プルーフ/証明 公演情報 DULL-COLORED POP「プルーフ/証明」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    お話は『ある数学の論文を書いたのは誰か』なのだが、「数学の論文」を「小説」に置き換えてもストーリーはそのまま成り立つ。原作者の経歴を見ても数学や自然科学とは無縁であって、おそらく何かの折に「証明を書いたのが誰かを証明する」という言葉の面白さに気が付いたのだろう。そしてそこから精神が崩壊した父と自分にもそれが起こることに怯える娘という設定に進むのだが、それはステレオタイプの偏見ではないだろうか。60分+10分休憩+60分

    そういうわけであらすじ的には感心しないが、数学とは関係ないサイドストーリーの集合としての家族の物語はそれなりに面白い。さらに今回は舞台装置までも全く異なる3つのバージョンが用意されていて演劇のテクニカルな面でも楽しめることになっている。
    Aチーム:身内で固めてコントロール。
    Bチーム:未知の若手二人に中堅とベテラン。
    Cチーム:実力者で固めて任せる。
    俳優は基本的にオーディションで選考されているが、父は3人とも一本釣りである。

    今回私はBチームを選んだ。
    <Bチーム=娘:伊藤麗、恋人:阿久津京介、姉:原田樹里、父:中田顕史郎>
    冒頭、娘が舞台にチョークで大きな円を描き、その後ずっとそこからは出ない。精神的にも肉体的にも身動きがとれない状況を表しているのだろう。その結果、薄暗がりの舞台上で着替えをすることになる。まあ上着くらいなので期待しないように。…いや待てよ、主宰のサービス精神を考えると原因と結果が逆なのかも。

    伊藤さんは不機嫌で面倒くさい少女(から脱していない25歳)をストレートに表現していた。王子様に出会ってパッと花開く変化が極端な気もするが舞台的ではある。
    阿久津さんは軽目の頼りないキャラ設定をうまく表現していた。難しい理論が理解できるかちょっと心配になったけれども(笑)。
    原田さんは写真ではおっとりした普通の人に見えるのだが舞台では100倍映えて美しい。そして厳しく少し面倒くさい姉に変身する。
    中田さんはやりたい放題で中田節を期待して来た人(含私)は満喫できるだろう。

    *後日修正:落ちついて見直して星を4つに増やした。

    ネタバレBOX

    数学の雰囲気が希薄で、失望して否定的な感想を書いたが、原作の評価は高いので見直さないといけないと思っていた。そのため映画版を見始めたのだがキャサリンに加えて姉もガミガミとうるさくストレスが溜まるので何度もストップしながら漸く最後までたどり着いた。

    映画版がBチーム演劇版と違うのはキャサリンが実際に数学の研究をしている場面があることだ。父からアドバイスを受けるところもあって数学オタクはうんうんと頷くことだろう。キャサリンが冷蔵庫から瓶を取り出そうとした瞬間にひらめく場面も雰囲気作りに貢献している。これはどんどん場面を変えて細かなところまで描くことができる映画の利点である。ただし映画版はいろいろ場面を変えすぎて散漫な感じもする。

    キャサリンがその論文を書いたということは、実は幼い頃から「巨人の星」のように父娘でハードワークをこなしていたとかがあるとすっと入り込めたのだが、映画版にしても短時間のひらめきで証明ができたように描いているのは数学を含む自然科学を舐めているとしか思えない。自然科学は過去からの積み重ねの上に新しい理論が発展して行くことが小説とか戯曲とかとは違っている(*)。沢山の地道な努力の末にひらめきが起こるのである。補助線を一本引いたらたちまち大発見というのを「美しい証明」とか考えているなら冷静に思い直してほしいものだ。もっとも、そういう点を現実的に描けば退屈な話になるので仕方がないことではある。Bチーム演劇版では年齢を下げているので更に現実味がなくなっているのが私の最大の不満の原因ではないかと思う。

    映画版では父はアンソニー・ホプキンスが演じる。レクター博士のときとは全然違って普通の人であり、中田さんの方がずっと狂っていた。

    ところで映画の邦題は「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」となっていて、何だかふわっとしているが内容的にはその方が合っている。やはりこの劇は数学の話ではなく、人生に迷った若者の発見と再生の物語なのだ。

    (*)現在の生活の状況はすべて過去の積み重ねの上にあるので、小説や戯曲においては生きていることがそのまま過去を勉強していることになる。そういう意味では同じことではある。まあこの辺は何とでも言えるので深入りしない。

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    2022/03/09 04:46

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