掟 公演情報 」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.3
1-12件 / 12件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    都知事選を経て、現在進行形の某首長の騒動もあり。
    今観たら、また見え方が変わるかもしれない。
    芝居の質はかっちりと安心して観られるものでした。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    TRASHのここ数回は配信で観ているが、台詞を明快に発する台詞劇で殆ど不足を感じる事がない。
    で、今作だが、中津留氏の時として「え、ここでこの台詞?」と人物描写的に厳しい場面のある(それでも力技で捻じ伏せる)作劇が、影をひそめ、地方政治の因習?を抉り出す秀作だった。強いて言えば主役である新市長が反感を買う初動として議会でいびきをかいて寝ている議員がいた、とSNS上でつぶやく、それを受けて議会と協議した会合を「その後の経緯」としてSNS上に挙げた際「恫喝を感じた」とした。これらは場面として描かれ観客はその心証を持っており、「恫喝には見えなかったな。この市長大丈夫か」との印象を持つ。
    後のこの市長の態度を「敢えて、挑発している」「議論を喚起しているのだろう」との推測を第三者にさせ、整合を付けているが、最初はポッと出の首長にやらせてみたらマズかったケースを描こうとしているのか、と訝った。
    だが通常描かれない地方政治の実態に斬り込むドラマとして成立した。私は現在の日本社会の停滞の本質的な病根がそこにもある、と感じており、溜飲を下げたものの、多くの観客に届いただろうか、という些かの不安も。(つい先ほどJACROWに期待するテーマに地方政治を挙げたばかりだが、中津留氏の題材のチョイスは毎回さすがと感じる。)
    特徴的な人物(当選回数の多い議員)を演じてるのは最初よく見えなかったが山本龍二。キャスティングも良かった。

  • 映像鑑賞

    満足度★★★★★

    配信で観劇
    市長VS議会
    希望を見せるか絶望を見せるか
    見応えありましたも元ネタがしっかり論理思考されたお陰でもあるのかも
    演技に見えない素で見せる
    山本龍二さん
    上手すぎて記憶に残らせない俳優もいるんだなー思いました
    斉藤深雪さん
    クライマックス問題の二役見事

    25日まで配信
    お薦め

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    改革派の若い市長と、古い議員たちとの対立を描いた。腐敗の温床だったなれ合い市政を変えるという市長の姿勢はいいが、議員に前もって予算案の説明や根回しは一切しないというかたくなさには首をかしげた。しかし、「調整、というのは、結局、議員へのご機嫌伺ですよね」という市長の言葉になるほどとも思った。

    さらに財政改革として公共施設の3割削減を打ち出して進める。これは住民サービスの切り捨てにならないか? 議会からも「失業者が出るのに、当事者に視聴は直接会おうともしない」とつかれる。これは議会に理があるように見える。
    つまり、議会もかたくなだが、市長もワンマンすぎる。どちらかが一方的に悪いとはなっていないところが、この芝居の最大の長所である。

    新聞記者(目黒省吾)が、自分の小5の息子の不登校を打ち明けて、子どもの未来のために、議員たちに副市長人事に賛成してほしいと訴える場面は心に響いた。人を動かすのは、大声ではなく、静かな声だと感じた。議長(葛西和雄=青年劇場)が、支援者の息子が農業を継ぐ気になってくれたんだ、だから「無印企画」との提携のため、議員に一言説明してくれと、市長に土下座する場面もよかった。互いに、対照的な関係になっているが、この舞台の二大ハイライトである。

    青年座の山本龍二をはじめ、新劇系劇団から、5人のベテラン俳優が参加したことで、議会の古参議員たちに説得力があった。このキャスティングが素晴らしい。葛西だけでなく、それぞれの見せ場をもう少し練りこめば、さらに良かった。

    ネタバレBOX

    モデルは安芸高田市の石丸伸二市長だということだ。石丸市長のことは全然知らなかった。私は明石市の泉房穂前市長や、杉並視聴なども少し入っているのかと思ったら、そうではなかった。調べてみると、居眠り恫喝問題も、副市長人事案否決も、無印良品の出店却下も、公共施設削減も、石丸市政でおきたこと。モデルにつきすぎているのは、舞台の寿命を短くする弱点があるが、事実という強みがある。

    石丸市長の「財政報告」をユーチューブで見たが、舞台でわからなかった、公共施設削減の深い背景が分かった。簡単に反対できないと思った。今の市は箱モノを作りすぎ、持ちすぎているのである。借入金では、市町村合併時の合併特例公債の比重が大きい。年120億円の財政で、30億円が借金の返済に充てられている。借金のしすぎなのである(国も同様だが)。

    今更遅いが、後世への教訓とするために、合併特例公債はじめ公債を何に使ったのかの検証が必要だ。これは総務省の誘導あってのことなので安芸高田市だけの問題ではない。全国的な問題である。現に、山梨県の市川三郷町は、赤字財政で7年後に基金が底をつくと、財政緊急事態宣言をしている。同町も公共施設の削減を財政健全化のカギとしている。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/02/19 (月)

    駅前劇場にて劇団トラッシュマスターズ『掟』を観劇。
    障がい者雇用の実態を描いた前作の『チョークで描く夢』の上演からまだ半年も経っていない中で、今回も3時間に迫る新作を上演。それも見事なまでのハイクオリティー。それだけでも単純に凄いと感じてしまうのですが、この国で実際に起きている様々な問題を、演劇を通して人々に伝え、考えさせるという一貫性のあるコンセプトが素晴らしいのです。個人的に、トラッシュマスターズさんは1年前の『入管収容所』を拝見して以降、すっかりお気に入り劇団の一つとなっており、出来る限り優先して観劇スケジュールを立てるようにしています。それくらい観る価値のある劇団という位置付けになっています。
    今回は地方政治をテーマとした内容でした。あくまでも舞台作品ということで、100%を鵜呑みにすることは出来ないものの、過去に拝見した2作品がいずれも実際に起きたことがそのまま描かれていましたので、恐らく今回も実話そのものなのでしょう。観劇後にざっと調べてみたら、「首長と議会の対立がSNSで大きな話題となっている」「議員数は16人だが、一般質問では半分程度しか質問しない」「市の人口はここ10年で約5千人減った」など、まさに今回の舞台で描かれていたままの情報がありましたので、今、色々な感情が湧き出ているところです。ベテラン議員達への憤り、若手市長へのエール、市民への政治参加の訴えなど。。
    劇団トラッシュマスターズさんの作品が凄いところは、観劇後にそのテーマについて深掘りしてみたくなる気持ちが芽生えるところかと思います。学校の授業で学ぶより、はるかに勉強になるような気がします。他人事ではなく、一人一人が問題意識を持ち、自分なりに考えるきっかけにする。その動きこそが、日本社会を変える第一歩になるのではないかと感じます。今回はとある一つの市の物語でしたが、同じような問題に直面している地方自治体は多くあると思います。そして、正直なところ、職務を果たしていない議員もそれなりに存在するのではないかと感じています。世の中色々な考えを持った人がいるのは当然ですが、その考えを相手に伝えることが出来なければ、誰もが納得する良い方向に向かっていくことはまず無理でしょうし、進化・発展は難しいと思います。「掟」は大事かもしれませんが、やはりきちんと話し合いが行われ、本気で意見をぶつけ合ってからでないと「掟」の立ち位置すら見失うのではないかと思います。
    非常に重みのある深いテーマながら、色々と考えさせられた3時間でした。演劇で3時間となると若干長い感覚もありますが、トラッシュマスターズさんの作品はその長さを感じさせず、惹き付けられる作風なので、気付いたら3時間が過ぎているという感覚です。核となる人物こそいるものの、登場人物全員が印象に残るというのもなかなか稀な感覚です。重いテーマながらも随所に笑いを誘うシーンが盛り込まれており、映像を使ったシーンも良かったです。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/02/21 (水) 19:00

    市長に何かと反対する抵抗勢力がとにかく憎らしい! しかし…(続きはネタバレで)

    ネタバレBOX

    応仁の乱・戦国時代以降、村を存続するために数百年かけて培われてきた自治のための「掟」の中にある知恵(前もってちょっと挨拶に行けば、相手の顔が立って丸くおさまるなど。もちろん、弊害もある)を、現代の合理主義を押し通して蔑ろにするというのもどうなんだろうなあと思いました。今こそ、村(町)は危機的状況なので、互いに相容れない立場や考え方を止揚するような知恵が必要でしょうか。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    思わず舞台にかけ上がって胸ぐら掴んでやりたくなるような奴がいて、これぞ TRASHMASTERSという舞台でした。新市長の方針は貫かれるのか、ハラハラしながら見守って3時間近くが短く感じられました。
    どこかの衰退してゆく町の出来事と思って見ることにしましたが、実家のある東北の田舎もきっとこんな状況かと思うと他人事ではない。やっぱりこんな議員がのさばっているのかなあ。自分が住んでいるところの議会を覗いてみようという気になりました。
    事実を元にした話ということで検索してみたら、終わった話ではなく、まさに今も続いていることであるんですね・・・
    舞台を見ていて「市長って独身なの?」と思っていたのですが、検索したらやはり独身でした。だから「市長の辞職を受けて、副市長が立候補を表明した。他に立候補を表明している者はいない」と伝えるニュースを知った次の日に立候補を決断、退職する・・・ということができたんですね。妻を説得するのは議会に根回しするより大変そう。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鼻息荒く地元の政界に飛び込んだ青年の奮闘記、と言ってもいい内容でありながら困難多き現実味と人間描写の生々しさで、いわゆる「奮闘記」感は吹き飛びました
    若くして市長となった主人公の行動力や政治論理の正当性に、よしガンバレ!と思う一方で、いやアンタその言い方はちょっとまずくないか…と思いは複雑
    古参議員の中には、こんなに足を引っ張る人間、損失を与えかねない人間は淘汰されるべき!と憤慨する一方で、いやそこの気持ち分らなくはないかも と思う自分が申し訳なさそうに隠れていたり…で更に思いは複雑
    それにしても頭の良い人間がいくら集まっても足並みがそろってなければ、シンプルな事さえどんどんこんがらがっていくものだと生で体感しました

    俯瞰で観ているからこそ、本人達には見えていない部分が沢山あるようで
    墓穴ばっかり堀って何やってんだか などと上から目線で見つめながらも、じゃあこの立場なら自分は?この人なら?とブーメランが直ぐにかえってきそうで、う~んと唸ってしまうばかり
    途中、それまでのモヤモヤを見事に払拭してくれる発言に「そう、まさにその通りっ!」と興奮して拍手しそうになったり、あまりの顛末に「え~マジか!」とのけぞったりで、相当に入り込んでいたよう
    報道陣の描き方、報道のされ方も興味深く、前レビューでかずさんが書かれていた通り、まさに観終わった後すぐにに激論を交わしたくなる公演でした

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     昨年、復調ぶりを見せてくれた中津留章仁の地方都市の若い新市長と、旧態依然の市議会の対立を素材にした問題劇。22年にも地方都市の閉塞ぶりを描いた作品〈出鱈目〉があったが、過疎化の中で出口のない地方都市は、日本の縮図としては格好の材料で、何とかしなければ、と皆思ってはいてもどうにもならないところを見せる。
    汚職で市長ら首脳陣が退陣した地方都市の市長選に、地元出身のデータコンサルタントが故郷帰りする。さっそく初当選するが、新市長(森下庸之)は地方自治法を盾に(占領軍が基本を作ったので結構、住民本位。それをいいことの政府は手を抜く。能登地震でもそこは丸見え)旧勢力の市議会員たちと対立しながら改革を試みる。背景にほっておけば十年もすれば過疎でどうにもならなくなる地方都市の現実のデータがある。三権分立を立て前にまずは、議会に根回しなしで財政改革を進める手法(道の駅に都市企業を誘致する)、次に議会運営のなれ合い手法(この辺りは「堕ち潮」)、さらには地方新聞、ローカルテレビの地方政治癒着が争点にあがる。対立構図は、いままでふつうに取られる善悪の構造とは半逆転しているほかは、さほど新鮮味があるわけではないが、こうして地方の実情を露骨に見せられると、出口がないだけに暗然となる。結構新人も出ている地方の現実もこうなのだろう。
    中津留は多作の人で、トラッシュマスターズだけで、もう39回公演というから、ほかに書いた社会問題、風俗劇も作品は多く、数えればそろそろ百になるのではないか。問題の素材だけが面白いという作品も少なくないが、なかには「絶海の孤島」のような傑作もあるし、何よりも、多作して(テレビのような他愛ない娯楽作もある)なかには昨年の「入管収容所」のように実話を巧みに芝居にした見るべき作品もある。とにかく、戦後新劇の社会問題劇作者たちとは比べ物にならない馬力のある現在の演劇界では異色の作者なのである。そこは評価すべきだと思う。
    今回は、地方議会の対立勢力の議員たちに新劇大劇団の幹部級のいい俳優を呼んできたのが成功した。青年座の山本竜二の田舎大名さながらの無神経ぶり、女性議員と言えばいい役が多いのだが、気位だけは高く横暴で勝手なだけの女性議員(斎藤深雪・俳優座)、取りまとめが取りまとめにならない議長(葛西和雄・青年劇場)、立て前だけで結局頼りにならない良心派(小杉勇二・民芸)と主演級が巧みに役を肉付けしていて、なんと、3時間(間に休憩10分)飽きさせないのだ。みな面白そうにやっている。
    ドラマの結末はお察しの通りで、変なアジ劇になっていないところがいい。だが、作者の馬力を考えればやはりここも面白いだけでなく、一度は本気で取り組んでみるべきテーマであることは忘れないでほしい。


  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    鑑賞日2024/02/19 (月) 19:00

    実話がベースの政治ファンタジー。笑ってる客が多いが全く笑えない話だと思った。88分(10分休み)70分。
     広島・安芸高田市での「改革」を焦る市長と旧弊に捕われた市議会に新聞も交えた対立の物語をベースに描かれた作品。ほぼ実話と同じ展開のようだが、何となく納得できないものが残った。社会的な題材を扱っても、登場人物のプライベートな生活を描いて、そこから見た社会的な題材を描く、というのが中津留の特徴なのだけれど、本作ではそれがないのが要因だろうか。だから、ファンタジーに見えてしまう。前半で見せる市議会の様子や、ネットニュースのキャスターの発言など、ありえねぇ、っていうレベルだが、それはそれで面白く観たが、全体にいつものトラッシュじゃない感じが残る。エンディングも後味が悪い。笑ってる客が多いのだが、これが現実だとしたら全く笑っていられない話だとも思う。前作『チョークで描いた夢』で鮮烈な印象を残し、自身のユニット「ぽいぽいスコップ」では見事な劇作力を見せた小崎実希子は、本作でもネットニュースのキャスターを熱く演じ、印象に残った。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2024/02/19 (月) 14:00

    言いたいことはたくさんあるけど、観劇後にいろいろな感想をぶつけ合いたくなるような力を持つ舞台なのだから、これは面白いと言っていい。多彩な社会問題を扱ってきたトラッシュマスターズらしい仕上がりだ。

    舞台は人口減少に悩む地方都市議会。国会議員が選挙の際、地元市長や市議に金をばらまいたとして逮捕され、それによる出直し市長選挙が行われる、という設定で始まる。市議会の守旧勢力に推された候補者しか出ず無投票になりかかる直前、海外の金融機関に勤めていたという地元出身の青年が「無投票を避けるため」として出馬する。清新なイメージもあって(イケメン俳優だ)この青年は見事当選。市政運営に当たって議会への根回しなど旧態依然の慣習(=掟)を破壊し、政策を徹底討論する民主主義で二元代表制を再構築しようとする。
    当然、議会の守旧勢力は反発し、次第に市長対市議会(守旧勢力)の対決色は深まる。最初は議員の居眠りを市長がSNSに投稿して物議を醸すというありがちな対決からスタートするが、舞台が進むと、地元の農家の大きなメリットになる施策をもそっちのけの政争という展開に発展していく。

    その施策が住民のためになるという思いは共通していても、「俺は聞いてねぇ」、つまり根回しがないということで対決姿勢を強める市議会。こういうことは日本全国、各地で嫌というほど起きている。政治家にとってメンツをつぶされるというのは政治生命を賭けた一大事。それを分かっていながら意固地なまでに旧弊打破を唱え、政治の世界の習わしとか旧弊とかを諸悪の根源と決め付けて突っ走る市長は大人げない。最後は両方ともメンツを賭けた戦いになっており、犠牲になった施策や市民はいい面の皮である。

    劇作の中津留章仁は、民主主義の正義を錦の御旗に掲げて自分を押し通す市長のあり方も問うているのだろう。人口減少や高齢化、政治への無関心などで衰退していく地方都市の再生は、こんな喧嘩腰ではとてもできないからだ。民主主義は話し合いだ。お互い譲れるところは譲り、論議を重ねていかないと改革などできっこない。この市長vs市議会の争いは、劇中でも出てくるせりふだが「子どもの喧嘩」よりもたちが悪い。

    言いたいことは他にもある。市議会側は市長を独裁者呼ばわりするが、ある意味その通りだ。定例記者会見で市長が、議会守旧派寄りの地元紙の市政担当ベテラン記者を「偏向報道はやめなさい」と罵倒する場面は、独裁者を感じさせた。石原慎太郎都知事がテレビ報道もされている定例会見で、記者を罵倒していたのを思い出した。自分の思うとおりにならない報道を「偏向だ」と決め付けるのは民主主義ではない。
    また、このベテラン記者が守旧派議員とツーカーの関係を築いてネタを取っていたのを、テレビ局の若い女性記者が「あなたはこんなことをしてネタを取っていたのか」と激しくののしる場面もある。何が真実か見極める報道をするためには、取材対象に深く食い込むことが必須だ。もちろん取材する側とされる側の一線を越えるような「癒着」はあってはならないが、ネタが取れない若造が、深く食い込むことを「癒着」と決め付けて先輩記者、しかも他紙の記者を批判するのは気持ち悪かった。(この女性記者に反論しない地元識者も情けない)
    メディアの中にはよくあるのだが、正義感だけで突っ走る記者は表層的なことしか書けないし、本質を突いた深みのある報道を期待するのは無理だと思う。

    とまあ、これだけ書いてもまだ言いたいことがある、というのはやっぱり、この舞台はおもしろいということだ。何か言いたいことがある人は、まず、この舞台を見よう。休憩を挟んで3時間の舞台が終わった後は、下北沢の酒場で激論を交わそう。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    昨年9月に公演されたTRASHMASTERSの『チョークで描く夢
    』が素晴らしかった。川崎にある日本理化学工業をモデルとした知的障がい者雇用を推し進める会社の人間模様。

    本社正門横に建つ「働く幸せ」のブロンズ像の台座には、故・大山泰弘会長の言葉が刻まれている。
    「導師は人間の究極の幸せは、人に愛されること、人にほめられること、人の役に立つこと、人から必要とされること、の四つと云われた。
    働くことによって愛以外の三つの幸せは得られるのだ。
    私はその愛までも得られると思う。」

    そういう訳で今作も多大な期待をしたのだが、残念ながら余り面白いとは思わなかった。
    広島県安芸高田(あきたかた)市の現市長、石丸伸二氏の軌跡をそのまんま舞台化。京大卒、三菱東京UFJ銀行入社、為替アナリストとして子会社のニューヨーク駐在員に。地元の市長が収賄罪で辞職し、副市長以外の立候補者がいないことを知った翌日退職願を出す。2020年8月9日、立候補から3週間足らずの選挙で37歳にして市長に当選。

    主演の森下庸之(やすゆき)氏、ジャグリングの腕も確か。
    WEB番組「TIME JOURNAL」のアナウンサー、小崎実希子さんは綺麗。
    同じくアナウンサーの天川義輝(あまがわよしき)氏の揺れ動く心情。
    MVPは市長の敵に回る市議会議員、山本龍二氏と斉藤深雪さん。巧い!斉藤深雪さんは二役の演じ分けっ振りも見事。山本龍二氏のラストの質疑応答は現実にあった場面なのだろう。職人の腕前。

    市長の前に立ちはだかるのは市議達の面子。善悪利害損得ではなく、自分達に挨拶があるかどうか、最優先すべきは己のプライドだ。とにかく根回しを要求。話を先に進めたい市長と、そうはさせない老人達の意固地な攻防。どんな下らない世界にも『掟』がある。群れた弱者集団を飼い馴らす“セオリー”を敢えて市長は無視する。この対立の絵面こそがエンターテインメントにふさわしい、と。

    ネタバレBOX

    市長に影響を受け、市議になった倉貫匡弘氏の存在理由がよく分からなかった。この流れなら裏切るべき。

    原一男監督のドキュメンタリー映画、『れいわ一揆』を観た時の感覚。山本太郎が救国の英雄のように描かれるが、どうもそうは思えない。何か気持ちが盛り上がらないまま不完全燃焼。多分自分が求めているジャンルとは違ったのだろう。もう一人、別の醒めた視点を置いて欲しかった。圧倒的に市長を否定するに足る価値観があってこそ、市長の孤独な闘いが輝くのだと思う。応援演説みたいな作品は薄っぺらい。

    劇場型政治の開幕。
    SNSを使って市議の居眠り問題を告発。
    その後、その件について複数の市議から恫喝を受けたと更なる告発。
    名指しされた市議から名誉毀損訴訟を受けて敗訴。
    権力と癒着した中国新聞を偏向報道と公開対決姿勢。
    副市長の全国公募。
    市議会議員定数半減条例改正案。
    無印良品出店計画。

    「安芸高田市の生き残り戦略として、知名度・認知度を上げる。悪名は無名に勝る。」
    「一番の目的は安芸高田市を有名にすること。そのために言葉は悪いが燃やせるものは何でも燃やす炎上商法だ。」と産経新聞に自ら語る。

    このままでは殆どの地方自治体に未来などない。『推計によると、2040年には(現在1718ある内)全国896の市区町村が 「消滅可能性都市」に該当。 』するとのこと。
    『2040年頃に日本の高齢者(65歳以上)人口の割合の最大化と生産年齢人口の急減が同時進行で起こり、国内経済や社会維持が危機的状況に陥るとされる』ことは誤魔化しようのない事実。社会維持費用の不足と持続可能性の困難に目の逸らしようなどない。16年後に日本が詰むことを知ったアナリストの「今、何をやれるか?」という闘い。

    ただ、この流れは「超人思想」でもある。圧倒的に優れた人間に皆ひれ伏そう、の論理でヒトラーは生まれた。ヒトラーに粛清されない自信のある人間しかついていけないことも事実。自分が弱者側なら淘汰されるのは自分自身。TVや映画だったら自分に火の粉は降りかからないから高みの見物でいいのだが、これは現実だ。綺麗事では生きられないことを弱者なら百も承知。切り捨てられる側の人間もどうにか生きていかなければならない。悪役の市議達は無知蒙昧な愚かな老害に見えても、彼等の後ろには大多数のそんな人間がいることも事実。“正しさ”はそんなに正しくもない。

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