実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/09/09 (月) 13:30
iakuの横山拓也の作品。それぞれ兵庫県出身の江口のりこと松尾諭を起用したことで、横山作品の見どころである軽妙な関西弁のやりとりが遺憾なく発揮され、リズム感あふれ、何度も笑える舞台に仕上がっている。人の心の微妙な動きを描いたらピカ一の横山である。大劇場で役者の動きが大ざっぱになりがちな舞台にありながら、この二人を含めて登場人物それぞれに小さくない役割を持たせ、絡ませ、それぞれの胸の内が交錯する群像劇ともなっている。
大阪の中学時代、文芸部で一緒に活動した少年と少女。少年が中3で東京に引っ越すことになり、二人は文通を始める。文通は少女も上京して大学に入り、社会人になっても続き、冗談交じりに「30歳になってどちらも独身だったら結婚しよう」という約束をいつしか交わしていた。ところが少年は30歳を目前にして別の女性と結婚。結婚式に呼ばれた少女は、彼に15年間でやりとりした手紙を返すように求めた。
作家志望の少女は、フリーラーターをしながら作品を書き続けるが芽が出ない。ところが、二人の文通、すなわち交わされた膨大な手紙を資料にして書き上げた携帯小説は瞬く間に評判となり、書籍化や映画化の話が舞い込むほどになった。
物語は冒頭の早い段階でこうした経緯を小気味よく刻む。そして、この携帯小説をめぐっての二人のせめぎ合いや、携帯小説の登場人物である男女が舞台上にリアルに登場して交錯するなど、本格的な横山ワールドが展開される。作家の頭の中で創造した登場人物が現実の二人と交錯することで、作家である女性の思いが明確に描き出され、リアルである周囲の人物と絡み合っていく物語の流れは実にうまいし、面白い。舞台は1時間ほどたった当たりで20分間の休憩となるのだが、1幕が終わった時に客席から大きな拍手が起きたのには驚いた。それほど横山ストーリーは客席を魅了していたのだ。
携帯小説の主人公男性はリアルの人物よりもはるかにイケメンで優しく、作家は自分の恋愛相手として優しく、美しく描いていく。現実の文通相手との落差も面白いし、落差ということでは、作家の女性と携帯小説のヒロインにも大きなものがある。だが、物語の下敷きはリアルの二人が交わした往復書簡。しかも、この手紙の山には愛の言葉などなく、他愛のない話や近況がほとんどという設定が、さらなるリアリティーをこの舞台に与えていく。
iakuのいつもの小劇場での舞台とは趣を変え、小山ゆうなの演出もよかった。大劇場ならではの設備を存分に使い、映像を織り交ぜて虚実を描いていく手法は視覚的に成功している。2幕ものなのだが、自分としては休憩なしで突っ走るのもよかったのではないかとすら感じた。
ちょっとお高いチケットだけど、その価値はあると思う。