ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

1-20件 / 982件中
髪結いの亭主

髪結いの亭主

パルコ・プロデュース

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2026/09/28 (月) ~ 2026/10/25 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★

皆が黙って従っている世界のルールは全て嘘っぱちだ。他人の顔色を窺って行動や言動を合わせているだけの代物。仲間外れにされないように変わり者扱いされないように。いつしか自分の頭で物事を考えられなくなっていく。自分自身の心というものを感じられなくなっていく。浅井健一はそんな世界に取り込まれていく自分への違和感を「幸せの鐘が鳴り響き、その中で僕はただ悲しいふりをする」と歌った。今作の主人公も子供の頃から違和感の塊だった。皆の言っていることはおかしいと思った。幸せになりたいのに幸せに手を伸ばさない。いろんな理由いろんな理屈を付けて。主人公は自分の幸せの為に真っ直ぐ生きようとした。自分に嘘をつかない。ごまかさない。騙さない。だが世間的にはやっぱり変わり者扱い。1950年代の茨城県の話。

パトリス・ルコントの映画は観ていない。当時いろんな評論を読んで何となく観た気分になっていた。今回、観劇前に軽く粗筋をチェック。だからどこまで映画(原作)のままかは判らなかった。
(※観劇後、Amazonプライムでバーっと流し観た。やはり、かなりイメージが違う。映画は御伽話。不思議な話だったな、みたいな味わい。舞台版はもっと内向的。石黒麻衣さんの内的宇宙の私小説)。

2023年10月、40席しかないカフェムリウイ「屋上劇場」にて劇団普通の『写真』が公演された。全7公演、一時間弱の三人芝居。フライヤーに興味を持った安田章大(しょうた)氏がふらりと立ち寄り観劇し気に入る。終演後、石黒麻衣さんに挨拶し、それが今作に繋がった。髄膜腫手術の後遺症で「光過敏」を患っている彼は常にサングラスを手放せない。それが今作の役にとっていい味付けになっている。男と世間との風変わりな距離感。

安田章大氏と兄である丸山智己氏の会話はお洒落な茨城弁。客として用松亮氏が登場した時には興奮した。ファム・ファタールでありユングの説くアニマ、香月彩里(こうづきさおり)さん。ずっと主人公を眩惑し続ける。ヒロインの中村映里子さんはルックスも所作も余りにも美しすぎる。増村保造映画の色気。安田章大氏は中東ポップスのレコードを掛けてオリジナル・ベリーダンスを踊るのが大好き。ボロブドゥールの詩。
もう一回観たいがまずチケットは取れないだろう。前半の雰囲気がメチャクチャ好き。『髪結いの亭主』の舞台化を石黒麻衣さんにお願いしたい、と判断した方のセンスがMVP。(※安田章大氏の作品についての理解度はかなり高レヴェル。彼自身にも興味を持った)。
観れて有り難い。

ネタバレBOX

基本は『髪結いの亭主』の設定や台詞を踏襲しているのだが、それでも完全なる石黒麻衣作品になっている。だから故、ラストに近づくにつれての描写に違和感はあった。中村映里子さんが客や兄夫婦の会話に反応し、ラストの行動に向けての理由付け、伏線、説明となるような描写。手紙での直接的な心情告白も取って付けたよう。こんなものに一切理由は必要ない。ただいなくなった妻とずっとクロスワードパズルを解き続ける男だけでよかった。ずっと夢に酔い痴れて生きてきた男、父親の言葉だけを頼りに。だって酔い痴れることこそが幸せだろ?

映画では幸福を失うことを怖れて幸福の絶頂で妻は自殺する。川に飛び込んで溺死。遺書も見付かる。今作では妻は失踪したとだけの情報提示。兄もそう捉えている。主人公は手紙を読んでもう妻が帰らないことを知っているが誰にも伝えない。ずっと理容室でクロスワードパズルを解き続ける。中村映里子さんは背負った過去の暗さ深さ、それに押し潰されてしまったように感じる。

石黒麻衣さんが自身の作品に落とし込む為に注ぎ込んだ情念が、彼女の作家論にまで達する面白さ。自作では表現しにくい本音がくっきり見える。

観てる間、いつしか脳裡に流れてた曲はたまの「きみしかいない」。つげ義春の『無能の人』を読んでいる時のあの感じ。こういうのが好きな人にはたまらない時間。

誰もいないから きみしかいない
誰もいないから きみがこの世でいちばん

誰もいないから きみしかいない
誰もいないから きみがこの世でいちばんぶす

誰もいないから しょうがないよ
誰もいないから ぼくらがいるのはずるいね
『翔べ!原子力ロボむつ〜めぐりあい時空編』<10人版>

『翔べ!原子力ロボむつ〜めぐりあい時空編』<10人版>

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2026/09/20 (日) ~ 2026/09/23 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

とてつもなく哀しい話。
こんな話ばかり描いていた手塚治虫の精神構造に今更ながら慄然とする。

こういう役を演らせると三上陽永氏は強い。
サツキ(三津谷友香さん)とミナヅキ(音喜多咲子さん)のユニゾンがMVP。「お世話お世話」。
工藤良平氏はサンボマスターっぽい。

4人版のインパクトが強いが10人版は後半の寂寞感にやられる。

ネタバレBOX

ロボットが死んで動かなくなった時に到頭自分の死を意識する。今まで生きている実感は彼等からもたらされていたことに気付く。

むつが何でアトムにそんなに反応したのか?太陽に突っ込んで無になることへの憧憬?原作版『ナウシカ』のオーマみたいな存在。豆腐や冷蔵庫を思わせる白い巨大な直方体。

何故むつに意識が生じたのか?結局は町長の自責から来る幻聴だったのか?核廃棄物を除染して無害にする筈が何千年経っても無理。どれだけ科学が進歩しても無理。いつかきっとそんな技術が発見されて可能になるだろうと未来に押し付ける。だが無理。全人類滅亡してもたった独り生き続け見守る覚悟を決めた町長は『火の鳥』の猿田である。何をどうやっても無理なのか?今作は解決を冷凍睡眠させ次の世代に放り投げる現実のメタファー。都合のいい解決法なんて何処にもありはしない。今ここで心底苦しんで行動を選択し吐き出す以外ない。それは後世から見れば間違った選択なのかも知れない。それも含めて背負うのだ。

※作家がここからもう一歩足を進めようとしたならば、
「ちがう!いのちは闇の中のまたたく光だ!」
「オーマ その者を闇へ帰しなさい!!」
と宮崎駿の原作版『ナウシカ』に辿り着いただろう。

自分は宮崎駿のキチガイっぷりに魅せられた口。左翼的理想を追い求めた末に全て嘘っぱちだと暴力的に破壊。正しいとか間違っているとかそんなこたァもうどうだっていい。自分の生きてきた感じてきた経験してきた世界こそが全て、それだけが実存。今更、天から救世主が降臨して来たところで跪けるか!遅すぎるんだよ、引き摺り下ろしてやる!俺達の培った痛みや苦しみこそがREALだ。そいつと向き合った日々こそが全て。原作版『ナウシカ』はそんな人間宣言のようなメチャクチャなラストだった。盟友、高畑勲も遺作は『かぐや姫の物語』。「生きている手応えさえあれば、きっと幸せになれた」。
遺体はまだ発見されておらず、

遺体はまだ発見されておらず、

怪奇月蝕キヲテラエ

新宿眼科画廊(東京都)

2026/09/19 (土) ~ 2026/09/22 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

①シンママの姉の家を訪ねた弟(羽田敬之〈としゆき〉氏)。インターフォンが壊れているのか鳴らない。姉の娘(宮崎葵さん)に電話をすると郵便ポストに鍵が置いてあると教えてくれる。ポストを探ると封筒があり、その中に手紙と鍵。手紙に目を通すと表情が引き攣る。こうして7年前、15歳、高1の娘を残して姉は失踪した。

行方不明者を捜索し残された家族の相談に乗るNPO法人・支援団体が存在する。
相談員の木山りおさんと橋本結衣さん。
失踪した姉が最後に訪れた新宿の占い師、成田愛美(まなみ)さん。

②重要文化財を3Dスキャナーと3Dプリンターで複製し、可能な限り研究員が精査、制作当時のクオリティを再現するクローン文化財プロジェクト。東京藝術大学が開発、制作の指揮を執っている。本物と全く同じ素材、絵具を使い、専門職員が手作業で仕上げる拘り。高度な技術の為、外部に流出させないよう徹底的に管理されている。だが最近、江戸時代の小判が藝大内に落ちている事件が多発。鑑定の末、まずクローン文化財であろうと判断。誰が一体何の為に金や手間暇を掛けてこんな悪戯をしているのか?その目的は?

COI(センター・オブ・イノベーション)拠点職員の能見千秋氏、寺園七海さん、現役藝大院生の仮名ヱ薫さん。寺園七海さんの先輩の古物商、藤真廉さん。

ネタバレBOX

③NPO法人で働く相談員のストレス。

①羽田敬之氏は細く脚が長くナルシシスティックで雰囲気がある。すぐにカッとなるキャラもいい。この叔父に心を許せず、ずっと醒めた目で距離を置き観察している姪であった方が話になる。すぐに出された情報を鵜呑みにして信用してしまうのも早い。ずっと穿っていた方が客も混乱していく。叔父も占い師も母親も相談員も全く信用出来ない迷宮の中へ。橋本結衣さんは薄幸そうなまゆゆみたいで味があった。

②藤真廉さんは主人公顔。『ビブリア古書堂の事件手帖』みたいにホームズものにすればいい。

③が蛇足でエピローグとしての意味がない。それぞれの話の着眼点は見事だが展開するダイナミックさが足りない。①は何故、母の手紙の存在を叔父が隠し続けていたのかが肝。そこがミステリー。失踪せざるを得ない程の借金を抱えた母の家に借金取りが接触しないのも変。警察沙汰になっているのだからある程度、捜査はされて事実関係が明るみになっているだろう。借金など失踪する明確な理由が全く見付からない方が話としては面白い。②はここまで優秀な人間がクローン文化財の技術を用いて海外の貨幣を偽造する意味が解らない。もっとどうしても作りたかったクローンが必須。タブーに触れるようなとんでもないクローンを作ろうとして消された方が面白い。

作家が誠実そうで好感。物凄く真面目に調べ上げている。それだけに勿体ない。客をどういう気分にさせたいのか詰めないと。
授業

授業

&企画

中野テルプシコール(東京都)

2026/09/18 (金) ~ 2026/09/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

また難解なグダグダを延々観せられるんだろうなと予想してダウナーな気分で観劇。いやこれが実に面白い。話としては今では古典的なコント。月船さららさんは唐組に出てる時のような空っぽの器。「われはでくなり つかわれて踊るなり」。空っぽの容器には何でも幾らでも無限に入る。川村毅氏を初めて役者として観て驚く。素のままで存在しているよう、演じている感じが全くない。万有引力の看板女優である森ようこさんの盟友、佐藤梟さんも素晴らしかった。全ての計算がズバリと嵌まった演出。

上演前から女中の佐藤梟さんが雑巾で黙々と床や家具の拭き掃除。呼び鈴が鳴り、新しい生徒である月船さららさんの来訪。老教授、川村毅氏の個人授業が始まる。「歯が痛い!」

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

自分は筒井康隆にメチャクチャ影響を受けて生きてきた人間なのだがいろんなことに合点がいった。成程、小説としてではなく戯曲として(舞台をイメージして)作品を書いていたのか。舞台フォーマットを体感しないと理解出来ない感覚がある。

いつか月船さららさんと森ようこさんの対バンなんか観れるのかも知れないとの期待。

テルプシコールの持つ雰囲気はまるで精神病院の隔離病棟のよう。

多分元々は性的サディズムをかなり匂わせた戯曲なんだろう。優生思想と全体主義が性的快楽に結び付く瞬間を捉えた刹那。
『翔べ!原子力ロボむつ〜めぐりあい時空編』<4人版>

『翔べ!原子力ロボむつ〜めぐりあい時空編』<4人版>

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2026/09/15 (火) ~ 2026/09/19 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

去年8月に観た『まなざし、たゆたい、かさなって。』以来の木村慧さん。凄まじい!言語化出来ない位素晴らしいので無理してでも観に行った方が良い。かつて42人で演った芝居を4人で演るという無茶な企画。だがガッチリ成立している恐ろしさ。後半公演の10人版も観る予定だが、木村慧さんの出演はない。この4人版は押さえておいた方が良い。

内容は『火の鳥 未来編』、『望郷編』を思わせる。高レヴェル放射性廃棄物最終処分場の誘致に揺れる青森県の過疎った田舎町。必ず無害化しそれを見届けることを約束した町長の物語。

畑澤聖悟氏の芝居を初めて観たが本当に何でも出来るんだな。植本純米氏、大井靖彦氏は機械のような早替りの連続に本当にアンドロイドに見えた。木村慧さんは全身で生命を爆発させながらの表現。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

『インターステラー』の壮大さと『火の鳥 復活編』のロビタの流転も。
歌を歌わないように食べる昨日

歌を歌わないように食べる昨日

クロムモリシタン

インディペンデントシアターOji(東京都)

2026/09/09 (水) ~ 2026/09/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

全く何も知らず観た。橋爪未萠里さん、土本燈子さんの名前を頼りに。今年観た笑いを追求する作品の中で一番のレヴェル。開始当初はコントの寄せ集めのように思ったが、作家の哲学や価値観に根本となる幹がある。その場の受け狙いや取り繕いではなく思考回路そのものに興味を持たせるような。適当にメチャクチャをやるのではなく、理路整然と法則に則ったメチャクチャをやっている。

森下亮氏は博多大吉の内藤陳寄せの感じ。
久保貫太郎氏は本能的に恐怖を感じた。この手の人間はマジでヤバイ人が多い。
MVPは渡邉とかげさんなんだろうな。完全に気が違っている。全く放送出来ないレヴェル。
土本燈子さんもかなりヤバイ。客を笑わせる為とかそういうベクトルのものではない。宗教的儀式?唐十郎作品に登場する腹話術人形の邪悪さ。
果敢に喰らいつく橋爪未萠里さん。
小林義典氏はさらば青春の光の森田哲矢っぽい。
花戸祐介氏は八頭司悠友氏に似ている。

一番狂っていた頃の『ごっつええ感じ』のコント、キャシィ塚本シリーズの笑いや相原コージ&竹熊健太郎の狂気系の笑いに近いのか?
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ロマン・ポランスキー主演の『記憶の扉』のようなシーンから開幕。森下亮氏が刑事・久保貫太郎氏に取り調べを受け、昨夜の行動について確認されている。「昨日は小劇場で芝居を観ました。」「どんな内容だった?」「途中で寝てしまったのでよく覚えていません。」「それじゃアリバイにならないだろう。途中まで観ていたんならそこまでの内容を言える筈だ。」「男が刑事に尋問されていたような。」「それで?」「特に何もなく暗転していくんです。特に何の意味もなく。」そんな会話から舞台が暗転していく。

小林義典氏の撮っている自主(?)映画。未来からやって来た男の話。主演の花戸祐介氏は納得がいってない。脚本を1ページずつしか読ませてくれないのだ。どういう話か判らない。監督が席を外している内に台に置かれていた脚本を最後まで読んでしまう。それを知った監督はこれから脚本を全部書き換えると言う。ある筈だった未来を変えてしまう行為こそ世界改変と同じだと花戸氏は指摘する。

小学校教師である渡邉とかげさんはかなりのADHD生徒、土本燈子さんに絵日記を書かせている。もっとダークで暗くハードで辛いモノをと要求。土本燈子さんは教え通り、とんでもないものを書き始める。『20世紀少年』の“よげんの書”のように。

突然の道路陥没事故で行方不明となったトラック運転手、森下亮氏。その妻、渡邉とかげさんは世間から心配されているがその実、嬉しくてたまらない。同じマンションに住む橋爪未萠里さんは何か情報を掴もうと善意のお手伝いとして彼女の家に潜入する。エア卵焼きを二人で作って踊る。

小林義典氏と花戸祐介氏の撮影現場に森下亮氏が現れる。記憶喪失で自分が誰かまるで判らない。監督は彼のドキュメンタリーを撮ろうと決める。奥さんとの感動の再会が見せ場だ。

どうも森下亮氏は妻である渡邉とかげさんを未来で殺すことになるらしい。その罪で捕まることに。もろフィリップ・K・ディックの『マイノリティ・リポート(少数報告)』。

「未来も過去もあるが今だけがここにない。一番重要な今だけがないんだ。」作家の叫び。

渡邉とかげさんの頭の中に住む土本燈子さんが書いた絵日記帳。未来、読むドラッグとして戦場に送られる兵隊の洗脳教育に使われるらしい。それを阻止しようと土本燈子さんの命を狙う者達。未来の戦争を止める為に。土本燈子さんの書く内容を薄めれば徴兵検査に落ちる程度の狂気の発症で済むことを知り、これで無事戦争は止められた!狂気は戦場で虐殺を繰り広げもするが、徴兵忌避にも使えるのだ!

途中、夢野久作『ドグラ・マグラ』や寺山修司を強く感じた。令和風にトランスレーションされた正統派アングラなのかも知れない。そこに日本的郷愁や戦前の田舎の村の風習などを振り掛ければ寺山修司になりそう。狐の面、モンペ、セーラー服、唱歌、柱時計、白塗り学生服、戸籍簿、遊女、軍人、紅い着物、鬼ごっこ···。
まほろば

まほろば

カレンブリス

駅前劇場(東京都)

2026/09/11 (金) ~ 2026/09/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

子供とお婆ちゃんという飛び道具2名がMVP。演出・加藤健一氏ということで何の心配もなかったがそれでも凄い出来。子供は戸張柚(ゆず)さん11歳、小学6年生。もう子役なんかじゃない、女優だ。お婆ちゃんはもりちえさん。暴君ハバネロ。
悟り切った婆ちゃん、家を継ぐ者としての責任感を負う母、東京でキャリア・ウーマンとしてバリバリだけど結婚できない長女、父親不明のシンママで家名を汚した次女、その娘で東京で事務員として働く孫娘。更に次女が祭りの間だけ預かったという小学生の女の子。女6人の真剣勝負。

物語の中心人物、加藤忍さんはTHE女優、圧倒的。毛穴一つ一つから噴き出すような演技。大竹しのぶや原田美枝子など数々の日本の名女優の歴史の系譜を感じた。
嶋村友美さんは受けの笑いに徹し、表情がせいやのよう。
尾身美詞(みのり)さんは藤谷文子っぽかった。
もりちえさんは開場中の客入れまでやっていて始まったら置物のような老婆に。
久我音寧(ねね)さんは木﨑ゆりあっぽい。
戸張柚(ゆず)さんは役の理解度が高い。

トランプをしながらの会話シーンは戯曲指定なのか演出指定なのか?『ジン・ゲーム』で加藤健一氏が本当にゲームをしながら台詞を言うことの大変さを力説していたので敢えて狙ったのかなと思った。

嵐のように感情が吹き荒れる舞台、徐々に静まり、雲の間からうっすらと光が差す。

ネタバレBOX

母親は適齢期を過ぎた長女に結婚し旦那を迎え家を継いで貰いたい。代々続いた家を守り次の世代に無事譲り渡すことこそが自分の使命だと信じている。
長女は生理がなくなり閉経したと思い、もう女ではなくなったと落ち込む。だがまさかの妊娠を知って悩む。好きでもない男との子供を産んで育てるのか?それは違うだろう。子供の為に相手を好きになろうと努めるのか?それも違うだろう。じゃあどうすりゃいい?
次女は新しい現在の恋愛について考えている。気の多い自分はすぐに騙され体を許してしまう人生だった。結果、父親の判らない未婚の母となる。連れ子を持つ今の彼氏と一緒になることが正解なのか、それは正しくないことなのか。正しさの基準が解らない。自分の欲望と正しさとの間で混乱。
次女の娘は東京で妻子ある男と不倫し妊娠した。彼の事を本当に好きだから彼の家庭を壊したくない。連絡を絶って帰郷した。彼の子供を産みたいと思っている。でもそれが何故なのか言語化出来ない。
次女の交際相手の娘は全てが見えている。何もかもが見通せる。それは当事者ではなく他人事だからかも。自分の欲望を持っていないからどんな結果になろうとも構わない。まるで天使のような立ち位置。
婆ちゃんはもうどうでもいい。皆が楽しく暮らせれば最早どうでもいい。

まほろばとは素晴らしく住みやすい場所を意味する古語。この地は古来より女の神様が治めていて、土も水も綺麗で子供が沢山育つ地。よって女の神様の機嫌を損ねないよう奉納祭りは男だけで行なうしきたり。ラストに妊娠している長女と孫娘の胎児が反応し、小学生の女の子が初潮を迎える。まるで神話のように。

この話の引っ掛かる部分はSEXしたことも覚えていない酒乱の長女の人間性。恋人がいるのに会社の上司を家に上げ抱かれる。妊娠したことを知り、好きでもない男との結婚やその男の子供を出産することへの抵抗感、精神的葛藤。だがここで産まないともう二度と出産の機会はないかも知れないと心は揺れる。御神輿と共に訪れる不意の胎動に出産を決めるであろうラスト。わざと作家はこういう嫌なシチュエーションを作ったのだろう。愛だの恋だのではなく出産という女性の持つ特別な権利について考えさせる為の物語だと思う。だからこそそこをすんなり受け入れられない人々もいる。自意識を超えた天啓。その全てを呑み込んで作家はタイトルに『まほろば』と付けた。ここがまほろばだと。
ギンノベースボール

ギンノベースボール

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2026/09/02 (水) ~ 2026/09/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

野球モノというのが一体何を描くのか分からなかったが野球が大好きで人生の要所要所に野球が絡んでいた者達による人生詩だった。自分はそこまで野球に思い入れのない人間だが古希リーグ(70歳以上の野球チームによるリーグ戦)の実在には驚いた。嘘だろ、まだやるのか?そんなイカれた爺ちゃん達の抒情詩。孫娘が呼ぶ声がする。「お爺ちゃ〜ん」。全員振り返って「は〜い」。
高齢者=シルバー=銀。

時代設定は1998年、この年に古希となると丁度高校生の時に学徒動員、学徒出陣を強制された世代。戦争で青春時代を台無しにされた者達が70過ぎてもまだ求め続けるもの。そして3年前に起きた阪神・淡路大震災。

肩が上がらなくなった井保三兎氏と認知症で徘徊癖のある江崎香澄さん夫婦。補欠だった為、行けなかった甲子園。(戦時中は選手9名しか行けなかった)。チームは剛速球投手・大川内延公氏、強打者・西川智宏氏を擁して見事に優勝を果たす。戦後、誘われて皆と一緒の草野球チームに合流、それから数十年。今年の古希リーグの決勝大会は甲子園球場で開催されることを知る。果たせなかった甲子園に行く夢が巡り巡ってもう一度。
※戦時中、1941年から1945年まで甲子園(全国高等学校野球選手権大会)は中止となった。だが1942年夏に「幻の甲子園」と呼ばれる大会が開催されている。今作はそれをモデルにしている。

チームの試合や練習終わりの行きつけ居酒屋「若竹」の店長、野崎保氏は加山雄三キャラ。
そこの新人店員、将来を嘱望された高校球児だった神﨑(こうざき)飛鳥氏は陰の主人公でもある。
福冨翔氏はコットンのきょんに似ている。長谷川景(あきら)氏にも。
西川智宏氏の素振りは文句なくカッコイイ。
MVPは江崎香澄さん。若い頃に戻ったシーンが素晴らしい。人生も人間も地続き。確かに全てが在って此処にいる。

ネタバレBOX

元プロ棋士でチームの監督を務める松沢英明氏による惚けて亡くなった母親の述懐が胸を打つ。子供達を女手一つで育て上げた気丈な母、嫁姑争いにも決して弱味を見せなかった母。認知症の進行と共に汚してしまった下着を手にオロオロと嫁に頭を下げるその姿。

クライマックス、老けメイクを外し、若き日々に戻る面々。若返った老人達が話だけで聞いていたエピソードを生き生きと再現してみせる。そしてそのままの姿で地区大会決勝の球場に話は戻る。マウンドで投球動作に入った井保三兎氏の胸に去来する溢れんばかりの激情。胸いっぱいの人生。全てを肯定してやる!

※鯉の巾着が妙に気になった。
※B.B.クィーンズ「君にコケコッコー!」
出ニッポン酔夢譚

出ニッポン酔夢譚

劇団1980

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2026/09/03 (木) ~ 2026/09/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

凄く面白い。
一体何を描こうとしているのか掴めないまま綿密に調べ抜かれたディティールに呑まれてゆく。

初めは評価の高い過去作の再演だと思っていた。原作のある戯曲なのだと。だが実は全くの新作。積極的に海外公演を打つこの劇団は2004年2008年に長期公演を行なった程ブラジルとの関わりが深い。よって現在200万人以上いる日系社会を築いたブラジル移民の物語の執筆を瀬戸口郁(かおる)氏に依頼。ブラジル取材旅行を行なう予定だったが新型コロナウイルスのパンデミックにより中止。急遽、ブラジル移民三部作のエピソード3のつもりだった『いちばん小さな町』を制作することに。「日本のブラジル」と呼ばれ人口の2割以上が日系ブラジル人移民の群馬県大泉町。移民との共生というかなり早急的現実的な社会問題がテーマ。2021年に初演され大きな評価を得た。そしていよいよ今作が三部作のエピソード1。

語り手である農民詩人に憧れる大田怜治氏。冒頭、観客に「皆さんは土が笑うのを見たことがありますか?僕はあります。確かに自分が耕した畑で紫の夕暮れに染まった土が笑っていたのです。」と語り出す。時は昭和5年、昭和農業恐慌による農家の困窮が極まり、最早最低限の生活すら出来ない人間がそこらここらに溢れた。国は国策移民事業を打ち出し、ブラジルへの移住を奨励。夢の国ブラジルで成功すれば豊かな生活が送れると。だが実際には移民ではなく棄民だった。

熊本の貧しい農村、このままでは餓死するほかはない。田畑家を潰して売り払い、なけなしの金を握り締めてブラジル移民に賭ける二家族。

光木麻美さんは『赤い殺意』の春川ますみを思わせる貫禄。存在感があり、作品に血肉を通わせる。MVP。今平映画っぽい。
上野裕子さんはいつもながらもう婆さんにしか見えない。アフタートークの司会で素顔が見れた。
寺中敬輔氏の単細胞な行動が笑いを生む。
看板俳優である神原弘之氏は中田カウスっぽい。「炭坑節」は良かった。
木之村達也氏は本多一夫氏っぽかった。
藤川一歩氏と金子由之氏の白熱する口論が作家の意図を代弁する。

ネタバレBOX

ブラジルに移民した男の一代記かと思いきや、神戸国立移民収容所での一週間の生活のみ、出航の場面で終わり。随分マニアックな脚本。三部作構想で続くエピソード2でブラジルでの生活を描く予定だそうだ。こんな話、まず見ない。逆に高く評価されると思う。(ラストの辺りの展開が雑で勿体ないと思ったが)。

酔夢とは酔っ払って見る夢のこと。例え、たかが夢だったとしてもそれを見てる時の気持ちの良さ。あの時の気持ちがまだ残っているから生きていける。逆に過酷な悲惨な毎日に押し潰されようともそれも同じく夢に過ぎない。酔っ払って生き延びよう。何十年も経てば全てが夢。遠い昔になってく。最後に残るのはふるさとか。自分の心のふるさとはどこだろう?

神、そらに知ろしめす。
すべて世は事も無し。
善人の条件

善人の条件

diamond-Z

きゅりあん(品川区立総合区民会館)(東京都)

2026/09/03 (木) ~ 2026/09/05 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

北関東、三期目を務める日暮市市長が任期中に急死。対立していた市長の弟が出馬を表明。未亡人(デコウトみゆきさん)陣営は娘(竹野朱美さん)の夫であり、東京の女子大学で准教授をしている川崎拓己氏に後継候補として白羽の矢を立てる。全くその気のない川崎拓己氏をひたすら口説く陣営。市議会議長で土建屋の日向進吾氏、元高校校長で後援会長の小須田正孝氏、市議で幼稚園を経営している宮本賀奈子さん。リゾート開発の巨大な利権が絡んでおり、ここで計画が頓挫する訳にはいかない。建設会社から派遣された常務(成田奈緒子さん)は選挙戦に金を用意。金と欲に塗れた醜悪な彼等の話を聞く内に気が変わった川崎拓己氏は出馬する気になる。それはこの腐った世界を自分の力で浄化し公職選挙法に則った清く正しくクリーンな選挙戦を行なう為だった。

初日だったからか台詞の飛びやつっかえ、妙な間などトラブルも多発。前半はグルーヴ感がなく盛り上がらずじまい。清川虹子っぽいデコウトみゆきさんが何とか場の空気を維持させようと奮闘。森次晃嗣っぽい選挙ブローカー・中村利一氏が登場するとダイナミックに動き、場を盛り上げてみせる。そしてMVPである元県警捜査二課長で選挙プランナー役の永井寛孝(かんこう)氏の登場。ウエストランド井口に話し方が似ている。この人のリアルな存在感のお蔭で観客の作品への受け止め方ががらっと変わる。大雑把な政治コメディからガチで人間社会に斬り込む危険なネタだと。

筒井康隆風味のブラックな脚本が良い。この全てぶっちゃける潔さに感心した。伊丹十三作品の系譜。大林宣彦の『女ざかり』や中島貞夫の『暴力金脈』のような核心を突く鋭さ。理想に燃える主人公が現実に叩きのめされこの世の真実を味わって考え方を変えていく様。ラストが素晴らしい。

ネタバレBOX

大山倍達に「力なき正義は無力なり。正義なき力は暴力なり。」という言葉がある。選挙戦にルールを守って正しく戦ったとしても負けたら何もならない。選挙に勝ってこそ世の中を変える力を手にすることが出来るのだ。本当に世の中を正しく変えたいと思うなら、まずは勝つことだ。力を手にしてから正義を為せ。こういう論法から人は勝つことが“目的”となる。選挙に勝つことは“手段”であり、そもそもの“目的”ではなかった筈なのに。“目的”と“手段”はいつのまにかにすり替えられてしまう。気付いた時は全てが遅い。

「金ではない選挙なんてあるか!」
日向進吾氏のヤクザ面が段々滲み出て来て後半は皆ぶっちゃけていく面白さ。
小須田正孝氏は序盤かなり台詞が出ず、ヒヤヒヤした。中盤から安定。

ラストは中島みゆき『有謬(うびゅう)の者共』でキメる。川崎拓己氏の叫び。
「間違えてもニンゲン 間違えてもニンゲン
 間違うのがニンゲン 誰かがまだニンゲン」
東京ブギウギと鈴木大拙

東京ブギウギと鈴木大拙

名取事務所

本多劇場(東京都)

2026/08/26 (水) ~ 2026/08/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

山田奨治氏が2015年発表した著作と鈴木大拙の米国滞在中に記した英文日記を参考資料として堤春恵さんが書き上げた戯曲。2021年の初演が小劇場B1、今回の本多劇場はちょっと広すぎる気も。
素晴らしい脚本。驚く程、金の掛かった美術。遠近感を付ける為にパースがかった窓が上下に移動して邸宅の一室を表現。左右のアーチ型窓も下りてくる。
コロニアル・スタイル(植民地様式)とは欧州諸国が植民地に祖国の様式で建物を建てたことが語源。明治時代、外国人居留地で幾つも建てられ日本の建築に大きな影響を与えた。シンメトリーな外観と大きなベランダ、アーチ型の玄関ポーチ等が特徴。

昭和13年(1938年)、京都・大谷大学で教授として働く鈴木大拙(鷲巣照織〈てるお〉氏)68歳の三階建ての屋敷。大拙の信奉者である鎌倉の古美術商・斉藤利助(吉野悠我氏)が製本化された『禅と日本文化』英文初版の書籍を届けに来訪。応対するのは住み込みの女中である“おこの”(新井純さん)。アメリカ人妻のビアトリス(もしくはベアトリス)は体調不良で東京の聖路加国際病院に入院中。息子の同志社大学生・鈴木アラン(西山聖了氏)。また早逝した甥の一家を養っていた大拙は甥の遺児の独りである鈴木民乃(森尾舞さん)を住まわせていた。

鷲巣照織氏の歩き方が禅僧のようで味がある。口の悪い新井純さんは最高、MVPか。西山聖了氏が「Get Out and Get Under the Moon」をミュージカル映画のように歌い踊り始めるシーンの演出が冴える。そこに日本語歌詞「月光価千金」でユニゾンを被せる森尾舞さん。これぞ!というシーン。西山聖了氏のキャラは伊勢谷友介や中居正広の悪戯っ子っぽさも感じた。

素晴らしい作品、この水準の作品をもっと観たい。

ネタバレBOX

この物語の語り手である鈴木民乃のモデルは『大叔父 鈴木大拙からの手紙』を著した林田久美野。入院中のビアトリスはこの翌年亡くなる。

結婚に反対されたことに腹を立てたアラン、日米学生会議で自分がスピーチした内容を大拙が『禅と日本文化』で剽窃していると疑義を呈す。

親猫が子猫の首根っこを咥えて運ぶ様子を鈴木大拙は浄土真宗の「他力」とだぶらせた。その逸話を踏まえての猫の話なのだろう。登場しない猫達のエピソードが物語を支える。

第二場は昭和23年(1948年)、神奈川県鎌倉の臨済宗円覚寺派大本山である円覚寺塔頭の正伝庵に住まいを移した鈴木大拙78歳。アランと池真理子との結婚式に円覚寺を借りるなど尽力した。大ヒット曲「東京ブギウギ」の作詞家として人生絶頂期のアラン。だが親子はその「東京ブギウギ」の歌詞についてさえ争うことに。

鈴木大拙の養子であったアラン。後継者として育てたつもりがアル中の放蕩無頼、結婚離婚を繰り返し、到頭暴行監禁した未成年女性が逃げようと飛び降り自殺未遂のスキャンダル。社会的生命を絶たれた。

それでも民乃にとってのアランは最後まで憎めない青年だった。どうしようもない駄目な奴の筈なのに何か心の何処か奥底に綺麗な純粋なものを抱えたような、そんな男だったのだ。

今作に物足りなさがあるとするならば、猫達の物語と大拙の説いた禅思想の魅力についてだろう。世界中が夢中になる程、禅の概念は人間の意識の在り方を突いた。「直指人心(じきしにんしん) 見性成仏(けんしょうじょうぶつ)」=外部から情報を求めるのではなく、自身の内部から答えを導き出せ。悩み苦しむ者達に自分自身の心と向き合うしかないと説いた。そこに他人は介在しない。あと二つ位、盛り上がるシーンがあれば圧倒的作品になっただろう。

※鈴木大拙(だいせつ)と西田幾多郎(きたろう)は同じ年(1870年)に石川県に生まれ、金沢の第四高等中学校予科で同級生となる。以来、西田幾多郎が先に亡くなるまで60年近く生涯の親友として過ごした。世界で最も評価されている日本人仏教学者であり、禅の思想を英語で国際的に広めた功績者、鈴木大拙。日本人による初の近代哲学書を世界に発信した西田幾多郎。西洋哲学と東洋の禅や仏教思想の融合を試みた。この二人の行き着いた地平は同じなのではないか。

西田哲学。「主客未分(しゅきゃくみぶん)」。自分が月を見ている時、人間は見ている自分(主観)と見られている月(客観)を分けて考える。だが動物のようにただそこにいるだけだと仮定すると、体験するものは只の一つ。世界だ。全ては風景として存在する。それを「純粋経験」と呼ぶ。自意識がフィルターを掛けて邪魔をしているだけでそれを取り払えば世界は只の一つ。分け隔てるものはない。更に西田はこの世に実在するのは意識だけだと説く。全ての意識は「宇宙」の神経の一つだと。「宇宙」は一つの生命体であり、皆は一つの原理を完成させようとしている存在であると。「宇宙」を構成する一つとして取るべき行動を取ることこそが善。「自由即必然」。在るべき自分を知り、在るべき自分になっていく。それは欲望も義務感も超越した境地。自意識を全て捨てて無になった時、そこに流れ込んでくるものこそ「真の自己」。

鈴木大拙の説いた「即非の論理」=自分は自分ではないが故に自分である。「公案」=論理では解けない無理難題。自分なんてものはこの世の何処にもいないのだという気付き=悟り。

結局、仏教は無我を説く。自分なんてものはそもそもが誤解。生きていく上で脳が拵えたその場凌ぎの幻想シミュレーター。実は何処にもない。そのことを知り、感じた時にいろんな執着が軽くなりふっと楽になれるのだろう。
フタマツヅキ

フタマツヅキ

インプレッション

IMM THEATER(東京都)

2026/08/21 (金) ~ 2026/08/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ずっと観たかった作品。5年越しに観れた。成程。思っていた作品とは違ったが納得のいくもの。お笑い芸人版『ロッキー』をやれば皆泣くのにそうはしない。そこが日本人独自の感性なのか。肯定も否定もなく人はただそれぞれを生きた。その事実だけ。

二間しかない市営団地。ひたすら古典落語「初天神」の練習を繰り返す落語家の父。襖越しの眠れない息子はいつしか噺を覚えてしまう程に。
初天神の日、独りで天満宮にお参りに行こうとする男に女房が息子も連れて行ってと頼む。あれ買ってこれ買ってと駄々をこねひたすらねだる息子の性格を知る男は断る。息子は絶対何も欲しがらないと約束する。渋々息子を連れて天満宮に向かう男の噺。
時は経ち、父は60代、息子は20代に。

元落語家の主人公、近藤芳正氏はダイアン津田に見えた。完璧。
甲斐甲斐しく尽くす妻、白羽ゆりさんのちょっと狂気じみた優しさ。新興宗教の信者のような。今更、半生を否定したところで。
父を憎む息子、溝口琢矢氏。落語家の父親が自慢だった。誇りだった。
彼の幼馴染でバイト先の回転寿司店のバイトリーダー、中野郁海さん。ずっと恋心をアピール。
落語の弟弟子であった加藤虎ノ介氏。この人、いろんな役で観るがかなりの実力者。
ギャラリーサワタリのオーナーで主人公のパトロン的存在、枝元萌さん。文句なし。作品内、一番重要な意味を持つ会話シーンがある。

ネタバレBOX

若き日の母親、佐久間麻由さん。生きる理由をパートナーに求める依存症的性格。古来より日本の駄目男の理想的存在であるが、大抵どちらも地獄行き。
若き日の主人公、辰巳雄大氏。「ソラシド」の本坊元児を感じた。売れない芸人は女をナンパして食わして貰うのが生命線。その位荒んでいる。何の根拠もない自分の才能への自信だけが頼り。

近藤芳正氏と辰巳雄大氏がお金を受け取る際、左、右、中央の順に手刀(てがたな)を切る所作。癖なのか判らないがこれによって二人が同一人物であると観客が勘付くようにしている。

お笑い芸人の夢のような設定。全く売れないピン芸人(漫談師)が劇場のあるビルの屋上で自殺しようとしている女に声を掛ける。良かったら俺のネタ観に来てくれよ。何となく女は観に行く。どうしようもない漫談だったが女は彼の熱烈なファンとなり応援していくことに。金も人気も未来もない自称芸人がファンと付き合い生活の面倒を見て貰う情けない日々。到頭女は妊娠し正式に籍を入れることに。出演する場もなくなり四十過ぎて落語家に弟子入り。それも巧くいかず中堅「二ツ目」止まり、持ちネタは「初天神」だけで廃業状態。劇場のあったビルのオーナーに名前だけの管理人として雇われ、泊まり込み小遣いを貰って暮らす日々。息子は父親を憎んで育った。母親に食わせて貰うだけのクズ父。クライマックス前、父親に投げ掛けるオーナーの言葉がこの物語の肝だ。あんたが駄目になったのは彼女に食わせて貰ってからよ。生活の安心、逃げ道を得てから芸に殺気がなくなった。ギリギリの笑いが消えた。舞台に立っている瞬間しか存在のない追い詰められた人間にしか持てない色気が。生活の安定の為に自分は芸人として持つ唯一の武器を失ったのか?今更の夫婦喧嘩。俺の芸人人生が終わったのはお前のせいだ!母も泣く。だったらどうすれば良かったのよ!出逢い結婚し子を儲けた全ての日々の否定。だが否定しても現実はここに依然としてある。父子二人でやる落語。襖越しの母は笑う。笑って全てを正着にしていくしかないじゃないか。

ラストは積み重ねた家族の歴史を全否定し、その上で全肯定しようとする荒業。互いの存在を一生分かり合えないであろう父子が絶望した母の為に襖越しに一席ぶつ。一体何の為に?いや何の為でもない。強いて言えば共有した時間の為か?共有した長い長い無駄な時間。何の意味もない無駄な時間。すらすらと口から流れ出す台詞。家族落語の結晶、一粒の泪。

やりたいことをやるとは何か?夢を追うとは何か?どうしようもない自分自身を現在を現実をそのまま受け入れるしかない。誰も何も選択出来ない。でも誰にも明かせない本当の気持ちだけが自分を自分で居させてくれる。本当の気持ちだけが。
夢去りて、オルフェ

夢去りて、オルフェ

アン・ラト(unrato)

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2026/08/21 (金) ~ 2026/08/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

朝海ひかるさんのファンは必見。彼女の魅力が今作に全て詰まっている。主人公、大石継太氏65歳だと⁉成河と役所広司を足したようなエネルギー。凄い作品であることは確か。セットが蠱惑的。燃えて廃墟となった遊園地の回転木馬。青く照らされる焼けた3頭のポニー。まるで串刺しにされたかのように死んでいるブロンズ。下手奥、時折巨大に浮かび上がる月。波の音、ひらひらと舞う焼け焦げた旗、ぼうっと浮かび上がるススキ。朝海ひかるさんの女優の業みたいな炎が背後からメラメラと立ち上る。
テーマは『許されぬ愛』。

北一輝は新潟県の佐渡島(さどがしま)に生まれた。二・二六事件とは1936年(昭和11年)2月26日に陸軍青年将校達が東京で起こしたクーデター。1919年(大正8年)に北一輝が書いた『日本改造法案大綱』が彼等の精神的支柱になったとされ、1937年(昭和12年)8月19日に処刑される。舞台の時代はその2年後、佐渡島を対岸に臨む新潟県の酔ヶ浜(すいがはま)。主人公、大石継太氏は北一輝に心酔し、今も密かに生きていると周囲に吹聴。中学校国語教師の教職を追われた彼を警察は危険人物として監視している。

冒頭、加納幸和氏が現れる。警察官だった亡き父の遺品を整理した折、手帳に記された謎の文面が気になり調査したと。『昭和14年、夏。黒い墓のように着込んだ外套の下には朝焼けに滅んだ町が隠れている。燃える馬。死体』。この作品はそれを息子である自分が調査推理したものであると。彼は新潟県出身の清水邦夫自身であろう。ばら撒かれる謎の数々。

登場人物の北一輝への偏愛からベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』をイメージさせたが、政治的にはならずつかこうへい的な屈折した愛情の物語となった。

オルフェとは死んだ妻を連れ戻しに冥界にまで行った男。結局、取り戻せない。タイトルは手に入らないものに執着する男の意味なのか?

チェーホフの『三人姉妹』が繰り返され、「タランタンパタン(?)」と踊りは続く。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

加納幸和氏は野坂昭如を強く感じた。
舞羽美海(まいはねみみ)さんは美人過ぎる。
佐奈宏紀氏のファンが多かったと思う。山本耕史っぽくてカッコイイがちょっとふっくらし過ぎか。226をだぶらせる物語なだけに鬼気迫る青年将校の亡霊に徹した方がよかった。
平体まひろさんが出るとは知らず、ささっと登場した時には驚いた。見事に朝海ひかるさんと対峙。後半のキャラ設計には慄いた。
辞めた敬愛する教師を捜す中学生達のキャラ設定も練りに練ってある。まさかの功夫シーンも。

※大石継太氏がもて過ぎ。連れ子同士の再婚で出逢った妹との秘めた恋。妹に惚れた親友の恋路を遠回しに邪魔をする。恨んだ親友は妹と北一輝の関係を邪推させて復讐。北一輝が処刑されたその日に遊園地の回転木馬に放火する大石継太氏。北一輝に父親を感じて陶酔していたがお前の思想なんか矛盾だらけのその場の取り繕い、全く評価に値しない。だが大好きだった!また末の妹と結婚した夫が、彼女の大石継太氏への愛情を知り彼を酷く憎むことになる。

※自分の誤解かも知れないが最後の遣り取りで主人公は末の妹も愛していて、朝海ひかるさんがショックを受けたのだと捉えた。

※ぽっぺん(ビードロ)の音を初めて聴いた気がする。
新羅生門

新羅生門

糸あやつり人形「一糸座」

座・高円寺1(東京都)

2026/08/21 (金) ~ 2026/08/25 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

能の謡曲『羅生門』は渡辺綱(わたなべのつな)が鬼の片腕を斬り落とす話。この改題として『新羅生門』なのだろう。自分は芥川龍之介の奴をイメージしていた。新作かと思ったら扉座の代表作の一つらしい。38年前の作品とは。

上手に義太夫。浄瑠璃の竹本越孝(こしこう)さん、三味線の鶴澤三寿々(さんすず)さん。下手に邦楽囃子方、鳴り物の望月太意三郎氏。重々しく始まるも雨夜の古びた屋敷、老婆(みょんふぁさん)に案内されて来た若者二人の格好がモロ現代。闇バイトだの裏サイトだの似つかわしくない語句が浄瑠璃で語られる落差の笑い。岡本役新原武氏は萩原流行系。三白眼が坂田亘のようにいかつい。山路役野田翔太氏は冨坂友っぽいか。一日十万円の闇バイト、他言無用の仕事。明日取り壊されるこの屋敷の床から何かを掘り出す作業。ゴロウと呼ばれるとんがり帽子を被った男が床下に潜り込んで穴を掘っている。犯罪の雰囲気がぷんぷんするが金に目を眩ませて肚を決める。

ネタバレBOX

みょんふぁさん演ずるお婆さんが最高。まあ自分がファンな訳だが。ずっと腰を曲げていて大変。江戸伝内氏が遣う糸あやつり人形、彼女の息子である鬼のゴロウ。かつて殺した桃太郎達の骨を掘り返し、別の場所に埋め変えて供養しようとする。(桃太郎一行以外の骨は金太郎と一寸法師と姫の頭蓋骨か?)そこに現れる鬼ハンターの渡辺綱(結城一糸氏)、更に死んだ筈の御伽噺の一行達が甦る。彼等は日本人の集合的無意識が生み出した存在であり、何度でも血肉を与えられる幻想なのだ。

掘り出した大小のしゃれこうべを並べる時の義太夫節に「クロムハーツ」の単語を混ぜるセンス。一寸法師の表現に手持ちミラーのような小型ストロボ。犬を操る人形遣いは桟敷童子の鈴木めぐみさん!凄い所までのめり込んでいる。縁が全てのこの世界。

野田翔太氏は好物のつまみであるグリーン豆で暴れるゴロウの撃退に成功する。突然そこで何故、鬼を人は憎むのか?という討論が始まる。面白くなるのは彼がマイケル・ジャクソンを模して踊り歌いながらこの世の理を説くシーンから。凄く筋の通った話をコミカルに伝えていく。トランプ、習近平、プーチン、ネタニヤフ···、役者は揃っている。

ジャンボマックスのような超巨大な糸あやつり人形の鬼が登場。ド迫力。『人造人間の憂鬱』の改造版か。みょんふぁさんの自害で下から噴き上げる血潮吹雪。

ラストは中島みゆきの「狼になりたい」。
泉谷しげるの「眠れない夜」も効果的に使われる。いや名曲だな。
皆が思考停止して捲し立てる正義に疑問を感じ、同調圧力と集団心理の構図に待ったを掛ける。これじゃ関東大震災の朝鮮人虐殺、日中戦争の大陸侵略と同じじゃないか。だが大衆心理は全く聞く耳を持たない。それならば俺も鬼の側になろうとデビルマンのように怒りに打ち震えるが結局の所、鬼になれる訳でもない。正義と悪は相対的なものであってこの世界の構造の枠組みでしかないと知る。俺達は生きている限りどうあってもこの構造からは逃れられない。全てが馬鹿らしくなった時代のはみ出し者達は世の中を茶化して笑い飛ばし奴等にとっ捕まらないよう逃げ続けるしかない。奴等に同調せず本当の事を叫び続けてやる。そうして今日まで生き延びた!
沼の中の淑女たち

沼の中の淑女たち

トム・プロジェクト

吉祥寺シアター(東京都)

2026/08/19 (水) ~ 2026/08/24 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

よく出来た脚本。最後まで観るとクラシック・ハリウッドの品格。客層がもっと若ければもっと受けたであろうネタ。自然とそれぞれのキャラのバックグラウンドが伝わるよう物語に組み込まれている工夫。

ヨントン=ヨンサントンファ=ビデオ通話。推しとオンライン対面で一対一で会話出来るイヴェント。K-POP界の特典対面イヴェントとして定番。RION(リオン)命のリオヲタおばちゃん達は久々のRIONのカムバ(アルバム・リリース活動)とその抽選特典に大興奮。当選すればリオちゃんと二人っきりで話せる!CD何枚買うべきか作戦会議に入る。
富豪の一族に生まれ、親の会社を引き継いで来た羽田美智子さん=まおまお。RION推しの仲間を無償で家に住まわせている。
息子が家を出た柴田理恵さん=オカピ。
夫に先立たれた阿知波悟美さん=あいちん。
RIONの良さを普及することに生き甲斐を感じている長尾純子さん=ちっち。
謎多き森川由樹さん=ダテマキ。

凄く深い所まで考えているコメディ。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

羽田美智子さんは未だに『RAMPO』のイメージが強い。
貪欲に笑いを求める柴田理恵さん。
MVPは阿知波(あちわ)悟美さん。細かい所から計算した動きやキャラ設定が全て笑いに繋がっている。左膝の人工関節が寿命を迎え、立ち上がるたんびに激痛。
長尾純子さんは鈴木亜美を彷彿とさせる程の可愛らしさ。
語り手であり、ある意味、主人公の森川由樹さんはコミュ障というよりも発達障害の失感情症では。「成程」。

自分の世界から裏切られ、追放されてしまった羽田美智子さん。真っ暗闇をただ呆然と過ごす。ふとしたことで知ったK-POPアイドルの笑顔に「いいな」と思う。
月を抱く人魚

月を抱く人魚

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2026/08/07 (金) ~ 2026/08/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鈴木アツト氏作品だと思ってチケットを買った気がするが、脚本だけだった。

アイドル・ホラー演劇。東映とかの安いVシネっぽい。主演の岡本圭人氏は滝沢秀明みたいでカッコイイ。小柄なんだな。引き締まった肉体、美しい上半身。
ヒロイン、南沢奈央さんはショートカットがよく似合う。ショートパンツからスラリと伸びた脚。
主人公の親代わり的友人、薬丸翔氏はどこか森脇健児や山本太郎っぽい抜け具合。台詞のトチリが多くハラハラした。
彼の恋人である占い師、鈴木結里さんは若い頃の室井滋っぽい。
要所要所の複数の役を兼ねた相島一之氏は今回みのもんたっぽいかも。
主人公の父親役だが、兼ねている金魚すくい屋の時の上村聡氏は川谷拓三っぽかった。
大女優、松岡依都美さんの無駄遣いに愕然とした。

金魚すくいの演出は鈴木清順や寺山修司の映画をやりたかったんだろう。

絵画モデルの岡本圭人氏は依頼人の画家・南沢奈央さんの部屋でデッサンされつつ肉体関係を持ってしまう。南沢奈央さんは人魚画専門の画家で岡本圭人氏の背中に背びれを描いた。目が覚めると部屋は廃墟、彼女はいない。どうしても彼女ともう一度逢いたい岡本圭人氏は手掛かりを頼りに必死に捜す。

『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』
遊びをせんとや生(うま)れけむ
戯(たはぶ)れせんとや生(むま)れけん
遊ぶ子供の声聞けば 
我が身さへこそ揺(ゆる)がるれ

ネタバレBOX

第二幕、松岡依都美さんの語る日本画にとっての色論が興味深く俄然面白くなる。天然の鉱物を砕いて作製する岩絵具。硫化水銀の鉱物、辰砂(しんしゃ)を砕き朱色の顔料とする。岡本圭人氏と南沢奈央さんの織り成すデッサン場面のリフレイン。互いを知り味わっていく性交のような遣り取りのデッサン風景。岡本圭人氏の肉体美は絵画モデル役としてプロフェッショナル。絵画モデルで生計を立てている33歳という役柄、20代前半の方がキャラとしても精神年齢としてもリアルなのにと思ったがこれは岡本圭人氏の実年齢だった。

装飾が上にせり上がると宮木の部屋の上に上下反転した部屋が現れる。『ウイングマン』のポドリアルスペースのような異空間の表現。

『雨月物語』の「浅茅が宿」と「青頭巾」がモチーフ。「浅茅が宿」の登場人物である勝四郎と宮木。松岡依都美さん演じる高名な日本画家、青頭金子(あおとうかねこ)=青頭巾という駄洒落。ちょっとだけ「夢応の鯉魚(りぎょ)」と「菊花の約(ちぎり)」のエッセンス。

複数の脚本家が関わった為、まとまりがつかず失敗した大作映画みたいな脚本。思いついたエピソードを脈絡無く無理矢理詰め込んだ為、夢オチ幻覚オチその場の嘘話が続く。主人公の設定も母親が失踪し、戦場カメラマンの父親に施設に預けられ、施設で(?)出会った同世代の男女が親代わりとなって世話を焼いてくれている···、といった掴み所のないもの。失踪した母親も安土桃山時代の安土城の天守閣に障壁画を描いた女流画家も何もかもが雰囲気。ムード怪談でしかない。主人公が時空も因果律も喰い破って宮木と一緒になるしかないネタ。

※今年のパブリックシアターは酷い。ちょっと関係者で話し合った方が良い。脚本の良し悪しを判断出来る人がいないのだろう。商業作品(大衆娯楽)と芸術作品、どちらのファンからもそっぽを向かれる内容が続く。
大衆娯楽小説と純文学の違いについて、かつて『作家の値うち』だったかで福田和也が論じた。「大衆娯楽小説は家の中の部屋の間取り、インテリアの配置やそのセンスを楽しむもの。純文学は家の構造そのものの是非、意味合いについて考えを巡らすもの」。(もう記憶が曖昧で全く違うかも)。演劇の場合は商業作品=有名人が出ている筋が分かりやすく作品の意図が掴めやすいもの。芸術作品=作家の思想や価値観、世界の観方に感銘衝撃を受け味わうもの。パブリックシアターはどちらも取ろうとしてどちらも取れていない。
星の王子さま

星の王子さま

公益財団法人武蔵野文化事業団 吉祥寺シアター

吉祥寺シアター(東京都)

2026/08/14 (金) ~ 2026/08/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ステージ上手奥、上部にDTM機材があり、小西力矢氏がDJのように曲を奏でる。

操縦士の“ぼく”(新部聖子〈みなこ〉さん)はサハラ砂漠に不時着し、王子さま(端栞里さん)と出逢う。端栞里さんは金髪で雰囲気あった。会話がバックの曲に乗っかってまるで歌っているみたい。非常にセンスある狙いだが子供達に台詞は伝わらないだろう。砂漠に無数に舞い降りる折り紙の「くるくるプロペラ」が美しい。序盤と終盤にあるこのシーンが一番の目玉。

ツンデレのバラが加藤睦望さんとは意外。王子は彼女を持て余し、置いて出て行ってしまう。小鳥の模型の付いたパラソル、キックボード、自転車で宇宙を旅する。傲慢な王さまに田久保柚香さん、酒飲みに徐永行氏、点灯人に金本大樹氏。星を数えて金に換算する実業家(田久保柚香さん)の頭上に無数に書類が降り続けるシーンに沸いた。

キツネ役村山新氏は何と右脚が義足。去年の夏に失ったそうだ。道楽息子の『かぞくのわ』の時は普通だっただけに驚き。義足を全く感じさせない動きと車椅子。キツネの語る懐く感情。それがあればこの世界に心が通い血が通う。逆にそれだけしかないのかも知れない。目に見えない感情。それが人を救う。

ネタバレBOX

ヘビ役は宝保里実さん、これも意外。噛まれて死ぬことで元の星に戻る装置としての解釈か。

何度観ても(読んでも)何故王子さまがヘビに噛まれて死ぬ選択をしたのかで引っ掛かる物語。王子さまがキリストでヘビは人類に原罪を与えたもの、王子さまはその贖罪として死ぬ必要があったというのがキリスト教的解釈。

この物語に触発されていろんなことを考える。心理学者ヴィクトール・エミール・フランクルの言葉。「人生に何を期待するかではなく、人生から何を期待されているかが問題なのである」。
常に自分は問い掛けられている存在であり、最善の答えを探すことが目的。
「人間は、人生の意味が何であるかを問うてはならない。むしろ、自分が問われている者であることを自覚すべきである。」
外側でなく答えは内側にある。
目に見えない力を探せ。
頭痛肩こり樋口一葉

頭痛肩こり樋口一葉

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2026/07/29 (水) ~ 2026/08/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2022年公演を2回観た凄く思い入れのある作品。幽霊花蛍役若村麻由美さんを観なくちゃいけない義務感すら感じた。公演メンバーはほぼ同じ。

主人公・樋口夏子(=樋口一葉)の明治23年(1890年)19歳から没後明治31年(1898年)までの物語。貫地谷しほりさん。
母、多喜は増子倭文江(しずえ)さん。ジャイ子や花沢さん系のアニメ声優っぽい味のある声が武器。
妹、邦子は最早こまつ座看板女優の瀬戸さおりさん。後ろでんぐり返しに「ケケケケケ」。この人はコメディエンヌなんだと思う。

樋口多喜が乳母として育てた稲葉鑛(こう)役元宝塚トップスター香寿たつきさんの歌は説得力があって胸に沁みる。美川憲一のような表情によるリアクション芸。

幼くして父を亡くした兄妹の面倒をかつて樋口家で見たことがある。父である樋口則義の同僚であった縁。その妹の方、中野八重役を熊谷真実さんから岡本玲さんへ変更。岡本玲さんは日本の演劇界を背負う気なのか?貪欲な役者。

そして会場人気No.1の幽霊花蛍役若村麻由美さん。

現実世界に失望し過ぎて興味を失い、文学という異世界でのみ生きる実感を味わう樋口夏子。過酷な境遇に追い詰められた彼女の魂は文学の宇宙で自由に飛び回り真実を叫ぶ。
一度は是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

気付かれない程度の台詞のちょっとしたミスなど、余り調子良くない回だったのかも知れない。役柄もあるのだろうが役者が疲れやつれて見えた。第二幕からぐんぐん良くなった気がする。配役の年齢差が段々気になるレヴェルに。

若村麻由美さんは流石に会場を沸かせる。増子倭文江さんと瀬戸さおりさんの感情がほとばしる対決が見事だった。声音の重要性。増子倭文江さんの「麦湯が美味しいねえ」は余韻が残る。麦湯=現在の麦茶。砂糖を沢山入れるとどんな味になるのか?
朗読劇『風が吹くとき』

朗読劇『風が吹くとき』

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2026/08/08 (土) ~ 2026/08/11 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

核攻撃に対する備えとして英国政府が国民に配布したパンフレット「 Protect and Survive」=「防護と生存」=「身を守り、生き延びよう」。その無茶苦茶な内容を信じた田舎の老夫婦の話。マジで核爆弾が投下され、家の中の手作り簡易シェルターでパンフを頼りに生き延びようとするブラック・コメディ。政府believerのジムといつ何時も自分の生活ペースを揺るがされないヒルダの夫婦。ヒルダのキャラが典型的英国婆さんあるあるの笑い。日本なら核戦争の非常時に全く動じず生活を一切変えようとしない田舎の頑固な婆ちゃんネタなんだろう。

20期生が女性6名、男性3名の為、男性OB3名(立川義幸氏、斎藤大雅氏、菊川斗希氏)が参加している。
6組のジム&ヒルダ夫妻。今野貴也氏と後藤綾沙子(あさこ)さんからスタート。この二人はラストも演るのだがその時は台本を手にしていない。
鈴木桜子さん、増満尚子さん、土川葉菜さん、藤本桃子さん、藤井直美さん、音田優輔氏、園部優心氏。

ネタバレBOX

去年も観たが、今回の方が作品として仕上がっていた。セットも美術も申し分ない。だが伝わるものそのものが弱い。観せ方に工夫が必要。「戦争は怖いね」じゃなく、どうしようもなく為す術もなく選択肢もなくただ静かに死んでいくしかない連中への鎮魂歌。最期まで人間であろうとした者達への鎮魂歌。そこが弱い。

後方に映像を流し続けて現在の世界情勢とリンクさせるとかどんどん観客の不安を煽って欲しい。そんな状況で最期の最期まで“自分達”で在り続けようとした人間の闘い。死ぬ時まで自分でいられるだろうか?
ある女子大生の誘惑

ある女子大生の誘惑

絶対♡福井夏

高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)

2026/08/05 (水) ~ 2026/08/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

①「ある女子大生の誘惑」
メチャクチャ面白い。これぞ山内ケンジ氏の笑い。奥田洋平氏が最高の出来だったがアンパサンド『遠巻きに見てる』のキチガイランナーか!北原州真(くにまさ)氏はやみ・あがりシアター『ベガスペガサス』で観たばかり。味がある。いきなりの男泣きで会場の爆笑を誘った。福井夏さんは恐怖。カラコンで黒目を大きくしているのか、最早ホラー映画。蚊の鳴くような声でボソボソボソボソ喋る。誰かモデルでもいるのか、確かにこんな女実在する。ADHDサイコパスなのか、話の通じない妙な女。ああ関わらない方がよさそうだと本能が騒ぐ。
キャスティングが完璧。この3人が一つ部屋にいるだけで面白い。何かたけしが映画でたけし軍団を使う時の笑いを感じる。

マルセル・モースの「贈与論」を講義している大学教授、奥田洋平氏。出席日数も単位もレポートの評価も足りない福井夏さんは電通に内定しており、留年する訳にはいかなかった。何とかならないかと必死に頼み込む。准教授の北原州真氏は福井夏さんが色仕掛けで他の教授達を籠絡した噂を聞き警戒を促す。

ネタバレBOX

本当に古典的な話なのだが面白い。ベタに「ペディキュアを見てくれ」だとか「ふくらはぎがつったからマッサージしてくれ」だの、スカートから伸びた脚を殊更アピールしての誘惑。長机にぞんざいに足を投げ出す。それをホイホイ引き受ける奥田洋平氏のキャラも面白い。子供っぽく純真で疑いを知らないのかすっとぼけたムッツリスケベなのか。それにやきもきする北原州真氏の男泣き!

②「その夏のバックグラウンドミュージックを探す」
尾﨑優人氏がステージ前方にADのようにしゃがみ込み、四角いミニライトの光量を手の平で調節しながら演者に当てる独特の演出。スマホからBluetoothスピーカーに飛ばしてBGMを流す。3人目の演者、黒子のように。
福井夏さんと伊沢奈々さんが複数の役を高速で回しつつ喋り続けるマシンガントーク演劇。

二人の交通量調査員。
夏の最高気温を27℃にする装置を完成しそのデータを入れたUSBメモリを持ち歩く社長と腹心の部下(実は盆踊り一族)。
中3の初デートする二人。
最強の日焼け止めと虫よけスプレーを足で探し回る女。カフェーでカフェミストを注文してしまい苦しむ羽目に。
暑さが嫌で部屋に引き籠もった少年とファースト・キスの相手を探す女王蚊。

何かぼんやり観てしまった。この系の作品はなかなか嵌まらない。

※2023年10月に演った『けものフレンズ』。シベリアンハスキー役は福井夏さん!ブラックジャガー役の岡田帆乃佳さんと共にシュートもワークもやれるリアル・プロレスラーとしてRESPECT。(WWEとUFCで王者になったブロック・レスナーのよう)。

このページのQRコードです。

拡大