ドクターズジレンマ 公演情報 せんがわ劇場「ドクターズジレンマ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ジレンマとはどちらも選択肢を選べない板挟みの状態のこと。今作では結核の名医(佐藤誓氏)が邪悪な天才芸術家の夫(石川湖太朗氏)を救うよう美しい妻(大井川皐月さん)に懇願される状況。この心美しい女性の頼みを聞いてやりたいが、夫はクズ中のクズ、死なせた方が良い。でも奴の描く絵は天才的、彼の絵に夢中になってしまう自分がいる。

    客席三面でステージを囲む。役者は最強の布陣。これだけの本物をよくキャスティングできたな、と政治的手腕に感心。ここまで名優集めに集めたら凝視する以外に手はない。凄いレヴェルでの対決。
    石川湖太朗氏はやるじゃねえか。「芸術に現実生活以上の価値はあるのか?」「いやあるんだよ、そうでなければ人間の存在に意味などない!」
    昔、今村昌平の助監に付いていた人が言っていた。「あの人は映画製作以上に価値があるものはこの世にないと本気で信じている。良い映画を作る為にお前等が犠牲になるのは当然なことだと。」常軌を逸したエピソードの羅列にゾッとした。キチガイじゃん。でもそれに興奮する自分もいた。
    今作がファム・ファタール、大井川皐月さんの代表作になるだろう。(表情が時折、菅野美穂に見えた)。

    個人的MVPは山口雅義氏。場内を爆笑の渦に叩き込む。
    是非観に行って頂きたい。普通じゃこのランクの役者は揃わない。

    ネタバレBOX

    1796年、エドワード・ジェンナーが牛痘(牛の天然痘)から膿を精製して作った種痘を人が接種すると天然痘に罹らないことを発見。これが世界初のワクチンとなった。少量の毒を自ら体内に保持することで強き毒から身を守るという新しい発想。

    1906年の今作発表の段階では結核はまだ完全に治療が可能な病気ではなかった。(1943年ストレプトマイシンの発見まで待たなくてはならない)。主人公が画期的な治療法を発明したとするフィクションである。

    佐藤誓氏=ワクチンを免疫力が上がるサイクルに投与すると回復に至り、下がるサイクルに投与すると死に至ることを研究。各個人の免疫のサイクルを知らないとそれは毒にも薬にも成りうる。
    髙山春夫氏=もう引退した身であるが、誰の医学的発見も既に過去に誰かが見付けたものの模倣に過ぎないと冷ややか。
    清水明彦氏=貪食(どんしょく)細胞こそが病原体を食い尽くしてくれる医療の根本だと信じている。全ての医療は貪食細胞の援護であると。
    山口雅義氏=この世の全ての病気は敗血症であると固く信じている。病原菌が溜まった核嚢(かくのう)?を手術で切除すれば皆が健康になると。
    ※口蓋垂(のどちんこ)を除去する手術(全く何の意味もない)で大金を儲けた当時の医師に対する皮肉らしい。
    内田龍磨氏=ユダヤ人医師というだけで意味ありげ。欧州のユダヤ人という十字架は日本人には想像もつかないものなのだろう。
    佐藤滋氏=『名もなく貧しく美しく』を地で行くプロレタリアート医師。
    石川湖太朗氏=三四郎の相田をナルシシスティックに酔わせて大倉忠義ライクにした感じ。往年の石田純一風味の着こなしが判り易い。第二幕の爆発は彼によるもの。人間のクズがその生き様に揺るぎがない為に、逆に周りの連中の理性が揺らいでいく。メタ・ギャグを観客に言うシーンは沸いた。(元々戯曲にある台詞らしい)。

    バーナード・ショーの今作に込めた皮肉は医療業界に対しての非難だそうだ。医師達の虚栄心と高額な報酬を払える患者だけを求める傲慢な私利私欲。医師としての崇高な社会的使命、啓蒙思想を見失ってしまった現実。
    穏やかな社会主義を標榜するフェビアン協会にて政治活動、大学設立を為した彼はこの社会の最大の問題は構造的な貧富の格差にあると主張した。

    最後まで何の話だか分からない。戯曲の意図も伝わり辛く、演出の意図もどうもハッキリしない。そこが狙いなのかも知れないが、「芸術も等しく糞だ!」で良かったんじゃないか。

    ※呼び鈴が鳴って来客が入って来る通路が毎回違うというギャグは面白かった。第二幕のアトリエの舞台美術は美しかった。

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    2024/10/21 21:51

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