
プライマ・フェイシィ
シス・カンパニー
ザ・スズナリ(東京都)
2026/07/01 (水) ~ 2026/07/26 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★
Prima facieはラテン語で法律用語、「一見して明らかな」こと。
オーストラリアの劇作家、スージー・ミラーによる2019年の作品。彼女は弁護士として働きながら戯曲を発表して来た。今作を小説化したものが現在映画製作中。
灰色の壁に囲まれたステージ背面、カーテンやドアの隙間のように縦に一条の光が差す。この演出が効果的。照明のおざわあつし氏にRESPECT。
何の話か全く知らずに観ていて、役者は魅力的だが話は単調だなと思っていたら、「あの日」から一気に持って行かれた。観る方もキツイ描写、これを演る方も相当辛いだろう。トラウマとの対峙、凝視、恐怖と屈辱と惨めさで心が張り裂ける。
三浦透子さんのことは全く知らず驚いた。このレヴェルの一人芝居を難なくこなせるとは。田畑智子さんっぽい演技派。前半のノリノリの遣り手弁護士振りは海外ドラマ調。
今作を観れたことは運が良い。
是非観に行って頂きたい。

鉾久奈緒美「死者の書」
大駱駝艦
座・高円寺1(東京都)
2026/07/02 (木) ~ 2026/07/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開演前、下手に置かれたガラス鉢に天井から一筋の水が滴り落ちている。ぴん、ぴん、ぴん、ぴん···。劇中、綺麗な水を探す物語だと老婆は語る。
鉾久(むく)奈緒美さんが振鋳(振付)・演出・美術・鋳態(出演)。原作は折原信夫の『死者の書』。長身の鉾久奈緒美さんの肉体は手塚治虫のキャラクターのように美しい。鶴が沢山描かれた紅い着物で写経。今まで観てきた大駱駝艦の舞踏は男性作家の作品ばかりだったと思う。女性がやると全く違うもので美しさ、色気、気品がある。原作を理解した上でもう一度観たいと思った。(全く予備知識なく観たので『チベット死者の書』を勝手にイメージしていた)。
滋賀津彦(しがつひこ)を演じた小田直哉氏は薄皮一枚隔てて筋肉一つ一つの動きが透けて見えるような圧倒的な肉体美。鍛え抜かれた人体模型。
語り部の老婆が急に喋り出すことに驚いた。バレエのようにシーンごとの筋立てをあらかじめ提示してもいいと思う。
左脚が骨になっている骸。男達が首を奪い、左胸に槍を突き刺す。神隠しにあった郎女(いらつめ)が首を拾い、もう一度付けようとする神話。
この美しさは何だ?
人をこの世を救うことの出来るものがあると仮定して、それを舞踏で表現しようとしている。とんでもないことだ。

ディアマイドクター
演劇ユニット「暇つぶしチェルトン」
萬劇場(東京都)
2026/07/01 (水) ~ 2026/07/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈A班〉
明治27年(1894年)3月、日本橋の元大工町の高水病院。医師の高水せい(梅本あき乃さん)のもとに運ばれてきた路上に倒れていた少女(小林音花さん)。遠い昔に病でこの世を去った妹ちかにどこか面影が似ている。「からたちの花が咲いたよ」と二人で歌った幼き日々。若き自分(後藤ひまわりさん)とちか(小林音花さん)の姿が瞼に蘇る。
ざんばら先生、歌唱指導も兼ねている主演の梅本あき乃さん。皆文句なしの歌唱力でキャスティングに誠実さがある。
個人的MVPは高水せいの若き日々を担ったもう一人の主演・後藤ひまわりさん。何か不思議な魅力がある。
共に戦った学友である萩原ぎん子役の神田亜由子さん、吉沢クノ役の山川莉恩さんも美声。
驚く程、演技レヴェルが高い大西達之介氏。少女の働かない父親役と衛生局長役を兼ねた。野太い声と台詞回しから舞台の空気感が変わる。衛生局長は外波山文明調。
本多一生氏の学長もユーモラスで良かった。

阿呆船
演劇実験室◎万有引力
座・高円寺1(東京都)
2026/06/19 (金) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2回目。
苦しみは正方形、笑いは丸。
悲しみも正方形、笑いは丸。
何故か毎回森ようこさんのキャラはナチスの女強制収容所所長イルザ系。(映画のモデルになったのは女性看守イルゼ・コッホ)。
髙橋優太氏、三俣遥河氏といった看板俳優も出ない。
ベテラン勢はこれからの劇団を担う若手達へのサポートに徹するよう。名前で客を呼べる新しい役者が現れないことには。とにかくチャンスを与えて育てていくしかない。
「Quo vadis, Domine?」=ラテン語で「主よ、何処へ行かれるのですか?」
曽田明宏氏はちょっといしだ壱成っぽい。バンドのヴォーカルみたいな妙な吸引力。身体表現は化物級。
開幕前からステージ、客席通路を使って大人数の寺山スローモーション。巨大な時計台の内部構造のように機械的に動く面々。ステージ上部に高く飾られたアンモナイト。時間を象徴しているのか?集団で何かを示すように、秘められた暗号、繰り返される反復運動、からくり人形のような動き、猫のように前脚をかく、ぴょんとキョンシーのように跳ねる、フェンシング、うさぎ跳び···。
阿呆船(あほうぶね)。
15世紀から17世紀、中世ヨーロッパにて狂人を船に乗せて町から隔離する風習があったという。エビデンスがある実話なのか一種のフォークロアなのか。(ミシェル・フーコーは幾つかの記録を持ち出している)。今作では何処にも目的地はなく港から港を永遠に航海し続ける海上隔離施設。
ステージ上手奧でJ•A•シーザー氏のドラム生演奏。下手奧で多治見智高ジーザス氏のヴァイオリン生演奏。
オープニングは東大法医学部の床の下、自ら生き埋めになって冬眠している裁判長(加藤一馬氏)。裁判をする為に穴掘り人夫が掘って探す夜更けから。

緑が丘
カレーカレーグループ
あさくさ劇亭(東京都)
2026/06/26 (金) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
目黒区の緑が丘かと思ったら、千葉県の東葉高速線、八千代緑が丘駅なんだな。
スーパーの夜勤で働く二十代半ばの瀧上(たきがみ)ねねさん。兄からLINEが来て母が倒れたので奈良の実家にすぐ帰れとのこと。母とは折り合いが悪かった。高校を出てすぐ家出のように東京に逃げて来た。ずっとファミレスやらスーパーやらで目的のないフリーター生活。一度帰ろうかと思う。こっちでお世話になった人達に挨拶回り、心ばかりの御礼品を。
語り手的な不思議な立ち回りの服部淳子さん。
ファミレスのバイトで世話になった役者志望の山本泰暉(たいき)氏。喋りが立つ。BreakingDownのひかぴーに似ている。
やたら自虐的な鹿内聡氏。「こういう奴よくいるな。リアリティがある。」と思っていたら作・演出の人だった。
元彼の與那城史登(よなしろあやと)氏。NPC喋り。
詰め掛けた観客に熱がある。若い頃の村上春樹みたいな文体。期待値が高いのだろう。空気感はヴァネッサ・パラディの『絶世の恋』か。瀧上ねねさんに妙な魅力がある。運の良い出逢いがあれば凄く売れそう。黒木華みたいにその辺にいそうな『特別な普通』をまとっている。「へ?」
もう駄目だと思いながら今日を何とかやり過ごす。全てのそんな疲れ果てた連中のふと見た何だかよく分からない夢。
是非観に行って頂きたい。

裸足
劇団道学先生
雑遊(東京都)
2026/06/23 (火) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈黄色いヘビチーム〉
『どんな色がすき』
『ホ・レッ!』
開演前SEで育児サポート音楽YouTubeチャンネル、「うたスタ」がカバーした楽曲が流れている。出来が良い。ノリノリで客席案内をしているのは〈青い鳥チーム〉の和田渚さん。
演出における青山勝氏と寺十吾氏には全幅の信頼を寄せているので今回も間違いなかった。何が良くて何が駄目なのかの価値観がハッキリしている。そこをあやふやにしていない。その感覚は信用出来る。
今作は畑澤聖悟氏の『親の顔が見たい』の本歌取り、幼稚園における教員内虐めのドラマ。作品内にちゃんと「親の顔が見たい」との台詞もある。岸田國士の『紙風船』オマージュも。役者達はきちんと為すべきことをこなしている。
面白かった。
是非観に行って頂きたい。

現代韓国演劇上演「四番目の人」
名取事務所
「劇」小劇場(東京都)
2026/06/19 (金) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
天井から地上1.2m程の高さにLEDバーライトを吊るして部屋の輪郭を縁取る美術。要所要所で青く点灯。
失感情症の女子高生、赤松怜音(れお)さんが黒沢清映画キャラの雰囲気。ロボットが人間の心に興味を持ち自分もそれを感じてみたくて追求するような話。自分の心、自我、意志、魂、アイデンティティ···。自分自身が突き動かされるような衝動に憧れる。何度も何度も鬼頭典子さんに聞く話は良心の疼きについて。その正体は何なのか?
パク・ヨンミの1990年のデビュー・アルバ厶に収録された代表曲『私は寂しさ あなたは懐かしさ』。この曲を鬼頭典子さんが昔好きだったと思い出す。
「私は寂しさ、私は流離う雲。
私は果てしない海を漂う舟。」

ファーム・ホール
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2026/06/15 (月) ~ 2026/06/30 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
昔、某映画監督がどんなシチュエーションであっても重要なのは登場するキャラクターの色気なんだと語っていた。色気を頼りに観客の意識は作品内をあちらこちら浮游する。それは性愛とかの意味ではなく、人を惹き付け興味を持たせる感覚のこと。汚らしい土木作業員の日常風景でもちょっとした工夫を入れることで色気は出る。殺し屋の残忍な殺し合いすら色気の有る無しで作品のイメージはガラリと変わる。色気のある関係性。
俳優座のレヴェルは群を抜いている。東映実録ヤクザ映画全盛期を思わす聳え立つ俳優山脈。その中でも選りすぐりの6人が色気たっぷりの演技合戦。俳優座スタジオで前売6800円は高いなと思ったが納得させられた。
1938年、オットー・ハーンの発見した核分裂反応。当時、ドイツの科学レヴェルは世界一だった。かつてアインシュタインの助手であった物理学者レオ・シラードはユダヤ系の為、1933年にナチスドイツから亡命。1939年、核分裂が連続的に起こる核連鎖反応の存在に気付き恐怖する。これを利用した爆弾を作ったら世界を征服出来る。アインシュタインを通じてフランクリン・ルーズベルト大統領に手紙を送る。(アインシュタイン=シラードの手紙)。一刻も早くドイツより先に原子爆弾を開発しなければならぬと。
結局の所、アメリカの天才、J・ロバート・オッペンハイマーが原爆を完成させる訳だが、連合国はドイツも完成させていると睨んでいた。天才ヴェルナー・ハイゼンベルクが完成出来ない訳がないと。23歳で博士号、「行列力学」「不確定性原理」を提唱し31歳で量子力学の創始者としてノーベル賞を受賞。彼がドイツの原爆開発の陣頭指揮を取っていたのだ。
1945年5月7日、ドイツが無条件降伏。
1945年5月1日から6月30日に渡りドイツのノーベル賞級物理学者10人の身柄が拘束される。(=オペレーション・イプシロン)。彼等は1945年7月3日から1946年1月3日までイギリスのゴッドマンチェスターにある田舎の屋敷、ファーム・フォールに抑留される。屋敷中に盗聴器が仕掛けられており、彼等の生活の中の自然な会話から原爆開発の実情を探ろうとした。(今作では6人になっている)。
ウディ・アレン、ジム・ジャームッシュ、アキ・カウリスマキ系のコメディ。淡々と観客を突き離した距離感から笑わせていく。何となく一人ひとりのキャラや人間関係が見えてくると特に何もしていなくてもその場を面白く味わえるように。ツッコミを入れずぼんやりと観客を空間に放置させる感覚はジム・ジャームッシュっぽいか。
メチャクチャ面白い。
是非観に行って頂きたい。

歩きはじめる時
チーム・クレセント
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2026/06/18 (木) ~ 2026/06/22 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
熊本から集団就職で京都にやって来た主人公。昼間は京都第二赤十字病院で看護学生として働き、夜は定時制の同志社高校で学んだ。一年経ち1963年(昭和38年)、胃潰瘍治療の為入院してきた男性との出逢いが人生を変えることに。男性はろう者だった。
ステージ上部に投映され続けるオープン字幕。ろう者と聴者、全てに公平に情報が行き渡るように。
MiCHiさん。今作の一つの大きな冒険である「手話の化身」役。ろう者俳優でダンサー。殆ど出突っ張り。手話に宿る精霊として存在を受け取った。弱い者達が彼女の力を必要とする時、彼女は力を貸す。聴者には何の必要も意味もない存在だった筈が実はそんなことはなかった。他人の心と寄り添える手段そのものを彼女は象徴する。他人の心に触れるということは自分の心に触れることでもあるという真理を。
昨年観た『わたしのこえがきこえますか』が本当に傑作で未だに衝撃を憶えている。来年6月、座・高円寺1にて再演予定なので絶対に観て欲しい。(作品の濃密な空間設計に対して会場が大き過ぎる気もするが)。

長生炭鉱――生きたかった
温泉ドラゴン
座・高円寺1(東京都)
2026/06/05 (金) ~ 2026/06/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2回目。
筑波竜一氏のドスの効いた声に千葉ちゃんを感じた。
五十嵐明氏の台詞回しにも『仁義なき戦い』の絶妙な口上、千葉ちゃんや三上真一郎とかのカッコ良さを。
韓国側を何役も兼ねるソ・ドンガプ氏。極真会館の第一回全日本空手道選手権大会で優勝した山崎照朝氏に似ている。彼は『あしたのジョー』の力石徹のモデルとなった天才空手家で東スポの記者でもあった。

ジン・ゲーム
加藤健一事務所
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/06/11 (木) ~ 2026/06/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
アメリカにある老人ホームのウッドデッキ。毎週設けられた面会日、室内からは沢山の笑い声や再会を懐かしむ声、教会から慰問に来たコーラス隊の歌が流れてくる。孤独な老人、ウェラー(加藤健一氏)には全く関係のない話。独りで本を読んでいる。そこに入居二週間目のフォンシア(竹下景子さん)が現れる。どうもこの雰囲気に馴染めないようだ。早速、ウェラーはトランプに誘う。やるのは勿論「ジン・ゲーム(=ジン・ラミー)」だ。
アイリーン・キャラの「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」のインストが効果的に使われる。「エーデルワイス」やら、のどかな楽曲の選曲が見事。シルエットで描かれる室内の楽しそうな遣り取り。孤独な老人二人がトランプに逃避する姿をくっきりと浮き立たせる演出。
加藤健一氏は感情が抑え切れずカッとなって暴言を吐くジジイで観客を爆笑させる。竹下景子さんは敬虔なクリスチャンでおしとやかな老婦人だったのが段々苛立って嫌味や汚い言葉を吐き捨てる。トランプの勝ち負けで人間の幾重にもまとった気品や社会性がかなぐり捨てられていく痛快さ。
是非観に行って頂きたい。

レディエント・バーミン Radiant Vermin
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2026/06/08 (月) ~ 2026/07/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「AHー!LOVE BEAT!YEAH!」
自分で自分の首を両手で絞める決めポーズ。
U2 の「Vertigo」が格好良く流れ、作品のノリは『ナチュラル・ボーン・キラーズ』や『ハウス・ジャック・ビルト』を彷彿とさせる。(どちらも連続殺人鬼の主人公を痛快に描いた作品。『NBK』はタランティーノの脚本をオリバー・ストーンが台無しにしてしまった失敗作だが)。悪意に満ち溢れた作風はもろラース・フォン・トリアー流。好きな人にはたまらない。ニヤニヤする。
20代後半の夫婦、オリー(井之脇海氏)とジル(清原果耶さん)。生活は苦しくボロい賃貸での暮らし、しかもジルは妊娠中。そんな時に舞い込む一通の手紙。政府の推進する国家プロジェクトに選出され、無償で一軒の家を差し上げますと。詐欺か悪戯か何が目的か?ジルが封筒の連絡先に電話を掛けると間違いないと言われ、やって来る担当者のミス・ディー(池津祥子さん)。悩みつつも契約し、現地に向かう。そこは荒廃したスラム、浮浪者の溜まり場の地区。広いが老朽化した屋敷、周囲は空き家だらけ。電気も通っていない、お湯も出ない屋敷を自分達の力で改修せねば。ぐったりしながら二階の寝室で寝ると、階下からの物音で起こされる。浮浪者が盗みに侵入して来やがった!
清原果耶さんは2020年、『宇宙でいちばんあかるい屋根』を観に行った位の接点。いざ目の前で見ると圧倒的美人。鼻が高く山本恵里伽アナウンサーっぽいか。笑顔が満島ひかりに似てる気がした。美人過ぎて役柄が限定される懸念。
井之脇海氏も魅力的。アスリート並みの運動量。親近感を湧かせるキャラ。
何と言っても池津祥子さんが凄腕。『黒イせぇるすまん』風味。この世界を力尽くで納得させ成立させる。
とにかく客を弄る。通路後方から現れ客一人ひとりに語り掛ける。客席の間にまで入る。とにかく観客を巻き込む。これはオハナシではなく貴方の選択すべき現実です。さあどちらを選びますか?お考え下さい。
終演後、客席後方で演出の白井晃氏、手応えがあったのだろう、してやったりの満面の笑み。コンプライアンスに蹂躙されたこの世界に中指を突き立てる。嘘ばかりの世の中で本当のことを叫んでやる!
是非観に行って頂きたい。

長生炭鉱――生きたかった
温泉ドラゴン
座・高円寺1(東京都)
2026/06/05 (金) ~ 2026/06/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
温泉ドラゴンに清水直子さんの参戦!そりゃ観たい。
1942年2月3日、山口県宇部市の瀬戸内海に面した海底炭鉱・長生(ちょうせい)炭鉱で天盤が崩落し坑内にいた183名は溺死。内、朝鮮人が136名。炭鉱会社は救助活動を一切行なわず、すぐに抗口(こうぐち)をコンクリートや木材で塞ぎ情報統制を敷く。事故は隠蔽され、遺族への補償もなかった。海上に突き出た2本のピーヤ(排気・排水筒の役割を担うコンクリート柱)だけが今も残る。
事故直後の炭鉱内に閉じ込められた8人。
現場監督の佐藤(筑波竜一氏)は元学校の教師。木刀を片手に炭鉱夫を統制する。
電気技師の工藤(五十嵐明氏)。
南方戦線で地獄を見てきた戦場帰りの山本(内田健介氏)。
新入りの小林(京極洋太氏)。少し働いてすぐ辞めるつもりだった。
右脚が不自由なジョンチョル(パク・ホンスン氏)は拉致のような形で無理矢理日本に強制連行されて来た。非常に反抗的。
ビョンド(キム・ジェウン氏)は盗まれることを恐れて5年間働いた伝票(通帳)を肌身離さず身に付けている。
ドンリム(イ・ジョンウォン氏)は留学生として日本の大学で勉学していた為、日本語が堪能。両親の死によって生活の為に働かざるを得なくなった。
ヤンへ(ユ・シヒョン氏)は16歳、子供と大人の違いが分からない。
もう一つの物語は「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の活動模様。清水直子さんといわいのふ健氏がそれを語る。ソ・ドンガプ氏演ずる韓国人側の遺族の存在がリアリティを生む。この話は政治的なものではなく、もっと人間と家族の話だということを。手向けた一本の花。
吊橋のような美術が上下に動くことで二つの時代の変化を表現。
日本語と韓国語の字幕がステージ左上に投映される。工夫されていてほぼ遮られることもなく読めた。何処の席でも読めると思う。どう足掻いても死ぬしかない現実の中で8人は何を思う?個人的MVPは内田健介氏。
是非観に行って頂きたい。

どっか行け!クソたいぎい我が人生
ぱぷりか
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
初演より20分長くなっている。何処を延ばしたのか?
中国地方の方言、たいぎい=面倒臭え、だりい。
共依存=関係依存症。互いを必要とするが故、自分を犠牲にしてでも相手に尽くす行為がどんどんエスカレートしていき最終的に破滅を生むことが多い。
暗い。この暗さこそが今劇団の魅力。舞台は広島。渡辺真起子さん演じる主人公は精肉店で働く49歳。DVを受けて離婚し、娘を女手一つで育てて来た。娘、仲美海さんは大学三年生、21歳。アクセサリー店でバイトしている。近くに住む弟夫婦は松下太亮(たいすけ)氏44歳、岡本唯さん32歳。渡辺真起子さんはスピリチュアルに傾倒しており、常に手元に水を置き、除霊にファブリーズ、パワーストーンの数珠、タロット占い、TVの星座占い···、と運気ばかり気にしている。更にスピリチュアル・セミナーにまた通おうとも。別れた夫が娘を奪いに来る妄想に取り憑かれ、ハサミ、包丁、スタンガンを家のいろんな場所に隠している。
渡辺真起子さんは浅茅陽子っぽいが時々表情が美空ひばりに見える。
仲美海さんは熱心なファンが付くタイプ。丁寧な心理描写。
普通は母の過干渉に苦しむ娘の物語にするが、病んだ母を中心に据えるのが興味深い。
是非観に行って頂きたい。

お久文七恋元結
劇団前進座
サンシャイン劇場(東京都)
2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
一両を現在の5万円と考えると、五十両は250万円。こんな額をぽんと見知らぬ男に渡す奴は何者か?
2017年、山田洋次監督が監修・脚本で前進座に参加した『裏長屋騒動記』。2021年、『一万石の恋/裏長屋騒動記 愛の仮名手本篇』。そして今回、三度目のタッグ結成。前進座95周年、山田洋次監督94歳!凄えな。昨年の新作映画『TOKYOタクシー』も良い出来だった。『裏長屋騒動記』が驚く程面白かった為、メチャクチャ期待。
『文七元結(ぶんしち・もっとい)』とは明治時代の落語家・三遊亭圓朝(えんちょう)の創作落語。第一幕はそれをやり、第二幕は山田洋次オリジナルとなる。
江戸時代、年の暮れ、日本橋横山町の鼈甲問屋「近江屋」。主人の卯兵衛(藤川矢之輔氏)、番頭の善六(曽我廼家寛太郎氏)、手代の文七(早瀬栄之丞氏)、女中のお清(松宮美菜さん)。文七を買っている主人は売掛金の集金を任せることに。五十両という大金を受け取りに行く大役。
本所達磨横町の貧乏長屋に暮らす左官の長兵衛(柳生啓介氏)、女房のお兼(河原崎國太郎氏)、娘のお久(ひさ)〈横山由依さん〉。長兵衛は腕の良い職人だが博打にのめり込み年を越す金もない。17歳のお久は吉原の「佐野槌(さのづち)」に自ら向かい身売りして金を工面しようと考える。
貧乏長屋の家主・吾助(嵐芳三郎氏)、長屋女房お茂(江林智施さん)、長屋女房お熊(松川悠子さん)。
屋台の二八蕎麦屋(松涛〈まつなみ〉喜八郎氏)、その客(嵐市太郎氏)。
薬種問屋(どいや)の「美濃屋」女主人お福(山崎辰三郎氏)、その息子孝之介(松永瑤氏)。(松永瑤氏は早瀬栄之丞氏にどんとぶつかる通行人役も兼ねる)。
元結(もっとい=もとゆい)とは髷の根元を縛る紙製の細紐。桜井文七が飯田藩(長野県)から持ち込んだ商品の評判がよく、「文七元結」として広まった。
曾我廼家(そがのや)寛太郎氏の人気振り。松竹新喜劇で活躍するこの人の口上が舞台の基調となる。松宮美菜さんが可愛かった。
MVPはやっぱり柳生啓介氏。山田洋次節。
誰一人悪党のいない優しい世界、弱い者達は弱い者達と助け合った。誰かの優しさに生かされている。人の憂いを知った者だけが優しくなれる。
是非観に行って頂きたい。

THE GAME OF POLYAMORY LIFE
趣向
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈Aチーム〉
広い一軒家の透視図のセットを二面4列の客席で挟む形。舞台美術の松岡泉さんは見事にこの奇妙な世界を開放的空間として成立させた。
高校美術教師のエンジェル(豊田エリーさん)はムーン(加藤啓氏)、タイガー(上田遥さん)と同棲している。3人共それぞれ愛し合っているトライアッド(パートナーシップ)。大学時代の友達でずっとエンジェルに恋しているアリス(前原麻希さん)にはそれが理解出来ない。到頭、家に乗り込む。同じくInstagramで彼女達のことを知ったガンダム(笹川幹太氏)はムーンに取材を申し入れる。
ポリアモリー(複数愛)なんて初めて知った。関係する全員の合意のもと、複数のパートナーと恋愛関係を築くライフスタイル。よっぽどルックスが良いか、金が無いと成立しない気もするが。しかも今作の登場人物は全性愛者(パンセクシュアル)も兼ねている。男も女もない渾沌。一昔前なら柴門ふみに漫画を描かせて月9でドラマ化もあったネタ。
豊田エリーさんはた組で沢山観てきたが、今作が一番魅力的。この妖精のような圧倒的ルックスがないとなかなか成立し辛い設定だと思う。(旦那が柳楽優弥氏だとさっき知った)。こんな綺麗な人だったらこんなことも有り得るのかもと思わせる。
上田遥さんの独特な声は誰かに似ている。芹那かな?
加藤啓氏はやたら感動屋なので人間的には胡散臭い。
前原麻希さんはヒールの女子プロレスラーみたいな威圧感。
笹川幹太氏は細かい仕草が巧い。存在にリアリティーがあった。
多分、作家は人が人を自然に愛することを肯定したかった。そこに嘘がなければ何も間違ったことではない。純粋に幸せに向かって生きていくことを許容し合える共同体。自分が心からそう思えればそう生きられる筈だと。
Bチームだと豊田エリーさんと笹川幹太氏以外のキャラが男女入れ替わる仕様。どう見えるのかちょっと気になる。

春
劇団普通
cafe MURIWUI(東京都)
2026/06/03 (水) ~ 2026/06/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
岸田戯曲賞ノミネートで一度観てみようと思った人が殺到したのか?プラチナチケットのような争奪戦。追加公演も即完、当日券狙いで早くから並ぶ人々。ギッチギチに増席したこの狭い空間の3人を凝視。ブレイク前のバンドみたいな熱気。撮影カメラも入っていた為、第2次UWFのような緊張感に漲り客席は静まり返っている。まるで『ドキュメンタル』のような笑ってはいけない空間でいつものように幕が開く。窓の外ではルーフバルコニーの上部に張られたシェードセイルがバタバタとはためいている。
耳が遠いのか何度も聞き直す用松亮氏。
「ナニ?」「ナニ?」
何度も会話が空回りし、その説明にまた「ナニ?」「ナニ?」。
その雰囲気にたまらなくなった観客が吹き出し、アットホームな空間に。
今作を簡単に説明するならば
「な〜んだはこっちだよ。」
俺達は一体何を観せられているのか?

亀と潜水艦
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2026/05/22 (金) ~ 2026/06/04 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2回目。
朝からどしゃ降りの暴風雨、ビッチョビチョでうんざりの一日。錦糸町駅から徒歩十五分のすみだパークシアター倉に詰め掛ける観客達。出迎える劇団員達。
藤吉久美子さんは助演女優賞。周りの役者を際立たせる腕が凄い。舞台全体を見れる俯瞰的な目を持つようだ。
斉藤とも子さんも重要な役。配役に哲学を感じる。
振り続ける雨、ドブに現れる小さな亀、一筋の光。
素晴らしい作品。

アカデミック・チェインソウズ
MCR
ザ・スズナリ(東京都)
2026/05/27 (水) ~ 2026/06/02 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
選曲にセンスある。開演前SEなんか良かった。レッチリの次の曲が凄く気になった。
全員、ほぼ実名が役名。メタ的な構造を狙っているのか。
美人の璃音(りのん)さん、表情がアニメチックな梶川七海さん、キツイ若月海里(みさと)さんは海岸ではしゃいでいる。
陰キャの市島琳香さんはスクールカースト一軍に入りたがる唯一の友人・桑田佳澄さんに忠告をする。そこに居合わせる体育教師の日栄洋祐氏。
いつも破天荒な有馬ゆかさんを支える親友二人、米田ひかりさんと荒波タテオ氏。彼女の悪戯に巻き込まれる教師の加賀美秀明氏。
教師の澤唯氏から修学旅行実行委員に選ばれた田中優笑(ゆみ)さん169cm。彼女はイマジナリーフレンドであるおがわじゅんや氏と櫻井智也氏に不満をぶちまける。そこに通り掛かるみしゃむーそさん。
教師の堀靖明氏はパパ活の疑いがある井澤佳奈さんを呼び出す。彼女の親友の川久保三子さんが抗議に乗り込む。やたら落ち着き貫禄のある上田房子さん、伊達香苗さんを従えて。
女子校である私立みつばち坂まつぼっくり高校の修学旅行先は南洋!ホエールウォッチング・ツアーも楽しめる!
船長は北島広貴氏。
堀靖明氏はインパルスの堤下敦っぽい。もうお笑い芸人としか見えない程のツッコミ力。
梶川七海さんは表情が『らき☆すた』っぽい。(観たことないが)。
桑田佳澄さんにメチャクチャ見覚えがあるのに作品が思い出せない。ガチ小学生のルックスで29歳、有吉弘行のように芯を食った毒舌。MVP。

光る
玉田企画
シアタートラム(東京都)
2026/05/22 (金) ~ 2026/05/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ステージ上に半球状の穴が空いていて、その上に巨大な石の輪が吊るされている。『未知との遭遇』を思わせる暗示的なセット。キリスト教プロテスタント系カルトで歴史上何度か起こったムーヴメントに「空中携挙」(rapture)がある。滅亡の日に選ばれた人間だけが天から引き上げられるとの信仰。
祷(いのり)キララさんの父親はカートのレーシングチームを運営していた。彼女が13歳の時、スピリチュアルに嵌まった母親(能島瑞穂さん)と離婚。その後、父親は亡くなり祷キララさんがチームを継いでいる。今は26歳、中学の時の担任(浦井のりひろ氏)と交際している。チームには古屋隆太氏、浦井のりひろ氏、三村和敬氏。チームの持っているサーキットでレースの開催が決まり、実況アナウンサーとして初挑戦する浅野千鶴さんが挨拶に来る。だがレースの開催日が例年行われる慰霊祭と重なる為、住民からクレームが来ていた。運営会社の広報担当の井上向日葵さんはレースと慰霊祭を合同に行なうとの決定を伝える。戸惑い抗議をするメンバー。
この近辺で突然地面が陥没し大きな穴が空く事件が頻発。穴の夢を見た人間が気になって現地に行くとその通りに穴がある事例が続いた。これは何かの啓示なのか?同様に夢を見た浦井のりひろ氏が現地に赴くとそこには穴が。居合わせた能島瑞穂さんとの再会。13年前の教え子の母親だがその頃に離婚している。今の能島瑞穂さんはネットの預言系インフルエンサー、これについて全てを知っているようだ。
知らない役者ばっかりと思ったが浅野千鶴さんはコンプソンズの『ビッグ虚無』のヒロイン。祷キララさんはiakuの『モモンバのくくり罠』のヒロイン。井上向日葵さんはpapercraftの『世界が朝を知ろうとも』で観ていた。玉田真也氏が意外、イメージと違った。
能島瑞穂さんはヤバイ。豊田真由子っぽいキチガイ・オーラ。この人が主人公だろう。
浦井のりひろ氏も凄腕。イキウメみたいなキャラ。軽部真一とか鴻上尚史とか立川がじら的雰囲気。三村和敬氏に毎回、「お前は誰だ?」と聞くネタが最高のキチガイっぷり。
古屋隆太氏は売れてそう。高橋ジョージっぽい。
三村和敬氏はお笑い芸人にいそう。
祷キララさんは冨永愛っぽい。
浅野千鶴さんは声が可愛い。
井上向日葵さんは小学生の声。AIを疑われると動揺する。