実演鑑賞
満足度★★★★
昨年、復調ぶりを見せてくれた中津留章仁の地方都市の若い新市長と、旧態依然の市議会の対立を素材にした問題劇。22年にも地方都市の閉塞ぶりを描いた作品〈出鱈目〉があったが、過疎化の中で出口のない地方都市は、日本の縮図としては格好の材料で、何とかしなければ、と皆思ってはいてもどうにもならないところを見せる。
汚職で市長ら首脳陣が退陣した地方都市の市長選に、地元出身のデータコンサルタントが故郷帰りする。さっそく初当選するが、新市長(森下庸之)は地方自治法を盾に(占領軍が基本を作ったので結構、住民本位。それをいいことの政府は手を抜く。能登地震でもそこは丸見え)旧勢力の市議会員たちと対立しながら改革を試みる。背景にほっておけば十年もすれば過疎でどうにもならなくなる地方都市の現実のデータがある。三権分立を立て前にまずは、議会に根回しなしで財政改革を進める手法(道の駅に都市企業を誘致する)、次に議会運営のなれ合い手法(この辺りは「堕ち潮」)、さらには地方新聞、ローカルテレビの地方政治癒着が争点にあがる。対立構図は、いままでふつうに取られる善悪の構造とは半逆転しているほかは、さほど新鮮味があるわけではないが、こうして地方の実情を露骨に見せられると、出口がないだけに暗然となる。結構新人も出ている地方の現実もこうなのだろう。
中津留は多作の人で、トラッシュマスターズだけで、もう39回公演というから、ほかに書いた社会問題、風俗劇も作品は多く、数えればそろそろ百になるのではないか。問題の素材だけが面白いという作品も少なくないが、なかには「絶海の孤島」のような傑作もあるし、何よりも、多作して(テレビのような他愛ない娯楽作もある)なかには昨年の「入管収容所」のように実話を巧みに芝居にした見るべき作品もある。とにかく、戦後新劇の社会問題劇作者たちとは比べ物にならない馬力のある現在の演劇界では異色の作者なのである。そこは評価すべきだと思う。
今回は、地方議会の対立勢力の議員たちに新劇大劇団の幹部級のいい俳優を呼んできたのが成功した。青年座の山本竜二の田舎大名さながらの無神経ぶり、女性議員と言えばいい役が多いのだが、気位だけは高く横暴で勝手なだけの女性議員(斎藤深雪・俳優座)、取りまとめが取りまとめにならない議長(葛西和雄・青年劇場)、立て前だけで結局頼りにならない良心派(小杉勇二・民芸)と主演級が巧みに役を肉付けしていて、なんと、3時間(間に休憩10分)飽きさせないのだ。みな面白そうにやっている。
ドラマの結末はお察しの通りで、変なアジ劇になっていないところがいい。だが、作者の馬力を考えればやはりここも面白いだけでなく、一度は本気で取り組んでみるべきテーマであることは忘れないでほしい。