
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
リーディング公演『ナディラ』
【作】アルフィアン・サアット
【演出】小山ゆうな
小山ゆうな作品は何かどうもイマイチだったがこれは傑作。今企画、最大の収穫。きちんと作品化して広く上演すべき題材。インドとパキスタン、敵対する二国間、国境も宗教も越えて人間を描く『バジュランギおじさんと、小さな迷子』、イスラエルとパレスチナの間を右往左往するリアルな人間模様、『テルアビブ・オン・ファイア』といった傑作に連なる作品。今を生きる若きイスラム教徒から見えている世界。用語解説の紙が配られるなど難解な印象を受けるが観れば痛快。作家の世界の見方が面白い。
シンガポールのマレー系作家・アルフィアン・サアットの2010年の作品。シンガポールに元々暮らしていた住民はマレー系のイスラム教徒。そこに中華系、インド系、ユーラシアン(欧州とアジアの混血)、プラナカン(中華系かインド系とマレー系かインドネシア系の混血)が加わり多民族国家へとなっていく。現在、公用語とされる言語も英語、中国語、マレー語、タミル語の4つ。宗教も仏教、無宗教、キリスト教、イスラム教、道教、ヒンドゥー教など多種。多民族多文化共生国家なんて本当に可能なのか?
主演のナディラ役渡邊真砂珠(まさみ)さんは木村佳乃っぽい美人。大学のムスリム・ソサイエティの副代表。表情が時折、蓮舫になる。MVP。
お母さんサヒラ役は小島聖さん。声が鬼頭典子さんに似ていることに気が付いた。歌も印象的。
田中亨氏は随分痩せた印象。大学のムスリム・ソサイエティの代表役。マンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニーのファン。
ユーリック永扇(えいみ)さんはダレノガレ明美っぽい。ムスリムから無宗教に揺れ動く大学生役。
中村まこと氏は流石の味。クリスチャンの医師役。リヴァプールの熱狂的サポーター。
凄く面白い。全く異なる宗教(価値観)を信じる者達との共生へのヒント。
いずれはこの作家の特集上演など大きな流れになるであろう。日本人もこの現実から目を逸らしてはいられない。

20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『ラスト・ヤンキー』
【作】アーサー・ミラー
【演出】蓬莱竜太
1991年、アーサー・ミラー晩年、2005年に逝去するまでの最後の作品群の一つ。精神病院の待合室で妻を見舞いに来た二人の男の会話。実業家として成功した男(石母田史朗氏)が腰掛けていた大工の男(本折最強さとし氏)に話し掛ける。20分。
本折最強さとし氏。正統派の面構え、ナイツ土屋系統。台詞の噛みが少々。
石母田史朗氏。音響のせいなのか前半部、台詞が聴き取り辛かった。浦沢直樹の描くキャラ顔。

20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『不毛ドライブ』
【作・演出】蓬莱竜太
体調も天候も悪くて一日中気が滅入る。けれど今作は面白かった!関口アナン氏は竹下景子さんの息子であることと『青春、絶望を笑う』のイカれたお笑い芸人のイメージしかなくて、特殊な役専門だと勝手に思っていた。今作はズバリの適役。職場のムカつく嫌な年下の先輩が朝5時に電話してきて家までの送迎を頼んでくる。糞、何で俺が!?居酒屋「呑兵衛ちゃん」に入って3ヶ月の濱仲太氏。8年いるヤンキーが抜け切れない偉そうな関口アナン氏。
誰もが似たような実体験があるであろうバイト先の人間関係。イライライライラしながらハンドルを握る濱仲太氏に横柄な態度の関口アナン氏は横浜に向かえと指示。え?家に帰るんじゃねえのかよ!
松本大洋の描き下ろしみたいな味。
是非観に行って頂きたい。

20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『命を弄ぶ男ふたり』
【作】岸田國士
【演出】大澤遊
三上陽永氏演出、串田十二夜氏&中田春介氏ヴァージョンを観たことがある作品。話は知っているのだが顔中包帯ぐるぐる巻き男・渡邊りょう氏の解釈と喋りに驚いた。パーフェクト。渡邊りょう氏の包帯はルチャドールのマスクのようになっているのだろう、良い出来。耳まで塞いでも聴こえるように工夫されている。
眼鏡をかけた男・寺内淳志氏は田島亮っぽくてカッコイイ。涙を拭き洟をかむハンケチが重要なアイテムに。岸田國士の1925年発表の戯曲。101年前の作品とは思えない軽妙な遣り取り。少し弄っているのだろうと思ったがオリジナル通り。
『口に花を持つ男』
【作】ルイジ・ピランデルロ
【演出】大澤遊
深夜、駅近くのバー。最終電車に乗り遅れた寺内淳志氏がやって来る。先にいた渡邊りょう氏が彼の様子を窺って話し掛ける。
ルイジ・ピランデルロはイタリアのノーベル文学賞作家。1922年初演。原作では渡邊りょう氏の妻が登場するようで、そこをテキレジか?

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新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『チョコレート・アンダーグラウンド』
【原作】アレックス・シアラー
【脚色・演出】鈴木アツト
元は2002年にイギリスBBCの子供向け連続TVドラマ『Bootleg』として全3話で放送。それを原作者アレックス・シアラーが小説化。日本の出版社である求龍堂がタイトルを変え、『チョコレート・アンダーグラウンド』として邦訳。コミック化アニメ化『チョコレート・アンダーグラウンド~ぼくらのチョコレート戦争~』として配信&劇場公開。更にミュージカルにまでなった人気作品。健全健康党が政権を握り、「チョコレート禁止令」が発令されたディストピア社会。チョコを愛する中学3年生二人組が密造&密売で立ち向かう。
6人でこれを演るのか。一体何役を兼ねるのか数えられない程のチームワーク。開演前から客席をチョコレート警察が巡回している。
スマッジャー役國崎史人氏。松村雄基系。
ハントリー役仁木祥太郎氏。表情が時々、片岡愛之助。
バビおばさん役佐乃美千子さん。流石に美人、中学生から老婆までこなす。
チョコレート警察隊長役柳内佑介氏。古坂大魔王や坂本ちゃんっぽい。ボイパのように環境音を音マネ。
フランキー役斉藤悠氏。凄腕。どの役も薬味が効いている。
スマッジャーの母親役篠原初実さん。大忙し。
国でも企業でも知性の欠けた連中に好きにやらせておくとさっさと滅びる。マトモな奴等は相手にせず皆黙って去って行く。それが世の理。
「リンゴしゃきしゃき気分を、同志」
「オレンジじゅくじゅく気分を」
是非観に行って頂きたい。

20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『軽塵』
【作】秋元松代
【演出】須貝英
かなり味わい深い戯曲。戦後、三好十郎の弟子となり1947年に発表した秋元松代の処女作。その後、三好十郎とは訣別する。秋元松代は横浜生まれ、父親が早世し母親が必死に家計を支えた。口先だけの社会主義にかぶれた兄達を憎悪し二十歳で家を出る。今作は三好十郎に促されて記した、「書いて置かなければ一生後悔する自分自身の核」。
昭和20年夏、空襲が毎夜繰り返される横浜。家長である猪野学氏、妹の堺小春さん、妻の横山友香さん、妻の妹である小口ふみかさん、叔父(亡父の弟)のまいど豊氏が暮らす。隣に独りで住む女学生、きし朱紗(あかしゃ)さん。小口ふみかさんは嫁いだ先で旦那と揉め、帰って来ている。堺小春さんは東京で夜学校の教師をしていたが空襲で焼け出された。
父親を14で失い、その日から家長となった猪野学氏。根津甚八っぽい風貌で表情は國村隼。
モデルとなったのは秋元松代の兄、俳人・秋元不死男。
きし朱紗さんの側転。凄く当時っぽい喋り方。『青い山脈』みたい。
秋元松代の自己を投影したであろう堺小春さん。
MVPは小口ふみかさん。オーバーアクト気味だがここまでしないと作品が盛り上がらない気もする。
空から爆弾が降り注ぐ日常。“死”がすぐ傍にある毎日。そんな状況だからこそ、人は自分の“生”と真剣に向かい合う。今、自分自身にならないと自分の人生は一生送れない。
是非観に行って頂きたい。

『嘘つきは、漂流のはじまり』
劇団Q+
シアター711(東京都)
2026/07/18 (土) ~ 2026/07/20 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
[teamC]
船員・光永勇輝氏が開演前からステージを甲板に見立てモップ掛けしている。ロカビリー調の髪型。立ち姿が絵になる。
伊豆諸島北部の伊豆大島、活火山三原山を擁する観光地。横浜市会議員(フミヤ氏)の当選を祝して後援者とのフェリーによる二泊三日のツアーが組まれる。
傲慢な議員(フミヤ氏)、尊大なその妻(三月モナさん)、秘書(瑤寺姫乃〈たまでらぴの〉さん)、人語を解するペットの猫(新谷亮介氏)、お付きの獣医(斎藤ゆうさん)。
特別ゲストにアイドルグループYKM99のメンバー(河本百華さん)、追っ掛けのファン(一条文葉〈あやは〉さん)。
ろう学校の教師(はるさん)、生徒(さといさん)。
オープニング、YKM99の曲を皆で踊るのだが、その曲の出来が良い。
夜中、ダビット(クレーン)に吊られた救命ボートに偶然集まった者達。突然、フックが外れ艇ごと海に落とされてしまう。まさかの漂流。
高取英の『帝国月光写真館』は1933年(昭和8年)三原山火口投身自殺事件が題材。今作に似たものを感じた。

パール食堂のマリア
青☆組
吉祥寺シアター(東京都)
2026/07/17 (金) ~ 2026/07/20 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
戦後、連合国軍将兵と娼婦(を含む日本人女性)との間に「GIベビー」と呼ばれる混血児が多数誕生した。連合国軍40万人の内、約10万人が横浜に駐留、土地と施設を大規模に接収した為、横浜出生の割合は大きかった。育てられない赤ん坊が横浜外国人墓地に毎夜棄てられ、当時の墓守りが個人で根岸外国人墓地に埋葬していたという。その嬰児の数、ざっと900体。運良く育てられても白人や黒人、一目で日本人でない容貌はずっと差別の対象とされ、「あいのこ」と蔑まれ生まれながらに不幸を背負わされた。
舞台美術の濱崎賢二氏は凄いな。まるで童話の挿絵、しかも薄っぺらく嘘臭くない。この世界を成立させている。紙風船みたいな幾つもの外灯も美しい。
テーマは「痛みと美しさ」。

20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『トイレはこちら』
【作】別役実
【演出】西沢栄治
森の奥、首吊り自殺を決行しようとする女、そこにやって来た妙な男。
浅野令子さんは凄腕。『無頼の女房』でも圧倒されたが今作もパーフェクト。室井滋っぽい。
佐野陽一氏はタカアンドトシのトシっぽい。
二人の計算がズバリ当たり、戯曲の芯を突く。自分の観た別役実作品で一番納得させられた。観客はどっかんどっかん沸いていた。
コントのように観ていたが、これは落語なのかも知れない。目的が笑いではなく別にあるようだ。価値観をずらす狙い?
『或日の一休和尚』
【作】武者小路実篤
【演出】西沢栄治
土器(かわらけ)売りを脅して追い剥ぎするなどギャグ漫画のような一休。気違い坊主のようでいて彼には彼の哲学があった。ポップな衣装。
一休(原金太郎氏)、寺男(佐野陽一氏)、土器売り&葬式の依頼主&野武士(石原由宇氏)。
二本で55分。
是非観に行って頂きたい。

20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
リーディング公演 『マクベス』
【作】ウィリアム・シェイクスピア
【翻訳】小田島雄志
【構成】小田島創志
【演出】鵜山仁
あるのは四脚の丸椅子のみ。展開に合わせ、中央天井から吊り下げられたジョーゼット幕がドレープをくねらせて上下に舞い踊る演出。
岡本健一氏、中嶋朋子さんとビッグネームが並び、リーディングとはいえ今企画の看板のような作品。
『マクベス』はロマン・ポランスキー・ヴァージョンが一番印象的。後はやはり『蜘蛛巣城』か。平蜘蛛で手を洗う山田五十鈴の妖気。
マクベス岡本健一氏とバンクォー木下浩之氏が荒野で魔女・一柳(ひとつやなぎ)みるさんと邂逅するシーンからのスタート。手紙で予言を知るマクベス夫人・中嶋朋子さん、城に逗留する国王ダンカン木下浩之氏。客席通路を大きく使う。
やっぱり『マクベス』は面白い。リーディングを逆手に取ったシーンもあり、65分でも味わえる。
是非観に行って頂きたい。

20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『水のほとりの女』
作 田中澄江
演出 小林七緒
凄く成瀬巳喜男を感じたが、やはり彼と組んでいだ脚本家の作品だった。1955年(昭和30年)、NHKのTVドラマとして単発放送された作品。演出の小林七緒さんは流山児☆事務所!台本を持って女優が現れ、ト書きを読み上げ、役を演じ始めてのスタート。
戦後の未亡人漫才のようなテイスト。戦死したとされる旦那を未だに待ち続ける貞淑な妻(町田マリーさん)とさっさと死んだ旦那なんか忘れてダンサーとしてさばさば生きる鹿野真央さん。対照的な学生時代からの友人の会話劇。「主人が、主人が、」と繰り返す町田マリーさんに痛烈なツッコミを入れる鹿野真央さんで観客がどっと笑う。
町田マリーさんは初めて観たと思うが鄭亜美さんっぽく感じた。
鹿野真央さんは『無頼の女房』で観た。さばさばして非常に魅力的。
ワンシーン登場の笹野美由紀さんの喋りは市川崑の『あなたと私の合言葉/さようなら、今日は』を思い出した。早口ざーます言葉の応酬が卓球の高速ラリーのように延々続き観客が酔っていく作品。
2回しか演らないのは勿体無い。
45分。
是非観に行って頂きたい。

20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『ラッツォクの灯』
熊谷達也の連作短編集『希望の海 仙河海叙景』を再構成
脚本・演出 赤澤ムック
宮城県気仙沼市をモデルとした架空の仙河海(せんがうみ)市が舞台。気仙沼では麻の茎(オガラ)に硫黄を塗ったもの=ラッツォクをお盆に焚いて海からやって来る霊を迎える風習がある。
実家暮らしの永嶋柊吾氏はある日会社に行けなくなり、今ではコンビニのバイトで日々をやり過ごしている。彼を気遣う中学時代からの恋人、那須凜さん。家を出ている妹の小林未来(みく)さんは近く結婚するとの報告。
永嶋柊吾氏の一人語りに味があって惹き込まれる。
那須凜さんみたいな彼女がいれば楽しいだろうな。
客は入っているが空席もある。役者や養成所の人が多い感じ。65分。1時間位の芝居を気軽に観れる感覚が良い。演じたい役者、演出したい演出家、観たい観客がぶらっと集う空間。名画座みたいな雰囲気。
是非観に行って頂きたい。
SION 「早く帰ろう」
そう言えば10年前、朝のラッシュに我慢出来ずに
せっかく決まった会社の書類をゴミ箱に投げ捨てて
どっかへ行っちまったあいつは一体どうしてるだろ?
もしかしたら隣の車両で黙って目を瞑ってるかも知れない

プライマ・フェイシィ
シス・カンパニー
ザ・スズナリ(東京都)
2026/07/01 (水) ~ 2026/07/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
Prima facieはラテン語で法律用語、「一見して明らかな」こと。
オーストラリアの劇作家、スージー・ミラーによる2019年の作品。彼女は弁護士として働きながら戯曲を発表して来た。今作を小説化したものが現在映画製作中。
灰色の壁に囲まれたステージ背面、カーテンやドアの隙間のように縦に一条の光が差す。この演出が効果的。照明のおざわあつし氏にRESPECT。
何の話か全く知らずに観ていて、役者は魅力的だが話は単調だなと思っていたら、「あの日」から一気に持って行かれた。観る方もキツイ描写、これを演る方も相当辛いだろう。トラウマとの対峙、凝視、恐怖と屈辱と惨めさで心が張り裂ける。
三浦透子さんのことは全く知らず驚いた。このレヴェルの一人芝居を難なくこなせるとは。田畑智子さんっぽい演技派。前半のノリノリの遣り手弁護士振りは海外ドラマ調。
今作を観れたことは運が良い。
是非観に行って頂きたい。

鉾久奈緒美「死者の書」
大駱駝艦
座・高円寺1(東京都)
2026/07/02 (木) ~ 2026/07/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開演前、下手に置かれたガラス鉢に天井から一筋の水が滴り落ちている。ぴん、ぴん、ぴん、ぴん···。劇中、綺麗な水を探す物語だと老婆は語る。
鉾久(むく)奈緒美さんが振鋳(振付)・演出・美術・鋳態(出演)。原作は折原信夫の『死者の書』。長身の鉾久奈緒美さんの肉体は手塚治虫のキャラクターのように美しい。鶴が沢山描かれた紅い着物で写経。今まで観てきた大駱駝艦の舞踏は男性作家の作品ばかりだったと思う。女性がやると全く違うもので美しさ、色気、気品がある。原作を理解した上でもう一度観たいと思った。(全く予備知識なく観たので『チベット死者の書』を勝手にイメージしていた)。
滋賀津彦(しがつひこ)を演じた小田直哉氏は薄皮一枚隔てて筋肉一つ一つの動きが透けて見えるような圧倒的な肉体美。鍛え抜かれた人体模型。
語り部の老婆が急に喋り出すことに驚いた。バレエのようにシーンごとの筋立てをあらかじめ提示してもいいと思う。
左脚が骨になっている骸。男達が首を奪い、左胸に槍を突き刺す。神隠しにあった郎女(いらつめ)が首を拾い、もう一度付けようとする神話。
この美しさは何だ?
人をこの世を救うことの出来るものがあると仮定して、それを舞踏で表現しようとしている。とんでもないことだ。

ディアマイドクター
演劇ユニット「暇つぶしチェルトン」
萬劇場(東京都)
2026/07/01 (水) ~ 2026/07/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈A班〉
明治27年(1894年)3月、日本橋の元大工町の高水病院。医師の高水せい(梅本あき乃さん)のもとに運ばれてきた路上に倒れていた少女(小林音花さん)。遠い昔に病でこの世を去った妹ちかにどこか面影が似ている。「からたちの花が咲いたよ」と二人で歌った幼き日々。若き自分(後藤ひまわりさん)とちか(小林音花さん)の姿が瞼に蘇る。
ざんばら先生、歌唱指導も兼ねている主演の梅本あき乃さん。皆文句なしの歌唱力でキャスティングに誠実さがある。
個人的MVPは高水せいの若き日々を担ったもう一人の主演・後藤ひまわりさん。何か不思議な魅力がある。
共に戦った学友である萩原ぎん子役の神田亜由子さん、吉沢クノ役の山川莉恩さんも美声。
驚く程、演技レヴェルが高い大西達之介氏。少女の働かない父親役と衛生局長役を兼ねた。野太い声と台詞回しから舞台の空気感が変わる。衛生局長は外波山文明調。
本多一生氏の学長もユーモラスで良かった。

阿呆船
演劇実験室◎万有引力
座・高円寺1(東京都)
2026/06/19 (金) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2回目。
苦しみは正方形、笑いは丸。
悲しみも正方形、笑いは丸。
何故か毎回森ようこさんのキャラはナチスの女強制収容所所長イルザ系。(映画のモデルになったのは女性看守イルゼ・コッホ)。
髙橋優太氏、三俣遥河氏といった看板俳優も出ない。
ベテラン勢はこれからの劇団を担う若手達へのサポートに徹するよう。名前で客を呼べる新しい役者が現れないことには。とにかくチャンスを与えて育てていくしかない。
「Quo vadis, Domine?」=ラテン語で「主よ、何処へ行かれるのですか?」
曽田明宏氏はちょっといしだ壱成っぽい。バンドのヴォーカルみたいな妙な吸引力。身体表現は化物級。
開幕前からステージ、客席通路を使って大人数の寺山スローモーション。巨大な時計台の内部構造のように機械的に動く面々。ステージ上部に高く飾られたアンモナイト。時間を象徴しているのか?集団で何かを示すように、秘められた暗号、繰り返される反復運動、からくり人形のような動き、猫のように前脚をかく、ぴょんとキョンシーのように跳ねる、フェンシング、うさぎ跳び···。
阿呆船(あほうぶね)。
15世紀から17世紀、中世ヨーロッパにて狂人を船に乗せて町から隔離する風習があったという。エビデンスがある実話なのか一種のフォークロアなのか。(ミシェル・フーコーは幾つかの記録を持ち出している)。今作では何処にも目的地はなく港から港を永遠に航海し続ける海上隔離施設。
ステージ上手奧でJ•A•シーザー氏のドラム生演奏。下手奧で多治見智高ジーザス氏のヴァイオリン生演奏。
オープニングは東大法医学部の床の下、自ら生き埋めになって冬眠している裁判長(加藤一馬氏)。裁判をする為に穴掘り人夫が掘って探す夜更けから。

緑が丘
カレーカレーグループ
あさくさ劇亭(東京都)
2026/06/26 (金) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
目黒区の緑が丘かと思ったら、千葉県の東葉高速線、八千代緑が丘駅なんだな。
スーパーの夜勤で働く二十代半ばの瀧上(たきがみ)ねねさん。兄からLINEが来て母が倒れたので奈良の実家にすぐ帰れとのこと。母とは折り合いが悪かった。高校を出てすぐ家出のように東京に逃げて来た。ずっとファミレスやらスーパーやらで目的のないフリーター生活。一度帰ろうかと思う。こっちでお世話になった人達に挨拶回り、心ばかりの御礼品を。
語り手的な不思議な立ち回りの服部淳子さん。
ファミレスのバイトで世話になった役者志望の山本泰暉(たいき)氏。喋りが立つ。BreakingDownのひかぴーに似ている。
やたら自虐的な鹿内聡氏。「こういう奴よくいるな。リアリティがある。」と思っていたら作・演出の人だった。
元彼の與那城史登(よなしろあやと)氏。NPC喋り。
詰め掛けた観客に熱がある。若い頃の村上春樹みたいな文体。期待値が高いのだろう。空気感はヴァネッサ・パラディの『絶世の恋』か。瀧上ねねさんに妙な魅力がある。運の良い出逢いがあれば凄く売れそう。黒木華みたいにその辺にいそうな『特別な普通』をまとっている。「へ?」
もう駄目だと思いながら今日を何とかやり過ごす。全てのそんな疲れ果てた連中のふと見た何だかよく分からない夢。
是非観に行って頂きたい。

裸足
劇団道学先生
雑遊(東京都)
2026/06/23 (火) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈黄色いヘビチーム〉
『どんな色がすき』
『ホ・レッ!』
開演前SEで育児サポート音楽YouTubeチャンネル、「うたスタ」がカバーした楽曲が流れている。出来が良い。ノリノリで客席案内をしているのは〈青い鳥チーム〉の和田渚さん。
演出における青山勝氏と寺十吾氏には全幅の信頼を寄せているので今回も間違いなかった。何が良くて何が駄目なのかの価値観がハッキリしている。そこをあやふやにしていない。その感覚は信用出来る。
今作は畑澤聖悟氏の『親の顔が見たい』の本歌取り、幼稚園における教員内虐めのドラマ。作品内にちゃんと「親の顔が見たい」との台詞もある。岸田國士の『紙風船』オマージュも。役者達はきちんと為すべきことをこなしている。
面白かった。
是非観に行って頂きたい。

現代韓国演劇上演「四番目の人」
名取事務所
「劇」小劇場(東京都)
2026/06/19 (金) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
天井から地上1.2m程の高さにLEDバーライトを吊るして部屋の輪郭を縁取る美術。要所要所で青く点灯。
失感情症の女子高生、赤松怜音(れお)さんが黒沢清映画キャラの雰囲気。ロボットが人間の心に興味を持ち自分もそれを感じてみたくて追求するような話。自分の心、自我、意志、魂、アイデンティティ···。自分自身が突き動かされるような衝動に憧れる。何度も何度も鬼頭典子さんに聞く話は良心の疼きについて。その正体は何なのか?
パク・ヨンミの1990年のデビュー・アルバ厶に収録された代表曲『私は寂しさ あなたは懐かしさ』。この曲を鬼頭典子さんが昔好きだったと思い出す。
「私は寂しさ、私は流離う雲。
私は果てしない海を漂う舟。」

ファーム・ホール
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2026/06/15 (月) ~ 2026/06/30 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
昔、某映画監督がどんなシチュエーションであっても重要なのは登場するキャラクターの色気なんだと語っていた。色気を頼りに観客の意識は作品内をあちらこちら浮游する。それは性愛とかの意味ではなく、人を惹き付け興味を持たせる感覚のこと。汚らしい土木作業員の日常風景でもちょっとした工夫を入れることで色気は出る。殺し屋の残忍な殺し合いすら色気の有る無しで作品のイメージはガラリと変わる。色気のある関係性。
俳優座のレヴェルは群を抜いている。東映実録ヤクザ映画全盛期を思わす聳え立つ俳優山脈。その中でも選りすぐりの6人が色気たっぷりの演技合戦。俳優座スタジオで前売6800円は高いなと思ったが納得させられた。
1938年、オットー・ハーンの発見した核分裂反応。当時、ドイツの科学レヴェルは世界一だった。かつてアインシュタインの助手であった物理学者レオ・シラードはユダヤ系の為、1933年にナチスドイツから亡命。1939年、核分裂が連続的に起こる核連鎖反応の存在に気付き恐怖する。これを利用した爆弾を作ったら世界を征服出来る。アインシュタインを通じてフランクリン・ルーズベルト大統領に手紙を送る。(アインシュタイン=シラードの手紙)。一刻も早くドイツより先に原子爆弾を開発しなければならぬと。
結局の所、アメリカの天才、J・ロバート・オッペンハイマーが原爆を完成させる訳だが、連合国はドイツも完成させていると睨んでいた。天才ヴェルナー・ハイゼンベルクが完成出来ない訳がないと。23歳で博士号、「行列力学」「不確定性原理」を提唱し31歳で量子力学の創始者としてノーベル賞を受賞。彼がドイツの原爆開発の陣頭指揮を取っていたのだ。
1945年5月7日、ドイツが無条件降伏。
1945年5月1日から6月30日に渡りドイツのノーベル賞級物理学者10人の身柄が拘束される。(=オペレーション・イプシロン)。彼等は1945年7月3日から1946年1月3日までイギリスのゴッドマンチェスターにある田舎の屋敷、ファーム・フォールに抑留される。屋敷中に盗聴器が仕掛けられており、彼等の生活の中の自然な会話から原爆開発の実情を探ろうとした。(今作では6人になっている)。
ウディ・アレン、ジム・ジャームッシュ、アキ・カウリスマキ系のコメディ。淡々と観客を突き離した距離感から笑わせていく。何となく一人ひとりのキャラや人間関係が見えてくると特に何もしていなくてもその場を面白く味わえるように。ツッコミを入れずぼんやりと観客を空間に放置させる感覚はジム・ジャームッシュっぽいか。
メチャクチャ面白い。
是非観に行って頂きたい。