掟 公演情報 TRASHMASTERS「」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2024/02/19 (月) 14:00

    言いたいことはたくさんあるけど、観劇後にいろいろな感想をぶつけ合いたくなるような力を持つ舞台なのだから、これは面白いと言っていい。多彩な社会問題を扱ってきたトラッシュマスターズらしい仕上がりだ。

    舞台は人口減少に悩む地方都市議会。国会議員が選挙の際、地元市長や市議に金をばらまいたとして逮捕され、それによる出直し市長選挙が行われる、という設定で始まる。市議会の守旧勢力に推された候補者しか出ず無投票になりかかる直前、海外の金融機関に勤めていたという地元出身の青年が「無投票を避けるため」として出馬する。清新なイメージもあって(イケメン俳優だ)この青年は見事当選。市政運営に当たって議会への根回しなど旧態依然の慣習(=掟)を破壊し、政策を徹底討論する民主主義で二元代表制を再構築しようとする。
    当然、議会の守旧勢力は反発し、次第に市長対市議会(守旧勢力)の対決色は深まる。最初は議員の居眠りを市長がSNSに投稿して物議を醸すというありがちな対決からスタートするが、舞台が進むと、地元の農家の大きなメリットになる施策をもそっちのけの政争という展開に発展していく。

    その施策が住民のためになるという思いは共通していても、「俺は聞いてねぇ」、つまり根回しがないということで対決姿勢を強める市議会。こういうことは日本全国、各地で嫌というほど起きている。政治家にとってメンツをつぶされるというのは政治生命を賭けた一大事。それを分かっていながら意固地なまでに旧弊打破を唱え、政治の世界の習わしとか旧弊とかを諸悪の根源と決め付けて突っ走る市長は大人げない。最後は両方ともメンツを賭けた戦いになっており、犠牲になった施策や市民はいい面の皮である。

    劇作の中津留章仁は、民主主義の正義を錦の御旗に掲げて自分を押し通す市長のあり方も問うているのだろう。人口減少や高齢化、政治への無関心などで衰退していく地方都市の再生は、こんな喧嘩腰ではとてもできないからだ。民主主義は話し合いだ。お互い譲れるところは譲り、論議を重ねていかないと改革などできっこない。この市長vs市議会の争いは、劇中でも出てくるせりふだが「子どもの喧嘩」よりもたちが悪い。

    言いたいことは他にもある。市議会側は市長を独裁者呼ばわりするが、ある意味その通りだ。定例記者会見で市長が、議会守旧派寄りの地元紙の市政担当ベテラン記者を「偏向報道はやめなさい」と罵倒する場面は、独裁者を感じさせた。石原慎太郎都知事がテレビ報道もされている定例会見で、記者を罵倒していたのを思い出した。自分の思うとおりにならない報道を「偏向だ」と決め付けるのは民主主義ではない。
    また、このベテラン記者が守旧派議員とツーカーの関係を築いてネタを取っていたのを、テレビ局の若い女性記者が「あなたはこんなことをしてネタを取っていたのか」と激しくののしる場面もある。何が真実か見極める報道をするためには、取材対象に深く食い込むことが必須だ。もちろん取材する側とされる側の一線を越えるような「癒着」はあってはならないが、ネタが取れない若造が、深く食い込むことを「癒着」と決め付けて先輩記者、しかも他紙の記者を批判するのは気持ち悪かった。(この女性記者に反論しない地元識者も情けない)
    メディアの中にはよくあるのだが、正義感だけで突っ走る記者は表層的なことしか書けないし、本質を突いた深みのある報道を期待するのは無理だと思う。

    とまあ、これだけ書いてもまだ言いたいことがある、というのはやっぱり、この舞台はおもしろいということだ。何か言いたいことがある人は、まず、この舞台を見よう。休憩を挟んで3時間の舞台が終わった後は、下北沢の酒場で激論を交わそう。

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