
髪結いの亭主
パルコ・プロデュース
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/09/28 (月) ~ 2026/10/25 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★
皆が黙って従っている世界のルールは全て嘘っぱちだ。他人の顔色を窺って行動や言動を合わせているだけの代物。仲間外れにされないように変わり者扱いされないように。いつしか自分の頭で物事を考えられなくなっていく。自分自身の心というものを感じられなくなっていく。浅井健一はそんな世界に取り込まれていく自分への違和感を「幸せの鐘が鳴り響き、その中で僕はただ悲しいふりをする」と歌った。今作の主人公も子供の頃から違和感の塊だった。皆の言っていることはおかしいと思った。幸せになりたいのに幸せに手を伸ばさない。いろんな理由いろんな理屈を付けて。主人公は自分の幸せの為に真っ直ぐ生きようとした。自分に嘘をつかない。ごまかさない。騙さない。だが世間的にはやっぱり変わり者扱い。1950年代の茨城県の話。
パトリス・ルコントの映画は観ていない。当時いろんな評論を読んで何となく観た気分になっていた。今回、観劇前に軽く粗筋をチェック。だからどこまで映画(原作)のままかは判らなかった。
(※観劇後、Amazonプライムでバーっと流し観た。やはり、かなりイメージが違う。映画は御伽話。不思議な話だったな、みたいな味わい。舞台版はもっと内向的。石黒麻衣さんの内的宇宙の私小説)。
2023年10月、40席しかないカフェムリウイ「屋上劇場」にて劇団普通の『写真』が公演された。全7公演、一時間弱の三人芝居。フライヤーに興味を持った安田章大(しょうた)氏がふらりと立ち寄り観劇し気に入る。終演後、石黒麻衣さんに挨拶し、それが今作に繋がった。髄膜腫手術の後遺症で「光過敏」を患っている彼は常にサングラスを手放せない。それが今作の役にとっていい味付けになっている。男と世間との風変わりな距離感。
安田章大氏と兄である丸山智己氏の会話はお洒落な茨城弁。客として用松亮氏が登場した時には興奮した。ファム・ファタールでありユングの説くアニマ、香月彩里(こうづきさおり)さん。ずっと主人公を眩惑し続ける。ヒロインの中村映里子さんはルックスも所作も余りにも美しすぎる。増村保造映画の色気。安田章大氏は中東ポップスのレコードを掛けてオリジナル・ベリーダンスを踊るのが大好き。ボロブドゥールの詩。
もう一回観たいがまずチケットは取れないだろう。前半の雰囲気がメチャクチャ好き。『髪結いの亭主』の舞台化を石黒麻衣さんにお願いしたい、と判断した方のセンスがMVP。(※安田章大氏の作品についての理解度はかなり高レヴェル。彼自身にも興味を持った)。
観れて有り難い。

『翔べ!原子力ロボむつ〜めぐりあい時空編』<10人版>
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2026/09/20 (日) ~ 2026/09/23 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
とてつもなく哀しい話。
こんな話ばかり描いていた手塚治虫の精神構造に今更ながら慄然とする。
こういう役を演らせると三上陽永氏は強い。
サツキ(三津谷友香さん)とミナヅキ(音喜多咲子さん)のユニゾンがMVP。「お世話お世話」。
工藤良平氏はサンボマスターっぽい。
4人版のインパクトが強いが10人版は後半の寂寞感にやられる。

遺体はまだ発見されておらず、
怪奇月蝕キヲテラエ
新宿眼科画廊(東京都)
2026/09/19 (土) ~ 2026/09/22 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
①シンママの姉の家を訪ねた弟(羽田敬之〈としゆき〉氏)。インターフォンが壊れているのか鳴らない。姉の娘(宮崎葵さん)に電話をすると郵便ポストに鍵が置いてあると教えてくれる。ポストを探ると封筒があり、その中に手紙と鍵。手紙に目を通すと表情が引き攣る。こうして7年前、15歳、高1の娘を残して姉は失踪した。
行方不明者を捜索し残された家族の相談に乗るNPO法人・支援団体が存在する。
相談員の木山りおさんと橋本結衣さん。
失踪した姉が最後に訪れた新宿の占い師、成田愛美(まなみ)さん。
②重要文化財を3Dスキャナーと3Dプリンターで複製し、可能な限り研究員が精査、制作当時のクオリティを再現するクローン文化財プロジェクト。東京藝術大学が開発、制作の指揮を執っている。本物と全く同じ素材、絵具を使い、専門職員が手作業で仕上げる拘り。高度な技術の為、外部に流出させないよう徹底的に管理されている。だが最近、江戸時代の小判が藝大内に落ちている事件が多発。鑑定の末、まずクローン文化財であろうと判断。誰が一体何の為に金や手間暇を掛けてこんな悪戯をしているのか?その目的は?
COI(センター・オブ・イノベーション)拠点職員の能見千秋氏、寺園七海さん、現役藝大院生の仮名ヱ薫さん。寺園七海さんの先輩の古物商、藤真廉さん。

授業
&企画
中野テルプシコール(東京都)
2026/09/18 (金) ~ 2026/09/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
また難解なグダグダを延々観せられるんだろうなと予想してダウナーな気分で観劇。いやこれが実に面白い。話としては今では古典的なコント。月船さららさんは唐組に出てる時のような空っぽの器。「われはでくなり つかわれて踊るなり」。空っぽの容器には何でも幾らでも無限に入る。川村毅氏を初めて役者として観て驚く。素のままで存在しているよう、演じている感じが全くない。万有引力の看板女優である森ようこさんの盟友、佐藤梟さんも素晴らしかった。全ての計算がズバリと嵌まった演出。
上演前から女中の佐藤梟さんが雑巾で黙々と床や家具の拭き掃除。呼び鈴が鳴り、新しい生徒である月船さららさんの来訪。老教授、川村毅氏の個人授業が始まる。「歯が痛い!」
是非観に行って頂きたい。

『翔べ!原子力ロボむつ〜めぐりあい時空編』<4人版>
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2026/09/15 (火) ~ 2026/09/19 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
去年8月に観た『まなざし、たゆたい、かさなって。』以来の木村慧さん。凄まじい!言語化出来ない位素晴らしいので無理してでも観に行った方が良い。かつて42人で演った芝居を4人で演るという無茶な企画。だがガッチリ成立している恐ろしさ。後半公演の10人版も観る予定だが、木村慧さんの出演はない。この4人版は押さえておいた方が良い。
内容は『火の鳥 未来編』、『望郷編』を思わせる。高レヴェル放射性廃棄物最終処分場の誘致に揺れる青森県の過疎った田舎町。必ず無害化しそれを見届けることを約束した町長の物語。
畑澤聖悟氏の芝居を初めて観たが本当に何でも出来るんだな。植本純米氏、大井靖彦氏は機械のような早替りの連続に本当にアンドロイドに見えた。木村慧さんは全身で生命を爆発させながらの表現。
是非観に行って頂きたい。

歌を歌わないように食べる昨日
クロムモリシタン
インディペンデントシアターOji(東京都)
2026/09/09 (水) ~ 2026/09/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
全く何も知らず観た。橋爪未萠里さん、土本燈子さんの名前を頼りに。今年観た笑いを追求する作品の中で一番のレヴェル。開始当初はコントの寄せ集めのように思ったが、作家の哲学や価値観に根本となる幹がある。その場の受け狙いや取り繕いではなく思考回路そのものに興味を持たせるような。適当にメチャクチャをやるのではなく、理路整然と法則に則ったメチャクチャをやっている。
森下亮氏は博多大吉の内藤陳寄せの感じ。
久保貫太郎氏は本能的に恐怖を感じた。この手の人間はマジでヤバイ人が多い。
MVPは渡邉とかげさんなんだろうな。完全に気が違っている。全く放送出来ないレヴェル。
土本燈子さんもかなりヤバイ。客を笑わせる為とかそういうベクトルのものではない。宗教的儀式?唐十郎作品に登場する腹話術人形の邪悪さ。
果敢に喰らいつく橋爪未萠里さん。
小林義典氏はさらば青春の光の森田哲矢っぽい。
花戸祐介氏は八頭司悠友氏に似ている。
一番狂っていた頃の『ごっつええ感じ』のコント、キャシィ塚本シリーズの笑いや相原コージ&竹熊健太郎の狂気系の笑いに近いのか?
是非観に行って頂きたい。

まほろば
カレンブリス
駅前劇場(東京都)
2026/09/11 (金) ~ 2026/09/13 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
子供とお婆ちゃんという飛び道具2名がMVP。演出・加藤健一氏ということで何の心配もなかったがそれでも凄い出来。子供は戸張柚(ゆず)さん11歳、小学6年生。もう子役なんかじゃない、女優だ。お婆ちゃんはもりちえさん。暴君ハバネロ。
悟り切った婆ちゃん、家を継ぐ者としての責任感を負う母、東京でキャリア・ウーマンとしてバリバリだけど結婚できない長女、父親不明のシンママで家名を汚した次女、その娘で東京で事務員として働く孫娘。更に次女が祭りの間だけ預かったという小学生の女の子。女6人の真剣勝負。
物語の中心人物、加藤忍さんはTHE女優、圧倒的。毛穴一つ一つから噴き出すような演技。大竹しのぶや原田美枝子など数々の日本の名女優の歴史の系譜を感じた。
嶋村友美さんは受けの笑いに徹し、表情がせいやのよう。
尾身美詞(みのり)さんは藤谷文子っぽかった。
もりちえさんは開場中の客入れまでやっていて始まったら置物のような老婆に。
久我音寧(ねね)さんは木﨑ゆりあっぽい。
戸張柚(ゆず)さんは役の理解度が高い。
トランプをしながらの会話シーンは戯曲指定なのか演出指定なのか?『ジン・ゲーム』で加藤健一氏が本当にゲームをしながら台詞を言うことの大変さを力説していたので敢えて狙ったのかなと思った。
嵐のように感情が吹き荒れる舞台、徐々に静まり、雲の間からうっすらと光が差す。

ギンノベースボール
ラビット番長
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2026/09/02 (水) ~ 2026/09/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
野球モノというのが一体何を描くのか分からなかったが野球が大好きで人生の要所要所に野球が絡んでいた者達による人生詩だった。自分はそこまで野球に思い入れのない人間だが古希リーグ(70歳以上の野球チームによるリーグ戦)の実在には驚いた。嘘だろ、まだやるのか?そんなイカれた爺ちゃん達の抒情詩。孫娘が呼ぶ声がする。「お爺ちゃ〜ん」。全員振り返って「は〜い」。
高齢者=シルバー=銀。
時代設定は1998年、この年に古希となると丁度高校生の時に学徒動員、学徒出陣を強制された世代。戦争で青春時代を台無しにされた者達が70過ぎてもまだ求め続けるもの。そして3年前に起きた阪神・淡路大震災。
肩が上がらなくなった井保三兎氏と認知症で徘徊癖のある江崎香澄さん夫婦。補欠だった為、行けなかった甲子園。(戦時中は選手9名しか行けなかった)。チームは剛速球投手・大川内延公氏、強打者・西川智宏氏を擁して見事に優勝を果たす。戦後、誘われて皆と一緒の草野球チームに合流、それから数十年。今年の古希リーグの決勝大会は甲子園球場で開催されることを知る。果たせなかった甲子園に行く夢が巡り巡ってもう一度。
※戦時中、1941年から1945年まで甲子園(全国高等学校野球選手権大会)は中止となった。だが1942年夏に「幻の甲子園」と呼ばれる大会が開催されている。今作はそれをモデルにしている。
チームの試合や練習終わりの行きつけ居酒屋「若竹」の店長、野崎保氏は加山雄三キャラ。
そこの新人店員、将来を嘱望された高校球児だった神﨑(こうざき)飛鳥氏は陰の主人公でもある。
福冨翔氏はコットンのきょんに似ている。長谷川景(あきら)氏にも。
西川智宏氏の素振りは文句なくカッコイイ。
MVPは江崎香澄さん。若い頃に戻ったシーンが素晴らしい。人生も人間も地続き。確かに全てが在って此処にいる。

出ニッポン酔夢譚
劇団1980
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2026/09/03 (木) ~ 2026/09/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
凄く面白い。
一体何を描こうとしているのか掴めないまま綿密に調べ抜かれたディティールに呑まれてゆく。
初めは評価の高い過去作の再演だと思っていた。原作のある戯曲なのだと。だが実は全くの新作。積極的に海外公演を打つこの劇団は2004年2008年に長期公演を行なった程ブラジルとの関わりが深い。よって現在200万人以上いる日系社会を築いたブラジル移民の物語の執筆を瀬戸口郁(かおる)氏に依頼。ブラジル取材旅行を行なう予定だったが新型コロナウイルスのパンデミックにより中止。急遽、ブラジル移民三部作のエピソード3のつもりだった『いちばん小さな町』を制作することに。「日本のブラジル」と呼ばれ人口の2割以上が日系ブラジル人移民の群馬県大泉町。移民との共生というかなり早急的現実的な社会問題がテーマ。2021年に初演され大きな評価を得た。そしていよいよ今作が三部作のエピソード1。
語り手である農民詩人に憧れる大田怜治氏。冒頭、観客に「皆さんは土が笑うのを見たことがありますか?僕はあります。確かに自分が耕した畑で紫の夕暮れに染まった土が笑っていたのです。」と語り出す。時は昭和5年、昭和農業恐慌による農家の困窮が極まり、最早最低限の生活すら出来ない人間がそこらここらに溢れた。国は国策移民事業を打ち出し、ブラジルへの移住を奨励。夢の国ブラジルで成功すれば豊かな生活が送れると。だが実際には移民ではなく棄民だった。
熊本の貧しい農村、このままでは餓死するほかはない。田畑家を潰して売り払い、なけなしの金を握り締めてブラジル移民に賭ける二家族。
光木麻美さんは『赤い殺意』の春川ますみを思わせる貫禄。存在感があり、作品に血肉を通わせる。MVP。今平映画っぽい。
上野裕子さんはいつもながらもう婆さんにしか見えない。アフタートークの司会で素顔が見れた。
寺中敬輔氏の単細胞な行動が笑いを生む。
看板俳優である神原弘之氏は中田カウスっぽい。「炭坑節」は良かった。
木之村達也氏は本多一夫氏っぽかった。
藤川一歩氏と金子由之氏の白熱する口論が作家の意図を代弁する。

善人の条件
diamond-Z
きゅりあん(品川区立総合区民会館)(東京都)
2026/09/03 (木) ~ 2026/09/05 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
北関東、三期目を務める日暮市市長が任期中に急死。対立していた市長の弟が出馬を表明。未亡人(デコウトみゆきさん)陣営は娘(竹野朱美さん)の夫であり、東京の女子大学で准教授をしている川崎拓己氏に後継候補として白羽の矢を立てる。全くその気のない川崎拓己氏をひたすら口説く陣営。市議会議長で土建屋の日向進吾氏、元高校校長で後援会長の小須田正孝氏、市議で幼稚園を経営している宮本賀奈子さん。リゾート開発の巨大な利権が絡んでおり、ここで計画が頓挫する訳にはいかない。建設会社から派遣された常務(成田奈緒子さん)は選挙戦に金を用意。金と欲に塗れた醜悪な彼等の話を聞く内に気が変わった川崎拓己氏は出馬する気になる。それはこの腐った世界を自分の力で浄化し公職選挙法に則った清く正しくクリーンな選挙戦を行なう為だった。
初日だったからか台詞の飛びやつっかえ、妙な間などトラブルも多発。前半はグルーヴ感がなく盛り上がらずじまい。清川虹子っぽいデコウトみゆきさんが何とか場の空気を維持させようと奮闘。森次晃嗣っぽい選挙ブローカー・中村利一氏が登場するとダイナミックに動き、場を盛り上げてみせる。そしてMVPである元県警捜査二課長で選挙プランナー役の永井寛孝(かんこう)氏の登場。ウエストランド井口に話し方が似ている。この人のリアルな存在感のお蔭で観客の作品への受け止め方ががらっと変わる。大雑把な政治コメディからガチで人間社会に斬り込む危険なネタだと。
筒井康隆風味のブラックな脚本が良い。この全てぶっちゃける潔さに感心した。伊丹十三作品の系譜。大林宣彦の『女ざかり』や中島貞夫の『暴力金脈』のような核心を突く鋭さ。理想に燃える主人公が現実に叩きのめされこの世の真実を味わって考え方を変えていく様。ラストが素晴らしい。

東京ブギウギと鈴木大拙
名取事務所
本多劇場(東京都)
2026/08/26 (水) ~ 2026/08/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
山田奨治氏が2015年発表した著作と鈴木大拙の米国滞在中に記した英文日記を参考資料として堤春恵さんが書き上げた戯曲。2021年の初演が小劇場B1、今回の本多劇場はちょっと広すぎる気も。
素晴らしい脚本。驚く程、金の掛かった美術。遠近感を付ける為にパースがかった窓が上下に移動して邸宅の一室を表現。左右のアーチ型窓も下りてくる。
コロニアル・スタイル(植民地様式)とは欧州諸国が植民地に祖国の様式で建物を建てたことが語源。明治時代、外国人居留地で幾つも建てられ日本の建築に大きな影響を与えた。シンメトリーな外観と大きなベランダ、アーチ型の玄関ポーチ等が特徴。
昭和13年(1938年)、京都・大谷大学で教授として働く鈴木大拙(鷲巣照織〈てるお〉氏)68歳の三階建ての屋敷。大拙の信奉者である鎌倉の古美術商・斉藤利助(吉野悠我氏)が製本化された『禅と日本文化』英文初版の書籍を届けに来訪。応対するのは住み込みの女中である“おこの”(新井純さん)。アメリカ人妻のビアトリス(もしくはベアトリス)は体調不良で東京の聖路加国際病院に入院中。息子の同志社大学生・鈴木アラン(西山聖了氏)。また早逝した甥の一家を養っていた大拙は甥の遺児の独りである鈴木民乃(森尾舞さん)を住まわせていた。
鷲巣照織氏の歩き方が禅僧のようで味がある。口の悪い新井純さんは最高、MVPか。西山聖了氏が「Get Out and Get Under the Moon」をミュージカル映画のように歌い踊り始めるシーンの演出が冴える。そこに日本語歌詞「月光価千金」でユニゾンを被せる森尾舞さん。これぞ!というシーン。西山聖了氏のキャラは伊勢谷友介や中居正広の悪戯っ子っぽさも感じた。
素晴らしい作品、この水準の作品をもっと観たい。

フタマツヅキ
インプレッション
IMM THEATER(東京都)
2026/08/21 (金) ~ 2026/08/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ずっと観たかった作品。5年越しに観れた。成程。思っていた作品とは違ったが納得のいくもの。お笑い芸人版『ロッキー』をやれば皆泣くのにそうはしない。そこが日本人独自の感性なのか。肯定も否定もなく人はただそれぞれを生きた。その事実だけ。
二間しかない市営団地。ひたすら古典落語「初天神」の練習を繰り返す落語家の父。襖越しの眠れない息子はいつしか噺を覚えてしまう程に。
初天神の日、独りで天満宮にお参りに行こうとする男に女房が息子も連れて行ってと頼む。あれ買ってこれ買ってと駄々をこねひたすらねだる息子の性格を知る男は断る。息子は絶対何も欲しがらないと約束する。渋々息子を連れて天満宮に向かう男の噺。
時は経ち、父は60代、息子は20代に。
元落語家の主人公、近藤芳正氏はダイアン津田に見えた。完璧。
甲斐甲斐しく尽くす妻、白羽ゆりさんのちょっと狂気じみた優しさ。新興宗教の信者のような。今更、半生を否定したところで。
父を憎む息子、溝口琢矢氏。落語家の父親が自慢だった。誇りだった。
彼の幼馴染でバイト先の回転寿司店のバイトリーダー、中野郁海さん。ずっと恋心をアピール。
落語の弟弟子であった加藤虎ノ介氏。この人、いろんな役で観るがかなりの実力者。
ギャラリーサワタリのオーナーで主人公のパトロン的存在、枝元萌さん。文句なし。作品内、一番重要な意味を持つ会話シーンがある。

夢去りて、オルフェ
アン・ラト(unrato)
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2026/08/21 (金) ~ 2026/08/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
朝海ひかるさんのファンは必見。彼女の魅力が今作に全て詰まっている。主人公、大石継太氏65歳だと⁉成河と役所広司を足したようなエネルギー。凄い作品であることは確か。セットが蠱惑的。燃えて廃墟となった遊園地の回転木馬。青く照らされる焼けた3頭のポニー。まるで串刺しにされたかのように死んでいるブロンズ。下手奥、時折巨大に浮かび上がる月。波の音、ひらひらと舞う焼け焦げた旗、ぼうっと浮かび上がるススキ。朝海ひかるさんの女優の業みたいな炎が背後からメラメラと立ち上る。
テーマは『許されぬ愛』。
北一輝は新潟県の佐渡島(さどがしま)に生まれた。二・二六事件とは1936年(昭和11年)2月26日に陸軍青年将校達が東京で起こしたクーデター。1919年(大正8年)に北一輝が書いた『日本改造法案大綱』が彼等の精神的支柱になったとされ、1937年(昭和12年)8月19日に処刑される。舞台の時代はその2年後、佐渡島を対岸に臨む新潟県の酔ヶ浜(すいがはま)。主人公、大石継太氏は北一輝に心酔し、今も密かに生きていると周囲に吹聴。中学校国語教師の教職を追われた彼を警察は危険人物として監視している。
冒頭、加納幸和氏が現れる。警察官だった亡き父の遺品を整理した折、手帳に記された謎の文面が気になり調査したと。『昭和14年、夏。黒い墓のように着込んだ外套の下には朝焼けに滅んだ町が隠れている。燃える馬。死体』。この作品はそれを息子である自分が調査推理したものであると。彼は新潟県出身の清水邦夫自身であろう。ばら撒かれる謎の数々。
登場人物の北一輝への偏愛からベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』をイメージさせたが、政治的にはならずつかこうへい的な屈折した愛情の物語となった。
オルフェとは死んだ妻を連れ戻しに冥界にまで行った男。結局、取り戻せない。タイトルは手に入らないものに執着する男の意味なのか?
チェーホフの『三人姉妹』が繰り返され、「タランタンパタン(?)」と踊りは続く。
是非観に行って頂きたい。

新羅生門
糸あやつり人形「一糸座」
座・高円寺1(東京都)
2026/08/21 (金) ~ 2026/08/25 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
能の謡曲『羅生門』は渡辺綱(わたなべのつな)が鬼の片腕を斬り落とす話。この改題として『新羅生門』なのだろう。自分は芥川龍之介の奴をイメージしていた。新作かと思ったら扉座の代表作の一つらしい。38年前の作品とは。
上手に義太夫。浄瑠璃の竹本越孝(こしこう)さん、三味線の鶴澤三寿々(さんすず)さん。下手に邦楽囃子方、鳴り物の望月太意三郎氏。重々しく始まるも雨夜の古びた屋敷、老婆(みょんふぁさん)に案内されて来た若者二人の格好がモロ現代。闇バイトだの裏サイトだの似つかわしくない語句が浄瑠璃で語られる落差の笑い。岡本役新原武氏は萩原流行系。三白眼が坂田亘のようにいかつい。山路役野田翔太氏は冨坂友っぽいか。一日十万円の闇バイト、他言無用の仕事。明日取り壊されるこの屋敷の床から何かを掘り出す作業。ゴロウと呼ばれるとんがり帽子を被った男が床下に潜り込んで穴を掘っている。犯罪の雰囲気がぷんぷんするが金に目を眩ませて肚を決める。

沼の中の淑女たち
トム・プロジェクト
吉祥寺シアター(東京都)
2026/08/19 (水) ~ 2026/08/24 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
よく出来た脚本。最後まで観るとクラシック・ハリウッドの品格。客層がもっと若ければもっと受けたであろうネタ。自然とそれぞれのキャラのバックグラウンドが伝わるよう物語に組み込まれている工夫。
ヨントン=ヨンサントンファ=ビデオ通話。推しとオンライン対面で一対一で会話出来るイヴェント。K-POP界の特典対面イヴェントとして定番。RION(リオン)命のリオヲタおばちゃん達は久々のRIONのカムバ(アルバム・リリース活動)とその抽選特典に大興奮。当選すればリオちゃんと二人っきりで話せる!CD何枚買うべきか作戦会議に入る。
富豪の一族に生まれ、親の会社を引き継いで来た羽田美智子さん=まおまお。RION推しの仲間を無償で家に住まわせている。
息子が家を出た柴田理恵さん=オカピ。
夫に先立たれた阿知波悟美さん=あいちん。
RIONの良さを普及することに生き甲斐を感じている長尾純子さん=ちっち。
謎多き森川由樹さん=ダテマキ。
凄く深い所まで考えているコメディ。
是非観に行って頂きたい。

月を抱く人魚
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2026/08/07 (金) ~ 2026/08/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鈴木アツト氏作品だと思ってチケットを買った気がするが、脚本だけだった。
アイドル・ホラー演劇。東映とかの安いVシネっぽい。主演の岡本圭人氏は滝沢秀明みたいでカッコイイ。小柄なんだな。引き締まった肉体、美しい上半身。
ヒロイン、南沢奈央さんはショートカットがよく似合う。ショートパンツからスラリと伸びた脚。
主人公の親代わり的友人、薬丸翔氏はどこか森脇健児や山本太郎っぽい抜け具合。台詞のトチリが多くハラハラした。
彼の恋人である占い師、鈴木結里さんは若い頃の室井滋っぽい。
要所要所の複数の役を兼ねた相島一之氏は今回みのもんたっぽいかも。
主人公の父親役だが、兼ねている金魚すくい屋の時の上村聡氏は川谷拓三っぽかった。
大女優、松岡依都美さんの無駄遣いに愕然とした。
金魚すくいの演出は鈴木清順や寺山修司の映画をやりたかったんだろう。
絵画モデルの岡本圭人氏は依頼人の画家・南沢奈央さんの部屋でデッサンされつつ肉体関係を持ってしまう。南沢奈央さんは人魚画専門の画家で岡本圭人氏の背中に背びれを描いた。目が覚めると部屋は廃墟、彼女はいない。どうしても彼女ともう一度逢いたい岡本圭人氏は手掛かりを頼りに必死に捜す。
『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』
遊びをせんとや生(うま)れけむ
戯(たはぶ)れせんとや生(むま)れけん
遊ぶ子供の声聞けば
我が身さへこそ揺(ゆる)がるれ

星の王子さま
公益財団法人武蔵野文化事業団 吉祥寺シアター
吉祥寺シアター(東京都)
2026/08/14 (金) ~ 2026/08/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ステージ上手奥、上部にDTM機材があり、小西力矢氏がDJのように曲を奏でる。
操縦士の“ぼく”(新部聖子〈みなこ〉さん)はサハラ砂漠に不時着し、王子さま(端栞里さん)と出逢う。端栞里さんは金髪で雰囲気あった。会話がバックの曲に乗っかってまるで歌っているみたい。非常にセンスある狙いだが子供達に台詞は伝わらないだろう。砂漠に無数に舞い降りる折り紙の「くるくるプロペラ」が美しい。序盤と終盤にあるこのシーンが一番の目玉。
ツンデレのバラが加藤睦望さんとは意外。王子は彼女を持て余し、置いて出て行ってしまう。小鳥の模型の付いたパラソル、キックボード、自転車で宇宙を旅する。傲慢な王さまに田久保柚香さん、酒飲みに徐永行氏、点灯人に金本大樹氏。星を数えて金に換算する実業家(田久保柚香さん)の頭上に無数に書類が降り続けるシーンに沸いた。
キツネ役村山新氏は何と右脚が義足。去年の夏に失ったそうだ。道楽息子の『かぞくのわ』の時は普通だっただけに驚き。義足を全く感じさせない動きと車椅子。キツネの語る懐く感情。それがあればこの世界に心が通い血が通う。逆にそれだけしかないのかも知れない。目に見えない感情。それが人を救う。

頭痛肩こり樋口一葉
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/07/29 (水) ~ 2026/08/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2022年公演を2回観た凄く思い入れのある作品。幽霊花蛍役若村麻由美さんを観なくちゃいけない義務感すら感じた。公演メンバーはほぼ同じ。
主人公・樋口夏子(=樋口一葉)の明治23年(1890年)19歳から没後明治31年(1898年)までの物語。貫地谷しほりさん。
母、多喜は増子倭文江(しずえ)さん。ジャイ子や花沢さん系のアニメ声優っぽい味のある声が武器。
妹、邦子は最早こまつ座看板女優の瀬戸さおりさん。後ろでんぐり返しに「ケケケケケ」。この人はコメディエンヌなんだと思う。
樋口多喜が乳母として育てた稲葉鑛(こう)役元宝塚トップスター香寿たつきさんの歌は説得力があって胸に沁みる。美川憲一のような表情によるリアクション芸。
幼くして父を亡くした兄妹の面倒をかつて樋口家で見たことがある。父である樋口則義の同僚であった縁。その妹の方、中野八重役を熊谷真実さんから岡本玲さんへ変更。岡本玲さんは日本の演劇界を背負う気なのか?貪欲な役者。
そして会場人気No.1の幽霊花蛍役若村麻由美さん。
現実世界に失望し過ぎて興味を失い、文学という異世界でのみ生きる実感を味わう樋口夏子。過酷な境遇に追い詰められた彼女の魂は文学の宇宙で自由に飛び回り真実を叫ぶ。
一度は是非観に行って頂きたい。

朗読劇『風が吹くとき』
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2026/08/08 (土) ~ 2026/08/11 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
核攻撃に対する備えとして英国政府が国民に配布したパンフレット「 Protect and Survive」=「防護と生存」=「身を守り、生き延びよう」。その無茶苦茶な内容を信じた田舎の老夫婦の話。マジで核爆弾が投下され、家の中の手作り簡易シェルターでパンフを頼りに生き延びようとするブラック・コメディ。政府believerのジムといつ何時も自分の生活ペースを揺るがされないヒルダの夫婦。ヒルダのキャラが典型的英国婆さんあるあるの笑い。日本なら核戦争の非常時に全く動じず生活を一切変えようとしない田舎の頑固な婆ちゃんネタなんだろう。
20期生が女性6名、男性3名の為、男性OB3名(立川義幸氏、斎藤大雅氏、菊川斗希氏)が参加している。
6組のジム&ヒルダ夫妻。今野貴也氏と後藤綾沙子(あさこ)さんからスタート。この二人はラストも演るのだがその時は台本を手にしていない。
鈴木桜子さん、増満尚子さん、土川葉菜さん、藤本桃子さん、藤井直美さん、音田優輔氏、園部優心氏。

ある女子大生の誘惑
絶対♡福井夏
高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)
2026/08/05 (水) ~ 2026/08/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
①「ある女子大生の誘惑」
メチャクチャ面白い。これぞ山内ケンジ氏の笑い。奥田洋平氏が最高の出来だったがアンパサンド『遠巻きに見てる』のキチガイランナーか!北原州真(くにまさ)氏はやみ・あがりシアター『ベガスペガサス』で観たばかり。味がある。いきなりの男泣きで会場の爆笑を誘った。福井夏さんは恐怖。カラコンで黒目を大きくしているのか、最早ホラー映画。蚊の鳴くような声でボソボソボソボソ喋る。誰かモデルでもいるのか、確かにこんな女実在する。ADHDサイコパスなのか、話の通じない妙な女。ああ関わらない方がよさそうだと本能が騒ぐ。
キャスティングが完璧。この3人が一つ部屋にいるだけで面白い。何かたけしが映画でたけし軍団を使う時の笑いを感じる。
マルセル・モースの「贈与論」を講義している大学教授、奥田洋平氏。出席日数も単位もレポートの評価も足りない福井夏さんは電通に内定しており、留年する訳にはいかなかった。何とかならないかと必死に頼み込む。准教授の北原州真氏は福井夏さんが色仕掛けで他の教授達を籠絡した噂を聞き警戒を促す。