公演情報
劇団桟敷童子「蝉追い」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/06/03 (火) 14:00
座席1階
舞台のタイトルになっている「蝉追い」は、セミを夏の神様に見立てて手作り灯籠で行うお祭り。福岡地方の習俗なのかどうかは分からないが、ずっと地面に潜っていて地上で生きるのはわずか1週間。セミは、地中で作業する炭坑のメタファーであり、地元で起きた悲惨な炭鉱事故がモチーフとなっている。炭坑三部作と称される作品の一つ「オバケの太陽」や「泳ぐ機関車」を思い出した。
今作の舞台美術。開演前、客席の階段まで劇場は夏らしく青々とした木々、葉っぱで埋め尽くされている。物語の中心となる家族は夏ミカンの農家をしていたということで、登場する夏ミカンの色が緑に映えた。桟敷童子の舞台はこうした作り込みが魅力であり毎回楽しみにして元・倉庫の劇場に出かけていくのだが、今回も期待を裏切らない。
先人も書いていたが、今作のMVPは鈴木めぐみ。3人の幼い姉妹を捨てて駆け落ちをし、30数年ぶりにちゃっかり戻ってきたおばあちゃんを演じている。その夫役は客演の山本亘。ミカン農園主だったが、今や農園は荒れ果て、3人の娘も寄り付かない。そして、舞台が進むに連れて出てくる認知症状。この描写が実にリアルだ。
3人姉妹は桟敷童子の看板である板垣桃子、もりちえ、大手忍だが、今作でもその実力を遺憾なく発揮している。東憲司の世界観を体の底からよく理解しているからだろう。「お父さんが不審な女を連れ込んでいる」と耳にして3人そろって帰ってきてそっと状況を伺うという場面からスタートするが、両親への思い、特に自分たちを捨てた母親への複雑な胸の内の変化を涙が出るほどうまく表現している。また、3姉妹それぞれに苦悩を重ねた人生の物語があって、これが家族の群像劇として深みを与えている。
お約束のラストシーンは派手さはないものの、桟敷童子ならではの終幕だ。3姉妹が使っていたというミカンの図柄の茶わんなど、細部にもきちんと目をかけた演出だ。
あまりにスキがない感じもするが、今回も秀作だ。見逃さないようにしたい。