アカデミック・チェインソウズ
MCR
ザ・スズナリ(東京都)
2026/05/27 (水) ~ 2026/06/02 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
選曲にセンスある。開演前SEなんか良かった。レッチリの次の曲が凄く気になった。
全員、ほぼ実名が役名。メタ的な構造を狙っているのか。
美人の璃音(りのん)さん、表情がアニメチックな梶川七海さん、キツイ若月海里(みさと)さんは海岸ではしゃいでいる。
陰キャの市島琳香さんはスクールカースト一軍に入りたがる唯一の友人・桑田佳澄さんに忠告をする。そこに居合わせる体育教師の日栄洋祐氏。
いつも破天荒な有馬ゆかさんを支える親友二人、米田ひかりさんと荒波タテオ氏。彼女の悪戯に巻き込まれる教師の加賀美秀明氏。
教師の澤唯氏から修学旅行実行委員に選ばれた田中優笑(ゆみ)さん169cm。彼女はイマジナリーフレンドであるおがわじゅんや氏と櫻井智也氏に不満をぶちまける。そこに通り掛かるみしゃむーそさん。
教師の堀靖明氏はパパ活の疑いがある井澤佳奈さんを呼び出す。彼女の親友の川久保三子さんが抗議に乗り込む。やたら落ち着き貫禄のある上田房子さん、伊達香苗さんを従えて。
女子校である私立みつばち坂まつぼっくり高校の修学旅行先は南洋!ホエールウォッチング・ツアーも楽しめる!
船長は北島広貴氏。
堀靖明氏はインパルスの堤下敦っぽい。もうお笑い芸人としか見えない程のツッコミ力。
梶川七海さんは表情が『らき☆すた』っぽい。(観たことないが)。
桑田佳澄さんにメチャクチャ見覚えがあるのに作品が思い出せない。ガチ小学生のルックスで29歳、有吉弘行のように芯を食った毒舌。MVP。
ネタバレBOX
ラストはRadiohead の「Creep」で決める。美しく天使のような“君”にまるで信仰のように夢中になっている自分。“君”は綺麗な世界で真っ白な羽根のように舞っている。でもそれを見つめている自分は出来損ないで醜い。自分の存在が“君”の世界を汚してしまう。
だけど俺はキモい。頭も変。
一体ここで何をしているんだろうな?
ここにいるべきじゃないのに。
波打ち際で踊る少女達の躍動的なダンス。それを遠くから眺める市島琳香さんと田中優笑さんの表情。これは彼女達の物語だったんだと判明する。そこにはみんながいるが自分だけがいない。
押井守に『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』という1984年の映画がある。ずっと「学園祭の前日」が果てしなく続く世界に閉じ込められた面々。実は「ずっとこのままでいたい」と願う少女の夢の中だった。日本のモラトリアム文化の一つの象徴。今作に影響を受け、社会学者・宮台真司が『終わりなき日常を生きろ』を執筆した。
劇団活動こそが永遠の「学園祭の前日」なのか。
光る
玉田企画
シアタートラム(東京都)
2026/05/22 (金) ~ 2026/05/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ステージ上に半球状の穴が空いていて、その上に巨大な石の輪が吊るされている。『未知との遭遇』を思わせる暗示的なセット。キリスト教プロテスタント系カルトで歴史上何度か起こったムーヴメントに「空中携挙」(rapture)がある。滅亡の日に選ばれた人間だけが天から引き上げられるとの信仰。
祷(いのり)キララさんの父親はカートのレーシングチームを運営していた。彼女が13歳の時、スピリチュアルに嵌まった母親(能島瑞穂さん)と離婚。その後、父親は亡くなり祷キララさんがチームを継いでいる。今は26歳、中学の時の担任(浦井のりひろ氏)と交際している。チームには古屋隆太氏、浦井のりひろ氏、三村和敬氏。チームの持っているサーキットでレースの開催が決まり、実況アナウンサーとして初挑戦する浅野千鶴さんが挨拶に来る。だがレースの開催日が例年行われる慰霊祭と重なる為、住民からクレームが来ていた。運営会社の広報担当の井上向日葵さんはレースと慰霊祭を合同に行なうとの決定を伝える。戸惑い抗議をするメンバー。
この近辺で突然地面が陥没し大きな穴が空く事件が頻発。穴の夢を見た人間が気になって現地に行くとその通りに穴がある事例が続いた。これは何かの啓示なのか?同様に夢を見た浦井のりひろ氏が現地に赴くとそこには穴が。居合わせた能島瑞穂さんとの再会。13年前の教え子の母親だがその頃に離婚している。今の能島瑞穂さんはネットの預言系インフルエンサー、これについて全てを知っているようだ。
知らない役者ばっかりと思ったが浅野千鶴さんはコンプソンズの『ビッグ虚無』のヒロイン。祷キララさんはiakuの『モモンバのくくり罠』のヒロイン。井上向日葵さんはpapercraftの『世界が朝を知ろうとも』で観ていた。玉田真也氏が意外、イメージと違った。
能島瑞穂さんはヤバイ。豊田真由子っぽいキチガイ・オーラ。この人が主人公だろう。
浦井のりひろ氏も凄腕。イキウメみたいなキャラ。軽部真一とか鴻上尚史とか立川がじら的雰囲気。三村和敬氏に毎回、「お前は誰だ?」と聞くネタが最高のキチガイっぷり。
古屋隆太氏は売れてそう。高橋ジョージっぽい。
三村和敬氏はお笑い芸人にいそう。
祷キララさんは冨永愛っぽい。
浅野千鶴さんは声が可愛い。
井上向日葵さんは小学生の声。AIを疑われると動揺する。
ネタバレBOX
自分的には笑いが決まらない。笑いと黒沢清&イキウメ系ミステリアスがどちらも中途半端。いやこれメチャクチャ笑わせてくれよ。その後でゾッとさせてくれ。どっちつかずの批評家任せの立ち位置は余り好きじゃない。
ただ能島瑞穂さんVS井上向日葵さんはスピン・オフ希望。能島瑞穂さんを宗祖に大本教のような壮大な話を語って欲しい。ファクトかフェイクかではなく、もっと根源的な話を。(正しいか正しくないかではなく、全く別の回路で人間は生きている。同じような陰謀論が何度も繰り返されるのはそれが人間の本質に関わっているからだろう)。浦井のりひろ氏のキャラなど文学的で面白いだけに、もっと踏み込んで欲しい。井上向日葵さんは人造人間だとして、人工知能は最終的に何を望むのか突き詰めて欲しい。鉱物の本能は静かに佇むことだから人工知能コンピューターは最終戦争を望むという筒井康隆の初期短編があった。
東京物語(横浜公演)
チームラヴ・ガン
WAKABACHO WHARF 若葉町ウォーフ(神奈川県)
2026/05/29 (金) ~ 2026/05/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
暑い。若葉町ウォーフ、初めて来たがシネマ・ジャック&ベティの斜め前!元祖十八番もすぐそこ。良い立地だ。川沿いのちょんの間もなくなっちゃって黄金町も様変わり。
憲俊(けんしゅん)氏はちょっと真田広之っぽくてカッコイイ。八代将弥氏はかなり基礎のしっかりした俳優であることを感じさせた。
箱馬と平台を組み合わせたベッドが二つ。刑務所で同部屋のブレーキ(憲俊)とオリーブ(八代将弥氏)。ブレーキは左翼活動家でテロリスト。オリーブはオカマなのだが何の罪を犯したのかは不明。演出の佃典彦氏が刑務官として後方に座っている。寝付けないブレーキの為に毎晩オリーブはいろんな名作映画のストーリーを語り聞かせてあげている。今晩は『東京物語』だ。かなり丁寧にシーンごと事細かに語る。「節子原」という呼び方も良い。『東京物語』の劇空間を全身で撫で回して溶け込み、その中で泳ぐように語る。また『東京物語』観たくなった。
ブレーキは話を遮り、脱獄の決行を告げる。オリーブの母親は病気で長くない。ブレーキは組織に合流してやらなければならないことがある。
『蜘蛛女のキス』に着想を得たオマージュ作品なのだろう。映画の日本公開は1986年、今作は1987年初演。『蜘蛛女のキス』はゲイの囚人が刑務所長のスパイとなり、政治犯の囚人から組織の情報を聞き出す話。好きな映画の話を語ることが互いの心を通わす重要なファクターとなる。
八代将弥氏の語る『東京物語』が観客の心に投映される。人が好きな映画を熱心に語る姿は美しい。
ネタバレBOX
アフタートークが寺十吾氏。これがメチャクチャ面白かった。佃典彦氏が演出の方法について質問する。寺十吾氏は「脚本を読みながら作者が作品の中に隠した秘密をずっと探る」と答える。それは分析であり考察。作家が文字にしたものに惑わされるな。書いたものよりも書かなかったものにこそ意味があることが多い。それを自分なりに突き止め形にする。勘違いであることも多いが、自分なりの答を出さないと作品にはならない。映画を観ながら頭の中でもう一本の映画を創作するような作業。推理小説を読み解くような感覚。相当高度な知能戦で演出は成り立っているんだな。面白い作品はその制作過程すらも面白い。
大物関係者も観に来ていた。(少し居眠りしていたが)。
帰還不能点
劇団チョコレートケーキ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2026/05/28 (木) ~ 2026/05/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2021年2月の初演、2022年8月の再演に続き、観るのは3回目。再演時、浅井伸治氏に代わり吉良孝一役を務めていた伊藤白馬氏(=旧芸名・照井健仁氏)が今回、村上誠基氏に代わり木藤芳男役をやる。登場しない山崎進次郎の声は近藤フク氏が担当していたが、今回は村上誠基氏に。
MVPは黒沢あすかさんだろう。話を知った上で観ているので、進行と共にふと変わる彼女の表情が今作の骨子となる。にこやかに店を切り盛りしつつ、不意に見せる素の顔。一般庶民の知らない所で国は戦争のシミュレーションをしていた。結果は必敗、どう足掻いても勝ち目はない。だが戦争に突き進んだ。国民には「日本は神の国である。歴史上、一度たりとも負けたことはない。現人神である天皇陛下の統治する神国日本は必ず勝つ」と鼓舞。その全てが嘘だった。国に騙されて散々な目に遭い、焼け野原に呆然と立ち尽くす亡霊のような国民達。負けるって分かっていたのか?こうなるって知っていたのか?
この劇団を観たことがない人に一作勧めるならば、やはり今作となるだろう。脚本が面白い。戦後に戦前日本政府の馬鹿馬鹿しさを酒席であげつらう設定も巧い。故人を偲ぶ会というシチュエーションにも何重にも意味が掛かっている。“最後の”再演と謳っているのが残念。今こそ日本人はこの作品を観るべき。必見。
ネタバレBOX
粟野史浩氏が去年かなり痩せていたが身体が戻ってきたようで安心。シーザー武志、大友康平、小沢仁志を足したような凄味。
東谷(あずまや)英人氏は細かったイメージだがガッシリしてきて、より役がハマる。
今里真氏が本当に重要な役どころなのがよく判った。
「みんなを救えないことが貴女一人を救わない理由にはならない!」
山崎進次郎役を誰が演ずるのが適役なのか考えていた。筑波竜一氏かなあ。ちょっと格好良すぎるが。焼け跡のキリストとして後半生を自身の内面との戦いに捧げた男。自分には出来たのにやらなかったことが許せなかった。これからは出来ることは全て為すと腹を括って命を削る日々。人間の力は有限、出逢える人の数も限られる。そこでやれることをやる。それはただの自己満足でしかないのかも知れない。大局的には何の意味もないのかも。それでも構わない。それが死んでいった者に対する自分なりの贖罪だ。
彼を愛した黒沢あすかさんの行き場のない想いが涙となって零れる。本当の夫婦として心を通わせたかった。彼に何もしてあげられない自分。
母
劇団文化座
あうるすぽっと(東京都)
2026/05/19 (火) ~ 2026/05/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2023年5月、チケットを持っていたがコロナで中止に。ようやく観れた。佐々木愛さん82歳、最後の主演作との謳い文句。想像以上に素晴らしい作品。佐々木愛さんは凄いな。ひれ伏す。日本人の心の奥にある温かくて優しくて全てを受け止め許してくれるお母さん像の体現。こんな母親が家にいてくれたら子供は真っ直ぐ正しく優しく胸一杯に育つ筈。小林多喜二というちょっと変人めいた作家の人物像が少し掴めた。
小林多喜二は藤原章寛氏、佐々木蔵之介や坂本昌行系。カッコイイ。
その弟役の小佐井修平氏は本当に十代に見えた。
小林多喜二が生涯を懸けて救おうとした田口タキ(今作ではタミ)役高橋未央さん。卑屈な彼女の小林家との関わり合い方が大きな主題となる。同じ貧しくも心豊かに暮らす小林家に私みたいな無学な者は不釣り合いだと自身を責めて逃げてしまう。彼女と佐々木愛さん演ずる母セキとの遣り取りが今作の要。
「カタツムリが背延びをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。」
小林多喜二の代表作、『蟹工船』とは日本の縮図。どうにか皆の力を合わせて劣悪な環境を変えていかなければならない。その方法論を大衆に説かなければならない。
今作は井上ひさしの『組曲虐殺』とセットで観ると尚良いと思う。10月に風姿花伝で劇団しゃれこうべが演るので要チェック。
これで最後とは言わず、佐々木愛さん主演でまだまだ作って欲しい。勿論観に行く。太宰治の『津軽』なんかどうだろう。声も動作も一流のプロフェッショナル。
ネタバレBOX
「ほれっ! 多喜二! もう一度立って見せねか! みんなのために、もう一度立って見せねか!」
この有名な台詞を静かに抑えて呟くように言うリアリティー。観客を泣かせる為ならもっと感情的に狂乱する選択もあるだろう。それを自分に言い聞かせるようにしっかりと呟く。流石。
キリスト教の思想を現実の社会に投影する手段としての共産主義。全ての人間が平等な社会の実現。現実の共産主義ではなく、人々の心の中で理想に燃えていた共産主義は美しい。
もう駄目だと追い詰められた時、最後に思い返すのは遠く懐かしき貴女の記憶。あそこに戻ればやり直せる。あそこに帰ればもう一度自分自身を取り戻せる。誰の心にもあるそんな原風景。
第三の証言
劇団青年座
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2026/05/21 (木) ~ 2026/05/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
灰色に塗り潰された壁。赤錆びた鉄骨が頭上を斜めに貫いている。JCRのP箱とビールケースをグレーに塗り潰した物が並んでいる。それを椅子代わりに。途中、その上にベニヤ板を渡してテーブル代わりにも。
『コラボレーターズ』のようなサイレント喜劇演出やフラッシュモブがブリッジに流れる。同じ演出家かと思ったら違ってた。西田茉莉さんの無表情ダンスや岡本大樹氏のリズミカルなマイムが印象に残る。『スリラー』のような漫画的な恐怖表現。マクシム・ゴーリキーの『どん底』っぽい場面や不条理系のディストピア工場の描写。
主人公・石塚雄大(ゆうた)氏はせいやっぽい。
社長・工場長的役割の横堀悦夫氏は石橋蓮司っぽいと思っていたが今作では緒形拳似。
その妻、ひがし由貴さんは精神を病んでいる。鼻が高い。
伊東潤氏は塚田僚一っぽい。
彼との結婚を控えた佐原良砂(つかさ)さん。
戦争で松田周氏は大事なものを作らない人生観を身に付ける。西野亮廣っぽかった。
彼を密かに想う尾島春香さんは小保方晴子寄せ。
会社の不正を告発して辞めていった豊田茂氏は大鶴義丹、なべおさみ系だが今作では朝倉未来似。
屈折した母親・万善香織さんは鼻に特徴。
手拍子が鳴ると勝手に踊り出してしまう知的障害者の娘・西田茉莉(まつり)さんは今後要注目の存在かも。
刑事の加門良氏の貫禄。
電報配達夫と刑事の岡本大樹氏はコンテンポラリー・ダンスのようなマイムが鮮やか。
ビスケット工場に入社したばかりの石塚雄大氏。知的障害者の西田茉莉さんと首吊ごっこをしている。西田茉莉さんは何を聞かれても「ハァイ」と元気よく答えてくれる。石塚雄大氏は工場のあちこちに鼠の死骸を発見。ビスケットの原料である粉を食べた様子。これは毒物じゃないのか?工場の人達に伝えて回るが誰も相手にしてくれない。到頭、警察に通報する。
謎のビスケット工場。本当の社長は電報で指示を出すのみで誰なのかも分からない。横堀悦夫氏は指示通りに動くのみ。高額な給与で従業員は疑問を飲み込み口には出さない。
俺達は一体、本当は何をやっているのか?
ネタバレBOX
再演を繰り返す内に改稿を重ね、パンフを読むとどうやら1958年の王子製紙争議をモデルにしたらしい。ストライキを起こした組合に対して会社側が主導して第二組合を結成させた事件。二つの労組の内ゲバで分裂、弱体化。全ては会社側の思うがままに。
もう一つのモデルは1952年のビルマ(現ミャンマー)からの輸入米の三分の一がカビに汚染され変色していた事件=黄変米騒動。毒性のあるカビた米を配給する政府に対し、激しい抗議活動が起きた。
時代はずれるが自分は水俣病とチッソの話のようにも思えた。不正を告発して無職になった豊田茂氏は会社に戻して欲しくて惨めに何度も頭を下げるが相手にされず野垂れ死ぬ。正義の為に動いた石塚雄大氏はそれが何の意味もなかったことを知り絶望して首を吊る。ぶらんぶらん揺れるロープが壁に当たる音で規則的に踊り出す西田茉莉さんで幕。
万善香織さんの歪んだ人生観。知的障害者の娘が白い目で見られれば見られる程、自分達の存在を実感出来るという倒錯。今作は皆、倒錯している。
青年座と自分は相性が悪い。5本観ているが、満足したのは『ズベズダー荒野より宙へ‐』だけ。いろいろ詰め込んでいるがいつもスッキリ決まらない。観せ方が下手。最大公約数を狙えば味は薄まる。皆に60点の作品なんか記憶に残らない。ある連中にだけ120点のガチガチの作品を望む。
全てが上の計算通りだったという『マトリックス リローデッド』感は面白かった。
死よりも尚美しいもの、それは死んだ後に存在する完全なる自由。自由を指し示す為にイエス・キリストは在ったのだ。それを知った人間は全ての価値観から自由になれる。
花よりタンゴ
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/05/12 (火) ~ 2026/05/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
朝海ひかるさんの名前だけでチケットを買ったのでこんなに豪華なキャスティングだとは知らず観ていて驚いた。流石こまつ座、今回のキャスティングにはちゃんと色々な舞台をチェックして選んだセンスの良さを感じる。
戦後まもなくの銀座ラッキーダンスホール、経営する33歳の長女に朝海ひかるさん。宝塚トップスターの気品、歌ダンス佇まい全てに秀でたオーラ。後半のチャイナドレス姿はスタイルの美しさが際立つ。
終戦しても米軍の特殊任務に取られ、帰って来ない夫を待ち続ける次女の南沢奈央さん。以前のボーイッシュな雰囲気と打って変わって彼女とは気が付かなかった。
歌手を夢見、レコード会社のオーディションを受けまくっている大原櫻子さん。男爵だった亡父の妾腹だが三女として家族同様に暮らしている。この大原櫻子さんの歌がある意味主人公。昭和歌謡との相性が良いのだろう、会場中を歌で魅了した。ファンクラブ限定の「祝!30歳!チーム39開襟シャツ!」を着用した人も多く変わらぬ人気。
受験生向けの月刊誌「螢雪時代」を愛読している秀才の末娘、平体まひろさん。ステージ中を走りまくるエネルギー。
男爵家の元運転手で戦後、闇成金で財を成した高橋克実氏。グラサンを掛けてると千葉哲也氏みたいでいかつい。ノリノリの役者馬鹿系で好感を持たれ観客を味方につけるタイプ。
ピアノの伴奏を務める朴勝哲(パク・スンチョル)氏。
ダンスホールに闇煙草を卸す枝元萌さん。MVP。
郵便配達人、尾上寛之氏。
特筆すべきは空襲で声を失った花売りの大田真喜乃さん!どこかで観たなとずっと思い巡らしていたが新国立劇場演劇研修所第19期生を2月に修了したばかりの彼女だった。5月にこまつ座のサザンシアターで朝海ひかるさんとタンゴを踊るとは···。才能ある若手をどんどん抜擢して夢のある世界を築いて欲しい。
枝元萌さんこそが井上ひさし作品の魂の気がする。市井に生きる名もなき庶民の体現。カッコイイ奴、綺麗な女等はいつの時代でも何とかなるが泥臭い一般庶民を自然に象徴出来るのは稀有。下手な奴に演じさせると嘘臭くて観てられない。こういう役柄を作為的だと感じさせると作品全体にダメージが及ぶ。そこが配役の難しいところ。枝元萌さんは『赤ひげ』に出ていても何の違和感もなかっただろう。こんな女優、日本の宝だと思う。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
南沢奈央さんの夫が好きだった歌を大原櫻子さんが口ずさむ。その美しさに涙ぐんだ。枝元萌さんと尾上寛之氏の再会、窓辺で月の光を浴びる二人の後ろ姿に合わせる曲も良い。平体まひろさんのハモリも良かった。
南沢奈央さんのどこか他人事のような達観した物言いに「お姉ちゃんはいつだって小説の台詞みたいなことしか言わないじゃない!」との平体ツッコミも良かった。
全てを失った無力さで絶望するも、「何もかも忘れて出直すしかないじゃない。」の台詞。高橋克実氏も朝海ひかるさんも立ち上がり日常を何とか繰り返す。いつかきっと元気になってまたやり直せるだろう、その日まで。だって他に何の手の打ちようがない。まずは日常を繰り返すのみ。
アフタートークも凄かった。大原櫻子さんが美空ひばりの「みだれ髪」をアカペラで歌うサーヴィス。この人ヤバイな。昭和歌謡を歌うコンサートなんかあれば行ってみたい。
高橋克実氏のことはよく知らず、元々は落語家か何かだと思っていた。調べると劇団離風霊船の『ゴジラ』が転機となった役者。当時、NHK教育で日曜日の夜にやった奴を録画して観た記憶。『ゴジラ』を演劇でどうやるのか?という興味。観た感想は「ああ、こっち系か」。この時のイメージは強烈で自分にとって演劇というものへの偏見を根付かせた。自分の観たいものではないなと。今観たらまた違うのかも知れないが。(当時、調子に乗って『ゴダールのマリア』とかもフジテレビの深夜のノーカット版を録画して無理矢理観た。全く歯が立たなかった)。
もうこの所、演劇人は反戦の為に何か自分に出来ることはないかと自問自答しているようにも思える。どうしたら日本と戦争を切り離せるのか?今作の血肉には何処を切っても反戦が流れている。戦争で日本はどれだけ絶望的な目に遭ったことか、どれだけ後悔したことか。もう二度とこんな思いを日本人は繰り返すべきではない。理屈を超えた呪い、それは最早祈りですらない。何とか逃げ延びよう。多分、一度一線を越えたら後は一本道のような気が。闘争本能は動物のどうしようもないカルマ。卑怯に逃げまくるしか道はない。
反戦は敢えてメッセージに入れなくても殆どの日本人の無意識に刷り込まれている筈。手塚治虫藤子不二雄石森章太郎永井豪水木しげる白土三平で育ったガキが戦争をしたい訳がない。どうにか自分の人生から戦争を避けたいに決まってる。卑怯者と罵られても個人主義の権化で逃げまくってやれ。
※エルネスト・デ・クルティス作曲の「Non ti scordar di me」=「やさしき花」。
作詞ロレンツ・ハート、作曲リチャード・ロジャースの「ブルー・ムーン」。
どうも不安な様子
劇団た組
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2026/05/07 (木) ~ 2026/05/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
上手奥、キィィィィィッと鳴るドアを開けて次々と人がステージに入って来る。全身ビニールに包まれて圧縮袋に潰されたような顔、宇宙人のような妙な動き。夏帆さんが現れて紙相撲をするようにステージを両手でトントン叩く。その振動で小刻みに動く面々。
滅茶苦茶面白い。久し振りに爽快な帰り道。台湾人にもガッチリ受けただろう。Jホラーのような語り口も巧い。凄く古典的なテーマのように思えるが実は人間の知性、意識にとって根源的に存在し続ける永遠の課題なのかも知れない。フィリップ・K・ディックが生涯取り憑かれた世界。遙か未来にもおんなじようなことを人間はぐだぐだ考えていそう。
ゲーム会社のプログラマー、金子岳憲氏は新作VR(仮想現実)ゲームの舞台として台湾を設定。子供の頃、親の仕事の都合で台湾で暮らしていた妻、夏帆さんにゲーム内で使用する小道具などのアイディアをお願いする。色々と卒業アルバムやら当時の持ち物やらを探してみる夏帆さん。その中に石のようになった果実が密閉された小さな瓶を見付ける。それが何なのか全く記憶にない。突然、林家麒(ガキ・リン・ジアチー)氏が来訪。彼は夏帆さんの台湾時代の同級生、今は日本で金子岳憲氏と同じゲーム会社でプログラマーを勤めている。混乱し怯え切った彼は一晩泊めてくれと頼む。誰かを殺した妄想に取り憑かれて逃げ回っているのだと。本当は誰も殺してなんかいない。それでもずっとこの強迫観念に追い立てられている。妄想の殺人の捜査の手に怯え切っていた。
夏帆さんの台湾の小学校時代の同級生達。
秋元龍太朗氏。現在は日本で働いている。
竺定誼(デイヴィッド・チュー・ディンイー)氏。悪戯好きの悪ガキ。
何冠儀(ホォ・クァンギィ)さん。不思議な瓶を拾う。
台湾華語=中国語。台湾の公用語は北京語ベースの中国語。背面、字幕にて全ての台詞が投映される。全員がバイリンガルであろうといった設定で日本語と台湾華語が普通に会話として成立していく。タイミングもばっちりで面白い。
監修の許哲彬(トラ・シュー・ジャービン)氏の劇団、「四把椅子劇團(スーバー・イーズ・ジュゥトゥアン)」=「フォー・チェアーズ・シアター・カンパニー」が全面協力。
舞台監督の許正蕾(シュー・チョンレイ)氏が凄いのか?
映像オペレーターの傳安(フー・アン)氏が凄腕なのか?
手を画面に突っ込んで物を出したり、VR空間に飛び込んだりのタイミングが完璧。ここが今作の肝だとも言える。ファミコンのようなレトロなVRキャラも映える。
主人公・夏帆さんが非常に魅力的。長澤まさみのように光輝いていた。
是非観に行って頂きたい作品だが、もうチケットは取り辛いだろう。このネタは再演、もしくは深化させて別の形で上演される筈。
ネタバレBOX
林家麒(ガキ・リン・ジアチー)氏は自分がこうなったのは台湾の小学校時代のサマーキャンプに原因があると言う。5人の仲間で夜の校舎の肝試しに行き、後ろから声を掛けられても振り向いてはいけない階段を上った。そこで最後尾の何冠儀(ホォ・クァンギィ)さんが振り向いてしまい瓶を手渡される。果実が詰められた小瓶。それを使って占いをしてみる。次々に当たる占い。それはいつしか占いではなく呪いのように思えてくる。その時の呪いが原因だと。
そんなこと殆ど覚えていない夏帆さん。林家麒氏はVR世界にそれを出来得る限り精密に再現し、過去の謎を解き明かそうとする。AIにそれぞれの人間性を入力し学習させる。
「センテンナ(厶)、フルホビル」=「光よ集まれ」という意味のマントラ(真言)。
パンムシ=シバンムシ(死番虫)。
AIキャラを育てていく絵面が面白い。幽霊を飼育しているみたい。テーマは「拡張」と「病的な幻想」。どちらも自分の思い込み次第。全ては自分次第で制限はない。
フィリップ・K・ディックの作品は自分の記憶が本物なのかという不安と自分は自分であると確定させる確かなものはあるのか?という問いが主軸。映画化された『ブレードランナー』や『トータル・リコール』は世界中に不安神経症を伝播させた。影響を受けた押井守、『パーフェクトブルー』、『マトリックス』、『ダークシティ』、『オブリビオン』、『インセプション』、『オープン・ユア・アイズ』など傑作は無数にある。
今作のVRの設定は漫画『20世紀少年』に登場する「ともだちランド」の装置、ヴァーチャルアトラクションに近い。可能な限りの記憶と情報を入力して作った過去の空間。限りなくリアルな過去を疑似体験できる施設。ある種のタイムトラベル。
ラストは楳図かずおの『14歳(フォーティーン)』や萩尾望都版『百億の昼と千億の夜』のラストを彷彿とさせる。
スターリン 「T-Legs」
お前は透明 無理矢理消された沈黙
お前は透明 無理矢理消された
お前は蒸発 正体不明を更に隠す
お前は蒸発 正体不明を更に隠す
喉の奥から手を剥き出せば
TIME LIMIT TIME LIMIT
不安が不安を喚び起こしても存在理由が見当たらないんだ
TRANS
サードステージ
本多劇場(東京都)
2026/04/28 (火) ~ 2026/05/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
元andymori、小山田壮平の曲 、「君の愛する歌」が繰り返し流される。
風間俊介氏は安定した技術に裏打ちされた安心感。流石の人気。
岡本玲さんは『みんな鳥になって』以来。貫禄。
伊礼彼方氏は初めて観たが凄腕。羽賀研二っぽいマッチョなハンサムで場数をこなして来た故の自信溢れる実力派。何でも出来る器用な人。ファンがつく訳だ。
ネタバレBOX
30代の精神科医の岡本玲さんのもとに患者として風間俊介氏が訪れる。二人は高校時代、友人だった。フリーライターをしている風間俊介氏は時折意識を失い、別の人格になっているらしいのだがその記憶はない。別人格のもう一人の自分への不安と興味。
オカマバーでボッタクリに遭う風間俊介氏、彼を助けてくれたのはその店のオカマの伊礼彼方氏。二人は高校時代、友人だった。久方振りの再会に喜びと戸惑い。
三人は高校時代、いつも校舎の屋上で空を見上げていた。他の連中とははぐれていた。卒業となって三人で約束する。これで皆お別れだけど、もしこの中の誰かがここから飛び降りたい程追い詰められたらどんな状況であっても三人でまた逢おう、助け合おうと。
風間俊介氏の別人格が自称南朝天皇の流れから自分的にはあんまり好きじゃない。もっと暗い設定の方が好み。
明治時代の誇大妄想狂・蘆原金次郎は将軍や天皇を自称し精神病院に入院、マスコミによって特殊な人気者に祭り上げられた。筒井康隆が『将軍が目醒めた時』という小説に。
今作の直接のモデルであろう熊沢寛道は戦後、GHQに自分こそが正統な南朝天皇であると請願書を送る。マスコミも面白がって熊沢天皇と呼ばれ特殊な人気者に。
作家になりたかった風間俊介氏は書きたいものが見付からず、依頼主の求める通りをなぞる売文業をやっている。本当の自分への憧れ。いつかそれを知れば本当の人生が送れる筈だと。
カルト宗教に嵌まって大学を辞め、人生を費やした岡本玲さんは自分を殺そうとする悪魔の正体が母親だと知る。大学に入り直して精神科医となるも、妻子持ちの医師を愛し不倫関係の挙句、妊娠。どん詰まり。
作家になりたかった伊礼彼方氏は自分探しの末に同性愛者に辿り着く。愛されたかったのか愛したかったのか。他人と絶対に崩れない信頼関係を求めては失うことの繰り返し。そんなものは何処にもないのか?
今作を観た自分の勝手な解釈。
これは鴻上尚史氏から舞台を観に熱心に集う観客達への心からのラブレターである。何処かしら病んだ貴方達が僕を必要としてくれるから、僕は手を変え品を変え作品を創り続けることが出来る。この関係に終わりはない。もしかしたら病んでいるのは僕の方で貴方達からカウンセリングを受けているのかも知れない。それでも構わない。僕がずっと傍にいて君を守る。僕と君が入れ替わったとしてもそれは同じことだ。
ブルーハーツ 「夕暮れ」
何年経ってもいい 遠く離れてもいい
独りぼっちじゃないぜ ウィンクするぜ
※ここから関係ない話。
当日パンフである「ごあいさつ」に今作への覚え書きが記されている。鴻上尚史氏は小学生時代の初恋の女の子と大学生になって東京で再会する。全てにおいて誰よりも優れていた聡明なあの娘は統一教会に入り苦しんでいた。彼女程の知性の持ち主がこんなカルトに嵌まるのか?いろいろと相談に乗りたかったが当時鴻上氏も忙しく恋人もいた。時は経ち、ある日彼女から手紙が届く。彼女が脱会出来たこと。ふと貴方のアパートに行ってみたけど貴方は留守だったこと。もしその時、自分が居たとしたらどうなっていたのだろう?
ブルーハーツの「夕暮れ」を久し振りに聴いたが良い歌だな。結成当時、ブルーハーツのマネージャーだった河口純之助、ベースのメンバーが固定せず仕方なくベースを弾くことに。以前組んでいたバンドではギターだったのでベーシストとしては素人同然。下手糞な演奏技術だったが余りの楽曲の良さであれよあれよと言う間にメジャー・デビュー、すぐに武道館、全国的な人気。ヒロトの説得力のある心のこもった声とマーシーの論理的な詞が全国のガキ共にメチャクチャ突き刺さった。青少年の精神的悩みを解決する救世主のようなカリスマ性。沢山の悩み相談が全国から山のように寄せられた。詞を書いていたのはほぼヒロトとマーシーだったが河ちゃんにも沢山手紙が来る。根が真面目な河ちゃんはその一つ一つを真剣に受け止め、どうすればいいのかとことん考えた。どうすれば皆の苦しみを救えるのか?そんな時、ある一冊の本に出逢い、衝撃を受ける。大川隆法著『太陽の法』。この本に全ての答は書かれていた。全ての悩み苦しみへの解答がここにある。幸福の科学に入信。ライヴ後に悩めるファンを集めて勧誘する。ヒロトは激怒する。「こんなことやめてくれ!」と。河ちゃんの本気とヒロトの本気。皆本気だったからバンドは成立しなくなった。ラスト・アルバムとなった『DUG OUT』に「夕暮れ」は収録されている。ヒロトから宗教的な論理へのアンサー・ソングだろう。
その後にブルーハーツ名義で『PAN』というアルバムが作られるがレコード会社との契約の為、無理矢理作ったもの。4人がそれぞれソロで楽曲を制作録音、バンドの作品ではない。
ブルーハーツのファンクラブ「ブルーハーツ集団」の会長であった亀岡寿江はオウム真理教に入信し雑誌の取材にも答えた。「ドブネズミみたいに美しくなりたい」という歌詞を真剣に受け止め、全ての生命は平等であると思い至る。ゴキブリですら殺そうとしないオウム真理教の思想に本物を感じて入信。真実の仏教を実践する為に。
無論、自分も「ブルーハーツ集団」に入っていた時がある。幸福の科学もオウム真理教も一通り目を通したが全然魅力的じゃなかった。何か違う。ただの支配システムじゃないか。人間が望むのは己の自由だけでいい。そこには何も嘘がない。
中年の好機
さよなら人生
スタジオ空洞(東京都)
2026/04/18 (土) ~ 2026/04/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
語り口が軽妙で何処に転がるか分からない話に自然とのめり込んでいく。ウディ・アレンのセンスだ。コーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』なんて作品も思い出した。気分はニューヨーカー、ノリノリの面白さ。電話を使った話の繋ぎっぷりが巧み。
倉田大輔氏=スティーヴ・ブシェミ 、市原文太郎氏=フィリップ・シーモア・ホフマン、豊田可奈子さん=メラニー・グリフィス(もしくは桃井かおり)のような気分で観ていた。
組んでたバンドもとっくに解散し40過ぎて母親から金を借りて暮らす自称音楽業界人、倉田大輔氏。不安と焦燥と諦めの混じった毎日。久方振りに妹(今村美乃〈よしの〉さん)から電話。妹の親友(黒沢佳奈さん)が結婚するので相手の男を見定めて欲しいとのこと。嫌嫌顔を出すと相手の男(市原文太郎氏)は40代後半で結婚歴なし。食事会後、妹の指令で倉田氏は彼を探るべく、軽く飲みに行く。案外気のいい奴じゃないか。数日後、彼の方から連絡が入る。一体俺に何の用が?
倉田大輔氏と市原文太郎氏の掛け合いが本当に仲が良いんだろうなと思わせる程見事。熟練のコンビのような気の知れた空気。
今村美乃さんがTHE芸能人の美人オーラ、強い。
黒沢佳奈さんの独特の雰囲気。
豊田可奈子さんは衣装を何着も替えてサーヴィス。
凄く面白い。「それが通用するのは20代まで」のパワーワード。そんなものとっくに通用しなくなったおっさんとおばちゃんの恋バナ。
是非観に行って頂きたい。
Flowering Cherry
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2026/04/15 (水) ~ 2026/04/23 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
金を払うに値する高レヴェルの芝居空間。古典的名作とされるだけの強さがある。台詞の遣り取りで語られる一つ一つのエピソードが目に浮かぶ。
『アラビアのロレンス』、『ドクトル・ジバゴ』、『ミッション』等の映画で世界的な名声を得た脚本家ロバート・ボルト。彼の出世作となった舞台『花咲くチェリー』は1957年11月20日初演。日本では1965年、文学座で初演。北村和夫が400回主演してライフワークとさえ呼ばれた。(最後となった2004年の地人会公演では主演北村和夫、奥さんベル役に八千草薫さん!)
1957年の初春、ロンドン郊外に住む一家の物語。旅行保険のセールスマンから管理職に出世したジム・チェリー(加藤健一氏)にはずっと夢があった。いつか故郷のサマセット(イギリス南西部地方)に戻り、リンゴ園を経営すること。生家がそれを生業にし、満ち足りていた黄金時代の記憶。
妻のイゾベル=ベル(山本郁子さん)、20歳で結婚して25年夫に尽くしてきた。
徴兵の近いT・S・エリオットを愛読する生意気な19歳の息子、トム=トーマス(澁谷凜音〈りん〉氏)。
デザインのセンスで特待生候補の女子高生、ジュディ(小田あかりさん)。
ジュディの憧れで、卒業したら一緒に部屋を借りて住む約束をしている学校のスター、キャロル(菊地歩さん)。
ジムの同僚で気の優しい友人、ギルバート・グラース(林次樹氏)。
突然の来訪者、デイヴィッド・ボウマン(浅井伸治氏)。
浅井伸治氏は内田健介氏を思わせるノリで笑いをかっさらう。
澁谷凜音氏はメンタリストのDaiGoっぽい。
山本郁子さんは森光子の面影を。
加藤健一氏は舘ひろしと三船敏郎を足したような苦み走った魅力。
シードル(リンゴ酒)と言うよりもスクランピーの入ったミニ樽が家に鎮座している。(スクランピーとはイギリス南西部地方で飲まれるリンゴ酢に似た味の強烈なシードル)。これをガブガブ飲む姿が実にいい。
黒澤映画を観ているような面白さ。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
メチャクチャ好きなエピソードがジムの少年時代のリンゴ園での思い出。洞穴のような真っ暗な小屋に住む怪力無双の大男、デシー・ビショップ(?)。馬を肩に担いで歩き、太い火掻き棒を腕の力でねじまげて輪っかにしてしまう化物。荒くれ者ばかりの農夫の中で一際飛び抜けた英雄。こんな汗と力だけの神話のような世界でそんな男達になることに憧れたガキの頃の自分。
ベルがジムの夢を叶えてやろうと後押しする。この人は自分の夢を我慢して生きてきたから駄目になったのであって、本当にやりたいことをやらせてやれば望んでいた幸福に辿り着ける。その為に全てを捨ててもいいと思う。だが現実のジムは夢が実現することに怯えて逃げ惑う。ベルはその姿に心底落胆する。自分はこの男の何を信じて愛してきたのか?そもそもそこには何もなかった。山本郁子さんの名演。
アフタートークでの加藤健一氏の見解として、花は咲くが実がならないという意味でタイトルを『The Flowering Cherry』=『桜』としたのだろうと。英国では実を食べるものをcherry、観賞用のものをJapanese cherry、flowering cherry、Japanese flowering cherryと呼んでいるそうだ。
役者生活56年目の加藤健一氏にとって今作の役作りが今までで一番難しかったと語る。主人公ジム・チェリーは結果的に嘘ばかり口にしてしまう男なのだが、それが意識的なものなのか無意識的なものなのかの判別が難しいと。ただ夢想、逃避として夢を語っているだけなのか、どこかに本気の思いが込められているのか。台詞の一つ一つを吟味したと。
役者の役作りの深さに感心した。プロファイリングのような徹底的な考察と肉付け。役作りにのめり込む俳優はまるで哲学者だ。
黒澤明に『生きものの記録』という作品がある。『七人の侍』で天下を取った黒澤明がその翌年に撮った作品。大不評で興行的にも失敗した。核爆弾、核実験、放射能汚染···、次々に報じられるニュースに下町の工場経営者の三船敏郎は恐怖する。全財産を処分し家族でブラジルに移住して逃げようと独断で決める。冗談じゃないと家族は皆大反対、財産分与の話に。三船は無理矢理にでも従わせようと自分の工場に放火、焼け野原に。財産なんか無くなれば諦めて皆付いてくると思い、良かれとやったことだった。だが家族以外の工場の従業員達の生活はどうなるんだ?と責められる。ハッとその過ちに気付いて三船は平謝り。お前等家族さえ助かればいいのか?と詰められる。土下座して土下座して土下座して···、三船は気が狂う。
今作のラストにそんなものを感じた。
粛々と運針
iaku
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2026/04/09 (木) ~ 2026/04/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
幾何学的なデザイン。ステージと客席はシームレス。大きな円形の輪っかが天井から吊り下げられている。バックには左右から登る階段と中央の谷間、その上に白く長いシーツが被さってM字を描いている。開演すると円形の輪っかが斜めに降りて来る。階段を登って鄭󠄀梨花(チョン・リファ)さんと林英世さんが左右に腰を下ろし、白い布を手に取り縫い物を始める。チクタクチクタクと。運針=並縫い。輪っかの下りた中央がステージ。その外では椅子に座って出番まで待っている役者達。
中山義紘(よしひろ)氏と佐々木ヤス子さん夫婦の物語。オカマを掘られて首にコルセットを着けている中山義紘氏。夢だった一軒家を建てローン返済の為にもバリバリ働く佐々木ヤス子さんは課長代理38歳。家の周囲で子猫の声がする。猫を見付けたい。中山義紘氏は小動物が苦手で見付けた所でどうするの?と口論になる。変な空気。佐々木ヤス子さんはある相談をする。
花戸祐介氏、鈴鹿通儀氏兄弟の実家。家を出て結婚もしている弟と40過ぎても高校出てずっとコンビニのバイトを続けているだけの兄。母親が膵臓癌で入院、手術が必要。本人は尊厳死を望むと言う。それに肯定的な弟と絶対に許せない兄の口論。
三組の会話が並行して語られる。
佐々木ヤス子さんは38歳設定にしては若すぎる。井上貴子と福田麻貴をフュージョンさせたような感じ。凄く魅力的な女優。
中山義紘氏は村野武範の若い頃みたい。
テーマは「生と死と自分と他人」。ずっと自分のことも含め考え続けてしまうような舞台。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
運針の手を止め、林英世さんが鄭󠄀梨花さんに話すのは実家の川沿いに立つ桜並木の思い出。春に満開の桜が咲き誇り桃色の花びらが風に舞って飛ぶ様。川に降り落ちる花びらを筏に乗り法被を着た職員が笊で掬う風物詩。今では桜の樹は全て切り倒され川にはフェンス。当時の面影の欠片もない。個人的にはこのエピソードが一番好き。
花戸祐介氏が母親に孫の顔を見せてあげたいからと弟に子作りを求める。その論理に無理があってイマイチのれない。(作品展開上の都合みたいで)。
佐々木ヤス子さんの抗弁が光る。世間的に「正しい」とされていることは果たして「正しい」のか?観客が求めるのは所謂「正しさ」のハッピーエンド。それで安心する。だがそれは思考放棄した所謂「正しさ」、現実とは繋がらない。嘘じゃなく本当が欲しいんだ。
生きている人間の世界外にいる存在がチクタクと時間を縫って進めていく。どんな答が出ようが出まいが時間だけは過ぎていく。100%の正解なんて何処にも見付からないまま、小さな選択を繰り返して生きていく。それが正しかったのか間違っていたのかさえもう誰にも解らない。
まだ産まれてもいない鄭󠄀梨花さんの存在が微笑ましい。
母の人生、ガブリと食らう
劇団道学先生
吉祥寺シアター(東京都)
2026/04/04 (土) ~ 2026/04/13 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
これは傑作。今年観た中でも抜群。観ていて嬉しくなってニヤニヤしてくる。深井邦彦氏の追求する世界と道学先生の積み上げてきた歴史が融合して新たな地平を見せるビッグバン。『水星とレトログラード』を思わせるシーンもあり、ニヤつく。
きっちり笑いを取りに来る青山勝氏。
藤崎卓也氏のキャラの強さ、無双だな。卑怯。
ただ声がデカいというだけの川合耀祐(ようすけ)氏も素晴らしい。ここはキツイ役どころ。
福田ユミさんはある意味主人公。
松永玲子さんは昨年12月中旬に下駄骨折。そのまま『焼肉ドラゴン』凱旋公演をこなし、入院、手術。今作が復帰公演。松葉杖をネタにする。
かんのひとみさんはいつもながら最高。
最強の布陣で臨んだ戦。
一人暮らしの78歳の老婆がアパートの浴槽で死んでいた。背中を向けて浮いていた。
その娘である長女59歳独身=かんのひとみさん。次女54歳=松永玲子さん、シンママ。三女46歳=福田ユミさん、晩婚。43年前に家を出て行ったっきりの母親。直葬を執り行い遺骨を受け取る。母の暮らした電球が切れたままの暗い部屋でかんのひとみさんはふと思う。ここに住もうと。
今回、観とかないと後悔する。演劇曼荼羅は組み上がった。ここ数年の作品群は今作に結実する。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
松永玲子さんの19歳の娘、川口桜さんの強いキャラ。アパートの隣人・鎌宮彩羽さんといい、化物女優陣に囲まれたプレッシャーは相当なものだろう。後に人生の誇れるステージとなる。
大家夫婦、石川佳那枝さんと中臺(なかだい)広樹氏、かなりの長身。
パチンコ屋の店員、鵜飼拓斗氏29歳のキャラ。
佐藤達(とおる)氏のリアルなDVっぷりにしずちゃんが心配になった。
クライマックスの感動話で宮地大介氏がまとめ上げるところを松永玲子さんが冷淡に振り払う深井邦彦節。感動や感謝は条件反射的なお約束スイッチじゃないんだ、個人個人の人生の積み重ねが培う個々のもの。予定調和の感動ごっこを求めてはいない。もっとそれぞれの日々の生活と通底しているものを。
かんのひとみさんのメラメラ燃える業火。
※部屋の天井に付いた切れた電球をじっと見つめてかんのひとみさんは思う。母には手の届かないこの電球を替えて貰う人もいなかったんだろうな。それが孤独。どこまでも独り。自分で出来ないことは諦めるしかない。自分達を捨てて去って行った母。その孤独ならば共有出来ると思った。孤独は深く暗い井戸の底を恐る恐る覗き見る行為。その向こうに何かがいる。
「万有引力とはひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う」
自分の存在と向き合う為に人は生きている。
「人間は皆、自分のことが一番大事。でも自分以上に大事に思えてしまえる錯覚こそが家族。家族には醒めた心ではなれない。熱情に浮かされた狂気がないと。」的なことを松永玲子さんが熱弁。
案外死んだ人もその辺にいるのかも知れないと思うラスト。もしその辺にいるのならばまた楽しくやろうぜ。
マンマ・ミーア!
劇団四季
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2026/04/05 (日) ~ 2026/08/06 (木)上演中
実演鑑賞
満足度★★★
ギリシャ、エーゲ海に浮かぶ小さな島、カロカイリ島。(映画のロケ地となったスコペロス島がモデルらしい)。ドナ・シェリダンはホテル 「Villa Donna」のオーナー、女手一つで娘ソフィを育て上げた。20歳になったソフィは恋人スカイと結婚を決意。ドナは複雑な想い。学生時代、友人のロージーとターニャと「ドナ&ザ・ダイナモス」というバンドを組んでいた程、陽気でエネルギッシュ、パワフルな女。
主人公ソフィ・シェリダンは三平果歩さん。アニメ声優っぽい声。ノリノリダンス。
母親ドナ・シェリダンは江畑晶慧(まさえ)さん。まさかの韓国人、巧い。岡元あつこや渡辺えりのエネルギー。彼女が歌い出すとたちまち世界は持ってかれる。
リッチな友達、ターニャは恒川愛さん。長身173cmの美脚。小林幸子やカルーセル麻紀の面白さ。やたらコミカル。
バーテン、ペッパーは菊池俊氏。ブレイクダンスが強烈。
「マネー、マネー、マネー」がABBAだったとは。
「マンマ・ミーア」、「ダンシング・クイーン」は流石。「スーパー・トゥルーパー」も良い。「ギミー!ギミー!ギミー!」も盛り上がる。この曲のブリッジは凄い。
カーテンコールでミニペンライトの使用がOK。殆どの人が持参している程、大人気。1個1000円でマイクの形。一人で10個以上振っている人も。
ネタバレBOX
第一幕はぼんやり観てた。
第二幕からが面白い。三平果歩さんの「アンダー・アタック」の日本語訳も良い。「ワン・オブ・アス」から江畑晶慧さんのリサイタルのような怒涛のショーが始まる。田中彰孝氏との「SOS」が名曲。鈴木涼太氏との「Our Last Summer」。
ジュークボックス・ミュージカルは何かカラオケ大会みたい。歌の入る必然性がないような。劇団四季独自の棒読みのような丁寧な台詞回しが時々入る。
話は余り面白くない。誰が父親でもDNA鑑定して判明したところで今更何とも思わない。ソフィが結婚式をやめて世界中を旅する展開もよく分からない。だが全員無理矢理ハッピーエンドなのでまあ、いいか···、みたいな。
アメリカ人建築家・サム・カーマイケル(田中彰孝氏)、ドナと別れ婚約者のもとに帰るが結婚を破棄してドナのもとに戻る。だがビルとドナが付き合っていることを知り、諦めて帰る。
オーストラリア人冒険作家・ビル・オースティン(脇坂真人氏)、叔母が遺産をドナに相続させる。
イギリス人銀行家・ハリー・ブライト(鈴木涼太氏)、同性愛者だが唯一ドナにだけ恋をした。
ポルノ
ゴーチ・ブラザーズ
本多劇場(東京都)
2026/04/02 (木) ~ 2026/04/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
坂のやたら多い坂上町、町会議員選挙に立候補した国旗耕二(玉置玲央氏)。弱者の為の政治を掲げ、老人や障害者の為の町作りを訴える。全ての坂をエスカレーターにするだの健常者に過度な負担を押し付ける歪んだ公約の数々。その異常さを感じ取った町民は離れて行き、焦る日々。家に閉じ籠もりっきりの妻の美和子(前田敦子さん)はそんなことより子供が欲しくて堪らない。ある日、国旗耕二はより弱者に寄り添う候補者になる為、一つのアイディアを思い付く。
着ぐるみショーで坂上町を盛り上げようとする地元の劇団(?)「坂上町ファンタスティックス」。
エース格の鳥越裕貴氏。
着ぐるみだけでなく、いろんなオーディションを受けて自分の可能性を試そうとしている藤谷理子さん。
鳥越裕貴氏の大ファンの小野寺ずるさん。
玉置玲央氏はカメレオン俳優。前観た時と同じ人間とは思えない。その尻尾を掴ませない。かなりの所まで成り上がるだろう。
前田敦子さんは161cmのスラッとしたスタイルの良さが際立つ。こういうキャラはお似合い。『町田くんの世界』のヤンキー女とか脇を固めるスパイスとして使うと魅力的。漬物石だとコミカルすぎてもっと視覚的に痛い小道具が良かった。
鳥越裕貴氏は風間俊介みたいに見えた。
藤谷理子さんはどの作品観ても最高。
小野寺ずるさんはシム・ウンギョンっぽい。
岩本晟夢(せいむ)氏は大窪人衛っぽく見えた。
うぇるとん東氏はタカアンドトシのタカ寄せ。胸板が厚くてガタイが良い。
ネタバレBOX
全く脚本が好きじゃない。『まぼろしの市街戦』だとか全員キチガイネタはよくある話。その上での面白さなのだが自分とは笑いのセンスが全く合わない。こりゃ失敗した、と思って観てた。が、後半の藤谷理子さんが素晴らしい。(前半もちょこちょこ気になっていた)。この良さは一体何なんだろう?何でこんなに良いと思うのか?よく分からないが何か彼女観れただけでも行って良かったな、と思えた。
うぇるとん東氏演ずる着ぐるみの精。藤谷理子さんが辞めてから倉庫でずっと放って置かれたまま。脚を折った彼女が治ればまた中に入って貰えるかなと願う。突然、彼女の介助の存在として現実世界に実体化する。また元気になった彼女に生を吹き込んで貰いたい。甲斐甲斐しく世話を焼く妙な純情。ちょっと売れてる芸能人気分に酔っている藤谷理子さんとのズレが面白い。「何でそんなに弱いのよ!」など細かい設定がいい。
ポスターの絵が真鍋博や柳原良平の書く小説の表紙っぽいと思っていたが横尾忠則かも知れない。
江戸川乱歩の『孤島の鬼』は奇形として生まれ差別に苦しんできた男が、息子を外科医にし、さらって来た子供達を無理矢理奇形に手術していく話。ゆくゆくは奇形人間の王国を作ろうとしていた。
そのぐらいイカれてないとこっちは興奮しなくなっている。
クラバート
デフ・パペットシアター・ひとみ
シアター・アルファ東京(東京都)
2026/03/27 (金) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
本間智恵美さんの回。
シアター・アルファ東京、2階の受付がメチャクチャ綺麗、美容院かと思った。
開演前、やなせけいこさんが出て来て素体人形の顔を探す。鶴田理紗さん、榎本トオル氏と出て来る。手話を使いながら会話。見付けたお面のような顔を被せるとクラバートと少女になる。
ろう者の榎本トオル氏は何故か腕立て伏せを始める。オーディションで選ばれたろう者の本間智恵美さんは初人形劇、骨伝導イヤホン?を着けていた。そして鈴木文(あや)さん。
5人中、ろう者2人、聴者3人。
基本サイレントで台詞なし、どうしても必要な時は紙に書いた文字が出て来る。面白いのはずっと鈴の音が鳴っていること。やなせけいこさんが構成した音が散りばめられている。下手にフライパンが幾つも下げられメトロノームが3個。上手には台所用品の数々。全て効果音の為の仕掛け。ズボンにぶら下げた鍵束のカチャカチャ音。ずっといろんな鈴の音がチリンチリン鳴り続ける不思議なサイレント。眠気を誘われて寝ている人も居た。夢の中の光景。
門付けや物乞いをしながら旅をして暮らす少年クラバート。彼が辿り着いたのは人里離れた水車小屋。片目の眼帯をした親方、職人頭の赤顔トンダ、赤髪のユーロー、弱い者いじめばかりするリュシュコー。小麦を水車の力で挽いて小麦粉を作る仕事。何も出来ないクラバートはリュシュコーにいじめられるがトンダが不思議な術で手助けしてくれる。親方は魔法典を読んで皆に少しずつ黒魔術を教える。トンダが魔法を使って親方の目を盗み、クラバートと町に出る。女の子との出逢い。優しかったトンダはある日変死体で発見された。クラバートは復讐を誓う。ユーローがクラバートに親方の魔法に対抗する訓練をしてくれる。
パペットを抱いて動かす出遣い。
クラバートは鈴木文(あや)さん。
恐怖の親方は榎本トオル氏。手を伸ばす術を複数の人で再現。
ユーローは本間智恵美さん。
野山を放浪するクラバートをありとあらゆるアイディアで表現。手動で回転する平台をぐるぐる回して活用。黒いゴミ袋で作ったカラス。ワンタッチ傘に帽子を掛け、カラスが飛ぶシーンを再現。
魔法陣としての光る円をフレキシブルLEDフィラメントで製作。
完全に無音で弁士を付けても面白いと思う。
ネタバレBOX
「お前の恋人を探しあてろ」が冒頭に登場。失敗して全て御破算。
『クラバート』は一番好きな話なのでやると知ると気になる。元々、『大どろぼうホッツェンプロッツ』シリーズが大好きで同じ作家の今作を子供の頃、手に取った。『千と千尋の神隠し』を観た時もラストのオマージュに驚いた。
親方がイルコーを倒す話とデカ帽の話を混ぜている?急に挿入されるので意味が受け取り辛い。スクリーンにビデオ映像を投影して魔術合戦。
全く話を知らない人にも伝わったのか?
ガウディ×ガウディ
アニマ出版/テレビ朝日/E Xエンタテインメント/サンライズプロモーション
EX THEATER ROPPONGI(東京都)
2026/03/14 (土) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2回目。
ガウディ(沢田研二氏)とロレンソ(串田和美氏)の友情のテーマ曲が良い。公園のベンチ。
どういう訳か馬が合う
会えない時も会える日も
二人はいつでも友達さ
ガウディのパトロンのグエル伯爵とライバルのムンタネーは有馬自由氏が一人二役。
サン・ホセ信心会の創立者、ブカベーリャ(すわ親治氏)。
トーラス神父と姪のロサを内田紳一郎氏。
ペピータ(中村中さん)のテーマ。
幼馴染は「あんたはずるい」
好かれ上手の恋愛上手
第二幕は歪ませた松江潤氏のギター・ソロが唸りを上げる。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
ペピータに失恋。ペピータがガウディの姪のロサについて「親族に知的障害者がいる人だと遺伝が怖い」と話しているのを聞いてしまう。姪を見ているのが辛くなって遠くの寄宿舎に預けた。何度も抜け出して家に帰ろうとした姪は街の男達の玩具にされる。酒を飲まされ犯された。アルコール依存症となって放校処分に。全部自分のせいだとガウディは悩み苦しむ。
復縁を求めてきたペピータとの無言の別れのシーンが美しい。公園のベンチ。この世で最も恋した女、もう二度と人を恋しく想うことなんてない。姪の人生をメチャクチャにした自分に君を愛する資格はない。サヨナラだ。
父親の口癖「与えられた試練と戦うのだ。それが天命だ。」
全ては神が人に思い知らせる為の出来事。
自分の愚かさ無力さ全てを受け入れろ。
「祈るのだ。神がお決め下さる。」
「全ては自然=神が書いた偉大な書物を学ぶことから生まれる。世の中に新しい創造などはない。あるのはただ発見だけだ。」
神が天命を告げる。自分の無力さをとことんまで思い知らされた。俺がやろうとしたことは全て筋が通っていない。全てが間違っていた。教会で神に祈る。自分を棄て、他力にすがる。本当に何もない無力な自分であることを認める。そこから神=自然の法則を素直に受け入れられる自分がいる。自分はこの自然の法則の中で限られた生を過ごす。天から与えられたものを天に返そう。あとは神の御心のままに。
サグラダ・ファミリア(聖家族教会)は石の聖書、石のオルゴール。それは人を幸せにするものでなくてはならない。天空の引力によって木々や草花は空へ空へと伸びていく。それがこの世界だ。
1894年の春、42歳のガウディは断食に入る。神に自分を委ねる決心。
1926年6月7日、午後6時5分、転倒したガウディは路面電車に跳ねられ三日後に逝去。
ラストの歌が良い。
それでも何度···、私は何度···、
破壊するものと創るものがこの世のバランスを司る。
「諸君、明日はもっと良いものを作ろう。」
【東京】下剋上宣言
ILL TOKAI UNDERGROUND
雑遊(東京都)
2026/03/25 (水) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白かった。一歩間違えると糞つまらない観念論争になりがちなのだが巧く切り抜けた。松本人志がAmazonプライムでやっていた『ドキュメンタル』に雰囲気は近い。「笑ってはいけないシリーズ」の対決版で笑った奴が退場して行くルール。最後まで残った奴が優勝。絶対に笑ってはいけない緊張感の中、ぼそっと笑えるナニカを提示していける奴が勝つ。笑いとは何か?を追求していくような作品。今作は演劇とは何か?芝居とは何か?虚構とは何か?逆に“本当”とは何か?を役者達が探り合っていく。
前説に立つ八代将弥氏、特殊漫画家・根本敬に似ている。こじらせ左翼系の神経質で付き合い辛いオーラむんむん。ピースサインで照明に合図を送りスタート。
元山未奈美さんの制作キャラ。
シライケイタ氏のけん玉。
山﨑薫さんの明治座。
果たして、下剋上は成るのか?
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
若手演出家コンクール2023にて最優秀賞に選ばれた八代将弥氏。審査員だったシライケイタ氏はその新しく独創的なスタイルに興奮し「一緒にやろうよ」と声を掛けた。名古屋で活動する元山未奈美さんを客演に迎え上京、東京のシライケイタ氏と山﨑薫さんと稽古場にて挨拶。今作の作劇法は独特でシナリオもプロットも用意されていない。素の会話からエチュード(即興芝居)に入り、それを何度も繰り返していく制作過程そのものをドキュメンタリーとして作品にすると言う。果たしてそれ面白いのか?誰もが不安に思う。ドキュメンタリーを撮りながら、そのラッシュをその都度皆で確認し、どうしたらもっと魅力的な作品になれたのかを議論し合う感じ。更にそれを撮っている。
壁を両手で叩くサインで「一度、止めます。」演技と本音とネタと役柄がシームレスに絡み合う。
「という役柄を演じているというテイでお願いします。」
そう言われるとせざるを得ない役者のサガ。
じゃあドキュメンタリーじゃないじゃん。
照明の明暗が演出を兼ねている。
面白いのはハプニングだと思わせた箇所が全部演技として組み込まれていたことが再現によって判明する。口紅のキャップを落とした山﨑薫さん、コーラの蓋を落とした元山未奈美さん。
再現と反復、それが演劇。そこを逃れようと足掻く者達は再現できないもの、反復できないものを求めた。計算できないナマの反応にリアルさを。
今作は凄く面白かったが、手の内が明かされた次の作品でも観客に面白いと思わせられるか?が気になる。より過激にしていく方法論だとすぐに飽きられ消費され行き詰まる。劇団普通の遣り口が正着のような気もする。
※ここから余談。
この系の作品だと『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE 2 サイキック・ラブ 』が一つの到達点だと思っている。自分で自分を演じながら作品として求められ望む場所へとリアルタイムで進んで行く映画。
寺山修司は『田園に死す』で自分の少年時代を映画化する。途中で作品はその映画を上映している試写会の現場と変わり、寺山修司は「こんなもの、全部嘘だ」と吐き捨てて出て行く。入れ子構造で虚構を破壊していく形。
1987年の原一男の出世作、『ゆきゆきて、神軍』。戦時中、ニューギニアで地獄を見た奥崎謙三は戦後、陸海軍の最高指揮官であった昭和天皇にパチンコ玉を発射するなど過激な活動を繰り返す。そのドキュメンタリー映画は奥崎謙三を煽り、当時の上官を追い詰めていく。上官の家に拳銃を持って押し掛けた奥崎謙三が息子を撃って逮捕されて終幕。キネ旬2位。ドキュメンタリーと言いつつ、被写体を煽る行為について議論された。
懲役十二年満期で出所した奥崎謙三77歳。1998年、彼を主人公に狂ったドキュメンタリー映画『神様の愛い奴』が製作される。府中刑務所出所を現地で再現する際に『死亡遊戯』の黄色いトラックスーツを着せるなど悪趣味全開。奥崎謙三を反天皇制の英雄にしようとする左翼の思惑を目茶苦茶にぶち壊した。「絶対に観ない方がいい」と人に念押ししたが必ずそいつは観るというジンクスあり。一生トラウマ・クラスの傑作。
相原コージの『一齣漫画宣言』が小学館文庫になった際、解説が庵野秀明だった。「今日のオナニーはしなくてよかったな」という作品に「表現者としてそれは絶対に言ってはならない!」と激しく警告していた。そののち、相原コージは鬱病になる。
『地獄の黙示録』の製作過程のドキュメンタリー映画、『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』。全然本編よりも面白い。これをより楽しむ為に『地獄の黙示録』を観ておく逆転現象が起きている。
伽羅先代萩
江戸糸あやつり人形 結城座
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2026/03/25 (水) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
仙台藩三代藩主の伊達綱宗は遊郭で放蕩三昧。(相手は吉原三浦屋の高尾太夫の噂)。1660年7月、家臣と親族大名の連名での陳情で幕府が動き、21歳で強制隠居させられた。四代藩主になったのは2歳の伊達綱村。その後、実権を握った大叔父の伊達宗勝の専横が問題になり、伊達宗重が幕府に上訴。幕府審問の控え室で伊達宗勝派の原田宗輔が訴えた伊達宗重を斬り殺す刃傷沙汰に。原田宗輔もその場で斬り殺された。この騒動の責任を取らされて伊達宗勝の一関藩は改易に。
今作はこの「伊達騒動」を鎌倉時代の奥州藤原氏一族に置き換えている。作者は松四貫、高橋武兵衛、吉田角丸。
伊達綱宗が吉原に通う際、伽羅(きゃら)の下駄を履いたという。最高級の香木である伽羅を銘木と読み、舞台である仙台藩を掛けたタイトル。逆に歌舞伎から由来し、マメ科の黄色い花にセンダイハギと名付けられた。
ネタバレBOX
義太夫・竹本越孝(こしこう)さん。
三味線・鶴澤津賀花(つがはな)さん。
①花水橋(はなみずばし)
福田善之が新たに書き下ろしたヴァージョン。屋台の二八蕎麦屋に来たベロンベロンに酔っ払った仲間〈ちゅうげん〉(三代目両川船遊氏)と蕎麦屋の親父(十三代目結城孫三郎氏)の遣り取り。
遊郭から駕籠で帰って来た足利頼兼を逆臣・仁木(にっき)弾正の配下である黒沢官蔵(小貫泰明氏)とその手下達が鎌倉・花水橋で襲う。オリジナルではお抱えの力士・絹川谷蔵が駆けつけて蹴散らすのだが、今作ではとある剣士・松が枝節之助(三代目両川船遊氏)が人形真っ二つに暴れ回る。
殺陣の時、人形の脚が180度開脚してしまうのが難点。不格好。
②竹の間
③御殿=飯焚き(ままたき)+政岡忠義
乳人(めのと=乳母)である政岡(三代目両川船遊氏)。「頼朝公からの見舞いの菓子」を逆臣方の栄御前(結城育子さん)が鶴喜代君(大島千波さん)に食べさせようとする。どうにも困った政岡であったが突然飛び込んで来た息子の千松(安藤光さん)が貪りついて平らげる。毒に悶え苦しむ千松を仁木弾正の妹、八汐(十三代目結城孫三郎氏)が懐剣で突いて絶命させる。毒殺の証拠を消す為だった。それを見ても顔色一つ変えない政岡。皆が帰った後、もがき苦しんで泣き叫ぶ。「でかしゃった!」そこに八汐が襲い掛かる。政岡は返り討ちにする。
心情を切々と訴える女方の見せ場=クドキ=口説き。
忠臣方の沖ノ井(湯本アキさん)。
④床下
床下で警護の為、宿直(とのい)していた荒獅子男之助(三代目両川船遊氏)が現れた異形の大鼠(小貫泰明氏)の首根っこを踏み付ける。隙を突いて逃げる大鼠、小柄を投げると額に当たり姿をくらます。その正体、額から血が流れていることに気付いた長袴の仁木弾正(十三代目結城孫三郎氏)はニヤリとして花道をゆっくりと去って行く。
小姓千弥(湯本アキさん)。
⑤対決
⑥刃傷
一時間の作品が終わるとトーク・ショー。演劇評論家・葛西聖司氏が淀川長治みたいで好感が持てる。圧倒的な知識量、目線の一つ一つが勉強になる。
三代目両川船遊氏は今年83歳、死の話ばかりする訳だ。
明治時代、9代目孫三郎がそれまでの人形遣い師が高い足場から操作することをやめ、出遣いで台詞も喋るように変えた。
十三代目結城孫三郎氏は逆に一度、伝統である足場での人形遣いを経験したいと述べる。
ビッグ・フェラー
劇団俳小
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2026/03/22 (日) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
戯曲がカッコイイ。スタイリッシュで最初から最後まで出来上がっている。104席しかないBOX in BOXで今作をやってのけるのは素晴らしい。
ブラディ・サンデー=血の日曜日事件=1972年1月30日、北アイルランドのロンドンデリーにてデモ行進中の非武装市民をイギリス軍が銃撃。27名中、14名死亡、13名負傷。この事件は世界に衝撃を与え、テロ組織IRA(Irish Republican Army=アイルランド共和軍)への支持が広がった。
1972年3月17日、St. Patrick's Day、ニューヨークの超高級アイリッシュ・レストランにてブラディ・サンデーの追悼集会。IRAのNY支部のボスであるデイヴィッド・コステロ(いわいのふ健氏)がスピーチで支援を募っている。スタンダップコメディのように軽妙なトークはどっかんどっかん笑いを取る。拍手喝采、会場は沸きに沸く。高額な小切手が次々に切られ、金の雨が降る。
fellow=仲間。GoodFellasはマフィアの隠語で組織の仲間のこと。今作のTHE BIG FELLAHはアイルランドのスラングで大物の意味。
次の舞台は若き消防士マイケル・ドイル(遊佐明史〈あきふみ〉氏)のアパート。刑務所を脱獄し偽造パスポートでアメリカに入国したルエリ・オドリスコル(大川原直太氏)はプエルトリコ人のカレルマ(小池のぞみさん)をナンパして連れ込んでいた。やって来たコステロはマイケルの覚悟を確認する。「(IRAに入るということは)ゲーテの『ファウスト』の逆だぞ。悪魔に魂を売って手に入るものは一生涯続く苦しみだけだ。」「それでもいい」とマイケルは答える。そしてマイケルのアパートはIRAメンバーの潜伏先、アジトの一つとなる。
ニューヨーク市警の警官トム・ビリー・コイルは手塚耕一氏。藤波辰爾と小林邦昭のハイブリッドのように見えた。
エリザベス・ライアンは荒井晃恵さん。エロエロ。
フランク・マカードルは宮崎佑介氏。荒谷望誉のようだがドスの効いた表情は三沢光晴のよう。怪演。
小池のぞみさんはますます綺麗に。
遊佐明史氏はジャルジャル後藤みたい。癖がなくポピュラリティがあるのが武器。
MVPはいわいのふ健氏だろう。凄まじい。
大川原直太氏も負けていない。劇団の切り込み隊長。
ルエリ・オドリスコルのモデルはジョー・ドハーティ。1990年、メトロポリタン矯正センター近くの街角に彼にちなんだ名前が名付けられたそうだ。
映画を観ているみたいに面白い。
マーティン・スコセッシ節でジョニー・デップの『フェイク』とか好きな奴には堪らないだろう。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
予算を好き放題使わせて、寺十吾氏なんかが演出したらどんな作品になるのだろう?
贖宥状(しょくゆうじょう)=免罪符とは買えば現世の罪が軽くなるという御札。1517年、ドイツにてローマ教皇レオ10世が教会の収入の為に販売したことを大学教授マルティン・ルターが大批判。破門され追放を宣告されるも新約聖書のドイツ語訳聖書を完成させ活版印刷機で大量生産。聖職者でなくても民衆が聖書を直接読んで考えることができるようにした。当時で10万部以上の大ベストセラーに。カトリック教会の権威主義に抗議(プロテスト)する者としてプロテスタントを名乗った。従うのは教会ではなく聖書(神の言葉)のみ。=宗教改革。
元々アイルランドはカトリック教徒が多数を占める国。1801年プロテスタントの国であるイギリス(イングランド)に併合され、カトリック教徒は迫害された。独立戦争の末、1922年1月16日に独立を果たすも、北アイルランドはイギリスのままとされた。IRA(Irish Republican Army=アイルランド共和軍)は北アイルランドを奪還し全アイルランドを統一することを目標に掲げたテロ組織。SEX PISTOLSの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」の歌詞でその名を知った。
現在、アイリッシュ・アメリカン(アイルランド系移民の一族)は3600万人で全米の総人口の12%。 政財界に力を持ち、IRAを支援する者も多かった。
聖パトリック=聖パトリキウスは5世紀にアイルランドにキリスト教を広めた聖人。彼の命日の3月17日はSt. Patrick's Day(セント・パトリックス・デー)と呼ばれる祝日でアイルランド人にとって最大のお祭りの日となっている。
1981年、IRAのメンバーであったボビー・サンズは北アイルランドの刑務所でハンガー・ストライキを始める。66日間のハンガー・ストライキを貫徹して27歳で死亡。9名のメンバーがそれに続いた。世界的に注目を集め、IRAへの志願者が殺到。
リビアの元首であったカダフィ大佐は長年IRAに資金提供と武器供与を行っていた。植民地主義、帝国主義だとしてアメリカ、イギリスを敵視し続けた。
1987年11月8日、北アイルランドのエニスキレン爆破事件。戦没者追悼記念式典の行われる広場にIRAが時限爆弾を仕掛けた無差別テロ。非番の警官1名と一般市民11名が殺戮され、IRAへの反発が強まった。
1998年4月10日、イギリスとアイルランドの間で和平合意=ベルファスト合意。国民投票によりアイルランドは北アイルランド6県の領有権主張を放棄した。
1998年8月15日、北アイルランドのオマーのショッピング街で起きた自動車爆弾テロ。29人が死亡、約220人が負傷。ベルファスト合意を認めない分派であるリアルIRAが実行。この事件で決定的に大衆の心は離れた。
ウィリアム・バトラー・イェイツの詩、『湖の小島イニスフリー』をコステロが引用する。
「心が穏やかになる時、平和はゆっくりと滴り落ちてくるものだから」
ラスト、911にラジオから流れるJohnny Thunders & The Heartbreakersの「Chinese Rocks」っぽい曲がカッコイイ。Black 47じゃない。
※エリザベス(荒井晃恵さん)とマイケル(遊佐明史氏)が肉体関係を結び恋愛感情が生まれる。何度もキスを交わす。しかし「組織の命令」として、コステロ(いわいのふ健氏)とトム(手塚耕一氏)は「メキシコ行き」=粛清しようとする。悲痛に叫び、助けを呼ぶエリザベス。何度も助けようとするマイケル。けれど助けられない。
フランク(宮崎佑介氏)が密告者の洗い出しにやって来る。マイケル(遊佐明文氏)をボコボコにし、ルエリ(大川原直太氏)はバスルームのドア越しに電動ドリルで肩を抉られる。駆け付けたコステロ(いわいのふ健氏)は拳銃で脅しながら、マッカランの18年ものを勧める。フランクはアルコール依存症を克服し完全に酒をやめた身なので絶対に飲もうとしない。それを飲ませていく心理的拷問。名シーン。
1993年2月26日、ニューヨークの世界貿易センタービルをイスラム過激派テロ組織アルカイダが爆破して倒壊させようとした。タワーの強度が想定以上で地下駐車場の爆破だけで終わった。それでも死者6人、負傷者1042人。湾岸戦争においてアメリカ率いる多国籍軍がメッカのあるサウジアラビアに駐留したことがイスラム原理主義者にとって許せることではなかった。
フランク(遊佐明史氏)は「奴等の目的が分からない」と繰り返す。それに対し、コステロ(いわいのふ健氏)は「全ての宗教の信者が目的とするところは神の裁きによる罰を人間に受けさせることだ」と答える。彼の裏切りの告白は罪の報いとして罰を受ける為だったと分かる。