かずの観てきた!クチコミ一覧

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掟

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2024/02/15 (木) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/19 (月) 14:00

言いたいことはたくさんあるけど、観劇後にいろいろな感想をぶつけ合いたくなるような力を持つ舞台なのだから、これは面白いと言っていい。多彩な社会問題を扱ってきたトラッシュマスターズらしい仕上がりだ。

舞台は人口減少に悩む地方都市議会。国会議員が選挙の際、地元市長や市議に金をばらまいたとして逮捕され、それによる出直し市長選挙が行われる、という設定で始まる。市議会の守旧勢力に推された候補者しか出ず無投票になりかかる直前、海外の金融機関に勤めていたという地元出身の青年が「無投票を避けるため」として出馬する。清新なイメージもあって(イケメン俳優だ)この青年は見事当選。市政運営に当たって議会への根回しなど旧態依然の慣習(=掟)を破壊し、政策を徹底討論する民主主義で二元代表制を再構築しようとする。
当然、議会の守旧勢力は反発し、次第に市長対市議会(守旧勢力)の対決色は深まる。最初は議員の居眠りを市長がSNSに投稿して物議を醸すというありがちな対決からスタートするが、舞台が進むと、地元の農家の大きなメリットになる施策をもそっちのけの政争という展開に発展していく。

その施策が住民のためになるという思いは共通していても、「俺は聞いてねぇ」、つまり根回しがないということで対決姿勢を強める市議会。こういうことは日本全国、各地で嫌というほど起きている。政治家にとってメンツをつぶされるというのは政治生命を賭けた一大事。それを分かっていながら意固地なまでに旧弊打破を唱え、政治の世界の習わしとか旧弊とかを諸悪の根源と決め付けて突っ走る市長は大人げない。最後は両方ともメンツを賭けた戦いになっており、犠牲になった施策や市民はいい面の皮である。

劇作の中津留章仁は、民主主義の正義を錦の御旗に掲げて自分を押し通す市長のあり方も問うているのだろう。人口減少や高齢化、政治への無関心などで衰退していく地方都市の再生は、こんな喧嘩腰ではとてもできないからだ。民主主義は話し合いだ。お互い譲れるところは譲り、論議を重ねていかないと改革などできっこない。この市長vs市議会の争いは、劇中でも出てくるせりふだが「子どもの喧嘩」よりもたちが悪い。

言いたいことは他にもある。市議会側は市長を独裁者呼ばわりするが、ある意味その通りだ。定例記者会見で市長が、議会守旧派寄りの地元紙の市政担当ベテラン記者を「偏向報道はやめなさい」と罵倒する場面は、独裁者を感じさせた。石原慎太郎都知事がテレビ報道もされている定例会見で、記者を罵倒していたのを思い出した。自分の思うとおりにならない報道を「偏向だ」と決め付けるのは民主主義ではない。
また、このベテラン記者が守旧派議員とツーカーの関係を築いてネタを取っていたのを、テレビ局の若い女性記者が「あなたはこんなことをしてネタを取っていたのか」と激しくののしる場面もある。何が真実か見極める報道をするためには、取材対象に深く食い込むことが必須だ。もちろん取材する側とされる側の一線を越えるような「癒着」はあってはならないが、ネタが取れない若造が、深く食い込むことを「癒着」と決め付けて先輩記者、しかも他紙の記者を批判するのは気持ち悪かった。(この女性記者に反論しない地元識者も情けない)
メディアの中にはよくあるのだが、正義感だけで突っ走る記者は表層的なことしか書けないし、本質を突いた深みのある報道を期待するのは無理だと思う。

とまあ、これだけ書いてもまだ言いたいことがある、というのはやっぱり、この舞台はおもしろいということだ。何か言いたいことがある人は、まず、この舞台を見よう。休憩を挟んで3時間の舞台が終わった後は、下北沢の酒場で激論を交わそう。

養生

養生

ゆうめい

ザ・スズナリ(東京都)

2024/02/17 (土) ~ 2024/02/20 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/02/18 (日) 14:00

座席1階

異色の傑作である。美大生が舞台をつくるとこんな感じになるのかなと思わせる、シンプルでありながら変化に富む舞台美術が展開される。

まず驚くのは、スズナリの席に着くまでに舞台の裏(バックステージ)を通って一周する。スズナリでもう何回舞台を見たか分からないが、バックステージを歩いたのは初めてだ。バックステージと客席は薄い養生テープでカーテンのようになっていて、客席を透かしてみることができる。この体験が、今作の舞台につながっていく。
開演前に舞台にあるのは、アルミ製の脚立で作った3つのトンネル。大中小という感じで舞台の中心に置かれている。この脚立を開いたり閉じたり動かしたりして場面の構成をする、じつに効果的な演出がなされる。

冒頭、美大生の問わず語りのトークからスタートする。しかも、舞台袖の入口に立ったままの語りだ。これも、かなり異例の幕開けでとても印象的だ。
物語は、あるデパートの展示物差し替えの現場。閉店後の深夜、高圧的な社員に命令され酷使されるアルバイトたちの会話劇が展開される。それぞれに抱えた事情が少しずつ明らかになってきてこれが、かなりおもしろい。孤独や孤立を胸の内に抱えた若者たちの葛藤が描かれるが、どこか楽しんでいるようなところがあり、けして暗くない。

笑える場面も随所にあって、飽きさせない。テンポ抜群な会話劇で、最後まで客席も突っ走っていける。





ネタバレBOX

客席に号泣している人もいた。これだけ人の心を動かしている舞台なのだと、その号泣に感動してしまった。
う蝕

う蝕

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2024/02/10 (土) ~ 2024/03/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/17 (土) 14:00

座席1階

IAKUの横山拓也とミナモザの瀬戸山美咲という、今を時めく劇作家と演出家のコンビによる作品だけに注目度抜群の舞台。期待度は非常に高かった。被災という極限状況を扱った舞台だと「ハイツブリが飛ぶのを」がすばらしかったし、人里離れた山奥の生活を描いた舞台だと「モモンバのくくり罠」も胸に刺さる作品。いずれもきわめて緻密な会話劇で複数のテーマがクロスオーバーするという横山らしさ満載の作品だったが、今作は「不条理劇」と銘打ってある。いつものテイストとはかなりかけ離れた作品だった。

まず、会話の間の沈黙が目立つ。特に冒頭の部分は、いったいいつ役者がしゃべり始めるのかとかたずをのんで見守るという感じだった。そして、ボケとツッコミはあるとしても会話がかみ合っていない。そこは不条理劇ならではの哲学的部分なのかと思うが、いつもの横山劇を想定していくとテイストは全然違うのである。

これを新境地と呼ぶのかどうかは分からないが、きっと好みや評価は分かれるだろう。う蝕というのは虫歯という意味で、天変地異で地盤が虫歯のように欠けていくという世界を描いている。能登半島地震でも激しい地盤の隆起や沈下があったので、全く想像の世界というわけではない。しかし、こうした被災地を現場にした不条理劇というのは、客席からすると少し難しかったかもしれない。別役実の不条理劇を連想すると、やはりそれとはかなり趣は違う。個人の好みの問題ではあるが、自分は絶妙な会話の連続が織りなす高い物語性が横山作品の魅力と思っているだけに、「ちょっと違うかな」という印象はぬぐえなかった。

演出はというと、幕開きの部分には度肝を抜かれる。舞台に引き込む力は抜群だ。ただ、その後は特に「これはお見事」という起伏はなく、演出的には淡々と進んでいく。やはり不条理劇なので、瀬戸山らしいところを発揮する部分があまりなかったのかもしれない。

小栗判官と照手姫

小栗判官と照手姫

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2024/02/08 (木) ~ 2024/02/14 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/13 (火) 14:00

ニクスの看板・女歌舞伎の第3弾。今回はほとんどの出演者があでやかな着物姿で登場するのでかなり豪華絢爛、美しい絵巻物を見ているという印象。物語の進行を忘れてしまうほどだ。

というのも、物語の面白さという点では「さんせう太夫」の方がいいと思うからだ。愛し合う二人が最後に再会するという物語は、安心感を持って見ることができる。それゆえ、舞台を彩るさまざまなところに目が行く。

出演者で出色だったのは、語り部役を務めた河西茉祐だ。お目々くりくりの美形であり、よく通る声とお茶目な演技は主役の2人を上回っており、語り部がそんなに目立ってどうするの?って感じだ。一方で小栗判官役の寺田結美はその長身もあるが堂々たる存在感。舞台を最後まで引き締めた。
残念だったのは、照手姫の人形を操った百鬼ゆめひなで、もっと出番があるとよかった。オープニングとラストに登場させるだけなら、照手姫の人形バージョンはなくてもよかったのでは。また、駒田早代の三味線は舞台をあでやかにする効果抜群であった。

今作の舞台は、若い女性がいつもより少なかった気がする。おじさん好みの演目なんだろうか。

やさしい猫【2月3日~7日公演中止】

やさしい猫【2月3日~7日公演中止】

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2024/02/03 (土) ~ 2024/02/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/10 (土) 18:30

座席1階

直木賞作家中島京子の原作を舞台化。スリランカから日本に来た青年がボランティア現場で知り合ったシングルマザーと知り合い結婚するが、在留資格をめぐって理不尽な入管行政にほんろうされ、その不当さを裁判に訴える物語だ。

長編小説だが、恐らく原作にはできる限り忠実に戯曲化したものと思われる。15分の休憩を挟んで2時間半。テンポよく話が進んでいくのだが、ちょっと詰め込みすぎた感じもする。
入管行政の残酷さは劇作の大きなテーマだ。ちょうど1年くらい前に、トラッシュマスターズの中津留章仁も「入管収容所」で、働く職員の苦悩も含めて戯曲を作り、大きな反響があった。今回の民藝の舞台では、中心となるのが裁判の場面だ。休憩後の後半に時間を割いて鋭い会話劇が展開されるが、自分としてはこの裁判の場面をもっとじっくり見たかった。休憩なしの2時間くらいの長さで、今作の前半で描かれた部分を思い切って濃縮するという手もあったと思う。

シングルマザーの子役を演じた女性3人は、大人たちの演技を凌駕する勢いがあった。せりふ回しなども鍛えられていて、発音も明瞭。周囲がかすんでしまうような熱演でとてもよかった。

もはや外国人抜きでは成立しなくなっている日本社会。今作でも描かれていたが、その外国人をさげすむネット言論はまったく現実を見ていない。同じ人間として同じ国に住み、時には助け合っていきながら交流する世の中でないと、日本は世界から人権国家としては認めてもらえないだろう。このような芝居が何回も上演され、何が大切なのかを私たちに伝えてほしい。

逢いにいくの、雨だけど

逢いにいくの、雨だけど

スーウェイ

小劇場B1(東京都)

2024/01/31 (水) ~ 2024/02/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/02/01 (木) 14:00

座席1階

iakuの横山作品ということでチケットを確保。期待して下北沢へ向かったが、果たして見事な作品だった。iaku以外でこの作品を上演するのは初めてとか。役者たちはそうしたプレッシャーがあったかもしれないが、心理描写が演技ににじみ出るような役者にとっては難易度の高い作品を見事に演じた。

冒頭、主役の君子が絵本の新人賞に選ばれたという電話を受けるところから始まる。焼き肉屋でバイトをしながら書き続けた苦労人が絵本作家となり、仕事の注文も舞い込んでうれしいはずなのに、なぜか君子は浮かない顔をしている。なぜそうなのかは次第に明かされることになるが、それはずっと君子の心の底に引っ掛かっていた幼なじみとの事件だった。
君子の表情がこの舞台を引っ張っていく力になるのだが、自分が見たAチームの君子役はやしききの表情は見事だった。眉間に寄せるしわが、主人公の心の奥深いところにある苦しさ、悲しさを実にうまく表現している。役者との距離が極めて近い下北沢小劇場B1だけに、それが手に取るように分かる。
もう一つ、相手役となる幼なじみの潤(じゅん)を演じた武谷公雄の素朴な演技も役柄を上手に捉えていた。この素朴さからにじみ出てくる優しさが客席の視線をくぎ付けにする。ラストシーンははすすり泣きも各所で聞こえるほどの名場面だった。

それもこれも横山作品の卓越した物語性のなせる技なのだが、まずは役者たちの奮闘をたたえたい。演出もシンプルでよかった。親と子、二つの時代を前後にクロスオーバーさせながら見せたのはよかった。比較的長いと思われる2時間だが、時間を無駄にしない演出は客席を物語の中にうまく引き込んでいった。小劇場ならではの演出だったと思う。

iakuの東京進出以来、横山作品にしばしば触れてきたが、この戯曲はすばらしい。キャラクター設定や、登場人物同士の微妙な関係など、心の機微に触れる名作だと思う。もう少し大きな劇場で、違う演出でも見てみたい作品だ。
見ないと、損するかも。

サンシャイン・ボーイズ

サンシャイン・ボーイズ

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2024/01/24 (水) ~ 2024/01/31 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/01/31 (水) 14:00

座席1階

確かに、2年前よりもよかったと思う。脇を固めたメンバーもしっかり存在感があった。翻訳劇なので仕方がないとは思うが、ニール・サイモンのギャグがはまるところとはまらないところがあって、笑いのツボがずれている感じもした。クスリとなるのも含めておおいに笑いたいと思ってきているお客さんも多い。少しでも脚色でカバーすることはできなかったかと思った。

アメリカエンタテイメント界で一世を風靡した2人組のコメディアンが主役。足腰が弱ってボケも入っているのではないかと心配になるウイリー(加藤健一)と、出で立ちはしっかりしているが足元が怪しいアル(佐藤B作)。2人を再び共演させようと、ウイリーの甥(加藤義宗)が画策するところから始まる。とにかくこの2人は仲が悪い。特にウイリーは被害妄想的なところもあり、絶対共演なんかするかと抵抗する。最終的に「じゃあ、まずはさわりの稽古だけでも」と落ち着くが、やってはみたものの、とにかくアルが入室する冒頭の数秒のところしか稽古が進まないという状態。ぶっつけ本番のような形でリハーサルに突入することになる。

主役の2人には、納得の客席だ。間合いもぴったりで、B作のちょっと甲高い早口のせりふ回しがすばらしい。特に、2人だけのラストの場面は客席を魅了した。千秋楽だけに、気合が入っていたのが伝わってきた。

この演目は全国各地を回っていて、シモキタの本多劇場はいわば凱旋公演。地方公演はまだあるから、全国にこのすばらしい演目を披露してほしい。

死ねばいいのに

死ねばいいのに

舞台「死ねばいいのに」製作委員会

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2024/01/20 (土) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/01/23 (火) 14:00

座席1階

ナベプロのDボーイズメンバー新木宏典ら俳優をお目当てに来ている女性が圧倒的に多いな、という客席だったが、シライケイタの脚本・演出はとてもおもしろい。人気俳優がお目当てでない人も十分に楽しめる名作だ。

まず、開演前。舞台手前に向かって傾斜した舞台がおおむね4つのパートに分かれてソファやテーブルなどが置かれている。この傾斜舞台が非常に新鮮。台本に沿った演出では特段、傾斜が生かされているという感じでもなかったが、まずは注目の的である。
物語は、新木が演じる自称・世の中を知らないバカな若い男が中年サラリーマンを呼び止めるところでスタートする。死んだ知人のアサミについて知りたいというのだ。この無礼な若い男と、上から目線の中年男のバトルトークのような会話劇がまず、おもしろい。当初は説教を垂れるような調子の中年男だったが、話を重ねるうちに形勢が逆転。アサミを知りたいという話だったのにいつのまにか自分のことばかり弁解しまくる中年男。区切りとなる決めぜりふが、タイトルにもなっている「死ねばいいのに」だ。
アサミの母親や自宅マンションの隣人女性など、アサミに関係のある6人をこの若い男が「アサミのことを知りたい」と次々と訪ねていくオムニバスのような感じで進んでいく。これら関係者とアサミとのかかわりはそのパートごとに明かされていくが、最後まで分からないのは、誰がアサミを殺したのか、そしてこの無礼な若い男とアサミとの関係は何なのかというところだ。その答えを提示する衝撃の展開が待ち受けている。

一番の面白さは、それぞれ激しく展開される会話劇。シライケイタの真骨頂と言えるのかも。それぞれの俳優がこの劇作家の注文にきっちり応える演技をしているのだが、残念なのは主役の新木君。長ぜりふもあちこちにある会話劇で大変なのは事実だが、ちょっとかむ場面が目立ってしまっていた。

でも、この舞台は文句なく面白い。人間の身勝手さや正直さがクロスオーバーする展開には感動する。いい舞台だった。

ネタバレBOX

招待を受けていたと思われる演劇記者が遅刻してきたにもかかわらず、座るやいなや最後までいびきをかいて隣席に迷惑をかけていたのはブーイングだった。眠りに来るなら来ないでほしい。
性と生の迫間で

性と生の迫間で

Lumeto

高田馬場ラビネスト(東京都)

2024/01/17 (水) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/01/18 (木) 15:00

座席1階

デリバリーヘルスの風俗嬢とお客さんの会話劇。オムニバスのようでもあるが、舞台後半でつながっていく。つまり風俗嬢とお客さんの群像劇だ。

子づくりのためのセックスに疲れ果てて勃起不全となった男性など、さまざまな性の悩みを抱えた人が登場する。一方の風俗嬢も、身体は女性、心は男性のままで仕事をするトランスジェンダーなど、やはり胸の内に秘めた葛藤を抱えていることが舞台の進行で明らかにされる。共通しているのはどの人ももがきながらも懸命に生きているということだ。こうした通底音があるから、どんな苦難が吐露されても、舞台は一貫して前向きで明るい。

風俗嬢とそのお客さんにあるあるのような、細かな業界ネタが散りばめられていて奥が深い。お客さんのタイプも多様で、思わず引き込まれてしまう。性と生の迫間に何があるか。それは、なんだかんだといろんなことがありながらも前を向いていくという確かな思いではないか。

やむを得ないところでもあるけど、舞台転換にやや難がある。
だが、風俗での会話劇という異色な舞台を楽しむ一見の価値はある。

ネタバレBOX

事故で両まひとなった男性が車いすでラブホに入り、デリヘル嬢を呼ぶ場面がある。車いすでも入れるラブホがどれだけあるかは不明だが、これからの時代、そんなホテルがたくさんできてほしい。障害者の性を描いた舞台も見てみたいと思った。
アンネの日

アンネの日

serial number(風琴工房改め)

ザ・スズナリ(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/01/17 (水) 19:00

座席1階

生理用ナプキンの開発に取り組む会社での女性8人の群像劇。詩森ろばの名作の再演だ。扱いにくいテーマだったかもしれないが、それぞれ8人の初潮体験から幕が開き、次世代の製品開発に向かっていくという物語の流れがとても印象的。それぞれの個性が丁寧に描かれ、分かりやすい。8人の熱演も光る。価値ある2時間を体験すべきだ。

特徴的なのは、8人の中に性同一性障害の女性がいることだ。彼女は子どものころ、「神様、私にも生理をください」とお祈りをし、「女の子としての欠陥がある」と悩んでいた。その彼女が入社した経緯や、配属先の理由、部局横断の開発チームに加わるかどうかなどの展開は、その背景にいる会社の男性らの思考も含めて理不尽さや差別的扱いも浮き彫りにする。
生理の体験ができない男性には、女性がどのような身体的、精神的な苦労を重ねて生きているかを想像するきっかけになる。男女が共に活躍する社会を目指すのであれば、この劇作は政治家や行政の人たちにぜひ見てほしい。多くのヒントが詰まっている。

これは見ないと損するぞ、皆に言おうと思いながら夜の下北沢を後にした。

地獄は四角い

地獄は四角い

namu

OFF OFFシアター(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/01/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/01/14 (日) 14:00

座席1階

小劇場の舞台制作の裏側を演劇にした、ユニークな作品。旗揚げ公演だけに少し肩の力が抜けていない感じもあったが、カーテンコールの拍手の力強さを見ると客席の満足度は高かったと言えると思う。

本番間近になっても本が最後までできていないとか、古株の役者が劇団で経験してきた上下関係とか。小劇場あるあるが散りばめられている(と思う)。そういう面白さもあるが、やはり見たいのは「何で演劇をやり続けるの」という役者や劇作家の胸の内とか、胸の中の本当の思いだ。それを最後まで期待していたのだが、肩透かしみたいな幕引きだったのは少し寂しい。
最初に語られる話。お笑いの世界ではM1がある意味売れない芸人に引導をわたす役割をしている。小劇場の世界ではこんなイベントがないから、役者たちはモノにならなくてもダラダラと続けている。こんなイントロが強烈だっただけに、舞台にその答えを求めてしまうのは自然なのではないか。

ほどける双子

ほどける双子

クレネリ ZERO FACTORY

小劇場 楽園(東京都)

2024/01/10 (水) ~ 2024/01/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/01/12 (金) 19:00

座席1階

ほぼ1年前に拝見して、心に突き刺さるようなカケラが散らばったように感じた秀作。今回は道学先生の青山勝の演出とのことで、まったく新しい舞台を見に行くつもりで下北沢へ出かけた。

作品に登場するすべての人物を演じ分けるという離れ技は、今回もお見事。そのくるくると回転する大きな瞳で演じるさまを、小劇場ならではの近接感で堪能できる。また、前回のように外の音が入らない地下の小劇場だから、没入感も半端ない。
物語は、育児ノイローゼの妻が夫に誘われ、赤ちゃんをシッターに預けて食事とオペラに出掛ける場面から始まる。幼子をシッターに預けて外出する夫婦は欧米では当たり前というが、この舞台は最初から雲行きが怪しい。そんな不穏な感じも本多真弓1人で醸し出すのだから、前回よりもパワーアップしていると言ってよいのではないか。
50分の作品だが、衝撃のラストに向かって駆け上がっていく演出は素晴らしかった。このような作品を普通に楽しむことができる下北沢。小劇場万歳だ。

ネズミ狩り 2024

ネズミ狩り 2024

劇団チャリT企画

ザ・スズナリ(東京都)

2024/01/06 (土) ~ 2024/01/08 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/01/07 (日) 14:00

座席1階

前回、ジャニーズ事件をテーマにした舞台はとにかくこれでもかというくらい笑ったが、今作は犯罪加害者の更生問題に正面から切り込んだ力作。再再演といい、今の時代背景に合わせてリニューアルしたという。

街中の蕎麦屋が舞台。この店の主人は少年犯罪に巻き込まれて亡くなり、長女が跡を継いでいる。犯罪被害の遺族だが、長女は父を殺害したとされる少年の死刑求刑に反対している。一方で末娘は痴漢被害のトラウマで電車に乗れないという状況になっていることもあって、死刑を求めて活動。姉妹の仲は険悪になっている。
亡くなった父親もかつては犯罪を犯し、更生して蕎麦屋を立ち上げたという経歴があると明かされる。自分と同じ境遇の少年の更生に協力してきて、積極的に少年院出の若者を雇っていることも、舞台の進行と共に分かってくる。そんな中で、サカキバラ事件を連想する元少年を雇っているのではないかというウワサが立つ。

凶悪な犯罪加害者が隣にいることに拒絶反応が起きるのは、かつても今の世の中も同じだ。元少年Aの更生を阻むのはこんな世の中である。事件から何年も経っても変わらぬ空気にはため息が出る。
しかし、舞台は死刑運動に参加する被害者の女性をキーパーソンにして、この難しい問題を客席に突きつけてくる。チャリTがこんな硬派な舞台を作っていたとは恥ずかしながら知らなかった。

役者たちの熱演も見事だ。特に姉妹の言い合いの場面の迫力は特筆もの。この展開を目撃するだけでも、舞台を見る価値がある。
この舞台が、犯罪加害者に拒絶的な世の中の空気を少しでも揺るがす力になるだろうか。舞台の力に思いを馳せる。

いい舞台だった。ぜひ見ておくべきだ。

ネタバレBOX

早割チケットを買ったら一番前の席だった。おかげで迫力満点の舞台を堪能できた。
失うものなどなにもない

失うものなどなにもない

good morning N°5

小劇場B1(東京都)

2023/12/14 (木) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/12/19 (火) 14:00

座席1階

少し早めの忘年会というかクリスマスパーティーというか。演劇には違いないが、小劇場B1がパーティー会場に変貌したような錯覚を覚えた1時間半だった。
というのも、アルコールを含めた飲食物持ち込み自由で、持ってこなかった人は劇団員がきちんと販売してくれる。(床は、飲み物をこぼしてもいいようにカバーがされていた)
舞台で俳優が使用するのと同じ小道具をパーティーグッズのように劇団員の売り子が売っている。おまけにここぞというところで鳴らせるクラッカーまで販売している。かくなるように、とことん客席に楽しんでもらおうという仕掛けにあふれていた。

物語はあってないようなものだ。一応、舞台設定は海外旅行の航空機。劇団員がスッチーの出で立ちで開幕前からマイクを手にしていたから、最初は飛行機の中での話かなとも思った。
パーティーゆえ、もちろん、歌あり踊りあり。だが、中村中の歌唱力は飛び抜けて高いものの、他の人たちは今ひとつでもっと何とかならなかったのだろうか。パーティーなので仕方がないかもしれないが、ちょっとお下品な出し物もあり(先人が記述した鼻くそもそうだが)、酔っぱらっていない人が多い客席では、許容範囲を超えていると思った人もいたのではないか。

これだけサービス精神旺盛な舞台をつくった劇団員の努力はすごいと思うが(有料グッズが多すぎる気も)、やはりもう少しストーリー性を持たせた展開があればよかった。これが希薄だったので単なるお祭り騒ぎに終わってしまった感じだ。舞台美術も、せっかく壁に飛行機の窓をあしらったのに、それが舞台に生かされていないのは残念だった。

藁

TinT!

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/12/13 (水) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/12/17 (日) 14:00

座席1階

今日が千秋楽。40人入るかどうかという池袋の小劇場を訪ねたが、この演劇はすばらしい。あっさり終わってしまうのがいかにも惜しい。「見ないと損するぞ」と書きたいが、千秋楽では仕方がない。

舞台は1989年に起きたルーマニアの革命。民主化運動に倒された大統領と言えば、独裁者チャウシェスク。個人崇拝を高め、困窮する市民を尻目に宮殿に住み、妻とともに贅沢を尽くした。5人以上子どもを産むように国民に強制し、その結果大量のストリートチルドレンを生んだ。今作「藁」は、こうした史実を交えながら独裁者が銃殺されるまでをフィクションとして描いている。演説しているときに暴動が起き、とある田舎町の工場に大統領夫妻が逃げ込んでくるところから物語は始まる。
この工場は政府の配下にある靴工場でありながら、材料にも事欠き、工場長の夫婦は食うに食わずの生活だ。日ごろ憤怒の的としている大統領夫妻が目の前にいるという驚きのシチュエーション。工場長夫婦は表向きは忠誠の言葉を並べるが、民主化組織に寝返った軍に大統領夫妻を突き出そうと画策する。

工場長や、大統領夫妻を演じた俳優たちの迫真の演技は見事だった。ラストシーンに向かっていく時にハンカチを握り締めて涙している客席もあった。一見、そんな感動的な物語ではない。だが、工場長夫妻の一粒種がろくに医療を受けられず病死し、息子への思いが目の前の大統領夫妻への静かな怒りとして表現されている筋書きは、確かに涙を誘う。俳優たちの力に加え、こうした台本の秀逸さが感涙となるのだろう。

「TinT!」の過去作を見ると、タイトルが全部漢字一文字になっている。欧米の史実や著名人の物語をモチーフに主宰の染谷歩が劇作と演出をしている。今作の「藁」は物語の象徴となる一文字であり、過去作もきっとそういう感じなのだろう。思わず次作に期待してしまうが、次の公演予告は来年12月ということであった。

白夜

白夜

池の下

劇場MOMO(東京都)

2023/12/15 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/12/16 (土) 14:00

座席1階

寺山修司作品の連続上演を続ける池の下。第20弾の「白夜」は、失踪した妻を探して旅をする夫の物語だ。「不在が存在を超えていく恐怖」がテーマという。

舞台は海辺の旅館。他は満室だというのにそこだけは空いていたという部屋に、男が旅行かばんを持って入ってくる。旅の目的は消えた妻を探すことだ。ただ、実は消えたのは夫の方が先で、妻に何も言わず1年程度家を空けたのだという。近所の人によれば、妻は必死の形相で夫を探していたというから、「なぜだ」という思いを胸に夫がいなくなった妻を探しているというのは何だか変だな、とは感じる。
シンプルな舞台で、物語はハイテンポで進む。「不在の妻」の「存在」をどう描いているかがこの舞台の見どころの一つである。詳しくは見てのお楽しみだが、舞台美術に「存在」を語らせているところもあって興味深い。
結末はあっけないのだが、アングラ劇の印象も強い寺山修司がこんな戯曲を書いていたとは。白夜というタイトルも思わせぶりで、見た後にいろいろ考えてしまう効果を生んでいる。

 ​『再会(仮)』​  ​-Saikai Kakko Kari-

​『再会(仮)』​ ​-Saikai Kakko Kari-

小松台東

シアター711(東京都)

2023/12/12 (火) ~ 2023/12/19 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/12/12 (火) 19:00

座席1階

迫力のある二人芝居だった。父と息子という、なかなかの濃密な会話がしにくい関係なのだが、50代で亡くなった父が登場し、その年齢に近づいてきた息子と話すというシチュエーションにすることで余り違和感なくお互いの微妙な関係や、建て前と本音、そしてそれを打ち破るような感情の吐露が見どころだ。

オムニバスなのかとも思わせる構成だが、少し違う。特に説明はないが、時間の流れを思わせる状況を、東京と故郷・宮崎という二人がいた場所でクリアしている。子どものころに息子が父に対して何を感じていたのか、その心のざわつきというか違和感から物語はスタートし、次第に父の胸の内なども明らかになっていく。
自分の思いを伝えるのが少し苦手という感じの息子に、決定的な質問を突きつけられるとごまかしたり逃げたりする父。子どもに対して親が口先だけの理不尽な論理を展開して逃げるというのはよくある話だが、そうした「あるある」も客席の共感を呼ぶ。
小さな劇場だけに、この二人の役者のよく通る声、驚くほど大きい怒声などは迫力がある。終演時の客席の反応もよく、力強いカーテンコールが送られていた。

巨匠

巨匠

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/12/10 (日) 13:30

座席1階

民藝が木下順二の「巨匠」を上演するのは、今回が5回目という。このほかにも多くの木下作品をやり続けてきた老舗劇団にとって、思いが俳優たちにこもっている舞台に仕上がっている。

主役の老俳優役の西川明は、民藝のレジェンド的名優が担ってきた役ということで、相当なプレッシャーを感じたと、出演者鼎談で話している。レジェンドを受け継いでいくさまを、舞台を通して客席は見守ることができる。
この物語は、ドイツに占領された先の大戦時、普通の人たちが暮らす住宅にゲシュタポが突然踏みこんでくることで大きく展開する。ドイツ軍への妨害工作への報復として、その場に居合わせた5人のうち4人の知識人を選んで銃殺するとして尋問をはじめる。老俳優の身分証は簿記係となっていて「あなたはよろしい」とはじかれるが、老俳優は自分は俳優だと強く主張。知識人と認められれば命はないのに、「ならばシェークスピアのマクベスの短剣シーンの演技をやってみろ」と言われ、その場で迫真の演技を展開する。
この老俳優が銃殺されたかどうかは、もともとの作品とは異なるようだが、この場面が最大のクライマックスだ。なぜ、演劇をやるのか、なぜ演劇で生きてきたのか。老俳優の演技はこうした問いに答えを出そうかとするかのようである。

座付きのベテラン演出家の丹野郁弓がキレのいいコンパクトな演出をいている。若い俳優たちがベテランの役作りを目の当たりにして、次の世代に劇団が続いてほしいという思いもこもっているようだった。

扉座版 二代目はクリスチャン―ALL YOU NEED IS PASSION 2023―

扉座版 二代目はクリスチャン―ALL YOU NEED IS PASSION 2023―

劇団扉座

紀伊國屋ホール(東京都)

2023/11/28 (火) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/12/02 (土) 13:00

座席1階

扉座の「幻冬舎プレゼンツ」による芝居を初めて見た。何で幻冬舎なのかということは、パンフレットに書いてあった。主宰の横内謙介は高校時代、まさに本日の紀伊国屋ホールへつか公演を見るために通い、そこで幻冬舎の社長見城徹(当時は月刊カドカワ編集長)に出会う。そして後に、公演会場の紀伊国屋ホールを何とか埋めようと、見城に告知を頼み込んだのだという。それ以来の関係だとか。
なるほど、そういうことで今作「二代目はクリスチャン」につながるのか。幻冬舎プレゼンツではつか作品を上演し続けているという。

だが、明らかにいつもの扉座とは雰囲気が違う。笑いのポイントは扉座版と言えばそうかもしれないが、何となくぎこちなくいつもの切れ味がない。ネタには福島第一原発事故とかいろいろ入っているのだが、滑ったところも目立つ。
9プロジェクトとか、東京都北区のつか劇団の流れをくむつかこうへいの舞台に親しんでいるせいか、これだけ大きな劇場でやるつか作品に何となく居心地の悪さを感じていたのかもしれない。セットもろくにない、平場で俳優たちがぶつかり合って汗やつばを飛ばしあうというイメージだったからだ。今作、冒頭に出てくる舞台美術は刑務所の大きな門。それが厳かに開き、二代目となる主役の女性(死んだ組長の妻)が登場する。ここではおーすごいと思ったのだが、舞台が進むにつれて違和感が強くなる。
不幸なことにラストシーンの兄弟盃の場面には閉口した。垂れ幕の大きな文字にスポンサーの見城徹の名前が。これはいくら何でもやりすぎではないのか。

こうした違和感を除いては、役者たちの熱演はいつものように好感が持てた。ただ、二代目役の伴美奈子はベテランなのにせりふが滞る場面があり、殺陣も迫力を欠いている。もっと若い俳優を抜擢するという手はなかったのだろうか。

カーテンコールではスタンディングオベーションをしている人も目立ち、ファンには受け入れられていることを実感した。自分のような感想を持つ人は少ないのかもしれないが、とにかくいつもの扉座とは違うということを理解して劇場に向かった方がいいと思う。

ネタバレBOX

舞台の場外で度肝を抜かれる。幻冬舎プレゼンツの舞台では毎回こうなのかもしれないが、民放テレビ各局の社長名で飾られたかぐわしい香りを漂わせている生花で、ロビーが埋め尽くされているのだ。これも幻冬舎の御力なんでしょうか。
これってお客さんと何か関係があるの?と、舞台で感じた違和感にとどめを刺してしまった。これさえなかったら、もっと好印象が持てたと思う。
空ヲ喰ラウ

空ヲ喰ラウ

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/28 (火) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/11/30 (木) 14:00

座席1階

約2時間の間、舞台に視線がくぎ付けになった。久しぶりにこのような体験をした。マチネの舞台は昼食後でもあり、眠気を誘うもの。だが、この舞台は冒頭から目が離せない。気が付いたら、ラストシーンに向かって突っ走っていた。スタンディングオベーションがあってもおかしくない、強烈な拍手が舞台の成功を表していた。

桟敷童子の舞台はまず、美術だ。今作は森の保全という林業がテーマだけに、左右に深い森の木々を模したセットが組まれている。ここを「空師」と呼ばれる木の高所で作業をする職人を演じる俳優が軽業師よろしく演技をしながら登り降りする。男女は関係ない。板垣桃子、もりちえ、大手忍の看板女優たちの軽快な動きは目を見張るばかりだ。
冒頭の演出がハートをつかむ。音楽の選択もすばらしい。「ラ・カンパネラ」がこのように使われるとは想像もしなかった。
タイトルの「空ヲ喰ラウ」は一番天空に近いところで作業をする空師の人生を象徴する。空と一体化する、というイメージだ。極めて狭い山の頂上に立ち、両手で空を抱きしめる感じ。桟敷童子らしいタイトルだ。
物語は、空師の仕事を守ってきた二つの組をめぐって展開されていく。外部からの流入に抵抗感を持つ山村の生え抜きと、都会から「逃げて」来た若者。これらの人間関係や人生もこの舞台の見どころである。

舞台美術を堪能するだけでもこの劇団の舞台は見る価値があるとかつて書いた。今作は度肝を抜くような舞台美術ではないが、完成度は高い。劇場入口に模型が展示してあるのをお見逃しなく。今作も見ないと損するレベル。劇団員の奮闘に心から拍手を送りたい。

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