沼の中の淑女たち
トム・プロジェクト
吉祥寺シアター(東京都)
2026/08/19 (水) ~ 2026/08/24 (月)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★
よく出来た脚本。最後まで観るとクラシック・ハリウッドの品格。客層がもっと若ければもっと受けたであろうネタ。自然とそれぞれのキャラのバックグラウンドが伝わるよう物語に組み込まれている工夫。
ヨントン=ヨンサントンファ=ビデオ通話。推しとオンライン対面で一対一で会話出来るイヴェント。K-POP界の特典対面イヴェントとして定番。RION(リオン)命のリオヲタおばちゃん達は久々のRIONのカムバ(アルバム・リリース活動)とその抽選特典に大興奮。当選すればリオちゃんと二人っきりで話せる!CD何枚買うべきか作戦会議に入る。
富豪の一族に生まれ、親の会社を引き継いで来た羽田美智子さん=まおまお。RION推しの仲間を無償で家に住まわせている。
息子が家を出た柴田理恵さん=オカピ。
夫に先立たれた阿知波悟美さん=あいちん。
RIONの良さを普及することに生き甲斐を感じている長尾純子さん=ちっち。
謎多き森川由樹さん=ダテマキ。
凄く深い所まで考えているコメディ。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
羽田美智子さんは未だに『RAMPO』のイメージが強い。
貪欲に笑いを求める柴田理恵さん。
MVPは阿知波(あちわ)悟美さん。細かい所から計算した動きやキャラ設定が全て笑いに繋がっている。左膝の人工関節が寿命を迎え、立ち上がるたんびに激痛。
長尾純子さんは鈴木亜美を彷彿とさせる程の可愛らしさ。
語り手であり、ある意味、主人公の森川由樹さんはコミュ障というよりも発達障害の失感情症では。「成程」。
自分の世界から裏切られ、追放されてしまった羽田美智子さん。真っ暗闇をただ呆然と過ごす。ふとしたことで知ったK-POPアイドルの笑顔に「いいな」と思う。
月を抱く人魚
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2026/08/07 (金) ~ 2026/08/23 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★
鈴木アツト氏作品だと思ってチケットを買った気がするが、脚本だけだった。
アイドル・ホラー演劇。東映とかの安いVシネっぽい。主演の岡本圭人氏は滝沢秀明みたいでカッコイイ。小柄なんだな。引き締まった肉体、美しい上半身。
ヒロイン、南沢奈央さんはショートカットがよく似合う。ショートパンツからスラリと伸びた脚。
主人公の親代わり的友人、薬丸翔氏はどこか森脇健児や山本太郎っぽい抜け具合。台詞のトチリが多くハラハラした。
彼の恋人である占い師、鈴木結里さんは若い頃の室井滋っぽい。
要所要所の複数の役を兼ねた相島一之氏は今回みのもんたっぽいかも。
主人公の父親役だが、兼ねている金魚すくい屋の時の上村聡氏は川谷拓三っぽかった。
大女優、松岡依都美さんの無駄遣いに愕然とした。
金魚すくいの演出は鈴木清順や寺山修司の映画をやりたかったんだろう。
絵画モデルの岡本圭人氏は依頼人の画家・南沢奈央さんの部屋でデッサンされつつ肉体関係を持ってしまう。南沢奈央さんは人魚画専門の画家で岡本圭人氏の背中に背びれを描いた。目が覚めると部屋は廃墟、彼女はいない。どうしても彼女ともう一度逢いたい岡本圭人氏は手掛かりを頼りに必死に捜す。
『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』
遊びをせんとや生(うま)れけむ
戯(たはぶ)れせんとや生(むま)れけん
遊ぶ子供の声聞けば
我が身さへこそ揺(ゆる)がるれ
ネタバレBOX
第二幕、松岡依都美さんの語る日本画にとっての色論が興味深く俄然面白くなる。天然の鉱物を砕いて作製する岩絵具。硫化水銀の鉱物、辰砂(しんしゃ)を砕き朱色の顔料とする。岡本圭人氏と南沢奈央さんの織り成すデッサン場面のリフレイン。互いを知り味わっていく性交のような遣り取りのデッサン風景。岡本圭人氏の肉体美は絵画モデル役としてプロフェッショナル。絵画モデルで生計を立てている33歳という役柄、20代前半の方がキャラとしても精神年齢としてもリアルなのにと思ったがこれは岡本圭人氏の実年齢だった。
装飾が上にせり上がると宮木の部屋の上に上下反転した部屋が現れる。『ウイングマン』のポドリアルスペースのような異空間の表現。
『雨月物語』の「浅茅が宿」と「青頭巾」がモチーフ。「浅茅が宿」の登場人物である勝四郎と宮木。松岡依都美さん演じる高名な日本画家、青頭金子(あおとうかねこ)=青頭巾という駄洒落。ちょっとだけ「夢応の鯉魚(りぎょ)」と「菊花の約(ちぎり)」のエッセンス。
複数の脚本家が関わった為、まとまりがつかず失敗した大作映画みたいな脚本。思いついたエピソードを脈絡無く無理矢理詰め込んだ為、夢オチ幻覚オチその場の嘘話が続く。主人公の設定も母親が失踪し、戦場カメラマンの父親に施設に預けられ、施設で(?)出会った同世代の男女が親代わりとなって世話を焼いてくれている···、といった掴み所のないもの。失踪した母親も安土桃山時代の安土城の天守閣に障壁画を描いた女流画家も何もかもが雰囲気。ムード怪談でしかない。主人公が時空も因果律も喰い破って宮木と一緒になるしかないネタ。
※今年のパブリックシアターは酷い。ちょっと関係者で話し合った方が良い。脚本の良し悪しを判断出来る人がいないのだろう。商業作品(大衆娯楽)と芸術作品、どちらのファンからもそっぽを向かれる内容が続く。
大衆娯楽小説と純文学の違いについて、かつて『作家の値うち』だったかで福田和也が論じた。「大衆娯楽小説は家の中の部屋の間取り、インテリアの配置やそのセンスを楽しむもの。純文学は家の構造そのものの是非、意味合いについて考えを巡らすもの」。(もう記憶が曖昧で全く違うかも)。演劇の場合は商業作品=有名人が出ている筋が分かりやすく作品の意図が掴めやすいもの。芸術作品=作家の思想や価値観、世界の観方に感銘衝撃を受け味わうもの。パブリックシアターはどちらも取ろうとしてどちらも取れていない。
星の王子さま
公益財団法人武蔵野文化事業団 吉祥寺シアター
吉祥寺シアター(東京都)
2026/08/14 (金) ~ 2026/08/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ステージ上手奥、上部にDTM機材があり、小西力矢氏がDJのように曲を奏でる。
操縦士の“ぼく”(新部聖子〈みなこ〉さん)はサハラ砂漠に不時着し、王子さま(端栞里さん)と出逢う。端栞里さんは金髪で雰囲気あった。会話がバックの曲に乗っかってまるで歌っているみたい。非常にセンスある狙いだが子供達に台詞は伝わらないだろう。砂漠に無数に舞い降りる折り紙の「くるくるプロペラ」が美しい。序盤と終盤にあるこのシーンが一番の目玉。
ツンデレのバラが加藤睦望さんとは意外。王子は彼女を持て余し、置いて出て行ってしまう。小鳥の模型の付いたパラソル、キックボード、自転車で宇宙を旅する。傲慢な王さまに田久保柚香さん、酒飲みに徐永行氏、点灯人に金本大樹氏。星を数えて金に換算する実業家(田久保柚香さん)の頭上に無数に書類が降り続けるシーンに沸いた。
キツネ役村山新氏は何と右脚が義足。去年の夏に失ったそうだ。道楽息子の『かぞくのわ』の時は普通だっただけに驚き。義足を全く感じさせない動きと車椅子。キツネの語る懐く感情。それがあればこの世界に心が通い血が通う。逆にそれだけしかないのかも知れない。目に見えない感情。それが人を救う。
ネタバレBOX
ヘビ役は宝保里実さん、これも意外。噛まれて死ぬことで元の星に戻る装置としての解釈か。
何度観ても(読んでも)何故王子さまがヘビに噛まれて死ぬ選択をしたのかで引っ掛かる物語。王子さまがキリストでヘビは人類に原罪を与えたもの、王子さまはその贖罪として死ぬ必要があったというのがキリスト教的解釈。
この物語に触発されていろんなことを考える。心理学者ヴィクトール・エミール・フランクルの言葉。「人生に何を期待するかではなく、人生から何を期待されているかが問題なのである」。
常に自分は問い掛けられている存在であり、最善の答えを探すことが目的。
「人間は、人生の意味が何であるかを問うてはならない。むしろ、自分が問われている者であることを自覚すべきである。」
外側でなく答えは内側にある。
目に見えない力を探せ。
頭痛肩こり樋口一葉
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/07/29 (水) ~ 2026/08/30 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★
2022年公演を2回観た凄く思い入れのある作品。幽霊花蛍役若村麻由美さんを観なくちゃいけない義務感すら感じた。公演メンバーはほぼ同じ。
主人公・樋口夏子(=樋口一葉)の明治23年(1890年)19歳から没後明治31年(1898年)までの物語。貫地谷しほりさん。
母、多喜は増子倭文江(しずえ)さん。ジャイ子や花沢さん系のアニメ声優っぽい味のある声が武器。
妹、邦子は最早こまつ座看板女優の瀬戸さおりさん。後ろでんぐり返しに「ケケケケケ」。この人はコメディエンヌなんだと思う。
樋口多喜が乳母として育てた稲葉鑛(こう)役元宝塚トップスター香寿たつきさんの歌は説得力があって胸に沁みる。美川憲一のような表情によるリアクション芸。
幼くして父を亡くした兄妹の面倒をかつて樋口家で見たことがある。父である樋口則義の同僚であった縁。その妹の方、中野八重役を熊谷真実さんから岡本玲さんへ変更。岡本玲さんは日本の演劇界を背負う気なのか?貪欲な役者。
そして会場人気No.1の幽霊花蛍役若村麻由美さん。
現実世界に失望し過ぎて興味を失い、文学という異世界でのみ生きる実感を味わう樋口夏子。過酷な境遇に追い詰められた彼女の魂は文学の宇宙で自由に飛び回り真実を叫ぶ。
一度は是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
気付かれない程度の台詞のちょっとしたミスなど、余り調子良くない回だったのかも知れない。役柄もあるのだろうが役者が疲れやつれて見えた。第二幕からぐんぐん良くなった気がする。配役の年齢差が段々気になるレヴェルに。
若村麻由美さんは流石に会場を沸かせる。増子倭文江さんと瀬戸さおりさんの感情がほとばしる対決が見事だった。声音の重要性。増子倭文江さんの「麦湯が美味しいねえ」は余韻が残る。麦湯=現在の麦茶。砂糖を沢山入れるとどんな味になるのか?
朗読劇『風が吹くとき』
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/08/08 (土) ~ 2026/08/11 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
核攻撃に対する備えとして英国政府が国民に配布したパンフレット「 Protect and Survive」=「防護と生存」=「身を守り、生き延びよう」。その無茶苦茶な内容を信じた田舎の老夫婦の話。マジで核爆弾が投下され、家の中の手作り簡易シェルターでパンフを頼りに生き延びようとするブラック・コメディ。政府believerのジムといつ何時も自分の生活ペースを揺るがされないヒルダの夫婦。ヒルダのキャラが典型的英国婆さんあるあるの笑い。日本なら核戦争の非常時に全く動じず生活を一切変えようとしない田舎の頑固な婆ちゃんネタなんだろう。
20期生が女性6名、男性3名の為、男性OB3名(立川義幸氏、斎藤大雅氏、菊川斗希氏)が参加している。
6組のジム&ヒルダ夫妻。今野貴也氏と後藤綾沙子(あさこ)さんからスタート。この二人はラストも演るのだがその時は台本を手にしていない。
鈴木桜子さん、増満尚子さん、土川葉菜さん、藤本桃子さん、藤井直美さん、音田優輔氏、園部優心氏。
ネタバレBOX
去年も観たが、今回の方が作品として仕上がっていた。セットも美術も申し分ない。だが伝わるものそのものが弱い。観せ方に工夫が必要。「戦争は怖いね」じゃなく、どうしようもなく為す術もなく選択肢もなくただ静かに死んでいくしかない連中への鎮魂歌。最期まで人間であろうとした者達への鎮魂歌。そこが弱い。
後方に映像を流し続けて現在の世界情勢とリンクさせるとかどんどん観客の不安を煽って欲しい。そんな状況で最期の最期まで“自分達”で在り続けようとした人間の闘い。死ぬ時まで自分でいられるだろうか?
ある女子大生の誘惑
絶対♡福井夏
高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)
2026/08/05 (水) ~ 2026/08/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
①「ある女子大生の誘惑」
メチャクチャ面白い。これぞ山内ケンジ氏の笑い。奥田洋平氏が最高の出来だったがアンパサンド『遠巻きに見てる』のキチガイランナーか!北原州真(くにまさ)氏はやみ・あがりシアター『ベガスペガサス』で観たばかり。味がある。いきなりの男泣きで会場の爆笑を誘った。福井夏さんは恐怖。カラコンで黒目を大きくしているのか、最早ホラー映画。蚊の鳴くような声でボソボソボソボソ喋る。誰かモデルでもいるのか、確かにこんな女実在する。ADHDサイコパスなのか、話の通じない妙な女。ああ関わらない方がよさそうだと本能が騒ぐ。
キャスティングが完璧。この3人が一つ部屋にいるだけで面白い。何かたけしが映画でたけし軍団を使う時の笑いを感じる。
マルセル・モースの「贈与論」を講義している大学教授、奥田洋平氏。出席日数も単位もレポートの評価も足りない福井夏さんは電通に内定しており、留年する訳にはいかなかった。何とかならないかと必死に頼み込む。准教授の北原州真氏は福井夏さんが色仕掛けで他の教授達を籠絡した噂を聞き警戒を促す。
ネタバレBOX
本当に古典的な話なのだが面白い。ベタに「ペディキュアを見てくれ」だとか「ふくらはぎがつったからマッサージしてくれ」だの、スカートから伸びた脚を殊更アピールしての誘惑。長机にぞんざいに足を投げ出す。それをホイホイ引き受ける奥田洋平氏のキャラも面白い。子供っぽく純真で疑いを知らないのかすっとぼけたムッツリスケベなのか。それにやきもきする北原州真氏の男泣き!
②「その夏のバックグラウンドミュージックを探す」
尾﨑優人氏がステージ前方にADのようにしゃがみ込み、四角いミニライトの光量を手の平で調節しながら演者に当てる独特の演出。スマホからBluetoothスピーカーに飛ばしてBGMを流す。3人目の演者、黒子のように。
福井夏さんと伊沢奈々さんが複数の役を高速で回しつつ喋り続けるマシンガントーク演劇。
二人の交通量調査員。
夏の最高気温を27℃にする装置を完成しそのデータを入れたUSBメモリを持ち歩く社長と腹心の部下(実は盆踊り一族)。
中3の初デートする二人。
最強の日焼け止めと虫よけスプレーを足で探し回る女。カフェーでカフェミストを注文してしまい苦しむ羽目に。
暑さが嫌で部屋に引き籠もった少年とファースト・キスの相手を探す女王蚊。
何かぼんやり観てしまった。この系の作品はなかなか嵌まらない。
木ノ下歌舞伎「心中天の網島」アクセシビリティ版
一般財団法人松本市芸術文化振興財団
吉祥寺シアター(東京都)
2026/08/05 (水) ~ 2026/08/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
何かイメージで今まで観なかった木ノ下歌舞伎。歌舞伎という時点で難解でマニアックな感じ、面倒臭そう。近松門左衛門の代表作『心中天網島』も興味なかったが、一回観ようと決めた。衝撃。もっと早くちゃんと観ておけば良かった。
舞台手話通訳の田中結夏さんは劇団銅鑼の『いのちの花』で初めて観て感銘を受けた。役に感情移入して一緒に演じながらの通訳。座・高円寺の『小さな王子さま』も良かった。今作では真っ赤なチョゴリのような袈裟を着て、ステージ中央に立ちスタート。上手や下手に動き時には涙ぐみながら手話通訳を熱演。最早出演者。
上手と下手に吊られた巨大なモニターで全台詞が投映されることが非常に大きい。耳では理解出来なかった台詞が漢字として視覚的に見るとよく分かる。意味が掴めず聞き流していた台詞一つ一つの意図を味わえる。これが常にあれば伝統芸能を観ることへの抵抗がなくなる。
アクセシビリティとは視覚聴覚障がい者が当たり前のように楽しめる観劇の場作り。それは特別なことじゃない、当たり前なんだという考え方。他者との関わり合い方に表現者が真剣に向き合うこと。他人に分かるだろうか?伝わるだろうか?作家の糸井幸之介(ゆきのすけ)氏は近松門左衛門と徹底的に向き合って「愛と死」に行き着いた。
「大慈大悲の普門品(ふもんぼん)、妙法蓮華きやう橋(京橋)を、越ゆれば至る彼の岸の、玉の台(うてな)にのりをへて、仏の姿に身をなり橋(成橋)」
どこまで向き合うか向き合えるか向き合うべきなのか、それは判らない。だが非常にその考えの方向性は愛おしい。
視覚聴覚障がい者の方の感想を聞きたい。
ネタバレBOX
『心中天網島(しんじゅう・てんのあみじま)』とは1720年10月14日夜、大阪網島の大長寺で紙屋治兵衛(じへえ)と妓婦(ぎふ)小春が心中した事件。翌日の夜、大阪住吉でこの一報を聞いた近松門左衛門、興行主が明日一日稽古、明後日から上演したいとの無茶なオファー。早駕籠に乗り大阪に向かいながら今作を書き始めた。流石に一日では無理で12月6日初演。初演から3年後、余りの社会的心中ブームに幕府は心中物の出版上演を禁じる禁止令と「男女相対死(あいたいじに)処罰令」を発布した。
原作では紙屋治兵衛28歳、小春19歳、子供は6歳の勘太郎と4歳のお末。年齢は役者の実年齢に寄せ、お末はカット。いつもおんぶの勘太郎は3歳位の設定か?
紙屋治兵衛役日髙啓介氏は愛嬌がミスターちんっぽかった。
紀の国屋小春役湯川ひなさんの美しさ。表情が浜辺美波。妹と言われても信じただろう。おっさんが風俗行ってこんな娘に当たったら人生狂う。ちょっとこの配役は卑怯。「今何時?」「親父」「イボ痔」「火事」「羊プンプン」
女房おさん役伊東沙保さんも強烈。元々は治兵衛のいとこ。熱烈に惚れた治兵衛に口説かれて一緒になった。だが仕事も幼い息子もほっぽり出して風俗に入り浸る夫。「別れてくれ」と手紙で小春に頼む。それを受け入れてくれた小春が一人自殺することを知ったおさんは夫に身請けするよう頼む。自分は身を引いてもいいと。外人から見るとこのグロテスクな美意識こそが日本人文化の謎だろう。“義理”の為に生き、“義理”の為に死ぬ。まるで純情を競い合う競技のようだ。どれだけ自分を犠牲にして美しい精神性を世に捧げられるか。マゾヒスティックでナルシシスティックな純情。
茶屋河庄の女将&おさんの母役西田夏奈子さん。ヴァイオリン本当に弾いててびっくり。
豪商太兵衛&おさんの父役大鷹明良氏。こまつ座『きらめく星座』のイメージが強すぎて悪党振りに度肝を抜かれた。
治兵衛の兄、粉屋孫右衛門役武居卓氏。義太夫節に驚いた。
太兵衛の幇間&丁稚の三五郎役緒方壮哉氏。歌の難しい節回しを担う。
つかこうへいっぽさと『銀河鉄道の夜』のメランコリー。星空を自由に駆け廻る最期の一夜。
愛と死=嗚呼、愛しい。
何で死ななきゃいけないの?多分描かれていないだけで二人共死にたかったんだろう。観ている連中も自分の中に隠し持った死の衝動が蠢いて苦しくなるんだろう。死ななくてもいいのにと思いつつ、やっとこの世からおさらばできる解放感への憧憬。
3年前から治兵衛と小春は恋仲に。25歳と16歳。丁度おさんが出産して自分よりも息子を一番に愛するようになった頃。昔、自分のことを本当に第一に考えてくれた女が今ではもうそんなんじゃない。思い知るのは自分の価値の低下とそうなった要因。その痛み苦しみ惨めさ、彼女の瞳に映る自分の醜さ。辛くて暗くていたたまれない。メチャクチャ好きだった女からのその返信はとても受け止め切れない。風俗に行って現実逃避。金を払えば最高級の良い女が自分を笑顔で迎えてくれる。自分の価値を取り戻す。俺はそんな屑じゃないと。俺はそんな惨めな存在ではないと。人間は皆自分の存在の価値を受け止めてくれるものに従う。不安で不安でたまらないから。嘘でもいいから俺の存在を肯定してくれ。全ては逃避。逃げて逃げて逃げまくる。この世界から逃げ切るにはやっぱ死ななきゃいけないのか。
ゴールデン・エイジ
劇団俳小
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2026/08/06 (木) ~ 2026/08/12 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2024年7月、チケット買っていたのに中止。俳小はこれが何度もある。今回やっと観れた。十八番のオーストラリア演劇、先住民アボリジナルの物語だと勝手に思って観ていたら全く違う。これ何の話?訳が分からない衝撃。『ミッドサマー』を思い出した。何なのかさっぱり判らないがメチャクチャ面白い。(第二幕できちんと判る仕掛け)。無茶苦茶アングラ。翻訳の佐和田敬司氏がいろいろ仕掛けたのか?この言語を丸暗記して話す役者陣にRESPECT。美術もセンスあって見事。古代ギリシアのドーリア式の折れた柱。網目状の芝生シートに鬱蒼と生い茂るリーフラティス。手作り感のある鉄柵門。スピーディーな場面転換を可能とする軽量なアイディア美術。芝生シートをこう被せて使うとは。
主演の遊佐明史氏はもう貫禄。
MVPは小飯塚貴世江さん。凄い。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
オーストラリア大陸南東部すぐ南の離島、タスマニア。1901年にオーストラリア連邦タスマニア州となる。元々、英国の流刑植民地だったオーストラリア。1830年、そこで更なる罪を重ねた再犯者や重罪人の為、タスマニア南東の半島に流刑植民地ポート・アーサーを建設。地形を利用した脱出不可能の刑務所。そんな地でも脱獄に成功した者はいた。この物語の時代は1939年、第二次世界大戦にオーストラリアが参戦し、ナチス・ドイツに宣戦布告しようとする時。
タスマニア州ホバートの名士である裕福な医師の息子で地質学者のピーター(手塚耕一郎氏)。メルボルンにて母親一人の貧しい家庭で育った橋梁工事設計者のフランシス(遊佐明史氏)。二人は親友で軍入隊の前に記念旅行へと出掛ける。タスマニア南西部の密林、1850年代に短期間だけ金鉱が掘られていた地域。偶然見付けた奇妙な死体。口の中に砂金が詰め込まれている。やって来た女(小飯塚貴世江〈こいいづかきよえ〉さん)は19世紀のかなり汚れた古いドレスを身にまとっている。逃げる女の後を追うフランシス。19世紀半ばからおよそ80年孤立して暮らして来た集団の末裔、6人との出逢い。言葉が通じない。不具者が多い。謎の儀式。このままでは一族が滅亡してしまうことから集団の長であるエア(片桐雅子さん)はこの地から離れる決断を下す。
「ハウジクは終われり」
効果的に繰り返される台詞。
「放逐(追放)は終われり」だった。
族長エア(片桐雅子さん)
闘いを愛する老人メローン(大久保たかひろ氏)
性器が奇形の為、性的不能、喋れないマック(佐京翔也氏)
ベッシェブ(小飯塚貴世江さん)
エンジェル(山崎稚葉さん)
這いずり回る一番障害が重いステフ(根本浩平氏)
医師であり文化人類学者でもあるウィリアム・アーチャー(永井誠氏)は彼等の言語を研究し彼等の歴史を推論する。ポート・アーサー脱獄に成功した者の中に先天的口蓋裂の男がいた。彼は自分の国を創ろうとした。囚人や旅芸人、鉱夫、棄民達のコミューンは近親婚を繰り返し、歪な文化を継承していく。性的不具者や舌の異常で喋れない者の誕生。口頭伝承による歴史の共有も子孫も望めなくなる。エアの判断で国に保護された彼等はニューノーフォークの精神病院内に併設された隔離所に収容される。
冒頭とラストに上演される『タウリケのイピゲネイア』。紀元前413年、古代ギリシアのエウリピデス作。米倉紀之子(きしこ)さんは黒木瞳や北川綾巴っぽい美人。屋敷の庭園に作られたステージで寄付を募る慈善活動として演劇を上演している。
山崎稚葉(わかば)さんは玉井詩織系の顔。
片桐雅子さんは歌唱指導としてよく名前を見る。今回のミステリアスな役は高野美由紀さんっぽかった。
手塚耕一郎氏は佐藤二朗に見えた。
大久保たかひろ氏は怪優。人となりが垣間見えない。
根本浩平氏はおぞましい役をやり切った。
小飯塚貴世江さんは要求度の高い難役をよくぞこなした。
俳小は良い役者抱えているのに公演が少ない。今回制作の西本さおりさんの舞台が観たい人も多い筈。
元の作品を観てみたい。今作は翻訳の過程で日本語っぽいが意味が通じない言語に変換されている。(※オリジナルではビクトリア朝時代のコックニー訛りを変形させ最初は理解出来ないが突然意味が分かるようになる言語を狙って作ったらしい)。どこか中国圏っぽい所作。劇も京劇のような動き。戦いもレスリングというよりも柔術。日本人に伝わるようにかなりアレンジした筈。忠実に映画化したら相当面白いと思う。第二幕の終盤で、第一幕に演っていたものは『リア王』のハッピーエンド・ヴァージョンだったと分かる。それを知った上でもう一度観たいと思った。(※ネイハム・テイトが『リア王』をハッピーエンドに改作した『リア王一代記』のこと。当時この改作版の方が『リア王』とされていた)。
文明社会で肉体も精神も病んでいく一族の滅亡。幸せに見えたのは外見(そとみ)だけで中身は空っぽの街。目に見えないものにこそ生きる歓びがあった。
『グレイストーク -類人猿の王者- ターザンの伝説』というクリストファー・ランバート主演の映画がある。原作通りにターザンを実写化したシリアスなもの。彼が人間社会に馴染めず苦悩する姿が丁寧に描かれ、ラストは文明に別れを告げ独り密林に帰る姿。この名作を思い出した。
伝わり辛いのはフランシス(遊佐明史氏)がベッシェブ(小飯塚貴世江さん)を真剣に愛すようになった過程と理由。そこを観客と共有させないことには片手落ち。貧しく惨めな暮らしから成り上がる為に勝負に勝つことに異常に執心。勝って勝って勝ってその先に大いなる幸福があると信じた。そんな男が無垢な彼女の魂でしか自分の奇形の自意識は救われないのだと自覚する過程。それがラストに繋がる。(※『タウリケのイピゲネイア』のイピゲネイアと弟オレステスの逃亡を二人と掛けている)。
※個人的にはラストは『道』で良かったと思う。ジェルソミーナを想って夜の浜辺で泣き崩れるザンパノ。
佐和田敬司氏がパンフにこの物語の発想の起点は作者がある研究者に聞かされた話と書く。「第二次大戦直前にタスマニア南西部の荒野にて数世代文明と孤立していた集団が発見される。だが戦時下の情報統制に遭いその事実は隠蔽された」。時期はオーストラリアがナチス・ドイツに宣戦布告する直前。ダーウィンの「進化論」の影響から「社会進化論」が生まれ、「優生学(=優生思想)」を掲げたナチス・ドイツが欧州を席巻していた。劣性人種の繁殖の制限=ホロコーストに向かう彼等を批判する立場であったオーストラリア。だが発見された集団はまるで精神障害者のよう。文明と教育がないと人間は退化するのか。これを発表することは「優生学」の正しさを肯定しかねないと考え、精神病院に隔離して黙殺。この話の真偽は不明。
現在ではインド領北センチネル島に暮らすセンチネル族が最後の未接触部族とされる。50〜200人いると推定されるが言語も歴史も未だに不明。
この夏、屋根裏から異世界へ(※行けません)
猿博打
OFF・OFFシアター(東京都)
2026/08/05 (水) ~ 2026/08/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
凄い人気。メチャクチャ面白かった。中盤までは読めるのだが、そこから先が未知の領域。アーサー・C・クラーク『幼年期の終り』を想起する程、クラクラする。今更だが脚本の笠浦静花さんは天才だな。演出は村上弦(つる)さん、分かってんな。考察系ヲタクにはビンビン来る。
是非観に行って頂きたい。
※板場充樹氏が体調不良、急遽代役でほんま。さん。それでも絶対観た方が良いよ。
ネタバレBOX
開演前に流れるのはAnmituTea Records。タルトタタンみたい。
村上弦さんはパワハラで仕事を辞め、田舎の亡くなった祖母の家を片付けに来た。物置になっていた屋根裏部屋で自分の宝物、ラノベの入った段ボール箱を探す。小学生で『ゼロの使い魔』から入信したガチガチの異世界信者。「剣と魔法」の異世界にどうにか行く方法はないか30になっても未だに妄想している。
瘴気に侵されていく大地を救う為、勇者としてパーティーに加わり、魔王征伐への旅を続ける河村凌氏。実戦では役に立たず、皆から棄てられ一人安宿の屋根裏で一夜を過ごす。そこで異世界が偶然重なる超自然現象が。
河村凌氏のRPG世界の展開は村上弦さんからすれば類型的。この手の話の流れは死ぬ程知っている。上位世界の上から目線で河村凌氏に指図。段々と不愉快になっていく河村凌氏。プレイヤーキャラクターがプレイヤーに難癖をつけるなんてと戸惑う村上弦さん。
しかし村上弦さんの上位世界から来た板場充樹氏が現れると話は変わる。村上弦さんのリアルな現実が板場充樹氏からしたら全て典型的なあるあるにしか見えない。ゲームのように次の行動を指図してくる。あれ?何これ?私は駒?
訳の分からない世界の住人ウンゲロ(板場充樹氏)。
友人はコッ(舌を鳴らす)トック。
ブー(口を尖らせ鳴らす)ボトル。
彼の世界で人気ある虚構は「スマホと労働」の異世界。村上弦さんの持つスマホに興奮する。
更に河村凌氏の世界で人気の虚構は板場充樹氏の世界。三世界でそれぞれゲームをやりつつ、プレイヤーキャラクターにアドヴァイス、更に上位世界のプレイヤーに指示されていくカオスな展開。誰もがその世界の主人公ながら全てを知るプレイヤーからアドヴァイスを貰いつつ、ヲタ友になっていく。
板場充樹氏のキャラはオジンオズボーン篠宮暁に似てる。
村上弦(ゲンだと思っていたらツルらしい)さんは客観的に自分を見れる視点があるのだろう。この話の何が面白いのかを見極めている。プレイヤーとしてもプレイヤーキャラクターとしても。夢眠ねむ系の顔。
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De-STYLE
あうるすぽっと(東京都)
2026/07/28 (火) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
西葉瑞希さんはいつ見ても役者馬鹿系の香り。作り込むキャラが面白い。
倉知玲鳳(れお)さんはチャーミング。
アンサンブルの3人が複数の役を兼任して好助演。
手塚理恵さんは良かった。
面白かった。
ネタバレBOX
東京の女子大生で代官山のカフェ店員、林鼓子さん。地元の小田原ではシングル・マザーで育ててくれた介護士の母親(手塚理恵さん)が一人暮らす。職場の主任である遠藤瑠香さん。
別れた元彼が忘れられなくて病んでいるタイミーの西葉瑞希さん。ずっと彼のインスタをチェックしてしまう。よく派遣されるコンビニでウザ絡みしてくる店員の高尾昇吾氏は柴又の煎餅屋が実家。妹の坂口渚沙さんは自立しようと一念発起、引っ越して一人暮らしを始める。そこの隣人が偶然にも西葉瑞希さん。
アパレル勤務の石井陽菜さんは失敗ばかりで毎日毎日謝ってばかり。シゴデキの後輩、日向渚さんはインフルエンサーのショップ店員、倉知玲鳳さんをフォロー。倉知玲鳳さんはSNS沼で自己承認欲求と炎上を待ち構える集団心理の病みに嵌まり悩んでいる。
魔法の言葉は「元気出た」。特に何の理由もなく元気を出す為に人は暮らす。キャラクターを操るプレイヤーとしての自分に必要なものは元気。気持ちがなくなったらどんなゲームにも入れない。意味もなく理由もなく元気を出していかなくちゃ。
遠藤瑠香さんは癌で亡くなった父からのLINEに返信しなかったことが心残り。林鼓子さんは毎朝母親が送ってくる「おはよう」LINEを既読スルーしてしまう。面倒臭いし恥ずかしい。母が交通事故に遭ってそれを後悔。伝えないといけない。元気を伝えよう。
この人間模様を一つに繋げるのは無理繰りだが作家はよくやったと思う。欲を言えば心に残る情景が欲しかった。
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ボーナスプログラム
リーディング公演『タバコの害について』
【作】アントン・チェーホフ
【演出】小川絵梨子
有名な作品だが初めて観れた。1886年、売れる前のチェーホフ26歳のユーモア戯曲。1902年に一部書き直したのか?書籍化?下総源太朗氏は綾小路きみまろの恐妻家漫談風に観客を盛り上げる。喋りはマギー司郎っぽいか?学校のパンフレットを一部1000円で叩き売り。一人の観客が「買った!」と本当に買う。(終演後、スタッフが頭を下げお金を返し引き取りに来た)。タバコの話などせずずっと妻への愚痴を並べるネタ。
『煙草のハイ(High)について-吸煙對身體有High-』
【作】鴻鴻(ホンホン)
【演出】小川絵梨子
作者はエドワード・ヤンの名作『牯嶺街少年殺人事件』の脚本家!台湾の超大物。
かんのひとみさんはいつもながらに面白い。妙なユーモアの味がある。煙草をプカプカ吹かせながら、話はあっちこっちへ飛ぶ。同じ名前の女友達の話が面白い。性格真逆、学校出て即結婚出産の子といろいろ遊んでアメリカに出産しに行った子。「どちらの子の話か分かりますよね。」中国とアメリカに挟まれた台湾人自虐ギャグも。この辺、日本人にはイマイチ感覚が掴めない中国への複雑な感情。今まで吸ってきた煙草を彼氏に擬人化した遍歴ギャグ。チェーホフへのオマージュとして、はなっから喫煙による健康被害を訴える気などさらさらない。そもそもあんた達何でこんな講演、見に来てんの?
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
リーディング公演『ナディラ』
【作】アルフィアン・サアット
【演出】小山ゆうな
小山ゆうな作品は何かどうもイマイチだったがこれは傑作。今企画、最大の収穫。きちんと作品化して広く上演すべき題材。インドとパキスタン、敵対する二国間、国境も宗教も越えて人間を描く『バジュランギおじさんと、小さな迷子』、イスラエルとパレスチナの間を右往左往するリアルな人間模様、『テルアビブ・オン・ファイア』といった傑作に連なる作品。今を生きる若きイスラム教徒から見えている世界。用語解説の紙が配られるなど難解な印象を受けるが観れば痛快。作家の世界の見方が面白い。
シンガポールのマレー系作家・アルフィアン・サアットの2010年の作品。シンガポールに元々暮らしていた住民はマレー系のイスラム教徒。そこに中華系、インド系、ユーラシアン(欧州とアジアの混血)、プラナカン(中華系かインド系とマレー系かインドネシア系の混血)が加わり多民族国家へとなっていく。現在、公用語とされる言語も英語、中国語、マレー語、タミル語の4つ。宗教も仏教、無宗教、キリスト教、イスラム教、道教、ヒンドゥー教など多種。多民族多文化共生国家なんて本当に可能なのか?
主演のナディラ役渡邊真砂珠(まさみ)さんは木村佳乃っぽい美人。大学のムスリム・ソサイエティの副代表。表情が時折、蓮舫になる。MVP。
お母さんサヒラ役は小島聖さん。声が鬼頭典子さんに似ていることに気が付いた。歌も印象的。
田中亨氏は随分痩せた印象。大学のムスリム・ソサイエティの代表役。マンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニーのファン。
ユーリック永扇(えいみ)さんはダレノガレ明美っぽい。ムスリムから無宗教に揺れ動く大学生役。
中村まこと氏は流石の味。クリスチャンの医師役。リヴァプールの熱狂的サポーター。
凄く面白い。全く異なる宗教(価値観)を信じる者達との共生へのヒント。
いずれはこの作家の特集上演など大きな流れになるであろう。日本人もこの現実から目を逸らしてはいられない。
ネタバレBOX
18世紀のフランスの哲学者、ヴォルテールの名言。「私は貴方の意見には反対だ。だが貴方がそれを主張する権利は命を掛けてでも守る。」
多種多様な価値観を更に上の次元にアウフヘーベン、高みから公平に人の権利を守ること。
(実際はヴォルテールの伝記を書いた作家の創作だそうだ)。
※鈴木邦男を思い出す。
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
リーディング公演『パッシング・バイ ー通りすがり』
【作】マーティン・シャーマン
【演出】山田由梨
ゲイであることを公言している作家の1974年の作品。1972年夏、ニューヨークの名画座で『突然炎のごとく』を観ていた二人の男性が一夜を共にする。アトリエ兼用のトービーのアパートで。トービーは画家を目指すワインショップの店員。サイモンは1968年メキシコシティ・オリンピックの飛び込み銅メダリスト。スポーツキャスターを目指してオーディションを受けている。
トービー役、長井健一氏は近藤春菜風のフェミニンさがユーモラス。清潔感がゲイっぽい。※オープンリーゲイの俳優だと後で知った。
サイモン役、森かなた氏は垣原賢人のような肉体美が健康的。
ネタバレBOX
手に持った戯曲を極力読まないで演ろうとするも台詞が飛んで慌てて戯曲を捲る場面があったりもした。リーディングでもガッチリ入れてやる、といった心意気に好感。
気になったのが肝炎になって瞳が黄色いという描写。自分の知人が肝炎になった時、白目の部分が黄色く濁った。瞳ではなかった。
凄く好きなシーンがオーディションに落ちて橋から川へと飛び込み自殺を考えたサイモンの独白。消えてしまうことだけを望む。もうどうしようもないんだ。
この二人の関係は同性愛でなくても成り立つもの。寂しがり屋の二人がふと心を寄せ合っただけの話。
自分は大島渚映画の「異常性愛路線」を長らく理解出来なかった。だが目に見えないものをスクリーンに焼き付けて伝えようと試む際、自然で普通にあり得る設定では弱すぎて足らず映らない。まず常識的にはあり得ない状況を作り出し、その上でそのタブーを踏み越える人間の気の違った情念こそが必須だった。目に見えないものを見せる為の障壁。
戦時中の俘虜収容所における看守と敵国の俘虜の同性愛感情を描いた『戦場のメリークリスマス』。
チンパンジーとシャーロット・ランプリングの恋愛を描いた『マックス、モン・アムール』。
新選組に入隊した一人の美少年のせいで隊が衆道に狂い殺気立っていく『御法度』。
結局、描きたいものは愛着だった。全てを失ってでも欲する愛着だった。
BLANKEY JET CITY 「Dynamite Pussy Cats」
知っているさ、皆ただの寂しがり屋
とっても退廃した感じのする今日この頃
分厚いメロンの皮を貼り付けたあんたのハート
言いたい事なんてこれっぽっちもありゃしない
知っているさ、皆ただの寂しがり屋
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『ラスト・ヤンキー』
【作】アーサー・ミラー
【演出】蓬莱竜太
1991年、アーサー・ミラー晩年、2005年に逝去するまでの最後の作品群の一つ。精神病院の待合室で妻を見舞いに来た二人の男の会話。実業家として成功した男(石母田史朗氏)が腰掛けていた大工の男(本折最強さとし氏)に話し掛ける。20分。
本折最強さとし氏。正統派の面構え、ナイツ土屋系統。台詞の噛みが少々。
石母田史朗氏。音響のせいなのか前半部、台詞が聴き取り辛かった。浦沢直樹の描くキャラ顔。
ネタバレBOX
1620年、英国から新天地を求めてメイフラワー号に乗り込んだ102人、通称ピルグリム・ファーザーズ。現在のマサチューセッツ州にプリマス植民地を建設した。ここから開拓が進みニューイングランド植民地群へと広がり、アメリカ建国の礎に。後に“アメリカ建国の父”(ファウンディング・ファーザーズ)と呼ばれる者達はほぼこの地域出身。
アメリカ合衆国憲法の起草者であるアレクサンダー・ハミルトン。大工の男がアメリカ人なら誰もが知るその“建国の父”の一人の子孫であることを知り、実業家は「何故大工なんかに?」的な話をしてしまう。気分を害した大工がキレておしまい。そんな価値観が俺達を狂わせていくんだと。
そこから時間を経過させた再会の第2場があると思っていたのでこれで本当に終わって驚いた。これは···。
※1993年に第二幕を書き足したヴァージョンを上演したそうだ。それでも1時間ちょっと。第二幕は二人の妻を含めた会話劇。精神を病んだ妻と夫との関係性から、アメリカ社会の病理を炙り出す。これが観たかった。
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『ロング・クリスマス・ディナー』
【作】ソーントン・ワイルダー
【演出】宮田慶子
1931年発表、否が応にも『わが町』を連想させる内容。『わが町』は1938年発表なので今作のアイディアを更に練り上げたのだろう。
中央に長いダイニングテーブル。上手に無機質なドア枠、下手に花で飾られたドア枠。
アメリカ中西部ベィアード家の90年間に渡るクリスマス・ディナーを書物をぱらぱらめくるように描く。
①ロデリック・ベィアード(前田一世氏)
妻ルシア(浅野令子さん)
ベィアード夫人(村中玲子さん)
結婚して初めて迎えるクリスマス。張り切る新妻の浅野令子さん。家長の前田一世氏は工場経営で地元の名士。義母の村中玲子さんは惚け始めていてこの土地がまだ開拓中だった幼い日の記憶を語り出す。ミシシッピー川を渡る為に筏を作ったこと。
村中玲子さんが車椅子で出て来るシーンで「これはちゃんと観なくちゃ駄目な奴だ」と思わされた。
アラスカ帰りのロデリックのいとこ、ブランドン(中山祐一朗氏)がディナーに加わる。
産まれた長男チャールズ(中西良介氏)
そして長女ジェネヴィーヴ(岡崎さつきさん)
乳母車に乗せた赤ん坊を運ぶ看護婦もしくは乳母(向井里穂子さん)
ネタバレBOX
上手のドア枠を越えると死の世界に去って行く。下手のドア枠からやって来るのが誕生。
②アルコールで体を壊していたロデリックが亡くなりチャールズが工場を継ぐ。
結婚し、妻リオノーラ(美利さん)が一家に加わる。
だが産まれた赤ちゃんはすぐに亡くなってしまう。
更にブランドン、ルシアが続けて亡くなる。
リオノーラが双子を産む。
サミュエル(佐々木優樹氏)
ルシア2世ベィアード(石川愛友さん)
その後に三男が産まれる。
ロデリック・ブランドン・ベィアード2世(森唯人氏)
チャールズのいとこ、アーメンガード(中原果南さん)を家に呼び寄せる。
軍に入隊したサミュエルは戦争で戦死。
ロデリック・ブランドン・ベィアード2世は父と揉めて家を出て行く。
ルシア2世ベィアードも結婚して家を出る。
ジェネヴィーヴはこの家での暮らしに幻滅して外国へと旅立つ。
チャールズは勘当したロデリック・ブランドン・ベィアード2世を許す手紙を書く。だが送る前に亡くなってしまう。
③リオノーラは娘、ルシア2世ベィアードの家へと去って行く。
一人残されたアーメンガードはルシア2世ベィアードからの手紙を見付ける。彼女とその息子と娘の写真。
前田一世氏は堤真一っぽい風格で神田正輝っぽくもある。
中西良介氏は品川祐っぽい。
時代が幾ら移り変わってもずっと繰り返されるものは人々の感情とその遣り取り。耐え難い苦しみを解決するものは時間だけ。他に何もない。
七面鳥を切り分け、腿肉か胸肉かを何度も尋ねる家長。ワインを注いで勧める。
今朝の牧師の説教に感動して涙が止まらなかったと言う妻。
どの小枝も氷に丸く包まれていて、こんなの見たことがないとうっとり呟く若い女性。
こんな可愛い赤ちゃん、世界で誰も見たことがない筈と浮かれる母親。
1840年からの90年と考えていいのか。サミュエルは第一次世界大戦で戦死したのか?
浅野令子さんの物語だと最後まで思わせることが不思議。この物語を始めた者に感情移入してしまうのか。
※ただ浅野令子さんのファンなだけかも。
その後、火を焚いて踊ろう
アル☆カンパニー
雑遊(東京都)
2026/07/27 (月) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
平田満氏と井上加奈子さん夫妻が主催する演劇ユニット、アル☆カンパニー。そこから派生した短編戯曲リーディング無料公演の「パタカラぷろじぇくと」 。そこで発表された三本の短編「妹の子ども」「オーストラリアの母」「盆踊りに行こう」を今回演劇として一つにまとめて上演する。
『瀬戸内の小さな蟲使い』、『グロリアストラベル』、そして今作と、野田慈伸氏の笑いのセンスは揺るがない。コンプソンズ金子鈴幸氏もそうだが、笑いに関しては敬服せざるを得ない。悔しいけれどメチャクチャ面白い。
冒頭、9歳の小学生、平田満氏の絶叫。その伯母である浅野千鶴さんの謝罪から幕開け。スイカバーのアイスの棒で作った夏休みの課題、小田原城を浅野千鶴さんが踏んで壊してしまった!平田満氏は浅野千鶴さんがわざと壊したと疑う。夏休み、祖母の家に帰省している長女と次女親子の物語。
ネタバレBOX
祖母、井上加奈子さん。次女の旦那、野田慈伸氏のことが大嫌い。家のタオルが臭いと言われたことを深く根に持っている。意地の悪い婆さんを演らせたら最高。
長女、浅野千鶴さん。結婚もせず婚活パーティーの司会をしていることで陰口を叩かれている。「アヴリル・ラヴィーンも40歳だよ」の名台詞。
次女、片桐美穂さん。すぐに母親と口論になる。おかずの名前と食べれない物についての会話がハイ・センス。
次女の旦那、野田慈伸氏。たむらけんじ、RG系と言うか町山智浩っぽく感じた。この人、天才だと思うのだが今作のラストは···。
次女の息子、平田満氏。心が病んでいる。このクラスの大御所が今作を面白いと判断して自ら演るセンスにひれ伏す。
浅野千鶴さんの知らない所で、祖母と次女と息子でオーストラリア旅行に行っていたり。家族間の微妙な不信感が面白い。何もないところから笑いを掴み出す野田慈伸氏は天才。
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『不毛ドライブ』
【作・演出】蓬莱竜太
体調も天候も悪くて一日中気が滅入る。けれど今作は面白かった!関口アナン氏は竹下景子さんの息子であることと『青春、絶望を笑う』のイカれたお笑い芸人のイメージしかなくて、特殊な役専門だと勝手に思っていた。今作はズバリの適役。職場のムカつく嫌な年下の先輩が朝5時に電話してきて家までの送迎を頼んでくる。糞、何で俺が!?居酒屋「呑兵衛ちゃん」に入って3ヶ月の濱仲太氏。8年いるヤンキーが抜け切れない偉そうな関口アナン氏。
誰もが似たような実体験があるであろうバイト先の人間関係。イライライライラしながらハンドルを握る濱仲太氏に横柄な態度の関口アナン氏は横浜に向かえと指示。え?家に帰るんじゃねえのかよ!
松本大洋の描き下ろしみたいな味。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
カーテンコールもなしに終演するとすぐ観客に退場を促す。客席の清掃と次作品の舞台美術の準備の為。とにかくスタッフはよくやっている。この企画を成功させようと一丸。RESPECT。
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『命を弄ぶ男ふたり』
【作】岸田國士
【演出】大澤遊
三上陽永氏演出、串田十二夜氏&中田春介氏ヴァージョンを観たことがある作品。話は知っているのだが顔中包帯ぐるぐる巻き男・渡邊りょう氏の解釈と喋りに驚いた。パーフェクト。渡邊りょう氏の包帯はルチャドールのマスクのようになっているのだろう、良い出来。耳まで塞いでも聴こえるように工夫されている。
眼鏡をかけた男・寺内淳志氏は田島亮っぽくてカッコイイ。涙を拭き洟をかむハンケチが重要なアイテムに。岸田國士の1925年発表の戯曲。101年前の作品とは思えない軽妙な遣り取り。少し弄っているのだろうと思ったがオリジナル通り。
『口に花を持つ男』
【作】ルイジ・ピランデルロ
【演出】大澤遊
深夜、駅近くのバー。最終電車に乗り遅れた寺内淳志氏がやって来る。先にいた渡邊りょう氏が彼の様子を窺って話し掛ける。
ルイジ・ピランデルロはイタリアのノーベル文学賞作家。1922年初演。原作では渡邊りょう氏の妻が登場するようで、そこをテキレジか?
ネタバレBOX
寺内淳志氏はイケメン狩野英孝みたいな雰囲気。渡邊りょう氏の訳の分からない長い長い独白が始まるとドリンクを飲み干したりスマホを見たりキョロキョロしたり···、居心地悪そうなその一挙手一投足がツッコミとなる。松本人志やシソンヌの長尺コントのような空気感。この二人の間の見えない関係性の変化こそが今作の醍醐味。
エピテリオーマ=悪性の腫瘍。口腔内に花のように腫瘍が咲いている。余命宣告されて死を待つのみの渡邊りょう氏。
渡邊りょう氏祭。もう感服する以外ない。この人は一体どんな役に辿り着くことになるのか?
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『チョコレート・アンダーグラウンド』
【原作】アレックス・シアラー
【脚色・演出】鈴木アツト
元は2002年にイギリスBBCの子供向け連続TVドラマ『Bootleg』として全3話で放送。それを原作者アレックス・シアラーが小説化。日本の出版社である求龍堂がタイトルを変え、『チョコレート・アンダーグラウンド』として邦訳。コミック化アニメ化『チョコレート・アンダーグラウンド~ぼくらのチョコレート戦争~』として配信&劇場公開。更にミュージカルにまでなった人気作品。健全健康党が政権を握り、「チョコレート禁止令」が発令されたディストピア社会。チョコを愛する中学3年生二人組が密造&密売で立ち向かう。
6人でこれを演るのか。一体何役を兼ねるのか数えられない程のチームワーク。開演前から客席をチョコレート警察が巡回している。
スマッジャー役國崎史人氏。松村雄基系。
ハントリー役仁木祥太郎氏。表情が時々、片岡愛之助。
バビおばさん役佐乃美千子さん。流石に美人、中学生から老婆までこなす。
チョコレート警察隊長役柳内佑介氏。古坂大魔王や坂本ちゃんっぽい。ボイパのように環境音を音マネ。
フランキー役斉藤悠氏。凄腕。どの役も薬味が効いている。
スマッジャーの母親役篠原初実さん。大忙し。
国でも企業でも知性の欠けた連中に好きにやらせておくとさっさと滅びる。マトモな奴等は相手にせず皆黙って去って行く。それが世の理。
「リンゴしゃきしゃき気分を、同志」
「オレンジじゅくじゅく気分を」
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
バビおばさんの取り調べで爪を剥がす拷問などいきなりハード・モードに。『時計じかけのオレンジ』をイメージしていたので洗脳されたスマッジャーが皆を裏切るのだろうと思っていた。
政治や法律は民衆の為のものでなくてはならないというデモクラシー精神が作品を貫く。政府や独裁者は反逆敵対する者達を刑務所に入れられるが国民全員を収容することなど出来ない。国民全員が間違っている物事に対し否を唱え立ち上がることさえ出来れば国は変えられる。
ラストは歌とダンスが必要じゃないか?
Perfumeの「チョコレイト・ディスコ」なんて欲しかった。
20の物語 -週末を、劇場で-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/07/16 (木) ~ 2026/08/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『軽塵』
【作】秋元松代
【演出】須貝英
かなり味わい深い戯曲。戦後、三好十郎の弟子となり1947年に発表した秋元松代の処女作。その後、三好十郎とは訣別する。秋元松代は横浜生まれ、父親が早世し母親が必死に家計を支えた。口先だけの社会主義にかぶれた兄達を憎悪し二十歳で家を出る。今作は三好十郎に促されて記した、「書いて置かなければ一生後悔する自分自身の核」。
昭和20年夏、空襲が毎夜繰り返される横浜。家長である猪野学氏、妹の堺小春さん、妻の横山友香さん、妻の妹である小口ふみかさん、叔父(亡父の弟)のまいど豊氏が暮らす。隣に独りで住む女学生、きし朱紗(あかしゃ)さん。小口ふみかさんは嫁いだ先で旦那と揉め、帰って来ている。堺小春さんは東京で夜学校の教師をしていたが空襲で焼け出された。
父親を14で失い、その日から家長となった猪野学氏。根津甚八っぽい風貌で表情は國村隼。
モデルとなったのは秋元松代の兄、俳人・秋元不死男。
きし朱紗さんの側転。凄く当時っぽい喋り方。『青い山脈』みたい。
秋元松代の自己を投影したであろう堺小春さん。
MVPは小口ふみかさん。オーバーアクト気味だがここまでしないと作品が盛り上がらない気もする。
空から爆弾が降り注ぐ日常。“死”がすぐ傍にある毎日。そんな状況だからこそ、人は自分の“生”と真剣に向かい合う。今、自分自身にならないと自分の人生は一生送れない。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
8世紀の唐の詩人、王維の有名な漢詩である「送元二使安西(元二〈げんじ〉の安西〈あんせい〉に使いするを送る)」。朝降った雨が細かな土埃を潤し、宿の前の柳は青々と鮮やかだ。さあもう一杯飲ってくれ。君が旅立つとここに親しい友はいなくなる。
これは現在も中国で送別の際の定番となっている詩だそうだ。これが今作のタイトルの由来。
堺小春さんと小口ふみかさんの対峙がドラマを生み、猪野学氏との互いの存在を賭けた対話がクライマックス。犠牲にした物の数を競うような生き方ではなく、誰も犠牲にさせない生き方を。
※FUCK OFF!