かずの観てきた!クチコミ一覧

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灯に佇む

灯に佇む

加藤健一事務所

紀伊國屋ホール(東京都)

2024/10/03 (木) ~ 2024/10/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/10/04 (金) 14:00

座席1階

いつもの加藤健一事務所とは少し趣の異なる会話劇。喜劇ではないから笑わせるところも少ない。加藤ご本人が「これをやりたくて温めていた」という戯曲という。

舞台は宮城県の小さな診療所。医師である父(加藤健一)は息子に院長を譲って今は土曜日だけの診療をしている。患者1人に30分も1時間もかけて話すという診療で「そんなことをやっていたら、クリニックはつぶれてしまう」と息子にしかられている。ある時、古くからの患者で家族ぐるみの付き合いになっている男性が、何だか上の空で訪れる。胃がんの告知を受けたばかりだという。この男性の妻もがんを患い、抗がん剤の副作用に苦しんで亡くなった。男性はそのことも胸中にあり、抗がん剤と放射線による積極的な治療を望む男性の息子と本音では意見が合わず、昔からのかかりつけに相談に来たのだ。

多くの患者をこなさないと経営的に安定しない地方の診療所。だが、病気を診るだけでなく患者の人生までも受け止めて診療に臨む姿勢で地域で信頼されている診療所も多い。加藤健一演じる医師はこのような医師であり、テキパキと診療して休診の午後は野球を楽しむというスタイルの息子の医師とは世代間の相違もある。こうしたテーマだけで亡く、この台本はがん治療の在り方までに切り込んでいく。

がんについては保険診療によるゲノム医療も始まっていて、治療の選択肢は少し広がってはいる。ただ、手術や化学療法などの標準治療を行ってもうまくいかないケースは多い。もう、次の手段がないという場合は急性期病院は退院を求め、緩和ケアを勧めるのが定石だ。どんな治療を選ぶのは患者や家族の判断であるから、徹底的にがんと戦うのか、戦うのをやめて痛みを取るだけの治療に切り替えるのか、それこそこの舞台のように患者と家族の意見が食い違うなどしてとても難しい。どんな治療を選択するのか、そこでは誰の意見を大切にしなければならないのか。この舞台が一つの答えを出している。

今作では加藤健一は群像劇の一人であり、前には出てこない。長く続いてきて本人も年を重ねてきた今、このような戯曲を加藤健一事務所はもっともっと取り上げていってくれたら、と思う。

広い世界のほとりに

広い世界のほとりに

劇団昴

あうるすぽっと(東京都)

2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/10/03 (木) 14:00

座席1階

あうるすぽっとという比較的大きな舞台を使って、頻繁に行われる場面転換を舞台の各所にスポットライトを当てることでうまくカバー。さらに、出番の役者とはける役者のつながりも、例えばビールを飲むという行為を同時に行わせることでスムーズな動きとして描いた。演出はよかったのだが、この物語の筋立てにはあまり共感できなかった。特にラストシーンはとても性急に感じた。

劇団昴の役者たちの責任ではなく、劇作のサイモン・スティーブンズの描き方なのだろう。タイトルとのつながりもよく分からない。イェルマとかラビット・ホールとか、とてもいい海外作品を選んできた過去作に比べると、ちょっと物足りない気がした。

3世代の家族の物語。祖父と祖母、父と母はそれぞれ夫婦関係に微妙なすきま風が吹いている。10代の2人の息子のうち、兄に彼女ができて家に連れてくる。その彼女に事前に会った弟が一目ぼれして横恋慕しようとする。当然、彼女は拒否する。こうした微妙な人間関係の亀裂が、ある事件を境にとても大きくなる。どこの国にもありがちな、家族関係のほころび。父と母は不倫ではないけれど他の異性に引き込まれる場面があるのだが、この展開にもちょっと理解に苦しむ筋立てがあった。

途中の休憩は、舞台美術に手を入れる大きな場面転換があるためだ。これがなければ、一気に行ってしまった方がスッキリする。
演出はとてもよかった。ただ、劇作には言いたいことがいっぱい。

ミツバチとさくら

ミツバチとさくら

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2024/09/28 (土) ~ 2024/10/07 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/10/01 (火) 13:30

座席1階

4人の娘がある夫に先立たれた女性の家族の物語。ハッピーエンドが約束されているような流れで進んでいく。サプライズがない戯曲だが、民藝らしいホッとした感じであるとも言える。

父親の7回忌を前にして、2人の子がある次女、離婚して出戻ってきた薬剤師の3女、そして昆虫の研究をしていて結婚しそうもない4女が集まる。そこで、次女は母親が高齢となってきたので、実家の維持などをどうするか「将来のこと」を話そうと持ちかける。ところが、母親の面倒を見るのと引き換えに実家を乗っ取り自分たちを追い出そうとしているのではと、3女と4女は勘繰る。こう書くと険悪な姉妹関係とも見れるが、実はそうでもない。長女はシングルマザーで既に20歳近い女の子がいるが、実家にはあまり寄り付かず、7回忌も来るかどうかわからない状態だった。
こうした話し合いが子どもたちの間でなされることはよくあると思うが、問題なのは母親の意向を聞かず秘密裏に話し合いがもたれていることだ。この舞台でもこれが問題になって、次女が責められる場面もあった。
結局は、母親の意向が物語を決していくのだが、残念なのは、こうした物語の筋書きが読めてしまったことだ。サプライズがないというのは、舞台を見ていて物足りないものだ。あと、長女の娘が大人びているというか、ほとんど4女と同じような年格好に見えてしまっているのは、ちょっとしたミスキャストか。(設定では10歳以上年が離れているはずなのに)
高齢の客が多いためか15分間の休憩があるが、この戯曲は休憩せずにそのまま終わりまでいった方が舞台に集中できる。民藝を背負って立つ樫山文枝にあて書きしたような脚本だなあ、と思った。

VOGUES

VOGUES

good morning N°5

ザ・スズナリ(東京都)

2024/09/27 (金) ~ 2024/10/07 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/30 (月) 14:00

座席1階

これで2回目のgood morning N5だ。今作は絶望のふちに立たされても立ち直っていくぞ、というような感じの舞台だが、物語はあまり重要ではない。その場面場面でいかに客席を引きつけるかという熱量が最大の見どころだ。

いつも通り、観劇中の飲食、多少のおしゃべり、携帯電話の操作、劇場への出入りなどは自由。小学生以下は無料で、子ども連れの人もいた。また、2万円のVIPシートが一般客席より舞台に近い高台に設けられており、専用のコンシェルジュが何でもご用聞きをしてくれる。今日は女性2人が座っていた。

舞台も客席も真っ白なシートで覆われ、独特の雰囲気だ。開演前は主宰の澤田育子の強烈トークで思いっきり引っ張る。強烈なダンスで幕を開けると、終幕まで1時間半、誰ひとりお隣としゃべっている人はいない。視線を舞台にくぎ付けにする仕掛けが次々に登場するからだ。
毎回、VIPの席が売れるとは限らないと思うからこれは売れた時だけの演出かもしれないが、イマージョン、すなわち舞台への没入体験をVIPはすることができる。今日の女性2人はイマージョンで舞台に上がってもおじけづくことなく立派に役目を果たしていた。これこそイマージョンだ。
今回は、役者たちのコスチュームがドキドキである。また、冒頭のダンスの中では秀逸な演出もある。思わず見とれてしまった。

これほどまでに客席を楽しませようという熱量を持った集団はなかなか珍しい。異次元の演劇体験をしたい人はお勧めの舞台だ。

舞台版 嫌われる勇気【9/23公演中止】

舞台版 嫌われる勇気【9/23公演中止】

ウォーキング・スタッフ

紀伊國屋ホール(東京都)

2024/09/23 (月) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/09/29 (日) 14:00

座席1階

自己啓発などでよく登場する、アドラー心理学「嫌われる勇気」の舞台化。自分の課題と他人の課題を分けて考える「課題の分離」など、アドラーの概念を取り上げながら舞台は進んでいくが、この物語がアドラー心理学を分かりやすく示しているかというと、そうは言えないのではないか。スクリーンに示されるアドラーの言葉との遊離を感じた場面もあった。

冒頭、男女の惨殺事件に臨場した刑事たちの場面から始まる。若い女性がすぐに自首し、犯行を認めるが、すぐに黙秘してしまう。殺害されたのは彼女の両親。この事件がどう、アドラー心理学と結び付くのかがスッと頭に入ってこなかった。もう一つは、事件を捜査する中年の刑事。娘が事故死したことが引っ掛かっており、ある大学教授を訪ねる。彼女は生前に、教授のアドラーの講義を聴講していた。彼女と大学教授との対話、そして彼女の父親である刑事と教授の対話。双方の会話劇を見ても、自分は「嫌われる勇気」とのかかわりをすぐに理解することはできなかった。

今起きていることを、過去の問題が原因と考えてはいけない、と説明される。では、この事件の容疑者はそれに当てはまるのかと考える。舞台が進行し、事件の背景が分かってくると、この事件がアドラー心理学の説明とは逆に解離してるんじゃないかとすら思えてくる。
ただ、アドラーは人が幸せを感じるための3つの条件として、自己を受容する、他者への信頼、他者への貢献と教える。これについては、この舞台を見終わった時に、確かにそうかなという感想を持てる。

私には難解だった。

諸国を遍歴する二人の騎士の物語

諸国を遍歴する二人の騎士の物語

劇団青年座

吉祥寺シアター(東京都)

2024/09/28 (土) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/28 (土) 14:00

座席1階

別役実の著名な作品。いかにも別役作品という簡素な舞台美術と演出がスタンダードのような気もしていたが、青年座は違った。吉祥寺シアターの天井までの高さを有効活用し、2階部分を舞台の袖に設けてドラムなど効果音奏者を配置した。これがいかにも効果的。臨場感を盛り上げ、別役劇に新たな彩りを添えた。

二人の騎士を演じたベテランの山路和弘と山本龍二はさすがの安定感。新劇の各劇団女性俳優がユニットを組んだオンナナのメンバーである安藤瞳の看護師役は光っていた。この人、こんなに大きく目を丸くすることができるんだと驚いてしまった。
別役作品はなかなか縁遠い側面もあるかもしれないが、この舞台はとても分かりやすい作りで、作品のメッセージもよく伝わっていたと思う。近年ではPカンパニーがこの戯曲を扱っていたが、客席を面白がらせるマインドがあふれているという点では、青年座に軍配かな。

食わず嫌いで別役を見ない人に、是非お勧め。

リビングルームのメタモルフォーシス

リビングルームのメタモルフォーシス

Precog

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/09/20 (金) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

鑑賞日2024/09/21 (土) 14:00

座席1階

男性1人、女性5人が暮らしている家のリビングルームが「変態」を遂げていく。「何か異様な空気を感じる」というせりふをきっかけとしてリビングルームは得体の知れないものに破壊され、形がなくなっていく。
手前にアンサンブル・ノマドの演奏スペース、後ろ側に俳優たちが動くリビングルームという簡素な演出。リビングルームの「変態」をアンサンブルが奏でる不協和音が彩る。チラシにある「フィクショナルな劇空間に音の粒子が混ざり合う」とはこういうことか、と理解する。

これが「物語と音が溶け合っていく」芸術だと言われるとそうなのかと思うが、個人的には「劇空間」とは言いづらい。物語性が決定的に欠けていて「だから、何なの」という気持ちで終幕を迎える。せっかくのアンサンブルなのに、最初から最後まで一貫した不協和音ばかりで、いい気持ちはしない。美しい弦楽四重奏に乗って、リビングで繰り広げられる家族劇という展開なら、希望が持てたのだが。 

失敗の研究―ノモンハン1939

失敗の研究―ノモンハン1939

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2024/09/13 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/18 (水) 14:00

座席1階

結構ハードな会話劇である。歴史や戦争に関する劇作では名高い古川健らしい緻密な物語だった。テーマは「なぜ、戦争を止めることはできないのか」。歴史上、最も困難であると思われるこの命題に若き女性編集者が挑んでいく。その材料となるのが、太平洋戦争開始直前の1939年にあったノモンハン事件だ。

劇中でも出てくるが、ロシア軍と衝突した現場の国境地帯は湿地と草原が広がるエリアで、軍事的な要衝ではない。「どうしてこんな場所を巡って」と後付けでは感じるが、それだけにこの戦闘で失われた両軍の何万もの命は「何のために」というむなしさが残る。日本軍にとってはもちろん「失敗」であったが、当然、ロシア軍にとっても「失敗」であっただろう。
戦争の教訓を学ぶ、特に先の戦争での「失敗」を学ぶことは平和な未来を築くには不可欠だ。特に日本では、失敗を学ぶという取り組みに欠けている。劇中でも当時の作戦参謀の生き残りが語るが、辻政信というエリート参謀が暴走した、誰も彼を止められなかったのが失敗だったと一定の結論が出されている。
だが、なぜ辻を誰も止められなかったのか。それは、勇ましい作戦を「無駄だ」と反対する、戦わない選択をしようという主張を周囲ができなかった「空気」なのではないか。戦わないとの決断はひきょう者の考えであり、日本男子としては、天皇の軍隊としてはあり得ないという空気だ。辻を止めようとして自らの出世を棒に振る恐怖もあったであろう。でも、戦争を止められない本当の理由は、周囲の空気を読んで行動する同調圧力ではないのか。

この舞台では、失敗の教訓は同調圧力だと匂わせる場面もあるが、はっきり言っていない。関東軍の暴走、陸軍の東京の司令部が何もしなかったこと、勇ましい進軍のニュースを垂れ流したメディア。それを推した国民。いろいろな要因がせりふの中で指摘される。だが、そうした要因ももちろん「失敗」なのだが、失敗を失敗だと言い出せない同調圧力が関東軍にあり、陸軍にあり、国民にあったからだ。だから、その直後、外交的な失敗とされる日独伊三国同盟につながり、国を破滅させる「失敗」となる太平洋戦争につながっていく。ノモンハンを止められる空気がすこしでもあれば歴史は変わったかもしれない。いや、もっともっと前、明治維新から列強に追いつこうと富国強兵を重ねてきた日本が、欧米列強に伍するとしてアジアの国々を次々に侵略していくのを当然だという「空気」を変えられていたなら、というところにまで行き着く。

古川らしい脚本であったが、で少し物足りなさも感じた。もう一つ、演出に招かれた鵜山仁は客席の目の前とか舞台のあちこちに戦車や軍艦の模型を配置して、「何が起きるのだろう」と期待を抱かせたが、結局これらの模型は装飾のような感じで終わってしまったのは残念だった。

球体の球体

球体の球体

梅田芸術劇場

シアタートラム(東京都)

2024/09/14 (土) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/17 (火) 14:30

座席1階

岸田國士賞を受けた池田亮が作・演出に加え美術まで担当した舞台。開幕前に、舞台中央に鎮座する「ガチャガチャ」ボール(球体)がたくさん詰まった塔を間近で見学できる。

舞台は日本近海の火山爆発でできた島でレアメタル発見され、世界中から多くの資産家が移住し、その利権を独占した日本人が独裁国家を作った、という設定。その国家の現代美術館のロビーにガチャガチャの塔「sphere of sphere(球体の球体)」が展示されている。なぜ、作家がこのようなオブジェを制作したのか、なぜ、ガチャガチャなのかというところも物語が進行すると明らかになってくる。
日本近海の日本人による独裁国家という設定がおもしろいが、この会話劇は結構難解である。作者の頭の中の妄想がかなり高度なのだろう。ついていくのにやっとという感じだ。人によっては「分かりにくい」と感じたかもしれない。
大統領やキュレーターをホログラムとして描き、指先の動作で早送りや巻き戻しをする場面が続くところがある。巻き戻しや早送りに対応して動く役者が、ストップモーションも含めて非常にそれらしい動作を披露して笑いを取っているのはさすがだと思った。冒頭とラストシーンのダンスもよかったと思う。
数十年後の未来を描いているが、このような世の中が来るのかどうかは分からない。物語の中身に文句を付けるわけではないが、生命の誕生を手玉に取るような世の中にはなってほしくない。

三人吉三廓初買

三人吉三廓初買

木ノ下歌舞伎

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2024/09/15 (日) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/15 (日) 13:00

座席1階

歌舞伎の現代劇化に取り組む木ノ下歌舞伎の長編代表作。20分の休憩2回を挟んで5時間を優に超える超大作だが、東京芸術劇場・プレイハウスの大きさに余裕のあるシートも役立ち、疲れることなく舞台に没頭できる。何よりも、歌舞伎を身近なものにという台本、演出、舞台美術に共感し、好感を覚える。歌舞伎の演目がベースであるものの、躍動的、そして人情味あふれる現代劇として十分に堪能した。

初演から10年、今作も新たな修正、演出を盛り込んだという。おそらく、開演前の立て看板「TOKYO」もその一つだろう(終演時にはこれが白紙に。未来の東京へ続くという意味だと受け取った)。三人吉三廓初買が演じられたのは明治維新直前の幕末だが、当時の江戸が現代都市・東京と地続きの場所、そして当時の人たちが今につながる舞台上にいるという作家の意図を強く感じる。この点は、物語とは全く関係のないシーンがあちこちに息抜きのように挿入されていたり、現代東京の若者文化の象徴が盛り込まれているところからも推察できる。
当時は男女の双子が不浄の子とされるなど、確かに、ジェンダー平等が叫ばれる今とは感覚が全く違う。推察だが、庶民の思いを描いている歌舞伎が、特に近年の時代の流れで「不適切なもの」として否定され、演じられなくなるのではないかということを強く拒んでいる。だからこそ、東京と江戸がわずか百数十年の距離しかなく、ジェンダー的に問題があっても、避けられない運命を背負わされた者たちが今も昔もどう生きていくのかを、東京の香りをにじませながら客席に提示したのだと思う。
登場人物が和服なのに靴だったり、それどころか洋服を着ていたり。岡っ引きが今の警察官の姿だったり。でも、全然違和感を感じないところがすごい。ただ、せりふは歌舞伎に忠実であるようだ。
ラストシーン、花魁の一重が果てる場面では客席のあちこちで感涙を絞った。ああ、すごいな、この舞台は、と感じ入る瞬間だ。木ノ下歌舞伎初出演の役者も多いが、スタンディングオベーションを見れば、きっちりと仕事をこなしきっていたのがよく分かる。

ドリル魂2024

ドリル魂2024

公益社団法人日本劇団協議会

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/09/07 (土) ~ 2024/09/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/14 (土) 13:00

座席1階

「日本の演劇人を育てるプロジェクト」として、扉座がかつて上演したミュージカルを復活上演した。育成の発表会などと思ってはいけない。歌も踊りも相当なレベルまで鍛え上げられた若者たちの熱情あふれる舞台。ビルの建築現場で働くガテン系のお兄ちゃん、お姉ちゃんが躍動する。

桟敷童子がいつも使っている「すみだパークシアター倉」が開演前、バックの扉が開放され吹き抜けに。前列から5,6列のいすにはヘルメットが置いてある。また、開演前は一つ300円で特殊メガネを出演者たちが販売している。舞台の進行に応じて着脱の合図が出る。客席も一体となって舞台に没入する小道具だ。
建築現場のリアリティーあふれる舞台セットで、役者たちはツルハシや金槌、シャベルなどを手に軽快に踊る。マイクは付けていて声量のカバーはあるのかもしれないが、ハモりもきれいに決まっていて違和感を感じさせない。また、サーカスのようなアクロバティックな場面も複数あり、度肝を抜かれる。若さのパワーというものを思う存分舞台でぶちまけていて気持ちがいい。
職人たちの群像劇の仕立てや、建設現場で実際にあった事件をモチーフにした時事ネタなど、さすが横内謙介、単なるエンタテイメントでなく演劇としても十分に楽しめる内容だ。

残念ながら明日の千秋楽のチケットは売り切れというが、それも納得。絶品の2時間、舞台にくぎ付けになった。

ヤマモトさんはまだいる

ヤマモトさんはまだいる

東京演劇アンサンブル

あうるすぽっと(東京都)

2024/09/12 (木) ~ 2024/09/16 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/13 (金) 14:00

劇団創立70年の記念公演2作目。劇団と交流があるドイツの前衛劇作家デーア・ローアーの書き下ろし。ブレヒトを演じ続けた東京演劇アンサンブルがどのようにして世代交代を果たしていくのかが注目されるが、劇団代表の志賀澤子がパンフレットに書いているように、この戯曲は劇団の70年そのものだという。次世代がメーンとなり背負う舞台はこれからのお楽しみというところなのかも。

ドイツの劇作家が「ヤマモトさん」というのは面白いが、舞台は欧州である。同じアパートの住人たちがヤマモトさんという高齢女性に関わっていく様子が、回転舞台による頻繁な場面転換で語られる。欧州でも独居高齢者は増えていると思われるが、ヤマモトさんは今の日本の世相を代表するようなキャラクターだ。
ヤマモトさんが半生を語る場面が印象的だ。何だが、ヤマモトを演じる志賀が劇団の後輩たちにとうとうと語っているような、そんな感じがした。ヤマモトさんは製材所に勤めた経験があるのだが、その中で「伐採」という言葉への反発を強く語る。あまりにも殺伐とした語感という中身だが、客席もこれは共感できたのではないか。

淡々と進む舞台だが、難解な部分も多い。これもパンフレットにあったのだが、演出の公家義徳が「劇団で上演される作品はブレヒトだとかチェーホフだとか、何が面白いのかさっぱり理解できないものばかり」と入団した当時の感想を書いていた。公家さんでも「さっぱり理解できない」んだと、何だかホッとしてしまった。今作で、なぜこの場面があるのか、舞台上の会話は何を意味しているのか、分からないまま過ぎてしまったところが複数あったのだが、まあ、それはそれでよいのかと演出家のモノローグに救われた思いで劇場を後にした。

ワタシタチはモノガタリ

ワタシタチはモノガタリ

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2024/09/08 (日) ~ 2024/09/30 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/09 (月) 13:30

iakuの横山拓也の作品。それぞれ兵庫県出身の江口のりこと松尾諭を起用したことで、横山作品の見どころである軽妙な関西弁のやりとりが遺憾なく発揮され、リズム感あふれ、何度も笑える舞台に仕上がっている。人の心の微妙な動きを描いたらピカ一の横山である。大劇場で役者の動きが大ざっぱになりがちな舞台にありながら、この二人を含めて登場人物それぞれに小さくない役割を持たせ、絡ませ、それぞれの胸の内が交錯する群像劇ともなっている。

大阪の中学時代、文芸部で一緒に活動した少年と少女。少年が中3で東京に引っ越すことになり、二人は文通を始める。文通は少女も上京して大学に入り、社会人になっても続き、冗談交じりに「30歳になってどちらも独身だったら結婚しよう」という約束をいつしか交わしていた。ところが少年は30歳を目前にして別の女性と結婚。結婚式に呼ばれた少女は、彼に15年間でやりとりした手紙を返すように求めた。
作家志望の少女は、フリーラーターをしながら作品を書き続けるが芽が出ない。ところが、二人の文通、すなわち交わされた膨大な手紙を資料にして書き上げた携帯小説は瞬く間に評判となり、書籍化や映画化の話が舞い込むほどになった。

物語は冒頭の早い段階でこうした経緯を小気味よく刻む。そして、この携帯小説をめぐっての二人のせめぎ合いや、携帯小説の登場人物である男女が舞台上にリアルに登場して交錯するなど、本格的な横山ワールドが展開される。作家の頭の中で創造した登場人物が現実の二人と交錯することで、作家である女性の思いが明確に描き出され、リアルである周囲の人物と絡み合っていく物語の流れは実にうまいし、面白い。舞台は1時間ほどたった当たりで20分間の休憩となるのだが、1幕が終わった時に客席から大きな拍手が起きたのには驚いた。それほど横山ストーリーは客席を魅了していたのだ。

携帯小説の主人公男性はリアルの人物よりもはるかにイケメンで優しく、作家は自分の恋愛相手として優しく、美しく描いていく。現実の文通相手との落差も面白いし、落差ということでは、作家の女性と携帯小説のヒロインにも大きなものがある。だが、物語の下敷きはリアルの二人が交わした往復書簡。しかも、この手紙の山には愛の言葉などなく、他愛のない話や近況がほとんどという設定が、さらなるリアリティーをこの舞台に与えていく。

iakuのいつもの小劇場での舞台とは趣を変え、小山ゆうなの演出もよかった。大劇場ならではの設備を存分に使い、映像を織り交ぜて虚実を描いていく手法は視覚的に成功している。2幕ものなのだが、自分としては休憩なしで突っ走るのもよかったのではないかとすら感じた。

ちょっとお高いチケットだけど、その価値はあると思う。

L.G.が目覚めた夜

L.G.が目覚めた夜

演劇集団円

シアターX(東京都)

2024/09/01 (日) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/07 (土) 14:00

座席1階

ご遺体に化粧を施すなど生前の姿のようにしてさしあげるエンバーミングで名を挙げた女性と、家族の物語。けして「死体処理」などという空疎な向き合い方でなく、尊厳を大切にする、思いを込めた仕事だ。納棺師の映画や、最近では米倉涼子や松本穂香が好演したNHKのドラマ「エンジェル・フライト」で知られるようになった仕事だ。

舞台は山村と思われる片田舎の町。若くして故郷を去った主人公の女性は、がんで亡くなった実母の遺体にエンバーミングをしている。兄弟たちが集まってくるが、なかでも長兄は女性に対して非常に冷酷な態度を取る。このミステリーのカギを握る伏線である。
少女時代の自分の独白から、物語はまず展開する。この女性は深夜、寝静まった町の人々の寝室に忍び込み、寝姿を眺めるという奇癖があった。鍵などかけない田舎だからということだが、よくバレないでそんなことができるな、と思いながら舞台を見つめる。
ところが、やっぱりバレてしまうのだ。しかも、少女のあこがれでもあったスポーツマンの男の子の寝室で。ここで何があったのか、やはり、女性の独白によって物語は急展開していく。

ゆえに、この女性を演じきった平栗あつみには拍手を送りたい。彼女の長い独白によって客席はかたずをのんで静まり返り、視線は舞台にくぎ付けだ。彼女の物語以外にも、兄弟それぞれの人間関係の秘密が次々に明らかになっていく。すべてを握って死んでいった母親の遺体の元で明かされる葬られたはずの過去。ラストシーンの演出はよかった。舞台中央の四角い扉が、最後の最後に開く。母親の情念というか、えも言われぬ強いエネルギーが放出されていった瞬間だ。
タイトルの「L.G.」という名前の主が実は、女性の家族ではないもう一人の主人公。存在感を放って舞台に浮かび上がる姿は、亡くなった母親が墓場まで持っていこうとした強い情念に照らされてるかのようだった。

2時間弱の物語。この舞台は面白い。一見の価値がある。

あの瞳に透かされる

あの瞳に透かされる

Pカンパニー

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/09/04 (水) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/05 (木) 19:00

座席1階

「あの瞳に」というタイトルの意味を、劇場を後にして反すうすることになる。くるみざわしんらしい、見事な脚本だった。テーマは従軍慰安婦と写真展。右派の反対運動を恐れて行政や大企業が口をつぐんでしまうという事態が相次ぐ中で、意欲的な舞台だ。

世界に冠たる大手カメラメーカーが従軍慰安婦の写真展を開こうとしたが、SNSなどで脅迫めいた投稿が相次ぎ写真展の担当者男性は中止を決定する。表現の自由を制限したとしてこの男性は訴えられ敗訴するが、男性は株主総会の炎上や会社の上層部を守ったとして形ばかりの取締役に引き立てられ、南国の島に「左遷」させられる。
男性と妻が島で暮らしているのは、会社が所有しているリゾート物件。だが、実はこの建物にまつわる、避けては通れない歴史があった。それは舞台の進行で明らかになる。閑職に追いやられた男性はフリーマーケットで天使の人形を買い集める。この天使の人形の瞳が何を語るのか。舞台はこの島での従軍慰安婦の歴史や、歴史を記録する写真というメディアの価値など、さまざまなことを客席にぶつけていく。

Pカンパニーの「罪と罰」シリーズには定評がある。それに加え、今回はくるみざわしんの戯曲とのことで期待して出かけた。期待を裏切らない出来栄えだったが、途中に休憩をはさんだのはもったいなかった。せっかく盛り上がった緊張感が途切れてしまった。でも、それだけで☆を減らすのはどうかなと思って五つにした。登場する俳優たちも、それぞれ独特の個性や役割を与えられた配役を、きっちりこなしていた。

みわこまとめ

みわこまとめ

ピンク・リバティ

浅草九劇(東京都)

2024/08/29 (木) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/02 (月) 19:00

実和子という、少女時代は恋愛に全く奥手であった女性が、中毒的な恋愛に染まっていく物語。実和子を含め3人の仲良しグループのそれぞれの恋愛や生き方も絡み合っていて、さらに人間世界とは別のワールド(眠っている時の夢のような設定だ)との出入りもあり、壮大な女性一代記に仕上がっている。

舞台中央にある円形の台座。舞台の上手下手にいすが並べられている。物語はこの円形の台座の上やその下、またはその周囲で展開する。そして、両側のいすは俳優たちの待機場所で、ここから出たり入ったり、実に鍛えられた、スムーズな動きで舞台転換の切れ目を感じさせない。
そしていつも中央に居続ける実和子役の大西礼芳。約2時間の上演時間の中で、七変化の恋愛遍歴を力強く演じる。

この物語は、女性と男性で見た印象が大きく異なるのかもしれない。共感できる部分、そうでない部分。多様な印象を予期したかのように、実和子の2人の友人たちにその「共感」「否定」の役割を持たせているように感じた。また、いろんなタイプの男たちが登場するが、ここは男性視点からみると「まあ、そんな男、いるよな」とあまり意外性はない。やはり作・演出が男性だからなのか。同じ物語を女性がつくったら、かなり趣が異なる舞台になったに違いない。

流れるような俳優たちの動きと出入り。こうした演出の妙で時がたつのを感じさせない。客席の目を終幕まで引きつける力は抜群だ。ただ、タイトルにもう一工夫あってもよかった。

徒

劇団スポーツ

小劇場 楽園(東京都)

2024/08/28 (水) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/01 (日) 13:00

前作に続いて楽しませてもらった。客席を楽しませようという意欲、力を強く感じる劇団だ。その名の通り、少し体育会系なのだろう。今作は、夢かうつつか、うつつか夢か。妄想とは異なる、寝苦しい真夏の夢(悪夢)を目の前で再現されたような感じだった。

出演者の中で誰の頭の中の夢だったのか、舞台後半で明らかになる。最初の場面から結構、夢としては(悪夢としては)リアリティーを感じさせる。登場する俳優たちは手首や足首を縛られたり、手錠をかけられていたり。そして真っ赤な色で埋め尽くされた部屋に閉じ込められている。扉には鍵がかかっていて出られない。でも、なぜか縛られた縄はどこか緩く、面白いことに指先を縛られた役者もいる。このあたり、夢(悪夢)の世界だなあ、と何だか納得させられる。

その後の展開は、夢とうつつが交互したり、ごちゃ混ぜになったり、とても面白い。笑えるポイントもたくさん配置されている。役者たちの動きもとてもいい。前作でもそうだったが、やっぱり体育会系なのかも。
小劇場「楽園」は入り口に大きな柱が立っていて、おのずと客席は両翼に分断された形になる。見る側からするとこの柱が結構邪魔になるわけだが、柱があっても案外と気にならない。演出の妙なのだろう。

2時間弱。少し長いかなと思ったけど、十分楽しめる。

パパからもらった宝もの

パパからもらった宝もの

劇団BDP

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2024/09/01 (日) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/08/31 (土)

座席1階

縁あってゲネプロを見せてもらった。角膜移植とアイバンクの物語。児童劇団の卒業生らでつくる劇団とあって、しっかり鍛えられた歌唱と踊りはさすがだと思った。

角膜移植がどのような形で行われるのか、病院を舞台に展開する物語で分かりやすく提示する。主役は新人の角膜移植コーディネーター女性。勤務初日に自分の職場でなく、首都高での多重事故で多数のけが人が運び込まれて大混乱する救急医療の現場(ER)に迷い込んでしまう。
亡くなった人の角膜を目の見えない人に移植する、その橋渡しをするコーディネーター。死亡したばかりの遺族に角膜提供の機会があることを説明する使命もある厳しい仕事だ。臓器移植法の施行で心臓や腎臓などの臓器提供意思表示カードを持つ人が増え、そこに角膜提供の意思も同様に表記されている。だが、実際に救急医療の現場でカードが提示されることは多くない。それだけに、コーディネーターの役割は大きいと言える。
愛する人を失って悲嘆に暮れる母子、それでも亡き夫の一部が生き続けるという理解で提供に踏みきり、そのお陰で光を取り戻した二人の子どもを中心に物語は展開する。その中で、移植医療の限界にも言及されたのはとてもよかった。移植は万能ではない。だがそれでも、なぜ角膜移植が必要なのか、舞台はきっちりと教えてくれる。

ドナーとレシピエントの関係で、現実には起こり得ない設定もあるが、それは両者の関係を分かりやすく示すためだから仕方がないのかも。ただ、角膜移植の歴史を歌唱で説明したのは、少し分かりにくかった気がする。
それでも、この舞台は日ごろはまったく関心のない人たちに角膜移植のことを知ってもらう絶好のツールとなっている。子どもたちの熱演を見ながら学んでほしいと思う。

Re: プレイバックpart3

Re: プレイバックpart3

劇団チャリT企画

駅前劇場(東京都)

2024/08/28 (水) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/08/30 (金) 14:00

座席1階

カセットテープを愛用して音楽を聴いていた世代にはぐっと刺さる舞台。開演前に流れている昭和のJポップも盛り上げ効果が絶大だ。

とあるぼろアパートで白骨化死体が発見され、たまたま連絡が付いた故人の甥が残置物の片付けのために友人を伴って訪れる。故人はカセットテープにある告白を残していた。今どき、カセットテープを再生するラジカセを探すのも大変だが、昭和世代の大家さんから借りて再生する。気を持たせたまま終わるA面を聞き、さらにB面を聞く。ところがそれだけでは故人が言いたかったことはさっぱり分からない。そんな時に、ひょんなことで別のカセットテープを甥が手に入れる。
「ふざけた社会派」を標榜するチャリT企画だが、今作は結構シリアスである。もちろん、笑いのツボはあちこちに仕掛けられていて面白いのだが、この舞台が伝えるメッセージは明白だ。いろんな事件・出来事を取り上げているチャリT企画。さすがに今回扱った事件は単純に笑い飛ばすわけにはいかなかったのだろう。いつもとテイストは少し異なっても社会派劇としてのずっしり重いところをしっかり押さえていた。これはこれで、納得できる舞台である。

おもしろかった。見た方がいいと思います。

星を追う人コメットハンター

星を追う人コメットハンター

劇団銅鑼

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/08/28 (水) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/08/29 (木) 14:00

座席1階

彗星や新星を数多く見つけたアマチュア観測家・本田実の物語。大正生まれで戦争に行った経験があり、1990年に77歳で亡くなった人物を現世代の人たちとリンクさせるため、高齢者施設に入居している認知症の男性が「自分の幼なじみだ」として語らせる台本はとても興味深い。

認知症介護という視点でも、きちんと取材して書かれている。認知症の人が語る物語を否定せずじっくり聞いて対話をしていくという主人公の介護職の仕事ぶりが、この物語をつむいでいくのだが、認知症の人を受け止めてケアしていくという施設の在り方はとてもいい。いつも人に優しい舞台をつくる銅鑼らしい展開だった。
主人公の男性は妻と別居しているという設定で、舞台が進むにつれて二人の抱えている問題が明らかになってくる。ただ、自分にはこの設定や妻の存在が物語のメーンストーリーであるコメットハンターとは直接関係ないのが気になった。「自分の幼なじみ」と本田氏のことを語る男性の物語がもっとあるとよかったような気がする。

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