四谷怪談
ジェイ.クリップ
俳優座劇場(東京都)
2015/10/18 (日) ~ 2015/10/20 (火)公演終了
満足度★★★★
情念豊かに...
東海道四谷怪談...お顔岩の顔が変わり果てというイメージが強いが、本公演は男女の悲恋を群像劇として描いたというもの。台詞は原作に沿った歌舞伎調が謳い文句である。
さて、歌舞伎の見巧者ではなく、ましてや生半可な付け焼刃的な知識も持ち合わせていない。歌舞伎的云々の台詞回しについては割愛(というか書けない)する。
全体的な印象は謳い文句のとおり男女の恋愛物語であるが、そこに描かれたものは、個人レベルの恋愛と封建時代(武家社会)における「家制度」のあり方という二面性があったと思う。
人間(個人)の欲望のひとつかもしれない情念を「本能」、一方、現代的に言えば貞操の「倫理」という対立を封建(武家)社会という軸の中で描こうとしていたようだ。
歌舞伎が容色本位の見世物から演技を観せる劇へ進歩したと考えた時、この芝居はその観(魅)せるを追求したようだ。
ネタバレBOX
始めは2話の関連性の触り、それから個別に展開し終盤に収斂。独立しつつも魅力的。男のエゴ、侍の意地、武家社会の理不尽、仇討ちの不合理・無情。時代に翻弄されるも、男・女の愛憎、妖しく儚く幽魂。 美しく官能的であるが、一方不安や疑念を巻き込んで展開する濃密で極悪なサスペンス。
当日パンフによれば、これは忠臣蔵の裏物語だという。舞台登場人物も相関図があり、四谷家、伊藤家、売春宿の3つの括りで示される。主人公は民谷伊右衛門(鯨井康介サン)で、四谷家のお岩と夫婦。お岩の妹にお袖、その夫が佐藤興茂七、このお袖に横恋慕するのが直助である。この夫婦二組の愛憎を中心に描かれる。そこに忠臣蔵の浅野家家臣(民谷・佐藤両名)、吉良家家臣(伊藤家)が絡み、武家社会の理不尽な様相が見え隠れする。大きく二組の男女の物語がそれぞれ独立して描かれているようであるが、仇討ちという時代軸を通して繋がる。その紡がれ方が情感たっぷり。ラストの殺陣や印象付ける余韻は秀逸であった。
この時代の倫理観、道徳観と現代は違うと思う。敢えてこの人物(主人公)像は、社会の秩序や規範に抵触するが、個人の行動(反倫理)を社会の矛盾に苦しむ姿として投影することによって魅力あるものにしていたと思う。葛藤が深刻に掘り下げるほど「運命」への抗いが観えて面白い。
俳優座の舞台が、エレクトロニックな光(照明)と歌謡曲(音楽)に包まれ、物語としての江戸時代(過去)と歌謡曲(現代)、そしてエキセントリックな感じの照明(未来)の融合...少し暗い照明に現代の歌謡曲と一瞬ギャップを感じせるが実は微妙にマッチしこの公演のオリジナリティを感じせる。そこに大きな世界観を感じた。
次回公演を楽しみにしております。
MAD非正規雇用X
岡本塾・ペーチカトライブ
Route Theater/ルートシアター(東京都)
2015/10/17 (土) ~ 2015/10/18 (日)公演終了
満足度★★★
シュールな...【Bチーム】
近未来の労働環境における管理社会(形態)のあり方を問うもの。特に雇用形態の弾力化・流動化によって管理層と非管理層の二分化が明確になる社会システムの弊害...現実の社会においても顕在化しているといえるだろう。それは正規雇用か否かという単なる雇用形態だけではなく、貧富差の拡大という「財貨」、同時に働き甲斐・生きがいという「気持」にも影響している。
近未来...その描き方が突飛な設定のように捉えかねないという遠慮、牽制の意味があるのかもしれないが、観客(少なくとも自分)はラジカルに思う。どのシーンも決して感情的ではなく、醒めたコメディを観ているようだ。国も地域も架空で特定しない寓話風に観せることによって悲惨な現実・現場を想像させない。しかし、ドタバタという騒動の中にしっかり問題提起を行っている。
この脚本の狙いは十分伝わるが、それを体現する役者陣の演技が弱い。一生懸命であることは分かるが、上辺だけで内面感情が覗けない。演技力のバランスも欠いたようで残念に思った。
ネタバレBOX
産業ロボットの出現している現在において、人間の労働力は特定分野にのみ発揮している、という設定である。いわゆる対人間関係を重要視するサービス産業において必要だとしている。各業種に出進している巨大企業「ブラックサバスホールディングス」、その多くは非正規社員で構成されwている。正社員への登用を夢としている姿は、雇用調整を心配する派遣労働者を想起する。
梗概...主人公・猪狩大は、非正規雇用労働者の勤務環境の改善を本社に訴え、逆に辺境のコンビニエンスストアに左遷される。そこは人口減少により荒廃し、スラム化した砂漠の町であった。そこで「ある計画」について知らされる。それは、全国の非正規雇用労働者たちが一斉にボイコットすること。
企業名からブラック企業のイメージ。経営トップ(CEO)は責任を負わない、どこかの国の企業体質のようだ。
この公演で気になる事が...
第一に、辺境に左遷された時、首枷(鎖)を付けられたが、それは自由を奪う比喩として観ていたが、辺境も管理社会か?また、本社で正規社員(シャイン)となっても、自分で首枷をした理由は何か?
第二に、交渉人となった主人公の今後である。雇われるより雇う側、管理する側として起業したのか?人の痛みを知った上での交渉人なのか、ラストのイメージは交渉・ネゴシエーションではなく、総会屋・エゴティズムのように感じてしまう。
次回公演も楽しみにしております。
底ん処をよろしく
東京ストーリーテラー
高田馬場ラビネスト(東京都)
2015/10/19 (月) ~ 2015/10/25 (日)公演終了
満足度★★★★
創業70年の優しき食堂【Aチーム】
この公演...普通の人の人生にこそドラマがある。そして市井に暮らす人々の物語として見事に結実していた。平凡であっても抱えた苦悩・悔悟があり、その逆境に向き合い克服しようとしているひたむきな姿に感動する。
舞台は戦後間もなく開店した「底ん処」...創業70年という老舗、いや古いだけの大衆食堂である。戦後の食うことに困る、それこそどん底の人たちに食事を...。この食堂に集う人々と店の主人、娘(独身)の交流を描いた泣き笑いの人情劇である。
ネタバレBOX
その描き方は「庶民の腹の味方...安くて旨い食事」といったところ。その精神は先代が書き残した「底ん処 生業の心得」という冊子にある。戦後からの復興、高度成長期を支えた勤労者への讃歌も聞こえるようだ。それは当今のエリート層や損得勘定だけで生きている人々への静かな抵抗のようでもある。「好きな道を生きる」「他人のために生きる」「あきらめずに生きる」人々であり、挫折や悔恨をバネに生きる、どこにでも居そうな日本人である。
舞台は、食堂内、テーブル席4つ、上手には自宅への出入口、中央奥にはレジ台、厨房への入口、下手には店玄関(暖簾)が丁寧に作られている。献立は和食中心に「つくねハンバーグ定食」「豚生姜焼き定食」など550~650円である(劇中で配布されるチラシより抜粋)。
シャッター商店街と揶揄されるような場所にある店。客は常連ばかりで売上げが伸びず生活はギリギリ。店主の父親は跡継ぎもいないことから廃業を考えている。そんなところに元弁護士が...訳ありなのは一目瞭然である。この謎めいた人物の目的とは...。
そして廃業を考えている店主が語る”店の歴史”が心魂に響く。70年を刻んだ店「底ん処(をよろしく)」物語の自主出版、そして店の将来はどうなるのか。謎の女性も登場するが、こちらも気になる~。
戦後70年間で日本人が得たものと、失ったものを思い起こさせる。得たものは間違いなく経済的な繁栄であり、生活の利便性であろう。失ったものは、人生には貧乏や不便から抜け出すこと以上に大切なこと、何かを知る、聞く、助けることで輝くことができるという感覚(人情に近い?)ではないか。
ちなみにラストはハッピーエンドである。
次回公演を楽しみにしております。
2015生命のコンサート 音楽劇「赤毛のアン」
DGC/NGO 国連クラシックライブ協会
東京国際フォーラム ホールC(東京都)
2015/10/16 (金) ~ 2015/10/18 (日)公演終了
満足度★★★
明るく元気な物語
東京国際フォーラムという大きな舞台にしっかりとセットが作り出される。それは「赤毛のアン」という小説に表現されている風景のイメージである。もっとも小説は自分で想像し、イメージを膨らませる。一方、公演は視覚で観せているので、自然とその情景を受け入れることになるが違和感はなかった。物語は、原作のエピソードやエポックとなるようなシーンを紡ぎ、大きな物語を観せてくれた。世界的に有名な小説...アンが孤児院からクスバート家に引き取られ、そこで起こす騒動の数々。
そこでは常識と思われていた「偏見」や「不平等」について、子供の目を通して明るく悟されるようだ。そしてアン自身は、外見を気にしつつも無邪気な子供から恋する大人へ成長する姿が愛らしい。そこに本質の重要性を訴える意図が感じられる。
この公演では、小説にある未来に向かって、というメッセージのようなものが感じられた。
少し気になるところは...。
ネタバレBOX
2つ気になった。
第一、この大舞台で、子役(4人いる)が地声ソロで歌うが、掠れ聴き取りにくいシーンがあったこと(練習過の影響か)。
第二、韓国からの招聘アーティストの歌うところ。やはり芝居とは切り離したラストか、せめて途中休憩の前後ではないか。
せっかく「日韓国交正常化50周年記念」であれば、メリハリのある演出・構成をすべきではないか。
次回公演を楽しみにしております。
耳障りなシンフォニー
劇団 レディース&ジェントルメン
パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)
2015/10/17 (土) ~ 2015/10/18 (日)公演終了
満足度★★★★
洒落た内容
絵空箱という小さい空間を最大限に利用した演出が素晴らしい。そして舞台は、父親の生命維持装置を外す日に集まった5人兄弟姉妹の想い。始めはゆっくりと、しかし次第に激しい感情が胸中に渦巻き...。
このBar併設の空間を象徴するかのようなラストシーンは実に洒落ていて、余韻を残す見事な演出であった。
さて、生命維持装置を外すという倫理の是非を問うと、考えがまとまらず難しい。この公演では父の遺言ということを起点としたい。
さて、自分の好みとしては...。
ネタバレBOX
舞台設営は、病院の家族控え室(待合室)のような場所をL字型ひな壇(2段)で、この店のBarも利用する。出入口は病院の出入口としている(チラシには、演出の都合上、途中入場は難しいとの注書あり)。中央にはテーブルと椅子、飲食物等、その後ろにピアノ。場面転換のための紗幕で喫煙所(屋上か)が見える。大きな空間演出は見事であった。
5人兄弟姉妹の現況と思い出話が交錯し、胸のうちにあった蟠りの渦がジワジワ溢れ出し...兄弟姉妹だから理解しつつも遠慮していた感情が爆発する。その過程が実に上手く表現している。そして、次女の婿の微妙に距離のある立場も上手く描く。
この兄弟姉妹の思い出話が母親の亡くなった時のキャンプしか出てこない。自分では、5人兄弟姉妹それぞれが父親との思い出もあると思っている。そのエピソード(時間的制約もあるだろう)を披瀝し、父との別れの悲しさとこれから力強く生きていく心情として観せてほしかった。父は20年以上一人で5人の子供たちを育ててきた苦労人である。
そのラストシーンは感動を誘う。そして家族の調和(シンフォニー)のタクトは紛れもなく父であろう。子供たちの背後から包み込むようにピアノを奏でるのは父親なのだから...。その優しい眼差しは、一瞬の照明に照らされる。
次回公演を楽しみにしております。
パンクジェリーフィッシュフロー4AM
あなピグモ捕獲団
シアター711(東京都)
2015/10/16 (金) ~ 2015/10/18 (日)公演終了
満足度★★★
寄木細工のような…
初見の劇団である。そして東京公演は2年振りという。その物語は、ペールを取るようにして次第に真が見えてくる。
本公演は、多重構成、複数視点で描いているため、その錯綜するような展開に戸惑う。それは寄木細工のように次第に鮮やかな模様が出来上がるが、その過程において観客の心を繋ぎ止めておくことが出来るか。ラスト近くになって物語の輪郭が観えてくる。ラストは、それまで抽象的で浮揚感ばかりであったものが、しっかり立脚できる場所にいる。
少女の記憶...その形無いものに触ろう、観よう、聞こうとする愚行。その行為を嘲るように別の記憶が...本来一人称である私が、3人の私という視点から観察しつつ、時に自分に話しかけてくる。
ネタバレBOX
私は手術中であり、その術台の上で感じる記憶...なぜ病院にいるのかその手繰り寄せて紡がれる自分探し。理屈の世界では語り明かせない(文章化が難しい)。少なくとも一つ一つの記憶というピースがその少女の生命の源泉になっているようだ。
ラジカルに感じる実験的な作風だと思う。感情に纏わる台詞を追うよりも、その独特の雰囲気を味わいたい。シーンごとには決して感傷的ではないが、観終わった後に重い澱(おり)のようなものが胸に沈んでくる。しかし、それはこの文章ほど重く暗いものではなく、わりあい淡々とした複数の眼差し...そこには掴めそうで掴めない乙女心があったような...。
自分はこの公演の雰囲気、けっして嫌いではない。
次回公演に期待しております。
The sky is the limit
makaniまにまにlani
APOCシアター(東京都)
2015/10/15 (木) ~ 2015/10/18 (日)公演終了
満足度★★
インパクトが弱い
物語は坦々と展開するが、その描き方が淡々としている。写真の連写のようであり、その場面ごとは静止画像のようで、人物像が立ち上がってこない。美しく切り取ったもので、その印象は弱い。
また初日ということもあって、緊張か滑舌・声量の問題なのか、台詞が聞き取りにくい(特に前半部分)。また生演奏と被りよけい聞こえないシーンがある。
シーンへの思い入れ(大切にする気持)は分かるが、きれいにまとめ過ぎたようだ。もっと人間的な感情を露骨に出して、その胸中を吐露させてもよかった。
ネタバレBOX
実のところ、何を訴えたいのかという、本質的なところが分からなかった。その部分を書き込みたかったが理解不足のため、表面的なところを書くことにした。
梗概は、姉・旭、妹・夕のうち、姉が見知らぬ男に殺害された。通りすがりの犯行で、突然のことで殺された本人も自覚できないという設定。そのため生前の思いを果たせないままいる。その姉が職場(保育園)の友達の体を借りて思いを伝える、という理不尽で悲しい物語である。そのシチュエーションは珍しくもなく...想いを伝えると言っても好きだった男に告白し、約束していた映画に行くという他愛のないもの。
ほぼ素舞台、中央上手側に黒椅子4脚、下手は演奏者2名(ギター、パーカッション)。登場している役者は舞台上にいるが、それ以外の役者も上・下手の袖にいる(所在なげに立っており気になる)。
また、演出・構成として回想シーンが何か所かある。確認または強調するシーンでもないため、その描いている意味が分からなかった。少しテンポも緩く繰り返しをすると冗長に感じてしまう。
公演全体としては、どうして友達に憑依してまで想いを伝えたいか、その理由が弱い。その動機付も含め物語に深みを持たせ、テンポよく観せてほしかった。
また兄弟の自由に生きている旅人・兄と、親の期待に沿う・弟の確執はこの物語の展開上、どのように関係していたのか、また被憑依はなぜ友達なのか、などいくつか疑問が...。衣装にも若干違和感あり。
自分には少し物足りなく、疑問・違和感が多く合わなかったのが残念である。
次回公演を楽しみにしております。
それなら生きるかそれでも死ぬか!?
演劇ユニット・言葉の動物
北池袋 新生館シアター(東京都)
2015/09/14 (月) ~ 2015/09/16 (水)公演終了
満足度★★★
演出に難が…
過去にあった不合理な制度が、さらに悪質を増して近未来に制定される不条理な話。
テーマとしては分かり易い。その描き方は小(章)節を紡ぎ、それが織り込まれることで鮮やかな物語(柄)が浮かび上がる。その章立(場面転換)はすべて暗転しており集中力が保てない。
ネタバレBOX
冒頭、迷宮のような場所に集まってきた人々、その腕には番号が書かれた腕章がつけられている。0~9番は、その階級(ヒエラルヒーか)を示す...つまり最下層は9番ということ。不平等の世界、しかし現実には存在する。そのアイロニーが描ききれていない。
梗概は、上層民(0番地)の男が不治の病に罹り、当時の医学では治癒不可能。治療法が確認できるまで生命維持装置の力を借り、病の進行を遅らせる。その間も少しずつ進行し、壊死した体の部位を下農民から金で買い取る。下層民はその金で自分の家族を養い潤す。その果てにあるのが迷宮...冒頭シーンへ回帰する。この上層民・男と下層民・女が偶然知り合い愛し合う。しかし階級という壁(男の母親)に阻まれ、逃避行を...という話が絡んでくる。
テーマとしては面白いが、その演出(暗転の多さ)に難がある。金で買える「人間の部位」と金で買えない「時間の経過」という、人間の尊厳を金銭という毒花で彩るようであった。
次回公演を楽しみにしております。
UN-TAN
流世☆ロケット
北池袋 新生館シアター(東京都)
2015/10/07 (水) ~ 2015/10/12 (月)公演終了
満足度★★★
今後が楽しみ
虚構という世界の中に描いた重厚な話、その場面ごとに緊密な繋がりを持っているようであるが、それが上手く結びついているのか、そして観客に伝えきれているかは疑問。しかし、面白い設定であり、演出にも工夫を凝らしている。
ネタバレBOX
優れた作家であるが少し変わり者、そして有名でもない...その筆は、第一次世界大戦から世界大恐慌までのアメリカ1920年代の混沌とした時代と、某富豪屋敷にある或る書(手帳?)を入手する、という多重構成で物語が展開する。登場人物は大勢いるが、基本的には会話劇(作家と編集者)のようである。前段の話は、米ソ冷戦時代からソビエト連邦崩壊までという後日談も描かれる。時代に翻弄される人間と、時代に関係なく人から人に手交されてきた書、その存在(記載内容)は何か、20世紀における闇に関わる謎が書かれているのか、この推理小説を読み解くようなミステリー、サスペンスの雰囲気は良かった。
一方、小説なのか、空想話なのか、その複雑に絡み合う現実との切り結び(書の奪取までの「挿話」との関係)が不明確である。それゆえ公演全体が難しく感じられた。
この舞台セットは、少し高い段差を設け床一面に英字新聞のようなものが敷かれている。上手にはモザイク柄の木椅子6脚、中央には机/タイプライター。薄暗い照明の下、重厚な空間は激動の時代をよく反映しているようであった。
なお、この時代は現代または次時代にどう繋がっていくのだろう。この続きが観たいと思わせるような...
次回公演も楽しみにしております。
暗闇演劇 「The Light of Darkness」
大川興業
ザ・スズナリ(東京都)
2015/10/10 (土) ~ 2015/10/12 (月)公演終了
満足度★★★★
気配を楽しむ!
前回本公演(第38回)は完全な暗闇劇であったが、今回は薄光で舞台の様子が何となく観える。芝居は観るもの…確かにそうだが暗闇劇も素晴らしい。観えないがゆえに、神経を研ぎ澄まし集中する。その緊張感が心地良い。
ネタバレBOX
3つの話がしだいに修練し、最後には心温まるような大輪を咲かせるような物語。そして観えないがゆえに、台詞の一言一言が印象に残る。たとえば「楽しいことは拡散し(印象)薄まるが、悲しみは集中し暗闇に引き込まれるようだ」は正鵠を射るようだ。なにより素晴らしく感じることは、公演底流にある観客(目の不自由な方も含め)に感じて貰いたいというサービス精神に溢れているところ。その対応力の高さと同時に作品固有が持つ物語の魅力であろう。その個々の味わいを掬い取る繊細さも見逃せない。これをDVD化にしても面白味は伝わらない。実際劇場で体験するしかないのが残念であるが...。
さて、3つの話と全体としてまとまる梗概
第一話。バブル期にあった温泉付マンションは、売れ残り住居者も疎ら。そのゴーストタウンのようなマンションにいる売れない芸人の不安と焦燥。
第二話。学校でイジメられ、屋上から自殺しようとしている学生と担任教師。校長は、学校はもちろん担任教師にも問題はなかったと(管理)責任回避。
第三話。既婚男性の妻と愛人との間で心が揺れ動く、というよりは優柔不断な態度が招く悲劇。愛人が癌になり妻が身を引くことにしたが、実は妻も末期癌で他界...その心情を知った男の号泣。
これらの3つの話は交錯し一つの話を紡いでいく。途中に男全裸の電光映像が紗幕(暗くてわかりにくいが)に映し出されるなど、大川興業らしい笑いも挿入されるが、全体を通じたテーマは「命と人の優しさ」といったことが感じられる。
次回公演も楽しみにしております。
reflection of 灰色天使
劇団芝居屋かいとうらんま
OFF OFFシアター(東京都)
2015/10/10 (土) ~ 2015/10/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
観応えがあった
衝撃な冒頭シーン。
謎の男の謎の事務所に来る人々。なぜ男のところに来るのか。底知れない知性を秘めているのか、穏和な人柄に癒やされたいのか。
多少癖はあるが、普通の人たちが曖昧な会話や行為を通じ、次第に心が病んでいく様が怖い。この男の正体は…。
ネタバレBOX
紳士然とした振るまい、穏やかな口調…その外見から予想出来ない真実。
圧巻の冒頭シーン。
そのシーンは、一人の女性が血が付いたナイフを持ち、白いブラウスは返り血で染まる。そして母、父、友人、そして周りの人々を次々と殺害した、と衝撃の告白をする。
暗転後は、ほのぼのとした雰囲気の某事務所。この事務所は何を行うところか分からないが、相談事で人の出入りが多い。
大金を手に入れ幸福感に浸るところであるが、そこに不安も感じる。完全な姿の中に不完全な幻影を求める。人は満足の中にある不安という感情よりは、不満の中に安心と求める夢を見るのかもしれない。
この事務所の男との会話は、穏やかで安心感を与えるようであるが、その応答に解はない。しだいにイライラが生じ、歪な関係になって行く。男の深奥に閉じ込めた思い...。無関心、不作為という一見人に迷惑をかけないような態度・行動は、時として自分に跳ね返る。深奥の扉がジワジワと開き、心を解き放った先に娘との邂逅が...。人に翼(肩甲骨は翼の退化?)があって空を飛べるの?という娘の問いに「飛べない」と現実的な答え。しかし、心の中では空よりも広いところを飛んでいる、と思う。
脚本・演出はもちろん、役者の演技力も素晴らしく、そのバランスも良かった。
次回公演も楽しみにしております。
芸祭
WATARoom
ザ・ポケット(東京都)
2015/10/07 (水) ~ 2015/10/12 (月)公演終了
満足度★★★
教訓のような…
座席指定であったが、受付に手間取っていたので対応に工夫が必要だと思う。
公演は、大学・学園祭までのサークル活動に絡む問題等を乗り越えて…そんな青春群像劇といったところ。色々な問題が生じるが、大学職員が大人の対応をし解決またはまとめるが、それが教訓臭いと感じる。学生自身または学生間の課題として観せてほしかった。
ネタバレBOX
公演を敢えて芝居とパフォーマンス(ダンスと剣舞)に分けた場合、芝居は説教じみており、山場のある内容ではなかった。そして完全な予定調和である。
梗概は、大学学園祭に向けて、それぞれの立場で活動しているが、その行動によって衝突するが、課題・問題を一つずつ解決し乗り越えて成功裡に導く青春ドラマ。そこに同級生の就職活動に焦燥を感じる留年確定学生、学園祭実行委員の学生、学園際というイベントの楽しさが忘れられない(現実社会からの逃避)卒業生、そして大学(学生課)職員の調整型人間が現れ...いろいろな場面で、一見正論のような理屈を述べるが、まとも過ぎて教訓のようだ。
一方、パフォーマンスは2団体の各々の演技は観せ場があった。ダンスは女性だけで、キレのあるフォーメイションが良かった。剣舞は、その太刀裁きが力強く優雅でもあった。そして、両団体合同パフォーマンス が一番の見所であったと思う。この劇中のパフォーマンスを活かしきれていないのが残念であった。
次回公演を楽しみにしております。
光を浴びたい者たち
劇団SwanLake
シアター風姿花伝(東京都)
2015/09/17 (木) ~ 2015/09/23 (水)公演終了
満足度★★★★
心の深淵
クラシックバレエにおいて、多くの女性がプリマを夢見るだろう。その選考を1971年 スタンフォード大学にて行われた監獄実験を参考に行う。その過程で浮かび上がる人間の醜悪な面の本性。実際の実験に沿うような展開...単に看守と囚人に分類し 2週間生活をさせるだけだったが...。
ネタバレBOX
人間の心の奥底には誰にも見せたことがない、また見せたくもない闇の部分がある。その閉じ込められた心の扉がジワジワと開かれ、閉じ込めていた醜悪な部分が露悪していく。語りたくない言葉が溢れ出し、もはや「常識」や「理性」という箍(たが)は外ずれ、嫉妬、羨望、陥穽などの感情が芽吹く。しかし、その醜悪な面も含め人間であり、歪んでいるがそこにも生の源泉があると思う。
この深奥をスタンフォード大学監獄実験事件」をモチーフにして抉り出すように描く。そのドロドロとした人間模様は人の闇をクローズアップすると同時に、「人」と「人」との関係の重要性も浮き彫りにするような二面性を持たせている。人間が持っている表裏の感情を上手く表現しており観応えがあった。
その演出は、エキセントリックな光と音の中で、体は踊り、心は狂い、その先にある魂には祈りを捧げているようだ。クラシックバレエという優美な世界に渦巻く人間ドラマは、強烈なパンチとして印象に残った。
演技は冒頭ダンスシーンがあるが、そのダンス経験の差が歴然として現れる。ここで演技力(ダンス)の差を印象付てしまったのが残念である。
次回公演を楽しみにしております。
The Last Snow~雪女物語
劇団暴創族
笹塚ファクトリー(東京都)
2015/10/07 (水) ~ 2015/10/12 (月)公演終了
満足度★★★★
丁寧な公演
場内に入ると幻想的で美しい照明。その奥にある舞台セットもしっかり作っており、楽しめそうな雰囲気を感じさせる。説明にある「雪女伝説」にまつわるファンタスティックコミカルホラー...確かに面白かったが、ドタバタが多く、そのシーンごとの笑いの余韻のようなものがない。もう少し観せるという感じがほしいところ。
ネタバレBOX
物語の梗概は、小泉八雲の「雪女」...人間を凍らせ、命をうばう雪女、に似ている。各地に伝わる雪女の話もあろうが...。
本公演では、雪の降る夜、雪女が人間を凍らせ殺してしまう所をみた老人とその息子(青年=三保田権蔵 黒岩徹サン)は、青年の命だけ助けた。今夜の事を決して他人に漏らさないという事を条件にして。青年はその後、ユキナ(塩山みさこサン)という女性と知り合い、幸せな家庭を築きいた。しかし青年は誓いを忘れて雪女の事を妻に話してしまった。その途端に妻はあの夜の雪女になり、家族をおいて自分の世界へ...。もっとも子供が一人前にならなければ何度でも現れるらしい。
現実(日常生活)の世界と思っていたが、次第にファンタジックな世界も入り始め、いつの間にはその境がなくなり、雪の世界に溶け込むようだ。
この舞台は、津々良山温泉のペンションでのこと。青年はこのペンションのオーナーであり、2人の子供(男女)がいる。この二人はユキナとの間に出来た子であり、子供にはユキナが25年目に死んだことにしてある。
この親子とペンション宿泊客のドタバタを描いたファンタスティックコミカルホラーという謳い文句であるが、ホラーとしての怖さはない。
この舞台セットが素晴らしい。上手には小スペースに本棚、蒲団(大きいクッションか)、中央奥に暖炉、客席側にリビング・食堂のテーブルと椅子、下手は受付と二階への階段がある。そこに雪の結晶をイメージする照明が...幻想的で美しい。
宿泊客は漫画家(原作者と絵画者)とその編集者、オカマバーの慰安旅行、大学のスキーサークル、家族旅行である。その客達が偶然にも知り合いであったり、不倫騒動、サークル内恋愛など色々な絡みが笑い笑いを誘う。
そのコミカルなシーンの連続であるが、しっかり観せる前に次のシ-ンが被ってくるようで、流されている印象である。テンポよく感じるが、もう少しシーンを大切にしてもよいと思う。
当日パンフによれば、2015年度(来春)で笹塚ファクトリーが閉館するらしい。他にも閉館の噂を聞いており、残念な思いをしている。
劇団暴創族と改名し、3回目の公演だという。
ぜひ次回公演も楽しみにしております。
落語でショー改め「座布団劇場七枚目ッ」
占子の兎
阿佐ヶ谷アートスペース・プロット(東京都)
2015/10/01 (木) ~ 2015/10/05 (月)公演終了
満足度★★★
新しい試みに感じたが...【C観劇】
落語の根多...それを登場人物の数だけ登場、といっても横長の舞台に座布団が人数分あり、時に寝たりしているが、大方は客席に向かって座っている。落語のように一人語りではなく、掛け合いのように進む。朗読劇、動きのある芝居でもない。新しい試みなのだろうか、自分も今まで観たことも聴いたこともなかった。それは新鮮であったが、少し物足りないような...。
ネタバレBOX
落語は、一人で登場人物の何役も語り分けるが、時に季節、情景、心の機微なども織り込む。だから語りでも観客は自分の中で人物像やその時の状況を想像する。そして楽しみ、悲しみが分かり、笑ったり、泣いたりの感情が湧き上がるのだと思う。
本公演では、登場人物が見えており、その人物像の視覚的な楽しみはすでに失せている。またその人物を演じるため、そのほかの状況、情景を語る人物がいない。掛け合いの台詞芝居としては面白いが、その周りの描きがないと思う。古典落語、新作落語のどちらにしても情緒が感じられなかった。
また自分は、今回の演目は聴くいたことがあり、その時のイメージと比較しており、落語は落語”噺”としての醍醐味を持っていることを改めて感じた。
特に最後の演目である「らーめん屋」...自分が聴いた時は寒い時期、それも夜中という設定。今回も夜中であることは分かるが、寒いという状況と追い詰められた若者の心情が浮かび上がってこない。また、オチでは、若者はいままで老夫婦からもらっていた小銭すべてを返して(渡して)、自分の名前を呼んでほしい、と懇願する。そこに老夫婦、若者の双方の思いが現われ、人情話の傑作となっていたと思う。そしてその若者は20代前半というものであったが、今回見えている人物は...。
次回公演も楽しみにしております。
【追記 2015.10.14】
自分の想像した人物像や情景・状況が心に思い描けるか否かが大切だと思う。観せる効果は、自分のイメージに合致した時、その印象は深く刻み込まれるだろう。自分勝手な解釈であるが、たとえば「「たちぎれ線香」...。
大店の若旦那と番頭、置屋の女将と芸者が主な登場人物。自分のイメージは、若旦那は色香に惑ったが、根は真面目。番頭は丁稚上がりの謹厳実直な苦労人、女将は強かな商売人だが、情に厚い。その印象に齟齬があった。芸者は...森下知香さんの役イメージは近いかも。それから芸者の死を知った時の悔悟、惜別の情感が弱いから感情移入ができない。だから線香の「たちぎれ」の悲哀のあるオチにキレが感じられなかった。
落語は、一人で何役も行うから情感を現すため噺にメリハリがある。今公演は役者が演じるという芝居であり、台詞の応酬であった。自分の未熟さもあろうが、噺を「聴く」という集中力が働かず、演じ観る方に神経が行ってしまった。
WORKING
一般社団法人映画演劇文化協会
新宿村LIVE(東京都)
2015/10/01 (木) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
新鮮な感動
1970年代のアメリカにおける労働事情をドキュメンタリー風に描いた秀作。その描き方は労働者へのインタビューで集めた「声」を役者が答えるかたちで語る。その切り取り方...舞台は上・下手に衣装ハンガーが並び、職業によって舞台袖で着替える。舞台奥一面に幾何学模様かと思ったが、暗転・照明照射でその縁取りに電球が照らし出されるのが街の夜景、それも高層ビルが逆さまに見える。舞台前方(客席側)には幅10cm程の板が上下・左右に不規則に動き、額縁またはモニターのような枠を作る。その大きさはレンズのズームのように遠近の大きさに変化する。そこに人物の顔、上半身、全身など場面によって切取(枠)の大きさが違う。そして その枠にも照明が...クローズアップした中で語られる働く者の「生きがい・夢」「立場・見栄」「不安・恐怖」など、働くという行為は単に財貨を得るのではなく、そこには人間の営みのすべてがある。それ故、その言葉に重みがあり、観客の心に響くのだと思う。
この素晴らしい公演が無料ということにも驚いた。
鳥取イヴサンローラン
ロ字ック
シアター711(東京都)
2015/09/26 (土) ~ 2015/10/11 (日)公演終了
満足度★★★★
女、女、女を感じる
第一印象は面白かった!
話はありそうな内容で新鮮味がある訳ではないが、その観せ方が凄い。小説であれば、その言葉や文章から読者が想像力を発揮しその世界を広げるが、芝居は視覚に訴えるので、その印象は言葉や文章にし易いと思っていた。しかし、この公演ではどう表現しようか難しい。表層的には、”女”の身の下話であるが、それをどう書くか...媚、嫌、妬、姦など、女の付く漢字が入り乱れたような感じである。そこに描かれた女は、多少デフォルメしているが類型化される。その内面の表現し難いところをしっかり伝(観)えるところに驚かされた。そして紛れもなく体現しているのが役者陣(女優はみな愛らしい)である。この汗の迸りと女臭が、だんだんと慣れて熟れて雰囲気を醸し出す。それは匂いに変化して来るようだ。
ちなみに、女の又(股)に心が絡むと 怒 になるが...そう言えば 股 のシーンもあったような。
ネタバレBOX
舞台は、下北沢にあるスナック・イヴサンローラン...その店内セットが素晴らしい。上手にソファー席、下手はカウンターとスツール。中央は玄関に通じる通路、トイレ等があるという設定である。カウンター後ろには酒棚が見える。
ここで働く女が客を取った取られた...要は枕営業なのか真剣恋愛はあるにしても身の下の痴話喧嘩。その騒動、物語としては目新しくはない。しかし、その情痴の果てが凄い。
さて、この鳥取からの女性...父親はこのスナックのママと愛人関係にあるという。父親、ママはもちろん、母親も登場しない。よく母・娘の関係は同性という中で葛藤もあると聞く。では、娘にとって父親の愛人が経営する店で働く、そして会ってみたいという感情とは...。男の自分には気になるところ。
自分は鳥取県に3度行ったことがあり、そのうち2回は砂丘見学もした。
その鳥取のタイトルに因み、その砂丘の特産である ラッキョウ の話がでてくる。鳥取から来て働いている女は この地元特産が嫌いだという。臭いがその理由。しかし、ラッキョウ は体に良いらしい。血液をサラサラにするらしい。あぁ、ロ字ックはドロドロが売りの芝居、だからラッキョウは嫌いなのかも。
また、「砂の美術館」もある。砂で作られた彫刻「砂像」を展示している。砂は長期保存ができない。数ヶ月後には後世に伝えることなく作品は壊される。
本公演もライブ...同じ公演は見ることができない。今しか観れない、その意味で今回観ることができて良かった。
次回公演も楽しみにしております。
このために生きている
PAPALUWA
インディペンデントシアターOji(東京都)
2015/10/03 (土) ~ 2015/10/07 (水)公演終了
満足度★★★
地元愛がいっぱい
地方に伝わる伝承と地域活性化との狭間に揺れる人々の姿を、古の伝統行事を中心に生き活きと描く青春群像劇。しかし、その行事には持ち込んではならない掟があったが…。
純粋な思いがすれ違い、純粋がゆえに掟を破らざるを得なくなる。少し懐かしいような情景であり、身近な問題提起としても面白い。
ネタバレBOX
伝承イメージのため、冒頭に昔語りというスタイルを取り入れる。語り部は若い女性、普段は爺さんが話すが今日は不在のようだ。近所の子供たちは夕方になっても家路につかない。そして昔話をせがむ。
舞台セットは、中央に祭り櫓、上手は民宿玄関、下手はウツギ村地域集会所の玄関である。さらに道祖神。この劇場(地下にある)の中二階に相当する場所も民宿二階として使用する。
この地域では喧嘩祭で、勝者は花嫁を迎えることが出来るとの言い伝えがある。その昔、男衆ばかりになった時、お告げでこの行事(喧嘩祭)が始まったという。そして勝者の所には女性が...。そして掟は3か条...①喧嘩祭の練習 ②私情は入れない ③結果に文句を言わない とのこと。
しかし、この三か条はことごとく反故にしてしまった。無関係な人間の祭への参加、伝統の継承か地域活性か、祭の勝敗への不決断は、それぞれに理由があり、個々の対立が分かり易く描かれる。そして、未来を意識するような事象が...。あぁハッピーエンドなんだ。
子供たちへの語りは、お話と現実の世界の境界が崩れ、いつの間にか冒頭の場面へ引き戻される。
できれば、伝承と現実(現社会)は地域的な繋がりがあるので、台詞に方言を取り入れ、血の通った会話が聞かれると更に親しみが持てたと思う。
次回公演も楽しみにしております。
4時44分、せつなに青く。【ご来場ありがとうございました!】
劇団えのぐ
上野ストアハウス(東京都)
2015/10/01 (木) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★
観応えあり
描いたテーマが重く、また現代にも続いている内容だけに理屈の世界に入りそうであるが、あくまで芝居。それも学校における七不思議を題材にしたちょっと切ないホラーコメディ…。そして4時44分とは...ミステリー・サスペンスの要素もあり観応え十分であった。
さて、描いた先に希望、未来が見出せたのだろうか。雨が上がり、空が青く晴れわたった先に虹が見えることを望む。
ネタバレBOX
イジメにあっていた少女が友達を刺す、その犯行の原因・理由を探すため心療行為を通して明らかになる凄惨で悲しい話。犯行後に錯乱し記憶を無く(忘却)した。それを探るために登場する七不思議。
イジメをテーマとした作品で、ある面から捉えようとしていた。その描き方は、学校というシチュエーションの中で起こり得る辛い場面をしっかり観せていた。もっともイジメの問題はその家族にも影響を及ぼすものであり、その年頃の子供を持つ親であれば、子供の様子に注意を払っているだろう。それでも無くならない問題ではあるが...。脚本の内容はやや教科書的またはHow To本の域かもしれない(イジメの具体的手段は世間に知られていること)。
もう一つ気になること...冒頭は「トイレの花子」のリードで説明しているが、これはどちらかというと都市伝説、地域伝説のような架空話のようであったが、イジメは現実問題として重く存在している。この虚実が物語を展開する上で効果的であったか。七不思議をイジメに関係した人物として登場させているが、その関連性は観せるため、と割り切る必要があろう。そしてイジメの直接的な人物は七不思議にも入らない、その無視・切捨が応報的のように思える。
演出は素晴らしかった。舞台は奥に2階部を設け、客席側の上・下手の両方に2~3段高くした演壇のような小舞台。場面によっては、可動式の扉(2枚)がセットされる。
七不思議が次々と登場するが、その時には縦横に動き回る。2階部ではそれを見守る、もしくは俯瞰するような静止姿。この動静の対比は立ち位置によって決まる。さらに小舞台に上り下りという上下運動は躍動感とともに見下しの立ち位置のようでもあった。この動きや場所が実に上手く連動し、観やすくしてくれる。
そして役者陣は熱演...学校内というシチュエーションであることから、友達関係を構築するため、総じて若い役者が集まっている。教師役には適材の客演を配し、その演技バランスはよく感情移入させてくれる。
イジメという問題をしっかり描こうとしており、その観せ方にも工夫をしている。このような公演、自分は好感を持っている。
次回公演も期待しております。
三十と十五の私
張ち切れパンダ
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2015/09/30 (水) ~ 2015/10/05 (月)公演終了
満足度★★★★
深奥にある優しさ
タイトルとおりの30歳と15歳の私が、時を交差させその年齢の心情を女性という視点でしっかり観せてくれる秀作。自由奔放で夢見る15歳の少女、焦燥・苛立つ感情があらわになる30歳女性。それまでの15年間の経過を語ることなく、思春期と自立期が鮮明に観える時期の対比である。そして15歳のある事をきっかけに物語は進展する。
ネタバレBOX
主人公・エナ(薩川朋子サン)は15歳で妊娠、その処置をめぐる女友達の言動。また、その事実を知った彼氏・時夫の態度・行動が表層的に描かれる。女友達は親身のようで、他人事のようである。彼氏は中絶前提の行動。現実的なものの考え方なのだろうか。
時を経て、30歳のエナ。会社をクビになり実家に帰ってきているところに同窓会の案内が...。過去の出来事と現在の心境が混じり苛立つ。髪の毛を掻き毟る、物(ダンボール)を投げる、椅子を蹴るなど、その激しい行為(表現)に胸が痛む。友達関係も上辺だけなのか、あまり会いたくないと思う気持ちも垣間見える。観たら感じられる表現も文章にするのが難しい。そんな女性の心の内を描くのは上手いなぁ。
人生に「もし、あの時に戻れたら」という思いも描く。中絶した現在の在り様、子供を生んだ人生がどうだったのか...こちらも幸せそうに描いている。15年の時を隔てた自分との邂逅、別の選択をした場合の夢想...その両方の描きはハッピーエンド。そこは作・演出の梨澤慧以子女史の優しさの現れであろう。
テンポ良く、スピード感もあり、暗転も多用せず観せることに工夫しているところが好ましい。一方、その流れるように観えることが、インパクトある出来事の割りには印象が薄い。やはり登場人物が皆善人なんだろうか。30歳という若さに少し翳りの見えた年齢...15歳の時からすれば30歳女性は大人だと...しかし、そこには未経験という錯覚がある。これはこの先40歳、50歳も同様かも。
次回公演も楽しみにしております。