ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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ビッグ・フェラー

ビッグ・フェラー

劇団俳小

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2026/03/22 (日) ~ 2026/03/29 (日)上演中

予約受付中

実演鑑賞

満足度★★★★

戯曲がカッコイイ。スタイリッシュで最初から最後まで出来上がっている。104席しかないBOX in BOXで今作をやってのけるのは素晴らしい。

ブラディ・サンデー=血の日曜日事件=1972年1月30日、北アイルランドのロンドンデリーにてデモ行進中の非武装市民をイギリス軍が銃撃。27名中、14名死亡、13名負傷。この事件は世界に衝撃を与え、テロ組織IRA(Irish Republican Army=アイルランド共和軍)への支持が広がった。

1972年3月17日、St. Patrick's Day、ニューヨークの超高級アイリッシュ・レストランにてブラディ・サンデーの追悼集会。IRAのNY支部のボスであるデイヴィッド・コステロ(いわいのふ健氏)がスピーチで支援を募っている。スタンダップコメディのように軽妙なトークはどっかんどっかん笑いを取る。拍手喝采、会場は沸きに沸く。高額な小切手が次々に切られ、金の雨が降る。

fellow=仲間。GoodFellasはマフィアの隠語で組織の仲間のこと。今作のTHE BIG FELLAHはアイルランドのスラングで大物の意味。

次の舞台は若き消防士マイケル・ドイル(遊佐明史〈あきふみ〉氏)のアパート。刑務所を脱獄し偽造パスポートでアメリカに入国したルエリ・オドリスコル(大川原直太氏)はプエルトリコ人のカレルマ(小池のぞみさん)をナンパして連れ込んでいた。やって来たコステロはマイケルの覚悟を確認する。「(IRAに入るということは)ゲーテの『ファウスト』の逆だぞ。悪魔に魂を売って手に入るものは一生涯続く苦しみだけだ。」「それでもいい」とマイケルは答える。そしてマイケルのアパートはIRAメンバーの潜伏先、アジトの一つとなる。

ニューヨーク市警の警官トム・ビリー・コイルは手塚耕一氏。藤波辰爾と小林邦昭のハイブリッドのように見えた。
エリザベス・ライアンは荒井晃恵さん。エロエロ。
フランク・マカードルは宮崎佑介氏。荒谷望誉のようだがドスの効いた表情は三沢光晴のよう。怪演。
小池のぞみさんはますます綺麗に。
遊佐明史氏はジャルジャル後藤みたい。癖がなくポピュラリティがあるのが武器。
MVPはいわいのふ健氏だろう。凄まじい。
大川原直太氏も負けていない。劇団の切り込み隊長。

ルエリ・オドリスコルのモデルはジョー・ドハーティ。1990年、メトロポリタン矯正センター近くの街角に彼にちなんだ名前が名付けられたそうだ。

映画を観ているみたいに面白い。
マーティン・スコセッシ節でジョニー・デップの『フェイク』とか好きな奴には堪らないだろう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

予算を好き放題使わせて、寺十吾氏なんかが演出したらどんな作品になるのだろう?

1981年、IRAのメンバーであったボビー・サンズは北アイルランドの刑務所でハンガー・ストライキを始める。66日間のハンガー・ストライキを貫徹して27歳で死亡。9名のメンバーがそれに続いた。世界的に注目を集め、IRAへの志願者が殺到。

リビアの元首であったカダフィ大佐は長年IRAに資金提供と武器供与を行っていた。植民地主義、帝国主義だとしてアメリカ、イギリスを敵視し続けた。

1987年11月8日、北アイルランドのエニスキレン爆破事件。戦没者追悼記念式典の行われる広場にIRAが時限爆弾を仕掛けた無差別テロ。非番の警官1名と一般市民11名が殺戮され、IRAへの反発が強まった。

1998年4月10日、イギリスとアイルランドの間で和平合意=ベルファスト合意。国民投票によりアイルランドは北アイルランド6県の領有権主張を放棄した。

1998年8月15日、北アイルランドのオマーのショッピング街で起きた自動車爆弾テロ。29人が死亡、約220人が負傷。ベルファスト合意を認めない分派であるリアルIRAが実行。この事件で決定的に大衆の心は離れた。

ウィリアム・バトラー・イェイツの詩、『湖の小島イニスフリー』をコステロが引用する。
「心が穏やかになる時、平和はゆっくりと滴り落ちてくるものだから」

ラスト、911にラジオから流れるJohnny Thunders & The Heartbreakersの「Chinese Rocks」っぽい曲がカッコイイ。Black 47じゃない。

贖宥状(しょくゆうじょう)=免罪符とは買えば現世の罪が軽くなるという御札。1517年、ドイツにてローマ教皇レオ10世が教会の収入の為に販売したことを大学教授マルティン・ルターが大批判。破門され追放を宣告されるも新約聖書のドイツ語訳聖書を完成させ活版印刷機で大量生産。聖職者でなくても民衆が聖書を直接読んで考えることができるようにした。当時で10万部以上の大ベストセラーに。カトリック教会の権威主義に抗議(プロテスト)する者としてプロテスタントを名乗った。従うのは教会ではなく聖書(神の言葉)のみ。=宗教改革。

元々アイルランドはカトリック教徒が多数を占める国。1801年プロテスタントの国であるイギリス(イングランド)に併合され、カトリック教徒は迫害された。独立戦争の末、1922年1月16日に独立を果たすも、北アイルランドはイギリスのままとされた。IRA(Irish Republican Army=アイルランド共和軍)は北アイルランドを奪還し全アイルランドを統一することを目標に掲げたテロ組織。SEX PISTOLSの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」の歌詞でその名を知った。
現在、アイリッシュ・アメリカン(アイルランド系移民の一族)は3600万人で全米の総人口の12%。 政財界に力を持ち、IRAを支援する者も多かった。

聖パトリック=聖パトリキウスは5世紀にアイルランドにキリスト教を広めた聖人。彼の命日の3月17日はSt. Patrick's Day(セント・パトリックス・デー)と呼ばれる祝日でアイルランド人にとって最大のお祭りの日となっている。
ガウディ×ガウディ

ガウディ×ガウディ

アニマ出版/テレビ朝日/E Xエンタテインメント/サンライズプロモーション

EX THEATER ROPPONGI(東京都)

2026/03/14 (土) ~ 2026/03/29 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

沢田研二77歳!この人の唯一無二の武器はこの歌声。こんな音色は他の誰にも奏でられない。客入れSEでストーンズのLIVEがかかっていたがミック・ジャガーもそう。圧倒的な声のオリジナリティー。
2006年から始まった脚本・演出マキノノゾミとの名タッグ=音楽劇。2017年、音楽劇ラストと銘打った『音楽劇 大悪名~The Badboys Last Stand!~』も観に行った。それからも何度かLIVEに行った。一曲歌い終わるごとに「ありがと〜!サンキュー!ありがと〜ね〜!」が口癖。ゴジも志村けんも亡くなったが沢田研二と山田洋次はますます元気。まだまだ光輝き、日本中を照らし出さねば。休憩時間にはリピーターチケットを買い求める往年のジュリー・ファンの行列。複数回観ない人の方が少ないような熱気。沢田研二恐るべし!『バック・トゥ・ザ・フューチャー』✕『クリスマス・キャロル』風味。


1878年4月、建築士の資格を取得したアントニ・ガウディ25歳(渡辺大知氏)。親友である鋳物職人(後に彫刻家も)のロレンソ・マタマラ(野田晋市氏)に喜びの報告。お祝いに一杯飲ろうぜ。無神論者の合理主義者、自分の才能だけが武器だ。自身の力で未来を切り拓くのさ。

1924年秋、ライフワークとなった大聖堂サグラダ・ファミリアの建設に掛かりっ切りのアントニ・ガウディ72歳(沢田研二氏)。同居して暮らす親友ロレンソ・マタマラ(串田和美氏)が脳腫瘍で視力を失い余命僅かであることを知る。同居を解消し自分はサグラダ・ファミリアの作業小屋兼アトリエで寝泊まりすることを決める。無二の親友との今生の別れ。また生まれ変わっても一緒に仕事をしようとの約束。必ずサグラダ・ファミリアが完成した姿を見に来ような。人生に悔いはないと語るロレンソ、悔いだらけだと自嘲するガウディ。

生涯で一度も家庭を持つことのなかったガウディ。敬虔なカトリック教徒。毎日仕事終わりにサン・フェリペ・ネリ教会へ夕方のミサに通うのが日課。でもその日だけは何か違った。町の様子が何か変だ。そしてばったり出逢ったのは1880年、27歳の自分。まさか45年前にタイムスリップしたのか?これを千載一遇のチャンスと捉えたガウディは若き自分に正しい人生を送る為の指南を始める。後悔することなきように。

神をも恐れぬ不敵な天才青年ガウディが神に跪く敬虔な信徒となった謎。沢田研二氏が渡辺大知氏にどうにか伝えようとしたこの世の真理とは?

ムーンライダーズ白井良明氏率いる豪華バンドの生演奏。串田和美氏に捧げる親友への詩が名曲。忌野清志郎っぽい情感と余韻。泣ける名シーン。ここだけで観に行く価値はある。

野田晋市氏はいつも通り最高だった。いろんなテーマはあるけれど一番胸に来るのは友情。ガウディは幼少時から重度のリウマチ(自己免疫疾患)に悩まされ、激痛でベッドに横になることも出来なくなる。ロレンソ・マタマラの誂えた特製のベッド。緩やかな曲線がガウディの腰の痛みを守るように支えてくれる。その曲線こそが人が人を支える証。誰もが誰かを支えている。

写真のような絵画のような美しいプロジェクションマッピング。立体の構造物に効果的に投影。(人物にライトを当てることで被るのを避けているのか?)

沢田研二氏が階段を昇り降りしなくて良いようにちゃんと計算ずくの演出。志村けんのようなマイムギャグ多発。眉唾に帽子で乾杯!WOW!良いLIVEだった。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

Viva Cataluña=Visca Catalunya。

ガウディの唯一の恋、ペピータ・モレウ。演ずるは中村中さん。複雑な意味を重ねて歌う。

渡辺大知氏はNOAHのKENTAみたい。時々、佐藤銀平っぽくも。

昔、東京ドームでローリング・ストーンズの「Angie」を聴いていてふっと沢田研二を連想した。彼がやりたかった世界とどこか通じた気がした。

二人の心に愛はなく、コートの中には金もない
これで満たされてるなんてとても言えないだろう?
でもアンジー、アンジー
俺達、努力しなかったなんて決して言えないだろう?
鹿鳴館異聞

鹿鳴館異聞

名取事務所

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2026/03/11 (水) ~ 2026/03/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

明治22年(1889年)2月10日、築地外国人居留地にある一軒の屋敷。広瀬常34歳(松本紀保〈きお〉さん)と看護婦の千代(平体まひろさん)がひっそりと暮らす。突如夜更けに来訪した男は森有礼(ありのり)41歳(千賀功嗣氏)。初代文部大臣であり、日本の近代教育制度の礎を築いた男。開国したばかりの日本を欧米諸国から対等に認められる近代国家へと早急に導く為、世界基準の教育と啓蒙を推進した。明日は念願の大日本帝国憲法発布式典の日。日本が国際的に信頼のおける法律で整備された立憲国家であることを対外的に宣言する必要があった。彼の唯一の懸念は離婚した妻、広瀬常のこと。

初演は1990年、木山事務所が俳優座劇場にて公演。
(手の会→木山事務所→Pカンパニーの系譜だそうだ)。

森有礼が帰り、次に押し掛けるように無理矢理訪ねて来るのは広瀬常の旧知の男爵夫妻(藤田一真氏と西山聖了〈きよあき〉氏)。その二人の様子をどうも不審に思う千代。彼等は何を企んでいるのか?降り続く雨は次第に雪へと変わる。

平体まひろさんが綺麗。壇ふみさんに似てるのか。上品な戦後日本女優の風格。
西山聖了氏は芸達者。いろんな武器を隠し持っている。

作家は山田風太郎のファンでは?『ラスプーチンが来た』を読んでいた時の興奮を思い出した。自分も山田風太郎の大ファンの一人だが今作にとって肝心要の『エドの舞踏会』を多分読んでいない。読んでいればもっと楽しめた筈、残念。

いや面白い脚本だ。『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』なんて映画を思い出す。アナ・デ・アルマスが演ったキャラに平体まひろさんが被る。

ネタバレBOX

西山聖了氏の正体は伊勢谷友介みたいな美形の女形、沢村源之助(四代目澤村源之助)だった。目茶苦茶魅力的ないなせな口上、今作の面白さの核になる。正体を見破られた彼が逆に見破るのは千代の正体。江戸で評判を呼んだ手妻遣の一座に一人の娘がいた。

※三代目澤村田之助、脱疽で右脚を膝下まで切断するが義足にて舞台に立つ。だが脱疽は悪化し、左脚、右の手首、左手の小指以外の指全部を切断。義足を着けてから5年で引退。四代目澤村源之助は彼の当たり役を演じることが多かった。

手妻遣=手を稲妻のように使う奇術師。手品だけでなく催眠術に近い芸当も見せた。今作では赤ん坊の泣き声やら藤田一真氏の手元が突然発火するなど超能力者のような腕前。この演出はまだ更なる仕掛けが作品に隠されていると観客を興奮させた。

森有礼と常の離婚は世間の歓心を買った。外人と不倫し産まれた娘が青い瞳だった為、離縁されたとまことしやかな噂。それを裏付けるように娘の安はすぐ里子に出され、翌年森有礼は岩倉具視の娘と再婚した。広瀬常のその後は不明で未だに謎。夏目漱石の『三四郎』でも触れられている。

鷲巣照織氏は最後の最後に登場、驚いた。

山田風太郎は巨大な巻紙のような年表を作成し、同時代に誰が何をしていたのかを書き込んだ。思わぬ人間が同じ時代を過ごしたことを知ると何とか二人を出会わせられないか検討した。それによるあっと驚くアイディアが作品内に散りばめられている。

※今作では誰も彼もが嘘をついている。森有礼は英国で精神を病んだ常が女の子を出産した妄想に取り憑かれているだけだと言う。実際に常は言動がころころと変わり信頼の置ける語り手ではない。大事そうに抱いているのは赤ん坊のお人形。だが実際は英国の俳優と情事があり、妊娠した時、子供の容姿に怯えた。日本に帰る船の上で心を許した千代に誰にも頼めないお願いをする。産まれた赤子の目が青かったら首を絞めて始末して欲しいと。だが千代は殺さなかった。築地の屋敷で二人で育てた。ある時、森有礼が娘を引き取りに来て勝手に里子に出した。森有礼の死んだ今、もう彼女の行方は掴めない。
国語事件殺人辞典

国語事件殺人辞典

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2026/03/07 (土) ~ 2026/03/29 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★

イッセー尾形のような男がとんでもない長台詞をずっと捲し立てている。誰だこれは?と思ったら筧利夫氏。そうとは到底思えない。初日だけに危なっかしい所もあったが演劇機械のような台詞量。圧倒された。
「お逃げよ言葉、言葉よお逃げ」
「おいでよ言葉、言葉よおいで」
通路で歌う美声が朗々と。

相棒の諏訪珠理氏も熱演。役者殺しみたいな難易度の高い台詞が散りばめられた台本。観ているだけでヒヤヒヤする。これはキツイ舞台だ。

1982年、小沢昭一氏が自分一人の劇団『しゃぼん玉座』を旗揚げ。その為に書き下ろした作品。思う所があったのか井上ひさしはその翌年にこまつ座を旗揚げする。

理想の国語辞典を作る為、市井の国語学者(筧利夫氏)は37年掛けて6万語の言葉のカードを作成。家を売り、彼を信奉する元編集者(諏訪珠理氏)と辞典を完成させる旅に出る。だがゆく先々で日本語についての様々な意見に論破される。果たして理想の辞典は完成するのか?

青山達三氏80歳!は今作の心臓部の一つ。凄腕。
佐藤正宏氏も軽妙で沸かせた。リズム感。
イケメン池岡亮介氏は松本穂香に似ている。
加藤忍さんの簡易日本語も恐ろしい。
清水緑さんは下着姿のサーヴィスも有りエロエロ。歌声はたかみなっぽいかな。
旅一座の座長役は飯田邦博氏だったか?

通路をぐるぐるサーヴィス満点。凄腕役者大合戦。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

筧利夫氏の言語不当配列症、喋る文章の前後の配置がおかしくなる。
諏訪珠理氏のベンケイ病、句読点がメチャメチャな位置に置かれてしまい、文章が妙に間延びする。
加藤忍さんの簡易日本語、外人の話す無理矢理な日本語のような言葉だが明確なルールがある。
佐藤正宏氏の電文症、会話が電報を打つ時の伝え方になってしまう。
これを全部覚えてやり続ける役者陣の狂気。

後半、作品の重要なテーマとなる「言葉の質屋」が登場。10万円と引き換えに「いいえ」を預かり、言えなくしていく。「いいえ」が言えなくなった社会は支配層の思うがまま。皆、言葉を腹に押し込め何も文句を言えないまま従わされていく。「嫌なことは嫌だ」と言える日本でなくてはいけない。それはどんな日本語でだって構わない。自分の本音を伝えられる言葉でありさえすれば。

自分的にはちょっと長過ぎた。間延びした感じ。もっとテンポ良く痛快に突っ走る話では。
ペドロ・パラモ

ペドロ・パラモ

人形劇団ひとみ座

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2026/03/04 (水) ~ 2026/03/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1955年、メキシコのフアン・ルルフォが書いた『ペドロ・パラモ』はマジックリアリズム(魔術的リアリズム)の元祖的作品の一つ。60年代、世界的にラテンアメリカ文学ブームを起こしたガブリエル・ガルシア=マルケスは1961年にこの本と出会い人生が変わったと言う。感触としてはアレハンドロ・ホドロフスキーの『エル・トポ』やアンドレイ・タルコフスキーの『ノスタルジア』の感覚。ジム・ジャームッシュの『デッドマン』とか ロビン・ハーディの『ウィッカーマン』も思い出す。円環構造の中を生者と死者とが彷徨い続ける。母の遺言で滅びた町に父に会いに来た主人公。父はもう死んでいた。町の住人から父の話を聞く。少しずつ謎が明らかにされていくようで主人公は更に霧の奥深くささめきの中に迷い込んでいく。好きな人には堪らない作風。

頭部と上衣だけの人形。それを背後から操る人形遣い達はスター・ウォーズのジャワ族のような出で立ちで忌まわしい。人形美術を担当した浦部裕光氏がMVP。味のある一人ひとりの顔の造形の文学性は物語を奥深く精緻な物とし、のめり込んで観るに値する。あらかじめ録音された声に合わせて人形を動かすスタイル。客席通路を歩く時は実際に喋っているように聴こえた。

母親のドロレスが死んだ。遺言を受けて、息子のフアン・プレシアドは会ったこともない父親ペドロ・パラモの住むコマラの街へと旅に出る。途中、ロバ追いのアブンディオと行き合う。アブンディオはペドロ・パラモはもう死んでいること、自分も彼の息子であることを告げる。コマラはゴースト・タウンと化していた。娼婦宿の酒場で母親の親友だったエドゥビヘスに会う。エドゥビヘスはドロレスから息子が来ることを知らされたと言う。フアン・プレシアドは母が既に死んでいることを告げると「ああ、だから声が掠れてたんだ」と返す。

『ゴッドファーザー PART II』を思わせる構成で現在と過去とが同時進行していく。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の隠し味も。

ペドロ・パラモの父親、ルーカス・パラモが知人の結婚式に立ち会った折に巻き込まれて殺される。後を継いだペドロ・パラモは父の手下だったフルゴルから家の置かれた状況を聞く。借金まみれでどうしようもない。まず一番借金の額が多いメディア・ルナ地方の大地主プレシアード家の主となったドロレスと結婚して借金をチャラにしようと企む。そして次々に債権者を罠に嵌めて消していく。

かなり面白い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

スサナとの凧揚げのシーンが印象的。

惜しむらくは音楽が違う。メヒコの大地の匂いのする民族音楽を奏でないと。マリアッチ等を巧く挿入して欲しかった。ニーノ・ロータやエンニオ・モリコーネ調の感傷的な伝統音楽も欲しい。解説役である喋る石のピエドラのラップも分かるんだが。何故かいとうせいこう氏が声を入れている。

もっと凄い作品になる可能性を秘めている。更にヴァージョン・アップして再演すべき。もっともっと深い所にまで辿り着ける。原作を超えないと。
海の凹凸

海の凹凸

serial number(風琴工房改め)

ザ・スズナリ(東京都)

2026/02/27 (金) ~ 2026/03/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初演の俳優座で岩崎加根子さんが演った石牟礼(いしむれ)道子さんをモデルにした役を竹下景子さんが演ずる。竹下景子さん72歳、未だ変わらぬアイドルのような輝きと可愛らしさは観客を唖然とさせる。1969年に出版された石牟礼道子の『苦海浄土―わが水俣病』はそれに触れた者達の人生を大幅に変えたルポルタージュ小説。大企業の垂れ流す公害と地域住民の受けた生涯に渡る地獄を宗教的叙情詩にまで高めた文学。

杉木隆幸氏が演じた役のモデルは宇井純氏。東京大学都市工学科衛生工学コース助手の宇井純氏は公開自主講座「公害原論」を1970年より開講。実名で水俣病を告発した為に出世の道は閉ざされ、万年助手のまま冷遇された。(1986年、沖縄大学法経学部教授に招聘されるまで21年間)。
川田希さんが演じた役のモデルは加藤タケ子さん。元ほっとはうす施設長、現「きぼう・未来・水俣」代表理事。

1984年、横浜で市民学習会を開催している川田希さんはドキュメンタリー映画『水俣』(土本典昭監督)のフィルムを無償で貸してくれるという印刷所を訪れる。そこでは東大助手の杉木隆幸氏が一般市民を相手に公害をテーマにした公開自主講座を開いていた。場所を提供し印刷所に寝泊まりまでしてそれを支援する西原誠吾氏。丁度、『苦海浄土』の著者である作家(竹下景子さん)が上京するとの事でそれに参加してみる川田希さん。講座に集う者達の情熱と公害を必要悪と黙諾する日本社会の欺瞞を知り、のめり込んでいく。

かんのひとみさんは膝上ミニスカートのいつもと違うキャラクター。
西原誠吾氏の奥さん役の荻野友里さんが綺麗だった。もう少し物語に組み込んでも良かったと思う。

遅発性水俣病という、ある程度歳を取ってから発症する人々が多数いる。それを水俣病とは認可しない行政との闘争。自分は関係ないと思って生きてきた人間がある日突然発症し当事者になる絶望。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

初演で一番衝撃を受けたシーンは安元栄司(志村史人氏)の夢に石邑美奈子(岩崎加根子さん)が立ち、告げる台詞。「仇をいつまで憎んでみても自分の苦しみが癒える訳ではない。こんな苦しみを抱え続けるのはもう嫌だから赦そうと決め、手を離したら心が軽く楽になった。他人の苦しみは何処までいっても他人のもの、自分のものにはならない。他人の苦しみや他人の歓びではなく、自分自身の歓びを。生きることはそれ自体が歓びであれ。」今回も強烈。(今回演じたのは西原誠吾氏と竹下景子さん)。

自分的には初演の方が良かったような。今回はテーマが限定されてしまい中盤が退屈。市民運動組織の内部崩壊のようで描かれる世界が小さい。何故、水俣病運動に触れると人々の人生は変わるのか?そこが一番興味深い点。重要なのは石牟礼道子の綴る神話の語り部のようなこの世界への幻視。人間と世界とが対峙する全ての問題と答が水俣にこそあるのではないかと錯覚させる程、強烈。苦しみだけではなくその先にあるものすら感じさせる。
「あねさん、魚は天のくれらすもんでござす。天のくれらすもんを、ただで、わが要ると思うしことって、その日を暮らす。これより上の栄華のどこにゆけばあろうかい」

作家の興味は個々の生き甲斐に向いているのかも知れない。作品の重要な問い掛けに「何故チッソは有機水銀を垂れ流すことで住民が水俣病になることを知りながら排出し続けたのか?」「宇井純氏の研究は社会的に有意義で価値があると皆が知りながら大学内で冷遇され続けたのか?」というものがある。それが人間の本性か?それが人間の世界の当然の仕組みなのか?人間というものの見たくない正体。「大義親を滅す」の正体。何処まで行っても他人は他人でしかない。自分と他人の間に掛ける橋。もっと高レヴェルの人間観、人生観。死を超えたその先。
土曜日の過ごしかた

土曜日の過ごしかた

ニットキャップシアター

座・高円寺1(東京都)

2026/02/27 (金) ~ 2026/03/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

4年前に観た『チェーホフも鳥の名前』が鮮烈でそれからずっと観たかった劇団。その後、こまばアゴラ劇場で演った『カレーと村民』は予定が合わず観れなかった。やっと東京に来てくれて嬉しい。

脚本の「ごまのはえ」氏。味のある特高刑事役でもある。この役を自分に振るか、やるな。

松竹撮影所の売れない大部屋俳優、斎藤雷太郎が発行した週刊新聞型ミニコミ『土曜日』。昭和11年(1936年)から12年(1937年)まで京都の喫茶店や書店に置かれ最大発行部数は7〜8千部。映画や時事ネタ、政治や海外ニュースに読者投稿を知的欲求の強い連中に向けて挑発的に投げ掛けた。その自由な気風が目を付けられ関係者の殆どが特高に検挙されて1年4ヶ月で廃刊。

喫茶デイジーで千田訓子(せんだとしこ)さんがコーヒーを淹れている。当時の器具を使っているのか手間が掛かり美味しそう。旦那が社会主義運動で検挙され死亡、旦那の妹(仲谷萌さん)と自分の妹(山﨑茉由さん)と店を続けている。山谷一也氏が久方振りの来客。東京からやって来た門脇俊輔氏は置いてあった『土曜日』に興味を惹かれ発行人の斎藤雷太郎(西村貴治氏)に会いたがる。ソ連のコミンテルンの呼び掛けから反ファシズム運動「人民戦線」が日本の地下でも活動していた。仲谷萌さんは死んだ兄の組織から仲間を匿って欲しいと頼まれる。

門脇俊輔氏の役は谷口善太郎がモデルか?

牧歌的な『土曜日』の編集会議。どんどん人気が上がり検挙されない程度の体制批判を織り込む。だが時局はそんな冗談すら許さない恐怖と暴力で人を支配する流れに。

山谷一也氏は大平サブローっぽい。

役者が皆個性的。妙な面白さがある。今の時局に訴えるべきことを込めて。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

静かに淡々と進むので居眠りは多かった。何気ない日常に忍び寄るファシズムを描きたかったのだろう。

喫茶デイジーのセットは時局と共に後ろから押されて両側が閉じていき最後には身動きが取れない程のスペースに。千田訓子さんは恐れおののく。

特高に捕まりずっと無視される拷問を受ける門脇俊輔氏。いつまで経っても取調べが始まらない。耐えかねて取調べをお願いする。刑事の要求するまま作文を書く。とにかく早く終わらせてここを出ないことには。特高刑事の山谷一也氏、ごまのはえ氏、小野毅氏の醸し出す雰囲気がいい。小説調のモノローグで淡々と綴られる日々がより個人の無力さを際立たせる。

賀茂川と高野川の合流地点にある三角州は「糺河原(ただすがわら)」と呼ばれる府民の憩いのスポット。(「出町の三角州」「鴨川の三角州」を経て現在は「鴨川デルタ」と呼ばれている)。執行猶予でやっと拘置所から解放された門脇俊輔氏、斎藤雷太郎(西村貴治氏)、電車でそこをぼんやりと眺める山﨑茉由さん。
体制に思考なく迎合して加担する町の連中に吐き捨てる。「俺はこいつらが嫌いだ。」

血が輪郭に滲んだ白いお面で大衆を表現。誰も彼もが顔を失くし記号化する。両手にもお面を持つ血塗られた白いお面の群衆。そこをぐるぐる走り出す。ぐるぐるぐるぐるただ憑かれたように駆ける。グラウンドを周回する生徒のようにぐるぐるぐるぐる。

今作を観ていて自分が当時の日本に覚える嫌悪感の理由を再確認する。自分よりも劣った連中に従わねばならぬ屈辱感。こんな頭の悪い連中の言いなりにならねばならないのか。知性も思慮も持たない単細胞生物に好きなように蹂躙される惨めさ。せめてもう少し知能があってくれ。人間であってくれ。嘘を付いて騙し続けないと一つになれない国なんてそもそもが間違っている。

『はだしのゲン』の作者・中沢啓治の読売新聞への投書。
「これから先、だれかが戦争や原爆を肯定するようなことを言っても、絶対に信じるな」。
大地の子

大地の子

明治座

明治座(東京都)

2026/02/26 (木) ~ 2026/03/17 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕70分休憩30分第二幕第三幕105分。

現代の『山椒大夫』。全てのエピソードは作家・山崎豊子が取材で得た事実を繋ぎ合わせたものだけに重厚。「小日本鬼子(シャオリーベングイズ)」=鬼畜日本の子と苛められ罵倒され理不尽な目に遭いそれでも尚且つ前だけを見て生き続ける男の姿。

ステージ奥の中二階に回想シーン等が映る。静止した影絵のように始まり映像を投影しているのかと思うがふと動き出しリアルタイムで役者達が演じていることが判る。ざらついた幕を通してセピアなイメージが効果的。
配役にかなり演劇通の人が関わっているのだろう。一人ひとり出演するだけの理由があり、必ず観劇後も記憶に残っている。この大作でこれをやるのは凄腕。(天野はなさんの代役で山﨑薫さんをキャスティングするのもよく判る)。

時系列がかなりバラバラなので主人公・陸一心(ルー・イーシン)を演じる井上芳雄氏の各時代の演じ分けが大変。鬼気迫った役者馬鹿の情熱、ギラついた目付きは尾崎豊のよう。男泣き。70年代の役者の匂い立つ魅力がある。往年の映画ファンなら大好きになるだろう。凄い人気で1列目から双眼鏡で井上芳雄氏の表情を凝視する熱心なファンの姿も。

育ての父、陸徳志(ルー・トウチ)役は山西惇氏。ただただ泣かせる。この物語の心を司る。
育ての母、王淑琴(ワン・シューチン)役は増子倭文江さん。流石。
従姉妹にあたる陸秀蘭(ルー・シウラン)役は山﨑薫さん。
日本の父、松本耕次役益岡徹氏も巧み。
みやなおこさん!
内蒙古の労働改造所で羊飼いをしている黄書海(ホワン・シュウハイ)役浅野雅博氏のエピソードも秀逸。
『金鶏 二番花』主演の丸川敬之氏!
『焼肉ドラゴン』の櫻井章喜氏!
ヒロインとなる江月梅(チアン・ユエメイ)役は有森成美みたいだなと思ったら上白石萌歌さん。アイドルみたいなキラキラしたオーラ。

それでも何と言ってももう一人の主人公である張玉花(ツァン・ユウホワ)役奈緒さんがMVP。いつの間にこんな本物の女優に化けたのか。人間のカルマを見据えたとんでもない女優になりそうな予感。素晴らしかった。
(勿論養母役山下裕子〈ひろこ〉さん、旦那役木津誠之氏の名助演も特筆もの)。

いろいろと細かな不満点はあるがとにかく配役が効いている。一場毎に必ず人の心を打つ見せ場を作りガッチリ演技を堪能させる。小林正樹の『人間の條件』を一気見している気分。ガチのスタンディング・オベーションになった。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

都合により第二幕第三幕が繋がっている。幕が下りてすぐに上がり第三幕へ。脚本家としては休憩も当て込んで書いただろうに残念。

山崎豊子原作は実は読んだことがなく多分ドラマ、映画も観ていない。名前だけで何となく知った気になっていた。今回何処まで原作通りなのか解らないが相当人間の嫌な部分を掘り起こす作家なのだろう。脚本のマキノノゾミ氏が描きたい部分は奈緒さんが担った。言葉を持たない者達の経験した記憶は誰にも掬い上げられることもなく無言で海の底に沈澱していくのみ。何億年何十億年誰にも顧みられず沈黙のまま。作家の仕事とは彼等の声なき声を世界に伝えることだと山崎豊子は訴える。

井上芳雄氏は生みの親に日本に帰れと諭されるも自分は謂わば『大地の子』なのだと宣言する。経験してきた一日一日その全てが自分自身を形作ったのだと。
結語に現在の日中関係を重ね合わせ、「『大地の子』は今、何処にいるのだろうか?」と決める。日中の現実に痛烈な言葉。どんな時代にも優しく正しく公平であろうとする者は日本にも中国にもいる。
人間失格

人間失格

Office8次元

新宿シアタートップス(東京都)

2026/02/13 (金) ~ 2026/02/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『人間失格』は2回ぐらい読んだと思う。余り良い出来とは思わない。戦後の太宰治はイマイチ。戦時中の『津軽』とかが一番良かった記憶。太宰治を使ったいろいろな作品を観たが何かどれも違う。自分が勝手に持っているイメージと合致しない。今作も笑いに逃げるんじゃないかと危惧していた。だが観れば解るがメチャクチャ傑作。小説を読んで凄く重要だった部分の情景が一つ一つ素晴らしい。和田誠の『麻雀放浪記』みたいに丁寧に作られている。太宰治ファンにこそ観せたい作品だ。

額縁として陳内将氏演ずる作家が船橋の喫茶店を訪ね、マダム(奥山美代子さん)から手記を託される話がある。セットの2階をその喫茶店とし、下の1階で手記の内容が展開される。鎌倉の七里ケ浜海岸でのツネ子(原伊理さん)との心中崩れ、一人生き残った大庭葉蔵(小早川俊輔氏)は警察署で取り調べを受けている。署長(​鈴木裕樹氏)に自分という出来損ないの人間には処世術として道化を演じるしかないのですと告白する。
1階の四隅に排水溝があり下から嫌な記憶が蓋を開けて這い上がって来る。センターにも奈落が。1階の奥には両開きの障子戸、2階にも両開きの障子戸がある。テンポ良く場面が次々に切り替わるテクニック。観客の目線を操り動かすことでカットを割る。こんな狭いステージでこれだけ策を巡らせるとは。多灯ライティングによる人を2重に見せる技術。

大庭葉蔵役小早川俊輔氏も素晴らしい。赤坂晃や堺雅人の表情に似ていて笑顔はいわいのふ健っぽい。そりゃ人気出るわ。
少年時代の大庭葉蔵役野口詩央さん、この人、天才じゃないか?
堀切正雄役​郷本直也氏はハマカーンの浜谷健司みたいな大声。

流石の寺十吾氏、会心の出来。鈴木清順っぽい品の良さ。

ネタバレBOX

堀越涼氏は原作をリスペクトし過ぎる余り、原作モノはイマイチというイメージがあった。だが今作では堀越涼氏のオリジナルであろう部分がぐんと光を放つ。
『足りなくなることは死ぬこと。全てにおいて余るぐらいでなくてはいけない。そう教えた父親も早逝した。余る程蓄えていてもいけないのだな。』

『人間失格』で一番記憶に残っているシーン。アパートの屋上で酒を飲む大庭葉蔵と堀切正雄。対義語(アントニム=アント)の当てっこゲームをする。ちなみに同義語=シノニム。「罪」のアントについて思い巡らす。ドストエフスキーは『罪と罰』をシノニムではなくアントニムとして配置したのでは?とはっと思い当たる。罪と罰とは全く真逆の相容れないものだとしたら?その時、階下の自分の部屋で妻が犯されている場面を目撃してしまう。これぞまさに自分のイメージ通りのシーンだった。

ラストに陳内将氏が演じた作家は太宰治だったことが明かされる。山崎富栄との入水自殺。
鵺が疾る(ぬえがはしる)

鵺が疾る(ぬえがはしる)

劇団青年座

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2026/02/15 (日) ~ 2026/02/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ガチガチ硬派。それでいてつまらなくないのが凄い。遊びや色恋、笑いや活劇などは全くない。ただ時代の流れと共に人々の考えや関係性が変化していく様を静かに描写するのみ。そこに浮かび上がるのが戦後最大のフィクサー、『児玉誉士夫 BEGINS』。

山﨑秀樹氏が顔を客席に見せた時、「児玉誉士夫だ」と思った。
阿片王・里見甫(はじめ)は石母田(いしもだ)史朗氏。イメージと違って立派な紳士。坂本龍一が演じた甘粕正彦のような。
その秘書に市橋恵さん。物凄い目付き。(男装の麗人、梅村淳だろう)。
陸軍大佐・石原莞爾に桜木信介氏。(楠本実隆〈さねたか〉大佐と混ぜている)。

関東軍は金が必要だった。何をするにも金がいる。一々大蔵省を通していたら一向に話は進まない。自分達で自由に使える資金、阿片に手を付けた。芥子を栽培し阿片に精製し市場で売り捌き現金に変えるシステム。無尽蔵に自ら金を稼ぐ夢の軍隊。だがそう上手くはいかなかった。

ネタバレBOX

1931年9月18日、柳条湖事件(関東軍による自作自演の偽旗作戦)が起き、満洲事変発生。日本は中国東北部・満洲を占領。
1932年1月28日、第一次上海事変。中国の徹底抗戦を受けて停戦に。以後日本は国際的に孤立することに。
1937年7月7日、盧溝橋事件(中国軍と日本軍の小競り合い)から今まで局地的単発的であった戦闘が日中全面戦争開戦となる。
1937年8月13日、第二次上海事変。11月に勝利するとそのまま12月に首都・南京を攻め、12月13日南京陥落。

上海、北部外灘(がいたん=ワイタン=バンド)の虹口(こうこう=ホンコウ)地区は日本人が多く居住する共同租界(外国人居留地)であった。

①1935年1月〜
海軍大佐・山縣正郷(石井淳氏)が上海の租界にある19階建てのブロードウェイ・マンション、外務省情報部長・河合達夫(平尾仁氏)のもとを訪ねている。とにかく海軍には金が要る。河合達夫は3度実刑を受けた右翼青年の児玉誉士夫(山﨑秀樹氏)を拾い上海に連れて来て働かせていた。もう一人は鹿野宗健氏。
そこから500m程離れた7階建てのピアスアパートには後の阿片王・里見甫が住んでいた。陸軍大佐・石原莞爾が金の無心。秘書の市橋恵さん、新入りの清瀬ひかりさん。

②1936年3月〜
外務省情報部に接近する清瀬ひかりさん。市橋恵さんに怪しまれ姿を消す。

③1937年11月〜1938年6月
里見甫は関東軍から特務資金調達の為に阿片売買を依頼され、1938年3月、その為の会社・宏済善堂を設立。当初は外交特権を利用した陸軍がトルコ、ペルシャ(現イラン)から密輸入した物を扱った。阿片流通は中国の裏社会を支配する青幇(チンパン=せいほう)のボスの一人、杜月笙(と・げつしょう)の支配下にあった。里見機関の阿片はその部下、盛文頤(せい・ぶんい)に卸され彼等の販売網が売り捌いた。
海軍も日本で製造した阿片を売り捌く。
清瀬ひかりさんは河合達夫から切り捨てられるが児玉誉士夫が拾う。

④1939年10月〜
1939年2月、日本軍は中国最南端の島、海南(ハイナン)島を占領後阿片生産の拠点とする。
里見甫は1939年末から南京国民政府(=日本の傀儡政権)直轄の阿片総元締めとして蒙古で栽培された芥子の花を飛行機で運搬、満洲で阿片に精製した物を扱った。
清瀬ひかりさんは1923年9月1日関東大震災の時、友達だった中国人一家が虐殺される姿を目に焼き付けた。贖罪として中国で国民党のスパイとなる。
清瀬ひかりさんからの国民党情報で匪賊の襲撃を免れる阿片の輸送列車だったが到頭襲われ鹿野宗健氏が犠牲に。

⑤1941年11月
日米開戦前夜。本当にこれで良かったのか?もうどうにもならない。

児玉誉士夫は戦時中、海軍の嘱託として戦略物資調達部隊「児玉機関」を指揮した。終戦時、当時の貨幣で447億1476万3517円42銭の資産を保有。現在の価値では優に兆を超える。返還すべき海軍もなくなり、自由党(後の自民党)の結成資金1000万円(現在の価値では56億円?)を提供した。1946年から1948年までA級戦犯容疑者として逮捕、収監。釈放後、日本政財界のフィクサーとして君臨する。1976年、ロッキード事件(米国ロッキード社が売り込みの為多額の賄賂を日本政財界にばら撒いた)が発覚し、ロッキード社の秘密代理人だった児玉誉士夫も追求を受け社会的に失脚した。

やけに児玉誉士夫を美化しているようにも思った。(阿片を憎んでいるとか)。児玉機関は中国でヘロインの密売にも当然関与している。取材先への義理があったのかも。好意的に解釈すれば、児玉誉士夫は金に拘ったがそれは私利私欲の為ではなかった。金は力であり、金を必要としている人材に渡すことで日本は正しい道を行ける、そう信じたのだろう。自らは巨大な集金装置であり、分配装置であろうとした。続編としてそんな児玉誉士夫物語も観てみたい。
歩かなくても棒に当たる

歩かなくても棒に当たる

劇団アンパサンド

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2026/02/20 (金) ~ 2026/02/25 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初演も観ている。シアタートップスでえらく暑かった。岸田國士戯曲賞を取っての凱旋再演。シアターイーストは広いが配役も変わらずそのまんま。ステージ上の役者が上手下手、横に広がった位。

安定の面白さ。

ネタバレBOX

鄭亜美さんの小声が聴こえるように少し大きくなっていた。
収録日だったが、鄭亜美さんの額に貼った流血シールがペラリと剥がれてしまうアクシデント。どうするのか?
自分が気に食わないのは小道具とかセットの仕掛け。安っぽい流血シールは失敗だと思った。サナエさんが地獄に引きずり込まれるシーンもイマイチ。手作り感を狙ってやっているのだろうが何か違う。こんな話なのに妙にリアルな舞台美術の方が笑いとしては面白いと思う。
十一人の少年

十一人の少年

劇場創造アカデミー

座・高円寺1(東京都)

2026/02/20 (金) ~ 2026/02/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

オープニング、地下から外界の様子を窺っている子供達の声。誰もいないみたいだと判断して皆上に上がって来る。(マディソン・セリーナ・春花さん他)。電車の通る高架橋の下はちょっとした空き地で不法投棄されたゴミが散乱している。子供達はワーッと思い思いに遊ぶ。遊び疲れて皆帰る。
日が暮れて区役所の清掃局に勤める小林(横澤のぶさん)がやって来て誰もいないことを確認、スーツを脱いでスーパーマンの格好に着替える。父親と呼ぶ等身大人形を抱きかかえ飛ぶ練習。だが隅っこにスモモ(大塚美幸さん)という少女がいることに気付き慌てる。スモモはジョン・レノンのグラニー・グラスのような青のサングラスを掛けていて東北の訛がある。小林は彼女が盲目であることを知り安心して飛ぶが川に落ちる。
次にやって来たのは同じく清掃局に勤める青木(長谷川歩己氏)。職場の演劇部員で次に演る『十一人の少年』という作品の台本を練習している。隅っこに座ってそれを楽しそうに聴いているスモモ。物語の結末を聴きたがる。だが作者のヘタムラ・ゾウはラストを書かないまま失踪してしまったという。スモモは想像でいいから続きを聴かせてと頼む。何故か乱入して来た男(田村将氏)に『沓掛時次郎』ごっこを強要されたりもする。
スモモは兄と称する雄次郎(阪本篤氏)に命じられ売春をしている。今日の客は太田連太郎(蕪木虎太郎氏)、今世間で大人気のスターだそうだ。顔を見られるのを怖れて盲目の娼婦を買うのだ。

シーンが変わるごとに高架橋を通る電車の音がザッピングのようにガガガガガ。

「思いの保険」勧誘員の萩原みのりさんが印象的。羽野晶紀と笠置シヅ子を足したようなインパクト。ホラー映画のようなまとわりつく恐さ。
牧凌平氏は寺門ジモン風味。「ハッ!」「ハッ!」の繰り返しが面白い。
横澤のぶさんは今井未定さんっぼい。
特別出演の阪本篤氏と筑波竜一氏は大ハッスルで観客大喜び。

この手の形式の演劇は好みじゃないのだが何故か今作は腑に落ちた。

アルゴー号は「永遠の台風」に立ち向かう。現実は冷酷で無機質。同化して合わせてやっていくには自分の心が邪魔になる。人に感情移入して思い遣ってばかりいたら自分自身が擦り減ってしまう。生活していくにはとにかく心が邪魔だ。そんな毎日に想像力と創造力を武器に立ち向かっていけるのだろうか?

BLANKEY JET CITY 『クリスマスと黒いブーツ』

氷の張った水溜りを足で割りながら歩いた時から
思ってたんだ
いつか来るだろう 今の事を こんな気持ちになる事を
全ては変わり過ぎていくけど 僕はずっと変わりはしない

ネタバレBOX

清掃局係長、演劇部部長の別保(伊藤亜希さん)の家での飲み会。片岡(牧凌平氏)だけが先に着く。『どですかでん』の丹下キヨ子みたいな悪妻(筑波竜一氏)、ませたガキ(與那覇ひかるさん)。紙の豆を剝く。小林と青木が合流するが、そこに「思いの保険」勧誘員がやって来る。トモズミ(萩原みのりさん)とヒオイ(向山紬麦さん)。それに入ると金は掛からず要らない心を担保に実益重視、単純明快な思考回路を手にすることが出来る。説得に押されて別保と片岡は契約する。それから演劇部は活動停止し会社での出世だけが彼等の目的となる。

「思いの保険」勧誘員は人の心を欲しがる。人がいろいろと考え思い悩むことを否定する。それは無駄な行為だ、その不要な思いは全部引き受けてやるから頭を空っぽにして楽になれと。ただ与えられた目的を遂行するだけの機械になれと。だが人間は生まれながらに自由な存在だ。自由を支配することなんて誰にも出来ない。

スモモはヒモに売春を強要される浮浪者。浄化作戦 で高架橋下を追い出されると知らぬ公園で中学生に遊びでリンチされて殺された。1983年に起きた横浜浮浪者襲撃殺人事件がモデルだろう。この暗澹たる人の世に想像力で立ち向かおうと決めた劇作家。そんなこと全く無意味、全く何にもなりやしない。現実から目を逸らしているだけ。だがしかしそう思うことこそが灰色の男たちの思う壺なのかも知れない。世界は物語で出来ている。そこに自分の物語を見付けることさえ出来れば世界は変えられる。鍵は物語の力を信じることなのだろう。シライケイタ氏は想像力と創造力だけが武器だと記す。無意識、言語化出来ないものこそが一番大事な自分だけのオリジナル。

BLANKEY JET CITY 『クリスマスと黒いブーツ』

透き通った心は歳と共に消えて失くなり
残酷な出来事に感覚が鈍り始めて
歪んだこの世界に染まっちまったらオシマイだぜ
脚光を浴びない女

脚光を浴びない女

グッバイハローproduce

サンモールスタジオ(東京都)

2026/02/17 (火) ~ 2026/02/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

〈グッドチーム〉

初演は劇団ハートランドで2015年。劇団が女性のみの演劇ユニット、プレオム劇に再編されて再演、再再演。今回、4回目だそうだ。中島淳彦氏脚本、青山勝氏演出となると観たくなるのは至極当然。期待にたがわずメチャクチャ面白い。
女性ばかり団地のご近所モノとして「昭和のアンパサンド」みたいな濃い笑い。構えは今村昌平っぽい重喜劇。今平の『うなぎ』みたいな苦笑気味の重い奴が炸裂。笑うに笑えないネタだが、ググッと喉の奥で笑う奴。

工業地帯に立つ市営団地。築50年、4階建てでエレベーターもない。主人公、中村まゆみさんはスーパーでパートをしつつ工場勤めの旦那とアメフト部の大学生の息子を持つ3階住まい。溜まり場になっているのか来客が多い。九州の父親が亡くなって一年、実家で一人暮らしの母親(西山水木さん)が五万円お小遣いをくれた。かつて一瞬だけ弱小芸能事務所に所属した過去もある彼女はふとエレキ・ギターを買おうかと思い付く。

団地の取り壊しと立ち退きの噂。元教師のもりちえさんは高校生の娘(演出助手の高橋真希さん)がグレてピンク・パイレーツ?という名の暴走族に加入、頭を悩ましている。

田中千佳子さんの中学生の娘(伊藤りりかさん)は将来について悩んでいるらしい。

上階の山口智恵さんは惚け始めているのか毎回階を間違えて帰宅してしまう。

団地住民皆が怯えている元工場の労組の女リーダー、中村裕子さん。独自のルールで皆を仕切る。

団地に越して来たばかりの井場景子さん。人間関係はよく判らないが何とか苦笑いで皆に合わせないと。

とある事件で一年間ここを離れていた高山佳音里さん。

中村まゆみさんのスーパーの同僚、木下綾夏さんはバンドを組んでいるそうでエレキ・ギターの相談に乗ってくれる。

サンモールスタジオは喜劇の聖地。観客は沸きに沸いた。キャスティングで既に成功は約束されたようなもの。甲乙つけがたい手練役者が奏でる協奏曲。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

中村まゆみさんのよく通る声、もりちえさんのコーラスとカホン、山口智恵さんの縦笛···、曲も素晴らしい。西山水木さんが小節を回す『北国の春』も決まる。

伊藤りりかさんは無気力ダンスが素晴らしい。何処かで観た記憶があるが思い出せなかった。
黒百合

黒百合

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2026/02/04 (水) ~ 2026/02/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

オープニングがカッコイイ。二人のスタッフがズルズルと一本の花の咲いたズタ袋を上手下手から引きずって来る。いつしか沢山の花が咲く舞台に。岡本夏美さんが現れ、その中の一本の花を摘む。するとズタ袋からは人間の手が突き出ている。また摘むと手、また摘むと手。人間の手が地べたから咲いている奇妙な絵。そこから役者達が這い出してオープニングに。美しい花を摘む行為の裏に潜む生命を殺す残酷さ。

富山県知事の令嬢勇美子(土居志央梨さん)はフランスの帰国子女で植物収集愛好家。子爵・千破矢家の若き当主、千破矢滝太郎(木村達成氏)が屋敷にやって来て食虫植物のモウセンゴケをプレゼントする。それに魅入られる勇美子。

富山には「白山の黒百合伝説」がある。織田信長の親衛隊であった佐々成政(さっさ・なりまさ)は越中国(現在の富山県)の富山城主。愛妾の早百合(さゆり)をことのほか愛していた。だが早百合が不義密通して別の男の子供を懐妊しているとの噂を耳にして激怒。神通川の畔の一本榎に吊るして惨殺した。それは全くの濡れ衣で早百合は「立山に黒百合咲かば、佐々の家は滅しよう。」と呪って死ぬ。その呪いの通り、後に佐々成政は黒百合にまつわる出来事から切腹に追い込まれる。

勇美子はその呪われた黒百合が欲しくてたまらない。立山にある石滝(いわたき)の奥深くの蛍の名所に、黒百合が咲くという。神通川の支流の奥の奥の魔所で人が立ち入ると暴風雨が起きる言い伝え。屋敷に出入りする花売りのお雪(岡本夏美さん)に金は幾らでも出すから摘んで来るよう言いつける。お雪は町で評判の美人で狙う男は数多い。だが目の病を患った若山拓〈ひらく〉(白石隼也氏)の面倒を見て二人で暮らしていた。

滝太郎は旅商売で行商をしている露店に行き合う。銀メッキ加工の商売をしているお兼(村岡希美さん)に自分の純金の指輪を加工するように頼む。実はこの指輪をくれたのはお兼で隠し刃が仕込まれている代物。それを見て滝太郎に気付くお兼。8年振りの再会。

岡本夏美さんが可愛い。昔、西野未姫に似ていると思って覚えた。
木村達成氏は大沢樹生に似ていてピカレスク顔。この役に嵌まる。
白石隼也(しゅんや)氏は岩田剛典に似ている正統派ハンサム。凄く唾が飛ぶので共演者は大変そう。
慶造役に外山誠二氏。
女中の道役に大西多摩恵さん。
荒物屋の婆さん役に白石加代子さん。

ネタバレBOX

白石加代子さんの台詞が飛んで岡本夏美さんがフォローするシーンがあった。

若山拓(ひらく)の原作での設定。
反社会的勢力組織(盗賊団?)の親分の一人息子。元海軍大佐?の親父が刑務所に収監されて娑婆にいない時を見計らい、家屋敷財産を勝手に処分し被害者への補償、賠償に当て全てを捨てて東京を離れた。理学士の学位を持つ。
2年前、富山にやって来て旅館に泊まるも持ち物一切合切を泥棒に盗られ無一文に。面倒見の良い地方裁判所の検事が身柄を預かりその援助で私塾を開いた。順調に生徒も集まり軌道に乗ったが運悪く目の病を患う。授業もままならず無念の閉塾、無収入に。生徒の一人がお雪の兄で療養の為にと家で面倒を見てくれた。その兄も兵隊にとられ、今ではお雪一人が花売りで養っている。

拓が夢で石滝の魔所での二人を見るのは原作通り。
神通川の氾濫で辺りは大洪水に。滝太郎は拓とお雪を担いで逃げるが水に呑まれる。お雪は拓だけでも救けて貰う為に自ら水に飛び込み死んでいく。
エピローグとしてその後、黒百合丸が出航し甲板に若山拓、千破矢滝太郎、慶造、お兼の姿。盗賊にでも出掛けるのか?

テンポが悪くかったるい。演出家は芥川比呂志演出の『夜叉ヶ池』を意識して狙ったのではないか?もしそうならばまずそこが間違っていると思った。
第一幕はしょぼいけれど自分的にはまあ有りだった。掛ける小屋を間違えた作品。新橋演舞場や明治座でやるべき演目。大衆芝居ということならまあ色々と許せる。だが第二幕は···。これだけ酷いのはなかなかない。もうこんなの全部夢オチで良かったと思う。客にとっては全てがどうでもいい話。脚本にも演出にも誰も突っ込まなかったのか?余りにホンが酷いので気になって原作もチェックした。だがほぼ原作通り。泉鏡花初期の失敗作。何の構想もなく行き当たりばったり適当に書き殴ったような話。相当弄らないとまともな作品には直らない。

脚本オリジナルの部分も訳が分からない。
お雪が拓とどうして出会って暮らしているのか全く記憶にないという設定。そこが何か意味有りげだが何もない。
黒百合を採りに行くことを拒否するお雪に勇美子はモウセンゴケを凝視させる。「行くのよ、貴方は、行くの。」暗示にかけたようだがもう既に行動は決まっていると言わんばかり。勇美子は観客の知らない何かを知っているような思わせ振りなシーン。だがただそれだけで何もない。それでいて何故かお雪は石滝に向かう。
※好意的に解釈すると原作の『黒百合』がそうなっているのだから虚構の登場人物であるお前の行動は決まっているのだ、と脚本家はメタ的に告げたとも取れる。そこまで『黒百合』をメタとして弄るんなら泉鏡花も引っ繰り返るようなラストを用意せねば。

フリンジのビニールで表現した滝もしょぼい。初め何なのか判らなかった位。唐突な洪水が禁忌の聖地で黒百合を摘んだ神罰だとしたら水の表現こそが重要。怒りに満ちた水が人間共を呑み込まないといけない。その全てが口先だけで安っぽい。
『100歳の少年と12通の手紙』『ベイビーティース』

『100歳の少年と12通の手紙』『ベイビーティース』

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2026/02/06 (金) ~ 2026/02/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ベイビーティース』

タイトルの意味は乳歯。ミラは中学生なのにまだ乳歯が残っていてグラグラしている。

精神分析学の創始者、フロイトは生物が根源的に持つ生へのエネルギーの正体をリビドー(性的欲望、性衝動)だと定義した。全ての人間の行動の原理はこの変形に過ぎないと。(その後、晩年にフロイトはエロス〈生の本能〉とタナトス〈死の本能〉を提唱する。)
今作はそれを踏まえ、生きるということの表現に性欲を表出し解り易く提示。伊丹十三みたい。

オーストラリアのリタ・カルニェイによる2012年の戯曲、2019年に映画化された。映画ではミラは高校生にされている。

難病を抱える中学生のミラ(髙宮千尋さん)、精神科医の父親ヘンリー(脇田康弘氏)、精神が不安定な母親アナ(小澤英恵さん)。駅のホームで意識が遠のき鼻血を出すミラ。ベンチで見ていた薬の売人モーゼス(藤田一真氏)が自分の服で拭ってやる。「御礼という訳じゃないが少し金を貰えないか?」金目当ての半グレ。ミラはヴァイオリンのレッスン代50ドルを渡し「髪を切ってくれ」と頼む。

死を前にした少女の最初で最後の恋、ままごとのような。それにしても相手は屑過ぎた。父親も母親もうんざり。だがもう時間がない。猶予はない。「せめて娘を傷付けないで」とお願いするしかなかった。

余りにも小澤英恵(はなえ)さんが凄すぎ。「どうしてもこの役をやりたくて復帰した」とのコメントがあったがそれがよく伝わる。冒頭から落ち着きがなく躁鬱が交互に押し寄せる不安定な女性を表出。しかも一人娘は治る見込みのない死の病を抱えている。どうしたらいいのか分からない母親の苦悩。患者待ちの旦那に不意に性行為を求め、パンティを脱ぎ捨て服をはだけブラジャーだけになる。暴発する感情の制御が効かない。妙に性的魅力に溢れていて娘のヴァイオリン教師のギドン(河内浩氏)は下心を隠さない。怒濤のキャラクター像はまさに「ブレーキの壊れたダンプカー」。
異儀田夏葉さんに演技の感覚の種類が似ていると思った。原日出子や藤田弓子系の美人。この人の作品はもっと観てみたい。
※ゆで卵丸呑みは白身だけの奴を用意したのだと思う。

お隣に越してきた妊婦トビー(稀乃さん)はいつも愛犬ヘンリーを捜している。その妙な人懐っこさに隣家のヘンリーも悪い気はしない。
稀乃さんは辺見えみりみたいな美人。『カタブイ、1995』の沖縄防衛局職員だった!

いつもヘッドフォンを着けたまま夜遅くまで一人でうろついている少年トゥオン(長島安里紗さん)。高名なヴァイオリン奏者の方に特別出演して貰ったらしい。
ネグレクトのベトナム人移民設定らしいが判り辛い。
第二次世界大戦前後、ソ連による侵攻併合を受けてラトビア人難民の多くはオーストラリアに移民した。ヴァイオリン教師ギドンはそのラトビア人移民。演ずる河内浩氏は饒舌な吉幾三みたいな狂乱キャラに。ノリノリ。
今作の作家もラトビア系、父親がラトビア人移民。

藤田一真氏は『少年Bが住む家』の保護観察官役。今回は真逆の役を巧くこなす。内面を全く見せない男。キッチンで煙草に火を点け、小澤英恵さんに見付かり「家の中は禁煙よ!ここでは吸わないで!」が何度も繰り返される。

髙宮千尋さんはいつもぼんやりと何処かを見ている。目の前ではない何処か彼方を。

場内スタッフ、客席誘導員のスタッフとして清水直子さん、志村史人氏、斉藤淳氏···とは豪華過ぎ。全員主演クラスの看板俳優、世が世ならスーパースターだよ。恐るべし俳優座。

ネタバレBOX

誰もいない診療室でヘンリーは自分にモルヒネを打っている。偶然入って来たアナはそれを目撃してしまう。病がどんどん悪化、酷い苦痛に耐えかね何度も鎮痛薬を求める娘に致死量の薬を渡したこと。錠剤の数次第で死ぬことが出来ると。愛する娘にそんな処方を決断せざるを得なかった父親の苦悩。患者を治療することが職務の医師が人に見せてはいけない苦しみ。モルヒネで麻痺させるしかなかった。「これについての話はまた今度だ」。脇田康弘氏の名シーン。

最後の夜、ミラはモーゼスに頼む。枕で自分の顔を押さえて窒息死させてくれと。多分、苦しくて暴れるだろうけれどそれは肉体の本能的なもので私の意思ではない。私は死んで楽になりたい。何度も拒否し続けるモーゼスだったが到頭ミラの抱えた耐え難い苦痛を受け入れ、言われた通りにする。枕を当て強く押し付ける。長い沈黙。しばらくして手や足が痙攣。ずっと押し当てる。更に酷く暴れるようにジタバタするミラ。それでも放さない。力を込めて押さえ続ける。押さえる。押さえる。押さえ···、急に手を離し二人は抱き合ってキスをする。「ほら、今ので歯が抜けちゃったわ。」
涙が零れる名シーン。この作品の全てがここに凝縮されている。髙宮千尋さんと藤田一真氏はこの一瞬の為に全てを紡ぎ続けた。

その後トイレに立つ時、ミラは手話で虚空の誰かと話す。

観客の感覚としては、ギドンのエピソード、トビーのエピソードが唐突で流れに自然に嵌まっていない違和感。逆に一番観客が気になるミラとモーゼスの話が薄い。

ギドンの叱咤からアナは何かに気付く設定なのだが、ギドンのキャラがどうもよく分からない。何か観せたいもの伝えたいものが饒舌過ぎて観客に誤解を招いている。

実は母親アナの設定はプロを目指していたピアニストで結婚出産を機に断念したらしい。それからずっと弾こうとしなかったピアノをラスト、弾いてみる。

場面転換が暗転してのセット替えばかりなのでテンポが悪い。『存在証明』のようにカットとカットの繋ぎを工夫して貰いたい。複数のシーンを並列させ役者の移動だけで成立させたり、フェード・アウトとフェード・インを重ねたり、台詞の独白中に時間を経過させたり。結構強引なことをやっても面白ければ観客はそれを支持するもの。

ただ、劇団のアトリエにて何の制約もなく演出家の気の済むまで自由にやらせる空間も素晴らしい試みであることは確か。心ゆくまでやりたいようにやってみて、という劇団総意のバックアップ。この社風だから人は育つのかも知れない。

Manic Street Preachers 『Hiding in Plain Sight』

穏やかな行進に連なっている
雨の中に君が立っているのが見える
そう、これが終わることは解っていた
いつどこで終わるのか知らなかっただけ

穏やかな行進に連なっている
どうか僕を連れ戻してくれないか?
かつて爪先を砂に浸し
走っていたあのビーチへと
ヘカベ/ドゥロイケティス

ヘカベ/ドゥロイケティス

お布団

アトリエ春風舎(東京都)

2026/02/12 (木) ~ 2026/02/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ステージには小さい箱馬が4個ずつ4列並べられている。炎のように光が揺らめくキャンドル型LEDライトがその中に入っている。奥に定型の箱馬が椅子として6脚並び、背景に白い幕が掛かっている。下手に置かれた2脚の箱馬、様々な用途に使用。

まず中野志保実さんが現れ観客に説明を始める。劇の始まる前に既に死んでいる少年ポリュドロスの亡霊として。

十年続いたトロイア戦争にて到頭ギリシア連合軍がトロイアを討ち破る。トロイア人の男はほぼ全員惨殺され、女だけが奴隷として連れて行かれる。老いた王妃ヘカベ(新田佑梨さん)、侍女のムネーサ(永瀬安美さん)。娘の王女ポリュクセネは想像を絶する性暴力を受け正気を失ったまま。
ギリシア連合軍司令官のアガメムノン(宇都有里紗さん)、参謀オデュッセウス(大関愛さん)、伝令タルテュビオス(中野志保実さん)。
海が荒れて航海がままならず、途中の小国トラキアに停泊させて貰うことに。トラキア王はポリュメストル(渚まな美さん)。実はヘカベはこの国に王子ポリュドロスを金塊と共に預けていた。戦争で全ての子供達は殺され残る希望は彼だけに。

何の情報も入れずに観たので随分とイメージが違った。ルックスの良い若い女性ばかりの劇団?服装もカジュアルで等身大。頭でっかちの観念系ではなく普通に面白い。

大関愛さんは「国境なき朗読者たち」の『朗読劇 The Message from Gaza ガザ 希望のメッセージ』で観た。
宇都有里紗さんは連合赤軍にいそうな雰囲気。眼鏡を掛けるとハンジっぽくもある。
中野志保実さんは妙に不穏な雰囲気。
渚まな美さんはちょっと松本典子っぽい。
新田佑梨さんはイントネーションに独特のものがあり、顔立ちからハーフ?とも思った。
永瀬安美さんは品の良い美人でやたら気になった。
これは大塚英志の『「彼女たち」の連合赤軍』を演るべき面子だろう。

一昨年、清流劇場の『へカベ、海を渡る』を観て、こんな暗い話に何故人は惹かれるのか?と思った。今作のアプローチは現在進行系の戦争と通じるように作られている。やはりガザ地区の嘆きにリンクする人が多いだろう。遠い昔の伝説ではなく、今現在起きている事実。そしてそれをよく知る自分達は無力でほぼ何も出来ない。ただ呆然と立ち尽くすのみ。その怖ろしさ。今作を眺める観客と全く同じ。ただ黙ってソレを眺めている。怯えながら。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

「ドゥロイケティス」とはギリシャ語の「奴隷」と「家」を組み合わせた言葉らしい。奴隷の家?

一番の見所は悲鳴の合唱。オデュッセウスが生み出した禁忌の化け物にポリュクセネは凌辱される。その最中、不意に宇都有里紗さんが奇声を上げる。獣のような悲痛な唸り声に何人もが声を重ね奏でるのは地獄のメロディ。気付くといつしか誰もが悲鳴を上げていた。世界中の誰も彼もが。何だこの声は?一体誰の声なんだ?ああ、これは。これは俺の声だ。俺が叫ぶ声だ。『もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。』

オデュッセウスのキャラクターが練られている。戦争中捕らえられ処刑されるところを泣き叫びながら惨めに命乞いをする。憐れに思ったヘカベが処刑を止め逃がしてやる。その恩は感じつつ現実には何も出来ないオデュッセウス。兵士の不満を治める為だけに、ただの宗教儀礼と知っていながらポリュクセネを生贄に捧げる。全てが計算尽く、下の者を統率する為の方便、最早それにがんじがらめ、自由意志なんて何処にもない。統治する為の最適解に血塗られていく。

禁忌の化け物には核兵器や生物兵器などのタブーを重ねた。
社会の柱

社会の柱

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2026/02/10 (火) ~ 2026/02/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ノルウェーの小さな港町。町の名士である造船業の実業家カルステン・ベルニック(﨑山新大氏)。妻のベッティー(向井里穂子さん)、13歳の息子オーラフ(千田碧さん)。彼は進んでいた鉄道敷設計画を去年中止させたのだが実は密かに自分達で別の鉄道計画を進めている。
15年前、町に旅芸人の一座がやって来た。座長の女房は美しい花形女優。ベッティーの弟であるヨーハン(中島一茶氏)と不倫関係になり、怒った座長は妻と娘を置いて去って行った。更にヨーハンはカルステン・ベルニックの母親の金庫から大金を盗み一人でアメリカに逃げ出した。その後を追って父親違いの姉であるローナ(辻坂優宇さん)もアメリカへ。静かな田舎町を揺るがす大スキャンダル。残された座長の女房は一年後病死。カルステン・ベルニックは娘のディーナ(野仲咲智花さん)を引き取り屋敷で育てた。
そして突如、ローナとヨーハンが15年振りにこの町に帰って来る。彼等の企みは一体何なのか?

「うううひゃあああああ」と常に怯え悲鳴を上げ続ける菊川斗希氏がMVP。ベッティーの従兄弟ヒルマール役。
主人公カルステン・ベルニック役、﨑山新大(しんた)氏はちょっと綾部祐二っぽい。
もう一人の主人公である不意の来訪者ローナ役は辻坂優宇さん。
修道士のような度を越した倫理観を強要する教師レールルン役は井神崚太氏。谷原章介っぽい。
ヒロイン的役回りディーナ役は野仲咲智花さん。適役。

こんな機会でもないとイプセンなんか観ないので面白かった。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

領事というのは外国で自国民を保護する役職。ノルウェーで領事ということはデンマーク人なのか?何かそこら辺が不明。

第一幕は登場人物の説明なのだが人名が多過ぎてさっぱり判らない。居眠り客は多かった。段々何の話なのか大枠が見えて来て第二幕は面白く観れた。批判の多いらしい力ずくのハッピーエンド、これ喜劇じゃないのか?全体的にもう喜劇として組み立てればどっと受けると思う。修理を完了していない沈む船に裏切ろうとする義弟を乗せ事故死を狙う。だが彼はその船には乗らず最愛の息子が乗り込んでしまった。もうおしまいだ、全てを失ったと観念する主人公。これが俺の犯してきた罪の報いだ。だが良心の呵責に耐えかねた工場長が船の出航をすんでのところで中止。誰も死なず最悪の悲劇は免れる。主人公はこれを神の与えたラスト・チャンスと捉え群衆に全てを打ち明け懺悔する。皆がそれを温かく迎える。「真実と自由の精神こそが社会の柱なのです。」

修理していない船を無理矢理出航させようとする主人公に観客はドン引いた。
少年少女

少年少女

あわぷれ

新宿眼科画廊(東京都)

2026/02/06 (金) ~ 2026/02/10 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

深井邦彦氏は何か業界内人気が高い感じ。次から次からオファーが来て次から次からそれに応える。全ての作品に通ずる人間観、人生観は同じだ。ずっと同じ方向性の歌を歌っている。引きこもりの自殺志願者が生きていくにはどうしたらいいのか?死のうと決めた奴に届く言葉はあるのか?それは作家の自分自身への言葉なんだろう。赤の他人へのエールなんかどうとでも作れる。生成AIでも適当に与太れるだろう。だが自分自身に届く言葉はそんな安いもんじゃない。一体、どうすれば自分は生き直す気になれるのか?それともやっぱりなれないのか?

「あわぷれ=our pray(私達の祈り)」とは深井邦彦氏と演出助手の朝倉エリさんの二人ユニット。役者が絡まないのは珍しい。よっぽど二人でしか見れない光景があるのだろう。(今作は2017年にHIGHcolorsで上演した作品の一部を切り取ったものなのだろうか?)

磯部莉菜子さんは上品なイメージの役が多い気がしたが、ぽこぽこクラブの『あいつをクビにするか』ではサイコ女だった。
八頭司悠友(やとうじゆうすけ)氏の使い勝手の良さ。『反応工程』から『モモンバのくくり罠』から『少年Bが住む家』から記憶に残る存在。内面を外面に投影する技術が優れているんだろうな。

ネタバレBOX

いつもの奴はラムネ菓子なのかな。一番重要なアクションはビンタ。ガチビンタ2発で客席も慄く。自殺しようとする女と張り合う宅配便の男。不幸自慢でマウントを取り合う。男の話はガチ話なのか?それとも策略なのか?「タイプです。飲みに行きませんか?」と執拗に迫る男の恐怖。『ターミネーター3』の名台詞、「怒りは絶望に勝る」を思い出す。何故、この見ず知らずの女の自殺を止めようと思ったのか?何も出来なかった惨めな自分をそこに見たのか?それは誰にも分からない。

客席は業界人で溢れ返った。有名女優がそこらここら。一体、作家は何処へ向かうことになるのか?

The ピーズ 『残念賞』

ひねもす、馬鹿の相手
死んだ方がマシだって
やっぱそう来ると思った
そのうちでいいじゃねえか

カビの生えた頭
花咲くまで引きずって
眺めてれば生きれんだ
割と誰も咲いてんだ
人造人間の​憂鬱

人造人間の​憂鬱

糸あやつり人形「一糸座」

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2026/02/06 (金) ~ 2026/02/10 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

今作のベースとなった『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』は19世紀英国のメアリー・シェリーが二十歳の時に書いた処女作。

主演女優、一体誰か?と思えば大鶴美仁音さん。正統派アングラ。情念が濃い。那須凛さんっぽくもある。
藤吉久美子さんは松本明子の顔芸やPERSONZのJILLを思わせるド派手メイク。やるなあ。
原田大二郎氏は先月、横浜シネマリンで『橋のない川』を観たばっかりなので感慨深い。

桟敷童子から出向の稲葉能敬氏、鈴木めぐみさん、三村晃弘氏はまさかの人形遣い。恐ろしい演出家だ。

前説で登場するのが見世物団の三人。傴僂の火吹き男イゴール(土屋渚紗さん)、チューバッカみたいな毛むくじゃらの玉乗り男グリズリーハンス(眞野トウヨウ氏)、尻尾の生えた奇形少年ネリ(成田路実さん)。

開幕すると平安時代の僧・西行法師が1150年位に造った人造人間が三体現れる。(江戸伝内氏、結城民子さん、結城一糸氏)。ベムベラベロみたい。西行は死体の人骨を集め「反魂の術」で人を作ったが思ったようにいかず捨ててしまったそうだ。憂鬱を抱えたまま、この憂鬱をどうにかすべく噂に聞いた遠く西洋の人造人間のもとに赴く三体。

179☓年、スコットランドのオークニー諸島にある小屋。ヴィクター・フランケンシュタイン(原田大二郎氏)は自らが造り出した人造人間(大鶴美仁音さん)と決裂する。創造主を裏切った人造人間を許しておけない。フランケンシュタインは自らの手で抹殺することを誓いその後を追う。その同行を申し入れる日本から来た三体の人造人間。

大鶴美仁音さん演じる人造人間は髪を頭皮に沿って細かく三つ編みに編み込んでいくコーンロウ、顔はフェイスペイントで黒く汚れている。山に潜むが罠に掛かり麻酔銃を撃たれ捕らえられる。

捕らえた見世物団のウォルシュ団長(結城一糸氏)は人造人間を興行の目玉とする。残虐な団長の妻、アンナ(藤吉久美子さん)。世話をする優しい少年、ブリアン(結城まりなさん)。空気女オルガ(塩川京子さん)にイゴール、グリズリーハンス、ネリ。ブリアンは人造人間に「トモダチ」という名前を付けてあげる。ひと時の安らぎ。どんどんペイントが剝げていき人の顔に近付く。

ブリアンの語る昔何処かで聞いた話。北の果ての果てに理想の村があってそこに暮らす人々は皆心優しい。どんな人間でも受け入れてくれる。そこに行けば醜く歪んだ心が溶け出して皆誰もが優しくなれる。美しい歌が歌えるようになる。人間としての生を存分に謳歌出来る。

人造人間の醜さは原作に「黄色い皮膚は、その下にある筋肉や動脈の動きをほとんど隠すことはなく」と書かれており、『進撃の巨人』の超大型巨人のような人体模型的グロテスクらしい。見るなり恐怖するようなおぞましさ。彼の不幸は姿形が醜いことが全て。誰からも受け入れられない。誰からも好かれない。理由なく嫌悪され迫害を受ける。それによって人を憎む。そしてこんな自分を造っておいて放り出したフランケンシュタインへの恨み。
「何故造った?」
美しく可愛らしく造っていれば子犬や子猫のように愛されたのか?

人間は皆、何かに操られているような不安。自分の意思はまるで誰かの決定に従うだけのような。それが魂なのか?魂が動物を支配して自由に動かしているのか?操られている動物は不安で堪らない。俺は誰なのか?俺は俺の意思では生きられない。それを俺と言えるのか?糸あやつり人形の憂鬱。

ネタバレBOX

ウォルシュ団長は人造人間が蛇を引き千切り生き血を吸う演し物で玩具の蛇を使っていたことに激怒。見せしめとしてオルガ、イゴール、グリズリーハンス、ネリの四肢を切断して芋虫のようにする。イゴールは最後の力を振り絞り人造人間の垂らした脂汗を使って火を吐き、見世物団のテントを焼く。混乱の中、逃げ出す人造人間とブリアン。目指すは北の果ての果てだ。一年かけて盲目のラセー夫人(結城民子さん)の館に辿り着く二人。シューベルトの「野ばら」を蓄音機で聴いている夫人。美しい赤い野ばらを少年は折る。野ばらは抵抗して棘で刺す。折られた野ばらとその痛み。

一番のシーンは超巨大なオリジナル人造人間の登場。これはカッコイイ。余りの大きさにどよめく。大鶴美仁音さんの正体は彼のつがいとしてフランケンシュタインが造ったが破棄した女性だった。

見世物団を逃げ出してからが余り好きじゃない。ラストに至る主人公の見付けた目的(戦場で人を殺しまくる)も腑に落ちない。西行に造られた人造人間達も結局何がしたかったのか?何か後半はのれないまま。何かが足りない。

もしかしたら神もフランケンシュタインと同じく人間をつくってしまったことに動揺しているのかも知れない。全く思ったようにいかない。こんな筈じゃなかった。造物主に恨みを持たれても困る。そこまでの責任は負えない。そもそもつくらなければ良かったのか?
『100歳の少年と12通の手紙』『ベイビーティース』

『100歳の少年と12通の手紙』『ベイビーティース』

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2026/02/06 (金) ~ 2026/02/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『100歳の少年と12通の手紙』

白血病で入院中の10歳の少年(田村理子さん)。骨髄移植手術をするも生着不全にて打つ手がなくなる。医師(深堀啓太朗氏)は両親(八柳豪氏&荒木真有美さん)を呼び余命宣告。ショックを受けた両親は少年に会うことなく帰宅。それを隠れて盗み聞いていた少年はそんな両親の態度に深く傷付く。本音を隠し取り繕った笑顔で空虚な綺麗事ばかり並べる嘘つきの大人達にはもううんざり。唯一ボランティアで小児病棟に来ている飾らないローズさん(山本順子さん)だけが信じられた。

ローズさん役山本順子さんが最高。彼女の突飛な発想とアイディアで少年の世界の受け止め方が変わる。MVP。
主演の田村理子さんは抗がん剤の副作用で脱毛している設定。眉を剃り、髪はニット帽で隠す。高橋由美子みたいに目が大きく、くりくりしているのでそんな姿も愛らしい。
少年の恋するペギー・ブルー役は安藤春菜さん。ちょっと大島優子っぽい。

元はフランスの小説で翌年一人芝居として上演。更に作家自身が監督として映画化。日本で二人朗読劇として上演されたこともあるが今回は複数の人物が登場する舞台としての演出。少年のベッドとしてキャスター付きテーブルをあちらこちらに移動させて大活躍。三方向の客席にシーンを楽しんで貰わないといけない。可動式のドア枠もいろんな場所で様々なドアになる。

死を前にした何も信じられない少年に果たしてローズさんはどうやって人生を満喫させるのか?
想像以上に面白い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ローズさんは自称元女子プロレスラーで世界チャンピオン。世界中を旅し数々の難敵を下してきた。そのエピソードが面白い。三つ子のヴェネチアン・マスクマンとの対決では八柳豪氏、荒木真有美さん、深堀啓太朗氏が扮した。

残りの12日間を一日10年と換算して120年。10歳の少年は人生の全てを味わい尽くす。そして神様への手紙。一日一つだけのお願い。

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