地の面
JACROW
新宿シアタートップス(東京都)
2024/06/14 (金) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/06/15 (土) 14:00
座席1階
今回のJACROWは地面師がテーマ。地面師とは、土地の所有者に成り済まして買い主から売買代金をだましとるグループで、著名な企業も被害者になっている。これは見なければと思い、新宿に出かけた。
自分はタイトルだけをみて、地面師グループたちの群像劇かと思っていた。土地売買に関わるさまざまな書類を巧妙に偽造し、本物の所有者を装う詐欺の手口は実に複雑怪奇である。これをどう描くかと思っていたら、地面師にだまされた大手不動産会社の幹部たちの群像劇であった。それならば、これまで会社を舞台に客席の目をくぎ付けにする会話劇を提供してきた中村ノブアキのフィールドだ。結論から言うと、いつもにまして面白さに目を奪われる出色の出来だった。
この舞台には、おじさんたち男性俳優しか登場しない。ここもこれまでのJACROWと少し違うところだが、違和感を感じないどころが実にぴったりとくる。まず、冒頭がすごい。おじさんたちのダンスシーンから開幕するのだが、これがいすとりゲーム。会社内の派閥抗争のメタファーともとれる。ダンスは劇中、何度も出てくるが、これも意外なほどに違和感を感じない。
大手不動産会社をだます手口とはどんなものかというところに興味を持って見ると、それほど込み入った手口の描写があるわけではないので少し物足りないかもしれない。だが、これが大手企業内部の派閥抗争という視点で見ると、やっぱりJACROWらしくて面白い。
ラストシーンに至るところが最大のヤマ場であり、予想外の展開に刺激される。いつもの強烈な会話劇にダンスシーンが加わってパワーアップした今作。見ないと損するかも。
ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で
劇団扉座
座・高円寺1(東京都)
2024/06/06 (木) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/06/11 (火) 14:00
座席1階
「桜の樹の下で」というのがキーワードだ。「ああ、今日はいい夜だ」というせりふがあるが、小春日和(夜だけど)の中で、季節外れで咲いてしまった桜が舞い散る。ごちゃごちゃに絡んでしまった複雑な人間関係の糸が、ぱあっとほどけていくような爽快感。そんな思いに共感できるいい舞台だった。
冒頭は結構衝撃的だ。大酒飲んで家に帰ってきて居間で眠り込んでしまった中年男性。目が覚めるとなぜか、全身パンダの着ぐるみでパンダメークまでしていて「なんだこれは」と絶叫する。それもそのはず、前夜の深酒がたたり、たまたま立ち寄ったスナックでハロウィンのコスプレをしたことを全く覚えていなかったからだ。さらに、居間の片隅で見知らぬおじさんが寝ていた。何とこの人、深酒した自分をマンションの部屋まで連れてきてくれたのだという。
そればかりではない。舞台が進行するにつれ、次々に見知らぬ人が訪ねてくる。その人は誰なのか、何で訪ねてくるのか。どうも前夜のことと関係があるようなのだが、はっきり思い出せない。それは恐怖であるに違いない。
しかし、舞台の進行と共に、実はそんなに悪くない出会いであると解き明かされていく。最終的には前向きな気持ちで次のステップを踏んでいけるというところが扉座らしい。もっとも、こうした物語の展開は横内謙介の妄想の産物なのだが、誰もが経験があるような妄想を劇作にしてしまう才能、やっぱり劇作家の思考回路だ。
テーマソングは「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」。かまやつひろしのこの曲を座高円寺で聴けるとは思わなかった。この曲が流れていたとき、自分もまだ、この曲のいい味を分かる年齢ではなかったのだが、若き扉座ファンにとってはムッシュと言われてもピンとこないであろう。
その先の凪
チーム・クレセント
ザムザ阿佐谷(東京都)
2024/06/06 (木) ~ 2024/06/10 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/06/08 (土) 15:30
座席1階
病気で亡くした息子の生きた証を、とある喫茶店を舞台に老夫婦が少しずつ取り戻していく物語。起伏があったり悲劇的な出来事が起きるわけではない。淡々と進む会話劇に、客席は劇の途中から涙が止まらなくなる。見事な舞台だった。
女子高校生やその先生など、客席には日ごろ演劇とは無縁そうに見える若者たちがたくさんいた。出演者の関係者なのだろうか。その女子高校生たちはハンカチを握り締めながら食い入るように舞台に見入った。それほど強い力を持った演劇だった。
物語は、ザムザの客席入り口から夫婦が喫茶店に入ってくるところから始まる。そこで待ち合わせしているのは、特別な人のようだ。明らかに緊張している夫婦。遅れて現れた女性は、夫婦の息子と23年前に別れた恋人だった。
息子が電話でどんなことを話していたか。夫婦は亡くなった息子の面影を追うように質問を重ねる。女性は真摯に質問に答えていく。だが、聞いていると夫婦の方が明らかに少し「うしろめたさ」のようなものをまとっていることが分かる。劇中でそれがどういうことだったのかが少しずつ明らかにされていく。
コロナ禍の最中に亡くなった場合、コロナウイルスが直接の死因でなくても、遺体は防護服のような袋に詰められ、遺族は火葬場にも行けず、遺骨が戻ってくるだけだった。この息子もそのような形で両親の元に帰ってきただけに、やり場のない怒り、悲しみが夫婦を包んでいた。それだけに、恋人であった女性の語りは老夫婦にとってとても大切なものだった。
つい最近のコロナ禍を私たちはもう、忘れているかのようだが、コロナ禍が大切なものをたくさん奪っていったことを舞台は静かに記憶していく。23年前の悔恨が決定的なことであっただけに、コロナ禍最中での息子の死は、両親には堪え難き経緯だったのだ。
この脚本は、「逆縁」を描きながら先に旅立っていった息子の知られざる思いを浮き彫りにしていく。息子がいかに彼女のことを思っていたかが会話が進むごとに色濃く客席に届いていき、涙が止まらなくなる。
とても静かであるが効果的な演出が、見事な脚本を際立たせる。本当にすばらしい会話劇だった。
阿呆ノ記
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2024/06/04 (火) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/06/06 (木) 14:00
座席1階
客演の音無美紀子のための舞台であるといっても過言でない。それほど全編にわたって圧巻の演技、存在感だった。彼女の求心力に触発されたかのように、脇を固める劇団員たちが輝いていった。
今回は、日本の民俗伝承、逸話に出てきそうな生け贄・人柱伝説がテーマ。地域の平穏のために、親亡き子や障害を持つ子らを生け贄として育てるという伝説で、サジキドウジはこれに「阿呆丸」という名を冠して物語にした。戦争の足音が近づいている昭和初期が舞台だ。
音無はこの「阿呆村」の女頭目の役。山の神様から動物の命をいただいて生計を立てている九州の山村で、女頭目の息子、その孫という家族、狩猟をなりわいとする村の男たち、隣町からやってくる火薬問屋の娘など、村を舞台にした人間関係が、山深き地に計画された戦争物資の輸送のための鉄道建設をきっかけに大きく変化していく。
舞台が進んでいくと、「生け贄」は古き時代の民俗伝承などではなく、まさにお国のために命をささげる戦争のことだと分かってくる。直接それに言及するような場面があるわけではないが、メタファーとして物語を支えている。ここがサジキドウジのすごいところだ。
もう一つ、いつも注目の舞台美術。今回は派手な演出ではないものの、十分に客席を満足させる出来栄えだ。そのテーマカラーは赤。舞台が真っ赤に染まる中で、役者たちの絶叫に客席の目はくぎ付けになる。
今作も、ファンとしては見逃せない仕上がりだ。サジキドウジの世界観に没入できる秀作と言ってよい。
デンギョー!
小松台東
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2024/05/31 (金) ~ 2024/06/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/06/05 (水) 14:00
座席1階
小松台東で作・演出をする松本哲也は宮崎県の出身。パンフレットには電気配線工事会社の広告がさりげなく載っていたりして、これと松本の関係が気になる。彼はここで今作の取材をみっちりしたのだろうか。全編宮﨑弁で構成された今作は3度目の再演。小松台東のヒット作だ。
宮崎県にある小さな電気配線工事会社「宮崎電業」。現場に出る作業員たちの控室が舞台だ。冒頭、ここに現場上がりの営業部長が背広の男を連れてくる。東京で銀行に勤めていて故郷に戻った男だが、執行役員として迎えるという。下請けを含む作業員たちは「聞いてないよ」というけげんな表情で険悪なムードになる。
この物語の陰の主役は宮崎電業の社長だ。人情に厚く社員と意思疎通をし、とても慕われていることが分かる。そして、今は入院中とか。これについても、作業員たちはきちんと伝えられていないようで、営業部長への不満が際立つ。特に、同期である現場主任は面白くない。
「陰の」としたのは、この物語で社長は舞台に登場しないからだ。社長を中心に人間関係が続いていたこの小さな会社が、社長の入院という事態に少しずつひびが入ってくる。作業員同士の関係、営業サイドとの溝、社内結婚をしたベテラン女子社員と、ひとり親でぐれかかっていたところを社長が入社させた若い女子社員。それぞれの登場人物のつながりやお互いの感情が、縦糸になり横糸になり編み合わさっていく見事な会話劇が楽しめる。
社員のプライベートなことを堂々と先輩社員が詮索して語らせるなど、今ならパワハラかセクハラみたいになる昭和の雰囲気がとても温かく感じる。執行役員として入った男は暇を見ては控室に来て人間関係を結ぼうとするが、職人かたぎの作業員たちには「元銀行員=エリート」という先入観や、何といっても「宮崎✕東京」という都会への怨嗟の壁がある。だが、執行役員の男は何回もぶつかりながら壁を壊そうとする。その愚直な行動が、とても感動的で胸に刺さる。
現場を抱える小さな会社の本格的な会話劇は異色であろう。だから、3演でもお客さんは満足する。今日は平日の昼間、しかも三鷹という少し足場の悪い(劇場には失礼だが)ところだからかもしれないが少し、空席が目立った。だが、この芝居は三鷹からバスに乗っても見る価値がある。お勧めだ。
スマイル フォーエバー
熱海五郎一座
新橋演舞場(東京都)
2024/06/02 (日) ~ 2024/06/27 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/06/03 (月) 13:30
座席1階
公演中に87歳になる伊東四朗が登場。NHKドラマ「老害の人」でも見事な主役を務めた印象が強く、そのレジェンドを生で見るだけでも行く価値があるのかも。三宅裕司が若手に見えてしまい、いつもと違う熱海五郎一座を楽しめる。
サブタイトルに「魔法」とあるが、舞台美術など「ハリーポッター」のパクリというのがまず、目を引く。前段から魔法学校のシーンが登場するが、一座のやや高齢の役者たち(渡辺正行や小倉久寛ら)が学ぶのは「定時制」となっていて、これが秀逸なパクリなのである。では、校長先生はダンブルドアかというと、これが若い女性なのだが、せりふの端々に昭和でないとわからない単語が登場し、若返りの魔法を自らかけているという落ちも強烈だ。
ゲストの松下由樹は都知事の役。役名からして小池百合子のパクリであるのは一見で分かるが、都知事室のツタンカーメンの飾りは何だ。これは小池知事の「カイロ大学卒業疑惑」を笑っているというのも一発で分かる。この舞台で笑い所の数は星の数だが、一番笑えるのは小池知事を揶揄したギャグであるのは間違いない。現実世界では都知事選も近い。はたして本島に出馬するのか。最後の方は、松下由樹が小池百合子に見えてくる。ここはさすがの名女優と言わざるを得ない。
主役の伊東四朗は冒頭から登場し、いつものゆっくりとした調子で立ち回る。突然黙ってしまうところが何度もあるが、これはせりふが飛んだのか、あるいはそういう台本なのかは見ていても分からない。仮に飛んだということだったとしたら、周囲の役者が絶妙にカバーしているからである。喜劇のレジェンドへのリスペクトがあふれている。
老齢をギャグにしたところはあまりなくて、そこは少しホッとしてみていたら、後段でちょっと驚かされる場面もある。本人がどう思っているのかは分からないが、死ぬ瞬間まで喜劇役者でいるぞという決意表明にも見えた。
昨日が初日。千秋楽は今月27日で連日のように公演がある。この長丁場をレジェンドが無事に駆け抜けていくのかどうか。お体を大切に、頑張ってください。
ケエツブロウよ-伊藤野枝ただいま帰省中
劇団青年座
紀伊國屋ホール(東京都)
2024/05/24 (金) ~ 2024/06/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/30 (木) 14:00
座席1階
大杉栄とともに憲兵に殺害された伊藤野枝を描いた舞台や映画は多数ある。だが、故郷の福岡県の海辺にあった実家を舞台にした演劇はあまりないだろう。マキノノゾミの脚本は、全編実家を舞台にして野枝の人生を描いている。
地元の資産家に授業料を出してもらって東京の女学校を卒業したが、決まっていた地元男性との結婚が嫌で実家を飛び出し、身を寄せた女学校の恩師と結婚してしまう。2人の子どもに恵まれるもこの恩師を捨てて、大杉と一緒に暮らし始める。大杉との間には5人の子どもがいる。男の浮気は甲斐性なのに、女は姦通罪で処罰という理不尽さに全力でぶつかっていく野枝。女性は貞淑な妻として男性の陰で尽くしなさいという家制度に立ち向かい、自由な恋愛で人生を生き抜いていく。実家が舞台であるので東京の青鞜社とか無政府主義とかいうところに強くスポットが当たらない分、野枝の女性としての人生がクローズアップされている。
パンフレットの見開き写真には、丘の上のような山中に巨大な石が横たわっている。写真説明には「故郷を見下ろす山に置かれた伊藤野枝の墓石」とある。木の墓標が嫌がらせで倒されたり引き抜かれたりしたので、義理のおじさんが「これでも倒せるならやってみろ」と言わんばかりの巨石を墓標にしたとのこと。こんなエピソードがあるとは知らなかった。舞台でもこの巨石が登場する。極めて印象深いシーンだ。
伊藤野枝という人は当時の常識に真っ向から歯向かったのであるが、エキセントリックな物の言い方をする人だったのだろうか。舞台を見ていて一番気になったのはこの点だ。怒鳴る、叫ぶ、大声でののしる。そういう人ならいいのだが、伊藤野枝の印象操作になっていないか、疑問に思わないでもない。
マーヴィンズ ルーム
劇団昴
Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)
2024/05/24 (金) ~ 2024/06/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/28 (火) 14:00
座席1階
メリル・ストリープ、ダイアン・キートン、レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロなどそうそうたるメンバーが出演した映画「マイ・ルーム」の原作。マーヴィンというのは、認知症とみられる症状で寝たきりの父親の名前。この父親と、同居する伯母を一人で介護する姉と、若いころに家を飛び出して結婚し、今はシングルマザーとなって2人の息子を育てる妹の心模様を主に描いた名作だ。
劇団昴は、これを田中壮太郎による新訳・演出で2時間余りの舞台に仕上げた。田中は「ラビット・ホール」でも昴とタッグを組んでおり、ラビットホールがすばらしい出来だったので期待して出かけた。
妹の2人の息子は、上の子が家に放火をしたとして少年院に入り、下の子もひ弱な感じがする少年。何年も連絡を取っていない妹一家に連絡したのは、姉が白血病と診断され、骨髄移植のための検査を受けてもらうためだった。だが、妹一家も問題を家庭内の問題を抱えて行き詰まったところがあり、姉との確執もある。こうした複雑だがどこにでもある家庭の問題を、舞台は丁寧に描いた。
舞台の中心は姉妹の関係性の変化だ。骨髄移植のドナー探しは簡単ではない。「自分は検査を受けるとは決めていない」とうそぶく(妹の)上の息子だが、姉との会話を重ねるにつれて少しずつ心を開いていくところがいい。大きな盛り上がりとか情勢の変化がない物語を新たに翻訳して練り上げていった試みに、拍手を送りたい。
まほろばのまつり
劇団匂組
座・高円寺1(東京都)
2024/05/22 (水) ~ 2024/05/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/26 (日) 14:00
座席1階
舞台の案内には「平家落人伝説の残る、信州・木曽の架空の村」とあった。平家落人伝説と言えば、長野県最南端、飯田市の遠山郷。急峻な山あいにへばりつくようにしてある村で、さまざまな神事が今に伝わっている。作者である大森匂子がどこの村をイメージして書いたかは不明だが、自分はこの遠山郷を連想しながら見た。
冒頭に出てくる踊りはおわら風の盆を思わせるような感じだ。旅芸人の一座で身重の女性がこの山村に捨てられ、村の名家の男が嫁として「拾って」、生まれた娘を育てる。この女性、娘、そして男の母親。3世代の女性をめぐって物語は展開する。東京の大学から学術調査に来たという男を狂言回しに、焼け野原の東京が五輪を開くまでに急成長して地方の人々を引きつける時代を表現する。さらに、東京に出るということと、信州の山深い集落に生きるということを対比させ、3世代の女の胸の内を描いていく。
演出の力量だろう。この舞台はシンプルで美しい。よく取材されている信州弁も効果的だ。山深い地域の方言のためか、信州に少し暮らした経験のある自分も何を言っているか分からないところが多々あった。しかし、この舞台はやはり、信州弁でないと美しさが表れてこない。
この舞台が信州のどの地域をモデルにしたのかは、あまり重要でないのかもしれない。「木曽路はすべて山の中」と島崎藤村は書いた。山の中で生き抜く人たちに思いをはせる、いい舞台だった。
オットーと呼ばれる日本人
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2024/05/17 (金) ~ 2024/05/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/21 (火) 13:30
座席1階
休憩を挟んで4時間近くに及ぶ3部構成の大作。1962年に木下順二の本作が宇野重吉の演出で初演されて以来、四演となる。劇団民藝の歴史を裏打ちするような作品だ。
ゾルゲ事件で死刑となった元朝日新聞記者であり、近衛内閣の嘱託という顔も持つ尾崎秀実(ほつみ)の物語。コードネームがオットーだった。尾崎がジョンスンと呼ばれていたゾルゲの名前を知ったのはかなり後になってからだったというし、当たり前かもしれないが尾崎自身もスパイであることを「略奪婚」までした妻にも打ち明けておらず、スパイというのはこういうものなのかと考えてしまった。
長編ではあるがとても興味深い物語であり、初見の自分はずっと食い入るように見てしまった。まるで大河ドラマを見ているような感じがした。コードネーム「スン夫人」のアメリカ人ジャーナリスト、「ジョー」というアメリカ帰りの日本人画家。ユニークな登場人物が多く、満州事変後の歴史を思い起こしながら、表裏のある人生を歩んだ人たちに何だか親近感を覚えた。
特に第一幕の上海編だが、登場人物たちは潤沢な資金でリッチな生活をしており、彼らが目指した共産主義も結局は庶民のためのイデオロギーではないな、と痛感させられる。政治の舞台とは、そういうものなのだ。
劇団民藝のDNAともいうべき作品だが、高齢者が圧倒的に多い客席にはこの長編は体力勝負でつらいところが多い。会話についていけず眠り込んだり、幕間の休憩で携帯の電源を切り忘れて第三幕ではあちこちで呼び出し音が鳴ったり。この名作を次世代にどうつないでいくか。前回の上演から20年を超えての再演だが、次の20年越しの再演はあるのか。客席と共に頑張っていかねばならないな、と劇場を後にした。
略式:ハワイ
劇団スポーツ
OFF OFFシアター(東京都)
2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/19 (日) 13:00
座席1階
パンフレットによると、元は「劇団スポーツ」がまだ学生劇団だったころの2017年に、本公演で発表した3人芝居だったという。今作はそのタイトルを借りて新たに創った舞台。ハワイというのは修学旅行の行き先だが、今作のメーンではない。舞台の中身は、パワハラ顧問教師の暴力から逃げたいと剣道部からの退部を決意した男子高校生とその同級生たちの物語。
まず、秀逸なのは舞台の小道具だ。開幕前からしっかり公開してあるが、黒板を横に切った板にチョークでさまざまなことが書いてある。例えば上演時間とか、携帯の電源はオフに、とかなのだが、舞台が始まるとこれらが重要な役割を果たすようになる。黒板というのが高校生らしくていい。
しつらえた舞台セットは運動部の部室で、部室によくあるアイテムが棚に並んでいるのが楽しい。その中でも一番下にお汁粉缶がたくさん並んでいて変わってるなと思ったら、これも劇の中で重要アイテムとして脚光を浴びる。同じようなことはウクレレも。タイトルがハワイなのだから置いてあるかと思いきや。。。
さて、物語の構成は、少し前の人気ドラマ「ブラッシュアップライフ」を彷彿とさせる。つまり、あの時はこういうふうな状況を選んで失敗して後悔したから、それを回避するためにこっちの状況を選んでやり直そう、という展開だ。これが果てしなく繰り返されてきて見ている方は最後、何が何だか分からなくなるのだが。
とにかく笑いのポイントはしっかり埋め込んであって、結構大声で笑っている客席のおじさんもいた。「後悔してやり直す」ことができないのが青春、学校生活なのだが、やり直しを何回も成し遂げてしまっているというところはもはや、妄想だ。そしてこの妄想の展開が爆笑の連続という寄せては返す波のように客席を沸かす。そう、波である。なんてったってハワイなのだから。
象
9PROJECT
上野ストアハウス(東京都)
2024/05/16 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/05/18 (土) 13:00
座席1階
9プロで別役作品とは新境地の開拓かな、と思ったが、流れとしては9プロが上演しているつかこうへいに最も影響を与えた劇作家が別役実だということだった。この「象」という作品は別役が25歳の時の作品で、初演が1962年。高野愛の前説によると、つかは「初球革命講座飛龍伝」などでも思いっきりパクっているということで、つかこうへいが相当なリスペクトを払っている劇作家が別役であることは間違いない。まだ、戦争の影が色濃い舞台設定の作品を若き9プロがどう演じるか。ということで上野に向かった。
舞台上には病院のベッド。これは他劇団による「象」と共通している。被爆者で原爆症を患い入院している男と、訪ねてくる甥。甥もまた、被爆者であり舞台後段で吐血して入院する。男は背中にケロイドを負っており、それを町で見せ物にしていたことが、舞台の進行で分かってくる。だが甥は、そうした「見せ物」としての原爆の記憶は変容していると主張し、男が病院を抜け出して再び「見せ物」として背中をさらそうという試みを止めようとする。
別役の不条理劇とは趣を大きく異にする物語だが、確かにつかこうへいの香りがすると思う。それは9プロが上演したからでなく、この作品につかが相当入れ込んでいたというエピソードが、その香りの理由を物語っている。おそらく別役の戯曲に忠実につくられた今作の台本。せりふの端々に別役ワールドが感じられるのも、つかこうへいをリスペクトする9プロの舞台らしいと思った。
「2代目はクリスチャン」のような迫力あふれる舞台ではないが、今作は9プロの新境地になる舞台かもしれない。そうであると期待し、「郵便屋さんちょっと」も見てみたい。
飲める醤油
あひるなんちゃら
駅前劇場(東京都)
2024/05/16 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/17 (金) 14:30
座席1階
老舗の醬油醸造業。先代が亡くなり、息子が継ぐことになった。舞台は息子が2人の女性従業員にしょうゆを造る現場を案内されるシーンから始まる。
女性たち(見た目はとても若い女優さんだが、ベテランという設定か)は息子を「坊ちゃん」と呼ぶ。息子がまだ小さいときによく工場に連れてきたことを覚えているから「坊ちゃん」なのだが、どう考えても若すぎて、その場面を覚えている2人ではない。まあ、そういうところからギャグが始まるのだが、笑いのポイントが連続していて、まるでお笑いバラエティーを見ているような錯覚に陥る。
だが、こうした笑いのポイントの連続が80分後の終幕までずっと途切れることなく続いていくのだから相当な脚本のパワーだ。ここがまず、すごい。
前説で作・演出の関村俊介が登場し、「他の劇団でやってはダメですが、うちの劇団では笑いたくなったら本気で笑って」と言った理由がよく分かった。確かに、笑いのポイントはお客さんによって違う。劇団側も「ここは笑うところではないでしょう」という雰囲気があるので、1人だけ笑ってしまったら何となく気まずいのだが、あひるなんちゃらの舞台では全く気にする必要なく笑ってくれ、と。この緩やかなところが魅力なのだろう。
そして、笑いの変化球というか、「こう来たか」と驚いて笑うところも織り交ぜてある。子ども食堂に来る「子ども」を「あなた、子どもじゃないでしょ」と追い返そうとするが、デジャビューのように登場するシーンでは同じ役者が攻守逆転したトークを繰り広げる。
楽しい80分だ。ふらっと当日券を買って、すき間時間を楽しめる。下北沢にはこんな演劇集団があるところが好きだ。
深い森のほとりで
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋ホール(東京都)
2024/05/10 (金) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/14 (火) 14:00
座席1階
ウイルスの基礎研究にまい進する女性科学者の物語。日本の女性の研究者たちが、男性が多い大学の研究環境の中で不当に見下されている現状や、「選択と集中」という名の下に文部科学省が研究費を差配し、すぐに成果が明らかにならない基礎研究に冷淡な状況など、よく取材されている。
休憩を挟んで2時間半は少し長いな、と思ったが、冗漫にはなっていない。後段ではコロナ禍での研究開発の流れなども織り込んであって、リアリティーがあった。
物語は、バングラデシュの奥地で人道支援に当たる若者が、原因不明のウイルス禍で感染してしまうという設定で、そのウイルス研究に没頭する女性たちを対比させている。ゲノム解析には成功するが、すぐに薬剤ができるわけではない。そうした現実も、この舞台では丁寧に描いてあった。このような基礎研究を結実させた薬剤を開発して途上国に提供することで日本の国際的な地位が向上するだろうとか、科学技術で貢献する外交を進めていけば戦争にはならないだろうとか、対米追従で武器ばかり買っている日本外交の強烈に皮肉るせりふが飛び出してくるところは、青年劇場の真骨頂だろう。
優秀な研究者が非常勤で契約をばっさり切られかねない不安定な状態にあるというところもきっちり盛り込んであって、世界と争って高めていくべき日本の技術開発の脆弱性も突いている。
五嶋佑菜ら若手俳優も重要な役どころをきっちり演じ、歴史ある青年劇場も次世代に向かっているところを目撃する。納得の舞台だった。
二人の主人を一度に持つと
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2024/05/09 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/10 (金) 14:00
座席1階
18世紀半ばに書かれたイタリアの喜劇という。カトケン事務所でイタリアというのは珍しいが、笑いのポイントはいつもにましてたくさんあった。脚本や演出の良さであったのかも。
聖書には、二人の主人に仕えることはできないという教えがあるそうだ。要するに欲張るなという教えだと思うが、二人に使えればお給金は2倍だ。
主人公の召使(加藤健一)は仕事中に召使を探しているという話を聞いて飛びついたが、物語が進むとその2人のご主人らが交錯し、知恵を巡らせて切り抜けようとする中でのドタバタが繰り広げられる。
加藤忍らいつもの顔触れに加え、ワンツーワークスの奥村洋司などが加わった座組が興味深い。また、扉座出身で加藤健一事務所に衣装担当として加わったという江原由夏が、コメディ初挑戦ながら重要な役どころで舞台を駆け回る。なかなかの切れ味だ。
休憩15分を挟んで2時間半のボリュームだが、終幕後の拍手は力強かった。誰が抜きん出ていたというよりも、うまく組み立てられた座組の総力で客席を満足させたのだと思う。
あらしのよるに
演劇集団円
シアターX(東京都)
2024/04/29 (月) ~ 2024/05/06 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/04 (土) 11:00
座席1階
絵本作家木村裕一の名作を舞台化。子ども向けの設定ではあるが、大人が見ても十分に楽しめる舞台だった。
夜間の嵐を避けようと羊が入った小屋に、同様に嵐を避けるためオオカミが入ってくる。だが、小屋は真っ暗で、お互いが捕食関係にある羊とオオカミであることに気付かないで会話を交わす。こんな不思議な出会いで始まった2匹による友情の物語だ。
秀逸だったのは、舞台転換の時に、2匹のカエルがユニークな歌を披露し、客席の視線を引きつけている演出だ。このカエルも重要な脇役をこなしているところが面白い。思わずまねして口ずさんでしまうような旋律だった。
客席前方に桟敷席を設け、子どもや親が目の前の舞台を味わえるようにしてあった。また、終演後は登場したキャラクターがその衣装のまま笑顔で写真撮影に応じている。子どもたちに舞台芸術を好きになってもらおうと頑張った俳優たちに拍手を送りたい。
底ん処をよろしく
東京ストーリーテラー
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2024/04/17 (水) ~ 2024/04/23 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/04/20 (土) 11:00
座席1階
大衆食堂を舞台とした人情劇。予想外の展開もあり、「語り部」らしく作り手の思いがよく伝わってくる秀品だ。
終戦直後の混乱期に先代が始めためし屋。工場開設など戦後の発展と共に繁盛した駅前店だったが、二代目に代わった今は工場も閉鎖され急行も止まらなくなって客数は減り、今や常連で何とかもっているという状態だ。
主人公は店を切り盛りする二代目とその娘だが、常連客一人ひとりに物語がある。最初に登場するのは常連客の板金工で、キャバクラの娘に一目ぼれするところから店は騒がしくなっていく。
常連客同士の関係など、人間模様がクロスオーバーして面白い。ラストは予想外の展開となるが、店が繁盛したあとに、店を支えてきた常連客はどうなってしまうのかという思いは残った。「底ん処」の続編があってもいいかもしれない。
食堂で出される食事は本物で、毎回作るのだとか。こんなところに舞台への思い入れを感じる。
この舞台は再演で、東京ストーリーテラーのファンのハートをつかんでいる。ダブルキャストで演じられるが、土曜のマチネとソワレは両方とも満席という。カーテンコールの拍手は力強く、客席の満足度を物語っていた。
La Mère 母
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2024/04/05 (金) ~ 2024/04/29 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/04/12 (金) 14:00
座席1階
心の内外、つまり妄想と現実がクロスオーバーするような筋立て、演出で、舞台から目が離せない迫力ある作品だったが、なにせ後味が悪い。どよーんという重苦しい空気が劇場を包む。それだけ作品にインパクトがあるということだろうが。
父、息子、そして母という家族三部作の一つ。フロリアン・ゼレールの作品で、世界中で上演され映画化もされているという。今回の「母」のテーマはエンプティ・ネスト(空の巣)症候群。家庭の主婦として子どもたちを育て上げ、そればかりに力を注いだ果てに、子どもたちが巣立っていったときの空虚感に心が折れる。仕事ばかりで妻を省みず、さらに浮気までという夫の行状が追い打ちを掛ける。舞台は冒頭から、ほとんど正気ではない妻の状況が展開される。
最初からこのような追い詰められた状態なのだから、これがエスカレートしていけば破局は明白だ。仕事に浮気で忙しいが、そうはいっても妻に視線を少しは向けようとする夫が哀れにも思える。息子を溺愛し、息子の彼女にまで悪態をつく妻は醜悪だ。ラストシーンもさることながら、こうした場面場面にもはや、ため息をつくしかない。だが、そんな筋書きでも目が離せないのは、息をもつかせぬ緊迫感がずっと舞台に張り詰めたままだからだ。
そうした舞台を実現した若村麻由美の演技に拍手を送りたい。最初から最後まで彼女の独壇場である。お見事の一言に尽きる。
テーマはエンプティ・ネストだが、そこに至るまでに既に家庭には修復不能な大きなひびが入っている。息子は自立したいと考えていたようだが、母の溺愛にからめ捕られてしまって身動きが取れない。一直線に破局に向かう前に、何らかの救いの手はさしのべられなかったのか。やはり、後味が悪い。
東京の恋
劇団道学先生
新宿シアタートップス(東京都)
2024/04/09 (火) ~ 2024/04/15 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/04/11 (木) 14:00
座席1階
100年前、50年前、そして今の東京を舞台にした3本立て。1作目が岸田国士、2作目が別役実という演劇の教科書に出てくる劇作家による原作で、3作目が深井邦彦によるオリジナル。3作目が一番、道学先生らしい舞台で、この一作だけでも十分に見る価値がある。あえて言えば、3作目をもっと作り込んで上演してくれたらいいのに、と思った。
3作目は、亡き妻への忘れ得ぬ思いを描いた作品だが、これがなかなか面白い。妻が亡くなった後父と娘の二人暮らしだったが、いよいよ娘が結婚する。家を出て行くことになり、冷蔵庫から娘が「これ、捨てていい?」と持ってきたタッパーには、妻が生前に作った肉じゃがが入っている。妻が死んでから6年。ずっと捨てられずにいた。なぜなら、食べてしまうと、もう同じものをつくってくれる人がいないから、ということだった。
これだけでも、ちょっとパラノイアかなと思うようなエピソードだが、本作のメーンテーマとなる物語はもっとすごい。ちょっとたそがれ気味で生気がない感じの初老の父を、青山勝がうまく演じている。
自分的にはもう一つの注目が、娘役を桟敷童子の大手忍がやっているところ。いつも、桟敷童子での迫力ある舞台を見ているせいか、今回の物語での役割には少し物足りない感じもした。だが、人間の理解できない行動の裏に隠されている心の動きを描き出している今回の物語は、やっぱり観てよかったと思う。
おまけ、ではないけれど、2作目の別役作品は、かんのひとみのさすがの演技が見られる。お見合いをテーマにした別役の不条理劇を初めて見たが、やっぱりくせになる面白さだ。
夢の泪
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2024/04/06 (土) ~ 2024/04/29 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/04/11 (木) 14:00
座席1階
テーマは先の戦争の戦犯を裁いた東京裁判。国際連盟を脱退した時の外相松岡洋右の弁護団に参加している夫婦が主人公だ。ミュージカル仕立ての二幕もの。
物語の本筋とは関係ないが、ヤミ米を取り締まる日本の経済警察が乗客のリュックに小刀を突き立て、コメが流れ出たら検挙という取り締まりでリュックの中に入れて背負っていた赤ちゃんを刺し殺してしまったのに、「恨むならヤミ米を買っている奴を恨め」と捨てぜりふを残して立ち去った、という小話がとても印象に残った。戦後の混乱期ということもあるが、警察の上から目線、庶民いじめ、責任逃れの「おいこら警察」は今も変わっていない。声高に反戦を唱える部分はこの戯曲にないが、こうした小話一つに井上ひさしの思いが込められていると思う。
あまり仲が良くない弁護士夫婦だが、「この裁判は、どうしてこの国が進路を誤ったのかを記録する大切な裁判」と力説する妻に引っ張られる形で弁護団に加わっていた。だが、松岡洋右の結核が悪化して、弁護団の補佐役は解散の憂き目に。この弁護士事務所を中心に新橋でのヤクザの抗争など多彩なエピソードが盛り込まれる。
桟敷童子の板垣桃子がこまつ座に初参加。桟敷童子のイメージとはまったく違った感じなので、見慣れているファンとしては若干の違和感があった。彼女の良さが生かされていないというのは言いすぎか。半面、夫婦の娘役を務めた瀬戸さおりはせりふも明瞭で歌唱力も高く、とてもいいと思った。主役のラサール石井はさすがの老練さだが、ちょっと疲れている印象も。相方の秋山菜津子は切れもよく、ラサール石井を飲み込んでしまったようだ。
個人的趣味では、ミュージカル仕立てとするより純粋なストレートプレイで見たかった気がする。