かもめ 公演情報 Art-Loving「かもめ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    久しぶりに演劇を観て震えるほど感動した。2022年のナンバーワンだ。

    動的で明るく分かりやすい「かもめ」である。
    最初の劇中劇は「リベルタンゴ」に乗って瑞生桜子さんが踊りまくる。ああこのまま永遠に続いてくれと祈ったものの当然ながらアルカージナの茶々が入って中止となってしまう。ミュージカルではないので歌は無く、ダンスもあとは最後の別れの踊りがあるだけなので苦手な方も安心である。

    細やかな陰影には欠けるかもしれないがそれが許せる方には絶対のお勧め。
    もう日曜14:00のステージしか残っていないので皆さま是非に。当日券も99%あるでしょう。

    ネタバレBOX

    冒頭の劇中劇はニーナに「生きた人間がいない、動きが少なくて読むだけ」と散々に言われ、アルカージナにも「なんだかデカダンじみている」とけなされる失敗作というのが本来の設定だが、本舞台ではダイナミックに躍動する人間をこれでもかと表現していてプロデューサーが入口に立てた挑戦状となっている。私は120%支持するのだが、トレープレフが新しく魅力的な作劇法を見出したように見えてしまうので、これが初めての『かもめ』の観客は混乱してしまうかもしれない。そこがちょっと心配ではある。「こんなの『かもめ』じゃないよ」と嫌う人もいるだろうなあ。

    原戯曲のサブタイトルに「喜劇」とあることが昔から論争の的となっている(『桜の園』もそう)。文字通りの喜劇なのか斜に構えた喜劇なのか字面を追っても判断は付かない。

    トリゴーリン(梶原航)は喜劇方向に寄せている。ニーナの人生を狂わせた悪党のはずだが本舞台では親しみの持てる人物となっている。もっとも原作からして当人も周りも悪いことをしたとは思っていないようだし、そもそもそんな道徳的善悪物語ではない。
    医師ドールン(水上武)は落ち着いた良識のある人物であるが、こんな人でもずっと不倫中であるとは人間って本当に困ったものですねという意味では喜劇的であり、逃れられない人間の業を背負っていると見れば悲劇的でもある。
    トレープレフ(佐山尚)は繊細で理想を追い求め悩む青年であり、自死してしまうのは悲劇的であるが、彼の求めたものは母の愛、ニーナの愛、独創的な才能そして世間(とくにトリゴーリン)からの賞賛という一つを得ることすらも難しいものばかりである。肥大した自我に押しつぶされたと見るか、理想を追及してかなわなかったと見るか、お好きにどうぞである。

    配役で唯一不満なのはドールン+ポリーナ+マーシャのラインがバラバラなことだ。ポリーナ+マーシャは友達のようでとても母娘には見えない。ドールン+ポリーナは不倫関係にあって深刻な会話をするのだが世間話のようである。実はマーシャはこの不倫の子なのだという説があり、それを信じて読み直すと腑に落ちるところが多々あって、このラインは結構重要だと思う。

    全体が「分かりやすい」と感じたのはトレープレフとニーナに焦点が置かれ、それ以外の様々な想いの描写が薄味だったからかもしれない。まあ単に私がそういう目で観たというだけかもしれないが。

    瑞生桜子さんとラゾーナ川崎プラザソルというと『ロミオとジュリエット』を思い出すが、そのときは少女の雰囲気が色濃く残っていてそれが魅力でもあり欠点でもあった。あれから3年余りが経ち、様々な現場をくぐりぬけてきたのだろう、メジャーな世界で通用する大人の顔つきになっていた。最近のNHK総合のドラマ『恋せぬふたり』でも出番は短いがNHKドラマの世界にしっかり溶け込んでいた。来年は朝ドラか大河ドラマに出演するに違いない。並行してシアタークリエでのミュージカルもワンチャンあるのではないかと期待している。

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    2022/03/26 23:17

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