latticeの観てきた!クチコミ一覧

61-80件 / 537件中
おやすみ、お母さん

おやすみ、お母さん

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2023/01/18 (水) ~ 2023/02/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

娘が突然2時間後に自殺すると言い出す、という現実ではありえない話である。冷めて観ているとアホらしくもなってくる。しかしこの舞台が進むにつれ、そういうわざとらしさ、白々しさこそが演劇におけるリアリティなのではないかと心持が変化して行った。そういう意味では非常に勉強になった舞台である。

ある程度の年齢の大人が冷静に判断して自死を選ぶのは個人の権利だと言ってしまうとこの劇は始まった瞬間に終わってしまう。そこを一旦踏みとどまって、作者のお手並み拝見と切り替えると、2時間近くの会話を芝居として成立させる技を楽しむことができる。もちろん那須さん母娘の緊張感を一瞬たりとも切らさない演技にもぞくぞくしてしまう。

最後のシーンを反芻している内にこれって「かもめ」のラストなのでは?もしコースチャが多弁で母親思いだったら?というお話を作者は書いたのでは?という妄想が湧いてきた。

後日追記:当日パンフレットがグレー地に白抜き文字のため薄暗い客席では読めなかった、ということを棚を整理していて出てきたパンフを見て思い出した。

ネタバレBOX

自死は個人の権利と書いたがその行使には義務も生じる。人生における最大の悲しみは別れの喪失感である。その衝撃を和らげるために人間にはいくつもの仕掛けが組み込まれている。年をとるとボケて来るのはその最たるものだ。このお話で娘は一度家を出てから戻って来ている。その時点で共同生活をする契約を結んだのであり、これを破棄するにはそれなりの義務を果たさねばならない。母が亡くなるまで待つか、家を出て疎遠になるかである。母にはそう求める権利がある、というのが現在の私の考えであり、本舞台はそういう目で観ても大きな矛盾はなく非常にしっくり来る。
わが町

わが町

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/01/25 (水) ~ 2023/02/08 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ソーントン・ワイルダーの1938年作のピューリッツァー賞を受賞した戯曲。
前半2幕では20世紀初頭の何の変哲もない田舎町「グローバーズ・コーナーズ」で起こる何の変哲もない日常が描かれる。休憩後はこの退屈さを昇華させ、何でもない日常の素晴らしさをしみじみと感じさせる。85分+10分休憩+40分。整理番号順入場の自由席、良い席をとるには会場後10分以内に行こう。

前半を普通に演じていたなら私は絶対に熟睡していた自信がある。それくらい何も起こらない。そこを本舞台では様々な演出の試みで観客の興味をひきつけ続ける。わざとらしいところもあって、チッと舌打ちをしたくなるがそれも計算の内だろう。まあそれでも辛いことは辛い。しかし前半を耐え切った人だけが説得力のある後半を楽しむことができるのだ、頑張って行こう。ああでも一番楽しんでいるのは演出家と俳優さん達だと思う。

ところで現代の東京に置き換えた部分もあるというのだが東京タワーなんかで外見的には分かるのだが人々の営みは全く東京を感じさせなかった。ここは正直全然分かりません…。それに失われた価値観満載なので現代とは相性が悪いんじゃないかなあ。

兼光ほのかさんが広瀬すず並みにきりりとした美少女で目を奪われた。最後の方の少し力を込めたセリフの響きも美しい。

チラシの図柄は完全にミスリードだ。これじゃあまるでハードボイルド。その狙いも読んだのだが考えすぎだと思う。

GOOD BOYS

GOOD BOYS

TAAC

新宿シアタートップス(東京都)

2023/01/18 (水) ~ 2023/01/24 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

暗闇の中の会話から始まる。二人の子供とお婆さんの声。しかしこのお婆さんの声がおとぎ話の魔法使いのようなわざとらしいダミ声で最初から違和感がある。その後も泣くべきか、怒るべきか、はたまた笑うべきか喜ぶべきか困ってしまう場面が続く。30分以上してようやくこれはファンタジーなのだと気が付いた。そう思って観ればいろいろ合点が行くのだか今度は何が面白いのかが見えなくなる。ううむ何なんだろう。この疑問は観劇後、以下のように氷解する。

作者は「ステージナタリー」「MOTION GALLERY」などでアゴタ・クリストフ『悪童日記』を下敷きにしたと語っている。Wikipediaで『悪童日記』の項目を読むと大きなプロットはほぼそのままに戦時下のハンガリーから現代の日本に設定を変えていることが分かる。したがって不自然に感じる部分が沢山出て来るのは当然である。原作を読んでみると中身はまるで違っているし、この舞台の主題として価値や本質を見抜く力ということがあるので特に原作表記はしていないのだろう。

家の外壁を回すという大技の意味が分からなかったのだが uzさんの「観てきた!」で合点した。日記がめくられて行く(=時間が経って行く)イメージなのだ。しかしゆっくり回すときは良いのだが早く回すとホコリが舞ってスモークをたいたようになる。マスクはむしろこの対策に有効だ。

ネタバレBOX

最後、二人が一人になるのはドラゴンボールみたいにfusionしたってことで良いのかな。原作では一人は父親を騙し犠牲にして地雷原を突破して隣国に逃げ、一人はこちらにとどまるのだが。

小太りのおじさんはお婆さんの本当の心を表しているということで良いのかな。原作では全く出てこないのだが。

お婆さんは二人に生きる力を付けさせる。原作では作物を作ったり魚をとったりして市場で売るなど実践的だが本舞台では空き缶拾い。まあ空き缶拾いを通して「価値とは何か」に目覚めるのだが。

原作もまた現実感が希薄で方向は違うもののやはりファンタジーである。戦時下を背景にしたエンタメという色合いが濃い。
恥ずかしくない人生

恥ずかしくない人生

艶∞ポリス

新宿シアタートップス(東京都)

2023/01/07 (土) ~ 2023/01/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

いきなり、千円割引を受けるためにラブホテルを早くチェックアウトしようというケチで嫌味な男に思いっきり笑わされる。板垣雄亮さん最高だ、大好きだ。
その後もしばらく口が開きっぱなしだったが最後は少し教訓というかお説教というかお笑いだけじゃないぞ的な流れになって尻切れ気味に終了。最後まで最初の調子で笑わせてくれたら星10個なのだが演劇にはならないかもしれないなあ。
急遽主役を務めた関絵里子さん、おそるべき完成度だ。役者さんって本当に凄すぎる。

屏風

屏風

MASHIRA.ENT

烏山区民会館(東京都)

2023/01/08 (日) ~ 2023/01/09 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

インドの王様と日本の殿様が時空を超えてシンクロする悲劇ファンタジー。

成人した一休が屏風に描かれた虎の問題で再び殿様に呼び出される。一頻り例の「屏風から出していただければ捕まえてみせましょう」のやり取りがあるが今回は本当に虎が屏風から出て来るのであった。虎を追って屏風に入り込んだ一休は数日の後に戻ってくるが屏風の向こうはインドで自分はサルになっていたという。あちらの王様もこちらの殿様も弟の謀反で追放されお妃を奪われていた。日本の奥方は自害しインドのお妃は怨念のあまり虎になったという(ガートルードとはまるで違うなあ)。屏風を介して二つの世界の話が同時進行して行く…。

ストーリーは良質でダンスや殺陣もあって高い志を持っていることは分かった。しかし完成度は今一つ、所によって二つ三つ。

*公演二日目は1月9日で一休なのだ。公演日を決めて会場を探したのかなあ。逆に公演日が決まってから無理やり一休を話に組み込んだという疑惑も若干湧いてくる??

ブロードウェイミュージカル『シカゴ』

ブロードウェイミュージカル『シカゴ』

TBS/キョードー東京

東京国際フォーラム ホールC(東京都)

2022/12/14 (水) ~ 2022/12/31 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ステージ中央に大きくバンドのひな壇があって、その前のエリアが芝居とダンスのためにある。キャバレーのステージなのだろう。トロンボーンなんかの直接音もガンガン耳に入ってきて嬉しい。
米倉涼子さんの降板は残念だが、逆に俳優もバンドもオール外人さんになってブロードウェイの雰囲気になる(行ったことないけど)。曲も癖になるリズムで気分が高まり、ついつい体が動いてしまう(近くの方、貧乏ゆすりごめんなさい)。ダンスは素晴らしい体型に良く鍛えた筋肉でキレキレの動きだ。

ここまでは満点なのだけれど、歌は今一つの方が多かった印象だ。うまい方でも興奮して体温が上がるところまでは行かなかった。そしてストーリーが「殺人を犯した二人の悪女ロキシーとヴェルマが悪徳弁護士フリンと共謀して嘘で塗り固めて無罪を勝ち取るコメディー。無罪を獲得するよりも世間の注目を浴びるために騒ぎを繰り返す」ということで日本語字幕を読むこともあってピンと来ない。また100年前の禁酒法時代のシカゴを舞台に暴力とか退廃とかを描くと前口上で煽るのだがツラーっと上辺を撫でて行くだけで深刻度はゼロ。あの煽りは雰囲気作りであってまともに受け取ってはいけなかったのだと今になって悟った。

俳優さんではフリン役のキャヴィン・コーンウォールさんの張りのある声と確かな身のこなしは日本人にはないものだ。役としては「金なんかいらない、愛こそすべて」と歌った後で弁護料5千ドル(当時の平均年収の2年分*)を要求するひどい奴なのだが。
*Bar UK によると
(禁酒法の)この時代、米国の全世帯の平均年収は約2600ドルでしたが、国民の3分の2を占める労働者階級の半数は、年収1000ドル以下でした。
https://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/diary/201111050000/

abc赤坂ビーンズクラブ -side2-

abc赤坂ビーンズクラブ -side2-

エヌオーフォー No.4

赤坂RED/THEATER(東京都)

2022/12/21 (水) ~ 2022/12/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

8人の若い女優さんがコントと芝居、歌と踊りにチャレンジする企画の第2弾。
AKB48の最初の公演は一般の観客は7人だったという。ABC8はそれよりはるかに恵まれている。手作り感は共通だがこちらは皆さん何某かのプロであるところが違っている。それにグループでもないので比べるものではないのだけれど、継続は力なりでよろしく。台本と演出が練れていないところも多く、そちら担当のおっさん達も頑張ってほしい。

『La Passion de L‘Amour』「カリオストロ伯爵夫人」より

『La Passion de L‘Amour』「カリオストロ伯爵夫人」より

Studio Life(スタジオライフ)

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2022/12/10 (土) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

キャストは以下の回を観劇。100分休憩なし。
カリオストロ伯爵夫人=関戸博一、アルセーヌ・ルパン(当時20歳)=松本慎也、クラリス(ルパンの恋人)=神澤直也、ムッシュM(地獄の門番?)=石飛幸治

お話は詐欺師カリオストロ伯爵夫人が老いて亡くなり地獄へ向かう途上で番人のムッシュMに問われて過去を振り返るというもの。もちろん原作はルパンが中心の活劇でムッシュMなんて出て来る余地はないが、この舞台では夫人側に立ってファンタジー的雰囲気の下で描写している。彼らの戦いはほとんど語られるだけなので朗読劇と言っても良いくらいだが、台本が良いのでルパンの活躍が明瞭に理解される。音楽劇ということで基本的にストレートプレイでときおり歌が入る。曲はグループサウンズのころヒット曲を連発した村井邦彦さんによるこの舞台用のオリジナル。すんなりと耳に入ってくる佳曲が揃っている。石飛さんの歌は朗々と響き、さすがと感じさせる。

客席は女性ばかり、若い人も年配の人もいろいろで、約90人中男性は5人もいない。登場人物は男性2人女性2人だが俳優は皆男性の逆宝塚状態である(ついでにピアノ奏者も男性)。それにしても女性は宝塚も逆宝塚も楽しめるとは何て貪欲なんだとうらやましい。

なお「ルパン三世 カリオストロの城」とは微妙にかする点もあるが基本的に無関係である。

サブマリン

サブマリン

マチルダアパルトマン

北千住BUoY(東京都)

2022/12/08 (木) ~ 2022/12/14 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「青いサブマリン」を観劇。いつもは共鳴するところが多いマチルダアパルトマンだが今作はあまり響くところがなかった。90分休憩なし。

自分一人のことでさえ何事も決められないのに同棲する二人が将来のことを話し合うとなると気が遠くなるばかりだ。まあそういうところの展開は想像の範囲内で特筆することはない。そこに喜怒哀楽の激しい妹をスパイスとして入れるのは雑味が強かったが当然の構成だ。しかしお父さんらしきホームレスの登場はどういう意味があるのか全く理解できなかったし突然現れる大家の息子も謎だ。この息子とホームレスとの対比で世の中の格差が許せないなどという主張をこの作者がするはずもないし。

冷静になってストーリーを分析するとそういう不満があるのだが、その程度は面白おかしく演劇として実現して頂ければ、ああ満足満足となるはずだが今回はその方面でも好みが合わなかった。具体的には晋平君の驚いたり言葉に詰まったりするときの間の取り方にイライラした。当然、役者と演出家が練りに練ってこうなっているはずなので味噌味が嫌いで醤油味が好きだと言っているだけにすぎない。要するに私はリズム良く会話がポンポン進んで行くのが好きなのだ。我ながら単純だなあ。

会場の「BUoY(ブイ)」はグーグルストリートビューでは何の目印も見えないが「格式会社レインボー・デリバリーサービス」とある建物の向かって左側にある小さな入り口の地下にある。もちろん開場時は係員がいるのですぐに分かる。

いかけしごむ トイレはこちら 2本立て

いかけしごむ トイレはこちら 2本立て

Pカンパニー

西池袋・スタジオP(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2作品ともパッとしない男と口数の多い女のお話。立ち居振る舞いも言語も明瞭だが会話がずれている系の不条理劇である。9月に観た別役作品『病気』は男が医者と看護婦(あえて「婦」にしておく)によってやられっぱなしなところがツボだったが、今回はどちらも男が結構反撃するのでマゾ的な期待は満たされない。そこが不満なのではあるけれど、演者次第でどうにでもなる作品なので今回の配役が私向きではなかったということなのかもしれない。45分+10分休憩+45分

夜明けの寄り鯨

夜明けの寄り鯨

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/12/01 (木) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

小島聖さんが浮いている。他の俳優さんとは身の回りの空気がまったくの別物なのだ。そして演出はそれを利用して芝居全体を通しての違和感を作り出している。山本君の存在の不確かさもあって、リアルな物語なのかファンタジーなのか何とも捉え難さを感じてしまう。山本君って実はクジラの化身なんじゃないかと夢想してみたがさすがにそれは無理だった(笑)

服が腐る-2022AW-

服が腐る-2022AW-

人間嫌い

サンモールスタジオ(東京都)

2022/11/23 (水) ~ 2022/11/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

店員ものということで大好きな「コンビニ人間」を想像したが、変わった人も迷惑な人もまったく出てこない平和なドラマであった。それじゃあ単なるお花畑かというと、ハナから興味を持たない人も受け入れ、冷めてしまった人も排除せず、最も大事なカワイイ服の希望のない未来も諸行無常と悟っている深くて広い世界なのである。

守銭奴 ザ・マネー・クレイジー

守銭奴 ザ・マネー・クレイジー

東京芸術祭実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2022/11/23 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

覚悟はしていたものの、今の目で観ればテンポは遅く、笑いは単純、話は浅い。こんな素人にぼろくそに言われて今年生誕400年のモリエールは怒り心頭だろう。こういうものを観るには古典を愛でる気持ちと素直な子供の心が必要なのだ、と反省はするもののシェイクスピア以外の古典はもう観るのを止めようと決めた。

プルカレーテの演出は良く言えば斬新、悪く言えば奇をてらっただけ。音楽はダメダメ。
後日追記:退屈な戯曲を何とかここまで現代の演劇に仕立て上げたということでプルカレーテはもしかすると凄いんじゃないかと思えてきた。それでもつまらないのは原作がやっぱり古すぎるのだ。

ネタバレBOX

船が難破して別れ別れになった兄妹というとシェイクスピアの「十二夜」を思い出す。オマージュなのか元ネタがあるのか。祝祭ものの馬鹿話という点も共通する。
お國と五平

お國と五平

Nakayubi.

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/11/17 (木) ~ 2022/11/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

このお話は1952年に成瀬巳喜男監督で映画化されている。お國役は当時33歳の木暮実千代で、相当にエロかったという評判だ。本来は3人のみの登場だが映画ではそれまでのいきさつをお國の回想シーンとし、闇討ちにあった主人なども登場する。そういう展開にしたくなるような普通のエンタメ作品なのである。

ところが、この舞台のお國は仮面を着け、黒一色のたっぷり衣装で見た目にはエロとは無縁である。それどころか(経費節減のためか)全体に非日常的な表現で、アフタートークで佐々木敦さんが指摘したように五平に鎖を付けて連れているところはまるで「ゴドーを待ちながら」のような雰囲気さえある。ただし、主宰の神田真直さんはベケットとは関係ないと答えられたのが意外だった。あくまで歌舞伎や能の世界感らしい。一本の木の代わりにドラム缶を置いたと勝手に納得したのだが。

もちろんストーリーは不条理なところは全くなく、分かりすぎて身も蓋もないものである。3人の俗物のしょうもない争いなのだ。アフタートークでは悪人と呼んでいたが、まあ皆さん(含私)こういう立場になればこんなものでしょう。

コンクール用の演出なので極端なものだが不思議な世界観は十分楽しめた。

イヌの仇討

イヌの仇討

こまつ座

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/11/03 (木) ~ 2022/11/12 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

井上ひさし作品は「明治女図鑑」的なものを続けて見てちょっとげんなりしていたが本作では全く違う自由奔放で爽快な井上ワールドが展開される。討ち入り当日、吉良が討たれるまでどうしていたのかは誰もが非常に気になるところだが真相は知るすべもない。作者はそこを利用して我々を引きずり込み、吉良の立場を借りて討ち入りの意味・意義を深読みする。

会場は当然ながらお年寄りばかりだ。昔のように忠臣蔵が毎年どこかのTV局でやっているということが無くなったので若い人はこの話に入り込めないだろう。どんどん共通の話題が失われて行く。

吉良役の大谷亮介さんの振れ幅の大きい演技に心を揺さぶられた。
泥棒役の原口健太郎さんは私の観た「獣唄」で(村井國夫さんの代役で)主役の繁蔵を演じていた人のはずなのだけれど、ああいう硬派の役どころと本舞台のコミカルな演技は私の頭の中で全然結びつかない。おそろしいくらいだ。

私の一ヶ月

私の一ヶ月

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/11/02 (水) ~ 2022/11/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

日英の数年にわたる劇作家ワークショップの成果ということで、通常の舞台とは一味違った仕掛けが楽しめる。お勉強と割り切って観ても良いが、素晴らしい役者さんのおかげでしんみりとストーリーに浸ることもできる。
そういうわけで不満はないのだが大満足というにはもうひとつ。

レオポルトシュタット

レオポルトシュタット

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2022/10/14 (金) ~ 2022/10/31 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★


2時間20分休憩なし。お尻が限界に達したところで終幕になり助かった。

中劇場なので舞台が広く映画でいえばシネマスコープである。見慣れた小劇場より目線の移動距離が大きい。そして舞台の至る所でそれぞれの人の営みが丁寧に展開されている。
舞台美術と衣装が素晴らしく写真に残したい場面がたくさん出て来るがもちろん撮影禁止である。ああもったいない。一瞬一瞬が西洋名画である。
トム・ストッパードの最近日本で上演された作品に「ほんとうのハウンド警部」があり、あんなわけの分からないものは嫌だとなったのか空席が結構ある。今回は四世代に渡る大作であるということで腰が引けてしまった人も多そうだ。しかし実はそんな大層な主義主張がある作品ではなく、リラックスして全体を眺め、気に入った細部を楽しむものなので安心して観に行こう。家系図も一番下にあるレオが作者らしいということを知っていれば良いのではないだろうか。

意外性がほとんとないのが不満で星4つ。

超無機的なあらすじはネタバレBOXへ。

ネタバレBOX


WikiPedia英語版Leopoldstadt (play)をGoogle翻訳したものを元にして作成した。

ウィーンのユダヤ人家族の物語
第1幕1899年 エミリア・メルツ(那須佐代子)の元に家族が集まって優雅なパーティーを開いている。ユダヤ教とキリスト教の微妙な会話がいろいろ交わされる。長男ヘルマン(浜中光一)とその妻グレートル(音月桂)および親戚でピアノを弾いているハンナ(岡本玲)そしてまだ登場しないがハンナが恋焦れる将校フリッツ(木村了)あたりが分かれば十分。
第2幕1900年 ハンナに頼まれてフリッツに会ったグレートルはあろうことか不倫に走ってしまう。ヘルマンはあるパーティーでフリッツとトラブルになり、彼の家に乗り込んで妻の不貞を知る。ユダヤ人であることで格下に扱われる屈辱を受けるもその場は収まる。
第3幕1924年 割礼でのドタバタが続くがストーリー的にはヘルマンとグレートルの子のヤーコブ(鈴木勝大/根本葵空/三田一颯)に家業を譲る手続きの相談をすることがメインのようだ。ヤーコブは戦争で片腕を失っている。
第4幕1938年 ナチスによる屋敷財産の接収が行われる。ヘルマンは家業放棄の書類にサインさせられるがすでに権利はヤーコブに移っていて、更にヘルマンの深謀でヤーコブはグレートルとフリッツの子としていたのでアーリア人であり接収は無効なのであった。この後一家は収容所へ向かう。
第5幕1955年 過酷な時代を生き延びた若者3人が再びウィーンの屋敷に集まり、犠牲者を偲び、当時を思い出す。
黄金のコメディフェスティバル2022

黄金のコメディフェスティバル2022

黄金のコメディフェスティバル

シアター風姿花伝(東京都)

2022/10/21 (金) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

・コヒツジズ『先生、黄色い線の内側ってどこですか?』
・放課後ビアタイム『常夏ブライダル』
の二つを観劇。
更に
・劇想からまわりえっちゃん『黄金時代』
・東京ハイビーム『ゴーストよ、こんにちわ』
を観劇。

「コメフェスは沢山の新しい劇団、沢山の俳優を知る絶好の出会いの場」
という言葉に違わず新鮮な体験ができた。感想は全6劇団を観てから書く予定。
音楽とダンスを皆さん取り入れていて巧拙いろいろだが楽しい。
芝居全体としてはパワーで押し切るか丁寧にストーリーを展開するか。

・劇団ラパン雑貨ゝ(てん)『コマドリのコマドリ』
・演人の夜『もしも生殺与奪の権を私が握ったら』
も観劇。
こちらは二つとも音楽も踊りもなかった。そういう点では期待は大きかったのだが。

受賞者一覧は以下にあります。
https://www.come-fes.net/award2022.html

ネタバレBOX

お笑いはミルクボーイ以来見ていない。お笑い偏差値は10くらいの私なので頓珍漢なのは笑って許して。

・劇想からまわりえっちゃん『黄金時代』
若い人が野球の話をするのが意外だった。そのパワハラ応援団が昭和の象徴で、変化した団長が令和の今を表しているのだろうか。「Vの字踊り」の破壊力に圧倒される。まあその分他の印象が薄れてしまうのだけれど。
トロンボーンの迫力が凄い。

・東京ハイビーム『ゴーストよ、こんにちわ』
新人はいかにもぎこちなく、ベテランは実にうまい。最初の二人は何なのとかの疑問がどんどん回収されて行くのは気持ちいい。アニーが実はお母さんだったということを受け入れられない娘のところがツボだった。いやあ私も拒絶するよ(笑)。それまで滑り気味だったアニーの意味が一気に理解できた。涙もろい人の鼻水音が結構聞こえていた。
バイオリンが効果的。うますぎたかもしれない。

・劇団ラパン雑貨ゝ(てん)『コマドリのコマドリ』
アイディアの枯渇した漫画家の様子が平凡だった。もっと取材して大変さに驚くようなものにしてほしい。まあでも編集者に詰められて苦しむ展開ならコメディでなくなるわね。子供向けのファンタジーと思って観るべきだったのかも。

・演人の夜『もしも生殺与奪の権を私が握ったら』
最初の反ワクチンの話はどこへ行ったのか。言い出した以上はもっと何かを語ってほしい。本編はアホウ総理が出て来たところで低俗さに観る気を無くした。

・コヒツジズ『先生、黄色い線の内側ってどこですか?』
6団体の最初に観て印象が薄かったのだが、全部を観たあとでは、ここの俳優さんが一番しっかりとした演技をしていたと思う。エンディングは実はこの「先生」が一番悪い奴なのだと言いたいのだろうけれどよく分からない。観る人の想像に任せたということか。私が想像したのは、彼が犯人なのだが他の人を犯人に見せかけて籠城させる工作をしていた、ということなのだがちょっとギャップが大きい。
ギターがセリフの邪魔をすることが多かった。こういうのにアコギは向いていない気がする。

・放課後ビアタイム『常夏ブライダル』
大変だ大変だと言っているけれど伝わらない。最後は歌って踊って10分はまあ良いとして何の工夫もない花嫁の両親へのお礼の言葉で5分を使うのはないわ。「しんぷがこない」を「新婦がこない」と聞き間違ってしばらく混乱した。これ実際の結婚式場ではどう区別しているのでしょうね。私なら「神父さん」とさん付けにするかな。新郎、新婦にはあまり「さん」は付けないですよね。…と考えていると分からなくなってきた。
燃ゆる暗闇にて

燃ゆる暗闇にて

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/10/18 (火) ~ 2022/10/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

幸せに暮らしていたグループが新しく入ったメンバーによってかき乱されるという定番の物語。今回は場所が盲学校なのでその特異性が演技の訓練になるので選定されたのだろう。視線を動かさず、表情もあまり変えない、といういわば大リーグボール養成ギプスを身に付けて、どこまで演劇を作り上げることができるだろうか。この設定ではまた、黙っていると同じ部屋にいても分からないということがまるで透明人間のSFのようで面白い。休憩なし105分。

ストーリーは連続TVドラマにもできる愛憎劇なのだが、直接的な表現は少なく上品な薄味仕立てで進んで行く。「目が見えない」ということは「何かが分からない」ことの一つの例示にすぎないので、哲学的な雰囲気を持たせているのかもしれない。曖昧な方が普遍的な意味を感じられるということもあるだろう。それにしても結末はもう少しなんとかしてほしかった。

演技はやはりぎこちない。そのハンデを乗り超えて魅力を発揮する役者さんも残念ながらいなかった。この珍しい集団特殊演技を見てみたい人にはお勧め。もちろん研修生を暖かく見守りたいという人にも。

クランク・イン!

クランク・イン!

森崎事務所M&Oplays

本多劇場(東京都)

2022/10/07 (金) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

岩松作品はピースの欠けたジグゾーパズルを組み立てる過程を見せるものだということが2作目にして腑に落ちた。前作でも薄々気が付いていたのだが、でき上がる絵が見えなかったのだった。どうも過大評価してはるか上空に目を向けていたようだ。実体は地上にあったのに。今回分かったのは要するに平凡な絵ができあがるだけということだ。

大好きな吉高由里子さんも見せ場がなく、秋山菜津子さんも報われない熱演だ。

CoRichの「あらすじ」に書いてあることは実際の舞台からほとんど分からない。こんな裏設定を書かねばならないほど舞台は破綻している。

このページのQRコードです。

拡大