設定がキッチリ作り込まれているので各話魅力的なゲストを放り込むだけで幾らでも面白い話になりそう。古谷蓮氏と榎並夕起さんの関係性なんかも今後の焦点に。
人気長寿シリーズ化を望む。
全話YouTubeで無料公開するそうなので観劇出来なかった人はそちらを。

ネタバレBOX

①「打倒する人々」
園のマスコットキャラクターである虎のソコノン。変な客に付きまとわれてセクハラに遭い、中に入っているスーツアクター・江益凛さんがキレて投げ飛ばしてボコってしまう。客は傷害の被害届を警察に出すと園を脅す。
生配信のコメント欄が面白い。キーワードは「曽古野遊園人」。

②「宙吊りな未来」
ジェットコースターが上空で緊急停止。二組のカップルが取り残された。山田岳功(がく)氏&波多野伶奈さん、三原一太氏&佐瀬恭代(やすよ)さん夫妻。極限の状況での会話劇。
桃尻犬の傑作、『瀬戸内の小さな蟲使い』の設定と同じだが展開の捻りが効いている。山田岳功氏は武井壮っぽい。

③「おしのび」
マイナーな男性アイドルグループ「地球儀」の熱狂的ファンである鹿島ゆきこさん。推しの佛淵(ほとけふち)和哉氏が恋人・雛形羽衣さんとまさかの来園。ショックとプロ意識とで感情がグチャグチャ。その二人をカメラでつけ狙う謎の女・さんなぎさん。
とにかく佛淵氏が何役も演じるので着替え地獄。途中、ソコノンのマニキュアがピンクだったので江益凛さんだったと思う。雛形羽衣さんがエロい。

④「不都合なスポンサー」
修理費用が捻出出来ないまま、止まったままの観覧車。伊藤圭太氏が営業を掛け、大手化粧品会社のスポンサーを取り付けることに成功。だが社長は度を越した国粋主義者=レイシスト。
DHCの創業者・吉田嘉明氏やアパグループの創業者・元谷外志雄氏をモデルにした女社長・小林あやさん。ヘイト発言ネタはスレスレ。遊園地の客にクルド人一家でもいたら面白かった。秘書の田久保柚香さんは髪型、メイクが斬新で一見誰だか分からなかった。女子プロレスラーの二上美紀子(GAMI)みたいな雰囲気。今の時代に合った非常に危ういネタ。

⑤「遊覧自転車大爆破」
園専用の遊覧自転車を私用でいつものように乗り回す前田友里子さん。突然、自転車から「この自転車を止めたりスピードを落としたら爆発します」との音声が流れる。ずっと自転車に乗りっ放しで降りられない!園を憎む者のテロか?
映像だけの登場の佐藤B作氏とビデオチャットで会話するのだが、会話のタイミングを調整できるようで見事に繋がっていた。画面が少し飛ぶが。

後半、話のフォーマットが見えて来て、観客も楽しみ方が判ってくる。古谷氏の遊園地を潰す為に取る行動一つ一つが、来園者の支持を集め人気が高まりどんどん盛り上がっていく。専務はイライラして怒り狂い、社長は御機嫌。

『トワイライト・ゾーン』のようにSF要素や不思議な伏線があった方が引きずる謎として今後の展開が面白くなりそうではあるが、作風とは合わないか。

※直接劇場に来てくれる人ではなく、不特定多数のネット視聴者を相手にするんなら、考察する謎があった方がいい。考えている時間が楽しい。

※さんなぎさんと所属事務所のファンへの真摯な姿勢に好感。
景色のよい観光地

景色のよい観光地

劇団た組

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2026/01/17 (土) ~ 2026/02/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

AIスピーカーSiri(?)をナレーションに使うのが巧い。AIは見ていた、的な余韻。

東京で鍼灸師をしていた平原テツ氏は遠く田舎の山間にある観光地で現代的なお茶屋をオープンさせる。BARのようなカウンターでスタイリッシュな内装。昔からの友人の田村健太郎氏が調合調理を担当。各地から取り寄せ厳選した茶葉をハンドドリップで淹れる。拘り抜いた味と香り、お茶請けにも凝っている。
よく顔を出す近隣の旅館で働く安達祐実さん。
六本木でオーガニックレストランを経営している宮﨑秋人(しゅうと)氏は平原テツ氏の施術じゃないと駄目だとわざわざ東京からやって来る。
台湾人、吳静依(ウー・ジンイー)さんも花を添える。

平原テツ氏はパーマをかけてフジモンに寄せてきた。狙ってるとしか思えない。街を歩いていたら間違えられる筈。
鍼を打たれてトントンされる時の安達祐実さんがSEXY。

ネタバレBOX

田村健太郎氏はゲテモノ料理のある種のマニア。毒があって危険とされる物を中毒症状が起きるギリギリに調理して食すのが趣味。危険で一般的には食べない物を採取して美味しいレシピを研究する。平原テツ氏はその試食にハマってメロメロ。ベニテングタケ、カキシメジ、クサウラベニタケ、ツキヨタケ···と現実に毒キノコを食べる同好会は実在する。ワライタケやミナミシビレタケなどマジックマッシュルームと呼ばれる幻覚成分シロシビンを含んだキノコもある。美味しくてラリれる危険ギリギリの裏メニュー。背徳の旨味。安達祐実さんも宮﨑秋人氏も余りの美味さに陶酔。お茶屋の夜営業の裏メニューとして出す案。雑誌に紹介され段々と知る人ぞ知る隠れ家スポットとして客が押し寄せるように。更なるメニュー開拓を求める平原テツ氏。バイトとして台湾から現地のヤバイ食材を届ける台湾大学生。超ヤバイ料理を調理している時に、その湯気を吸った連中がトリップしてしまう···。

主演3人が喉に指を突っ込んで延々えずいて終わり。暗転後、カウンターにキノコの人形が3体置かれてある。マタンゴか。悪意のあるこの作風は最近の神経を使う作劇で溜まったストレスを過去作のように好き放題やる憂さ晴らしに見えた。

過去作、『劇じゃない火星人のはなしのヤツ』は藤本かえでさんが包丁で男の指を詰めるのがオチだったような。『心臓が濡れる』も人肉食いがオチだったか?『今日もわからないうちに』は一家全員で祖父を惨殺するのがラスト。ニヤニヤヘラヘラしながらいきなり強烈なヴァイオレンス・シーンで観客をドン引きさせるのも作風。北野武的。

ただ面白いか?と聞かれると···。筒井康隆の『薬菜飯店』ぐらいぶっ飛んで欲しかった。

※プレビュー公演だからここから調整する可能性がある。
OIL

OIL

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2026/01/09 (金) ~ 2026/01/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

19世紀末、英国南西部コーンウォール州。かつて銅と錫の鉱山で栄えたが銅の暴落と共に衰退。英国で最も貧しい州とも言われる。延々と続く荒野と岩場の崖、荒涼たる景観。

下手前で電子ピアノを弾く後藤浩明氏。効果音から劇伴までリアルタイムで奏でる。ウォーターフォンから多種多彩な楽器を用意。湯たんぽのような地雷のような謎の楽器もある。ツルハシを振るう音、ドアの開閉音、テーブルを叩く音まで。
今作の面白い演出は殆どの小道具をマイムで表現。食べ物、飲み物、バケツ、皿、グラス、酒瓶···。マイムに音を被せる効果でメタ的な虚構の層が何層も重ねられる。

第一場
1889年、コーンウォール州の農場に暮らす一家。余りの寒波で桶の水が凍ってしまい羊が飲めない。氷を砕いてやらなくちゃ。痺れて指の感覚がなくなる。くたくたのメイ(森尾舞さん)、愛する夫ジョス(猪熊恒和氏)。朝から晩まで引っ切り無しに続く労働。厳しい義母(岡本舞さん)。いやらしい目で自分を眺める義理の弟(林田一高〈かずたか〉氏)。弟の女房(高木愛香さん)は流産した。凍傷を負った三男(武山尚史氏)とその妻(山下智代さん)。酷い臭いのする傷んだ鶏肉を調理。そこに夜遅く訪ねて来る一人の紳士(円城寺あやさん)。アメリカの石油会社が石油の備蓄倉庫としてここの農場を買いたいと。これからの時代は石油である。持参したオイルランプで室内を照らしてみせる。石油を使った灯りの余りにも明るいこと、そして何よりも温かいこと。メイは部屋を照らすその光に神の福音に似た衝撃を覚える。だがジョスは紳士を追い返す。「ここは一族の土地だ。売る気はない」。メイの妙な様子に何かを感じ取る義母。「出て行くんなら扉を閉めてお行き」の名台詞。妊娠中のメイは目映い光の温かさに道を指し示される。身籠った赤ん坊は私自身。産まれた時に私のもう一つの新しい人生が始まる。それはきっとここではない。基調は灰色。

オイルランプを知るのが遅すぎる気もするが。(日本ですら1877年には普及)。

完璧な第一場。ここだけでも傑作。森尾舞さんはほぼ出ずっぱり。客前で着替え、髪型を変える。口を右にひん曲げる癖。
娘エイミー役柴田美波さんは若い頃の指原莉乃っぽい。この母娘の愛憎漫才のようにも受け取れる。
今年も森尾舞さんを見逃せない。

ネタバレBOX

第二場

1908年、ペルシャ(現イラン)の首都テヘラン。メイは8歳になる娘のエイミー(柴田美波さん)を連れて働いている。クラブを馘首になり、宮殿の執事的立ち位置の男(武山尚史氏)に一日だけ食事の盛り付けの仕事を貰う。そこで働くペルシャ人(高木愛香さん)。エイミーは遊びたい盛りで言うことを聞かない。シャー(王)を手懐け、油田を独占しようと企む英国の差し金で動く軍人士官(林田一高氏)。メイは二人の男に口説かれる。基調は赤。

第三場

1970年、英国の首都ロンドン。英国を代表する石油メジャー、ブリティッシュ・ペトロリアムのトップに就くメイ。リビアでカダフィ大佐による革命が勃発。欧米企業に支配されていた油田の国有化を一方的に宣言。そんなこと関係なしに15歳のエイミーは彼氏のネイト(山岡隆之介氏)とヤりまくるのに夢中。食卓上のクンニ・シーンが見せ場。二人で家を出て暮らす計画。リビアからの使者(円城寺あやさん)、悩み苦しむ会社の幹部(武山尚史氏)。ジョスの幻影。基調は黄色。

第四場

202X年、荒廃したイラクの首都バグダッド。戦争の後遺症で反政府ゲリラが乱立し常に不穏な政情。環境活動家として自由を満喫するエイミー、共に行動する現地の友人(高木愛香さん)。メイがヘリコプターで連れ戻しに来る。彼女は首相にまで登り詰め中東戦争を決断し、今は政界リタイア状態。山岡隆之介氏演ずるウェイターがチラリ登場。基調は青。

第五場

2051年、コーンウォール州。世界の気候は限界に達し危機的状況。氷河期のような世界。老いたメイを介護して暮らすエイミー。停電が続き常に電力は足りない。馬でやって来る猪熊恒和氏にときめくエイミー。旦那も子供もいない寂しい暮らし。そこに中国人(山下智代さん)の訪問。新しいエネルギーの売り込み。フライングライトボールを飛ばしてプレゼン。基調は黒と緑。

余りにも第一場が良過ぎてそれ以降は引き算みたいな戯曲。多分、連れ戻そうとして拒絶された旦那はガソリンを被って自殺したのだろう。その焼死の場面を赤ん坊だったエイミーは目撃してしまった。何度も夢にうなされる。メイはこの件で踏ん切りが付いてペルシャに渡ったのだろう。

石油をただの背景として一切切り捨てて観た方が分かり易い。妊婦のまま貧しい家からの出奔、数々の求愛を断り娘(8歳)と二人きりで生きていくことを決める。社会的経済的成功を手にするが娘(15歳)は彼氏と家を出て行こうと企んでいた。彼氏と別れさせ、学問の道へ進ませる。結局出て行った娘(30歳?)は荒廃したイラクで自由を謳歌する。それをヘリで無理矢理連れ戻す。落日の英国、停電ばかりで先の見えない寒く長い冬が続く。老母娘二人暮らし。(娘50歳?)。そこにあの日を思い出させるような中国人のセールスマン。中国は月からヘリウム3を採掘して常温核融合を成功させた。夢のエネルギーがあなた方を救う!イギリス人からすると最高の皮肉なんだろう。

愛とは支配、従属させること。自由とは孤独。愛も自由もバランス次第。どちらも捨てられないし求め続けてしまう。人間はそもそもが不完全。

フライングボールは5000円以下で買えるらしい。(安いのは1500円位)。マジで買いそうになった。
三人の密偵

三人の密偵

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2025/12/25 (木) ~ 2025/12/29 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『誘爆』

1929年7月終わり頃、満州の都市・奉天、陸軍の使う応接室。満州に赴任する事となる池内武一が森高逸二を呼ぶ。王英三は死体として見つかっていた。

ジョニーウォーカー・ブラックラベルを飲る二人。

ネタバレBOX

ラストは胸の十字架を引き千切る池内武一の姿。ここからは一本道だ、もう日本は引き返せない。

全体として脚本のサーヴィス精神が足りない。小噺で終わってしまう。森高逸二を中国共産党の密偵にして、現在の日本台湾中国をカリカチュアライズするぐらいして欲しかった。(現実性がないので難しいだろうが)。ソ連、共産党の思惑がないと物語として盛り上がらない。どうも不完全な話。皆、日中友好に理想を燃やしていたぐらいの設定じゃないとただの事実経過。
お年を召された女性客の居眠りが目立った。全くチンプンカンプンだったのだろう。そこが「パラドックス定数」との違い。
三人の密偵

三人の密偵

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2025/12/25 (木) ~ 2025/12/29 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『IGNITION』

1928年6月4日、満州の都市・奉天、外国人用高級ホテル。王英三の隠れ家にて浅井伸治氏演ずる森高逸二との密会。逸二は関東軍の密偵であり、「張作霖爆殺計画」を止める為に王英三に協力を依頼。

遠くの方で爆発音が聴こえる。
西尾友樹氏の右のこめかみの血管が怒張して破れそう。彼の所作は女性的で丁寧な仕草が多い。
浅井伸治氏は小比類巻貴之っぽい。

ネタバレBOX

一歩間に合わず「張作霖爆殺計画」は実行されてしまう。逸二は英三に関東軍と中国国民党との仲介を申し入れる。英三は殺される覚悟で蒋介石のもとに向かう。ラスト、弟を死地に向かわせ肩を震わせ泣いているように見えた森高逸二、実は笑っていた。
三人の密偵

三人の密偵

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2025/12/25 (木) ~ 2025/12/29 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『導火線』

1928年5月中旬、満州の都市・奉天、貧民街の阿片窟(に併設されている殺風景な売春宿)。西尾友樹氏演ずる王英三(おうえいさん)こと池内英三(ひでみつ)の部屋。岡本篤氏演ずる変装した大日本帝国陸軍参謀本部中佐・池内武一(ぶいち)との密会。

陸軍中佐だった厳しい父親に育てられた長男・武一、次男・逸二。大陸で中国人の妾に産ませた英三は母親が早くに亡くなった為、日本に引き取られる。長男は父親と全く同じ経歴を辿り、次男は貿易商の入り婿となって奉天で働いている。三男は成人すると中国に帰り、尊敬する孫文のように中華民族の独立と真の統一の為に身を捧げんとす。
船戸与一の『満州国演義』を想起させる三兄弟の満州における物語。向こうは敷島四兄弟だったが。

1894年(明治27年)、朝鮮半島の支配権を巡り日本と清国(現在の中国)に戦争が勃発。勝利した日本は台湾を得る。
1904年(明治37年)、日露戦争開戦。朝鮮半島と満州(中国東北部)の支配権を巡る戦争。勝った日本は朝鮮半島と遼東半島南部の租借権(一定期間借り受ける権利)を得る。
ロシアの南下政策に対抗して日本は防壁を作る必要があった。近代化に遅れた清国は欧米列強の草刈り場と化し好き放題踏み躙られてしまう。だったら日本の領土にして自ら守る他ない。清国を打倒して近代化した理想の共和制国家を築かんとした孫文。それぞれの種種雑多な思惑と野望が重なり、時代の出す答は渾沌の翳りの中に。1912年、欧米に半植民地化された清国は滅び、孫文を臨時大統領とする共和制の中華民国が建国された。だがその後を引き継いだ袁世凱が帝政を復活、中華帝国の皇帝を宣言し、またまた内戦の戦国時代に。各地の有力者が私設軍隊を束ね「軍閥割拠」と称される無政府状態が続く。

①中国国民党=現在の台湾
1919年、孫文が結成した中国国民党。1925年、孫文が亡くなると蔣介石が後を継ぐ。第二次世界大戦後、国共内戦において毛沢東率いる共産党に敗北。1949年、国民党は台湾へ逃れた。

②中国共産党=現在の中国
1921年、コミンテルン(ソ連の世界各国の革命運動を支援する機関)の主導の下、57人で結成。後に国家主席(最高指導者)になる毛沢東は1923年中央執行委員に選ばれる。

③満洲の奉天軍閥・張作霖(ちょう・さくりん)
東三省(満州)全域を支配下に置いた軍閥(民兵組織)。馬賊(盗賊集団)出身ながら満州王とまで呼ばれた。日本軍は張作霖を支援して操ろうと企むが彼は逆に巧く利用してやろうと互いに権謀術数の駆け引きが続く。1928年6月8日、北京から奉天へ向かう途中、列車が爆破されて暗殺。日本軍は国民党によるものと工作。息子の張学良はそれに騙されず国民党と協力体制に。1936年中国共産党と通じ蒋介石を拉致監禁、「内戦停止、一致抗日」を訴える。=「西安事件」。これにより第二次国共合作が成り、消滅寸前に追い詰められていた中国共産党は息を吹き返す。内戦をやめ、力を合わせ日本の侵略に対抗する抗日民族統一戦線の結成へ。だが張学良はこのクーデターの責任を取らされその後50年以上もの間、軟禁生活に置かれた。

④関東軍
ロシア帝国から得た租借地、関東州を守備する為に発足、元々は鉄道守備隊。1928年(昭和3年)、関東軍司令官・村岡長太郎は張作霖の暗殺を命令、河本大作大佐が計画立案実行。当時、本土の陸軍参謀本部・若手中央幕僚達は「木曜会」という勉強会を結成していた。そこに年齢も地位も高い「二葉会」が合流、陸軍エリート集団「一夕会(いっせきかい)」が誕生。関東軍の支援に回った。政府は独断専行の関東軍のテロ行為を処罰しようとするも「このことが明るみになると国際的に大日本帝国の威信に関わる」、「軍がやった事を公表すると政府の立場も弱くなる」と恫喝。事件は不問に処せられ報道管制が敷かれる。ここから関東軍の暴走に歯止めが効かなくなった。河本大作の後任として送り込まれた関東軍高級参謀・板垣征四郎大佐と関東軍作戦主任参謀・石原莞爾中佐は偽旗作戦を仕掛ける。自作自演のテロ攻撃の被害者となり、報復として戦争に持ち込む作戦。1931年(昭和6年)9月18日、柳条湖(りゅうじょうこ)事件、南満洲鉄道の線路を爆破して張学良の犯行とした。「満州事変」として関東軍が満州全土を占領。1937年(昭和12年)7月7日、盧溝橋事件。国民党との小競り合いから正式な「日中戦争」の開戦に。

ネタバレBOX

時々遠くから阿片中毒の女の声が。
亡き母親の写真は川田希さんっぽかった。(違うだろうが)。
英三大好物のオールド・パー。

岡本篤氏は眼鏡を外すと松木安太郎と中田秀夫を足したような強面。そのいかつい顔からニカッと笑みを作って人を安心させる。
西尾友樹氏は急に泣いたり怒ったりの瞬間の変化が武器。感情の暴発。

父親がクリスチャンだったのか三兄弟全員、見えぬよう肌身離さず十字架を身に着けている。父親の言葉「我が帝国と支那とは仲良くあらねばならない」。それを嬉しそうに聞いていた中国人の母親の笑顔。その母親は阿片中毒となって狂い死んだ。母親の復讐であり、父親の遺志を継ぐ思い。中国国民党の密偵として働く王英三。「張作霖をどこまで日本が後押しするつもりなのか?」

目の前であっという間にセットがバラされ組み立てられていく。大道具スタッフのプロフェッショナル振りに客席はどよめく。
鴨居に朝を刻む

鴨居に朝を刻む

MyrtleArts

OFF OFFシアター(東京都)

2025/12/25 (木) ~ 2025/12/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前に胡桃澤伸氏の前説。20年前、37歳、戯曲を書こうと決めた頃、ある夢を見た。道の脇にベンチが置かれていてその上に一冊の本。目を覚まし、あの本はきっと日記なんだと思う。そこからイメージを広げ北区つかこうへい劇団「うどん屋」を書き、稽古の日々が始まる。丁度その頃、友人が地元紙を送って来る。長野県豊丘村(旧河野村)出身の胡桃沢伸氏、父が祖父の書き溜めた膨大な24冊の日記帳を飯田市歴史研究所に寄贈したという記事。そこでふとあの夢の日記は亡くなった祖父の物だったのかな?と思う。祖父が書けと言ったのか?ずっと気になったまま20年、到頭今作が完成。

長野県伊那谷にあった河野村。中央アルプスと南アルプスに挟まれた盆地を天竜川が流れる。祖父である胡桃沢盛(もり)は1905年(明治38年)生まれ、村議会議員から36歳で村長になった。

舞台となるのは当時彼が東京との行き来に利用した深夜の辰野駅の待合室。駅員は寝ている。自分でだるまストーブに薪を焚べなくては。ここの小道具の音と照明が秀逸。

胡桃沢盛は夢を見た。畑で茄子やピーマンの世話をしていると向こうで車が止まる。車から降りた立派な背広を着た男がこちらに向かって全速力で駈けて来る。咄嗟に逃げようとするが間に合わず胸倉を掴まれる。男は憤怒の形相で「おまえのせいだ!」と怒鳴りつけてくる。恐怖で起きたが何のことやら判らない。待合室で列車を待っていると夢で見たまんまの男がやって来てギョッとする。初対面なのにそうではないような。その不思議な男に話をする形で物語は進む。大正時代から戦後の昭和まで。

川口龍氏の凄味は一人芝居をそうは感じさせない。何か不思議な感覚。時間や経験をまるで共有しているような。役者と観客、二人で同じ夢を見ているような。妙な肌触りが観劇後もずっと残る。
また観る機会があったら行くと思う。

ネタバレBOX

客層がこの作家の作品なら必ず観に行くような人達。普通の演劇ファンではなさそう。それだけ絶大なる信頼を置いているのだろう。

戦前戦中と国策であった満州移民政策、満蒙開拓移民(満蒙開拓団)として27万人が日本から満州に移住した。1944年、河野村も「分村移民」として満州河野村分村へ27世帯95人が移民。成人男性は現地に着くとすぐに徴兵され、残った開拓団は女性子供老人のみの76人(内男性4人)。1945年8月15日、敗戦の報が入る。元々村はそこに住んでいた中国人の家と土地を日本軍が無理矢理取り上げたもの。8月16日夜、中国人達の報復が始まる。65歳の団長だった老人はリンチされ瀕死の重傷。「俺を楽にしてくれ。」と頼まれ皆で絞め殺した。絶望の真夜中に狂気が忍び寄る。怯えた女達は自分の幼い子供達を紐で絞め殺し始める。夜が明けて中国人達が戻って来る前にやらなければ。順番に殺し続け最後に残ったのは14歳の少年と青年。互いに石で頭を叩き合ったが死に切れず朝に中国人に助けられる。その後青年は病で亡くなり、76人中唯一人生き残った少年は3年後河野村に帰った。

満州で何が起きたのか内地の人間には全く分からなかった。その事実を知った時、「分村移民」を決断した者として村長は自分を断罪する。
1946年7月28日朝、胡桃沢盛は座敷の鴨居に縄を掛け首を吊った。享年42歳。遺された物は1923年から1946年までほぼ毎日書き続けられた日記帳。

結婚する筈だった女が天竜川に身を投げたエピソードは実話なのか?女ともう一人?
胡桃沢盛と対峙する男は胡桃澤伸氏自身なのだろう。日記を読みながら胡桃澤伸氏はその中に入って叫ぶ。
『ジョルジュ』/『トロイメライ』

『ジョルジュ』/『トロイメライ』

座・高円寺

座・高円寺1(東京都)

2025/12/19 (金) ~ 2025/12/24 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『トロイメライ』

ショパンから始まりロベルト・シューマン、クララ・シューマン、ヨハネス・ブラームスと彩りある選曲。

ピアニスト秋山紗穂さんは演奏中、感極まると顔を客席頭上の虚空にふと向ける。かつてプレミアが付いた切手、『見返り美人図』を思わせる演奏上のテクニック。観客は更なる曲への陶酔を促される。大きな黒馬を抱きかかえ撫でるように奏でる。

19世紀、ザクセン王国(現ドイツ)のライプツィヒ、優れたピアノ教師フリードリヒ・ヴィークの娘、クララは早熟の天才だった。9歳でプロデビュー、ヨーロッパ中を父と共に演奏旅行。女性初のプロ・ピアニストとなり、天才少女と大人気を呼ぶ。1828年8月、ロベルト・シューマンがフリードリヒのレッスンを受ける為住み込む。二人の出会いはクララ8歳、ロベルト18歳の時。1835年12月、兄と妹のような関係だった二人の恋心は燃え上がる。クララ16歳、ロベルト25歳。

月影瞳さんは夫ロベルトを亡くしてからのクララが凛として輝く。強い女。76歳で亡くなるまで屹立した気高い精神。

亀田佳明氏は下唇を噛む子供っぽい表情が可愛らしい。彼目当ての女性客がずっと彼だけを凝視していた。月影瞳さんや秋山紗穂さんには目もくれず。

一番面白かったシーンはブラームスがクララに新作の楽譜を送って感想を求める。ピアノを挟んで上手下手
の椅子に腰掛ける文通スタイルを崩し、亀田佳明氏はすたすた月影瞳さんのもとまで歩いて行く。手厳しいコメントを下す月影瞳さん。余りにキツイ物言いに亀田佳明氏は「どう思います?」と言いたげにピアノ前の秋山紗穂さんを振り返る。秋山紗穂さんは「ねえ」と同意の困り顔。スタイルが完成されているだけに崩しが新鮮で面白い。まだまだこのジャンル、斬新な演出は可能だと思わせた。

ネタバレBOX

最近の研究ではロベルト・シューマンは1831年、ヴィーク家の使用人クリステルと交際し梅毒をうつされる。右手の人差し指と中指が思うように動かなくなりピアニストを断念、作曲家の道を選ぶ。
1836年頃、クララとの面会も文通もフリードリヒに禁止され、一時期クリステルとよりを戻し更に梅毒が悪化。当時の梅毒治療には水銀が用いられており、その副作用も考えられる。
梅毒には第4期(末期)症状まで段階がある。治療せずに10年以上経つと脳神経がやられ精神神経障害が進行。ロベルトは幻覚幻聴言語障害不眠鬱病に悩まされライン川へ飛び込み自殺を図る。精神病院の療養所に収容され2年後に死亡。死後、脳の病理解剖記録も残っており梅毒の末期症状だったことは間違いがない。
梅毒は感染後4年が経過すると性行為で相手にうつすことはほぼなくなる程感染率は低下。
1840年に結婚したクララは13年半の間に8人の子供を出産。感染しなかった。

14歳年上のクララを44年間プラトニックに愛し続けたブラームス。(恋愛関係になった女性は複数いたが結婚せず独身を通した)。この献身的で誠実な愛情に『無法松の一生』すら感じた。

ロベルト・シューマンの曲には「クララ・コード」と呼ばれる二人にしか分からない暗号が忍ばせてあった。ブラームスもクララに送るメッセージのように「クララ・コード」を曲に込めた。

残念なのはロベルト・シューマンの曲が自分には余りぴんと来ないところ。「子供の情景」シリーズは好きだが。名曲「トロイメライ」もショパンの「別れの曲」に似て聴こえてしまう。一番良かったのはブラームスの「ピアノソナタ第一番ハ長調より」と「十六のワルツ第十五番変イ長調」だった。

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