すこやかに遺棄る
芝居流通センターデス電所
OFF OFFシアター(東京都)
2017/04/26 (水) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
これほどの娯楽性と「禍々しさ」が同居した舞台は観たことがない。確かに笑う笑う、そしてその背景にあるぞっとするような禍根の渦。ぱっくりと笑劇を割くように姿を見せる絶望感。何とも言えぬ居心地悪さが襲う。
チラシのストーリー書きを読むと、その曖昧な表現が醸し出すオカルト色に惹かれたのだけれど、どうみてもタイトルはしゃっれぽいし、何かかわいらしいイラストは入っているし、いったいどうなっているのと思ったけれど、双方正解。そういうことだったのね、という舞台でした。
入場の際に、あんな物を配ったり、配られた紙面にあんなことを書いたり、煽ってくれますが、これも演出なのかな。是非、芝居に
一期一会を求めるのであれば観てみるべき1作。
ただし、5人という限られた人数が劇中の回想含めて演じているので、服装がそのままで別の人物を演じなければならなかったのは、ちょっと興が削がれるなあ。
それと、あそこまで朗々とセリフがうまくはまっていたのに、ハブ・サービスさん頑張ってよ!
歌舞伎ミュージカル「不知火譚」
劇団鳥獣戯画
本多劇場(東京都)
2017/05/10 (水) ~ 2017/05/14 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/05/11 (木) 19:30
座席1階E列
奇しくも今年正月に、国立劇場で上演された歌舞伎「しらぬい譚」と同じ原作の歌舞伎ミュージカル。「奇しくも」というのは、この演目自体が「復活通し狂言」と銘打たれるくらいに滅多に上演されないので、ジャンルとしては異なりますが、このスパンで上演されること自体が奇蹟に近いのです。
歌舞伎では、天草四郎などのお家転覆のファクターはなく、あくまで鳥山親子VS若菜姫、化猫(別に連合軍ではない)の図式で進んでいきます。
鳥獣戯画は3部作で、この大長編戯作を、できるだけ原作に近づけて(といっても、十分に歌舞伎以上に傾いてくれるのですが)演りとげる所存のようです。
まずは第一段。けして派手ではないですが、舞台転換をさくさくと進めながらテンポよく話は進んでいきます。仕掛けは凝っており、若菜姫が蜘蛛の精に連れ去られた後の空中演舞、後の天草四郎が亡き父の亡霊と会うときの演出、殺される悪女とその色との首ダンス、ラストの大掛かりな〇〇登場と蜘蛛の巣のセット。
いやあ、お世辞抜きで、笑いあり、活劇あり(殺陣もしっかりしているんですよね)、ダンスありの舞台はまさにエンターティメントの粋をいっております。適度に歌舞伎の所作・ルールを意識しているところなど心憎い。
石丸さんの悪女ぶりがいいですね。小股が切れ上がった痛快な悪、でも、今回で死んでしまい残念。(次回からはナレーターやるのだそうな)
出演人数も多く華やかで、ラスト出演者全員でのレビューは圧巻です。舐めるなよ伝統芸能!!!とい喝采を上げたくなりますね。
だいこん・珍奇なゴドー
流山児★事務所
ザ・スズナリ(東京都)
2017/03/15 (水) ~ 2017/03/22 (水)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/22 (水) 17:00
座席1階A列6番
この作品もやはりゴドーは来ない。というか、ゴドーという存在がいない。エストラゴンもウラディミールも、ポッツオもラッキーも、使者の少年もいない。でも、やはり「ゴドーを待ちながら」なんだよね。「だいこん」への執着はよくわからないけれど。
立派な音楽劇でもあります。
ちなみに、X・Y席に座ると、思わぬプレゼントがもらえるかも。
珍奇な珍奇なゴドーです。解説も評価も不要。
「遍在、或いは、いつもの軽く憂鬱な水曜日について」
ヘアピン倶楽部
シアター711(東京都)
2017/04/26 (水) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/04/26 (水) 18:30
「遍在」つまりどこにでもある話だ。考えるだに、展開を追い続けていると恐ろしくなっていく舞台である。結婚パーティの夜、そこに集う男女5人。この5人は、お互いの存在に気づかないのか、それとも気づこうとしないのか、話は双方向的になることもなく、ひたすらすれ違っていく。もちろん、彼らも相手を全く無視するというわけではない。一瞬、お互いを受け入れようとするが、そのささやかな努力さえも、失われたものを取り戻すことができない。その失われた状況は私たちの日常に遍在しており、明日の水曜日の朝を迎えることへの軽い憂鬱さを招いている。安部公房かルイス・ブニュエルの作品を思い出す、真実を露出させることによって成立した素晴らしい不条理劇。
「緑のオウム亭ー1幕のグロテスク劇ー」
雷ストレンジャーズ
小劇場B1(東京都)
2017/03/01 (水) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/03 (金) 19:00
座席貴族番
かなり前に配られたチラシ(今のチラシと仕様が違い、裏面が白紙、内容も全く分らない)で「一幕のグロテスク劇」というタイトルを見かけてから、これは絶対見ようと心に決めていました。あの毒々しいオウムの絵に魅入られたともいえます。
フランス革命ーバスティーユ襲撃時の興奮が、劇の進行と共に居酒屋の中でも高まっていきます。劇中劇は、虚構なのか現実なのか。それらが混沌としてきたときに、居酒屋内の人々の判断は断絶し、狭い空間で各々の言動は暴発を始めます。
そして、劇中劇と現実との狭間を取り払い、大きく引き金を引いてしまうのが、あの人とは、、、
舞台衣装もよく調達したな、という感じで、特に浮浪者の衣装は、動くたびに本当にほこりが立つんですよねえ。
上演時間は80分。時間が残り少なくなった時、どのようなエンディングを迎えるのかと思いましたが、彼らは夢中の混乱から現実の混乱へと舞台を移動して行くのでした。
多くの笑いもあったけれど、物語の節々でエッジを利かせながら話の散逸を防ぎ、シニカルなセリフと時折起こる極度の緊張は心地よい。入りの静けさからスピード・ボルテージがどんどん高まっていき、最後の唐突に見えるエンディングは、まるでラベルのボレロみたい。
辻しのぶさんは確かにきれいです。適度な熟れ具合がまた。胸の谷間をまじかで観られたのは眼福。(あれ、最近こんなことばかり書いているなあ)
『あぁ、自殺生活。』4月~6月/365
劇団夢現舎
新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)
2016/12/31 (土) ~ 2017/05/29 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/05/15 (月) 19:30
まず、導入が怖いです。主人公たる2人が薄明りの中、こちらに歩いてきます。何かそのままとびかかってくるのかという緊張感。最前列の私はひたすら怖い。そうでなくても、会場の雰囲気が、開演前からどうも尋常じゃないのですから。
かなり怪しい舞台だな、と思っており、会話劇ということは理解していましたが、何やかやと細かい所作が連綿と続きます。その1つが、体に巻き付いたラップをはがしていくところ。この行為に何を見るかで、演劇の印象はかなり変わると思います。
自殺する生活、それはひたすら自身を殺し続ける(精神的な意味で)生活を意味するのかなと思っていましたが、違ったようです。絶え間ない生への執着を持つがゆえ、自殺してやろうという意思に自身の生の喜びを見つける所作。自身を頬をつねりながら、その痛みで生の実感を得るようなものでしょうか。
舞台の上では、ひたすら狂気が漂い、言葉の暴走が起き、そしてしょーもないダジャレが飛び交います。これはすごく不安な空間でもあり、またどこに連れて行かれるかわからない心地よい空間でもあります。
自殺志願の男の鬱屈した目と、彼を諫める男の焦点の定まらない目、舞台が終わると、お2人とも、至極まっとうな方々で、安心しました。リピーター割があるので、少ししてからまた観に行きたいなあ。今度は芝居好きの子供を連れて。
「シン・浅草ロミオ&ジュリエッタ」
劇団ドガドガプラス
浅草東洋館(浅草フランス座演芸場)(東京都)
2017/02/18 (土) ~ 2017/02/27 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/02/20 (月)
座席1階3列
「ロミオとジュリエット」の翻案ではありません。歌舞伎ですね。「ロミオとジュリェット」のハイブリッドでキッチュでハイパーな「傾奇」。もしかしたら、タイトルにある「ロミオとジュリエッタ」は、個人名と恋愛悲劇との掛詞に過ぎないのかもしれない。それくらい、本来の話との共通性はない。
世話物でありながら、まさに荒事。歌う躍る、殺陣あり艶事あり、駈けづり回る飛び跳ねる、修羅場もあれば見得も切る。目に焼き付くのは、胸の谷間と網タイツ、粋な漢の着崩し姿。セリフのケレン味は抜群。
舞台で起きるあらゆることが、向島の戯作者(登場人物の1人)の作った戯作のメタ芝居のようにも思えてきます。つまり、舞台で起きることが、彼に芝居を書かせているのだけれど、実は彼自身も戯作に登場する1役に過ぎない、というような、胡蝶の夢みたいな芝居です。
浅草を根城とする同劇団、この演目を東洋館でやることの意義を深く感じます。
すぐ手の先にある吉原と隅田川。そして勝手知ったる劇場を隅々まで使いこなす巧緻性。土地柄なのか、贔屓筋(ファンではない、親族や友達でもない)も多そうですし。
飲食禁止ではないこともよいです(芝居の邪魔にならない範囲ですよ)。大衆娯楽で飲食禁止はないよ。
樹里恵の服装はナコルルですよね、赤バージョンの。
客席通路に立つ樹里恵こと古野あきほさん、横で観ていて凛としてカッコよかったな。
「狼眼男」こと毛利小平太の丸山 正吾の客席を駆け抜ける横の速さと、舞台に飛び乗る時の縦の軽快さにも目を見張った。
また拝見に伺うと思います。そのせつも宜しくお願い致します。
彼の町
劇団銅鑼
俳優座劇場(東京都)
2017/03/15 (水) ~ 2017/03/20 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/19 (日) 15:00
この舞台のよさは、劇中劇という形でチェーホフの短編をつなげることで、細々とせずにチェーホフの短編を幾つも観られること。そして、チェーホフ劇を演じる役者役の役者さんたちが、自身のチェーホフへの思いを体現しているように感じられること。構成・演出の勝利です。
わが兄の弟
劇団青年座
紀伊國屋ホール(東京都)
2017/04/07 (金) ~ 2017/04/16 (日)公演終了
満足度★★★★★
遠近法を強調するかのような、前傾になった舞台。皆さん三半規管大丈夫なのだろうか。舞台上の明るい会話もユーモアも、全てにほんのりと死の影を漂わせる舞台です。
ただ、舞台上では誰も死にません、それは語られるに過ぎず、故に死の現実は夢幻のように虚ろで、ただ香り立つしかないのです。
「贋作」いいじゃないですが、立派なチェーホフ傳ですよ。
ふくろう
劇団昴
Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)
2017/04/17 (月) ~ 2017/04/23 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/04/18 (火) 19:00
ふくろうはもちろん出てこない。鳴き声で暗示されるだけ。それでも、かなり新藤兼人さんのシナリオに忠実に作ってあり、新藤監督が意図していた一幕物を舞台という空間で忠実に作り上げています。戦中戦後の苦しみが親子の身体性と、「花」の歌詞を通じて見事に描かれています。
北村さんは、長い芸歴の中でこれが初演出というのは意外な感じがしましたが、ご本人いわく役者の方が楽しみが多いからだったそうです。
田渕真弓さんは、怪しい魅力のある方ですね。
幸福のとき
立花座
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/01/06 (金) ~ 2017/01/09 (月)公演終了
満足度★★★★★
寡聞して原作者の莫言という方を存じあげないし、立花座が張芸謀という映画監督へのリスペクトによって立ち上げられたということも不勉強だった。そして、この作品が張芸謀氏の映画になっていたことも。(そう、張芸謀って「紅いコーリャン」の監督だったんだ。)だが、そんなことは観客にとっては関係ない。結末をどう見るか、きっとありきたりとかいう者がいるんだろうけれど、私には、人生は過酷なものなのだ、そして人間は愛おしいものなのだということが改めて感じられた。その意味では戯曲として、テネシー・ウイリアムズやアーサー・ミラーにも匹敵すると思う。(ただし、彼らの作品と違うのはこの作品には心優しい人々がたくさんいること)
何書いてもネタバレになるので、ここでは書けないんですが幾つか、突っ込ませてもらいます。
序盤のところの描写には、子を持つ親として少しセンシティブになりましたけれど、、、、今の子供たちなら心配ないか。(意味わからないと思いますので、未見の方は是非ご覧ください。この劇団が子役の育成に力を入れている、というがヒントです)
リンリンの将来が心配です。
工場長さん、ピカピカの車持ってるくらいなんだから、本当は相当貯めこんでたんじゃないの。
ユイさん、本当に気持ち悪い。
ちょっと、観客席が寂しかったけれど、チケット代を考えれば観る価値は十二分あり。でも、子役は皆うまいなあ。ラストは横を通られて少し目頭が熱くなりました。(意味わからずでごめんなさい)
空を飛んだ後のライト兄妹
東京パイクリート
小劇場B1(東京都)
2017/01/25 (水) ~ 2017/01/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/01/26 (木)
座席1階1列
まずはお詫びをいたします。所詮、飛行機とかのセットはないんだろうな、と少し侮っておりましたが、何と素晴らしいセット(飛行機!)を作ったことか。確かに、空を飛ぶことはないのですが、そのセットとたまに出てくるエンジン音だけで、”ライト兄弟(妹)”のドラマであることを強く強く印象付けます。
そして、各役者さんたちのキャラがエッジ立ちまくりでキレキレ、服装・仕草・小道具・言葉使いに工夫がなされていて、彼らの交錯する芝居は多彩なパステル画を見るようで一切飽きさせません。特に内藤羊吉、用松亮のライト兄弟の強烈な個性は仲がよいのに全く異なる(それでも高い共感性を保っている)2人をうまく描き分け、前半は弟中心に、後半は兄中心に進む構成もメリハリが効いていてとても心地よいもでした。そして、ともすれば濃くなりすぎそうな芝居全体を、妹キャサリン役の内海詩野さんがうまく中和してくれます。
とてもよいものを見せていただきました。
たくらみと恋
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2017/02/18 (土) ~ 2017/02/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/02/19 (日)
座席3階A列11番
価格4,000円
これを観られたのは、至福の幸運。
シラーの戯曲なんて日本ではまずやらないだろうから、記念に観ておくかくらいの気持ちでチケットを買った。もちろん、レフ・ドージンもマールイ・ドラマ劇場のことも知らない。外国語の演劇は字幕がついていても、映画と違って同じ画面の中に納まっていないので、やたら首を振らなければならないので、そのしんどさもあって乗り気の観劇ではない。ロシア語なので単語聞いても、全く判らないだろうし。
この戯曲は、シラーの中でも有名な作品らしい。それも悲恋もののようだ。古典主義の悲恋物は、ガチガチの硬さ(几帳面さ)と形式主義のイメージ。退屈かな、疲れるな、と席についても悲観的な観測。そう、あくまで記念だよ、記念、と私の心の奥底がつぶやいている。
しかし、開幕10分で杞憂は裏切られる。この舞台は、ひたすらラストの悲劇に邁進するのだが、それが時間を感じさせないくらいにぐいぐいこちらの心を鷲掴みにしていく。そのポイントは、軽快な音楽を使い、ところどころで軽妙(セリフ回しや女性陣のテーブル上のダンス?など)に、笑いさえも挟み、本来は重いトーンで貫かれている戯曲に弛緩と緊張を交互に与え、けして観客を飽きさせない。
もちろん、タイトルの通り、権力による「たくらみ」は陰湿で執拗で、本来なら見ていて強い嫌悪感をいだかせそうなストーリーである。そこに純真な恋愛感情が翻弄されるわけだが、物語に通底するテーマを削ぐことなく、けして私たちに不快感を与えることはない。(ネタバレに続く)
この舞台が、わずか4000円で観られた幸運に感謝したい。
追伸:三軒茶屋駅を降りると、とにかくロシア人、ロシア人。もちろん目当てはこの芝 居。うらやましい、言葉が判って観られたのは。
追伸2:フェルディナンド役の男性、よほどキスがうまいのだろうなあ。女性陣が演技 離れてうっとりしているように見えた。
「蝉の詩」
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2017/04/25 (火) ~ 2017/05/07 (日)公演終了
満足度★★★★★
私は月1回、母親と演劇を観に行きます。歌舞伎(たまにオぺラ)ということもありますが、新劇が多い傾向にあります。母は戦前の生まれ、あまり突飛なものにならないことや、割とゆったり観れること、そしてできれば彼女の生きた時代と重ねられることなどを思うことからそうした傾向になっているのだと思います。
ですから、小劇場などはまず想定していなかったのですが、桟敷童子とチョコレートケーキには、母親にも観るべき何かがあるという気がしておりました。
そこで求められるのは、昭和の風景です(必ずしも明るく快いものばかりではありません)。しかし、俳優座でも民藝でも文学座でも、昭和という時代を見せてくれくれる舞台には出会えません。苦しさは個人の感情に還元されてしまい、明るさもお茶の間的なほのぼのさとしてしか表現されないのです。
そして、「蝉の詩」。初めての小劇場でしたが、見せてよかった。それは私もうろ覚えながら知っている昭和であり、感じてきた昭和がありました。生きることへの執着のある時代。これほど見事な世界を作り出すとは。
この舞台の高い悲劇性・悲惨さも、人間のリビドーが作り出す笑いでうまく中和されています。それが素直な観客の涙につながるのでしょう。けして悲劇への感情移入が涙を流させるのではなく、ひたすら湧き上がる高揚感が涙を流させるのです。桟敷童子の力量の高さです。母に見せて正解でした。
弟の戦争
劇団俳小
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2016/12/07 (水) ~ 2016/12/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
題名
この演劇の舞台は、湾岸戦争時のイギリスである。なぜ、イギリスなのだろう。そんな単純な疑問を持った。おそらく、湾岸戦争の当事者であるアメリカではなく、イギリス(多国籍軍として参加はしているが)としたのは、第三者の立場、言い換えれば第三者の視線を持ってこそ、演じるべきテーマであることが重要なんだということなのだろう。
舞台は、装置に工夫を凝らし、多くの場面転換を効率よく見せる。そのテンポのよさが、幾つもの場面とセリフを、フラッシュバックのように前の場面と重ね合わせ、善良である家族の無意識の悪意を紡ぎだす。
父親の理路整然とした正義感と実態を見ようとしない無関心、母親の愛情への埋没と現象しか見ない矮小さ、それらを整然と演じられたお二人に拍手。
ちなみに、説明に書いてある「弟のフィギス」は間違い、弟はアンドリューである。そうでないと、読み誤る。
ニール・サイモンの名医先生
劇団だるま座
アトリエだるま座(東京都)
2017/02/06 (月) ~ 2017/02/14 (火)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/02/08 (水)
座席1列
ニール・サイモン最高!
何を書いてもネタバレしそうなので、ここは一般に感じたことを
1.衣装の多様さに驚きます。着替えも多いのでしょうし、控室が広いとも思えない。
皆さんどうやって着替えているのかとても気になりました。
2.舞台を観て、戯曲を読んでみたいと思うのは作品の独創性がよく表れている所以だと思っています。そこで、どこまでニール・サイモンが書いているのかほんとに読んでみたいと思います。
3.1時間で11話、オムニバスは頭の切り替えを求められるので、結構慌ただしいかな
と思 いましたが、そうでもなかったです。時間に比して見応えがありました。全話後で内容をなぞらえましたし。(結構、オムニバスって、印象の強い話が他の話を記憶から駆逐してしまい、あれ何の話だっけといういことがあります)
4.さて、舞台は延々と続くスラップスティックコメディー、オーバーアクションはあるものの、クス笑いが続く空気は居心地がよかったです。
5.舞台の構造がかなり特殊で、脇の方々は役者さんが対面になった時の表情が見えづらいのではないかな。でも、椅子の使い方などかなり工夫が見られたと思います。
The Dark
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2017/03/03 (金) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/06 (月) 19:30
座席1階C列12番
予定調和にしないこと、間隙を作り観客に読み込ませる部分を設けること。単に意外性を追求するのではなく、本来現実にありうる偏りや欠落を示し、バランスボードにうまく人物を配置しないこと。この舞台のそうした配慮に感心しきり。
同じ間取りの3軒の家に3つの家族が位している。間取りが同じなのだから、3軒は同じセットの中を縦横に行き来するのだけれど、こうした舞台設定はそんなに珍しいものでないようです。(この日はアフタートークがあり、中山祐一朗さんがそうおっしゃていた)
同じ間取りを使うとなれば、それぞれの家族のシンメトリーを映し出すことが物語進行の肝になりそうなものです。確かに3つの家族は異なります。
15歳の引きこもりの息子がいる倦怠期の夫婦、新しい赤ん坊(娘)を授かりながら、過去に幼い子供を亡くしたトラウマからいがみ合う若夫婦、大きな息子(彼がある性癖がある)を持ち夫をなくした老母。確かに家族の像はバラバラです。
この3家族は、全く異なるシチュェーションで、同じセリフをシンクロさせながら笑いをとったりしますが、常にどこかが仲間外れです。一家惨殺の事件に関心を寄せる2家族、流れのままに不倫をする2家族、停電で灯りを持っている2家族、子供たちが意思疎通する2家族、食事をする2家族、シャワーを使う2家族、バーナーのある2家族というように。
それぞれの家族は当たり前といえば当たり前のように、横並びではありません。停電の闇で、登場人物の心の闇が動き出す、確かにそうした舞台なのですが、微妙な仲間はずれが、闇の濃淡・深浅を紡ぎだします。
炎 アンサンディ
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/03/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/11 (土) 13:00
パンフレットを読む限りでは、役者の皆さん(再演がそもそも好きじゃないのか)、今回の再演には乗り気ではなかったみたい。それでも、オファーがあり、それに誰一人として欠けることなく出演したのは、この作品には、まだまだ演れることがあるという判断なんだろうな。
麻実れいさん毅然とした演技、娘時代の演技との乖離が素晴らしい。
岡本さんが後半出てくると(前半にも他の役で出てくるんだけれども)、舞台の重さは、とたんに軽くなると同時に陰惨さを纏い、雪崩を打つように悲劇色を濃くしていく、こういう役はうまいよなあ。那須さんも、童女のようなあどけなさを演じられる稀有な役者さんだし。
3時間強があっという間でした。
SUBLIMATION-水の記憶-
護送撃団方式
萬劇場(東京都)
2017/02/15 (水) ~ 2017/02/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/02/15 (水)
座席2列
『あなたのその曖昧さ、全面的に愛してる。』このセリフを吐くのは、誰もが想像するように主人公の曖昧な女性である。しかし、このセリフがどこで誰に吐かれたのか、そのシーンにはかなり驚いた。
”形を壊すスチームパンク LOVEサスペンス!!”という煽り文句。
この舞台は、登場人物同士をたくみに裏切らせながら、その上で観客をも少しづつ裏切っていく。それも、特定の登場人物と観客しか知らない形で。登場人物と観客がある種に共犯関係を築かせるのだ。これが「形を壊す」。
まさに設定は、スチーム満載の「スチームパンク」。
説明書きを読んだ観客は、割り切りたい男と曖昧な女が愛し合うという意味で「LOVE」を想い観劇に臨むのだけれど、この「LOVE」は全く私たちの想像を超えるものだった。
そして次々と明かされる事実と、暴力描写や30年前の回想シーンは上質の「サスペンス」。
何のことやらと思った説明書きが全て、きれいに舞台内容をなぞっていることには、ほとほと感心せざるをえない。確かに「真実なんか蒸気の向こうに消えていく。」のだから
また、舞台装置も見事。確かに狭い。しかし、その狭さも舞台を立体的に見せることや深い奥行きを感じさせること、そしてトンネルをくぐり時間経過を見せることで無限の広さを感じさせる。
その上で、ダンスシーン、アクションシーン、そしてモブシーンが、最初狭いと感じさせる舞台に収まるのは、演出と稽古の賜物だろう。その上それぞれのシ-ンの出来栄えも高品質だ。
本来、舞台では難しい回想シーン。舞台装置の大掛かりな変更(例えば、歌舞伎などの回り舞台)が必要と思われる過去への移行も、人物配置の妙ででスムーズに行われる。だから、舞台は停滞することなくどんどん進んでいく。
舞台開演時の演出も気が利いている。まさに【舞台への誘い】、観客席がこの街との地続きとなり、舞台と観客の一体化を感じさせてくれる。
まさに観るべき舞台!!!
追伸:スチームのせいか、結構、劇場内が冷えます。、ひざ掛けを貸与してくれますの で開演前にいは借りておきましょう。
まつろわぬ民2017
風煉ダンス
座・高円寺1(東京都)
2017/05/26 (金) ~ 2017/06/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/05/28 (日) 14:00
座席1階1列
いやあ、素晴らしい。白崎映美さんの女っぷりのよさに拍手拍手!!!!鬼、東北、ゴミ屋敷、行政、1000年。言わずもがなですが3.11が舞台の背景にあります。しかし、けしてそれを引き摺るではなく、そこを原点として前に進もうという意思であふれています。いやあ、歌とユーモアとダンスの奔流は2時間半を、物凄い強度で圧縮し、けして淀みを見せません。とにかく観てください。私の言葉などでは何も表現できません。
舞台を初めて観る方に、なぜ「絶対観るべし」がないのだろう、とちょっと意固地になります。