かずの観てきた!クチコミ一覧

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穿つ泡(うがつあわ)

穿つ泡(うがつあわ)

LiveUpCapsules

小劇場 楽園(東京都)

2025/08/06 (水) ~ 2025/08/11 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/08/10 (日) 13:00

座席1階

人気漫画「のらくろ」の作者、田河水泡の一代記。手塚治虫ややなせたかし、長谷川町子など戦後の人気漫画家が作品に夢中になったというエピソードを皮切りに舞台が展開する。

出生直後に母親が死亡し、父親が再婚して叔父夫婦に育てられ赤貧の子ども時代を送ったこと、近所に住んでいた評論家小林秀雄の妹を見初めて結婚した時のエピソードなどが時代を追って丁寧に描かれる。「私はお酒飲みは嫌い」と妻から禁酒を結婚の条件とされたのに、義兄となる小林秀雄と意気投合して痛飲した話など、舞台を見なければ知らないことばかり。とても興味不快。
今のNHK朝ドラはアンパンマンのやなせたかし夫婦の物語だが、戦争が嫌いで軍隊には行きたくなかったという本音は田河水泡も共通する。だが、アンパンマンが自らの頬を食べさせて弱きものの味方をするというヒーローを描いたのに対し、軍隊の中で自由奔放に生きながらも軍隊で出世していくのらくろはまた、趣が違う。戦意高揚に使われたという指摘もある。それぞれの原作者の人生や生き方を対比して考えることができ、今この舞台を見られたことは意義深いと思う。

水泡の妻を演じた紅一点の出演者、中村真知子がよかった。小劇場楽園というひときわ狭い空間を縦横無尽に動き、舞台を引っ張った。ガンガン冷房が効いていた空間で汗だくだったから、その熱量はすごいと思う。
のらくろが描かれた小道具、のれんなど舞台美術はシンプルだがよく練られている。のらくろはキャラクターグッズの元祖とも言われているが、これも小道具の一つになっていた。

小劇場楽園は入ってすぐのところに大きな柱があり、各劇団の演出家たちはこの柱をどう生かすかに頭を悩ませる。今作はこの柱を利用するという発想はなかったようで、左右の客席で演者の様子が見えない「見切れ」がしばし発生していた。ここが惜しい。

帰還の虹

帰還の虹

タカハ劇団

座・高円寺1(東京都)

2025/08/07 (木) ~ 2025/08/13 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/08/09 (土) 14:00

座席1階

よく練られた戯曲だった。セリフの一つ一つがシャープで、戦時に生きた画家たちの無念が突き刺さってくるようだった。高羽彩自身はパンフレットで「戦争の話を書きたくないんです」と述べているが、劇作家として書かねばならないと強く感じていたのだろう。登場人物のそれぞれに物語があり、胸に秘めた思いがあり、スポットが当たる場面が丁寧に作られていた。

冒頭、渡仏していた画家の妻の問わず語りから始まる。この人自身にも葛藤の物語があるのだが、狂言回しの役も与えられている。これが一連の流れをぐっと引き締めている。登場するのは3人の画家、書生として入った画家見習い。お手伝いさんとその弟、画家に戦争鼓舞の作品を書かせる役の陸軍中佐。おそらくどの画家も軍部に押し付けられた戦意高揚の絵など描きたくないと思っているが、舞台の前半では皆、その思いをストレートに外には出さない。
舞台上には大小さまざまなキャンバスがしつらえられているのだが、その中でもひときわ大きく、布がかけられている対策が物語のカギを握る。舞台後段でそのなぞ解きがなされるのだが、こうした構成はタカハ劇団の過去作「美談殺人」でもあったように記憶する。客席を惹きつける仕掛けは今回も奏功している。
絵画や文学、演劇など文化作品まで戦時体制一色に染められたこの時代。どうしたら繰り返すことがないようにできるのか。今作などを仕上げるために歴史を勉強しているという高羽がパンフレットで述べている一言に注目したい。

ぜひ、目撃したい快作だ。舞台上の手話通訳や客席で使うモニターなど、耳が不自由な人も楽しめる配慮がなされている。


水星とレトログラード

水星とレトログラード

劇団道学先生

ザ・スズナリ(東京都)

2025/08/02 (土) ~ 2025/08/11 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/08/02 (土) 14:00

座席1階

劇団道学先生が、保坂萌という気鋭の劇作家の作品を選んだ。主宰の青山勝の目は確かだ。きわめて緻密に組み立てられた戯曲であり、母親の介護問題や配偶者に先立たれた女性の生き方、そして微妙な親子・兄弟関係という社会性をまぶした秀逸な作品。ラップを出演者全員に歌わせるなどの演出、昭和の居間・台所を中心に据えて両サイドから階段で登る踊り場のようなスペースを設けた舞台美術もいい。そして何よりも、道学先生を支える俳優・かんのひとみの演技が実に素晴らしい。涙あり、笑いあり。今回の道学先生の舞台も見逃せない。見ないと損するかも。

タイトルのレトログラードとは、腕時計などで使われている針の反復運動を指す。主人公の祖母(かんのひとみ)の言動に、「ついに認知症になってしまった」と思い込む息子や娘たち。しかし、祖母が言うにはレトログラードのようにタイムリープをしている、つまり水曜日を起点として1週間を何度も繰り返しているという。舞台は、亡き夫の一周忌を控えた1週間の設定で、本当にタイムリープしているのか、直前のことを忘れてしまっている認知症ではないのか、という思いをひきずって最後に驚天動地の答え合わせがなされる。
祖母の息子は妻に食わせてもらっているぐうたらぶりで、一人娘にも愛想をつかされ離婚を突き付けられている。祖母の娘は共働きで、認知症の疑いが出た母の面倒を押し付けられるのではと予防線を張っている。そうした家族の問題から「跳躍」したような部分で祖母のタイムリープが続いている。なぜ、そうなっているのか。誰かが仕組んでいるのか。こうしたなぞ解きのなかで、秀逸だったのはこの家などに営業にきている「ヤクルトおばさん」の存在だ。笑いを誘うせりふとやり取りを満載した、舞台から目を離せない会話劇が進行する。

道学先生は家族の悲喜こもごもを描いたら右に出るものはいない(と思われる)中島淳彦作品をやるために結成された劇団だ。今回は中島作品ではないが、タイムリープという斬新な切り口で家族の群像劇を構成した力作だ。道学先生は中島作品だけではないぞ、とファンの一人として肝に銘じたい。

vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」

vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2025/07/25 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/07/28 (月) 13:30

座席1階

「そぞろの民」との2本立て。自分は「廃墟」を鑑賞した。
原作者・三好十郎を演じてきた劇団では文化座が思い浮かぶ。「廃墟」は数年前に上演されたはずだが、今回はトラッシュの中津留章仁演出で、しかも下北沢・駅前劇場という濃厚なスペース。あの激しいバトルがどのように眼前に現れるのか、わくわく感いっぱいで猛暑日のシモキタヘでかけた。

終戦直後、配給はストップし闇市で食料を得るしかない毎日で、焼け野原のバラックに大学教員の一家が身を寄せている。主人公の歴史学者は、日本がなぜ破滅的な道を選んだのか、明治維新以降の歴史を再勉強するとして大学を休んでいる。そこに、彼の教え子の学生が「ぜひ、講義を再開してほしい」と貴重品の芋を抱えて訪ねてくるところから物語は始まる。会話の中で、この先生は闇市で食料などを調達することを良しとせず、やせ細っている。この来訪を皮切りに、彼の息子や娘たちが次々に登場する。
場面は夕食のだんらんとなるはずだが、食卓に出るのは菜っ葉が少々、塩で味付けしたおつゆだけだ。学生が持ってきた芋は先生の家を建てた建築屋のおかみにかっさらわれ、畑に植えていた野菜も実をつける前に盗まれる有様。左翼の編集者の長男、元特攻隊員の次男などが登場し、そこから先は簡単に言うと「こんな国民生活に誰がした」という会話、バトルとなる。
10分の休憩をはさんで後段は、この圧巻のバトルで客席はくぎ付けになる。やはり小劇場。その迫力はものすごい。特に栄養失調気味の先生を演じた北直樹の鬼気迫る演技に客席は静まり返った。文化座の舞台よりも激しかったように思う。

日本人にとっての戦争責任(戦争に巻き込まれた責任とも言ってよい)を強烈に描いたものは、三好十郎の「廃墟」が最もインパクトが強いのではないか。軍部が独走して国民はただ巻き込まれただけという歴史感覚が多数だと思うが、三好はこれに強烈な異議申し立てをしている。オリジナル作品で通してきたトラッシュマスターズがなぜ、この作品を取り上げたか。客席に座った一員として十分に反芻し、考えてみたい。

宮澤賢治・宛名のない手紙

宮澤賢治・宛名のない手紙

劇団昴

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2025/07/24 (木) ~ 2025/07/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

座席1階

宮沢賢治の名作をオムニバスのようにつないで作り上げた舞台。注文の多い料理店、銀河鉄道の夜、セロ弾きのゴーシュ、よだかの星……。宮沢少年と妹を主人公に、なぞ解きをするがごとくの列車の旅が舞台で展開する。

パンフレットによると、脚本・演出を担当した菊池准の今作は四半世紀ぶりの登場という。こんなふうに宮沢賢治を読む経験はなかなか得難い。今作自体が一つの叙事詩のような舞台に仕上がっていて、宮沢賢治の新作のような趣もある。特に、登場した一つ一つの作品の心がうまく合わさってつながっていて、印象深い物語を構成しているのがとてもいい。
夏休みの土曜日、子ども連れの来場者も目立った。小さい子には少し難しいかなと思ったが、この舞台を見て宮沢賢治の世界に足を踏み入れるきっかけになったら、それはとても素晴らしいことだ。約2時間の舞台だが、小さな観劇者のために15分の休憩をはさんで2幕にした心遣いもよかったと思う。

始まりの終わり

始まりの終わり

ムニ

アトリエ春風舎(東京都)

2025/07/20 (日) ~ 2025/07/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/07/24 (木) 14:00

座席1階

転校生で、病気か経済的理由か「忘れた」が修学旅行に行ったことがなかった主人公・グミが、2026年に友人5人と東京に2泊3日の「ニセ修学旅行」に出かける。舞台はこの3日間を10年後に振り返る形で、主にモノローグのようなセリフをつないで構成する。どこにでもいそうな若者たちの心のブレを、ムニ主宰の宮崎玲奈がまるでマジックのような手法で展開する。ほかの劇作家では見られないような異次元の舞台を楽しめる。

今作はまず、舞台美術がおもしろい。排煙ダクトのような銀色の管がうねうねと渦巻いているのを開演前に見て、これは宮崎の脳内風景かと連想したりする。そして、主人公であるはずのグミを登場した全員が名乗り、実はそこにはいないのだという最初のマジックが明かされる。すなわち、グミは観客一人ひとりなのだ。
居酒屋での思い出話場面からスタートする。が、観客の脳内は、そこから観客自らの体験に呼応するようにさまざまな方向に飛んでいく。未来設定の物語としてはとても単純というかありふれたエピソードなのだが、それだけにこの展開が身近に感じる。客席には舞台上の彼らと同年代の人はあまりいなくて若くてもほとんどが上の世代だから、自分の高校時代とくっつけたりしながら楽しめる仕掛けではないか。
休憩をはさんだ後段の物語が、やや意外で面白かった。まるで悪い夢を見ているような展開だと思うが、それにしてもリアリティーを感じる。社会派のネタを扱った過去作とは趣の異なるファンタジーというか。明らかにリピーターと思われるファンがいたのも納得できる。

父と暮せば

父と暮せば

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2025/07/05 (土) ~ 2025/07/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/07/14 (月) 14:00

座席1階

前回の山崎一と伊勢佳代をはるかにしのぐ出来栄えだったと思う。特に、瀬戸さおりの成長が著しい。こまつ座への出演が定着しつつある彼女が、演出の鵜山仁に鍛えられたのだろうか。どちらかというと兄の存在がある中で一歩引いていたような印象があった瀬戸さおりが脱皮を遂げたように見えた。
今回は舞台セットもチェンジし、新作並みの対応で臨んだという。瞬間の差で生死を分けた父と娘。父は最初から登場するがけして幽霊などではなく、主人公の娘・美津江が勤め先の図書館で偶然会った男性に思いを寄せるその心の動きが、現生に帰ってきた父の手足、心臓を形作ったとセリフの中に盛り込まれている。その思いが弱まっていけば父は娘のそばに存在することはできない。娘の恋愛応援団が存在理由である父だ。
だが、美津江は一瞬にして命を奪われた友人らを思い「自分だけ幸せになることはできない」と恋愛を拒んでいる。舞台は4幕あるが、再終幕で美津江の本当の胸の内が語られる。これが圧巻だ。
瀬戸さおりと身長差がかなりある松角洋平が、少しだらしないところもあるが包容力のある父親を、瀬戸を全面的に受け止めるような形でうまく演じている。松角の包容力が瀬戸の才能を引き出したのではないかと思えてくる。

先人も書いていたが、サザンシアターという広い客席だけに空きが目立ったのは残念だ。再演であるということも影響しているのかもしれないがもったいない。この親子は自らの生死も含めて運命を「解決した話」と言っている。だが、どうしてこのような結果を招いたのか、どこかで止められるところはなかったのか。この芝居を何度も見て考えたい。戦争は国と国との戦いであり、各国の国民に勝者はいない。自国民の優越性を掲げて戦った歴史を、今こそ胸に刻むべきだ。

はぐらかしたり、もてなしたり

はぐらかしたり、もてなしたり

iaku

シアタートラム(東京都)

2025/06/27 (金) ~ 2025/07/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/07/05 (土) 13:00

座席1階

iakuの横山拓也らしい、一つ一つのプロットがきれいに結ばれた会話劇だった。こういう緻密な戯曲がiakuの魅力の一つで、それがいかんなく発揮された力作だった。

出だしはオムライスだ。夫は妻が作るウインナーがたくさん入ったオムライスが好きなのだが、なぜか今回は入っていなった。妻にそれを告げると「絶対に入れた」という返事で雰囲気は険悪になる。夫はそんなことでけんかするつもりはなく「ただ事実を言っただけ」なのだが、妻はそうは受け取っていない。
物語はオムライスを起点として、この夫婦の娘や、コンビニの駐車場で車にぶつけられた男と「ひき逃げだ」と世話を焼いた女性など、登場人物の人間関係がクモの糸を広げるように少しずつ拡大していく。客席ではそれを「こういうことなのか」と確認しながら、それぞれの人物に展開されていく予想外の物語に見入っていく。
男女のすれ違いや思いもかけぬ展開、有名コーヒー店でのちょっとしたアイテムなど、とても気の利いた戯曲だ。ちょっとしゃれたラブストーリーということもあるのだろうか、関西弁は出ず舞台は東京っぽい。笑いのポイントはたくさんあるが、登場人物のキャラクターのぶつかり合いで引き出されるものが多く、よく工夫されていた。ただ、これだけのナイスな戯曲なのだから、タイトルはもう一工夫あってもいい。

最初に登場する夫婦は夫が小松台東の瓜生和成、妻がばぶれるりぐるの竹田モモコというなかなかの豪華メンバーだ。客席はほぼいっぱいだったが、端の方には空席も。人気のiaku、さらに出演メンバーもいいのになぜなんだろうと思った。まだ見ていない人は上演は明日まで、一見の価値あり。

滝沢家の内乱

滝沢家の内乱

加藤健一事務所

かめありリリオホール(東京都)

2025/07/01 (火) ~ 2025/07/04 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/07/03 (木) 14:00

座席1階

南総里見八犬伝を著した滝沢馬琴一家の物語。カトケン事務所で4演目となる舞台だが、自分は初めて拝見する。今作は、加藤健一自らが演出した。出演は滝沢馬琴を演じる加藤健一と、馬琴の息子の嫁・お路を演じる加藤忍の二人だけ。「師弟関係」と称される二人の息がぴったり合った演技の細部が見どころだ。

名作を書いた著名戯作者だが、生活は苦しい。馬琴の妻・お百や息子の宗伯は病気がち。薬づくりをするお路の稼ぎが頼り。日々の暮らしから逃れるように屋根に上って星空を眺める馬琴。寄り添うように自分も屋根に上るお路がけなげだ。
馬琴はしだいに視力を失い、執筆が不可能になる。「武士にしたかった」という長男の宗伯も死んでしまう。「まだ若いから自由に生きなさい」と滝沢家を出るように言う馬琴だが、お路は馬琴の申し出を拒み、まともに字も書けないのに馬琴の指導で口述筆記にのめり込む。

15分の休憩をはさんで2時間半。2人は舞台の上でも固い絆に結ばれた師弟関係となって二人三脚で大作を完成させる。難しい人名の漢字を筆を後ろから握って教える場面など、この2人ならではの美しい演技が続く。加藤忍の澄んだ声、今や老境を演じさせたら右に出るものはいないと思われる加藤健一の名演技が舞台の感動を高めていく。

ただ、今作でお百の声を担当した高畑淳子、宗伯の声を演じた風間杜夫が舞台に登場しないのはいかにも惜しい。せめて、病気ではあるものの馬琴に絡みつくような生活を続けるお百を演じた高畑淳子は、声だけではもったいない。確実に馬琴とお路を浮かび上がらせる名バイプレーヤーの役割を果たしただろうと思う。

今作は長野県や島根県などの地方公演が8月まで続く。加藤忍と加藤健一が出るカトケン事務所のお芝居ではトップレベルの秀作だ。見ないと損するかも。

KYOTO

KYOTO

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2025/06/27 (金) ~ 2025/07/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2025/07/02 (水) 14:00

座席1階

エクソン・モービルなど石油メジャーが雇ったロビイスト(弁護士)の視点で描かれる、京都議定書の舞台裏。ロビイスト、ドン・パールマンを演じた円城寺あやの開幕から終演までの膨大なセリフ量には感服する。燐光群を代表する役者だが、2時間40分の独り舞台といっても過言ではない。わずかにセリフが飛んだりしたところもあったが、その熱演を汚すものではない。ただ、男性をなぜ彼女に演じさせたのか、最後まで違和感が残った。男性の俳優陣に適任はいなかったのか。

国際会議の舞台裏を垣間見せるという会話劇としては面白い。ただ、描かれた各国の駆け引きは今一つ臨場感に欠けたというのが素直な感想だ。利害が対立する多国による国際会議の場で出てくる取引材料は多彩で複雑。見せ方が難しいのは理解できるのだが。
また、京都議定書に至る地球温暖化問題の推移はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)設立から説明されるのだが、たぶん、事前の知識がないと一連の流れを理解するのはとても難しい。パンフレットの「気候変動問題の基礎知識」を一読してから、あるいは事前に調べてからスズナリに行くことをお勧めしたい。

京都議定書の最大の価値は、温室効果ガスの削減量と達成期限について締約国に法的に義務付けたところにある。劇の最終盤でこの一番大切な交渉の状況が描かれるのだが、議長の専横的ともいえる指揮で議定書採択にこぎ着けたというのは本当なのだろうか。初めて知って驚いた。
また、石油ロビーの視点で描かれると書いたが、そもそも米政府(共和党)とつながりがあるロビイストが、正式な国際会議の室内に堂々と入れるものなのだろうか。こんなこと(ロビイストが会議場で暗躍して議定書をつぶそうとする)が事実なら、会議の運営自体がかなり不公正だということになる。これも勉強不足で知らなかったのだが、COP(締約国会議)のセキュリティーは相当緩いんじゃないかと勘繰ってしまう。
もちろん、会場の外から当時はまだあまり普及していなかった高級な携帯電話でサウジなどに指示するという場面もあったのだが。ちなみに、当時の米国製携帯電話の着信音はリアルだった。

演劇として、地球温暖化の国際会議という基礎的な部分を客席に伝えなければならないところに多大な苦労があったと思うが、説明部分だけでなく、せりふも全体的にとっちらかっている印象だ。もっとクリアにしてもらわないと、客席はおいてけぼりになる。このあたりを少し簡潔明瞭にしてもらえば、2時間40分という長尺にはならなかったのではないか。

コラボレーターズ

コラボレーターズ

劇団青年座

吉祥寺シアター(東京都)

2025/06/19 (木) ~ 2025/06/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/06/19 (木) 14:00

座席1階

権力がメディアや文化活動を飲み込んでしまうという物語。今後、日本でも強い者への礼賛の空気が今よりも蔓延していけば起こりえるだろうという恐ろしさを感じる。この戯曲を今取り上げた青年座の視点は鋭いと思う。

旧ソ連の反体制の小説家、ミハイル・ブルガーコフは、作家としての実力や気骨から尊敬を集め、人気の戯曲も世に出している。ところが、当局から最新作の上演を禁止される。ある時、突然自宅に二人の秘密警察が現れた。彼らの要求は、最新作の上演許可と引き換えにした独裁者スターリンの半生の戯曲化。ブルガーコフは断ったものの、スターリン本人からの電話が入って局面は大きく動く。

戦前の日本でも、演劇人は国策演劇の上演を強いられた。反抗すれば作品を世に出せず、解散命令だ。今作では、まるでアリジゴクのように権力者が作家を取り込んでいく様子が克明に描かれ、この作家も権力と一体化して死屍累々の結果を招く状況に背筋が寒くなる。よその国の出来事ではない、こういうことが自国でも起きるんだと肝に銘じなければならない。

休憩をはさんで3時間。なかなかの迫力だ。立体的に舞台を使って恐怖が表現され、客席は息をのんで見守るという感じだった。

骨と肉

骨と肉

JACROW

シアタートラム(東京都)

2025/06/19 (木) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/06/21 (土) 13:00

座席1階

JACROWの社会派劇は今作のような経済系の物語より、やっぱり政治系の方が断然面白いと思う。これまでJACROWが世に放った数々の政治劇で抜群の存在感がある狩野和馬は、創業家の娘と結婚した、幼い娘の父親役。嫁さんに頭が上がらない子煩悩パパを演じたのだが、なんだか拍子抜けするほどしっくりこない。

しかし、ボクシングのリングを舞台にした演出、さらに日替わりでリングアナ役の俳優を招いて舞台の進行を委ねたアイデアはすばらしい。JACROWの舞台で重要な役割を果たす音楽・効果音に二人の三味線奏者を配したところもよかった。自分が見たリングアナは劇団道学先生の青山勝。顔を真っ赤にして絶叫アナウンスをする様子は、本体の出演俳優さんがかすむほどの迫力だった。

先人も書いている通り、物語は大塚家具のお家騒動をモチーフにした老舗雑貨の会社が舞台。会社の取締役会の人間関係と、創業家家族の群像劇をクロスオーバーさせた脚本は面白い。会社を大きくした功労者である父がベストと考える経営哲学と、銀行員としてさまざまな経営者を見てきた長女が考える未来に会社を残すための経営哲学が真正面からぶつかる。まさに、取締役会のゴングが鳴るのである。

今作は、主宰の中村ノブアキも出演している。父親が頼りにした信金マンで、線の細い誠実そうな社外取締役という難しい役をこなした。ある意味、自分へのあて書きだったのかも。

新宿梁山泊 若衆公演「愛の乞食/アリババ」

新宿梁山泊 若衆公演「愛の乞食/アリババ」

新宿梁山泊

花園神社(東京都)

2025/06/18 (水) ~ 2025/07/02 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/06/19 (木) 19:00

座席1階

元ジャニーズの安田章大をメーンキャストに招いての2本立て。アイドルの登場に、客
席は若い女性で埋まった。アングラ劇を次世代に引き継いでいくというミッションを掲
げた新宿梁山泊の新たな挑戦で、しかも唐十郎の初期作品。どこまでテント演劇の魅力
が若い世代に伝わったか、その成果に注目したい。

豪華パンフレットに金守珍との対談が載っている。安田は「1966年に唐さんが書い
た作品が令和の今でもまったく古びていない」とテント演劇に取り組むきっかけとなっ
た気持ちを述べている。波長が合っているのだろうか。梁山泊の座組にすっかり溶け込
んで違和感がない。アリババで見せたテンポの速い長ぜりふも、ミスなくスムーズに流
れていく。アングラの近未来を支える逸材になるかもしれないと思った。

「愛の乞食」で、ヒロイン万寿シャゲを演じた水嶋カンナはさすがの存在感。25年前
にも若手公演でこの役をやったというが、恐らくかなりのパワーアップを果たしたので
はないか。登場曲がモーニング娘。だったのには驚いたが、セーラー服姿がとても似合
う。このインパクトはすごい。また、お約束のラストシーンは今作でも感動ものだ。

若い世代の観客のために、昭和のおじさんでないと分からないような用語集を収録した
パンフレットはぜひ買いたい。「緑のおばさん」「公衆便所」「下町の太陽」「金歯」
など、一読してから舞台を見ると面白さ倍増だ。さらに、テント演劇がどのようにして
作られるかという舞台設置の裏側や、新宿梁山泊の年表もついていて、これをきっかけ
にアングラファンになってほしいという思いがあふれている。

今回はカーテンコール恒例の金守珍による出演者紹介がなかったのは少し寂しかった。
本体公演の休演日に劇団若手による「若衆公演」をやっているのはいいアイデアだ。

北斎ばあさん

北斎ばあさん

劇団扉座

座・高円寺1(東京都)

2025/06/11 (水) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/06/17 (火) 14:00

座席1階

扉座の看板は躍動する若者たちという勝手なイメージがあったが、今回はベテラン女性俳優2人を前面に出した人情劇だ。浮世絵師の葛飾北斎の娘2人、異母姉妹の物語。自分が知らない史実がたくさん盛り込まれていてとても勉強になった。また、湘南地区を縄張りとする風神とその弟子入り希望の若い女性モミジを狂言回し的に配置するなど、創意工夫あふれる見事な脚本に感服する。作・演出の横内謙介の面目躍如といったところか。

葛飾北斎と言えば、今に名を残す富嶽三十六景だけでなく、人物や動植物、自然現象や妖怪、春画の類まで極めて多作であったことで知られる。天才にありがちな、生活に無頓着な毎日で暮らし。多作なのはたくさん描いて生活の足しにしていたのか、市民に頼まれて描いてあげたということも多くあったようだ。
今作の主人公は、父から浮世絵を叩き込まれた葛飾応為(妹)、放蕩息子に心底困らされていたお美与(姉)。冒頭、ゴミだらけの部屋で絵を描いている応為のところに借金取りに追われたお美与が駆け込んでくるところから始まる。やがて2人は一緒に旅に出るのだが、旅先で泊まった宿で、次々にファミリーヒストリーを揺るがす出来事が起きる。

応為を演じた伴美奈子、お美与を演じた中原三千代は特筆すべきだ。自分よりかなり年上の老婆を迫力満点で演じ、舞台を独占する。また、カエデを演じた佐々木このみが軽妙なイラストを駆使して「北斎、応為の世界」と題する特別付録(図解)を客席全員にプレゼント。これがなかなかの秀作だ。

黄昏のリストランテ

黄昏のリストランテ

熱海五郎一座

新橋演舞場(東京都)

2025/06/02 (月) ~ 2025/06/27 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/06/12 (木) 11:30

座席1階

伊東四朗を継いで毎年この時期に行われている「熱海五郎一座」。毎回見に来るファンはたくさんいて(年配者が多いが)、あの広い新橋演舞場はほぼ満席だ。

大笑いのポイントはまず、自称高齢者軍団の三宅裕司らレギュラーがどこでせりふを詰まらせ、それをどうカバーするのかという点。ファンはせりふをかまずにそつなく美しくこなすことを期待していない。舞台と客席が一緒になって笑う局面にこそ、満足度は高まる。
そして、この「ザ・喜劇」に参加するゲスト俳優と高齢者軍団とのやりとりだ。今作は羽田美智子と剛力彩芽。タイプの全く違うこの2人を招いたところに、今回の成功の第一歩がある。そして、レギュラーがカーテンコールで口々に言及したゲスト2人の一座への溶け込みぶり。この2人の力が、喜劇のクオリティーを高めたのは間違いない。
三宅裕司曰く、シリーズも第11弾となり、おもしろい場面が作れるテーマはだいたいやりつくしてしまったという。しかし、「まだ、食の分野が残っている」ということで、今作はイタリアン・レストランが舞台だ。羽田美智子は、このレストランのオーナーシェフ(ラサール石井)に復讐をしようと胸に秘めている副料理長の役。剛力彩芽は、コメの転売グループを調べている農水省の役人。それぞれレギュラーにうまく絡んで、重要な役柄をこなしている。

期間中の上演回数が多いため、おそらくレギュラーがミスをする場所も毎回違うだろう。この日のマチネは冒頭でいきなりあった。三宅裕司がメンバーのミスを何とかカバーして笑いにつなげるというのがお決まりなのだが、天然キャラクターを割り当てられた羽田美智子が客席と一緒に笑い続け、次のせりふがしばらくストップするという場面もあったようだ(羽田は客席に見えないように背を向けて笑い続けていたらしい)
ハプニングをハプニングで終わらせず笑いの種に変えてしまうのが、一座の最大の面白さ。この点で今作もとても満足できた。
また、「国民的美少女」剛力彩芽もデビューからは結構年月を重ねているが、何と言っても一座の中ではとても若い。切れのいいダンス、派手な立ち回りはとても見応えがあった。

もう一つ、カーテンコールのメンバーのひと言は、これを聞かずには帰れないという面白さで、今作も健在であった。2人のゲスト女優がとびっきりのドレスでカーテンコールに登場したのも、特筆だ。

愛一輪 バカの花

愛一輪 バカの花

動物電気

駅前劇場(東京都)

2025/06/07 (土) ~ 2025/06/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/06/08 (日) 14:30

座席1階

「動物電気」を初鑑賞。既に30年のキャリアがある老舗劇団である。驚いたのは、客席はまさに老若男女、きわめて幅広い。古くからのファンもいれば、自分と同じように初めて見るおじさん・おばさんたちも。中には子どもを連れた家族連れも何組かいる。

近年のコメ不足や物価高騰など、時事ネタを混ぜたコントでスタート。これはひょっとしていつものパターンなのだろうか。これから登場する俳優さんたちがコントに参加し、冒頭から客席のあちこちで笑いが漏れる。本編はその後。サウナのシーンから始まる。客席最前列にはビニールシートとタオルが配られて俳優の水浴びから身を守るのだが、考えてみれば腰巻きタオルだけで水浴びをする俳優さんも大変だ。
とある温泉旅館に宿泊した大金持ち家族を狙う窃盗団の物語。愛あり裏切りありで面白いが、冒頭のサウナシーンじゃないけど結構際どい場面もある。子どもに見せていいのかな(笑)
ネタは昭和のものが多く、おじさん・おばさんたちでないとわからないギャグや音楽もあったと思われる。
主宰の政岡泰志は「お客を笑わせているのでなく、笑われるのでもなく、一緒に笑っている、そんな芝居を目指す」と言っていた。今作ではそのようなシーンが随所に見られた。舞台と客席の一風変わった一体感というか、この劇団の魅力と言えるのだろう。
また、これも常連さんには当たり前の場面なのかもしれないが、劇中に換気を兼ねたインターミッションがある。客席全員に起立を求め、伸びをしたり、体操をしたり、深呼吸をしたり。上演時間は2時間弱だが、とてもいいアイデアだ。

リア!リア!リア!

リア!リア!リア!

劇団Q+

新宿シアタートップス(東京都)

2025/06/04 (水) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/06/06 (金) 14:00

座席1階

何となくイタリアっぽい感じもしたが、特定の国での話ではないのだろう。連日の嵐で国土を守るための工事が難航している。その工事に従事している夫を待ちながら、主人公のマリアは妹たちと家庭を守っている。そこに、次々と闖入者が訪れ、マリアの心を掻き乱していく。何か欧米の作家による原作があるのかと思ったら、座付き作家の弓月玲のオリジナル脚本だという。まず、そこに感動する。

冒頭に出てくるのは、マリアの心象風景であるバラの花の妖精たちだ。王様の庭にそれぞれ別の色で咲いてどれが一番美しいかを競っている、という。この妖精たちは舞台回しの役を担い、随所に登場する。客席に配られたパンフレットの相関図を見ておかないと、分かりにくいかもしれない。
マリアは絵本作家で、その夫(舞台には登場しない)はストーリー作家。夫婦で絵本を世に出している家庭を悲劇が襲う。大きく展開するのは舞台の後半で、見どころは最終盤にあるマリアの独壇場だ。

マリアを演じる佐乃美千子は、プロフィールを見ると東京外大でヒンディー語を専攻したという才媛だ。燐光群にも所属したことがあるという。今作では、家庭にズカズカと入ってくる素性不明の客を感情を抑えて迎え入れる様子をしっかりと演じている。その背景にあるのは、愛する夫を待ち続ける心。難しい役回りを淡々とこなす、実力のある俳優だと思った。

蝉追い

蝉追い

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2025/05/27 (火) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/06/03 (火) 14:00

座席1階

舞台のタイトルになっている「蝉追い」は、セミを夏の神様に見立てて手作り灯籠で行うお祭り。福岡地方の習俗なのかどうかは分からないが、ずっと地面に潜っていて地上で生きるのはわずか1週間。セミは、地中で作業する炭坑のメタファーであり、地元で起きた悲惨な炭鉱事故がモチーフとなっている。炭坑三部作と称される作品の一つ「オバケの太陽」や「泳ぐ機関車」を思い出した。

今作の舞台美術。開演前、客席の階段まで劇場は夏らしく青々とした木々、葉っぱで埋め尽くされている。物語の中心となる家族は夏ミカンの農家をしていたということで、登場する夏ミカンの色が緑に映えた。桟敷童子の舞台はこうした作り込みが魅力であり毎回楽しみにして元・倉庫の劇場に出かけていくのだが、今回も期待を裏切らない。

先人も書いていたが、今作のMVPは鈴木めぐみ。3人の幼い姉妹を捨てて駆け落ちをし、30数年ぶりにちゃっかり戻ってきたおばあちゃんを演じている。その夫役は客演の山本亘。ミカン農園主だったが、今や農園は荒れ果て、3人の娘も寄り付かない。そして、舞台が進むに連れて出てくる認知症状。この描写が実にリアルだ。
3人姉妹は桟敷童子の看板である板垣桃子、もりちえ、大手忍だが、今作でもその実力を遺憾なく発揮している。東憲司の世界観を体の底からよく理解しているからだろう。「お父さんが不審な女を連れ込んでいる」と耳にして3人そろって帰ってきてそっと状況を伺うという場面からスタートするが、両親への思い、特に自分たちを捨てた母親への複雑な胸の内の変化を涙が出るほどうまく表現している。また、3姉妹それぞれに苦悩を重ねた人生の物語があって、これが家族の群像劇として深みを与えている。
お約束のラストシーンは派手さはないものの、桟敷童子ならではの終幕だ。3姉妹が使っていたというミカンの図柄の茶わんなど、細部にもきちんと目をかけた演出だ。

あまりにスキがない感じもするが、今回も秀作だ。見逃さないようにしたい。

ネタバレBOX

MVPの鈴木めぐみに受け付けでチケットをもらい、3姉妹のもりちえたちに案内されて客席に向かう。すごい特別感がある。やむを得ないとはいえマスク姿なのが残念(笑)
フツーの生活 長崎編

フツーの生活 長崎編

劇団昴

Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)

2025/05/22 (木) ~ 2025/06/02 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/05/29 (木) 14:00

座席1階

中島淳彦の戯曲とあって、絶対にはずれはないだろうと思って板橋区大山に出かけた。この劇場は小劇場の中でもスペースは広くないが、それをきっちり生かして役者と客席が1メートルも離れていない迫真の舞台を味わうことができた。

先の戦争が終結する直前、昭和20年8月の長崎。舞台は小さな病院で、空襲などでけがをした男たちと、治療に当たる医師・看護師の物語だ。人間の物語には定評がある中島の作品らしく、入院患者とその家族一人ひとりに大切な物語を盛り込んだ。これらを交錯させながら舞台は進み、原爆投下の日を迎える。

演出は「踊る大捜査線」でも活躍した北村総一朗。どんな演出をするのだろうと楽しみだったが、結論から言うとお見事。4つのベッドがある病室がメーンの舞台だが、小さな段差を降りたスペースを病院の中庭に仕立て、その脇には真っ盛りのヒマワリ。このヒマワリがとても重要な役割を果たす。原爆投下のシーンもとてもインプレッシブだった。

戦後80年、必見の舞台だ。

三たびの海峡

三たびの海峡

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2025/05/24 (土) ~ 2025/06/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/05/27 (火) 14:00

座席1階

帚木蓬生の原作を舞台化。青年劇場は何度もこの作品を上演しようとしたが実現しなかったという。在日コリアンなど韓国の戯曲をいくつも手がけてきたシライケイタとのコンビで、実現に至った。

青年劇場の重鎮・吉村直が主人公を演じた。この人ならというキャスティングだったと思うが、他の作品でも重要な役を演じている人だからちょっと既視感もあった。次の世代へのバトンタッチも重要課題だ。
さて、福岡の炭坑で強制連行・強制労働を強いられた戦時中の朝鮮の人たち。人間扱いされず、虐殺され、いつ自分が殺される番になるかもしれないという状況に、主人公のハ・シグンは脱走を決意する。だが、逃げる際に労働監視役に見つかり、取っ組み合いの末に絞殺してしまう。シグンは幸運にも同胞の多くいる地域に逃げ込み、そこで働く中で日本人女性と恋仲になる。戦争が終わり、シグンは身重の彼女を故郷に連れて行き結婚しようとするが、彼の祖国ではいくら彼女が「朝鮮人の女になる」と覚悟を決めていても受け入れられるはずはなかった。

二つの国を隔てる海峡は深く、悲しい。舞台ではこうした悲恋の物語が中心となっている。パンフレットによるとシライは帚木の許可を得てラストシーンを変えたという。これは見事な成功を収めている。鮮やかな色に染められた最終場面に悲恋を超えた深い人間物語を描ききっているからだ。

先の戦争の日本人の振る舞いを記録と記憶に残す努力は明らかに不足している。いくら戦争中とはいえ、そんなことがあったのは日本人としては受け入れられないと感じる若い世代も多いだろうから、記憶を継承していく場所は絶対に必要だ。そういう場所を失うと、都合よく歴史を書き換えて発言する人が増える(もう増えている)。ガザにしてもウクライナにしてもそうなのだが、せめて辛酸の歴史をつくった日本は、同じことを繰り返さない覚悟がいる。その意味で、青年劇場の愚直な努力を称賛したい。

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