latticeの観てきた!クチコミ一覧

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貴婦人の来訪

貴婦人の来訪

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/06/01 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」の第3弾。
前2作と違い有名な戯曲で初演は1956年、今までに映画とミュージカルにもなっている。正統的で万人向けの作品である。第1弾2弾との連続性、関連性は全く感じられない。あの二つは何だったの??

「金で恨みを晴らす」のは(必殺)仕事人だが、少し状況を変え「金で正義を買う」と言い換えると誰もが仕事人になるかもしれないというお話(詳しくは「説明」にある)。生贄とか人柱の現代版であるし「罪と罰」にも通じるところがある。人を殺すというのは極端なたとえであるが、最後の町長の演説と町民の熱狂は今も昔も国レベルでもご近所さんレベルでもよくあることだよなあと考えさせられた。

出演者も秋山菜津子さんと相島一之さんという有名実力者をそろえていて、この怪しい童話を親しみやすいものにしている。町民が貧しいようには見えないのが不満だったけれど「これはあなたの話なのですよ」と思わせるためにわざとそうしているのかもしれない。

チラシに描かれた町の様子が想像力を補ってくれるでしょう。

四月は君の嘘

四月は君の嘘

東宝/フジテレビジョン

日生劇場(東京都)

2022/05/07 (土) ~ 2022/05/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

月刊少年マガジンの連載(2011/5~2015/3)でアニメ化、実写映画化、舞台化もされている人気作品。ミュージカル化はコロナ禍で延期になり今回が初演となる。

4人の中学3年生の出会いと別れの物語。「説明」にあるストーリーを読めば分かるように全く年寄り向きではない。気持ちとしては「お邪魔でしょうけど観せてください」というところか。しかし前方席を見ると白い方や少ない方もチラホラいらして安心する。そして余計な茶々を考えずに集中しているとどんどん面白くなっていった。なかなか良いじゃないか。

主役脇役陣はもちろん快調だ。そしてそれ以上にアンサンブルの若者たちの歌とダンスが素晴らしい。特に大勢のコーラスが鮮明でバランスよく大迫力で、これまで聞いたことのない音の波が押し寄せて来る。スタジオ録音ではないかと疑ってしまうほどだ。大劇場のミュージカルはいつもデュエットでさえ濁ってしまうのに今日はPAの技術者が優秀だったのだろうか。いや素晴らしい。

しかし、どういうわけかカーテンコールで誰も立たなかった。ダブルコールで立つ準備をしていたが何も起こらずに終わってしまった。良い出来だったのに。こういうのは自然発生することもあるけれど熱心なリピーターが先導するものと勝手に思っていたのだが今日は皆さんお休みだったのかな。まあいずれにしろ明日からの観客の皆さんはダブルコールで立ち上がるようにしましょう。

奇跡の人

奇跡の人

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2022/05/18 (水) ~ 2022/06/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

2回の休憩を含めて3時間半の長丁場だが一度も居眠りはしなかった…となぜか威張ってみる。

「奇跡の人」というとアン・バンクロフトのアニー・サリバンとパティー・デュークのヘレン・ケラーによる映画が有名である。私も映画好きの母に連れられて行っていても不思議ではない時期である(残念ながら記憶はない)。私より後の世代の少女漫画好きの方には「ガラスの仮面」の劇中劇として姫川歌子のアニーと姫川亜弓/北島マヤ(ダブルキャスト)のヘレンでおなじみだろう。単行本の9巻最後から12巻に渡って描かれていて、そのうち11巻後半から12巻前半の歌子・亜弓親子によるオーソドックスな舞台の全容は「奇跡の人」の見どころを網羅した優れたガイドになっている。40数年ぶりに(今回はkindleでこの4巻を買って)再読したが少し震えながら一気読みしてしまった。

アン・バンクロフトは映画「卒業」でダスティン・ホフマンを誘惑するミセス・ロビンソン役のイメージが強烈である。そして姫川歌子も亜弓の母でベテラン女優である。どちらにしても内容を知らずに印象だけでアニーをベテランの厳しい先生だと私が誤解していたのも無理はない。実際はアニーがヘレンのところに派遣されたのは20才と11か月のときであり、盲学校を卒業してすぐの新米教師であった。なので高畑充希さんのアニーでもまだ年齢が高すぎるのだが7才のヘレンを20才前後の女優さんが演じるのだからバランス的には妥当なのだろう。

本舞台は私の期待・想像よりかなりコミカルな作りであった。演出家の狙いなのか現代的な事情によるものなのか分からないが、もっとシリアスならもっと泣けたのにとちょっと残念ではある。でも納得のスタンディング・オベーション。

高畑充希さん(アニー):前に観た舞台でもそうだが、素人目には難役も余裕でこなしているように見えてしまう。実際は一杯一杯なのかもしれないが、7月下旬からの「ミス・サイゴン」では苦しんでいるところを観たい気もする。
平祐奈さん(ヘレン):セリフは最後にWaterと言おうとしてウーと唸る一つだけである。3時間ずっと表情の変化を抑えてその時を待つのである。初舞台がセリフなしというのは素人目にも厳しさが想像される。しかしダブルコール時に観客が一斉に立ち上がって迎えてくれるのは病みつきになるだろうなあ。それから私は映画「暗黒女子」での陰のある美少女役に痺れたが、近くのサッカーファンらしきご婦人には「長友の嫁の妹」なのだった。まあ長友選手が平祐奈の姉の旦那と呼ばれる日も遠くはないだろう。
池田成志さん(ヘレンの父):シリアスとコミカルが瞬時に切り替わってどちらも自然。うますぎる。
村川絵梨さん(ヘレンの母):この役がコミカルな要素の少ない一番普通な設定であった。ひたむきな愛情を注ぐ母のぶれない演技は全体の基準線になっていた気がする。落ち着いた美しさが印象深い。
そして本舞台の一押しは盲学校の生徒たち。短い出番だが大いに癒された。

グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース

グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース

Mo’xtra Produce

吉祥寺シアター(東京都)

2022/05/13 (金) ~ 2022/05/19 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「グリーン家殺人事件」の話を膨らませたもの。登場人物を変えてしまっているので試みの面白味は半減している。サイモン・ブレイって誰よ。ここまで原作を崩すならオリジナルな推理劇を創れば良いのにと思うがそれでは客を呼べないので有名作に便乗したのだろう。原作の世界観は「鵺的」あたりがやればぴったりなおどろおどろしいものだが本舞台はドタバタ喜劇風でリスペクトのなさに呆れた。
もっとも、こんなややこしい展開をスムーズにさばいて行く作者の構成力は素晴らしいと思う。

「ビショップ…」も観たけれど「グリーン…」とまったく同じ感想を持った。そして役者が大きな声で大げさな身振りをするだけで観客席がどっと沸くので、来てはいけないところに来てしまったことを悟った。

これを機会に50数年ぶりに二つの原作を読んだが面白いもののすでに歴史資料になっている感は否めない。本舞台のような改変は不可欠であることも確かである。次回は題名を「グリーン・マーダー・ケース異聞」とか「お笑いビショップ・マーダー・ケース」とでもしてもらえれば誤解して観に行くことを避けられるだろう。

衣人館 / 食物園

衣人館 / 食物園

牡丹茶房

ギャラリーLE DECO(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「衣人館」を観劇
ジャンルはホラーだろうか、真剣に観ると精神を蝕まれそうだ。あまりお勧めするというものではないが演劇としての出来はなかなかなものだと思う。しかし、こういうものはそのまま観るべきなのか何か別のことを想起するべきなのか塩梅が分からない。

ネタバレBOX

あらすじ
「可愛い」を追い求める若い女性、集めた衣服で壁を埋め尽くし、トイレから台所まで好みの装飾を施している。師と仰いでいたカリスマの変調もあって、独自の美の完成を目指すことになる。衣服を厳選し、最後は自分の身体にまで…。
民衆が敵

民衆が敵

ワンツーワークス

ザ・ポケット(東京都)

2022/05/05 (木) ~ 2022/05/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「説明」には
 「匿名の正義」と、どう向き合えばいいのか?
 いびつな情報化社会の根底に巣くうものの正体が浮かびあがる……。
と書かれているが私にはどうもそういう話とは思えなかった。

軽快な場面転換もあって2時間飽きることなく楽しめた。しかし論点がいくつもあって見る角度も変わり作品の方向性はよく分からなかった。

奥村洋治さんはいつもの味のあるおとうさん、関谷美香子さんの官房情報調査室リーダーは怖くてはまり役。そして今日の一押しは官調室員と養護教員の東史子さん、きりりとした可愛さにやられた。


ロビー・ヒーロー

ロビー・ヒーロー

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/05/06 (金) ~ 2022/05/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」の第2弾。第1弾と違ってすべてが明瞭である。でも無駄に長い(泣)85分+15分休憩+75分

警備員のジェフ(中村蒼)と監督役の上司ウィリアム(板橋駿谷)、ウィリアムの友人の警察官ビル(瑞木健太郎)と試用期間中の新人女性警官ドーン(岡本玲)の4人のお話。弟が犯したらしい殺人事件のアリバイをウィリアムが偽証したことで4人は複雑にそして歪に絡み合って行く…(CoRichの説明はもう少し詳しい)。

マイケル・サンデル入門のようなジレンマがテーマ。本来一人の問題だが、4人が雁字搦めになる状況を作り出す作者の力量は素晴らしい。そうなのだけれど、そのための準備に全体の4分の3の120分が費やされる。途中休憩ではまだまだ話が見えず、帰ってしまおうかと思うくらいだった。

4人の俳優さんは皆さんうまい。とくにジェフ役の中村さんの軽薄でしつこい演技は素晴らしく、そのために私のイライラが高じてしまう。血圧が高い人(含私)は観ない方が良いかもしれない。これもまた困ったジレンマである。

先日読んだ若い作家の小説は余計な記述が一切なく何とも味気無さを感じたが、この戯曲はというと半分は無駄でできている。その無駄と見える部分を楽しめるようになれば私も成長したということになるのだろうが今のところは「全体で120分以内におさめてくれれば、もっとすっきりと鑑賞できたと思う」となってしまう。

グレーな十人の娘

グレーな十人の娘

劇団競泳水着

新宿シアタートップス(東京都)

2022/04/21 (木) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

評価が分かれているのはなぜ?と雨の新宿へ。

もしミステリだと思って観たのなら私も怒りの星1つだっただろう。実際は皆さんの「観てきた!」をさらっと読んで心の準備をしていたので「まあこんなものか」と諦めの星2つである。理由は書きつくされているので繰り返さない。舞台よりも皆さんの力のこもった「観てきた!」が面白く非常にためになった。タダで読ませてもらって申し訳ないくらいだ。

今回は好みとはかけ離れていたが、話の進め方、セリフの巧みさなどからこの劇団の普段の舞台はかなり魅力的なものと想像される。“ミステリーでなければ”また観に行ってみたい。

俳優さんは皆さんお金の取れる立派な方々である。その中でも江益凛ちゃんの永遠の子供振りに心を癒され、小川夏鈴さんのクールでクリアな声と姿には心を奪われてしまった。ここで星プラス1である。

ネタバレBOX

『オリエント急行殺人事件』で、乗客は全員代行業者でした、というようなもの。全員が偽証しナイフを降ろすのだが、「仕事の依頼があったのでやりました」で済ましてしまう。いやそれって代行業じゃなくて悪の組織でしょう(笑)
殺人も窃盗もしてないよということかもしれないが「睡眠薬入りの飲み物を飲ませる」というのは立派な傷害罪だし、それ以前に普通の人は赤の他人に睡眠薬を飲ませることはできない。「さっきは睡眠薬を飲ませてごめんね。テヘペロ」では済まされないのだ。
セールスマンの死

セールスマンの死

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2022/04/04 (月) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

75分+20分休憩+75分。2018年の舞台(NHK-BSで観劇)は正味180分を超えていたので30分も短く、エピソードをかなりカットしていることが分かる。

素のPARCOの舞台の中央に冷蔵庫だけが置かれていて、そこにセットが移動してくる。常にガランとして広さを持て余していると思ったが家族の心の空虚さを感じるべきだったのかもしれない(ガランとしていると感じたなら演出の狙い通りなのだろう)。

外国から人を招いて斬新な試みをしてもらうことはもちろん大切だ。それは分かった上で今回の演出の好き嫌いを言えば、いろいろ動き回るのが煩わしく、やはりこの劇は素朴が一番という身も蓋もない結論になる。

父と息子の話が大きな柱ではあるのだが、特に父と長男の話であると感じた。昔は長男が家督を相続することもあって長男第一主義だった。ウィリー本人は長男ではなく、そのことで悲哀を味わったこともあっただろう(そんなことは書かれていないけれど)がそれでも長男を溺愛し期待してしまうのである。以上は私の父と重なるがための勝手な想像であるが、次男の影の薄さはしっかり意図して書かれたはずである。

お話は現在と10数年前の幸せだった時代が場面転換もなく連続するのだが、最初の回想シーン以外でははっきりとした目印がなく混乱しそうになる。2018年では母(片平なぎさ)の声質で区別していたが分かりやすい反面、若干のわざとらしさがあったかもしれない。まあしかし、この片平さんは最高だった。今回の鈴木保奈美さんの現代的な妻はちょっと好みではなかった。

ネタバレBOX

冷蔵庫の意味をTakashi Kitamuraさんの観てきた!に教えられた。なーるほど。冷蔵庫だけがずっと固定されていた意味はそれなのか。すると他のものをすべて移動式にした意味が分かってきたがすでに書いた感想はそのまま残しておこう。まあしかし冷蔵庫に入って行った瞬間にあれは棺桶のメタファーだったのかと気が付かなければ演出家も報われないなあ。いやあ申し訳ない。
神州無頼街

神州無頼街

劇団☆新感線

東京建物 Brillia HALL(東京都)

2022/04/26 (火) ~ 2022/05/28 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

劇団☆新感線のFull Specの新作。待望のお祭り騒ぎ劇(withヘビメタ)である。初回のせいかカーテンコールが数えきれないほどあった(5回?、最近は3までしか数えられない 笑泣)。75分+20分休憩+95分

あらすじ:清水の次郎長を襲った身堂(みどう)一族を追って永流(ながる、福士蒼汰)は富士の麓にある一族の支配する神州無頼街に向かう。彼らがサソリの毒という中国伝来の暗殺術を使ったことから、永流は一族の長である蛇蝎(だかつ、髙嶋政宏)がかつて自分にその術を教え行方不明になっている父ではないかとアジトに潜入して探るのだが…。(もっと詳しいあらすじは「説明」にあります)

蛇蝎の妻の麗波(うるは、松雪泰子)はある大きな秘密を抱えていて、主役の二人(福士さんと宮野真守さん)に勝るとも劣らない大活躍をする。松雪さんファン(含私)は必見である。事前に分かっていればもっと良い席をとるように頑張ったのに(泣)

豊洲の回転舞台(客席)用に書いたのではないかと思わせるところが多数あってかなり残念。「豊洲なら星6つだっただろう」というのは言ってはいけない約束なのだろうか。

Brillia HALLは音響が良くない。3階だったこともあるのかギターもボーカルもボコボコモコモコで聞き取れない。そのためか半数くらいの歌には字幕が出る。もっともお祭り騒ぎなので歌詞は分からなくても良いのではあるが。

アンチポデス【4月3日、4日のプレビュー、4月8日~13日公演中止】

アンチポデス【4月3日、4日のプレビュー、4月8日~13日公演中止】

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/04/03 (日) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

面白くも何ともない。以上

貧乏物語

貧乏物語

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2022/04/05 (火) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

保坂知寿さん演じる凛とした戦前の女性が気高く美しい。保坂さんは劇団四季出身で日本のミュージカル界のトップスターである。私が観た中では『レベッカ』での怖いダンヴァース夫人や『ライムライト』のコミカルなオルソップ夫人が記憶に残っている。今回はドレスと歌を封印して着物と言葉で最高のパフォーマンスを発揮している。

以下、オフィシャルな説明がこの舞台よりも河上肇の『貧乏物語』に寄っていて誤解を招きそうなので確認しておく。

説明>社会問題としての資本主義...
>「貧乏ってなに?」と問う人すべてに捧げる

この舞台は資本主義批判の話ではないし、「貧乏ってなに?」も直接の関係はない。内容は、当時の職業や暮らしぶりを振り返りながら権力からの圧力に抵抗する家族を描いているといったところ。井上ひさしがなぜ『貧乏物語』という題名にしたのか謎である。

説明>時は大正5年...第一次世界大戦の好景気の最中、
>誰もが少し浮かれて、本当の"貧乏"を見ようとしなかった時代に、
>ベストセラーになった河上肇の『貧乏物語』。
>その河上肇の周りには、こんなにも素敵な女性たちがいた。

『貧乏物語』が出版されたのは確かに大正5年(1917)だが、この舞台は河上が獄中にいる1934年の春の話である。文章として間違ってはいないが説明のポイントを外している。素敵な女性の物語というのはその通り。

おしり筋肉痛 リノベーテッド

おしり筋肉痛 リノベーテッド

大人の麦茶

ザ・スズナリ(東京都)

2022/04/06 (水) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

この劇団お得意の軽快で暖かい人情ドラマ。沢山の不安定な思いが最後には落ち着き場所を見つける。何か変わったものを求める人にはお勧めしないがそれでも予定調和だと分かっていて観るのはありだと思う。

2年前に劇団員になった今川宇宙(うちゅう)さんは完璧なアイドルでどうしてここに??と疑問符が山盛り。お父さんは2月にお亡くなりになった西郷輝彦さん。演技はお父さん譲りの華やかなもので声も良く通る。若林美保さんとの爽+熟コンビのチアダンは必見。野村宏伸さんは本当に本物が出てきたので一瞬戸惑った。奥山ばらばさんとのワル対決も決まっている。もっともそれらの方々に負けないくらい宮原奨伍さんも存在感があった。そういうことを書き出すときりがないのでここまで。

メリー・ポピンズ【3月26日~30日公演中止】

メリー・ポピンズ【3月26日~30日公演中止】

ホリプロ/東宝/TBS/梅田芸術劇場

東急シアターオーブ(東京都)

2022/03/20 (日) ~ 2022/05/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

今回の私のミッションは「メリー・ポピンズはどこへ飛んで行くか」を調査せよである。

エンディングで役目を終えたメリー・ポピンズが舞台から客席の後ろ上方へ飛び去るのだが到着地点はどうなっているのかが気になっていた。今回はそれを確かめるべく3階下手の席をとった。いざ3階席に座ってみると舞台は遥か彼方の谷底に見えて「これは高すぎる、2階に着地か」と心配になった。さてそのときになり1階席を低空で飛んで2階に上がったところで一旦見えなくなる。ああやっぱりだめかと諦めていると再び姿が見えて3階で笑顔を振りまきながらさらに少し上がって天井にある小屋に入って行った。あんなところにあんなものがあったのか。まさかそんな高さまで上がるとは思っていなかったので目線より上は確認していなかったのだった。いやあ、これは怖い、濱田めぐみさんも笹本玲奈さんも最初は泣きたくなっただろうなあ。

好奇心旺盛な方には3階席下手天井の小屋の確認のために3階まで上がることをお勧めしたい。しかし観劇という点では舞台が遠く臨場感がないので座席は(当然ながら)1階席をとるべきである。

かもめ

かもめ

Art-Loving

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2022/03/24 (木) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

久しぶりに演劇を観て震えるほど感動した。2022年のナンバーワンだ。

動的で明るく分かりやすい「かもめ」である。
最初の劇中劇は「リベルタンゴ」に乗って瑞生桜子さんが踊りまくる。ああこのまま永遠に続いてくれと祈ったものの当然ながらアルカージナの茶々が入って中止となってしまう。ミュージカルではないので歌は無く、ダンスもあとは最後の別れの踊りがあるだけなので苦手な方も安心である。

細やかな陰影には欠けるかもしれないがそれが許せる方には絶対のお勧め。
もう日曜14:00のステージしか残っていないので皆さま是非に。当日券も99%あるでしょう。

ネタバレBOX

冒頭の劇中劇はニーナに「生きた人間がいない、動きが少なくて読むだけ」と散々に言われ、アルカージナにも「なんだかデカダンじみている」とけなされる失敗作というのが本来の設定だが、本舞台ではダイナミックに躍動する人間をこれでもかと表現していてプロデューサーが入口に立てた挑戦状となっている。私は120%支持するのだが、トレープレフが新しく魅力的な作劇法を見出したように見えてしまうので、これが初めての『かもめ』の観客は混乱してしまうかもしれない。そこがちょっと心配ではある。「こんなの『かもめ』じゃないよ」と嫌う人もいるだろうなあ。

原戯曲のサブタイトルに「喜劇」とあることが昔から論争の的となっている(『桜の園』もそう)。文字通りの喜劇なのか斜に構えた喜劇なのか字面を追っても判断は付かない。

トリゴーリン(梶原航)は喜劇方向に寄せている。ニーナの人生を狂わせた悪党のはずだが本舞台では親しみの持てる人物となっている。もっとも原作からして当人も周りも悪いことをしたとは思っていないようだし、そもそもそんな道徳的善悪物語ではない。
医師ドールン(水上武)は落ち着いた良識のある人物であるが、こんな人でもずっと不倫中であるとは人間って本当に困ったものですねという意味では喜劇的であり、逃れられない人間の業を背負っていると見れば悲劇的でもある。
トレープレフ(佐山尚)は繊細で理想を追い求め悩む青年であり、自死してしまうのは悲劇的であるが、彼の求めたものは母の愛、ニーナの愛、独創的な才能そして世間(とくにトリゴーリン)からの賞賛という一つを得ることすらも難しいものばかりである。肥大した自我に押しつぶされたと見るか、理想を追及してかなわなかったと見るか、お好きにどうぞである。

配役で唯一不満なのはドールン+ポリーナ+マーシャのラインがバラバラなことだ。ポリーナ+マーシャは友達のようでとても母娘には見えない。ドールン+ポリーナは不倫関係にあって深刻な会話をするのだが世間話のようである。実はマーシャはこの不倫の子なのだという説があり、それを信じて読み直すと腑に落ちるところが多々あって、このラインは結構重要だと思う。

全体が「分かりやすい」と感じたのはトレープレフとニーナに焦点が置かれ、それ以外の様々な想いの描写が薄味だったからかもしれない。まあ単に私がそういう目で観たというだけかもしれないが。

瑞生桜子さんとラゾーナ川崎プラザソルというと『ロミオとジュリエット』を思い出すが、そのときは少女の雰囲気が色濃く残っていてそれが魅力でもあり欠点でもあった。あれから3年余りが経ち、様々な現場をくぐりぬけてきたのだろう、メジャーな世界で通用する大人の顔つきになっていた。最近のNHK総合のドラマ『恋せぬふたり』でも出番は短いがNHKドラマの世界にしっかり溶け込んでいた。来年は朝ドラか大河ドラマに出演するに違いない。並行してシアタークリエでのミュージカルもワンチャンあるのではないかと期待している。
オロイカソング

オロイカソング

理性的な変人たち

アトリエ第Q藝術(東京都)

2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

女優さんが5人で性被害の話を演じると聞くと告発ものかと身構えてしまうが、それはむしろ細い横糸で太い縦糸は家族の物語であった(と感じた)。

誰しも家族や友人のことで気になるが聞けなかったこと、知ってはいたが知らんぷりをしたことの二つや三つはあるだろう。何かすれば良かった、何もしなくて良かった、どちらもあるだろう。また家族だろうが親友だろうが絶対に知られたくなかったこともあっただろう。知られなくて良かった、知ってもらえていれば楽になれた、どちらもあっただろう。観ている内に舞台上の出来事と同時にわが身のことを思い起こさせられた。あれで良かったのかと問うても答えが返ってくることはないのだが。

登場人物の結子は話題の中心ではないが全体の進行役とでもいうべき位置づけで、滝沢花野さんのしっかりとした発声、きりりとした立ち姿、安定した演技が全体の確かな芯となっていた。

リムーバリスト―引っ越し屋―

リムーバリスト―引っ越し屋―

劇団俳小

萬劇場(東京都)

2022/03/12 (土) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

期待外れの一言。
バイオレンスもパワハラもセクハラも薄くて味がない。
女性二人は何か別の劇をやっているかのように混じり合わない。
昔のオーストラリアも関係ない。
引越屋の存在も調味料でしかない。

数年後に「当時は観る目がなかったなあ」と振り返ることになるのだろうか。

ネタバレBOX

全公演が終わったので再検討してみた。

・バイオレンスもパワハラもセクハラも薄くて味がない。
→バイオレンスについては『殺し屋ジョー』と比べると全く怖くない。もっとも、あちらは舞台が遠いし照明も暗かった。逆に言うとなぜ明るい舞台にしたのかということになるがバイオレンスをほどほどにしたかったのだろう。
最初の部長と新入りの会話だって単にしつこいだけでパワハラの不快さがマイルドである。
セクハラも笑いを取りに来ているし。

・女性二人は何か別の劇をやっているかのように混じり合わない。
→一人はラブコメ、一人は時代がかった悲劇でも演じているかのよう。狙った演出のはずなので何か奇妙な雰囲気を作り出そうとしたのだろう。

・昔のオーストラリアも関係ない。
→オーストラリアの人にはあれは何これは何と分かることがあるのかもしれないが、私にとってはどこにでもある暴力警官の話にすぎない。

・引っ越し屋の存在も調味料でしかない。
→それで正解。表題にはなっているがアクセントにすぎない。

結末の「殺したと思った相手が生きていた…→警官同士の殺し合い」は完全にエンタメ・アクション映画だ。色々総合して考えるとこの劇は社会派劇ではなくコメディかエンタメということになる。会場で配布される立派なパンフの格調高い文章を読んで勘違いしたけれど、そういうことなのだ。しかし考えれば考えるほどこの劇、すべてが噛み合わないように作られている。
横濱短篇ホテル

横濱短篇ホテル

劇団青年座

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/03/09 (水) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

かずさんの巧みな文章に誘われて予約を入れ、出発前にTakashi Kitamuraさんも5ツ星であることで大きな期待をもって新宿へ。いやあ参った、お二人のおっしゃる通りだ。文句をつけることも忘れているうちにカーテンコールに。

普通の状態なら「そんなバカな」となるはずの誕生日の話に抵抗なく侵入を許したのは魔法に掛けられていたということなのだろう。まあそれに限らず良いように転がされたのでかなり悔しいが、もちろんその100倍楽しく嬉しい。どなたにもお勧めしたいところだが残念ながらこれが千秋楽。公演回数が少なすぎるよ。

Takashi Kitamuraさんも書かれている角田萌果さんだが、声優の訓練もしているのだろうか、驚愕の声質の変化だった。インターネットに「憑依型カメレオン女優ランキング」というのがある。彼女もそのうち入ってくることを期待したい(ちなみに1位は綾瀬はるかさん)。

ところで『街の灯』くらいは知っておきなさいよという注文がちょっと耳に痛い。もちろん、手を握った時に思い出すというところは覚えているんですよ…もちろんですよ…

悪いのは私じゃない

悪いのは私じゃない

MONO

吉祥寺シアター(東京都)

2022/03/11 (金) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

宣伝文からは「あいつが悪い」「こいつが悪い」で怒号が飛び交うようにも想像されるが、実際はこのように始まる。

『退職した社員が社内でのいじめを訴えてきて調査が始まった。急遽研修を受けた総務部長が会議室に社員を一人ずつ呼び出してヒアリングをするのだが、退職した社員の上司は会議室にやってきて出て行かないし、最初の社員は二人一緒でないと嫌だと言い出したりで前途多難である…。』

こんな調子で全編マイルドで笑いの絶えない舞台である。小さな会社内でありながら多方面に話は脱線し飛躍しで飽きることなくあっという間の2時間が過ぎる。

特に何か主張があるわけでもないし、斬新な手法がとられているわけでもないが、リラックスして(爆笑でも微笑でもなく)適度に笑いたいという方には超お薦めである。

料金に7,600円とあってびっくりするがこれはペアチケットのお値段で、二人で行っても一層親密になることはあれ、気まずくなるなんてことは絶対にない。

プルーフ/証明

プルーフ/証明

DULL-COLORED POP

王子小劇場(東京都)

2022/03/02 (水) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

お話は『ある数学の論文を書いたのは誰か』なのだが、「数学の論文」を「小説」に置き換えてもストーリーはそのまま成り立つ。原作者の経歴を見ても数学や自然科学とは無縁であって、おそらく何かの折に「証明を書いたのが誰かを証明する」という言葉の面白さに気が付いたのだろう。そしてそこから精神が崩壊した父と自分にもそれが起こることに怯える娘という設定に進むのだが、それはステレオタイプの偏見ではないだろうか。60分+10分休憩+60分

そういうわけであらすじ的には感心しないが、数学とは関係ないサイドストーリーの集合としての家族の物語はそれなりに面白い。さらに今回は舞台装置までも全く異なる3つのバージョンが用意されていて演劇のテクニカルな面でも楽しめることになっている。
Aチーム:身内で固めてコントロール。
Bチーム:未知の若手二人に中堅とベテラン。
Cチーム:実力者で固めて任せる。
俳優は基本的にオーディションで選考されているが、父は3人とも一本釣りである。

今回私はBチームを選んだ。
<Bチーム=娘:伊藤麗、恋人:阿久津京介、姉:原田樹里、父:中田顕史郎>
冒頭、娘が舞台にチョークで大きな円を描き、その後ずっとそこからは出ない。精神的にも肉体的にも身動きがとれない状況を表しているのだろう。その結果、薄暗がりの舞台上で着替えをすることになる。まあ上着くらいなので期待しないように。…いや待てよ、主宰のサービス精神を考えると原因と結果が逆なのかも。

伊藤さんは不機嫌で面倒くさい少女(から脱していない25歳)をストレートに表現していた。王子様に出会ってパッと花開く変化が極端な気もするが舞台的ではある。
阿久津さんは軽目の頼りないキャラ設定をうまく表現していた。難しい理論が理解できるかちょっと心配になったけれども(笑)。
原田さんは写真ではおっとりした普通の人に見えるのだが舞台では100倍映えて美しい。そして厳しく少し面倒くさい姉に変身する。
中田さんはやりたい放題で中田節を期待して来た人(含私)は満喫できるだろう。

*後日修正:落ちついて見直して星を4つに増やした。

ネタバレBOX

数学の雰囲気が希薄で、失望して否定的な感想を書いたが、原作の評価は高いので見直さないといけないと思っていた。そのため映画版を見始めたのだがキャサリンに加えて姉もガミガミとうるさくストレスが溜まるので何度もストップしながら漸く最後までたどり着いた。

映画版がBチーム演劇版と違うのはキャサリンが実際に数学の研究をしている場面があることだ。父からアドバイスを受けるところもあって数学オタクはうんうんと頷くことだろう。キャサリンが冷蔵庫から瓶を取り出そうとした瞬間にひらめく場面も雰囲気作りに貢献している。これはどんどん場面を変えて細かなところまで描くことができる映画の利点である。ただし映画版はいろいろ場面を変えすぎて散漫な感じもする。

キャサリンがその論文を書いたということは、実は幼い頃から「巨人の星」のように父娘でハードワークをこなしていたとかがあるとすっと入り込めたのだが、映画版にしても短時間のひらめきで証明ができたように描いているのは数学を含む自然科学を舐めているとしか思えない。自然科学は過去からの積み重ねの上に新しい理論が発展して行くことが小説とか戯曲とかとは違っている(*)。沢山の地道な努力の末にひらめきが起こるのである。補助線を一本引いたらたちまち大発見というのを「美しい証明」とか考えているなら冷静に思い直してほしいものだ。もっとも、そういう点を現実的に描けば退屈な話になるので仕方がないことではある。Bチーム演劇版では年齢を下げているので更に現実味がなくなっているのが私の最大の不満の原因ではないかと思う。

映画版では父はアンソニー・ホプキンスが演じる。レクター博士のときとは全然違って普通の人であり、中田さんの方がずっと狂っていた。

ところで映画の邦題は「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」となっていて、何だかふわっとしているが内容的にはその方が合っている。やはりこの劇は数学の話ではなく、人生に迷った若者の発見と再生の物語なのだ。

(*)現在の生活の状況はすべて過去の積み重ねの上にあるので、小説や戯曲においては生きていることがそのまま過去を勉強していることになる。そういう意味では同じことではある。まあこの辺は何とでも言えるので深入りしない。

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